数学イノベーション戦略の概要

数学イノベーションの必要性

  • ビッグデータの意味を理解することの重要性の増大、複雑な現象や問題の増加等、様々な社会的・技術的要因から数学を必要とする機会が飛躍的に増加。また、欧米のみならず近年はアジア諸国においても、数学と諸科学・産業との連携研究拠点の整備など、様々な取組が実施されている。
  • これらを踏まえ、諸科学の共通言語である数学の持つ力(具体的実体を抽象化してその本質を抽出し、一般化・普遍化する力)を十分に活用して、様々な科学的発見や技術的発明を発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を創出する革新を生み出していくこと(数学イノベーション)が不可欠。
  • 数学イノベーションを通じて、1.社会の様々な課題について個別分野の課題解決型研究では難しい根源的な解決が可能となるほか、2.数学そのものが刺激を受け、数学自体の発展につながることが期待され、3.全く別の具体的課題の解決に貢献すること(成果の水平展開)も可能となる。

数学イノベーション推進に必要な方策

1.数学へのニーズの発掘から数学と諸科学・産業との協働へつなげる活動

  • 数学研究者と諸科学・産業の研究者が出会い、諸科学や産業における様々な課題に対して数学的なアプローチによる解決法を探るための「出会いの場」、「議論の場」が必要。
  • これまでに文科省委託事業「数学協働プログラム」等でワークショップ、スタディグループ等を実施。今後は、このような「出会いの場」、「議論の場」の数を増やすとともに、若手研究者をはじめとする新規参入者を取り込むことや、いわゆる純粋数学者も含めた幅広い専門分野の数学研究者の参加を促進するなど、参加者の範囲の拡大に努める必要がある。

2.数学研究者と諸科学・産業との協働による研究の推進

  • 過去のワークショップ等の結果を踏まえ、数学と諸科学・産業との協働により取り組むべき研究課題を抽出し、以下のように整理。
    ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明/局所的なデータ、スパースなデータから大域的データを構成/将来の変動の予測/リスク管理/最適化/可視化(ビジュアライゼーション)/学術的な真理の探究
  • 今後は、これまでのワークショップの開催後に具体的進展が見られた課題や、本委員会で検討を行った以下のような課題について、課題の優先度や具体的な研究の進め方等について関係する機関や学協会での議論が深められ、具体的研究につながることが期待される。
    ・人の五感の数理的記述によるものづくりやサービスの革新
    ・インフラ、ネットワーク、生物等の自己修復ダイナミクスの解明
    ・材料のスマートデザインによる材料開発の飛躍的効率化
    ・変化の前の「兆し」の検出による効果的で低コストな対応の実現
    ・ビッグデータからの有益な情報の抽出
    ・産業のプロセスの効率化や災害対策等に資する最適化手法の高度化
    ・計算機アルゴリズムの現代数学の応用による高度化
    ・22世紀に向けての社会システムデザイン

3.数学イノベーションに必要な人材の育成

  • 諸科学・産業との協働への参画や国際交流による人材の育成、大学の数学教育研究組織における人材の育成が必要。特に国際交流については、学協会や学術団体レベルでの国際交流を図り、若手研究者に国際的な場での発表の機会を与えたり、表彰制度を設けたりすることは、我が国の数学研究、特に若手研究者の国際的プレゼンスを向上させる上で効果的。
  • また、数学専攻の博士課程修了者の企業等への新たなキャリアパス構築のためには、企業へのインターンシップが効果的であるほか、企業と学生との交流を深める学協会等の取組(キャリアパスセミナー等)も効果的。

4.情報の発信、成果の展開

  • 数学の有用性を諸科学・産業の研究者・技術者のみならず次代を担う子供や一般の方に認識してもらうため、情報発信が必要。特に、これまでの研究成果から実用化や他分野への水平展開の可能性があるものを抽出し、分かりやすい形で整理し、ウェブページ等を通じて発信することや、研究成果をツール化・ソフト化することが必要。

数学イノベーション推進に必要な体制

  • 諸科学・産業との協働の中核となる「拠点」の整備や「数学協働プログラム」による拠点間のネットワーク体制の構築が進捗。
  • 今後は、各拠点の充実を図るとともに、各々の独自性を発揮し特色を生かしながら諸科学や産業との連携を発展させることで、これらの各拠点間の連携・協力も深まるようにすることが必要。また、既存の学問分野の枠組みを越え時代を先取りするようなテーマの下に、数学をはじめとする理論系を中心とした多様な分野の国内外のトップクラスの研究者が一定期間滞在し、若手研究者を含む異分野の研究者と出会い、互いに触発され、自由な議論を通じて新たな研究の着想を得るまでを一体的に実現できる訪問滞在型プログラムを企画し実施する機能や体制が我が国にも必要。これにより、新しい融合的研究分野・テーマを切り開き、その担い手となる若手研究者の育成が期待できる。

数学イノベーション推進により目指す将来の姿

 推進方策を実施し、協働による研究成果が蓄積し社会に広がることで、自然に数学研究者と諸科学・産業との接触が生まれ、研究へと発展し、その成果がさらに新たな数学の活用につながるようになること、すなわち、自律的に数学イノベーションが進むようになることが期待される。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット

電話番号:03-5253-4111(内線4120)
ファクシミリ番号:03-6734-4074
メールアドレス:kiso@mext.go.jp

(研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット)