第3章 原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化

[1]安全の確保

1.原子力安全研究の推進

 軽水炉発電の長期利用等に備え、原子力施設の安全性向上を図るため、原子力安全委員会が定めた「原子力の重点安全研究計画」(平成16年7月原子力安全委員会決定)及び「日本原子力研究開発機構に期待する安全研究(平成17年6月原子力安全委員会了承)」を踏まえ、同委員会からの技術的課題の提示及び原子力規制行政庁からの要請等を受け、原子力安全研究を実施することにより、安全基準や指針の策定等に貢献し、我が国の原子力の研究、開発及び利用における安全の確保に寄与することが重要である。
 また、軽水炉の高経年度化を踏まえ、将来におけるトラブル等に適切に対応可能なように、研究に柔軟性を持たせ、研究基盤の維持・向上を図ることが重要である。
 なお、安全研究や規制支援は、原子力の推進活動から適切に分離独立が図られる必要があり、安全研究等を実施する組織の「中立性・独立性・透明性」の担保については、十分に留意する必要がある。

2.原子力防災に係る研究開発

 万が一の原子力施設等の災害に対する対応基盤の維持・強化に対する取組みは重要であり、国内外からの原子力災害対応に係る技術的支援の求めに応じて適切な対応が可能なよう、原子力防災に係る調査、研究開発を着実に進める。

[2]放射性廃棄物の処理・処分

1.RI・研究所等廃棄物の処分事業の進め方

 放射性同位元素(RI)を使用する研究施設、医療機関及び医療検査機関等から発生するRI廃棄物並びに試験研究炉等を設置した事業所及び核燃料物質等の使用施設等を設置した事業所から発生する研究所等廃棄物を安全に処理・処分することは、放射線利用及び原子力の研究開発の円滑な実施のために重要である。
 RI・研究所等廃棄物の処理・処分については、発生者責任の原則に基づき、RI・研究所等廃棄物の発生者が責任を持って処理・処分をする必要がある。実際の処理・処分に当たっては、発生者が個別に行うより、廃棄物を集中的に処理・処分を行う方が効率的かつ合理的である。
 RI・研究所等廃棄物のうち、安全規制の状況、発生量の多さ等を考慮すると、まずは浅地中処分相当の廃棄物処分について早急に実施体制を構築することが適切である。具体的には、廃棄物の集荷・貯蔵・処理について、RI廃棄物については、日本アイソトープ協会が現在の体制を継続して実施することとし、研究所等廃棄物のうち大学、民間企業等の比較的廃棄物発生量の規模が中小である施設から発生する廃棄物については、特定の事業者が集中的に行うことが適切である。その際、研究所等廃棄物の処理については、諸条件が許せば既存の処理施設の有効活用も検討するべきである。RI・研究所等廃棄物の処分については、廃棄物の発生量が最も大きい比率を占め、かつ、技術的能力が高い日本原子力研究開発機構が国や関係者と協力して、他の必要な研究開発の着実な推進に配慮しつつ、RI・研究所等廃棄物全体の処分事業を推進することが適切である。
 処分に要する費用については、発生者が今後発生する廃棄物の処分費用を廃棄物の発生を伴う研究等の活動経費に加えることで必要な資金を確保するのみでなく、過去に発生した廃棄物についても適切な方法で確保する必要がある。国においては、発生者が廃棄物の処分費用を確実に負担できる資金確保のための措置を整備するとともに、廃棄物処分場の整備に一定の役割を果たすことにより、RI・研究所等廃棄物を円滑に処分ができる環境を整えることが必要であり、今後、資金確保のための具体的な制度を整備することとすべきである。
 また、RI・研究所等廃棄物の処理・処分に関する国民の理解増進及び処分場立地地域との地域共生について、処分事業者、廃棄物の発生者及び国、等が連携して取り組むことが重要である。さらに処分事業の円滑な実施の観点からは、安全規制当局において所要の技術的基準等の整備に向けた検討が実施されることが期待される。

2.原子力施設の廃止措置技術・放射性廃棄物処理処分技術

 原子力施設の廃止措置及び低レベル放射性廃棄物の処理処分に必要な技術開発は、発生する放射性廃棄物の安全で合理的な処理処分を実現し、放射性廃棄物量の低減や資源の再利用につながることから、原子力エネルギーの開発・利用の推進の上で重要である。本格的な廃止措置や放射性廃棄物の処理処分に備え、原子力関係施設の廃止措置及びその準備作業を通じ、各種のデータを取得しておくことが必要である。また、クリアランスレベルの概念に関して、国民的理解の醸成を図る努力を行っていくことが必要である。

[3]核不拡散技術研究開発

 核不拡散に関する研究は、原子力利用の前提となる平和利用の推進に直結するものである。今後も、核テロ等を念頭に置いた核物質防護強化に向けた国際的動向に合わせ、適切に対応して行くとともに、核不拡散体制を維持・強化し、国際的な信頼を確保しつつ、我が国の原子力平和利用を維持できる環境を維持していくことが重要である。
 また、核不拡散は核兵器不拡散条約(NPT)や保障措置制度等の政策的・制度的な手段と、核物質が転用されていないことを確認するための計量管理技術等の技術的な手段との両面で支えられていることから、これまでの原子力平和利用の実績を踏まえ、核不拡散政策研究及び核不拡散技術研究開発の両面を推進することが重要である。
 具体的には、核燃料サイクル施設に対し、効果的・効率的な保障措置を適用するため、国際原子力機関(IAEA)との協議を継続して行い、核燃料サイクル施設への統合保障措置適用に向けた概念構築や遠隔監視技術等の開発を行うとともに、保障措置計量管理技術のさらなる向上と効率化を図るべきである。また、高速増殖炉サイクルの実用化時に適用されるべき先進的保障措置概念の検討も進めるべきである。
 さらに、包括的核実験禁止条約(CTBT)国際検証システムへの貢献として、放射性核種の監視に係る国内体制の整備・運用等を継続するとともに、未申告原子力活動の検知のため、微粒子中の極微量核物質の同位体比測定技術の性能向上等の開発を行うことも考えられる。

[4]人材の育成・確保

 原子力の研究開発を発展させていくためには、人材の確保が重要である。しかしながら近年では、我が国社会の高齢化の進展に伴い、熟練した技術を有する技術者、技能者が大量に現役を退くことに加えて、原子力発電所の建設機会が減少し、また、国と民間の原子力に関する研究開発投資が減少傾向にあることから、次世代において原子力の研究、開発及び利用を支える人材の確保が懸念されるようになってきている。
 原子力の研究開発に携わる人員は、公的研究開発機関においては、国の研究開発投資の減少、特殊法人改革等に伴う減少基調にあり、民間企業の研究者数も研究開発投資が減少しているのに伴い、同様に減少傾向が続いている。
 大学においては、名称として「原子」が含まれる学部・学科は減少しているものの、原子力に関する学問の進展に伴い、関連する教育研究の領域が様々な分野に拡大していることを踏まえて量子エネルギー工学、エネルギー科学等の名称で従来の原子力分野を含む、より幅広い分野で原子力に関する教育研究を実施しており、学生の数としては、学部生、修士、博士の数ともほぼ横ばい状態である。また、原子力の研究開発機関が多い福井県や茨城県にある福井工業大学、福井大学、茨城大学に加えて東京大学においても、新規に原子力関係学部、大学院が新設されている。
 このような中、将来の軽水炉の建替え時期に備えた施設、設備の更新や、高速増殖炉(FBR)サイクル技術の開発等を進めていくために、原子力関係者の質と数の確保、技術水準の維持が必要であり、そのため、エネルギー、原子力の教育の必要性及び人材の育成、確保策の重要性が非常に高まっている。このためには、原子力分野に若い人が魅力を感じることが重要であり、原子力分野に新しい発見や新しい技術が次々と生まれてくるような原子力分野の活性化が必要である。
 そのためには、第一に、初等・中等教育段階において、児童・生徒が正しい知識に基づき自ら判断できるよう、原子力・エネルギーに関する教育への支援を行うべきである。第二に、人材養成には時間が必要であるとの認識の下、まず、原子力への人材供給に直接的に貢献する大学を継続的に支援すべきであり、原子力関係の学部、大学院、研究所等に対し、その教育内容の高度化や充実に資するものあるいは、意欲的かつ独創的な研究開発活動の取組みを支援していくことが期待される。また、教育研究に不可欠な原子炉等の研究施設については、日本原子力研究開発機構の施設を有効に活用することが効果的であり、その促進のための方策を検討すべきである。さらに、学生自身に対する支援も重要であり、奨学金等の措置が期待される。また、原子力を学んだ学生が、原子力分野の産業・研究現場に就職又は進学するように、電力事業者、製造事業者、研究機関の現場を体験したり、その現場で研究を行ったり、働いている人と交流機会を持つことも促進すべきである。

[5]産学官の連携

 研究開発を効果的・効率的に進めていくためには、日本原子力研究開発機構や放射線医学総合研究所等の独立行政法人や大学、産業界等の連携を積極的に進めていくことが重要である。日本原子力研究開発機構は、多くの知的財産や技術的知見を有しており、それらを有効活用するために、実用化や商品化への積極的な関与、秘密保持及び実施許諾の柔軟化と拡大に努め、また、ウラン濃縮技術、MOX燃料加工技術、再処理技術及び高レベル廃棄物処分等の核燃料サイクルに係るシステム技術の的確な移転を積極的に行うこととすべきである。
 また、放射線医学総合研究所においては、知的財産の権利化への組織的取組みを強化し、研究成果の特許化、実用化を促進するとともに、戦略的研究分野を中心に出願済特許の実施許諾等を通じた効果的な実用化の促進を図ることが期待される。
 施設・設備の供用に関しては、日本原子力研究開発機構の有する施設・設備について、民間や他の研究機関が一般に保有できない原子力研究の基盤として重要な研究施設・設備、汎用性があり、外部からの利用ニーズが高く、核物質管理を含め保安上の観点等から支障がない施設を中心に、広く外部の利用に供することとすべきである。また、施設の供用を促進していく上では、供用する施設の高経年化対策や運転費の維持に留意する必要がある。
 材料照射試験については、材料試験炉(JMTR)において行われる各種の照射試験が、基礎基盤研究から軽水炉の高経年化に伴う原子炉材料の挙動評価や燃料の高燃焼度化の評価に至るまでの幅広い領域で活用され、その研究開発や人材育成における成果が非常に大きなものであること、また、原子力規制行政庁等に照射ニーズが存在することを考慮すれば、今後、我が国における研究開発の基礎基盤研究を担う施設として、必要な更新を行い活用していくことを検討すべきである。しかしながら、その際には、JMTRの再稼働に必要な改修費用や運用コストは、安全の確保を大前提としつつも、可能な限りの合理化を行うことはもちろん、医療用アイソトープ製造事業者、シリコン半導体製造事業者等の幅広いユーザーの確保や利用料金体系の適切な設定によって、国費の投入額が可能な限り低減されるよう配慮すべきである。

[6]広聴・広報の充実

 原子力の研究開発を進める上では、広聴活動を国民、地域社会との相互理解を図る活動を起点に位置づけた上で、得られた意見等を踏まえて広報や対話の活動を進めていくことが重要である。このため、広聴・広報に関して国が実施している事業がより効率的・効果的に行われるように見直しを図るべきである。また、原子力に関する情報を積極的に公開するとともに、社会が必要とする情報がわかりやすい形で適時的確に発信されるように広報活動の充実を図り、国民や立地地域との相互理解を図るべきである。その際、原子力推進の立地地域のみならず、東京、大阪等の電力消費地における正確な知識と公正な立場に基づいた情報を広く関係者に提供し、信頼を獲得するように努力するべきである。さらに日本原子力研究開発機構は、適切なリスクコミュニケーションを目指した「さいくるミーティング」を始めとする立地地域の住民等との対話活動を推進するとともに、原子力に関する研究開発活動や研究成果について、インターネットを活用して積極的に情報発信し、国民の原子力及び科学技術に対する理解促進、普及を図るよう努力すべきである。

[7]学習機会の整備・充実

 そのためには、まず、児童・生徒が原子力について正しい知識に基づき原子力の平和利用やエネルギーとしての位置づけについて自ら考えること、科学技術としての原子力が有する広い可能性について知ること等について教育の基盤を形成することが求められる。また、原子力に関する学習機会の充実について日本原子力研究開発機構等の関係機関が積極的に協力することは、将来の我が国の科学技術の人材育成にも貢献するものである。このため、原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金の交付先を全国に拡大することを目指すほか、先進的な教育的取組みの促進、これらの事例の成果普及等を図るべきである。さらに、原子力やエネルギーについて、原子力施設の存在を前提とした地域の将来像を次世代が考える機運の醸成を図るための生徒が主体的に参加する取組みや、地域における子どもの居場所づくりの取組みを活用して児童生徒に原子力の知識、可能性や面白さを伝えるための取組みを推進すべきである。また、国が実施している教育支援事業についての情報提供を充実する。加えて、原子力やエネルギーについての教員の理解を促進させるため、専門的な科学的知識の習得等のためのセミナー等の機会を可能な限り拡大すべきである。

[8]立地地域との共生

 原子力の研究開発の推進には立地地域との共生が不可欠である。具体的には、立地地域との共生の観点から、これらの地域が主体となって進める地域の持続的発展を目指すためのビジョンに対する支援を電源三法交付金制度等を活用して積極的に検討すべきである。

[9]国際協力について

1.次世代の原子力システムの研究開発に関する国際協力について

 原子力の分野はエネルギー安全保障、核不拡散等本質的に国際的な性質を持つのみならず、研究開発に限ってみても、大規模な施設、設備及び高度な知識、技能を持つ人材が必要であり、国際的な枠組みを特に考慮しつつ活動を進めていかなければならない。そのため、国際原子力エネルギーパートナーシップ(GNEP)、第4世代原子力システムの研究開発に関する国際フォーラム(GIF)、革新炉と燃料サイクルの国際プロジェクト(INPRO)等の国際的な枠組に積極的に参画し、活用していくべきである。

(1)国際原子力エネルギーパートナーシップ(GNEP)への取組み

 米国が本年2月に提唱した新たな枠組であるGNEPは、世界的な原子力発電の拡大に対応しつつ、核不拡散を確保するための国際的なシステムを構築しようとするものであり、我が国として積極的に評価すべきである。今後、(1)米国の核燃料サイクル施設の共同設計活動、(2)高速実験炉「常陽」、高速増殖原型炉「もんじゅ」を活用した共同燃料開発等の研究開発、(3)原子炉をコンパクト化する構造材料の共同開発、(4)ナトリウム冷却炉用主要大型機器(蒸気発生器)の共同開発、(5)我が国の経験に基づく核燃料サイクル施設等への保障措置概念の共同構築を中心に協力を検討していくことが適切である。なお、この際、我が国の高速増殖炉サイクル技術研究開発と整合を取り、我が国の計画が促進・効率化されるように配慮することが必要である。

(2)第4世代原子力システムの研究開発に関する国際フォーラム(GIF)、革新炉と燃料サイクルの国際プロジェクト(INPRO)への取組み

 GIFは、持続性、安全性、経済性、核拡散抵抗性・核物質防護を目標に2030年までの実用化を目指す第4世代原子力システムを開発することを目的にしているが、その中では、我が国が持っている技術をグローバルスタンダードとするため、我が国が主導的な立場を取るべきである。特に、将来、GIFにおいて炉型の選定が行われる際には、我が国が積極的に取り組んでいる炉型、特にナトリウム冷却高速炉(SFR)の概念が採用されるよう努力するべきである。
 IAEAの革新炉と燃料サイクルの国際プロジェクト(INPRO)においては、開発途上国からの参加もあることから、我が国の技術が国際的に活用されていくものとするため、開発途上国も含め、幅広く国際的な理解を得るよう努力していくことが必要である。

2.アジアにおける原子力分野の協力について

 我が国以外での原子力施設のトラブルは、我が国の原子力政策にも大きな影響を与えるものである。特に、近隣アジア諸国は、地理的に日本に近く、また、経済的にも密接な関わりがあり、農業、医療、工業の各分野での放射線の利用、研究炉の利用、原子力発電所建設や安全な運転体制確立等多くの共通課題を有している。さらに、原子力発電所の建設計画が進みつつある国もある。これらのことから、我が国は、近隣アジア諸国と、積極的に協力を行っていくべきである。
 原子力委員会が主導して行っているアジア原子力協力フォーラム(FNCA)は、アジア諸国が強いパートナーシップによって、アジアの原子力技術の平和的で安全な利用を進め、社会的・経済的発展を促進することを目指すものであり、我が国としても、FNCAで行っている個別プロジェクトについて、引き続き取り組んでいくべきである。また、近隣アジア諸国における原子力分野の人材養成は、アジア地域のみならず我が国の原子力推進のためには不可欠なものであり、昨年12月にFNCAの大臣級会合で合意されたアジア原子力教育訓練プログラム(ANTEP)の早期具体化のため、積極的に取り組んでいくべきである。

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(科学技術・学術政策局計画官付)