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平成15・16年度
科学技術政策提言
報告書要旨
資料4−4
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
(第16回)
平成17年7月8日

「サイエンス・メディエーター制度の推進」
中核機関 財団法人 関西文化学術研究都市推進機構
研究代表者 高橋 克忠 (NPO法人 けいはんな文化学術協会)

目的
   科学技術が急速に展開する中で、大きな問題となっている「専門家と一般市民との間の意識の乖離」を埋め、科学ならびに科学技術の成果を真に全ての人々が享有できる成熟した社会を実現するためのサイエンス・メディエーター制度はどうあるべきかを明らかにすることを目的として本調査研究を実施した。

調査の流れ
 (1) 児童生徒を含む国民各層が抱く科学技術ならびに科学技術情報の伝達に関する意識を調査分析した
 (2) 科学技術のメディエーション実験をケース・スタディーとして実施し、評価分析ならびに具体像の構築を図った
 (3) 国民的理解を得るための科学技術政策としてのサイエンス・メディエーター制度がどうあるべきかをまとめた

現状分析および海外の状況
   科学は本来人間の文化活動の一側面であるにも拘わらず、市民の多くは“文化”とは独立した特別な存在としての位置付けを与えているように思われる。科学自身の社会への影響力の大きさや科学の論理性・中立性が想起させる無機質性、そして科学コミュニティーの閉鎖性などが、このような「科学者と一般市民との間の意識の乖離」を生む大きな要因となっており、海外では従来型の、「知識を理解させ、科学活動の効用を説く理解増進活動」に見直しが進められている。
 例えば、英国では、1831年に創設された英国科学振興協会をはじめとして、科学技術の啓蒙普及活動において長い歴史がある。しかし近年になって、科学技術の知識を高所から教え込むという従来のやり方に替えて、科学技術行政や先端的研究の透明化を促進すると同時に研究者、メディア関係者、一般市民等の間の対話を重視するようになった。
 また、今回の国内アンケート調査と並行して進めた米国での実態調査においても、数年前から理解増進活動イコールPUR (Public Understanding of Research)の目的が、従来型の科学活動の効用を説く形だけでなく、研究費の審査基準として、期待される成果が一般社会に与えるインパクトと同時に普及活動計画を追加している。また、大学、研究機関、科学館などと連携し、科学者と一般市民がオープンな場で接する機会を設けている。
 ヨーロッパ(EC)でも、第6次基本計画(FP6:2002〜2006)の中で、“科学と社会”を1項目として括っている。その背景は、負の側面の精算、科学知識による競争力の維持、科学への無関心の歯止めであり、3つの柱:(1) 科学をより身近なものに、(2) 科学・技術の責任ある開発と応用、(3) 科学/社会の対話の科学領域における女性の参画を基に、38項目からなるアクション・プログラムを作成し、これに沿って、EC、国レベル、地域レベルで各種の試みを行っている。
サイエンス・メディエーター制度のイメージ図
調査対象と調査のパターン
   海外の実態調査以外に以下の4つのパターンの調査を行った。かっこ内の数字は調査対象毎の母数を表す。
 
 (1) 科学技術と科学技術情報の伝達(以下、メディエーションと略)に関する意識調査を行ったもの
 一般公開研究発表会、フェスティバル、セミナー、講演会、学校の授業などを利用してアンケートを実施
 
 対象: 小学生かっこ227名、中高生かっこ820名、大学生かっこ564名、主婦かっこ532名、一般勤務者かっこ約412名

 (2) メディエーター候補者、組織群のメディエーションに関する意識調査を行ったもの
 ダイレクトメール、ホームページを利用したアンケート調査および個別聞き取り調査
 
 対象: 小中高教員かっこ621名、大学教員かっこ490名、自治体職員かっこ290名ならびに81自治体、研究者かっこ790名、学術団体かっこ39団体

 (3) メディエーションをテストケース的に行ったもの
 一般市民および研究者におけるメディエーションの事前事後アンケートによる意識調査
 (効果的メディエーションに関する検証)
 
 対象: 小学生かっこ227名、中高生かっこ約700名、大学生かっこ357名、主婦かっこ492名、一般勤務者かっこ約200名

 (4) メディエーター候補者、組織群のモデル・メディエーター養成教育を通して調査を行ったもの
 メディエーションに関する現状認識、メディエーターとしての資質、適正、教育方法に関して
 
 対象: メディエーター候補かっこ357名、非メディエーター候補かっこ207名

成果の要約
   調査の結果、科学者と一般市民の意識の隔たりは、人と人との心理的距離と関係が深いことがわかった。 つまり、一般市民と科学技術の専門家との意識の乖離を埋めるためには、積極的な対話によって信頼関係を構築し、科学サポーター層を生み出すような新しい価値観を作ることが重要であり、その具体的な実践として一般市民の科学活動参加と科学者の市民活動参加を進めることが考えられる。
サイエンス・メディエーターの役割と流れのイメージ図
   サイエンス・メディエーターは、サイエンス・コミュニケーターを含むジャーナリスト・評論家およびアウトリーチ活動を行う研究者と一般市民の間に介在し、それらの活動および情報伝播が円滑に進むことを助けるものである。ただし、私たちは、サイエンス・コミュニケーターや様々な分野の専門家のように「サイエンス・メディエーター」という新たな専門家を作ることは提唱しない。新たな専門家を作るとそこで価値観の乖離が生まれ、価値観のコロニー化が進むためである。したがって、私たちの提案する、サイエンス・メディエーターは、専門家であると同時に一般市民であることを強く意識し、本業との兼務という形を想定する。勿論、「兼務」は片手間でやることを意味するのではない。「兼務」という形を機能させることこそが、「科学者と一般市民の乖離」を乗り越える新たな価値観創造のために重要であると考える。

 サイエンス・メディエーターの資質に関しては、受け手側に信頼されることが第一に重要である。勿論、まさに科学研究をしている人、もしくは、していた人が適任であることは言うまでもない。しかし、熱意を持って科学技術のダイナミクスを伝えられるのは科学研究者だけとは限らない。芸術や文学、ジャーナリズムなど一般的には文科系と言われる分野においても科学は大きな影響を及ぼしており、文系人材や一般市民の中で熱意をもって科学技術の姿を伝えたいと思っている人もメディエーターとしての有資格者である。ここではこの両者2名がペアとなってメディエーション活動を行なうことで、メディエーション技術も含め、様々な分野の人たちとのコミュニケーションの幅が広がるものと期待している。

 科学研究者がメディエーターとして相応しいということを上に述べたが、これは全ての研究者にそうあるべきことを期待しているのではない。意欲があり、熱意を持って伝えられる人でなければ意味をもたない。本報告の中では研究者がサイエンス・メディエーションに従事することへのインセンティブを社会的に保障すると同時に、そうした人材を養成する具体的な方法についても触れている。

 また、サイエンス・メディエーションの手法は一律に同じものであってはならない。目的および対象者、その規模に応じて効果的なメディエーション手法を採用しなければならない。本報告では、次の4階層のメディエーションに区分し、具体的な方策を提案している。
  1   研究者と子ども・市民との接点づくり ⇒ 「学校のクラス単位程度の体験型セミナー」(30名以内)
  2   研究所、研究者と学校教育との接点づくり ⇒ 「100人規模の講演会」(30人〜100人)
  3   研究所と地域との接点づくり ⇒ 「研究所の一般施設公開およびサイエンスフェスタ」(100人〜数千人)
  4   科学と国民との接点づくり ⇒ 「マスメディアを使ったTV・Internet番組制作・放送」(数千人以上)

 さらに、本調査研究では、サイエンス・メディエーションを実施し、またサイエンス・メディエーターを養成する機関は、NPO(NGO)が最も相応しい組織であるという結論に至った。サイエンス・メディエーションでは、主役は一般市民であり、専門家ではないことこそ重要で、サイエンス・メディエーションを行うのは一般市民活動として専門家が活動することである、というものである。
サイエンス・メディエーター養成のイメージ図
   したがって、サイエンス・メディエーションの施策の根幹は、大学等の研究者、企業の研究技術者を含む一般市民が、NPO、NGO等の市民活動を行いやすい環境を整備することであり、自主性をより高く評価する土壌を形成することである。
 その一例として地域の自治体とNPOが核となり、学校や試験研究機関とゆるやかな連絡体を構成し、マスメディアとの連携や自治体担当者の教育も含め、効果的にメディエーションを実施するための組織構成および各員の役割分担を図示する。
 なお、ここで自治体(行政)の役割を重視するのは、これからの社会では、自治体が担うべき主要な業務としての住民福祉の中に、科学技術情報の市民への伝達が重要な位置づけになると考えるからである。

 これら調査研究の結果はいくつかのパイロット・プランを含む提案として報告書に記載しているが、同時にそれを反映させたサイエンス・メディエーション・モデルを継続実施し検証を重ねていくことにしている。すでに公募プログラム:平成17年度研究者情報発信活動推進モデル事業へ「文理融合による情報メディアコンテンツ共同制作」として応募しているのをはじめ、いくつかのモデル開発を提案している。


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