配布資料2-2 報告書に記載すべき課題・具体例の提案

報告書に記載すべき課題・具体例の提案

社会における複雑な現象に対する(データに基づく)科学的接近【北川委員】

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか

 Science for Societyを実現すること
背景:社会の変化(グローバル化,情報化,サービス化),学術の変化(事実命題から価値命題へ)
そのために必要なこと:認識科学から設計科学への転換
(認識科学:あるものの探究,設計科学:あるべきものの探究)
参考文献: 提言 知の統合-社会のための科学に向けて-,日本学術会議H19年3月

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか

設計科学の確立に必要なこと
・目的,価値を定式化し(モデルからモデリングへ),最適化するための方法
数学的方法
・モデリング(動的,情報統合)
・最適化

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)

 ・ モデルを第一原理により与えられたもの,あるいは研究者の才覚により見出されるものと捉えるのではなく,目的,価値を前提に当該分野の理論,経験,データを統合してモデルを構築し,さらに行動・評価・検証のプロセスを経て知識発展(モデルの改良)させるべきものとする.(第4の科学)
・ (やや古いが)モデルを確率分布で表現する.情報は分布の制約として捉えられる.
・ 数値的方法(特にモンテカルロ法)を活用して,動的・非線形な対象をそのまま取り扱う.
(例)
・最小二乗法,最尤法(1912):実用上は静的対象
・SSM+カルマンフィルタ:動的,線形・正規
・MCMC(Markov chain Monte Carlo):静的,非線形,非正規
・GSSM・HMM+逐次MC法: 動的,非線形・非正規
 → あらゆるものがモデリングの対象に

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)

 効果
・ 社会における複雑な現象に対する(データに基づく)科学的接近を可能にする.
適用領域
・工学(目標追跡,コンピュータビジョン,ロボット,適応型オートパイロット,信号処理)
・理学(海洋・地球環境シミュレーション(データ同化),地震学(ひずみ計解析)
・生命科学(ゲノム.ネットワーク解析)
・ファイナンス(確率的ボラティリティ解析,ソブリンリスク指標)
・計量経済学(EBPに向けた多変量時系列解析・制御(マネタリーベースなど),多変量季節調整)
・サービス科学・マーケティング

数学へのフィードバック
・歴史的には,対象の拡大(個別的領域というよりは,動的,非線形性,非正規性など,対象に想定する一般的な性質(属性)の拡大)が,新しい方法を生み出してきた.
・従来の方法で解決できないことが,新しい方法への契機となる.


22世紀に向けての社会デザイン【西浦委員】

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか

 22世紀に向けての社会デザイン
 エネルギー,環境,食料,水,温暖化,ファイナンス,人口,感染症などの多くの逼迫した問題に個別のモデルや対策はなされつつあるが,全体を包括するようなトータルな数学的アプローチはない.詳細に埋没せず,全体として何を今なすべきかのスケール解析を行い,長期的施策と生存への活路を見いだす.

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか

 どのような数学を用いるのか
 モデリングのために必要な全数学とデータ解析のための手法.dayレベルの消費や排出が百年レベルでどう蓄積するかの大枠を抽出するモデリング.

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)

 Social organization とは何かを議論せねばならい.社会を内部ダイナミクスが付与されたノードから成る巨大な動的ネットワークと捉えるならば,全体ダイナミクスは個々のノードのダイナミクスに関わらないグラフ構造から決まるごく少数のキーノードの漸近的挙動から判定できるという手法も開発されつつある.そのようなアプローチは複雑化の泥沼に入り込まず,全体の骨組みを取り出す可能性をもつ.

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)

 個々の諸問題に局限された範囲を超えて,グローバルフィードバックの構造が明確になる.個々の施策の詳細に振り回されない全体として取るべき方向が明確に示すことができる.水平展開というよりも関連するものすべてを取り込む必要がある.


インフラ、ネットワーク等の自己修復ダイナミクスの解明【西浦委員】

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか

自己修復ダイナミクス
 インフラストラクチャー,ネットワーク,さらに傷などの構造の一部が破壊されたときの自己組織的自己修復ダイナミクスの解明.破壊箇所を見つけ,修復可能かを判断し,自己修復あるいは代替措置を自律的に行う数理的機構のモデリング,機構解明とその応用.

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか

 自己組織化パターンダイナミクス,逆問題,ニューラルネットワーク理論,メカノケミカルフロー,計算トポロジー

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)

 局所相互作用から如何に大域情報を取り出すのかという生命における階層的情報の流れを明確にすることにより,外的変化(破壊,傷等)に対し,どう対処するのかという自発的ダイナミクスの数学的コンセプトを打ち出したい.それらの変化が明確に生じる前段階で伏線的に準備されるものをモデリングに組み込むことを考える必要があるだろう.

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)

 問題の趣旨から生命科学,材料科学への応用は考えられる.Wound healing, ips細胞の自発的組織形成などへ.系がもつ自発的破壊箇所の発見とその自己修復ダイナミクスの数理的機構を明らかにすることによりグローバルフィードバック,とりわけ個と全体の相互関係ダイナミクスへの発展が期待される.


スマートな手法での材料設計手法の開発【小谷委員】

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか

新機能材料のスマートデザイン
 エネルギーや安全が大きな課題となるなか、従来のように勘や経験に頼るのではない、機能発現の原理に基づくスマートな手法での材料設計手法が求められている。高機能計算機の力を十分に活かす数学モデルの構築が一助となる。
 材料開発にかかる費用を大幅に削減するだけでなく、より安全で多機能な材料設計を可能とする。

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか

 離散幾何解析学。特に、離散的と連続をつなぐ幾何的な枠組み、離散的なパターン形成理論、ネットワーク理論を用いたデータ集合の幾何学、欠陥構造を記述するリーマン幾何学・フィンスラー幾何学 

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)

 直感を数値化する幾何学的概念の積極的利用。特に近年開発されている計算トポロジーや、高次元構造を取り込んだ非可換幾何学などは、これまでの数理工学にはなかった新しい視点を提供し、局所データを大域構造に結びつけることを可能にする。 

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)

 材料科学だけでなく、複雑な構造から本質的な幾何構造を取り出す様々な事象に適用可能である。
また、数学においてはこれまで連続の枠組みで開発された幾何学・解析学の離散版を新たに開発する指針を得、離散幾何学が大きく進展すると期待する。


有機材料のミクロとマクロをつなげるマルチスケールモデリング【若山委員】

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか

 コストダウンや製造プロセスの効率化、設計自由度などの面で優位な有機エレクトロニクス(有機半導体や有機不揮発メモリ等)において、有機材料はその分子構造を上手に設計することで高機能・高性能化が期待される。ミクロ(分子構造)とマクロ(機能&性能)を繋げるマルチスケールモデリングと呼ばれる物理数学手法を開発することで高機能・高性能有機材料の合成が可能になり、有機エレクトロニクスの発展に貢献する。

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか

 ミクロな分子構造がマクロな物性に与える影響を以下の物理数学手法で議論する。
・マルチスケール数学
・結晶の対称性に基づく群論
・第一原理計算の計算における高速で最安定な解法(例、多項式最適化数学)
・分子動力学

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)

 例えば、強誘電ポリマーを用いた不揮発メモリの場合、そのミクロな分子構造と相転移に伴う分極ドメインの動力学的過程や材料物性の変化等々のマクロな物性を調べるのに好適な時間依存ギンズブルグ・ランダウ理論を繋ぐべく第一原理計算の解法や分子動力学の計算を含めたマルチスケールモデリング技術を開発する。

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)

・有機材料(特に、有機物のポリマー)の機能・性能設計
・不揮発メモリ材料を用いた各種アプリ(フレキシブルディスプレイ等)への展開
・産業応用として、例えば家庭用プリンタから各種メモリが印刷できる時代もそう遠くはないだろう。


ナノデバイスの設計解析に好適なカシミール効果の物理数学モデル構築【若山委員】 

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか 

 機能デバイスの微細化が進むなか、ナノ領域における工学/光学デバイスの設計解析に好適なカシミール効果の物理数学モデルを提供することで、今後なくてはならないナノメカニクスの確立に貢献する。 

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか 

・連続体力学(微積分方程式、不変量の理論、テンソル解析、関数解析等)
・偏微分方程式(フーリエ解析、グリーン関数)
・理論電磁気学 

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)

 巨視的量子現象であるカシミール効果の幾何形状や材料物性への依存性を、従来の固体の場の量子論による難解複雑な定式化ではなく、連続体の非局所電磁場理論で体系化し、次世代ナノ/マイクロデバイスの研究開発技術者が自らの設計解析業務において容易に使えこなせる理論ツールを開発する。 

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)

・極端に少ない摩耗および消費電力で可動するマイクロナノマシンの設計革新
・センシングデバイス、ナノ情報通信デバイス、ナオ医療デバイス等の設計革新 


デジタル映像メディアにおける感情や個性の定量的表現【安生委員】 

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか  

・ 国、文化、世代を越えた円滑なコミュニケーションのための「デジタル映像」メディアの構築. 2D, 3D, 立体映像、音声、触覚デバイスを含む統合メディアの実現.
・ 人間とその環境に関する「万人にわかる」ビジュアルシミュレーション技術の構築.および上記と連動したより分かり易い表現へ展開する技術の構築. 

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか 

・ デジタル映像化された人間モデルとその環境を新しい「メディア」として扱うために、感情や個性を定量的に表現する数理モデルの構築.学習理論、制御理論、自然現象のシミュレーション手法、CG表現技術を統合化する数理モデルの構築.
・ 従来の応用数学的アプローチでは、上記の学習理論、制御理論があるが、より根底にあるのは、ヒューマン・インタフェースや視覚認知の数理モデル、最適制御、逆問題などが含まれる.更に数学的にさかのぼれば、離散微分幾何学、リー理論、内挿・外挿のための種々の関数解析的手法も必要となる.
・ 環境として捉えるべき種々の自然現象に関する微分方程式の理論も必要となる. 

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか) 

・ 従来では困難であった、感情や個性の定量的表現のための数理モデルの構築.
・ メディアは環境も含めた人間であるべきで、それを科学的に再現するために、心理学・社会科学・物理学・アーティスト・数学の専門家混成チームを作る.
・ 最初の段階としては、「メディア」が必要となるターゲット領域を絞る.現在考えられる候補領域としては、産業製品分野のプレゼンテーション、エンターテイメント、次々世代通信手段(未来的 iPhone)などがある.

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか) 

・ メディアそのものは、何も生み出すものではなく、ある情報を発信する側と受け取る側を繋ぐインターフェィスである.したがってその活用の仕方によって様々な分野に使われて行くと考えられる.
・ 2-1に述べたような統合的枠組みを作る際に、新しい数学の誕生を期待出来る. 


リアルで表現力豊かなコンピュータグラフィクスの画像の実現【若山委員】 

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか  

 今後のコンピュータグラフィクスの役割の一つとして、教育や福祉などの現場でそれらのサービスを受ける側のQOLを高めるITツールとして活用されることが期待される。コンピュータの並列化や人海戦術などによって画像をつくる従来のスケールアウトの方向から画像そのものの質や表現力を高めるスケールアップの方向へと変遷しつつあるCGの世界において、質感溢れる画像を創りあげるための様々な手法の理論的体系化、またそれに基づいたさらなる技術的進化を可能にするのが数学の特徴であり役割である。(QOL: Quality of Life) 

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか  

・群論
・多元環論(Geometric Algebra)
・球面調和関数の表現論
・位相解析、フーリエ解析等 

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)  

・ヒトやモノの動きあるいはそれらの質感などに関連して、リアルで表現力豊かな動画を創るべくフレーム間の補間や変換等にそれを得意とする数学を応用する。
・動きがあり臨場感溢れる陰影表現のリアルタイム処理に、コンピュータ・ゲームなどの開発で有用な道具であるSpherical Harmonic Lighting技術の基本である球面調和関数(Spherical Harmonics)の表現論を応用する。 

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)  

・水平展開案については上記1.課題参照されたし。
・CGが大きな影響力をもつ新しい数学として、Geometric Algebra と呼ばれる抽象代数系があるが、これはリアルで表現力豊かな画像を作るために従来手法であれば費やされるだろう膨大な計算量を高速で処理できる数学的構造を有することを特徴としており、CGから数学へのフィードバックを示す好例であると云える。 


人の五感の数理的記述とモノづくりやサービスへの展開【若山委員】 

1.課題 
どのような社会的・国家的課題に対処するのか   

 産業界では単に便利なモノやサービスを提供する時代から心の琴線に触れるモノづくりやサービスの提供がビジネスの大きな指針となるような時代に移っている。人の感動体験はモノやサービスとの接点であり、数理モデルを通して人の感じ方を上手に表現することができれば、様々な産業分野でのモノづくりやサービスのデザインに革新をもたらすことが期待できる。 

2-1.数学的手法・理論
どのような数学を用いるのか  

・多変量データ解析法
・確率論(マルコフ連鎖等)
・グラフ理論
・機械学習、テキストマイニング 等 

2-2.数学的コンセプト
どのようなアプローチをとるのか(これまでの発想やアプローチとどのように質的に違うのか、目の付け所がどう違うのか)   

 人は五感を通して様々な感覚を獲得するが、それらの感覚が表出されるまでの過程である脳内の情報処理を数理システムとして記述することで、人間工学の視点で様々なモノづくりやサービスのための設計基盤技術を提供することが可能になる。例えば視覚を通して外部からの刺激に対する反応を被験者の言葉で評価してもらい、そのように取得された主観評価データに基づいてデータ間の関係性を与える構造あるいは特徴を数理科学的に決定することができれば、刺激と反応の関係性が捉えられるため、人の感性に適合したモノづくりやサービスを新たに創造することが可能になる。 

3.もたらされる効果
それによりどのような効果が見込めるか
(もし可能であれば、どのような異分野への水平展開が図れる可能性/数学へのフィードバックの可能性があるのか)   

 心の琴線に触れるモノづくりやサービスのためのデザイン革新 


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