(別紙)重要な研究開発課題

1.実証データを収集する

 気象災害研究では、マルチパラメータレーダ等のリモートセンシング技術の開発が進んでおり、さらに、豪雨・豪雪・強風・土砂災害への応用を図るためのアルゴリズム開発が重要である。先端的技術の開発に力が注がれている一方で、降積雪の計測技術は開発が進んでおらず、山地の降雪量の実態も充分に把握できていない。土砂災害による被害はあまり減少しておらず、大規模地すべり予測の基礎資料として、引き続き、調査・観測や大型降雨実験施設等による実験が必要である。
 地変災害研究では、地震観測や地下構造調査のデータ及び実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)を活用した実験と国際的な技術交流によって取得した基礎データ等を用いた地震動・地震被害推定、危険度評価及び地震による人的被害発生メカニズムの解明が重要である。また、過去の災害を今後の教訓に反映させるため、地震・火山災害事例研究が重要である。
 災害に強い社会づくりの研究では、災害による危険度評価を行う上で基礎となるデータの収集が重要である。

(1)気象災害

1 豪雨・豪雪災害

●観測による研究
  • 人工衛星、航空機、気象レーダ、地域気象観測システム等を利用した豪雨、豪雪等の観測手法、データ収集システムを開発・高度化する。

2 土砂災害

●観測による研究
  • 斜面崩壊・土石流発生の検知機器を開発・高度化し、実測、リモートセンシングデータ及び数値地形データを用いて、急傾斜地や火山地域における降雨又は融雪に伴う地すべり、がけ崩れ、山崩れ及び土石流の動的挙動の観測研究を行う。
●調査による研究
  • 構造的に発生する地すべりの災害調査を実施する。
●実験による研究
  • 降雨、融雪及び流水による危険斜面の動的挙動の実験手法を高度化する。
●アーカイブに関する研究
  • 山地災害の歴史に関する統一的資料を作成する。

(2)地変災害

1 地震災害

●観測による研究
  • 地震時の地盤の震動特性を解明するため、人工震源、ボーリング、重力観測等により地震基盤、表層地盤の構造及び物性を調査観測する。
  • 自然地震、人工震源観測等により、震源断層についての情報を高度化する。
  • 地盤及び構造物における高密度な強震観測網を拡充・整備し、地震動を観測する。
●調査による研究
  • 大都市平野部の地下構造調査及び埋没谷の地質学的調査を実施する。
  • 災害時に避難場所となる学校施設等の被災の影響及び災害時の対応を調査する。
  • 詳細で高精度な強震動評価のため、アスペリティ分布等の微視的震源パラメータを推定するための調査・観測を実施する。
●実験による研究
  • 各種構造物及び施設の振動特性及び破壊過程を解明するため、E-ディフェンス等の大型震動実験施設を整備し、大型模型や実大構造物を用いた震動実験を行う。また、そのための実験技術を開発する。
●アーカイブに関する研究
  • 地域防災計画における地域・地方公共団体の対応や、避難期、救援期、復興期における人間、組織、行政の行動を調査し、都市地震災害の軽減手法等に関する国際比較研究を行う。

2 地震時地盤災害

●調査による研究
  • 地表地震断層のずれによる災害に関して既存事例を調査する。

3 津波災害

●観測による研究
  • 津波観測のための機器を開発・高度化する。

4 火山災害

●観測による研究
  • 火砕流、溶岩流、火山泥流、空中に放出された火山噴火物等の観測手法や観測機器を開発・高度化し、火山災害現象の早期検知技術を開発する。
●アーカイブに関する研究
  • 火山噴火災害における広域災害発生時の組織間調整の事例を検証する。

(3)災害に強い社会づくり

1 都市火災

●観測による研究
  • 大地震発生時や強風または異常乾燥条件下での出火・延焼拡大機構に関するデータを収集する。

2 都市災害

●実験による研究
  • 都市域における氾濫流に関する模型実験を行う。
●アーカイブに関する研究
  • 都市災害の事例解析を実施する。

3 災害全般

●調査による研究
  • 災害に強いまちづくり推進のため、土地利用現況、土地条件、土地保全、救急医療体制、災害情報システム等の実態を調査する。また、事例研究として、阪神・淡路大震災に関して、復興過程の解明に向けたパネル調査、災害エスノグラフィー構築、弱者支援の実態、復興施策が住民に与えた影響調査等を行う。
●実験による研究
  • 木造建物の変形性能に着目した既存木造住宅の静的載荷実験や、腐食による材質劣化に関する実験を実施する。
●アーカイブに関する研究
  • 位置、用途、耐震強度等の建築物に関する情報、病院や独居老人等の災害時要援護者に関する情報、避難路・避難場所に関する情報等の地域情報収集や、都市地震防災対策の実証的研究により、総合研究としての防災学の構築を目指す。

2.データベース化する

 災害のリスクマネジメント、震災後の復旧・復興に関する施策の立案等においても、研究の基礎となるデータベースの構築が重要である。また、データベースは、GISなども活用し、汎用性が高く、発展途上国を含む国際的流通可能なものであることが重要である。

(1)気象災害

1 豪雪災害

  • 社会的変化に伴う雪氷災害の変化傾向を解明するために、雪害による人身事故等の長期間にわたるデータベースを構築する。

2 土砂災害

  • 地すべり地形分布図、数値地形データ、地質、植生等を含む土砂災害に係る空間情報データベースを作成する。

3 高潮・高波災害

  • 汀線測量、深浅測量結果や空中写真等、海岸侵食とその対策事例に関するデータベースを作成する。

(2)地変災害

1 地震災害

  • 強震動予測に必要な、大都市を中心にした堆積平野の速度構造データ、各地域地盤データ、強震観測網データ、観測記録解析から得られたアスペリティ分布等の震源パラメータと計算結果、大型共同利用施設等の実験・観測データ、耐震設計基準、被災事例データ及びコンピュータコードについて、国際的な協力体制の整備や実務・教育にも利用出来ることにも留意しつつデータベースを構築・公開する。

2 地震時地盤災害

  • 大都市圏を中心にした日本全国のボーリングデータ、地表地震断層のずれによる災害に関するデータベースを作成する。

3 津波災害

  • 防災の研究者・実務者が共通に使える津波観測のデータベースを構築する。

(3)災害に強い社会づくり

1 都市災害

  • 災害時のプラント機器等の被害最小化や機能保持能力向上のために、材料リスク情報のデータベースを開発する。

2 災害全般

  • 災害に関連する各種データベースの現状を調査するとともに、建築物の位置・用途・耐震強度等に関する情報、病院や独居老人等の災害時要援護者に関する情報、避難路・避難場所等に関する情報等の地域データベースを作成する。
  • 情報が随時更新される防災GIS構築のための記述方式を整備し、基盤・応用ソフトウェアを開発する。

3.災害のメカニズムを明らかにする

 気象災害研究では、近年の気象災害の多発に対応して、通常の気象観測網より小さいスケールでおこる集中豪雨の予測や地吹雪・雪崩等の雪氷災害の予測と、リモートセンシングによる広域の被災地推定が重要である。また、大規模地すべり予測の基礎として、高速土砂流動現象等の発生機構の解明が必要である。地球温暖化等による災害リスク評価のため、検潮所とGPS観測網を駆使した海面上昇の実態把握、数値シミュレーションと気候モデルの改善、融雪期に対応する降積雪モデルの改良、局地的な異常気象に及ぼす影響の解明に取り組む必要がある。
 地変災害研究では、来るべき東海・東南海・南海地震等に備えて、地震及び津波災害発生メカニズムの解明及び振動台実験や数値シミュレーションにより地震時の構造物の破壊過程を明らかにすることが重要である。
 災害に強い社会づくりの研究では、地震火災のメカニズム解明、防災教育や被災経験の伝承による防災意識向上及び地域防災計画の見直しに資する社会現象の解明が重要である。

(1)気象災害

1 豪雨・豪雪災害

●物理現象に関する研究
  • 人工衛星、航空機、気象レーダ、地域気象観測システム等による観測結果や数値シミュレーション、室内実験に基づいて、集中豪雨や、雪崩等を含む豪雪災害の発生機構を解明する。

2 強風災害

●物理現象に関する研究
  • 台風等の大気現象の観測手法を高度化し、局所風、台風、竜巻等の内部構造、発生・発達機構及びそれらに係わる外的変動要因を解明する。

3 洪水氾濫災害

●物理現象に関する研究
  • 洪水氾濫について、高分解能の合成開口レーダ(SAR)を用いた浸水域推定の手法を高度化する。
●社会現象に関する研究
  • 水害時の避難所設置、避難情報の時期と伝達手段、住民の危機意識が避難の成否に与える影響、被災者の個別事情が避難行動に及ぼす影響を解明する。

4 土砂災害

●物理現象に関する研究
  • 土砂の流動・堆積等、急傾斜地や火山地域における構造的に発生する地すべりの発生機構を数値シミュレーション等により解明する。

5 気候変動災害

●物理現象に関する研究
  • 気候システムの諸過程に関する解析、観測及び実験的研究に基づいて、気候の変動特性、温暖化に伴う台風の増減・強度や海面上昇のプロセスを解明する。
●数値シミュレーションに関する研究
  • 気候システムの諸過程に関する解析・観測及び実験的研究に基づいて、気候変動の数値シミュレーションモデルを高度化する。
●理論・モデルに関する研究
  • 気候変動による災害の変質や新しい災害の発生を予測するモデルを開発するため、地球規模の気候変動及び局地的な気象災害をもたらす異常気象に関する解析的研究及び数値シミュレーション研究を行う。

(2)地変災害

1 地震災害

●調査による研究
  • 建物倒壊に伴う死傷者発生のメカニズムや、設備機器の被害と地震動の関係を解明する。
●物理現象に関する研究
  • 地盤の非線形特性、液状化、埋没谷及び地質構造を考慮した地盤震動特性並びに高密度な強震観測網により把握される地震波動の伝播特性に基づき、経年劣化を考慮した土木・建築構造物、産業施設等の破壊過程を解明する。
●理論・モデルに関する研究
  • 詳細で高精度な強震動評価のため、低周波域から高周波域までの広帯域にわたり、震源のごく近傍までの強震動評価に適用可能な震源のモデル化を行い、アスペリティ分布等に関する調査・観測結果や強震動記録の解析によるスケーリング則に基づいた強震動評価手法を開発する。
●数値シミュレーションに関する研究
  • 三次元地下構造を考慮した地震波伝播・強震動計算手法を開発する。
●社会現象に関する研究
  • 震災直後の混乱期から復旧・復興に至る災害過程において発生する社会・経済的影響、土地利用計画上の問題等、時間軸に沿った災害現象の変遷とその発生メカニズムを解明する。

2 地震時地盤災害

●物理現象に関する研究
  • 地震時における地表地震断層のずれによる災害、粘性土・軟弱地盤の挙動と砂質土の液状化機構並びに地すべり、がけ崩れ及び山崩れの発生機構を解明する。

3 津波災害

●物理現象に関する研究
  • 潮位観測、波高観測、海底における観測に基づく津波特性の解明を行う。
●数値シミュレーションに関する研究
  • 津波が大陸棚を伝播して分散した状態を考慮した津波シミュレーションを行う。

(3)災害に強い社会づくり

1 都市火災

●物理現象に関する研究
  • 大地震時や強風・異常乾燥条件下での出火・延焼拡大機構、火災気流の性状を解明する。

2 都市災害

●理論・モデルに関する研究
  • 都市域の多様な地下空間、地形、建物等を考慮した水害の氾濫解析手法及び数値モデルを開発する。
●社会現象に関する研究
  • 阪神・淡路大震災を直接経験していない都市居住者に対する、間接的経験の影響を解明する。

3 災害全般

●理論・モデルに関する研究
  • 航空機または衛星による観測情報等に現地調査に基づく情報を組み合わせ、市街地のミクロモデル及びマクロモデルを構築し、都市空間のリスクマネジメントに関する性能評価モデルを支援するGIS活用型情報支援システムを構築する。
●社会現象に関する研究
  • 発災期、混乱期の多様なリスク条件下における人間行動を解明する。
  • 災害情報の集積を困難とする制御要因の時系列的解明や、防災計画に基づく災害対応行動シミュレーションによって、事前に防災対応の問題点を解明する。
  • 復興過程、生活再建過程における、避難ストレス、経済・生活問題、地域変化等、被災者等が直面する問題を解明し、復興戦略のあり方を検討する。

4.災害を予測する

 気象災害研究では、台風上陸前の被害推定、都市域における中小河川の氾濫や地下空間における溺死危険度評価、地すべり予測技術・危険度評価、豪雪に伴う雪崩や地吹雪の予測技術、地球温暖化による海面上昇に伴う沿岸災害危険度評価等の高度化や、住民の防災意識向上のための雪崩・地吹雪・融雪・土砂災害等のハザードマップ作成が重要である。また、マルチパラメータレーダ等の最先端レーダを活用した直接防災に役立つ短期予測も重要である。
 地変災害研究においても、住民の防災意識向上のため、強震動予測や地盤災害等のハザードマップ作成は重要である。今後は強震動予測を被害予測につなげていく研究が必要である。
 災害に強い社会づくりの研究では、社会的混乱も含めた危険度評価、住民の防災意識向上のための、複合災害に備えたハザードマップ作成等、包括的かつエンドユーザー指向の研究を進めることが必要である。

(1)気象災害

1 豪雨・豪雪災害

●物理現象に関する研究
  • 各種観測手法の開発・高度化に基づいて、豪雨をもたらす気象擾乱、降水・降雪量の長期的・短期的予測精度を向上する。
  • 地吹雪の発生と発達に関するメカニズムを解明し、その予測精度を向上する。
  • 積雪内の水の挙動を解明し、融雪期の積雪内部構造の予測精度を向上する。

●物理現象の危険度評価に関する研究

  • 雪崩の動的運動形態を解明し、内部構造を考慮した雪崩モデルを開発することにより、雪崩危険度の評価手法を高度化する。

2 強風災害

●物理現象に関する研究
  • 局所風、台風、竜巻等の発生、規模、変動及び進路に関する予測精度を向上させ、これらに伴う被害を予測する技術を開発・高度化する。
●ハザードマップに関する研究
  • 風向別の突風率に着目した強風災害危険度マップを作成する。

3 洪水氾濫災害

●物理現象の危険度評価に関する研究
  • 地下河川等を含む都市河川流域の氾濫水の挙動を考慮した氾濫危険度評価技術を高度化し、動画、静止画による浸水被災域の予測システムを開発する。

4 高潮・高波災害

●物理現象に関する研究
  • 高潮の予測技術を高度化する。
  • 海岸侵食予測技術を高度化する。
●物理現象の危険度評価に関する研究
  • 沿岸地域の高潮危険度評価技術を高度化する。
●ハザードマップに関する研究
  • 高潮、高波災害のハザードマップを作成する。

5 土砂災害

●物理現象に関する研究
  • 構造的に発生する地すべりによる災害の予測技術を高度化する。
●物理現象の危険度評価に関する研究
  • 急傾斜地や火山地域における降雨・融雪に伴う地すべり、がけ崩れ、山崩れ及び土石流の危険度評価技術を高度化する。
●ハザードマップに関する研究
  • GISを用いた土砂災害のハザードマップを開発する。

6 気候変動災害

●物理現象に関する研究
  • 各種観測調査により、気候変動及び温暖化に伴う台風の増減強度と海面上昇のプロセスの予測に関する研究を行い、災害の変質及び新しい災害の予測モデルを開発する。

(2)地変災害

1 地震災害

●ハザードマップに関する研究
  • 高度化された震源断層モデルと地盤の震動特性を基にした精度の高い地震動分布と構造物の振動特性を基に、大地震時の都市構造物群の被害想定等を行い、地震被害予測地図を作成する。
  • 地震動予測地図作製手法を高度化し、地盤情報や地域情報、地震時の液状化、斜面災害予測等を組み込んだ地震被害に重点を置いた複合災害のハザードマップを作成する。
●被害想定に関する研究
  • 詳細な地盤情報や地域情報を組み込んだミクロスケールの被害想定手法を開発するとともに、リモートセンシングデータ、数値地形データ等を用いて、地震動分布の推定手法を高度化する。
●社会現象の危険度評価に関する研究
  • 住民が利用可能な地震被害予測システムを開発する。

2 地震時地盤災害

●物理現象の危険度評価に関する研究
  • 活断層、地表地震断層のずれ、軟弱地盤、地盤沈下に伴う基礎の地震時耐力低下等の個別要素を考慮した斜面・造成宅地等の広域地盤複合災害の危険度評価技術を開発・高度化する。
●ハザードマップに関する研究
  • ボーリングデータベースに地質、地震時液状化、災害分布等の情報を付加したハザードマップを作成する。

3 津波災害

●物理現象の危険度評価に関する研究
  • 津波の大きさ、波形等の予測技術及び津波に伴い発生する火災も考慮した沿岸地域の危険度評価技術を高度化する。
●ハザードマップに関する研究
  • 津波による浸水域ハザードマップを作成する。

4 火山災害

●ハザードマップに関する研究
  • 火山災害のシミュレーション等を活用した危険地域の評価技術を高度化するとともに、火山噴火後も刻々と変化する状況にも対応できるリアルタイム型のハザードマップの作成手法を開発する。

(3)災害に強い社会づくり

1 都市災害

●社会現象に関する研究
  • 大地震等によって大都市に発生した被害が国内外の社会・経済に与える影響を予測・解析する手法を開発・高度化する。
●被害想定に関する研究
  • 都市の地震災害を総合評価する手法を提案する。
●社会現象の危険度評価に関する研究
  • 人間の行動を考慮した人的被害発生危険度、都市及び社会基盤の安全性、災害に対する備え及び複合災害下における都市の脆弱性の評価技術に関する方法論を開発し、都市診断学の構築を目指す。

2 災害全般

●物理現象の危険度評価に関する研究
  • 個人特性や災害状況、避難誘導等の影響を考慮した避難行動シミュレーションにより、災害危険度の地域別評価手法を開発する。
  • 木造建物の耐震性評価、腐食と強度劣化の関係を用いた劣化診断基準を作成する。
●ハザードマップに関する研究
  • 地震、豪雪、自然環境や社会環境の変化、微地形、表層地盤特性等を考慮し、市民の自主的な防災対策に利用できるハザードマップを作成する。

5.防災力を向上させる

 気象災害研究では、強風、豪雪、洪水氾濫等への耐力向上によって、災害に強い社会システムを構築することが重要である。
 地変災害研究では、耐震点検・耐震診断の普及が阪神・淡路大震災以降の重要課題である。地震動により被災した構造物・施設の応急の強度・性能回復技術や材料の開発、地震による大きな揺れが到達する前に情報を伝達し、防災対策に活かす技術の開発が重要である。
 災害に強い社会づくりの研究では、住民参加型の防災計画策定手法、復旧・復興過程の社会的側面からの研究が、阪神・淡路大震災以降顕在化している。緊急時の対応システムの確立に向けた技術・装置の開発、地方公共団体で扱える防災実務者のトレーニングにむけた災害シミュレータの開発・高度化を、社会のニーズを掘り起こしつつ進めることが重要である。さらに、これらに基づき総合防災システムを構築するため、国レベルから市民・地方公共団体レベルまでの防災リスクマネジメント手法高度化の研究を進めることが必要である。

(1)気象災害

1 豪雪災害等

●被害抑止に関する研究
  • 積雪期の地震に対する避難システム、市街地の融・除雪のための雪処理総合システム及び地吹雪による視程障害・雪崩・凍結対策技術を開発・高度化する。
  • 豪雪地域における日常生活及び豪雪災害時におけるリスクマネジメント手法を開発する。
●緊急対応に関する研究
  • 寒候積雪期における保健・看護システムを開発する。

2 強風災害

●被害抑止に関する研究
  • 強風が構造物に与える影響を解明し、構造物の耐風設計技術を高度化する。

3 洪水氾濫、高潮・高波災害

●防災管理に関する研究
  • 河道内の土砂堆積の制御技術、海岸侵食防止技術等を開発・高度化し、地域環境と調和した河川及び海岸の防災計画を提示する。
●ロジスティクスに関する研究
  • 水害対策システムをインターネット等により防災システムに連携させるリスクマネジメント支援システムを構築する。
●災害対応シミュレーションに関する研究
  • 被災者の個別事情を反映した詳細な水害時避難行動シミュレーションモデルを開発する。

4 土砂災害

●災害対策に関する研究
  • GISを用いた道路斜面リスクマネジメントシステムを開発する。
●緊急対応に関する研究
  • さまざまな気象パターンに対応した土砂災害の警戒避難システムを開発する。
●事後対応に関する研究
  • 斜面崩壊・土石流の発生情報伝達技術を開発・高度化する。
●防災管理に関する研究
  • 土砂災害における復旧・復興過程の社会経済的要因および歴史的過程を歴史資料や実態調査によって解明する。

(2)地変災害

1 地震災害

●災害対策に関する研究
  • 輸送機関、医療機関、ライフライン施設、コンピュータ、危険物・有害物の取扱い施設等の被害を地震の早期警報に基づいて軽減する技術を開発・高度化する。
  • 避難期、救援期、復興期における人間・行政行動の事例や、木造建物の耐震性向上のための技術的・行政的問題点を踏まえ、防災を考慮したまちづくりの手法を提案し、早期修繕・応急対応と耐震設計の両者を考慮した事前災害対策を確立する。
●被害抑止に関する研究
  • 土木・建築構造物及び産業施設の振動特性及び破壊メカニズムを解明し、高性能構造システム、高品質材料を開発する。
  • 振動抑制技術、免震技術、耐震設計技術及び耐震点検技術を高度化するとともに、発展途上国や地域の伝統的工法の検討を組み込んだ耐震技術を開発する。
  • 既存構造物・施設の経年劣化状況の点検技術を高度化する。
  • 文化財の地震対策手法を開発する。
●緊急対応に関する研究
  • リモートセンシングによる被災状況把握、地震計等による即時的地震規模判定等、構造物・施設の早期被害推定技術を高度化し、これを用いた震災時意志決定支援システムを開発する。
●被害修復に関する研究
  • 被災した構造物・施設の応急の強度・性能回復技術や被災構造物の非破壊検査等による安全性評価技術を高度化する。
●事後対応に関する研究
  • 避難期、救援期、復興期における人間・行政行動を検討する。災害対応調査に基づいて、学校等重要施設の防災対応改善手法を開発する。
●ロジスティクスに関する研究
  • 行政と住民を双方向で結び、都市情報、地震発生源、地盤状況を含む多次元GISや、それを利用した震災緊急対応型リスクマネジメント支援システムを開発する。
●災害対応シミュレーション
  • 震災緊急対応型リスクマネジメント支援システムの基本要素として、阪神・淡路大震災等への対応過程を意志決定過程としてみた災害対応シミュレーションシステムを開発する。

2 地震時地盤災害

●被害抑止に関する研究
  • 軟弱地盤等の地盤改良技術や地表地震断層のずれに対する各種構造物及びライフラインの耐震・免震設計技術を高度化する。

3 津波災害

●被害抑止に関する研究
  • 海岸保全施設の耐波設計技術及び津波防護施設・津波避難ビル等の避難施設の構造設計技術を開発・高度化する。
●緊急対応に関する研究
  • 即時的な津波予測手法及び警報伝達手法を高度化する。
●事後対応に関する研究
  • 南海・東南海地震に伴う津波被害への対策を開発し、そのマニュアル化を進める。

(3)災害に強い社会づくり

1 都市火災

●災害対応シミュレーションに関する研究
  • 火災気流の危険評価手法を改良するとともに、都市における延焼遮断帯の配置手法、不燃・難燃建築設計技術、火災拡大防止技術を高度化し、避難性状の予測評価のための避難モデルを開発する。

2 都市災害

●災害対策に関する研究
  • 工業集積地区、臨海地区、高層ビル、大規模地下空間、大規模複合空間等における災害の拡大シナリオ分析と対策手法の開発・高度化等を進めることにより、避難経路、交通システムを含む都市計画、地域計画等の作成手法を高度化する。
  • 都市の電力流通設備の災害リスクと対策コストの軽減を両立させる設備計画の方法論をリスクマネジメント手法として開発する。
●緊急対応に関する研究
  • 都市域の多様な地下空間、地形、建物等を考慮した水害時の避難誘導のあり方を検討する。

3 災害全般

●災害対策に関する研究
  • 災害シミュレーション、災害管理システム、GISを活用した防災まちづくり支援システム構築、行政との連携による地域コミュニティ支援、自治防災の組織等の事前対策に関する研究を行う。
  • 水害に関する司法判断を踏まえた河川管理政策の調査等により、防災対策の合理的なレベル設定手法を開発する。
  • リスクをより反映した保険制度、防災対策の費用対効果を検証するとともに、防災対策の有効性を評価する手法を開発する。
  • リスクマネジメントの枠組みを構築する。その際、基本概念の確立、リスクの同定・解析・評価、対策の実行と検証、対話と協議を総合的に組み込む体系を構築するとともに、現実の災害課題への適用方策を明確化することにより、災害対策を真に有効なものとするプロセスとして構築する。
●被害抑止に関する研究
  • 社会・経済活動維持に必要なデータを地震時に確保・提供する技術、中枢管理機能等の保全・代替に関する技術、家屋の倒壊に対して人命を救う技術を高度化する。
  • 災害に強いまちづくり促進区域を設定し、防災性向上ガイドラインの作成を進める。
●緊急対応に関する研究
  • 災害情報を収集・提示するためのインテリジェントセンサ・ロボット技術、ヒューマンインタフェース技術、通信方法や性能評価の標準化技術、被災構造物・施設の被災度評価手法等の被災時緊急対応技術を開発する。
  • 倒壊家屋内の被災者の発見救助を支援し、緊急医療を効果的に実施するための資機材、広角視野救助用探索装置、音源方向に向くマイク及びカメラ、CO2(二酸化炭素)センサ、油圧式瓦礫除去装置、軽量高強度高機能レスキュー工具等、被災時緊急対応装置・機材を開発する。
  • 航空機、人工衛星等による夜間可視画像を用いた地震被害早期推定システム、携帯型情報端末、携帯電話のGPS機能など衛星測位情報を利用した被害情報早期収集システム、災害混乱時の避難誘導システム等の被災時緊急対応システムを開発する。
●事後対応に関する研究
  • ライフラインの被害検知・評価手法、地方公共団体職員の災害時対応能力の向上、社会・経済的被害の被害額換算手法、犠牲者の身元特定及び埋葬方法、瓦礫処理の最適化、有害物質の管理等、災害発生前に復旧復興戦略、復興計画を策定する過程で必要となる事項について研究を行う。
  • 震災後の仮設住宅における居住者の住み替えや震災住宅の補修、建て替え等における技術的・行政的課題を解明し、対策を検討する。
●ロジスティクスに関する研究
  • 災害状況把握、リスクマネジメント、住民の避難救護、応急復旧等への衛星測位技術、GIS活用技術を開発・高度化する。
  • 災害発生後に最低限復旧すべきライフライン、道路、橋梁の選定技術を開発・高度化する。
  • 効率的な資機材、人員等の配備・供給システムを開発・高度化する。
  • 固定系・移動系端末を統合した消防機関等の防災情報システム及び緊急時における効果的な情報伝達の技術を開発・高度化する。
  • 人命救助・救護システムを高度化するため、防災拠点において情報の集約・共有、後方支援的な施策を代行する総合的災害時意志決定支援システムを開発する。
  • 災害対応マニュアルを含む災害情報システムを開発・高度化するとともに、平常時の行政情報システムに組込む手法を開発する。
●防災教育に関する研究
  • 災害時要援護者対応、地震防災対策及び防災情報高度化のためのガイドラインを作成する。
  • 学校における防災教育及び防災文化・防災ボランティアの育成を加速化する手法を検討する。
  • 想定される災害の被害予測に基づく医療救護及び組織様式改善を意識した防災訓練方法を開発する。
  • 効果的な防災教育・訓練・広報・防災意識高揚のための被害想定作成・公表手法を開発する。
●災害対応シミュレーションに関する研究
  • 災害状況、避難経路、避難誘導、災害時要援護者保護を考慮した個人の避難行動シミュレーションモデルを開発する。
  • 防災計画に基づく災害対応機関の災害対応行動シミュレーションモデルを開発する。
  • 避難時における視覚情報の評価等、共通のインターフェースを持つ災害対応シミュレータ開発等に必要な要素の基礎研究を行う。

 ここに掲げられた重要研究開発課題は、「防災に関する研究開発基本計画」(平成5年12月)に沿った研究成果・進捗状況についての現状を把握する目的で行われた「防災分野の研究開発状況調査の中間とりまとめ」(平成14年9月)の結果の分析及び評価に基づいて、「防災に関する研究開発の推進方策について」(平成15年3月)で取りまとめられたものを見直したものである。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)