3.重点的に進めるべき研究開発

 「2.研究開発の推進の基本的考え方」に基づき、以下を文部科学省として重点的に進めるべき研究開発として設定する。

  1. 社会からの要請に応える研究開発
  2. 次世代を切り拓く先進技術の研究開発
  3. 航空科学技術を支える基盤の充実

 なお、「1.社会からの要請に応える研究開発」を積極的に推進する研究開発として位置付けつつ、第3期基本計画分野別推進戦略における戦略重点科学技術との整合性に十分配慮し、資源配分を行なう。

 また、1から3の研究開発においては、重点化すべき技術分野、その分野における研究開発の方向性及び期待される効果をプログラムとして明確化するとともに、そのプログラムにおいて取り組むべき具体的な研究開発課題の例を挙げた。これらのプログラム及び研究開発課題については、適時「2.研究開発の推進の基本的考え方」に沿うとともに、航空科学技術を取り巻く社会情勢を考慮し、明確な優先順位付けを行った上で資源の重点的配分を行うこととする。

3.1 社会からの要請に応える研究開発

 ここでは、社会のニーズに即した成果の還元を重視する。そのため、航空機市場の獲得を目指す我が国の航空機産業の動向を踏まえ、設計・製造の効率化、低コスト化、環境適合性の向上に資する航空科学技術の研究開発を推進するとともに、運航の安全性・利便性向上に寄与する等、今後5年間から7年間に研究開発の成果を実用につなげることを目指した研究開発を行う。重点化すべきプログラムは以下のとおりとする。

3.1.1 航空機及びエンジンの全機インテグレーション技術の獲得に貢献する研究開発

 旅客機・商用エンジンの要素技術においては、我が国の航空機産業は世界的に高い評価を得ているものの、それらの要素技術を一つのシステムに統合させるインテグレータとしての地位を確立するには至っていない。また、近年では、アジア諸国において航空機開発に取り組む動きが活発になっており、航空機産業を巡る国際競争は一層厳しさを増す状況にある。こうした中で、我が国の航空機産業が航空機・エンジンの全機インテグレーション技術を獲得するためには、競争力のある航空機・エンジンの高性能化・差別化技術が求められている。

 本プログラムにおいては、現在我が国で進められている航空機・エンジンの全機開発に対して、国が先導して高性能化・差別化に係る技術を開発して民間に技術移転することにより、国際競争力強化を図る。航空機については、平成23年度初飛行を目指して開発が進められており、競争力の向上のため設計・製造の低コスト化・高効率化や安全性、快適性、環境適合性の高度化等の技術が求められている。また、エンジンについては、平成19年度からの技術実証に向けて、低燃費、低騒音、低NOX(注)等、より環境に適合させていく技術が求められている。現在、これらの航空機・エンジンの全機開発に対し、JAXA(ジャクサ)において高性能化・差別化技術の研究開発に取り組んでいるところであり、引き続き推進する。

(研究開発課題の例)
 ○国産旅客機の高性能化・差別化技術
 ○国産商用エンジンの高性能化・差別化技術

 本プログラムの取り組みにより、我が国航空機産業がインテグレータとしての地位を確立し、我が国において、研究開発から、製品企画、設計・製造、型式証明(注)取得、運航、整備、廃棄に至る航空機のライフサイクルをカバーすることにより、航空機産業の基盤拡大に貢献するとともに継続的な国産航空機開発へとつながることが期待される。

3.1.2 安全・高効率運航技術の研究開発

 今後、航空機の運航数は着実に増加していくことが見込まれる中、さらなる事故率の低減や運航の効率化が求められており、そのための研究開発を積極的に進めていく必要がある。特に小型航空機の事故率は旅客機等の大型機と比べて高く、また、航空機の利用に当たっては、騒音問題等によって運航の自由度が制約される状況にある。さらに、現在、欧米では新しい利便性の高い交通システムの研究開発が進められており、将来の国際的な標準化の動きも見据えて我が国においてこのような取り組みを進めることが重要である。

 本プログラムにおいては、小型機を含む航空機の安全性の向上と利用拡大を目指し、事故低減のためのヒューマンファクター(注)等に関する研究開発や航空機を高精度かつ高密度に飛行させるための運航システムに関する研究開発等を行い、航空機の運航数の増大に対応するための技術を獲得していく。また、万一事故が起きた場合でも乗客を保護するための航空機の構造に関する研究開発等を行う。さらに、一層効率的な交通システムを目指して、騒音等の低減を図る技術を獲得していく。これらの研究開発は、それぞれ国土交通省や、エアライン等の利用機関等と適切に幅広い連携を行いながら、技術移転等を通じて製品や技術の実用化につなげていく。

(研究開発課題の例)
 ○全天候・高密度運航技術
 ○運航・構造安全技術
 ○回転翼機(注)技術(低騒音化技術)

 本プログラムの取り組みにより、安全性の向上と運航機数の増大を両立させ、航空機の事故率を低減するとともに、環境適合性の要求を満たしつつ利便性が高く高密度での運航を可能とする新しい航空輸送システムの構築につながることが期待される。

3.1.3 防災・減災に貢献する技術の研究開発

 近年、我が国が経験した大規模災害において、救難・救命活動を行う際に必要となる詳細な被災地情報の重要性がクローズアップされている。特に、夜間や視界不良時等有人機による被災地上空の飛行が困難なケースがあること、また、災害の全体像を把握する上では衛星による観測情報は有効であるものの、詳細な情報収集やきめ細かい対応が困難であること等、早期の対応が要求される災害発生直後の情報収集に対しては既存の観測システムだけでは不十分となっている。

 本プログラムにおいては、無人機に関する国際的な基準策定の動向を踏まえながら、災害発生時における迅速かつ詳細な観測・監視を可能にする無人航空機システムのコンセプトを立案し、必要な技術を開発するとともに、実運用に必要な安全性・運用性の向上に資する研究開発を行う。これらの研究開発は、研究機関、大学等で蓄積している無人機に関する技術を効果的に活用しながら、無人航空機システムの実現を目指していく。衛星による災害監視技術については、第3期基本計画分野別推進戦略の戦略重点科学技術として「災害監視衛星利用技術」が掲げられ、今後積極的に推進していくこととされており、衛星技術の開発と連携しながら、本研究開発を進めていく。

(研究開発課題の例)
 ○災害監視無人航空機システム技術

 本プログラムの取り組みにより、災害発生時に一層迅速な対応が可能となり、衛星及び有人航空機による監視と組み合わせることで、被害を最小限に防ぎ、安全・安心な社会の実現に寄与することが期待される。

3.2 次世代を切り拓く先進技術の研究開発

 ここでは、国力の源泉となる独創的な技術への挑戦を重視する。そのため、先行的な研究開発を実施することにより、社会に飛躍的な変革をもたらす航空輸送ブレークスルー技術の実現性を示すことを目標とする。先行的という点で、大学における自由な発想に基づく研究の成果も踏まえながら、長期的な観点から研究開発を着実に推進し、我が国の航空科学技術基盤を、国際競争力を有する強固なものにする。重点化すべきプログラムは以下のとおりとする。

3.2.1 次世代超音速機技術の研究開発

 次世代超音速機は長距離航空輸送の飛躍的な時間短縮によって社会に大きなインパクトを与えるものであり、米国・仏国をはじめ各国において、飛行実験を含む基礎研究・要素技術研究が継続されている。我が国でも平成17年に無推力小型超音速実験機での飛行実験により、空力設計技術に関する技術実証データを取得したところである。大型の次世代超音速旅客機開発計画は必ずしも明確ではないが、米国では、超音速ビジネスジェット機の開発計画が進められている。

 本プログラムにおいては、先の飛行実験で獲得した技術をさらに強力に展開し、将来可能性のある国際共同開発を視野に、超音速機の実現にネックとなっているソニックブーム(注)や騒音等の課題の解決を図るための研究開発を行い、次世代超音速機開発における世界的に優位な技術を獲得することを目指す。

(研究開発課題の例)
 ○静粛超音速研究機の研究開発

 本プログラムの取り組みにより、将来可能性のある超音速旅客機の国際共同開発を想定した場合に我が国の主体的参加を可能にするとともに、その技術の先進性・汎用性から超音速機に限らず我が国航空機産業の技術力強化に資するものと期待できる。

3.2.2 革新形態航空機技術の研究開発

 自動車や鉄道等の陸上交通と大規模空港を使った航空交通の組み合わせによる現在の輸送システムでは2地点間移動の時間短縮が限界に近づいていると考えられる中で、3.1.2で既述したとおり、将来的には利便性が高く高密度での運航が可能となる新しい航空輸送システムの実現が期待されている。こういったシステムでは、小型機の活用がシステムの飛躍的な発展、普及の鍵となることが予想されるため、既存の航空機ではない、将来的に個人所有を想定した革新的なコンセプトによる航空機の研究開発が必要である。一方で、環境問題や原油価格の高騰、石油資源の枯渇問題を解決可能な代替エネルギー手段による航空機の必要性が高まっている。

 本プログラムにおいては、将来の社会に大きく貢献すると期待される高い環境適合性と利便性を持った革新的なコンセプトの航空機を実現するために必要な高度環境適合性技術や垂直離着陸(VTOL)機(注)技術等の研究開発を行う。

(研究開発課題の例)
 ○航空機の脱化石燃料化技術の研究開発
 ○革新形態VTOL機技術の研究開発

 本プログラムの取り組みにより、環境問題や石油資源の枯渇問題を克服する航空輸送手段の実現や、自動車並みの利便性を有する航空機の実現に向けた前進が期待される。

3.2.3 極超音速機技術の研究開発と宇宙輸送への発展

 大気中をマッハ5(注)以上で飛行する極超音速機技術は航空と宇宙の両者にまたがる融合技術領域として、米国を中心として研究開発が継続されている。

 本プログラムにおいては、将来宇宙輸送システムの実現への貢献も視野に入れつつ、極超音速エンジン技術や機体要素技術等、航空機の飛躍的な高速化を実現する極超音速機技術の研究開発を行う。

(研究開発課題の例)
 ○極超音速機技術の研究開発

 本プログラムの取り組みにより、極超音速に関する基盤技術を蓄積するとともに、将来の航空機の超高速化の実現の見込みを探り、併せて将来宇宙輸送システム実現への展望を拓くことが期待される。

3.3 航空科学技術を支える基盤の充実

 ここでは、技術基盤の充実による研究開発の高度化を重視する。そのため、上記2つの研究開発(3.1及び3.2)を横断的に支援し、世界に誇れる成果を生み出す研究開発基盤を構築することを目標とする。重点化すべきプログラムは以下のとおりとする。

3.3.1 基盤技術の強化

 我が国は、数値流体力学(CFD)(注)等の数値シミュレーション技術、先進複合材(注)技術、高精度製造技術等の基盤的な技術を得意としており、航空機の国際共同開発においてコンポーネント(注)メーカとして確固たる地位を築いてきた。また、大型試験設備等を活用した試験・評価技術においても欧米とほぼ対等な技術レベルを保持しており、航空機開発の基盤を形成している。

 本プログラムにおいては、我が国が得意とする基盤技術をさらに発展させ、技術成熟度を高めていく。特に航空機の高性能化、設計の飛躍的な効率化に貢献する全機設計技術の確立を目指し、空力や構造等多くの分野を統合させた数値シミュレーション技術によるコンピュータ先進設計技術の研究開発を重点的に実施する。また、数値シミュレーション技術の実証に必須な高精度・高信頼な試験・評価技術の研究開発を強化するとともに、地上試験により実証された要素技術の成熟度を実用レベルまで高めるために必要な航空機による飛行環境での実証技術の向上を図る。さらに、我が国全体としての技術基盤の充実を図るため、基盤技術研究開発の成果のデータベース化を着実に進め、産業界へ積極的に技術移転する。

(研究開発課題の例)
 ○多分野統合解析・設計技術
 ○先進複合材等の材料技術
 ○高度試験・評価技術
 ○航空機による飛行環境での実証技術

 本プログラムの取り組みにより蓄積され高度化される技術、ノウハウを活用して、航空機を高性能化するとともに、開発を効率化し、我が国の航空機産業の国際競争力向上に貢献することが期待される。

3.3.2 高度大型試験研究設備の整備

 航空機開発には大型で高性能・高機能な試験研究設備が不可欠であるが、民間企業において独自にこれらの設備を整備することはリスクが高く困難な状況であり、国が責任を持ってこれらの設備を整備、維持運営していくことが大学や産業界から強く望まれている。

 本プログラムにおいては、現在から将来にわたる産業界等のニーズを考慮した大型・高性能試験研究設備の計画的な整備、既存設備の老朽化対策を行い、外部機関による設備共用を促進する。

(整備すべき高度大型試験研究設備の例)
 ○大型風洞試験設備
 ○大型計算機装置
 ○エンジン試験設備
 ○材料・構造試験設備
 ○飛行試験設備

 本プログラムの取り組みにより、航空機設計の信頼性と効率を向上させるとともに、設備の高機能化により多様な試験への対応を可能とすることで、我が国の航空機産業の国際競争力向上に貢献することが期待される。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)