資料2-2 数学イノベーション委員会の検討項目(案)

平成23年6月30日

1 背景

 社会の複雑化・情報化の進展に伴い、研究活動においても産業活動においても、自然現象や人間の活動に関する大量のデータから有益な情報を抽出し活用することがより一層必要となっている。このためには、これらの諸現象の背後に潜む原理や法則性を見いだす等の新たなものの見方が必要であり、数学・数理科学的アプローチが不可欠であるとの認識が、諸科学分野や産業界でも高まっている。また、シミュレーション化の進展、暗号による情報セキュリティの強化、コンピュータ・グラフィックスの高度化など、数学・数理科学が直接使われる分野の社会的インパクトが増大している。

 一方、数学・数理科学と諸科学・産業が連携・協力して研究を行い、諸科学や産業における諸課題をこれまでにない発想により解決し、既存の枠を越えた新たな価値を生み出すことを目指した取組については、JST戦略的創造研究推進事業の研究領域「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」における研究が開始され、一部の大学でも組織的な動きが行われるなど、連携による新たな研究成果の芽が生まれつつあるが、数学・数理科学界においても、諸科学分野や産業においても、このような動きは一部にとどまっている

 このような現状を改善し、数学・数理科学的アプローチにより諸科学や産業における諸課題の背後に潜む原理や法則性を見いだすこと等で、その解決に貢献し、新たな価値を生み出すのに必要な方策を検討するため、「数学イノベーション委員会」を設置し、所要の検討を行う。

 

2 検討項目(案)

 数学イノベーション委員会は、当面、以下の点について検討を行う。なお、検討に当たっては、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」(平成23年5月31日科学技術・学術審議会決定、別紙2参照)に留意しつつ行うものとする。

(1)重要研究課題の検討
  数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力によるワークショプの議論の内容や、数学・数理科学との協力を希望する諸科学研究者や産業界関係者から聴取した意見を参考に、諸科学や産業における諸課題の解決に貢献し、新たな価値を生み出し得る具体的な研究課題を明確にする。

 (2)研究促進環境の検討
  過去の委託調査結果等を参考に、数学・数理科学と諸科学・産業との間の距離を縮め、両者の連携・協力による研究を促進して新たな価値を生み出す上での問題点を抽出・分析し、問題点への対応策や必要な環境整備について検討する。

 (3)必要な手法・ノウハウの検討
  学際研究や異分野融合の先行事例やワークショップの企画運営の経験等を通じて、数学・数理科学と諸科学・産業とが相互理解を深め、問題意識を共有し、課題解決に向けて協力していくために必要な手法やノウハウについて検討する。

 

(別紙1)

数学イノベーション委員会における検討の論点の例について

 

1 重要研究課題の検討

○今後取り組むべき研究課題は何か?

【諸科学・産業からの課題の例】
 ◆ 地震発生の予測、揺れや津波の予測、被害のシミュレーションの高精度化・早期化のためには、
   何をすればよいのか?
→ 日々蓄積されている大量の地震観測データやGPS観測データから直接には読み取れなかった情報を読み取るには、数学・数理科学的手法が必要。

 ◆ 大量の地球観測データを有効に活用するにはどうすればよいか?
→ 必要なデータのみを抽出し見えにくい情報を浮かび上がらせるには、数学・数理科学的手法が必要。

 ◆ ライフサイエンス研究に関するデータ爆発に対応するには、
     網羅的に遺伝子や細胞情報を取得するだけでは駄目。どうすればよいか?
→ 数学・数理科学的アプローチにより、生命現象の裏に潜む抽象的な数理的理論を抽出することが必要。

 ◆ CT技術の進歩により大量の医療画像データを得ることできるようになったが、
     その画像データを有効に活用し、適切で安定的な診断を行うにはどうすればよいか?
→ 大量の医療画像データから有益な情報を抽出するには、数学・数理科学的手法が必要。

 ◆ 新材料開発において、試行錯誤を繰り返す実験プロセスを合理化するにはどうすればよいか?
→ 材料の組織構造とその特性や機能との関係を解明するには、数学・数理科学的手法が必要。

 

2 研究促進環境の検討

○数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力を通じて諸科学や産業における諸課題の解決に貢献し、既存の枠組みを超えた新たな価値を生み出す上で、解決すべき問題点は何か? 

【問題点の例】
 ◆数学・数理科学者と諸科学・産業関係者との接触や議論の機会が少ない。
 ◆数学・数理科学者と諸科学・産業関係者との間のコミュニケーションや相互理解が不足している。
 ◆連携に必要な能力や経験を有する人材が不足している。
 ◆どのような課題について、どのような数学・数理科学的知見が解決に役立つかが不明確。
 ◆連携・協力による研究成果の知的財産権保護上の扱い(守秘義務の範囲、特許出願と学会・論文発表との兼ね合い等)が問題となる。
 ◆異なる研究課題感の情報共有など、数学・数理科学の持つ「普遍性」「汎用性」を発揮できるような仕組みが不十分。

○これらの問題点を解決するには、何が必要か?

 

3 必要な手法・ノウハウの検討

○数学・数理科学と諸科学・産業とが、相互理解を深め、問題意識を共有し、課題解決に向けて協力していくために必要な手法やノウハウは何か?

 ◆参考にすべき学際研究、異分野融合の先行事例はないか?
 ◆数学・数理科学と諸科学・産業との連携ワークショップの企画運営の経験から得られるノウハウや手法はないか?
   ・ワークショップ等への参加者共通の「課題」「問い」の設定
   ・ワークショップ開催前における、参加者間のコミュニケーションの確保
   ・ワークショップ当日の、小グループでの議論の場の設定

○抽出した異分野融合の手法やノウハウの蓄積・共有を図り、実際の共同研究に活用していくにはどうすればよいか?

 

 (別紙2)

東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点

 

平成23年5月1日
科学技術・学術審議会決定

 第5期に設置された基本計画特別委員会では、S(科学)とT(技術)に、I(イノベーション)を加えたSTIへの転換が提言された。しかしながら、我が国観測史上最大の地震やそれに伴う原子力発電所事故等による未曾有の災害を踏まえ、新たにR(リコンストラクション(再建)、リフォーム(改革))を加えたSTIRを政策の基調とすべきである。
 こうした考えのもと、今後、科学技術・学術審議会においては、東日本大震災の現状を踏まえ、科学技術・学術の観点から真摯に検証を行う。その上で、国家的危機の克服と復興、環境変化に強い社会基盤の構築への貢献を視野に入れ、我が国の存立基盤である科学技術・学術の総合的な振興を図るために必要な審議を進めていく。
 その際、総会及び各分科会、部会、委員会等においては、これまで以上に「社会のための、社会の中の科学技術」という観点を踏まえつつ、以下の視点に留意し、検討を行う。特に、科学技術・学術の国際連携と、自然科学者と人文・社会科学者との連携の促進には十分配慮することとする。

1.東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証

 震災下において、科学技術・学術の観点から、適確に機能した面、機能しなかった面、想定が十分でなかった面はどういうところか。
 これらの検証により判明した震災からの教訓や反省を踏まえ、今後の科学技術・学術政策を進めるに当たって、改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点は何か。また、研究開発を推進するための環境や体制を変化に強いものにする方策として何が必要か。

2.課題解決のための学際研究や分野間連携

 社会が抱える様々な課題の解決のために、個々の専門分野を越えて、様々な領域にまたがる学際研究や分野間の連携がなされているか。特に、自然科学者と人文・社会科学者との連携がなされているか。
 また、社会が抱える様々な課題を適確に把握するための方策は何か。課題解決のための学際研究や分野間連携を行うためにはどのような取組が必要か。
 さらに、これらを支える人材育成のための方策として何が必要か。

3.研究開発の成果の適切かつ効果的な活用

 様々な研究開発の成果が、適切かつ効果的に結集され、社会が抱える様々な課題の解決に結びついているか。
 また、研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるためには、どのような取組が必要か。

4.社会への発信と対話

 研究者、研究機関、国等が、科学技術・学術に関する知見や成果、リスク等について、情報を受け取る立場に立った適切な表現や方法で、海外を含めた社会へ発信し、対話できているか。
 また、社会への発信や対話を一層促進するとともに、国民の科学リテラシーを向上するためにどのような取組が必要か。

5.復興、再生及び安全性の向上への貢献

 被災した広範な地域・コミュニティの様々なニーズや、復興、再生にあたって直面する問題をきめ細かく捉えているか。また、それらを踏まえ、科学技術・学術の観点から、復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のためにどのような貢献ができるか。その際、国土のあらゆる地域で自然災害への備えが求められる我が国の地学的状況を踏まえることが必要である。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット

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