資料3-3 「平成23年度 数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップ」を通じて抽出した適切な企画運営方法について

 数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップの適切な企画運営方法等について、平成23年度に開催した各ワークショップの運営責任者(オーガナイザー)及び参加者へのアンケート調査や、「オーガナイザー会議」(※)における議論などを踏まえ、以下のとおり整理した。

(※)オーガナイザー会議
開催日時:平成24年3月26日(月曜日) 10時00分~12時00分
開催場所:東京理科大学神楽坂キャンパス
出席者:13ワークショップより15人のオーガナイザー、数学イノベーション委員5人

1.テーマ設定、講演者・発表者の人選や依頼
(1)テーマ設定
 ・中途半端な議論で終わらないように、相手の分野の専門家を呼んで、数学側からは数学ができることの提示、相手分野からは足りない点の指摘を行い、互いに議論をぶつけ合って新しいものを生み出すことを意識した。(九州大学 平岡先生)
 ・半年前に開催した1回目の研究集会はテーマを広めにして開催し、その結果絞った議論も可能だと判断したため、2回目は分野を絞り、それに即して講演者を依頼した。単に絞るだけであれはプロジェクト研究としてやればよいので、いかに興味深い研究テーマを抽出できるかが重要。(東京大学 儀我先生)
 ・オープンな場で企業からの問題提起をお願いする場合、企業秘密が障害となるが、見返りとして従来の閉じた人間関係では得られない、思いがけない解決策が見つかる可能性がある。どこまで肉薄するテーマが出てくるかは、オーガナイザーと企業側の信頼関係や継続的な対話が重要。同一業種で共通的なテーマ設定ができると数学側にとって一番やりやすい。(東京大学 山本先生)
 ・先端の技術が必ずしも製品に結び付くわけではない。産業界の動向を深く見極めた上でのテーマ設定が必要。欧州ではテーマを絞ってやっており、日本はこの種の取組は遅れており危機感を持っている。(岡山大学 廣川先生)
(2)講演・発表者の人選に当たり、どのような工夫をしたか。
 ・テーマや開催趣旨・問題意識に即した発表をしていただける方を人選した。
 ・工学系の研究者にとって数学系の研究集会で話をするのは躊躇されやすいので、以前講演を依頼した工学系研究者経由で新しい人へ依頼した。(大阪教育大学 芦野先生)
(3)講演・発表者へ依頼をする際には、どのような工夫をしたか。
 ・ワークショップ等の開催趣旨や問題意識を十分に説明した。
 ・数学的に厳密な話ではなく、問題やアイデアが分かるような発表を依頼した。講演を依頼できるような産業界の知人がいないので、工学系研究者の発表を通じて産業界の課題を抽出し議論するようにした。(大阪教育大学 芦野先生)

2.事前準備、広報・周知方法
(1)事前準備ではどのような工夫をしたか。
 ・MLなどで開催案内を流す前に、発表概要や講演者紹介の情報が掲載されたHPを用意しておく。特に企業関係者が参加を判断する際に重要。(九州大学 西井先生)
 ・近くの都市で開催された応用数理学会に合わせて、同一出張で参加可能な日に開催した。(大阪教育大学 芦野先生)
(2)ワークショップ開催について、どのような広報・周知を行ったか。
 ・オーガナイザーや講演者からの直接的な紹介が過半数、MLが3割で、これらが8割を占めるが、HPやポスターなども新規の参加者開拓には必要。(参加者アンケート)
 ・ポスターを200枚作成し、全国の大学の数学科や物理学科に送付した。(理研橋本先生)

3.当日の進行
(1)当日の進行でどのような工夫をしたか。
 ・冒頭にオーガナイザーから開催趣旨や問題意識を説明した。
 ・専門外の研究者に分かるような予備知識も含んだ講演を依頼した。
 ・参加者が発表者を囲んで小グループに分かれて、質疑応答や意見交換ができる時間を設けた。(北海道大学 坂上先生)
 ・イーゼル型A0メモパッドを使い、アイデアをどんどん書き出し、壁に貼り出して議論を可視化した。(北大 坂上先生)
 ・要所でオーガナイザーが解説を行い、参加者の理解を促すようにした。特に大学院生にとっては、勉強していることと世の中のつながりが理解できて非常に有益だったと聞いている。(東大儀我先生)
 ・発表より質疑応答の時間を長めに取った。

4.ワークショップ開催の成果
(1)ワークショップ開催の成果
 ・74%の参加者(461人中334人)が有用な新しい知見やアイデアを得たと回答。(参加者アンケート)
 ・オーガナイザーからの回答では、「諸科学・産業界の研究者との新たな人脈ができた」が一番多い。共同研究の芽が出たとの回答も25%有り。(オーガナイザーアンケート)
 ・外国人講演者の講演が非常に勉強になった。(参加者アンケート)

(2)文科省との共催効果
 ・講演依頼がしやすくなった。
 ・学内の協力が得やすくなった。
 ・オーガナイザー間で横のつながりができたり、これまで個別の取組だったため見えなかった活動が可視化された。

5.今後の企画・運営について改善すべき点、参加者からのリクエスト
(1)テーマの設定
 ・研究集会で絞ったテーマを議論するだけでなく、分野を俯瞰できるようなシンポジウムやセミナーをやってほしい。(参加者アンケート)
 ・短期的に見ると多くの参加者にとって自分の研究の中心になりにくいので、現実的な着地点として、小さくても確実に良い結果が見込まれる計画をあらかじめ設定し、参加者間で認識を共有しておくことが重要。(東大 齊藤先生)
(2)発表者の人選、参加者数やその割合
 ・現実的な課題について議論するには、企業からの参加者を増やすと面白い。(九大 福本先生)
 ・諸科学分野の参加者が多く、数学者の参加が少なかった。
 ・数学の基礎部分の講演者も含めた方が良い。
 ・海外の招待講演者を加えると、参加者を増やすには有効だが、お金がかかる。
 ・参加人数を絞って、自由討論と作業する時間を設ける方法もある。(九大 福本先生)
(3)開催時期・期間
 ・冬期は天候により航空便の欠航のリスクがある。(北大 津田先生)
 ・集中力を保って議論をするためには一、二日が適当。(名大 木村先生)
(4)開催規模(参加者数など)
 ・目的に応じて、30人以下の小規模のものと、四、五十人以上の中大規模のものとを使い分ける。例:密な議論を行いたいのであれば小規模、トピックを増やして分野を俯瞰するのであれば中規模以上という方法が考えられる。(参加者アンケート)
(5)事前の準備、当日の運営
 ・講演概要を事前に作成し、参加者に共有してほしい。(参加者アンケート)
 ・講演者の連絡先を配って欲しい(参加者アンケート)
 ・講演時間に余裕を持たせたつもりだったが、専門分野外の講演への質疑が多く、時間が足りなくなってしまった。
(6)広報・宣伝
 ・学会などのMLに流すだけでなく、企業内MLは難しいかもしれないが業界団体のMLなど、二次的なMLに流すことができれば広がるのでは。(東大 山本先生)
(7)会場の設営
 ・無線LAN設備が必要(九大 高木先生)
 ・プロジェクターに加えて、黒板・白板が使える会場が必要(九大 福本先生)
(8)その他
 ・数学者の参加は大事だが、学生が参加し育っていくことがより重要(東大 杉原先生・竹村先生、九大 若山先生)
 ・異分野間の人脈を作るには、早い段階でバンケットを設定する。(参加者アンケート)
 ・英文HPだけでは日本語検索に引っかかってこないので、最低限の情報を載せた日本語HPも必要。(九大 西井先生)
 ・文科省からの資金的な援助は、特に研究費の乏しい若手研究者の参加には重要。(北大 津田先生)

6.今後のフォローアップ、その他
○ワークショップ終了後のフォローアップとして何が必要か。
 ・HP等で講演者のプレゼン資料を公開する。
 ・次回のワークショップにつながるような問題や課題を提言するようにすれば、ワークショップが進化していくと思う。
 ・数学・数理科学と諸科学・産業技術分野と連携して取り組める問題のリストを作成して公開し、自由に活用できるようにする。(九大 福本先生、北大 津田先生)
 ・数学の応用面に関しては、相手側の評価を聞くことが重要。数学側の発展に貢献しないこともあり得るので、スタンスの置き方は大切。(岡大 廣川先生)
 ・数学のような真理を探究する科学と、応用とでは全く異なるセンスが必要。全員が応用をやれというのではなく、双方が連携して良いものを生み出すという大方針を打ち出すのが、世の中の認識を誤解させないためにも必要だろう。(岡大 廣川先生)
 ・目的を常に複合的に、様々な取組を関連付けて行う必要がある。研究集会の開催だけでなく、易しいテーマでセミナーをやって参加者の裾野を広げることも重要。(明治大 刈屋先生)
 ・研究会やセミナーの継続的な開催
 ・関連情報の継続的収集・発信
 ・文科省がワークショップの開催結果報告書をHPで公開し、共有する。
 ・文科省がオーガナイザー会議を開催し、WS相互の情報共有を図る。

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研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット