脳科学作業部会(第10回)議事録

1.日時

令和8年5月25日(月曜日)14時00分~15時30分

2.場所

WEB開催

3.出席者

委員

風間主査、坂内主査代理、渡部主査代理、磯部委員、大武委員、梶井委員、小板橋委員、鈴木(大)委員、鈴木(貴)委員、中山委員、前川委員、牧之段委員、松本委員

外部有識者

辻 真博(科学技術振興機構研究開発センター フェロー ライフサイエンス・臨床医学ユニット)、岡部 繁男(理化学研究所脳神経科学研究センター  センター長)

文部科学省

菊地ライフサイエンス課課長補佐

4.議事録

【菊地課長補佐】  定刻になりましたので、ただいまより第10回脳科学作業部会を開会いたします。御多忙のところをお集まりいただき、ありがとうございます。
 本日は、ウェブ会議システムによる開催とし、報道関係者と一般の方々にも傍聴いただいておりますので、あらかじめ御了解いただきますよう、お願い申し上げます。
 本日は、委員13名全員に出席をいただいているため、運営規則第3条に規定されている、定足数である過半数に達していることを御報告いたします。
 次に、ウェブ会議システムの留意事項でございます。会議の円滑な運営のため、通常はマイクとビデオをオフにしていただき、委員の先生方におかれましては、質疑応答の時間になりましたら、ビデオをオンにしてください。御発言される際には、「挙手ボタン」を押していただき、主査が発言者を指名いたしますので、その後、マイクをオンにしてくださいますよう、お願いいたします。システムの不備等が発生しましたら、随時、お知らせくださいますよう、よろしくお願いいたします。ウェブ会議システムの音声が切れてしまった場合には、事務局より、事前にいただいておりますお電話番号に御連絡させていただきます。
 続きまして、本日の配付資料の確認をさせていただきます。今回は、議事次第にございます8点の配付資料を委員及び傍聴登録をされた方に事前送付させていただいております。
 それでは、これから議事に入らせていただきますが、運営規則第4条に基づき、本会は公開とさせていただきます。また、第5条に基づき、本日の議事録につきましても、後ほど文部科学省のホームページに掲載させていただきます。
 事務局からは、以上です。
 ここからは、風間主査に議事の進行をお願いします。
【風間主査】  それでは、これより議事に入ります。一つ目の議題は、脳神経科学統合プログラムの現状についてです。
 事務局から説明をお願いします。
【菊地課長補佐】  事務局でございます。資料1を御覧ください。
 まず、「脳神経科学統合プログラム」の全体の概要図でございます。令和8年度予算額は67億円で、国会審議も通過してございます。前年度予算額65億円と比較して、2億円の増額となってございます。その下にございます令和7年度補正予算額につきましては、2億円の金額が措置されてございます。
 この概要、ポンチ絵について少し注目しておいていただきたいのは、議題(3)にも出てきます、「デジタル空間上で再現する脳モデル開発・研究基盤(デジタル脳)の構築」という部分、ここに「デジタル脳」という表現が出てきてございます。また、下の模式図のところでございますが、下の黄色の帯のところにも、「デジタル脳」という言葉が出てきてございます。基礎研究、疾患基礎研究、創薬及び治療法・診断法開発研究、全体にまたがるような形でデジタル脳が位置されているということが、この図では暗に示されてございます。また、左側、「相互連携」という円の部分がございますが、ここに「中核拠点」という部分がございます。中核拠点が、これらデジタル脳の取組も含めて全体で、相互連携をしていくという形になってございます。
 一枚めくっていただきますと、中核拠点の概要図が出てきます。この概要図で少し見ておいていただきたいのは、右側、研究体制の部分でございます。研究体制の真ん中に位置するところに、「デジタル脳開発」という形で丸囲みがされてございます。当初、この中核拠点を起こしたときの段階からも、「全てのグループとの連携によって」とございますとおり、いろいろなところと矢印でつながってございます。中核拠点においても、デジタル脳はこういった形で中心的な役割を果たしていくということを御承知おきいただければと思います。
 また、脳神経科学統合プログラムの全体の、これまでの変遷、移り変わりについて、御説明をさせていただきます。平成25年当時、「脳プロ」と呼ばれる形から始まった「脳神経科学統合プログラム」ですが、「革新脳」ですとか「国際脳」、こういった形に少しずつ移り変わりまして、いろいろな事業が並行して走っていた時代がございました。令和3年当時、それが「脳とこころの研究推進プログラム」という形に大くくり化されました。さらに、令和6年、現在の「脳神経科学統合プログラム」という形に、さらに一体的な形となって推進してきたという経緯がございます。
 そういう中で、「脳とこころの研究推進プログラム」と呼称されていた令和5年8月のときの研究計画・評価分科会で、中間評価をいただいています。ここに経緯が書かれてございますが、当時、「本事業の必要性、有効性、効率性は十分にあり、継続すべき」と評価されてございます。中間とりまとめにもございますとおり、「疾患の診断・治療等に関する研究の進展もみられる」ということ、また、「効果的に活用するための研究環境を新たに整備し、神経疾患・精神疾患の診断・治療等へ貢献するための研究を推進する」ということが、中間とりまとめでも記載されてございます。
 さらに、1枚めくっていただくと、ここも再掲になりますが、「見直しにより、様々な研究グループが一体的にプロジェクトを進めることで効率的に研究が推進できるものと期待できる。事業の必要性、有効性、効率性は十分にあり、継続すべき」という形で、中間評価をいただきました。
 ここにある「様々な研究グループが一体的にプロジェクトを進める」という部分についてでございますが、1枚めくっていただくと分かるとおり、これは、2年前、本作業部会で掲示されている資料の再掲でございますが、右側の赤枠の部分を見ていただくと分かるとおり、中核拠点での6年後の全体目標の具体例として、「脳データ統合プラットフォーム(デジタル脳)の開発と運用:脳の解剖学・生理学データを統合し数理モデルとして再構築し、ヒト脳特定機能や病理を再現するためのプラットフォームを開発。具体的には、多様なデータを統合しモデル構築とシミュレーションを行うデジタル脳構築ソフトウエアの公開、それを脳データベースと連携してクラウド上でモデリングとシミュレーションを可能にする脳データ統合プラットフォームのオンライン運用」を挙げてございます。
 さらに、1枚めくっていただくと、その具体的な形を絵に落としたものが掲載されてございます。ここでも、見ていただくと分かるとおり、6年後の目標/成果として、脳データ総合プラットフォームを整備していくということですとか、脳統合データベースも整備していくということ、こういったものが2年前の資料としても掲げられていました。
 さらに、1枚めくっていただくと、新たに提示された5課題の研究体制、2年前から直近にかけてデジタル脳についてどのような取組を行ってきたかといいますと、ここに書かれているとおり、この五つの課題について取組を進めてきているというものでございます。こちらは議題(3)のほうで詳しく説明いただくことになりますので、具体的な話は議題(3)のほうに回わさせていただきたいと思います。こういった、2年前から少しずつ取組を進めてきて、今はこの5課題の取組を進めているという状況でございます。
 さらに、1枚めくっていただくと、参考に入っていきますが、最初に、令和7年度補正予算額、2億円がついているということを御紹介させていただきました。このページでは、右肩のところには3億円というふうに書かれていますが、左下の赤枠の部分に「脳神経科学統合プログラム 2億円」という形になってございます。主に、フリーザーですとか、スライドスキャナ、サーバーといった、研究設備の購入費用の予算として措置されてございます。日本ブレインバンクネットに参画していただいている全国の研究機関に対して、この2億円が少しずつ配分され、研究設備を整備しているという状況でございます。なお、令和7年度末までに全ての予算の執行が完了して、全国の研究機関に設備を配備済みであるということは、確認できております。
 また、1枚めくっていただくと、前年度に比べて少し予算が増えましたということも、御紹介させていただきました。もう既に公募は締め切っている状況ですが、現在、新規課題の書面審査を進めているところでございます。ヒアリング審査を経て、順調にいけば、9月上旬から新たに研究課題をスタートさせていくということを予定しています。領域2で2課題、領域4で3課題、合計5課題の新規課題の採択に向けて、今、手続を進めているところでございます。こういった新たな課題も交えまして、「脳神経科学統合プログラム」を一体となって推進していくという状況でございます。
 また、1枚めくっていただくと、ブレインテックの動向についてというページも掲載させていただいてございます。
 さらに1枚めくっていただくと、ここにもブレインテックに関する先端技術ということで、我々は「Kプロ」というふうに略称で呼称しておりますが、「経済安全保障重要技術育成プログラム」という、「脳神経科学統合プログラム」とは別のメニューになりますが、その中でブレインテックについては推進されている状況でございます。認知症や鬱病など、脳が関連する疾患の早期診断・治療や、身体機能の補佐・拡張、災害派遣時の対応における心理状態のリアルタイム把握等に応用が期待されるということで、「経済安全保障重要技術育成プログラム」のほうで、9課題、最大45億円程度という形で取組が進められているという状況でございます。
 資料1につきましては、「脳神経科学統合プログラム」、前回作業部会から約1年間の間でどういった取組が進められてきたのか、情報共有のアップデートさせていただきました。
 資料1については、雑駁ですが、説明は以上となります。
【風間主査】  ありがとうございました。
 それでは、ただいまの説明内容について、御意見、御質問がありましたら、お願いいたします。
 私から1点質問させていただきたいのですけれども、こちらはKプロと脳神経科学統合プログラムの連携みたいな議論というのはされているのでしょうか。
【菊地課長補佐】  ありがとうございます。Kプロと「脳神経科学統合プログラム」の具体的な取組という意味合いで言えば、現在のところは進められてはございません。ただ、おっしゃるように、QOLの向上という意味で言いますと、「脳神経科学統合プログラム」も、今は基礎研究の段階ではありますが、最終的には、そういった人々のQOLの向上に資する取組につなげていくという意味合いもございますし、ここに参画していただいている研究者の方々は、「脳神経科学統合プログラム」のほうでも参画していただいている方々もいらっしゃいます。そういった意味で、完全に切り離して無関係ということではなくて、表向きな形での一体的なということではないですが、一緒に、一体的になって進めていきたいという状況でございます。
 以上でございます。
【風間主査】  ありがとうございます。
 ほか、いかがですか。よろしいでしょうか。
 それでは、次の議題に移りたいと思います。議題(2)は、ライフサイエンス分野に関する国内外の政策動向です。
 事務局より御説明をお願いいたします。
【菊地課長補佐】  事務局でございます。続きまして、資料2-1を御覧ください。ライフサイエンス分野に関する国内外の政策動向でございます。ここでは主に、政府部内の動き、ライフサイエンスに係る直近の情報を共有させていただき、アップデートさせていただくというものでございます。
 直近の動きで言うと、特に目立った動きがあったのは、昨年の秋口に日本成長戦略会議という政府部内で開催された会議がございまして、17の戦略分野における官民連携での危機管理投資・成長投資の促進という中で、我々ライフサイエンスに関する取組としては、マル11番、黄色の枠で囲っておりますが、創薬・先端医療というものの取組が主に話し合われてございます。
 1枚めくっていただくと、日本・世界の人々への医薬品アクセス確保ということで、こういった形のものが検討スコープに入ってございます。感染症対応製品の確保ですとか、バイオ技術関連製品の国産化、ファーストインフラ製品・ベストインクラス製品の創出という、こういったものが一体となって検討スコープとして話し合われてきてございます。
 また、政府部内の成長戦略会議の下にワーキンググループが設置され、そこで同じように有識者の方々の御意見をいただきながら、議論を進めてきてございます。その中で、ロードマップのような、方向性という、こういったペーパーが示されてございます。講じるべき施策としては、実用化を担う人材の育成・流動化ですとか、スタートアップ等への投資を呼び込み、基礎研究力・治験実施体制の更なる強化、AI・データ利活用による研究開発プロセスの高度化・効率化といったものが掲げられており、目指すべき姿としては、世界直行型の開発、海外市場の獲得という形で、目標が掲げられているという状況でございます。
 また、さらに1枚めくっていただくと、AI for Scienceに関する取組も大きく動きました。AI基本法ですとか、閣議決定というような形も踏まえ、我々文部科学省のほうでは、AI for Scienceによる科学の再興ということで、1枚めくっていただくと、基本的な戦略方針というものを策定しております。いろいろ書かれておりますが、左下の三角の部分の模式図を見ていただくと分かりやすいように、世界を先導する科学研究成果の創出ということで、トップの部分をしっかり伸ばしていきましょうという取組。そして、AI for Scienceの波及・振興による科学研究力の底上げということで、裾野の広げていきましょうという取組。トップも伸ばしても裾野広げていくということで、AI for Scienceに係る研究開発の取組の厚みを増していこうというのが、今回の戦略方針として掲げられているものでございます。
 また、1枚めくっていただくと、AI for Scienceで変わるライフ・イノベーションということで、近い将来、こういったことができるといいですよねということで、模式図的に示させていただいているものもございます。
 また、さらに1枚めくっていただくと、研究の分野においては、アプリケーションの開発ですとか、AIモデル(LLM、科学基盤モデル)の構築ですとか、こういったものもAIの取組としてうまく一体的に推進できればいいよねということで、こういった具体的な目標例を掲げてございます。
 こういった具体的な取組をどのような形で進めていっているのかと申しますと、「AI for Scienceによる科学研究革新プログラム」ということで、プロジェクト型のARiSEという取組と、チャレンジ型のSPReADという、こういった二つの公募事業で展開してございます。
 もう1枚めくっていただくとフライヤーのような形のものが出てきますが、第1回の公募は4月17日から5月18日で一旦締め切られてございますけど、第2回は令和8年6月上旬を予定してございます。ARiSE、SPReADという、こういった取組をしっかり推進していきたいというところが、現状でございます。
 ARiSEのほうの取組でございますが、補正予算として320億円が計上されてございます。戦略ターゲット型ですとか、国際・融合型、こういった部分を伸ばしていくというもの。
 また、その後には、AI for Scienceに関する国際動向ということで、参考資料を掲示させていただいています。今回、デジタル脳に関する取組ということもありますので、そういった国内外に関する成長戦略の動きですとか、あと、AIに係る動向といったものも踏まえて、一体的に進めていければなというふうなことで掲示させていただいているものでございます。
 駆け足になりましたが、資料2-1については、以上でございます。
【風間主査】  ありがとうございました。
 続いて、科学技術振興機構研究開発戦略センターより、辻フェローに出席いただいております。
 辻フェロー、よろしくお願いします。
【辻フェロー】  よろしくお願いします。JSTの辻のほうから、海外の主な脳研究プロジェクトの動向と展望というところで、10分程度でお話しさせていただきたいと考えております。
 まず、俯瞰図でございまして、ライフサイエンス分野は非常に幅広い分野でございますが、その中で脳科学に関するものを赤線で囲っております。
 ここから、本編といたしまして、G7の動向、アメリカ、欧州、英国、中国の動向、そして、まとめと示唆を最後に少し述べるという構成で、本日、お話ししたいと考えてございます。
 まず、G7の動きでございますが、brain healthという呼ばれ方がされており、直訳すると脳の健康と言うのかなと思うのですけれども、brain health、brain economyというキーワードが、ちょうど去年のカナダのG7の辺りから、かなり重要なテーマとして掲げられているように見受けられます。特に、脳の健康は、人々のQOLだけでなくて、国家の競争力にも直結する。だから、脳の健康をもっと守っていくべきだといった意味合いのトピックでございまして、今年の6月にG7がフランスで開催予定ですが、それに先立って開催されましたScience Summit for the G7でも、やはり脳の健康はとても大事だとなっており、G7のメインの会議のメインの議題に据えるべきだという話題が出ております。
 続きまして、各国レベルの話です。本日は、アメリカ、欧州、中国、イギリスを中心にお話ししたいと考えてございます。特に、アメリカ、欧州、中国に関しましては、それぞれ、いわゆる脳の大型プロジェクト的なものが進められております。アメリカと欧州は、ちょうどそのリニューアルの時期にあるようです。アメリカはよく分からない状況ではありますが、恐らく続きそうな雰囲気です。EUは無事にリニューアルを終え、新たな枠組みをスタートさせたところです。それらの国々が扱っているテーマは、根本的に異なる点はあまりない印象です。いずれもデジタル脳的なテーマ、脳の基礎研究的なテーマ、そして、疾患研究や臨床試験などです。その他の国々として、韓国もほぼ同じような形で、カナダ、オーストラリアも同様でございます。
 まず、アメリカについて申し上げます。アメリカは、特にNIHが世界最大規模の予算を有しており、年間約500億ドルです。日本円にすると、7.5兆円ぐらいです。NIH傘下の研究所を見て参りますと脳神経と関係しそうな研究所が主に2つ、幅広く見ると4つほどございます。それらを足し算すると、NIHの年間予算の500億ドルのうち、10%~15%ぐらいが脳神経系に使われている、といった規模感でございます。
 NIHは様々なイニシアチブを走らせておりまして、本日は、特にBRAIN Initiativeと、少しだけAMPについても申し上げたいと思ってございます。
 まず、BRAIN Initiativeでございますが、こちらは2013年に開始されたものでございます。少し図が小さくて恐縮なのですけれども、BRAIN Initiativeのホームページに予算の変遷が掲載されていたのでここでお示しします。最近、予算が大きく減っております。なお、図の範囲外ですが、2026年は少し増えて持ち直しているようです。来年以降もBRAIN Initiative的なものは続くとホームページには書かれてございますが、21世紀治療法に基づく予算措置が本年度で終了します。図にお示しする赤色の部分の予算が2027年からなくなる形となりますので、NIH本体の予算でどこまで措置されるかが注目です。
 Brain Initiativeには主に三つのプロジェクトがございまして、一つ目は、BICANという、いわゆるデジタル脳的な、脳細胞アトラスの構築が進められております。二つ目は、脳神経科学の基盤技術・計測技術開発です。これら三つのプロジェクトに大きなお金を投入されております。
 BICANという脳細胞アトラス作成のプロジェクトの内訳を拝見しますと、全部で10チーム以上ございまして、全体調整のチームが一つ、データ収集/管理/共有のチームが三つ、そして、個々の脳神経細胞アトラスを作るチームが10チーム弱です。主に、ヒトの脳に関するチームが多く、それ以外ではマウスや非ヒト霊長類を対象としたチームございます。ホームページ等を拝見しますと、完全なアトラスを作るぞ、という大きな目標は強く述べられておりますけど、では具体的に、これらチームの研究成果を全て合体したら完全なものになるのかというと、まだ不十分な気もいたします。それぞれのチームが様々な切り口で脳神経細胞アトラスを作り、さらに統合を支援するような活動を進めるチームもいるようです。5億ドルを投入する大型プロジェクトですので、マウスの脳細胞アトラスやヒトの脳細胞アトラス、などの成果が次々とでてくるものと思います。
 また、NIHはAMPというのは創薬寄りの産官学共同プロジェクトを進めております。NIHがどういう疾患を産官学共同プロジェクトとして注目しているのか、という観点で見ますと、プロジェクト全体の半分ぐらいは脳神経疾患系に対して措置がなされているようです。脳神経疾患系を、NIHは重要視している証左とも言えると思います。
 ほかにも、アメリカでは脳神経関連の大型研究が進められており、例えば、ABCD Studyという小児の脳発達の追跡コホート、ADNI4というアルツハイマーに特化した研究開発、ARPA-Hという例えば眼球移植などかなりチャレンジングなさまざまなテーマが進められているプログラム、DARPAにおける脳型コンピューターへの応用を企図した脳の情報処理・蓄積に関する新理論の基礎科学研究、などさまざまなものがみられます。
 続きまして、欧州です。欧州は、Human Brain Projectが10年近く進んで参りまして、予算規模的に見てもその後継的な位置づけと言えるEP BrainHealthという大型研究が開始されたところです。これは次のスライドで述べます。ほかに、並行してEBRAINS 2.0というデジタル脳の基盤整備プロジェクトや、神経疾患、或いは精神疾患のそれぞれでデジタル脳的なものをつくろうという大形研究も進んでおります。
 EP Brain Healthは、10年間で、約5億ユーロという規模感のです。具体的にどういった研究テーマを進めるのかにつきましては、まだ最初の公募が行われた段階です。最初の公募では、デジタル脳的な切り口というよりも、むしろ神経疾患や精神疾患について、基礎研究と疾患研究をきちんと進めて、アプローチの一つとしてデータ統合やデジタルツインとかものも歓迎する、という形です。今後、もしかするとデジタル脳的な公募がなされる可能性はありますが、現時点ではまだよく分からないところではございます。
 欧州のHuman Brain Projectの成果についてです。ヒトの脳のデジタルツインがなされ、そのデジタル脳と、患者さんのデータほか幾つかのデータを統合することで、てんかん手術の最適化に向けた臨床試験が進められており、そろそろ結果が出るという記載もございました。いわゆるデジタル脳、脳のデジタルツイン的なところが、外科手術の最適化という成果に結びつきつつあるとも言えます。
 続きまして、イギリスです。イギリス国は、特に、アルツハイマー、認知症など神経変性疾患で大きな取組が見られるのと、脳に特化した活動ではありませんがUK Biobankという非常に大きな健常者コホートで脳画像がしっかり撮られております。UK Biobankに相当する日本の基盤として東北メディカル・メガバンクがあるのかと思い、そういった基盤がうまく活用されていくと良いのではと思いました。
 イギリスでは、政府だけでなく、財団であるWellcome Trustがメンタルヘルスについては重点な支援を進めております。イギリス政府はアルツハイマー、認知症など神経変性疾患で、Wellcome Trustはメンタルヘルスで、ある意味、イギリス全体としてはバランスが取れた支援がなされているのかなと思いました。
 続きまして、中国です。2021年より、China Brain Projectへの実際の予算配分がはじまり、スタートしたようです。同プロジェクトの議論・立ち上げは2016年頃に決まったようなのですけれども、おそらく色々とあったようで、少し遅れてのスタートとなったようです。予算規模は総額50億元以上で、アメリカの数分の1ぐらいで、ヨーロッパのビッグプロジェクトと、同じぐらいか、ちょっと大きいかなといったところでございます。China Brain Projectでは「一体両翼」が掲げられており、メカニズムの解明、脳アトラスの構築が中核にあり、その両翼として、脳神経疾患の診断・治療・予防技術と、脳型AI・コンピューティング技術が掲げられてございます。
 中国の最近始まった主なプロジェクトを2つ申し上げます。CBMAPというプロジェクトで、ヒトの脳の包括的な分子アトラスといったものを、2,000人規模のブレインバンクを使って実施、とされております。もう一つは、ICPBMという国際コンソーシアムがちょうど始まったところで、サルとヒトの超精密な脳神経細胞アトラスの構築が掲げられております。同コンソーシアムには、中国を中心に、幾つかの国も参画することで活動が始まっているようでございます。アメリカ、欧州と同様に、恐らく中国もさまざまなアトラスを構築していくものと思っております。
 ただ、少しだけ中国は特徴的な動きがございます。中国は、例えば、新しいAIのソフトウエアや関連するハード開発において、脳科学の研究の成果を生かしていきたい、というのを全面に押し出しております。実際にそれなりに成果も出てきている印象で、注目すべきところかなと思っております。同じこと日本の大型脳研究プロジェクトでどこまでやるべきかは別の議論かと思いますが、大変特徴的な動きだと思ってございます。
 最後はまとめでございます。brain healthという考え方が、世界的には非常に重要になりつつあります。AI・データ科学研究はあらゆる分野に大事ですけど、特に脳については、デジタル脳、脳デジタルツイン的な文脈で非常に重要度が高まっております。最後に、脳型AI・コンピューティングと申し上げましたが、こちらは各国とも大型脳研究プロジェクト以外の様々なAI事業とか半導体事業などで進められているものでもありますので、いろいろやられているところもありますので、大型脳研究プロジェクトだけを見ていても一概に比較はできません。ただ、海外は脳科学とAIのソフト/ハードとの融合が注目テーマとなっており、その点は、気になるところでございました。
 少し長引きましたが、以上でございます。
 
【風間主査】  ありがとうございました。
 それでは、資料2-1及び資料2-2の説明内容について、御意見、御質問がありましたら、お願いいたします。
 梶井委員、お願いいたします。
【梶井委員】  武田薬品、梶井です。資料の御紹介、ありがとうございました。冒頭に示していただいた日本の予算規模と比較すると、今伺った海外の規模は非常に大きくて、規模の面では大分差がついているなという印象を持ったのですが、そういった状況で、日本として何らかの海外連携で強化する分野であるとか、あるいは海外の動向を踏まえた上で日本としての注力領域の選定とか、そういった議論はされているのでしょうか。
【菊地課長補佐】  ありがとうございます。具体的に注力領域の選定というところで言いますと、まさに今後進めていくということになろうかと思います。そういう意味で言うと、こういった作業部会の場を通じて海外の動向をしっかり注視しながら、委員の皆さんの御意見を踏まえつつ進めていきたいというふうに考えているところでございます。
 以上でございます。
【風間主査】  ありがとうございます。
 では、小板橋委員、お願いします。
【小板橋委員】  ありがとうございます。辻先生にお伺いしたいのですけれども、海外ではブレインヘルスというふうに呼ばれているということなのですが、WHOのほうはメンタルディスオーダーがあってもメンタルウエルビーイングは向上できるという表現を取っているかと思います。その場合のメンタルディスオーダーというのはいわゆる精神疾患系だと思うのですけれども、海外で言うところのブレインヘルスというのは、ディスオーダーがない状態を指すのか、WHOが言うところのウエルビーイングを指すのか。海外でメンタルヘルス関連も重要になってきていると最後にまとめていただいていますが、メンタルヘルスを考えた場合、治すことを目指すのか。症状とかが寛解になった状態というのはあると思うのですが、治すというよりは、病気と共存しながらウエルビーイングを高めるという感覚もとても重要になるのではないかと思い、お伺いします。
【辻フェロー】 G7のカナダの文書等、ひととおり拝見はしたのですが、WHOが言うところのウェルビーングとの明確な関係性について、うまく解釈できておりません。ただ、G7の全体的な文書を見た感じですと、例えばアルツハイマー病の診断・治療・予防に全てを振り切っているものではなく、ウエルビーイングを高めるためにメンタルヘルスを少し改善していくみたいな、そういったニュアンスも何となく読み取れる感じはございました。2026年6月のG7フランスの結果を、またさらってみたいと思っております。

【小板橋委員】  ウエルビーイングなのか、ディスオーダーがない状態にするのか、随分、アプローチの仕方が変わってくると思うので、ぜひ、よろしくお願いします。ありがとうございます。
【風間主査】  では、次、坂内委員、お願いします。
【坂内委員】  早稲田大学の坂内です。ありがとうございます。
 辻先生にお伺いしたい点がございます。印象に残ったのは、アルツハイマー病、パーキンソン病などの疾患は、アメリカでは複数の学官産民が連携しているということでございました。そして、予算規模もかなり大きいということでございますが、こちらは、それぞれの出資の額というか、ちょっと言葉がうまくいかないのですけど、どこがどれぐらいお金を出して、例えばアルツハイマー病だと1.9億ドルになっているかとか、分かれば御教授いただけますか。
【辻フェロー】  資料としては、11枚目でしょうか。
【坂内委員】  11枚目でございます。
【辻フェロー】  例えば、武田が幾ら出している、GSKが幾ら出しているというところは、内訳を公開しているプログラムもあったと思いますけど、内訳は非公開のプログラムが多かったかと思います。いずれにせよ、こちらは官と民が半分ずつぐらい出すというコンセプトです。民については、お金だけでなく、例えば、製薬企業が持っている機械を使わせてあげるとか、あるいはデータを使わせてあげるとか、そういったものも聞いております。
 
【坂内委員】  お金に表れない協力というのもあるというのは、大変すばらしいと思います。
【辻フェロー】  アメリカだけ申し上げたのですけれども、実は、後ろのほうの参考資料の30ページ目のところには、全く同じようなもののEUの取組も載せてございます。EUのほうはたしか、一つ一つのアカデミア、あるいは一つ一つの企業が幾ら出しているというのも全部出ておりました。ただ、こちらも基本的には半々で出しますというプログラムです。
【坂内委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  梶井委員、まだ「挙手ボタン」が上がっていますけれども、追加の御質問ありますか。
 大丈夫ですか。
【梶井委員】  大丈夫です。すみません。
【風間主査】  ほか、いかがでしょうか。
 渡部委員、お願いします。
【渡部委員】  非常に分かりやすい取りまとめ、概要、ありがとうございました。辻先生に伺いたいのですけれども、たしか以前の作業部会のときに各国の動向というのをみんなで手分けして調べて、その後のフォローアップ、その続きという形になるのかなと思うのですが、米国はバジェットが下がったというのはそうだと思うのですけれども、それ以外に何か、立ち上げ当時と比べて方針の方向性が変わったなみたいなことがもし見てとれるような領域があったら、教えていただきたいと思います。というのも、たしか最初の頃、中国の動向でマカクがどうなるのかというのはちょっと見えない部分があるねというような議論があったかなと思うので、その辺も含めて教えていただきたいということが一つ。
 あともう一つは、予算規模はどうしても、明らかに大きく、日本に比べると圧倒的な規模感があるとは思うのですね。このときに、多分、作業部会も含めてみんなで考えていくことだと思うのですが、他国の様子を見て、全部は同じペースではもちろんできないから、何かに絞り込んでしまうのか、あるいは、そういったことを見習いながら日本独自の新しいことをつくるのかというふうなことを、2030年以降の方針は意外とすぐだと思うので、どんなふうに絞り込みを行うのかという点について、もしサジェスチョンがあれば、ぜひお願いします。

【辻フェロー】  ありがとうございます。中国は情報があまり表に出てきていないなという印象がございます。例えば、China Brain Projectのホームページがあるかというと、どうもそういうものはなさそうでございます。私が今回の発表に向けて調査するに当たっては、まずはかなり色々な論文や公開情報を見ながら、要するにこういうことかなとある程度整理しながら、できるだけ中国の公開の文書で裏を取るようにしながら、進めて参りました。マカクについても、最初の頃は数千匹単位の飼育施設をという話が散見されましたが、今時点でその中核的なセンターを見ると、マカクを40匹飼育していますとか、そういう書きぶりになっております。当初と現在で乖離はございますが、いずれにせよ実際にChina Brain Projectの中でアカゲザルの脳神経細胞アトラスの発表がなされておりますので、それなりにサルの研究というのはされているのではないのかなと思いました。
 海外の予算が非常に大きい中で日本への示唆というのは非常に難しい御質問だなと思っております。私がどうこう言えるところではないかなという気はしておりますが、例えば、海外では脳神経アトラスの構築が進んでおりますが、日本は海外とは少し違う生物や研究対象を扱っている、などの工夫があれば、より注目度が高まるのかと思います。日本の研究者がどういう対象で研究を進めておられて、一方で海外はどういう対象について研究を進めているか、などの比較の上で、日本が進めるべきテーマの設定が必要なのだろうと思います。
【渡部委員】  ありがとうございました。
【風間主査】  ほか、いかがでしょうか。
 小板橋委員、お願いします。
【小板橋委員】  追加でごめんなさい。アトラスの話が出たので興味本位でお伺いしたいのですけれども、静脈の走行は非常に個人差があるように、脳神経の走行というのもすごく個人差があるのではないかと思うのですが、あと、中脳とか、大脳とか、大脳の中でも前頭葉だったらすごく個人差あるけど、小脳とかだったらあまりないとか、その辺りというのはある程度見えてきているのか。アトラスで示すのは、どういうレベル感といいますか、個人差のないレベル感というのはどのレベル感ということなのか教えてください。
【辻フェロー】  16ページ目の左側にお示しした事例が少しそれにお答えできるものかなと思います。こちらは、脳神経領域の250か所以上を対象として、それぞれ3D上である程度空間ごとにブロック化して、例えばあるブロックについては男性5人、女性5人のデータを流し込んで、確率論的な脳デジタルツインをつくる。例えば、女性だと脳のこのブロックはこういう構造ではないか、一方で男性だとこういう構造ではないか、若い人だとこういう構造ではないか、高齢者だとこういう構造ではないか、などです。1人1人に完全に個別化した脳神経アトラスの構築はまだ不可能ですが、大体の属性で分けた、ある程度層別化した脳の構造のアトラスをここでは作っております。その上で、患者さん本人のデータを流し込むことで、より精確に、外科手術をすべき脳の部位を同定できる、そういうイメージの成果だと認識しております。
【小板橋委員】  ありがとうございます。そうなると、解析する脳の数とか、多様性をどこまで高める必要があるのかいうのも、出てきそうですよね。
【辻フェロー】  あると思います。左側の事例ですと、全部で23人分の死後脳を集めておいて、脳のブロックごとに男女5人ずつピックアップして入れているようです。これが現在、てんかん手術の最適化に使えるかもしれないモデルにはなってきたようですが、一方で、何でもできる万能なモデルにはまだなっておりません。

【小板橋委員】  分かりました。ありがとうございます。
【風間主査】  ありがとうございました。
 それでは、次の議題に移ります。議題(3)は、中核拠点におけるデジタル脳研究の今後の在り方について、「脳神経科学統合プログラム」中核拠点プロジェクトリーダーとして、理化学研究所脳神経科学研究センターより、岡部センター長に出席いただいています。
 それでは、岡部センター長、よろしくお願いします。
【岡部センター長】  よろしくお願いいたします。私は今、理研の脳センターのセンター長をしております。「脳神経科学統合プログラム」は、2024年から開始されまして、昨年からこのプログラムのリーダーも務めております。最初の1年のところでどういう議論があったかというのは、私、その頃はセンター長ではなかったので、1年かけて少しずつ勉強しつつ、このプログラムの中でのデジタル脳というものについて整理を始めてきて、今日、お話しするような形のところを御説明できればというふうに思っています。
 発表内容としては、五つほどに項目を分けました。最初は、この中核拠点の研究開発提案書自体を整理して、再提案したいという内容ですね。2番目は、再提案した内容で、デジタル脳と、デジタル脳開発プラットフォームと、脳統合データベースというものは区別して考えたいということ。3番目は、その中の最初のデジタル脳という概念、このモデルについて、どういうことを取り組むべきかということ。4番目は、デジタル脳開発プラットフォームについて。5番目は、データベースについて。最後に、今後、こういったモデルを統合していく戦略ということで、お話ししたいと思います。
 一番上の四角に囲まれているところは、当初の研究開発提案書に書かれた文章になります。2か所、デジタル脳に関する定義のようなものが出てきているのですけれども、いずれの場合も、デジタル脳に関しては、「脳の解剖学・生理学データを統合し数理モデルとして再構築するもの」というふうに定義されています。実際、私がこの脳神経科学統合プログラムに参加するようになって、まず感じたことは、このモデルという概念についてはもう少し柔軟に捉えたほうがいいのではないかというふうに考えています。理由は、そこに書かれている3点になります。1点目は、ここでは「脳の解剖・生理学データ」と書かれているのですけれども、そういったものを基礎としなくても、脳機能の予測に役立つモデルをデザインすることは可能です。2点目は、今、いろいろなAIモデルが非常に急速に発展していますので、予測モデルの内部構造自体へのアクセスというのが難しいようなケース。しかも、そういうものが非常に役立つということも分かってきています。3点目は、遺伝子発現解析等も進歩していますので、遺伝子発現やエピゲノムデータを解剖・生理データと統合したモデルも必要であるという面がある。こういった3点が、柔軟に捉える必要があるということの意味です。
 私の提案は、デジタル脳を再定義したいということで、ここに書かれているようなものをデジタル脳と考えたいと思っています。解剖学・生理学データを含む、それに限らない多様な脳データを活用した、脳の活動・情報表現・病態・遺伝子発現などの理解・予測・介入に有用な包括的な数理モデルということです。これを開発する目的は以前と変わっていませんで、基礎脳科学や脳型人工知能に貢献するようなモデルをつくるということ。2番目は、そのモデルが実際に様々なヒトの疾患の病態理解と診断・治療戦略に貢献するということが目的にあります。
 下に注釈が書かれているのですけれども、こういったモデルというのは、必ずしも解剖学・生理学データをベースにしたものでなくてもいいと。大規模な画像データを教師データとして用いたようなAIモデルも「デジタル脳」と考える。一方で、いろいろな研究の中でモデルを使って論文を書くことはよくやられますので、そういったもの全てを「デジタル脳」と言ってしまうと、それはちょっと範囲が広過ぎるので、ある程度汎用性を持っているモデルというものに限定したいというふうに考えました。
 ここまでは、デジタル脳の定義に関する話です。
 次に、研究開発提案書で曖昧だった点がもう一つありまして、デジタル脳とか、プラットフォームとか、脳データベースといった用語が出てくるのですけれども、これが曖昧なせいで、研究者ごとに、何を指しているのか、ちょっと違った意味で捉えているといった面がありました。ある方に聞くと、デジタル脳は数理モデルで、プラットフォームは脳データを格納するシステムだと言われますし、別な方に聞くと、またちょっと違うような区分の仕方をされるといった、ちょっと混乱しているところがありましたので、今後は、デジタル脳と、デジタル脳開発プラットフォームと、脳統合データベースという三つの概念は明確に区別して、独立したものと考えて、この脳神経科学統合プログラムでは運用したいと思っています。
 具体的には、こういった定義になります。デジタル脳フレームワークの中には三つの要素がある。1番目はデジタル脳で、これは研究者が開発するデジタル脳モデルを指しています。典型的なものは後で「5つの柱」というものを御説明しますが、これがそういったモデルの例になります。
 2番目はデジタル脳開発プラットフォームで、これは中核拠点の研究開発項目4、デジタル脳グループで実施されている、Neuro-Workflowというプラットフォームに該当します。これは数理研究者が多様なデータやスクリプト等を統合して脳モデルを開発することを目的としたプラットフォームになりますので、1番のデジタル脳モデルをこのプラットフォームに載せることも可能です。ただ、このプラットフォームは現在開発中ですので、脳神経科学統合プログラムの全てのモデルをこのプラットフォームで開発するというのは、時間的には間に合わないわけですね。したがって、1番のデジタル脳のモデル開発はNeuro-Workflow上で行わなくても構わない。むしろ行わない形になるというふうに考えています。
 3番目は脳統合のデータベースで、これは、これまで実施されてきた革新脳や国際脳、現在進行中の脳神経科学統合プログラムで収集された、あるいは収集されつつある、いろいろなデータを格納して、効率的に研究者が利用できるデータベースになります。
 この三つの要素が組み合わさって、新規の脳モデルの開発が国内で効率よくできる環境をつくるということが、最終的な目的になります。
 では、一番重要な、デジタル脳モデルとして開発すべき数理モデルの開発をどうやって進めていくのかということになります。これは考え方としては二つあって、一つは単一の包括的な数理モデルの開発を目指すという考え方。ヨーロッパのHuman Brain Projectは、当初、こういう形で研究が始まったと思います。もう一つの考え方は、目的に合わせて複数の数理モデルを開発して、開発状況に応じて、それぞれ、推進、中止、あるいはモデルの統合などの調整を柔軟に行うという戦略です。私の考えとしては、現状で全ての生理・病態を一つの数理モデルで表すということを目指すのはあまり現実的ではないだろうということで、2の方針で進めるのが適切だと思いました。
 2の方針で進める場合に重要な観点というのは、以下の三つになると思います。まず、モデルをつくるといっても、モデルをつくるための基礎となるデータがなければ、もともとの土台がないわけですね。したがって、そういった基礎となるデータの質と量が重要である。そう考えると、脳神経科学統合プログラムの期間中にデータを取り始めて、一方でデータがない状態でモデルをつくるというのは、ちょっと現実的ではありません。したがって、3に書かれているように、革新脳・国際脳で蓄積したデータを活用しつつ、脳神経科学統合プログラムでデータを追加して、同時並行でデジタル脳モデルの開発を行うというのが一番効率のいい方向であるというふうに考えました。
 ということで、実際に革新脳・国際脳で蓄積したデータを活用しつつ、脳神経科学統合プログラムでデータを追加して、同時並行でデジタル脳モデルをつくるという観点から、脳神経科学統合プログラムに参加しておられる研究者の方にヒアリングを実施して、絞り込みを行いました。それらから既に蓄積しつつあるデータを使って有効なモデルをつくるとすれば、五つぐらいのテーマを取り上げるのがいいのではないかということで、「5つの柱」を立ち上げました。ここに書かれているように、1番目は、PETデータを活用した疾患の責任回路を同定するモデル。2番目は、脳波計測データを活用したデジタルモデルの開発。3番目は、ヒト脳と非ヒト霊長類、具体的にはマーモセットの脳の遺伝子発現・回路構造・回路機能を対応づけるモデル。4番目は、革新脳・国際脳で収集した大規模脳画像データ、これは主に精神疾患のモデルですけれども、これを用いた病態進展予測・層別化モデル。5番目は、functional MRIデータを活用した全脳レベルでの動的因果モデルというものになります。
 全体像としては、こんなことを想定しているわけです。脳統合データベースからデータが出てきて、デジタル脳開発プラットフォームを使って、それをモデル化する。実際には「5つの柱」を中心にデジタル脳モデルで、それぞれのモデルは様々な目的に利用可能なモデルである。こういうものがデジタル脳フレームワークということになります。この一つ一つのデジタル脳モデルが、ここに書かれている「5つの柱」にそれぞれ対応するということになります。
 この「5つの柱」について、具体的なアイデアをもうちょっと詳しく、次にお話ししたいと思います。
 まず、1番目のモデルは、PETデータを活用した、疾患責任回路を同定するモデルになります。データ担当者は、ここに書かれているような研究者の方です。PET(Positron Emission Tomography)のデータと、functional MRIを用いた機能的なコネクトームデータ、この二つを用いたlesion network mappingを用いて、疾患責任回路の同定を行うということを計画しています。既に量子研の樋口先生らのグループでは、進行性核上性麻痺の患者のタウの蓄積のPET画像を用いて、今まで知られていなかったような障害神経回路の同定に成功しています。また、タウ以外に、AMPA受容体PETとかも、この研究には活用できるということになります。国際的優位性としては、タウのPETイメージング、AMPA受容体PETイメージングは、革新脳で開発された日本発のプローブということになりますし、既に複数の変性疾患での画像データが蓄積しているというところから、ほかの国ではできない研究であろうということ。また、この研究がうまくいけば、いろいろな脳の活動・抑制するような操作をすることで、比較的安価で副作用が少ない、そういった認知症関係の病気の治療技術の開発につながる可能性があると思います。
 デジタル脳モデルの2番目は、脳波計測データを活用したモデルということになります。こちらは、高品質な脳波データを取得することによって、てんかんにおける、てんかんのフォーカスの推定、それから、発作時のネットワークがどういうものであるか、発作の予測などを目指す、そういう研究です。先ほどお話があったように、EBRAINSでもこういった脳波データの数理モデルというものはつくられているのですけれども、それは発作時脳波に特化した波形を再現するものでして、生理学的な現象は必ずしも反映されていないというふうに考えられます。この研究では、脳の実際の回路構造をより反映しているようなモデルというものを実現したいと考えています。実際、国内の研究では、硬膜下電極、あるいは定位的頭蓋内のSEEGといったような、脳深部の活動をきちんと記録したデータというものを多数取得することが可能ですので、データの量と質、両面において優位性があるというふうに考えられています。将来的には、こういったものを使って発作予測や介入方法の最適化に貢献できるという意味で、出口の明確なモデルというふうに考えられます。
 3番目は、ヒト脳と非ヒト霊長類脳の遺伝子発現との対応づけという研究です。これも、これまで革新脳事業で多くのマーモセットの脳データが収集されていますし、一方で国際脳事業ではヒトの脳データを集めていますので、こういったものと、さらに脳神経科学統合プログラムで蓄積を始めた空間トランスクリプトームデータを用いることで、脳の神経回路と遺伝子発現を結びつける、そういうモデルを開発することというふうに考えました。マーモセットで脳の領域のマッピングと空間トランスクリプトームデータを組み合わせれば、ある細胞の遺伝子発現のプロファイルから、その細胞の脳内での分布を予測できます。マーモセットとヒトの脳領域を対応させれば、遺伝子発現からヒトの脳の中での細胞の分布というものも予測することが可能になります。最終的には、患者の死後脳の特定領域のsingle nucleus RNAシークエンスデータから、それに対応するマーモセットのシークエンスデータを当てはめて、それを介してヒトの脳のどの場所に疾患関連細胞がいるかということを得るという、そういうモデルを構築することを目指しています。このモデルも、革新脳事業で得られたマーモセットの脳の構造と遺伝子発現のデータがあるということが非常に重要ですので、日本が高い優位性を持った研究であるというふうに考えられます。
 デジタル脳モデルの4番目です。こちらは、革新脳・国際脳で収集した大規模脳画像データに基づく病態進展の予測・層別化モデルです。これまで革新脳・国際脳では非常に多くのMRI画像データを収集・蓄積してきました。こういった大規模画像データを活用して、さらに臨床データを追加することで、包括的なデータベースを構築します。特に重要なのは、全身状態を反映する末梢血液の解析データ、エピゲノムデータ、GWASデータによるポリジェニックリスクスコア等を収集するというところです。こういったものを収集することで、末梢血から生物学的年齢の推定を行って、一方で、機能画像、高度画像データから、脳の年齢というものも推定します。その両者を比較することによって対応づけをして、最終的には末梢血の検体のみから脳の状態を予測するようなモデルを開発するということを考えています。既に笠井先生らは、エピゲノム解析のプロフィリングから特定のパターンが脳の特定の領域の層の厚さにも影響を与えているといったような予備的データを得ていますので、実際にこういった対応づけをすることが可能ではないかということが考えられます。革新脳・国際脳で収集したデータを基礎にした活動ということになりますので、これも国際的に日本ならではの取組になる優位性があるというふうに考えています。
 最後は、functional MRIデータを活用した全脳レベルでの動的因果モデルの構築です。こちらも革新脳で取得されましたマーモセットの安静時のfMRIデータ、大規模カルシウム活動データというものが存在していますので、こういったマーモセットの脳活動データを活用して、全脳レベルでの脳活動モデルを構築するということを計画しています。モデル開発の手法としては、FristonらによるDCMモデル、あるいは、くりこみ理論を活用した多階層モデルの活用といったことを考えています。最終的には神経回路結合の因果関係も含む動的挙動を再構成したモデルを開発するということで、こちらもマーモセットの脳活動をfunctional MRIとカルシウム活動の両方で取っているという、これまでの蓄積を基にした研究活動ですので、ほかの国ではできないようなデジタル脳開発につながるというふうに考えています。
 以上が、「5つの柱」として御説明した、デジタル脳モデル自体です。このデジタル脳モデルを開発するためには、現在開発中のNeuro-Workflowというプラットフォームも活用します。これは理研内あるいは理研外の様々なデータベースとリンクして、このプラットフォーム上でいろいろなスクリプトを開発して、それを実データと結びつけて、その結果をシミュレーションするということを、脳神経科学統合プログラムの中のサーバーを使って実験するプラットフォームになります。これは現在開発中ですが、これが全て完成すれば、個々の数理研究者が手軽にいろいろなシミュレーションを試す環境が出来上がるということになります。
 最後のピースが脳統合データベースで、こちらも、これまでの革新脳・国際脳、それから、脳神経科学統合プログラムに参加している実験科学者が動物データやヒトデータを収集していますので、これをヒトの脳データに関するデータベース、そして、機関関連リポジトリと呼ばれる、理研を中心としたデータベースにそれぞれ格納して、その一部は、今お話ししたNeuro-Workflowを介して数理研究者が活用する、あるいは直接にデータを利用するという形での活用を考えていて、実際に、この部分に関しては、現在、ほぼ完成しているという状況になっています。
 この五つのデジタル脳モデルを最終的には統合して、より汎用性の高いモデルへとつなげていくことも重要になります。具体的には、それぞれのモデルは必ずしも独立して考える必要はなくて、例えば、モデル5、脳レベルでの動的因果推定ができるようになれば、このモデルは、例えば2番目の脳波関連のモデルと組み合わせることで、より広範な病的回路の活動原理を知ることにも役立つというふうに考えられます。あるいは、モデル5をモデル3と組み合わせることで、機能的な結合分子基盤というものが分子レベルでのモデルと機能的結合モデルを組み合わせて実現することが可能になるというふうに考えられます。同じような組合せはほかのモデルに関しても可能ですので、こういった形で、最終的には、より統合されたものをこのプログラムの中でつくっていきたいと思います。
 最後に、中核拠点のデジタル脳研究と個別重点研究課題の関連ですけれども、既に今回つくりました五つのデジタル脳モデルの中には、多くの個別重点課題の研究者が参加しておられます。一方で、個別重点研究課題で開発される個々のデジタル脳モデルも今お話ししたようなNeuro-Workflowといった形のプラットフォーム上で運営することができますので、そういった、五つのデジタル脳モデルだけではなく、個別の研究者が持っている新規のモデルというものも、この中核拠点のプラットフォームの上に載せていきたいというふうに、運営していく予定です。
 私からの説明は、以上になります。
【風間主査】  ありがとうございました。
 それでは、ただいまの説明内容について、御意見、御質問がありましたら、お願いいたします。
 梶井委員、お願いいたします。
【梶井委員】  岡部先生、デジタル脳の定義、戦略の方向性、そして全体像、非常に分かりやすく説明いただきまして、ありがとうございました。非常に納得感がある御発表だったなと思います。
 私から2点ほど質問があるのですが、先生は、モデル構築に当たってデータの質と量は非常に重要だという話をされて、全くそのとおりだと思うのですが、それに当たって、これまで日本の中で蓄積されてきた様々な脳研究を脳統合データベースという形で活用されるというのは、非常に正しい方向性だというふうに認識しております。この脳統合データベースのデータのキュレーションというのですか、質を検査するような仕組みが必要なのかどうかというのが1点目の質問で、2点目の質問は、五つのモデルは非常に魅力的なんですが、バリデーションが非常に重要になってくると思います。前の議題で、海外では物すごく多額の資金で脳科学を進めているという状況で、恐らく、バリデーションも含めて日本の中で全てを賄うのはなかなか厳しいのかなという印象がありまして、例えば、ある程度モデルができたところで、バリデーションに関して国際共同を行うとか、そういった可能性はあるのかということが、2点目の質問になります。
【岡部センター長】  ありがとうございます。
 最初の点に関しては、これは大変多くのデータが必要なプログラムということになっていまして、これまでかなり多くのものを革新脳・国際脳の中で蓄積することができています。それをどういった形でキュレーションして一定のレベルのものにするのかというのも非常に重要な問題で、例えば脳のMRIのデータに関しては、様々な研究機関で取られたデータを一定の水準で均一化して、均一化されたものを一定のサーバーのところに入れるということを神戸の林先生とATRのほうで非常にきちんとやっておられまして、かなり長い時間かかったのですけども、やっと今年になって、ほぼ全てのデータがそういったステップを経て統一化された形で研究者に一般公開できるという形になりました。同じようなことは、多分、ほかのモダリティに関しても、それは順次進めていく必要があるというふうに考えています。
 それから、バリデーションに関して、ほかの国の研究者と協力していく、これも非常に重要な課題だと思います。国際的なブレインイニシアチブ的な研究組織の間の連携というものもある程度存在していまして、特にEBRAINと日本の脳統合・革新脳の研究者の間は、かなり研究交流があります。これまでも、データベースの構築ですとか、データのキュレーションみたいなことに関して、日本で国際会議をしたこともありますし、そうした連携を通じてバリデーションに関して今後行っていくということも可能だというふうに思っています。
【梶井委員】  ありがとうございます。期待しています。
【風間主査】  では、磯部委員、お願いします。
【磯部委員】  ありがとうございます。岡部先生に分かりやすく、デジタル脳の定義や各用語の捉え直しも教えていただきまして、ありがとうございました。
 感想としまして、もともとの中核拠点のプログラムの研究開発提案書では、デジタル脳の定義として、「脳の解剖学・生理学データを統合し」という二つが明確に記載のあったところが、少し幅広い定義になったというところは、これは中核での話にはなりますけれども、個別課題等において、デジタル脳に関する研究をこれから展開しようというときに、より柔軟な、様々なアプローチでの企画を受容できる環境になっているというのは、脳全体の科学研究のより活性化という意味でもとてもすばらしいことだなと思って、お伺いいたしました。
 1点、感想と申しますか、お伺いしたいところとしましては、今日御提示いただきました資料の4枚目の下のほうに記載されている、「解剖学・生理学データを統合した数理モデルでなくても、脳機能の理解・予測・介入等に役立つ数理モデルは「デジタル脳」と見なす」というところで、受容されるものとしましては、認知症層別化AIモデルもデジタル脳の範囲に含めるけれども、システムレベルでの研究で特定のデータの解析や議会の目的で使われる数理モデルについては必ずしも「デジタル脳」とはしないというところについて、ある意味、もしかしたら認知症の層別化というところも、脳という広範な機能を、認知症という面から、層別化したり解析したりするというところになるので、そこと「ある特定のシステムの理解」というところとの間に、ある程度連続的なところもあるように思いました。何をもって“これは特定の機能の理解にとどまる”と判断され得るかというところは十分な議論が要るところなのかなと思いましたが、いかがでしょうか。
【岡部センター長】  ありがとうございます。これ、誤解を受けるかなと思いつつ、記載したのですね。記載した心としては、モデルをつくる方が、つくったモデルが、その後、自分の研究だけに使われるのではなくて、広く多くの方に使ってもらえるという姿勢でつくっていただければ、それはデジタル脳モデルでいいと思うのですね。一方で、非常に特殊な研究をされる方が、自分のためにつくって、つくった後は別に人に使ってもらえると思ってないですよというものも全て含めてしまうのはあまりに広過ぎるかということで、ここは少し、そこの歯止めはかけたほうがいいのではないかと思って、この一文を入れています。ただ、確かにおっしゃるように、そこの境界はかなり曖昧だと思いますし、もともと、その方は自分のためにつくって、自分しか使わないと思っていたのだけども、ほかの人が、すごくいいモデルなので使いたいと、場合によっては思うと思うのですね。柔軟に、グレーゾーンがあるということでいいのだろうと思っています。
【磯部委員】  よく分かりました。ありがとうございました。
【風間主査】  では、次、鈴木貴之委員、お願いします。
【鈴木(貴)委員】  東京大学の鈴木貴之と申します。よろしくお願いします。
 岡部先生、御説明、どうもありがとうございました。私、哲学が専門なのですが、このように概念を整理していただけると、プロジェクトに関する理解が非常に深まりました。
 伺いたいのは、一つ前の議題とも関連しますが、競合するような海外のプロジェクトとの関係で、既に御説明いただいたことではあるのですけれども、海外では似たような脳の数理モデルのプロジェクトが、既に進んでいる、始められているものも多くありますが、それらに対してある意味では後発になるわけですけれども、その辺りで、現状についてどう認識されているのかというようなことと、具体的には、先ほど説明いただいたように、分野をある程度特化してすみ分けるような形でやっていけるのかというようなことと、あと、最終的には、そういった海外の似たようなプロジェクトとどう統合されるようになるのか、あるいはそういう可能性があるのか、そういったことについての見通しを教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【岡部センター長】  国際的にどういう位置関係になるのが望ましいのかって、なかなか難しい問題だと思います。研究者の数とかを考えると、日本が全てをカバーするという考え方は、やはり無理があるわけですね。それから、これまで革新脳とか国際脳という事業を10年以上やってきましたので、その間に蓄積したデータを活用しないというのはあまりにもったいないというところもあると思います。そういったところの認識から出発すると、今まで蓄積してきたマーモセットの脳に関する、かなり精密な回路地図と機能的な活動データ、それを活用していくというのが一つの柱になり、もう一つは、国際脳を中心に、日本国内はMRIの機械が非常に充実していますので、そういったものを使って患者さんから取ってきた質の高い脳画像データをうまく活用するという、その2本の柱というのは非常に重要だというふうに思っています。ただ、そこで出てきたものというのは脳科学全体をカバーしていませんので、例えば、先ほどもちょっとお話があったような、電子顕微鏡を使った網羅的なコネクトームデータみたいなものというのは、日本では、現在、システマチックな研究が全くありませんので、そういったところはどうしてもアメリカ等のデータに頼らざるを得ないと思うのですね。ただ、逆に言えば、アメリカのほうもマーモセットのデータは持っていませんので、今後、補完的な研究プロジェクトみたいなものを立ち上げていって、相互協力をしていくということが重要だと思っています。ですから、アメリカですと、Allen研究所とか、そういったところでかなりデータ自体の蓄積を行っていますので、日本側の中核拠点とそういったところの間でより建設的な総合研究の枠組みをつくっていくといったことを今後やる必要があると思います。
【鈴木(貴)委員】  どうもありがとうございました。
【風間主査】  では、前川委員、お願いします。
【前川委員】  東北大学の前川と申します。デジタル脳について分かりやすく教えていただいて、ありがとうございました。特に、私個人的には、デジタル脳のモデル4とか、末梢と脳の関係とか、非常に興味あるのですけれども、こういったことがどんどん明らかになっていくと、今後、因果関係の検証とかが行えるような、ウエットな研究基盤とかも重要になってくるのではないかなと思うですが、そういったウエットな研究基盤ですとか、人材の基盤ですとかの構築というのは、今後、どうなっていくのか、デジタル脳の中でどうなっていくのか、教えていただければと思います。
【岡部センター長】  ありがとうございます。脳神経科学統合プログラムで「デジタル脳」という言葉がすごく強調されていますけれども、ただ、脳神経科学統合プログラムに参加しておられる研究者のマジョリティーは、ウエットの研究者なのですね。しかも、動物実験をやられている方が非常に多いと思います。ですから、私の希望としては、こういったデジタル脳のモデルがつくられて、そこから見えてくる、そういった因果関係の検証が必要な、いろいろな相関関係のデータを、論文が出る前に動物実験の研究者が情報として得ることができて、その情報を基にして動物実験なり因果関係を検証する実験を組立てていくというような、そういうサイクルができるとすごくいいと思っています。
 また、実験系の研究者が動物で得られたいろいろなデータやアイデアをヒトの研究者のほうに戻してやって、デジタル脳のモデルにさらに組み込んでいって精緻化するという、そういった循環ができるような体制になれば一番いいのではないかというふうに思っていますので、それを目指したいというふうに考えているところです。
【前川委員】  ありがとうございました。
【風間主査】  では、渡部委員、お願いします。
【渡部委員】  ありがとうございます。慈恵医大の渡部です。
 岡部先生、非常に分かりやすいまとめ、報告をいただきまして、ありがとうございました。特に、言葉の定義というところで、研究者ごとに同じ言葉をちょっとずつ違った意味で使っているというのは本当にそのとおりだと思うので、こうやって整理していただいて、報告は物すごく納得したので、分かりやすくてよかったと思います。また、それぞれの日本の国際的な優位性ということも、すごく分かりやすくて、よかったです。一番よかったなと思っているのは、中核拠点と個別課題が何となく、今まで並列にサポートしていただくだけって言うと言葉があれなのですけども、そうではなくて、すごく有機的な連携を積極的に図っているような形が見えて、すごくよかったなあと思いました。
 その中で私が伺いたいのは、どちらかというとプレーヤーとしての質問になってしまうんですが、実際、個別課題って、ほとんどのグループが、今、先生がおっしゃったみたいに、ウエットの実験もしつつ、数理モデルを中に抱えているという課題がすごく多いかなあと思うのですね。その場合に、我々個別課題が中核拠点の「5つの柱」と連携したいなというときに、どういう形でアクセスすればいいのか。要するに、数理モデルができたときに、それをどういうふうにモデルの中に入れていくのですか。プラットフォームを何となく意識するべきなのか、あるいは、目的のほうで、デジタル脳モデルそのものでフィットするものを探すという形なのか、具体的にどういった形でアクセスすればいいのかということを教えていただけたらと思います。
【岡部センター長】  ありがとうございます。さっきお示ししたNeuro-Workflowというもの自体は、新しいモデルをつくるときに、いろんな既存のスクリプトですとかデータを効率よく拾ってくるというところに、多分、メリットがあると思うのですね。ただ、それぞれの個別課題の中で、ある程度、こういう目的でモデルをつくるということを始められている場合に、それを中核拠点側にどうつなぐのかというのは、結構、コンセプトの問題になるので、個別にかなり突っ込んだ話をしないと、あまり意味のあるものにならないのではないかと思います。ですから、中核の中のグループ4、デジタル脳のグループの中に銅谷先生をはじめ優れた数理科学者が多く入っておられますので、多分、その中のどなたかにコンタクトいただくというのが一番いいのではないかと思います。それと、個別課題の中でやっておられる目標ですとか、どこまでモデル化が進んでいるかということを説明していただいて、それが、中核側でやっている「5つの柱」なり、あるいは「5つの柱」以外の数理研究にどうつながるかということを詰めていくという、ちょっと泥臭いですけれども、そうやらざるを得ないのかなというふうに思いますけど。
【渡部委員】  ありがとうございます。この五つはみんな、ヒトとかマーモセットが中心かなと思うのですが、マウスかヒトかということを気にするよりは、まずは、目的というか、目指すところが、ぴったりフィットってもちろんないと思うんですけれども、一番近いところを相談しながら詰めていくという形でしょうか。
【岡部センター長】  そうですね。例えば、短期的な脳の活動伝播みたいな話であれば、柱の2番目の脳波計測みたいなところで使っているようなモデルも、動物に応用できるかもしれないですよね。ですから、どのぐらいのタイムスケールで、どういったものを見たいと思っているかというところを話し合っていただくのがいいかなと思います。
【渡部委員】  分かりました。ありがとうございます。
【風間主査】  では、鈴木大慈委員、お願いいたします。
【鈴木(大)委員】  どうもありがとうございます。
 岡部先生、大変分かりやすい御説明をいただき、ありがとうございます。特に、デジタル脳をすごい現実的な定義していただいたのは、個人的には、そういった、柔軟に対応していただいているのは非常にいいのではないかなというふうに思いました。
 「5つの柱」の御説明をいただいて、それに関してなんですけども、一つ一つのテーマ自体が既に難しいものを、さらにそれを統合されるというようなことをお話しされていて、もちろん統合できれば非常にいいなと思うのですが、一つ一つのテーマが、目標であるとか、いわゆる数理モデルのテクニックとかも結構違っていたりしていて、これを統合するのってすごく難しいのではないかなという気もしております。
 そこで、御質問なのですけども、そもそも統合する必要がどれだけあるのかということと、統合することの必要性と、あと、もしあれば、海外でそういった脳の統合モデルみたいなものってどれだけ真面目に研究がなされているのか、御質問させていただきます。
【岡部センター長】  ありがとうございます。統合する必要がないかもしれないというのは、私もそのとおりだと思いますね。ですから、例えば、疾患モデルに特化してAIベースで基盤モデルみたいなものをつくったというのが非常にうまく動くのであれば、基盤モデルの内側の構造を調べて、それと脳の対応づけをしましょうみたいなことをやっても、あまり意味がないと思うのです。一方で、脳研究者としては、ある程度、脳全体の活動であるとか因果関係を説明できるようなモデルをつくりたいって、夢としては持っているわけですよね。ですから、もし「5つの柱」の中からそれにつながるような結びつきが出てくれば、それは見逃さずにつなげていきたいというふうに思っているというのがこのスライドの意図するところですので、無理にやろうというふうには思っておりません。
【鈴木(大)委員】  分かりました。ありがとうございます。
【風間主査】  事務局に質問なのですけれども、定刻を過ぎておりますが、もう少し審議を続けることって、可能ですかね。
【菊地課長補佐】  大丈夫でございます。
【風間主査】  では、あと2名の委員の方から質問をお受けして、それで終わりにしたいと思います。
 牧之段委員、お願いいたします。
【牧之段委員】  お時間が過ぎましたけども、ありがとうございます。
 岡部先生、皆さんおっしゃっていましたけども、日本が目指すデジタル脳は何かというのが、本当によく理解できました。ありがとうございました。
 1から5までありましたけれども、発達の視点が少し弱い気がしたのですが、全てを目指すということは難しいと思うのですけれども、当面のデジタル脳開発が目指すところとしては、完成形の脳の修飾によって、人々を幸せにする、病気を治すという理解でよろしいのでしょうか。それとも、御説明がなかっただけで、発達という視点もそれぞれ含まれているという理解でよろしいでしょうか。
【岡部センター長】  すみません。説明が足りなかったと思います。デジタル脳モデルの4番、これは主に精神疾患ということになっているのですけれども、東大の笠井先生がやられた東京ティーンコホートは、小学校に入ってから10代ぐらいまでの発達期の方の脳の画像データも取られていまして、その間の発達年齢と脳画像から推定される年齢みたいなものを比較するような研究も、その中に含まれています。ですから、私としては、発達障害みたいなところから、その次には、統合を失調しているような疾患、さらに鬱病ですとか認知症、できれば全てのライフスパンを横断するような形でこの研究を進めていければいいと思っていますので、まさに先生が言われたような発達時間軸というものは非常に重要だというふうに考えています。
【牧之段委員】  それも含めたデジタル脳開発ということでよろしいでしょうか。
【岡部センター長】  はい。むしろそれを入れないと、ここの部分はうまくいかないのではないかなというふうに思っていますので。
【牧之段委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  最後に、松本委員、お願いいたします。
【松本委員】  岡部先生、どうもありがとうございました。デジタル脳、非常にいい概念なのですが、ぼんやりしていましたものを、再定義いただきまして、本当に分かりやすくなって、よかったと思います。
 「5つの柱」の後におっしゃっていました二つ、デジタル脳開発プラットフォームと、その後の脳統合データベースについて、お伺いしたいと思いました。
 プラットフォームのほうですが、つくるために幾つかのGY的な、こういうソフトウエアの上でモデルをつくることができるということを聞いておりますが、そういうモデルがつくられた後、例えば、マーモセットであれ、ヒトであれ、ある程度、脳の結合様式が分かってまいりまして、各領域、ノードと申しますか、そういう場所があるとしまして、そういうもともとの構造、あるいは機能的なネットワークの上に理論を入れていくことでいろんな病態を理解していくと思うのですが、できれば、もともとのネットワーク自身はそのままにしておきまして、モデルを幾つか変えていくことで、何が一番いいかということがプラットフォーム上にできたらいいかなと感じました。こう申し上げましたのも、EBRAINSで先行していますヨーロッパで、てんかんのモデルのほうでありますが、生理的なことよりは、きちんと落とし込んで、実際に実装できることを目標にされておられますが、そこでもモデルが変えられるような仕組みをつくっておられると聞き及びましたので、私たちのプラットフォーム開発後にも、モデルを変えて使えるといいかと思いました。
 それと、脳統合データベースでございますが、革新脳・国際脳ということでデータが多数集まってきまして、特に画像、マーモセットのデータで、すばらしいと思います。今回、「5つの柱」でそれ以外のデータなども入ってくると思うのですが、ここに書いていますような集約されたデータは6年間の脳統合の後にもぜひ使えればいいと思いますので、こういうトップダウンのプロジェクトは五、六年で変わっていくと思うのですが、ここでつくり上げていくデータでございますが、次のフレームワークの中に継承できるような、そういうデータベースの予算というものもお願いできたらと感じました。
 以上でございます。
【岡部センター長】  ありがとうございます。まず、初めの点に関して、モデルをつくっただけではなくて、それがよりポリッシュアップされて、あるいは違う形に変化していくといったことは非常に重要だと思っていますので、多分、脳統合の期間中だけではなく、その後もこういったモデルが研究者コミュニティで使えるような形になっていることは重要だと思います。それにリンクさせて、データベースのほうも、当然、使えるようなものにしておく必要があると思うのですね。どうしても、こういった事業の予算というのは切れ目があって、切れ目のところでなかなかその次にうまくつながらないという面があるんですけども、一方で、切れ目が入ることで今までやっていたプラットフォームなりデータベースの問題点をきちんと改良して次につなげるということもできると思いますので、そういった切れ目をうまく活用して、次によりよいシステムにしていくといったようなことを、できれば考えていきたいと思っています。ありがとうございます。
【松本委員】  ありがとうございました。
【風間主査】  ありがとうございます。
 本日は、岡部プロジェクトリーダーの御発表により、研究者同士が同じ土俵で議論がしやすくなったというふうに、私、感じました。五つのデジタル脳モデルに関する具体的な御説明もあり、プロジェクトが目指している姿も明確になってきたと思います。委員の皆様からサポーティブな御意見や建設的なサジェスチョン等がございましたが、今後のよりよいデジタル脳の構築につながっていけばと思います。
 8分ほど超過してしまいまして申し訳ございませんけれども、本日予定しておりました議題は以上です。
 最後に、事務局から連絡事項をお願いいたします。
【菊地課長補佐】  事務局でございます。本日は、大変有意義な御議論をいただき、誠にありがとうございました。本日の議事録につきましては、事務局にて案を作成し、委員の皆様にお諮りし、主査の御確認をいただいた後、弊省ホームページにて公開いたします。
 次回の脳科学作業部会については、現時点において未定ですが、資料4のとおり、10月から11月頃に、脳神経科学統合プログラムの中間評価のため、作業部会を開催できればと考えております。本日の御意見を踏まえ、中間評価に向けて準備を進めてまいります。近日中に、改めて日程の調整をさせていただきます。
 以上でございます。
【風間主査】  それでは、本日の脳科学作業部会は、これにて閉会とさせていただきます。ありがとうございました。

―― 了 ――

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