安全・安心に資する科学技術の推進について

    平成22年3月
    科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術委員会

目次

1. はじめに
2. 基本的な考え方
3. 推進方策
(1)国家レベルの安全確保のための科学技術の研究開発体制の整備
(2)国民レベルの安全確保のための科学技術の実装への取組
(3)安全・安心科学技術の共通基盤の強化
参考

1. はじめに

 近年、科学技術に対しては、知の創造だけでなく、新たなイノベーションの源としての重要性が改めて認識されつつあり、海外諸国においても、科学技術の成果をイノベーション創出に結びつけ、経済的な発展を促進するための政策が実行されている。物質的な資源に乏しい我が国においても、単に科学技術の進展のみを目指す政策にとどまらず、科学技術の進展により得られた成果の社会還元を一層推進するとともに、科学技術を取り巻く社会・経済等までも幅広く視野に収め、社会ニーズ等に基づく重要な政策課題を設定し、それらの課題解決に向けた取組を促進する観点から、科学技術政策と、科学技術に関連するイノベーションのための政策とを組み合わせた科学技術イノベーション政策への転換を図ることが求められている。その際、安全・安心の確保は、重要な社会的価値の一つとして、国の政策の目標として掲げられるべきものである。

 第3期科学技術基本計画(平成18年4月~平成23年3月)においては、「健康と安全を守る」を理念の一つとして、「安全が誇りとなる国~世界一安全な国・日本を実現」を大目標の一つに掲げている。これを受け、総合科学技術会議では「安全に資する科学技術推進戦略」(平成18年6月)をまとめ、文部科学省においても、「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会報告書」(平成16年4月)、「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策について」(平成18年7月)、「安全・安心科学技術の重要研究開発課題について」(平成19年7月)など、各種報告書をまとめており、これらに基づき、大規模自然災害、重大事故、新興・再興感染症、食品安全、情報セキュリティ、テロリズム、各種犯罪などの事態別の研究開発等を推進してきた。特に、平成19年度からは、テロ対策や地域の安全に資する科学技術について、ニーズとシーズのマッチング、知・技術の共有化に取り組んできている。

 しかしながら、テロや海賊対策等における国際的な取組への対応、新型インフルエンザ等の感染症の流行、大規模地震や火山の噴火、無差別殺人や子どもが被害者となるような凶悪犯罪の発生、食品の安全性への疑念など、国民の安全・安心確保に対する課題は山積しており、課題解決に向けた安全・安心科学技術への期待は高い。また、こうした問題を解決するためには、単に科学技術の研究開発を行うのみならず、開発された技術が社会の問題解決へ結びついていくためのシステムづくりが必要である。このような観点から、平成21年6月に「安全・安心に資する科学技術の推進について(中間まとめ)」を取りまとめたところであるが、当該報告書にある議論も踏まえて、科学技術・学術審議会基本計画特別委員会において、中長期の科学技術政策について議論が行われた。その結果取りまとめられた「我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて~ポスト第3期科学技術基本計画における重要政策~」(平成21年12月25日)(以下「特別委員会報告書」という。)においては、科学技術政策により中長期的に目指すべき国の姿として、「安心・安全で、質の高い社会と国民生活を実現する国」が掲げられた。また、このような質の高い社会の実現に資する重要な政策課題の例として、防犯・テロ対策、地震・火山・津波・風水害等対策など安全・安心科学技術に該当するものが掲げられたところである。

 これらを踏まえ、科学技術の成果を安全・安心な社会の実現へと結びつけるため、安全・安心に資する科学技術の推進と社会への実装のための基本的考え方とその推進方策を示すこととした。

2. 基本的な考え方

 第3期科学技術基本計画では、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の重点推進4分野、エネルギー、ものつくり技術、社会基盤、フロンティアの推進4分野が設定され、分野別推進戦略が策定されている。安全・安心科学技術はこのうち、社会基盤分野に分類されている。しかし、本来、安全・安心に資する科学技術は特定の縦割り分野に分類されるものではなく、科学技術を社会問題の解決に活用する際には、単一の分野だけではなく、複数の分野や融合分野の技術・知識が必要となる場合が多い。また、単に優れた科学技術を実用化するだけでは十分ではなく、規制の緩和、社会・国民の理解と許容、市場原理に基づく普及、人文社会学的な知見の活用など、総合的な取組が必要となる。したがって、今後の科学技術政策においては、縦割りの分野の推進としてではなく、実際の社会問題の解決を目的とした、分野横断的な取組として推進されるべきである。

 その際には、関係府省等の出口側機関と研究開発部局が連携した技術開発への取組、安全・安心を軸とした分野横断的取組のマネジメントができる人材の育成、課題解決のための社会システム改善の取組の充実、研究者の啓発や適切な情報管理体制、さらには、一般国民とのコミュニケーションなど、基盤となる環境の整備も重要である。

 安全・安心科学技術では、国民の安全・安心を確保するという目的達成のために、必要な政策ツールを柔軟に組み合わせて実施するという視点が重要であり、そのために求められる推進方策を以下に取りまとめる。

3. 推進方策

○ 社会ニーズの把握と研究開発の推進について

 安全・安心な社会の実現のためには、科学技術で解決すべき課題を特定し、そのニーズに対応した技術・知識を活用することが必要となる。その際、ニーズには、例えば犯罪・テロ対策のように行政機関や公的機関など、国家レベルの安全確保のためのニーズと、社会や住民レベルでのニーズとに大きく分類することができる。これは、安全確保の専門家のニーズと、一般国民・住民のニーズの分類とも言い換えられ、それぞれに適した研究開発の推進方策で実施すべきである。また、科学技術の成果を社会実装するためには、それを支える基盤となる取組も重要であり、あわせて推進する必要がある。

(1) 国家レベルの安全確保のための科学技術の研究開発体制の整備

 安全・安心科学技術には、主に行政機関や公的機関が主導し、あるいはユーザーとなって、社会の安全・安心を確保するものがある。現場での危険物探知や被害拡散のシミュレーションを行う機器・装置など、犯罪・テロ対策技術はその一例である。現在でも、そうしたニーズを有する現場を所管する各省庁において取組は行われているものの、既存の製品の性能評価、調達が主であるなど、現場のニーズにあった最新の科学技術を活用する体制は十分とはいえない。そうしたニーズを踏まえた安全・安心に資する研究開発制度としては、平成19年度から文部科学省の「安全・安心科学技術プロジェクト」においてテロ対策等に資する研究開発が行われており、一定の成果が認められる。しかし一方で、こうした最新の研究開発成果が現場へつながって行くためには、それに合わせた現場対応部局等の技術の出口側機関での、効果的な運用に関する調査研究や技術評価など、受け入れる側の活動との組織的な連携が必要であるが、現在、そうした体制は必ずしも十分ではないなどの問題点も見られる。また、実用化には民間企業が参入し、産学官が連携した体制の構築が重要であるが、犯罪・テロ対策等の市場が限られている分野においては民間企業の参入をさらに広く促す仕組み作りも重要である。

 このため、このような国家・行政ニーズに対応した最新の技術シーズを実装するための取組においては、以下に示すような、出口側機関と研究開発部局の連携を実施するための政府横断的な枠組みを構築するとともに、これを促進するため、出口側機関、研究開発部局双方の活動を総合的に支援できる新たな研究開発の構築が必要である。

1) 求められる方向性
(i) 国家・行政ニーズの把握

 国家・行政機関(特に、研究開発成果のユーザーである現場で対応する機関等(以下、出口側機関))の行政ニーズの把握を強化し、科学技術の適用により、目的の効率的な達成が可能なものを特定することで、行政ニーズと技術のギャップの効果的な解消を図るべきである。

(ii) 出口側機関に対する研究開発部局の支援強化

 国民の安全確保の現場で活動する出口側機関は、その行政ニーズに必要な全ての科学技術に関して精通している訳ではない。科学技術に関する知見と人的ネットワークをもつ文部科学省等の研究開発を担う部局が、ユーザーとなる機関と技術シーズをもつ研究開発機関とをつなぎ、マッチング機能を果たす枠組みを作ることで、最新の研究開発の成果の活用を潤滑に実施できるようにすべきである。

(iii) ニーズを踏まえた研究開発目標の明確化、調達との連携

 研究開発した成果が確実に社会の安全・安心確保に活用できるよう、研究開発においては、出口側機関のニーズを出来るだけ反映し、研究開発目標の明確化ができる仕組みを導入すべきである。

 明確化された研究開発目標は、将来的な調達時における仕様等との連携を図ることで、より現場につながりやすくなることが期待される。また、犯罪・テロ対策のように市場が小さい分野においては、公的な調達を視野に入れた研究開発とすることで、民間企業等の参入インセンティブを付与することができる。さらに、必要とされる技術水準が明らかになるなど、効果的な研究開発にも資することとなる。

(iv) 技術運用のための調査研究等

 機器・装置を単に開発するだけではなく、実際に配備した際の効果的な運用を図るため調査研究や技術評価についても並行的に検討しておくことが重要である。海外での事例や国内での運用体制や方針についても、ユーザー側機関が中心となって調査研究を行うとともに、必要に応じて、基準、認証等の検討を行うなど、研究開発成果の円滑な導入を促進する取組が求められる。

(v) 実証試験への協力体制

 プロトタイプ機の実証試験の際には、ユーザーとなる機関や保安事業者による場の提供や、特殊な実験設備の使用が必要となる。研究開発側の自助努力に任せるのではなく、関係機関が連携した体制を予めとることで、円滑な実証試験の実施を促進すべきである。

2) 具体的な対応

 平成22年度政府予算案においては、「1)求められる方向性」に示すような当委員会の指摘を踏まえ、新たな技術開発制度のための予算が科学技術振興調整費の「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」(以下「実用化プログラム」という。)として措置された。本プログラムは、安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術について、関係府省との連携体制の下、具体的な現場ニーズに基づいたテーマ設定、技術開発及び実用化に向けた実証試験までを一体的に行うものである。技術開発の対象となるテーマの設定については、出口側機関である関係府省のニーズに基づき、9テーマ(爆発物・危険物検知装置の開発、X線検査装置の開発、核物質探知装置の開発、ポータブル違法薬物検知装置の開発、現場鑑識資料可視化システムの開発、化学剤現場検知システムの開発、化学剤遠隔検知システムの開発、人物画像解析システムの開発、化学防護服の改良)を対象としたところである。

 このような取組により、技術開発の成果が社会における実用化につながることを目的とした、適切な技術開発体制が整えられたということができる。今後は、本プログラムによる技術開発が実際に進められていくことになるが、本プログラムの目的を達成すべく、総合科学技術会議、文部科学省、ユーザーとなる出口側関係府省、技術開発を実施する大学や民間企業等が緊密に連携し、安全・安心な社会の実現に貢献する成果を出していくことが重要である。

(2) 国民レベルの安全確保のための科学技術の実装への取組

 国民レベルの安全・安心のための科学技術は、ある程度の市場規模も想定され、民間企業の参入も期待されるものが多いが、研究開発の成果が効果的に社会に活かされていくためには、一般国民・生活者のニーズの吸い上げや、研究開発成果の社会への実装について、さらなる促進が必要である。

 例えば、社会のニーズに対し、研究者と社会が一体となって研究開発を推進する取組としては、科学技術振興機構社会技術研究開発センターや、文部科学省の安全・安心科学技術プロジェクトの地域の安全・安心のための研究開発で実施されている。

 これらの取組の中では、社会のニーズを出発点に、ユーザーである社会と連携した形での研究開発の推進が図られ、実際に社会で活用されるなど、一定の成果が認められる。

 しかしながら、こうした成果を社会に展開し、社会的なイノベーションにつなげるためには、以下の点が重要である。

1) 生活者のニーズを出発点とする取組

 生活者のニーズは、気候、地形、人口密度、インフラなど、各地域ごとの状況により多様である。そうした中から、現場との対話や実地調査を通じ、生活者の安全・安心にとってポイントとなるニーズを抽出し、その課題解決のための研究開発というアプローチが重要である。さらに、その成果の有効性を生活者に示し、生活者が自ら有効性を認識することで、初めて実際にその成果が利用されるものであり、生活者とのコミュニケーションを通じた実装の取組が重要である。

2) 規制等の社会システムの改善と連動した社会的イノベーション創出に向けた取組

 科学技術の成果を社会的なイノベーションへつなげていくためには、単に機器・装置を開発するだけでは不十分である。例えば、遠隔医療機器は技術的には実現可能であるが、医療制度や通信に関する規制等の問題があり、一般的に普及するには至っていない。このような問題を解決し、有用な技術が円滑に国民の安全・安心に貢献するためには、研究開発機関だけでなく、規制や制度を所管する関係府省と連携し、規制や制度面での隘路を解消し、技術を社会に実装するための社会システムの改善を伴う「社会イノベーション」とも言うべき取組を促進する必要がある。

 このような観点から、特別委員会報告書においても、科学技術によるイノベーションを阻む隘路の解消を目的として、隘路となる規制や制度等を特定し、隘路の解決を図る取組を進める必要性が指摘された。これらを踏まえ、このような取組については、国民レベルの安全・安心に貢献するものとして推進すべきである。

(3) 安全・安心科学技術の共通基盤の強化

 安全・安心に資する科学技術の推進にあたっては、科学技術の成果を社会へ実装する取組だけでなく、それを支える基盤となる研究開発の推進、人材育成や、技術・情報管理体制など、基盤的な体制の整備も重要である。

1) 分野横断的な取組のための中核となる機関の確立とネットワーク構築

 科学技術を安全・安心な社会の実現に結びつけるには、既存の研究分野(ライフサイエンス、情報通信、ナノテク・材料など)の枠にとらわれず、社会ニーズに対応するための各種技術を統合してシステム化し、社会に適応させる取組が重要である。そのためには、従来の縦割り分野による研究開発ではなく、領域や目的ごとに中核となる機関を中心としたネットワークを構築し、多様な分野の知識や技術の統合、人材の育成等を行うことが有効である。その際、科学技術を安全・安心分野のイノベーションに結びつける目利き・プロデューサー人材が果たす役割が重要である。

2) 技術、情報管理の体制強化

 例えば犯罪・テロ対策等に関する研究開発においては、犯罪・テロ情報や装置性能などの機微情報を取り扱う必要が出てくることも想定されるが、我が国の機関(大学を含む)における機微情報の取り扱いの体制の整備は必ずしも十分とはいえない。また、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の改正により、大学を含む研究開発機関における安全保障貿易管理体制の整備が求められている。研究機関における技術、情報管理に係るルール・体制の明確化は、我が国の安全保障上重要であり、また、国際共同研究など国際協力の推進にも重要である。しかしながら、大学等においては情報管理に対応できる人材や組織が現状は十分とはいえない。まずは国際的な共同研究や安全・安心科学技術に関する研究開発に積極的に取り組んでいる大学等が技術・情報管理の体制を整備することが重要である。一方で、犯罪・テロ対策技術においては、適切な貿易管理体制の下、各国の規制など個別の事情を踏まえた上で、海外への輸出を視野に入れることは、安全・安心に資する科学技術の研究開発の成果が広く活用されるとの観点から、積極的に推進すべきである。

3) 科学技術の悪用・誤用防止

 近年、特にライフサイエンス分野において、科学技術の悪用・誤用の防止が問題となっている。遺伝子工学や合成生物学といった科学技術の成果が、悪用・誤用され、研究目的とは別の毒性の高い生物剤の生成や、研究者の意志に反し生物兵器の製造のような、軍事あるいは犯罪・テロ等の用途に転用される恐れが出てきている。安全・安心な社会の実現と科学技術の健全な発展のためにも、このような悪用や誤用を防止するための取組が必要であり、国際的にも生物兵器禁止条約専門家会合等において、対応の検討が行われている。

 我が国においても、このような悪用・誤用を防止するための取組は将来の課題であり、研究者コミュニティにおける検討を立ち上げるなどにより、個々の研究者に認識を浸透させていくことも一つの方法であり、そのための教育プログラムの作成等、教育、啓発への取組も重要である。

4) 国際協力の推進

 安全・安心は、世界中の国々で共通するニーズである。開発途上国との科学技術協力については、自然災害や感染症対策分野等で取組を開始しているところであり、今後も引き続きこのような取組の充実を図るべきである。一方、先進諸国との協力については、例えば犯罪・テロ対策技術について先進国である欧米諸国との協力は我が国の安全・安心確保の上で重要であるが、具体的な協力体制の構築が十分とは言えず、今後、科学技術外交における重要な取組の一つとして積極的に推進する必要がある。その際、プロトタイプ機が完成し、実証試験が実施されている課題もある安全・安心科学技術プロジェクトの成果や、実用化プログラムで設定された9テーマを中心に欧米諸国と情報交換を進め、海外の研究開発機関との両者がメリットを得られる形での共同研究や海外における技術の展開を目指すことが重要である。

 

(参考)

第5期 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術委員会 委員名簿

平成22年2月1日現在
(50音順)

  青木 節子 慶応義塾大学総合政策学部教授
板生 清 東京大学名誉教授/
東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科教授
  大野 浩之 金沢大学総合メディア基盤センター教授
岸 徹 元科学警察研究所副所長
  四ノ宮 成祥 防衛医科大学校分子生体制御学講座教授
  土井 美和子 株式会社東芝研究開発センター首席技監
  奈良 由美子 放送大学教養学部准教授
  橋本 敏彦 株式会社日経BPコンサルティングWebコンサルティング部
  樋渡 由美 上智大学外国語学部教授
  札野 順 金沢工業大学科学技術応用倫理研究所所長
  堀井 秀之 東京大学大学院工学系研究科教授
  村山 裕三 同志社大学大学院ビジネス研究科教授

 ※ ◎は主査、○は主査代理
   任期は平成21年3月10日から平成23年1月31日まで

 安全・安心科学技術委員会における審議の過程

○  第17回(平成21年3月19日)
(1) 安全・安心科学技術の取組状況等について
(2) 安全・安心科学技術分野の今後の取組について(ディスカッション)
(3) その他

○  第18回(平成21年4月30日)
(1) 安全・安心科学技術の課題の整理について 
(2) 安全・安心科学技術の今後の取組について
(3) その他

○  第19回(平成21年5月29日)
(1) 安全・安心科学技術の課題の検討について
    ・悪用可能なバイオ科学技術に関する取組の必要性
    ・安全保障貿易管理と対応について
(2) 安全・安心に資する科学技術の推進について
(3) その他

○  第20回(平成21年6月9日)
(1) 安全・安心科学技術の課題の検討について
    ・被災者ゼロを目指した社会技術研究
(2) 安全・安心に資する科学技術の推進について(中間まとめ)
(3) その他

○  第22回(平成22年3月5日)
(1) 安全・安心に資する科学技術の施策の現状について
(2) 安全・安心に資する科学技術の推進について(報告書)
(3) 科学技術と輸出管理

科学技術振興調整費
「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」
平成22年度公募要領抜粋

2 対象とするテーマ

 以下の9つのテーマを公募対象とする。なお、全テーマに共通する事項は次のとおりである。

(全テーマ共通事項)

・ 下記のテーマのうちの複数のテーマに対して、一つの提案として応募することが可能である。
・ 開発物の仕様(検出感度、装置サイズ、重量、処理能力等)は具体的に提案することが求められる。
・ 導入コスト(価格等)、運用コスト(オペレーション人件費、メインテナンス費用等含む)に関する検討を必要とする。導入コスト及び運用コストについては、現行の機器等との比較説明を必須とする。
・  安全性、環境影響、個人情報保護の観点での検討を必要とする。

(テーマ1)爆発物・危険物検知装置の開発

 空港等の保安検査場・搭乗ゲート等において、衣服・手荷物等に隠匿された爆発物・危険物を検知することを目的とする装置を開発する。
 開発する検知装置は、空港の保安検査場等に新規機器の設置余地が少ないことに対応するために、既設の機器(空港の保安検査場においては金属探知機又はX線検査装置、搭乗ゲートにおいては、自動改札機器)への組込みによる一体化、あるいは併設による実質的な一体化が求められる。ゲート型機器については複数のゲートが並列に設置できることが求められる。
 検知装置の大きさは上記設置条件を満たすことが求められるため、小型化は主要な開発要素の一つと想定される。
 検知の対象物質には軍用・産業用爆発物(TNT、RDX、ANFO、ダイナマイト等)、手製爆発物(TATP、HMTD等)を可能な限り網羅的に含むことが求められ、物質の同定ができることが望ましい。
 検知装置の感度は検出下限が少なくとも10μg/立方メートル以下であることが求められる(ガス検出の場合)。
 検知装置の処理速度(データ処理までを含む)は、既設の機器のスループットを大きく下げないものであることが求められる。
 なお、X線を用いた装置は本テーマの対象外とする。

(テーマ2)X線検査装置の開発

 空港の保安検査場において、保安検査員の負担を軽減し、確実な爆発物・危険物の発見を行うことを目的とする以下の装置を開発する。
(1)検査対象物の形状を立体的に表示する機能を備えたX線検査装置
 形状を立体的に表示するための画像の再構成の手段は問わない。複数の撮像データからの再構成(複数方向からの撮像又はCTスキャン)のほか、画像データベースとの照合により、特定の対象物のみを選択的に再構成してもよい。
 表示(再構成)にかかる時間はリアルタイムに近いことが望ましい。
 装置の大きさは、空港の保安検査場等における機器設置スペースに余地が少ないため、従来の装置の大きさに準ずるものであることが望ましい。
(2)爆発物・危険物を自動判別する機能を備えた装置
 危険物の判別の手段は複数のX線源(波長)を用いることを想定する。
 検出対象物質には軍用・産業用爆発物(TNT、RDX、ANFO、ダイナマイト等)、手製爆発物(TATP、HMTD等)を含むことが求められる。表示(再構成)にかかる時間はリアルタイムに近いことが望ましい。

 なお、本テーマへの提案は上記(1)のみ、又は、(1)(2)の両方を含む提案とする。

(テーマ3)核物質探知装置の開発

 海外から搬入、又は日本を経由して諸外国に搬出される貨物・手荷物などに隠された核物質を、非開封、非破壊で探知する装置を開発する。
 対象物はコンテナ貨物、輸送トラック、航空機の受託手荷物などである。
 装置の設置場所は港湾、空港、核物質保管施設の出入口である。
 据え置き型と可搬型とが考えられる。いずれか一方でもよい。
 探知する核物質は、核テロに使用が懸念されるウラン、プルトニウムである。
 遮蔽材を用いて隠匿されている核物質の検知ができることが求められる。
 核物質の探知技術にはDDT(Differential Die-Away)法、光核反応を利用する方法、核共鳴蛍光を利用する方法などが想定されるが、これらに限定するものではない。
 同時にダーティーボムなどRテロに使用が懸念される放射性物質(コバルト等)をも探知できれば望ましい。

(テーマ4)ポータブル違法薬物検知装置の開発

 現場で使用可能な、簡便、迅速、かつ証明能力の高い違法薬物検知装置を開発する。
 装置には可搬性が求められる。重量は望ましくは30kg以下で、一人で運べることが求められる。特に、船舶等の狭隘な空間への持ち込みが可能であることが求められる。
 操作性については、使用者に特別な訓練や資格を必要としない簡便さが求められる。
 検査対象物質は違法薬物全般を網羅していることが望ましく、特に覚せい剤、大麻、コカイン・あへん等の麻薬、及びMDMA等の合成麻薬を含むことが求められる。
 想定する試料は粉末及び尿であり、必要に応じて前処理機能を具備すること。
 検出限界は尿中薬物の場合、0.1ppm以下であることが望ましい。
 検査時間は一検体あたり5分以下であることが望ましい。
 分析結果には、物質名の同定、及び定量性が求められる。
 検知技術には質量分析が想定されるが、これに限定するものではない。

(テーマ5)現場鑑識資料可視化システムの開発

 犯罪・事故の現場においては、迅速な現場状況の記録、証拠品の採集が必要である。また、多数の犠牲者が発生している大規模テロ・事故等の現場では、遺体等の状況を迅速かつ正確に記録できることが必要である。上記の目的のために、現場鑑識資料可視化システムを開発する。
 開発するシステムには人体を含む立体物等の図化のために、以下の2機能が求められる。
(1)  立体物上に付着している指紋、DNA、油脂類等の潜在的資料を様々な波長領域の光線によって可視化、撮像し、3次元データとして保存し、画像又は立体像として表示する機能
(2)  人体の状況(傷等の状況)を可視光等によって撮像し、3次元データとして保存し、画像又は立体像として表示する機能

 上記可視化のプロセスは非接触、非破壊であることが求められる。また、指紋等は建造物など移動させられないものに付着していることも多いため、可視化システムには現場への可搬性、及び簡便な操作性が求められる。
 本システムの構成は、レーザ光源等を用いるスキャナ、立体撮影カメラ等が想定されるが構成を限定するものではない。一枚の画像サイズはA4(210x297ミリ)程度とする。

 なお、本テーマへの提案は上記(1)(2)のうちのいずれか、又はその両方を含むものとする。また、(1)(2)に対して共通の装置によるシステムでも、個別の装置によるシステムでもよい。
 本テーマの開発装置はレーザ製品の放射安全基準(JIS C 6802-1:2005)に適合することが求められる。
 本テーマの実施期間は(1)(2)共に3年間とする。

(テーマ6)化学剤現場検知システムの開発

 化学剤が散布されたテロ現場で用いる現場検知が可能な簡易型化学剤検出装置を開発する。
 装置には可搬性が求められる。
 検査対象物質は以下のとおりである。
 神経ガス(タブン、サリン、ソマン、VXガス等)、びらん剤(マスタードガス、ルイサイト等)、血液剤(青酸ガス、シアン化塩素等)、窒息剤(塩素ガス、ホスゲン等)、くしゃみ剤(ジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン等)、催涙剤(トウガラシスプレー、CSガス等)。
 上記物質に対して可能な限り網羅的に検出ができることが望まれる。
 検出限界は致死量の1/1000以下であることが望ましい。
 検知の際には、化学剤名の同定が求められ、物質名の同定までできることが望ましい。また、定量性があることが望ましい。
 検査時間は30秒以内であることが望ましい。
 誤判定率1%以下であることが望ましい。

(テーマ7)化学剤遠隔検知システムの開発

 大気中の化学剤の存在を遠方から赤外光を用いてアクティブに検知し、汚染地域のゾーニングを行うことを目的とする、光源及び検出システムから構成される装置を開発する。
 装置の使用形態は手持ち、又は、車、ロボット、ヘリコプターへの搭載を想定する。測定対象領域までの距離に応じて以下の2区分を設定する。
(1)対象領域までの距離が100メートル以内
(2)同100メートル以上
 光源は赤外線領域の波長可変のレーザが想定され、中赤外域が必須であり、遠赤外域も出力できることが望ましい。
 検出対象の化学剤については、神経ガス(タブン、サリン、ソマン、VXガス等)、びらん剤(マスタードガス、ルイサイト等)、血液剤(青酸ガス、シアン化塩素等)、窒息剤(塩素ガス、ホスゲン等)等とする。
 上記物質に対して可能な限り網羅的に検出ができることが望まれる。
 検出限界は致死量の1/100以下であることが望ましい。
 検知時間はリアルタイムであることが望ましい。

 なお、本テーマへの提案は上記(1)(2)のうちのいずれか、又はその両方を含むものとする。

(テーマ8)人物画像解析システムの開発

 犯罪捜査等を目的とし、任意の人物画像(顔画像等)の検索のための以下のシステムを開発する。
(1)任意の顔画像を、ほぼ一定条件で撮影された顔画像等を集積した画像データベースに対して、高速に検索するシステム
 データベース側の画像は鮮明なカラー画像で、原則として上三分身の正面画像及び右斜側画像並びに全身の正面画像及び右側画像である。
 検索の対象となる顔画像は、撮影の条件は必ずしも一定ではなく、静止画の他、動画を含み、かつ、カラー、モノクロを問わない。可能な限り多様な撮影条件へ対応できることが望ましく、特に夜間撮影画像や、鮮明度が低い画像、上下左右の様々な角度から撮影された画像への対応が求められる。また、目視では比較的難しいとされる外国人見分け(外国人が同一人物であるかどうかの判別)が求められる。さらに、経年変化への対応(例:50歳の人の顔を20歳時の画像と照合できること)も望まれる。
 検索速度は1000万画像/秒以上を目標とする。

(2)任意の人物画像(顔画像等)を、防犯カメラ等様々な条件下で撮影された画像(静止画像又は動画、事前にデータベース化されたものを含む)に対して検索を行うためのシステム
 いずれの画像の撮影条件も一定ではなく、静止画の他、動画を含み、かつ、カラー、モノクロを問わない。可能な限り多様な撮影条件へ対応できることが望ましく、特に夜間撮影画像や、鮮明度が低い画像、上下左右の様々な角度から撮影された画像への対応が求められる。また、目視では比較的難しいとされる外国人見分け(外国人が同一人物であるかどうかの判別)が求められる。さらに、経年変化への対応(例:50歳の人の顔を20歳時の画像と照合できること)も望まれる。
 上記の検索を高速に(望ましくは1000万件/秒以上)行うために、過去に取得した防犯カメラ等の画像(静止画及び動画)から検索に必要な顔画像等の情報を自動的に取得し、任意で設定したサイズに加工してデータベース化を行う機能等が求められる。
 具体的な使用方法として、あらかじめ登録された人物画像を、空港等に設置している防犯カメラで時々刻々得られる画像に対して、リアルタイムに検索(照合)する機能が求められる。照合の結果が一致の際には、関係者への自動通報等の2次的機能の起動ができることが望ましい。
 また、複数の防犯カメラの画像から、同一人物の行動の経路を分析する機能が求められる。隣接した防犯カメラで得られた画像に対する効率的な検索のための方法が提案に含まれることが望ましい。
 さらに、検索の結果について、同一人性(類似性)をパーセンテージ等で表示でき、かつ、そのパーセンテージ等の高い順に検索対象の画像を表示(例:任意で設定した数の画像を同時表示したり、任意で設定したパーセンテージ以上の画像を選択表示)できる機能が求められる。

 なお、本テーマへの提案は上記(1)(2)のうちのいずれか、又はその両方を含むものとする。本テーマ(1)の実施期間は3年間とする。

(テーマ9)化学防護服の改良

 化学・生物テロ対処用の陽圧式化学防護服装備について、軽量化、作業可能時間の延長、及び狭隘な空間での作業性の向上を目的として開発を行う。
 軽量化に関しては防護服本体、空気呼吸器装備の合計重量の軽減を図る。特に防護服材料、空気ボンベの軽量化が望まれる。
 作業可能時間の延長に関しては、脱着性の向上及び空気供給量の増加を図る。
 狭隘な空間での作業性の向上については、船舶内等での作業を想定する。
 以上の要件を(1)とする。以上に加え、船舶又は岸壁からの海中転落を想定し、海面で浮力を確保できる機能を具備したものを(2)とする。浮力確保については付加的装備でも可とする。

 なお、本テーマへの提案は上記(1)のみ、又は(1)(2)の両方を満たすものとする。
 開発する防護服は、化学防護服についての規格を定めたJIS T8115:2005に適合することが求められる。

お問合せ先

科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当) 安全・安心科学技術企画室

電話番号:03-6734-4051, 4049
ファクシミリ番号:03-6734-4176
メールアドレス:an-an-st@mext.go.jp

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(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当) 安全・安心科学技術企画室)