第3章 文部科学省が推進すべき研究開発課題

 本章では、第2章に示された基本的な考え方に基づき、今後5年間で文部科学省が実施すべき地球環境科学技術の研究開発課題を、環境分野推進戦略において設定された研究領域毎に述べる。

3.1 気候変動研究領域

 地球温暖化への対応については、気候変動枠組条約の下、国際的・国内的取り組みを継続的に進めていくことが求められているが、特に温暖化に関する最新の科学的知見がレビューされる気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の国際的取り組みにおいて、我が国が果たすべき役割は大きく、地球温暖化とそれに伴う気候変化は地球環境分野の中でも特に緊急性の高い課題である。また、IPCCにおいては、2006年から第5次評価報告書の新シナリオ作成方針の提案のための作業が開始されているため、それに向けた貢献が求められている。さらに気候変動に関する地球観測については、「地球観測の推進戦略」に基づき関係府省・機関の連携体制を強化して進める必要がある。
 このような認識の下、本研究領域では、気候変動枠組条約の目標を見据え、人類や生態系に危機をもたらさないような大気中の温室効果ガス排出抑制の可能性を探求するための基礎的・基盤的取り組みとして地球温暖化の現象解明及び影響の予測・評価に係わる研究開発を推進するとともに、地域的な自然及び人文・社会的条件の下での変化や影響を予測・評価する研究開発を推進する必要がある。また、気候変動は、地球規模の水循環の変動をもたらすことにより、世界各地において、水資源、自然災害、生態系、食料生産、人の健康等、さまざまな社会問題をもたらすことから、気候変動に伴って起こる地球規模の水循環変動を把握し、リスク評価を行うことが求められる。さらに、地球温暖化抑制に関わる政策と持続可能な発展の政策との目標を整合させ、脱温暖化社会のビジョンを提示することを目指し、技術革新と経済社会システム変革の相互関係、途上国先進国間協力、抑制政策の経済影響など、社会の複雑な問題に対して政策科学的にアプローチする研究を推進するべきである。

【今後取り組むべき研究開発課題】

●統合された地球観測システムの構築への貢献
 地球環境問題の解決に不可欠な各種データを収集するため、衛星等による地球観測、海洋観測、極域観測を推進するとともに、「統合された地球観測システム」の構築に貢献する。すなわち、衛星、地上観測センサの開発、国際的な観測ネットワークの構築を推進するとともに、観測手法、観測データの標準化等を推進する。

●地球温暖化予測モデルの高度化による21世紀の気候変動予測
 人・自然・地球共生プロジェクトで開発された温暖化予測「日本モデル」ミッションの更なる拡充・精緻化を図るため、全球雲解像モデル開発、諸物理過程のパラメタリゼーション開発、各種観測データの同化技術開発等を促進し、それらを「日本モデル」(発展型)へ組み込むためのシステム構築を推進する。「日本モデル」(発展型)により100年オーダーでの温暖化予測実験を行い、IPCC第5次報告書作成(2013年予定)に貢献する。さらに、地域スケール程度までの詳細で信頼性の高い予測技術を開発し、国家安全保障、エネルギー施策、水・物質循環変動予測、生態系変動予測等への温暖化予測の利用・応用を推進する。また、今後25年程度の身近な未来におけるアジア・モンスーン、エルニーニョ等の大規模大気・海洋現象が台風、熱波、集中豪雨、高潮、豪雪等の極端現象と呼ばれる中・小規模大気現象の頻度や強度に及ぼす影響を解明し、予測するため、詳細な物理過程を含んだ高精度領域数値予測モデルを開発する。また、必要に応じて観測データによるモデルの検証及び改良を行う。

●陸域・海洋の気候変動応答プロセス解明
 温室効果ガス濃度増加による地球温暖化の直接影響は地表気温、雪氷融解、表層海水温、海水面上昇等に現れる。これらは陸域や海洋の炭素・水・物質循環に影響を及ぼし、陸域・海洋の生態系に変化をもたらす。生態系の変化はまた、温室効果ガスの自然吸収源の消長を引き起こし、温室効果ガス濃度の変化速度に影響する。このような気候変動フィードバックは、モデルによる気候変動予測の不確実性の大きな要因の一つとなっている。そこで、地球温暖化予測の大きな不確実性要因である、エアロゾル・雲、海洋中の渦、海氷等についてのパラメタリゼーションを厳密かつ詳細に行うため、各種の観測・モニタリング、室内実験等による現象の解明を進めるとともに、モデルの精度向上・改良を行う。また、地球温暖化による陸・海生態系への影響、及び森林伐採や植林等の植生改変による温室効果ガス収支への影響等を明らかにするため、生態系における観測、モニタリング、室内実験等を進め、パラメタリゼーション、モデルの改良・精度向上を行う。

●シナリオに基づく長期の気候変動予測
 気候安定化のような様々なシナリオの下、高度化した気候モデルを適用し、100年を超え数世紀から千年程度にわたる長期予測実験を行う。これにより、地上気温や海面水位に加え、海洋循環、極域氷床、陸域植生、炭素循環等、地球環境の諸要素の長期的な変化を研究する。各シナリオの下での気候システムの変化を明らかにし、長期の温暖化抑制策に資する。

●温暖化に関与する観測・予測データの統合化
 地球の状態についての監視の改善、地球プロセスの理解の増進、その振る舞いの予測精度の向上を目指し、包括的で調整された持続的な地球観測システムであるGEOSS(全球地球観測システム)の構築に寄与するため、高度な計算機シミュレーションと双方向に密接に連携しつつ、多種多様かつ大量のデータの統合処理及び利用者ニーズに対応したデータの高度処理が出来るシステムの開発及び運用を進める。また、統合化・高度化されたデータセットを国際的に共有できる体制の構築を目指す。

●過去の地球環境の変遷解明
 地球温暖化等の解決に資するため、過去の地球環境の変遷解明に向け、地球深部探査船による調査を引き続き推進する。深海底掘削や南極の氷床深層掘削によって得られたコアサンプル等を用いた古気候や古環境の解明等を進めるとともに、これらのデータによる地球温暖化予測モデルの検証を行う。

●観測とモデルを統合した地球規模水循環変動把握
 地球規模の水循環変動は、水資源管理、自然災害、生態系、食料生産、人の健康等に横断的に関わり、地球温暖化に伴う気候変動の社会的影響として深刻な問題となる懸念がある。そこで、衛星観測、気象・海洋観測、陸上調査等によるモニタリングデータと、数値モデルによる推定値とを統合・解析して地球規模の水循環の変動を把握するとともに、的確なリスクアセスメントを可能とする技術を開発する。

●脆弱な地域等での温暖化影響の観測
 雪氷域、高山域、半乾燥地域、沿岸域等気候変動とそれに伴う環境変動の影響が現れやすい脆弱な地域の環境及び生態系変化の継続的モニタリングや、過去の観測データの解析等を行い、温暖化影響の早期検出を可能とする体制を構築する。自然環境、社会経済に及ぼす気候変動リスクを評価するために、温暖化に対する脆弱性指標、温暖化影響が不可逆となる閾値等を明らかにする。

●気候変動現象とそのリスクの解明
 確率推計理論であるアンサンブル予測手法等を開発し、10年オーダーでの短期的な気候予測を精緻化することにより、複数の気候変動予測モデル・同化システムでの差異・不確実性を低減し、実用的な予測プロダクトの社会への応用に関する研究を行う。数年から25年程度の季節変動予測により、地域における防災、社会経済、農業、水循環、生態系等に及ぼす気候変動リスクの解明を進め、国民の安全のための施策、社会経済システムの研究等への利用・応用を図る。

●気候変動への対応策及び脱温暖化社会のビジョン研究
 長期排出シナリオ、高精度全球気候予測、高度影響評価、適応策、(安定化排出経路)、緩和策に関する研究を推進する。その成果を統合し、人文・社会科学と融合した総合的研究を行うことにより、地球社会に対する気候変動のリスクの予測とその低減の道筋を明らかにする。さらに、温暖化抑制に関わる政策と持続可能な発展の政策との目標を整合させた脱温暖化社会のビジョンを提示することを目標に、エネルギーの供給及び利用をはじめとする技術革新と経済社会システム変革の相互関係、途上国先進国間協力、政策の相互利益性、抑制政策の正負経済影響、第一約束期間後の気候政策等に関する研究を行う。

3.2 水・物質循環と流域圏研究領域

 20世紀における急速な都市への人口の集中、市街化の進展により、長い農耕社会が培ってきた水・物質循環は、その根底から変貌をとげ、河川平常時流量の減少、森林・農地などにおける水源涵養機能の減退、湧水の枯渇、都市型水害の多発、生物多様性の脆弱化が進展している。また、開発途上国を中心とする地域では、急激な人口増加や都市開発、産業発展、土地利用の改変などを背景として、水不足、水質汚染、洪水被害の増大などの水問題が深刻化しており、食糧難、伝染病の蔓延などが拡大している。
 このような水問題は国際的な緊張を高める大きな要因になりつつあると指摘されており、こうした事態は、少なくとも21世紀の半ばまでは悪化の一途をたどると予想されている。このような問題は流域の自然的、社会的個性に応じて発現するが、その原因として地域規模、地球規模の水循環変動の影響があることを考慮しなければならない。したがって、個々の流域での対策が必要であることは言うまでもないが、地域規模、地球規模の観測データや予測情報を流域規模の問題に積極的に利用していく研究開発の推進が不可欠である。
 アジア地域は、モンスーン気候と造山帯、水稲栽培を中心とした農業など、我が国と共通の水循環やそれに伴う物質輸送、社会的特徴を有する。地球規模の変動とアジア地域の変動、アジア地域の変動と流域の変動をそれぞれ関連づけて理解し、変動の予測精度を向上し、その結果を流域規模の問題に適用して問題を解決に導くことは、我が国にも影響が及ぶことを未然に防ぐとともに、当該地域における自立的な経済発展を促し、アジア各国への国際貢献にもつながる。従って、双方にとって良い波及効果をもたらすことに留意しつつ、適用地域の拡大を視野に入れた研究開発を推進することが望ましい。
 また、特に日本においては、人口減少に伴う市街地縮退の時代となり、今後の都市及び流域圏の動向の予測シナリオに基づき、持続的な環境を如何に回復し、創り出していくかが、大きな課題である。
 このような認識の下、本研究領域おいては、地球規模水循環変動により水資源供給に過不足が生じて人間社会が被る悪影響を回避、あるいは最小化するとともに、持続性のある社会を構築するために不可欠な水資源管理手法を確立するための基礎的・基盤的研究開発として、流域規模から地球規模の水循環変動の先進的な観測技術の開発、体系的な観測網の整備、現象解明、予測及び水資源管理に係わる研究開発を推進する必要がある。

【今後取り組むべき研究開発課題】

●地球・地域規模の流域圏観測と環境情報基盤
 国際協力によるアジア地域での地上観測網の整備、地球観測衛星データの効果的な利用、同化を含めた観測データと数値予測モデルとの結合による高度な情報の創出と、これらのデータや情報の統合的な利用により、水循環・気候変動メカニズムの理解を深め、健全な水循環の保全・再生等、実利用及び政策判断に有用な情報を提供し、地域規模の流域圏における気象予測技術や水循環予測技術の向上を図る。

●水・物質循環の長期変動と水災害リスク予測
 豪雨や洪水といった極端な水文・気象現象を含む水・物質循環シミュレーションモデルの開発、複数のシミュレーションの実施により不確実性をも推定する予測手法の開発、データ同化など観測値の適切な利用によりモデル初期値の精度を向上させる手法の開発などにより、水・物質循環シミュレーションの高精度化を行い、水・物質循環の長期変動や水災害リスクの定量的な推定を行う。

●健全な水・物質循環マネジメントシステム
 地球規模から流域規模に至る水・物質循環の自然的、社会的変動と、その相互作用のメカニズムを考慮し、利害関係者の合意形成を含めた流域圏のマネジメントシステムを開発し、問題解決型・実践型研究を行う。
 また、アジア地域において国際河川・海域の広域汚染が顕在化していることを受けて、そのモニタリング・予測・リスク評価を行い、国際河川・海域の環境管理システムの構築に向けたアジア各国との共同研究に取り組む。

●自然共生型流域圏・都市実現社会シナリオの設計
 地球規模の環境の保全と、経済発展を両立させる社会モデルとその移行シナリオを構築し、流域圏・都市における健全な水循環回復のための保全・再生・創出のシナリオ設計を行う。これを踏まえて、流域圏の特性に応じた実証的研究を行い、持続的・循環型社会の目標像としての自然共生型流域圏の実現に向けた研究を人文社会科学と共同して行う。
 特に、アジア地域における都市の成長管理政策と自然共生型流域圏形成の研究を連動させ、共同研究を行う。

3.3 生態系管理研究領域

 生物多様性を維持し、生態系を保全することは、持続可能な発展のために必須である。生態系は、食糧、工業材料、医薬品、エネルギー源や、炭素固定・環境浄化機能、更には観光資源など、多様な財、サービスを提供しうる。これらの財、サービスを有効、且つ持続的に利用していくためには、革新的な利用技術の研究開発と共に、地球規模から遺伝子レベルにわたる生態系のマルチスケール観測、環境変化と生態系の相互作用評価、変動予測に基づく順応的な管理技術の構築が必要である。
 このような認識の下、本研究領域においては、陸域-海域-大気の複合現象、短期-長期的な時空間変動をはじめ、水・土地・資源利用などの社会経済活動の影響を考慮し、特に、地球規模での生態系の観測・解析から共生や寄生などの生物間の相互作用や食物連鎖を含む生物地球化学的メカニズムをマルチスケールで解明するための研究開発を推進する必要がある。また、生態系がもたらす財、サービスは、持続可能な発展と安全・安心なものづくりの手段として21世紀におけるイノベーションの中核であり、これらの利用を高度化するための研究開発も行うべきである。

【今後取り組むべき研究開発課題】

●生物多様性観測・解析・評価
 衛星、調査船等により陸域及び海洋の生態系と生態系の生産機能に係わる物質循環の高精度観測を実施し、それらのデータを統合的に解析すると共に人間活動が及ぼす影響を評価する。また、複数の生態系の生物多様性に関するデータを併せて解析することにより、地域及び地球全域の生態系管理の基盤情報システムを構築する。この基盤情報システムにより、生態系の構造・機能解析技術や生物多様性の脆弱性評価手法を高度化する。

●水・土地・資源利用、気候変動、生態系の相互影響評価
 陸域及び海洋の生態系・炭素循環モデル、個体レベルに基づく植生変動モデル等を開発し、水・土地・資源利用及び気候変動に伴う生態系への影響と、生態系の水・土地・資源利用および気候変動への相互影響を評価・予測する。さらに、大規模閉鎖系プラットフォーム等を用いて、評価・予測の妥当性も検討する。

●生態系機能研究
 生態系のマクロスケールの熱塩循環と、生物群集のエコゲノム解析から得られる遺伝子発現・生理生態データ、ならびにミクロスケールでの物質循環データを統合し、マルチスケールでの生態系機能を解明する。

●生態系の高度利用技術の研究
 未だ十分に機能解明されていない微生物等、生物の環境適応性、効率性、安定性について解析し、魚介類の養殖をはじめとする生物生産の高度化研究や新たな有用遺伝子群の探索に結びつける。また、様々な環境耐性を有する生物の育種や共生・寄生などの生物間相互作用のメカニズムを把握し、生態系機能を使った新たな環境修復技術を開発する。

3.4 化学物質リスク・安全管理技術研究領域

 人間は大気・水・土壌といった環境媒体や農林水産物、家庭用品、水道水、室内空気などの様々な媒体を通して化学物質にさらされていることに加え、ナノテクノロジーなどの新技術によって生成される物質などによる新たなリスクの発生が危惧されており、有害化学物質の環境中への拡散によるリスクに対する内外の関心は、近年ますます高まっている。将来の世代が健やかな暮らしと豊かな環境を享受できる、いわゆる健全な循環型社会を形成していくうえで、化学物質のリスクの評価及び管理に関する研究開発に期待される役割は大きい。
 特に次世代への影響が懸念される内分泌かく乱化学物質、国際的な規制が強化されたPOPsやPRTR法によりデータの届出が義務化された対象化学物質については、環境における蓄積の実態・暴露量の評価、その除去方法の開発、無害化への技術開発等、緊急の対応が必要である。
 また、国際的な物流による移動、環境媒体による地球規模移動、急速な経済発展に伴うリスクの増大などの問題から、リスクの受容レベル、規制対効果、費用対効果などのリスク管理、あるいは一般市民とのリスクコミュニケーションに関わる人文社会科学的アプローチの強化も必要である。
 このような認識の下、本研究領域では、リスク管理の必要性・緊急性が高いと予想される化学物質を認識しつつ、「安全・安心」を確保するため、化学物質総合管理の技術基盤、知識体系並びに知的基盤の構築に資する基礎的・基盤的研究開発を推進する必要がある。

【今後取り組むべき研究開発課題】

●有害性・曝露評価と環境アーカイブ・モニタリングシステム研究
 有害性・曝露評価の対象となる化学物質の種類、組み合わせは膨大であるため、その有害性・曝露評価を着実に進展させることが望まれている。そのために生命科学や環境科学の知見を生かした迅速な評価システムを検討する。加えて、将来、新たな事実が判明した際に参照可能とする環境アーカイブシステム(環境試資料を経時的に保存するシステム)と環境動態モニタリング研究を推進する。

●化学物質のリスク評価管理・対策技術
 化学物質の安全な管理のためには、着実なリスク評価に基づくリスク管理を行う必要がある。すなわち、多様な産業などからの有害化学物質の排出削減と化学物質管理、環境リスク低減のための手法の策定や規準の設定等に対して、化学物質のリスク評価と管理、無害化に関する技術を開発するとともに、リスク管理に関して価値観の共有につながるようなリスクコミュニケーション手法を含む合意形成のあり方などの問題に対して、広く人文社会科学的な見地から問題の解決に取り組む。

3.5 3R技術研究領域

 人口の増大や経済社会活動の拡大に伴い、世界的に資源需要が急増し、それに伴って廃棄物の排出量が増加するとともに、種類も多様化しつつある。さらに、資源循環に関わる製品や技術などの国際流通も活発化しており、この面での国家間の相互依存性が高まっている。今後は省資源化、廃棄物の抑制、製品の再利用および再資源化、未利用資源の効率的利用など、将来にわたる生存基盤となる環境の保全と、経済・社会の成長との両立を実現する持続型経済社会システムへの転換のための取り組みが必要である。
 持続型経済社会の構築のためには、部分的なシステム・プロセスを統合し、全体システムとして機能させるシステム設計技術が重要である。このため、特定の規模・課題を切り口にして、全体システムを持続可能にするための基礎技術を見出すとともに、見出された個々の技術を構造化・体系化していくことが必要である。加えて、基盤となる個別要素技術の開発と評価、全体システムの構成と持続性を指標とした評価が不可欠である。
 このような認識の下、本研究領域では、3Rに係わる設計・建設・生産技術等をはじめ、環境負荷・エネルギー・コスト等の削減を推進するための基盤となる要素技術の開発、評価手法や導入促進技術・システムの開発等といった持続型経済社会システムの構築に資する基礎的・基盤的研究開発を推進する必要がある。

【今後取り組むべき研究開発課題】

●資源循環型の生産・消費・回収利用システムの設計・評価・支援技術と社会システム開発
 地域特性に適合した廃棄物処理・3Rを可能とする社会システム、技術の具体的な将来像の設計・提案とともに、資源生産性の高い持続的経済社会の実現に向けた研究開発を行う。特に地域毎の生成量、物流、リサイクル品需要等を考慮した循環システム、それに最適な製品の設計・生産など、経済活動の上流段階で3Rをあらかじめ生産システムに組み入れるため、製品等の環境配慮設計技術、リユース性向上のための設計・生産技術等の開発を行う。

●有用性・有害性からみた循環資源のライフサイクル管理技術
 有用性と有害性の両側面の視野において、再生品を含む製品についての総合的な含有成分の試験法やその情報管理技術に関する研究を行い、規格策定を支援する研究を推進する。この取り組みは、製品のライフサイクル全体を視野に入れる必要があり、再生資源の国境を越えた移動の現状を念頭におけば、アジア地域との協働作業とすることで、有用性と有害性についての共通の判断軸の認知に繋げることが可能となる。

●リサイクル・廃棄物適正処理処分技術の開発
 地球温暖化をはじめとする他の重要施策への対策と両立可能な循環資源の有効利用、廃棄物の適正処理・処分のための要素技術の開発を行う。特にカーボンニュートラルな再生利用資源であるにもかかわらず、現状では未利用となっている資源の活用技術として、発酵技術、ガス化技術、油化技術などの要素技術を、カスケード性を意識して高度化する。得られた再生資源の利用を地域特性に応じて社会システム設計し、その過程で発生する残渣の管理技術を開発する。

3.6 バイオマス利活用研究領域

 人類は、経済的な豊かさと便利さを手に入れ、発展する過程において、その生活基盤の大部分を将来の枯渇が予想される石炭や石油などの化石資源に依存するようになってきた。
 これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄の社会システムは、自然の浄化能力を超え、地球温暖化、廃棄物・有害物質の発生等の様々な問題を深刻化させている。バイオマスは、地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを使って、無機物である水と二酸化炭素から、生物が光合成によって生成した有機物であり、量が豊富で持続的に供給可能な資源である。バイオマスエネルギーは大気中の二酸化炭素濃度を増加させずかつ再生可能であることから、エネルギー起源二酸化炭素の排出量を削減するために非常に有効であり、これらを積極的に利用していくことが重要である。
 このような認識の下、本研究領域では、バイオマスをエネルギーとして、また素材として利用するための基礎的・基盤的研究開発を行う必要がある。

【今後取り組むべき研究開発課題】

●バイオマス利活用システム研究
 地域に根ざしたバイオマス利活用の更なる推進のために、ライフサイクルを意識した物質循環、地域特性等を踏まえた原料確保から残渣の処理までのトータルシステムコストの低減、社会科学的な検討など、社会システム的な研究開発を行い、経済的に成立するための要件を研究するとともに、地域の活性化に貢献することを検討する。また、バイオマス利活用にあたり、地域環境に対する影響・安全性の評価を行う手法を構築する。

●バイオマス高度利用基盤技術
 大気中の二酸化炭素濃度を増加させず、かつ豊富で再生可能エネルギー・資源としてのバイオマスの大規模利用を目指すために、多様な組成のバイオマスを、低コスト、低環境負荷で燃料や高付加価値な化学物質に変換する技術や電力へ高効率に転換する技術等の開発を行う。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)