3.重点領域

 ここでは、総合科学技術会議の「分野別推進戦略」等の総合的な戦略、及び2章で述べた視点、考え方を踏まえ、また、科学技術・学術審議会等における各政策テーマからのニーズ(産学連携、人材養成等)を反映し、文部科学省として重点的に研究開発を進めるべき領域ごとに、技術概要、当面の推進方策をまとめる。
 また、研究開発の実施にあたっては産学官の連携によって研究開発を一体として進めること等により、情報科学技術の担い手を質・量ともに充実させるとともに、産業界のニーズに適応した高度IT人材や新興・融合領域研究の促進に寄与する人材の養成・確保の視点を重視して推進するものとする。
 情報科学技術分野は、デバイス、ハードウェアからシステム、ソフトウェア技術に至るまで、また基礎基盤的な研究から他分野を含む多様な分野での応用を目指した研究開発までと、その研究開発領域は多岐にわたる。以下では、現状で重要と考えられる領域を網羅するように努めたが、例えばライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料分野を中心に融合分野の重要性が高まる等、今後の動向に留意し、最新の情勢にあうよう不断の見直しが不可欠であることを付記する。

3.1 継続的なイノベーションを具現化するための科学技術の研究開発基盤の実現

【概要】

 理論、実験と並び、現代の科学技術の方法として確固たる地位を築きつつあるスーパーコンピューティング(シミュレーション(数値計算)や高度なデータマイニング等)において、今後とも我が国が世界をリードし、科学技術や産業の発展を牽引し続けるために、最先端・高性能の汎用京速(京速=10ペタフロップス)計算機システムの開発・整備、スーパーコンピュータを最大限利活用するためのアルゴリズムやモデリングの研究やOS、ミドルウェアを含む各種ソフトウェア等の開発・普及、及び世界最高水準のスーパーコンピューティング研究教育拠点の形成を行い、研究水準向上と世界をリードする創造的人材の育成を総合的に推進する。
 このため、現在、数多くの研究機関に分散している「知」を効率的に結合並びに融合させることのできる、広範な最先端の情報通信技術によって支えられる最先端学術情報基盤(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ)の実現に必要な次に掲げる技術を確立するとともに、このような環境を使いこなす高度な技術者・研究者の育成を推進する。

(1)科学技術を牽引する世界最高水準の次世代スーパーコンピュータの開発利用

【技術概要】

 世界最高水準の性能を達成する次世代スーパーコンピュータの実現のために必要となる研究開発とその整備及び利用技術の研究開発・普及。
 将来のスーパーコンピュータに必要な既存技術の限界突破のための研究開発。
 次世代スーパーコンピュータを頂点として重畳に展開する各計算機が学術情報ネットワーク(スーパーSINET/SINET)上で我が国の計算資源全体として最大限有効に利活用されるための高速グリッドコンピューティング環境の構築に関わる技術。その他IT利用による研究基盤の整備に関わる技術。
 次世代スーパーコンピュータの性能を十分に発揮させ、科学技術の新しい領域を切り拓く系全体を対象としたシミュレーション等の実現に必要な技術。最先端の計算科学技術・計算機科学技術を産業界等の設計・研究開発活動において駆使できる技術や人材の育成。

【当面の推進方策】

 ○ハードウェア関連

  • 次世代スーパーコンピュータの実現のためのアーキテクチャの決定に向けた調査研究
  • ハードウェアの研究開発及び異機種間接続超高速インターコネクションの研究開発
  • システムソフトウェア、異機種統合ソフトウェアの研究開発
  • 超高速LSI、インタフェース、超高密度実装・冷却、高速大容量メモリ等の研究開発
    (以上を「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)
  • システムインターコネクト技術
  • 内部結合網IP化による実行効率最適化技術
  • 低電力高速デバイス・回路技術・論理技術
  • CPU・メモリ間光配線技術
    (以上を次世代IT基盤構築のための研究開発「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発」において実施)

 ○ソフトウェア関連

  • 次世代スーパーコンピュータを含むグリッド技術を活用した数十ペタフロップス級の仮想計算環境の構築に関わる技術開発
  • グリッド技術を適用した新しい研究手法に関わる技術開発
  • グリッド技術における高速ネットワーク、大規模分散データベース処理、大規模な実験装置や観測装置からの出力データの実時間処理・可視化、データグリッドなどに関わる技術開発
  • 大規模な科学技術計算が可能な高速コンピュータの高性能化、情報科学技術とライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料等他分野との融合等に関する技術開発
  • 高速・高度な計算機資源やアプリケーションを中心に共有化を行うコンピューティンググリッド技術
  • 企業等の利用を考慮した高度セキュリティシステムを含むネットワーク環境の連携を可能とする技術開発
  • ネットワークを意識せずに柔軟な仮想資源の構築を実現するための技術開発
  • 実運用中のグリッド資産を継承するとともに新たなグリッドアプリケーションの創生を醸成するためのグリッドミドルウェア利活用に関する技術開発
  • 次世代ナノ材料(新半導体材料等)の創出などの実現を目指した電子・原子・分子から、ナノスケールの分子複合デバイスに至るまで、ナノ材料の丸ごと解析を実現する研究開発
  • テーラーメイド医療や創薬などの実現を目指したマルチスケール人体シミュレーション解析を実現する研究開発
  • 可視化を含む大規模データの処理及び解析を可能にする技術開発
    (以上を「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)
  • 先端的な科学技術の各分野における技術革新の実現を目的とした、計算機資源のネットワーク上での共用化に関する技術開発と利活用(理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、防災科学技術研究所、日本原子力研究開発機構、物質・材料研究機構及び関連機関において実施)
  • 科学技術基本計画の重点推進4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)、推進4分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア)における最先端の計算科学技術を駆使する先導的な科学技術用アプリケーションソフトウェアに関わる研究開発
  • 世界最高水準の産業応用を視野に入れた実用的な科学技術用アプリケーションソフトウェア(ライフサイエンス分野、ナノテクノロジー・材料分野、ものづくり分野、環境分野)の研究開発(次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」において実施)
  • マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業により実施)
  • 次世代スーパーコンピュータをはじめとする大規模計算機から机上の小規模計算機まで多種多様な計算機上での計算規模や計算機アーキテクチャに合わせたシミュレーションを統合・管理する技術の開発

 ○人材育成関連

  • 高度な計算科学技術・計算機科学技術分野において、計算機アーキテクチャ・OSやミドルウェア・アプリケーション及びそのアルゴリズム、などを総合的に理解・適用することができる人材の育成

(2)計算科学技術

【技術概要】

 分子・原子の運動や構造、気象、環境等、生物学的、理工学的課題のシミュレーション等を行う計算科学に関わる技術。計算科学技術理論(離散化、アルゴリズム等)の研究、計算科学技術の産業応用ソフトウェアの開発、複雑・大規模な応用ソフトウェア開発方法、統合シミュレーション技術(マルチスケール、マルチフィジックス)、並列処理技術、計算科学に関わる大規模データ処理技術、可視化技術、3次元モデリング技術、計算結果の検証。

【当面の推進方策】

  • 科学技術基本計画の重点推進4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)、推進4分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア)における最先端の計算科学技術を駆使する先導的な科学技術用アプリケーションソフトウェアに関わる研究開発(再掲)
  • 世界最高水準の産業応用を視野に入れた実用的な科学技術用アプリケーションソフトウェア(ライフサイエンス分野、ナノテクノロジー・材料分野、ものづくり分野、環境分野)の研究開発(次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」において実施)(再掲)
  • 次世代ナノ材料(新半導体材料等)の創出などの実現を目指した電子・原子・分子から、ナノスケールの分子複合デバイスに至るまで、ナノ材料の丸ごと解析を実現する研究開発(「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)(再掲)
  • テーラーメイド医療や創薬などの実現を目指したマルチスケール人体シミュレーション解析を実現する研究開発(「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)(再掲)
  • マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業により実施)(再掲)
  • 可視化を含む大規模データの処理及び解析を可能にする技術開発(「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)(再掲)
  • データベースと融合したスーパーコンピューティングの実現に必要な高度計算科学技術の開発
  • 自然現象や工学システム、社会ネットワーク等に現れる様々な複雑現象を対象にした地球シミュレータを用いたシミュレーション技術の進展に関わる研究開発(海洋研究開発機構において実施)
  • 外部形状だけでなく「もの」の詳細な内部情報に立脚した次世代の設計法とそれを活用したものづくり産業のためのシミュレーション技術の研究開発と普及の推進(理化学研究所において実施)
  • 確率的現象のシミュレーションや予測不可能性、操作の安全性の実現に必要な乱数(擬似乱数、物理乱数)の高度化に関する研究開発(統計数理研究所において実施)

(3)研究開発を支える最先端学術情報基盤の整備

【技術概要】

 超高速ネットワーク上に研究者が連携し合い、研究活動の高度化・効率化、社会や産業界に対してのソリューションと競争力をもたらす最先端学術情報基盤の整備。

【当面の推進方策】

  • 最先端学術情報基盤の中核としての学術情報ネットワーク(スーパーSINET/SINET)の整備充実及び情報セキュリティ確保のための全国共同電子認証基盤の構築(国立情報学研究所、大学において実施)

(4)科学技術データベースの整備等研究情報流通基盤の整備

【技術概要】

 科学技術に関する論文、研究者、研究内容、研究機関、研究成果等に関連する情報のデータベース化、学協会が発行する雑誌等の電子化等、研究開発活動の基盤整備に必要な技術。情報蓄積・検索システムの高度化、データマイニング、高速ネットワーク等、研究情報流通基盤の整備に関わる技術。

【当面の推進方策】

  • 文献情報、研究者・研究課題・研究機関・研究資源情報、研究成果情報等の基盤的なデータベースの整備、失敗知識データベース、バイオインフォマティクス等戦略的に重要なデータベース、ツール等の整備、および科学技術ポータルによるそれらの総合的な提供(科学技術振興機構において実施)
  • 学術データベースの作成等(国立情報学研究所、大学等において実施)
  • 学術コンテンツポータルシステムの提供及び拡充(国立情報学研究所において実施)
  • 機関リポジトリの推進(国立情報学研究所、大学において実施)
  • 貴重図書等の電子化の推進及び研究環境の整備に資するための海外電子ジャーナル等の導入、及びそれらを安定的に導入するために必要なシステムの整備(国立情報学研究所、大学において実施)
  • 国際的に高い評価を受けている日本発の学術雑誌等に重点化した電子出版化の支援(SPARC/JAPAN)及びその一環としての科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)の充実、特に重要な学会誌について過去の紙媒体に遡っての電子化(国立情報学研究所、科学技術振興機構において実施)
  • 論文情報と特許情報の統合検索に必要な辞書等の整備(科学技術振興機構において実施)

3.2 産業の持続的な発展の実現に資する革新的ITの実現

【概要】

 「IT新改革戦略」においても述べられているように、ITは既にほとんどすべての産業分野における活動の持続的な発展と競争力の向上に必須なものであり、IT要素技術の研究開発の促進及びその展開に責任を持つ人材の持続的な育成を行うとともに、持続性を持つための戦略的な施策体系と運用体制を整備することが必要である。
 さらに、我が国が今後も持続的な発展を継続するために必要な最先端の機器及びシステムを生み出す要素技術への持続的な投資が必須である。そして、これらの投資は国力の源泉を生み出すための投資でもある。
 産業発展の礎となる科学技術開発を形成するために、以下の情報科学技術の研究開発を推進する。

(1)経済活性化、国際競争力強化に資するソフトウェアの開発技術

【技術概要】

 新たな市場創出と高い経済活性化に寄与し、我が国の国際競争力の強化をもたらす高い生産性を持つ高信頼ソフトウェア作成技術や情報の高信頼蓄積・検索技術等の基盤ソフトウェアの開発。

【当面の推進方策】

  • 過去のソフトウェア開発状況に関する定量データを収集・分析し、高信頼ソフトウェアの開発にフィードバックする技術
  • 高信頼Webアプリケーションの自動生成技術
  • 全世界の膨大なWeb情報の中から最新のものを自動的に収集・検索する技術
  • 型理論に基づくプログラミング言語の高信頼化技術と、複数言語にまたがるソフトウェアの静的解析技術
  • C系言語の安全なコード生成技術と、静的型付アセンブリ言語による高信頼OS開発技術
  • 記憶容量や計算速度等の制約が大きい場合でも、その制約にあわせて組込みソフトウェアを自動生成する技術
  • 自己管理を可能とするストレージ、個々のWeb情報の関連性と時系列変化を解析する技術
  • 街中等、雑音がある現実的な状況で、人間の言葉だけをコンピュータに識別・理解させる技術
  • 体系的に高信頼で操作性の高い構造化文書の作成、変換技術(以上を「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」において実施)
  • 実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブルオペレーティングシステムに関する研究開発(科学技術振興機構の公募事業において実施)
  • ソフトウェア構築状況の可視化技術の研究開発
  • 情報爆発現象に対処可能な超高性能データベースエンジンの研究開発

(2)高機能・低消費電力デバイス

【技術概要】

 高速・高信頼情報通信システム社会を支える、ハードディスク、メモリ等のデバイスを低消費電力で高機能・高性能化する技術、及びそれらデバイスを組み合わせて高性能携帯情報端末等を実現する技術。

【当面の推進方策】

  • 超高速コンピューティングのための大容量・高性能ストレージ基盤技術の開発
  • 半導体集積回路の速度・消費電力の限界を克服する超高速・多機能スピンデバイス基盤技術の開発
  • 体積当たりの実装密度を飛躍的に向上させ、複数の機能を集積したワイヤレス端末等の三次元実装高機能モジュールの構築に関する技術開発
  • 「柔らかいエレクトロニクス」を実現するための分野横断的・融合的な基盤科学技術
  • 動的再構成可能なデバイスを活かすためのハードとソフトが協働して多様な環境に適応するシステム設計原理の研究開発
  • 情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において実施)

(3)システムLSI

【技術概要】

 多様な機能を持つ情報システムを一つのLSIに組み込む技術。システムLSI自動設計技術(高位レベル設計、レイアウト設計)、複雑化する設計の加速化のために既設計回路モジュール再利用することで設計効率を上げる設計技術、通信・画像・モバイル・AV・PCの各分野のLSI設計、再構成可能デバイスを用いた設計等に関わる技術。

【当面の推進方策】

  • 体積当たりの実装密度を飛躍的に向上させ、複数の機能を集積したワイヤレス端末等の三次元実装高機能モジュールの構築に関する技術開発(再掲)

(4)量子工学技術等次世代情報通信技術

【技術概要】

 量子レベルでの制御技術により新しい原理に基づくコンピュータを実現する量子コンピュータ、その他の次世代デバイスに代表される、次世代の情報通信技術。量子工学技術、次世代デバイス、ネットワークコンピューティング、高度放送システムに関わる技術。

【当面の推進方策】

  • 半導体集積回路の速度・消費電力の限界を克服する超高速・多機能スピンデバイス基盤技術の開発(再掲)
  • 光技術等を活用した次世代の高機能デバイスに関わる技術開発

(5)ITを用いたものづくりの高度化を実現するデジタルエンジニアリングシステムの開発

【技術概要】

 知的創造活動である設計・生産活動において、加速度的に増大し続ける情報を高効率に分析・処理・蓄積・検索することで設計者の意思決定を支援するため、過去の経験等により得られた膨大な知識を構造化するためのシステム基盤を実現する技術。

【当面の推進方策】

  • 過去の経験やシミュレーションの実行により得られる膨大な情報をマネジメントし、高効率に蓄積するソフトウェアの開発
  • 得られた情報の信頼性評価・最適化判断を行い、設計者の意思決定を支援するソフトウェアの開発
  • 情報の一元管理を可能とする製品統合モデルを分野に応じて柔軟に構築するプラットフォームの開発
  • 次世代スーパーコンピュータをはじめとする大規模計算機から机上の小規模計算機まで多種多様な計算機上での計算規模や計算機アーキテクチャに合わせたシミュレーションを統合・管理する技術の開発(再掲)

(6)ナノテクノロジー・材料分野との融合新興分野

【技術概要】

 ソフトナノおよびハードナノ等、ナノスケールの物質系の原子・分子から出発したまるごとシミュレーションの実現、計算科学によるナノ材料設計技術の確立。光合成、燃料電池、スーパーキャパシタなど太陽エネルギーの固定、有効利用、貯蔵など次世代エネルギーに関わるナノプロセスの理論と計算技術。癌やウイルス性疾患など難病のナノ分子レベル(蛋白質、DNA、生体膜等)における原因究明と治療技術など次世代ナノ生体物質に関わるプロセスの理論的方法論と計算技術。ナノワイヤーや量子ドットなど次世代ナノ情報材料の創出に関わる理論と計算技術。
 また、これらナノテクノロジー・材料分野に関わる計算科学技術の基礎となる量子化学、分子動力学法、溶液の統計力学、および固体電子論、さらには、それらを多様な方法で組み合わせた複合的方法論の開発。自己組織化、機能発現の計算科学。

【当面の推進方策】

  • 次世代ナノ材料(新半導体材料等)の創出などの実現を目指した電子・原子・分子から、ナノスケールの分子複合デバイスに至るまで、ナノ材料の丸ごと解析を実現する研究開発(「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)(再掲)
  • ナノ現象・加工等融合領域に関わる技術開発

(7)ライフサイエンス分野との融合新興分野

【技術概要】

 遺伝子情報、タンパク質及びその相互作用、遺伝子転写物、代謝物等を対象とした網羅的解析が生産する膨大なデータを統合し理解するための技術。また、網羅的な情報をもとに計算機上に生物を再構築してシミュレーションすることにより、生命現象を全体として理解するための技術。ゲノムレベル(高速検索技術、プロファイリング技術、ゲノム情報データベース化等)、分子レベル(生体高分子の大規模分子動力学シミュレーション、三次元構造の直接比較検索技法等)、細胞レベル(細胞内の代謝・情報伝達ネットワークの構築、桁違いの反応速度が混在する系を安定にシミュレーションする技術等)、さらに器官・個体レベル(生体のような柔軟な物体や化学反応を流体と一緒に取り扱う連成シミュレーション技法等)の4レベルの技術。
 また、遠隔治療、循環器系臨床応用、医療画像診断、ミクロ生体機能解析、器官の損傷・治療解析、人体の3次元モデリング等、メディカルインフォマティクスに関わる技術。上記の基盤となる、生命情報の統合的なデータベース整備のための技術。
 さらに、脳情報技術の基盤となる非侵襲型の計測技術。失われた身体機能の補完などにつながる脳神経と情報とのインタフェース技術の開発。脳・機械インタフェースの基盤となる、ITやナノテクノロジーとの融合領域。分子レベルから行動レベルまでの脳の統合的理解の基盤となるニューロインフォマティクス技術。脳をモデルとした脳型情報処理技術。

【当面の推進方策】

  • テーラーメイド医療や創薬などの実現を目指したマルチスケール人体シミュレーション解析を実現する研究開発(「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」において実施)(再掲)
  • バイオインフォマティクスに関わる技術開発(科学技術振興機構、国立遺伝学研究所において実施)
  • 遺伝子情報から表現型に至る様々な階層における情報を統合するためのデータベース統合化技術(理化学研究所において実施)
  • 流体、固体、運動を統合した人体全体の生体力学シミュレーション技術(理化学研究所において実施)
  • 対象とする組織の機能を定量的かつ高精度にイメージングすることができるPET等の先端的生体計測技術の研究、複数の画像化手法の融合等に関する研究開発(放射線医学総合研究所において実施)
  • 機関やプロジェクトの枠を越えた統合的なデータベース整備のためのデータベースの標準化技術等に関わる技術開発(「統合データベースプロジェクト」において実施)
  • 脳情報技術の基盤となる非侵襲型の計測技術。脳をモデルとした脳型情報処理技術の開発。失われた身体機能の補完などにつながる脳神経と情報とのインタフェース技術の開発。脳・機械インタフェースの基盤となる、ITやナノテクノロジーとの融合領域。国際的に進められているニューロインフォマティクス技術の開発と、我が国発の基盤技術の国際標準化。さらにこれを用いた各プラットフォームの整備(理化学研究所において実施)

(8)その他分野との連携の下で行う高度な情報通信技術

【技術概要】

 高度ITS、GIS、測位、通信に関わる宇宙開発等他分野への高度情報科学技術の応用、また他分野技術による情報科学分野のインフラ整備、様々な分野において利用されるデータベースを統合するための基盤技術等、他分野と情報科学分野で連携して取り組むべき技術。その他、環境、防災、ロボティクス、社会基盤・情報提供インフラ(電子政府・電子入札等、学校ネットワーク環境の向上(在宅学習を含む)、Eビジネス・サービス基盤、モバイルサービス基盤、モバイルネットワーク構成基盤、通信と放送の融合)等の分野との融合技術。

【当面の推進方策】

(宇宙開発(通信・測位)関連)

  • 超高速インターネット衛星の開発・実証実験
  • 大型静止衛星バス技術、世界最大・最先端の大型展開アンテナ技術及び移動体衛星通信技術並びに衛星測位基盤技術等の実証
  • 関係省庁との協力体制等による高精度の測位サービスの提供実現を目指す準天頂衛星システム実証機の開発
  • 人工衛星などの大規模かつ複雑なシステムを短期間に確実かつ効率的に開発することを目標とする情報技術を駆使した新たな開発手法の構築(以上を宇宙航空研究開発機構において実施)

(社会基盤・情報提供インフラ関連)

  • 大学の情報化に関わる技術開発・整備
  • 教育情報ナショナルセンター機能の整備(国立教育政策研究所において実施)
  • 技術者の能力開発・再教育のための情報提供(科学技術振興機構において実施)

(防災関連)

  • 危険度評価・被害特性の可視化のためのGISと情報通信技術等の融合
  • 被害想定や災害対応シミュレーション技術の高度化

(ロボット分野)

  • 先進的統合センシング技術(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業により実施)

3.3 すべての国民がITの恩恵を実感できる社会の実現

【概要】

 我が国が目標とするユビキタスネット社会の実現に向けて、今後5年間に必要となる先端的情報通信技術の開発に対する投資を積極的に行う。これまでは、ITをより多くの領域で、より多くの人々が利用することを目標としてきたが、これからは社会に広く浸透し、さらにITによる社会的課題解決を可能とすることが求められてくる。このため、以下の研究開発を推進する。

(1)安全なユビキタス社会を支える基盤技術の研究開発

【技術概要】

 ユビキタスネット社会の実現を見据え、電子タグにより高付加価値情報を安全にかつリアルタイムに利活用するために必要な基盤技術。組込みシステムの高セキュリティ化、高性能化、高機能化を実現する基盤技術。高速データ利用に支えられたユビキタスネット社会を実現するために必要な基盤技術。

【当面の推進方策】

  • 大容量データを扱う計算能力、記憶容量を持ち、耐攻撃性のある電子タグの開発
  • 電子タグと協調し、高付加価値情報を安全に扱うことのできる組込み型の基本ソフトウェアの開発(以上を次世代IT基盤構築のための研究開発「安全なユビキタス社会を支える基盤技術の研究開発プロジェクト」において実施)
  • 実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブルオペレーティングシステムに関する研究開発(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において実施)(再掲)
  • ホットスポット等に限定されないネットワークの広域使用、多ユーザの同時高速使用を実現するための方法・技術の開発(統計数理研究所において実施)

(2)高速モバイルインターネットシステム

【技術概要】

 高速な情報通信を実現する光通信技術(フォトニックネットワーク)、移動中の場合を含めてどこでも情報通信を可能とする無線・移動体通信、その他次世代インターネットの中核技術であるIPv6、アドホックネットワーク等よりなる、高速モバイルインターネットを実現する技術。

【当面の推進方策】

  • 体積当たりの実装密度を飛躍的に向上させ、複数の機能を集積したワイヤレス端末等の三次元実装高機能モジュールの構築に関する技術開発(再掲)
  • ホットスポット等に限定されない広域使用、多ユーザの同時高速使用を実現するための方法・技術の開発(統計数理研究所において実施)(再掲)

(3)次世代ヒューマンインタフェース

【技術概要】

 言葉の壁、年齢の壁を破り、国際的に多様な情報、知識、価値観、経験を有する人々が、連携して、新しい価値観を生み出し、それにもとづく情報発信・ものづくりを行うために人間とコンピュータを仲介する技術。人間の意図をよりよく理解し、また人間にわかりやすい形式で結果を提示する知的インタフェース、テキストの入出力のみならず音声、画像、触感覚等を利用した入出力を行うマルチモーダルインタフェース、ウェアラブル情報機器を用いた3次元インタラクティブインタフェースに関わる技術。また高齢者、障害者を含めた利用者がストレスなく情報アクセスすることを可能する技術。自律的な環境制御によって高度なサービスを提供する技術、対話に必要な情報の収集及び文脈を理解して対話を支援する高次元の対話を可能にする技術。

【当面の推進方策】

  • 五感CGデザイン技術、機械と人間の対話コミュニケーション支援技術、映像・音響統合コンテンツ生成技術、映像と音響を複合化した可視化・超シミュレーション技術、脳・認知情報のモデル化および評価技術、ブレインマシンインタフェースなどのエンハンストヒューマンインタフェース技術開発
  • 実世界の物体や利用者の位置情報センシング・マッチング等、実世界指向インタフェースに関わる技術開発
  • 話者適応された音声理解、個人エージェント等、知的インタフェースに関わる技術開発
  • 大画面高精細ディスプレイ、超小型ディスプレイ等の視覚ディスプレイ、力覚・触覚・聴覚ディスプレイ等、情報出力提示装置に関わるソフトウェア技術開発
  • ノンバーバルにおける行動と意図の体系化技術、言語理解の脳科学的究明、大規模言語知識資源構築技術、個人適応アプライアンス構成技術、コミュニケーションにおける個人性モデル化技術などの自然言語処理技術に関わる技術開発
  • 自律分散的に利用者の周りの環境を制御するアンビエントネットワークの実現に向けた研究開発
  • 円滑なコミュニケーションを支援するコンテキストアウェアネス技術、マルチモーダルな対話機構の解明に基づいて高次元の対話機構を解明する技術の確立

(4)知的資産のデジタル・アーカイブを作成・利活用・永続保存するための技術開発

【技術概要】

 ユビキタスネット社会の中で、誰もがいつでもどこでも教育、文化・芸術に触れられる環境を実現するとともに、我が国発のコンテンツを世界に積極的に発信することで国のソフトパワーの強化を図ることを目的として、そのために不可欠なコンテンツの創製を支える基盤技術構築のための知的資産の電子的な保存・活用等(デジタル・アーカイブ化)に必要なソフトウェア技術。
 デジタル・アーカイブ化された知的資産の永続的利用可能性を保証するための技術。

【当面の推進方策】

  • 大仏殿などの大型有形文化財、能・日本舞踊などの無形文化財を高精度に3次元デジタル化するための技術、多数のカメラ映像から動的3次元映像をデジタル化するとともに利活用する技術の研究開発
  • 高等教育機関においてコース管理、教材等の提供をユビキタス環境下で実現する技術の研究開発、異なるメディアの情報を横断的・網羅的に検索・統合する技術、デジタル・アーカイブへの連想的情報アクセス技術の研究開発と教育応用
    (以上を「知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術基盤の構築」において実施)
  • 知的資産の保存のための記憶媒体や管理技術に関する技術開発
  • 保存された知的資産のインテグリティ(整合性)を検証する技術
  • 知的資産の保存と流通を円滑に継続させるための社会技術

(5)アクセスアーキテクチャの構築及びコンテンツ生成支援・流通・提示技術

【技術概要】

 大量に流通しているWebコンテンツ、マルチメディアコンテンツの生成支援・流通・利用及び組織化に関する技術、永続的に蓄積する技術、デジタルデバイドの解消につながる容易なアクセスを実現する技術によって、コンテンツの必要に応じた再利用を容易にする管理技術。半構造性、連続性を有するマルチメディアコンテンツを組織化し、高度な機能を有するデータベースとして蓄積・管理する技術や、システム性能を向上させるための諸技術。生成されたコンテンツを研究や教育に生かすための利用技術。

【当面の推進方策】

  • 爆発的に増大するサイバー情報空間の解明と新しい活用基盤技術の開発
  • 進化を続けるWeb上のコンテンツ等を高度に生成・利用・検索することを可能にする技術開発
  • コンテンツを蓄積・管理する高機能・高性能データベースに関わる技術開発
  • Webデータやビデオ映像等、半構造性・連続性を有するマルチメディアコンテンツの組織化・構造化、コンテンツの内容記述、コンテンツのアクセス管理、コンテンツの権利処理、デジタルライブラリ等、コンテンツの蓄積・管理に関わる技術開発
  • 大容量データを短い通信時間で通信できる広帯域ネットワークに関わる技術開発
  • 配送機構と提示手法、個別化と適応化、情報フィルタリング等のコンテンツの配送と提示に関わる技術開発
  • 3次元映像・超高品質画像等のコンテンツの生成・編集支援に関わる技術開発(科学技術振興調整費において実施)
  • ネットワーク上の膨大な情報から有用な情報を発掘し知識として整理するデータマイニングによる知識生成に関わる技術開発
  • 映像や音楽などの感動を伝えるメディアのデジタル化技術、大量で多様なデジタル情報を簡便、的確かつ安心して収集・分析・利用することができる情報検索・情報解析技術
  • デジタルメディア作品の製作を支援する基盤技術(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業により実施)

(6)世界最高水準の高度情報通信システム形成の鍵となる基盤ソフトウェアの開発

【技術概要】

 世界最高水準の高度情報通信システム形成の鍵となる高い生産性を持つ高信頼ソフトウェア作成技術や情報の高信頼蓄積・検索技術等の基盤ソフトウェアを開発。

【当面の推進方策】

  • 過去のソフトウェア開発状況に関する定量データを収集・分析し、高信頼ソフトウェアの開発にフィードバックする技術
  • 高信頼Webアプリケーションの自動生成技術
  • 全世界の膨大なWeb情報の中から最新のものを自動的に収集・検索する技術
  • 型理論に基づくプログラミング言語の高信頼化技術と、複数言語にまたがるソフトウェアの静的解析技術
  • C系言語の安全なコード生成技術と、静的型付アセンブリ言語による高信頼OS開発技術
  • 記憶容量や計算速度等の制約が大きい場合でも、その制約にあわせて組込みソフトウェアを自動生成する技術
  • 自己管理を可能とするストレージ、個々のWeb情報の関連性と時系列変化を解析する技術
  • 街中等、雑音がある現実的な状況で、人間の言葉だけをコンピュータに識別・理解させる技術
  • 高信頼で操作性の高い体系的な構造化文書の作成、変換技術(以上を「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」において実施)(再掲)
  • 実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブルオペレーティングシステムに関する研究開発(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において実施)(再掲)
  • ソフトウェア構築状況の可視化技術の研究開発(再掲)

(7)セキュリティ

【技術概要】

 サイバー攻撃、著作権侵害、情報漏洩、システム障害、人為的ミス及び災害等あらゆる脅威から情報通信機能を利用した活動の安全性ならびに安定的供給を確保することを可能にする技術。重要インフラを含む次世代ネットワーク環境を視野に入れた環境を実現するために必要となる各種基盤技術及びそれらの統合化技術に関する研究開発。

【当面の推進方策】

  • 最高水準の安全・安心な情報通信インフラを構築する技術開発
  • 新たな技術の普及によるIT社会の変化を捉え、必要となる社会制度の整備や、技術の普及戦略を開発する社会システムデザイン研究
  • 確率的現象のシミュレーションや予測不可能性、操作性の安全性の実現に必要な乱数(擬似乱数、物理乱数)の高度化に関する研究開発(統計数理研究所において実施)(再掲)

(8)情報社会のデザイン

【技術概要】

 人文・社会科学的な知見等との連携を図り、高度な情報社会を実現する俯瞰的学際的技術。ネットワーク社会において各個人が安全かつ有効に情報通信技術を活用するための技術(P2Pによる知識共有環境におけるプライバシー保護技術等)、ネットワーク社会における各種の社会組織運用のための基礎技術(セキュリティポリシーのコンサルティング技法の確立等)、モバイルネットワーク社会における人間関係を基礎とする社会形成のための基礎技術。社会との協創的なデザインに関する基礎技術。

【当面の推進方策】

  • プライバシー保護技術とその倫理的評価に関するセキュリティ技術の開発
  • コンテンツや情報機器の利用における心理的・生理的影響の検討
  • グローバルなネットワークに基盤を置くデジタル経済が国際経済、各国経済に与える経済的影響、各国の社会制度にどのような問題が生じるか等に関する検討
  • 参加型デザイン、インクルーシブデザイン等の研究
  • 地域社会やコミュニティと連携する実証的なアプローチで、大胆な情報社会のデザインを可能にする技術
  • 情報システムに関連する社会的リスクの解明とその最小化を目的とした研究(科学技術振興機構の社会技術研究開発センターにおいて実施)

3.4 次世代を担う高度IT人材の戦略的な育成

【概要】

 情報科学技術分野の中でも特にソフトウェア、インターネット、計算科学・計算機科学技術、新興領域・融合領域等における研究者、高度技術者を養成し確保するための体制整備が目標。新興領域・融合領域においては、情報科学技術以外の背景を持つ研究者や学生が情報科学技術の基礎的知識を身につけることが望まれる。また、ITを活用した教育の推進に資する技術の高度化・高機能化及びITを利用した先端的な教育を実施できる人材の育成を図る。

【当面の推進方策】

  • 大学間及び産学の壁を越えて潜在力を結集し、教育内容・体制を強化することにより、世界最高水準のソフトウェア技術者として求められる専門的スキルを有するとともに、社会情勢の変化等に先見性をもって柔軟に対処し、企業等において先導的役割を担う人材を育成(「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」において実施)
  • 高度な計算科学技術・計算機科学技術分野において、計算機アーキテクチャ・OSやミドルウェア・アプリケーション及びそのアルゴリズム、などを総合的に理解・適用することができる人材の育成(再掲)
  • バイオインフォマティクス、基盤的ソフトウェア等の新興分野における人材の養成(科学技術振興調整費において実施)
  • IT分野の将来を担う大学等の若手研究者等が行う研究を積極的に推進することにより、人材養成にも貢献(科学研究費補助金において実施)

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)