令和7年2月3日(月曜日)14時01分~15時51分
WEB会議
中釜主査、岡田委員、川﨑委員、小崎委員、櫻井委員、澤田委員、武林委員、玉腰委員、寺尾委員、桃沢委員、横野委員
武田薬品工業株式会社 寺尾寧子ヘッド、慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室 石垣和慶教授、藤田医科大学医学部精神科 岩田仲生教授、東京大学大学院医学系研究科 山内敏正教授
塩見研究振興局長、松浦研究振興局審議官、釜井ライフサイエンス課長、小野ゲノム研究企画調整官
【小野ゲノム研究企画調整官】 では、定刻を少し過ぎましたけれども、委員の皆様、おそろいですので、ただいまより、第3回次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会を開会いたします。
委員の皆様におかれましては、御多忙のところをお集まりいただき、誠にありがとうございます。文科省ライフサイエンス課、ゲノム研究企画調整官の小野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日も、Web会議システムによる開催とさせていただいております。委員の皆様、御発表者の皆様には、御配慮、御協力いただき、誠にありがとうございます。本作業部会の模様は、関係省庁、AMED及び一般の方にも傍聴いただいております。
本日の委員の御出席ですけれども、本日は、伊藤委員、斎藤委員、二宮委員より御欠席の御連絡をいただいており、また、武林委員は15時より遅れて参加される御予定いうふうに聞いております。現時点で出席委員数が総委員数14名の過半数に達しており、定足数を満たしていることを御報告いたします。
なお、本日、議題(1)にて説明者としても御発表いただきます寺尾委員が、前回まで委員をしていただいていた高橋委員の替わりとして、専門委員として新たに着任いただいております。また、日本製薬工業協会より有識者として安達様にも御参加をいただいております。寺尾先生、安達先生、どうぞよろしくお願いいたします。
会議の円滑な運営のため、ZoomによるWeb会議システムで御参加いただいております皆様にお願いがございます。委員の先生方におかれましては、表示名は、本名、日本語表記、フルネームとしていただきますよう、お願いいたします。また、通常はマイクとビデオをオフにしていただき、御発言を希望する場合はビデオをオンにしていただければと思います。また、発言される場合のみマイクをオンにしていただきますよう、お願いいたします。発言が終わられましたら、両方を再度オフにしてください。その他、システムの不備等が発生しましたら、随時、事務局までお知らせください。Web会議システムの音声が切れてしまった場合には、事務局より事前にいただいておりますお電話番号に御連絡をさせていただきます。表示名や音声・映像については、事務局により操作させていただく場合がありますこと、御承知おきください。御不便をおかけすることがあるかもしれませんが、何とぞ御理解いただけますようにお願いいたします。
続きまして、文科省の出席者を御紹介いたします。研究振興局より、局長の塩見、審議官の松浦、課長の釜井が出席しております。
それでは、以降の進行は中釜主査にお願いいたします。
【中釜主査】 中釜です。委員の先生方、本日もよろしくお願いいたします。
では、時間が限られていますので、早速、本日の議題に入ります。まず、本日の議事と配付資料について、事務局から確認をお願いします。
【小野ゲノム研究企画調整官】 議事次第を御覧ください。本日の議題は、3点でございます。
議題(1)は、企業によるバイオバンク利用についてです。実際に製薬企業にてバイオバンクのデータを利活用されていらっしゃいます、武田薬品工業の寺尾先生に御発表をいただきます。
議題(2)は、今後のゲノム研究の在り方についてです。B₋cureの事業ですとか、そのほかの事業で実際に研究を実施されている、慶應義塾大学の石垣先生、藤田医科大学の岩田先生、東京大学の山内先生に御発表をいただきます。
議題(3)は、報告書の骨子案についてです。第1回と第2回の御議論を踏まえて、事務局にてまとめた、報告書の骨子案を事務局より御説明いたします。今後、委員の皆様に御意見を伺って、次回の作業部会にてまとめた報告書として取りまとめる予定でございます。
各議題において、発表の後に質疑応答の時間を設けさせていただきます。
配付資料は、議事次第に記載されているとおりです。資料は、委員の皆様に事前にメールにてお送りさせていただいております。資料番号は議事に対応しております。不足等ございましたら、議事の途中でも構いませんので、事務局にお声がけください。
事務局からの説明は、以上です。
【中釜主査】 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
早速、これより議事に入りたいと思います。一つ目の議題は、企業によるバイオバンク利用です。寺尾先生より御説明いただきたいと思いますが、発表15分、質疑15分程度を考えていますので、よろしくお願いします。
寺尾先生、よろしくお願いします。
【寺尾ヘッド】 どうぞよろしくお願いいたします。武田薬品工業R&Dの寺尾でございます。本日は、このような場で、現在の製薬企業のバイオバンクの利活用につきまして、実際の例を御紹介するとともに、課題感のようなものも御紹介させていただく、貴重なお時間をいただきまして、誠にありがとうございます。
次、お願いいたします。
本日は、こちらの4部構成となっております。まず、背景ということで、現在の製薬企業R&Dの在り方の潮流について、全般の情報、また、弊社武田薬品のある種の例、ケースとして取り上げさせていただきながら、特に、この10年間での変化、現状についてお伝えしたいと存じます。
その後、こういったR&Dの変化を踏まえて、特に製薬企業のバイオバンクに対するニーズの在り方というのも変化・成長してまいりますので、その辺りを改めて振り返ってみたいと存じます。
加えて、その例といたしまして弊社の利活用例を御紹介させていただきました上で、簡単ではありますが、企業が直面する課題につきまして、ステークホルダーの皆様と共有し得る課題につきまして、御紹介させていただきたいというふうに思っておりますし、最後に、あるべき未来について、簡単に触れさせていただきたいと思っております。
次、お願いいたします。
まず、製薬企業R&Dの潮流についてから、入ります。近年、特にこの10年間におきましては、業界では大きく、グローバル化、パイプラインの創出源としての創薬エコシステムの利活用、DD&Tへの注力ということが進んでおります。これは医薬品自体の科学的・技術的な進歩とアンメットメディカルニーズの多様化に伴うものでありまして、具体的にはということで、新規モダリティの台頭、それを医薬品として実用化・製品化するための水平分業ということが非常にドラスティックに進んでいることが、背景として考えられます。
次、お願いいたします。
具体的に我々の武田薬品工業の在り方を、ある種、例として御紹介させさせていただきます。例えば、こちらの図の一番左側にありますように、約25個の臨床試験段階にある新規薬品候補を弊社は有しているんですが、そのうちの50%は、いずれかの適応症、もしくは地域においてオーファンドラッグとしての可能性があるものが占めております。
また、モダリティに関しましても、2番目にありますように、多様なアンメットメディカルニーズに応えるべく、25%の低分子薬品に加えて、75%がいわゆる新規モダリティと分類されているものに所属いたします。
また、エコシステム利活用という観点でも、パイプラインの60%以上をパートナーシッププログラムが占め、実際にそのために実施しているコラボレーション、共同研究も180以上に上がります。
次、お願いいたします。
こちらはちょっと違った視点で、グローバル化というところについて御紹介するために用意してみました。バリューチェーンのグローバル化と一言で言いますが、実際に我々はどのような体制で取り組んでおりますかといいますと、注力重点領域に関わる、いわゆるシーズ、前臨床段階のアイデアやイノベーションは、社内外といった由来を問わず、湘南アイパークとボストンの弊社の研究施設において評価され、インキュベーションされ、臨床ステージへと進みます。そして、地域的な出どころを問わず、グローバルでの臨床開発というのは、こちらにありますグローバルのボストンのハブから、原則的には国際共同治験として世界の各地で遅滞なく上市に至るようにデザインされ、実行されます。日本の場合は、大阪本社にあります、日本開発センターが遂行いたします。
次、お願いいたします。
継続的に革新的医薬品を創出・開発していくためには、重点疾患領域での戦略に基づいたポートフォリオデザイン、R&D戦略が欠かせませんが、我々の場合は、オンコロジーと細胞療法、ニューロサイエンス、消化器系・炎症系という三大重点領域にフォーカスし、アンメットニーズ解消のための前向き・戦略的な活動を繰り広げております。その際に、データサイエンスとデジタルテクノロジー、いわゆるDD&Tといったものは、製造業における一般的な効率化の手段としての位置づけを超え、我々のコアになりますイノベーションを生み出すためのもう一つの源泉として位置づけられ、積極的な投資を行っております。本日の議題で言えば、バイオバンク、そこに付随するデータといったものは、このDD&Tの対象であるとともに、重点領域領域を下支えする貴重なアセットというふうに考えられるかと思います。
次、お願いいたします。
少し視点を変えまして、新規モダリティが拡充していくことに伴う、会社としての取組方について御紹介いたします。こちらも、科学技術・医学研究の進化、また、細分化するアンメットメディカルニーズに応えるべく、特にこの20年間で、バラエティーに富んだモダリティ、治療方法が患者さんに提供されるようになりましたが、これを企業の立場で申し上げますと、こちらにモダリティごとにお示ししますように、成功要因と課題がそれぞれ異なります。それぞれについて、ゼロから課題を解決するためにノウハウ・知識を積み上げるのは、容易ではありません。また、こちらの図においては研究段階を主眼に各課題を表記しておりますが、これが臨床開発や製造段階まで進みますと、それぞれについて、さらに深い知見、技術、知識、それらをもって作り上げた製品を安全で適切に、各地の薬事、製品に関するルールを守った戦略を持ってグローバル開発を行っていくという、企業に必要とされる要件というのはますます厚く広くなっていきます。エコシステムということを冒頭に申し上げましたが、新規モダリティを有するバイオテクとパートナーリングを行うのは、こういったシーズを取ってくるというだけではなくて、医薬品として実際に世に出す上での付随するノウハウを内在化するための重要な手段にもなっております。
次、お願いいたします。
層別化戦略ということについて、少し御紹介させていただきます。これまでの医薬品というのは、より高い安全性と有効性のバランスというふうには申しておりますが、実際には、今ある診断基準により規定される患者集団に対する平均の有効性といったものに基づき、試験の成否が判断されてまいりました。今後、実際にさらにより科学的・医学的に踏み込んで、追求する患者さんの層というものを明確化する。すなわち、共通する病因や病態を有する患者さんを本当に的確に層別化し、フォーカスした臨床試験計画をデザインするということが非常に求められている、また、成功確率を上げるということにつながるというふうに考えているんですが、この辺りというのを本当に実現させるためには、デジタル、テクノロジーに加えて、その候補としてデータサイエンスといったものが必要とされるというふうに期待しておりますし、実際に戦略的な投資というところも行っております。
次、お願いいたします。
一方で、我々はコストということも非常に考えなくてはいけないんですけども、過去の10年間、15年間の様子を、現状としてコストという観点から振り返ってみたいと思います。実質的なコストを測る上で、成功確率をモニターする上での一つの指標として、一つの新薬を出すために必要な化合物数の観察というのをこちらで行っております。こちらにありますように、2010年以降の成功確率は、2万5,000個の化合物から一つと、ほぼ横ばいになっております。一方で、研究開発費は増加する一方ですので、より多くの投資をしても成功確率という点では効果が出てないという現状がございます。
次、お願いいたします。
こちらは、先ほど取り上げました導入品ですね。エコシステムに由来する導入品についての課題を数値で表したものです。日本の大手製薬企業の2010年以降のデータを分析した結果となっております。外部イノベーションの取り込みには、品目導入、企業買収と、大きく分けて二つございますが、こちらのトップに黒で示してございます承認品目の割合は右に行くほど低くなりまして、自社創出品に比べて同等以下となっております。これは、導入品の価値を最大化できていないという課題を示しております。
次、お願いいたします。
こちらは、セールスの側面で見たデータになります。こちらグはローバルのデータとなりますが、売上高という側面から見ても、いわゆる導入品については、左側の上市後の売上高合計、右側のピークセールス、両者で自社品に比べて見劣りするものがあります。先ほどのデータと併せて見ましても、ポートフォリオを拡大するに当たり、導入品獲得は必須であるのに対して、我々が価値最大化ということをできていないということは、非常にジレンマとして直面しているものでございます。
次、お願いいたします。
こういった潮流・課題感の中で、実際にバイオバンク利活用やニーズにどのような影響を与えているかということを見てまいりたいと思います。
次、お願いいたします。
こちらの図では、上部の左から右に行っております矢印では、いわゆる製薬R&Dのバリューチェーンを、主にバイオバンクに付随する情報、健康情報や医療情報が利活用される可能性のある場面を念頭にマッピングしたものです。製薬企業は、従前は主に自社創出品のアイデアや仮説の創出像で確認について、バイオバンクオーナーの皆様と協力し、川上から川下への道筋となる研究を行ってきたかと思います。現在の潮流の中で我々は、こういった左から右へといった流れに加えまして、各種ステージからの導入品に対しても、その価値最大化に向けて、最大限効率的なR&D戦略、特に臨床開発戦略をつくり、展開していく必要がございます。従来であったら一本の川であったものが、支流といったものが徐々に増えてきているという状況になります。こちらは何を意味しますかといいますと、バイオバンクのサンプル・データを利活用しました疾患研究というのは、新規ターゲット探索のみならず、当然、臨床以降のプロセスでも連続的に必要にされるので、導入品増加傾向の中で利活用のニーズは臨床フェーズへと拡張しているとも言えます。また、この図でもう一つ、大学とスタートアップをプロットしておりますが、イノベーションの創出の担い手がエコシステムの中での大学スタートアップであることから、大学やスタートアップがバイオバンクとの協業の強力な相手となることも必然であることが見てとれます。これまでの本作業部会におきましても、UK Biobankバンク等のユーザーとして、企業の割合が少なく、大学やスタートアップが多いというトレンドが見てとれましたが、こういったグローバルな状況をよく反映しているデータを今まで見てきたのではないかなというふうに思っております。
次、お願いいたします。
違う角度での企業のバイオバンクに対するニーズを表してみたのが、こちらになります。従前は、創薬研究部門がバイオバンクを、また、臨床開発・市販後研究部門がレジストリや医療情報データベース等の分担の中でデータベース研究というものが進んでおりましたが、現在は、創薬部門から臨床開発・市販後部門にわたり存在する、様々なリサーチクエスチョン、クリニカルクエスチョンの各オーナー部門がまとめて、バイオバンク、レジストリ、医療情報データベース、もしくはデータのベンダーといったものを、地域、これは国やリージョンといったものを横断的に、また、疾患領域縦断的にということで情報収集し、利用を検討する傾向が見受けられます。すなわち、バイオバンク、レジストリ、医療情報データベースといった分類は、リアルワールドデータとして一くくりされ、適切に利活用できるものは何でも使いたいという強いアペタイトが企業側には存在していると言えます。
次、お願いいたします。
こちらから、武田の利活用について、ごく簡単に御紹介させていただきます。
次、お願いいたします。
こちらは、そもそもの川上に位置するターゲット探索における遺伝学的エビデンスの重要性というのは、弊社に限らず、ちょうど10年辺り前ぐらいから、エビデンスをもって各社が示してきているというトレンドがございます。
次、お願いいたします。
併せて、ヒト遺伝学研究における人種多様性の重要性というのも、多くのデータ・論文が指し示しております。特に、遺伝的関連研究の大部分は欧州集団で行われてきているんですが、逆に言えば、欧州以外の集団で欧州集団に少ない機能的変異を解析することで新規遺伝的関連が見つかる可能性が強く期待されておりますので、我々もこういった期待を下に研究を展開してまいってございます。
次、お願いいたします。
こちらは、弊社が今時点でグローバルにわたって行っているダイバースポピュレーションの組合せと比較によって、さらなる創薬研究の加速と成功率向上を実現させたいという思い持って行っているプランでございます。こちらにありますように、代表例としては、西側では、UK Biobank、Gene and Healthといったもの、日本におきましてはToMMo、米国においてはNeurogenomics、それから、人種としては、ヨーロピアン、東アジア、南アジア、データタイプとしては、ホールゲノムシーケンス、プロテオミクス、longitudinal dataといった組合せによって、適したバイオバンクとパートナーリングをすることにより、戦略的な研究というのを進めてまいってございます。
次、お願いいたします。
こちらは、武田薬品が今お示ししたようなバイオバンクとコラボレーションをすることにより、実際にどんな成果を生み出しているかということを、非常に簡単にまとめたものになります。こうやってプロットしてみますと、比較的、早期創薬研究に関するもの、すなわち創薬標的の同定であったり、作業仮説の創出・検証であったりというところが、ファクトとして、もしくは、エビデンス、実績として、我々が結果を出してきたものになっております。こちらで少し着目していただきたいのが、臨床開発の加速ということで、全般で見ると少しレイトステージに置かれている使用例になります。昨今、御存じのように、国際共同治験の中における日本人データというものについての置き方、解釈の仕方というところが、主に薬事の在り方検討会ですとか、そういった場を通じて議論されておりますが、日本人Phase Iというのを原則的に行うべきか、行わなくていいのかというところについての議論というのも、昨今、非常に深く議論されたかと思います。そんな中で、日本人と他の民族との同等性・同質性というところが証明された場合には日本人Phase Iを置く必要がないといった見解が示されていることは、皆様も御存じかと思います。実際、我々がグローバルで開発している、あるパイプラインに対しまして、日本のデータを使いまして、日本人の同等性・同質性を証明することにより、Phase Iスキップを行うことができたという実例がございます。特にバイオバンクの利活用という点につきまして、臨床加速開発といった企業にとって非常に重要なポイントに対しまして実績が生じつつあるといった、こういった使い方の例として、要はこういった使い方ができるためにあるべきバイオバンクの姿ということについても、今後、皆様で御議論していただけるといいのかなというふうに思っております。
次、お願いいたします。
こちらは、人種間の比較によって新規の知見が得られたという例になっております。
すみません。時間について、ちょっと過ぎぎみなんですが、どれぐらいの管理でやったらよろしいでしょうか。大変申し訳ございません。アドバイスいただけますでしょうか。
【中釜主査】 一応、15分程度の予定でしたけど、調整しますので。
【寺尾ヘッド】 大変失礼します。
こちらは、左側はASHG2023で弊社の研究者が発表した内容になっております。A genome₋wide association study of 10000 Japanese whole genome sequencing data to identify the risk genes for brain structure changesというタイトルで、ToMMoとUK Biobankのデータの比較から、東アジア人に特異的な右尾状核をWhole genome association studyによって見いだした例となっております。また、右側のFitbitは、こちらはプレスリリースになっておりますけれども、ToMMoの参加住民の方から参加者を集い、ウエアラブルデータと、生活習慣、検診データ、医療データを総合的に解析し、いわゆる将来的なデジタルバイオマーカーを見いだそうという研究でございます。
次、お願いいたします。
新規ターゲット探索のバイオバンクを活用した利活用事例として、もう一つ御紹介させていただきます。こちらも2023年のASHGでの発表内容となりますが、ToMMoのホールゲノムシーケンスデータを用いて難聴の原因遺伝子を見いだしたという例になってございます。
次、お願いいたします。
さらに、革新的医薬品の研究開発を加速するために、最近、我々が東北大学と新規戦略的連携「プロジェクト蒼天」を発表いたしましたので、そちらについてもごく簡単に御紹介させていただきます。こちらは12月に発表となっておりますが、主には国際共同治験の実施において、日本の試験への患者エンロールメントの速度やフィージビリティーの向上を目指すことによって、グローバル製薬R&Dの中での日本の役割とポジションを変革し得るという野心・野望の下に、東北大学様と締結させていただきました新たな取組となります。こちらの色で示しておりますように、従来、特にToMMo様とさせていただいていたコラボレーションであれば、一番左、川上から一貫してカバーしていたものが、今回、入口を少し変えましょうということで、橋渡し研究や治験デザイン研究といった、比較的、臨床サイドに寄ったところでのデータの利活用ですとか、コラボレーションというところを入り口に設定しております。
次、お願いいたします。
こちらは完全に寺尾の妄想なんですけれども、「プロジェクト蒼天」を実際に行う上で想像している、未来のあるべきデータベースというところの図になってございます。こちらは、中心に究極的には医療情報統合プラットフォーム(デジタルツイン)と言われるものが存在しまして、そちらに突き刺さる形で各種のデータ、特にバイオバンクや住民コホートといったもの、それから、NDB、バイオバンク、レジストリといったものが載っかっていると。言わばボタン一つで必要なデータがこの統合プラットフォーム上におきまして抽出されて、各種の用途に即した形で出てくるということで、現在、我々は一番左側にあります施設・患者選択というところに重きを置いておりますが、このプラットフォームができた暁には、右側に書いてありますような、新規MOA探索ですとか、適応疾患の拡大といった、非常に重要な目的にも沿ったような使い方ができるというものが将来的には誕生するべきだというふうに思っております。
次、お願いいたします。
【中釜主査】 最後は、一、二分でまとめていただけますか。
【寺尾ヘッド】 すみません。
次、お願いいたします。
こちらはもしかしたら一番重要なデータになるかもしれないんですが、我々の活動ですとか課題を御紹介した上での改めての課題感というところを、あくまで企業の立場からということでお示ししてみました。大きく分けると四つあるというふうに思っております。
一つは、活動の予見性とR&Dのカバー範囲の変更ということに対応できるような、非常に素早い動きと戦略的な先読みといったことができるようなデータがあればいいなというふうに思っておりますし、同時に、組織としても、そういった戦略・研究を行え得るような形にアップデートしていかなくちゃいけないということを感じております。こちらでは、特に人材という側面から、もしくは情報共有や相互教育といった側面から、もしかしたらステークホルダーの皆様と一緒に活動できるかもしれないということについて、簡単に挙げさせていただいております。
右側、二つ目は、アジリティプロセス化です。我々の研究・投資・PDCAの判断スピードが非常に加速しておりますので、各種の統一化・プロセス化といったものは必須であるというふうに考えております。ちょっと細かくなってしまうんですが、バイオバンクとの協働というところにおきましては、試料の利活用のルールの統一と各種審査基準の平準化といったものが、実際には我々のビジネスに大きくインパクトを与えます。それから、倫理審査指針のガイダンスの整備といったところも、実際にリサーチャーのほうからも、非常にスピードアップにつながるということで、ニーズが出ている側面でございます。また、英語での各種説明資料の御準備ですとか、そういったものもスピードを持って決断していく上では欠かせないものでございますし、共同研究がいいのか、もしくは購買がいいのかといった、目的に応じたパートナーシップの在り方というのも、常に議論されている点でございます。
左下ですが、データアクセスまたは共有というところにつきまして、国内に閉じることというのは、我々の競争力の独自性の担保はするんですけれども、実際の比較ですとか、競争力の向上というところに関しては、逆行するというふうに感じております。そういった意味では、ここにいきなり書いてあるんですけども、我々の競合相手であります外資のアクセス向上ということに関しましても、結果的には日本人の医療や健康に資する、すなわち日本のドラッグラグロス問題の解消といった目指すべき未来につながる上で、我々としてはむしろ歓迎するといったところを述べさせていただきます。
そして、右側です。グローバルの中での日本の価値というところについてです。我々は常に、R&Dを行う上でも、Why Japan?ということについて問われます。科学的な妥当性やデータの質の高さ以外にも、日本を選ぶrationaleというのは常に必要とされております。これは自問自答している部分でもございます。薬で例えますと、選択肢というのが、オンリーワンなのか、ベスト・イン・クラスなのか、もしくは併用可能なのか、こういったイメージの仕方を持って、我々はパートナーの皆様をどういうふうに位置づけるかということを考えております。そういう意味では、特に併用可能もしくはベスト・イン・クラスということを考えるのであれば、各種のバイオバンクの国際標準化というのは、併用・比較に必須な要件になっていると考えております。それから、企業側では実施不可能なこと……。
【中釜主査】 そろそろまとめていただけますか。申し訳ないです。
【寺尾ヘッド】 はい。アカデミア側での国際連携や日本のリーダーシップについては、我々自身が実行できませんので、ぜひ先生方に行っていただきたいと思っておりますし、リージョン毎(まい)の法規制の壁を超えるといったところも、先生方と一緒に行っておくべきところなのではないかと思っております。
次、お願いいたします。
以上をもちまして、私からの発表、長くなりまして、大変失礼いたしました。日本のバイオバンクにとっては、特に、創薬研究の最初のところだけではなくて、R&D、バリューチェーン全般に機会が開かれているのだということをお伝えしたつもりです。こういったイノベーション育む広くて広大な畑になってほしい、なっていただきたいというのが、私たちの願いでございます。
以上になります。大変失礼いたしました。
【中釜主査】 御発表、ありがとうございました。
では、これから質疑に入りたいと思いますが、今の発表につきまして、何か、委員の先生方、御意見、御質問がありましたら、お願いいたします。「挙手ボタン」を押していただけると、私のほうで指名させていただきます。
川﨑委員、お願いいたします。
【川﨑委員】 ありがとうございます。バイオバンクを利活用いただく企業様の声が聞けて、非常に参考になりました。
1点は私の理解が間違っているかもしれないので確認したいことと、もう1点はお聞きしたいこと、2点ございます。
まず、最初なんですけれども、今後は創薬を開発するに当たって層別化が非常に重要で、そこに注目されているという話がありました。それで、武田様は、UK、米国、そして、ToMMoを利活用されているという話。ただ、最後に、日本人の同質性・同人性というのが分かったら日本人のPhase Iはスキップできるということとのそごといいますか、日本にバイオバンクがあるべきであるという一方で、必要ないのではないかというふうにもちょっと聞こえてしまったので、そこのところを御説明いただきたいと思うのが、まず1点。
2点目なんですけれども、バイオバンクのデータをかなり利活用されているというふうに感じたんですが、バイオバンクでは実際に生体材料も扱っていますけれども、生体材料の利活用についてはどういう要望がございますでしょうか。
以上、2点です。
【中釜主査】 お願いいたします。
【寺尾ヘッド】 ありがとうございます。
前者の御質問につきましては、少し矛盾したことを申し上げているような形にはなっておりますが、実際には、これは矛盾はしていないというふうに考えております。というのも、同等性・同質性を証明することと、場合によって層別化というところを行うということは、両方とも、逆に言えば日本のバイオバンク・データというところが見えないとできないことかというふうに考えております。なので、Phase Iスキップということを申しましたときにも、むしろ日本のデータがあるからこそ国際共同治験にうまくのせることができたということで、日本のデータなしにはこういったPhase Iスキップというのはできなかったというふうに、我々は考えております。そういった意味で、層別化というのも、基本的には、国際的にそれぞれのある種のデータが豊富にそろったパネルのような状況というのがあってこそ、適切な層別化戦略というのが組立てられるということで、究極的に我々がバイオバンクに求める在り方というのは変わっていないのかなというふうに思っております。
2点目の生体材料に関してなんですが、これはもしかしたら、各企業によって戦略が異なりますので、違ってくることかもしれません。我々は、御紹介したように、日本にも研究所がございますし、ボストンにも研究所がございます。そういった意味で、大きく分けて、日本と米国、その他の地域というところの生体材料に比較的難なくアクセスできるという状況がルール的にも地理的にも担保されているという状況です。なので、そこでWhy Japan?ということに戻るんですけれども、日本の生体試料を使うrationaleが立つのであれば、我々の場合はそうなので、むしろ実際に利活用できますので、ありがたいというところは申し添えておきたいと思います。
以上になります。
【川﨑委員】 ありがとうございました。
【中釜主査】 よろしいでしょうか。
ほかに、御質問、御意見はございますか。
私からお伺いしたいのですが、先ほど説明の中で人種多様性ということをおっしゃり、同時に最後のほうで日本を選ぶ科学的妥当性のこともおっしゃったんですが、これは選択する企業側の視点及び研究者側もそういう視点に立って選択しているということでしょうか。両方の側面があると思うのですけど、人種多様性の重要性を認識しながらも、科学的妥当性として日本を選ぶことを、研究者・科学者として、どのように捉えればよいのかと思いました。常に科学的な人種的多様性はあるという理解のもとで恐らくバイオバンクは構築されていると思うのですが、その辺については、科学者側に、こういう点に特に配慮してバイオバンクを構築すべき、ネットワークを構築すべきという、御意見はございますでしょうか。
【寺尾ヘッド】 ありがとうございます。科学的妥当性と人種的多様性というところは、ある種、時々は重複するかとは思うんですけども、検討する軸としては別々に捉えてもいいのではないかと思っております。もしくは、人種的多様性を伴わない限り科学的妥当性が言えないといったことも多くあるのではないかというふうに思っておりますので、我々にとってはそれぞれ必須でございまして、特に人種的多様性というところにつきましては、実際に開発する側の、ソースを探す、創薬ターゲットを探すところもそうなんですけども、将来的に製品を出すところにおいても、ある程度、臨床的な予測がつくかどうかというところを担保する上では人種的多様性といったところも欠かせないというところがお伝えしたいところになるかというふうに思っております。入り口、出口、両者で人種的多様性の使い方がもしかしたら違うかもしれないというところは考えております。
【中釜主査】 分かりました。
私からもう1点よろしいですか。今日の御説明の中には、例えば、臨床情報や健康情報の精度について、それにおける日本のデータバンクの優位性あるいは課題ということには特に触れられなかったのですが、その点について何かコメントはありますでしょうか。
【寺尾ヘッド】 ありがとうございます。そちらについては言わずもがなというレベルで、むしろ質の高さみたいな、最後のメッセージのところで何を求められるかというところについて触れたつもりだったんですけれども、一般に申しまして、日本のバイオバンクのよさというところで、まず、我々がグローバルと握るというところに関しましては、本当にバイオバンクに付随する医療情報の質について十全に担保されている、非常にクオリファイされているというところは、強みの一つとして疑いのないところだと思っております。
【中釜主査】 分かりました。ありがとうございます。
そのほか、御質問ございますか。
よろしいですかね。
最後にもう1点だけ私から質問なのですが、以前、臨床開発のところで、新規知見の発見や成功率向上、あるいは研究開発加速の話のときに、資料の一部に、longitudinal data、柔軟的なデータの必要性・重要性に触れておられましたが、今日はそれについては特に触れられなかったと思います。疫学研究との連携ということを意識されているのかなと思ったのですけど、その点において何か、日本側のバイオバンク利用における課題、あるいは逆に強みみたいなものも認識されているかどうかということについて、お教えいただけますか。
【寺尾ヘッド】 ありがとうございます。まさに御指摘のとおりで、longitudinal dataにつきましては、特に現在の日本のバイオバンクにつきましては、我々がなかなかミートしないところは課題として抱えております。グローバルからも日本のバイオバンクを使いたいということで問合せは日々受けるんですが、やはり立ち止まってしまうのは、longitudinal data、特に臨床開発での利活用というところも考えますと、比較的最新のところまで継続的なデータがあるというところが、取り上げるか、取り上げないかというところの第一歩になってきてございますので、longitudinalなデータのアップデートというところを、今後、日本のバイオバンクオーナーの皆様の念頭に置いていただけると、我々も使う範囲がさらに広がるところになるかというふうに思っております。
【中釜主査】 それは、検体としての連続性という意味なのか、情報としての……。
【寺尾ヘッド】 情報かと思います。
【中釜主査】 分かりました。
ほかはよろしいでしょうか。
特にございませんので、寺尾先生、御説明、どうもありがとうございました。
【寺尾ヘッド】 ありがとうございました。
【中釜主査】 それでは、次の課題は今後のゲノム研究の在り方です。本日、3名の先生方に御発表いただきます。石垣先生、岩田先生、山内先生の順に御発表いただきたいと思いますけど、御発表は1人10分程度、質疑応答については30分程度を用意しています。最初に、石垣先生から、資料を沿って御説明いただけますでしょうか。
【石垣教授】 皆さん、こんにちは。慶應義塾大学、理化学研究所の石垣と申します。今回、AMEDに御支援いただきまして進めているゲノム研究を中心に、研究者目線で、今後のゲノム研究の在り方について、意見を述べさせていただきたいと思います。
次、お願いします。
簡単に自己紹介です。私はもともと内科医でして、一般内科、リウマチ内科を専門にしている者で、学位は遺伝学ではなく免役学の研究で取った後に、2014年から理化学研究所で遺伝学の研究をして、3年前に理研で、今年度からは慶應でラボを主宰させていただいております。基本的には、遺伝学の視点から、免疫疾患の病態を解明して医療を変えたいというモチベーションで研究している者です。
次、お願いします。
リウマチを御存じない方も多いと思いますので、簡単にだけ。代表的な自己免疫疾患でして、放置しますとこの写真のように関節が壊れて機能障害を起こす難病でございます。高額な医療費なども問題になっていまして、ゲノム研究がかなり成功している疾患ですので、ゲノム医療の実装によって、予防的介入ですとか、新規創薬の標的の同定などが大いに期待されている領域になります。
次、お願いします。
ゲノムワイド関連解析、先ほど寺尾先生の話にもありましたが、かなり多くの原因遺伝子候補が同定されていて、関節リウマチも大いに成功した疾患の一つです。特筆すべきは、日本人のゲノム研究者が大いに頑張った領域でございまして、多くの研究に日本人のサンプルが多く含まれているということになっております。
次、お願いします。
関節リウマチのゲノムのリスク多型から何が分かったかという、俯瞰するようなオーバービューのスライドですが、基本的にリスク多型の分布からどういうバイオロジーが疾患発症に効いているかということの大枠は分かっておりまして、遺伝的リスクの半分ぐらいは、赤枠で示していますように、免疫細胞特異的な遺伝子発現制御領域に集積しているということがございます。その先に、サイトカインパスウェイですとか、転写因子の活性があるということを示しております。ちなみにサイトカインパスウェイのトップに出てきたTNFは関節リウマチの治療薬として有効性が実証されているものになっていますので、このような機能解析の先に創薬標的があるということも間違いなく事実かなという経験がございます。残り半分は、HLAの遺伝子多型ということになっております。
次、お願いします。
ゲノム医療の実現というのが今日の会議の主なテーマだと思いますので、こういうゲノム研究、私が行ってきたのは全て基礎研究でございますが、そういったものから、ゲノム医療の実現に向けて、何が必要か、何か欠けているのかということを一つのスライドにまとめてみたものになっております。医療への道筋として、大きく二つの道があるというふうに考えております。一つは予測・層別化で、これは議論でよく登場するものかと思います。先ほどの寺尾先生の話にもあったと思いますが、患者さん、もしくは発症リスクの高い健常人を見分けて、何か介入する、治療内容を変える等のものになります。もう一つは、全く異なる視点で、やや基礎科学的な響きがあるかもしれませんが、病態解明という方向にも大いに活用ができるというふうなものになっております。予測・層別化では、近年、次のスライドで説明しますが、ポリジェニックリスクスコアなどが重要なキーワードとして注目されているかと思います。これは恐らく、後のほうでまた述べますが、実装化をする上で最も欠けているのは、臨床研究が圧倒的に欠けていて、ゲノム研究から、より臨床研究的な視点で取り組まなきゃいけない領域かなと思っております。病態解明のほうに関しては、これは基礎研究の積み重ねが必要な部分でして、研究にはなかなか時間がかかるところがございますので、基礎研究より実装というような声も聞こえてくるんですが、真に有意義な実装をするためには基礎研究の推進も同時に並行して行われなければならないというふうに強く思っております。
次のスライド、お願いします。
予測・層別化に関しては、よく成功例として聞くものは、比較的このような、これは難病のホームページで、家族性地中海熱という、遺伝的変異が入ることで強い発症へのリスクがあると。これは診断にも治療方針決定にも非常に重要な知見が得られているということでゲノム研究が大いに成功した例でございますが、一方で、関節リウマチとかもそうですけども、こういうコンプレックスな、より多因子な、複雑な形質のものに対しては、このようなレアディジーズの例をそのまま持ってくることはなかなかできないので、複雑形質には複雑形質特有の議論が必要かと考えております。
次のスライド、お願いします。
ポリジェニックリスクスコアに関しては、皆さん御存じだと思いますので、簡単にだけ。これは、多くのリスク多型の遺伝子型から計算される個人ごとのスコアになりまして、基本的にはリスクアレルを何個持っているかというスコアになるんですが、リスクアレルの重みをGWASで計算された効果サイズでつけられるというものになっております。ポリジェニックリスクスコアが実臨床に役立つのではないかということを期待させるような知見はたくさん集まっているという現状だと思います。
次のスライド、お願いします。
ただ、PRS(ポリジェニックリスクスコア)を扱う現在の学術論文のほとんどは基礎研究的な価値で評価されて論文が世に出ているというふうに理解しておりまして、臨床的価値の検証はまだまだ不足していて、臨床研究をどんどん推進していかなければならない状況だと思っております。左側は我々が報告した関節リウマチの国際共同研究の成果でございますが、PRSが欧米人と日本人で同等の予測精度を持つという、非常にすばらしい成果を得たものでありますけども、これが本当に臨床的に有用かということは、この研究では全く分からないと。それはなぜかというと、臨床的な価値を問うために組まれたスタディーではないということでございまして、これを本当に実装していくためには臨床研究をどんどんしていかなきゃいけないということになるかと思います。
次のスライド、お願いします。
これは東京女子医大のグループと医科歯科の高地先生のグループが報告したものですが、臨床のデータにPRSを当てはめてみて、PRSで関節リウマチにヒット、非常に重要な臨床項目である骨破壊予測が少しできたという報告でございまして、このように、やはり臨床研究者が主体となってゲノム研究者がサポートするような構造の研究をどんどん推進していかなければならないかなというふうに思っております。
次のスライド、お願いします。
PRSに関しては、臨床的有用性の議論が欠けているということはかなり前から国際的に問題点が提起されておりまして、それを解決するためにはやはり、報告の仕方ですとか、いろんなルールを決めて、それに従って、いわゆる普通の臨床研究のように項目を決めて、予測精度なり、決められた臨床的な有用性を判断して公開していくことが必要だということが言われていると思うんですけども、例えば、研究費の採択などの条件に、このような臨床研究の具体的な進め方を、縛りを与えてあげることで、そういう研究も進むのかなあというふうに、個人的に思っております。
次のスライド、お願いします。
海外の例ですが、PRSで臨床研究を行った、もしくは行っているというものですが、これのスタディーデザイン、細かくは説明できませんが、基本にはほとんど臨床研究のスタディーになっておりまして、臨床研究のフレームの中にPRSという項目も入れてみたという感じで、これはゲノム研究というよりかは臨床研究でして、これをゲノム研究者だけでやるのはほぼほぼ不可能ですので、臨床研究の専門の先生方にPRS等の研究に興味を持っていただいて推進していく必要があるかなと思っております。
次のスライド、お願いします。
やはり、実装化に向けて、予測・層別化だけじゃなくて、病態解明も非常に重要だということになると考えております。例えば、ポリジェニックリスクスコアで発症リスクが高い人を同定することはできるわけですが、同定した後で何をするかということは全く何も策がないというのが現実です。なぜかといいますと、ポリジェニックリスクスコアが高い人の中で起こっている病態が何も分かってないからということになりますので、こういったところ病態解明を丁寧にしていく研究が本当に有意義な実装化のために必須というふうに考えております。
次のスライド、お願いします。
今、AMEDのGRIFINのサポートで行っている研究の一部ですが、ポリジェニックリスクスコアが高い個人の中で起こっている免疫細胞の量的・質的な異常をシングルセル解析で確認するような研究を行っておりまして、一定の成果を得ております。
次のスライド、お願いします。
後で出てくる岩田先生のスライドにもありますが、このようにPRSが高い人と低い人を、この場合は東北メディカル・メガバンクですが、そういう生体試料を活用することで研究デザインを組むこともできます。これは東北メディカル・メガバンク機構で5万人のPBMC、末梢血の免役細胞が保存されておりまして、PRSが高い人と低い人から試料を分譲していただいて実験して成功したというスタディーになっておりまして、このようにバイオバンクは情報だけじゃなくて生体試料を実験可能な形で保有してくださっているというところで、ゲノム研究が大いに進んでいるということもあるかなと思っております。
次のスライド、お願いします。
やはり、観察だけじゃなくて介入することも非常に大事でして、最近のゲノム編集などのCRISPR/Cas9の技術をどんどん実装して実験に応用していくことで機能解析が進むということも示しております。
次のスライド、お願いします。
ゲノム編集などの介入だけでなく、シーケンス技術とか、起こった分子表現型を正確に効率よく計測するような技術開発というものも非常に重要でして、そのようなものも我々は実施して、特許を取って世に普及させようと努力しているところでございます。
次のスライド、お願いします。
時間が超過していますけども、まとめのスライドになりますが、医療実装に向けた道としては、患者の予測や層別化というものが一つ、テーマになっているかと思います。これに関しては、ゲノム研究は重要な基盤情報を提供するものですが、一番欠けているのは臨床研究ですので、臨床研究の専門家の方々にもっと興味を持っていただく必要があるのかなと思っております。予測・層別化だけではなく、当然、機能解明を行う基礎的な研究は並行して進めなければならないというものでございまして、本当に有意義な社会実装に向けて機能解析などの基礎的な研究は必須であり、その重要性は多くの方々に理解していただかなきゃいけないかなと思っておりまして、そのためには長期的な研究サポートも必須ということもありますので、ショートタームの研究費サポートだけでなかなか回らない分野かなと思っております。
すみません。超過してしまいましたが、以上になります。
【中釜主査】 石垣先生、ありがとうございました。
続きまして、岩田先生からの御説明をお願いしたいと思います。
岩田先生、よろしくお願いいたします。
【岩田教授】 藤田医科大学の岩田でございます。石垣先生の話を受けて、我々は現在B-cureで行わせていただいています、全ゲノムデータ基盤で新しい作用機序の抗精神病薬を探索できるプラットフォームを開発しておりますので、その成果について御報告させていただければと思います。
先ほど話がありましたが、私たちがGWASベースでやっているのは、頻度の高い一般疾患をターゲットとしているからで、効果量の小さな関連因子が多数見つかってきます。その上で先ほど出たポリジェニックリスクも含めたジェネティックアーキテクチャーを見ていかないと未知の疾患の病態解明につながらないので、敢えてGWASベースで進めています。それから、先ほど武田の寺尾さんのお話もありましたけども、既に日本の共同研究チームはできていて、BBJ、ToMMoとも連携させていただいて解析するんですが、同時に、私たちはPGCに、これは世界最大の精神疾患ゲノム研究の国際コンソーシアムですけども、こちらにデータを必ず共有しながら、トランスエスニックなども一緒に進めています。そうすると、日本人ではどう? みたいな研究がすっと出てきて、この間、双極性障害や統合失調症の関連遺伝子を日本人の中から見いだすこともでき、これらがコケージアンとどうなのかという解析もできます。それから、もう一つ、ゲノムがいいのは、表現型とジーンがダイレクトにつながってくるので、先にヒトへ行けます。先ほどの臨床研究が大事だという石垣先生のお話、先にヒトに行ってどうなのかというフィージビリティーを見ながら社会実装を探すというのが、私たちのスタイルということになります。
これは別の事業の成果ですけども、双極症で最初に日本人でこれらの遺伝子群が見つかったんですが、トップヒットがFADSという遺伝子です。今、これはコケージアンでもトップヒットになっているんですけども、PUFAであるω₋3、ω‐6、不飽和脂肪酸の代謝酵素で、双極性のリスクアレルがFADSの機能を下げる、発現を下げることが分かっていましたので、欠乏しているω₋3を補充したらヒトでどうなるかというのを、先に特定臨床研究をやりました。そうすると、双極症の鬱状態を早期に改善するというのが得られたので、この遺伝子をもっと詳しく調べようということで、ノックアウトマウスを作って行動を見ると、丸一日、ガーっと行動する日が時々出てきたり、全く動かない鬱状態みたいのが出てきたり、フェノタイプとしては出てきました。なので、今、このメカニズムを詳細に解明しています。そうすると、創薬ターゲットが見つかってくると。こんな流れで研究を進めています。
今回のB-cureでは統合失調症をターゲットに行わせていただいて、これは頻度としては100人に1人でさっきのリウマチと一緒なんですが、ただ、発症年が非常に若い、十五、六歳で発症して、一生涯、障害が続く、非常に重度で慢性な疾患で、受療率は日本一でございます。ただ、いまだに何ら病態生理は不明で、ターゲットが脳ですから、バイオマーカーも全くないということです。遺伝率が高いので、GWASをすると、300、400と関連遺伝子が見つかってきていますが、ここから病態解明や治療に行くにはどうするかというのが、大きな課題になっています。
一方統合失調症の治療薬というのは、1950年代に偶然薬効見つかったものが全ての向精神薬のプロトタイプで、後に、これは薬理作用としてはドパミンのD2受容体アンタゴニストって分かるんですけども、現時点も、なぜこのD2アンタゴニストが統合失調症に効くのか、不明のままになっています。このD2アンタゴニストは確かに統合失調症の主要症状の幻覚・妄想には非常によく効きますが、なぜ効くかはまだ不明です。それから、主に社会復帰を妨げている陰性症状や認知機能といった主要な症状については、全く病態は不明ですし、治療薬がありません。一方で、今、世界にD2アンタゴニストしかないということは、統合失調症の患者さんほぼ全てに1回は使われているというのが臨床現場になっています。実際によく効く人たちは3分の1、全く効いてこない人が3分の1、その真ん中が3分の1ぐらいになります。なので、ある意味、統合失調症の患者さんは、D2アンタゴニストによる治療反応性というスクリーニングを受けている。この治療反応性が一つのバイオマーカーではないかというのが今回の研究の肝ということになっていて、これとゲノム情報を組合せ、かつ、ターゲットがドパミンD2受容体なので、そのシグナル伝達を詳細に調べることで新しい創薬ターゲットが見つかるんじゃないかということでやっています。
結果をお示しすると、レスポンダーとノンレスポンダーに分かれてきて、ノンレスポンダーの中にPRSが高いというのは既に分かっていて、私たちのデータでもそのように示されました。さっき石垣先生が詳しく言ってくれたのでここは飛ばしていきますが、PRSが高い・低い、治療反応性が良好・不良の4象限で区分して、PRSが高いノンレスポンダーとPRS低いレスポンダーからiPSを作って、ターゲットのニューロンであるとかオルガノイドを作って詳細に解析しています。
これは実際のデータですが、国際共同研究していますので、東アジア人の5万人のデータをディスカバリーして日本人の5,400人に当てるとこのようにきれいに正規分布してくるので、高い・低いのPRS10%をレスポンダーとノンレスポンダーに分けて、10人ずつのiPSの樹立に既に成功しています。次のステップは、私たちのターゲットは、脳、特に線条体から辺縁系へのドパミンニューロンなので、このニューロンをどうやって分化させるかが大きな課題ですが、これは、岡野グループの成果として、世界で初めてMSNの分化に成功しました。今、これをたくさん作りながら、かつ、オルガノイド、これにはほかのいろんなニューロンやグリアも一緒に作るということが必要なので、今、こちらの候補を解析しています。
それと並行してですが、新薬のターゲットとすれば、脳に関して言うと様々な受容体への低分子の化合物が薬として開発されています。さっき御紹介した抗精神病薬のターゲットは全てドパミンD2受容体ですし、抗認知症薬であるドネペジルはアセチルコリンを増やすという意味で、アセチルコリンM1レセプターに働きかけるということになります。でも、その後何が起きているかというのは、どの脳の部位であるか、あるいは、どのようなリン酸がシグナルなのかというのは実は全く不明なので、これを網羅的に、空間情報も含めて解析するシステムをつくることで、ターゲットの分子が見つかれば一気に創薬に結びつけられるよう、活動をしています。
ドパミンD2受容体の下流のリン酸のシグナルはつい最近まで解明されていませんでしたが、貝淵らのグループはアデノシンと共有して様々なシグナル伝達のカスケードを解明しており、様々な抗精神病薬を投与したときに脳のどこで何が起きるかを網羅的に解析してみました。例えば、同じ抗精神病薬でも、ハロペリドールだと側坐核、クロザピンだと外側中隔、アリピプラゾールだと前頭前皮質ということで、活性化される部位も違いますし、恐らくターゲットの分子も違うんじゃないか。なので、これらを同定して、治療反応が良い・悪いで見ていけば、このリン酸化シグナルマッピングで新しい向精神薬ターゲット分子を見つけることさえできれば、新規抗精神病薬の開発ターゲットになるだろうということで進めています。
これはうまくいった例の一つで、抗認知症薬の例ですけども、さっき言いましたアセチルコリンというのは、動物での嫌悪刺激、嫌なものを強く覚えて避けるということに関連していますが、ドネペジルを投与するとこれが強まります。私たちの解析ではこの学習にはRac1が仲介していることとRac1不活化する因子、Bcrという分子を見つけることに成功しました。なので、Bcrをノックダウンすると忌避行動学習がぐんと上がるということが分かりました。つまりこれは認知機能改善薬のターゲットだろうということで、実際にここから探してみたら、今使われている向精神薬Xというのを同定することに成功し、これをリード化合物として、様々な創薬に、BINDSさんとも共同してやっているところでございます。
ほかにも、こうした網羅的に空間で見る、例えば、様々な抗精神病薬を投与して、脳のどこにどのぐらい行っているのかとか、実際、抗精神病薬を投与したときに脳の何が反応するのか、どの分子が反応するのか、あるいは、それを空間的に捉える。それから、今回作った、iPS、オルガノイド、死後脳の解析なども、今、検討しているところでございますし、標的分子が見つかったら、モデル動物を作って行動を探索し創薬フェーズに入っていいのかという妥当性を先に検証してから進めております。それから、寺尾さんも強調されていましたが、DD&Tですね。世界中に様々なデータがあります。私たちもデータをたくさん輩出するわけですが、それを全てデータベース化して、全部つないでいく。そうすると、in silicoの中で創薬を行えるようなツールが同時に開発され、一部は公開されているものですけども、本研究の成果としてはこうしたものを成果物として創出していきたいと思っています。
私たちのまとめですけども、最初は治療反応性とPRSを使ってiPSと脳オルガノイドを作っていて、これについてはほぼ成功してきました。それから、空間情報による3次元マッピング、これも既にできている技術でございまして、質量イメージングも使い、行動解析も使い、データサイエンスを用いて、最終的には、ゴールとしては創薬候補を総合的に見つける。そして、前臨床POCを取っていって、次の臨床研究開発につなげていけたらということをやっております。
以上です。
【中釜主査】 ありがとうございました。
それでは、続きまして、山内先生より御説明をお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
【山内教授】 東京大学糖尿病・代謝内科の山内です。よろしくお願いします。
バイオバンク・ジャパン、東北メディカル・メガバンクなど、オールジャパン体制で日本のゲノム研究コミュニティは、世界をリードする成果を創出してきました。AMED GRIFIN糖尿病班は、2019年、日本人集団20万人、2020年、東アジア集団40万人、2024年、多民族集団250万人の大規模GWASを主導し、1,289の2型糖尿リスクバリアントを同定し、病態解明、プレシジョンメディシンの確立に向けて貢献してきました。
日本人集団における2型糖尿病のPRSは、2019年の時点でオッズ比約5倍まで予測可能で、2021年の時点では、サンプルサイズが大きくなり、アルゴリズムもアップグレードされ、僅か2年の間にオッズ比は約10倍弱まで向上しています。
次の発展性としまして、環境因子を考慮した解析が挙げられます。東京大学の岡田随象先生が主導で、BMI、肥満度で層別化した解析を行いまして、低BMI、やせ型の方がより精度が高まることを示しています。
もう一つの発展性は、サンプルサイズのさらなる拡大であり、世界最大のT2DGGIで250万人規模の2型糖尿病のGWASメタ解析を実施しました。AMED GRIFIN糖尿病班は、東アジアで最大、世界でも3番目のサンプル数であるという貢献のほか、全コホート中、唯一、GWAS、サブタイプPRS解析の両方に貢献しました。なお、昨年度のアメリカ糖尿病学会の開会特別講演は、国際ヒトゲノム計画のリーダーであったフランシス・コリンズ先生により、2万人の会場で行われたのですが、「3代の大統領、オバマ、トランプ、バイデンに任命されてNIHの長官を12年間務めました」という名セリフで始まる講演におきまして、最近で一番すばらしい研究として本研究が紹介され、Ken Suzuki(鈴木顕)の名前が連呼され、私も現地で直接拝聴したのですが、日本人にとってこの上ない誇りで、高揚感に鳥肌が立つ雰囲気でした。バイオバンクとGRIFINプロジェクトは、日本の研究力と、そのプレゼンスを示すことにも貢献していると考えます。
ゲノムワイド有意水準を満たす1,289の独立したシグナルを同定したのみならず、2型糖尿病が八つのクラスターに分類されることを世界で初めて示しました。インスリン低下型、体脂肪増加型、メタボリック・シンドローム型、肥満型、皮下脂肪が低下して異所性に脂肪が蓄積する脂肪萎縮型、肝臓・脂質代謝型など、八つのクラスターに分類できるだけでなく、それぞれの鍵分子も初めて示されました。
さらに、八つのサブタイプと1細胞ATAC-seqデータとの統合解析を実施し、細胞種に特異的なオープンクロマチン領域への集積を解析し、インスリン分泌低下型は膵島細胞、メタボリック・シンドローム型は、血管内皮細胞、周皮細胞、皮下脂肪低下型は脂肪細胞にバリアントが集積することを世界で初めて示しました。
本研究ではさらに、八つのクラスターと糖尿病合併症との関連も解析しました。検証コホートの約半数は日本からの貢献で、AMED GRIFIN糖尿病班が、サンプルサイズでも、解析におきましても、世界最大の貢献をしました。糖尿病網膜症では、2型糖尿病全体PRSで補正しますと、一番右の上に示しますように、サブタイプPRSの効果はなくなりました。このことは、糖尿病網膜症は血糖マネジメントと罹病期間の掛け算に比例して発症することと合致しました。一方、右から2番目の糖尿性腎症の透析に至られる方のリスクですけれども、遺伝素因によって約半分の方が守られているということはよく知られていましたが、その分子機序に関しては長く未解明でありました。本研究によりまして、統計的有意に糖尿性腎症になりやすいクラスターと守られるクラスターがあることを世界で初めて示しました。遺伝的要因のサブタイプと薬剤反応性の関連も解析中です。従来は全員に画一的な標準治療(平均値の医療)が行われてきましたけれども、今後は、個々人の病態、合併症のリスク、薬剤反応性に応じて、最適化された治療の選択が期待されます。
2022年にデネアンデルター人のゲノムが現在人のゲノムに残っていることが見いだされてノーベル賞が授与されましたけれども、岡田随象先生らは、日本を八つの地域に分けますと、狩猟・採集で生活している縄文人のゲノムが琉球の人に多く残っていること、さらに詳細に検討すると、北海道のアイヌの方々が一番多く、琉球の大陸側の島嶼部の方にも多いこと、多い方は倹約遺伝子仮説に合致した形で太りやすいことと関連していることも示されています。岡田随象先生らはさらに、加齢によってゲノムが変化することはないのかという根本的な問いにも取り組まれ、ゲノムは50歳ぐらいまではほとんど変化しないのに対し、50歳を超えると、60歳代、70歳代、80歳代と、Mosaic Chromosomal Alteration(mCA)が急速に起こること、たばこなどの環境因子も多大な影響を持つこと、男女差があること、起こりやすいスポットにハプロタイプがあり、個人差があること、民族によってハプロタイプに大きな違いがあること、2型糖尿病に関しましても、日本人でインスリン分泌が低くやせ型の糖尿病が多い原因となり、欧米人では肥満型の糖尿病が多くなる分子機序を説明できることまで分かってきています。
今後の社会実装に向けた直近の解析ですけれども、糖尿病の発症・未発症が既に分かっているコホートを用いてPRSの検証も行ってまいります。J-DOIT3は強化療法が2型糖尿病の合併症を減らすことを示しました。一律の強化療法は、医療資源、患者の負担が大きく、合併症リスクにより患者を層別化し、高リスク群に強化療法を選択的に実施することによりまして、効果的・効率的な治療効果が得られ、かつ、患者のQOLが向上し、医療費が適正化されることも検証します。
その方法の詳細について記載しましたけれども、GRIFINプロジェクトによる合併症のPRSの日進月歩の最適化、バイオバンク・ジャパンの第2コホートの信頼性が担保された、継続的・安定的な、有効な利活用などが鍵となります。
個別化介入による予防・治療には、遺伝子リスクスコアのみならず、変化しながら時間経過とともに蓄積されていく社会・経済・環境因子と疾病ステージの把握が重要で、生体試料や臨床情報などを精密に加味して、疾患発症・進展、合併症の発症・進展の分子病態を解明して予防・治療法を開発するとともに、診断法の社会実装におきましては、いかに簡便・迅速に測定可能なバイオマーカーに置き換えられるかも重要と考えています。
ここでは、バイオバンク・ジャパンのサンプルを用いて、同様の血糖のマネジメント、罹病期間でも合併症が全く出ない方と出た方のメタボローム解析の結果を示します。これら五つのメタボライトは、バイオマーカーや治療標的としての可能性が示唆されます。パスウェイエンリッチメント解析により、脂肪酸生合成経路が、糖尿病腎症、網膜症と関連を持つ傾向が有意に見られました。脂肪酸燃焼の促進薬が合併症を抑制することは、既に大規模臨床試験によって証明されております。
2型糖尿病GWAS解析と、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、代謝形質に関するQTL解析との共局在性を検証し、2型糖尿病の原因遺伝子や、その責任臓器、細胞種を解明し、薬剤ターゲットを探索します。
2型糖尿病バリアントとeQTLバリアントの共局在の1例を示します。左の図のように、2型糖尿病GWASリードバリアントと膵島におけるeQTLのリードバリアントは非常によく一致しており、膵島における、ここではXの遺伝子の発現の変化が2型糖尿病のリスクと関連する可能性が示唆されます。実際、右上の図のように、Xは、糖尿でない人に比べ、2型糖尿病の人の膵島で発現が低下しており、下の図のように、特にβ細胞での遺伝子発現が低下していました。細胞種特異的な分子病態の解明と創薬の研究を続けています。
2型糖尿病に細胞特異性を示した、線維芽細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞及び脂肪細胞は、脂肪組織にも存在しています。脂肪組織の空間トランスクリプトーム解析による組織分画の遺伝子発現と、ゲノムから算出するサブタイプPRSとの関連を明らかにします。
1,000万とおりの精密医療の概念図です。ゲノムと多層的オミックス解析のみならず、医工連携などによるウェアラブルデバイスなどを用いた精密な生体試料、データツインによる臨床情報も統合し、生成AIも駆使してクリティカルなコモン経路解明と個人ごとの精密予防・治療を、ネットワーク創薬のみならず、SaMDやAIロボティクス等も駆使して実現します。
今後は、DNAはもちろんのこと、疾患に関わる組織の遺伝子発現解析が重要と考えます。また、近年、スマートウオッチなどのウェアラブルデバイスによる精密な生体情報の収集が可能となってきているなど、臨床情報も多層化が進んできています。組織の精密な遺伝子発現データと、多層的な臨床データ、ライフログを集積し、製薬企業などの産業界とアカデミアの連携が重要です。
こちらでは解析方法について書いておりますけども、シングルセル解析や空間トランスクリプトーム解析、また、ヒトiPS細胞由来のオルガノイドの利活用などが重要と考えられます。
試料収集は、企業や研究者の具体的なニーズを把握することが重要と思います。特に重要度の高い組織を優先的に収集することで、限られたリソースを効率的に活用し、また、同一検体から複数の組織を収集することで、より多くの研究ニーズに対応することができると考えます。
研究計画の受付方法は、研究者と企業の双方から幅広く提案を受け付け、費用と研究者のマッチング、例えば、研究者が持つ独自の解析技術と企業が持つ創薬シーズを組み合わせることで、より効果的な研究開発、創薬研究の推進が期待できます。
ここでは、具体策を挙げさせていただいております。
こちらは、持続可能な運営モデルを挙げさせていただいております。
こちらは、期待される成果と展望であります。
こちらは、これまで述べてきたことの総括になります。
私からは、以上となります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
【中釜主査】 ありがとうございました。
それでは、これまで、石垣先生、岩田先生、山内先生、3名の先生方からそれぞれの専門の御領域におけるゲノム解析の成果について御発表いただきましたが、今の説明をお聞きしまして、委員の先生方から、御意見、御質問がありましたら、お願いいたします。「挙手ボタン」を押していただければ、私のほうで指名させていただきます。
私から3名の先生方それぞれに同じ質問なのですが、多くの検体を使って、日本のゲノム研究、いわゆるポリジェニックスコア等の基礎研究の成果は非常に大きな成果を上げているというふうに思います。一方で、コホートを使ってそれを検証するところまでは何となく想定できるのですが、その有用性を検証できたとして、医療実装したときの効果というのは、どういうスタディーで検証していくのでしょうか。特にポリジェニックスコアでリスクの分布が正規分布をするようなときに、実装を含めて実証研究の証明をするためのオペレーションのサイズが非常に大きくなるのではないかなという懸念です。その辺りについて、それぞれの領域で特徴があるとは思うのですが、3名の先生方から一言ずつコメントをいただけると幸いです。
石垣先生から、よろしいですかね。
【石垣教授】 ありがとうございます。ちょっと疾患は偏ってしまうんですが、私は、リウマチ領域、自己免疫疾患領域が専門なので、その領域に関してという話になってしまいますけども、まず、これは私の持論ではあるんですが、PRSの有効性をゲノム研究者から離して、臨床科の先生方にも見てもらって、いろんな評価をいただかなきゃいけないフェーズかなと思っていまして、計算方法ですとか、いろんな部分はゲノム研究者が得意としているんですけども、現段階で、ある程度の計算方法と、どれぐらいのスコアの固さがあるかということの検証は基礎研究である程度進んでいますので、あとは臨床現場レベルでの評価ということになるかなと思っております。
1点、注意しなければならないのは、PRSはあくまでもケースとコントロールの工夫で出たものがほとんどですので、私の領域には、ケース内を分別するという部分に関しては、先ほど糖尿病のすばらしい成功例の話がありましたが、全ての疾患でそれができているわけでは全然ないので、ケースとコントロールを分けて、スコアが果たしてケースとケースを分けるときにどれだけ役立つかというのも、そもそも、まだ検証もされてないところもあるので、そういう問題意識持って取り組まなきゃいけないのかなあと思っております。
あと、これは病態解明ともリンクするところなんですが、リスクが高い人を見つけて何をするかというか、一次予防法が全くない疾患が多いので、見つけたところであまり意味がないという状況でもあるので、一番ボトルネックになっているのは、病態解明というか、そういう基礎的な研究がまだまだ足りてないというところもある意味あるのかなと思って……。
【中釜主査】 そうですよね。分かりました。先生の研究は、私もお聞きしていて、ハイリスクとローリスクの2群に分けられて病態解明まで解明できると介入ポイントが明確なのかなというふうに思って、その可能性を考えていたんですけど、あくまでポリジェニックスコアというふうにいくと、なかなか、実証する研究、実装研究、有効性評価は難しいのかなと思いました。その辺りは病態解明の範疇になってくるところですかね。
【石垣教授】 東京女子医大の例でもありましたように、まだまだ効果サイズは非常に小さいですが、重症例も同定できたというような、関節リウマチにおいてそういう報告はありますので、そのようなところは期待が持てる部分かなと思うんです。でも、まだ、予測精度というか、PRSが高いほうでも骨破壊が全然進行しない人もかなり多くいらっしゃるので、そういう中で治療を変えられるかどうか、クリニカルなデシジョンメイキングには影響し得ない基礎研究レベルでの結果というふうな、厳しい意見もあると思うので、その辺は検証を続けていかなきゃいけないかなと思っています。
【中釜主査】 分かりました。
岩田先生はいかがでしょうか。
【岩田教授】 PRSということで言うと、議論されているように、一つは、リスクが高い・低い、なりやすさが高いか低いかしか分からなくて、それで診断もできませんが、でも、先ほどの山内先生のデータを見れば、例えば、高い人に積極的な介入をして疾患発症を予防するというのはあるのかなと思っています。でも、精神疾患に関しては非常に効率が悪いわけで、そういうことよりは、とても複雑な病態を考えるときの、僕はよくピン止めという表現をしますけど、ゲノム情報でピン止めしておいて層別化して、現象を見ながら考える、そういう研究の方向としては必ず要るデータだと思っているので、そうやって使っていくのが一つ。
二つ目は、今日お示ししたように、そこからターゲットの治療法にダイレクトに行こうとした場合に、中間のことを吹っ飛ばせるところがいいところだと私は思っています。全部解明しないと治療薬が見つけられないとになると、特に精神疾患のように脳にアクセスできませんから、画像しかないので、あとは全て人の行動とか言明だけになってしまう。そうすると、ゲノムからスタートして、ヒト介入試験を行う事でターゲットの分子の意味が明確になる。社会実装を目指す場合そうした新しい技術開発をしながら治療薬候補を探していくというのには生きるんじゃないかなと思っています。
【中釜主査】 分かりました。
それでは、山内先生はいかがですか。非常に大規模な臨床研究をされていますけど。
【山内教授】 先ほど申しました例でも、J-DOIT3の例は、強化療法が糖尿病の合併症を抑制することが示されましたけれども、その中で、例えば、糖尿病腎症から元々免れる方が半分ぐらいいらっしゃることは以前から分かっていたのですが、誰が免れるかの予測が出来ていなかった状況がありました。今回2型糖尿病を8つのサブタイプに分けられるようになり、初めて統計的な有意差を持つような有用な、ゲノムの段階での情報が加わって、強化療法をすべき方を抽出することが可能となりました。それを千例規模のJ-DOIT3で換算しますと、サブタイプPRS高値群では、NNTが一桁の少ない数で、統計的有意差が得られる計算となっております。しかしながら、糖尿病にしましても、その合併症にしましても、やはり社会・経済・環境因子も大きな影響を有し、母親の胎内からずっと曝露され続けて、それが蓄積していって、そして、それが発症・進展に関連しますので、今後、遺伝的なものに加えて、それらが予測式には大きな影響を及ぼすと思いますので、それらを精密にアセスメントして、皆さんがおっしゃっているような病態解明と予防法・治療法の開発につなげることが先ず重要と考えます。それから、バイオマーカーを確立するときには、精緻な予測式と相関するような因子の中で、簡便にモニター可能なものに置き換えて、病態ステージを評価して、どんなタイプの糖尿病や合併症になりやすいかということを加味して予防法・治療法を選んでいくような時代ということになろうかというふうに考えております。
【中釜主査】 ありがとうございます。
1点だけ岩田先生に御質問なんですけど、ポリジェニックスコアによる分布を示されているということで、素人的な質問で恐縮ですけど、例えば、ジェネリックのインタラクションでクラスター分離するなんていうことは、なかなかアプローチは難しいのですか。
【岩田教授】 やれます。例えば、臨床試験をするときにこのデータを使うとかなり均質化した患者層が抽出できるというのは普通に思いつくところで、多分、やるとうまくいくのかなと思います。一方で、やってしまうと、その患者さんしか投与できなくなるところは課題かもしれません。
【中釜主査】 分かりました。
続きまして、桃沢委員、お願いいたします。
【桃沢委員】 理研の桃沢です。最新の研究成果についてわかりやすくご説明いただき、ありがとうございます。
PRSの臨床現場への応用について、たとえば乳がんでは、アメリカの臨床に近い先生にお聞きすると、患者さんのためになるものは何でも使いたいので、PRSを取りあえずは試してみたが、使えないことが分かったと結論づけた施設があります。もちろん、一施設の結果がすべてではないので、依然として多くの患者さんたちに対して臨床応用するための研究を進めているところもあります。一方で、日本の先生とお話しすると、しっかりしたものができたら教えてくれというような感じで、研究のところでもっと仕上がってからではないと、その先に進むのが難しい印象です。おそらく、日本人の真面目さも影響していると思います。ただ、石垣先生がおっしゃったように、使ってみてはじめてわかる問題もあるので、研究としてやりながら検討することが大事と思うのですが、その辺り、お考えをお聞かせ願えないでしょうか。
【石垣教授】 本当に私見で、個人的な感想レベルの話になってしまうのですが、一応、リウマチ内科専門医でして、リウマチ内科の臨床をしている先生方の知人・友人は多いのですけども、いろんな方と話すと、ゲノムスコアに対する強烈な苦手意識というか、複雑でよく分かりませんというような印象を持っている人が物すごく多くて、私の感覚的には、PRSはそこを超えられる切り札になるかなと思っていまして、一つの連続変数になった途端に、それを理解できない臨床医は存在しないので、社会実装、医療実装の前に、まず臨床現場のほうに実装、少なくとも臨床研究のレベルには、敷居がない、簡単に使えるものだという感覚を持ってもらわないといけないのかなと思っておりまして、その辺の啓蒙活動はゲノム研究者の使命なのかなあと思ったりしていますし、あと、PRSを計算したり、そういうところの技術的な支援とかも、ゲノム研究者だったら非常に簡単な作業ですので、そういったものを積極的にやっていくような地道な作業が必要なのかなと思っております。これは個人的な感想です。
【中釜主査】 よろしいでしょうか。
澤田委員、お願いします。
【澤田委員】 国立がん研究センターの澤田です。3名の先生方の大変すばらしい研究成果をありがとうございます。私から、石垣先生に質問と御意見を伺いたいのと、岩田先生にも御意見を伺いたいと思います。
石垣先生に関しましては、疾患等になりやすい・なりにくいという発症リスクがPRSで分かるが、その機能解明などにつながっていないというところで、骨破壊など、そういうのも伴わない疾患のリスクというものもあるということだとすると、中間因子とか、マーカーに関連するものについての、PRSの研究は必要なのかなというように感じました。そうすると、今は疾患のあり・なしでの研究ですが、骨破壊を伴わないリウマチ、伴うリウマチみたいな、がんでいうと進展度で分けるような研究というのは今行われているのか。または、私の考えが間違っていたら、訂正をお願いしたいと思います。
岩田先生におかれましては、病態解明がすごい複雑で、難しい疾患に取り組んでおられて、大変敬意を表するところですが、PRSで高い群と低い群の反応があり・なしで分けられるとすると、その中間のPRSの群について、一般化というものをどのように今後考えていったらいいかというところを御教示いただければと思います。
よろしくお願いします。
【中釜主査】 最初に、石垣先生、お願いします。
【石垣教授】 御質問、ありがとうございます。まず、骨破壊のところに関しては、ちょっとこれはテクニカルな話になってしまうのですが、PRSを計算するために必要な情報は大規模なGWASが必要ということになってしまって、要は、GWASで問うている患者の定義のスコアしかつくれないという制限がございます。もちろん情報解析的にいろいろ工夫することでいろんなものはつくるんですが、基本的には、今、ケースコントロールでGWASを行っているのが9割以上ですので、どうしても出るPRSは、ストレートにアプライするとケースコントロールのPRSということで、そういう制約がどうしてもある。なので、骨破壊の進行予測性PRSというものをやるためには、GWASのスタディーデザインに戻っていろいろ検証しなきゃいけないというところがあって、そこがなかなかできないというところがございます。あと、PRSが高い・低いで相関する何かしらのバイオマーカーを見つけたりということは、まさに私たちが今、GRIFINのサポートをいただいてやっている研究の一つの大きなテーマになっておりますけども、そういったものがまだ見つかってないという状況でして、そういうものが見つかれば非常に良いバイオマーカーになると信じて研究しているんですが、私の理解ではそういう基礎的な研究がまだ欠けているので実装化が進まないという、ボトルネックになっているところにどうしても、病態解明、基礎研究が未発展ということがあるのかなと思っております。
【岩田教授】 御質問、ありがとうございます。かなりエクストリームなやつを比べることで、今回は1種類の作用機序のお薬の効く・効かないがどの分子によるかを見つけ出そうとしているということなので、それが見つかれば、その中間の人たちは、一つの分子でどうなるか分からないんですけども、後から演繹して解析できるのかなというふうに考えて、そういうアイデアでやっています。一方で、PRSが高くて治療反応もすごくいい人もいて、これは一体何だというふうになるので、その意味では、さっきの4象限、四つともよく調べていくと先生の御質問にさらに答えられるんじゃないかなということです。
それから、ちょっと追加になりますけど、ポリジェニックリスクスコアを使ったゲノム医療外来というのは実は当院で今やっておりまして、これは、患者さんなりに自費でゲノムデータを解析してもらって、そうするとポリジェニックリスクが出てきます。あなたは普通の人より4倍、糖尿病になりやすいですよとか出てきて、それに対して、専門医であったり、総合診療医であったりがコメントしてあげるみたいのを始めています。さらに、CYPとか薬の副作用に関連する遺伝子情報も解析できて、こういう形でだんだん社会実装としては進んでくるのかなと。それはまさに私たちの研究の成果をダイレクトに患者さんや国民に返している実例になるんじゃないかなと思ってやっています。ちょっと追加です。
【澤田委員】 ありがとうございました。
【中釜主査】 よろしいでしょうか。
続きまして、横野委員、お願いいたします。
【横野委員】 早稲田大学の横野と申します。石垣先生にお伺いしたいんですけれども、先生のお話の中で、PRSを活用して臨床研究を推進していくことが重要で、臨床研究の専門家の参画が必要だというふうなお話があったんですが、それに向けた研究体制の整備というところで、どういう立場の人や機関がイニシアチブを取って、どういうアプローチをしていくのがいいというふうにお考えでしょうか。領域によっても違うと思うんですけれども、先生の領域でお感じになっていることがあれば、お伺いしたいと思います。
【石垣教授】 ありがとうございます。まず最初に、私は臨床を離れて久しい者なので、十分なリサーチをしたわけではないので臨床科の先生方に聞かなきゃいけないのですが、私の感覚的には、臨床研究するためには、当然、非常に質の高い臨床情報があることが必須になってきますので、今、アクティブに大規模な臨床研究をしているような人たちに、そういうゲノム情報も一緒に混ぜて解析してくださいというのが一番いいかなと思っています。ゲノム情報だけがあるところで臨床情報を1から取り出すことが相当大変ですので、なかなか現実的じゃないかなと。ゲノムをタイピングしてPRSを計算する作業に関しては、ゲノム研究者は日々やって、非常に簡単な作業ですので、そういったのをサポート的な共同研究でやるだけで、結果が出るかどうかは当然やってみないと分からないんですが、スタディーをすることは十分現実的かなと思っております。ただ、いろんな先生方に話すと、どうも、ゲノム情報を取ったり、PRSを計算したりという作業に物すごい高い敷居を感じてしまっている方々が多くて、そこは意識改革的なのが必要なのかなと。
あとは、当然、IRB的な、遺伝情報を取るという同意を取ってなかったというところも結構大きなボトルネックになっているので、その辺の整備も当然必要になってくる部分かなと思います。
【横野委員】 ありがとうございます。ここでの議論に非常に参考になる御意見だと思いました。
【中釜主査】 ありがとうございます。
そのほか、御意見、御質問、ございますでしょうか。
よろしいですかね。
特に追加での御発言がありませんので、次の議題に移りたいと思います。
次の課題は、報告書の骨子案になります。こちらについて、小野調整官から説明いただけますでしょうか。
【小野ゲノム研究企画調整官】 ありがとうございます。こちらのほうで、第1回と第2回の議論を踏まえて、「次世代医療実現のための基盤形成の今後の方向性について」ということで、骨子案のたたき台を作成しております。御覧いただければお分かりになるかと思うんですけれども、現状、ただの目次ぐらいにしかなっておりませんので、部会終了後、個別に委員の皆様の御意見を伺って、報告書(案)にしていきたいというふうに思っております。
簡単に御説明をさしあげます。まず、1ポツで、「はじめに」ということで、世界の動向を記載しております。世界各国でバイオバンクによる大型化は進んでおります。オミックスデータですとか、臨床情報などの充実も進んでいるところです。研究という意味でも、疾患関連遺伝子の発見を起点としたゲノム創薬で上市事例も登場しております。バイオバンクの利活用という意味でも、UK Biobankなどのデータを使って発見された治療標的に対する創薬研究というのが進んでいる状況かと思います。
一方で、日本の状況ですけれども、文科省のプログラム(B-cure)において、ToMMoとか、BBJといった、一般住民・疾患バイオバンクの構築は進んでおりますし、本日、プレゼンいただいたような研究というのもどんどん進んでいる状況かというふうに思います。まず、バイオバンクの利活用という意味では、ある程度進んでいると。ただし、今後、医療への実用化ということを考えると、さらなる利活用が必要であろうという御議論を、前回、前々回はしていただいたというふうに認識しております。また、研究という意味でも、先ほどまさにプレゼンをいただいたとおりで、ゲノムの情報を使った、臨床への応用、医療への応用というのも進みつつありますけれども、今後さらに進めるという観点では、PRSを使うのに、臨床研究者とのコラボというか、むしろ臨床研究者がメインになったような研究が必要なのではないかですとか、ゲノムに限らず、様々なデータを使って、病態解明ですとか、標的の探索ですとか、そういったものが必要だというようなお話があったかと思っております。
3ポツで、今後の方向性についてというのを書きたいというふうに思っております。今はまだ全然、全体像というところも書けておりませんけれども、先ほど申し上げた、海外の動向、日本の取組の状況を考えますと、海外はどんどん大型化しているという中で、日本の動きを考えると、同様に大型化していくというよりは、質の高いバイオバンクを目指す。また、一つのバイオバンクでそれを成立させるというよりは、幾つか、複数ある有望なバイオバンクをつなげてネットワークとして使っていくというような方向性が重要なのではないかなというふうに考えております。
マル2、バイオバンクの在り方です。いの一番に来るのは、先ほども申し上げましたが、やはり利活用の促進ということかというふうに思っております。特に、疾患のバイオバンクと一般住民のバイオバンクの連携を筆頭とする、国内のバイオバンクの連携強化で、別のバイオバンクにあるデータや試料だったとしても同じバイオバンクにあるように使えるような、解析プロトコルの統一化ですとか、解析データの標準化といった動きは、非常に重要かというふうに考えております。また、本日もお話ありましたが、ユーザーの多様化を踏まえた、ユーザーとバイオバンクをつなぐデータアクセスの支援といったことも重要かというふうに思っております。
バイオバンクの中身ですけれども、コホート調査という意味では、第1回の会議のときに、3世代コホートのような日本で特徴のあるコホート調査を継続・充実させるのは重要だというお話をいただきましたし、また、介入研究のようなところに対応できるような追加コホートが重要だという話もあったかと思います。一方で、既存のバイオバンクを運用するに当たっては、効率化というのも避けては通れないところかなというふうに思っております。
次、試料・情報の整備というところでは、オミックスデータを充実させるべし、また、臨床情報や健康情報を充実させていくのは重要だというお話をいただいたというふうに認識しております。充実といったときに、利用者のニーズに対応したというところが非常に重要なところだというふうに思っております。
その他、倫理的な課題への対応ですとか、人材育成とか、もちろん幾つも重要なポイントはありますけれども、最後に「国際動向・国際標準を踏まえたデータ共有の在り方」と書いていますが、海外との付き合い方というところも何がしか盛り込まなくてはいけないというふうに考えております。国際標準を踏まえて、きちんと比較したり共有したりできるように日本のバイオバンクも構築していくべきというお話もありますし、一方で、ゲノム情報は個人情報でもありますし、海外にすぐ出していいのかという議論もあろうかと思います。そういったところの制度的な課題をきちんと検討していくべきだというコメントもいただいているというふうに認識しております。
マル3、バイオバンクのデータを活用した研究の在り方、本日まさにプレゼンいただいているところですけれども、PRSのようなゲノムのデータを使った研究というのは、今後、臨床研究者もきちんと巻き込んだ形で研究をすべきというお話、さらに、病態解明のような基礎的な研究の重要性というのもいただいたというふうに考えております。
繰り返しになりますけれども、これらは今、骨子案、目次みたいな形になっておりますので、今後、委員の皆様方の御意見を伺って、報告書(案)というふうにさせていただければと思っております。
以上でございます。
【中釜主査】 ありがとうございました。
ただいまの説明に関して、何か、委員の先生方から、御意見、御質問はございますでしょうか。
私から質問といいますか、バイオバンクの利活用に関して、特に疾患バイオバンクと一般住民バイオバンクの連携強化は非常に重要な視点の一つかと思います。この点に関して、澤田委員から、どのような連携は可能なのか、あるいは、検証としての検証研究のフェーズと、さらにそれを実装していく際の、検証の精度を上げる、それから、実装研究に持っていくときの課題みたいなものがありましたら、コメントをいただけますでしょうか。
【澤田委員】 ありがとうございます。非常に難しい課題の御質問かと思っております。
そもそも、今後、海外に太刀打ちするにはオールジャパンで取り組むということが非常に重要になってくるという前提の下、今ある既存のコホート研究やバイオバンクを統合するに当たり、同意があるかという問題などもあり、まず、そこの倫理的な課題は非常に大きいところかと思っています。さらにそれを医療に実装していくときに、コホート研究は観察研究なので、介入をコホートに加えていくかというところで、プラスアルファ、サブコホートみたいのをつくっていかないといけないのかなというような課題は、各コホートとしての課題として検証していかなくてはいけないのかなというふうに思っています。
あとは、生体試料についての利活用もどんどん進めていくべきだと思いますが、まず、情報にして、それを利活用していくということも、少ない、限られた生体試料の利活用としては重要だと思いますので、各コホートなりバイオバンク、ToMMoやBBJが何を優先的に試料をデータにしていくかというところの優先順位も決めていったほうが、将来的な利活用や創薬の開発などには進むのかなというふうに、個人的に感じたところです。
以上です。
【中釜主査】 ありがとうございます。
そのほか、御質問ございますか。
私ばかりで申し訳ないのですが、引き続き、澤田委員に質問です。先ほど、介入研究による追加コホートの話もありましたが、介入研究に移る前に、ケースコントロールで行われた研究成果の検証としてコホートによる検証が必要ですけど、いろんなコホートと連携するとなると、その精度を上げることが介入研究の前にも必要なのかなと思います。そういった意味でのコホート連携の強化、あるいは現状というのは、どのようになっているのですか。
【澤田委員】 ありがとうございます。今、メガバンクさんが中心に、がん以外の様々な疾患のコホート連携というものと、国立がん研究センター中心に、がんを中心のコホート連携を立ち上げて実施しているというようなところで、コホート間のゲノム連携というのはかなり進んでいるかと思います。ただ、どこまで統合するかというところにもよると思いますが、今は1万人以上のコホートで集まっているという状況はあると思います。先生がおっしゃったように、ゲノムと疾患のリスクを明らかにしていくという観点からはサンプルサイズは非常に重要になるので、ゲノムだと因果の逆転というのはあまりないので、まずは症例対照研究で行っていくのが多いかと思いますが、先ほどの糖尿病などは、社会・経済因子、生活習慣、個人の特性というのがかなり関係するということであれば、様々な疾患という観点からは、前向き研究で因果の逆転を除外した観点からケースコントロールの結果を検証し、コホート研究で精度を上げるというのは、あるべき姿だと思っています。
【中釜主査】 分かりました。ありがとうございます。
ほかに、御意見、御質問はございませんでしょうか。
よろしいですかね。
今日、岡田委員は参加されていますかね。
【岡田委員】 参加しております。
【中釜主査】 岡田先生への質問は、石垣先生にもお願いしたいのですけど、先ほどポリジェニックスコアで正規分布をしてハイリスクとローリスクの比較をするということだったのですが、がんの領域でも、いろんなフェノタイプで、レスポンダー、ノンレスポンダー、ハイレスポンダーで比較すると、例えば、いろんなマーカーが正規分布をするのですが、その上位と下位を取って比較をしてもなかなかうまく出てこないケースがあります。例えば、それが二峰性になるようなスコアリング性がある、あるいは一峰性の中でも多様なものがある場合は、先ほどクラスタリングの質問をしたのはそういう意味でしたが、そういうアプローチで進むのがよいのでしょうか。そうしたときはクラスターのサイズが小さくなってくるので、その弊害もあるかなと思うのです。その辺りについて、お二人の先生の御経験を踏まえて、ポリジェニックが正規分布になっても、そこから実証して有用性を検証していくというアプローチしかないのか、その点についてはいかがですかね。お二人の先生、順番に教えていただければと思います。
【岡田委員】 今、車内でありまして、石垣先生にお願いできますと。申し訳ございません。
【石垣教授】 先に私から。先ほどから、私の話はどうしても、がん領域は全く経験がないので、なかなかいい答えになってないかもしれませんが、PRSのいいところと悪いところは、バリアントのキャラクターが全くそこに反映されず、一つのスコアしかないという、使いやすいけど、ある意味で少し汚いスコアになってしまうというところがあるのかなと思っておりまして、スコアを計算するときに、先ほどの山内先生のお話にもつながるかもしれませんが、バリアントのキャラクターがある程度分けた上で、同じような、似たような機能を持つものでスコアを作って分けないと、あまり有意義な分け方にならないということがあるかなと思っております。私の場合、HLAという遺伝子とHLA以外の遺伝子で全く機能が異なるということがありますので、私のPRSの研究ではHLAをわざと除いて、HLA以外、機能が比較的単一であろうという期待が十分持てるものでスコアを計算して研究をしてうまくいったということで、恐らくHLAまで含めていると研究はうまくいかなかったんじゃないかなと思っておりまして、そのような部分でPRSの計算の仕方を工夫したりすることは、機能的な部分でSNPを見極めてスコアを計算するのは非常に重要かなと思っております。
【中釜主査】 分かりました。そうすると、先ほどの骨子案の中で、今後の方向性の中に入れ込むにしては、少し解析手技的なことなので、あまりこの中には書き込みにくいのかなというふうにお聞きしました。そういう新しい技術開発みたいなところで、あるいは解析手法そのものに関する今後の方向性みたいなものが何か書き込めないのか、お話をお伺いして感じたものですから質問させていただいたのですが、それについてはいかがですかね。
【石垣教授】 PRSをより有用に活用するという意味では、間違いなくそこは非常に重要なポイントになると思っておりますので、そのためには、当然、今からいろいろな研究はしなきゃいけないということで、明日、あさってにすぐできるというものではないんですけども、方向性として、5年後、10年後を見据えるという意味では、そういうPRSの計算を、有意義な形で計算できる技術開発というものは必ず必要になってくると思っております。
【中釜主査】 分かりました。ありがとうございます。
ほかに。
寺尾委員、お願いいたします。
【寺尾委員】 ありがとうございます。質問というか、今後御準備される報告等についての、ある種、リクエストというか、コメントになるんですけれども、今御提案いただいている骨子の中で、我々から見たときにもう少し踏み込んで扱っていただけたらいいなと思っている点に、倫理指針についての点がございます。私からの発表のところでも、最後、少し雑駁に申し述べましたアジリティプロセスというところにも関連するところ、それから、この部会での議論の中でバイオバンクのユーザーの多様性が非常に広がっているというところで医療分野以外の研究者等というところも挙げられてございますので、そういった現状を見たときに、現在の倫理指針がちょっと複雑で難解であるということ、それから、グローバルも含めた企業の中でも多様な研究者がそれに対してアクセスするということを考えた場合に、特に、バイオバンクのアーカイブ試料ですとか、情報ですとか、個人から切り離されたものを取り扱う上での指針の解釈ですとか、審査の在り方等も、分かりやすく御提示いただく必要があるのではないかというふうに思っておりますので、ここの指針のガイダンス等も、この骨子の中というか、報告書の中で、かくあるべきかというところについて、例えばガイダンスを作成する等についてのアクションについても、御検討、もしくは触れていただくようなことがございましたら、大変幸甚ですということです。コメントなります。
以上です。
【中釜主査】 重要な御指摘、ありがとうございます。
事務局、よろしいでしょうか。
【小野ゲノム研究企画調整官】 ありがとうございます。
【中釜主査】 ほかに、御質問、御意見はございますか。
よろしいでしょうか。
では、特にございませんので、議題(3)については、以上とさせていただきます。
続きまして、議題(4)はその他になりますが、本日予定した議題としては以上ですけど、事務局から連絡事項等、ございますでしょうか。
【小野ゲノム研究企画調整官】 本日は、大変有益な御議論をいただきまして、誠にありがとうございます。
本日の議事録につきましては、事務局にて案を作成し、委員の皆様にお諮りして、主査の御確認を得た後、弊省のホームページで公開いたします。
次回の作業部会は、令和7年3月26日、水曜日の10時から12時を予定しております。本日、御予定が合わない先生がいらっしゃったため、次回もバイオバンクの利用者側として、今後のゲノム研究の在り方について、1名、御発表をいただく予定としております。
また、本日、骨子案として御説明した報告書については、取りまとめをさせていただければと思っております。報告書取りまとめに当たっては、改めて皆様の御意見をお伺いしたいというふうに考えておりますので、別途、事務局から御連絡をさしあげますので、どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
【中釜主査】 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
それでは、本日の次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会はこれにて閉会とさせていただきます。委員の先生方、御協力、ありがとうございました。
―― 了 ――
研究振興局ライフサイエンス課