平成23年6月30日
1.背景
数学・数理科学的アプローチにより諸科学や産業における諸課題の背後に潜む原理や法則性を見いだすこと等でその解決に貢献し、新たな価値を生み出していくためには、具体的な研究課題としてどのようなものがあるのかを明らかにしていく必要がある。
一方、東日本大震災を踏まえ、今後の科学技術・学術政策の検討に当たって留意すべき視点が、科学技術・学術審議会により示されている(「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」(平成23年5月31日、科学技術・学術審議会決定、資料2-2の別紙2)を参照)。
これによれば、「国家的危機の克服と復興、環境変化に強い社会基盤の構築への貢献を視野に入れ、我が国の存立基盤である科学技術・学術の総合的な振興を図るために必要な審議を進めていく。」と述べられており、具体的には留意すべき視点の一つとして「科学技術・学術の観点から、復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のためにどのような貢献ができるか。」といった視点が示されている。
2.今後取り組むべき研究課題の例について
このような観点にも留意しつつ、数学・数理科学の特性を活かすことのできる研究課題の例を、以下の三つの観点から整理した。
具体的には、社会や生命の安全を脅かすような諸現象(風水害や地震・津波・火山等の自然災害、感染症の流行、情報・電力・交通等のネットワーク障害等の社会災害等)に関する以下の研究である。
(1)これらの諸現象に関しては大量のデータが収集されるようになっているが、それを必ずしも十分に活用できていないという現状を改善するため、これらのデータの背後に潜む原理や法則性を見出し、有効活用につなげていくために必要な数学・数理科学技術の研究
(2)これらの諸現象が発生した場合において、限られた情報に基づき、限られた資源を最大限有効に活用し、リスクを最小化した最適な緊急時対策の選択肢を提示し、その選択・意志決定を支援するために必要な数学・数理科学技術の研究
(3)これらの諸現象等の環境変化に強い社会基盤の構造の解明を、その可視化・数理モデル化により行い、外部からのあらゆる攻撃にも将来にわたって十分耐えられる情報セキュリティのための暗号を実現するために必要な数学・数理科学技術の研究
東日本大震災を踏まえた今後取り組むべき研究課題の例(整理表)
平成23年6月30日
項目/概要 |
具体的研究課題例 |
データの背後に潜む本質を見いだし有効活用 ○社会や生命の安全を脅かす諸現象(※)に関する膨大なデータからは直接には読み取れなかった情報を数学・数理科学的手法を用いて推定し、 ○これにより、気候変動や気象予測、地震発生確率予測、感染症の流行予測等の予測の高度化や発生前の予兆現象を解明するため、 ○必要となる数学・数理科学技術の研究開発を実施する。 |
(地球観測) (地震観測) (感染症、医療) (材料) |
最適な選択・意志決定を支援 ○社会や生命の安全を脅かす諸現象(※)が発生した場合の社会全体や環境への影響をより正確にシミュレーションし、当初の極めて限られた断片的な情報から早期に被害状況を推定し、実被害データを取り込んで推定の精度を向上させ、 ○これらの推定被害情報に基づき、限られた資源を最大限有効に活用しリスクを最小化した最適な緊急時対策の選択肢を提示し、その選択・意志決定を支援するため、 ○必要となる数学・数理科学技術の研究開発を実施する。 |
(影響の予測) (選択・意志決定支援)
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環境変化に強い社会基盤の構造を解明 ○社会や生命の安全を脅かす諸現象(※)等による環境変化にも強い社会基盤の構造の解明を、その可視化・数理モデル化により行い、 ○外部からのあらゆる攻撃にも将来にわたって十分耐えられる情報セキュリティのための暗号を実現するため、 ○必要となる数学・数理科学技術の研究開発を実施する。 |
(堅牢なネットワーク構築) (情報セキュリティ) |
(※)風水害や地震・津波・火山等の自然災害、感染症の流行、情報・電力・交通等のネットワーク障害等の社会災害等
電話番号:03-5253-4111(内線4120)