第10期地球観測推進部会(第6回) 議事録

1.日時

令和6年7月25日(木曜日)15時00分~17時45分

2.場所

オンライン開催

3.出席者

委員

村岡部会長、岩崎委員、岩谷委員、上田委員、浦嶋委員、河野委員、川辺委員、嶋田委員、高薮委員、谷本委員、中北委員、堀委員、前島委員、六川委員、若松委員
 

文部科学省

清浦大臣官房審議官(研究開発局担当)、山口環境エネルギー課長、松原環境科学技術推進官、中川地球観測推進専門官

オブザーバー

内閣府 松田科学技術・イノベーション推進事務局参事官(統合戦略担当)
環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性戦略推進室 福井主査
環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性主流化室 大澤室長補佐
環境省自然環境局生物多様性センター 高橋センター長
環境省自然環境局生物多様性センター 馬淵企画官
農林水産省大臣官房みどりの食料システム戦略グループ 古林課長補佐
農林水産省政策課技術政策室 村松課長補佐、加藤係長、福島担当
林野庁森林整備部研究指導課 都築首席研究企画官
水産庁漁場資源課 加賀課長補佐、贄田課長補佐、松井課長補佐 
株式会社バイオーム 藤木代表取締役


 

4.議事録

【村岡部会長】  ただ今より、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 第10期 地球観測推進部会の第6回会合を開催いたします。本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。本日はオンラインでの会議になります。事務局に人事異動があると伺っておりますので、その紹介とともに、議事進行に当たっての注意事項を事務局からご説明ください。よろしくお願いします。
 
【中川専門官】  事務局に人事異動がありましたのでご紹介させていただきます。研究開発局において千原局長が異動し、7月に堀内局長が着任しております。所用により次回以降にご挨拶させていただく予定です。また、環境エネルギー課においても轟課長が異動し、7月に山口課長が着任しております。山口課長、一言御挨拶をお願いいたします。
 
【山口環境エネルギー課長】  7月11日付けで環境エネルギー課長に着任しました山口と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【中川専門官】  ありがとうございます。続きまして、事務局から本日の部会の進め方について簡単に注意事項をご説明いたします。オンライン会議システムの安定のため、ご発言されていない時にはマイクとビデオをオフにしていただくようお願いいたします。御発言がある場合は挙手ボタンを押してお知らせください。また、御発言の際は、名前をおっしゃってからご発言いただくようお願いいたします。挙手ボタンが見つからない等の場合は、画面をオンにして画面上で手を挙げていただくか、直接ご発言いただきたいと思います。なお、オンライン会議システムを利用して出席されている委員につきましては、音声が送受信できなくなった時刻から会議を退席した扱いとさせていただきます。
 配布資料につきましては委員の皆様には事前に議事次第とともに資料1から資料5-2までの資料及び参考1を電子媒体でお送りしております。不備等がございましたら事務局までお申し付けください。
 続いて、委員の出席を確認させていただきます。接続確認を行いまして、本日は13名の委員にご出席いただいております。全18名の過半数10名に達しておりますので、本部会は成立となります。なお、本日は原田委員、赤松委員、神成委員の3名は御欠席の御連絡を頂いておりまして、中北委員と六川委員に関しましては遅れての参加というふうに考えております。本日はオブザーバーといたしまして、科学技術・イノベーション推進事務局の松田参事官にご出席いただいております。以上となります。
 
【村岡部会長】  どうもありがとうございます。今回の部会では、次期実施方針の策定に向けて、前回に引き続きまして関係省庁等から生物多様性分野の地球観測等をテーマとしてヒアリングを行います。今回は、環境省、農林水産省、民間企業である株式会社バイオームの取組についてご説明いただきます。皆様の話題提供に先立ちまして議題1では私から生物多様性観測に関する動向について主に観測コミュニティの状況についてご説明いたします。資料1を皆さんご覧ください。現在国内外の生態系・生物多様性観測の特にコミュニティ、ネットワークの状況、あるいは今後の推進の課題に関していくつか皆様に情報を共有いたします。
 生物多様性分野における国際・国内的な課題につきましては、私の後で環境省はじめ農林水産省あるいは株式会社バイオームからご説明いただきますが、特にアカデミアの観点でいくつかお話ししたいと思います。生物多様性や生態系機能の特徴と問題に関して、特に日本を含めアジア・オセアニア地域の特徴としましては、多面的な機能や生態系サービス、あるいは多様性そのものが高いこと、地理的分布が複雑であること、気候変動や極端気象の影響の地理的な不均質性が非常に高いということ、地域の生業とか文化、産業との関係もありながら、土地利用や資源利用のインパクトもあるということ、気候変動のインパクトがあるという、様々な課題、問題あるいは特徴がございます。
 こういった課題解決、あるいは今後の気候変動緩和・適応あるいは生態系サービスの保全といった課題に向けて様々な政策課題あるいは社会経済的な課題があります。
 観測データ、利活用、普及に関する課題としましては、次のいくつかのブレットポイントのように理解しています。一つ目としては、生物多様性観測やデータの特徴の理解の普及を図るということ。学際的研究と理解の普及を図ること。データや知見の時空間的ギャップの解消を図る必要があること。そういったデータや知見の共有と公開が必要であること。また、第9期の地球観測推進部会でも議論しましたが、データバリューチェーンの展開が必要であること。そして、これらを現在から将来にわたって支えていく人材の育成が必要であるということです。
 生態系・生物多様性観測の科学あるいは技術、さらにギャップについて、簡単に整理いたしました。生物多様性観測と申しましても、様々なテーマあるいは対象があるわけですが、大きく分けてフィールド観測、衛星リモートセンシング、それから数値モデリングがあります。このフィールド観測は陸域観測あるいは沿岸・海洋での観測になります。英語だとIn-situ観測ともいいますが、人による調査・記録ですとか、環境DNA、カメラ、集音装置などのセンサー類、CO2フラックス観測及び気象観測、UAV等による近接リモートセンシング等、時空間スケールや対象は多岐にわたります。これに加えて、この地球観測推進部会でも多く議論になっています衛星リモートセンシング、今後は特に気候変動分野では気象の数値モデリングはもちろん一般的なこととしてあるわけですが、生物多様性分野でもやはりこういった観測データに基づいた数値モデリングの推進が今図られているところです。
 こうした様々な観測やモデリングを組み合わせても、観測のギャップ、特にスケールギャップというものがございます。ご覧いただいている資料の右には、様々な生物、土地利用とか生態系変化の時空間的なスケールと、それに対応する衛星の例を示してございますが、生物多様性といいましても遺伝子レベル、種レベル、生態系レベルの各スケールによって観測解像度、この場合は空間的な解像度や時間的な解像度が異なるということがありますので、観測空白域がどうしても生じています。自動化されたセンサー観測は、時間的な空白域を補完する可能性がありますし、衛星観測は広域性・時間連続性に対応しますが、こういった時間的・空間的な観測の解像度のトレードオフの問題、あるいは物理情報から生物多様性情報に変換するための方法論にまだ課題があります。多様な観測を融合することによって、生物多様性に関する指標開発が課題になっています。
 ここからいくつか生物多様性・生態系分野に関する観測コミュニティの情報を共有いたします。いくつかの情報は一昨年私から第9期地球観測推進部会でもお話しましたものと多少重なりますがお許しください。まず、地球観測に関する政府間会合 生物多様性観測ネットワーク(GEO BON)です。これは、2005年に設立された第1期GEOのときに生物多様性観測を全球規模で推進するために2009年に設立されたものです。リージョナルBON(地域のBON)生物多様性観測ネットワーク、国レベルのもの、海洋ですとか淡水ですとか土壌などのThematicなもの、そういった様々な生物多様性観測ネットワークが設立されています。多くの観測ネットワーク、研究者、機関あるいは大学等が、遺伝的な要素から種の問題、群集、生態系の機能、生態系の構造、私たちにとっても重要な生態系サービスに関する観測あるいは評価を進めています。この中で特にGEO BONが推進しているのが、Essential Biodiversity Variablesといいまして、左の表にありますような様々な生物多様性情報を先ほどご説明しました多くの研究観測手法とモデルを組み合わせることによって、時空間的な空白域もなるべく解消した形で、生物多様性あるいは生態系サービスが時空間的にどのように分布・変動しているかということを評価するといった指標です。
 これを全球規模で進めるということが例えば、後ほどお話が出てくるかもしれませんが、生物多様性条約の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の中でもモニタリングが必要だというふうにされております。この全球規模での生物多様性あるいは生態系サービスの観測のモニタリングを進めるためにも、全球生物多様性観測システムといった多くの既存の生物多様性観測・生態系観測あるいはモデリングを組み合わせたシステムの構築が必要であるということをGEO BONが昨年意見論文として提出し、これが現在「昆明・モントリオール生物多様性枠組」でも取り上げられているところです。
 GBiOSと呼ばれる全球生物多様性観測システムでは5つの取組を進めようとしています。1つ目には、生物多様性データのギャップの解消。2つ目が、指標のための情報の提供。3つ目が、スケールをまたいだ生物多様性の変化の理解。4つ目が、能力と技術の実装。5つ目が、全てのセクターの関与ということです。ここでは全てご説明申し上げませんが、多くの国内外あるいは国際的な既存の様々な生態系観測、あるいは生物多様性観測、気候変動観測、そういったものを結合していくことによって全球規模での観測システムを構築していく必要があるという議論でございます。
 アジア太平洋 生物多様性観測ネットワーク(APBON)です。これはGEO BONに呼応してCBD(生物多様性条約)のCOP10、これは2010年に名古屋で開催されたものですが、これを前に設立されたものです。GEOSSアジア太平洋シンポジウム、現在ではAOGEOシンポジウムとして地球観測推進部会の皆様にも既によく知っていただいているところですが、このシンポジウムを契機としてコミュニティが構築されたものです。APBONでは、地域の10カ国ぐらいの研究者、研究機関が集合しまして、生物多様性観測あるいはIPBESにも貢献するようなアセスメントを展開しているところです。ただ、課題としては、やはりアジア太平洋地域における生物多様性の観測ギャップをどう埋めていくか、生物多様性データの存在そのものをどのように明らかにしていくか、データのアクセシビリティの向上の問題、あるいはリソース、アカデミアや市民科学等、様々な観測主体あるいはステークホルダーとの連携を進めることが必要とされています。
 JBON、これは日本の生物多様性観測ネットワークです。GEO BONやAPBONとも連携しながら、日本の生物多様性観測に関するニーズ、あるいは能力開発を支援していく、連携していくために発足されたものです。2009年に発足しましたが、昨年再構築して、現在3つの活動を、生物多様性観測の支援、データ利用の推進、あるいは国際連携の推進、この3本の柱で活動を進めているところです。
 地球規模生物多様性情報機構、これはGBIFと呼ばれるものです。GBIFというのは、OECDの勧告を受けて、参加政府間の覚書によって2001年に発足したものです。2024年6月現在、44の正規参加国、19の準参加国、43の準参加団体からなる国際的なネットワークです。約29億件のオカレンス、これは生物の出現記録を示します。これを含む生物多様性情報基盤をオープンアクセスで提供しているところです。
 日本でも文科省のNBRP課題において遺伝研、科博、国環研の3機関が運営しています。生物多様性情報のデータ収集や公開、国内での普及活動等を日本のGBIF事業を担う組織として活動が続けられています。ここでもやはり特徴と課題がありまして、文科省のナショナルバイオリソース事業によって推進されて年間10万件以上の観察データを収集・整備し、GBIFから公開しています。今後は、これをもちろん全球規模での生物多様性状態の評価に使っていくわけですが、以前日本は正規参加国としてJBIFがGBIFの日本ノードを担っていましたが、現在日本はオブザーバーとなっていまして、JBIFがデータ収集と提供機能を引き継いでいますが、GBIFへの発言権がない状況ということで今後の課題となっています。
 長期生態学研究ネットワーク、これはLTERですが、これは生態系あるいは生態系機能の変化を森林、草原、陸水、沿岸等、様々な観測サイト(調査地)で数十年スケールでの変化をモニタリングしていくものです。このLTERについては何度もこの部会でもご紹介しましたので少し省略しますが、最近の重要な動きとしましては、DIAS(データ統合・分析システム)と連携することによりまして、JaLTERのデータベースに搭載されているデータをDIASに移行するということを今年度進めてございます。これによって地球観測データと生態系観測データの総合的な利活用、あるいは共同観測を推進するということを進めています。
 環境DNAの技術による生物多様性観測網、これはANEMONEといいます。All Nippon eDNA Monitoring Networkです。2019年に設立されたネットワークでして、大学や国立の研究所、LTER、JAMBIO等が観測に貢献していまして、全国77地点(55の沿岸、18の河川、4つの湖沼)で定期観測が続けられています。ご覧のとおりこのANEMONEというデータベースが作られていますが、主に水域中の生物、魚類等の生物多様性のモニタリングが全国規模で続けられています。さらにこの観測はアカデミアだけではなくて、市民科学あるいは企業等と協力した展開がされているというところです。このANEMONEの特徴としては、この観測をするだけではなくて、環境DNAの調査により収集された生物多様性情報を、生物多様性の保全あるいは水産業等にも展開しながら、産官学連携によって生物多様性観測とそのデータ利活用を推進しているという点にあります。
 フラックス研究ネットワークです。これも地球観測推進部会の皆様にはおなじみになったネットワークですが、最近では世界規模での気候変動の推進あるいは森林生態系の劣化、そういったものが陸上生態系によるCO2の吸収機能にどのような影響をもたらすかということの全球規模での評価に使われておりまして、そういったデータや知見が学術的な目的にとどまらず国際的な地球温暖化関連政策にも波及しているところです。日本を含むアジア地域でもAsiaFluxというものがありますが、日本の研究者を中心としてそういった観測データの集約あるいは統合的な解析が進められています。さらに衛星データあるいはモデル、あるいは機械学習との結合によって、こうした観測データの観測空白域を埋めつつ広域的なマッピングも進めているということです。ただ、やはり課題がありまして、その観測の運用からデータ処理、データ公開までを含む10年スケールの地球観測インフラ化が理想であるということです。
 これで最後にいたします。生態系・生物多様性分野の地球観測インフラストラクチャーの構築が必要だということを、この生物多様性・生態系観測のコミュニティと議論しているところです。一つはスーパーサイト構想というものです。これは陸域生態観測の連携拠点として陸域観測、衛星観測、数値モデルといったものを統合していくというようなフィールド拠点が必要であろうということです。さらに、それを地球観測インフラとして成長させていく、Nature-based Solutionsプラットフォームとも呼んでいますが、多様な地球観測によって多地点・広域で観測・評価を推進し、自然を活用した課題解決に資する地球インテリジェンスの創出を図ることが必要だろうというふうに考えていまして、こういった分野横断的な観測をしながら地球観測人材を育成し、ファシリテーターを育成し、先ほどご案内したようなGBiOSという国際的な動きとも連携させながら、こういう観測インフラを我が国でも推進していくことが今後求められるというふうに考えています。
 私からの御報告は以上です。
 このまま引き続きまして、議題2にまいります。議題2は、環境省における生物多様性に関する取組についてお話しいただきます。環境省の福井様から、資料2に基づき御説明をよろしくお願いいたします。
 
【福井主査】  環境省の福井です。よろしくお願いいたします。ただ今紹介にあずかりました環境省生物多様性戦略推進室の福井と申します。私からは環境省における生物多様性に関する取組ということで発表させていただきます。今日のお話なのですが、まず、この生物多様性に関する地球観測データがテーマということで、この地球観測データの重要性がなぜ増してきているのかという背景部分をまず説明させていただいて、その後地球観測に関する環境省の取組について説明させていただきます。後半は地球観測データをどのように活用していくかというテーマで、今環境省の方でやっていることを紹介させていただいて、最後にそれらを踏まえた地球観測データの課題感というものをまとめて発表させていただければと思っております。
 こちらはまず背景部分になります。生物多様性をめぐる国際的な議論は、いま村岡先生からもございましたが、非常に加速化しておりまして、直近ですと2010年のCOP10愛知目標というのが採択されましたが、そこから10年余りの月日が経ちまして2022年の12月に愛知目標に次ぐ国際目標となる「昆明・モントリオール生物多様性枠組」というのが採択されました。この10年余りの期間の中に非常に多くの議論がございまして、例えばこのWEFのレポートにあるような、生物多様性と経済を結び付けるような議論であったり、後はIPBESとIPCCが合同でワークショップを行ってレポートを出す等、生物多様性と気候変動を結び付けるような議論というのも盛んにされてきたところでございます。そうして成立した世界目標、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」なのですが、2050年までの4つのゴールと2030年までの23個のターゲットというのが定められまして、注目いただきたいのはこの赤枠の部分でございまして、ターゲットの21の中にも大量の利用可能なデータ、情報及び知識を一般の人々が利用できるようにするということで、その地球観測データにあるようなデータの収集だったりその公開というのが、しっかりと世界目標の一つとして含まれていることになっています。
 こうした世界目標の成立を踏まえて、日本の方でも生物多様性国家戦略というのを昨年3月に閣議決定をいたしました。この国家戦略というのは、世界目標を踏まえて各国が策定をしなければいけないものなのですが、日本はこの「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえて世界に先駆けてこの国家戦略を策定いたしました。この国家戦略は非常に内容がボリューミーなのですが、本日注目いただきたいのがこの下の図でございまして、構造的には、2030年に向けた目標として、日本の国家戦略ではネイチャーポジティブの実現、要は生物多様性が今落ちてきている状態なのですが、それを上向きにしていくような状態を目指そうとしています。それを目指すために5つの柱というのを立てているのですが、赤枠で囲ませていただいた部分、柱の5つ目が生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進ということで、正にその生物多様性に関するデータの利活用だったり、それを踏まえた様々な主体の連携の促進、さらに基礎調査とかモニタリングを充実させていく。このような国としての目標というのを国家戦略の中に含めているところでございます。
 この5つの柱の関係性を簡単に表したのがこちらの図で、正にこの基本戦略の柱の5つというのは、それぞれ独立しているのではなくて相互に連関し合うような関係性です。その中でも今申し上げた基本戦略の5つ目というのは、各基本戦略の取組を支える正に軸となる部分だと我々は捉えています。要は生物多様性に関するデータがなければ様々な取組を評価したり推進していくことが非常に難しくなると。そういった意味では非常に大事なものであると捉えています。この基本戦略5に基づく取組といたしましては様々あるのですが、その中には新技術を活用した環境調査というのがございまして、例えば高精度の衛星画像解析で植生だったりサンゴだったり藻場の種構成や面積を把握していくということでしたり、ドローンを活用していったり、あと、先ほどの発表にもございましたANEMONEにあるような環境DNA。こうした技術を使っていくということも取組に位置付けているところでございます。このように、国家戦略においてもデータの充実というのが求められているところでございますが、これに関して今環境省でどのような地球観測を行っているのかについて次は発表させていただきます。
 まず紹介させていただきますのが「モニタリングサイト1000」というものでございます。別名、「重要生態系監視地域モニタリング推進事業」というものでございまして、これは何かと申し上げますと、我が国の代表的な生態系を対象に全国で約1,000カ所の調査地を設定して、自然環境の変化を迅速且つ的確に長期的に捉えていくという事業でございます。2003年から実施してきておりまして、はや20年ぐらいが経とうとしております。こちらの図にサイト一覧を載せておりまして、全国北海道から沖縄まで網羅するように、しかも生態系ごとに例えばサンゴだったり干潟であったり森林であったり農地であったり、そういった生態系タイプも網羅するような形で全国約1,000カ所設定をしております。市民の方々や研究者の方々約4,000名以上が関わっているような事業になっています。
 これだけサイトが多様だったり調査員数が多いと、やはりモニタリングする上では非常に困難があるのですが、これを打破するために調査マニュアルというのを設定しておりまして、調査員の能力向上を目的とした講習会等を通して、20年以上にわたり精度の高い調査データを提供しつづけているというものになっています。
 さらに、こうしたデータを5年に一度取りまとめをしておりまして、2019年に15年間の取りまとめ報告書というのを公表させていただいたのですが、そこでは例えば、ここにあるようなチョウであったり、在来の鳥、要は我々が身近に感じているような普通種という生き物の減少傾向を捉えることができたなど成果があらわれているところでございます。
 もう一つ、「モニタリングサイト1000」と同様に重要な調査でございますのが「自然環境保全基礎調査」というものでございます。これは自然環境保全法に基づいて、どちらかというと「モニタリングサイト1000」は点で調査をしていくのに対して、この「自然環境保全基礎調査」は面的に幅広に調査をしていくというような調査になっています。この調査なのですが、1970年代から開始してはや50年ぐらいの歴史がある調査になっております。主な調査というところでいろいろ挙げているのですが、例えば皆さんに一番なじみ深いのが植生調査、いわゆる植生図として提供されているものでございますが、これについては2023年に25,000分の1の植生図の全国整備が完了したところでございます。他にも淡水魚類や昆虫、哺乳類、サンゴというような形でそれぞれの分類群ごとにこうした面的な調査をやっているところでございます。また、環境省の方では「いきものログ」というものがございまして、これについては市民参加型の調査になっているのですが、要は市民の方々が調査したデータをこのようなサイトの中で統合してデータを共有したり提供したりするシステムというのも構築しております。さらに、先ほど紹介した「モニタリングサイト1000」だったり「自然環境保全基礎調査」、こうした調査結果を分かりやすく提供するために「自然環境調査Web-GIS」というものもホームページ上で公開しておりまして、このような形でGIS上で地図情報としてこれらの調査結果のデータを入手することができるという、オープンデータに関する取組もやっているところでございます。
 今後こうした調査をどのように環境省としては展開していくのかというところもお話ししたいのですが、環境省の方では2023年に「自然環境保全基礎調査マスタープラン」というのを策定しております。ここでは今後10年間どのようにこの自然環境保全基礎調査を展開していくのかということについて計画を立てております。さらに、総合解析というのも実施する方針でございまして、これは2023~2025ということで今正に実行している段階なのですが、過去50年間の自然環境保全基礎調査の成果を、他の調査データ等を援用しながら総合的にどんなことがいえるのかという解析をやっていくというものです。
 それぞれもう少し詳しくお話しさせていただきますと、、今まで50年間に及ぶ調査を行ってきたのですが、やはり50年間でこうした社会構造の変化に伴ってニーズがだんだん変化してきていることを踏まえて、結局今までの調査方針でよいのかというところを見直しも含めて策定したのがマスタープランになっています。今後については、一般向けですとか国、自治体、さらには研究者や企業の方々、こうしたいろんな主体に活用していただけるように様々な形でデータを提供していくというような方針を定めています。
 例えば先ほど少し触れた植生図です。皆さんも見たことがあるかもしれないのですが、この植生図についてもマスタープランの中では今後の方針を定めております。先ほど申し上げましたが2023年度までにこの25,000分の1の植生図というのが全国整備が完了しているのですが、一つ大きな課題がございまして、この25,000分の1の植生図の整備に25年もの歳月を要したというところがございます。やはり日本全国を網羅的に植生調査していくというのはかなりの労力が掛かるものでございまして、25年かかったと。これをやっていったら次に植生図が更新するのが更に25年後とかになってしまいます。こうしたスパンでデータを公開していくことで時代の要請に応えられるかというとやはりそれは難しいというところもあり、そこで速報性も重視した自然環境情報の整備ということで、衛星植生図の作成というのを今後行っていく方針です。この衛星植生図を行うことによって、植生調査とともに衛星データも活用して植生図を整備していくことで、今まで25年掛かっていた調査を5年に短縮することができるだろうとしています。こうすることによって、短期間で植生図を作成したり、速報性、分かりやすさ、高精度に兼ねた植生図を全国整備することは可能であるだろうというふうに考えています。正にこれはこれからやっていく取組です。
 先ほど紹介した総合解析の方もどのようなことをやっているかと申し上げますと、50年間のこの基礎調査の成果をベースに、いろんなデータを援用しながら総合的に解析を行っているものになります。解析テーマとして、時代の要請に応えましてこのA~Dの解析テーマというのを置いていまして、それぞれに基礎調査のデータですとか他のデータも組み合わせながら、一般向け資料ですとか政策決定者向け資料ですとか専門家向け資料ですとか、それぞれのセクターに応じた情報提供の仕方というのも考えているところでございます。これは来年度公表になると思います。正に今取り組んでいる取組でございます。
 ということで環境省の地球観測に関する取組を説明させていただきましたが、ここからはどのようにそういったデータを今環境省の方で活用しているのかということについて説明させていただきます。まず紹介したのがJBOと呼ばれるものでございまして、これはJapan Biodiversity Outlookの頭文字を取ってJBOと呼んでおり、日本語で申し上げると生物多様性及び生態系サービスの総合評価と呼ばれるものであって、こうした生物多様性や生態系サービスの価値とか現状を科学的な情報を整理して総合評価を行うというものでございます。これは今まで2010年に1回目のJBOが行われて約5年ごとに総合評価を行ってきて、直近では2021年にJBO3というのを公表しております。このJBO3では例えば生物多様性は過去50年間損失しつづけているということですとか、生態系サービスも過去50年間劣化してきているということですとか、今後生物多様性を回復に転じさせるためにはこれまでの対策に加えてもう少し間接要因、こうした社会構造の変革というところも含めた対策が必要ですとか、こうした重要な知見をもたらしてきまして、こうした知見は生物多様性の国家戦略にもインプットがされているところでございます。
 具体的にどういう評価をやっているのかというところをお見せしますと、例えば生物多様性の状態については、ここでは森林生態系、農地生態系と、生態系ごとにカテゴリー分けをしていまして、JBO、JBO2、JBO3からの損失傾向の変化というのを矢印で表しております。この色付けによってその損失の大きさも変わってくるような評価なのですが、これはどうやっているかといいますと、いろんなデータを総合的にエキスパートジャッジというような形で専門家の方々に判断いただきまして、今その各項目についてどういう状態になっているのかというのを判断していただいております。生態系サービスの状態についても同様に各カテゴリーに応じていろんなデータというのを集めておりまして、そのデータの傾向に基づいてこうした矢印の傾向評価というのを示しております。
 例えばどういうデータが扱われているかということなのですが、生態系の状況を判断するために使ったデータとしては、先ほども紹介させていただいた「モニタリングサイト1000」のデータ等を使っております。例えば農地生態系では種の分布とか個体数が長期的に減少というような記述が書いてあるのですが、この判断根拠となっているのが先ほどの「モニタリングサイト1000」の里地調査のデータですとか、そうしたものが使われております。生態系ごとにこうした減少傾向ですとか生物多様性の変化傾向というのをまとめて、先ほどの矢印に最後は総合的に判断をまとめているというようなものをしております。
 さらに紹介いたしますと、そういった「モニタリングサイト1000」といった国が調査したデータの他にもいろんな研究データというのもJBOを判断する上では使っておりまして、例えば生物多様性に対する気候変動の影響というところで申し上げますと、環境省の方でやっている環境研究総合推進費のプロジェクトの中で示されたデータを活用して、こうしたコンブ類の分布域の変遷がどうなっているかですとか、後はメガソーラーの発電に伴って自然環境がどれだけ破壊されているかというトレードオフの関係性とかもいろんなデータを用いながら論じてまとめているというものでございます。
 このJBOについてなのですが、次のJBOであるJBO4というのも現在検討が開始されておりまして、このJBO4につきましては2028年に公表する予定で今検討を進めております。この下にスケジュール感というのを示しているのですが、このJBO4につきましては国家戦略を策定した後に中間評価を行って、さらにそれを生物多様性条約事務局に提出するために国別報告書というのにまとめていくのですが、こうした国としての報告書等にJBOでまとめた科学的な知見をインプットして報告をしていくというようなフローを思い描いています。なので、先ほど説明したような国の観測データですとか様々な観測データというのが科学的に評価をされて、それが最終的には国の報告書として国際的にも報告されていく、こんなプロセスを今描いてJBO4の検討を進めているところでございます。
 最後は民間事業者におけるデータ活用というところについても触れさせていただきます。民間事業者の取組については後で株式会社バイオーム様からお話しいただくので、そこでもう少し詳しい話を聞けるかと思いますが、国の方では「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」というのを今年の3月環境省、農水省、経産省、国交省の4省共同の名前で発表させていただきました。なぜこのような戦略を発表したかと申し上げますと、正に今この生物多様性のデータをめぐる状況については企業という存在が切っても切り離せないものであるからと考えております。やはりその生物多様性はいろんな動きがある中で、企業における生物多様性に関する動きというのは非常に流れが速くて活発化しています。企業にとっても生物多様性への取組というのが単なるコストアップではなくて新しいビジネスチャンスであるというような捉え方がだんだんと展開されていきまして、正にこうした筋道を描いていくために国として「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」というのを定めました。
 では、この企業経営にどうやって生物多様性のデータが絡んでくるかということについて、企業の取組というのを評価していくためにはやはり生物多様性に関する地球観測データというのが欠かせないのですが、やはり経済が絡んでくると国際的に企業がやっている取組をどういうデータで評価していけばよいかという国際ルールの形成というのが現在議論になっているところでございます。ただ、その国際ルールの形成にあたってはやはり日本の企業には日本企業の特徴であったり状況というのがありますので、そういうのを踏まえた上で国際ルールを形成していかないと、せっかく企業が頑張ってビジネスチャンスとして生物多様性に関する取組をやっていただいているのに、なかなかそうした取組が評価されないというような事態が起こってしまいます。
 こうしたところを踏まえまして正に「国際標準化等に向けた取組」ということで、環境省の方ではここに示している二つの事業を今これから展開しようとしているところでございます。一つは国際ルール形成の動向も踏まえた標準化戦略作り、資金・人材等のメカニズムの検討というのを行っております。右の図で例示的に示しているのですが、先ほど申し上げたように、例えば国際的な水リスクを評価するようなツールというのがあるのですが、これを日本に適用してみますと、場所によってはリスクを過大に評価してしまうというような結果が現れてしまうというような事態が発生してしまっています。ただ、日本から提案し得る指標というので評価していくと、より日本の中の水リスクの影響というのが適切に評価されるというようなことができまして、正にこういったふうに日本の中で企業の取組についてどういうデータを使っていけばよいのか、どういう分析をしていったらよいのかというところを今正に検討を進めているところでございます。これをやっていくためには日本の中でやはり生物多様性関係の地球観測データが充実していかないとこうした評価がかなわないというところが根底の課題としてあるかと思っています。
 もう一つ、事業活動というところを踏まえますと、やはり企業の活動というのはサプライチェーンを通して日本だけではなくて海外にも影響を及ぼしますので、そうした企業ごとの海外まで国際的なところも踏まえた環境負荷を可視化できるようなツール、通称「ネイチャーフットプリント」と呼んでいますが、そうしたツールの開発というのも同時進行で進めているところでございます。これに関しては企業の生物多様性に関する情報開示(TNFD)という機関と共同研究を行って、TNFDの枠組の中にも入れていけるようなものとして検討を進めているところでございます。
 ということで、最後に環境省の取組を踏まえて地球観測データに関してどういった課題感があるのかというのをざっとまとめたいと思います。大きく2つございまして、まず地球観測データを充実させていくということでございます。これに関しては例えば自然環境保全基礎調査の植生図で説明させていただいたように、高精度のデータを取ろうとするとやはり調査期間が長くなったりコストがかさんでいったり、こうしたトレードオフが一つ課題になるかと思っています。今も触れましたが調査期間の短縮をしていくということも、やはりどんどん期間を短くしてデータを更新してデータを出していくということも非常に大事な要素かと思っています。また、自然環境基礎調査の総合解析にあるように、他の機関の調査データというのも本当にいろんな機関ごとにデータを持っているので、それを連携させて、更に解析して、そういったデータオープン化、標準化、誰でも使えるような形で整備していくということも非常に大事な要素だと思っています。
 2点目につきましては、ニーズを踏まえた調査、情報提供ということで、JBOでも触れさせていただいたのですが、そうした生物多様性、生態系サービスの全体的な状態を評価するためには、やはり広範囲且つ長期且つ頑健性の高い観測データが必要でございまして、先ほど言ったような地球観測データの充実、これをいかにできるかというところがキーになってくるかと思っています。さらに、今日はあまり触れられなかったのですが、地方自治体ですとか、後は先ほど触れた高まりつつある企業のニーズというのを踏まえて、こうしたセクターごとに対してどういったデータセットを提供できるかというのも非常に重要な要素だと思っています。例えば地方自治体であれば自治体単位のデータですとか、民間企業であれば先ほど説明した国際ルールメイキングの動向等を踏まえた、日本の状況を反映したデータですとか、サプライチェーンを通じた海外の影響を観測できるデータ、こうしたものが必要になってくるかと思います。こうしたニーズをちゃんと踏まえてデータをセットしていくことで、生物多様性に関する取組も一つ一つ前進させることができるのではないかと思っております。環境省からの発表は以上とさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
 
【村岡部会長】  福井様、ご発表ありがとうございました。ただ今の御説明につきまして、部会の委員の皆様から御意見、御質問等を受けたいと思います。よろしくお願いいたします。最初に中北委員、お願いします。
 
【中北委員】  ありがとうございます。植生図に関して非常に時間が掛かる中で、衛星情報を利用することによって短縮が図れるという素晴らしいお話、前向きなお話だったのですが、これまで衛星情報を利用されるにあたって、大きな障壁というのがどういうものがあったのか、分かればお伺いできませんでしょうか。センサーが適当なものがなかったとか、あるいはリトリーバルな手法が開発されていなかったとか、いろんな理由があると思うのですが、そこはいかがでしょうか。お伺いできればと思います。
 
【福井主査】  ありがとうございます。今日は環境省の方からその担当の者も入っていますので、もしよろしければその担当の者からご回答させていただければと思いますが、馬淵さん、お願いします。
 
【馬淵企画官】  私からお答えを差し上げたいと思います。これまで25年間掛かったこれまでの植生図におきましても衛星情報は使用しておりました。衛星情報として国土地理院の25,000分の1の地図があると思うのですが、それを1枚1枚衛星情報、現地調査をして、これまでも25年前とかは航空写真を使っていたというような技術でした。あくまでも画像として使っていたものですので、その現地調査の結果を展開するという手法だったものですから、非常に時間も掛かったということになります。これからはまた違った方法を今検討している最中です。
 
【中北委員】  何か定量的にいろんなインデックスをリトリーバルに衛星情報から出していくというような技術なり研究が進むということで、どんどん取り入れていけそうになっていく見込みがあるという理解でよろしいでしょうか。衛星情報から植生図に載せたい物理量に変換する技術。フィールドの観測したものをコンバインしながらでも結構なのですが、衛星情報からそういうところをよりきめ細かくできるようにすることも含めて、これから技術開発がされる見込みがあるという理解でよろしいでしょうか。
 
【馬淵企画官】  はい。技術開発、衛星情報の適用というのはもう日進月歩でございますので、先生がおっしゃるように技術開発も踏まえてなのですが、そもそもの考え方について、また凡例などについて、新しいものを導入してスピードを上げてできるようなものを作りたいというふうに考えております。
 
【中北委員】  どうもありがとうございました。前進に期待したいと思います。
 
【村岡部会長】  ありがとうございました。続きまして、嶋田委員、お願いします。
 
【嶋田委員】  自然環境保全基礎調査は確か50年ぐらいの歴史があったり、 モニタリングサイト1000ももう20年ですか。かなり長期間調査を行っていて膨大なデータというのがあって、我々も実はいろいろ使わせていただいているのですが、最終的にそういった生物情報は村岡先生の発表にあったように世界的なデータベースであるGBIFに統合されるべきだというふうに思うのですが、そういった過去データ、確かにいきものログについてはGBIFへのインポートというのは行われていると思いますが、そういった過去の基礎調査とかモニ1000について、そういうGBIFへの貢献というのは行われているのか、これから行われるのか、その辺りを少し教えていただければと思います。
 
【馬淵企画官】  ありがとうございます。全てを正確にお答えできなくて大変申し訳ないのですが、今先生がおっしゃったとおり、いきものログというシステムを使って、そこに入力したものはダーウィンコアに準拠していますのでGBIFで公表することができます。したがって、いきものログに入っているのはもちろんなのですが、それは過去データとか今のデータについてもいきものログを経由してGBIFで公開していくという方向性であります。以上です。
 
【嶋田委員】  過去データは多分50年前の基礎調査のデータ等もあると思うのですが、そこもいきものログに今は入っているという理解でよろしいでしょうか。
 
【馬淵企画官】  すみません、全てではございません。過去のものと申しますとどうしても紙媒体でございますし、データセットの形式といいますか内容も違いますので、すぐにというわけにはまいりませんが、過去のものは過去で触らないという方向ではないということです。
 
【嶋田委員】  分かりました。今後そのGBIFへの貢献というのは想定されているというふうに理解いたしました。ありがとうございます。
 
【村岡部会長】  続きまして、浦嶋委員、お願いします。
 
【浦嶋委員】  ご説明どうもありがとうございました。正に先ほど福井さんからご説明いただいた企業における自然関連の情報開示というのは、今やはりすごいスピードで進んでいます。ビジネス界で課題になっているのが、ビジネスにおいては国境がないですし投資マネーにも国境がないという中で、グローバルに同一のメソドロジー、同一の粒度でそのネイチャーの状況が分析できるかどうかというのがたいへん重要になっています。今、日本の企業も非常に活発にグローバルに展開をしている中で、自分たちにとってどこが一番マテリアルなのかということを評価するためには、日本だけがすごく粒度が細かく精緻なデータがあっても、それを外国との拠点と比べたときにどうなのかということがあって、同列に評価できないと困ってしまうのですよね。それが国の事業とか日本のデータを整備しますということがどうしてもやはり主眼になってしまうというところがビジネスにとってとても使いにくいという状況があって、不正確ですがAqueductはグローバルに同じルールで作られているのですよね。なので、今一生懸命グローバルデータとかルールメイキングに参画ということで取り組んでらっしゃると思うのですが、そこについての福井さんだけではなくて村岡さんのご説明でも構わないのですが、どういうふうにお考えになられているのかというところを少しお聞かせいただければと思います。
 
【大澤室長補佐】  生物多様性主流化室の大澤と申します。よろしくお願いいたします。ご質問いただきありがとうございます。正にルールメイキングの動きというのは、いかに国際で仲間を増やすかというところがかなり重要なポイントでして、先ほど福井の方からご説明したとおり、まずは日本の産官学連携で今後どういった分野でルールメイキングというのを主導していくかどうかについての戦略を立てようとは思っているのですが、それと並行して、例えばTNFD等の国際機関とうまく連携しながら国際標準化に向けての打ち込み方というのも考えていこうと思っております。おっしゃるとおり日本だけですごく細かく日本の風土に合ったものを作っても世界には広がらず、結局プレゼンスが上がりませんので、そういった点はしっかり国際と国内両方見ながら今後進めていこうと思っているところでございます。COP等の国際会議の場での発信についてもどんどん取り組んでいきたいなと思っております。
 
【浦嶋委員】  どうもありがとうございます。
 
【村岡部会長】  ありがとうございます。4人の方が手を挙げていただいています。すみません、かなり時間が押してきていますので質問とお答えは簡潔にお願いします。上田委員、お願いします。
 
【上田委員】  ありがとうございます。私の方からは分野外ということでデータのフォーマットがどういった形なのか、特に分野外にも分かりやすく使いやすいものになっているかどうかについてお尋ねしたいです。特に総合解析の部分に関しては社会科学系の分野等を援用して解析を期待しているということですが、やはり人のデータを使う私たちとしては市町村別というようなデータを使うことが一般的なのですが、一方で生態系にはその市区町村のバウンダリが余りなかったりするので、そういった面に関していかがでしょうかと思いまして質問差し上げました。
 
【馬淵企画官】  総合解析の社会科学的な分野に関わるバウンダリというお話ですが、すみません、これにつきましてはぜひ一般的にも伝わりやすいようなデータを使うようにということで、詳しい担当者が今日は同席していないものですので、そういうお話を伺ったということで引き取らせていきたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 
【上田委員】  分かりました。よろしくお願いします。
 
【村岡部会長】  ありがとうございました。では、続きまして岩崎委員、お願いします。
 
【岩崎委員】  JICAの岩崎です。非常に分かりやすい説明をどうもありがとうございました。浦嶋委員と同じ問題意識なのですが、産官学様々な主体がネイチャーポジティブを重要な指標として事業を行おうとする上では、国際的にトレースをしていく必要が出てくるのだと理解をしています。国際的なトレーサビリティを確保しようとする上で、途上国の現行の生物多様性の観測体制について課題や問題点がありましたら教えてください。
 また、生物多様性条約にはアメリカ側が批准していないと思うのですが、このことによって国際的な情報やデータの整備において何か問題や支障が生じていないかということについて教えてください。
 最後ですが、気候変動枠組条約に関連して環境省さんの方でGOSAT衛星によって地球規模の観測を強化していますが、生物多様性分野においても衛星技術の活用による同様な構想がもしありましたら教えてください。以上になります。
 
 
【福井主査】  ありがとうございます。3点頂いたと思っていまして、まず私から答えさせていただいて、他に補足があればお願いできればと思っております。まず1点目、途上国の問題点があるかということについてなのですが、私はCOPに付随するような会議にも参加しまして、やはり途上国が抱える地球観測データの不足に関する課題は非常に重要なものかと感じております。途上国は知識やマンパワーも不足しているので、途上国においてやはりデータが欠如してしまうというところが非常に問題視されていて、国際会議の場でも途上国の方がやはりどんどん先進国に対してキャパシティビルディングを求めてくるような場面というのが多くなっています。それを補助するような国際的なキャパビルの仕組みもできてきてはいるのですが、それが途上国のそういった実態とかをしっかりと考慮して推進していけるかどうかというのはやはりまた別課題になってくると思いますので、ここは今後も非常に重要な課題として残ってくるだろうと思っています。
 2点目のアメリカが批准していないことによる地球観測データの偏りというところなのですが、詳細部分は分からないのですが、地球規模のデータについては今国際的にEUがリードしているような実態があるかと思っていまして、アメリカがいないからというよりかは、EUがルールメイキングを主導していく中で、アジア地域ですとかそうしたEUから縁が遠いような国のデータが欠如してしまうというような実態があるかと考えております。むしろそれをどうやってルールメイキングだったり国際的に充実させていくかというところが課題感かと思っております。
 3点目のGOSATのような取組についてはいま環境省の方ではおそらく検討はされていないというところで、できればそうしたところにも先生方の皆さんからインプットできるような、こうしたものをやったらよいのではないかという知見があればぜひ教えていただきたいなと思っております。以上になります。
 
【岩崎委員】  どうもありがとうございました。
 
【村岡部会長】  ありがとうございました。では、最後に前島委員、お願いします。
 
【前島委員】  ありがとうございます。前島です。ショートにサポーティブなコメントです。御回答は不要だと思っています。JAXAとしても生物多様性は重要だと考えておりまして、既に高精度土地利用・被覆・分類等、衛星データを利用して作成してWebサイトで公開済みです。先日7月1日にALOS-4を打ち上げましたので、今後このデータでも貢献できると考えております。以上コメントでした。
 
【福井主査】  ありがとうございます。少しコメントさせていただきたくて、JAXAのALOS-2のデータというのは先ほど紹介したJBOにも多く使わせていただいておりまして、そうした情報交換は今後もさせていただければ大変有り難いと思っております。引き続きお願いいたします。
 
【前島委員】  ぜひよろしくお願いします。ありがとうございます。
 
【村岡部会長】  皆様多くの御質問、御意見ありがとうございました。ここで環境省さんからの御発表を終わりにしたいと思います。本日は福井主査をはじめ皆様にご協力いただきまして、どうもありがとうございました。
 
【福井主査】  ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
 
【村岡部会長】  では、議題3に参ります。農林水産省における生物多様性に関する取組についてです。本日は農林水産省の加藤様から資料3-1~資料3-3に基づき、御説明をよろしくお願いいたします。
 
【加藤係長】  お世話になっております。農林水産省の加藤と申します。本日はそれぞれ農業分野、林業分野、水産分野における生物多様性の取組についてご紹介させていただこうと思っております。それぞれ担当課の方から説明をさせていただきたいと思いますので、まず農業分野のところから大臣官房みどりの食料システム戦略グループの古林課長補佐の方からよろしくお願いいたします。
 
【古林課長補佐】  農林水産省みどりの食料システム戦略グループの古林と申します。よろしくお願いいたします。本日は地球観測推進部会ということなのですが、私からは農林水産分野における生物多様性に関する取組全般について説明をさせていただきます。まず、農林水産業と生物多様性というところなのですが、生物多様性は食料、農林水産業の基盤となっております。生物多様性の損失が進んでいる中で、世界的には食料システムが生物多様性の損失の最大80%寄与しているとも指摘されております。我が国においては、農林水産業を通じて育まれてきたその自然環境というところで生物多様性が維持されている側面があったのですが、農地の減少等々によってこうした維持にも懸念が出ているといった現状がございます。そうした中で、農林水産業が与える正の影響を伸ばすとともに負の影響を低減することが必要と考えており、また、それについてサプライチェーン全体で取り組む必要があると考えております。
 農林水産省といたしましては、2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定いたしまして、生産性の向上と持続性といった両面を目指して今取組を進めているところです。このみどりの食料システム戦略と、また、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」、これらを踏まえまして、先ほど環境省からご説明のあった国家戦略の他に、省としての生物多様性戦略を作っているのですが、こちらの「農林水産省生物多様性戦略」を2022年3月に改定を行ったところです。
 こちらは先ほども環境省さんのスライドにもありました「昆明・モントリオール生物多様性枠組」ですが、この中でも農林水産業の関係としましては、例えばターゲット10番が非常に直接的といいますか、正にこの農業、養殖業、漁業、林業地域が持続的に管理され、生産システムの強靭性及び長期的な効率性と生産性、並びに食料安全保障に貢献するといったターゲットになっております。また、その他にもターゲット7の環境中に流出する過剰な栄養素だったり、農薬及び有害性の高い化学物質による全体的なリスクの半減、プラスチック汚染の防止・削減といったところでも農林水産業の貢献が期待されていると考えております。さらにターゲット3についても、海域と陸域のそれぞれ少なくとも30%を保全するといった目標についても、農林水産業に関係していると考えております。
 また、こちらは先ほど申し上げた「農林水産省生物多様性戦略」を2023年3月に改定したものの概要になります。この中の2030ビジョンと基本方針といったものの下に各具体的な施策の方向性を取りまとめております。これがその2030ビジョンと基本方針です。2030ビジョンとしましては、農山漁村が育む自然の恵みを生かし、環境と経済がともに循環・向上する社会といったこととしております。この中に6つの基本方針を策定しておりまして、1つ目としましては農山漁村における生物多様性と生態系サービスを保全する。2つ目は、生物多様性のみならず、農林水産業による地球環境への影響を低減し保全に貢献する。また、基本方針3と4が密接に関係しているのですが、サプライチェーン全体で取り組むと。そのために理解と行動変容を促進する。5つ目としましては、農林水産省政策手法全体のグリーン化を進めること。そして、実施体制を強化するとしております。
 先ほど、「みどりの食料システム戦略」も踏まえて農林水産省生物多様性戦略を改定したと申し上げました。「みどりの食料システム戦略」については2050年をゴールとしておりまして、そのためのこの進捗を具体的に把握するために各数値目標を定めております。その中で例えば上の方にございます農薬や肥料の低減等、生物多様性に関係する目標については「農林水産省生物多様性戦略」にも位置付けているところです。
 その中で、先ほどの「農林水産省生物多様性戦略」の基本方針3と4に関係する取組を一つご紹介させていただきます。みどりの食料システム戦略にも基づく取組でもありますが、今、農産物の環境負荷低減の取組の見える化といったことを進めております。こちらはまず環境負荷低減を図って作られた農産物等を消費者がきちんと分かってこれを買おうと思ってもらえるようにするための取組でして、環境負荷低減によって作られたものに対して農産物等、加工品も含め、ラベルをするといった取組です。こちらはメインで進めておりますのが温室効果ガス削減への貢献というところで、今23品目に対して、この温室効果ガス排出削減貢献率を計算できるようにしまして、それに基づいたラベルを貼るといったことが進められております。生物多様性に関しましては、まず米に関しては生物多様性保全に資する取組といったことは科学的に立証されているといったこともあり、生物多様性保全への配慮といった指標を表示できるようにしております。ただ、温室効果ガスについては生産段階における取組に基づいてその排出削減貢献率といったものを数値化して星の数で示しているのですが、生物多様性については何%貢献しているといったことがなかなか数値化が難しいので、でその取組の実施数を評価するといった形にしております。また、加えて生物多様性保全に取り組んだ方々には、取り組んだ圃場でのモニタリングといったものを推奨しております。このラベルは「みえるらべる」と呼んでいるのですが、こちらは「みえるらべる」の表示事例です。また、もう一つ最近の動きとして、自然共生サイトの認定が環境省を中心に進められております。今まで環境省はこの自然共生サイトの認定というのをされていたのですが、こちらを法制化する地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律、この法律が先の国会で成立をいたしました。これは環境大臣と国土交通大臣、農林水産大臣が主務大臣となっております。その対象となる地域は、今の事例にはなりますが、ここにありますように例えば棚田であったり、農林水産業の作業されているような地域も含まれておりまして、こういったところでの生物多様性保全の取組を進めていくこととしております。これ以降、「農林水産省生物多様性戦略」の概要を付けておりますが、時間の都合もありまして、かいつまんで説明をさせていただきます。まず一つ目については、農業における生物多様性保全の取組の推進で、左上にありますように、「みどりの食料システム戦略」に掲げているような、具体的な数値目標も含んでおります。
 次に森林・林業における取組ということですが、まず①にあるような多様な森林作りや再造林といった、森林の整備・保全に併せて、林業経営の中で生物多様性に配慮した林業を進めつつ、さらに国内の木材の活用も推進していくといった形で全体として進めております。
 さらに、水産業につきましては、正にこの自然生態系と直接関わっている産業でありますので、環境であったり漁場の整備といったことと併せまして、水産資源の管理といった形で持続的な水産業の推進を図っております。
 また、農林水産業の中で野生生物との関係というのも非常に重要ですので、農林水産業に対する被害の軽減と併せて適切な管理を進めるといった形で進めております。
 さらに、先ほどご紹介した取組にも関わりますが、サプライチェーン全体で取り組むといったことで、農林水産物を通じて生物多様性への理解といったものを促していくという形で、理解の醸成、行動変容の促進という取組を進めております。例えば、具体的には有機農産物の活用・促進ですとか、そういった形で生物多様性に関する理解の促進を図っているところです。
 また、冒頭にこれまで農林水産業によって培われてきた自然環境といったこともお伝えしたのですが、そもそも農林水産業の場があるといったことで培われている生物多様性、自然環境もあるという中で、農林水産空間を保全するということも生物多様性保全の観点から非常に重要と考えております。
 こちら最後のスライドにはなりますが、加えて遺伝資源の保全といったことも進めておりまして、特に農林水産業は遺伝資源を直接利用している産業でありますので、国内での適切な保全と併せまして国際的な合意形成にも積極的に関与・貢献するとしております。
 最後は本日のテーマに多分一番関係しているところとは思いますが、農林水産分野の生物多様性保全の取組の評価・活用というところでして、一つ目では生物多様性に係る調査・研究ということで、生産現場での生物多様性評価の取組を推進しております。この中では例えば農研機構の方で水田の生物多様性をどうモニタリングするかといったようなマニュアルも作成しております。また、この後林業部門、水産部門につきましては、別途担当から説明をさせていただきます。
 2つ目につきましては、取組の中でもご説明しましたが、そういった取組の見える化ということで、具体的なモニタリング結果ということではないのですが、生産現場での取組が消費者に伝わり、それがサプライチェーン全体の取組につながるような形で進めております。
 3つ目としましては、TNFDの中でも食品産業の活動というのが重要になってまいりますので、そうしたデータの提供というものを今後検討していく必要があると考えております。私からは以上です。
 
【加藤係長】  ありがとうございます。それでは、林業分野につきまして、続いて林野庁の森林整備部研究指導課の都築首席研究企画官からよろしくお願いいたします。
 
【都築首席研究企画官】  林野庁研究指導課の都築です。林野庁の方からは、林業分野の生物多様性に関わる取組としまして、かなり具体的な事例にはなるのですが、「アンデスやアマゾンにおける山地森林生態系保全のための統合型森林管理システムモデルの構築」という事業を紹介させていただきます。これはJSTのSATREPSという事業で行っているものです。
 アンデス地域ですが、非常に標高差のあるところで、生物多様性に富んだ地域であります。ところが最近気候変動に伴いましてエルニーニョの影響による森林火災の増加ですとか、森林伐採による森林の劣化、土地利用変化、畑等土地への森林の転換による森林の劣化。一方、植林も進んでいるのですが、それによって水の利用の変化が起きている。こういった生態系のサービスの低下という、この課題について取り組んでいこうというのが本課題です。
 こういった人々の地域の住民の方の生活、食べるためにやっている行為と将来の森林生態系の価値、これを見える化して判断していこうというのがこの事業の大きな趣旨であります。見える化することで、今後のシナリオについて住民と解決策について話し合っていくというのが大きな趣旨でございます。
 ここで、地球観測データ、いろいろ衛星画像、土地利用マップ、炭素の蓄積マップ、森林劣化レベル、それから火災のマップ。こういったこれまで観測してきているデータを重ねることで現状についてまず見える化を図ると。それから、過去の統計を時系列で整理することで、きちんとしたシナリオの判断材料になるような統計量を算出していくと。それから、地域住民へのアンケートも行いまして、コンジョイント分析で便益の評価をして、シナリオを選択し、それを森林管理システムの中で載せまして、各シナリオに基づいて将来予測をして、さらに判断していくという形になります。
 研究の対象地ですが、ペルーの南部のこのCusco州とPuno州、Apurimac州という三つの州で行っております。各標高帯で人為かく乱の程度によって森林減少・劣化、これらの違いが考慮できるような対象地を選んで調査を進めているところです。
 本プロジェクトですが6つ大きくコンポーネントが分かれておりまして。まずリモートセンシングによる土地利用変化の特定ということで、これが基本的な情報になりまして、その後の2つ目の森林減少・森林劣化の評価、それから森林火災の回復過程の評価、こういったところに基本的な空間情報の提供を行います。もう一つ、水資源最適化システムというのを統合しまして、コベネフィット型の森林管理システムの開発を行って、最後に社会実装を行うというのが前回の立て付けでございます。本日は森林減少・劣化の定量化について少しだけご紹介します。
 森林炭素と生物多様性の変位の把握を同時に行いまして、地上データを集めるとともに衛星データから回復ポテンシャルマップを作ります。過去の衛星データ等を利用しながら森林劣化レベルの変化を追いまして、これをもって回復ポテンシャルを定量化します。それをマップ化いたします。そして炭素蓄積、多様性の両面からこれを定量化するという形になります。実際に地上データから見てみますと、当然ながらですが原生林に近い林では非常に炭素量が多いという結果が出ていますが、劣化した森林では非常に少なくなっているという結果が出ております。これら既存の衛星データからモデルを組み合わせて回復のポテンシャルを定量化して、最適なモデルを選択して、マップに反映するということを行います。
 最後に一番大事なパートになろうかと思いますが、住民参加を通じた統合型の開発ということを銘打っておりますので、シナリオは、まず行政官に分かりやすくなるような実際のシステム運用にあたってのマニュアルを配布するとともに研修を行うことも考えております。それから、地域住民へのワークショップ。これらをもって普及に、そして社会実装へ取り組んでいこうというのが全体の仕組みです。以上、森林分野からはこのプロジェクトの紹介で終わらせていただきたいと思います。以上です。
 
【加藤係長】  ありがとうございます。それでは、続きまして水産分野の方の説明に入りたいと思います。水産庁の漁場資源課の方から、加賀課長補佐、贄田課長補佐、松井課長補佐の方から説明をお願いいたします。
 
【加賀課長補佐】  水産庁からの三つの取組としまして、それぞれ担当から説明させていただきます。まず一つ目ですが、生物多様性というところにそこまでダイレクトに関係する取組ではないのですが、資源管理の基礎となります水産資源評価につきまして、「水産資源調査・評価推進事業」では、事業内容としては海洋環境要因の把握に関する取組として調査船から水温や塩分等の観測データを収集し、現在192種まで増加している資源評価対象魚種の資源変動ですとか海洋への影響等を調査しております。
 本事業の中で今後特に解決すべき課題、重視すべき取組として、近年海洋環境の変化は大きくなっていることから、水産資源の影響を正しく把握するためには、海洋環境のデータをこれまで以上に収集して、高度な資源評価を推進することを課題としております。具体的には、国内で利用される魚種ですとか、国際的に管理される魚種の資源評価のために、水中を自動で移動しながら自動で水温、塩分等のデータを集める水中グライダーという機器を活用したり、また、海洋環境データをそのように効率的に集めるような取組を推進しているところでございます。海洋観測データは多く蓄積しているところなのですが、このデータを基に、より海の状態というものを理解するため、誰でも簡単に利用できるツールとして、海の天気予報モデルというような、FRA-ROMSIIという名称なのですが、そういったものを運用しておりきます。これは海の中の渦ですとか、水温や海流といった海版の天気予報といったもので、現在の状況と予測を出力するものをホームページで公表しております。概要を説明しますと、この左側の方が計算によって海を再現した研究者が作成するモデルでありまして、右の方は衛星データですとか実際の様々な海洋観測データを示しておりまして、この右の方の実際の観測データで左のモデルを修正して、出来上がったものがホームページで公表されているものになってございます。週に1回現在の状況と予測は更新されており、8週間先まで予測できるようになっております。これは誰でも利用可能で、スルメイカの資源評価や様々な海域での漁海況予報や、水産資源や海洋研究、また、赤潮やクラゲ等の有害生物対策事業等にも使われているものでございます。
 海洋環境変化による水産資源への影響を解析して資源評価や管理に生かしていくために今後も継続的に運用していくことを考えているものでございます。私の方からは以上です。
 
【贄田課長補佐】  水産庁漁場資源課の贄田と申します。続きまして、「豊かな漁場環境推進事業」の一部について説明させていただきます。赤潮の発生により養殖魚のへい死ですとか、海域によっては貝類のへい死につながるのですが、生物多様性や漁業生産に深刻な影響を与えるおそれがありますことから、水産庁としましても海域の特性に応じた赤潮等の近年の発生状況も踏まえた予察や被害軽減に向けた技術開発等を行っております。
 行っております調査の一例をご紹介させていただきます。この赤潮は近年の海水温上昇などの環境変化もあって、近年発生状況も変わってきているというような課題がございまして、そういった発生状況を的確に捉えていくために、こちらに書いてありますように例えば九州の八代海において高頻度のモニタリングや自動観測ブイを運用することによって、5月~9月の赤潮が発生しやすいような時期に集中的にモニタリングを継続して行うことによって、赤潮の発生を引き起こす要因の一つの特定ですとか、後は近年温暖化、海水温の上昇等が起こっているような背景もありまして、左下にございますように例えば2月~4月の平均気温や梅雨入り、これは河川からの流入する水の中に栄養となる物質が含まれることによって赤潮の発生につながってくるようなおそれがありますことから、そういったもののデータを解析することによって赤潮の発生確率の判別手法等を開発する等、継続的なモニタリングを行うことによって赤潮による被害軽減を進めております。以上でございます。
 
【松井課長補佐】  続きまして、「有害生物漁業被害防止対策事業」についてご説明させていただきます。こちらについては、我が国の漁業に甚大な被害をもたらす有害生物のうち広域的な被害をもたらす生物についてトドや大型クラゲ等の6種をこの事業の対象生物としております。これらに係る駆除とか効果的な漁業被害防止を行うための事業を行っております。具体的にはトドや大型クラゲを例にしますと、海のモニタリング等を通して、その出現や来遊状況の迅速な把握を行って、漁業者に情報提供するとともに、漁業被害防止のための対策を行っているものです。
大型クラゲとか例にご説明させていただきますと、大型クラゲは一旦大量出現すれば広域にわたって甚大な漁業被害、例えば漁具の破損とか、漁労作業の遅延とか、漁獲物が大型クラゲと一緒に入ることにより死ぬことによる品質低下等をもたらしたりします。ただ、大型クラゲは早期に出現を察知して、流入初期の段階で迅速に駆除を行うことで被害を最小限にとどめることが可能となっております。
こういった大型クラゲやトドの我が国への来遊は毎年の海洋環境に大きく影響されるもので、来遊経路や来遊時期も年によって異なっており、皆さんの地球観測されているデータを活用させていただいているところです。
 例えば大型クラゲは、日本国内ではなく黄海沿岸域で発生します。その発生状況や、対馬海峡を韓国との間、対馬海峡と日本との間それぞれの海域で、発生や流入が起こるかによって、日本沿岸の被害が大きく異なってまいります。
大量発生時には、日本海に主に被害が起きまして、北海道と青森の間の津軽海峡を抜けて太平洋側にも来遊するのですが、そういった被害をもたらす大型クラゲは、国内で繁殖等もしないため、流入以外で個体群の総量に大きな変動がないと考えられています。そのために国内で大型クラゲの出現が確認されたたた場合に、事業によって私どもでは、今年直近では、ほぼ毎日のように漁業者の方からの発生状況報告や、観測した出現動向を視覚的に丸の大きさで示すなど、その他の状況等も配信する形で漁業者等へ注意喚起を呼び掛けております。このように速やかに情報配信すること、漁業者が、駆除等の対応や漁具等の避難を行うことによって、北上していく個体群の総数を減らし、来遊する日本海全体の大型クラゲの流入被害が抑制できると考えております。
 そのような中で、各有害生物の出現動向の把握には、発生源や来遊状況の調査が必要不可欠であるため、東シナ海とか沿岸域等広範囲で大型クラゲの調査を実施しております。その来遊把握に海洋数値モデルや衛星データを利用しております。研究機関等にお願いしているところ、研究機関等は本事業以外のところでも、地球観測データを活用させていただいていると思いますが、例えばひまわり、JAXAのしきさい、しずく、欧米のNOAAの衛星やMetOpの衛星等も活用させていただいています。センサーとかであればAHI(ひまわり)、AMSR2(しずく)、SGLI(しきさい)等のセンターも使わせていただいております。基本的に観測しているものは水温とか、赤潮やプランクトンに使うような海色、あと海面高度、特にクラゲ等では数値モデルを使いまして流入動向を把握しておりますので、こういったことでデータを使わせていただいています。また、こういったデータは継続的に連続して提供させることが非常に重要で必要です。やむなく海外のデータ等も使わせていただいているのですが、ひまわりやしずくとか、海外の衛星では代替できないようなデータについては、引き続き継続的なデータ提供をご支援いただければと考えております。トドなどその他の本事業対象生物についても、北海道沿岸のいろいろな海洋環境の変化、またその駆除対策の効果など、いろんな面で様々な観測データを活用させていただいているところです。以上となります。
 
【加藤係長】  ありがとうございます。それでは、農林水産省の発表の方は以上となりますので、質疑応答の方をお願いいたします。
 
【村岡部会長】  農林水産省の皆様、ご発表いただきましてありがとうございました。では、委員の皆さんからの御意見、御質問を受けたいと思います。挙手ボタンを使ってよろしくお願いいたします。嶋田委員、お願いします。
 
【嶋田委員】  ありがとうございますこれは質問ではなくて意見といいますかお願いなのですが、農水省では例えば植物防疫法は戦後すぐから始まった法律で、全国的に病害虫のモニタリング事業を面的に網羅的にやったりもしていますし、こういったところで得られたデータというのはすごく貴重な生物多様性の情報だと思うのです。これに限らず農水では、生物多様性保全を目的としたものではありませんが膨大な生物調査を行っていて、たくさんのデータを取得していると思います。また、生き物の専門家も多分環境省よりは多いのではないかなと思っていまして、ぜひこういった調査で得られたデータを生物多様性保全の基礎情報として整理をして提供していただきたいなというふうに思っています。また、これは文科省へのお願いなのですが、こういった隠れたデータというのですかね、本来他の目的のために得られている生物情報というのを活用するということも次期の実施方針等にも視点として盛り込めたらよいのではないかなというふうに思っています。以上です。
 
【村岡部会長】  嶋田委員、ありがとうございました。もし農林水産省の皆様から何かレスポンスがあればどうぞ。お願いします。
 
【古林課長補佐】  農水省みどりグループの古林です。ご質問ありがとうございます。正に2030ビジョンとしましては環境と経済がともに循環・向上する社会としておりまして、農林水産省生物多様性戦略の中でも、必ずしも国内のことということだけではなく、国内の消費活動が社会の生物多様性に与える影響といったところも焦点の中に入れております。例えばその中でどういったことがあるかといいますと、例えば輸入原材料の調達においての考慮を図ることですとか、国際協力なり国際対話を通じて世界の農林水産業を通じた生物多様性への貢献といったところも図っていくこととしております。これでお答えになっていればと思うのですが。
 
【松原環境科学技術推進官】  コメントいただきありがとうございます。地球観測推進部会の役割というのも、様々なデータがあってそれをうまく整理をして、一つのデータを様々な用途に使えるというところがございますので、そういうデータをしっかりと整備をして、そして様々な用途に使えるようにしていくことを促していきたいと考えております。
 
【嶋田委員】  ありがとうございました。余り追加的なコストを掛けないでそういったデータをうまく活用できたらよいのではないかというふうに思っています。よろしくお願いいたします。
 
【村岡部会長】  意見交換いただきありがとうございました。では、続きまして岩崎委員、お願いします。
 
【岩崎委員】】  JICAの岩崎です。農林水産分野における様々な取組のご説明ありがとうございました。生物多様性戦略の2030年ビジョンに関しての質問です。日本の場合、食料を過半数以上は輸入に頼っているかと思います。輸入食料品に対してのネイチャーポジティブに関する政策方針や施策について教えてください。
  
 
【古林課長補佐】  農水省みどりグループの古林です。ご質問ありがとうございます。正に2030ビジョンとしましては環境と経済がともに循環・向上する社会としておりまして、農林水産省生物多様性戦略の中でも、必ずしも国内のことということだけではなく、国内の消費活動が社会の生物多様性に与える影響といったところも焦点の中に入れております。例えばその中でどういったことがあるかといいますと、それこそ正に簡単にいいますと例えば輸入原材料の調達においての考慮を図ることですとか、後は国際協力なり国際対話を通じて世界の農林水産業を通じた生物多様性への貢献といったところも図っていくこととしております。これでお答えになっていればと思うのですが。
 
【岩崎委員】  どうもありがとうございました。1点、情報共有です。先ほど林野庁からの御説明でペルーのSATREPS案件の御紹介があったと思うのですが、同事業はJSTとJICAの共同事業として実施しています。同事業の中では、食料安全保障と生物多様性の両立を目指した研究も実施中です。関係機関の皆様におかれては、引き続きどうかよろしくお願いします。
 
 
【村岡部会長】  どうもありがとうございました。では、続きまして高薮委員、お願いします。
 
【高薮委員】  高薮です。農林水産省の非常に幅広い取組を聞かせていただきました。その中で例えば林野庁などはアンデスやアマゾン等の住民参加の取組まで考えていらっしゃるということで、生物多様性は地球環境の大変重要な問題として捉えられると思うのですが、住民の方々の参加のモチベーションとしてはどのようなものを用意できるのか。例えばこれは農林水産省に閉じることではないかもしれないのですが、協力いただくことによって国際的に何か基金なり何なり金額的なサポートをすることにつながるのかどうか。その辺りを聞かせていただけますでしょうか。
 
【都築首席研究企画官】  その辺りにつきまして詳しくお答えできるだけの準備がありませんが、何らかの形で関わって、社会実装に向けたときにはそういったアメとムチでのアメの部分ではないのですが、そういったものも用意する必要があるかとは考えておりますが、すみません、担当が今日は不在でありまして十分なお答えはできません。以上です。
 
【高薮委員】  ありがとうございます。これはここだけの問題ではなく、非常に大きな問題だと思いますので、地球環境全体について何か文科省の方などからも御意見いただけたらと思います。今日でなくても大丈夫です。よろしくお願いします。
 
【松原環境科学技術推進官】  シチズンサイエンスでも、経済的なリソースに限界がある中で、どのように皆なに参加をしてもらうか、あるいは地球規模課題解決に向けて様々な観測手法がある中で、どのように市民参加をモチベートしていくかは重要な課題と思っております。実施方針の中でも、どのようにしていくかを明らかにしていければよいと思っております。一方、様々な課題があるので、それも含めてご議論いただければと思いますので、よろしくお願いします。
 
【高薮委員】  よろしくお願いいたします。
 
【村岡部会長】  ありがとうございます。今の高薮委員からの御質問と関係するところで私からの発表で先ほど駆け足でご紹介したアジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(APBON)での議論から一言だけ反応したいと思います。APBONでも東アジア・東南アジア約10カ国の研究者や研究機関、大学から参加していて、やはり特に東南アジア各地域・各国、生物多様性のホットスポットでもありますので、生物多様性の劣化が進んでいるということもありますが、そこで各国でいかにローカルの住民も理解も深めながらいかに生物多様性のモニタリングをし、保全に向けた活動を推進していくかということが議論になります。その中で特にローカルな生物資源を生活に使うということも地域住民には重要な問題ですので、そことのバランスをいかにとっていくか。その中で生物多様性保全を推進するときに、生物多様性のデータあるいは保全に関する知見をいかに蓄積していくかというところがキャパシティビルディングの活動にも入りますが、そういったところをエンゲージしていくというところが課題にはなっています。先ほど環境省のお話の中でもやはり途上国の協力をいかに広げていくかというところとも関係しますが、資金のことに加えて生物多様性保全というものそのものの重要性についていかに理解を広げていくかというところは、地球観測あるいは生物多様性観測の推進と保全、あるいはローカルな住民との関係性を見ながら進めていくかというところかとは思っています。
 
【高薮委員】  ありがとうございました。
 
【村岡部会長】  ありがとうございました。他にご質問ございませんでしょうか? よろしいですか。では、以上をもちまして農林水産省からの御発表を終えたいと思います。農林水産省の皆様、本日はありがとうございました。
 
【加藤係長】  ありがとうございました。失礼いたします。
 
【村岡部会長】  では、次に議題4に参ります。議題4は生物多様性に関する取組についてということで、民間企業の方からご説明いただきます。株式会社バイオーム代表取締役の藤木様から、資料4に基づき御説明をお願いします。藤木様、お待たせしました、どうぞよろしくお願いいたします。
 
【藤木代表取締役】  ご紹介ありがとうございます。株式会社バイオームの代表取締役の藤木と申します。では、早速資料をお見せしながら今日のお話をさせていただきます。先ほど話題にも上がっていたのですが、私たちが取り組んできたのが市民科学アプローチでの生物多様性モニタリングですので、これについてお話しをさせていただきつつ、民間企業の知見として、どのように生物多様性データが活用されているのか、経済的価値を生んでいるのかについて事例を紹介させていただこうと思っております。
 バイオームという会社なのですが、生物多様性保全というのがお金にならない、儲からないと言われ続けてきた社会の中で、何とかそれを変えられないか、生物多様性を守ることがきちんとお金になってビジネスになることを示していかないと解決に向かうことはないのではないかと思うようになりまして、このためのモデルケースを作ろうということで、生物多様性保全をビジネスとして成り立たせることを目指して、8年ほど前に会社として設立をしました。元々研究者だったのですが、今は株式会社の代表として取組を行っています。
 ずっと話にあることなのですが、生物多様性は他の環境領域と比べて数値化・デジタル化というのが難しく、なかなか良いルールを作りにくく、経済の中に組み込んでいくことも難しかったと言われています。カーボンクレジットのように様々な仕組みができればいいのですが、なかなかそれが進んでこなかった歴史があります。この定量化、数値化というのが非常に重要な課題だと捉えており、バイオームでは、ここを何とかできないかということに取り組んできました。生物多様性をデジタル化して質の高いデータを集めて、誰もがアクセスできるインフラにしていく。インターネットにおける検索エンジンのようなポジションの企業になっていきたいと思って取り組んでいます。
 モニタリング、デジタル化に関するアプローチには様々な方法があり、今日も話題に出ていましたが、衛星リモートセンシングがあったり、環境DNAがあったり、カメラトラップなどもあるかと思います。私自身は元々衛星リモートセンシングを専門として研究していたのですが、どうしてもグランドトゥルースとして地上調査データがないと、きちんとしたモデルが作れず、正しい推定値が出せないという側面がありました。そのため、やはりリモートセンシングだけだと限界があると感じ、現地調査をしっかりとできる仕組みが必要で、且つそれが低コストで広いエリアをカバーできることがキーになってくるのではないかと思うようになり、市民科学を応用した生物多様性モニタリングに取り組むに至りました。
 生物多様性データの基本的な要件として、位置情報、日時、そして種名などの生物に関する情報がセットで必要だと考えておりまして、特に位置情報が重要だと認識しています。GPSのデバイスがないと位置情報が取得できませんので、GPSデバイスが格納されている世界で十分に普及している装置がないかを考えた際に、スマートフォンが優れていると判断しました。55億台以上復旧しているスマートフォンから生物のデータを集めるプラットフォームが作れないかと思ったわけです。併せて既存の過去の調査データ、現地調査などのデータはオープンになっているものもたくさんありますので、これらも集めながら、データベースを作っていくことに取り組んでいます。
 その中で、生物のモニタリングツールとして、いきものコレクションアプリBiome(バイオーム)という名前のアプリケーションを公開しています。右上の吹き出しにある通りなのですが、ただ生物多様性を調査するだけでなく、「楽しむ」というところを大切にしています。そこにきちんとモチベーションをつくることに注力してきました。例えばですが、世の中には様々なゲームやエンターテイメントに類するものがあると思うのですが、多くの人がそれらに夢中になっているという事実はやはり参考にするべきだと思っています。そういった既に成功している、多くの方々の心をつかんで、可処分時間をうまく割いてもらっているサービスを参考にする中で、ゲーミフィケーションといわれるような、ゲーム感覚で楽しめることでモチベートするサービスにたどり着きました。
 さらに、今は生物の写真を撮ってもらうと、それをAIで判定をして、これではないかというのをサジェストできる仕組みを作っています。例えばここに写っている画像は、今のままだとただの「虫が写っている写真」でしかないのですが、この虫がセイヨウミツバチであることを特定し、スマホから位置情報と日時をセットで取得できれば、セイヨウミツバチの分布情報として解釈できます。つまり、AIを活用して、画像を生物の分布情報に変換していく技術開発にチャレンジしています。
 開発しているAIについてさらに説明します。基本は画像解析のディープラーニングを導入していますが、生物特有の情報として、位置情報と日時の情報も同時に学習させています。この地域にこの場所でこの時期に出てくる生物は何か、を判断させることで、画像単体の情報よりも精度を上げることに成功しました。併せて、AIだけでは判断できない場合には、ユーザー同士で指摘をし合ったり、質問をし合ったりできるようSNS機能を取り入れています。AIではまだ足りない部分をコミュニティの力でカバーしていくイメージです。ただ、AIは機能の一部に過ぎず、生き物探しを楽しく身近なものに感じられる体験を表現することが重要だと思っています。その一例として、地図上で生物の発見情報が見られる機能もあるのですが、希少種等の位置情報を公開することはできませんので、情報の扱いには最大限に気をつかっています。希少種等の扱いが難しい情報は全てシステム側で強制非公開にするという対処をとって、折り合いをつけるようにしています。
 現状では国内のみで展開しており、およそ100万人の方が使ってくださるようになりました。日本のスマホユーザーのおよそ100人に1人ぐらいがインストールしているアプリだと言えます。属性としては、3、40代ぐらいの方が多くなっています。生物のオカレンスデータとしては、750万件以上、45,000種類以上の情報が集まっています。この地図上の一点一点が生物のオカレンス(発見情報)になっています。大体1日1万件前後ぐらいのオカレンス情報が毎日更新されていますので、リアルタイムで日本中の生物を皆で観測しているデータプラットフォームになってきているかなと思います。特に外来種の侵入など、新規の変化についての感度が高いので、外来種が侵入したらすぐに駆除するみたいなところでも既にデータ活用をしています。市民からのデータなので精度が悪いのではないかという疑問もあるかと思うのですが、いろいろ工夫しながら、まずは間違っているデータを解析によって除去していくということをやっていっています。クレンジング処理というものですが、今のデータ解析技術は日進月歩でどんどん進んでいますので、色々なパラメータをうまく組み合わせながら、間違った情報、誤同定の情報等をどんどん除去していっています。最終的に、データベースとしては、最低でも91%は正しく同定できているという状態を確保しています。併せて全てのデータに写真情報としての証拠が残っていますので、これを参照しながら再同定をすることで、さらに高い精度のデータにすることもできる構造になっています。精度はやはり工夫の余地のある部分なので、解析上の工夫と、それから再同定についてもコストを掛けながらデータを処理していくことで、信用できるデータになるよう担保しています。
 市民科学のデータだけだと分布的な偏りが発生しますので、分布推定をすることで点のデータだったものを面的な評価として解釈する技術開発も続けています。現在、4万種類以上の生物で、天気予報のような感覚でリアルタイムの生物の生息適地を予測できるようになりました。これをやることで地点ごとにどんな生物の生息適地になっているかをリストで出すこともできるようになってきました。これによって、この地域は希少種の生息適地になっているからソーラーパネルは設置しない方がいいよね、といった議論を企業もできるようになってきました。行政も一緒で、自治体によってはこういったデータを使いながら、この地域は開発しない方がいいみたいなゾーニングを政策に取り入れようという動きも出始めてきています。こういったデータベースができることで色々な政策あるいは企業の活動の中でも非常に有効な計画立案に使っていけるようになってきました。
 ちなみに少し前に私たちで論文化した内容なのですが、文献データなどのいわゆる従来型の現地調査データと、バイオームなどの市民科学データを組み合わせることで、種分布推定モデルの推定精度がものすごく上がるという研究結果が出てきています。実際に、従来型の調査と市民科学調査は違った種類のバイアスがかかるものなので、それが補完的に機能して精度が上がるという効果があるのではないかと推察しています。
 このデータを基にシナリオ分析にも取り組んでいます。つまり、どういう緑地を作るとこのエリアにどんな鳥が来るようになるのか、ここにビオトープを設置したらどうなるのか、みたいなことを予測しています。もちろん推定なので当たるかどうか保証はないですが、ただ、方向性はこれで見えてきます。他には相補性分析にも取り組んでいます。この分析では、特定地域内で最も効果的な保全エリアの組み合わせを推定することができ、例えば自治体の中でこのエリアを保全するべきといったことを判断することができます。また、エコロジカルネットワークも解析して、まちづくりや都市計画の際に活用し、どのように緑地を作るのがよいかなどの参考にしてもらってもいます。
 このように、市民科学のデータを使って解析を進めることで、かなり有用な解釈ができるようになってきていますし、リアルタイムで1日1万件前後のデータがアプリ経由で集まってきていることも含めて、やっと構想が形になってきたかなと思っています。今はこうしてできてきた仕組みを、生物多様性の四つの危機といわれるような課題の解決に対して活用していくことに力を入れています。ボランティアではなくきちんとお金が取れる商品として展開することが大切ですので、現状30ぐらいの商品として提供を始めています。例えば、企業のTNFD開示、獣害の対策、密猟対策、外来種の駆除、エコツーリズムなどのように、様々な領域に対してデータを活用し、保全の現場に役立たせられるようにしています。これは通信業者さんのTNFDレポートで、全国数十万件ある基地局を一斉に精査して、基地局ごとの生物多様性の重要度・優先度を解析して開示した事例です。神戸市では外来種の駆除をバイオームのデータを使って実施しています。市民皆で外来種の情報を集めて、駆除につなげるということで、市長会見もしていただきました。特にこの時はツヤハダゴマダラカミキリを対象に情報収集をしましたが、相当駆除につながったということですので、うまくいった事例の一つかなと思います。後は、地域性種苗を実現する際の基礎データとして利用し、在来の植物を把握する基礎データとして使ったりもしました。これは東京都の事例で、都内にいる野生生物の目録を作るというプロジェクトでバイオームのデータを使っていただいています。まちづくりの中での活用も増えています。これは丸の内エリアで、生物多様性に配慮したまちづくりをやりたいという企業の皆様と、このデータベースを使いながら街の設計をしていったり、これは鉄道会社ですが、鉄道沿線をネイチャーポジティブ化しようみたいなことも進めています。鉄道会社4社ほどとご一緒して、ネイチャーポジティブの基礎データ集めみたいなことから始めています。あとは、小売店での活用だったり気候変動に関連した調査での活用事例、自治体の事例など、挙げだすときりがないですね。各企業が自分たちにできることは何なのかというのを模索し始めています。計測機器を販売されている会社だったら、生物のデータと環境計測を組み合わせてTNFD開示支援の新サービスをつくれないかとか、あるいは外来種を殺虫する薬を開発したいみたいなご相談が来たり、バイオームのデータも使って、各企業のネイチャーポジティブの取り組みを支援していっています。今では、60以上の自治体と今450社ほどとご一緒しながら、ネイチャーポジティブを産官学民、大学も含めて連携しながら取り組んでいっております。ちなみに海外も、特に途上国などの国々での御支援に入っていこうということでやらせてもらっています。最後のページは先ほど説明した内容のまとめになります。私の方からの発表は以上になります。ご清聴ありがとうございました。
 
 
【村岡部会長】  藤木様、ご説明いただきましてありがとうございました。それでは、委員の皆様からの御質問、御意見をお受けします。最初に中北委員、お願いします。
 
【中北委員】  ありがとうございます。京大の中北です。ご説明ありがとうございました。私は河川との関連での仕事をするのですが、特に河川の気候変動が、その計画の気候変動対応という中で、河川生態というのは非常に重要な三本柱、治水とか利水に合わせて一つになるのですが、こういう中で河川生態に関する例えば情報とか、それの活用、あるいはそういう河川管理をされている国とか県とかはいろいろあると思うのですが、そういうところとの関わりというのはもう進んでいるのでしょうか?
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。まず、アプリ経由で河川系のデータも結構集まってきています。既に活用事例としてはアメリカナマズを駆除するためのデータを集めたいということで、アメリカナマズが釣れたらバイオームに登録してねみたいなことをやったことがあるのですが、かなりのデータが集まって広がりが見えてきました。既に使えるデータになってきているかと思います。その他には、例えば今だと電力会社との取り組みの中で、水力発電の是非みたいなことや魚道を増やさないといけないとかを考える中で、どうしても優先順位を付けながらやっていく必要が出てきます。先ほど言ったような解析をうまく活用しながら河川ごとの重要エリアとか重要対策などを考えて、電力会社がそれを開示する、みたいなことを進めている動きがあったりもします。後は海外でも、ボリビアなどで河川の水環境をよくしていくためのプロジェクトの中でバイオームを使いながら、要は生物を指標にした水質の把握のような観点で、実際既に動きだしております。
 
【中北委員】  ありがとうございます。底生生物とかナマズとかああいうタイプのものも対象になりますので、またそこらとも連携していただいて相互に発展すればよいなと思って質問しました。どうぞよろしくお願いします。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。
 
【村岡部会長】  続きまして、川辺委員、お願いします。
 
【川辺委員】  東京海洋大学の川辺でございます。たいへん面白い御発表をありがとうございました。事業モデルとしては、アプリでデータを集めて、データの修正・クレンジングを図り、また、そのデータベースを用いた収益モデルを作られていて、ビジネスモデルとして成功していらっしゃると思います。この開発に関わる、あるいは各プロジェクトに関わる人材について、何名ぐらいでおやりになっているのか、その方たちをどう育成されたのか、あるいはどこからリクルートされてたのかを教えていただければと思います。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。会社も8年目になって、現状だと50名ほどのメンバーでやらせていただいております。元々京都大学発ベンチャーというのもあって京大の生態学の研究をしていた人たちを集めてきて始めましたが、今は様々な大学からの人材を募集しています。あと株式会社ですので、きちんと投資家さんにこういうビジネスをやるのですと説明して投資を頂いて、その資金で更に開発人材も増やしながら回していって、今やっとこのくらいの規模感まで増えてきたかというような感じです。
 
【川辺委員】  分かりました。この人材育成について、何か特別にやっていらっしゃることはあるのでしょうか?
 
【藤木代表取締役】  社内でももちろん新しく来た若い子に対してきちんと育成していく仕組みは作っていっていますし、後は様々な大学との連携ということで、いろんな先生方とご相談しながら教えてもらったりアドバイザーで入ってもらったりしています。やはり専門領域がすごく多岐にわたりますので、いろんな各専門領域の先生にお声掛けして最新技術を学ばせていただいております。
 
【川辺委員】  分かりました。どうもありがとうございました。非常に面白かったです。
 
【村岡部会長】  ありがとうございます。では、続きまして若松委員、お願いします。
 
【若松委員】  ありがとうございます。NTTデータ経営研究所の若松と申します。本当に非常に興味深い取組で、スマホ時代ならではのやり方で、ユーザーさんもバイオームさんも双方にメリットのある形でコミュニティがどんどん拡大していって素晴らしいというふうに思います。一つだけちょっと変な質問なのですが、悪意のあるユーザーからの情報というのは想定されているのでしょうか? 途中でクレンジングの話もありましたが、例えばクレンジングで悪意のあるユーザーさんからの情報は取り除くようなことが考慮されているかとか、そもそも悪意のあるユーザーなどというのは絶対数でいえば全然少ないだろうから特にそんなことをしなくても大丈夫だとか、何かあれば教えていただければと思います。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。いくつか工夫をしていっています。まずはクレンジングの話がありましたが、ここ限りかもしれませんが、ユーザーごとの信頼度みたいなものを計算して、この人は悪意があって情報が間違っていることが多いとかを判断しながらデータ除去していくということに取り組んでいます。併せて、そもそもいたずらをしたくなくなるような仕組みにしないということが重要で、意識しているのは過度なインセンティブを付けないということです。例えばですが投稿したらお金がもらえるとかだと、うその情報をいっぱい投稿する人が出てくるじゃないですか。そうではなくて、うそをついても楽しくない、真面目にやるから楽しいのだという仕組みを作ることで、絶対数としては悪意のある動きを減らでるのではないかと考えています。
 
【若松委員】  いろいろ工夫されているということが分かりました。引き続き期待しておりますので、頑張ってください。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。頑張ります。
 
【村岡部会長】  では、続きまして嶋田委員、お願いします。
 
【嶋田委員】  埼玉県環境科学国際センターの嶋田です。ありがとうございました。バイオームのソフトは埼玉県内のイオンの観察会で我々もお手伝いしているのです。そこで利用させていただいていまして、本当に分かりやすいインターフェースで、子供たちにもすごく好評でした。今後更に活用したりモデルの精度を高めたりするためには、他のデータベースとかプラットフォームのデータを加えたり、あるいはリンクをすると更に精度や活用の幅が広がるのではないかと思うのですが、逆にデータベースに貢献するということもあるのかなと思うのですが、例えば何度か話が出てきているGBIFであるとか、あるいは、国内で圧倒的にバイオームがメジャーですが、iNaturalistとかそういったものなどが想定されるのではないかと思うのですが、その辺のリンクだとかデータ交換というのはいかがでしょうか。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。まず他のデータベースで商用利用可能なものやオープンになっているもので使えるものは活用させていただいています。一方で、バイオームのデータをオープンにしてGBIF等に全部入れるのかというと、かなり繊細な判断になってくるなというのはあります。僕自身は全てのデータをオープンにし過ぎると産業としての生物多様性が多分死んでいくのではないかと思っていて、ある程度財産性がないと企業は動けないので、集めたデータが財産になる感覚を阻害せずに、でも公共の情報として使えようにするという、非常に繊細な線引きで貢献する必要があると思っています。全くオープンにする意思がないわけではないので、例えばもう古い情報だったりをオープン化できないかとか、一回試したこともあるのが外来種の情報を提供するみたいなことをやってみたり、どこの線引きが一番経済にとっても悪くないし学術的にも貢献できる線引きになるかというのは、今探り探り考えているような段階です。はっきりとした答えはまだ出きっていないのですが、バイオームのデータを研究者が使いたいという御相談が来た場合は、個別対応でデータ提供をさせていただいています。そうしたやりとりの中で線引きを考えていくことを今はやらせていただいます。
 
【嶋田委員】  ありがとうございます。気候変動対策等も、経済的に企業にメリットが出始めたので急に動き出したみたいなところがあると思います。
 
【藤木代表取締役】  そうなのです。
 
【嶋田委員】  そこはすごく大事だなと感じました。なので、少なくともオープンなデータをバイオームに取り込むということ自体は全然OKなのではないかというふうに思いました。ありがとうございました。
 
【村岡部会長】  ありがとうございます。では、あとお二方で終わりにしたいと思います。まず、浦嶋委員、お願いします。
 
【浦嶋委員】  どうもありがとうございました。藤木さん、随分前に一回お話聞かせていただいて、随分久しぶりでここまで大きくなったのかと思って素晴らしいと思っているのですが、今嶋田さんがお聞きになられたところとすごくかぶっていて、やはりオープンクローズ戦略をどうするかというところが本当に難しいので、おっしゃるとおりやはりビジネスにならないとということを考えると、今ずっと最初の方から話があった税金を使ってとか、大学が集めてきたそういう情報と、こうやって本当にビジネスに使ってくというところを、どういうふうにその公的マネーとプライベートなマネーをやっていくのかというのはすごく難しいなということを考えながら思っていて、正にセンシティブにすごく頭を使っていらっしゃるというのがよく分かりました。
 私からの質問は、先ほどのシナリオ分析の話をされていて、これからやはり企業は今何が起きているかだけではなくてこれから何をしたらどうなるのかということがすごく重要になってきて、そこの確からしさというのをどう担保していくのかということ、そうでないと企業もこれからどこにどう投資するかが見えてこないわけですよね。そこの確からしさを作るためにやはりその分布推定モデルみたいなことがキーになってくると思うのですが、それを藤木さんがより精緻にしてくために、例えば今日冒頭からあった何を公共とか大学に期待するのかとか、どうあることがバイオームの成長に資するし、企業にとってもシナリオ分析がより精緻になるかということで、何か藤木さんからの要望といいますか、それもあれば教えていただきたいなと思います。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございます。まず確からしさの担保という話からだと思うのですが、ここが特にシナリオに関しては未来のことなので証明は基本的にできないし難しいのですが、可能な限り論文化等の透明性の高い、少なくともメソドロジーを公開するとか、再現性を担保することに取り組む必要があるなと思っています。私たち自身も論文をどんどん出していって、データと解析の確からしさと透明性というところを担保しようと動いています。
 公共、大学に期待するところに関しては、まず大学に関しては、一つは標準化というところ。今はもう本当に指標も山ほどあって、どう使えばよいのか悩むことももちろんあるので、研究領域としてはとにかく標準化、ここまでやっておけばよいという線を引いてもらうことが重要だと思います。そういう標準化ができるような研究をどんどん進め、マニュアルみたいなものを作る役割というのを期待してしまうかなと思っています。そこを企業がやることはなかなか難しいと思うので、大学に期待しています。
 公共の部分でいうと、やはり税金を使っているという特性上、例えば私たちがやっていることを税金を使って全く同じことをされたらコストの観点でもう絶対に勝てないので、うちの会社は潰れるということになるのですが、本当にそれがよいのか、民業圧迫なのではないかとかという議論がやはり出るべきだと思っています。ただ、民間ではコスト的にどうしてもできない領域もいっぱいあることも事実です。公共のためにはやるべきだけれどもこれはちょっとお金掛かり過ぎてできないな、みたいなことはいっぱいあるのですが、そういった領域は公共がしっかりと固めていくという、すみ分け、使い分けみたいなことができるのが良いと思います。そこのコミュニケーションをしっかり取っていける体制がやはり重要かなと思っています。
 
【浦嶋委員】  どうもありがとうございます。すみません、もう一点だけ。先ほど大学のところで標準化、線を引いてもらうことがすごく大事と言っていて、私は研究者ではないので、これは確認なのですが、つまり余りにもニッチにどんどん細かくなり過ぎることは逆に弊害ということをおっしゃっているのですか?
 
【藤木代表取締役】  どうでしょうね、そういう面はあるとは思います。弊害とまではいわないですが、必要はないかもしれないところまで、ここまでやらなければいけないのか?みたいなことまでやる必要はないはずなので、ここまではやっておくべきという線引きが必要だとは思います。もちろんやり過ぎることが悪だとは思わないですが無駄なことはあるとは思うので、そこは難しい判断ですが、線があると非常に動きやすいかと思います。
 
【浦嶋委員】  海外のスタートアップとか聞いていると、すごく割り切りがよいからこの人たちは拡大が早いのかなというのがあって、それがやはり日本とすごくギャップを感じるので。長くなってしまってすみません。
 
【藤木代表取締役】  割り切ることだけが絶対によいとは思っていません。つまり日本はめちゃくちゃ深くまで丁寧にやっていると思いますが、それが日本の経済競争力につながったりするので、そこは割り切ることだけではないとは思うので、戦略的な判断はあると思います。
 
【浦嶋委員】  ありがとうございます。
 
【村岡部会長】  では、最後に岩崎委員、お願いします。
 
【岩崎委員】  JICAの岩崎です。大変イノベーティブな内容がつまった発表をありがとうございました。海外での展開先が全て開発途上地域である点が、私には新鮮な驚きでした。どのようにして海外で今このバイオームの展開を進めているのかについて教えてください。恥ずかしながら、ボリビアのJICAの事業でバイオームが使われていることを初めて知りました。その事業はコチャバンバの統合水資源管理プロジェクトのことでしょうか?
 
 
【藤木代表取締役】  おっしゃるとおりで、JICAさんとはTSUBASAプロジェクトの中でボリビアのコチャバンバでの取組をご一緒させていただいています。海外展開のアプローチは、各国本当にプロセスが違っています。ボリビアはJICAさん経由ですし、ブラジルとかだと弊社の社員が元々そちらに縁があって、研究所に攻め込んで一緒にやれるところまでこぎ着けたり、インドネシアだったら私自身がずっとインドネシアのフィールドで調査していたということもあるので、そういったつながりを使いながら、国の研究所にまずは御挨拶に行って、一緒に研究しながら進める構造を作るということをしたり、様々なアプローチで海外展開を進めています。
 
【岩崎委員】  基本的には日本の方々が普及していっているということですか。
 
【藤木代表取締役】  はい。私たちが自分で持ち込んでいるといいますか、まだまだ海外版のサービスはうちもそんなに進んでいるわけではないのですが、少しずつ取組は進めていっている状況です。
 
【岩崎委員】  分かりました。どうもありがとうございました。
 
【村岡部会長】  ご議論いただきましてありがとうございました。本日は株式会社バイオーム代表取締役の藤木様に話題提供いただきました。藤木様、どうもありがとうございました。
 
【藤木代表取締役】  ありがとうございました。
 
【村岡部会長】  では、続きまして議題5にまいります。大変申し訳ありませんが、15分ほど本日の会議を延長させてください。17時45分ごろまでとさせてください。どうぞよろしくお願いいたします。では、議題5に参ります。次期「我が国の地球観測の実施方針」についてです。事務局から資料5-1と5-2に基づいて説明をよろしくお願いいたします。
 
【松原環境科学技術推進官】  資料の5-1をご覧ください。骨子案について、前回頂いたコメントを踏まえて追記あるいは修正を加えました。主な修正点について御説明いたします。まずⅢについて、前回の時にデータバリューチェーンが重要であるということでご指摘いただいたので、タイトルも「データバリューチェーンの実現に向けた我が国の取組の方向性」にしました。
 また、その「データバリューチェーンを通じた地球観測の利活用の促進」を最初に持ってくるとともに、データバリューチェーンの意義も書き込んでいきたいと考えております。また、Ⅲの1の(2)で、DIASについて継続的なサービスを提供していくことが重要であることをご指摘いただきましたので、それについて追記しました。
 2ページの3.の(3)で、前回の部会で国土地理院から地理空間情報が重要だとプレゼンを頂き、それを追記しました。その下の5.の (2)と(3)で、 (2)では他の政策との整合が重要だとご指摘を踏まえ追記をしました。前回の部会で山口県、山口大学の取組を聞いたことから、地域における取組も重要であり、記載しております。
 Ⅳの「分野別の地球観測戦略」について、これまで分野のみしか記載をしていませんでしたが、簡単に内容についても追記しました。例えば、2.の防災・減災について、前回の部会で、火山の観測が重要であることや、防災と気候変動の関係性等が重要であるということをご指摘いただきましたので、そのようなご指摘も反映をしています。
 さらに、資料の5-2に基づき、今後のスケジュールについて説明します。先ほど、論点を踏まえて骨子案を提示させていただいたところですが、今後は、次の部会を2か月後の9月頃に開催し、今日も話があった企業情報開示の動向についてや、これまで分野別に気候変動、防災、そして今日は生物多様性等についてご議論いただいたところですが、今後は横串のテーマとしてデータの利活用に関する取組についてご議論いただきたいと思っています。併せて、実施方針の素案として、文章にした案を提示させていただき、ご議論いただく予定です。その次の部会でも、引き続き、データ利活用についてご議論いただくとともに、最終的な案文についてご議論いただき、できれば来年の1月頃に最終的な実施方針を取りまとめていただきたいと考えております。以上でごす。
 
【村岡部会長】  松原推進官、ありがとうございました。それでは、ただ今の御説明につきまして委員の皆様からの御質問、御意見を頂きます。よろしくお願いします。中北委員、よろしくお願いします。
 
【中北委員】  防災の分野のところに火山とか気候変動も加えていただきましてどうもありがとうございます。ということを一言だけお伝えしたいと思います。ありがとうございました。
 
【村岡部会長】  岩崎委員、どうぞお願いします。
 
【岩崎委員】  JICAの岩崎です。国際協力の重要性を書いていただきましてありがとうございます。2点コメントです。日本だけで生物多様性や気候変動に取り組んでいっても、他の国々においても同様な制度で観測ができていないとトレーサビリティとの観点でネイチャーポジティブやカーボンニュートラルができていることを証明できていないという観点で、改めて国際的な地球観測の整備やそれを支える人材育成が重要と改めて思いました。原案のⅢの4の国際協力を通じた我が国の地球観測のリーダーシップの箇所には、課題解決とGEOへの協力しか書かれていませんが、3(2)にある地球観測人材の育成の中に、地球観測をグローバルに推進するための国際協力を通じての人材育成あるいはキャパシティ・ディベロップメントとの観点を含んでいただけると有り難いと思いました。
 もう一つのコメントとしては、分野別の地球観測の中で、環境汚染も含めた方がこれまでの議論の経緯からはよいのではないかと思いました。前回の地球観測部会の中では国立環境研究所の方にも来ていただいて環境汚染の話もしていただいたと理解をしています。また、G7気候・エネルギー・環境大臣会合の中でも、トリプル・クライシスという言い方をされていて、気候変動、生物多様性、そして海洋プラスチック等に代表されるような環境汚染が重要課題として取り上げられていますので、環境汚染もどこかに含んだ方がよいのではないかと思いました。以上になります。
  
 
【松原環境科学技術推進官】  1点目の国際的な人材育成や協力について、今日のプレゼンにおいても、重要な観点であったと思っております。一方で、国際的な人材育成や協力を実施方針のどこに入れるかについては、現行の実施方針では、国際協力の中に入っており、国際協力の中ではキャパビルをしていくことはとても重要であると思うので、引き続き4.に入れておくか、あるいは3.に入れた方がよいのか検討していきたいと思います。
 もう一つの汚染については、汚染を含むトリプル・クライシスがGEOでも大きく取り上げられていますが、3ページの8.の「健康」の項目に入っています。大気汚染が人体に影響を与えるため、現在は健康の中に入れていますが、今後の議論を踏まえてどのように扱うか考えていきたいと思います。
 
【岩崎委員】  よろしくお願いいたします。
 
【村岡部会長】  ありがとうございます。他に御質問、御意見等ございますでしょうか。高薮委員、お願いします。
 
【高薮委員】  ありがとうございます。3ポツの持続可能な地球観測の推進の(1)の辺りに当たるところかと思うのですが、結局地球観測のデータをどのように社会の在り方や人間の住み方に生かしていくかというところが究極的な目的かなと思いますので、言葉はうまく出てこないのですが、(1)の辺りに社会の在り方や人の住み方についての貢献についてに関するところを少し入れて、地球観測がどのようにインフラとして貢献できるかというニュアンスのことを入れていただいたらよいのではないかと思うのですが。
 
【松原環境科学技術推進官】  地球観測をどのように人間の活動に生かしていくか、あるいは人間の環境に生かしていくかというのはとても重要です。この実施方針全体のテーマでもあり、例えば、Ⅲのデータバリューチェーンも、最終的には、地球観測の成果を人間の様々な活動にどのように生かしていくのかということに帰着すると思います。インフラの部分についても、最終的にどのように人間活動あるいは環境に生かしていくのかを想定しながら、実際の記載ぶりを考えていきたいと思います。
 
【高薮委員】  ありがとうございます。
 
【村岡部会長】  ありがとうございました。他に御質問、御意見等ございませんか? 岩谷委員、お願いします。
 
【岩谷委員】  ありがとうございます。今、高薮先生がおっしゃったことに近いのですが、3ポツの辺りのところで地球観測の人材育成と書いてあり、これはこれで大切なことだと私も思うのですが、先ほど話が上がったように、やはり地球観測データを利用して社会実装していくことが目標になると思っていまして、それが防災に役立ったり、民間利用ということにつながると思います。人材育成の項目が地球観測の人材なのか、社会実装を含めた人材育成なのか、少しわかりにくいと感じました。この委員会は地球観測の委員会ではありますが、観測だけの人材育成ではなく、それを応用・利活用することも含んでいることがわかるよう、記載して頂いたほうがよいと思いました。以上です。
 
【松原環境科学技術推進官】  これまでも地球観測をするだけではなくて利活用することが議論されてきました。かつ、地球観測と利活用の間に、データを価値化したりしていく人たちが必要だという議論がありますので、人材育成の中にはそういう人材も入れていきたいと思います。そのためにも国民の理解促進とか、広い意味でのリテラシーの醸成というものが重要だと考えていますので、その観点にも留意しながら記載を具体化していきたいと考えています。
 
【岩谷委員】  よろしくお願いします。ありがとうございます。
 
【村岡部会長】  ありがとうございます。今の御議論は正にGEOの次期の戦略の中でもアースインテリジェンスの創出ということが既に採択されていますが、その中でも様々な観測コミュニティだけではなくてユーザーも他の様々な分野の方々、ステークホルダーが協力してアースインテリジェンスを創出していくという理念になっていますので、そことも通じるお話だったかと思います。他に御質問、御意見ございませんでしょうか。よろしいでしょうか? それでは、ただ今頂きました御質問、御意見、意見交換を含めまして、また骨子案をアップデートして次の部会で皆様と議論をしたいと思います。ご議論いただきましてどうもありがとうございました。
 では、議題6に参ります。議題6はその他としてありますが、委員の皆様から何か御意見、御質問がございましたらお願いいたします。よろしいでしょうか? ありがとうございました。それでは、本日予定されている議題は以上となります。では、事務局から連絡事項をお願いします。
 
【中川専門官】  本日の部会の公開部分の議事録につきましては、後日事務局よりメールで委員の皆様にお送りいたします。各委員の先生方にご確認いただいた後、文部科学省のホームページで公表いたします。そして次回第7回会合につきましては9月ごろの開催を予定しておりますので、日程調整等の御連絡は後日させていただきます。事務局からの連絡事項は以上になります。
 
【村岡部会長】  どうもありがとうございます。それでは、以上をもちまして第10期 地球観測推進部会の第6回会合を閉会いたします。本日は活発なご議論いただきまして誠にありがとうございました。大変お疲れ様でした。
 

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