資料3-2 数学イノベーション推進に必要な施策(案)

平成23年6月30日

1.背景

(1)社会における数学・数理科学の重要性の高まり

 社会の複雑化・情報化の進展に伴い、研究及び産業活動においても、大量のデータから有益な情報を抽出し活用するためには、数学・数理科学的アプローチが必要不可欠であるとの認識が高まっている。また、シミュレーション化の進展、暗号による情報セキュリティーの強化、コンピュータ・グラフィックスの高度化などの、数学が直接使われる分野の社会的インパクトが増大している。地震や津波などに対する緊急速報や予報、社会全体への影響や避難のシミュレーションにおける高速化や高精度化などの防災、非常時における物流経路や資源配分の最適化といったロジスティクスにおいても、数学・数理科学的な知見は不可欠である。
 さらに、「科学技術に関する基本政策について」に対する答申(平成22年12月24日 総合科学技術会議)においても、「(5)科学技術の共通基盤の充実、強化」において、数理科学が「領域横断的な科学技術」として位置付けられ、それに関する研究開発を推進することが述べられている。

(2)大学等での諸科学・産業との連携・協力に向けた組織的取組

 このような情勢も踏まえ、大学や公的研究機関でも、数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力の強化に向けた組織的な取組が見られるようになってきており、例えば、学内で諸科学との連携促進のための組織を設けて活動している北海道大学数学連携研究センターの例や東北大学応用数学連携フォーラムの例、さらには、産業との連携に重点を置いた数学研究所として平成23年4月に活動を開始した九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の例、諸科学との連携のための体制を整備し活動している統計数理研究所の例などが見られる。

 

2.現状の課題

 このように、社会における数学・数理科学の重要性はかつてないほど高まっており、大学や公的研究機関でも組織的な動きが見られるようになってきてはいるが、依然として以下のような課題が残っている。

○諸科学や産業から見て相談窓口が不明確
 ◆諸科学や産業から見て、数学・数理科学者とは、接触する機会も少なく、用語や文化も異なる。
 ◆また、数学・数理科学との連携・協力の必要性(ニーズ)は認識していても、その認識は抽象的で具体化されているとは言い難い。
 ◆数学・数理科学者に相談したいと思っても、どこに相談に行けばよいかが不明確である。

 ○全国の数学・数理科学者の知見を結集する仕組みも不十分

 ◆これまでの数学・数理科学者と諸科学・産業の研究者・技術者との連携研究は、個人の偶然で幸運な出会いにより始まったものであり、数学・数理科学側の専門分野や連携・協力相手が限定されたままになる可能性がある(「整数論・代数幾何と暗号」「確率解析とファイナンス」「ゲージ理論、代数幾何と数理物理」「情報幾何と情報科学」など)。
 ◆個別の大学での取組だけでは、地域的な偏りや数学の中での専門分野の偏りも大きく、全国の大学等に所属している数学・数理科学者の知見を結集することが困難。
 ◆数学・数理科学的知見や手法(シーズ)を提供する側の連携や情報共有が、組織的には行われておらず、情報発信も十分ではない。

○必要な人材の不足

 数学・数理科学者の側でも、諸科学や産業の側でも、お互いにコミュニケーションをとり共同研究等に取り組んだ経験のある者はまだ少ないのが現状である。


 

3.数学イノベーション推進に必要な施策(案) ~「数学・数理科学を活用した諸科学・産業の課題解決ネットワーク整備(仮称)」

(1)概要

 このような現状を改善するため、諸科学・産業との連携・協力による課題解決や新たな価値の創造に力を入れ、その中核となることを志向する大学・公的研究機関等が協力して、外部から認知され、“見える”以下のような活動を行うことを支援する。

  • 諸科学・産業からの相談の受付、全国の適切な数学・数理科学者の紹介
  • 諸科学・産業が抱える諸課題の収集
  • 連携ワークショップの共同企画・開催
  • 課題解決に向けた諸科学・産業との連携による研究
  • 各機関において収集した情報(相談内容、研究テーマ、活用できる数学・数理科学的手法、参画する研究者等の情報)の集約・共有・発信

 これにより、数学・数理科学研究者と諸科学・産業の研究者とのネットワークが構築されると同時に、双方の人材育成や能力開発が図られる。数学・数理科学界においては、諸科学・産業との連携・協力活動が一定の認知を受けるようになり、諸科学分野研究者や企業においては、数学・数理科学的アプローチが有用であることが広く認識されるようになって、数学・数理科学的アプローチによる課題解決や新たな価値の創造に向けた動きが加速することが期待できる。

(2)予算:未定

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット