革新的GX技術開発小委員会(第4回)議事録

1.日時

令和5年3月13日(月曜日) 8時30分~10時45分

2.場所

オンライン会議にて開催

3.議題

 1. 前回の議論のまとめ
 2. GX関連領域について話題提供
 3. 革新的GX技術創出事業(GteX)の基本方針、研究開発方針等について
 4. 総合討議

4.出席者

委員

杉山主査、森主査代理、石内委員、菅野委員、五味杉山主査、森主査代理、石内委員、菅野委員、五味委員、佐々木委員、佐藤委員、志満津委員、田畑委員、所委員、新田委員、平本委員、本郷委員、水無委員

文部科学省

千原研究開発局長、林研究開発局審議官、轟環境エネルギー課長、吉元環境エネルギー課長補佐、奥ライフサイエンス課長、根橋ライフサイエンス課長補佐、葛谷ライフサイエンス課長補佐 他

オブザーバー

経済産業省、科学技術振興機構、東京大学、東京工業大学、アーサー・ディ・リトルジャパン株式会社、理化学研究所  他

5.議事録

【吉元(事務局)】  ただいまより第4回革新的GX技術開発小委員会を開催いたします。
 冒頭、進行を務めさせていただきます環境エネルギー課の吉元です。本日は朝早い中、御出席いただき、ありがとうございます。
 本日もオンライン会議になります。事前にお送りした進行上のお願いのとおり、発言の際は、ビデオ、マイクをオンに、発言されていない際はオフにするよう、御協力をお願いします。また、御発言をいただく場合には、「手を挙げる」のボタンを押していただくか、チャットにてお知らせいただくよう、お願いいたします。指名を受けて御発言をされる際はマイクとビデオをオンにし、お名前をおっしゃってから御発言をお願いいたします。
 また、本日の議題は全て公開議題となり、会議の様子はYouTubeを通じて一般傍聴者の方に公開されております。
 議事に入る前に、まず、本日の資料を確認させていただきます。議事次第に加えまして、資料1、資料2-1から2-4まで4つ、それから資料3-1から3-4まで4つ、最後に資料4がございまして、参考資料の0として出席者名簿をつけさせていただいております。不足ございましたら事務局までお申しつけください。
 なお、本日、事務局の文部科学省研究エネルギー課及びライフサイエンス課、東京大学未来ビジョン研究センターシニアリサーチャーの小川様、東京大学・東京工業大学教授の一杉先生、それからアーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社マネージャーの小林様、理化学研究所環境資源科学研究センターの斉藤センター長、経済産業省産業技術環境局のカーボンニュートラルプロジェクト推進室、JST、有識者として近藤科学官よりオブザーバー参加がございます。それぞれの紹介は出席者名簿に代えさせていただきます。
 本日は、田中委員、本藤委員が欠席となりますが、現時点で14名の先生方が出席しており過半数に達していますので委員会は成立となります。
 事務局からは以上です。
 ここからの進行は杉山主査にお願いします。
【杉山主査】  杉山です。おはようございます。
 それでは、本日の議事を進行していきたいと思いますが、4件の議題を予定しておりますので、委員の皆様方はぜひ忌憚のない御意見をお願いしたく存じます。よろしくお願いいたします。それから、本日の委員会の終了見込みは10時45分を予定しております。
 それでは、議事に入ってまいります。
 
議題1. 前回の議論のまとめ
 
【杉山主査】  まずは議題1といたしまして、前回の議論のまとめをお願いいたしたく存じますので、事務局からよろしくお願いいたします。
【吉元(事務局)】  事務局でございます。資料1になります。
 前回は、GteXの基本方針と研究開発方針の骨子案を説明した後に、急ぎでしたけれども総合討論をさせていただいたと。今日は基本方針と研究開発方針の案を示させていただきますので、後ほど総合討議の時間を60分ほど設けております。前回について、それぞれ御説明することはいたしませんが、簡単にかいつまんで御説明いたします。
 1ページ目の研究開発の進め方というところで、これは2ポツ目のところにあるんですけれども、大型の放射光施設等とか、それからDXですね、インフォマティクスとか、そういったところをしっかり活用して、研究のやり方はアカデミア主導でどんどん変えていってほしいという御意見、それから、蓄電池、水素、バイオという分野は、アメリカと中国に比べて予算的にもどうしてもかなり見劣りしてしまう状況ではあるんですけど、そこをどういうふうに日本なりの独創的なアカデミアの主導で変えていくかというのが重要ではないかという観点が出ていました。
 それから、2ページ目で、研究開発体制のところになりますが、これはGXを目指すということで、企業とアカデミアの協働は非常に重要になってくると。例えば技術研究組合とか、そういう結節点になるようなところとしっかり組んでやっていくのがいいのではないかと。あとは企業さんのほうもなかなか本音が出しづらいようなところもあるので、そこをどういうふうに話をしていくかというところが大事じゃないかという話がありました。それから、人材育成のところは、博士課程の人材が、ここの領域に限らず全体として博士の学生が減っている中で、しっかりキャリアパスをつくりながら若手の研究者を巻き込んでいくような仕組みが大事じゃないかという話がかなりたくさんありました。
 それから、最後の3ページ目になりますけれども、ALCA-SPRINGという蓄電池の事例紹介もありましたが、そこの研究と産業界のつなぎというところはしっかり、ALCA-SPRINGとか、先行している事例を参考にしながらつくっていくべきではないかという話。それから、あとは知的財産とかというところをしっかり、あらかじめ研究の開始段階で一定程度詰めておくのが大事じゃないかという、こういった意見が出ました。
 こうした点については、今日示させていただく基本方針、または研究開発方針に反映しておりますので、先生方のほうでも御確認いただいて、今日は御意見いただければと思っています。よろしくお願いします。
【杉山主査】  どうもありがとうございました。
 
議題2. GX 関連領域について話題提供
 
【杉山主査】  それでは、次の議題2に入っていきたいと思います。議題2は、GX関連領域についての話題提供です。今回は、関連領域の研究動向等として、まずオープン&クローズ戦略、それから次に新しい研究手法としての自動・自律実験、そして最後にバイオものづくりに関して、国内外の動向に関する話題提供をいただく予定でございます。
 それでは、まずオープン&クローズ戦略について、東京大学未来ビジョン研究センター シニア・リサーチャーの小川様より御説明をよろしくお願いいたします。それでは小川様、お願いします。
【小川氏(東京大学)】  承知いたしました。皆様おはようございます、小川です。今日はオープン&クローズ戦略についてのお話というご要望ですが、いただいた時間が10分と非常に短いので、以下の5つの視点に絞って概要をお話したい。詳細は28枚の図を添付しましたので、それをご覧ください。   
 まず最初にオープン・クローズ戦略が必要となった経済環境をご説明し、二番目にオープン&クローズ戦略とはどのような要素で構成されているのかをお話したい。三番目に、エレクトロニクス産業が1990年代からオープンなエコシステム型の分業構造になり、ここからオープン&クローズ戦略が考え出されたことを紹介しますが、ここで我々が経験した事実は、製品産業がオープンな分業ネットワークになると伝統的な企業が何度も市場撤退を繰り返した事実でした。その一方で、グローバルな巨大市場を席巻したのがいずれオープンとクローズが持つ意味をビジネスモデルとして上手に使った企業だったのです。これを四番にお話したい。
これを踏まえまして最後の五番目に、デジタルや産業データ時代の経済環境(図28)が広がる2020年代に、GteXを成功に導くためにどんな考え方を持つべきなのだろうか、こんな話をいたします。
 
 まず最初にお見せするこの図1は、なぜ1990年代からオープン・クローズ戦略が必要になったかを示す概念図です。それ以前なら世界中の企業の主たる価値形成の場が企業の内部でしたが、特に1990年代のエレクトロニクス産業でデジタル化が進むと、製品のアーキテクチャがモジュールの組み合わせ型へ転換し、グローバル市場に巨大な分業ネットワークが現れました。ここから価値を形成する主たる場が企業の外のオープンなエコシステムへシフトし、オープン・クローズ戦略を採らないとグローバル市場で勝てなくなったのです。
2020年代になりますと、今度は価値形成の主たる場がサイバー空間に広がりますが、ここでは更に広範囲のオープン&クローズ戦略が必要となります。これが来年度から始まるGteXのプロジェクトが置かれた経済環境です。
 
オープン・クローズ戦略を広い意味で語れば、オープンな自由競争がつくる巨大市場で、分業システムを構成する個々の企業(クローズ)が互いにWin-Winで成長する収穫逓増(Plus-sum)の成長モデルです。一方これを企業や国の競争戦略という視点、特に日本企業の視点で語れば、皆さんが開発する断トツの技術(クローズ)をグローバルな分業ネットワ-クに定着させ、オープンな自由競争が造り出す巨大市場の冨を、できるだけ多く日本や日本企業に引き寄せる仕組み造りがオープン・クローズ戦略となります。
ここでオープン化する目的は、日本の技術体系をグローバルな市場文化として定着させること。だから多くの人や企業に市場参入のチャンスを与えなければないのです。そのときオープンにすべき領域は、社会貢献のビジョンとそのロードマップは勿論ですが、これだけでは不十分です。
例えばリチュームイオン電池(LiB)の場合、我々が判断すべきオープン化の領域は、LiBの陰極材や陽極材、電解液、セパレータなど個々の材料技術なのか、あるいはこれらを組合せてLiBにするための結合ルール(プロセス技術のレシピ)をオープン化すべきなのか、という判断があります。
例えば組立型産業のパソコンでしたらこの結合ルールはインターフェースのルールでした。このようなオープン化は確かに市場を開いて急成長させる上で大きな貢献をしましたが、パソコンが急成長するプロセスでインテルがこれを自社のルールで規制しました。こここからパソコンという巨大市場の冨の多くがインテルに集まるようになったのです。これが実ビジネスの現実ですが、例えそうであっても、オープン化が不徹底だったミニコンや日本のパソコンが、オープン化されたパソコンの登場によって市場から消えたのは言うまでもありません。
これをLiBのようなプロセス型の製品で語れば、結合ルールはLiBの製造レシピに相当します。実はこのレシピを営業秘密で守った上で(すなわちクロ―ズにしたうえで)これを契約によってオープンにするか、あるいは陽極材や陰極材、セパレータ、電解液などの要素技術を知的財産権で守った上で(クローズにした上で)これを契約によってオープンにするか、このいずれによって個々の企業のビジネスモデルも国としてのビジネスモデルも大きく変わってしまいます。
いずれのケースでもオープン化が巨大市場を造り出しますので、巨大市場の経済的な価値をどんなメカニズムで日本企業や日本という国にどんなメカニズムで引き寄せるか、これがオープン&クローズの戦略思想となります。このようにオープン&クローズ戦略では、どこをオープンにするかの判断が非常に難しい。
 一方、クローズ領域とは企業の富の源泉となる領域です。一般的には基幹技術を意味しますが、実ビジネスではバリューチェーンのマネジメントやビジネスモデルもここに含まれます。最近のテスラ社を見ると、調達する材料単体の市場をオープン化し、これを組み合わせて電極を作るプロセスなどのLiBに組み立てるプロセス技術はもとより、LiBバッテリーのBMS/BCSを含むパックという全体システムをも、クローズ領域にしようとする意図がはっきり見えてきました。このように実ビジネスの視点のオープン&クローズ戦略は、企業の事業戦略そのものになります。
ここでもう一つ、オープンな分業ネットワークの中で忘れてならないのは、他社が仕掛ける特許のクロス・ライセンス攻勢から自社を守り得る領域も、クローズ領域にしなければならないことです。これを怠ったためにこの30年間、日本企業が営々と蓄積したダントツ技術を途上国企業が自由に使えるようになりました。こんな事例は枚挙に暇がありません。技術で優り知財で優る日本企業が何度も市場撤退を繰り返す背景がここにありました。
したがってGteXでも、ここで開発されるダントツ技術を特許によるクロス・ライセンス攻勢からどう守るか、これもオープン&クローズ戦略の要となります。そのためにGteXのメンバー企業は常にノウハウや特許権を常に強化し、常に技術革新を主導し続けなければなりません。
同時にその一方で、GteXの参加メンバー同士は互いに契約やクロス・ライセンスで共有するという二重構造が絶対必要になります。互いに契約やクロス・ライセンスで共有し合うことによって初めて、産学官連携がネットワークの経済効果で成功に導かれます。これについては後半のデータ連携の視点から解説したい。
 もう一つ我われが留意しなければならないのは、欧米企業が常套手段として採る、目に見えない「伸び行く手」、という市場支配のメカニズムです。この戦略フレームワークを図12に要約しましたが、図12の丸3 と丸4 が「伸び行く手」の構築プロセスです。
これまでヨーロッパやアメリカの企業は、自分たちが持っているコア・コンピタンス(クローズ領域)を上手に使い、オープンな市場が造り出す巨大な経済的価値を自分ところに引き寄せる仕組みを、目に見えないメカニズムで構築してきました。こんな事例を、p.12の参考資料で解説しましたのでご覧ください。
 オープンなエコシステム型の分業はパソコンやDVD,携帯電話など、デジタル型の産業で必ず現れましたが、1990年代末から2000年代にかけて半導体や太陽光発電、LiBなど、それ以前なら擦り合わせ型と言われた産業の至るところにこれが現れ、知らないうちに巨大市場ができてしまいました(図2~図4)。
これらはいずれもオープンな分業とその結合・統合が造り出す巨大市場です。分業と統合こそ国の冨を増やす収穫逓増システムであるという考え方は、18世紀のアダム・スミスから19世紀のフリードリッヒ・リストを経て20世紀初頭のアリン・ヤングまで、重要な経済成長モデルでしたが、この100年の間に、スタンダードな経済学から忘れ去られていました。
 これがデジタルの時代の実物経済の中で蘇ったのです。例えばオープンなインターネット環境のGAFA(例えばアマゾン)とオープンなパソコン環境のハードデスクが全く同じ指数関数的なプロファイルで成長していることが明らかになりました(図8)。指数関数的なプロファイルの成長は、至る所に現れます(図5~図7)。 
ここから多くの日本企業が全く同じメカニズムで市場撤退を繰り返しました(図9~図11)。しかしこれは日本だけでなく、ヨーロッパ、アメリカでも同じだったのです。例えば多くの基礎研究所を持ったIBMも、SiemensもPhilipsも、例外なく日本と同じように市場撤退しました。つまりこれは、日本の問題だけではなくて、世界中共通の問題だったわけです。
その一方で、オープン・クローズの戦略思想を持った企業だけが巨大市場の覇者となりました(図13~図25)。現在これらの企業はすでに大企業になっていますが、当時はスタートアップ企業や新興国の小さな企業だったのです。言い換えればレガシーな慣習や当時のコーポラティズムに囚われなかった人や企業だけが、急成長する巨大市場を席巻したといってもいいでしょう。
図1の左側で語るように、2020年代に価値形成の主たる場がこれまでにリアルな経済環境からサイバー空間にシフトしますので、必ず1990年代と類似のことが起きます。例えば、これまで我々が語り続けた技術進歩(イノベーション)が必須なのは確かですが、これだけでは技術を企業の富に換えることも国の経済成長に貢献させることも困難になります。技術イノベーションは単に必要条件にすぎなくなったのであり、富に換え成長へ貢献させるには、十分条件としてのオープン&クローズの戦略フレームワークとこれを背後に持つビジネスモデルが必須となります。
1990年代はエレクトロニクス産業とその周辺産業だけでしたが、2020年代からほぼ全ての産業領域でこれが必須となるのです。産業構造がオープンなエコシステム型の分業ネットワークになるのならどんな産業でも起きる、と言い換えてもいいでしょう。
この事実はすでに欧米や中国の電気自動車産業で起きており、私が知る範囲では、中国やヨーロッパの脱炭素関連産業でもその兆候がはっきり見え始めました。GteXはこのような経済環境の中のプロジェクトであり、必要条件だけは巨額な研究開発投資が産業競争力にも経済成長にも貢献しません。十分条件が必須なのです。十分条件を実ビジネスの中で具体化するのは、GetXへ参加する民間企業のミッションです。
 このような経済環境の到来に備えるヨーロッパは、企業だけでなく国家レベルの産業プラットフォーム、例えばIndustrie4.0でも、その構図にオープン&クローズの戦略思想を刷り込みました(図26、図27)。2020年にその全貌が見えてきたGaia-Xという巨大なイノベーション・プラットフォームにも、オープンなデータ経済で生まれた巨大な富を欧州企業に引き込むオープン・クローズの戦略構図になっています。    
  以上を踏まえながらGteXプロジェクトにご提案したいことは、ここに参加するパートナーが産学官の境界や企業の境界を越えてデータを共有する、いいかえればピラミッド型でなく、互いに繋がるチームとしてのプラットフォーム型ネットワークのプロジェクトになって欲しいという期待です。いわゆる個々の分業(個々の要素技術の研究開発活動)がデータ経由で連携し合いながらイノベーション連鎖を起こし、これによって生まれる個々の成果を結合・統合するプロセスで企業や国の冨を増加させるという、いわゆるSystem of Systemsの姿のプロジェクトです。
言葉では言えるものの、ここには非常に難しい問題が横たわっていることは承知しています。これを三つあげれば、まず第一の課題は、企業やアカデミアの中でバラバラに存在するデータの構造化です。構造化とは、データモデル、用語の定義、オントロジーとこれらのコード化を統一し(標準化し)、例えバラバラに散在していてもコンピューターが読めるようにすること。
第二に、多くの人が本能的に持つ、データ公開に対する警戒心です。研究開発に関わるデータをアカデミアの視点で語れば、論文発表に関するオリジナリティーや発明の優先権に関わる警戒心があり、営利企業の視点で語れば、ここへ更に競合他社に対する警戒心が加わるでしょう。この警戒心を解くには、オープンでフェアなルールが必要。衆人環視のオープンでフェアな環境なら警戒心が排除されていきます。
第三に、データの共用に対して必ず起きる、レガシーな慣習による無意識の反対論です。ここでは特に強制力とガバナンスが必要。我々が知っている範囲で語れば、共用することによってお互いに便益や効用が増え、互いに刺激し合って研究が進むWin-Win関係の関係になると分かれば、人は例外なくデータ共有に反対しなくなります。
このような姿になり、便益や効用が可視化されて共有されれば信頼関係が高まりますので人は必ず協力し合う。こんなWin-WinのPlus-sum関係がいたるところに現れれば、データの共有が進みます。ここで特に留意すべきなのは、研究開発活動の全てをデータで表現して共有するのではなく、必要な最小限のデータに絞って共有すればいいということになります。
 これらの三つの課題に関する経験は、その一部が既に前回、物質・材料研究機構からご報告されています。この教訓を学びながら、個々の分業(要素技術の研究開発活動)がデータ経由で連携し合うことで生まれる効果を再度整理すれば、丸1 分業とその結合・統合による経済的な効果、丸2 ネットワーク・コーディメーションによるボトルネックの排除、丸3 ネットワーク・インタラクションが造り出すイノベーション連鎖、の三つになります。
丸1 アカデミアの内部や企業内に閉じないオープンな産学官の分業と統合が、非常に大きな経済効果を生み出すのは至る所で我々が経験する事実ですが、それには互いのデータの共有・連携が必要、
丸2 産学官連携のような、企業の境界や企業とアカデミアの境界を超えた連携という、人智を超えた広範囲の連携プロジェクトでは、どこかにボトルネックがどこかに必ず潜んでいます。このようなケースであっても、それぞれがデータを共有すればネットワーク・コーディネーションの機能を活用できますので、ボトルネックが可視化され共有できるようになります。オープンな環境で可視化されれば人は必ず協力しあってボトルネックを排除できます。だからデータの共有・連携が必要。
丸3 そのインタラクションとは、互いに刺激し合いながら良い味で競争し、お互いに頑張ることです。これは過去150年間、世界の経済が成長する局面で必ず出てくる収獲逓増のメカニズムでした。GteXを念頭にこれを語れば、個々の研究開発(分業)それ自身の深化・進展だけでなく、基礎研究と応用研究やその実用化が同期して進んで行く可能性も、ここで期待できます。
 ではどうするか。例えばNIMSのプラットフォームをさらに分解して第一から三層まで分け、第一層にこれまでと同じ研究活動の機能を位置づけます。第二層に、第一層の研究活動をデータで表現する機能を設けます。これが研究活動のDigital Twinを作成する機能です。互いにデータ経由で繋がり合えるDigital Twinを作るには、データの構造化が必要。構造化されたDigital Twinなら、サイバー空間が持つ強大な市場機能と先に挙げた丸1 、丸2 、丸3 の経済効果を活用できる。これが第三層の機能です。

  このような、研究開発プラットフォームを機能させるには、データそれ自身のオープン・クローズ戦略がどうしても必要。つまり研究開発活動の全てをオープンするのではなく、先に挙げた丸1 、丸2 、丸3 の経済効果を生み出すために必要な最小限のデータに絞って共有すればいいということになります。ここでも、物質・材料研究機構がいろいろ困難を乗り越えてやってきたはずですので、ここから学ぶことが多いのではないでしょうか。
 以上でございます。
【杉山主査】  小川先生、大変リッチな内容をありがとうございました。非常に参考になる内容が含まれていると思いますので、まとめて質疑に入っていきたいと思いますので、少しお待ちいただければと思います。
【小川氏(東京大学)】  承知いたしました。
【杉山主査】  ありがとうございました。
 では続きまして、今度は新しい研究実証としての自動・自律実験についての事例紹介を東京大学より、そして東京工業大学の特任教授をされております一杉先生からお願いいたします。それでは一杉先生、お願いします。
【一杉氏(東京大学・東京工業大学)】  本日は依頼されました二つのトピックスについてお話しします。自動・自律実験の実際について、そして、それら技術を導入する際に考慮すべきことについて、となります。
 前者から話します。この方向性は、すでに大きく変化が起きていて、一言で言うと、「竹槍では戦えない」となります。繰返し作業、単純作業はAIロボットに任せて、研究者はより創造的に、そして挑戦的な研究に集中していく。それが重要だと思います。そのためにどうすれば良いのかを議論したいと思います。
 2020年に大きな変化が起きました。この動画では、ロボットが実験を自動的・自律的に進めています。ロボットが実験室内を動き回り、8日間で688回の実験をしています。ここで大きなゲームチェンジが起きていて、サイバー空間ではなくて「ラボの現場」が変化しています。その認識が非常に重要だと思います。
 我々のグループでは自律的な薄膜合成実験を進めています。この動画では、新規イオン伝導体を探索することを仮定しています。コンピューターに「イオン伝導率を最大化しなさい」と指示を出します。話を単純にするために一次元最適化、つまり、横軸を温度にして最適温度を探すという課題とします。縦軸はリチウムイオン伝導率です。実際には、ここが最適な温度です。コンピューターが推定しますが、当然コンピューターは最初、間違ってしまいます。しかし、その推定した温度でロボットが合成実験を行います。その後、ロボットが試料を物性評価装置まで運び、評価を行います。その結果がコンピューターに戻り、再計算します。そして、次の温度を推定します。これはAI将棋のようなものです。今の盤面を見て、過去の棋譜をもとに次の一手を予測することに似ています。この合成、評価、推定のサイクルをクローズドループと呼び、人間が関与することなく、夜中も土日も休むことなく実験を進めます。実際に我々のラボの学生さんは、インターネット経由で家から実験システムに接続し、指示出しや状況のモニタリングをしています。このように、研究者の「時間と場所の壁」を取り払うことが実現しています。
 次に、二酸化チタン薄膜の電気伝導性を最大化した例を示します。これは、温度と酸素分圧を振る二次元の最適化問題です。この動画に示すように、自律的に実験が進んでいます。自動的に相図ができあがり、電気伝導度が高い領域が可視化されます。実際に実験スピードとして、10倍速くなります。重要なことはもう一つあり、ベストではないデータ、それがしっかりとデジタル化されて、データベースとして使えるようになります。ここがこれまでの研究の進め方と大きく異なる点です。プロセスのデータがデジタルデータになって、有効活用できる形になっています。これがプロセスインフォマティックスにつながります。
イオン伝導体を探索する実験でも相図ができ、伝導度が高い領域が見えてきます。それにより、新しいイオン伝導体を見つけることができます。新しいイオン伝導体を見つけるのは当然として、私自身が最も興味深いと思うのは、「予期せぬ発見」です。このシステムでは、イオン伝導体だけではなく、電子伝導性の情報が得られます。すると、「あれ?これはおかしいな」と思うわけです。電子伝導性とイオン伝導性、両方高いぞと。そうすると、電池の電極材料として使えるということです。したがって、「イオン伝導体を探索していたが、新しい電極材料を発見する」ことができました。このようにセレンディピティの機会を増やすということが重要と考えています。そのためには、物質を合成した後に、様々な物性評価装置で多面的に物性評価することが求められます。そのような仕組みを今、構築しているところです。
 大学、企業はロボットをどんどん導入すべきだと思っています。この動画は、ロボットが繰り返し単純作業を行っている例です。今、200万円、あるいは安いものが数十万円で手に入ります。さらに、ソフトウエアも非常に整ってきていて、学生さんでもプログラミングしてロボットを動かすことができます。日本はロボット産業が非常に強いので、このロボット産業と組んで研究室の変革を進めれば、大きなアドバンテージとなります。
 もう一つの例を示します。NEDOのプロジェクトで進めている燃料電池の研究です。セパレーター表面に薄膜コーティングして、接触抵抗の測定を行います。ロボットが薄膜作製装置に基板をセットして薄膜を自動作製します。次に、1 MPaを印加して、接触抵抗を測定します。このように、繰り返し作業、つまり、優秀な学生さんが時間をかけなくても良いところは積極的に自動・自律にして研究スピードを上げる。その浮いた時間で、もっと創造的な仕事、挑戦性が高い仕事を進めたいのです。
 次に、自動・自律実験を導入・構築する際に考慮すべきことについて話します。まず、意識改革です。ロボット活用の意識づけが、必要だと思います。学生さんに「なぜこの実験操作を自動化することを考えないのか」と聞くと、「ロボット技術が使えるとは思わなかった」、あるいは、「先輩が行っていた手順をそのまま自分も行っている」などの理由で昔ながらの手法を今も続けています。「ロボットを活用して実験を行う」という発想がまだまだ広まっていないというのが実感です。
最大の課題は、「ロボットを投入すべき最適な課題とは何か」を判断できる人材がいないことです。人材育成をしっかりと進める必要があります。どの研究トピックや実験手順にAIロボット技術を投入するのかという判断力が一番重要で、AIロボットを投入しても有効ではない課題、そして、有効である課題がありますので、それを見抜く目が必要です。AIロボットを投入することが有効な実験手順は、マニュアルが整備されて再現性が高く技術の発展が少ない、つまり、繰返し実験であり、汎用的な技術です。そのような実験は自動化が非常に適しているので、GteXの中でもそのような実験をデジタル化すべきだと思います。そうするとデータを活用できるようになるので、それからまた新しい発想を得ることができます。そのような流れが非常に重要だと思います。
 全体システムを構築する際には、一気に作ろうとするのではなく、ある特定の手順のみを自動化し、ボトルネックを解消することが有効です。様々な企業のアドバイザーをしています。その際、ワークフローをいつも書いてもらいます。ボトルネックを見つけ、そこをまずロボット化・自動化する。それによってワークフローが速く流れる。実体験を一つ説明します。ある企業の計測装置では、測定待ちの試料が常に10個、20個ありました。そのために研究スピードが落ちていました。そこで、その計測装置を自動化して、夜も土日も測定できるようにしました。それによりボトルネックが解消し、全体のワークフローが速く進むようになりました。
このような一部分だけのデジタル化でも大きな効果があります。そして、各部分が自動化していき、最後にそれらをつなげ、実験条件を推定する機械学習と組み合わせれば、自律化ができます。ですから、まずはシンプルな自動化、そのような例を探すのが一番良いと思います。研究者が、「どのようにしたら楽になるのだろうか」という気持ちが重要だと思います。「これは辛いな」という仕事、そのような実験操作をデジタル化していくことが自動化への第一歩だと思います。
もう一つ重要なことは、人間ではできない実験を、ロボットを活用して進めていくことです。ただ単に人間の操作を置き換えるのではなくて、「ロボットだからこその人間を超えるような実験」を企画する。そのような発想を入れていくことにより、さらに科学が発展するでしょう。定型動作だけではなく、臨機応変に対応できるAIロボットの開発も進められています。
 次に、本日のトピックスのうち後者について、つまり、自動・自律システムをどのようにして構築するのか、そして考慮すべき点について話を進めます。AIロボットも化学も材料科学も分かるスーパーマンは極めて少ないので、チームを組んでシステムを作り上げることが必要です。
五つのタイプのメンバーでチームを組むことを推奨しています。丸1 化学・材料の研究者、この方がリーダーです。そして丸2 全体のシステムを動かすソフトウエア・ハードウェアのエンジニア。企業の場合は生産技術部門があるので、この部門の方にチームに入ってもらうと構築が非常に速く進む経験があります。それから丸3 ベイズ最適化などの情報科学の技術に詳しい人です。さらに、必要に応じて丸4 合成、および丸5 計測の理化学機器メーカーの方にチームに入ってもらって進めることが非常に有効です。最初のプロジェクトでは丸1 化学・材料の研究者がリーダーですけども、「課題設定の目」がチーム内に一度身につくと、次第にこの丸2 の方がリーダーになっていきます。「これも自動化できる、あれも自動化できる」というふうに、課題設定の目が備わると次々とデジタル化が進むということを、実際にアドバイスしている企業で経験しています。
 大学には生産技術部門がないので、自動・自律実験システムの設計・構築がなかなか進みません。化学・材料の研究者がすべてセットアップしなければならないので、デジタル化が進まないと考えられます。したがって、その部分をプラットフォーム(協働ラボ)で支援することが必要です。GteX共通の材料実験技術があります。多くの研究者が行う定型作業、例えば燃料電池も畜電池も、固体材料を合成します。秤量、混合、ペレット成形して焼結し、X線回折測定をするという実験操作を皆おこなっています。そのような基本操作は協調領域と考えて、皆で技術開発をするのがいいのではないか。その協働ラボは大学における生産技術部門の位置付けになると思いますし、様々な企業の相談を受ける場所にもなるでしょう。企業としても、ロボット技術は協調領域であると考えられます。「製品として何をつくるか」が競争領域で、合成ロボット技術は協調領域と考えられます。したがって、様々な企業が協働し、全体の底上げを図ることが重要だと思います。その協働ラボは人材育成の場ともなります。様々な企業と大学の研究者が集まって、ロボットを使った実験技術を開発することができればと願っています。日本の強いロボット産業とも協業し、「マテリアルロボティクス技術」を共有する場が日本全体として非常に重要だと思います。
以上で終わります。
【杉山主査】  一杉先生、大変参考になるお話をどうもありがとうございました。
 それでは、質疑をまとめて行いますので、次に生物化学産業に係る国内外の動向につきまして、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社の小林様に御説明をお願いいたします。小林様、お願いします。
【小林氏(アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社)】  よろしくお願いいたします。では、ここからは特にバイオものづくりのトピックに関しまして、皆様は既に感覚として、国内と海外の戦況というところについては非常に御認識をお持ちのところかなとは思いますが、いま一度、定量的に見たときに、日本とグローバルで比較した際にどのような戦況になっているのかというところを御説明させていただきたいと考えております。よろしくお願いします。
 まず、初めに分かりやすい数字として、特許の数というところをお示しさせていただきます。こちらは合成生物関連、バイオものづくり関連のところの出願数を出願人国籍別に経年変化で見ていったものでございます。濃いブルーが中国のものでございまして、次世代シーケンサーが発売された2006年以降、グローバルの特許数が非常に増加し始めておりまして、特に中国の出願数が非常に伸びていると。2011年には既に米国を超えているという状況でございます。
 出願人国籍の分布を見てみますと、左側が出願人国籍の分布でございまして、2000年から2010年でものでございます。右側が2000から2021年のものを合わせたものでございます。こちらを比較いたしますと、2010年までのものですと、米国が1位、中国が2位、日本が3位というところだったんですけれども、2021年まで広げてみますと、中国の出願人国籍の分布が最も多い40%になっておりまして、この中国の勢いというところがバイオものづくりの特許という意味ですと非常に勢いがあるという状況でございます。
 ただ細かく見てみますと、中国が非常に今グローバルに強い状況かというと、そういうわけでもないというところがこちらの図でございます。こちらは細かいんですが、3つの区分に特許の種類を分けております。一番左側が基礎研究・基礎工学というところで基礎研究関連の特許でございます。真ん中が基盤技術、その基礎研究のものをある程度工学に利用できるような技術として構築しているものでございます。一番右側が応用技術というところで、実際にバイオものづくりとして何かものをつくるための材料をつくっていく技術として区分されております。
 この棒グラフでございますが、下側に、中国、アメリカ、日本と記載されておりますが、こちらは出願人の国籍でございます。縦がその国籍の特許を出願している人がどこの国に特許を出願しているかというのを棒グラフで表しております。
 これを見ますと、中国のところを御確認いただきたいと思いますが、中国につきましては、いずれも中国の国籍の出願人が中国に出願をしているというものが9割方というところが見て取れると思います。この意味といたしましては、中国で特許を出願している人は、国内にしかほとんど出願していないというところで、あくまで中国でつくられた技術を中国国内でのみ特許化していると。グローバルでそれを展開しているというところにはまだ至っていないというところで、単純に特許数だけを見ますと、非常に中国の特許が増えてはいるところではございますが、グローバルで見たときにその特許が競争力を持っているかというと必ずしもそういうわけではないというところでございます。
 ただ、日本も近いような状況でございまして、少なくとも基礎研究・基盤技術につきましては、日本の国籍の出願人が日本に出願しているものが圧倒的で、米国を見ますとグローバルに展開しているところも見られると思うんですけれども、日本につきましても、まだ国内でこの技術を使っていくというところがメインになっていると。ただ応用技術につきましては、日本もグローバルで出願しているというようなところが見て取れますので、こちらにつきましては中国と少し毛色が違うところかというところです。
 こちらはやや細かいんですけれども、もう少し細かくバイオものづくりに関連する技術を細分化して、各地域、日本、米国、欧州、中国の戦況をマッピングしたものでございます。一番左側にDBTLサイクル、Design、Build、Test、Learnと4つ並べておりまして、その中に関連する重要技術を幾つかピックアップする形で並べております。例えばDesignの中ですと、ゲノムのデータベースですとか宿主生物の最適酵素の選定、DNAシーケンス、またはDNAの配列設計などを重要技術としてピックアップしております。
 同じようにDBTLそれぞれ重要な技術というところをピックアップいたしまして、これらの技術についてどの地域がこの技術のスキルを保有しているのかというところを、幾つかの指標を置いてマッピングしているものでございます。この4つの地域で比較した場合に最も技術が集積しているという地域を最も濃い色にしておりまして、だんだん薄くなるにつれて、その技術の集積があまり見られないというようなところになります。
 全体を俯瞰していただきますと、日本は非常に色が薄いのが縦にずっと並んでいるかと思います。この意味といたしましては、どの要素技術につきましても、ほかの地域と比較して、この技術の集積がなかなか日本には見られないというところがこちら全体の評価として見られるところかと思います。
 このように縦で見ますと、細かいところは後ろで御説明させていただきますが、米国のところで非常に濃い色のボックスが並んでいるかと思います。特許につきましては、中国が非常に多いところではございましたが、実際に技術の人材であったり、そのノウハウというところが蓄積しているのはまだまだ米国というところが全体として見て取れるところかと思います。
 では、それぞれの細かい技術について現在の状況を簡単に御説明させていただきます。こちらはまず公共ゲノムデータベース、微生物データベースの状況です。こちらは、4つの地域でどれくらいの株数が登録されているのかというのを比較したものです。これが全てではないとは思いますが、例えば日本につきましては、NITEが保有しておりますゲノムデータベースの株数というところを比較しております。横に並べますと、こちらにつきましては、中国がかなり積極的にこちらのデータベースの登録数を増やしている状況でございまして、日本は1桁小さい数字となっているというところでございます。
 これはDNAシーケンスです。こちらは企業のお話になりますが、DNAシーケンサーの売上げトップ10の企業数が何社いるかというところを簡易的に示しているものです。御存じのところかとは思いますが、DNAシーケンサーという見方をいたしますと、日本でトップ10に入っている企業はないというところで、米国が多くを占めているというところでございます。
 DNAシーケンサーの技術としては、第3世代、第4代というところも登場しておりますが、市場のシェアとして見ますと、まだ第2世代というところがほとんどのシェアを占めておりまして、9割以上がまだ第2世代のものが使用されているというような状況です。
 こちらはDNA合成です。バイオものづくりの中で特にコストのドライバーとなってくるであろうと言われている重要な技術でございます。DNA合成につきましては、特に長鎖DNAの技術が非常に注目されておりまして、こちらの業界団体というのが存在しております。この業界団体に参加している企業数を比較している数字をお出ししておりますが、こちらも米国が非常に多くのシェアを占めているというところで、日本は1社参加しておりますが、数としては非常に少ないところでございます。
 右下のグラフを御覧いただきますと、こちらはJSTの報告書から拝借しているものですが、ブルーがDNAシーケンスの価格の下落率を経年で見ているものです。DNAシーケンスは、御存じのとおり非常にここ10年20年で価格が下落して使いやすい技術になってきているところでございますが、一方で、DNA合成の価格は、黄色であったり赤いラインのところですが、こちらはなかなか価格が下がらないというところが課題になっておりまして、こちらを解決していくところがバイオものづくりとしては非常に重要になってくるところで、国内でも有望なDNA合成企業が幾つか存在している状況です。
 次お願いします。こちらはCRISPR-Cas9を中心としたゲノム編集の技術でございますが、こちらも特許数、論文数ともに、1桁とは言わないまでも、かなりほかの地域と差がついてしまっているところでございます。こちらも中国で出願数が非常に増えているところでして、その質がどうなのかというところはありますが、米国に非常に迫ってきている技術の特許の出願数というところが中国だと見て取れるところでございます。
 ゲノム編集につきましては、市場規模、成長率ともに非常に有望なところでして、今後もこちらの市場が伸びてくることが期待されるところですので、その意味で新しい技術をアカデミアの先生方にも開発していただくことで、個々の市場シェアを新たに取っていくということも十分に可能な技術領域になっております。
 次お願いします。こちらは最適生物の作製というところで、特許化された微生物の寄託数を比較しておりますが、こちらは非常に中国の数が多い、米国と比較しますと、10倍はいかないまでも、欧州と米国と比較しますと日本かなり少ない状況になっております。
 同じように、メタボローム解析につきましても6倍程度の差がついているところで、次のページ、AI関連技術です。DBTLの最後のLearnのところです。AI関連技術につきましても、こちら論文数、特許数ともに10倍どころか、論文数につきますと、なかなか日本が追いつく見込みもないくらいの差がついてしまっているという状況で、全体といたしまして、ほかの地域に比べて要素技術の開発で遅れが目立つような市場の状況となっております。
 後半です。簡単に各国の政策動向をまとめているところでございます。次のページをお願いします。
 こちらは各国、各地域の政府が、どの程度バイオものづくりの予算をつけているかというところでございます。日本の100百万ドル程度と比較しまして、米国は10倍程度ございます。中国は140百万ドル程度というところが見られるかと思いますが、右側に地方政府の研究助成支出の金額、900百万ドル以上と記載されているかと思います。中国は地方政府のほうが非常にこちらに力を入れておりまして、合わせますと日本の10倍以上の金額が出されているところです。
 また市場動向を見ますと、企業がどの程度ここの領域に参加しているかというところでございます。こちらのバイオファウンドリという言葉ですが、先ほど先生方が御説明していただいたとおり、DBTLの各要素をつなげて自動化して、高速でそのサイクルを回すようなものをバイオファウンドリと呼んでおります。自動化された無人の研究室のようなものです。それを持っている企業がどの程度いるかというのをこちらに示しておりますが、企業で見ますと、実はそこまで差がまだついていないというところで、まだアカデミアの先生方の競争領域になっているところで、それを企業が受け取って、何か自動化したシステムをつくっていくというところで差がついているかと申しますと、まだそこまでの状況ではないというところが市場の動向でございます。
 後、こちらはバイオファウンドリというものは企業がつくるだけではなくて、アカデミアの先生方が大学でつくっていらっしゃったり、あとは国プロで複数の大学の先生方が連携してつくられているようなところも多分にございまして、これはグローバルで各地域とも力を入れているところではございますが、こちらは比較しますと、日本は数は少ないんですけれども、そこまで大きな差がついているという状況ではなくて、日本にも神戸大学を中心として、3つほどバイオファウンドリが設置されております。米国でも8つほどというところでして、要素技術で差がついているものの、それを組み合わせるというところで非常に大きな差がついているという状況ではまだないというところが現在の国内外の状況でございます。
 一旦こちらで以上とさせていただきます。ありがとうございました。
【杉山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、次にバイオものづくりの研究動向につきまして、理化学研究所環境資源科学研究センターの斉藤センター長に御説明をお願いいたします。斉藤さん、どうぞよろしくお願いします。
【斉藤氏(理化学研究所)】  ありがとうございます。それでは、バイオものづくりの研究動向ということで御説明したいと思います。
 私たちというか、大きな問題としては、地球規模の課題解決があると思います。それはこのプラネタリー・バウンダリーのレッドゾーンにある項目です。それは昨年、Novel Entitiesという新規化学物質がレッドゾーンにあるということが示されましたし、それから窒素・リンの生物地球科学的循環、それから生物多様性の喪失という、そういったところが今レッドゾーンにあるということで、これはいずれもバイオものづくりと非常に密接に関係している解決すべき課題かと思います。
 カーボンニュートラル社会実現のための鍵ということで、植物と微生物に限って少し概念的なお話をさせていただきますが、最初に植物としては、宇宙船地球号を支える精密化学工場ということが言えると思います。それは二酸化炭素から非常に精密な化学反応を行って物質をつくっていく、転換していくということがあるからです。その右下にありますように、二酸化炭素のバイオリファイナリということで、フォーカスして考えますと、ここではキャッサバの例を出していますが、キャッサバはデンプンがバイオエタノール、それからバイオプラスチックの原料、それから肥料などにも使える、それから、いろいろな機能性成分、機能性物質の生産に使えるということで、バイオものづくりの言わばプラットフォームとして考えられるということにもなります。
 微生物としては、皆さん御存じのように、最初の微生物、シアノバクテリアの光合成によって酸素が放出されたという地球科学の歴史もありますし、二酸化炭素を炭素源として活動している種がありますし、何回か議論されているように、バイオものづくりの言わばプラットフォームということが微生物としては大きな期待が寄せられているということになります。
 このあと、植物と微生物に絞ったバイオものづくりの特徴とか有用性、その実例を挙げていきたいと思いますが、植物によるバイオものづくりの特徴としては、先ほど言ったように、二酸化炭素を吸収していくということで、最終的なプロダクトとしてはバイオ燃料、それからバイオプラスチック、それからバイオゴムというのが大きな二酸化炭素の吸収のプロダクトとしてあると思いますし、それから有用な二次代謝物というような植物の生産物としてあると思います。
 中間体の合成能力を保持しているという物質の多様性、それから微生物では生産不可能な物質も様々な組織や器官の分化によって生産することができると。それから、環境的、それから経済的に持続可能な解決のツールになるということが植物として大きく期待されていることかと思います。
 これは植物の1つの課題を示していますが、植物の1つの課題は、プロトプラストから最終的な植物体を分化していくという、遺伝子導入なりゲノム編集した後、分化させていくということであります。これはもともと植物が持っている能力ですが、それを最大限に引き出すためには、基礎生物学的な研究が必要になります。これは1つの例で、分化の仕組みを解明していくというのが1つの重要な研究例です。
 これは参考として、海外の二酸化炭素吸収プロジェクト、植物による吸収プロジェクトの国際動向ということで、アメリカではFuture Energy Initiativeの大きな投資、それから、英国では植物科学研究への大きな投資、特に右下にありますように、HP3というプロジェクトです。これはHealthy Plants, Healthy People, Healthy Planetという、HP3という、これに大きな投資をしているということで、植物を使った問題解決ということが非常に大きな研究の一種、それからプロジェクトの投資先になっているということでございます。
 微生物によるバイオものづくりの特徴としましては、カーボンニュートラルな微生物によるバイオものづくりの例ということで、例えば工業原料です。アルコール、それから芳香族系の化合物、それからタンパク質の素材とか繊維とか化粧品の原料というのが大きなターゲットですし、それから最近ではバイオ燃料ということも言われています。これらの実現のために、合成生物学、インシリコ、それから先ほども出てきましたDBTLワークフローの適用、それから、実のところ大事なのは、バイオリソースの整備と拡充が必要かと思います。これは新規の微生物、それから難培養性、それから極限環境にいる新しい微生物、そういうのが言わばベーシックセルの可能性を秘めているわけで、その整備と拡充が必要ということです。
 もちろんそれの、バイオリソースの情報資源への転換という、DXですが、データベース、それからデータプラットフォームということが大きな重要なポイントになるかとも思います。
 産業利用に向けた事例の紹介をしたいと思いますが、これは微細藻類、ミドリムシです。ユーグレナを活用したバイオ燃料ということで、これは理化学研究所がユーグレナ社との共同研究によってミドリムシの生産性向上、最終的にはカーボンニュートラルに向けたバイオ燃料の実用化という、例えばSAFのようなものを実用化していくということを、産業利用に向けた大きな研究事例として挙げたいと思います。
 次のスライドをお願いいたします。産業利用に向けたもう一つの例としては、バイオブタジエンの例でございますが、これは日本ゼオン・横浜ゴム、それから理研との共同研究ですけども、グルコースから、エンザイムのラショナルなデザインによって、新しいパスウエイをクリエイトして、ブタジエンをつくっていくということで、化石資源から脱却した、ポリマーのモノマーの生産ということが大きなここでのテーマかと思います。
 今後の方向性を少し、二、三のスライドでお示ししたいと思いますが、植物によるバイオものづくりの今後の方向性としては、学際領域ということがどうしても必要で、システム生物学と合成生物学、遺伝子工学、それから計算科学、それから最後は人文科学との異分野融合というような、伝統的な植物科学にとどまらない大きな異分野融合の研究が必要かと思います。そこでDBTLサイクルを応用するアプローチ、それから生産プラットフォームとしての植物の利用ということで、カーボンニュートラルなバイオエコノミーを、植物がもともと持っている植物の能力を引き出して適用するということが大きな今後の方向性かと思います。
 微生物によるバイオものづくりとしては、まずバイオリソースという、これは非常に大きなポイントかと思いますが、土壌細菌、海洋性の細菌、それから難培養性の細菌のコレクションから微生物リソース、メタゲノミクス、それからマルチオミックス解析で、それからDBTLワークフローを回していくということが必要で、ここでは、バイオリソース、マルチオミックス、DBTL、DXという、これらの組合せというのは非常に大きなこれからの今後の大きな研究の方向性かと思っています。
 必要な要素技術としては、これはランダムに挙げましたが、黒字で挙げたところにありますように、全部は言いませんけども、代謝マップですとか、それから宿主、それからオミックスの解析技術、それから、右のほうにいきますと、スマートセルの開発、それから植物での遺伝子導入と再分化の系の確立、それから右のほうには、分野横断的な人材の育成という、最初にポイントアウトされましたが、人材の育成というのは今後非常に大きなポイントになるかと思います。
 左下のほうですと、ここはデータですけども、データプラットフォームの確立、それから、それらが社会実装するために向けての人文社会科学的な観点からの検討というのが、大きな、重要なポイントになるかと、要素‘技術’ではないですが要素として重要かと思っているところです。
 研究体制に必要なイメージ図、基盤のイメージ図としては、例えばここにありますようにマルチオミックスデータを取得して、標準化したデータベースに集約する、それらを全国の研究者が利用できる形にしていくという、そういった、言わばプラットフォーム的な機能ということが非常に大きな役割を果たすのではないかと思っているところです。
 これは一つの例ですが、私たちの、理化学研究所の例ですが、理化学研究所は大学とはコンピートしないと。むしろ大学のための技術支援、それから解析基盤のプラットフォームも提供するということを大きな役割と思っていまして、ここにありますように、統合メタボロームの解析基盤ですとか、植物フェノタイピング、それから顕微鏡の解析基盤、それからシングルセルオミクスの解析基盤というのも本年度ぐらいから立ち上げていますし、分子構造の決定ですね、解析の基盤、それから天然化合物ライブラリーというのが研究基盤の一つの例かと思います。
 これのデータベースとしては、このバイオものづくりに必要なデータ、例えばシークエンスデータ、それからメタボロームの定量データ、それからネットワークの解析のツールやデータベース、そういったものは、私たちの理化学研究所、それからかずさDNA研究所、国立遺伝学研究所の3者での生命科学系データベースに関する連携協定というのがありまして、こういったものが一つの基盤になるかと思っています。
 これは微生物ですが、微生物のリソース、微生物ダークマターの培養という、これは一つの例ですけど、難培養性の微生物叢を新しく発見して、それを登録してレジスターしていって、次に使えるようにしていくという、こういった研究活動も必要なポイントかと思います。
 以上で私の話を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
【杉山主査】  どうも斉藤様、大変ありがとうございました。
 それでは、ここまでの御発表につきまして、御質問あるいは御議論等を承りたいと思いますが、特に小林さんは、この発表、議論の後で御退席されますので、もし小林様に関する御質問がございましたら、この場でお願いしたいと思います。委員の皆様方、ぜひどうぞ。
 水無先生、お願いします。
【水無委員】  NEDOの水無です。小川先生に御意見を伺いたいことがあります。小川先生、オープン・クローズ戦略という非常に重要な御説明をありがとうございました。これは非常に重要だと思うんですけれども、これは誰がどのように設定していくかということが非常に重要かと思っています。特にこのGteXで研究者の方々がこれを考えて実施するのか、あるいは参画している企業の方、あるいはこのGteXのPO、PDの周りですか、そこのサポート部隊が実施していくべきものなのか。
 といいますのは、特に私はバイオものづくりのところを見ておりますけれども、ターゲットが非常に多様でございます。ですので、その辺りも踏まえて、どのように構築していくのが適切なのかということについて御意見を伺えればと思います。よろしくお願いします。
【杉山主査】  それでは発表いただきました小川様、よろしくお願いいたします。
【小川氏(東京大学)】  小川でございます。承知しました。
 今の御質問は非常に重要だと思っています。先ほど申し上げたように、オープン・クローズ戦略を御存じの方は意外と少ない。確かにオープン&クローズ戦略の本を書きましたけども、企業が概念としてはご理解いただけるのですが、実際この考え方を使ったことのあ方が非常に少ない。したがってGteXのプロジェクトでは、原則としてPDの方には身に着けて欲しいですが、メンバーの皆様にご理解頂けないと特にデータ共有・連携でPDの方が困るはずですので、GetXに参加するメンバーの方にもご理解頂く必要があります。
一方、企業がオープン&クロ-ズの戦略思想を持たないと、GteXの成果を商品化するプロセスで、1990年代のエレクトロニクス産業の二の舞を演じてしまう。この意味でも企業の方にはどうしても理解して頂く必要があります。したがってGteXの皆様と意見交換する場をつくらせていただけないだろうかと、このオンライン会議が始まる前に文科省の方に申し上げました。
 
【水無委員】  ありがとうございます。このGteXの事業構築というか、制度設計する上で非常に重要なポイントかと思いましたので、コメントいただきました。ありがとうございます。
【小川氏(東京大学)】  おっしゃるとおりでございます。また、同じ繰返しをしない、間違いをしないようにぜひお願いいたします。
【杉山主査】  非常に重要なポイントですので、ぜひ小川様がおっしゃるように、この参画メンバー間でも、オープン・クローズ戦略、本当は何なのというのを一緒に学んでいくというところも非常に重要かと思いました。ありがとうございます。
 それでは本郷先生、お願いします。
【本郷委員】  御説明をいろいろありがとうございました。大変勉強になりました。
 技術をみんなで開発する場合にはその技術を共有することになりますが、途中で共有について不安があるので共同開発が動かないというような御指摘がありました。その場合、開発した技術についてどのように権利を主張し利用していくかのルールがないというところが問題なのか、一方でWTOのようなルールはあるけれども、実態的に守られないから心配なのか、何が問題になるかと言う点についてどなたかから教えていただければと思います。
私はもともと金融の仕事をしていたんですけれども、そうした場合、結局そのルールはあまり役に立たず、みんなで信頼し合える仲間だけで一番美味しい情報を共有するというのが非常に多かったと思っています。Closed societyであり、また企業というよりはむしろ個人の繋がりが金融の場合は多かったと思います。技術の場合どういうことなのか、もしその辺り、情報があれば教えていただきたいというのがあります。
 それから、今回は時間がないので説明がなかったのかと思いますが、技術開発戦略をいろいろやったけれど、どういうときにどういう失敗があったかというような失敗事例というのは何かまとめたような情報はあるんでしょうか。私はそこにすごくいいヒントがあると思うので、もしそういう情報があれば、ぜひ共有していただければ、私なりに勉強したいと思います。以上です。ありがとうございます。
【杉山主査】  ありがとうございます。こちらもよろしければ小川先生からお答えいただけますでしょうか。
【小川氏(東京大学)】  承知いたしました。最初の特許の関わるルールですが、マクロ的には国際ルールがございますけども、やはり人的なつながりが重要です。ただ、今回のGteXのような技術開発では人的なつながりはもちろん必要ですけども、企業は競合企業との関係でデータを公開することに必ず警戒感を持ちます。Gtexに参加する本人は人的な信頼関係があっても本人の上司や経営者の判断が異なってしまいます。したがって基本的なルールとしての特許権や営業秘密で保護した上で公開しなければなりません。
ただ特許をとればいいという話ではなくて、自分たちは共有しながら勝っていくWin-Winの関係になるにはどういうメカニズムになるんだということを、どうしても共有しなければなりません。実は1980年代から90年前半まで、日本でもこのような人的交流が盛んでした。しかし90年代から30年はそういう人的交流が非常になくなってしまいました。今回のお話でこの視点にも焦点を当てた背景がここにあります。
 それからどんなときにどんな失敗したかの事例ですが、これは添付した28枚の図とp.12の参考資料に山ほどありますので見てください。ここにその背景はもとより、どういうメカニズムで失敗したのかも分かるように書いています。もしお分かりにならなければお会いして意見交換させていただきたいと思います。
【本郷委員】  ありがとうございます。特許制度をよく理解してれば十分であり、技術は今の特許制度で十分守れるということでしょうか。私はもっとそこに問題があるんじゃないかと実は思っています。
【小川氏(東京大学)】  特許制度は万国共通でございます。一部の国で制度の運用ルールを政策的に変えるケースもありますが、問題は特許の制度そのものではなくて、それをどう活用するかです。私は今回のお話で、クロス・ライセンスを排除し得る領域をクローズにしなければならないと何度か申しました。その理由も図12から図24をご覧になれば理解頂けると思います、
制度は基本的にどの国でも同じです。問題があるとすれば国による特許制度の運用であり、企業による制度の使い方の問題です。だから図12のフレームワークが必要。ただデータや人工知能アルゴリズムに関わる特許権をどう与えるかは国によって違います。
【本郷委員】  ありがとうございます。
【杉山主査】  ありがとうございます。大分議論が盛り上がってきますと本質的な議論に入りたいところではございますが、この後、研究開発方針等の議論もございまして、時間の制約を鑑みますと、もしこの後、御退出される小林様に対する御質問がないようであれば、一旦次の議題に移らせていただいて、最後、総合討論の際に議論をいただければと思います。佐藤委員、手を挙げられているのは小林委員に対する御質問ということでよろしいでしょうか。
【佐藤委員】  本当に短い質問をさせてくださいます。小林様、お話ありがとうございました。バイオものづくりの件ですけども、非常に日本がどの分野も弱いということ、そして企業のほうも弱いということで、これは、もともと歴史的に日本は弱かったんでしょうか。つまり、そこまで今日はデータがなかったんですけども、70年代80年代から弱くてこういうふうなことになってしまったのか、ここから何か頑張れるところはあるんでしょうか。特に9ページのところで、たしかゲノム編集のところで、ここをやっていったらいいといったことを一言おっしゃっていたように思うんですが、いかがでしょうか。
【杉山主査】  ありがとうございます。では小林様、よろしくお願いします。
【小林氏(アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社)】  ありがとうございます。幾つか見方はあるかとは思いますが、最初にお示ししました、例えば経年での特許の出願数を見ますと、ずっと負けていたわけではなくて、実は2000年代ですと、まだ米国に次ぐ特許数というところを日本は持っていたところで、この2014年以降、中国が非常に伸ばしているというところではございます。本日お示ししたのは結構、定量データというところを重視しておりましたために、非常に日本が負けているように見えるかとは思いますが、質的に技術を評価しているものは実は今回多くなかったと思います。ですので、例えば中国が非常に特許の数で稼ぐというところを戦略的に取っているところで強く見えるものの、中で使える技術がどれだけあるかというところですと、実はまだそこまで各地域の差がついているところではないのかと理解をしておりますので、日本は限られたリソースをその質を高めるというところにどう生かしていくかというところを考えていく必要があるかと。その中の特に注目すべき領域といたしましては、中でも可能性があるDNA合成ですとか、あとはまだ各国で戦える余地がある最適微生物の作成のあたりというところは注力するに値する技術領域なのかと考えております。
【佐藤委員】  絞られそうです、どうもありがとうございました。
【杉山主査】  ありがとうございました。大変中身の濃い議論をいただきました。小川先生。
【小川氏(東京大学)】  小林様がご指摘なさった中国の知財状況は、これまで人工知能でも電気自動車でもDVDでも携帯電話でもスマホなど、ほぼ全ての産業領域で起きました。キャッチアップの国はまず最初に特許の数を競い、クロス・ライセンスを仕掛けて先進国の企業の特許を使えるようにし、自国の産業を成長させます。その後に産業が成長して技術も人財も蓄積されると、本質的な特許を取る方向へ進化してきました。進化とともに特許の使い方も欧米から学び、特許の数でなく使い方でグローバル市場を席捲するようになります。特許の数に焦点を当てるのは勿論重要ですが、同時にその後の展開を語るのも大事です。これは私の経験でございます。
【杉山主査】  どうもありがとうございました。非常に重要な情報だと思います。
 それではまた、この続きは総合討論で議論させていただくといたしまして、次の議題3に入っていきたいと思います。
 
議題3. 革新的 GX 技術創出事業(GteX)の基本方針、研究開発方針等について
 
【杉山主査】  議題3は、GteXの基本方針、研究開発方針等についてでございます。まず、文科省の研究開発局環境エネルギー課の轟課長より、革新的技術創出事業(GteX)の基本方針の素案、そして蓄電池領域、水素領域の研究開発法人の素案について発表いただきまして、それに続きまして、今度はバイオものづくり領域の研究開発方針につきましては、ライフサイエンス課の奥課長より御説明をお願いいたしますので、それでは、順番によろしくお願いいたします。
【轟(事務局)】  それでは資料3-1、まず制度全体に係る基本方針でございます。こちらは前回中心に御意見をいただいておりますので、本日は、各領域別の研究開発方針のほうを中心に御議論いただければと思いますけれども、基本方針につきましても、8ページですけれども、本日も一杉様から御説明いただきましたDXのところ、自動化、それから自律化、こういったところの新たな研究手法の導入を積極的に推進するといったことを記載してあります。
 それから、小川様から御説明いただきましたオープン・クローズ戦略のところは、この後、JSTのほうで方針を策定するということになっておりますので、この後またさらに議論を深めていただければと思っております。
 それから12ページ、海外連携でございます。本事業自体は、海外連携を主目的とする事業ではありませんが、昨年12月、経済安全保障推進法の特定重要物資の1つに蓄電池が指定されるなどの動きがあることから、こちらのように同志国という書き方をさせていただいていますが、そこで相互に行き来していく環境づくりも重要であると、そういう言い方をさせていただいているところです。
 続きまして、資料3-2、蓄電池領域に移らせていただきます。3ページ、研究開発目標・項目ですけれども、まず前提として、この事業は2050年の社会像からバックキャストして、経済波及効果、それからGHG削減効果を狙っていくという意味で、この量的な貢献が見込める蓄電池技術の創出を目指すということがございます。その観点からいきますと、具体的には、EV、車載用に適した性能を持つ革新的な蓄電池の早期実現・貢献といったところが一つ大きなものになります。それからもう一つ、中長期的には、定置用、それから、将来的な社会ニーズに合わせた多様な機能を追求した蓄電池といったところを目指すことが重要であろうということでございます。
 新しい研究開発手法の開拓というところですけれども、これはまさに本日お話がありましたけれども、このDXで高速化・自動化するといったところ、それからさらには加えてサーキュラーエコノミーの話、また、LCA、エンジニアリングの観点から求められるプロセス等も重要であるということでございます。
 続きまして、蓄電池開発に係る研究開発テーマです。ここは短期・中期・長期ということで、前回でお話しさせていただきましたけれども、そこを具体的に書いているところです。 1つ目の短期のところ、企業の技術開発における基礎課題解決に向けた研究開発ということで、これは3から5年と設定をしております。こちらは目下この市場の競争が熱い技術、ここの基盤を強化することは急務であるということで、全固体電池(特に硫化物系)とか、それから液系リチウムイオン電池の高性能化といったところを企業が取り組んでいる中で、ボトルネックとなっている基礎課題の解明・解決というところに取り組んでいきましょうということでございます。 中期というところで、今後、産業界での取組拡大が期待される次世代電池に係る研究開発ということで、これは5年程度と設定をしておりますけれども、諸外国でも、産業界を含めて精力的に取り組んでいる次世代電池は複数存在すると。例えば酸化物型全固体電池とかナトリウムイオン電池、リチウム硫黄等のリチウム金属電池といったものですけれども、一方で、これら外国の動きに対しまして、ボトルネック課題の困難性により、我が国の産業界での取組・普及が一部にとどまっているところがあると。こういったところ、技術的成熟度の引上げに向けた課題に取り組んでいきたいということでございます。
 C.長期になりますけれども、将来的な企業投資が見込まれる革新電池創出に向けた研究開発ということで、5から10年程度というところでございます。こちらは技術成熟度の向上と電池としての一定の要件をクリアすれば、将来的な企業との本格的な共同研究への移行が見込める革新電池に係る研究開発ということで設定をしているところでございます。
 続きまして8ページに行きまして、研究開発実施体制でございます。こちらは前回もお話ししましたけれども、トータルとしての電池システムを俯瞰・検討できる研究者が中心となった上で、各部材それから材料開発、そういったものを一体的に推進できる体制であることが重要であるということです。ただし、必ずしも電池系ごとの縦割りのチームではなく、ある共通の部材に主軸を置きながら、多様な電池系に共通する課題には横断的に取り組むといったことも有効であろうということでございます。
 あと、アカデミアを中心としたチーム構成ですけれども、特に短期のところは、将来的に研究開発・研究成果の展開が期待できる企業等に採択当初から入っていただく。また中・長期のところについても、段階的に企業等が参画することを推奨するということを書いております。
 続きまして、共用設備のところですけれども、特に、水素領域とは、触媒とか材料で共通する解析技術や課題がありますので、コミュニケーションを取って進めていくことを推奨するということです。それから、前回もALCA-SPRINGの説明をいただきましたけれども、物質・材料研究機構でデータプラットフォーム等がありますので、こうした既存のプラットフォームも積極的に活用しながらやっていくということを書かせていただいているところです。
 それから、研究開発マネジメントですけれども、成果最大化や早期の社会実装の取組ですが、ここは、前回、技術研究組合から説明もいただきましたけれども、研究開発成果を利用し得る企業等、例えばNEDO関連プロジェクト参加企業や、電池で言えばLIBTEC等の技術研究組合等との意見交換や研究成果の発信を積極的に行っていくと。また、そのコミュニケーションの中で新たな研究開発テーマが出てきた場合は、それを追加して事業を進めていくといったことが重要であろうと。また、先ほど本日もお話がありましたけれども、特にこの蓄電池の分野では、諸外国でもスタートアップが活発に生まれているということもありまして、このスタートアップアップ創出による成果の展開も目指していくということでございます。
 続きまして、水素領域について説明をいたします。4ページ、水素の短期・中期・長期の設定です。短期のところは、Aで、企業の技術開発の中で隘路となっている基礎課題の解決ということで、3年程度という設定でございます。こちらは、現在FCVや水電解は実用化されている技術も多い中で、実用化に至っている技術においても、例えば燃料電池や水電解槽の長寿命化やコスト低減の実用化を進めていく上で隘路となっている業界共通の課題もあるであろう、こういったところは科学的な深掘りに強みを持つアカデミアの貢献が非常に有効であろうということで、3年程度の研究開発を設定しているということでございます。この期間内に、一部の材料開発や要素開発のみを先んじて企業との共同研究等に移行することも推奨していくということでございます。
 続きましてB、中期ですけれども、近い将来企業が実用化することが期待される革新的技術課題です。こちらは例えば大型・商用モビリティ、HDVのFC化の実現には、超高活性・高耐久な触媒の開発が必要とされていると。こういったものは一企業のみの技術開発で実現することはハードルが高いとされています。こうした不確定要素の大きい技術を含む研究課題については、まずアカデミアにより幾つかの技術を示し、その確度を高めることで企業の当該技術開発への参入促進が期待できるということでございます。こちらは5から7年程度で設定します。
 さらに長期ということで、現時点で企業の実用化検討に至っていないが、将来的な構造転換を引き起こす可能性のある革新的技術開発、7から10年ということでございます。こちらは2050年のカーボンニュートラル達成には新原理等による革新的技術が求められているということで、例えばHDVに搭載する水素貯蔵容器、こういったものでございます。こういったものには7年から10年程度の研究開発期間を設定して、将来的に企業との共同研究等を開始することを想定していると、このような設定で進めていきたいと考えています。
 次の研究開発実施体制ですけれども、こちらもトータルとしてのシステムで、水電解と燃料電池であれば、構成材料だけではなく、セル・スタック、それから水素貯蔵であれば材料のみでなく貯蔵システムと利用法と、そういったことを俯瞰・検討できる研究者が中心となった上で、一体的に推進できる体制が必要であろうということでございます。
 チームの構成に当たっては、従来から水素関連の研究を行っている研究者のみではなくて、これまで水素研究に参加していなかった異分野の研究者も入っていただくということが重要であろうと。本日もお話にあったようなDX云々のところが非常にキーになってくるということでございます。こちらも短期課題については、出口を担う受け手企業等の参画や連携を図るというところが重要ですと。それから、水素もスタートアップ等の参画も推奨するということで書かせていただいております。
 共有設備のところですけれども、マテリアルズ・インフォマティクスや自動・自律実験等の手法を積極的に開発・導入すると。また、物質・材料研究機構の既存のデータプラットフォームといったものを積極的に水素のところでも活用していってほしいということでございます。
 次にIV.研究開発マネジメントですけれども、こちらは水素の分野の特徴として、製造、貯蔵、利用の各技術について実用化までの道筋や遠近感が異なっているというところがあります。ですので、特に水電解や水素貯蔵、燃料電池の製品目標や一部の技術目標等については、まだその目標が定まっていないものもあると。そういったところは引き続きこのNEDOのロードマップ等の枠組みにおいて、産業界、アカデミアが議論を続けていくというところですので、そういった議論の中で出てきた技術目標等も、こちらのGteXのほうに反映していくことも重要であろうということを指摘しているところでございます。水素は以上でございます。
【奥(文部科学省ライフサイエンス課)】  続きましてライフサイエンス課からバイオものづくりの研究開発方針について御説明いたします。前回よりも大分追記をしましたので、少し丁寧に御説明をいたします。
 1ページ目、背景・目的のところです。バイオものづくりは、社会的課題解決と経済成長との両立を可能とする、二兎を追える研究分野だということで、カーボンニュートラル社会の実現に向けた有力なキーテクノロジーの一つであるということを書いています。
 3段落目のところ、一方で、まだまだ既存の化学品に比べてコストが高い、あるいは生産できる化学品の種類が限定的である等の課題があるということで、世界的にも、先ほどADLから話がありましたが、様々な投資がされている状況だということです。
 最後の段落で、米国との競争が激化する中で、我が国の地理的な特徴、あるいはバイオ技術の強み等を生かしながら、産業界、アカデミアが連携をして、革新的な微生物の開発であるとか、植物によるバイオものづくり技術を開発していくことが重要であるということを書いています。我が国の戦略目標の中でも、バイオものづくりについては重要分野の一つということで位置づけられています。
 また(3)産業界との協働のところですが、2段落目、現在、経済産業省でグリーンイノベーション基金事業が創設されています。この中では特に微生物を対象として、生産の大規模スケール化、実証、あるいはその効率化等に関する研究開発を推進しています。一方で、アカデミアにおける研究においては、新規の代謝経路の開発であるとか、あるいは革新的な技術の開発など、バイオものづくりに関する基盤的な研究開発を推進していくことが極めて大事だと書いています。
 さらに文部科学省の特徴としては、人材を持続的に育成することも大事ですので、このテーマの中に入れさせていただいています。
 2ポツ、研究開発目標・研究開発テーマです。ここのところですが、かなり追記をいたしました。まず、経済産業省のグリーンイノベーション基金事業の中では、その事業の目標として、以下の目標値が掲げられています。世界のCO2の削減効果として2040年で13.5億トン、2050年で42.1億トン。あるいは経済効果として2040年で65.4兆円、2050年で119.4兆円。こうした経済産業省の事業につなぐというのが文部科学省の事業の目標でもあります。
 この目標を実現するため、具体的な中身を例示しております。微生物等により生産可能なC4以上の長鎖の工業原料、多様な芳香族化合物、この中にはゴム製品、プラスチック、化学繊維等の原料、あるいはSAFをはじめとする次世代燃料などの化学品の種類・機能の拡大であるとか物質生産の効率性の向上、こうしたものについて産業界とアカデミアが一体となって技術の開発を目指すということを書いています。
 また、この事業では、企業が産業化する際のボトルネックとなっている技術課題の対応、あるいはゲームチェンジとなる革新的な技術開発を進める。さらにNEDOプロとの間での事業間連携、産業界ニーズを取り込むための体制の構築など、具体的な研究開発のマネジメントを徹底することが大事だということを書いています。さらに下にいって、アウトプット、アウトカム目標については、前回と同様ですが、このような形で定性的な目標を掲げています。
 続いて、次のページの5の2ポツの研究開発テーマの考え方です。こうした目標の実現に向けて、2段落目、最適な代謝経路を持つような微生物の生産株・生産技術の開発、さらに効率的な微生物開発を行うための基盤技術、オミックス解析技術や構造解析等の基盤技術の開発、さらにデータプラットフォームの整備等が重要だということを書いています。
 さらに、斉藤センター長からも話がありましたように、微生物のみならず植物について、微生物では生産できないような物質生産であるとか光合成の効率化等に関する研究開発も大事だということで、並行してこれらを進めていくことが大事だと書いています。
 それを踏まえて、各研究開発テーマに続いて、短期・中期・長期といった指標をつけてA、B、Cの形で具体的な対象を掲げています。
 微生物につきましては、1のところで、例えばということで、必要最小限の機能を有するようなハブ細胞、ベーシックセルの開発、さらに有用遺伝子・新規酵素の探索、代謝経路などの開発というあたりを書いています。
 2つ目、植物につきましては、代謝経路の機序解明、光合成効率の向上等に関する開発を書いています。さらには横断・基盤技術として、データプラットフォームの整備であるとか、DBTLに関する革新的な技術の開発等を研究開発の例示として掲げています。
 こうした研究開発を進めるためのチーム編成です。チーム編成の考え方として、それぞれ上記の、先ほどから申し上げた研究開発テーマを実施する複数のチームを構成する。例で丸1から丸3まで掲げていますが、これらについて革新的な技術開発を行うチームと、それらの研究開発を統合・加速するチーム、この2種類のチーム構成で研究活動を進めるという形にしています。さらに個別の技術を保有する研究者について、個別に採択をしてチームに相乗効果をもたらすような場合には、公募で追加することも考えられるということも書いています。
 その下に、各チームのイメージということで、革新的技術チーム、それと統合・加速チームについて、それぞれイメージを書いています。このうち特に統合・加速チームの要件ですけれども、幾つか掲げています。第一線の研究者が集積、連携するような体制であるとか、多分野融合、あるいは産業界との連携のハブとなるような機能、さらに4つ目です。先端機器であるとか研究基盤の整備・共用を進めるような体制、こうしたものを持つのを統合・加速チームとして、全国に拠点等をつくってはどうかということを書いています。
 さらに(2)有機的に連携を進めるための体制整備ということで、POであるとか各チーム長等が定期的に一堂に会して、研究の進捗状況や研究の連携、問題意識の共有、あるいは産業界のボトルネック等について検討する体制を整備すること。
 さらに(3)で、共用設備・研究基盤の在り方について掲げています。さらに(4)で、先ほどから何度も話が出ていますデータ、DXの話です。(5)番で、国際的な連携協力、さらに(6)で、若手の積極的な参画・育成というのもこの事業の中の重要な要素として入れています。
 4ポツで、研究開発のマネジメントですけれども、POの下で、オールジャパンの体制を構築するということが大変大事だと思っています。さらにそのPOを補佐する者として、その関連動向等について指導・助言ができる体制をきちんと整えるということ。さらにこうした研究開発を進めるに当たって、ステージゲート評価というのは極めて大事ですので、定期的なモニタリング・評価等を行うということも掲げています。
 何度も申し上げましたけれども、産業界からのニーズを取り込むことが非常に大事ですので、そのための体制整備であるとか、あるいは経済産業省とNEDOとの連携をきちんと図っていくこともここで掲げています。
 また小川先生から話がありましたように、オープン・クローズ戦略に基づく取組、あるいは技術情報の管理等についてもきちんと進めていくということを掲げています。
 バイオものづくりに関しては以上です。
【杉山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして、今度はJSTにおける取組の状況について御説明をお願いしたいと思います。大矢部長、よろしくお願いいたします。
【大矢部長(科学技術振興機構)】  JSTの大矢です。よろしくお願いいたします。こちらの研究計画を策定しております検討状況を簡単に御説明させていただきます。
 前回も御紹介しております、文科省でのGX小委員会に対して計画書を提出する会議体として、JSTではGX技術推進準備委員会を発足しております。ここでの議論を踏まえて計画書を作成したいと思います。また、左側にも書いておりますが、ワークショップを実施しております。広く意見をお伺いしまして計画に反映するという体制を取っております。
 計画書の構成案はこのような形になっております。
 検討状況になります。ワークショップは既に何回か実施しております。約50名の方々、各領域でのワークショップを実施しておりますが、構成としては大学が半分、あと国研、産業界にも広く参加をいただきまして、下記に書いてあるような日程で実施をしております。最後、今週、水素のワークショップを実施して終了となっております。また、これらのワークショップの意見も踏まえまして、先ほどの準備委員会というものも開催しております。委員の構成は、大学が45%、国研が18%、産業界36%という形でメンバーを構成して実施をして、3月中に会議を終了する予定になっております。
 検討内容は、ここに書いてある、まず共通事項として5つの項目、また各領域での項目がございますが、今日は共通事項の上の3つの項目について、また各領域でどのような意見が出ているかを御紹介したいと思います。
 まず、知的財産権に関する取組は、先ほど小川先生等のお話がございましたが、こちらもJST・各領域において、3領域立ちますが、それぞれに知財委員会を設定して、委員長にPOもしくは代理を指名していただいて設定をする予定です。この委員会において、どのようなマネジメントをしていくかは今後また議論はしていく必要がございますが、意見としては、新規性創出の例外規定であります30条適用は避けることが必要であることから、事前に成果発表等を確認するような、もしくはアドバイスをするような体制が必要だろうと、そういう実施が必要だろうと思っております。この具体的な方法、各領域での状況も違ってきますので、領域ごとに検討していきたいと思います。また、特許の出願状況も事前に確認をさせていただく、もしくは実施許諾も行う際には、事前に確認をさせていただくというようなことを考えております。また、先ほど小川先生からも御指摘がありました、専門家等の啓蒙活動というのは非常に重要だと思っております。専門家等にも御参加いただきまして、啓蒙活動を進めていきたいと思います。
 海外連携についてです。海外連携は、基本的には各研究者個人の取組は非常に重要だと思っておりますが、その前に、GteX全体でPD、POの主導の下に、各国・機関と連携枠組みの構築を行っていきたいと思っております。実際、ALCA-SPRINGでも、今週末にDOEとのワークショップを実施する予定ですが、例えばDOE、また蓄電池関係であれば、Faraday Institutionといった機関と、PD、POとの主導の下で連携を進めていきたい。その上で、各チーム研究の中でいろんな海外ネットワークの構築等を支援するような運営をしていきたいと思っております。
 若手育成の件ですが、JSTの事業、さきがけ等の事業の中で若手のイベント等を進めており、そういうことももちろん行いますが、このGteXチーム型研究の中で、この若手の立ち位置が分かるように、自分が単に一つの実験をやっているだけではなくてチーム全体の重要なところを任されているというような状況をつくり出すことが重要だろうという指摘がございました。自らがチーム型の重要な要になっているという認識を持っていただくことが大事ではないかと。また、博士課程の学生だけではなくて、裾野を広げるという意味でも修士課程の学生の巻き込みも重要だという御意見もいただいております。下にも書いてありますが、チームリーダーも行っていきたいと考えております。その上でネットワーク構築のような工夫、イベント等を我々は考えていく必要があると思っております。
 また、各領域の有識者からの御意見をいただいております。全ては御紹介いたしませんが、例えば蓄電池は、リチウムイオン電池、あとはALCA-SPRINGでも成果が出て、一部の成果をNEDOに移しております硫化物系全固体電池等、ある程度進んでいる分野でも基礎研究が必要な部分はかなり残っております。そこの要素を整理した上で、既にNEDO等の事業と有機的な連携を進めていく必要があるだろうと。また、ALCA-SPRINGはどちらかというと車載用電池をメインに考えておりましたが、この産業の状況も踏まえまして、エネルギー密度の向上のみに限らず、安全性、軽量化、資源制約フリーなどの様々な視点を社会・産業からの要請を踏まえて、バックキャストの形で募集をしていくということも必要ではないかという御意見をいただいております。また、最後に書いてあります、放射光施設等の大型施設に対する期待もございました。
 水素のほうですが、基本的に中性電解液を用いた水電解というのはより重要だろうと。またオペランド測定がこの段階では必要になってきますし、また、特に最近注目を浴びておりますアニオン交換膜の高耐久化も必要であるという、幾つかゲームチェンジとしての課題が挙げられました。また、特に触媒・電解質、MEA、それぞれの要素がございますが、それを評価していく、共通セルをつくって評価をしていくということも重要になってくる。またそこに当然DXも絡んできます。そのような体制を取っていく、もしくは他事業との連携が必要になってくると考えております。水素貯蔵のほうでは、スーパーハイドライトの展開が非常に注目を浴びております。超高圧のスーパーハイドライド等がありますが、常圧等も踏まえて評価をしていく必要があります。またDが水素の領域でも必要になってきますが、特に水素領域は蓄電池との非常に密接な関係がございます。DXについてもここは横断的に連携をしていくことが必要だろうと思っております。また、どの領域でも言われることですが、アカデミアの自由で斬新な発想を広く公募して、そこから有望なものを拾い上げられるような仕組みにしたい、そういう御意見もございました。
 バイオものづくりになります。アカデミアの期待、産業界の方からいただいた言葉としては、企業では難しい先端技術・基盤技術、また先ほどもお話がありましたハイスループットの話、高度化・ハイスループット化、また様々な計測の統合化というものも、御指摘がございました。
 また、チーム型で今回やるんですが、チーム長としてのオープンマインド、つまり様々な人たちから様々な意見を聞いてうまくまとめていくチームリーダーが必要になってくるだろうと。また、数理情報科学のところでも非常に重要なところを他の分野に限らずこの分野でも指摘がございました。また、特にこの分野も重視するべきだと思いますが、社会科学系(規制、政策、ELSI)の部分がございますが、この点での取組も取り入れていく、また、これも全領域が絡む話ですが、ジェンダーバランスの点も考慮していく必要があるだろうという御意見をいただいております。
 今後の予定ですが、最後の小委員会でも御報告をしたいと思いますが、3月中に研究計画書の素案を作成したいと思います。その後、JSTの中で決定しまして、早い時期に募集を開始したいと思います。以上になります。
【杉山主査】  どうもありがとうございました。
 
4. 総合討議
 
【杉山主査】  ここまで基本方針、それから研究開発方針、そして現在のJSTにおける検討状況につきまして御報告をいただきました。かなりいろいろな話題が入っておりましたので、時間が大分押してしまいましたけれども、これから時間の許す限り先生方から御意見をいただきたいと思っております。
 冒頭に、オープン・クローズ戦略等でかなり議論が盛り上がっていた状況がございまして、また、申し上げましたとおり、今回は各分野の研究開発方針について具体的な素案が出てまいりましたので、いろいろ御意見があることと思います。できるだけ効率的に議論を進めていきたいと思いますので、いつもながらで恐縮ですけれども、御発言はぜひ的を絞って簡潔にいただければありがたく存じます。
 それでは、特に順番は定めませんけれども、いつものように御意見がある方は挙手をいただければと思いますが、いかがでしょうか。
 それでは水無委員、よろしくお願いいたします。
【水無委員】  御説明ありがとうございました。特にバイオものづくりの研究開発方針についてでございます。全体的によくまとまっていると思ったんですけども、3ページのC4以上の長鎖、化学品ですか、そのC4というのを限定してしまうのが適切かどうかというのを少し御確認いただきたいと。と申しますのは、もちろんコスト的には厳しいかもしれませんが、C3、C2でも幾つか対象となるものがあると思いますので、ここで公開されるものにC4と限定してしまうことがいいかどうか。
 それから続けて申しますと、JSTさんにぜひ御検討いただきたいのが、特に特許出願です。これも有効にやっていくと思うんですけども、外国出願についてどのような考え方をするのかと。国内だけだと、なかなか技術をオープンにしてしまうだけになってしまうこともあり得ますので、外国出願についてどのように判断して、何を適切に出願していくのかということについてお考えをお聞きしたいというよりも御検討いただきたいと思います。以上です。
【杉山主査】  ありがとうございます。
 本日、こうした形でかなり具体的な議論が出てくるかと思いますので、ぜひ分野が同じ専門の方々から関連した御意見があれば優先していただきたいと思います。まずC4以上に限るかどうかということにつきまして、もしバイオに造詣が深い委員の方々で何か御意見等がございましたらいただければと思いますが、いかがでしょうか。手を挙げていらっしゃる方がいらっしゃいますので、この件につきましては直接ミュート解除して御発言いただければと思いますが、何かございますか。事務局のほうで、C4について何かお考えはございますか。
【奥(文部科学省ライフサイエンス課)】  先生方の御意見を踏まえて検討させていただきたいと思います。
【杉山主査】  よろしいですか。こちらについては、今後検討ということで。コストの点等も含めて検討していただくと。それからあと、特許出願についてのお考えがございました。特に海外出願についてどう考えていくのかという、こちらはどこまで文科省のほうの方針に書き込むかということもございますけれども、何かこれにつきまして、先生方から御意見等はございますか。もし特許についての御意見がございましたら直接御発言いただければと思いますが、いかがでしょうか。
 こちらはJSTさんは何かコメントはございますか。
【大矢部長】  JSTです。もちろん国内の特許では十分足りずに海外特許を取っていく必要はもちろんございます。JSTもこの出願に対する支援、研究費から例えば出願費用を出せるというようなことができるようになっておりますので、そこの形でうまく支援はしていきたいと思いますし、知財委員会のほうで、そこで海外出願の必要性などもアドバイスできるような体制が構築できればと思っております。以上です。
【杉山主査】  ありがとうございます。これらの点に関しまして、ほかに何か追加でコメント、御意見等はございますか。よろしいですか。では、これにつきましてまたさらに検討していただくということでよろしくお願いいたします。
 次は本郷委員、よろしくお願いいたします。
【本郷委員】  ありがとうございます。私は運営サイドのことで幾つかコメントです。
まず研究開発予算について予算制約がどのくらいあるか、それからまた研究開発の成果が出るまでにどれぐらいの時間軸で考えているか、これに関係する点で2つあります。
 一つは競争環境をどうつくっていくかです。これは前回も申し上げたと思いますけれども、技術開発において同じようなことに対して色々な人たちがアプローチしているわけですので、研究者においても同じではないかと思います。いかに異なる取り組み間で競争をする環境をつくっていくか、これも一つポイントになるんじゃないかと思っております。
 それからもう一つは、同じ技術に対しても様々なアプローチがあるときに、言わば王道的な、リスクは低いけど収益性も低いローリスク・ローリターンの研究開発もハイリスク・ハイリターンの研究開発もあるだろうと思います。予算に十分な余裕があれば、特に時間軸が非常に長ければ将来は分からず不確実性は高いので、ポートフォリオ的なアプローチというものは考えられないのか。この2点であります。
 それからもう一つは、POの資質といいますか要件が書かれていました。そこで私の限られた経験の中では、POにおいても調整型の方と、それからかなり強い自己主張を持って引っ張っていく方がいらっしゃいます。今回の場合どういうタイプを望ましいと考えていくのか。特に今回は比較的長いところで、いろんなリスクが、不確実性があるというところなので、もしかすると調整型の方、色々な人の意見を考えながらというところが重要になってくるのかという気がいたします。
 そして実際に運営していく中では、説明の中に書かれていましたけども、代替技術や競合技術と比較しながら、自分たちが今やっていることの現在地を確認していくというやり方も大事じゃないかという気がいたします。
またオールジャパンという気持ちはすごくよく分かるんですけども、それにあまりにも固執し過ぎないようにしていただきたいと思っております。以上です。
【杉山主査】  ありがとうございます。2つ論点がございました。まず、予算の制約等については、もし必要であれば事務局から言っていただくとして、数プレーヤーを入れて、ある意味競争型の探索というのを、特に長期課題についてはどのぐらい取り入れていくのかという観点。それからPOの資質ですね。恐らく、今回の研究開発方針あるいは基本方針にどこまで書き込むかという観点と、それから運用上どうしていくのか、つまりJSTとも相談しながらという観点と両方あるかと思いますが、まずは1番目の数プレーヤーでどのぐらい競争させるのかという、まとめ過ぎかもしれませんけれども、この観点につきまして何か委員から御意見ございましたら承りたいと思いますが、いかがでしょうか。小川先生、何かございますか。
【小川氏(東京大学)】  数プレーヤーを入れた競争型の探索に関する体系的な調査研究はあまりございませんが、アメリカが国家プロジェクトでオープンイノベーションをはじめた1990年代から2000年代の初期まで、プロジェクトに成功したケースと成功しなかったケースを分析した結果が報告されています。それによりますと、バリューチェーン間で、つまりお互いに技術的に協業してWin-Winになるような競争環境のプロジェクトでは、その産業の輸出競争力が高まっていました。お互いにその前後のバリューチェーンで協業できるような、刺激し合うように参加企業が配置されたプロジェクトでなら成功する可能性が高いのです。類似の結果が2000年代のNEDOプロジェクトでも観察されています。
【杉山主査】  ありがとうございます。どうぞ。
【小川氏(東京大学)】  競合企業を同じセグメントに集める厳しい競争環境のケースでは、むしろ輸出競争力が弱くなるようです。競争が激しく協業が起き難いからではないでしょうか。
【杉山主査】  参考になる御意見、どうもありがとうございました。ほかに何か本件についてございますか。よろしいでしょうか。恐らく、運用上いろいろと考えているところが多いということかと思いますけど、何か文科省あるいはJSTのほうで御意見ございますか。
【吉元(事務局)】  そのハイリスクとか、ノーリスクで可能性は高いといったところの考え方ですけれども、今回はGteXのほうで、約5年間で500億ということで用意させていただいていて、その中で先ほど御説明しましたとおり、短期・中期・長期ということで、ある種、間尺が違うものを複層的に組み合せながら、この研究開発を進めていきたいとは考えています。
 あとPOのところで調整型かという話がありましたけど、この基本方針のほうでもいろいろ、POの資質ということで書かせていただいていますけど、色々なスキルが要求されていますので、POプラス、それを補佐するようなアドバイザーみたいなところで、うまくマネジメントのほうもチームを組んでいくことが大事かと考えています。
【杉山主査】  吉元さんもありがとうございました。この2番目のPOについて、何かほかに御注文といいますか、こうあるべきだという御意見はございますか。よろしいですか。
 それでは、今の観点をどこまで基本方針あるいは研究開発方針に書き込むかということを含めて、御意見を参考に今後さらに検討して、次の回に案がさらにブラッシュアップして提示できればと思っております。ありがとうございます。
 続きまして、森先生、よろしくお願いいたします。
【森主査代理】  ありがとうございます。2つございます。
1つは、中長期プロジェクトの中でDXに関しまして、一杉先生がすばらしいお話をしてくださったんですけど、自律・自動装置での出てくるDXと、あと小川様から御説明があった産業プラットフォームあるいはコンソーシアムでのオープン・クローズ戦略というところをつなぐような視野があってもいいのではないかと感じましたということが一つです。どういうことかというと、一杉様の自律・自動装置というのは、例えば今日は電池の話だったんですけど、構造とか電子イオン状態、それから電子状態ということの測定に関しては、多分非常にオプティマイズされた装置だと思います。それと同じような問題意識を持っていて、使いたい産業の方もいらっしゃる中で、それをどういうふうに一緒にやっていくことによって、データを先ほど小川様が言われたようにオープン・クローズ戦略をもって共有するということができれば、蓄電でも水素でもバイオでも非常に進むのかと感じております。ですので、この2つのアイデアがつなぐような中長期視野がいいのかと。私はレーザー加工で見たことがあって、そういうことがまさに企業のプラットフォームの中でデータを共有する、それも自律・自動装置を使ってという例はなきにしもあらずで、そういうことがGteXもできれば、そういう視野を持てれば、非常にぐっと研究が進むのかと思ったのが一つです。
 2つ目が共用設備の話です。共用設備に関しまして、利用するということは大賛成で、大型装置、中性子放射光、それからDXなどをやるという中で、大型装置ばかりではなくて、とがったスモールスケールの装置の整備というのも共用として重要ではないかということを考えていただきたいということです。例えば先ほど水素貯蔵という話がありましたけど、水素貯蔵に関しましては、もちろん大型のところは中性子放射光、DXなどを使うんですけれど、とがったスモールスケールでは、必ずNMRとか分光とかラマンとか、そういうものを使うんですが、貯蔵になると、やはり外場として圧力というのが必要になったり光というのが必要になったり、電場というのが必要になったりするわけで、そういうとがった装置というのが水素貯蔵のところでは共用設備で、スモールスケールでもあるということがとても重要で、大型からそういうようなとがったスモールスケールの装置まで含めて共用設備ということを広げてはいかがかというのが意見です。以上です。
【杉山主査】  森委員、大変ありがとうございます。非常に建設的な御意見だと思いまして、まず、1番目の論点です。DX、特には本日お話がありました自動実験、それによって自動的にデータが、系統的に質がいいものがたまるということと、それとオープン・クローズ戦略がうまく融合できるのではないかという、特にそれを中長期的に展開していってはどうかという。これはまさに方針にキーワードとして盛り込んでいただくと非常に方向性がうまく入ってくるのかと思いますが、ぜひこれは事務局のほうでも御検討いただければと思います。
 それから2番目の論点も非常に私も重要かと思いまして、共用装置につきまして、まさにおっしゃったとおり、大型装置はもとより、とがった、あるいは先進的な、場合によっては将来的に1ラボでもまかなうことができるかもしれないけれども、この時点において、まだ1ラボで大きく展開するには予算的にも、あまりにも踏ん切りがつきにくいというところもあるので、どこか共用施設の展開する場所、あるいは1つのラボが展開したときに、それを皆さんで共用して、まずはその装置のフィージビリティ等を見ていこうではないかという、そういう展開も非常に共用としては重要なアプローチかと思いました。ありがとうございます。
【森主査代理】  将来の展開に続けるということで。どうもありがとうございます。
【杉山主査】  こちらも多分大型のところに何かもう一言加えていただくことといったことで、十分対応可能な論点かとは思いました。何か今の森先生の御提案に関しまして、追加あるいは御意見等はございますか。
【小川氏(東京大学)】  小川です。今の御指摘は非常に重要なことだと思います。一杉先生の取組は、100年前の本多光太郎以来の材料に関わる研究開発イノベーションであり、その本質は、大学の研究室や企業の研究室の中での、いわゆるプロセスインフォマティクス(PI)のような概念ではないかと思います。一方、私が今日の小委員会私が申し上げたのは、それぞれの研究室や企業をデータ経由のネットワークで繋ぐプラットフォーム型の研究開発イノベーションです。したがって、両方は互いに補完的であり、System of Systemsの姿で同期しながら成果を挙げられるのではないかと思います。
【杉山主査】  ありがとうございます。確かに一杉先生は自宅から実験できる設備ということで展開されておりましたので、ぜひ、そういう方向性が少し文言の中でも入ってくると。つまりサイバーとフィジカルが実験プラットフォームでも融合していくというか、そういう概念が入ってくるとよろしいかと思いました。森先生、大変ありがとうございました。
 続きまして、石内委員、お願いできますか。
【石内委員】  石内でございます。森委員の御発言と関係がございますけども、共通基盤・共用設備についてのコメントでございます。今回の計画書で共用設備・共通基盤について触れられたのは非常によろしいと思いますが、これが実際に広く使われるとなると、今度はその共通基盤を維持するために、多分専任のスタッフとか専用の予算が必要になってくるかと思います。この点についても、実際の計画を立ち上げて、つくっていく上で、費用の予算化と、あと人員の確保を併せて考えていただけることが非常に大事じゃないかと思います。
 今日のお話で、自動・自律実験のお話がございましたけれども、こういうインフラができてきますと、深夜にも24時間、土曜日、日曜日も稼働できるということになるかと思いますけども、故障したときに誰がそれを保守するのかというのが実際に多分問題になってくると思いますので、この点も踏まえて計画をつくっていただけると非常によいプロジェクトになるんじゃないかと思いました。私からのコメントは以上でございます。
【杉山主査】  大変貴重な御意見をありがとうございます。こちらもどちらかと言いますと運用上といいますか、方針を定めた後での、どのようなプロジェクト採択、予算づけをしていくのかという際に御留意いただければいいかと思いますが、よろしいでしょうか。
 ありがとうございます。事務局のほうはうなずいておりますので。
 それでは、次に御意見を伺いたいと思います。佐々木先生、よろしくお願いいたします。
【佐々木委員】  佐々木です。まずは研究開発方針、全体も含めてですけども、とてもよくまとまっていると思います。基本的に賛同させていただきます。その上で3点コメントさせていただきます。私のほうは専門に近い水素のほうの研究開発方針の書類を見ながら発言させていただきますけれども、ほかの領域でも類似のことがあるのかと思います。
 まず、1つ目が、短期・中期・長期でバランスよくこの事業をやっていくということは非常にいいことだと思います。他方、NEDOさんのほうは特に短期を中心にかなりメニューも充実しておりますので、今後ともNEDOの事業との役割分担、それから調整をうまくしていただくというのが大事なポイントだと思います。
 それから2点目は、この事業全体に関わりますが、チームをどううまくつくるかというところが非常に大事なポイントではないかと改めて感じます。ですので、これは多分公募要領をつくるところから大事なところになると思うんですけども、多様な研究者が応募できるような公募要領をつくっていただいて、いかにうまく多様なチームをつくっていただくように工夫をしていただければと思います。JSTさんはさきがけというすばらしい事業の経験をお持ちですので、そういう多様性を持ったチームをつくるということで、ぜひJSTさんのほうで御尽力いただきたいと思います。
 それから最後3点目でございますけれども、失敗したデータの共有というのもこれは大事だと思います。国プロというと、えてしてうまくいったことをアピールするのが中心になりがちですけれども、アカデミア主導の事業の中で課題を抽出すると、さらにうまくいかなかったこともある意味で成果として出すということは、文科省の事業としては胸を張れるのかと考えます。他方、応募する研究者の立場から見ますと、失敗したデータというのは、次の成長への芽とか、次のまさに成果を出す宝物でもございますので、未発表データまでは強制的に出させるようなことはせずに、うまくそのバランスを取っていただいて、まさに今日オープンとクローズの議論がありましたけれども、うまくバランスを取っていただければと思いました。私からは以上でございます。
【杉山主査】  佐々木先生、大変重要な論点をありがとうございます。まずAの短期的なところにつきましては、ぜひNEDOとの分担調整はこれからもしっかりやりましょうということで、多分にJSTさんのほうの運用にかかるかと思っておりますが、これは特に問題ないですよね。JSTさんもそういう方向でよろしいですよね。
【大矢部長】  はい。
【杉山主査】  ありがとうございます。
 次に、2つ目の御指摘でございます。チームづくりの重要性、特に多様な研究者がどう取り組んでいくのかということに関しましては、この基本方針・研究開発方針の中で、場合によってはそういう多様な研究者というようなところをキーワードとして入れておくという観点もあり得るかとは思いますので、こちらは、どこまで文科省の方針に書いて、どこまでが公募要領に書くのかというあたりを事務局のほうで調整いただければと思っております。
 あと、最後の失敗データの共有です。そこにオープン・クローズ戦略あるいはデータマネジメントプランがどう関わってくるのかというのも、これも非常に重要でありまして、恐らくはデータマネジメントプランが出てくるのは主に公募要領のほうに近いのかという気はしますけれども、ぜひ失敗データをどの範囲で公表するのかといったところ、あるいは、逆にいうと公表すべきところはしっかりエンカレッジするというようなことで書き込んでいただく。書き込む意味はこの文科省の方針に書き込むのか、JSTのほうの公募要領に書き込むのかは別にして、どこかにそういうことをうたっていただくのがよろしいかと思いますが、今の点に関しまして、何か委員の方々から御意見あるいは追加等ございますか。事務局もよろしいですか。それでは、佐々木先生どうもありがとうございました。
【佐々木委員】  ありがとうございました。
【杉山主査】  続きまして、菅野委員、よろしくお願いいたします。
【菅野委員】  研究開発方針に関してコメントです。大変よくまとめていただきまして、ありがとうございます。私の専門に近い蓄電池に関して、3点意見を申し上げさせていただきたいと思います。
時間的な振り分けでA・B・Cという短期・中期・長期ということに関して、まず、AとBとの振り分けに関してです。蓄電池の場合、短期がリチウムイオン電池、固体電池、中期には酸化物という、個々の例示があります。この短期が時間軸としての3年―5年になっています。3−5年後に出口であるNEDOや企業に引き渡した課題であっても、引き継げなかった部分でかつ重要な課題も当然出てきます。振り分けで引き継げない部分に関して、より長期的な課題に移行するという道筋が当然あってよいと思います。
 というのは、例えば現在主流となっているリチウムイオン電池でも、さらに定常的な技術開発が必要と言われています。今、課題となっています金属リチウム、合金シリコン系などは、リチウムイオン電池が実用化される前に一応試みられて、当時は採用されなかった研究課題になります。それが再度重要課題として出ています。諸外国でキャッチアップする場合には、我々が最初の実用化の際に取り上げなかったところを進めて、次のステップに行くというのが大変やりやすい研究技術開発のやり方です。したがって、そこを何とかサポートするようなAとBとの振り分けについて検討をする仕組みが必要です。
 Cの長期的な課題、確かに大変チャレンジングで意欲的です。これまでALCA-SPRINGで10年やってチャレンジングであるということが分かっています。ということは、もう一度、何か要素に分けて考え直す必要があります。DXなり、研究手法、探索手法の開拓ということと組み合わせると、何らかの別のやり方が考えられるのではないでしょうか。この長期の課題については、一工夫、二工夫が必要かと思います。
3点目、企業との連携が必要であると、企業・アカデミアの得意とするところをうまくとり入れるということに関して、非常によくまとめていただきました。ありがとうございます。しかし、今日の御報告にもありましたけど、企業のオープン・クローズ戦略と関係するので、非常に難しいということも理解しています。何とかクリアするような文科省側の文章になれば大変良いと思います。以上です。
【杉山主査】  大変ありがとうございます。3ついただきましたけれども、まず1つ目の点は、蓄電池に限らずほかでも重要かと。特に蓄電池は研究開発は今までのALCA-SPRING、あるいはそれ以前も含めて長く行われてきていますので、そうした歴史も踏まえた御指摘で非常に重要な観点かと思います。すなわち、短期的課題で必ずしも橋渡しできなかったものに関して、十分精査をした上で、さらに追求する、あるいはもう一息新たなアプローチがあれば次につながるのではないかというものについては、中期・長期課題にうまく引き継いでいくというような、そういう仕組みを導入できないかという観点かと思います。こちらに関しましては、ぜひ事務局のほうでうまく文言の調整等を図っていただいて、そういう観点を入れていただくのがよろしいかと思います。もちろん漏れたら全部次に持っていくという話ではなくて、そこをしっかりと検討した上で、ということであるかと思います。ありがとうございます。
 それから、次の長期課題についても確かにおっしゃるとおりで、既に難しいと言われているものなので、これをさらにやっていくには新しい観点が必要であろうと。これもまたおっしゃるとおりだと思いますので、こちらにつきましても、具体的にこのテーマということではなく、まさにおっしゃったとおりDXの組合せ等によって新たなアプローチを展開することにより、というような文言等の調整をしていただいて、テーマ採択の際に、あるいは募集要項等の際にそれが反映できるような形で追加修正していくのが適切かと考えました。
 ここまでのところ、まず2つの点について、委員の先生方でほかに追加あるいは御意見等ございますか。よろしいですか。では、ぜひこちらは事務局のほうで御検討いただければと思います。
 それから、最後の企業とのコミュニケーションですね。確かに本日のオープン・クローズ戦略で非常に重要なポイントとして抽出されておりまして、難しいというのがあるわけですけれども、これに関しては、先ほど特許の件も出ておりましたし、ぜひ企業との間でうまくコミュニケーションを取って、すなわち企業さんが知見の出し渋りをしないとか、そうしたところを何とか担保できるような、そういう文言をもう一息、もし不十分であれば考えていただくというところが必要かと思いましたが、これにつきまして、何かございますか。よろしいですか。
 吉元さん、お願いします。
【吉元(事務局)】  事務局です。基本方針のほうでも、チームは柔軟に見直すということと、あとステージゲート評価、これは3年目と5年目というのは明示的に書かせていただいていて、そういったことをうまく活用しながら、ただ、そこでもう終わりになるということは前提とせず、うまく機動的にやっていければということ。もう1回全体の文言を見直した上で検討させていただければと思います。
【杉山主査】  ありがとうございます。では、そうした形で今いただいた観点をもう一度、基本方針あるいは研究開発方針にうまく反映できるような形で事務局を中心に検討していきたいと思います。ありがとうございました。
 それでは、志満津先生、よろしくお願いいたします。
【志満津委員】  志満津です。お時間もないので1点だけ。一杉先生の材料合成のDXに関してですが、自動化したとしても最適な順番とかデータ判断の部分に対して、どう回すかというのはポイントになると思います。森先生もおっしゃっていたように、世界にあるビッグデータベースとか論文知みたいなものとのリンクによって判断を加速するとか、情報を整理するということが非常に重要になってくると思います。オープン・クローズの戦略の中で、この点に関してもすごくデータの取扱いが難しいと思うんですが、国レベルで判断していくという意味ではこういった取組がされると、より材料のDXが加速するんじゃないかと考えていますので、御検討いただければと思います。
 ほかの案件については、メールでお送りします。以上です。
【杉山主査】  時間が押しまして、大変恐縮でございます。せっかく一杉先生がいらっしゃいますので、今の志満津委員からいただきました、次のアクションを決める際に、実験データだけではなくて論文データ等もうまくミックスして、機械学習等も踏まえた上での方向を決めていくことについていかがでしょうかという御質問だったかと思いますので、コメントいただければと思います。
【一杉氏(東京大学・東京工業大学)】  すごく重要なポイントを御指摘いただき、ありがとうございます。文献のデータ、人間が蓄積したデータも最大限活用していくべきだと思います。自然言語処理技術の進展も著しいです。今、志満津さんからの御指摘の背景には、おそらく、人間がしっかりと判断するという観点が入っているのかと推察します。実際に私は、その点も非常に重要だと思っております。自動・自律実験システムを運用して成果を出すには、研究者の五感を使って得た勘・コツ・経験が非常に重要です。デジタルの時代になっても研究者の五感を使った研究は非常に重要なので、文献・データ、そして人間の五感をフルに活用して、自動・自律実験システムを運用することが極めて重要だというのが実感です。
【杉山主査】  ありがとうございます。また、志満津委員のお話にもありましたとおり、そういう文献データ等を活用するなどすれば、その活用のプラットフォーム、具体的には文献を機械的にものすごくたくさんダウンロードしたらすごいお金かかるとか、そういうようなこともありますので、そうしたところの実効性をどう、このプロジェクトとして担保していくのかというようなところは、ぜひJSTも含めたプロジェクトの運用側の議論の中で検討いただければと思いますが、こちらについて何かございますか。事務局も含めて。よろしいですか。それでは、志満津委員、大変貴重な御意見ありがとうございました。
【志満津委員】  はい、よろしくお願いします。
【杉山主査】  よろしくお願いいたします。
 まだ御発言いただいていない委員がかなりいらっしゃるんですけれども、時間との兼ね合いで非常に厳しいところではございますが、主にこの研究開発方針をこうしたほうがいいのではないかというような、あるいは基本方針に関してもですけど、フィードバックがございましたら、まずは大変恐縮ですがメールでいただければ、鋭意私も含めて検討させていただきたいと考えております。例えばこのテーマについてここにこう書いてあるのはどうかというような、皆さんで議論したいというようなことがもしあれば、残り時間は非常に少ないですけども、御提議いただければと思いますが、何かございますか。すなわち、全員で少し議論したほうがいいような案件がもし残っておりましたら、御指摘いただければということでございますが、よろしいですか。
 それでは、発言の時間は用意できなかった先生方、大変申し訳ございませんでした。先ほど申し上げましたとおり、ぜひ後ほどメールで補足の御意見をいただければと思っております。よろしくお願いいたします。
 本日予定していた議題は以上で終了といたします。最後に事務局からの事務連絡をよろしくお願いいたします。
【吉元(事務局)】  本日の議事録は、後日事務局よりメールで委員の皆様にお諮りした後、文部科学省のホームページに公表をさせていただきます。
 また、本日お時間の都合で御発言ができなかった意見等については、今週末の金曜日までに事務局までメールにて御送付いただければありがたいです。
 次回の委員会は3月30日木曜日を予定しております。次回は、まだ確定はしていませんが、恐らく基本方針・研究開発方針を、また今日のご意見を踏まえたものを御説明いたしまして、あとJSTのほうの計画の素案をJSTから説明をしていただいて、特段情報提供はなしで、ほぼほぼ総合討論を予定していますので、今日御意見を承れなかった委員の皆様におかれましては、また次回の機会において、ぜひ色々御示唆いただければと思っております。事務局からは以上です。
【杉山主査】  どうも吉元さん、ありがとうございました。
 ではこれをもちまして、本日の環境エネルギー科学技術委員会革新的GX技術開発小委員会の第4回会合を閉会いたします。引き続き第5回もよろしくお願いいたします。
 本日はどうもありがとうございました。
 
―― 了 ――

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