ここでは、総合科学技術会議の「分野別推進戦略」等の総合的な戦略、及び2章で述べた視点、考え方を踏まえ、また、科学技術・学術審議会等における各政策テーマからのニーズ(産学連携、人材養成等)を反映し、文部科学省として重点的に研究開発を進めるべき領域ごとに、技術概要、当面の推進方策をまとめる。
また、研究開発の実施にあたっては産学官の連携によって研究開発を一体として進めること等により、情報科学技術の担い手を質・量ともに充実させるとともに、産業界のニーズに適応した高度IT人材や新興・融合領域研究の促進に寄与する人材の養成・確保の視点を重視して推進するものとする。
情報科学技術分野は、デバイス、ハードウェアからシステム、ソフトウェア技術に至るまで、また基礎基盤的な研究から他分野を含む多様な分野での応用を目指した研究開発までと、その研究開発領域は多岐にわたる。以下では、現状で重要と考えられる領域を網羅するように努めたが、例えばライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料分野を中心に融合分野の重要性が高まる等、今後の動向に留意し、最新の情勢にあうよう不断の見直しが不可欠であることを付記する。
理論、実験と並び、現代の科学技術の方法として確固たる地位を築きつつあるスーパーコンピューティング(シミュレーション(数値計算)や高度なデータマイニング等)において、今後とも我が国が世界をリードし、科学技術や産業の発展を牽引し続けるために、最先端・高性能の汎用京速(京速=10ペタフロップス)計算機システムの開発・整備、スーパーコンピュータを最大限利活用するためのアルゴリズムやモデリングの研究やOS、ミドルウェアを含む各種ソフトウェア等の開発・普及、及び世界最高水準のスーパーコンピューティング研究教育拠点の形成を行い、研究水準向上と世界をリードする創造的人材の育成を総合的に推進する。
このため、現在、数多くの研究機関に分散している「知」を効率的に結合並びに融合させることのできる、広範な最先端の情報通信技術によって支えられる最先端学術情報基盤(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ)の実現に必要な次に掲げる技術を確立するとともに、このような環境を使いこなす高度な技術者・研究者の育成を推進する。
世界最高水準の性能を達成する次世代スーパーコンピュータの実現のために必要となる研究開発とその整備及び利用技術の研究開発・普及。
将来のスーパーコンピュータに必要な既存技術の限界突破のための研究開発。
次世代スーパーコンピュータを頂点として重畳に展開する各計算機が学術情報ネットワーク(スーパーSINET/SINET)上で我が国の計算資源全体として最大限有効に利活用されるための高速グリッドコンピューティング環境の構築に関わる技術。その他IT利用による研究基盤の整備に関わる技術。
次世代スーパーコンピュータの性能を十分に発揮させ、科学技術の新しい領域を切り拓く系全体を対象としたシミュレーション等の実現に必要な技術。最先端の計算科学技術・計算機科学技術を産業界等の設計・研究開発活動において駆使できる技術や人材の育成。
○ハードウェア関連
○ソフトウェア関連
○人材育成関連
分子・原子の運動や構造、気象、環境等、生物学的、理工学的課題のシミュレーション等を行う計算科学に関わる技術。計算科学技術理論(離散化、アルゴリズム等)の研究、計算科学技術の産業応用ソフトウェアの開発、複雑・大規模な応用ソフトウェア開発方法、統合シミュレーション技術(マルチスケール、マルチフィジックス)、並列処理技術、計算科学に関わる大規模データ処理技術、可視化技術、3次元モデリング技術、計算結果の検証。
超高速ネットワーク上に研究者が連携し合い、研究活動の高度化・効率化、社会や産業界に対してのソリューションと競争力をもたらす最先端学術情報基盤の整備。
科学技術に関する論文、研究者、研究内容、研究機関、研究成果等に関連する情報のデータベース化、学協会が発行する雑誌等の電子化等、研究開発活動の基盤整備に必要な技術。情報蓄積・検索システムの高度化、データマイニング、高速ネットワーク等、研究情報流通基盤の整備に関わる技術。
「IT新改革戦略」においても述べられているように、ITは既にほとんどすべての産業分野における活動の持続的な発展と競争力の向上に必須なものであり、IT要素技術の研究開発の促進及びその展開に責任を持つ人材の持続的な育成を行うとともに、持続性を持つための戦略的な施策体系と運用体制を整備することが必要である。
さらに、我が国が今後も持続的な発展を継続するために必要な最先端の機器及びシステムを生み出す要素技術への持続的な投資が必須である。そして、これらの投資は国力の源泉を生み出すための投資でもある。
産業発展の礎となる科学技術開発を形成するために、以下の情報科学技術の研究開発を推進する。
新たな市場創出と高い経済活性化に寄与し、我が国の国際競争力の強化をもたらす高い生産性を持つ高信頼ソフトウェア作成技術や情報の高信頼蓄積・検索技術等の基盤ソフトウェアの開発。
高速・高信頼情報通信システム社会を支える、ハードディスク、メモリ等のデバイスを低消費電力で高機能・高性能化する技術、及びそれらデバイスを組み合わせて高性能携帯情報端末等を実現する技術。
多様な機能を持つ情報システムを一つのLSIに組み込む技術。システムLSI自動設計技術(高位レベル設計、レイアウト設計)、複雑化する設計の加速化のために既設計回路モジュール再利用することで設計効率を上げる設計技術、通信・画像・モバイル・AV・PCの各分野のLSI設計、再構成可能デバイスを用いた設計等に関わる技術。
量子レベルでの制御技術により新しい原理に基づくコンピュータを実現する量子コンピュータ、その他の次世代デバイスに代表される、次世代の情報通信技術。量子工学技術、次世代デバイス、ネットワークコンピューティング、高度放送システムに関わる技術。
知的創造活動である設計・生産活動において、加速度的に増大し続ける情報を高効率に分析・処理・蓄積・検索することで設計者の意思決定を支援するため、過去の経験等により得られた膨大な知識を構造化するためのシステム基盤を実現する技術。
ソフトナノおよびハードナノ等、ナノスケールの物質系の原子・分子から出発したまるごとシミュレーションの実現、計算科学によるナノ材料設計技術の確立。光合成、燃料電池、スーパーキャパシタなど太陽エネルギーの固定、有効利用、貯蔵など次世代エネルギーに関わるナノプロセスの理論と計算技術。癌やウイルス性疾患など難病のナノ分子レベル(蛋白質、DNA、生体膜等)における原因究明と治療技術など次世代ナノ生体物質に関わるプロセスの理論的方法論と計算技術。ナノワイヤーや量子ドットなど次世代ナノ情報材料の創出に関わる理論と計算技術。
また、これらナノテクノロジー・材料分野に関わる計算科学技術の基礎となる量子化学、分子動力学法、溶液の統計力学、および固体電子論、さらには、それらを多様な方法で組み合わせた複合的方法論の開発。自己組織化、機能発現の計算科学。
遺伝子情報、タンパク質及びその相互作用、遺伝子転写物、代謝物等を対象とした網羅的解析が生産する膨大なデータを統合し理解するための技術。また、網羅的な情報をもとに計算機上に生物を再構築してシミュレーションすることにより、生命現象を全体として理解するための技術。ゲノムレベル(高速検索技術、プロファイリング技術、ゲノム情報データベース化等)、分子レベル(生体高分子の大規模分子動力学シミュレーション、三次元構造の直接比較検索技法等)、細胞レベル(細胞内の代謝・情報伝達ネットワークの構築、桁違いの反応速度が混在する系を安定にシミュレーションする技術等)、さらに器官・個体レベル(生体のような柔軟な物体や化学反応を流体と一緒に取り扱う連成シミュレーション技法等)の4レベルの技術。
また、遠隔治療、循環器系臨床応用、医療画像診断、ミクロ生体機能解析、器官の損傷・治療解析、人体の3次元モデリング等、メディカルインフォマティクスに関わる技術。上記の基盤となる、生命情報の統合的なデータベース整備のための技術。
さらに、脳情報技術の基盤となる非侵襲型の計測技術。失われた身体機能の補完などにつながる脳神経と情報とのインタフェース技術の開発。脳・機械インタフェースの基盤となる、ITやナノテクノロジーとの融合領域。分子レベルから行動レベルまでの脳の統合的理解の基盤となるニューロインフォマティクス技術。脳をモデルとした脳型情報処理技術。
高度ITS、GIS、測位、通信に関わる宇宙開発等他分野への高度情報科学技術の応用、また他分野技術による情報科学分野のインフラ整備、様々な分野において利用されるデータベースを統合するための基盤技術等、他分野と情報科学分野で連携して取り組むべき技術。その他、環境、防災、ロボティクス、社会基盤・情報提供インフラ(電子政府・電子入札等、学校ネットワーク環境の向上(在宅学習を含む)、Eビジネス・サービス基盤、モバイルサービス基盤、モバイルネットワーク構成基盤、通信と放送の融合)等の分野との融合技術。
(宇宙開発(通信・測位)関連)
(社会基盤・情報提供インフラ関連)
(防災関連)
(ロボット分野)
我が国が目標とするユビキタスネット社会の実現に向けて、今後5年間に必要となる先端的情報通信技術の開発に対する投資を積極的に行う。これまでは、ITをより多くの領域で、より多くの人々が利用することを目標としてきたが、これからは社会に広く浸透し、さらにITによる社会的課題解決を可能とすることが求められてくる。このため、以下の研究開発を推進する。
ユビキタスネット社会の実現を見据え、電子タグにより高付加価値情報を安全にかつリアルタイムに利活用するために必要な基盤技術。組込みシステムの高セキュリティ化、高性能化、高機能化を実現する基盤技術。高速データ利用に支えられたユビキタスネット社会を実現するために必要な基盤技術。
高速な情報通信を実現する光通信技術(フォトニックネットワーク)、移動中の場合を含めてどこでも情報通信を可能とする無線・移動体通信、その他次世代インターネットの中核技術であるIPv6、アドホックネットワーク等よりなる、高速モバイルインターネットを実現する技術。
言葉の壁、年齢の壁を破り、国際的に多様な情報、知識、価値観、経験を有する人々が、連携して、新しい価値観を生み出し、それにもとづく情報発信・ものづくりを行うために人間とコンピュータを仲介する技術。人間の意図をよりよく理解し、また人間にわかりやすい形式で結果を提示する知的インタフェース、テキストの入出力のみならず音声、画像、触感覚等を利用した入出力を行うマルチモーダルインタフェース、ウェアラブル情報機器を用いた3次元インタラクティブインタフェースに関わる技術。また高齢者、障害者を含めた利用者がストレスなく情報アクセスすることを可能する技術。自律的な環境制御によって高度なサービスを提供する技術、対話に必要な情報の収集及び文脈を理解して対話を支援する高次元の対話を可能にする技術。
ユビキタスネット社会の中で、誰もがいつでもどこでも教育、文化・芸術に触れられる環境を実現するとともに、我が国発のコンテンツを世界に積極的に発信することで国のソフトパワーの強化を図ることを目的として、そのために不可欠なコンテンツの創製を支える基盤技術構築のための知的資産の電子的な保存・活用等(デジタル・アーカイブ化)に必要なソフトウェア技術。
デジタル・アーカイブ化された知的資産の永続的利用可能性を保証するための技術。
大量に流通しているWebコンテンツ、マルチメディアコンテンツの生成支援・流通・利用及び組織化に関する技術、永続的に蓄積する技術、デジタルデバイドの解消につながる容易なアクセスを実現する技術によって、コンテンツの必要に応じた再利用を容易にする管理技術。半構造性、連続性を有するマルチメディアコンテンツを組織化し、高度な機能を有するデータベースとして蓄積・管理する技術や、システム性能を向上させるための諸技術。生成されたコンテンツを研究や教育に生かすための利用技術。
世界最高水準の高度情報通信システム形成の鍵となる高い生産性を持つ高信頼ソフトウェア作成技術や情報の高信頼蓄積・検索技術等の基盤ソフトウェアを開発。
サイバー攻撃、著作権侵害、情報漏洩、システム障害、人為的ミス及び災害等あらゆる脅威から情報通信機能を利用した活動の安全性ならびに安定的供給を確保することを可能にする技術。重要インフラを含む次世代ネットワーク環境を視野に入れた環境を実現するために必要となる各種基盤技術及びそれらの統合化技術に関する研究開発。
人文・社会科学的な知見等との連携を図り、高度な情報社会を実現する俯瞰的学際的技術。ネットワーク社会において各個人が安全かつ有効に情報通信技術を活用するための技術(P2Pによる知識共有環境におけるプライバシー保護技術等)、ネットワーク社会における各種の社会組織運用のための基礎技術(セキュリティポリシーのコンサルティング技法の確立等)、モバイルネットワーク社会における人間関係を基礎とする社会形成のための基礎技術。社会との協創的なデザインに関する基礎技術。
情報科学技術分野の中でも特にソフトウェア、インターネット、計算科学・計算機科学技術、新興領域・融合領域等における研究者、高度技術者を養成し確保するための体制整備が目標。新興領域・融合領域においては、情報科学技術以外の背景を持つ研究者や学生が情報科学技術の基礎的知識を身につけることが望まれる。また、ITを活用した教育の推進に資する技術の高度化・高機能化及びITを利用した先端的な教育を実施できる人材の育成を図る。
科学技術・学術政策局計画官付