この章においては、15分野における地球観測の実施方針を述べる。
温暖化対策の政策決定のために、気候の現状を把握し、その変動予測の精度を向上することが求められている。このため、地球温暖化に係る温室効果ガス及び関連物質の状態を包括的、継続的に観測することで地球温暖化のプロセスの理解を深め気候変動の将来予測の不確実性を削減することが必要である。
気候変動を監視しつつ海水面・雪氷圏等への地球温暖化の直接的な影響を的確に把握する包括的な観測体制を整備することによって、人の健康や生態系に与える影響等の間接的な影響を含めた評価を行うことも必要である。
広く地球環境の包括的な理解は、地球温暖化現象の解明につながることから、地球温暖化の分野において必要な観測等は、1.全球的把握、2.アジア・オセアニア地域の包括的な大気観測、3.アジア地域の陸域炭素循環と生態系観測の統合、4.海洋二酸化炭素観測網の整備、5.気候変動に対して脆弱な地域での温暖化影響モニタリング、6.観測データと社会経済データの統合など極めて多岐にわたっている。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
水循環の分野においては、季節及び年々の変動が大きく、人間活動の作用のメカニズムが大きく働いているといった特徴がある。また、水をめぐる国際紛争が各地で発生しており、水問題は21世紀最大の地球規模での環境問題となることが世界的にも指摘されている。さらに、開発途上国だけでなく、我が国においても水・土砂災害のリスクマネジメントはますます難しくなっており、水・土砂災害が脅威となっている。人口増と産業発展に対して、上水道や下水道などの設備や排水規制などの社会制度の整備が追いつかない開発途上国を中心に、水質汚濁による公衆衛生上の問題も深刻化している。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
大気組成観測については、我が国には対流圏化学ガス成分を対象とした全球をカバーする衛星センサーが全く欠如している。特に、アジア地域をカバーする静止衛星によるアジア大気汚染常時観測センサーを含め、対流圏化学成分を対象とした衛星センサーが求められている。また、対流圏大気化学観測用の航空機による対流圏大気観測の実施体制を整備するべきである。さらに、アジア地域には対流圏大気化学観測の包括的地上観測ネットワークが存在しない。特に、汚染地域に対しては同時成分分析観測ネットワークの確立が必要である。
オゾンについては、オゾン全量及びオゾンゾンデによる鉛直分布観測が主に北半球中緯度域において実施されている。成層圏においては、国際的に大気組成変化検出ネットワーク(NDACC)が世界約80か所で多様な気体成分や気温などのパラメータを観測している。しかし、アジア、シベリア地域は空白地帯となっており、これらをカバーするネットワークが必要である。
海洋長期変動の観測については、太平洋熱帯域の係留ブイ網(TAO/TRITON)によるリアルタイム観測、Argoフロートの全海洋展開、船舶による全層での高密度・高精度の繰り返し観測、西部北太平洋における亜表層の係留系と船舶による高精度の生物地球化学観測、北極海域における自動観測ブイ・船舶観測等が進められている。しかし、熱帯域の係留ブイ観測に関しては空間的にほとんどが空白域である。また、Argoフロートは測定項目が水温・塩分が主で二酸化炭素等の化学系データが不足していることから、今後Argo等の自動観測装置に搭載可能な化学センサーの開発が不可欠である。さらに、海洋再解析の観点から2,000メートル以深での観測データが不足しており、船舶観測の推進、深層で使用可能な自動センサー類とこれを搭載する装置の開発や、海洋酸化(ocean acidulation)の実証データとなる古海洋でのプランクトン群集構成データも必要である。
人為的海洋汚染の広がりの解明と生態系への影響の把握については、バラスト水の生態系への影響調査、有機スズの定点調査、ダイオキシンの魚介類への蓄積実態調査などが実施されている。しかし、研究段階のものほとんどであり、観測期間、観測項目、観測域のいずれも不足している。海産生物の越境移動の実態把握や海産ほ乳類への影響把握はほとんど実施されていない。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
陸上における生態系の観測については、スーパーサイトの設置、データ統合システムの構築等は、京都議定書の第1約束期間が始まるまでに設計する必要がある。また、衛星観測システムの構築は時間を要するため、実現の有無は別にして、設計は早く開始する必要がある。特に、京都議定書第2約束期間には温暖化ガスの収支評価に衛星観測が導入される可能性があるため、できる限り早期の検討が必要である。
また、海洋における生態系の観測においては、各分野で空白となっている海域における温暖化とそれによる生態系への影響を把握するため、海洋定点における炭素循環、生態系の時系列観測について、1年間から2年間までの準備期間を設けて関係府省・機関が連携して立ち上げることが必要である。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
現状ではWMOの枠組みに基づいて全球観測システム(GOS)が展開・維持され、地上気象観測が実施されている。また、静止気象衛星の世界6機体制による全球毎時観測や極軌道衛星等の地球観測衛星による様々な物理量の観測が行われている。さらに、先進諸国においては、数値予報モデルにより気象予測を行い、防災情報を作成・発表するとともに、関係国の気象機関への提供を実施している。
しかし、開発途上国等の観測データが不十分であり、気象・水文の定常観測地点が減少傾向にある。衛星観測については、より一層の高空間分解能・高頻度な観測の実施が必要であり、夜間・荒天時の観測が実施できていないことから、合成開口レーダやマイクロ波による観測が必要である。現象のモデリング技術が必ずしも十分でなく、また、衛星観測、気象・水象観測と既往の水管理システム、流出モデルとの結合が不十分である。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
アジア東部地域ではシベリアからインドネシアにいたるまで毎年多数の火災が発生しており、アジア森林パートナーシップ(AFP)においても強化項目とされている。特に、エルニーニョ現象の見られるときに頻発しており、これらは被災した森林資源や人体への直接的な健康被害だけでなく、地球環境への影響が指摘されている。
そこで、森林火災の被害を軽減するための統合的な処理・配信システムの確立と利用がアジア東部地域では必要である。可燃バイオマス量、乾湿度情報、風向・風速、地形データ、予測モデル等を統合的に処理、延焼の誘因となる観測情報と予測情報を配信するシステムが必要であり、特に、短時間での延焼予測と情報提供を可能とするシステムが森林火災の軽減に不可欠であり、早急に整備を図る必要がある。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
アジア・太平洋地域は世界で最も地震・津波・火山災害の多い地域であるにもかかわらず、日本、台湾、韓国以外の国・地域では地震・地殻変動観測網の整備が遅れている。
日本及び北米における最近の高密度地震・地殻変動(GPS)観測の結果、繰り返し地震、アスペリティー、準静的すべり、深部低周波微動の発見等、海溝型地震の発生プロセスの解明は着実に進行している。しかし、これらの観測をアジア・太平洋地域に対象領域を広げることができる場合には、同じ年数でも数倍の地震を研究対象とすることができるようになる。
インドネシア・スマトラ島沖大地震及び津波以降、津波早期警戒のための地震波形データリアルタイム交換の枠組みが構築されようとしている。監視業務に加えて、より広い地域を対象とした研究目的のデータ相互利用の促進も合わせて求められている。
海溝型地震は陸から離れた海底下で発生するため、陸上の観測だけでは震源位置等の決定精度に限界があり、海底での観測が必要である。また、津波の発生と伝播は専ら地震データに基づいて推定されている。しかし、発生場所に近い沖合の海底で津波を直接測定することができる場合には、警報の信頼度が格段に高まるとともに、強い地震動を伴わない津波地震への対応も期待することができる。
地震による被害の規模を、発生直後に速やかに正しく推定することによって、迅速な災害対応を適切な規模で行うことができる。このため、衛星画像の解析による直接被害推定、天候や回帰時間に左右されない地震学的手法による被害推定の2つを組み合わせた早期被害推定システムの構築が求められており、それぞれの手法の高度化やデータベースの整備を図る必要がある。
火山被害の軽減のためには、静穏期を含めて継続的な地殻変動観測・地球科学的観測等を行い、その結果に基づいた噴火の兆候の観測や噴火後の地形変化・噴出物の広がり・環境影響等の調査を行う必要がある。噴火活動の危険性にかんがみて、調査が困難となり、噴火状況を接近して確認することができない状況がしばしば起こり得る。このような場合に対しては、衛星観測による随時の状況調査が極めて有効であり、また、海底火山や地上での調査・観測が困難な場所における火山観測を行うためにも、衛星観測データを積極的に活用することが重要である。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
我が国は、エネルギー・鉱物資源のほとんどを海外に依存していることから、国際的協調に基づき必要な情報を入手することが重要である。このため、日本側が提供できる衛星情報や高度な調査解析技術などを戦略的に提供し、標準化、データ共有化のイニシアティブを発揮するとともに、多量の衛星データを効率よく解析しタイムリーに提供するために、解析システム自体を効率化し、全体的な解析技術の機能向上を目指すことが必要である。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
森林資源分野においては、森林火災、違法伐採や環境被害、環境変動に伴う病虫害の発生や森林の衰退に関する監視が必要となっている。特に、違法伐採は地域経済のみならず国際的な問題として極めて重要であり、森林資源の持続性を脅かすものとなっている。また、近年の環境変動に伴う異常気象も森林被害をもたらしている。このため、森林の実態を高頻度に把握して、森林被害にかかわるトータルな情報を広範な人々で共有可能し、森林資源監視の目を広げて、持続的管理システムを構築することが必要である。
ヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(WSSD)において、日本とインドネシアが提案国となって、「アジア森林パートナーシップ」(AFP)が了承された。このパートナーシップの主な内容は、違法伐採、森林火災、荒廃地回復の3項目である。この活動においては、リモートセンシング技術を森林管理に利用することが推奨されている。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
東アジア・東南アジア地域は、多くの人口を有するために食糧問題などで全世界に波及効果を及ぼすことから、同地域の農業生態系を観測監視するとともに異常気象による農作物災害(冷害、干ばつ、低温、霜害、病虫害など)を軽減することは、我が国の食の安全の確保の観点からも重要である。しかし、農業生態系の監視と農作物災害を軽減するための早期警戒システムのために必要な手法の開発が不十分である。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
海洋生物資源分野においては、プランクトン食性浮魚類における卓越種の交替現象が顕著であり社会的影響が大きい。しかし、その機構解明には対象生物だけでなく、生産を支えるプランクトン、海洋環境の広域的・継続的な観測が必要である。しかし、プランクトンや魚類仔稚幼魚のモニタリング及び変動機構研究は、調査船とネットを用いた従来の手法では調査の範囲や頻度を増やすのに限界があり、ブレークスルーとなる技術開発が必要である。
また、エチゼンクラゲなど突発的に大量発生し、漁業被害を与える生物のモニタリング、発生機構解明は中国、韓国との国際協力も含めた推進が必要である。さらに、東シナ海、日本海、オホーツク海など日本周辺の海洋生物資源は、日本だけでは的確なモニタリング・管理が難しいことから、日本周辺の国々とのデータ交換、共同研究の推進が必要であり、我が国が率先して進めなければ進展が見込めない状況にある。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
空間情報基盤分野は、我が国発の世界的プロジェクトであり、平成19年までに全陸域整備を目標としている地球地図の整備が進められている。このプロジェクトは、平成14年WSSDでの採択文書にも記述されており、着実に整備する必要があり、整備完了後の地球環境の変化の監視等を継続して実施し、この分野で世界をリードすることが重要となっている。
また、統合された統一的な全国土地被覆データは、国土の状況を示す基本的な地理情報である。このデータは京都議定書の履行監視に必要な二酸化炭素等の吸収排出計算の基盤データとなるだけでなく、国土計画、都市計画、防災、気象、農業等における基本的な地理情報として各方面からのニーズが大きいことから、国家的事業として取り組む必要がある。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
地球環境関連研究や観測成果を災害、食糧・水、健康など諸分野を通じて社会的便益の改善につなぐためには、人口や人間活動の分布やその変化などの情報利用が不可欠であり、また、これらのデータは多くの研究や政策検討において共通に利用するデータであるため整備の効果が大きい。
このような状況を踏まえて、平成19年度においては、農地分布データの整備をはじめとする、この分野において関係府省・機関で継続的に行う観測等を着実に実施することが必要である。
気象・海象分野では、関係府省・機関において、それぞれの業務上の必要性や研究目的に基づいて、長期継続的に観測を実施している。
今後も、地球観測の基盤的な情報である気象・海象に関する定常観測を維持・発展させる必要があることから、平成19年度においては「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
地球科学の分野は、構成する課題の広がりが地球外部起源の地球システム変動から地球内部起源の地球システム変動まで広範囲にわたる領域を対象としている。
ジオスペース環境観測の高度化・広域化と太陽活動の精密観測と気候変動機構の理解において、太陽風からのエネルギー流入による環境変動への影響を正確に評価することが重要である。このため、全球的な同時観測が必要であり、温暖化など長期の気候変動の影響が先行して現れる中層大気・熱圏・電離圏の観測によって気候変動に対する太陽活動の影響を調査することが必要である。特に、シベリアにおける定常的な観測に空白があることから、対策が必要である。
極域における対流圏大気から超高層大気にいたる大気観測の実施においては、地球環境変動が顕著に現れる北極域中層大気観測に空白を生じている。
堆積物試料(氷床コアを含む。)に記録された気候変動の解読においては、極を含めた高緯度域、南半球高緯度域と太平洋セクターは十分な組織的観測が行われてきていない。高い時間分解能で古気候変動を復元し、温暖化予測精度の向上に資するためには、堆積速度の高い縁辺海や沿岸域が重要であり、過去の典型的な昇温期を含む時代に焦点をあてた広域的な古環境復元が必要である。
海底・湖沼堆積物の多成分分析の取組においては、近未来予測に繋がる数年から数十年単位の高解像度データを取得するためには、堆積速度が早く長大なコア試料の非破壊分析、元素の同位体比の高速微量測定の技術開発が急務である。
超深度掘削の実施においては、超深度環境における地球内部観測は次世代のターゲットであり、リアルタイム地震警報や生命の起源に迫る現場観測を可能にするものである。
アジア・オセアニア域の固体地球観測網の整備においては、日本周辺で起こる巨大地震の多くは海底のプレート境界域で発生するため、海底ケーブルを用いたリアルタイム観測は地球内部ダイナミクスの理解と地震津波防災にとって、今後、最優先の課題である。
このような状況と関係府省・機関の準備状況を踏まえて、平成19年度においては、「基盤的事項」(第1章参照)で挙げた新規又は拡充の施策を推進するとともに、「地球観測の推進戦略」分野別地球観測等事業一覧(別表)に掲げる継続の施策を着実に実施することが必要である。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --