第1章 基本的考え方

[1]現状認識

 近年、国際社会全般においては、原油及びウラン価格の高騰や、中国・インド等工業新興国の需要に牽引された世界全体でのエネルギー需要の増大等、エネルギー問題が深刻化しているとともに、地球温暖化問題の解決が求められている。
 このような内外の状況を鑑みるに、石油については、9割近くを中東に依存する等、一次エネルギーの大部分を海外に依存するエネルギー資源小国の日本では、エネルギー安全保障の観点から、エネルギーの安定供給の確保が重要な政策課題となっている。今後我が国において、電力需要はゆるやかな伸びが見込まれるところであるが、現在、電源として最も普及している石油・天然ガス等の化石燃料は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出する上、我が国では、それらの燃料の大部分を海外からの輸入に依存している状況にある。一方、バイオマス、風力発電、太陽光発電等の化石燃料代替エネルギーは、近年普及に向けた開発が進んでいるが、現在の技術水準においては、発電量や供給安定性に課題が残っている。現在、我が国の年間総発電電力量の約3割を占める原子力は、供給安定性にすぐれ、資源依存度が低い準国産エネルギーと位置付けられ、また、燃料調達上のリスク分散の観点から、化石エネルギー等を含めたベストミックスに留意しながら、発電過程で二酸化炭素を排出しないことから積極的に推進するべきである。
 昨年策定された「原子力政策大綱」においては、基本的考え方として、既設の原子力発電施設の建替えが開始されると予想される2030年以降も、原子力発電の供給割合を総発電電力量の30パーセント~40パーセント程度の現行の水準程度か、それ以上とすることを目指すことが適当であるとした上で、核燃料サイクルの確立を基本方針とし、経済性等の諸条件が整うことを前提に、高速増殖炉サイクルを2050年頃から商業化する等の方針が明示された。
 我が国における高速増殖炉サイクル技術の研究開発の状況については、日本原子力研究開発機構において、10年間運転を停止していた高速増殖原型炉「もんじゅ」の改造工事が平成17年9月に開始され、早期の運転再開を目指している。また、同様に、高レベル放射性廃棄物処理処分やプルトニウム燃料に係る研究開発も同時に進められているとともに、競争的資金を活用した提案公募型の研究開発事業も開始されている。また、平成18年3月に、日本原子力研究開発機構と日本原子力発電は、「高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究フェーズ2」の報告書を取りまとめ、国に提出した。今後、国では平成18年秋頃に、この報告書を受けての研究開発計画を決定する予定である。
 一方、核融合エネルギー技術の研究開発については、ITER(イーター)(国際熱核融合実験炉)計画を中心として進められていたところであるが、平成17年6月にはITER(イーター)がフランスのカダラッシュに建設されることが決定し、平成18年5月にはITER(イーター)協定のイニシャル(仮署名)が行われている。また、日欧協力による「幅広いアプローチ」についても、ITER(イーター)協定と同時の発効に向けての交渉及び国内での体制整備が進められているところである。
 また、光子、中性子、電子、イオン等の量子ビームについて、近年のビーム発生・制御技術の高度化に伴い、高強度かつ高品位なビームの発生・利用が可能となり、大型ビーム施設の整備進捗により、基礎科学から産業応用まで広範な分野での利活用の期待が高まっている。
 放射性同位元素(RI)を使用する施設、医療機関等から発生するRI廃棄物及び試験研究炉等を設置した事業所等から発生する研究所等廃棄物の安全な処理・処分を推進していくことについては、これまで処分が行われていないが、このままでは研究開発本体にも影響を及ぼす可能性もあり、速やかに処分を進める必要が生じている。
 これらの研究開発を推進する組織として、平成17年10月、特殊法人であった日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構は統合し、独立行政法人日本原子力研究開発機構が新たに設立された。我が国における原子力分野の研究開発の中核的役割を担う唯一の総合的研究開発機関であるこの新機構は、高速増殖原型炉「もんじゅ」を基軸とする高速増殖炉サイクル研究開発、大強度陽子加速器(J-PARC)を中核とする量子ビームテクノロジー研究開発、地層処分の技術基盤の整備に向けた高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発、核融合研究開発、高温ガス炉・核熱利用に関する研究開発等を国として進めるべき研究分野へ重点化するとともに、その所有する研究開発施設の共用や再処理等の分野で民間への技術支援を積極的に行っている。
 最近は、国際的にも原子力や核燃料サイクルに関する新たな動きが見られる。米国は、平成18年2月、国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想を発表し、米国における原子力発電を拡大するとともに、日本等の核燃料サイクル技術を持つ国との協力の下に核拡散抵抗性の高い国際核燃料サイクルを実現していくことを提言した。欧州においては、従来、脱原子力発電政策を取っていたドイツを含め、地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から原子力を評価する気運が高まっている。また、近年の人口増加と工業化が目覚ましい中国・インドにおいては、原子力発電施設の着実な建設が進んでいる。この他、核融合に関する国際計画である国際熱核融合実験炉(ITER(イーター))計画が進展しているほか、「第4世代原子力システムの研究開発に関する国際フォーラム」(Generation4 International Forum:GIF)等、次世代原子炉の研究開発を目的として、長期的観点から各国が協力して研究開発に取り組む動きが生まれている。

[2]今後の取組みにおける共通理念等

 我が国の原子力の研究開発は、原子力基本法の定めるところに従い、また、「原子力政策大綱」(平成17年10月)に則り安全確保を大前提に、また、立地地域をはじめとする国民の理解と協力を得つつ、着実に推進していくことが必要である。その際、国際協力や人材養成等、原子力の研究開発が存立する基盤の整備を同時に行っていくことが重要であることに十分留意すべきである。主要な戦略課題についての基本方針は以下のとおりである。

○ウラン資源の利用効率を飛躍的に向上させ、エネルギーの安定供給性等を高める高速増殖炉(FBR)サイクル技術の確立については、第3期科学技術基本計画において「国家基幹技術」として位置付けられており、一層重点化しつつ推進する。2050年よりも前の高速増殖炉サイクル技術の確立を目指し、また、国際的に加速しつつある開発動向を踏まえると、高速増殖炉サイクルの実証施設の2025年の運転開始が必要である。このためには、高速増殖原型炉「もんじゅ」等を始めとして、炉、再処理、燃料製造の各分野技術に関する研究開発を整合性を持って加速するとともに、円滑に実証プロセスへ移行していくことが必要である。

○未来のエネルギー選択肢の幅を広げるものと期待される核融合については、ITER(イーター)計画を中心として研究開発を推進する。ITER(イーター)計画では、10年後の完成を目指してITER(イーター)の建設が開始されようとしており、ITER(イーター)計画と並行して行われる幅広いアプローチも含め、国内の研究体制の整備を進め、将来の原型炉を目指した研究開発を推進する。また、ヘリカル方式やレーザー方式についても、核融合エネルギーの多様性を確保するとともに、学術研究を推進する観点から、引き続き大学等において研究を進めることが重要である。

○量子ビームを発生・制御し、高精度な加工や観察等を行う利用技術である「量子ビームテクノロジー」については、こうしたビーム発生・制御技術の高度化多様化に伴って、従来の水準を大きく超える高い性能での物質の構造解析や加工・物質創製等が可能になってきており、基礎科学研究の新領域への展開が図られるとともに、産業分野での実用段階の応用に至る広範囲にわたる利用が進められている。これら量子ビームの高い潜在能力に立脚し、治療効果が高い重粒子線がん治療法の治療成績の向上に向けた取組み等ナノテクノロジー、ライフサイエンス等最先端の科学技術・学術分野から各種産業に至る幅広い分野での更なる活用を推進する。

 近年の我が国の厳しい財政状況に鑑み、予算配分に関しては、エネルギー政策、科学技術政策との整合性に留意し、有効性・費用対効果の検証等を不断に行っていくことにより、効果的、効率的に選択と集中を図っていくことが重要である。

 平成18年3月に策定された、第3期科学技術基本計画の下の分野別推進戦略では、重点的な投資が必要な課題として、エネルギー分野において、国家基幹技術として高速増殖炉(FBR)サイクル技術が選定されている等、エネルギー分野、ナノテクノロジー・材料分野及びライフサイエンス分野において、それぞれ戦略重点科学技術、重要な研究開発課題が文部科学省関連の原子力分野から選定されている(※参照)。第2章においては、これらの課題を中心に推進方策を示す。

※分野別推進戦略に選定された課題
[エネルギー分野]

○国家基幹技術

  • 長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術

○戦略重点科学技術

  • 長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術(再掲)
  • 国際協力で拓く核融合エネルギー:ITER(イーター)計画
  • 高レベル放射性廃棄物等の処分実現に不可欠な地層処分技術

○重要な研究開発課題

  • 高速増殖炉(FBR)サイクル技術
  • 使用済燃料再処理技術(軽水炉関係)
  • 高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術
  • 原子力施設の廃止措置技術・放射性廃棄物処理処分技術
  • 核融合エネルギー技術
  • 原子力基礎・基盤、核不拡散技術研究開発
  • 高温ガス炉等の革新的原子力システム技術
  • 原子力安全研究

[ナノテクノロジー・材料分野]
○重要な研究開発課題

  • 量子ビーム高度利用計測・加工・創製技術

[ライフサイエンス分野]
○戦略重点科学技術

  • 標的治療等の革新的がん医療技術

○重要な研究開発課題

  • がん、免疫・アレルギー疾患、生活習慣病、骨関節疾患、腎疾患、膵臓疾患等の予防・診断・治療の研究開発
  • QOLを高める診断・治療機器の研究開発

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(科学技術・学術政策局計画官付)