資料2-1航空科学技術に関する研究開発の推進方策(案)

平成27年6月
航空科学技術委員会

はじめに

 航空科学技術に関する研究開発は、文部科学省に設置された科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会(以下「分科会」という。)が第3期(対象期間:平成18~22年度。以下同様。)の科学技術基本計画(平成18年3月28日閣議決定(以下「第3期基本計画))に基づき平成18年7月に策定した「航空科学技術に関する研究開発の推進方策について」に沿って推進されてきた。
 本推進方策は、それに続くものとして、第4期(対象期間:平成23~27年度。以下同様。)の科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定(以下「第4期基本計画」という。))に基づき、航空科学技術に関する研究開発の推進に当たっての指標とすべく策定したものである。

 第4期基本計画では、平成23年3月11日に起こった東日本大震災を踏まえ、我が国の豊かさや人々の安全な暮らしの実現、経済をはじめとする国力の基盤の構築に資するとともに、知のフロンティを切り拓き、我々人類の直面する課題の克服に貢献すべく、以下の3点を今後の科学技術政策の基本方針として示している。

  • 「科学技術イノベーション政策」の一体的展開
  • 「人材とそれを支える組織の役割」の一層の重視
  • 「社会とともに創り進める政策」の実現

 「科学技術イノベーション政策」については、さらに、「我が国の将来にわたる成長と社会の発展を実現するための主要な柱」として、「震災からの復興、再生の実現」、「グリーンイノベーションの推進」及び「ライフイノベーションの推進」が掲げられており、「グリーンイノベーション」の推進では、「高効率輸送機器(次世代自動車、鉄道・船舶・航空機)やモーダルシフト等の物流効率化に関する研究開発、導入を推進する」ことが述べられている。
 また、国が取り組むべき重要課題として第4期基本計画に盛り込まれている「安全かつ豊かで質の高い国民生活の実現」に向けた方策が述べられている。

 上記の第4期基本計画、経済・社会情勢及び航空科学技術に関する研究開発の進捗状況を踏まえ、分科会ではこれからの10年を見通した、今後5年から7年程度の間、文部科学省が研究開発を推進するに当たっての重点事項について、本推進方策を策定した。策定に当たっては、分科会の下に設置されている航空科学技術委員会において、航空機メーカー及び航空会社等の民間企業、大学並びに研究機関等の幅広い機関から意見聴取を行い、現状及び将来の構想等具体的な情報を収集し検討を重ねた。
 本推進方策に基づき、航空科学技術委員会では、「航空科学技術に関する研究開発の推進のためのロードマップ(前編:平成24年8月21日、後編:平成25年06月21日取りまとめ)」を策定し、これらを踏まえ、航空科学技術に関する研究開発が推進され、一定の成果が上げられてきた。

 一方で、航空科学技術分野を取り巻く社会の変化と科学技術の進展は国際的にみても著しく、年々大きく変化している。文部科学省では、後述のとおり航空機市場が将来的に大きく拡大すると見込まれることから、産業界、学会、公的研究機関の有識者により今後の航空科学技術の取組方針を議論し、平成26年8月に「戦略的次世代航空機研究開発ビジョン」(注1) (以下「ビジョン」という。)を策定した。このような情勢の中で、関連動向を踏まえて本推進方策も見直すことが不可欠となっている。このため、航空科学技術委員会においては、第45回~第47回までの委員会で意見交換を行い、推進方策を改訂することとした。

 本推進方策は、航空科学技術に関する研究開発の中核を担う実施機関である国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」という。)の中期目標への反映はもちろん、航空科学技術に関連する学科・講座・研究室等を有する大学等の教育機関へも一定の指標を示すことを意図するものであり、航空科学技術に関する研究開発が、本推進方策の趣旨に添って着実に推進されることを期待する。

1.基本認識

1.1 航空科学技術分野を取り巻く諸情勢の変化

 平成23年3月11日に東日本大震災が発生し、我が国は人的、物的に甚大な被害を被ったばかりか、間接的な被害も含め、社会、経済に深刻な影響を受けた。そうした中、科学技術に対しても、我が国の復興と再生、さらには持続的な成長と社会の発展、安全で豊かな国民生活の実現等に積極的な役割を果たすことが求められている。
 また、平成18年3月の第3期基本計画の策定以降、地球温暖化による環境変動、航空交通量の増加及び航空機開発競争の激化が進み、航空を取り巻く世界の社会情勢は大きく変化しており、それらの情勢の変化は、次のとおりまとめることができる。すなわち、航空輸送需要の増加とアジア市場の成長、環境保全と経済発展の両立への要求の高まり、及び安全への要求の高まりである。
 このような世界情勢の中、我が国航空機産業においては、YS-11 以来、約半世紀ぶりとなる国産旅客機開発が行われており、世界の航空機需要の成長を踏まえ、今後、我が国航空機産業が自動車産業に比肩しうる成長産業として発展することが期待されている(注1)。
 他方、上記情勢に関する国際的取り組みとして、航空分野の国際技術標準を策定する国際民間航空機関(以下「ICAO」という。)は、交通量の増大への対応として、環境、安全面での基準(国際標準)を制定・強化し、各加盟国に対してその適用を求めるとともに、新しい航空交通システムへの移行を求めている。

 第3期基本計画策定後、航空科学技術に係る個々の分野の情勢変化は以下のとおりである。

(1)開発・製造分野

1.航空機開発
 航空輸送に対する様々なニーズが世界的に高まる中、旅客機開発事業においては、主要国である欧米及びカナダ、ブラジルに加え、新たに中国及びロシアもリージョナルジェット機市場に新規参入する等、競争が激化してきている。我が国においては、YS-11 以来、約半世紀ぶりとなる(ジェット機としては初の)国産旅客機の事業化が決定(平成20年3月)し、平成27年の初飛行、平成29年の市場投入が予定( されており、現在、開発企業において実機の開発試験等が進められている。
 近年、燃料の高騰や環境対策として、航空機の低燃費化が求められているところである。そのため、機体の設計開発には軽量化を目的とした炭素繊維複合材を利用することが世界的な流れである。我が国において開発が進められている旅客機においても、機体の一部に炭素繊維複合材が使用されることとなっている。

2.低CO2/脱化石燃料エンジン、バイオ燃料
 運航コスト低減や地球環境問題への対応の観点から、欧米の開発企業では、航空会社や研究機関等と協同で、バイオ燃料による商用機飛行実証等将来に向けた脱化石燃料エンジンシステムの研究開発を相次いで実施している。
 我が国においては、メタン及び水素燃料といった脱化石燃料を用いたエンジン技術開発の蓄積がある(地上用水素・酸素ガスタービン、高速航空機用メタン燃料エンジン技術開発、水素燃料予冷却ターボジェットなど)。また、バイオ燃料については、航空以外の分野において基礎研究が行われているところであるが、航空分野においても我が国航空会社がバイオ燃料による商用機飛行実証を実施する等、当該分野への関心は高まりをみせている。

3.次世代SST(超音速輸送機)実用化検討
 環境適合性を有し、陸域飛行を可能とする次世代SST(Supersonic Transport)の実用化構想は、米国NASA において発表(小型SST;2020 年頃、大型SST;2030-35 年頃)される等、昨今、欧米やロシア、カナダ等の開発企業及び研究機関において概念検討や研究開発が進展している。これを受けてICAO では、次世代SSTの環境基準(ソニックブーム、騒音、排出ガス)が議論され、ソニックブームの新基準策定に向けた検討が進められているところである。
 また、我が国でも、平成20年1月、官民等関係機関が一堂に会する「超音速輸送機連絡協議会」が設置され、SSTの実用化に向けた最終目標や役割分担等について協議された。

(2)運航・利用分野

1.民間航空輸送
 世界的に航空交通量が増大する中、地球環境問題や重大事故の発生等を背景として、ICAOは国際基準を継続的に見直し、航空機による騒音やNOx等排出物の抑制、ヒューマンエラーに起因する事故予防策等、環境面と安全面における規制を技術の進歩等に応じて制定し、また、CO2排出の抑制についても検討中であり、段階的に強化している。
 また、ICAOは、将来の航空需要に対応するためには、現行の航空交通システムでは限界があるとし、2025 年の達成を目標とする「グローバルATM(航空交通管理)運用コンセプト」を提唱し、各加盟国に最新の航空技術を取り入れた衛星航法をはじめ、新しい航空交通システムへの移行を求めている。
 さらに現在、欧米を中心として、各国又は各地域の実情に応じた新しい航空交通  システムへの移行計画が検討されており、その実現に必要となる技術の研究開発等があわせて進められている。
 我が国においても、平成22年10月に羽田空港の4本目の滑走路が供用開始され、国際定期便が就航するとともに、平成32年以降の5本目の滑走路増設も検討される等、今後とも我が国の管理空域内における航空交通量の増大が予測される。そこで、より安全かつ効率的で環境に配慮した新しい航空交通システム、とりわけ衛星を利用した高度な運航方式の技術開発や普及等が求められており、現在、国土交通省主導の下、産業界、研究機関等が連携して、我が国の実情に応じつつ欧米と協調した施策の検討や要素技術の研究開発が進められている。

2.災害救援等
 平成23年3月11日に発生した東日本大震災においては、東北地方を中心として、甚大な被害がもたらされた。本災害対応においても、捜索活動や負傷者の移送等において、ヘリコプターが大きな役割を担ったとともに、航空機による放射線モニタリングや物資輸送等、航空機が被災地支援に多大な貢献をした。
 今後も、大規模災害発生時において、航空機を使用した、迅速かつ効率的な情報収集及び救援活動が防災関係機関に求められるであろう。

1.2 第3期における主な取組と成果、課題

(1)主な取組と成果

 文部科学省は、特に第3期基本計画における「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」の基本姿勢を踏まえ、「分野別推進戦略(平成18年3月策定)」に基づき、「航空科学技術に関する研究開発の推進方策(平成18年7月策定)」を策定し、実施機関であるJAXAを通じて、研究開発及び関連する設備整備等を進めている。
 特に重点的に進めている研究開発課題(いずれも戦略重点科学技術に該当)とこれまでの主な成果は以下のとおりであり、研究開発過程で得られた要素技術等の一部については、航空機開発関連企業等において利活用される等、順次、実用にも供している。

【第3期基本計画における重点課題】

  1. 客機高性能化技術の研究開発 (平成16~平成24年度)
  2. リーンエンジン技術の研究開発 (平成16~平成24年度)
  3. 航安全・環境保全技術の研究開発(平成16~平成24年度)
    [うち戦略重点科学技術:全天候・高密度運航技術]
  4. 粛超音速機技術の研究開発 (平成18~平成20年代後半頃)
    [うち戦略重点科学技術:静粛超音速研究機の研究開発]

【主な成果の例】

  1. 旅客機高性能化
    機体設計に係る低燃費・低騒音化に資する先端技術(騒音・燃費低減評価技術等)を開発
  2. クリーンエンジン技術
    燃焼器の要素試験でNOx排出の国際基準値を大幅に下回る世界最高レベルを達成
  3. 運航安全・環境保全技術
    無人機用のアビオニクス(電子装備品)としてGPS受信機とINS(慣性航法装置)を複合した超小型航法装置を開発、実用化

(2)課題

 第4期にかけて、各研究成果を総合的に確認するための飛行実証等の実証試験が本格化している。加えて、上記「第3期基本計画における重点課題」に掲げる1~3については事業完了時期を迎え、航空科学技術委員会において所要の事後評価を実施したところである。
 以上より、成果還元の観点から関係機関との密接な連携の下で実証試験等の体制を整備していくとともに、ユーザー側の利用形態に沿った技術改良や国際基準化活動への貢献など、国際情勢の変化等を踏まえ、実用化に繋がる取組をより強化していくことが課題となっている。
 また、全体の進め方として、これら各課題への取組を通じた、我が国全体の航空技術力、ひいては旅客機の開発能力の向上が求められており、国内関係機関との役割分担に基づく、国全体での効率的かつ効果的な研究開発の仕組み・体制作り、意識改革が重視されている。
 さらに、上記「第3期基本計画における重点課題」4の研究開発については、世界的に優位となる超音速機技術の確立に向けて、平成22年度から研究機による飛行実験を実施(注3)しており、研究開発を進めているところである。
 これらの進め方については、産業界への成果還元の視点に加えて、特に、我が国の将来を担う航空技術人材の育成の場を提供する観点から大学機関等学界との協力関係も充実強化し、産学官の知的・人的交流や研究資源の集約、相互利用を促進する枠組みの構築を含めた取組が求められている。

1.3 航空技術の将来展望

 我が国が旅客機開発国として成功することをはじめ、航空技術開発が将来に亘り持続的・安定的に発展し、国際社会において確固たる地位を築いていくことが求められている。
 航空機の開発・製造、運航・利用及び技術者の各視点から、具体的に、以下のような事柄が期待されている。

(1) 航空機開発・製造の視点

 我が国の航空技術分野においては、我が国が得意とする複合材や電子機器等を活用した燃料・排出ガス削減に寄与する環境技術で世界をリードすること、新技術を普及するために必要な国際標準(ICAO 基準等)の策定に積極的に貢献していくこと、及び航空機産業で培われるハイテク・集積技術により、他産業、ひいては我が国経済を牽引していくことが期待されている。
 欧米等の航空機開発の先進国では、航空機産業を国家レベルで育成しており、その 売上高を対GDP比でみると、1%前後を占めるまでの産業となっている。他方、我が国の航空機産業の売上高は、対GDP比0.2%程度にとどまっている。
 航空機の開発には、高度かつ広範囲な要素技術及びこれらを統合化する総合技術力 (ハイテク、集約・統合技術)が必要であるから、航空機の開発・製造活動は、他産業と比べて技術波及効果が高い(例えば、自動車産業の4%に対し、航空機産業は90%(注4)。また、世界市場が一時的な停滞はあるものの今後20年程度先まで年平均4%台後半の成長が予測されている。
 以上より、低燃費航空機の普及を通じた低炭素社会作りへの貢献はもとより、関係各界からは、自動車に比肩しうる成長産業としての経済的効果が期待されており、旅客機開発国としての今後の成功と将来に亘る持続的発展が望まれている。

(2) 航空機運航・利用の視点

 航空輸送は、今や我が国の観光やビジネス、貿易や宅配等、国民の日常生活に欠かせない重要な社会インフラである。また、我が国の航空輸送は、安全であることはもとより、欠航や遅延が非常に少ない優れた輸送手段であると言える。
 今後、ますます増大すると予想される航空交通量に対応するため、更なる安全性の向上に努めるべきである。また、効率的かつ快適な輸送手段を目指すとともに、CO2排出や騒音等環境にも配慮した運航が望まれている。

(3) 航空技術人材の視点

 今後、我が国が旅客機開発国として持続的・安定的に発展していくため、より一層高度で広範囲な技術力の蓄積と醸成が求められている。
 また、航空分野は、市場の将来性も見込まれており、今後将来に亘り、我が国の次代を担う優秀な技術人材(技術者、研究者等)の確保及び拡充の必要性が高まっていることに加え、総合工学の先進分野として、我が国の優秀な技術人材を育成していく土壌として有望視されている。
 そのため、航空技術分野に優秀な若手が集まり、関係機関あるいは技術者間でのデータ蓄積等にとどまらず、広く産学官での実用に繋がる社会全体のシステムが構築されていくことが望まれている。

【将来への期待・ニーズ、課題等】

  1. 航空機開発・製造
    国の成長・戦略産業としての期待の高まり
    [自動車に次ぐ基幹産業化、技術波及効果の拡大]
  2. 航空機運航・利用
    社会インフラとしての重要性の高まり
    [安全安心、環境適合(CO2・騒音低減)、快適等の更なる向上]
  3. 人材育成
    次代を担う優秀な技術人材の必要性の高まり
    [より高度・広範囲に求められる技術力に対応できる、産学官全体のシステム構築]

1.4 航空科学技術が果たすべき役割

 以上の航空技術の将来展望に対して、航空科学技術分野(文部科学省及びJAXA)には、以下の役割及び貢献が期待されている。

【航空科学技術分野に求められる役割・貢献】

  1. 先進的な航空機の研究開発の推進
     社会が求める新技術の研究開発・産業界への技術移転
     最先端の供用インフラ(試験設備等)の提供
  2. 次代を担う人材の創出
     技術者・研究者の育成
     産学官を繋ぐ人材育成の拠点整備
  3. 開発機に対する安全証明(型式証明等)の的確な実施(技術協力)
     新技術に対応した各種実証試験・証明方法の確立
  4. 継続的な安全性・環境性の向上(技術協力)
     国際標準化活動
     航空事故・トラブル対応の継続的実施

2.今後の研究開発の方向性

 現在、我々は地球温暖化や石油資源枯渇の可能性等、地球規模の問題に直面している。航空分野においても、これらの問題に対応するため、現在よりも更に低燃費で、低環境負荷の高効率な航空機が求められているところである。
 加えて、航空機事故はひとたび起こると多くの人命が失われる可能性があることから、安全性の向上に係る研究開発にも重点を置くべきである。
 さらに、ビジョンにおいて優先的に着手することとされている「民間航空機国産化研究開発プログラム」でも、民間航空機に求められている主要課題である環境適合性、安全性等の面において、他国よりも優位な技術を早急に獲得し、国際競争力をつけることが重要とされている。
 以上より、「環境適合性」と「安全性」に係る研究開発に重点化し、高効率・低負荷で、更に安全な航空機を実現すべきである。

 また、第3期基本計画で定められた「社会・国民に支持され、成果を還元する」視点での取組は、今後、我が国が旅客機開発国を目指し、国に求められる役割や期待が更に増すことにより、第4期において、より一層の成果還元と戦略性が重視される。
 さらに、今後将来に亘り、我が国の航空技術を担う人材育成への取組も重視されている。
 これらの情勢を踏まえ、第4期における研究開発については、第3期と比べて、特に以下の考え方を主眼に置いて、JAXAにおける先端的・基盤的な研究開発、関連施設・設備整備及び推進策の戦略的重点化を図ることが適当である。

  1. 「出口志向の研究開発プロジェクト」
  2. 「戦略的な基礎・基盤研究」
  3. 「人材育成」

 特に、限られたリソースの中で、我が国の航空機産業を自動車産業と比肩しうる「超成長産業」としていくために、国際競争力向上に直結する「出口志向の研究開発プロジェクト」及び「戦略的な基礎・基盤研究」のうち「基盤的な試験研究施設及び設備の整備、共用促進」を優先的に推進すべきであると考えられる。

 なお、研究開発を実施する際には、産学官、各界との人的・知的交流を促進することにより、関連研究機関や産業界、学会等を交えた研究ニーズ、シーズのマッチングを図り、研究開発の方向性を互いに共有することが重要である。

 さらに、研究活動をより効率的に推進するためには、産学官の英知を結集し、研究資源の効率的・効果的な運用を実施することが重要である。具体的には、研究活動のより効率的な推進、質の高い人材の確保と育成強化の観点から、公募型研究など従来からの取組を強化するとともに、新たにJAXAを中核とした産学官連携体制を構築し、人材糾合を図るべきである。
 また、得られた成果について、広く国民に広報を行い、研究開発の意義について国民の理解を得るための戦略が重要である。

2.1 「出口志向の研究開発プロジェクト」

 ここでは、社会のニーズに即した成果の還元を重視し、研究開発成果の還元つまり、実用化並びに産業への応用を出口とする。

 具体的には、今後5年から7年の間に研究開発の成果を実用に繋げることを目指して、第4期基本計画において国の重点施策として定められているグリーンイノベーションの推進及び豊かで質の高い国民生活の実現に資する航空科学技術の研究開発を行う。その中でも、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針(平成22年12月7日閣議決定)」及び上記の指摘を踏まえ、「環境適合性」及び「安全性」に係る研究開発に重点化する。
 その際、具体的な出口、すなわち研究開発成果の展開について、次世代・次々世代完成機の開発動向等を踏まえ、2020年及び2025年を目標時期として設定することとし、機体の「環境適合性」及び「経済性」、運航の「安全性」に係る革新技術(詳細は2.1.1及び2.1.2を参照。)を順次確立し、産業界への橋渡しを着実に実施していくことを目指す。
 なお、東日本大震災を踏まえた今後の対応については、防災関係機関の検討を踏まえた取組に、最大限協力することは言うまでもなく、防災関係機関と積極的に連携して検討した上で、必要となる研究開発を推進して行くことが重要である。

2.1.1 環境負荷低減に資する研究開発

 世界最先端の低炭素社会の実現に向けて、環境・エネルギー技術の一層の革新を促す研究開発の推進が求められている。さらに、航空機の環境適合性向上技術は、航空機産業の国際競争力に直結する差別化技術である。
 そのため、本研究開発では、国が先導して高性能化・差別化に係る技術を開発し、民間に技術移転することによって、世界最先端の低炭素化社会を実現するとともに、航空機産業の国際競争力強化を図ることを目的とする。
 具体的には、航空輸送におけるエネルギー利用の高効率化及びスマート化を図るため、機体の軽量化に資する炭素繊維複合材に係る研究開発や排出ガスの少ないエンジンの研究開発等を中心とする。
 さらに、将来、増大する航空需要に対応する際に問題となることが予想される騒音問題を緩和するため、現行及び次世代の航空機の騒音低減に資する研究開発についても推進して行く必要がある。

【研究開発課題の例】

  1. 複合材を用いた機体軽量化に係る研究開発
  2. 低環境負荷エンジンに係る研究開発
  3. 航空機の低騒音化に資する研究開発

2.1.2 航空の安全性向上に資する研究開発

2.1.2.1 機体の安全確保
 航空機事故はひとたび起こると多くの人命が失われる可能性があることから、航空輸送において最も重要視されるものは安全であると言える。
 本研究開発では、航空機の設計における安全性の向上や機体の検査、補修技術の向上等を目的とする。
 従来から実施されている、胴体着陸時や異物が機体に衝突した場合の機体への影響評価に係る研究は重要である。
 さらに、近年は、機体の軽量化を目的として、炭素繊維複合材を用いた航空機の開発が盛んに行われているところである。しかしながら、炭素繊維複合材についてはその素材の特性から検査及び補修に多大な労力を要する。また、長期間運用される機体の健全性維持のためには、経年変化を把握し整備するために多くの時間を割いている。
 そのため、こうした新しい素材を用いた航空機および機体の健全性維持の検査技術、補修技術の高度化は、航空機の更なる安全確保の観点から、特に重点化すべきである。

【研究開発課題の例】

  1. 異物衝突、胴体着陸等による機体への影響評価技術の高度化
  2. 機体検査、補修技術の高度化に資する研究開発

2.1.2.2 運航の安全確保
 巡航時や進入時に乱気流等の影響を受け、機体が大きく動揺した場合、多数の負傷者等が発生する可能性がある。そのため、運航時における乱気流の予測・回避技術等の確立が強く求められている。
 本研究開発では、航空機の運航における安全性の向上を目的とする。
具体的には、晴天乱気流を検知するシステムや後方乱気流の影響に係る評価に係る研究開発、乗員操作技術向上に資する研究開発等を重点化する。
 さらに、東日本大震災のような大規模災害発生時には、日本全国から多数の航空機が被災地に集結することにより、離着陸や給油・整備が集中し、順番待ちのための待機時間が増大するほか、空中衝突の危険性が増大することとなる。そのため、各災害救援機に最適な飛行計画を割り当てる情報共有ネットワークの構築にむけて、防災機関と協調して研究開発を実施していく必要がある。

【研究開発課題の例】

  1. 乱気流予測・検知技術に係る研究開発
  2. 乗員操作技術向上に資する研究開発
  3. 災害救援機運用の安全性向上に資する研究開発

2.2 「戦略的な基礎・基盤研究」

2.2.1 独創的で多様な基礎研究の強化

 ここでは、国力の源泉となる独創的な技術への挑戦を重視する。そのため、先行的な研究開発を実施することにより、社会に飛躍的な変革をもたらす航空輸送ブレークスルー技術の実現性を示すことを目標とする。先行的という点で、大学における自由な発想に基づく研究の成果も踏まえながら、長期的な観点から研究開発を着実に推進する。
 特に、今後、世界的な原油の需要の高まりが予想されており、温室効果ガスの排出低減のみならず、航空機の安定的な運航のためにも、電気を用いた推進系の開発やバイオ燃料や水素燃料といった従来の化石燃料以外の燃料を用いた航空エンジンの利用拡大に向けて、研究開発を行う必要がある。
 また、将来、世界的に航空交通需要の増加が予想される中、我が国においても、長期的な航空交通量の増加が見込まれている。そのため、混雑空域においても安全かつ効率的な運航が可能となるシステムの研究を推進する必要がある。
 加えて、ビジョンにおいて、我が国の航空機産業を将来に渡り持続的に発展させるため、「超音速機研究開発プログラム」として、今後さらに進展するグローバル化に伴う人・物の流れの活発化を支える超音速旅客機についての研究活動を長期的な視点で推進することとされている。このため、我が国で蓄積された独自技術を発展させ、次世代超音速旅客機の実現の鍵となる要素技術を順次確立するとともに、関連動向に注視しつつ、2030年頃までを目途として、全機設計技術を確立することを目指すべきである。

【研究開発課題の例】

  1. 電気推進航空機技術に係る研究開発
  2. 水素エンジンに係る研究開発
  3. 更なる運航の安全性、効率性等の向上に資するシステムの研究開発
  4. 超音速飛行時に発生するソニックブームを低減する機体設計技術の研究開発

2.2.2 航空科学技術共通基盤の充実、強化

 我が国の航空科学技術は、数値流体力学(CFD)等の数値シミュレーション技術、や風洞試験にける精密測定技術等の基盤的な技術に支えられており、航空機の国際共同開発においてもコンポーネントメーカとして確固たる地位を築いてきた。
 本研究開発においては、我が国が得意とする基盤技術をさらに発展させ、技術成熟度を高めていくことを目的とする。
 具体的には、航空機の高性能化、設計の飛躍的な効率化に貢献する全機設計技術の確立を目指し、空力や構造等多くの分野を統合させた数値シミュレーションを用いたコンピュータ先進設計技術の研究開発を重点的に実施する。また、数値シミュレーション技術の向上に不可欠な、風洞試験の精度向上に資する研究開発を強化する。さらに、我が国全体としての技術基盤の充実を図るため、基盤技術研究開発の成果のデータベース化を着実に進め、産業界へ積極的に技術移転する。

【研究開発課題の例】

  1. 数値シミュレーションの向上に資する研究開発
  2. 風洞試験の精度向上に資する研究開発

2.2.3 基盤的な試験研究施設及び設備の整備、共用促進

 試験研究施設及び設備は、基礎、基盤研究から技術実証までの研究開発を支える基盤であって、特に航空機開発においては、大型、かつ高性能・高機能な試験研究施設及び設備(以下「大型試験設備等」という。)が不可欠となる。このような大型試験設備等については、個別の大学や民間企業等が独自に整備することはリスクが高く困難であることのみならず、オールジャパンとして考えた場合には非効率であることから、国が責任を持って整備・維持・運用するとともに、性能・機能の向上を図っていくことが、産学から強く望まれている。
 そのため、基盤的な大型試験設備等について、オールジャパンとしてのニーズや産学からの要望等を考慮し、基礎から技術実証までの一貫した研究開発のみならず、実機開発までを見越して、戦略的な整備・維持・運用を行い、関係機関等との共用を促進するとともに、その利活用を積極的に進める。
 その際、風洞設備については、更新と併せて、2.2.2で述べた測定技術の高度化や数値シミュレーション技術との融合等に関する研究開発の成果も活用しつつ、性能・機能の向上を図る。また、国内に該当する施設が存在しないエンジン実証設備については、関係機関との密接な連携の上、できるだけ早期に整備する。

2.3 「人材育成」

 第4期基本計画においても、科学技術を担う人材の育成が謳われているところであるが、航空科学技術分野においても、研究開発成果を社会に還元するとともに、広く科学技術を担う人材を育成する必要がある。一般社団法人日本航空宇宙学会等の関連学会においては、委員会・シンポジウム等を通じて産業界の人材育成ニーズを大学教育にフィードバックするなどの役割を担っている。
 JAXAは、航空科学技術に体系的に取り組む我が国唯一の基礎・基盤的研究機関であり、その研究開発成果は、航空産業振興、航空安全規制等に活用される。
 そのため、JAXAは、人材育成においても、航空科学技術に関する研究開発の中核を担う実施組織として、公募型研究など従来からの取組に加え、人材糾合等による産学官連携体制を構築し、オープンイノベーションの創出、革新技術の研究開発とともに、上記の関連学会の活動と連携しながら実践的な人材育成を行っていくことが重要である。
 具体的には、クロスアポイントメント等を活用した産学官の多様な人材や異なる分野の出会いの機会の提供、魅力的な課題・プロジェクトの創出・推進等を通じた自発的・主体的な人材育成を促進するとともに、航空技術者を目指す若者等への魅力的で実践的な教育機会を提供するため、既に行っている数値シミュレーションを用いたコンピュータ先進設計技術を活用した大学講義等、最先端の技術に接する機会の提供や大学等への講師の派遣、学生の受入れ等を実施すべきである。


  (注1)「戦略的次世代航空機研究開発ビジョン(平成26年8月文部科学省次世代航空科学技術タスクフォース)」https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/1351186.htm
  (注2)https://www.mhi.co.jp/news/story/150410.html
  (注3)当初、25年度までの計画であったが、27年度まで延長することとされた。
  (注4)出所「2000 年度 産業連関費を利用した航空機関連技術の波及効果定量化に関する調査(日本航空宇宙工業会)」

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:平成27年09月 --