平成23年度の我が国における地球観測の実施方針

平成22年8月4日
科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会

はじめに

 地球観測推進部会は、総合科学技術会議の「地球観測の推進戦略」(平成16年12月。以下「推進戦略」という。)を受けて平成17年2月に文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会に設置された。本部会は、地球観測の推進に関する重要事項について調査審議し、地球観測に対する利用ニーズや国際的動向を的確に踏まえ、「推進戦略」に沿って地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等を内容とする具体的な実施方針を毎年策定することとされている。                                                    
 また「推進戦略」では、実施方針とそれに基づく事業の進捗状況について総合科学技術会議が総合的な評価を行うこと等により、統合された地球観測システムの運用状況をフォローし、次年度以降の地球観測の実施方針の策定に反映させることとされている。さらに、実施方針は、平成17年の第3回地球観測サミットにおいて策定された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」等の国際的な枠組との連携を確保するものとされている。        
 「平成23年度の我が国における地球観測の実施方針」においては、地球規模課題である気候変動問題の解決に向けて地球観測の果たすべき役割は引き続き極めて重要であることに加え、平成23年度は第4期科学技術基本計画の初年度にあたり、同計画の策定に向け現在行われている検討において、日本及び世界の将来像を見据えた上で我が国が取り組むべき大きな課題を設定し、科学技術によりその課題を解決していくことが重要とされていることから、気候変動問題に対応するための課題解決型の地球観測の推進を重点事項として第1章で提示する。また、GEOSS10年実施計画が折り返し点を過ぎ、観測システムの統合に向けた取組が本格化することから、国内の観測活動についてもその統合を加速していく必要があることを課題解決の枢要な方途としての重要性を併せて考慮し、地球観測システムの統合による観測データの共有・統融合の推進を同じく重点事項として第2章で提示する。      
 なお、第3章では「推進戦略」に示された「我が国の地球観測の基本戦略」を踏まえ、国際的な地球観測システムの統合化に向けたリーダーシップの発揮とアジア・オセアニア・アフリカ地域との連携の強化を、第4章においては「推進戦略」に記された「分野別の推進戦略」及び長期継続的な観測の重要性を踏まえ、分野別の推進戦略に基づく地球観測の推進と基盤の構築を提示した。

 本部会の提言及び実施方針を踏まえて、各府省・機関においては、平成23年度予算などを通じて地球観測の推進を図ることを期待する。

第1章 気候変動への対応のための課題解決型の地球観測

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(AR4)(2007年11月)による指摘や、G8ムスコカサミット(20010年6月)における合意等から明らかなように、地球温暖化をはじめとする気候変動への対応が世界的な政策課題として浮上しており、温室効果ガスの排出抑制に代表される気候変動の緩和策に加え、適応策についても緊急な対応が必要な状況にある。                                                     
 気候変動への緩和と適応の両面にわたる適切な対応のためには、気候変動に伴う地球環境の変化を具体的かつ正確に把握・予測することが必要不可欠かつ社会からの要請の高い喫緊の課題であり、気候変動の監視・予測や対策の検証に寄与するための地球観測の役割はますます重要になっている。総合科学技術会議の新たな取り組みとして我が国を取り巻く課題の克服を目指し、2020年を見据えて政府全体の科学・技術政策の行動計画を示した「科学・技術重要施策アクション・プラン」(平成22年7月8日。以下、「アクション・プラン」という。)においても、経済・社会に大きな変化をもたらすイノベーション創出に向け、各省連携のもと重点的に推進すべき施策パッケージの一つとして「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」が位置づけられている。これを踏まえ、地球観測・気候変動予測・統合解析の高度化を図るとともに、地球観測の成果を広い分野で活用し、気候変動に対応した循環型食料生産やゲリラ豪雨対策システムといったイノベーションの創出を目指すことが求められている。               
 現在、世界で顕在化している地球環境問題等の重大な課題の解決に向けた科学・技術への国民の期待は非常に高く、こうした課題に対して実効性ある研究開発を実施し、その成果を課題解決に活かしていくことが求められている。第4期科学技術基本計画の策定に向けた基本方針をとりまとめた「科学技術基本政策策定の基本方針」(平成22年6月、総合科学技術会議基本政策専門調査会)においては、グリーン・イノベーションの主要な課題と方策として『地球環境観測情報の高度利用』が挙げられており、『宇宙・海洋観測によりもたらされる膨大な情報は、イノベーション創出の宝庫である。特に、気候変動の課題解決に向けて、科学・技術、人文社会科学にわたる幅広い多様な知を結集したイノベーション創出が期待される。』とされている。気候変動は水循環や生態系・生物多様性などに影響を与え、さらに、風水害の増大を引き起こす可能性や、農業生産にも大きな影響を与えるなど、地球環境及び人間生活に与える影響は多岐にわたる。したがって、気候変動問題への対応のためには、気温・海水温の上昇、海面水位の上昇等といった気候変動の直接的な影響の観測のみならず、炭素循環、水循環、生態系・生物多様性など関連する分野における観測を密接に連携させながら推進していく必要がある。

 本章では、こうした状況を踏まえ、気候変動に伴う国民生活等への負の影響を抑制する、すなわち気候変動への適応のための地球観測と、地域的な適応策立案の前提となる気候変動メカニズムの理解とより精度の高い予測のための地球観測についてまとめた。 

第1節 気候変動への適応のための地球観測

 IPCC AR4において、『過去30年間にわたる人為起源の温暖化が、地球規模で、多くの物理・生物システムにおいて観測された変化に識別可能な影響をすでに及ぼしている可能性が非常に高い』と指摘されているように、気候変動の影響はすでに顕在化している。さらに、『最も厳しい緩和努力をもってしても、今後数十年の気候変動のさらなる影響を回避することができないため、適応は、特に至近の影響への対処において不可欠となる』と指摘されているように、気候変動に対する適切な適応策の立案が大きな政策的課題となっている。                      
 G8ムスコカサミットの首脳宣言においては、『世界的,地域的,国及び国以下のレベルにおける影響,並びにインフラストラクチャーや技術的なイノベーションを通じたものを含め,適応のための選択肢を特定するために,更なる研究が必要』とされている。                                                        
 適応に関する課題解決型の地球観測に向けては、気候変動予測の高精度化に加え、地域レベルでの詳細な気候変動予測を可能にするダウンスケーリング技術や、分野横断的なデータの統合・解析技術の開発等を推進することが必要である。「気候変動適応型社会の実現に向けた技術開発の方向性(最終とりまとめ)」(平成22年1月総合科学技術会議)においては、気候変動をいかに回避するかという受け身の考え方ではなく、科学技術の飛躍により新たな社会と価値を創り出す絶好の機会と捉え、国を挙げて挑戦していくことが重要であり、革新的要素技術開発と新旧技術の統合、それを社会変革につなげる社会システム技術、先進的社会実験を組み合わせて、グリーン社会インフラの強化に支えられた環境先進都市創りのための社会変革を先導していくことが必要とされている。また、そのために必須の基盤技術として、気候変動モニタリング、気候変動予測技術、データ管理・統合化技術が挙げられている。 
 適応計画策定の際には、地球気候の複雑系としての特性および気候予測に内在する不確実性への配慮が不可欠である。複雑系である気候システムの予測信頼性の向上のため、生物・化学過程の導入や高解像度化などにより気候予測モデルを高度化することが必要である。また、不確実性を定量的に把握しその社会への影響を評価するため、気候モデル出力データの解析の強化とともに、人口変化や経済発展など人間社会側の変化も考慮した上での計画策定に資するための情報基盤整備が必要である。                                       
 具体的な管理・統合化技術としては、気候変動対策の基盤となる観測予測研究に関する総合的な研究拠点の整備、産学官がそれぞれ進める対策を統合化する技術や成果共有のための枠組の構築、モニタリング技術に支えられた行動結果のフィードバックによる軌道修正や計画変更等の管理技術の構築、異なる分野のデータベースのインターオペラビリティの向上等が挙げられる。                                            
 気候変動、地球温暖化の観測は、一義的には気温、水温、地表面温度などの観測が中心となるものの、その影響がいつ、どこに現れるのかなど未知な点も多い。したがって、影響が現れると考えられる項目(変数、時間・空間スケールなど)を整理した上で、観測システムの検討を進めることが必要である。また、適応型社会のための地球観測システムは、従来の対象を知る(理解する)ための観測とは違い、適応策の効果のフィードバックを考慮する必要があり、観測、モデル予測、社会還元を一つのサイクルとした定常的な観測システムを構築していく必要がある。

 本節では、特に社会的要請の高い、水循環変動・風水害及び生態系・生物多様性に対する影響を評価し、これらの分野における課題解決に向けて必要な地球観測の取組を掲げた。

1 水循環・風水害

 現在、世界各地で水不足、水質汚染、洪水被害の増大等の水問題が発生しており、特に経済成長に伴い水・食料需要が急増しているアジア地域等の開発途上国では水問題は非常に深刻である。                    
 自然災害による人的・経済的被害の2/3は水循環の極端事象(風水害、渇水)によって生じており、これらの極端現象への対策は喫緊の課題となっている。我が国を含むアジアでは水害による人的被害が、またアフリカでは干ばつによる人的被害が極めて大きい。                                                 
 気候変動による降水分布や降水タイプの変化は、これらの極端現象の発生に影響を与える。IPCC AR4では、多くの地域で大雨の頻度や干ばつの影響が増加する可能性が高いと指摘されており、気候変動により激化する水害、土砂災害、高潮、渇水等の水災害への適応策立案の支援情報の提供が必要である。                  
 地球規模での気候変動予測の不確実性は改善されてきたものの、地域規模の水循環の予測には大きな不確実性が存在する。適応策の立案・意思決定のためには、予測の不確実性の低減とともに、不確実性を定量的に評価する手法の確立が不可欠である。                                                    
 さらに、水問題は社会・経済問題であるため、自然科学的なアプローチに加え、産業や生活、環境に与える経済的な影響評価が求められる。生活や環境などへの影響については、人々の意識に深く関連しており、各地域の人々の意識調査を含む、社会科学的評価の実施も必要となる。                                   
 このように、気候変動による水循環の変化に対する適応策立案支援のためには、渇水、平水、洪水の全段階を含む水量・水質の評価、及び産業や生活、環境に与える経済的・社会科学的影響の定量的評価、さらには産業構造・社会の発展、政策、住民意識の変化なども考慮した包括的な影響評価が必要であり、地球科学的視点、水文学的視点、河川工学的視点、水環境工学的視点、地域経済並びに人文・社会科学的な視点を実質的に補完、共有することにより、理学的アプローチ、工学的アプローチ、人文・社会学的アプローチを融合して推進することが必要である。

 このような観点から、水循環の実態を正確に把握するとともに集中豪雨等の極端現象の予報に結びつけることが求められており、これらの課題解決に向け、以下の取組の推進が期待される。

  • 水災害の軽減に資する水循環・気候変動・気象の統合衛星観測

 水災害による人的被害を減らすことは、我が国を含むアジア及びアフリカの安全保障上不可欠な課題であり、極端事象の予測(台風・前線等による豪雨の1~3日先程度の予測、集中豪雨などの1~3時間先程度の予測、少雨・高温傾向の季節予測)精度の向上、気候の変動傾向のモニタリング、及び地域的に生じる偏差の観測が不可欠である。
 そのためには、気象衛星観測の継続実施、水循環の衛星観測技術基盤の高度化(高頻度、高空間分解能)と統合的利用、数値気象予測モデル・気候予測モデルと衛星観測データの統合的利用、及びこれらと全球レベルの地球地図等による基盤的地理情報を関連づけた統合的利用などについての今後の推進が必要である。

  • 集中豪雨などの極端降水現象の監視と発現メカニズムの解明

 極端現象の観測は、現在地上レーダ観測などが中心であり、今後も地上レーダによる観測網を広げていくとともに、高精度レーダ観測技術の開発や観測結果をもとにした高精度リアルタイム予測を進めていく必要がある。Xバンドマルチパラメータレーダについては試験運用が開始され、降雨観測情報(web画像)の一般への配信が開始されたところである。レーダ観測網等を活用することにより、局地的大雨等の降雨監視機能が強化されるとともに、洪水・浸水予測技術等の高度化が期待されている。また、TRMMなどの雨の高精度観測は極端現象を事例的に良く捉えるが、メカニズム理解のためには統計的な把握が必要であり、観測頻度が不足している。災害の減少のためにはリアルタイムの雨観測のみならず、豪雨などの極端現象を広域の気象状態に照らして予測できるような極端降水現象のメカニズムの解明が必要であり、メカニズムの解明に用いる数値モデルの入力として広範囲な観測データが不可欠である。                                                                  
 そのため、GPM計画及びGCOM-Wシリーズの推進、衛星観測と地上観測及びモデル利用研究との連携に基づくメカニズム研究の充実などが必要である。                                             
 また、水災害は気象条件とともに、河川や周辺の表層地質・植生など条件にも大きく支配される。観測・調査に基づいたハザードマップの作成・周知なども自然災害の抑制には必須である。

  • 総合的水資源管理システムの構築

 水環境の保全、持続可能な水管理の実現、風水害の軽減等のために、気候変動に対応する、健康や生態系、エネルギー、食料生産をも包括する総合的水資源管理システムの開発が必要であり、その基礎となる流域情報の整備が求められている。                                                        
 そのため、地域性の強い現象にかかわる情報、特に数値モデル化が容易でない事象を、関連する国際的な枠組・組織との連携を図りながら、地球規模で収集していく必要がある。                              
 現在、基礎となる土地利用情報として、地球地図データが存在するが、今後、より詳細なデータ整備が期待される。特に季節や年代で大きな変化のある植生や農地・栽培作目などは、気候変動の影響評価や適応策の検討のために、多くの分野・関係者が共通して必要とする情報であり、これらの情報のための衛星と地上での長期継続観測やデータ整備が求められている。

2 生態系・生物多様性

 生態系・生物多様性に対する気候変動の影響はすでに顕在化しており、今後はその影響が加速することから、その影響変化をできるだけ時系列的に把握し対策を打つこと、及びその対策の有効性をモニタリングすることが求められている。特に、開発途上国における環境の変化が著しいこと、気候変動などによる影響が早期に顕在化する可能性が高いことなどから早急に観測体制を構築する必要がある。また、植林クリーン開発メカニズム(CDM)のクレジット検証や、途上国における森林の減少・劣化に由来する排出の削減(REDD+)の基準作り、生物多様性条約における目標達成状況の把握などにおいても、生態系・生物多様性のモニタリングが必要となる可能性がある。        
 本年10月に名古屋で開催される生物多様性条約(CBD)第10回締約国会合(COP10)では、「生物多様性の損失速度を 2010 年までに顕著に減少させる」という2010年目標に代わる次期目標が採択される予定である。次期目標の指標・監視のためにも地球観測の果たす役割は大きく、国際的な連携による生物多様性モニタリング体制の構築とデータの共用化が求められている。                                                
 なお、生物圏に関する観測は時間スケールが長いことから、必ずしも短時間にその結果の評価を行うことができないため、適切な機関間連携を図ること等により、長期的な観測体制・評価体制の整備が必要となる。

 気候変動による生態系機能(海洋及び陸域の植物や土壌の炭素固定など)の変化については未知の部分が多く、また生物多様性への影響の陸域・沿岸域から外洋域にわたる観測はまだまだ不十分であるため、これらの課題解決に向け、以下の取組の推進が期待される。

  • 温暖化に伴う生態系・生物多様性の変化のモニタリング

 生態系の変動、生物多様性の減少の人間生活への影響と有効な適応策を順応的に確立するために、関連して劣化する生態系サービス(自然災害抑制、水、生物生産など)との複合的モニタリングが必要である。現在、二酸化炭素と生態系データ(とくに生産力)などは連携が進んできているものの、生物多様性、栄養塩循環、生態系動態などのほかの生態系データと合わせたスーパーサイト形成と連携が遅れており、その推進が期待される。            
 また、生物圏の観測・調査は個別独立に行われることが多く、その知見が必ずしも集約化されていないことから、個別独立な観測を集約化して共有することが重要であり、まず、官公庁、大学、企業、NGOなどが所有しているデータの電子化、公開を進めることが求められている。さらに様々な観測ネットワークの連携や得られるデータの集約化・共有化を行うための実施主体としての拠点を作ることが必要である。

  • 森林保全・森林炭素評価

 森林減少等に由来する排出は、世界の温室効果ガス排出量の約2割を占めるとされており、REDD+の取組が気候変動対策として果たす役割は大きい。地球規模での森林の適切な管理・保全の実現に向け、効率的・効果的な対策を講じるためには、排出量等の計測や報告、森林のバイオマス量及びその動態の評価の観点から、衛星観測等を利用した森林炭素モニタリングシステムの構築に向けた取組が必要不可欠。森林炭素モニタリングシステムの構築については、衛星観測データの取得、バイオマス量推定アルゴリズムの開発、現地取得データとの連携など多くの取組が必要となり、関係者も多数にわたることから、現場におけるニーズを踏まえ、効率的・効果的な連携を確保しつつ推進していくことが重要である。

  • 海洋酸性化のメカニズムの理解と生態系への影響評価

 海洋の酸性化は現在確実に進行している。これまでの実験室内における限定的な研究によれば、海洋酸性化が海洋生物に影響を及ぼすことで、種の多様性や,水産資源,さらに、海洋の二酸化炭素吸収能や生物分布にも変化をもたらす可能性が指摘されている。低水温の北部太平洋海域は海洋酸性化の石灰化生物への影響が急速に現れると考えられているものの、海洋現場での酸性化の実態と生態系変動との相互関連についての知見はきわめて乏しい。                                                                 
 地球環境変動に対する将来予測、さらにはその適応策のために、速やかに海洋酸性化と海洋生態系の構造と機能の変化に関する観測研究を開始し、生物多様性、水産資源、及び炭素循環を含む物質循環の影響評価に向けての取組を始める必要がある。

第2節 気候変動メカニズムの理解とより精度の高い予測のための地球観測

 気候変動の監視・予測・影響評価・対策のいずれにおいても、地球温暖化による気温上昇量を正確に予測することが重要であり、このためには放射収支や炭素循環などの気候予測において不確実性が高いプロセス・メカニズムの解明に必要となる様々な物理量等を全球規模で長期継続的に観測することが必要である。               
 雲物理過程や台風・熱帯低気圧、インド洋ダイポールの発生など、その科学的要因が充分に明らかでない現象については、科学的理解の不足が、気候変動に伴う影響予測に大きな不確実性をもたらしている。また、気候変動の温室効果ガス収支へのフィードバックに大きな不確実性が含まれることから、フィードバックの大きさによっては、現在検討されている排出規制の目標値を大きく変更させる可能性がある。                          
 したがって、これらの不確実性の低減は、精度の高い温暖化予測やその予測に基づく政策立案のために必要かつ緊急の課題であるため、今後より一層の推進が求められている。                              
 また、IPCCをはじめとする気候変動にかかわる国際社会へのこれまでの我が国の貢献、特に優れた気候予測モデルなどによる信頼性の高い成果を発信してきた経緯を考慮すると、引き続き地球シミュレータ等の世界最高水準のスーパーコンピュータを最大限に活用し、気候変動予測研究の取組をさらに推進するとともに、不確実性の低減などの残された課題に取り組むことは、「先進者」である我が国の責務である。

 すでに述べたようにこれら不確実性の大きな原因は、予測モデルにおける気候変動プロセス・メカニズムのインプットの不足であることは言うまでもない。本節では、気候変動のプロセス・メカニズム理解のために特に取り組むべき課題として、炭素循環の解明、雲物理・降水過程の解明、対流圏大気変化の把握、海洋変動の把握、北極における変化の観測・監視に焦点をあてて整理した。                                           
 これらの課題への取組は、地球システムの理解に不可欠であるだけでなく、前節でまとめた、気候変動の適応のためにも必要とされるものであり、水循環、生態系等の分野とも深く関係するため分野横断的な取組が求められる。 
 予測の高度化・不確実性の低減から適応のための影響評価、適応策の策定に関わる基本的課題の解決のために、これら予測の科学から意志決定までの一貫した研究体制を確立して、推進することが期待される。

  • 炭素循環の解明

 気候変動を予測し、人間社会や生態系への気候変動の影響を評価する上で、炭素循環を正確に理解することが喫緊の課題である。                                                         
 IPCC AR4では、気候変動と炭素循環の間の正のフィードバックの大きさの不確実性のため、大気中の二酸化炭素濃度をある特定の水準に安定化させるために必要な二酸化炭素排出量変化の不確実性が増大すると指摘し、将来の炭素循環のフィードバックの大きさの決定が解決すべき課題として挙げられている。                  
 現在、温室効果ガス排出削減策の一つとしてREDD+が注目されており、二酸化炭素吸収源となる森林の観測を含めた炭素循環の観測の重要性が増している。また、森林火災による二酸化炭素放出については、衛星観測のみで評価した地上バイオマスの喪失から推定されているケースが多いため不確実性が高い。現地観測によってその評価を正確に行い、森林保全が温暖化防止策として果たす役割を適切に評価することが求められている。また,農耕地における炭素貯留は、今後の地球温暖化対策として重要な役割を果たすことが期待されており、他の温室効果ガスを含めて、農耕地の条件とガス・物質動態のより正確な見積りと評価が求められている。                
 こうしたことから、炭素循環の一層の理解と、現在のモデルで見落としている部分を探査することを目的とした観測を強化することが必要である。

 炭素循環の観測のうち、全球の温室効果ガス濃度分布の観測については、平成21年1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データの一般提供が平成21年10月より開始された。現在、宇宙からの温室効果ガス(二酸化炭素・メタン)観測を主目的とした衛星は「いぶき」しかないため、本分野における取組については、これまでの地上観測や海洋観測等に加えて「いぶき」の衛星観測も活用し、我が国が国際的なリーダーシップを発揮し、推進することが期待される。                                           
 また、生態系による吸収・放出量の寄与を明らかにするためには、海洋及び陸域生態系の生産量分布と、その長期的な変化を捉える必要がある。そのため、地球環境変動観測ミッション・気候変動観測衛星(GCOM-C)シリーズによる全球規模の生産量把握と長期変動監視の早期開始、及び陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)シリーズによる詳細な地表面観測の継続により、地上観測網による精緻な実測と併せてこれを広域化するためのデータを取得することが必要である。現在、LバンドSARで世界の森林を広範囲にかつ高頻度に観測できる衛星は世界でも「だいち」しかない。Lバンドも含め、様々なセンサを組み合わせて、森林状況を把握し二酸化炭素収支を推定する取組において、我が国が国際的なリーダーシップを発揮し、推進することが期待される。さらに、時系列のデータ取得の重要性から、「だいち」による観測を継続するALOS-2の開発の推進が必要である。

  • 雲物理・降水過程の解明

 IPCC AR4において指摘されているように、気候変動予測に利用される気候モデルにおいて、雲・降水過程の扱い(特に熱帯域の雲降水過程)には不確定要素が多い。放射収支に関する雲・エアロゾルは、温暖化を和らげる(冷却する)効果を持つものの、その大きさが不確定であり、現在主流の気候モデルに内在する最大の不確定要因となっている。気候変動の予測精度向上のためにはこれらの全球規模での観測が必須であるが、現状は十分な観測が行われていない状態であり、GCOM-Cシリーズによる陸域も含めた全球規模のエアロゾル高精度観測、及び雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)による雲の鉛直構造把握など、衛星による観測を開始することが必要である。      
 熱帯の降水過程の再現は、大気大循環のエネルギー源の正確な再現にとって最重要であるため、全球気候の決定に大きな影響を持つが、現在の気候モデルにおいて不確実性の大きい問題として残されている。これを改善して気候モデル予測の不確実性を軽減するためには、熱帯降雨観測衛星(TRMM)の長所を生かして計画を発展させた全球降水観測(GPM)計画などの衛星観測による立体的かつ観測頻度の高い降雨観測とともに衛星観測を検証する現場観測の充実の開始が必要である。

  • 対流圏大気変化の把握

 近年のアジア地域の急速な経済発展に伴い、化石燃料の燃焼に伴う大気汚染物質の放出量が増大し、我が国を含む広範囲の地域の環境への影響が懸念されている。さらに大気汚染物質は、二酸化炭素以外の微量温室効果ガスの大気寿命に重要な影響を及ぼすことから、気候変動の観点からもその観測が求められている。        
 大気化学の観測では、大気組成の空間的・時間的変動の常時監視が重要で、そのためには、互いを補完する衛星観測と地上観測の並行実施が不可欠である。静止衛星によるアジア地域の広域的な大気汚染・大気変化の監視が必要とされているが、欧米も含めてまだ実現していない。実現のためには、静止衛星への搭載を目指した、大気環境観測センサの研究の促進が必要である。同時に粒子状物質のような空間的変動が大きい物質の観測に対応した地上観測点の整備も必要である。

  • 気候変動に直結する海洋変動の把握

 近年、海洋が直接的に気候変動を支配すると考えられる現象が報告されるようになった。その中でも、インド洋ダイポール現象は、東南アジアあるいはオーストラリアでの干ばつと直接的な関係があるばかりでなく、太平洋のエルニーニョ発生状況とも関連して、遠く日本の季節的な気温変化、降水量変化にも影響を与えていることが指摘されている。また、世界の各大洋で報告されている深層水の昇温に関しては、特に南極周辺での深層水形成量の変化と結びついていると考えられており、大気との熱交換変化を通じて人間の生活圏の気温の急激な変化や、人為起源二酸化炭素の海洋深層への移送量変化が引き起こされる可能性が指摘されている。
 これらの実態とメカニズムの解明、及び気候モデルへのインプットを可能とすることが早急に必要とされる。しかしながら、インド洋では、周辺国家の経済的状況もあり、いまだに現場の観測網は完成から遠く、また、太平洋の深層水が形成される南極周辺海域では、その環境の厳しさゆえに、有効な現場観測手法が確立されておらず、現場観測データの不足から人工衛星データの有効利用も制限される。そこで、これまでに日本で培われた定置ブイ、漂流フロート、荒天域での船舶観測等をはじめとする観測技術の高機能化、低価格化をさらに加速させ、全球規摸で現場観測網の構築を促進し、さらに長期継続的に維持することが必要である。加えて、海洋変動監視や大気・海洋相互作用の把握に必要な海面水温や海上風等の観測を、天候や海況に寄らず高頻度で行うことができる水循環変動観測衛星(GCOM-W)シリーズの観測を早期に開始し、上述の現場観測データとの比較検証することにより、広域で高精度に実現することが必要である。

  • 北極圏における変化の観測・監視

 北極圏は、地球温暖化による平均気温の上昇が最も大きく、地球上において気候変動による影響が最も顕著に表れると予測される地域の一つであり、また、地球上の雪氷の変化は、地球温暖化の加速や海水面上昇などの地球環境に影響を及ぼすことが懸念されている。北極圏における変化は、全球的な物質循環及び気候システムに影響をもたらす可能性があることから、環境変動の実態とメカニズムの把握や環境変動に伴う生態系の応答プロセスの理解、および領域気候モデル構築や大気大循環モデル(GCM)の高度化のため、北極圏を含む雪氷圏における継続的な地球観測を実施することは非常に重要である。さらに、年間を通じて環境変動を監視するため、従来の観測システムの改良や新しい観測システムの開発が必要である。                                   
 なお、地球観測連携拠点(温暖化分野)は、ワークショップの開催等により、今後の連携施策の検討を行い、雪氷圏における温暖化影響の把握、ならびに気候システムにおける雪氷圏フィードバック研究を推進するため、以下に示す取組により、雪氷圏観測における機関間連携を推進することが必要であるとまとめた。

  • 雪氷圏変動観測ネットワークを整備し、持続的観測体制を構築
  • 雪氷圏観測データの品質管理・アーカイブを行う体制を構築
  • 雪氷圏データと、大気・海洋・陸域等の観測データとの統合解析を実施する体制を構築

第2章 地球観測システムの統合によるデータの共有・統融合

 「推進戦略」では、我が国の地球観測の基本戦略として、「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築」を挙げている。利用ニーズ主導の統合された地球観測システムは、限られた予算や人材等の資源の下で、地球環境問題や災害の軽減といった国民のニーズが高い重要な課題解決を可能にするため、持続的・効率的に効果的な地球観測を実現するものであり、その構築を進めることが重要である。                           
 また第1章でも述べた通り、「科学技術基本政策策定の基本方針」において、地球環境観測情報の高度利用に関して、『特に気候変動の課題解決に向けて、科学・技術、人文社会科学にわたる幅広い多様な知を結集したイノベーション創出が期待される。』とされており、地球観測体制の強化を図る一方で、分野横断的な大量のデータを統融合する技術開発を行い、課題解決に向けたイノベーション創出を促進する必要がある。                    
 地球観測システムの統合にあたっては、衛星、海洋、陸上観測などの様々な観測データを科学的・社会的に有用な情報に変換し、全人類的課題である地球環境問題の解決や自然災害の低減に有用な情報として広く社会に提供することが重要である。多様な地球観測・予測データの統合化と解析のための超大容量システムを構築して、温室効果ガスの地域排出量のモニタリング体制の確立、気候変動予測モデルの相互比較・統合化、地域気候変動の予測・影響評価の高度化、気候変動への緩和策と適応策の意思決定、人口減少下の効果的な国土管理など、最先端科学技術を応用した国民目線の成果を創出することが期待されている。                          
 具体的には、水-衛生-保健、気候変動-水-農業、気候変動-感染症-生態系、気候変動-災害-農業、気候変動-水産資源などの異分野間のデータに加え、地球地図等の全球的基盤データを共有・統融合し、河川管理、農業農村基盤整備、林業・水産業支援、生物多様性の保全、感染症対策、気候変動適応策、大規模災害軽減などに資する有用な情報を創出し、その成果を関係府省・機関の連携によって社会に還元していくことが求められる。

 また、こうした成果を生み出していくためにも、これまでに挙げた重要観測項目のモニタリングや長期継続観測を可能とする体制(予算、連携体制等)の構築、モニタリングや長期継続観測の重要性を示す啓発活動の推進、観測資料・試料に関するデータベースの構築、データ共有・流通の促進などを進めることで、必要なデータを継続的に取得し適切な形で利用できる体制を整える必要がある。そのためには、それぞれの地球観測システムを担っている府省・機関が相互に連携し合う必要があり、その手段として関係府省・機関間の連携を推進する機能を持った連携拠点の設置や、関係府省・機関による具体的施策を通じて連携する必要がある。「アクション・プラン」で示された重要施策パッケージ「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」においては、政策パッケージを推進する上での留意点として『民間企業、研究機関、NPO を含めたあらゆる関係者が地球観測情報を融合、活用しオープンイノベーションを創出するための連携プラットフォームを平成23 年度に設置、定期的に具体的な連携を進める。』とされていることから、設置される連携プラットフォームを最大限に活用し、関係府省・機関間の連携を図っていくことが重要である。 
 地球観測連携拠点に関して、地球温暖化の分野については平成18年度に環境省及び気象庁が中心となって連携拠点(地球温暖化観測推進事務局)を設置している。また、地震・火山分野については、地震調査研究推進本部及び科学技術・学術審議会測地学分科会の事務局である文部科学省が連携拠点としての機能を果たしている。     
 第1章において取り上げた、水循環・風水害や生態系・生物多様性の分野についても基礎的なデータや観測の手法などが共通している場合が多いことから、関係府省・機関において連携の促進に資する連携拠点の設置に向けた取組が一層進展することが期待されており、平成22年度に地球観測推進部会の下に設置された作業部会において連携拠点設置に向けた検討が行われている。                                          
 各分野における連携の進捗状況は様々であるものの、現在、その取組が進んでいる分野において成功事例を創出していくことが他の分野の連携・データ共有の促進に繋がるため、引き続き、既存の連携拠点における連携の推進が期待される。

 GEOSS10年実施計画の後半においては、各国における地球観測システムの統合に向けた取組が本格化する。また、「アクション・プラン」で示された重要施策パッケージ「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」においては、2020年までの成果目標として『地球観測データの統合化を進め、統合データが全体に占める割合を90%以上に引き上げる』とされており、まず我が国における地球観測事業による観測データの共有・利用を促進し、「推進戦略」に示された地球観測システムの統合化を加速していく必要がある。さらに大学を含めた我が国におけるより広汎な地球観測データに関してもこれらの有用利用を図るために、これらの統合化を進める必要がある。このため、「平成23年度の我が国における地球観測の実施計画」のとりまとめを通じて、観測データの公開、共有を進めるとともに、国内の観測システムの統合化に取り組むものとする。その際、地球観測データの統合・解析システムの活用を図るものとする。

第3章 国際的な地球観測システムの統合化に向けたリーダーシップの発揮とアジア・オセアニア・アフリカ地域との連携の強化

 「推進戦略」では、我が国の地球観測の国際戦略として、「国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮」、「アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立」を挙げている。 

 我が国は「科学技術創造立国」を国家戦略として、科学技術の水準の向上を図り、経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに、世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献するため、科学技術の振興を図ってきた。また、国際社会における役割を積極的に果たすとともに、我が国の科学技術の一層の進展に資するため、研究者の国際的な交流、共同研究、科学技術に関する情報の国際的流通等、科学技術に関する国際的な交流等を推進してきており、今後とも地球観測に係る国際的な貢献に取り組んでいく必要がある。

 平成20年7月のG8北海道洞爺湖サミットでは、環境・気候変動が主要テーマの一つとして取り上げられ、首脳宣言において、地球観測データに対する需要の増大に応えるため、G8各国は、優先分野、とりわけ気候変動及び水資源管理に関し、観測、予測及びデータ共有を強化することによりGEOSSの努力を加速化することが合意された。平成21年7月のG8ラクイラサミットでは、洪水の増加、高潮、干ばつ及び森林火災といった、気候変動に起因する自然災害及び極端な気象現象の増大した脅威に対処するため、GEOSSで開発を継続中の作業を支援すること等により、リスクへの準備、予防、監視、反応時間を、特に開発途上国において改善するよう行動することが、首脳宣言において合意された。本年6月のG8ムスコカサミットの首脳宣言においては、『世界的,地域的,国及び国以下のレベルにおける影響,並びにインフラストラクチャーや技術的なイノベーションを通じたものを含め,適応のための選択肢を特定するために,更なる研究が必要』とされた。                                          
 我が国はG8メンバー国として、GEOSSに関係する取組の推進をはじめ、GEOSSにおいて宇宙に関連する部分の構築を担っている地球観測衛星委員会(CEOS)の活動を推進する等、関連する国際機関・計画における地球観測に関する取組をより一層加速し、推進することが求められる。また、GEOSS構築にかかわる早期取組として、米欧の衛星による気候・気象観測の中核的計画であるJPSS及びMETOP計画と、我が国の長期観測計画であるGCOMシリーズとの協力等が進められているが、このような連携を一層強化し、より効率的・相補的な全球観測網の構築に率先して参画することで、主体的な国際貢献を果たすことができる。                              
 また我が国は、GEOSS推進のための組織である「地球観測に関する政府間会合(GEO)」の執行委員会メンバーを務めている他、作業計画へのリード機関・貢献機関としての参加、事務局への人的貢献、常設委員会(構造及びデータ委員会)の共同議長、主要なタスクチーム等へのメンバー派遣を行っている。本年11月に北京において第5回地球観測サミットが開催される事などを踏まえ、引き続き国際的なイニシアティブを発揮していくことが期待される。

 また、G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言では、地球観測における開発途上国の能力開発を支援することが合意されており、特に我が国と緊密な関係にあるアジア・オセアニア地域については、連携を一層強化する必要がある。  
 アジア太平洋地域におけるGEOSSの普及及びGEOSS推進に向けた情報交換を行い、共通理解を深めることを目的として、平成19年から毎年GEOSSアジア太平洋シンポジウムが開催されている。本シンポジウムでは各国におけるGEOSS推進の報告とともに、連携の取組の推進についての議論が行われている。本シンポジウムを契機にGEOSS推進に向けた具体的な連携の取組を推進し、アジア太平洋地域の取組を世界に発信していくことで、全世界的なGEOSSの推進に繋げていくことが期待される。                                       
 また、総合科学技術会議が平成20年5月に取りまとめた「科学技術外交の強化に向けて」などを受けて、「推進戦略」における「アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立」の考え方を発展させ、アジア・オセアニア地域のみならずアフリカ地域など、広く連携を図っていくことが必要である。                   
 気候変動の問題や残留性の高い化学物質が国境を越えて影響を及ぼす問題など、グローバルな環境リスク問題への対応には、国際的な地球観測の共同研究が不可欠である。しかしながら、開発途上国においては、観測施設・拠点の整備、継続的な観測を実施するための現地研究者等の人材育成など、課題が非常に多い。我が国の高度な観測技術を活かし、積極的な科学技術外交の推進と研究協力を行い、開発途上国における観測技術の向上、人材育成に貢献していく必要がある。                                                  
 関係府省・機関は、引き続き科学技術と外交の相乗効果等の観点から、開発途上国との科学技術協力を強化し、開発途上国の観測ニーズの把握、開発途上国の能力開発を含めた国際共同研究を推進することが期待される。

第4章 分野別の推進戦略に基づく地球観測の推進と基盤の構築

   分野別の推進戦略に関する地球観測の着実な実施

 「推進戦略」では、社会的な要請に応える包括的な地球観測の全体像を明らかにするため、「地球温暖化」、「地球規模水循環」、「地球環境」、「生態系」、「風水害」、「大規模火災」、「地震・津波・火山」、「エネルギー・鉱物資源」、「森林資源」、「農業資源」、「海洋生物資源」、「空間情報基盤」、「土地利用及び人間活動に関する地理情報」、「気象・海象」、「地球科学」の15分野において現状、観測ニーズ、今後の取組方針等を整理した分野別の推進戦略をまとめている。関係府省・機関は「推進戦略」に基づき、引き続きこれらの分野における取組を推進することが期待される。

  • 長期継続的な地球観測のための観測基盤の構築

 地球システムにおける重要な変化の多くには、短期間の観測では明らかにすることができない事象があり、的確な把握のためには長期継続した観測が必要であることから、地球観測事業の長期継続的な実施に必要な観測基盤の構築が重要である。                                                         
 そのため、統合された地球観測システムにおいては、長期継続観測を実施する関係府省・機関と研究開発機関・大学の連携を可能とする仕組みを備え、関係府省・機関の有する観測施設等と人材、研究開発機関・大学の技術等を活用することで、長期継続的な研究観測を支援する体制を整えることが重要である。また、長期継続観測を可能とする新たな観測手法や観測機器の開発を促進するためには、競争的研究資金の活用等を図ることも必要であり、これらを総合することにより長期継続観測の体制を構築することが出来る。                         
 第3期科学技術基本計画分野別推進戦略においても指摘されているように、環境研究において観測船、観測衛星、地上観測網は研究全体を支える重要な共通基盤であることから、長期継続的に維持されるべきであり、担当機関・担当スタッフの安定的な確保が必要である。特に、温暖化分野における観測は項目も多く、かつ長期間観測する必要があることから資金や人材の制約を受けるため、長期観測に係る資金の確保や人材の育成確保、さらに観測項目の重点化などを図ることが期待される。                                            
 また、すべての観測装置は、経年劣化や災害等による故障、観測システム全体の陳腐化、観測施設の老朽化等の問題が発生する。精度の高い観測を継続して行うには、観測装置・施設の定常的な保守点検・修理、計画的な観測装置の更新が不可欠であり、観測装置・施設の維持管理のための人材の確保、計画的に観測装置を更新するための費用の確保が必要である。

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