脳科学作業部会(第9回)議事録

1.日時

令和7年6月30日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

WEB開催

3.出席者

委員

風間主査、坂内主査代理、渡部主査代理、大武委員、梶井委員、小板橋委員、鈴木(大)委員、鈴木(貴)委員、中山委員、前川委員、牧之段委員、松本委員

外部有識者

辻 真博(科学技術振興機構研究開発センター フェロー ライフサイエンス・臨床医学ユニット)、福士 珠美(東京通信大学 教授)

文部科学省

塩見研究振興局長、倉田ライフサイエンス課長、吉田ライフサイエンス課課長補佐

4.議事録

《議題1については非公開》

【吉田課長補佐】  それでは、これより本作業部会の模様は、報道関係者と一般の方にも傍聴をいただきます。傍聴の皆様におかれましては、マイクとビデオを常にオフにしていただけますようよろしくお願いいたします。
 それでは、風間主査から一言いただき、進行をお願いしたいと思います。風間主査、よろしくお願いいたします。
【風間主査】  よろしくお願いします。このたび脳科学作業部会の主査を務めさせていただくことになりました、理化学研究所の風間と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 脳科学作業部会の前身である脳科学委員会から数えて第13期目に当たる本会が設置されました。本質的なミッションというものは変わらず、脳科学分野の基礎的な研究開発の推進方策、研究開発の評価、研究開発に関する諸課題を議論することです。
 伊藤正男先生を委員長とした脳科学委員会発足時に、「脳に関する研究開発についての長期的な考え方」という文書が作成されましたが、28年たっても色あせず、脳科学研究の重要性や意義に関して、その本質を浮き彫りにされた先見の明に畏敬の念を覚えます。
 その一方で、脳科学研究を取り巻く状況や社会に与えるインパクトの大きさは、技術の発達や異分野との高度な融合によって急速に変化してきており、柔軟な対応が求められています。極めて精緻な神経活動計測や操作法の開発、オミックスデータのモダリティと規模の爆発的な拡充、AIの飛躍的進化による新たなBMI、BCIの出現など枚挙にいとまがなく、本日の議題に設定されているブレインバンクやニューロエシックスなども、関連する重要事項です。
 脳科学研究のさらなる進展につながるよう、本部会が活発な意見交換の場になることを願っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、第13期の最初の会合でございますので、文部科学省研究振興局、塩見局長より御挨拶をいただきたいと思います。塩見局長、よろしくお願いいたします。
【塩見局長】  ありがとうございます。文部科学省研究振興局長の塩見と申します。本日、第13期の脳科学作業部会の最初の会合ということでございますので、一言御挨拶をさせていただきます。
 まずもって、皆様方にはお忙しい中、この作業部会の委員をお引受けくださいまして誠にありがとうございます。
 近年、脳科学、脳に関連する課題、認知症やうつ病でありますとか、そういった精神・神経疾患、また超高齢化社会を迎える我が国における様々な社会的な課題というものが、今、大きく取り上げられるようになってきておりまして、そうした疾患の根本の解明でありますとか、画期的な診断・治療・創薬等に向けた基礎研究の推進ということが、一層重要な課題となっております。このことについては、先ほど風間主査のほうからお話があったとおりというふうに考えております。
 さらに、これも先ほどお話がございましたけれども、AI技術の進展、これは著しいものがあるわけでございまして、その中で、脳科学研究を取り巻く環境が大きく変化をしております。大規模なデータを活用した研究、また、脳科学の知見を応用したニューロテクノロジーの発展など、新たなアプローチによる研究開発も次々に進んできていると承知しております。
 一方で、研究開発におけるデータ基盤の在り方や、また、基礎と臨床、産業界との連携、さらには倫理的な課題への対応など、多くの課題もまた存在するようになってきております。
 こうした動向や課題なども踏まえながら、我が国における脳科学研究の発展に向けまして、委員の皆様方からぜひ忌憚のない御意見をいただきまして、我々としましてもそれをしっかりと受け止めて、今後の政策に生かしていきたいというふうに考えております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
【風間主査】  塩見局長、ありがとうございました。
 それでは、続きまして、委員の御紹介をさせていただきます。資料1-1の委員名簿を御参照ください。
 今期は13名の委員の皆様にお願いさせていただきます。12期から引き続きお願いいただくことになった先生方、どうぞ今期もよろしくお願いします。
 また、今期から新たに、武田薬品工業株式会社の梶井靖委員に御参加いただいております。梶井委員より御挨拶をお願いします。
【梶井委員】  ただいま御紹介にあずかりました、武田薬品工業の梶井と申します。現在の職責ですと、弊社の研究開発活動の日本における監督をしておりますけれども、もともとは、現在の国立精神・神経医療研究センターにおきまして、6年ほど精神疾患の研究部におりまして、その後、製薬会社に移って、精神疾患・神経疾患の創薬に携わってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。
【風間主査】  ありがとうございました。
 それでは、続いて、作業部会の設置について、事務局から説明をお願いします。
【吉田課長補佐】  事務局でございます。資料1-2を御覧ください。
 設置の趣旨、調査事項、設置期間については、資料に記載させていただいているとおりでございます。脳科学作業部会におきましては、脳科学分野における研究開発の推進方策ですとか評価について議論をしていく予定でございます。
 また、本作業部会につきましては、参考資料1、2及び3のとおり、ライフサイエンス委員会の運営規則と議事運営にのっとって運営をさせていただきます。
 事務局からの説明は以上でございます。
【風間主査】  ありがとうございます。
 ただいまの説明内容について、御意見、御質問がありましたらお願いいたします。
 よろしいでしょうか。
 では、次の議題に移ります。次の議題は、脳科学研究の現状及び今後の論点等についてです。こちらも事務局より御説明をお願いします。
【倉田課長】  それでは、資料2-1に基づきまして最近の脳科学研究の動向と、そして資料2-2で論点のほうを御説明させていただきたいと思います。
 まず、資料2-1でございますが、こちら、脳科学研究等が政府の政策文書でどのように位置づけられているかというところを、最初に御説明を簡単にさせていただきます。
 まず、今年の2月に閣議決定をされました「健康・医療戦略」でございますが、その中で8つの統合プロジェクトというものが定められておりますが、その中の6番目のシーズ開発・基礎研究プロジェクトの中に、この神経疾患・精神疾患の画期的な診断・治療・創薬等のシーズ開発に向けた基礎研究を推進するといったところが記載をされてございまして、3ページ目に、フェーズルーラーと呼ばれております、関係省庁との関係も含めて記載をされているところでございます。
 5ページ目をお願いします。文部科学省における脳の事業でございますが、現在、「脳統合プログラム」と呼んでおりますけども、これまでの複数のプロジェクトを統合する形で、現在この一つのプロジェクトにまとめて推進をしているところでございます。こちらは令和6年から始まっておりまして、令和11年までの6年間のプロジェクトとして進めさせていただいております。
 こちらの「脳統合」を始めるに当たりまして、これまでのプロジェクトより連携を強化するという形で、中核拠点というものを設けさせていただくとともに、倫理的課題や実用化に向けた課題を対応するという形で、体制も変更させていただいたところでございます。その辺りを次のページから御説明をしているところでございます。
 昨年も、「脳統合」につきましては、こちらの委員会でも概要等、関係の先生方からも御説明をいただいたところでございます。次のページでは、中核拠点と個別課題の概要を示しております。中核拠点の代表機関には理化学研究所の脳神経科学研究センターに対応いただきまして、そこに分担機関が入る形で体制を組んでいただいております。これらが個別重点課題、ここに①から⑤を掲げておりますが、こういった個別の課題とうまく連携をしながら、相互に進めていただいております。
 また、下段のほうにございますが、先ほど申しましたように倫理的な課題ですとか、知財を含めた実用化支援、この辺りについても支援班を設けて進めさせていただいているところでございます。
 今年度につきましても、先日、公募の採択課題も発表させていただいたところでございまして、複数の課題を走らせながら、まさに進めさせていただいているところでございます。
 本日、個別の課題の詳細は省略させていただきますが、次のページから資料を御参照いただければと思います。
 11ページを御覧いただければと思いますが、最近の主な成果ということで御紹介をしておりまして、左側は、6月の上旬に、報道もかなり出ておりましたので、既に御覧になられた先生方も多くいらっしゃるかと思いますけれども、こちらはQSTの研究チームのほうで、PETでの診断薬、薬剤を開発されておりまして、Tauの病変を見ることができる薬剤でございます。これは中高齢の気分障害でこういった病変が関わってくるということを、認知症との関連を示唆するような研究成果も発表されまして、こういったことが非常に注目を集めたところでございます。
 また、右側の例でございますけれども、こちらは順天堂大学の研究チームにおける成果となっております。パーキンソン病等の原因たんぱく質が血液検査で検出可能になるといった研究成果も発表いただいておりまして、基礎研究がより実用化につながるような例が出始めているという状況になってございます。
 また、「脳統合」以外の事業でも、文部科学省の関連で幾つか脳関連の事業を進めておりますので、本日御紹介させていただければと思います。
 まず、ムーンショットでございますが、ムーンショットの中でも脳が関連するものは3つの目標にわたってございます。まず目標1では、金井先生のほうで対応いただいておりますけれども、いわゆる非侵襲型あるいは極低侵襲型でブレインマシンインターフェースに関する研究を進めていただいているとともに、倫理的に適切に技術開発を進めていくということで、エビデンスブックですとかガイドブックの作成などにも取り組んでいただいております。
 また、目標2の未病に関連する取組としまして、高橋先生のほうにも認知症関連の研究に取り組んでいただいております。
 また、目標7はAMEDで実施をされているものになりますけれども、こちらもいろいろな疾患を予防・克服し健康に過ごしていくという関連の中で、脳研究についても進めていただいているところでございます。
 このように3つの目標の中での観点からも、いろいろな研究開発を進めていただいておりまして、様々なブレークスルーが今後期待されているところでございます。
 さらに、15ページでございますが、こちら、公募は既に締め切られておりますけれども、Kプログラムの中でも、脳波等を活用したブレインテックに関する先端技術というものが、今後、採択課題が選定され次第、進められていくことになる見込みでございます。
 日本の中でも複数のプロジェクトを進めているところでございますが、16ページにあるとおり、海外でもやはり脳研究については積極的に進められているところでございまして、米国ではブレインイニシアチブということで2013年から取り組まれているものがございます。また、欧州でも、EUあるいは英国でも、こういった形で脳研究についての様々な研究開発が積極的に推進をされております。
 また、中国におきましても、中国脳計画というのが2016年に策定され、進められているところでございますし、また、2021年から5か年計画での予算が計上されたというところでございます。これは一部でございますけども、各国とも脳研究を非常に加速させているというような状況でございます。
 17ページでございますが、その中で、脳を理解するといったところの基礎的な研究、ブレインテックあるいはニューロテックと最近は呼ばれますけれども、そういったものへの技術開発がさらに急速に、特にスタートアップなどを中心に進められてきているところでございます。例えば中段のほうの左側にございますが、ニューラリンク社におきましては、脳内埋め込み型の電子機器でのBMIのようなものも開発されてきておりまして、既に臨床試験なども開発が進んできております。
 また、いろいろなニューロテクノロジー関連の基礎研究なども、『ネイチャー』をはじめ様々な科学誌でも次から次に成果が発表されているというような状況でございまして、やはりこういったところの研究とともに、倫理的なところについても議論が必要ではないかといった声も高まっていると、そのような状況になっているところでございます。
 こちらは本当に、主な例の一部を切り取っただけでございますので、まだまだ様々な動向はあるかと思いますが、こういった動向を踏まえまして、本日、論点の案ということで、資料2-2を示させていただいております。
 こちらの作業部会では、令和5年の6月に、「今後の脳科学研究の方向性について」という中間まとめを一旦出させていただいたところでございますけれども、こういったものを踏まえて、先ほどの「脳統合」のプロジェクトなどを進めさせていただいているところでございますので、こういった様々なプロジェクトの進展を踏まえながら、あるいは先ほど紹介をしました海外の動向やニューロテックなどの動向を踏まえて、当面どういう課題があるのか、あるいはどういう基盤を整備したらよいのかといったところを、この作業部会でもまた御議論いただきながら、今後の関連のプロジェクトをより適切に進めていくことができればと考えておりまして、そのような観点から、ここに一部ではございますが、論点の例ということでお示しさせていただいております。
 まず、研究基盤の在り方ということで挙げさせていただいておりますが、様々な計測機器などが非常に高度化をしてきておりますけれども、そういったものをどのように国内でも共有しながら連携をしていけるとよいのか。あるいは、脳研究におけますと、やはり実験動物などを使っての研究というものも非常に重要になっておりますけれども、それ以外にもオルガノイドの在り方ですとか、あるいは生体試料をどうやって使っていくか、この辺りについても、昨今の研究の進展も踏まえながら、ぜひ先生方からも御意見をいただければと思っております。
 また、先ほど風間先生からもございましたように、3点目とも関連いたしますが、AIの技術の進展とともに、データをどのように確保し、そしてそれを共有していくのかといったところも非常に重要になっているというふうに考えてございます。この辺りのデータの質や量の確保の在り方や、特に画像データなどデータそのものの標準化の在り方、あるいは、国際的にどうデータをオープン、ないしクローズしていくのか、こういったところの考え方ですとか、本日の後半でも少し御紹介いただきますけれども、ブレインバンクというものをどのように整備することで、この研究を我が国としても支えていくことができるのか、この辺りについてもぜひ御意見をいただければと思っております。
 また、異分野との融合ということで、AIとの関連なども、ぜひ引き続き御意見をいただければと思っております。
 最後でございますが、ここは本日の後半の議題とも関係がございますけれども、やはりこのブレインテック、ニューロテックといったところの進展を踏まえまして、ここには「責任ある研究イノベーション」と書いておりますが、いわゆるELSIといったような観点も含めてどのように進めていくのか、あるいはそれを進めるための人材育成、産業とのつながり、この辺りにつきましても、ぜひ御意見をいただくことができればと思っております。
 本日、こちらを論点の例としてお示ししておりますが、後半、有識者の先生方からの御説明を伺いながら、この辺りについて、ぜひ先生方からいろいろな御意見をいただき、今後この作業部会で、こういった論点、あるいは追加に今日いただいたような御意見なども踏まえながら、今後の議論を進めてもらえればというふうに考えてございます。
 事務局からは以上でございます。
【風間主査】  ありがとうございました。
 現在進行中のプロジェクト、当面の論点など御紹介いただきましたけれども、ただいまの御説明の内容について、御意見、御質問等ありましたらお願いいたします。
 倉田課長がおっしゃったように、論点については、有識者の先生方の御意見などをいただきながら、我々のほうから随時提起することもしていきたいと思っておりますけれども、そのような内容でも構いませんし、現在のプロジェクトへの質問でも構いませんし。
 小板橋委員、お願いいたします。
【小板橋委員】  御説明ありがとうございました。小板橋でございます。
 脳科学研究に関して、精神・神経疾患を意識してやられるというふうにお話しされていたのですけれども、この当面の論点を拝見しますと、器質的に何らかの原因のある神経疾患に関しては、見えてくるものがすごくあると思うのですが、昨今患者数が非常に増えている精神疾患、特にストレス関連、環境との相互作用によって生じてくるものに関しては、あまり意識されていないように感じたのですが、その辺りはいかがでしょうか。
【倉田課長】  御指摘ありがとうございます。まさにこちらは、論点を本当にごく一部のものを例として取り上げさせていただいたものになりまして、まだ網羅的にできていないところがございまして、御指摘いただきましたような精神疾患などに関しても、ぜひそういった論点に含めて御議論いただければと思っています。御指摘ありがとうございます。
【小板橋委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  ありがとうございます。
 前川委員、お願いいたします。
【前川委員】  今回の脳プロなどは、全体的に精神・神経疾患の診断・治療・創薬等のシーズ開発に向けた基礎研究を推進するということだと思いますが、治療法の開発ということになると、この脳プロのところが結構基礎研究としては重要になってきて、基礎研究でほかのAMEDに申請しようと思っても、メカニズムの面でほかの疾患と競ってしまうと、なかなか採択が難しい点もあると思います。この脳プロの中の領域5のところが、もう少し採択数が多くてもいいのかなというような気もするのですけれど、その辺りについてはいかがでしょうか。
【倉田課長】  御指摘ありがとうございます。この辺りは、これまで先生方にいただきました、令和5年のときの中間まとめなども踏まえながら、採択課題のバランスなども議論をさせていただきながら進めてきたところでございますけれども、先ほど申しましたように、昨今いろいろ技術、あるいは研究も進展しておりますので、そういった動向も踏まえながら、こういったプロジェクトをどう進めていくかといったところも検討を進めてまいりたいと思っております。御指摘ありがとうございます。
【前川委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  ありがとうございました。
 小板橋委員、お願いいたします。
【小板橋委員】  ありがとうございます。
 研究の採択の話にも関連するかと思いますが、先ほど申し上げた精神疾患、環境との関連で生じるものということですので、予防の観点、昨今、非常に精神科外来の受診患者数が増えているかと思います。そのことに関して精神科の先生からは、過度の医療化が進んでいないかという危惧もお伺いしております。
 ふだんの生活の中で、人間関係として解消し得るものというのもいっぱいあるはずで、そうなってくると、今まで哲学や人文系で解決してきた部分、そこといわゆる最先端の脳科学との融合が必要なんじゃないかなと思っております。
 AIの御指摘がありましたけれども、いわゆる知恵ですよね、生活の知恵につながるような、医療化を進め過ぎないという観点での研究もぜひお願いできたらと思います。
 以上です。
【倉田課長】  御指摘ありがとうございます。まさに異分野融合のようなところの進め方にも関係するものだと思っております。御指摘ありがとうございます。
【風間主査】  渡部委員、お願いします。
【渡部委員】  ありがとうございます。先ほど来の議論にも非常に通じるかなと思うのですが、精神疾患ということは、どこからが正常でどこからがそうじゃないのかって、なかなか線を引きづらいということは、つまり、社会の在り方ともすごく密接に関係するのかなと思っています。
 前回の作業部会でも先生方に議論いただいたと思うのですが、脳と心の問題って融合領域で、それこそ哲学ですとか文献のようなものも含めた複合領域であるはずなのですが、なかなか今、ライフサイエンス委員会の下での作業部会という形だと、そういったことをどこで議論すればいいのだろうねと、前回の作業部会でもそういった話題になったと思います。
 なので、立てつけとして、この作業部会でどこまで議論できるのかというのは課題だとは思うのですけれども、これはやはり地道に上げていかなければいけない課題かなと思います。そういった社会との連携ということで、精神の制御メカニズム、基礎が分かって、その制御破綻としての疾患みたいなことにつなげるというのは、一つ大切な方向性なのかなと思ったので、ぜひ議論を続けていただけたらと思いました。
 以上です。
【倉田課長】  御指摘ありがとうございます。先ほどからいただいています、やはり社会との関係性ですとか環境との関係、あるいは異分野との連携、この辺り、ぜひ今後の論点の中に含めて議論を進めてまいれればと思います。ありがとうございます。
【風間主査】  今の渡部委員の御指摘、非常に大切だと思っております。どこまでがこの作業部会の議論の範疇なのかということは、常に事務局とも相談しながらになると思うのですが、やはり非常に学際的な分野ですし、ライフサイエンスの中に包含された分野ではあるのですが、極めて広い分野との連携というものを我々は行っているわけですから、サイエンス委員会で議論していただけるような内容も、私としては積極的に取り上げてもいいのではないかなというふうに考えている次第です。
 では、時間になりましたので、次の議題に移りたいと思います。
 次の議題は、ブレインバンクの現状についてです。科学技術振興機構研究開発戦略センター、ライフサイエンス・臨床医学ユニットの辻フェローより御説明をいただいた後、質疑応答の時間を設けたいと思います。
 それでは、辻フェロー、よろしくお願いします。
【辻フェロー】  よろしくお願いいたします。では、まず資料を共有させていただきます。私からは、ブレインバンクの現状と展望というところで、15分前後お話しさせていただこうかなというふうに思ってございます。
 まず、ちょっと自己紹介だけさせていただきたいなというところで、JSTの人がなぜいきなりこういったところでしゃべり出すかというところですけれども。JSTの中にはファンディング部門がありますけれども、それだけでなくて、CRDSという私がおりますところはむしろシンクタンク部門でございまして、様々な分野の情報を整理させていただきつつ、様々な役所の皆様、官公庁、関係機関あるいは業界団体、様々なところに情報を出していくと。場合によっては、次はこういうテーマが重要じゃないかというところも出させていただくと。今、ヘッドは永井良三先生でございまして、私はここに所属してございます。
 我々の守備範囲と申しますのはこちらでございまして、基盤とかELSIの辺り、あるいは基礎研究やテクノロジーの辺り、あるいはメディカル寄り、あともう一つはバイオエコノミー寄りでございます。我々は一応この精神・神経疾患と脳神経を見つつ、やはりそれらの分野というのは、先ほど少し議論になりましたけれども、様々な分野と実は横断的に関係しているなというところがありますので、その一つ一つの分野を深掘りしつつ、ほかの分野との絡みを見ながら常に調査するというところを意識しておるところでございます。
 もう少し脳神経分野に関しまして解像度を上げたものがこちらでございまして、一つ出口としては、いわゆるブレインテック、ニューロテックのような呼ばれ方をするところが最近あるかと思いますけど、医療と非医療といったところがあるかなと思っております。また少し遡ってまいりますと、やはり脳のメカニズムの解明といったものは、バイオロジーであれテクノロジーであれ、あるいはAIであれ、そういった切り口でやらねばならぬところでございまして、本日はこの中でも研究基盤としての死後脳バンク、ブレインバンクと、あとは少し脳のデータ基盤に関してもお話ししたいなと思っております。
 ただ、ほかにも医療情報をどうしますとか、あとはこの後、福士先生のほうからお話があると伺っておりますが、ELSI/RRIのような話といったところ、これら全て重要であるというふうに考えておるところでございます。
 続きまして、世界の主なブレインバンクの動向でございまして、世界の主立ったバイオバンクというものを、公開情報ベースである程度整理させていただきました。
 こうやって見てまいりますと、やはりヨーロッパ、あとアジア地区、あるいは南米・北米と、結構多くの国々にブレインバンクというものはあるらしいということが分かりました上で、やはりイギリスと、アメリカが結構規模が大きいというところがございます。日本やオランダ、その辺りは次に位置するぐらいのところかなというふうに思ってございます。
 あと、これは青字が死後脳のバンクで、赤字がデータ基盤、脳のデータ関係をたくさん扱っているかなというところで挙げさせていただいております。
 続きまして、ブレインバンクのネットワークのほうを見てまいりますと、発足年度を真ん中に書いておるのですけれども、ヨーロッパ、ドイツ、オーストラリアでは90年代の頃からかなりブレインバンクネットワークがございました。一方で、それらをよく見てまいりますと、結構途中で閉じてしまっているもの、閉じた結果、ネットワークとしてではなくて単独の機関でそのまま続けるというふうにしているところが結構あるのかなというところでございました。
 ただ、それらがその後どういう顛末をたどったかを見ておりますと、例えばオーストラリアのほうは、やはりもう一回立ち上げるべきじゃないかという議論は結構盛り上がっておるようですし、ドイツについても、終わってはいるのですが、その直接の後継かはちょっと怪しいところはあるのですけれども、新たにネットワークが立ち上がったりというところで、ブレインバンクをネットワーク化していくというのは、90年代の頃はちょっと時代がまだ追いつかなかったのかなと思うのですけれども、直近10年を見ておりますと、やはり世界の潮流なのかなというふうに感ずるところでございます。
 ここから、アメリカとイギリスと日本について、もう少し解像度を高めにお話ししたいと思っております。アメリカはやはり世界最大のブレインバンクネットワークを持っているのかなというところで、約1万8,000件、しかも高齢者と小児両方持っておりますし、病気も様々持っております。
 こちらは、資金源としてはもうNIHの公的資金で運営されておりまして、自立運営しているかなというところは少し調べたのですけれど、自立分野はとてもやっている状況ではなさそうだなという印象でございました。
 もう一つ、特筆すべきところとしては、付随するデータとして全ゲノムデータとか精神疾患の患者ゲノムデータといったところがかなりたくさん公開されておりまして、やはりサンプルが保管されて利活用可能になっているだけではなくて、データもきちんと利活用できるようになっている、これは非常に大きいのかなと思っております。
 イギリスもそれに近い形でございまして、非常に件数は多くて、様々な資金を取りまして、ゲノムもある程度入れているというところがございます。
 イギリスはサンプルの種類によって料金設定があるようなのですけれども、これで自立運営しているかというとそんな規模の金額ではないのかなと。やはり国の資金と、あとは慈善団体の資金で運営されているのかなという印象はございました。
 続きまして日本でございまして、やはり各大学、各病院等で、長らくブレインバンクに関して頑張ってこられた方がたくさんおられたのかなと思っておりまして、それらがネットワーク化される形で今あるのかなと思っておりますし、特に標準化が最近設定されたというのも非常に大きなことだったのかなと思っております。
 ただ、見ておりますと、少なくとも公開情報ベースでは、このブレインバンクに付随するゲノムデータのようなものがどこかに公開されているかというと、直接的には見当たらないところがございまして、やはりブレインバンクの価値を最大化するためには、こういったゲノム等のデータも、しっかり集めて解析して分析して公開していくというのは大事なのではないのかなと思うところでございました。
 続きまして、こちらはブレインバンクではなくて、主に脳のデータだけになってしまいますけれど、これはつい最近の話で、この6月の『ランセット』で公開されておった話なのですけれど、1万ブレインプロジェクト、「Path-ND」というもので、パーキンソンの5,000例で様々なデータを取ろうと。これからのデータを取る順番も書いてありまして、そんなに特殊なことはしていないかなと思うのですけれども、最初はやはりデータ公開環境を整備しながら、だんだん入れていくデータを増やしつつ、最後は大規模にたくさんのデータをみんなで使えるようにしようと、こういう時間軸でこういったプロジェクトが進んでいると。
 少し興味深かったのは、この辺りは財団がお金を出していると。やはりアメリカは国以外の様々な資金減があることが非常に強いところでもあるのかなと思いましたし、なかなか日本だと、この財団といったところで大きいところは難しいところもあろうかと。すると、やはり国の役割も、この脳のデータベースのデータセット構築という意味では非常に重要なのかなと思っております。
 また、もう一つアメリカになってしまいますけれど、アルツハイマーに関しましては、アメリカ全土のアルツハイマー関係のデータセットを構築して、それをワンストップで提供できるようにしますと。こちらは標準化がどこまで本気でやっているのか、うまく見て取れなかったのですけれども、アメリカ国内の膨大なデータをワンストップでみんなが使えるようにしようという動きがあるというところは興味深いところでございましたし、日本のほうを見てまいりますと、AMEDの「国際脳」のほうで、まさに撮像の標準化、標準化のプロトコル開発が精力的になされておりまして、こちらは非常に重要な取組かなと思ってございます。
 続きまして、ブレインバンクではなくて、住民コホートとか疾患コホートといったようなところでも、脳のデータ収集といったものは最近結構始まっていますよというところを幾つか事例でお示ししたい。
 一つは、UKバイオバンクでは、最近6万人を対象にMRIで脳を撮ると言っておりますし、メディカルメガバンクも1.2万件の脳画像を撮ると言っておられます。
 また、つい最近プレス発表であったかと思いますけれど、バイオバンクジャパンと高齢者ブレインバンクで共通する人が100人いたということが発見されたというところで、死後脳のサンプルとデータに生前の様々なデータを加えて、ゲノムデータも含めてしっかり整っているところと接続がなされると、ヒトの脳に関して分かることが非常に多くなるのかなと思っております。
 続きまして、ブレインバンクを活用した成果でございまして、論文数を見てまいりますと、95年から2025年まで増えていると言える――若干ネガティブな物言いをすると、ライフサイエンスの論文自体がそもそも増えています。例えば細胞の論文がどうかというとやはり増えていて、死後脳の論文も増えていて、死後脳が特に増えているかというと、ちょっとそうは言いにくいところがありますが、まあ増えているというところです。
 もう一つ、国別のランキングを見ると、やはりアメリカは圧倒的かなというところなのですけれど、その次のグループとしては、死後脳の論文としてはイギリスと日本とドイツが団子状態で2位グループで、中国がその後ろにいるという感じがございます。中国は一方で最近すごく伸びてきておるのですけれども、2010年から24年の15年間を見ると、アメリカ1強で、そしてイギリス・日本・ドイツが2位グループというところで、日本もいい線行っている分野かなというふうに思ってございます。
 また、このブレインバンクを活用した成果という意味ですと、末梢神経に着目した神経変性疾患の評価、これは国内の齊藤先生がやられた話で、日本の死後脳バンクを使われたものかと思っております。
 また、アミロイド繊維の構造を電子顕微鏡で見たやつかと思いますけれど、こちらは日本の凍結脳のサンプルを用いて、イギリスのグループが様々、クライオ電顕を使って解析したというところがあろうかと思っております。もちろん、こちらは日本のサンプルなので、全て日本でできればよかったかなと思うところはありますけれども、一方、日本の優れたサンプルが海外でしっかり活用されて、こういう優れた論文にちゃんとなっていると。ある意味これは日本のサンプルが評価されているとも取れるのかなと思いますと、やはり日本のブレインバンクは非常に重要かなと。
 もちろん、これで日本の研究者が、クライオ電顕でさらにそこから先までできたらもっとよかったかなと、個人的には思っていたりはします。
 また、日本とデンマークで、こちらはAIを使って神経変性疾患の発症のメカニズムのようなものをある程度予測しようといった取組もなされております。
 もう一つは、これはアメリカの成果になりますけれど、亡くなった方の肝臓・腎臓・脳を見ていくと、マイクロプラスチックが結構たまっていますよと。しかも、認知症と診断された方にはよりたくさんたまっているようですねというふうにございました。
 もちろん、メカニズムはまだ分かっていないのかなと思うのですけれども、ある程度こういった現象が見えるというのは、ここから先のバイオロジーに進めていく上では非常に重要かと思っておりますし、またアメリカの例が続いて恐縮ですけれども、脳の発生・発達とか、あるいは精神疾患とか、そういったものに対して死後脳を使って、しかもそれをプロテオーム解析とかトランスクリプトーム解析と最新のオミックス解析を使って何かを探していこうと、そういった取組がアメリカのほうでは活発に始まっているのかなと思いますし、日本もこういった研究がもっと増えていく必要があるのかなというふうに感じておるところでございます。
 続きまして、基礎医学/医薬品開発の潮流とブレインバンクへの期待というところで、こちらがまとめスライドで、この後数枚続くのですが、世界の潮流としては、これは脳に限らない話ですけれども、ヒューマンバイオロジーというのが非常に重要性を増しているのかなと。
 もう一つは、特に創薬・医薬品開発の観点でのサルの動物実験の削減というのは、アメリカを中心に非常に大きく動きつつあるのかなと思っております。
 また、神経疾患の薬品市場、精神疾患の薬品市場があれば、ブレインテックといった新しい市場形成も期待されますし、最後申し上げたいのは、バイオバンクを起点とする創薬エコシステム、これがブレインバンクでもいずれ成立するのではないかという話もちょっとしたいなと思っております。
 ヒューマンバイオロジーという意味ですと、日本はマウスの免疫学がとても強い一方、人間、ヒトの免疫学になるとちょっと弱いですよと。免疫って今、例えば創薬という意味だと非常に重要な位置づけにあります。やはりマウスの免疫では限界がありますので、ヒトの免疫をいかに進めるかというのが、医療イノベーションを考えると大事なのかなと思っておりまして、これは免疫に限らずブレインもそうだと思っておりますし、ヒューマンバイオロジーの推進というのは非常に大事かなと。
 そのためになすべきことは複数あろうと考えておりますけれど、その一つとしてやはりサンプルへのアクセシビリティを高めるという意味で、ブレインバンクを整備して、多くの方がヒトの脳を使った研究ができるようにすることがとても大事かなと思っております。
 また、この創薬・医薬品開発においてお猿さんを使う数を大きく減らそうというのが、FDAからかなり厳しいルールが最近次々と発表されております。ヨーロッパでは前々からサルを使うのは減らそうという話がありましたけれど、アメリカもかなり厳しく言ってきております。
 そうなってくると、ヒト代替評価系って大事なキーワードにすごくなってきておるかなと思っておりまして、その中の一つにやはり脳神経、例えば脳オルガノイドとかもあるかなと思いますし、いかにサル以外で、実験系としてヒトの脳神経研究をきちんとできるような基盤づくりをしていくかというのは大事かなと。そこにブレインバンクは一定の役割を果たすのではないかと思っております。
 神経疾患はこれから先、世界の医薬品市場ではかなり伸びると言われておりますし、精神疾患については今のところ、薬剤という意味ではなかなかブレークスルーのすごい薬が次々と、という話はないのですが、もしすごい薬が出てきたら、ニーズは非常に高いので、市場は極めて大きくなるだろうというふうに見込まれております。
 また、治療法という意味ですと、新しいモダリティ、次々といろんなモダリティが出てきています。特にがんが一番多いのですけれども、その次に神経変性疾患といったものが非常に多くて、様々な方が技術開発をやっておられるかなと。
 ただ、精神疾患に関しましては、デジタル治療といったようなものがこれから重要なポイントになろうかなと思っておりますし、特に『ネイチャーメディシン』の「医学を形づくる11の臨床試験」、こちらを見てまいりますと、神経疾患も多いのですけれど、最近は精神疾患がここに上がっていることも結構ありますので、精神疾患も、先ほど委員の先生方もおっしゃいましたけれど、これから大事になるのだろうなと思っておるところでございます。
 最後から2枚目です。イギリスのUKバイオバンクという、50万人規模で血液サンプルやゲノムデータが非常に完備されたものがございます。このデータを完備するプロセスでは、かなり世界の大手製薬企業がお金を入れて基盤を完備するという流れがございまして、今そのバンクの成果を基に世界中でスタートアップが立っています。それらのスタートアップは、幾つかいい薬を出しつつ、追々世界の大手製薬企業に買われていって、大手製薬企業はその稼いだお金を一部バンクに戻していく、そういう構図がだんだん見え始めているなと思います。
 ブレインバンクに関しましても今すぐこの循環構造になるかというと、ちょっとまだ遠いかなと思うのですけれども、ある意味、先行するバイオバンクでこういった循環構造ができ始めていると考えますと、ブレインバンクもこういう流れがあってもいいんじゃないかというふうに期待しているところでございます。
 最後のスライドです。日本において何が重要ですかといったことを簡単に整理いたしました。一つはブレインバンクの基盤整備というところで、ブレインバンクの規模拡大。現行のブレインバンクの体制そのものの強化、人材的なところの強化が必要だと。もう一つは、言うはやすしで実際にやるのは非常に大変かなとは思うのですけれど、メディカルメガバンクのような大きな住民コホートでも、例えば脳のデータを取る、場合によっては死後脳も考えていく、といったようなところも必要ではないかと思っております。
 ブレインバンクに付随するデータ強化というところでは、やはり正確な診断をつけるというのが大事かなと。加えて、AIを使って難しい診断もきちんとやっていくというのも大事かなと思っております。また、ブレインバンクにゲノムデータ、こういったオミックスデータをきちんとためていくといったところが、これから利活用を考えていく上でとても重要になろうと思っております。
 2番目としましては、こちらは疾患コホート・住民コホートでも脳のデータをもっと取っていく、あるいは場合によっては脳のサンプル、組織のサンプルといったものも採っていけたらいいのではないかというふうに思っております。
 3番目といたしましては、さらに出口といったところを意識していくと、ヒトの脳のデジタルツイン、ヒトの脳神経のオルガノイドの構築といったもので基礎研究や創薬が進むと思っております。
 私からは以上でございます。
【風間主査】  辻先生、ありがとうございました。
 ブレインバンクに関する詳細な調査結果及び考察を御発表いただきました。
 それでは、ただいまの説明内容に関して、御質問等ございましたらお願いいたします。
 梶井委員、お願いいたします。
【梶井委員】  バンクの活用が創薬につながり得るというお話もありましたので、ユーザー側の立場から少し発言させていただきます。
 もちろん我々、バンクの活用というのは選択肢に入っているのですが、活用する上で2点ポイントがあります。まず1つは、今日、ネットワーク化というお話がございましたけれども、日本にある医療資源、あるいはデータは非常に質が高いのですが、ばらばらに存在していて、利用する立場からしますと非常に使いにくいということがございますので、ネットワーク化というのは非常にありがたい方向性だというふうに認識しております。
 もう1点は、特に関連する情報が構造化されていないという点が問題でして、これはバンクに限らず、例えば診療データ等もそうなのですが、同じ状態を表している患者さん、Aさん、Bさんがいたとしても、その情報のデータのレコードのされ方が構造化されていない。そうなってくると結局、一例一例マニュアルで見ていかないと分析ができない。となると、我々の立場としては、そういうデータであれば使いませんよということになってしまう。データあるいはバンクがセントラライズされてネットワークでつながっているということは使い勝手の点で重要ですけれども、さらに、実際に使うとなると、付随する情報が構造化されている、あるいは構造化されていないとしても、生成AI等を使って構造化して分析できるようなシステムがないと、実際それを利用しようとしたときの人的コスト、様々な意味でのコストがかかり過ぎて、結局我々は使いませんということになります。使い勝手がどうなるかという観点で、国のほうで少し議論いただくのが重要かなというふうに、ユーザーの立場からは考えております。
 以上です。
【風間主査】  辻先生、今の点に関して何かございますでしょうか。
【辻フェロー】  ネットワーク化が重要というのはまさにそのとおりでございまして、もう一つ情報の構造化というところも、やはりこちらも、厳しい言い方をすると、多分日本は海外に比べて10年20年、医療情報の構造化といったところだと遅れちゃっているのかなというところは、結構心配しているところでございます。
 ただ、国内でSIP3をはじめとして、ある程度情報の構造化と利活用だけに特化して、しかも疾患はある程度限定しながら標準化した情報で、企業が使いやすいものをどんどん整理していこうと、そういった動きはあるのかなと思います。例えばそれは循環器では大分進んできているのかなと思うのですけれども、精神・神経疾患とかでもディープクリニカルデータ、しかも構造化されたデータをある程度の人数できちんと整理していくみたいなものは大事かなと。これが脳プロでやるべきことかどうかは、ちょっと私もよく分からないのですが、大事なテーマかなと思っております。
 以上です。
【風間主査】  今、循環器のほうでは構造化されたものができ始めているとおっしゃいましたけれど、その理由というのは何かあるのでしょうか。
【辻フェロー】  それをやりたいというふうに決意した方々が多くて、それに対して内閣府の予算が一定程度ついたというところで、大体国内15機関か20機関ぐらいが一緒になって、大分構造化したものをつくってきている。
 また、そのデータについては、結構ほかの診療科のほうも、そういったやり方をまねしたいという動きがあるというのはちょっと聞いておりますので、例えば一番いいのは、国の電子カルテそのものが全国規模で標準化されたらと思うのですけれど、なかなかそこは大変なところもあるので、疾患別に、少しゲリラ的ですけれど、そういう流れにこのブレインバンクとかブレインデータバンクというところも入っていけたらいいのかなとは思ってございます。
 以上です。
【風間主査】  ありがとうございます。
 では、坂内委員、お願いします。
【坂内委員】  御説明ありがとうございました。2件質問がございます。
 1件目は、ゲノムデータとブレインバンクの紐づけに関してです。これはとても重要なことで、やらなければいけないし、多分ブレインバンクが生かされる上で必要不可欠かと存じます。
 しかし、我が国では個人情報保護法でゲノムデータの扱いが大変難しくなっていて、別の委員会でも、そこが基礎研究を妨げているということが問題になってございます。
 ブレインバンクにゲノムデータを紐づける際に、そのことによって、ブレインバンクのほうも個人情報保護法の対象になったりして、使いにくくなったりする可能性はありますでしょうか。
【辻フェロー】  すみません、そこについては私も、断定的にどうですというふうには、ちょっと分からないところはございます。申し訳ありません。
【坂内委員】  ありがとうございます。この脳の部会だけでどうしようもできることではないのですが、方向性としては、やはりゲノム情報で不必要に個人を特定することがなければ、活用できるデータとして我が国で整備を整えていくのがよいことだと思われますので、そういった方向が可能かどうか、この部会で議論して、できれば公開してくださいというような意見とかを出せたら、世の中進むのかなというふうに思います。
 2件目も紐づけ問題になるのですが、今、脳の疾患というのは脳だけ見ていては分からない部分も多く、全身のデータがあったほうがいいということで、先ほど辻先生の御提案にありましたとおり、血液のデータなども一緒にというのはとてもいい考えだと思います。アメリカとかイギリスでは、そのようなデータというのは整備されているのでしょうか。
【辻フェロー】  サンプルという意味だと、そんなに整備されていないのかなという気はしております。私も確定的には申し上げられないところがあるのですけれど、日本のサンプルを海外の方が使ってくださった背景としては、日本は中枢系の組織だけではなくて末梢のいろんな組織もきちんとブレインバンクに保管されているというところが、逆に言うと、海外ではそういうのはあまり取ってないのかなというふうには思ったところです。
【坂内委員】  大変重要な視点かと思います。数が多ければいいというわけではないということですよね。むしろ少ないからこそ、ほかのサンプルとも一緒に解析できたというのが、我が国のブレインバンクの強みとして評価された事例かなというふうに理解します。ありがとうございました。
【辻フェロー】  ありがとうございました。
【風間主査】  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。
 鈴木大慈委員、お願いいたします。
【鈴木(大)委員】  大変詳細にわたって御説明いただきありがとうございます。先ほどから話題に上がっているAIとの連携であるとか、データ解析に関して質問です。私のバックグラウンドは比較的機械学習とかAI関係なので、そっち系の質問をさせていただくのですが、そのブレインバンク自身に関連する日本の研究が、世界でも結構プレゼンスが高いというのは非常にいいなと思いつつ、それをちゃんと使ってデータ解析したり、さらに、最後に出てきた脳のデジタルツインとかを考えると、かなり情報系の研究との連携というのを密にやっていかなきゃいけないような案件だとお見受けするのですが、そこは世界に対して、日本のプレゼンスって今どんなふうになっているのでしょうか。
 もうちょっと言いますと、そこら辺をちゃんとやれるような人材の育成というのがちゃんと進められているのかどうかというのが、ちょっと気になってお聞きします。よろしくお願いします。
【辻フェロー】  AI人材をもっと増やそう、育成しようというのは、これはある意味ブレインに限らず、もっと言うとライフサイエンスに限らず、という話にもなってくると思いますけれども、その辺りはかなり重要なテーマとして、JSTのほうでも少し進めておったようにも思いますし、各省で考えられているのかなと思っております。
 ただ、これが海外を圧倒するほどの人材がたくさん要るかというと、まだそういう状況ではないのかなというふうには思っております。今日お示しした事例は、日本のサンプルを用いて、海外のデンマークの方がAIをつくりましたという話にはなってしまいまして、ある意味これは、強みをそれぞれ生かして、いい論文を書いたという話なのかなと。ポジティブに捉えたらそうなのですけれども、やはりこの辺りも、国内である程度いいサンプルを日本に持っているのだったら、そこの解析も含めて、AIは日本でやれたらいいのかなとは思っております。やはりAI人材の強化というのは、これから非常に重要なテーマかなと思っております。
【坂内委員】  ありがとうございます。AI自身、私の専門の機械学習などでも、世界と比べると日本は人数がそもそも足りていないなという気もしますので、こういった境界分野でどれだけ人材を育てるかというのは、やはり課題かなと感じました。
 せっかくいいデータがあるならば、利用される人が育ってほしいなと感じています。どうもありがとうございます。
【辻フェロー】  ありがとうございました。
【風間主査】  ありがとうございます。
 では松本委員、お願いします。
【松本委員】  辻先生、どうもありがとうございました。日本、そして世界のブレインバンクあるいは脳データ基盤について包括的にお話をいただきまして、大変参考になりました。
 恐らくブレインバンク、今、東京の精神・神経研究センターを中心に頑張っておられると思うのですが、なかなか、臨床の立場からですと剖検をする症例が減ってきておりまして、その中で現在、10数か所の施設でブレインバンクをしっかり立ち上げようという方針は非常にすばらしいと思っております。
 ただ、実際に剖検できる方は限られておりまして、その中でまず、先ほども御質問がありましたように、生きておられる間のいろんな血液のデータ、あるいはプロテオーム、メタボローム、オミックス解析などの情報もひもづくと、この数が決して多くはならないであろう、しかししっかりと捉えているブレインバンクに関しては、それが大事かと思いました。
 一方、精神・神経疾患、特に精神疾患ですとなかなか剖検まで行かない患者さんが多いと思いますし、この観点につきましては、恐らくは脳データ基盤の整備というものが大事になってまいります。被験者の皆様、患者さんも入ると思うのですが、その生体データ、血液を含むデータのデータベース化というのが、同じスペクトラムの中で、特に精神系の疾患になりますと大事な気がいたしました。
 辻先生、しっかりとこれまでの各国のデータベースをお見せいただきましたが、先ほど文科省の脳作業部会の皆様から、今、日本では脳統合、そしてムーンショットも2と7ですかね、あるいはJSTのKプログラムも始まりまして、多数の研究があり、データベース化も始まっていると思うのですが、5年で終わりになると本当にもったいないということがあります。プロジェクトが終わりますとデータベース、サーバー代も含めましてなかなか維持ができていないのが日本の実情と思いますので、この辺りにぜひ今後、資金を投入することで、そして人的な育成をすることで、取りためたデータベースを有効に、有機的につなげながら残していただきたいと思っております。ぜひよろしくお願いいたします。主にコメントになってしまいました。
【辻フェロー】  おっしゃるとおりだと思いました。
【風間主査】  おっしゃるとおり、データベースを構築するだけでなく、それをいかに継続して利活用していくかというのは非常に大事なポイントだと思います。ありがとうございます。
 では、小板橋委員、お願いします。
【小板橋委員】  ありがとうございます。一点、すみません、質問です。10ページ目の「HD」は何を指すのでしょうか。まず、教えていただけますでしょうか。
【辻フェロー】  10ページ目ですか。すみません、これはハンチントン病だと思って。略称を間違えていたら申し訳ないです。
【小板橋委員】  いえいえ。ありがとうございます。解消しました。
 あと、今までの委員の先生方がおっしゃられていたこととかなり重複するのですが、欧米だとクリニカルレコードを幼少期から一貫して記憶されていて、すぐ参照できるというシステムが既に長々と運営されているとお伺いしておりますが、欧米のブレインバンクというのは、いわゆる時間軸でかなり幼少時まで遡って、臨床情報を持っているクリニカルレコードのバンクと連携するような形でも使えるようになっているのでしょうか。
【辻フェロー】  「ブレインバンクが」という主語では詳しくは存じ上げなくて、医療データ一般というふうに見てまいりますと、医療データの標準化とかそういった国家基盤としてのデータ基盤は、やはりヨーロッパ、特に北欧が一番整っている。
 アメリカはEpicとかカルテはありますけれど、実はそんなに整っていなくて、もっと整っていないのが日本、という印象はあります。一般論な話で恐縮です。
【小板橋委員】  承知しました。特に精神疾患に関していうと、やはりクリニカルレコードとの連結がないと、時間軸も含めてのいわゆる構造化されたデータがとても大事になるのかなと思ってお伺いしました。ありがとうございます。
【辻フェロー】  ありがとうございます。
【風間主査】  では、渡部委員、お願いします。
【渡部委員】  辻先生、データベースに関してもブレインバンクに関しても包括的なお話をいただいて、ありがとうございました。とても勉強になりました。
 既に出ている論点かなとは思うのですけれど、やはり継続性というところがすごく大切かなと思っていて、日本でいろいろな先生方が3年とか5年とかの競争資金にデータベースとかを出してきてくださっているのを見ると、これだけクオリティーの高いものを仕上げた後、継続をどうするんだろうと常に思ってしまうので、日本でももう少し息の長いようなシステムがあればなと常々思っていました。
 伺いたかったのは、今日前半のほうでも御紹介いただいたように、ヨーロッパでも幾つか閉じてしまうようなデータベースもある一方で、比較的長く続いているものがあると思うのですけれども、そこに対してというのは、何か国の政策レベルで、競争的資金とはまた別な形での措置があるということなのでしょうか。
【辻フェロー】  資金の枠組みは、私もはっきりとは分からなかったところがあります。ただ、海外で閉じたものを見ておりますと、90年代とか2000年代前半に立ち上がったものは、成果が十分じゃないんじゃないかみたいな指摘も受けながら、閉じちゃうところが多かったのかなと。
 ただ、2015年前後以降に立ち上がったものについてはもう、それ以降閉じているというのは今のところ見たことがなくて。直近14年、2010年以降になってくると、やはりブレインバンクで神経疾患・精神疾患というのは各国とも認めるところが多くて、5年と言わず、アメリカとイギリスはそういう意味でもう12年続けているようですので、日本も長期的な支援があったほうがいいなというふうには、私も外野から思っております。文科省側でもいつもお考えだろうとは思っておりますけれども。
【渡部委員】  ありがとうございました。
【風間主査】  こちらも予算的な支援が必要だというようなコメントでございました。
 ほか、いかがでしょうか。
 では、私のほうから幾つか質問させていただければと思うのですけれども、1点目は、まず、アメリカで死後脳のサンプルが非常に多いと。財団からのサポートがあるという御説明があったのですけれども、一般の方々から理解が得られるような工夫というのはされているのでしょうか。疾患コホートと住民コホートの割合というのも関連した質問なのですけれども、その辺り御説明いただければ。
【辻フェロー】  その辺りの広報・PRみたいなところは、ちょっと私、調べておりませんでして、分かりません。申し訳ないです。
 ただ、恐らくこの財団って、きっと患者会とかそういったところとかも結構つながっているのではないかと想像いたしますし、やはりアメリカとかは特に患者会がかなりきちんと組織されて、動いているところはあるのかなとも思います。そういったところがこういうブレインバンクとかブレインデータバンクともつながってきているんじゃないのかなというふうに見ておりました。
【風間主査】  ありがとうございます。では2点目ですけれども、資料の中で、黒字が死後脳のサンプルで赤字がデータベースというふうなスライドがあったと思うのですけれども、案外その赤字のデータ基盤というところがきちっとそろっている国が少ないなというふうに思ったのですけれども。
【辻フェロー】  死後脳のブレインバンクのほうは比較的網羅的に挙げたつもりでございますが、脳データ基盤については、実はもっと数はたくさんあります。今回の発表自体、ブレインバンクが一応話題なのかなというので、ブレインデータバンクのほうは特に目立つアメリカ、イギリスと、あとは日本を挙げたと。各国とも、やはりアルツハイマーの脳画像、パーキンソンの脳画像というのは、大なり小なり大体やっておりますというところでございます。
【風間主査】  分かりました。ありがとうございます。
 では、牧之段委員、お願いします。
【牧之段委員】  ありがとうございます。大変勉強になりました。私は今愛知県にいまして、ブレインバンクに登録している桶狭間病院やもりやま総合心療病院で解剖のお手伝いをしています。件数はそれなりにあるのですけれども、そもそも解剖する人が少なくなっているという問題もあるのですが、その費用が、もともと民間の病院の高い理念に基づいて、ほぼ手出しでやっているんです。施設とかも本当に病院がサポートしているという。実際、病院のもうけには全然ならないのですけれども、高い理念でやっていると。
 UKバンクのほうは、国や企業が投資していただいて成り立っている、好循環があるという話だったのですが、解剖している現場に対して、イギリスのほうではどのような具体的な援助があるのかというのはお分かりでしょうか。
 国内において、実際にやっている人たちのお金、精神科病院の経営も実は難しくなっていますので、なかなか余裕がない施設が多くて、多分このままだと本当に死後の解剖自体ができなくなっていくんです。
 なので、その体制を整えていかないと、もちろん利活用のシステムも大事なのですけれど、そもそものサンプルを提供する側の人がいなくなってしまうという問題もあると思うのですが、その辺り、イギリスの状況と、あと国内の計画のようなものがあればお聞かせください。
【辻フェロー】  国内の計画は私も存じ上げないですけれど、イギリスのほうを申し上げますと、UKバイオバンクにつきましては、これは血液サンプルだけになりまして、解剖等はやっていないというところになります。日本の東北メディカルメガバンクとかと同じかなと思っております。
 あと、UKのブレインバンクにつきましては、一応、国の資金と慈善財団の資金で運営されているとはなっているのですが、まさにおっしゃるような、実際に現場のスタッフが何人確保できるのかとか、専門家をどれだけ確保できるのか、お金をちゃんと出せるのか、そういったところについてはそんなに公開情報では見つけられなくて。
 だから、イギリスとかアメリカがそこは手厚いのか手厚くないかは、ちょっと私は分からなかったところです。
【牧之段委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  ありがとうございます。現場からの貴重なコメントだったと思います。
 その点、やはり今後も調査をいろいろしていただいて、海外ではどのような取組がなされていて、どんな成果が上げられているのか、課題は何なのかということを踏まえて、我が国でも対策を取っていくことが重要なのではないかというふうに考えます。
 ほか、いかがでしょうか。
【小板橋委員】  すみません、ちょっとだけ追加でコメントよろしいでしょうか。
【風間主査】  どうぞ。
【小板橋委員】  シンガポールは、もう30年40年前からクリニカルレコードが1つで一括管理できていて、どんな既往でどんな治療を受けたとか、そういうのが分かるようになっておりますので、そことブレインバンクがどういうふうに連携しているか、もし調べる機会があったら、ぜひお願いいたします。
【辻フェロー】  分かりました。シンガポールはバイオバンクという意味だと国民の10%のゲノムを全て読んで医療データとつなげてやろうというような、かなり壮大な話がこの数年出てきておって、それでブレインバンクもどれぐらいかなと思って調べたものの、まだ死後脳が9件だけというので、これがどこまで公開情報が本当か分からないのですけれど、もしかしたらブレインバンクも絡めて、もっとシンガポールは大きくしていくのかなというふうには思っております。ウオッチしたいと思います。ありがとうございます。
【小板橋委員】  お願いします。
【風間主査】  ありがとうございます。剖検の数が減ってきているという御指摘、松本委員からございまして、牧之段委員からも同様なコメントがございました。その辺りの問題、さらに、脳だけを見ていては駄目だと、全身のデータというものもできれば取ることができればいいという、そういった大事な御指摘もありました。
 あとは、データベースをつくるのはいいのですけれども、継続的にうまく利活用できるような体制をとっておく必要があるという御指摘。そして、それはデータを解析する側からしても、構造化されたデータでないとなかなか扱いにくいし、人材育成にもつながっていかないのではないかと、そういったコメントもございました。これらを踏まえて、また議論をさらに深めていければと考えております。
 では、時間になりましたので、次の議題に移りたいと思います。次の議題は、ニューロテクノロジーの倫理に関する動向についてです。
 まずは、東京通信大学教授の福士先生より15分、御説明をいただいた後、質疑応答の時間を設けたいと思います。
 それでは、福士先生、よろしくお願いします。
【福士教授】  東京通信大学の福士と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日は「ニューロテクノロジーの倫理に関する動向について」ということで報告を行います。
 まず、このニューロテクノロジーの倫理に関係の深いニューロエシックスについて御説明を差し上げました後、ニューロテクノロジーの概要、そしてニューロテクノロジーのガバナンスに関する国際機関の活動、その中でもユネスコによるニューロテクノロジー勧告文案作成の状況について御説明を差し上げました後、関連する国内の対応状況について御説明を差し上げたいと思います。
 ニューロエシックスといいますのは、脳神経科学の研究成果、また、その社会実装が人間の理解や法制度あるいは社会などに与える影響について、総合的に扱う学術分野になります。分野としてはトランスサイエンスの一種というのが、今一番当てはまりがよいのではないかと考えております。
 この分野の台頭というのは、1990年代に盛んになりましたファンクショナルMRI研究の普及など、ヒトの脳への非侵襲的なアプローチが盛んになったことが背景にあると考えられております。
 2002年にアメリカで成立宣言が行われて、2005年から日本に本格導入されておりますが、本日も時々言葉が出てきましたがELSI、あるいはPatient Public Involvement(PPI)、また、Responsible Research and Innovation(RRI)というのは、脳神経倫理の対象範囲の一部となります。
 また、このニューロエシックス、「脳神経倫理」という言葉は、日本に導入する際に英語のNeuroethicsの訳語として佐倉統先生が考案したものですが、脳神経というものが臨床上ではやはり神経系の一部を説明する用語であるということ、また、様々な訳語が混在していることもありまして、最近では「ニューロエシックス」と片仮名表記をすることが増えております。
 また、この脳科学作業部会との関連で申し上げますと、今後の脳科学研究の方向性についての中間取りまとめの22ページに、このニューロエシックスに関する言及がございます。
 このニューロエシックスの中で扱われている主なトピックの一つとして、本日御紹介をさせていただきますニューロテクノロジーというものがあるという建付けになります。
 特に、ニューロテクノロジーの発展に伴いまして、アカデミアが行っているような学術研究の範疇を超えている非研究、あるいは、医療機器、医療技術としての応用を超えた非医療領域における倫理的な懸念というのが指摘されておりまして、その対応が急務となっております。
 ニューロテクノロジーというのは、先生方は十分御存じのことだと思いますが、「神経系を直接測定やアクセス、監視、分析、予測、または調節などをすること」という定義が、ユネスコでなされております。また、OECDでも同様の定義がなされておりまして、この基盤技術として、ブレインコンピューターインターフェース、あるいはブレインマシンインターフェースと呼ばれます、脳をはじめとする神経系とコンピューターや外部機器等を接続する技術というのがあります。
 この中で、特に記録する装置の低侵襲化や軽量化、小型化ということが進んだこと、また、記録された脳の情報を分析、あるいはコマンドに変換するような仕組みにおいてAIが高度化していることによって、ニュ-ロテクノロジーの実用の可能性が向上し、実用化に向けた研究が加速しているという建付けになります。
 特に市場の拡大というものが、これはアメリカの民間シンクタンクが予測しているものですが、現在からの3倍強に広がるということが言われております。
 そこで、人体への安全性ですとか神経活動データの取扱い、プライバシーの保護、人権への影響、あるいはデュアルユースへの対応、人間のアイデンティティーへの影響など、様々な倫理的な影響を考慮した国際ルールの策定、遵守の仕組みづくりに、日本の組織的な参画が急務になっているというのが現状です。
 では、国際機関ではどういうことがなされているかというのを見てみますと、2010年代の後半から、国際機関による報告書の発行や勧告の策定の動きというのが顕著に増加しております。
 また、2023年以降に、主要な国際機関が毎年のように勧告、報告書を公表しておりまして、この傾向は当面続くと予想されております。
 その中でも、特にニューロテクノロジーを介して取得されるデータの管理・保護、先ほど辻フェローの報告でも話題になっておりましたが、このデータというものをどう扱っていくかということが大きなトピックになっておりまして、先ほどの国際機関のほかに、各国の政府機関やシンクタンク機関などがたくさんの報告書を出しているというのが現状になります。
 では、日本はどうかということを見ますと、2020年代に研究プロジェクトレベルでの報告書、あるいは研究のガイドラインなどの作成が進み始めておりますが、特に公的機関による調査や政策提言に資する報告書というのが、先ほど紹介したように先進国の中で比べると少ない傾向にあります。
 また、国際機関等の活動への日本からの参画状況を見てみますと、欧米に比して参加の人数が少ないこと、また、組織的な関与が少ないなど、プレゼンスの向上が課題ともいえます。
 本日はこの中から、赤枠で囲んでおりますOECD、それからユネスコの活動について簡単に紹介をいたします。
 まず、OECDの中のバイオテクノロジー、ナノテクノロジー、アンドコンバージングテクノロジーのワーキンググループの活動ですが、このグループでは2019年に「ニューロテクノロジーに関する責任あるイノベーションの推進」というリコメンデーションを公表しております。
 この2019年に勧告が行われました9項目について、どのように加盟国が実装しているかという状況調査が2024年から開始されておりまして、2025年から2026年の作業予算の計画の対象技術の一つとしてこのニューロテクノロジーが採用されまして、2024年から行われております調査の取りまとめを行って、その成果を踏まえて、2019年のリコメンデーションを改訂するという作業に取りかかる予定です。
 この作業においては、「ニューロテクノロジーツールキット」という報告書を先に発行しまして、この5分類の枠組みの中でどのように実装が進んでいるかということを、各国の取組を分類して、さらにどこを強化すべきかという、実装に向けた手法というものの開発もしているというものです。
 また、ユネスコに関しましては、2021年にインターナショナル・バイオエシックス・コミッティーが、「ニューロテクノロジーが人権に与える影響について」という調査報告書を作成しております。
 そして2023年からこの勧告をつくるということで、リコメンデーション作成について決議を行うということが承認されまして、報告書がまだつくられております。
 そして、2024年からアドホックエキスパートグループが立ち上げられまして、この勧告の文書案の草稿を作成するという作業が始まりました。このプロセスには、日本からはムーンショット目標1のプロジェクトマネジャーである金井良太氏がエキスパートとして参加して、副議長を務められております。
 ここでつくられました草稿に関して、外部有識者によるコンサルテーションのコメントが行われ、その後にまたエキスパートグループの会合が行われて、文書案がさらにブラッシュアップをされ、そして、ドラフトとしてのリコメンデーションが公表されました。それが2024年の9月になります。
 この中では、国際法、特に国際連合の憲章や国際の人権法に基づいたニューロテクノロジーの開発と利用の指導や、現在と将来における危害の防止といったことが目的とされております。また、倫理原則や人権への配慮ということを重んじる。そして、それらを踏まえた上で、政策上取るべきアクション、または勧告内容の実装において加盟国が取るべきアクションというものが取りまとめられました。
 この文案に対して、2024年の9月から12月に、加盟国政府のコメントの募集というのが行われて、33か国から1,000以上の修正意見が寄せられておりました。
 それを基にさらに改定されました修正文案というものに関しまして、本年の5月12日から16日まで政府間会合が行われまして、その文書を最終化するという対応が行われております。この会合には、日本からは文部科学省より国際統括官付、またライフサイエンス課、そして参与という形で私が専門家として参加をさせていただいておりました。また、ユネスコの日本政府代表部より、総勢4名で参加をしております。
 この文書案の最終化に向けたユネスコの事務局としての留意点をここに掲げておりますが、臨時的に重要な特徴を適切に反映するということ。また、柔軟、動的かつ可変性を有し、環境の変化と技術的な進歩に対応し得る設計にするということ。これは、AIの倫理勧告と類似の構造を採用していると伺っておりまして、より素早く進展をしていく技術開発に倫理の議論が追いつかない、あるいは制度設計のほうが後追いになるということを、できるだけ最小化することに非常に注意を払っていたように思われます。
 そして、この勧告文案の最終化における政府間会合での議論の要点としては、まず、科学的に厳密な定義が存在しない、あるいはコンセンサスが得られていないような用語の使用を回避するということが多く議論をされました。
 ここに挙げますように、「Biocognitive metrics」、これはまさに神経系以外の全身の情報あるいは認知状態を表す情報というものを、何か定義をしなくてはならないのではないかという話があったのですが、コンセンサスが得られていないということで回避されたような例になります。
 また、「dual use」という表現を修正の段階で提案をしてきた国がございましたが、これも、「dual use」のみでは誤解を招く、あるいは解釈が国によって異なるということで、AI勧告の表現と整合を取った、「dual use, misuse or malicious use」というものに変更をされました。
 また、全ての加盟国が許容可能となるように、勧告の中で行われている要件の定義や義務的な対応を求める表現というのを修正するというようなことが行われております。
 原案にはなかったものの新たに追加されたものとしては、子供の権利擁護、あるいはスポーツ・芸術へのニューロテクノロジーの適用などの項目が追記をされました。
 5番からは、勧告文案がどのような構成になっているかということを簡単に紹介しているものになります。前文がございまして、定義があり、目的と目標があり、価値観と原則ということで、ここに様々な生命倫理の原則とも通じるものが記載をされております。
 また、政策措置の適用範囲というものが特出しで書かれていることのほか、実装分野に応じて、ヘルス、健康(医療)ですとか、それから教育、労働及び雇用、消費者及び商業領域といったところが、新たに項目として立てられているというところになります。
 この適用分野以外にも、特定のユーザーへの配慮という項目もつくられておりまして、総じて4章立てになっております。
 ここからは、ニューロテクノロジーのガバナンス、こうしたOECDやユネスコなどの動きに対応して、では、国内ではどういうリアクションが今進んでいるのかということについて、最後に御紹介をします。
 まず、1つ目が、医療機器評価指標の見直しというもので、これは2010年に発出されました次世代医療機器評価指標の数値、これが改訂作業に入っているというものです。
 今回の改訂で、ブレインコンピューターインターフェース利用機器というものの評価指標という形で、タイトルが変更されているのが特徴になります。この議論はまだまだ続くものだと思われますので、今後も注視が必要なものの一つだと考えております。
 また、知的財産戦略本部「新たな国際標準戦略」、これは今年5月、6月あたりに発表されたものですが、ここでニューロテクノロジーというものが、第4章の重要領域・戦略領域の選定とその取組の方向性において、明記をされているということになります。
 ステークホルダーのリテラシー向上に向けた取組としては、先ほども紹介がありましたムーンショット目標1の中で、ブレインテックガイドブック、エビデンスブックといった一般の利用者向け、あるいは研究開発者向けの自主的な注意事項といったものを特記したような資料が作成されているということになります。
 こうした流れを受けて、日本神経科学学会では、これまで「ヒト脳機能に対する非侵襲的研究の倫理問題などに関する指針」というものを改訂してまいりましたが、これを今回大幅に改訂をいたしまして、これまで非侵襲的な研究に限定されていた対象範囲を、侵襲的な研究にも拡大し、ニューロテクノロジーの基盤技術の開発につながる研究の適切な実施を支援するという方向にかじを切っております。
 こうした取組を含めまして、ニューロテクノロジーのガバナンスに関する学会の行事といたしまして、来月7月26日に開催されます第48日本神経科学学会におきまして、このようなニューロエシックスに関するシンポジウムを予定しております。
 この中で、花川隆先生より神経科学学会の倫理指針改訂に関する報告、また、伊佐正先生より、学術会議が現在つくっております神経科学研究に関する倫理に関します見解報告書の御紹介をいただく予定となります。
 同日のランチョンセミナーでは、ニューロテクノロジーに関する産業化に伴う標準化や、いろいろな実装に向けた議論を行うというものが予定をされておりますので、御興味のある先生方は、ぜひ傍聴をよろしくお願いいたします。
 私の報告は以上になります。
【風間主査】  ありがとうございました。
 ニューロエシックスに関わる勧告等、最新の動向を詳細に御紹介いただきました。
 では、ただいまの説明内容について、御意見、御質問ありましたらお願いいたします。
 鈴木貴之委員、お願いします。
【鈴木(貴)委員】  どうも御無沙汰しております。近年の動向について、非常に見通しよく整理していただきまして、どうもありがとうございました。私も、このニューロエシックスの日本の導入初期には少しプロジェクトに関わっていた者として、近年の動向が非常によく分かって勉強になりました。
 それとの関連で少し伺いたいのですけれども、2000年代に一旦、日本でもある程度研究が行われ、10年ぐらいいろいろ議論がされていて、一旦少し下火になってしまったのですけれども、2020年以降ぐらいから、また再び割と注目されていて、今度はしかも公的な機関で割とガイドラインなどがつくられるようになってきているわけです。その背景が、やはり新しいニューロテクノロジーが注目すべきものが出てきたというようなことなのか、あるいはテクノロジー一般に関してこういった公的な枠組みづくりが進んできたことにあるのか、どういったことが、このニューロエシックスがまた注目されている背景なのかについて、伺えますでしょうか。
【福士教授】  ありがとうございます。ニューロテクノロジーに関する倫理の議論というのは、鈴木先生が御指摘のとおり、日本では非常に2000年代初頭に大きな盛り上がりを見せていたところでございますが、その段階では哲学者あるいはSF作家などによる思考実験的な議論というのが多かったように思います。
 それはやはり、テクノロジーが実装の段階に入っていないところで、予見的に話ができることに限度があったということ、また、ルールづくりというところまで話が及ばなくて、もしこうなれば大変じゃないかとか、あるいは人間のアイデンティティーにどのような影響があるかという、まさに思考実験的なところでの議論の盛り上がりに終始してしまって、具体的なルールの策定や指針への反映というところにその議論を引き上げられなかったというところの限界があったのではないか。それは日本におけるRRIの進展ですとか、そういった倫理、ガバナンスの人材の不足といったこともあったかと思います。
 現在の状況というのは、まさにテクノロジーが実装の段階に入ってきているということで、非常に危機感を持って議論をするということが始まったのが2010年代の後半になるかと思います。
 その段階では、やはり海外の報告書が大きな役割を果たしておりまして、イギリスのナフィールドカウンシルが報告書を出したのが2013年、その後、アメリカの大統領生命倫理審議会が2014年、15年に報告書を出した。その辺りからOECDが議論を開始して2019年の勧告に結びつけているということで、やはりテクノロジーの発展というのが見えてきて、実装が間近になるということを目利きというか、それを見越して議論が先回りで始まっていたというところがあるのかなと思います。それがやはり、国際機関や様々なステークホルダーを巻き込んだルールづくりというのが国際的に盛んになっている理由だと。
 今日は紹介できませんでしたが、技術標準に関するもの、あるいは技術標準をもってどのように利用し促進するかというリコメンデッドプラクティスなどの動きというのも、様々な国際機関で議論がされているところです。
【鈴木(貴)委員】  どうもありがとうございます。逆に、哲学、倫理学とか割と抽象的なレベルで議論している側からすると、実際的な緊急性が増すと、ある意味具体的な問題への対応が重要になってしまって、原理的な問題までなかなか行けないということになって、それはどちらもうまくバランスを取ることが当然必要だと思うのですけれど、それが今後とれていければいいかなと思います。どうもありがとうございました。
【風間主査】  ありがとうございます。
 小板橋委員、お願いします。
【小板橋委員】  ありがとうございます。今の鈴木委員に追加的な御質問なんですけれども、何らかの国内での指針なり何なり、行政の動きというのも必要とお考えでしょうか。
【福士教授】  個人的な立場としては、やはり行政がきちんと動くということ、また、既存の生命稟議の指針において補足が必要な部分というのがあれば、そういうことはきちんと、脳科学分野に特化した対応というのも必要なのではないかなという印象を持っております。
 また、先ほど来、脳神経科学においてより幅広い議論を行う場の必要性ということが、前の議題でも少し御意見が出ていたかと思いますが、この問題に関しましても、やはり研究開発とか被験者保護という範疇だけではなく、産業化あるいは医療のほうの応用というのも踏まえて、より広範な場所での情報共有や国際的なルールの動向の把握の仕組みというのも必要なのではないかという印象を持っております。
【小板橋委員】  ありがとうございます。大変よく分かりました。
【風間主査】  ほか、いかがでしょうか。
 範囲がニューロに限ることはないと思うのですけれども、AIの研究をされている、例えば大武委員など、何かコメントございますでしょうか。
【大武委員】  興味深いお話をありがとうございます。
 この議論の中で、どこまでが脳かという話は一つ前の議題でもあったのですけれども、脳を中心にして、結局脳が機能とかいろんなものに影響しているので、そこから認知とか、あるいはウェルビーイングとか、様々なビヘービアとかソーシャルとか、いろいろ広がっていくと思うのですけれども、このニューロエシックスの中でそれらの境目をどう扱われていて、どう議論が変遷してきているのかということについて教えてください。
【福士教授】  ニューロエシックスが扱う範囲というのは、冒頭で紹介差し上げましたように、脳を研究することの倫理というような範疇にはとどまっておりませんで、そこから得られる成果として人間自体にどのように影響を与えるか、あるいはそれに基づいて、法制度ですとか社会の制度設計においてどのような影響があり得るかということにも、当然及んでいる分野になります。ですので、脳研究という、脳に侵襲的なことを行う介入研究究の倫理というところに矮小化をしないというアプローチが、非常に重要だと考えております。
 そういう観点から、人文・社会科学系、特に鈴木先生もおっしゃいましたが哲学者の役割というものも重視した領域設計というのを行って、研究開発課題を募集しているというプログラムもJSTの中にはございます。
 では、ニューロエシックスとしてどういうふうに発展をしてきたかというお話になりますけれども、この分野というのは当初は非常に小さな学問領域というか、ステークホルダーの集まりではあったのですけれども、現在やはり法学の領域ですとか、それから経済学、経営学、あるいは宗教学などの分野の方々というのも関連した議論に参加してくるようなことも増えまして、ニューロエシックスに関わる論文がカバーされている学術雑誌というのが非常に多様になってきているという印象がございます。
 ニューロエシックスに関する基幹雑誌としては2つしかないのですけれども、そのほかにバイオエシックスや、ローアンドバイオエシックスのような法律領域のところで扱っているもの、あるいはニューロサイエンスのジャーナルの中でニューロエシックスというものが扱われるというのが、例えば『フロンティア・イン・ニューロサイエンス』、フロンティアシリーズですとか、あるいは『ニューロサイエンスリサーチ』でもそういうものを扱うというような形で、非常に広範に広がってきている。
 それだけ様々な分野の人が、脳科学が社会実装をされていくというプロセスの中で、知らず知らずのうちにというか、参画している、含まれているというか、そういうような状態で、潜在的にニューロエシックスに分類される学問分野ですとか関わっているステークホルダーというのは、今後もどんどん広がっていくのではないかと感じております。
【大武委員】  特にAIエシックスとも重なってくるというか、データが集まってくるとだんだんその人の中身が分かってしまうということが、研究が進むと起こっているのですけれども、その辺りは両方からの、何か相互の歩み寄りみたいなものがあると思うのですが、ニューロエシックスの側からはどう議論されていますか。
【福士教授】  ニューロエシックス、ユネスコの勧告に関しては、AIのところで行われた勧告作成のプロセスや、議論の論点というのを非常に参考にしながら進めていたというところになります。なので、先端科学技術をどのように社会と対峙していくかという観点から、まず参考にさせていただいているという関わりがあるということ。
 もう一つは、ニューロテクノロジーの中でAIという技術が占める比重というのも非常に大きく、AIをどのように扱っていくか、AIにどのように依存したニューロテクノロジーをつくるかというところ、また、テクノロジーとしての関わりが新しい社会的な課題や倫理的機能を生むというところ、その2つがあると考えています。
 ただ、AIの議論だけを見ていくというのではまた足りないというか、AIで何を参考にすべきで、どこが関わっているものであって、どの議論をニューロテクノロジーに取り入れることが適切なのかをきちんと見極めていくような対話の場ですとか、議論あるいは意見の交換の場ということは必要ではないかというふうに思っています。
【大武委員】  ありがとうございます。その辺りは、当事者としてとても興味があります。いろいろまた教えていただければと思います。
【風間主査】  ありがとうございました。
 では、私のほうから一つ質問をさせていただこうと思いますけれども、テクノロジーが新しいものが出てきたから、再びその議論が盛んになってきたということなのですが、もちろん日進月歩で、日々新しいものが出続けてきて、そのたびに修正していたら大変だと思うので、柔軟性を保ちつつも、本質をいかに捉えるかという、バランスを取るのが大事なんじゃないかと思います。
 その辺り、長期的に適用できるような勧告をいかにつくっていくのかというところで、工夫されていることがありましたら教えていただければと思います。
【福士教授】  今回御紹介を差し上げましたユネスコの勧告に関しては、まさに柔軟な対応ができるということです。そこを、まさに御指摘のとおりの対応というのが議論されたわけですけれども、これは先ほど紹介しましたように、文言の使い方というところで、まず各国が各国にある制度をうまく使って対応できるようにというような要件定義を行う。例えば、「as appropriate(適切に)」という言葉を付記する。また、特にヨーロッパのほうの国で、法規制として何か取り締まるものですとか、先回りをして予防するような措置に関して、法規制の存在を前提とした発言や、あるいはそういうものをつくることが義務になるような言い方というものが多かったのですけれども、そうしたところを、今ある状態からいかに短いスパンで対応が可能か、というところに記述を修正する形で対応して、加盟国が勧告というものを幅広に実装に持っていけるようにするという配慮を、非常に大きく行っていたように感じております。
 それはユネスコという組織が、やはり先進国だけではなくて様々な経済状態、あるいは政治状態の国というのを含んだ組織体であるということも、非常に大きかったのではないかなと思います。
 今後、OECDのほうの勧告が改訂されていく中で、この早過ぎるというか、素早い科学技術の進展への対応というものにどのように先進国が対応していくべきかというところを、どういう書きぶりにしていくかというのは、まさに今後議論されていくところだと思います。私もそちらの仕事にも関わっておりますので、できるだけ研究を妨げることがなく、社会実装がスムーズに進み、日本の産業にいい方向に影響が与えられるような内容にしていくということは重要だと感じております。
【風間主査】  なるほど。では技術だけでなく、その国の実情だとか法律だとか、そういうことに合わせた勧告に仕上げていく必要があるということなのですね。
【福士教授】  そうですね。本当に絵に描いた餅のほうにならないということが重要であって、それは2000年代初頭の議論とも重なるのですけれども、やはり短絡的に大変だ大変だと言うことや、こんな世の中になったら大変だ、だからルールをつくることが必要である、倫理が必要であるというような、そういう表面的な議論ではなくて、実際にどういうルールだったら自分たちは守れるのかとか、誰がそれを守らせるのかといった、実際にルールとして動かさなければならないという危機感や実感を持って取り組み始めている、議論がなされているというのが、この2020年代の倫理かというふうに思います。
【風間主査】  では、日本で特に気をつけるべき側面等はございますか。
【福士教授】  そうですね、日本でまだ議論が途上にあるというのは、非医療機器の応用分野に関して、どのような規制なり監視の仕組みが必要かというところが、議論が行われにくいところになっているかなと思います。
 医療機器としての評価指標の見直しが進んでいるということは、医療機器としての応用や実装に関しての議論はそこからうまく発展していくのではないかと考えられますけれども、非医療分野の応用というところが非常に危機感があるところではないか。
 また、そこに関連して、国際標準というものをどの分野でどのようにつくるかというのも大きな問題で、情報通信分野というところに限らず、やはりニューロテクノロジーというのは様々な精密機械ですとか機器が組み合わさってつくられているものですので、どういう分野でどのような標準を組み合わせていくのかという戦略というものも非常に重要になってまいります。そうしたところで日本が後れを取らないように取組をしていくということも非常に重要なのではないかと思います。
【風間主査】  ありがとうございます。
 小板橋委員、お願いします。
【小板橋委員】  ありがとうございます。先ほど非医療分野での保護について御指摘されていたのでお伺いしたいのですけれども、被験者保護と消費者保護という形だけでは難しい面もあるとお考えでしょうか。
【福士教授】  そうですね、「消費者保護」という言葉でくくるということも非常に重要だと思いますし、実際にニューロデータなどは被験者として、研究として取られていくものだけではなくて、製品として購入された方のデータをどう使っていくか、どう収集するかということも、既に議論が行われているところがございます。
 そういったことを包括する言葉として、いっとき「ニューロライズ」という言葉が使われて、ニューロテクノロジーの製品によって収集される様々な個人情報、プライバシーに相当するものを、人権保護の観点からも擁護することが必要ではないかという議論が行われてきたというところもございます。今後、包括的な枠組みのほかに、先ほど少し触れましたけれども、教育の分野、労務の分野、あるいは法廷での使い方ですとか、特定の場所、特定のユーザーの組合せの中で、特殊なルールというか、配慮すべき事項というのも生まれてまいります。このニューロテクノロジーを応用して実装に用いる分野の方々、業界団体ですとか、ユーザーになる受益者の側というのがどのように保護が必要かという、かなり特化した部分での倫理の議論というのも、今後重要になってくるのではないかというふうに思います。
【小板橋委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  梶井委員、お願いします。
【梶井委員】  御説明ありがとうございます。現状、全てのテクノロジー分野で、やはり中国の存在が無視できないというか、むしろ大きくなっている状況なのですけれども、こういった議論に中国の参加状況、あるいは彼らのスタンス等、もし御存じでしたら教えていただきたいです。
【福士教授】  中国はもちろん、科学技術という側面での台頭も著しいのですが、特に国際標準をつくるという、技術標準に関してはとても前向きな政策を取っているのが現状です。
 委員の先生方の付録資料のほうにございますが、ISO/IEC JTC1、こちらのほうではSC43というサブコミッティーで、ニューロテクノロジーに関連するブレインコンピューターインターフェースの技術標準をつくるというサブグループが立ち上がっておりますが、そのリード国というのは中国になります。
 また、中国の中では、国内の技術標準戦略をどうするかという政府文書を公表しておりますので、そういう意味では、国際標準を取るということが産業分野でいかに優位に立てるかということを意識した対応を取っているというふうに考えられます。アメリカやイギリスも、医療機器としての技術評価や承認プロセスに関する議論を、非常に急スピードで行っておりますので、やはり、どういう戦略でというところになると、アメリカ、イギリスは医療機器から、中国は非医療分野からというようなアプローチになるのかな、イギリスは今後、非医療機器についても議論が進むのではないかと思います。
 日本でも医療機器評価指標の見直しが始まったというのは、まさにそういう流れに乗った対応ではないかというふうに思います。
【梶井委員】  ありがとうございます。
【風間主査】  ありがとうございます。
 福士先生、どうもありがとうございました。
【福士教授】  ありがとうございました。
【風間主査】  本日予定しておりました議事は以上ですが、ほかに御意見や御質問がございましたらお願いいたします。
 よろしいでしょうか。
 では、事務局から連絡事項をお願いします。
【倉田課長】  本日は大変有益な御意見等ありがとうございました。本日いただきました御意見につきましては、事務局のほうで整理をしまして、今後のこちらの作業部会での御議論をどう進めていくか、主査とも御相談をしながら、ぜひまた先生方に御連絡をさせていただきたいと存じます。
 本日いただきました議論につきまして、こちらの親委員会に当たりますライフサイエンス委員会、夏に開催を予定しておりまして、そこでも本日の御議論の状況など御報告をさせていただければと思っております。
 また、本日後半のニューロエシックスの議論もそうでございますが、文部科学省だけの所掌にとどまらない範囲にも及んできておりますので、関係省庁にも本日の御意見なども御紹介をさせていただきながら、関係省庁とも連携して対応を進めてまいりたいと思います。
【吉田課長補佐】  ありがとうございます。
 では、事務的な御連絡でございますけれども、本日の議事録につきましては、事務局にて案を作成し、委員の皆様にお諮りいたしまして、主査に確認いただいた後にホームページにて公開させていただきたいと思います。
 今後の脳科学作業部会の日程につきましては、現時点においてまだ確定してございませんので、また近日中に改めて、先生方に日程の調整の御連絡をさせていただきたいと思います。
 以上でございます。
【風間主査】  それでは、本日の脳科学作業部会はこれにて閉会とさせていただきます。ありがとうございました。
 
―― 了 ――

 

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