4.研究開発の推進に当たっての重要事項

 「2.研究開発の推進の基本的考え方」に従い、柔軟で効果的な研究開発活動を支える環境の整備を図るため、研究開発を進める際に特に留意すべき重要事項を以下のとおり定める。

4.1 推進体制

4.1.1 各組織の役割

(1)文部科学省の役割

 文部科学省は、航空科学技術行政を担う中心機関として、航空科学技術に関する研究開発について、根幹となる基本的な政策を企画及び立案する。それに基づき、時宜を捉え適切に研究開発のためのロードマップ(注)の作成・更新等を行い、関係諸機関に展開することにより、目標の共有化を図りながら研究開発を推進する。その際、時々刻々と変化する国内及び海外の航空を含めた科学技術全般の動向を定期的・継続的に把握・分析することが不可欠である。研究開発の推進に当たっては、JAXA(ジャクサ)における航空科学技術の研究開発を推進するために適切な予算の確保に努める。また、推進する研究開発については、適切に科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会航空科学技術委員会において評価を受ける。

(2)JAXA(ジャクサ)の役割

 JAXA(ジャクサ)は、我が国の航空科学技術に関する中核機関として、我が国の航空科学技術の水準の向上を図る役割が求められる。JAXA(ジャクサ)は独立行政法人として、研究成果を積極的に社会に還元し、社会が求める技術の実用化に向けた研究開発の推進を最重要視するとともに、次世代を切り拓くイノベーションにつながる基礎的・基盤的研究にも積極的に取り組む必要がある。JAXA(ジャクサ)は、これらの取り組みを、これまで培ってきた産業界、他の研究機関、大学とのネットワークを一層発展させ、産学官連携の中核としての先導的かつ橋渡し的な役割を担いながら進めていくことが重要である。そうした役割を通じて、JAXA(ジャクサ)は、産業界において解決が必要とされている技術課題を細分化し、大学で取り組むべき研究テーマへと展開する等、基礎研究から実機開発までを有機的につなぐオールジャパンの研究開発体制の構築に貢献していくことを期待する。

 JAXA(ジャクサ)は、産業界との連携においては、産業界の実施する研究開発への技術協力、研究開発成果の産業界への移転を促進する。大学との連携では、大学における研究活動がより魅力的で社会に役立つものとなるよう可能な限り積極的に支援を行っていく。また、産業界や大学では保有することが困難な高度大型試験研究設備の整備・維持運営、基盤技術データベースの構築を着実に実施する。さらに、航空機の型式証明審査等の国が行う各種審査や事故調査に技術の面から協力するという公的研究機関としてのJAXA(ジャクサ)の役割も重要であり、関係省庁との人事交流を含めた連携等も実施していく必要がある。

 なお、時代とともに航空に関する技術が飛躍的に高度化・複雑化しており、航空科学技術の裾野は非常に早いスピードで拡大していることから、JAXA(ジャクサ)は大学の航空分野以外の学科・研究室や異分野産業との連携・協力を一層深め、自らが行う研究開発に最新の科学技術を取り込むと同時に、自らが創出する航空科学技術を他分野へ提供し続けることが不可欠である。

 こうした役割を踏まえて、JAXA(ジャクサ)は、業務運営において、我が国の航空科学技術の持続的な発展のために必要な資源の配分に留意して進めていくことが必要である。

(3)大学への期待

 大学には、我が国の航空科学技術の基盤を培う役割が求められる。そのため、大学が、シーズの創出と人材育成という観点から、基礎データの蓄積、現象の解明、理論の体系化等の基礎研究分野を推進し、研究開発全般を支えるとともに、自由な発想に基づく多様な研究から革新的な航空科学技術を創造することを期待する。さらに、国立大学の法人化に見られるように、大学へは、社会への成果の還元が従来以上に求められるようになっている。こうした社会状況を見据えて、大学は産業界や研究機関と連携し、社会のニーズに即した実践的な研究開発についても積極的に取り組みながら成果の還元を行うとともに、優秀な人材を育成して航空分野へ供給することを強く求められている。

 また、大学では、自由な発想に基づく研究については、独自のアプローチを用いた独創的な研究活動が必須である側面があるが、今後の大学での研究、特に社会のニーズに応えていく実践的な研究においては、大学には学会及びJAXA(ジャクサ)等からの情報を通じて、目標を共通化・共有化し、一体となった活動を行っていくことを期待する。

4.1.2 関係機関の連携

 航空科学技術分野の研究開発を推進するためには、航空関係諸機関の連携・協力体制が不可欠であり、産学官が連携して相補的に研究開発を推進する。

 まず、航空分野の所掌が複数の官庁に分かれていることを踏まえ、関係省庁の連携を重視する。

 関係省庁には、航空の研究から開発、利用までを通じた一貫した連携が求められているが、現在、経済産業省において、国産小型旅客機・エンジン等を対象とした「民間航空機開発推進関係省庁協議会」が設けられ、取り組みを行っている。我が国の研究開発の方向性の明確化・共有化や効果的・効率的な推進のためにも、関係省庁が集結して我が国全体の航空のあり方について議論をする場が必要であり、今後さらにそのような場の充実へ向けた文部科学省としての取り組みが必要とされる。その中では、例えば、我が国全体としての将来の航空ビジョンの策定、将来の新たな航空利用を見据えた際に生じる総合的な課題への協調した対応等が進められることが望まれる。

 防衛分野は、航空技術の発達に大きな影響をもたらした分野の一つであり、民間分野と共通する技術が少なくない。防衛庁は多種多様な航空機を相当数保有しており、技術・経験の蓄積とともに研究開発施設や試験設備も充実している。民間分野の研究開発においても、これらの資源を考慮に入れ、有効に活用できる場合は積極的に連携を行い、活用していくことが望まれる。一方で、近年では、民間分野の著しい発展により、様々な分野の優れた民生技術が防衛分野に導入されるケースもある。現在、JAXA(ジャクサ)では、防衛庁との間で研究協力に関する取り組みを行っており、限られた国の研究資源を有効活用するためにも、こうした防衛関係の研究機関との交流も充実させる必要がある。

 また、研究機関、産業界、大学間の連携も重要であり、我が国の研究開発の促進には、産学官が連携して技術成熟度に応じ相補的に研究開発を推進していくことが欠かせない。近年、JAXA(ジャクサ)は、開発・製造分野だけでなく利用分野の産業界とも双方向の意思疎通を重視した取り組みを行っており、引き続き着実に連携を深めていくことを期待する。

 大学と産業界との連携においては、JAXA(ジャクサ)が大学と産業界の両者の技術課題を共有できる立場にあることから、大学と産業界との橋渡し役を果たすことが求められている。大学においても、学会等と連携し、産業界からの要望を確実に吸い上げ、円滑に対応する仕組みの構築に努めることが期待される。

 また、JAXA(ジャクサ)と大学の連携においては、JAXA(ジャクサ)が課題設定型の委託研究等を通じて大学が取り組むべき基礎研究の方向性を明らかにし、大学の成果を産業界につなげる支援をすることが望まれる。このような取り組みは、JAXA(ジャクサ)における業務の効率化の観点においても効果をもたらすものである。さらに、JAXA(ジャクサ)と大学は、こうした連携を通じて航空の魅力を積極的に社会に伝えることにより、次項の人材育成につなげていくことを期待する。

4.2 航空科学技術の振興

4.2.1 人材の育成・確保

 航空科学技術は、様々な基礎工学分野が集積しており、広範囲にわたる技術をシステムとして統合することが必要である。航空科学技術の研究開発の成果を社会に還元するとともに、広く科学技術を担う人材を輩出するためには、高い専門性を有する優秀な個別技術の研究者や技術者の育成と同時に、企画立案能力、計画推進能力や財務管理能力といった技術以外の面においても柔軟な対応ができる多角的な能力をもった人材を育成することが非常に重要である。

(1)JAXA(ジャクサ)における人材育成

 上記を踏まえ、JAXA(ジャクサ)では、引き続き大型プロジェクトを管理するプロジェクトマネージャの育成に力を入れた取り組みが重要である。その一環として、JAXA(ジャクサ)の人材を民間企業に派遣し、民間企業のプロジェクト管理手法等を学ばせるという取り組み等が有効と考えられる。また、JAXA(ジャクサ)は、内部での人材育成とのバランスをはかりつつ、人事交流や公募型採用による民間企業からの人材の導入を引き続き推進することも必要である。

 また、JAXA(ジャクサ)は国を代表する研究機関としてトップレベルの研究者を確保・育成し、研究開発活動を常にリードしていくことが求められており、そのためには、博士号取得者の採用・育成方法を十分検討し、人事システムとして確立する必要がある。

 さらに、JAXA(ジャクサ)は研究開発の連続的な発展を支える上で、研究者の技術の継承にも積極的に取り組むべきである。特に、いわゆる2007年問題(注)としてここ数年間で退職する研究者の技術の継承に対して早急な対策が必要である。

 また、JAXA(ジャクサ)には、研修生等としての学生の受け入れを積極的に実施し、保有する施設や設備を用いた研究開発に学生が積極的に関わることができる機会を提供することによって、人材の育成及び航空分野の魅力のアピールに貢献していくことを期待する。JAXA(ジャクサ)は航空分野だけでなく宇宙分野も含めた様々な技術や知見が蓄積しており、それを教育の場にも活用していくことで、より効果的に人材育成を促進していくことを期待する。

(2)大学における人材育成

 大学は教育機関として、我が国の航空科学技術を担う人材の育成の要となる。大学には、熟練した技術者の高齢化や若年層のものづくり離れといった問題が懸念されるなかで、意欲があり優秀な学生を確保することが強く求められる。それには、大学が航空分野は魅力のある分野であるというアピールを積極的かつ継続的に行っていく必要がある。

 また、確保した人材の効果的な育成も重要である。大学が、確実な基礎の上に広い視野と柔軟な思考力を培う教育を行うには、課題探求能力の育成を重視し、従来の学問領域に留まらず、幅広い学問分野との連携を積極的に行う特色のあるカリキュラムの構築や、実践との関わりから深く学ばせる教育方法の導入等が望まれる。その一環として、学生が産業や研究開発の現場に触れながら研究活動を行える環境を提供するために、大学がインターンシップ制度の構築・活用や産業界、研究機関との連携を強化する等の取り組みを積極的に行っていくことを期待する。

4.2.2 研究開発の説明責任と情報発信の強化及び国民意識の醸成

 国の資金が投入される研究開発にあっては、航空機産業、航空利用産業のみならず、本来の受益者たる国民の理解を得られるよう、航空科学技術を通じた社会貢献について国民に対して効果的にわかりやすく説明することが必要である。その際には、研究開発の成果だけでなく、その本来の意義や目的、成果の還元プロセス等についても積極的に伝えていく必要がある。

 こうした観点から、文部科学省、JAXA(ジャクサ)及び大学が、研究開発活動を出来る限り開示し、研究開発の意義・目的や成果について、多様な媒体を通じて広く国民に理解されやすい形で情報発信するとともに、国民と直接話し合う機会を増やす取り組みを行っていくことを期待する。

4.2.3 知的財産の積極的な獲得・権利保護・活用

 航空分野における国際競争力を強化するという視点から、独自性・新規性・進歩性を有する研究開発成果を生み出し、知的財産としてそうした成果の権利保護を図っていく取り組みが引き続き重要となっている。さらに、蓄積された知的財産は有効に活用されて大きく価値が出るものである。

 JAXA(ジャクサ)及び大学は、国内はもちろんのこと欧米への外国特許出願を積極的に行うことが重要であり、JAXA(ジャクサ)においてはその活動を支える外国特許のデータベースの構築を引き続き推進しながら、知的財産の活用を強化する体制の整備とともに、知的財産の管理・契約に伴う問題等に対応し、迅速かつ柔軟な実務運用を行うための取り組みを続けていくことが必要である。

4.3 国際協力等のあり方

 将来の航空機開発は、その事業規模の大きさから、効率的な研究開発を推進するために国際共同開発となることが予想される分野が多く存在する。このような状況の中で、我が国が世界の中での役割を拡大し、地位を向上させていくためには、JAXA(ジャクサ)及び大学は、開発段階のみならず、要素研究や基礎研究においても積極的に国際共同研究・開発を実施すべきである。一方で、上記知的財産の帰属の明確化に留意するとともに、互いの目的の整合性等に十分に注意し、我が国の自立性を確保することが重要である。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)