第9期地球観測推進部会(第6回) 議事録

1.日時

令和4年7月1日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

オンライン開催

3.出席者

委員

春日部会長,小縣部会長代理,赤松委員,岩崎委員,岩谷委員,浦嶋委員,河野委員,川辺委員,三枝委員,佐藤委員,嶋田委員,神成委員,平林委員,堀委員,村岡委員,六川委員,若松委員

文部科学省

林研究開発局審議官,轟環境エネルギー課長,服部環境科学技術推進官,橋本課長補佐,甲斐地球観測推進専門官

4.議事録

【春日部会長】  お待たせしました。それでは、ただいまより科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会、第9期地球観測推進部会の第6回会合を開催いたします。
 本日はお忙しい中お時間をいただきましてお集りいただき、ありがとうございます。
 最初に、委員の出欠と資料の確認をお願いしたいと思います。また、本日もオンラインでの会議になりますので、進行に当たっての御留意点など併せて御説明お願いします。
【甲斐地球観測推進専門官】  では、事務局より委員会の進め方について簡単に御確認をさせていただきます。
 まず、ウェブ環境の安定のため、この後、議題に入りましたら御発言されていないときにはマイクとビデオをオフにしていただくようお願いいたします。
 また、御発言いただく場合には挙手ボタンを押していただくようお願いいたします。御発言の際はお名前をおっしゃってから御発言をお願いいたします。
 挙手ボタンが見つからないなどの場合には、画面をオンにして手を挙げていただくか、直接御発言いただければと思います。
 資料の確認になります。まず、本日の資料を確認させていただきます。議事次第と資料1-1、2-1、3-1から3-3のファイルをメールでお送りいたしております。もし不備等ございましたら事務局までお申しつけください。資料3-4につきましては本日の画面投影のみとなっております。よろしいでしょうか。
 では、出席の確認となります。本日は17名の委員に御出席いただいております。出席者数が半数に達しておりますので、部会は成立となります。
 また、前回の部会以降に文部科学省で人事異動がありまして、林審議官、それから轟環境エネルギー課長が着任いたしておりますので、ここで御紹介させていただきます。
【林研究開発局審議官】  4月1日付で研究開発局担当の審議官になりました、林と申します。どうぞよろしくお願いします。
【轟環境エネルギー課長】  同じく本日付で環境エネルギー課長となりました轟と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
【甲斐地球観測推進専門官】  ありがとうございます。
 また、私、甲斐も4月1日に着任して、前任の堀川に代わりまして担当させていただいておりますので、よろしくお願いいたします。
 本部会は部会運営規則により公開とさせていただきます。
 最後に傍聴者の方へお願いとなります。本日はオンラインでの開催となっております。万が一、システムトラブル等で傍聴不可となった場合は、後日公開する議事録を御確認いただきますようお願いいたします。
【春日部会長】  甲斐専門官、ありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いいたします。
【甲斐地球観測推進専門官】  お願いいたします。
【春日部会長】  それでは、議事1に移ります。
 中間発表、中間取りまとめの公表を踏まえまして、今後の部会の進め方について今日は検討したいと考えております。
 では、事務局より今後の進め方の案について御説明をお願いいたします。
【服部環境科学技術推進官】  皆様、本日も御出席いただきましてありがとうございます。文部科学省環境エネルギー課の服部でございます。
 資料1-1に基づきまして、今後の推進部会の進め方について御説明を進めていきたいと思います。
 中間取りまとめにつきましては、御尽力賜りまして、5月に無事、公表させていただきました。まず、ありがとうございます。
 今後の進め方、検討事項の2というところを御覧いただければと思います。
 主に今回、後半の地球観測推進部会9期でございますが、3点の議題があると思っております。
 1点目が最終取りまとめ、2点目がGEOの次期戦略についての議論、3項目が毎年度この地球観測推進部会のミッションとしてやっております実施計画の取りまとめという3点が検討事項として挙げられると思っております。
 まず、最終取りまとめについてでございますけれども、中間取りまとめでも御提言いただきましたとおり、生物多様性・自然資本の議論について、今期の後半に特に重点的に検討を進めさせていただければと考えております。
 また、2点目に書いておりますけれども、中間取りまとめの中で、この地球観測推進部会として重点的に取り扱っていく事項を重点課題として設定して、検討を今後中長期的に深めていくという御提言を賜りました。
 この重点課題をどういうふうにしていくのかといったことを今期の後半の議論の中でも深めていただきたいと考えております。
 候補として当面検討を進めるものとして事務局で今日御提案申し上げておりますのは、1点目が中間取りまとめでも出していただいた気候サービス・気候レジリエンス、2点目が今度重点的に後半議論を進めていく予定になってございます生物多様性・自然資本、3点目が温室効果ガスの監視(グローバルストックテイク)、こちらはパリ協定に定められた重要な取組だと認識をしております。4点目がSDGsのターゲット指標(グローバル指標・ローカル指標)に地球観測が貢献していくのかどうか議論するといったことを、当面、候補として議論させていただければありがたいと事務局としては考えているところでございます。
 こういった議論を踏まえまして、次期10期の部会で実施方針の見直しに向けた課題の抽出だとか、方向性などを検討する土台を築くような議論をさせていただければと思っております。
 2点目のGEOでございますけれども、令和5年に閣僚級会合が予定されておりまして、この閣僚級会合の中で次期戦略文書の取りまとめが予定されているところでございます。議題の2で詳しく御説明をさしあげていきたいと思っております。
 今期の最終取りまとめの検討と併せて、このGEOの戦略について、恐らくグローバルでどういったところをこの重要課題の中で打ち出していくのかという議論になろうかと思っておりますけれども、そのような議論をさせていただければと思っております。
 このような重点課題なのですが、本日、議題がたくさんありますので、なかなか今日で御議論をいただくということが難しゅうございますので、本日は5分程度のディスカッションというところで、基本的には御質問等になろうかと思いますが、具体的な御意見につきましては7月の末までにお寄せいただいて、次回の地球観測推進部会でこの重要課題についても話す時間を取る形で進めさせていただければありがたいと思っているところでございます。
 次のページを御覧ください。
 今後の予定でございますけれども、計4回程度開催させていただいて、先ほど申し上げたようなアジェンダの各々のパーツの部分について、6、7、8回に振り分けて議論を進めさせていただきたいと思っております。
 また、追加で重要課題等御提案いただいた場合には、この7、8、9回のいずれかのところで意見交換の場、議論の場を設けさせていただきたいと思っております。
 9回までに最終取りまとめ、GEO Post-2025折衝の検討についてといったところで、それに向けて御議論をお願いできればと考えております。
 事務局からの説明は以上でございます。
【春日部会長】  服部推進官、ありがとうございました。
 御説明にありましたように、これからいよいよ最終取りまとめに向けて、また、その他の議題も含めて、今期残りの期間、部会の皆様と一緒に積極的に議論を進めていきたいと思います。
 本日は時間が詰まっていますので、これから御説明にもありましたようにメールでも御意見いただきたいと思いますけれども、今日のこの機会にここだけははっきりさせておきたいとか、そういう質問がございましたらぜひ手を挙げていただけるでしょうか。いかがでしょうか。
 よろしければ7月末までに追加の御意見、今後の審議に盛り込むべき重要課題、それから、話題提供者の御推薦も含めて御意見等、メールでお寄せいただければとお願いいたします。それを基に、次回の部会で検討を進めたいと思います。
 それでは、次の議題に移らせてください。
 GEOポスト2025年戦略ミッション策定に向けた国内検討体制についてです。
 事務局からまた御説明をお願いいたしたいと思います。
【渡邊行政調査員(環境エネルギー課)】  資料2-1に基づきまして、地球観測に関する政府間会合(GEO)次期戦略ミッション策定に向けた検討について説明をさしあげたいと思います。
 資料の2ページ目を御確認ください。
 まず最初に、GEOの概要について簡単に御説明をさしあげます。
 まず、GEOは地球観測の国際連携により課題解決を目指す国際的な政府間のパートナーシップとなってございます。具体的にはSDGsや気候変動、また、防災、都市の強靱化といったような優先連携分野を位置づけておりまして、これらの課題に対して調整された、包括的かつ持続的な地球観測、そして、その情報に基づいて意思決定や行動が行われるような将来を実現するというところがGEOの大きな目的となってございます。
 GEOは2005年に設立されまして、そこから10年間の活動計画を定めました。これが第1期のGEOです。その後、改めて2015年から10年間の活動計画を定めて、現在活動しているただ中でございます。
 したがいまして、今後、第3期のGEOが2026年以降始まりますので、そこに向けた議論をどうするかという点が今回の御説明の大きなポイントになってございます。
 GEOはビジョン実現のために大きく二つの柱を設定しています。一つがGEOSSと呼ばれるものでデータ共有の仕組みです。ここでは、各国の地球観測データ等を官民を含む広範囲のユーザーに対して提供するためのポータルサイトの運用を行っています。この中で地球観測データのオープン・アンド・フリー化が進み、各国のステークホルダー、また、事業者等がこれらのデータを利活用するためのポータルサイトの運営、運用を行っているところになります。
 また、データの共有だけではなくて、それらのデータを利活用した課題解決の活動を行っております。これを我々ワークプログラムと呼んでおりまして、GEOはビジョンの達成に向けてGEOSSとワークプログラムの活動というところで地球観測を通じた課題解決への貢献を目指すパートナーシップとして活動を続けているところでございます。
 GEOには現在、113か国が現在参加してございます。非常にグローバルに大きな範囲で参加国がおります。GEOは各参加国間の拠出金により運営されておりまして、事務局はジュネーブにあります。我が国は2005年の設立当初からGEOの活動に積極的に関与してきております。
 3ページ目をお願いいたします。
 今申し上げたGEOのこれまでの発展の流れと今後の方向性というところ、これは我々、地球観測のバリューチェーンの枠組みで理解してございます。
 まず、地球観測のバリューチェーンというところで、左端に地球観測があり、そこからデータがサービス提供者に提供されます。そのサービス提供者は実際に地球観測データをより政策決定等に使えるような形でインテリジェンスに変換をしてエンドユーザーに届けるという大きなバリューチェーンの中でGEOの活動というものが定義できると認識しているところでございます。
 下のほう、第1期のGEO、第2期のGEO、第3期のGEOという矢印を書いてございますが、第1期のGEOについては、各国のデータの共有の基盤を整えるというところが主な目的として置かれていたと考えております。その結果としまして、GEOSSポータルのような形で各国の地球観測データの共有のシステムが整備されました。これはまさしくGEOの第1期の成果だと認識をしているところでございます。
 さらに、2015年から2025年、第2期のGEOに当たりましては、よりそのデータを利活用してエンドユーザーにインテリジェンスを届けるような活動の促進というものが行われてきました。単純なデータの共有だけではなくて、実際にそのデータを使ってどのように課題解決に貢献できるのかという観点で、実際に地球観測が貢献し得るような分野を具体的に特定して、その中での利活用というところを進めてきた経緯がございます。
 我々は、今、この第2期のGEOのただ中にいるところでございまして、次の第3期のGEOに向けて、諸々の検討を続けているということになります。
 第3期のGEOになりますが、これは第2期よりもさらにデータの利活用が推進され、エンドユーザーのところにインテリジェンスが届けられ、さらに多くの課題・ステークホルダーに対して地球観測のインパクト、恩恵を与えるというところが第3期のGEOに向けての大きな方向性だと感じているところです。
 また、昨今、地球観測データの利活用の幅がかなり広がってきておりまして、エンドユーザーも今まで入ってこなかったような機関、例えば、ファイナンス関連の機関であるとか地球観測のデータの恩恵を受け得る分野とアクターが拡大しているというところが今のGEOの大きな方向性でもございます。そこに向けて何をしていくかというところが第3期のGEOに向けての議論の大枠になると考えているところです。
 4ページ目を御覧ください。
 こういった大きな動きがある中で、2026年以降のGEOについて、どういうふうな動き、タイミング、タイムラインでこのミッションの策定を進めていくかというところのご説明が4ページの資料になります。
 GEOの中で大きく2段階のアプローチが採用されております。
 まず、2023年に閣僚級会合が予定されているのですが、ここで、まず戦略ミッション文書を作るというところが、今、GEOの中で議論されています。戦略ミッションの文書を2023年に策定し、当該文書に基づいて、その後、2024年、25年の2年間で中身を詰める作業を行う計画です。明確化された戦略ミッション文書の下、そのミッション実現のために必要な取組を識別して、活動としてポートフォリオ化するという2段階のアプローチで2026年を迎える計画となってございます。この2023年の戦略ミッションの文書はこれからGEOの中で中身のドラフティングが始まるという、タイミングになっているところでございます。
 5ページ目をお願いします。
 先ほど申し上げた戦略文書のドラフティングにあたって、GEOの中にグローバルなワーキンググループが設立されました。ドラフトの文書自体はこのワーキンググループで議論・提案された後に、我々が参加する執行委員会であるとかGEO全体の本会合の中で承認されるプロセスとなってございます。
 このワーキンググループですが、各地域の代表、プラスGEO事務局からの推薦者というところで、合計26名のメンバーで構成されています。
 このワーキンググループの構成員には、いわゆる国際的なコミュニティーやプラットフォーム間の連携・統合の経験等がある方や政策枠組みに対する知見や経験をお持ちの方々に加えて、最近、やはりエンドユーザーの拡大という観点も踏まえまして、サステーナブル・ファイナンスに係る知見や経験をお持ちの方もワーキンググループの中に入っていただいています。まさに拡大するエンドユーザーに対してGEOがどういった価値を提供できるのか、という観点でワーキンググループの議論が進もうとしているところでございます。
 我々も日本として大きなGEOの方向性が決まるこのワーキンググループの議論にしっかりと日本の意見や日本の戦略を打ち込むべく、JAXAの落合様に本ワーキンググループに参加いただくこととしました。落合様を通じて日本の戦略をこのワーキンググループに打ち込んでいくというふうな、体制を取っております。
 次のページをお願いします。6ページ目になります。
 とはいえ、全て落合様のほうにお任せするというわけではなく、しっかりと落合様に何をインプットしていただくかという観点で、国内の検討体制を構築すべきだと認識をしているところでございます。
 そこでは、地球観測推進部会が日本の国際戦略であるとかGEOに対してどういったものを打ち込んでいくべきかという議論をする場となると考えております。地球観測推進部会を中心としながら、GEOの次期戦略に向けて必要な戦略は何かという点について、関係府省庁の連絡会という枠組みを活用しながら中身の議論、中身を詰める作業を今後していきたいと考えているところでございます。
 この関係府省庁の連絡会というのは既にある枠組みでございます。一時活動していなかった部分もございますが、改めてこれを再活性化して、この枠組みを活用しながら続けていきたいと思っています。この連絡会は関係府省庁が一堂に会すというイメージではなくて、先ほど事務局のほうから御説明申し上げた重点課題事項を具体的なテーマとして位置づけながら、それらのテーマに関連する関係府省庁――恐らく二、三の府省庁が集まると認識していますが、それらの府省庁と一緒に議論を深めていくというタスクフォース的な位置づけを想定しています。関係府省の連絡会の下にテーマごとのタスクフォースがつくようなイメージで、関係府省庁との協議・連絡を進めているというところになってございます。
 次のページをお願いいたします。
 一応今後の予定を記載いたしました。まだ未確定な部分も多く非常に恐縮ではございますが、仮置きという形で御確認いただければと思っております。
 まず、一番上のラインで、Post-2025のワーキンググループの活動が予定されております。10月までに大体3回の活動が今予定されているというタイムラインが引かれておりますので、これを一つの基準としながら観測部会の議論をしっかりと打ち込んでいきたいと考えております。
 具体的には、9月中旬、末に行われるPost-2025ワーキンググループの第4回目の会合に向けて、地球観測部会の次、第7回の会合をその前に開催することによって、そこで中身を議論したものを第4回のPost-2025ワーキンググループのグローバルな議論に打ち込んでいくというスケジュールを想定しております。
 また、その後もPost-2025のワーキンググループ、グローバルなGEOの中では来年の閣僚級会合に向けてもろもろの議論が進んでいきますので、それらの情報は適宜フィードバックしつつ、我々の打ち込む内容も推進部会の皆様と御相談させていただきながら、しっかりとPost-2025ワーキンググループの中に打ち込んでいきたいと考えております。
 最後のページになりますが、今後の方向性として検討しているところを御説明さしあげたいと思っています。
 まず、我々、戦略の打ち込みを考えたときに、地球観測というものは非常に広範なフィールドを対象にしておりますので、テーマを絞ることが重要だと考えております。具体的なサブスタンスがあって初めて国際的なイニシアチブが取れるとも認識しておりますので、まずはテーマを絞ることを考えて、その絞ったテーマの中で具体的な価値提案、明確な価値提案をビビッドに見せていくことが重要だと感じているところでございます。
 ここで、先ほど事務局から申し上げた四つの重点課題事項がこのテーマであり、重点課題事項のそれぞれに基づく具体的な価値提案が我々の戦略ミッションのプロポーザルになると考えているところでございます。
 戦略ミッションのプロポーザルの中身を考えるに当たって、我が国として価値提案として国際的に打ち出し得るフラッグシップ、具体的には国際的に高いプレゼンスを発揮し得るような取組、比較優位のある取組であるとか技術的に比較優位のある取組、我々がすべき取組を、国際動向等を確認しながら位置づけて見つけていくという作業を関係省庁、関係機関と一緒にやろうと考えているところでございます。
 これらのテーマ毎のフラッグシップがパッケージとして明確にされたものが戦略ミッションのプロポーザルになっていくと考えております。これらのプロポーザルを2025ワーキンググループの中でしっかりと位置づけ、プロポーザルを踏まえてどういった文言が文書に策定されるべきか、GEOの将来的な方向性をどういうふうに持っていくべきかという観点でPost-2025ワーキンググループのグローバルなGEOの議論に参加していきたいと考えております。
 この形で国内検討体制を踏まえてPost-2025の議論を進めるべく、今後部会の皆様と御相談、調整させていただければとも思っておりますので、どうぞお願いいたします。
 御説明は以上となります。
【春日部会長】  渡邊様、非常に効率的な御説明をありがとうございました。
 御説明を伺いますと、このGEO等の動きと、それから本部会の動きとバリューチェーンの観点から非常に呼応していると思いますし、これから国際的にリーダーシップを取ったり日本の強みを生かした貢献をするという意味で強く連携させていただければと思います。
 それでは、部会委員の皆様から御質問などをいただければと思います。今度は時間がありますので、十分に御意見をいただければと思います。
 三枝委員、お願いいたします。
【三枝委員】  どうもありがとうございます。国立環境研究所の三枝です。
 重点課題を定めて、そして、国際動向にも適切に対応するため関係府省がこれから連携して取り組んでいく枠組みを強化されると理解しました。
 私からは重点課題の3番目、温室効果ガスを監視(グローバルストックテイク)のところでごく簡単に国際動向や国内連携の必要性を申し上げたいと思うのですけれども、まず、御指摘いただいたとおり、パリ協定の長期目標達成のために、世界でカーボンニュートラル化が進んでいるかということの確認するために、昨年11月に行われたCOP26以降、UNFCCCを中心に国際機関などの動きが非常に活発になっております。主なところだけでも、例えば、WMO――世界気象機関においては、地球規模での温室効果ガスの観測と、そのデータを使った排出量推計をする、重点課題に挙げていただいた温室効果ガスの監視を行うというようなこれをテーマに今年5月に国際ワークショップを開催して、進めるべきというような議論したところです。
 また、米国などは、米国の広い学問分野をカバーする米国アカデミーズというところが主催をして、今週、国際ワークショップを行いまして、米国の学術界で何らかのコンセンサスを得た温室効果ガスの観測解析から国別インベントリデータの確認や相互の精度を向上するという文書を今年秋頃をめどに作るとワークショップで取りまとめていました。
 このテーマは国際的に去年から今年にかけて非常に進行しておりまして、これに日本として適切に対応し、日本の地球観測コミュニティーとグローバルなモデルを開発する研究コミュニティーがしっかり対応するために、御提案いただいたような連携の取組、地球観測推進部会と関係府省の連絡会などが非常に重要で、一つの府省、一つの機関でできないので、ぜひこちらを進めていただきたく思います。
 以上です。よろしくお願いいたします。
【春日部会長】  三枝委員、国際的な動向の情報も含めてありがとうございました。
 では、赤松委員、お願いいたします。村岡委員、平林委員、少しお待ちください。
【赤松委員】  赤松でございます。説明をいただきましてありがとうございました。
 この部会の議論がGEOを先導する形で進んでいるということを理解いたしまして、我々の活動がすばらしい方向に進んでいるということを改めて感じましたし、GEOの中に我々が今議論していることをしっかりと埋め込んでいって、世界を先導する立場でこの枠組みを進めていただければと考えております。
 もう一つ、私がこの部会に関わるようなってから、GEOが利活用を進める方向に向かってきているというのを強く感じております。それは、例えば、サイエンスももちろんあるのですけれども、サービスということですね。我々民間企業が関わるようなことも結構出てきているというのが大きな動きとしてあるかなと思っています。
 その中で、最後のページに「民間企業とのエンゲージメントを拡大」という言葉が書かれているのですが、もし何か具体的に考えられていることがありましたらお教えいただければと思います。
【春日部会長】  お願いします。
【渡邊行政調査員(環境エネルギー課)】  御質問ありがとうございます。
 まず、こちらの文章で書かせていただきましたのは、GEO本体のほうで作られた文章を持ち出してきました。
 GEOの中でもエンドユーザーの拡大という観点から一般企業、民間企業の方の力が地球観測の目標を進めるためには必要だということは重々認識しておりまして、具体的には、GEOのイベントにおいてインダストリートラックといった形で、一般企業の方々の対話の場であるとか、GEOの活動に一般企業の方々に入っていただくことを支援する動きがGEOのグローバル中で進んでおります。このような動きを踏まえ、よりアクターを拡大していく、一般企業も含めたアクターの拡大がエンドユーザーの拡大、さらにはGEOのスケールアップにつながるという文脈でこの文章が書かれているところでございました。
 我々のミッションプロポーズも一般企業の方々の動きがかなりリンクしている部分があると思っておりますので、そういったところもこのミッションプロポーザルの中でしっかりと取り組むべく議論を進めていきたいと考えている次第でございます。
【赤松委員】  分かりました。ありがとうございます。
 今回、私のほうからも民間企業としての考え方等を打ち出させていただくのですけれども、それらをぜひGEOの世界の中にも埋め込んでいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
【春日部会長】  重要な御指摘をありがとうございました。
 それでは、村岡委員、お願いいたします。
【村岡委員】  村岡です。おはようございます。渡邊様、御説明いただきましてありがとうございました。
 GEOのプログラムボードの委員をずっと務めさせていただいています。今回、これから約2年間、3年間かけてまた大きな転機が来ることを予想しています。これまでGEOが立ち上がった頃から地球観測推進部会ではGEOの活動との連携を進めてきましたし、また、日本はGEOSSアジア太平洋地域シンポジウム、AOGEOシンポジウムを通じてコミュニティー形成と、キャパビルも含めてですけれども、そういったことをリードしてきました。
 また今後、この部会での議論が日本のGEO活動、貢献、あるいはこの地域での展開に大きな力になると思いますので、どうぞよろしくお願いします。
 情報提供ですけれども、今後の議論の御参考になるかと思います。最近、GEOではClimate Change Working Group、Disaster Risk Reduction Working Group、それからCapacity Development Working Groupが協力しまして、GEOのワークプログラムをマッピング分析して、気候アクション、あるいはDRR、Capacity Developmentなどに関連してGEOワークプログラムに含まれる各プログラムがどのような特徴を持って貢献しているかということを分析し、今後、2023-2025 GEOワークプログラムをつくっていくに当たってどのようなことが求められるのか、期待されるのかということを分析して公表しています。これも今後の議論の御参考になるかと思いますので御紹介しました。
 次期のGEOワークプログラムの編集も、今、プログラムボードでは進めています。その中ではテーマごとの活動計画の発展に加えてNexus分野にさらに注目していく、それを利活用サービスにつなぐというところも注視していく計画を立てようとしているところですので、その観点でもぜひ皆さんからのお知恵をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 以上です。
【春日部会長】  村岡委員、貴重な情報提供をありがとうございました。
 それでは、平林委員、お願いできますでしょうか。
【平林委員】  御説明ありがとうございました。
 御説明いただいた資料の8ページ目に関連して幾つかの質問とコメントがございます。
 まず、質問のほうからなのですけれども、今回の部会の中で議論する重点課題候補案をプロポーザルのテーマとして設定していくという説明があり、この資料の左側にGEOのほうで今スコープに入っているものの例として金融や統計やプライベートセクターのエンゲージメントが示されており、また先ほど議題1ではこの重点課題が関係府省間の連携を深めていくものという御説明がありまして、国内の関係府省間の連携と、GEOのほうがスコープに入れているファイナンスとかプライベートセクターとの関係についてを、少し明確化いただければと思います。
 次にコメントですけれども、フラッグシップを選んでいく際には、実際にこれを推進していくために国内で誰がリーダーシップを取るのか、どの組織がリーダーシップを取るのか、あるいはそのための体制とか資金含めてリソースが整っていることが大切かと思います。
 また、国際的に打ち出していくにあたっては相応の技術の成熟度というものも必要ではないのかなと思いますので、ぜひそういう観点も含めてフラッグシップを設定いただくことが大切ではないかと思います。
 それからもう1点、コメントでございますけれども、地球観測の場合には産学官含めて様々なステークホルダーがおりまして、観測主体、インテリジェンスを提供する方々、それから実際のエンドユーザーという形で様々なアクターがおりますので、特にこれを検討していく際にはユーザーの方々がどういった視点を持っているのかということも踏まえながら打ち出していくことが大切かと思いますので、できましたらこの部会でもそういうユーザーの方々の視点としてどういうことがあるのかというのもインプットいただきながら検討を進めていくことが大切かと思います。
 以上です。
【春日部会長】  平林委員、いろいろと重要な御指摘ありがとうございます。
 予定の時間を少しオーバーしてしまっているので、いただいたコメントの1番目と3番目ですね、重点課題の取扱い方、それから様々なアクターやユーザー視点を盛り込んでいくべきこと、これは7月末までに皆様からいただいた御意見と併せて今後の部会の進め方に活かしていければと思います。
 2点目の国内の体制やリソースについて、もしも今の時点ですぐにお分かりになることがあればお答えいただけますでしょうか。
【渡邊行政調査員(環境エネルギー課)】  私から御回答さしあげたいと思います。
 最初の重点課題のクラリファイのところでございますが、資料の記載が適切でなかった部分もあるかもしれませんが、関係府省庁の連絡会を中心としつつも、それは関係府省庁のみに限定するものではないと考えておりまして、そこは関連する関係機関であるとか、まさに一般企業の方々の御意見もその中で集約するべく動いていきたいと考えているところでございます。
 ただ、二つ目の御質問と関わってくるところではございますが、リソースという観点では、リソースを持っている関係府省庁との連絡というところが中心に置かれて議論が進んでいくことが実効的な、今後継続し得る日本としてのプロポーザルになるというところにも関わってくるかと思います。その観点で、まずは関係府省庁との連絡会というところを軸に置きつつ、関係機関や一般企業の皆様の御意見を賜るというような枠組みで、今、考えております。
 あわせて、ユーザーの視点というところは御指摘のとおりだと思っております。
 ユーザーの視点がないと具体的な意味のあるプロポーザルにもならないと思っております。そこの取り込みをしっかりと意識しつつ進めていきたいと考えている次第でございます。
 以上です。
【春日部会長】  ありがとうございます。
 川辺委員、すみません、短めに御質問、コメントいただけるとありがたいと思います。よろしくお願いいたします。
【川辺委員】  川辺でございます。
 今の平林委員の最後のコメントと関係するところなのですけれども、資料の3ページ目に「バリューチェーンの観点から見たGEO」と示してあります。主活動として地球観測、サービス提供とあるのですけれども、最後のエンドユーザーというのは、これは活動ではなくてエンドユーザーという主体になっているので、これがエンドユーザーのどういう活動かというところを書かれたほうがよろしいのではと思いました。
 もう一つ、今のところに関連して、この主活動に対応して文科省としてどういう支援活動を行うのかというところは、例えば、技術開発なのか、あるいは規制緩和なのかとか、そういった付加価値的な活動がないとバリューチェーンの図としてはちょっと物足りないのかなという気がいたしました。御検討いただければ幸いです。
【春日部会長】  ありがとうございます。
【渡邊行政調査員(環境エネルギー課)】  非常に貴重な御意見いただきましてありがとうございます。
 今の点、重要だと認識いたしましたので、そこは資料の今後の修正と我々の認識の取組というところも含めてしっかりと考えていきたいと思います。ありがとうございます。
【春日部会長】  ありがとうございます。大変充実した議論をありがとうございました。
 渡邊様もありがとうございました。
【渡邊行政調査員(環境エネルギー課)】  ありがとうございました。
【春日部会長】  それでは、次の議題に移りたいと思います。
 最終取りまとめに向けて、生物多様性等についての検討、それから、充実させていく必要があります。そのため、生物多様性・自然資本について、環境省国立環境研究所、国際航業、MS&ADから組織状況や関連動向について御説明いただき、そして、意見交換を行いたいと思います。
 なお、発表者の御都合によりまして、まず、環境省谷貝様、そして、村岡委員、赤松委員に続けて御発表いただいた後で、まずそこで意見交換の時間を設けたいと思います。その後にMS&ADの原口様に入っていただいて御発表いただきます。
 それでは、谷貝様、お願いいたします。
【谷貝室長(環境省)】  環境省自然環境局生物多様性主流化室長の谷貝と申します。今日はこういった貴重な機会をいただきまして誠にありがとうございます。
 環境省といたしましては、気候変動をはじめといたしまして、様々な調査研究でお世話になっているかと存じますが、今日は特に生物多様性・自然資本について今の国内外の状況と、特にその中でデータの整備といった部分が非常に今大事になっているといったことをお伝えできればと思ってございます。
 では、早速ではございますが中身に入らせていただきます。
 まず最初に、そもそも論といたしまして、我々が考える生物多様性・自然資本について簡単に整理をさせていただいております。
 生物多様性というのは基本的には3種類の生態系、種、そして種内(遺伝子)の多様性ということで生物多様性条約上定義をされているところでございます。
 それに加えて、ストックということで自然資本という概念がございます。こちらのほうは必ずしも生き物だけではなくて、大気、土壌、鉱物といったものを含む広範な概念でございます。下のほうに図がございますけれども、このストック――自然資本についても多様性がなければ脆弱であるということがございます。生物多様性について、生き物について種の多様性があることによって多様なサービスが提供されておりますし、何か環境変化があったときに対応できるということがございますので、量だけではなく、ストックだけではなく質の部分、多様性の部分も大事だよということで、自然資本・生物多様性の保全が重要であるということを我々としては言っているわけです。そこから人間が得られる便益が生態系サービスということでございまして、いろいろなサービスを受けていると。
 右下のほうにSDGsをウェディングケーキにしたよく使われている図で示しているように、一番基盤にあるのが自然資本であって、幾ら経済社会の課題に取り組もうとしてもその根底にある自然資本をきちっと維持しなければ全て台無しになってしまうということで、非常に大事なものであるということで我々としては保全を進めているわけです。
 次は、特にビジネスに着目をしたときに、ダボス会議を開催しております世界経済フォーラムさんが毎年経営者の皆さんにアンケートを取って、経営にとって御社のリスクは何ですかということで聞いているわけですけれども、今年の調査のときに出てきている上位10のリスクのうち上位5個は実は環境関係でありますし、特に1位は気候変動であり、それに次ぐのが生物多様性の損失であるという意識を持たれている状況でございます。
 もちろんこれはウクライナ戦争が起きる前の話なので、今アンケートを取ると順番が多分変わるとは思うのですが、いずれにせよどんどん近年、気候変動であるとか生物多様性のリスクの順位が上がってきているということがございますので、世界的に言っても気候変動プラス生物多様性というのが大きなリスクになっているというのが言わばビジネス界の常識になりつつあるということが言えるかと思います。
 こうした中、今、生物多様性条約という国際条約に基づきまして、新しい生物多様性に係る国際目標といったものを議論してございます。
 先日、今年の12月に、カナダのモントリオールでCOP15と呼ばれている国際会合を開催して、そこで次期目標を決めるということが発表されておりますので、間もなく、あと半年くらいですけれども、新しい目標が決まるわけでございますが、そこに向けて、今、最終的な詰めを行っている状況でございます。
 この中で幾つか2030年への目標が設定されるわけでございます。特に、例えば左側のほうにある四つのマイルストーン、goals to goでありますけれども、生態系の保全ということで、希少種であったりとか外来種といった対策に加えて、ビジネスとか政策において生物多様性や自然資本といったものをきちっと組み込んだ意思決定をすべきであるといったことが挙げられているわけでございます。
 また、右側のほう、より細かい21のターゲットというのが議論されているわけでございますけれども、例えば、その中では14番、15番のほうで申し上げたように政策や様々な計画、取組において生物多様性というのをきちんと統合しなさいと。あるいは、ビジネスにおいても生物多様性の損失といったものを組み込んで反映をさせましょうといったような目標が組み込まれますので、そういう意味でいうと、今、どちらかというと、こういった環境保護とか自然保護というのは国であったりとか一部のNGOのものであるという意識が強かったわけですが、今後はそうではなく、むしろ社会全体、経済全体の課題であって、あらゆる経済活動において生物多様性を組み込まなければいけないということが特に強く意識されているということになっております。
 一方、実は民間ベースでもESG投資、ESG金融の絡みもあって、この生物多様性・自然資本に関する枠組みづくりが急速に進んでいる状況でございます。
 端的に言うと、気候変動の次が生物多様性・自然資本であるという意識が非常に強くございまして、その意味でいうと、気候変動で、例えば、TCFDと呼ばれているような情報開示のフレームワークができているわけですが、そのネイチャー版としてTNFDといったものを、今、つくろうと動いているわけでございます。この後、原口様のほうから詳しく御説明があると思いますけれども、それに加えて、SBTs(Science Based Targets)と呼ばれている企業の自主的な目標設定の枠組みについても、そのネイチャー版であるSBTs for Natureといった枠組みづくりが進んでいるという状況でございます。
 さらに、下のほうにISO TC331といったものも、今、議論が進んでございまして、言わば国際標準としての生物多様性の規格――特に経営であったりとかマネジメントであったりとか指標・目標だったりとか、そういったものを国際的につくっていこうという動きも一方で出てございます。将来的には恐らくは気候変動と生物多様性というのを一体的に捉えて、ISSBと呼ばれている国際的な会計基準をつくる組織において統一的なものができていくのだろうと――これはまだ決まってはいないのですけれども、予想されるわけでございます。
 このように、今、脱炭素が先行して大いに盛り上がって動いているわけでございますが、それに続く語句として生物多様性が追随をしていて、将来的にはそれらが恐らく一体として取り組まれていくだろうと予想できるわけです。
 こうした状況を踏まえますと、日本のビジネス界においては気候変動対策と呼ばれているわけなのですが、遅かれ早かれ、さらにそれに加えて生物多様性・自然資本についても対処しなければいけないという状況になってくるかと思います。
 今、日本の経済界はどういう状況かといったことでございますが、それが右側に書いてあるグラフです。今、自然資本・生物多様性を、主流化という言い方をしていますが、ちゃんと経営に組み込んでいますかというアンケートを取ると、それなりに組み込まれてはいるのですが、やっぱりなかなか難しいですという声が多いです。
 その理由を聞いたのが右側のグラフなのですけれども、一番大きいのが目標・指標の設定、定量化・経済的評価が困難であるというのが64%。過半数の企業の方がここにネックを感じているという状況がございます。それに加えて、配慮や活動が事業の利益に結びつきにくいとか、本業との関係・関連性が薄いということがございまして、大きく二つあって、そもそも自分の事業と生物多様性・自然資本がどう関わってくるのかよく分かりません、関わり方を定量化・指標化したいのだけどそれはできませんということになってくると思います。なので、これを解消しないと取組はなかなか進まないということが言えるかなと思います。
 ただ、気候変動と比べた場合にやっぱり自然資本とか生物多様性というのは難しいというのが、一つは、ローカリティーというか、地域性というのが非常に大きいと。これは、気候変動の場合にはどこかでCO2を出そうが吸収しようが削減しようがそこは同じCO2なのであまり地域的なことを気にしなくていいのですが、生物多様性とか自然資本はそうではなくて、やはり生物多様性が豊かなエリアでの開発行為とそこまでではないエリアでの開発行為は全然意味が違います。
 また、水資源についても水資源が豊かなところでの水資源の消費と乏しい地域の水資源の消費というのは同じ水の消費であっても全然違うわけでありますので、やっぱりそこは地域性を加味しないと適切な評価が難しいといったことがございますので、そういったある意味世界全体の色々な地域毎のデータがないと、特にサプライチェーンが国際展開されている場合には、自社の事業活動が行われているあらゆるエリアの地域毎の生物多様性とか自然資本の状況がないと、本当に自社の事業活動がどういった影響を与えているかというのは評価できないといったことがございます。
 それに加えて、当然、サプライチェーンとか意識した場合には、その2次産業――Tier2、Tier3、Tier10までありますね。サプライヤーの事業活動について把握をしなければいけないわけでありまして、これはもちろん気候変動とか、あるいは人権であったりとか、ほかの分野でも動いている話なので一緒にやっていけばいいとは思いますけど、いずれにせよ、そういった事業活動がどういった自然資本・生物多様性に影響を与えているかというのをきちっと評価をしなければいけないということがございますので、非常に莫大なデータが必要なってまいりますし、さらにそれをきちっと定量化・集約するための手法といったものも整備をしていかなければいけないということがございます。非常に気候変動と比べても難しいなというのが率直な感想でございます。
 次のスライドは御参考で、今どういった指標やデータがあるかということで、字が小さくて恐縮なのですけれども、もちろん開示されているのです。開示されてはいるのですけれども、CO2のGHGプトロコルみたいな統一された手法が確立されているわけではありませんし、やはり地球全体をくまなく、あるいは地域毎の生物多様性とか自然資本のデータを取得するというのは難しくて、なかなかそういう包括的・一元的なデータベースなり指標があるわけではないという状況でございます。
 例えば、土地に着目をしたり、希少種に着目をしたり、いろんなやり方がありますので、あとはそれをLCA分析をして、例えば、金銭換算したりとか、疑似土地換算したりして一義的に評価をしようというやり方とか色々あるのですけれども、なかなかコンセンサスを得られた手法というのはないというのが現状かと思います。
 以下、こういった国際状況を踏まえつつ、今の当省の取組について簡単に御紹介します。
 8ページをお願いします。
 今、我々のほうとしては、先ほどお話しした次の世界目標に向けて、既に新しい国家戦略の検討を進めてございます。
 その中では大きく五つの基本戦略を掲げているわけですが、その中で特に、例えば3番においては事業活動への生物多様性・自然資本の統合ということで、ネイチャーポジティブ経済の実現を目指すといったことでありますとか、5番といたしまして、基盤としてのデータ整備、国際連携といったものを推進するというのを挙げさせていただいてございます。
 特に、基盤的な部分についての記述を少し抜粋させていただいてございます。やはりデータが肝ですと。データがなければ企業としても生物多様性に取り組みようがないので、それをしっかりと整備しなくてはいけないですねと。そのためにデジタル技術等を活用して、サプライチェーン上でデータを把握するための技術であったりとか、モニタリングするための技術といったものを支援していきたいと思いますし、あるいは現状あるデータの連携といったものを進めていきたい。それを踏まえて企業の情報開示等々を支援していくということでございます。あと、オープンデータ化も図っていきたいと。オープンデータ化、API連携等を進めていきたいということを計画の素案には盛り込ませていただいているという状況でございます。
 以下が、今、具体的にやっている取組でございまして、この後、御説明があるかもしれませんけれども、例えば、当省の組織である生物多様性センターを中心として、昔から実は環境省は、緑の国勢調査というふうな言い方もしますけれども、自然環境保全基礎調査というのを50年近くやってきているので、非常に日本の観測データというか、日本について言えば従前たる知見というのは蓄積されているというのがございますし、ほかにもいろんな省庁さんとか自治体さんとか研究者の方がデータを持っていますので、そのデータ連携を図っていって、データを集約していこうという取組を始めているところでございます。
 それに加えまして、今、我々としてやろうとしているのは「見える化」という話であります。マクロ生態学、あるいはデジタル技術を駆使いたしまして、生態系の状況だけじゃなくて、ある意味生物多様性の価値の見える化を図っていって、言わば生物多様性としての価値が高いエリア、低いエリアを可視化させていただいて、それによって特に保全すべきエリアを抽出したりとか、あるいは保全行為によって実際どれだけ効果が上がっているかというのを見える化を図ることによって、例えば、企業さんの保全の取組を外部的に発表しやすくするといったことができるかなと思ってございます。さっき申し上げたセンターを中心とするデータ連携、データプラットフォーム化、プラス、こうした価値の可視化といったことを、今、同時並行で進めようとしているという状況でございます。
 一方で、サプライチェーンについて申し上げますと、先ほど申し上げたとおり、必ずしも自然資本だけでやる必要はないかなと思っています。事業活動自体はある意味脱炭素とか人権とかも一緒でありまして、そういったところと連携をして、個社にとどまらないサプライチェーン全体でのデータを集めていきたいと思っております。例えば、他省庁さん――経産省さんとかではアジア単位でのサプライチェーンのデータ連携なども進めていらっしゃいますので、そういったところとも連携していくことによって、日本国外の、特にサプライチェーン上のデータは集めていきたいなと思っているところでございます。
 以上、駆け足ですが私からの発表は以上でございます。どうもありがとうございました。
【春日部会長】  谷貝様、背景から今の取組、そして、今後の展望まで大変詳しいお話をありがとうございました。
 それでは、続いて村岡委員に御発表をお願いします。
【村岡委員】  村岡です。よろしくお願いします。資料の共有をお願いします。
 岐阜大学の村岡です。国立環境研究所で生物多様性評価連携研究グループ長も務めております。
 今日はアカデミアあるいは観測コミュニティーの観点で、生態系・生物多様性観測およびデータ共有に関する現状とニーズと今後の課題ということで、駆け足になりますけれども御説明します。
 背景としましてはつい先ほど谷貝様からお話があったとおりです。気候変動や人為影響下の生物多様性・生態系機能の喪失・劣化に対する懸念が高まっているところでして、こういったことに対して生態系・生物多様性観測情報からアクションを起こすような知見・情報・データが必要とされています。
 先ほどやはり谷貝様からお話があったとおり、生物多様性とか生態系機能の特徴としましては、空間的、時間的にかなり不均質であるということです。多面的な機能や多面的な生態系サービスがあり、それを支える生態系・生物多様性の特徴というのもやはり地理的、時間的、あるいは空間的に不均一性が高く、または土地利用とか資源利用のインパクトといったものも不均一性を持っています。
 こういった特徴を持ちながらも、政策課題、社会経済課題としては、Nature-based SolutionsであるとかPost 2020生物多様性枠組、OECM認定や30by30目標、TNFD、TCFD、またはカーボンニュートラルといった多くの課題に生態系・生物多様性情報が必要とされると理解しております。
 こういったことに対応していくためにも、この部会でも長年議論が続いていますけれども、生態系の時間・空間的スケールを横断する観測・評価・予測と情報発信の推進が急務だと考えています。その中にはもちろんそれを支える科学技術の発展、可視化の問題、人材育成、さらには様々な関係者――アカデミア、研究機関、省庁、民間、自治体の連携によってこれを推進していくということが必要だと考えています。
 これらの中で重要なプレーヤーとして観測・研究ネットワークというものがありまして、今日はこれから幾つかの観測・研究ネットワークをかいつまんで御紹介し、その後で課題についてお話をします。
 生物多様性分野の国際的な研究ネットワークとしては、GEOの下に2009年に設立された生物多様性観測ネットワーク(GEO BON)があります。これは遺伝子、種、生態系、生態系サービスなど様々な観測を推進し、データを共有・公開するということを推進しています。
 この中で特に注目すべきことは、Essential Biodiversity Variables――生物多様性必須観測項目群といいますけれども、これを科学的な知見に基づいて定義し、これをグローバルに各所で観測することによって生物多様性の状態を監視し、また、ユーザーに情報または指標を届ける取組です。先ほど評価のためにもデータ、指標が必要というお話がありましたけれども、このEBVを使ってその指標化を進めていくという考え方です。
 GEO BONの中には地域や国、あるいはテーマのようなそれぞれの生物多様性観測ネットワーク(BON)がありまして、アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(APBON)は、GEO BONが立ち上がってすぐに、これに呼応する形で、名古屋で開催されましたCOP10に先んじて2009年に設立されました。当時から環境省に支援していただきながら、大学研究機関、研究者の連携によって運営してきています。私は現在、このAPBONの共同代表を務めています。
 APBONはGEOSSアジア太平洋シンポジウムやAOGEOシンポジウムでの分科会、あるいは独自の会合や共同研究を通じて、コミュニティー構築とキャパシティーデベロップメントを展開して、今、AOGEOの生物多様性分野を牽引しているところです。
 これと連携する形で、アジア太平洋海洋生物多様性観測ネットワーク(AP MBON)も昨年立ち上りました。また、日本ではJBONがAPBON設立と同時に立ち上がっており、国内あるいは国際的な展開を図っているところです。
 このAPBONでは推進費や多くの資金をいただきながら、日本や東アジア、東南アジアなどで生物多様性観測やネットワーク形成を続けていまして、それらの多くの成果が最近のIPBESのアジア・オセアニア地域のアセスメントにも提供されています。
 生物多様性に関するものとして重要な情報基盤としては、地球規模生物多様性情報機構(GBIFあるいはJBIF)というものもあります。
 GBIFのほうはOECDの勧告を経て、参加政府間の覚書によって2001年、20年以上前に発足したもので、現在、多くの国・機関が参加している国際的なネットワークです。これは生物の出現記録を含む生物多様性情報基盤をオープンアクセスで提供しているものです。
 これに連携する形で、我が国では文科省のNBRP課題において、遺伝研・科博・国環研の3機関が運営する形でJBIF――日本生物多様性情報イニシアチブが動いています。これは日本のGBIF事業を担う組織として活動を続けているところです。
 生態系に関するものとしては、長期生態学研究ネットワーク――LTERというものがあります。これは、生態系の構造や機能・分布の変化を調べる研究者、あるいは研究サイト、調査地のネットワークです。現在、44の国・地域が加盟して、世界で700以上のLTERサイト(調査地)が登録されています。観測データベースは国ごと、あるいはグループが整備して公開しているところです。
 日本では日本長期生態学研究ネットワーク(JaLTER)がありまして、このJaLTERのデータベースはDIASにも接続されています。さらに、JBONでありますとか環境DNAのモニタリングネットワークであるANEMONEとも連携を進めています。
 データ公開の状況としましては欧州とか米国を中心に進んでいます。これは、大型ファンドであるとか、後で御紹介しますが生態系観測のインフラ化が進んでいるということもあります。残念ながら、今、日本やアジアではデータの電子化に係るリソースですとか言語の多様性の問題などを背景にやや遅れぎみということになっていますが、日本ではJaLTERが国際誌でデータペーパーカテゴリをつくって論文編集とデータ公開を担当しています。アジア地域の課題として、やはり言語の問題、研究キャパシティーの問題等がありますが、これは日本が牽引すべき立場にあると考えています。
 次はフラックス研究ネットワークです。これは三枝先生が御専門ですけれども、陸域生態系と大気の間でのエネルギーや物質の交換速度の観測・評価・予測に関する研究ネットワークです。欧州、米国、アジア地域を中心に展開して観測強化が図られています。世界規模のネットワークとしてデータ情報基盤を拡充しているところです。
 右側にありますFLUXNET2015 Datasetというものではデータペーパー化、オープンデータあるいはデータの前処理の統一化などが図られています。
 課題としましては、やはり先ほどのLTERと同様に、米国、欧州、あるいは豪州では大きなファンドがつき観測インフラ化しているということもあって進んでいますけれども、アジア地域のネットワーク、アジアフラックスや日本地域のネットワークでは多様なコミュニティーが関わっているということもあり、あるいはリソースが不足してしまうという面もあり、日本やアジアのデータ公開がやや遅れぎみである、どんどん推進していくべきではあるということが挙げられます。
 次に生物季節――フェノロジーといいますが、これの観測ネットワークも国際的に展開されています。ここでは二つ御紹介します。
 一つは左側、Phenological Eyes Networkです。これは、2003年に環境省の地球環境研究総合推進費(S1)を機に、JaLTERやJapanFluxの観測サイト等で衛星観測研究者と連携する形で、あるいは研究機関と連携する形で地上での衛星データの検証サイトをつくるという目的で、日本を中心に世界の数か所も加えて展開されたものです。デジタルカメラや植物調査、全天分光放射計などさまざまな自動観測機器と現地調査を組み合わせた観測を行い、衛星データの品質チェック、あるいは新たな指標をつくるというようなことを進めてきました。
 同様の観測ネットワークがアメリカを中心に展開されていまして、これが右側のPhenoCamというものです。2008年に立ち上がりました。これは、先ほどのフラックスネットのうちAmeriFluxを中心に、観測タワーにデジタルカメラを設置して植物のフェノロジーを観測し、フラックスデータの解析をするというものです。
 次で最後になりますが、全球生態系リサーチインフラストラクチャー(Global Ecosystem Research Infrastructure)を御紹介します。これは新しい展開です。
 米国、欧州、あるいはドイツ、フィンランド、オーストラリア、中国、南アフリカには陸域生態系の観測システムがかなり充実したものがつくられていまして、これは観測からデータ集約、処理、アーカイブ化、共有、公開する利活用、これが循環するような仕組みがこの十数年で随分発展してきました。これは、生態系フィールドでの地球観測をインフラとして国や地域が支えているというものです。地上観測や航空機観測、衛星観測を全部連動させるということによってクロスプラットフォームでの観測を推進し、気候変動による陸域生態系への影響の監視、あるいは生物多様性の変化による生態系機能の変化の監視というものをオペレーショナルな形で展開しているものです。
 次にGEOワークプログラムに関連した活動を御紹介します。GEOのワークプログラムにおいてもGEO BONやGEO Wetlands、あるいはEarth Observations for Ecosystem Accounting、GFOI、あるいはGEO-TREESといった生態系あるいは生物多様性に関するプログラムが展開されています。
 ここから3ページ使いまして、かいつまんで状況、課題について整理します。
 日本・アジア太平洋地域での連携の状況としましては、日本の研究者コミュニティーがこの地域のネットワーク化に貢献するという状況があります。観測や評価手法の標準化やキャパビル、コミュニティー構築を展開してきています。
 APBON、GBIF、AsiaFlux等でそれぞれ観測や研究、あるいは情報の公開というものを続けられています。一方で、地理的・時間的・分類学的なデータギャップの問題であったり、分野横断的な利活用のためのデータ相互利用性といったところに課題があります。
 推進のための課題を右側に整理しました。様々な観測技術の連携、例えば、衛星観測とフィールド拠点、あるいは環境DNAとの連携というようなものがこれからの課題です。
 データ提供者のメリットの可視化、市民科学との連携、それを支えるリソースの問題、さらに基礎研究と社会課題、政策課題をつなぐ仕組みとか仕掛けなどが必要とされます。
ここから2ページは情報をかなり盛り込みましたので後で御覧いただければと思いますけれども、先日の中間取りまとめに対応する形で、ここで4点、課題を整理しました。
 観測現場とエンドユーザーを結ぶ仕組み、あるいは価値への換算、あるいはそれを支える長期戦略とリソースの問題、ファシリテーターの養成などが必要とされます。
 次のページ、これで最後にいたします。
 学術的課題と利活用に関する課題、それから共通課題を整理しました。ここでは、先ほどから繰り返しになるので避けますけれども、やはり観測評価体制の強化が必要とされます。その中では、社会・経済的な課題に対応するための指標化といったことも学術的な課題ではあります。
 利活用に関する課題としましては、価値への換算、生態系勘定の問題、可視化の問題、科学と社会をつなぐ知見の問題、あるいはニーズへの対応とそれを支える体制・枠組みの問題ということがあります。
 共通課題としてここで特に強調しておきたいのは、生物多様性データ活用のルールの整備ということが必要になります。オープンデータの議論はありますけれども、一方で、非常にセンシティブなデータや知見も含まれることがありますので、ここはやはりデータを取る側と使う側が協力して検討するということが必要になるかと思います。
 以上です。時間がかかってしまいまして申し訳ありませんでした。
【春日部会長】  いえいえ。村岡委員、ありがとうございました。
 国際的にも国内的にも大変多くの組織やイニシアチブが動いているということがよく分かりました。また、本部会との関係で重要な課題を御指摘いただきましてありがとうございました。
 それでは、続きまして赤松委員に御発表をお願いしたいと思います。
 赤松委員、お願いいたします。
【赤松委員】  国際航業の赤松でございます。
 私のほうから、民間企業の取組と現在持っている課題認識と対応ということで、国際航業という一つの企業を取り上げまして、地球観測分野、特に今日は自然資本等に関連するビジネスの取組ということで御紹介をさしあげます。
 国際航業では、色々取り組んでいるのですが、四つの課題分野というのを定義しています。地球環境保全、地域社会との共生、国土保全・強靱化、そして災害対策とあるわけですが、今日は赤枠で囲った地球環境保全の事例等を御紹介さしあげたいと思います。
 我々は民間企業なのですが、やはり持続可能な地球への取組ということを、今、テーマとして掲げております。ここで衛星情報も含みます「空間情報で未来に引き継ぐ世界をつくる」というミッションを定義しておりまして、その中でもSDGsや気候変動対策――この中に自然資本関係も含まれておりますけれども、これを事業の中心に据えて目標達成を目指しているということです。
 下のほうに気候変動対策への取組ということで、国際的な枠組みも含めまして、幾つかの枠組みに加盟しながら活動もしているということです。
 これは、国際航業が提供していますワンストップ地理空間情報サービスのイメージでございます。まず、最初に計測ですね。センシングして、そのデータを解析処理しまして、エンドユーザーに届ける利活用のコンサルティングを行っていくというワンストップの仕組みを社内に持ってサービス提供しているということです。これは、昨年度取りまとめた「地球観測・予測データの活用によるSDGsへの貢献」の中間報告で中心に据えられております「データバリューチェーン」そのものを表していると考えていただいていいかと思います。こうした仕組みを社内に用意してサービスを提供しているということです。
 使っている衛星システムは17種類、あるいはそれを超えるということで、政府系の衛星もありますし、海外の衛星もあります。そして、民間の衛星もありますということで、マルチ衛星を活用しまして、それぞれのサービスに最適なアセットを組み合わせてサービスの最適化を図っているということです。こういうマルチ衛星の活用という部分も重要なポイントになるかと思っております。
 得られたデータを解析してソリューションにするということで、上のほうに示しましたように様々なサービスを提供しております。それを下に示しました様々なお客様に提供しているということなのですが、本日は赤枠で囲った自然資本関係のところを御紹介していきたいと思っております。
 今説明した生物多様性・自然資本関係のサービスとSDGsの17の目標との関係を整理してみたものでございます。このように見ると、生物多様性ですとか自然資本の関係のサービスというのはSDGsの目標の多くと関係しているということで、自然資本への取組というのがSDGsの推進にもかなり寄与するということがお分かりいただけるかなと思います。
 では、ここから生物多様性や自然資本、そして、TNFDを見据えたビジネス事例と課題ということで御紹介をさしあげたいと思います。
 まず、事例のほうを御紹介いたします。これはREDD+でありまして、皆様もよく御存じのように、熱帯林の保全によりましてCO2の排出削減を図っていくという仕組みでありまして、国際航業では14か国にプロジェクトを展開しております。
 この中で、ODA業務で国家のREDD+モニタリングシステムをつくっていくということもやりますし、民間企業様と連携して具体のサイトでクレジットを創出するというような活動も行ってきております。
 こちらは、今度、国内に戻りまして、都市の緑地調査サービスの例です。
 衛星データとか、場合によっては航空機からのデータも使うのですが、そのデータの画像解析により緑地を抽出して、GISの中で様々な区域データと重ね合わせて統計値を出していくというようなことを行っております。こうした統計値を生物多様性の指標としてどう新しく開拓できるのかということも課題かなと思っております。
 こちらは内閣府の先進宇宙利用の実証の中でのPOCの例でありまして、まず、パーム油生産における森林減少ゼロ支援サービスというものをつくった例です。
 まずはパーム油の生産林の生育不良ですとか生育の状況などをモニタリングするという仕組みと、もう一つ、そのパーム林を取り囲む森林の健全性、環境側面をモニタリングするという仕組みの二つをセットにして、環境保全と生産と両面のモニタリング情報を関係者に共有していく仕組みをつくったということです。
 こちらも内閣府の先進宇宙利用実証のPOCの例でありまして、先ほどのパーム林のところを今度はコーヒーに変えてみたという例です。
 こちらもコーヒーの木の生育診断を行っていくのと、コーヒーの畑の上はシェードツリーという天然林がありまして、こちらの環境面がちゃんと保全できているかということと、両方を組み合わせてモニタリング情報を提供していく仕組みをつくったということです。
 こちらはUCC様と一緒にやらせていただきまして、ニュース等報道関係でも結構取り上げられたということです。
 以上、御紹介さしあげてきました事例に基づきまして、国際航業という民間企業が気候・自然資本サービスに向けた宇宙利用関連の中でどのような課題認識を持っているかというのを端的にまとめてみました。
 まず、全体の方向性です。
 こうした気候変動ですとか自然資本関係のテーマというのは単独の企業ではなかなか解決できないということもございまして、赤字で書いた産官学の連携モデルとして、気候変動や自然資本のデータ・解析プラットフォームの衛星利用モデルを開発していくということが、まず一義的な課題になるだろうと考えております。
 これは、先ほど紹介いたしましたSDGsへの貢献の中間取りまとめでも中心に据えられたテーマでございまして、我々民間企業としてもこの辺を重点テーマと考えているということです。
 そうした中で少し具体な話としては、先ほど御紹介もありましたが、TNFDやNbS等へのサービスの組み込みを意識していくことですとか、衛星については先ほども多数の衛星を使うということを御紹介さしあげましたが、時系列モデルと複数・異機種のモデル連携を実装していくということがテーマになるかと思います。
 さらにAIを使った自動化処理ということで、新しい技術を取り入れて効率化を図っていくということもテーマになるかと思っております。
 そうした中、個別のデータベースないしはプラットフォームとの連携ということで考えますと、G空間情報センター、Tellus、DIAS、そして、グローバルではGEO、Copernicus、 Google、AWS、そしてJJ-FASTといった様々なプラットフォーム、データベースがあるわけなのですが、この辺とちゃんと連携をつくる、連携をしたモデルを組立てていくということが民間企業としても大事だと思っております。
 また、ここにコンサル、コンサルと何個か赤字にしてあるのですが、こうしたプラットフォームを最終的なエンドユーザーに届けるためには、やはりそこにつながる窓口やインターフェースになる利活用のコンサルティングというのが重要であります。これもSDGsへの貢献の中で大分述べさせていただきましたが、ここのところを民間企業としては重点的に取り組んでいきたいと考えているところです。
 そうした方向感の中でどんな具体的なサービスが考えられるのかということで、ここにはテーマの素案ということで現在構想しているものを少し示させていただきました。構想ですから、これからいろいろやっていかなければいけないということで見ていただければと思います。
 例えば、TCFD/TNFDに向けた企業評価指標開発、それから、ブルーカーボンといった新しいテーマ、森林資源モニタリング・違法伐採監視のオペレーショナルなシステム、栽培適地の変化予測とモニタリング、JJ-FASTの高度化、森林REDD+でのCO2排出削減の高度化といったテーマが考えられるのかなということを提起しております。
 もう少しテーマの中身を具体的に説明さしあげます。
 まず、企業評価指標の開発ということですが、ESG投資の観点から、企業のSDGs、TCFD、さらにはTNFD関連の評価指標に衛星情報やGIS情報を適用していくということです。もちろん衛星だけでこの指標を全部つくれるわけではないのですが、例えば、一番右のほうに書きました原産地評価といったTNFDに関わるような指標を衛星とGISを活用して作り、全体の仕組みの中に組み込んでいくというようなやり方が考えられるのではないかと思っております。
 次はブルーカーボンでございます。ブルーカーボンとか、それから、先ほども御紹介ありましたOECMとかの新しいテーマに対して、先ほどの企業評価指標の開発とも関係するのですが、衛星データを使って指標を算出していくということです。例えば、ブルーカーボンの適地の選定やモニタリングをしていくのに衛星データを活用することができるのではないかと考えております。
 そして、森林資源のモニタリング、違法伐採監視です。これは、先ほど内閣府のPOCの中でパーム林の話を御紹介しましたが、それをもっとオペレーショナルなシステムにして情報提供をリアルタイムに行っていくということです。違法に森林伐採をしている地域からコモディティーを調達していないかを把握していくという仕組みです。右のほうの図に示しましたように、森林資源の減少検出、アラートダッシュボード、画像確認アプリといった機能をつくりまして、こうした情報を右上のメーカーさんですとか加工業者さん、商社さんに提供することでサプライヤーに環境保全を図る対応を要求していくような仕組みをつくっていきたいということです。
 そして、栽培適地の変化予測技術開発です。こちらは先ほどコーヒーのPOCの例を御紹介さしあげたのですが、今回つくり上げたのは現況のモニタリングということなので、そこに気候変動予測を軸とした生産適地の予測ですとか配分計画までを組み込んでいければと考えております。そうすることによって、気候変動のリスクを管理し、ESG/SDGsを推進するためのプラットフォームを提供していくことまで進められればと考えているということです。
 次はJJ-FASTの高度化です。現在、JICA様とJAXA様が連携いたしまして熱帯雨林の早期警戒システムとしてのJJ-FASTを運用されているのですが、現在、JJ-FASTの中では我が国の政府系衛星のみで組み立てられておりますので、そこに先ほど御紹介しました海外の衛星ですとか民間の衛星も含めたマルチ衛星のデータを組み込みまして、AIを使った評価モデルを構築していくことによって森林の違法伐採をさらに早期に検知・通報するとか、森林伐採の状況をより詳細に提供していくというのも一つのテーマかなと考えております。これはあくまで構想ですので、今後いろんな御協議を経て、実現に向かっていければなと思っているところです。
 これが最後ですが、REDD+のCO2排出削減の高度化ということです。今、REDD+では森林の減少ですとか劣化のモニタリングを中心に行っているのですが、ここに、例えば、サイトのクレジット創出ポテンシャルを評価し、それから、森林の違法伐採によるプロジェクト進行の不安定さを早期に検知・通報するアラートシステムを組み込んでいくことで、より充実したREDD+のプロジェクト推進に資するような仕組みをつくっていければと考えているということです。
 以上、これまで民間企業の一つであります国際航業という会社が取り組んできました生物多様性・自然資本関係の衛星利用の事例とそこに基づく現在の我々の課題認識、そして、今後の取組の一つのプランということを御紹介さしあげました。
 あくまで1社の事例や考えですのでこれが全てではないと思いますが、民間企業の一つの取組として、今後のこの部会での議論の御参考になれば幸いと考えております。
 以上でございます。どうもありがとうございました。
【春日部会長】  赤松委員、具体的な取組について多数御紹介いただきましてありがとうございました。
 それでは、ここで、これまでの3人の皆様からの話題提供に関して、時間が迫っているので二つほど御質問をお受けしたいと思います。残りの御質問は次の原口様のお話を伺った後でまた議論の時間を設けたいと思います。
 佐藤委員、お願いいたします。
【佐藤委員】  3件の御発表、大変興味深く拝聴いたしました。
 気候モニタリングとは違って、生物の多様性の情報を得るには地理的・時間的に不均一なため異なる難しさがあることがよく分かりました。特に現地へのアクセスは重要で、そこには言語の問題もあるということも学びました。
 これまで欧州と米国、それから日本の主導したアジアにおいて観測ネットワークが展開されているということですが、地球は広く、それ以外にもアフリカ中部とか南アメリカ、それからユーラシア全体もカバーしていく必要があります。これに対して、GEOではどの国がどのように主導して取り組もうとしているのかについて、お伺いしたいと思います。
 グローバルに地球を捉えるためには、赤松委員が御説明くださったように衛星観測がとても重要な手段かと思います。しかしながら、衛星観測では生物の種類の把握という意味では限界がある気がいたします。衛星観測がGEOの目指す生物多様性の把握に対してどれくらい有効なのか、何ができて何ができないのかというような検討や議論は進められているのでしょうか。以上2点について質問させてください。よろしくお願いいたします。
【春日部会長】  ありがとうございます。
 1点の御質問、御指摘のあった地域に関してどこがリーダーシップを取っているか、どなたからお伺いすれば。
 村岡委員、お願いできますか。
【村岡委員】  ありがとうございます。大変重要なポイントかと思います。
 南米についてはGEO BONが、南米の各国――コロンビアBONのように国単位でのBONの立ち上げ強化というところと連携する形で進められています。
 アフリカについては、先ほど御紹介した全球生態系リサーチインフラストラクチャーの中で南アフリカに大きな機関(SAEON)がありますけれども、そこがアフリカの他の国との連携を図ろうとしているところです。ただ、生物多様性・生態系問題以外にも水・食料の問題のほうが大きいために、なかなか目に見える形で出てきていないという状況があります。
 ヨーロッパについては、つい最近、GE0 BONの中にヨーロッパBONが新たに立ち上がりました。また、フィンランドでもGEO BONと連携しながら生物多様性観測の推進強化を図っていると聞いています。
 以上です。
【春日部会長】  村岡委員、御質問はユーラシアということだったので、多分、ロシアも入ると思うのですけれども、ロシアはどうなのでしょうか。
【村岡委員】  ロシア周辺のところは情報が入ってきません。
【春日部会長】  分かりました。
【村岡委員】  アジア太平洋地域についてのAPBONですとか、ASEAN Centre for Biodiversityといったところが国際連携を進めながら展開しようとしているところです。
【春日部会長】  ありがとうございます。
 もう1点の御質問です。地球観測に当たっての課題とか限界については。
【佐藤委員】  特に衛星観測の限界や有効性についてお伺いしたいです。
【春日部会長】  衛星観測ですね。どなたでも知見あるいは御意見を持っていらっしゃる方、御発言いただければと思います。短めにお願いできればと思いますが。
 赤松委員、どうぞ。お願いします。
【赤松委員】  どなたもいらっしゃらなければ、企業というか、サービスを行っている立場から少しコメントさせていただきます。私どもも衛星データだけでいろんなことをやるということは実は結構まれでして、衛星データ等を地上の調査ですとか、それから各種のモニタリングデータとか、航空機のデータなんかを使うこともありますし、ドローンのデータなんかも使います。やはりプロジェクトごとにいろいろで地域とか内容によって変わってくるのですよね。ですので、それぞれのケースに対して適切なデータやサービスの組立てをしなければいけないというのが、今のお話の課題になってくると思います。
 もちろん衛星には限界があるので、限界の中で最大限生かすにはどうするのかということで、私が述べました利活用コンサルティングという部分の機能でございまして、そこを強化していくことで生物多様性・自然資本の世界の中で衛星を極力使っていくことができるようになると考えております。今後は、そこを強化していく必要があると認識しております。
 以上でございます。
【春日部会長】  どうもありがとうございました。
 衛星観測を発展させるために、ニーズ、それから限界を理解するということ、非常に重要かと思います。ありがとうございました。
 嶋田委員、お願いいたします。そこで議論を止めたいと思います。
【嶋田委員】  嶋田でございます。
 観測という視点とは少し異なるのですが、1点質問をさせていただきたいと思います。
 生物多様性分野では定量化とか指標化は非常に難しいと思うのですけれども、それ以上に大きな課題なのは、立場とか人によってゴールがかなり違うということだと思うのですね。例えば、手つかずの自然環境が望ましいと考える方もいるし、一方で、里山的な人が関わる自然環境が重要だ、あるいは都市の緑地とかそういうところが大事なのだと考える方がかなりいて、その辺りをどうやって考慮して評価するのかということについて何かアイデアがあるのか、どう実装するのかということについて何か御意見があればお願いいたします。
【春日部会長】  ありがとうございます。
 谷貝様か村岡様、コメントいただけますでしょうか。
【谷貝室長(環境省)】  では、すみません、環境省からまずコメントさせていただきます。
 先生おっしゃるとおり、非常に自然環境というのは個人の価値観・世界感に左右される部分が大きいと思っております。正直、指標化・定量化するのは非常に難しいと認識しています。
 現状で、例えば、行われているやり方としては、LIMEのように金銭換算を行った上で一元評価を行う、あるいはエコロジカルフットプリントのように疑似土地換算を行って、そういった自然資本を持続可能な範囲でやるためにどれくらい土地が必要かといったような形で、土地あるいは金銭といった形で換算をするというのが一つのやり方ではございます。
 なので、我々としても今後は生物多様性の見える化、可視化を検討していくに当たってそこをどうするかというのはまだ結論が出ている状況ではございません。
 やはり個人の価値観の部分を無理に定量化するというよりは、種の量であったりとか希少性であったりとかそういったものからある程度客観的な部分のみを評価をせざるを得ないかなと思ってございまして、そこはどうしても限界があるかなとは思っているところでございます。
 以上です。
【春日部会長】  ありがとうございます。
【嶋田委員】  ありがとうございました。
【春日部会長】  村岡委員、一言コメントいただけますか。
【村岡委員】  ありがとうございます。
 全体的なところは谷貝様がお答えになったところですけれども、加えて、恐らく嶋田委員からの御質問の中で、特に個人の価値観とか地域とか地域社会にとっての生態系・生物多様性の価値というものもやはり地域ごとに異なるかもしれません。人と自然との関わりという問題にも生き物はかなり深く関わっています。
 そういった意味でも、観測をする、評価をする、あるいはデータや知見の利用とかオープン化に関するルールの設定というものを、やはり観測コミュニティー、利活用のコミュニティーに加えて各地域での地域社会、あるいは市民の皆さんと連携する形で丁寧に進めていくということが今後ますます必要になってくるかと思います。
 以上です。
【春日部会長】  ありがとうございます。恐らくそこに日本らしさということで文化を加えるべきと、そういう先生もいらっしゃいますので、色々と考える余地があるかなとも感じました。3人の皆様、ありがとうございました。
 それでは、原口様、お待たせいたしました。MS&ADの原口様からTNFDの御発表をお願いしたいと思います。
【原口(MS&AD)】  皆さん、こんにちは。原口でございます。よろしくお願いします。
 まず、TNFDがフレームワークを、今、開発を進めていますが、今のQ&Aにもあったことに関わると思いますので、その論点を少しお示ししたいと思います。
 TNFDはTCFDと違って金融機関とか企業とかサービスプロバイダー、企業の情報開示に関わるプレーヤーがタスクフォースメンバーとして開発に携わっております。
 ただ、自然に関する素人が勝手につくっているわけではなくて、この周りには物すごい数の専門家のサポートがあって、ダスグプタ先生なんかもそうですけれども、そういった方の情報を入れてつくっております。
 TNFDは昨年の6月に設立されまして、実際の開示の枠組み開発は11月から始まったのですけど、3月に第1弾のべータ版が公開されまして、一昨昨日の28日に、ベータのバージョン0.2が公開されました。今、ウェブを見ていただくと、バージョン0.2にアップデートされたものが入っております。
 3月に開示したものの構成ですけれども、まず、マーケットといわれる市場参加者、企業の人たち、金融機関の人たちはネイチャーに関する基本的なリテラシーもありませんので、まず、自然とは何か、自然資本とは何か、生態系資産とは何か、生物多様性とは何かといったような概念を整理したものを提示して、その上で、その開示の枠組みの草稿というものを出しました。
 また、その開示の枠組みを見ただけでは一体自然関連に関するリスクとか機会をどうやって評価したらいいか恐らくほとんどの方が分からないので、ハウツーガイダンスとしてのLEAPというものを出しています。
 また、それに加えて、左下にありますけれども、自然関連のデータというものについての全体的な評価というドキュメントも出しています。
 自然に関してはIPBESのアイデアを引用して、海、陸、淡水そして大気という四つの領域を自然と定義し、我々の社会とか経済、ビジネスというのはこの自然の中にあって、自然なしには持続可能ではないという、ダスグプタ・レビューと同じ考え方を取っています。
 これは非常に重要なことで、今までのサステナビリティーの議論というのはトリプルボトムライン的な議論が過去あったのですが、割と日本人が昔から言ってきた、自然の中に我々はいるという考え方がここで入ったということは、このマインドセットが変わったと思います。
 気候変動の場合には温室効果ガスを排出した人とそれによって影響を受ける人というのはほぼ一致しないのですが、ネイチャーの場合には実際にそこで自然への依存や、影響を及ぼしている事業活動自体がそこの自然からの恵みとか悪影響をビジネスが直接受けるということで、場所に基づいたリスク評価をしなきゃいけないと、ロケーションベースという考え方を重視しています。
 ここにあるとおり、自然全体を環境資産という定義をしまして、その環境資産が我々に対して生態系サービスを提供していると。この環境資産というのはバイオームという概念で、地域、地球の場所によって、もしくは四つの領域によってバイオームというものがあって、それぞれに事業との関係、個別性が非常に高いと。ここをビジネスが、市場関係者がちゃんと理解しないと、このTNFDの開示の準備というのは進められないという、ビジネス関係者にとってはほとんどやったことがないようなことをこれからやってくださいというようなことを求めていますし、研究者とかNGOにとっても場所性というものをちゃんと考えているという、その研究者やNGOの期待も反映していますし、具体的にビジネスの人たちがこの問題にどう立ち向かったらいいかというところを概念として提示しています。
 これは一番左が事業会社なのですが、事業会社が自然への依存や影響をすることによって物理的リスク、移行リスク、システミックリスクというものが発生し、また、それにちゃんと立ち向かって自然を回復するようなアクションをすることで機会も生まれますということですね。こういった個別の事業会社の活動が集積して、一番右ですけれども、これが金融機関にとってのリスクや機会につながっていくという考え方を取っています。
 TCFDに倣って、開示の枠組みというのはガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という四つの柱になっていますが、大きく違うのが戦略のDのところです。ここが先ほど申し上げたようにロケーションベースでものを考えなきゃいけないということですね。
 事業のバリューチェーンに関わるロケーションを全て洗い出すというと、これはもうとても大変なことですので、まず優先度の高いところとしてインテグリティーの低い生態系、それから、保護・保全すべき重要な生態系、または水ストレスが高い地域、こういったところでのオペレーション――これは自分たちが直接やっているオペレーションや、バリューチェーンの上流・下流でこういったロケーションで事業を行っていないかというところを発見するところから始めます。こういった場所を調べるときに、現段階で、完璧ではないけれども使えるデータベースとしてはこういったものがあるのではないですかということで提示しています。
 ハウツーガイダンスですけれども、今のロケーションの作業をしていくときに、発見し、診断し、評価し、準備するというLEAPというアプローチを提示しています。
 発見するというのは、自分たちのビジネスがどういったバイオームがある場所でビジネスを行っているか、そして、そのバイオームが先ほど言ったような優先度の高い生態系であるのかどうかをまず発見すると。それを発見した上で、そこのバイオームや環境資産、生態系サービスに自分たちのビジネスはどのように依存し、また、影響を及ぼしているかということを分析すると。その上で、それが自社にとってどのようなリスクなのかということと、どういうふうに取り組めばそれが機会、オポチュニティーになるのかということをここで評価し、ここまでやって初めて投資家に向けた開示の準備ができたことになりますよということです。
 左の三つの一番下を見ると「ステークホルダー・エンゲージメント」というのがありますけれども、TNFDはこれをちゃんと認識しています。先ほどの御質問にも関わると思うのですが、先住民や地域住民の意見をどう反映させるかということで、ここについてもIUCNなどを通じて先住民の団体とかそういったところとの議論を、今、始めているところです。
 すなわち、例えば、サイエンティストが「ここは重要です」と、ビジネスも「ここは重要ですね」と言ったそのリスク評価の結果が本当にいいかどうかというのは、やはり先住民の考え方――特に先住民というのがその地域の生態系を守る主体として非常に重要な役割を果たしているというのがTNFDの認識ですので、この「ステークホルダー・エンゲージメント」というのがここに入っているということです。これは企業にとってもまた難しい課題です。勝手にどこかの研究者と「ここが大事ですね」と決めて活動すればいいというものではないということを言っています。
 ダスグプタ先生が言っているように、なぜこの自然というのがビジネスにとってリスクになるかというと、自然の状態というのは聞こえないし、見えないし、動いていくということです。そういう意味で、データをどうやって取るかというのは非常に大きな問題になってくるわけです。
 データに関しての考察ですけど、四つ挙げています。
 一つ目が、自然に関するデータというのが地域によって偏り、例えば、分類群によってあるものはすごくデータがあるしあるものは少ないとか、また、日本はやたら細かいデータがありますけど、アフリカに行ったら同じような解像度であるかといったらないとか、そういった問題があると。
 二つ目は、測定アプローチが、測定の仕方が標準化されていないですし、地域固有性があるということでいろんな測定の仕方がされていますけど、そういったデータに基づいて企業がリスク評価をし、開示しようと思うと、違うデータに基づいた結果を投資家が評価しようと思っても、A社とB社が違うデータに基づいていると実はリスク評価の結果が本当とは違う可能性が出るとかそういった課題があるという認識です。
 また、三つ目として、今あるいろんなデータベースのデータが、例えば、時間がすごく古いものと新しいものが混在してデータベースの中に入っていても、ユーザーから見ると分からないわけですね。といったようなこととか、空間的にもバイアスがあるということです。
 それから四つ目の認識としては、データの適合性とか、それから、アクセシビリティーといったものもばらばらであるということですね。先ほど申し上げたように、企業のバリューチェーン全体で通してデータが入手できる必要があるのですけれども、これがある場所では取れるしある場所では取りにくいとか、そういったことが起こっているということです。
 こういったデータのギャップに対してどういった開発をする必要があるだろうという、開発課題についての認識がここに書いてあることです。
 今のデータ開発がサイロ化しているということで、TNFDとしてはデータプラットフォームをできるだけ一元化していかないと企業や金融機関は使えないということになります。
 企業や金融機関にはいろんなデータを統合するそこまでの力はありませんので、国際的にTNFDの開示で使うようなデータは一元化していく必要があると。
 それから二つ目がESGデータを超えてということなのですが、今のESG情報開示というのは、例えば、企業にアンケートを取って、やっていますか、やっていませんかとか、あとはウェブから集めた情報を分析したりしてESGスコアをつけていますが、ネイチャーに関して言うと、本当に1次データからしっかり集めていく必要があるわけですね。ですので、TNFD開示に当たっては、今のESGのようなもので企業を評価するというのは適切なリスク評価にならない可能性があるという認識です。
 それから、データについては、イノベーションが今どんどん起こっていて、先ほどもリモセンのお話がありましたけども、TNFDは環境DNAについてもやはり注目していて、こういった新しいイノベーションで出てくるデータは今後数年の中でいろいろ出てくるでしょうと。ですので、現段階では企業が情報開示するに足るだけのデータが不足している場合もあるかもしれませんが、恐らく10年のうちにこういったものは整備されていくだろうということです。
 したがって、そういった新しいサービスを開発している人たちを集めて一つの一元化されたプラットフォームの中で使えるようなものを提供してもらわないと、データのサイロ化が進んで結果的に企業も金融機関も使えないというような状態は回避したいと考えています。
 また、NGOとか国際機関が今でも自然関連データベース――例えば、IBATみたいなものを提供していますけど、そういったところでベースになっているデータのピアレビューはされているかというと、されていない場合もあるわけですね。そういったピアレビューされていないデータに基づいた開示というのが果たして正当性があるのか、リスクの判断として本当に妥当性があるのかという課題もあります。
 それから、データアクセスに関する技術的な課題、これは、一般的に事業会社とか金融機関の方がこういった自然関連データを自分たちで処理できるか、簡単に処理できないという問題もありますし、例えば、GISのファイル形式なんかもいろんなものがあって、よっぽどの専門性がないととてもそんなものを自分の社内で処理することはできないといった問題があります。
 五つ目は、同じように、そういった自然関連データを処理できる専門家が各組織にほぼいない。ほとんどいない。日本は特にいないと思いますけれども、このミスマッチがあると。これは気候についても同じですけど、自然になると恐らくもっといないというか、簡単にはこういったデータについて理解できない状況かと思います。
 それから、1次データですね。企業が取り組んでいくときに、自分たちのアセットの1次データは持っていると思いますけど、自分たちのオペレーションしているロケーションの生物多様性の細かいデータ、これは日本だとあるかもしれませんが、東南アジアへ行って同じ解像度でデータが取れますかとか、あとは、その流域に関するデータはありますかと、ない場合どうやって取るのですかと。1次データなしで、先ほど谷貝様からありましたけど、LCAとかフットプリントでざっくり出すというのがあると思うのですが、それの判断だけによるというのはすごく危険だと考えています。
 最後です。これもデータ連携の話です。そういった課題があるということです。
 以上、駆け足ですが、皆さんの御関心がありそうなTNFDのビルドの論点について御報告いたしました。ありがとうございました。
【春日部会長】  原口様、大変示唆に富む御発表をありがとうございました。
 前半の3人の方からお聞きして、様々な取組が世界中で活発に行われているということは理解したのですが、それでもなお現実に企業の開示、また、投資家が使える評価、そこにはまだまだギャップがあるということが分かりました。
 残りの時間、5分弱になりましたが、御質問は。ここは理解したいという、そういう御意見等ございましたら、委員の皆様からどうぞ手を挙げていただければと思います。いかがでしょうか。
 川辺委員、お願いいたします。
【川辺委員】  御発表いただきどうもありがとうございました。
 最後の原口様のお話にちょっとお伺いしたいのですけれども、リスク評価、非常に大事だと思うのですけれども、ステークホルダー・エンゲージメントをリスク評価に取り込むということで、こういうふうにみんなでやっていきましょうねというようなプロトコル的なものはもう既につくられているのでしょうか。特に、環境影響評価的なことはあるのですけれども、社会影響評価的なところが一番気になるかなと思っております。もしありましたらば教えていただければと思います。お願いいたします。
【原口(MS&AD)】  ありがとうございます。
 ステークホルダー・エンゲージメントについてのガイダンスなり何なりというのは、次のベータかその次のベータぐらいで出すというような工程で議論を進めているところだと思います。
 今まさに先住民の団体との議論というのは始めたばっかりなのでこれからだと思いますが、実はこの7月ぐらいから本格的にTNFDのフレームワークを使って金融機関、事業会社が自分たちの事業のある場所とあるサービスについてロケーションベースの分析をするというパイロットプロジェクトが世界でどんどん立ち上がります。ですので、今おっしゃったようなステークホルダー、社会への影響評価みたいなものもそういった中で事例として出てくると思います。
 プロトコルというよりはそういった具体的な事例をもって考え方が少しずつ成熟していって、TNFDとしては世界中でいろんなパイロットプロジェクトのフィードバックを受けて、それをガイダンスの中に反映していくという考えのステージに、今、入っています。国、地域によってその辺の先住民との関係とかはまた全然違うと思いますので、日本からも、日本だったらどうなのかという場合には、できればパイロットプロジェクをやっていただいて、どんどんフィードバックしていただくというのが一番TNFDに対するフィードバックとしては効果的ではないかなと思います。
【春日部会長】  原口様、ありがとうございました。
【川辺委員】  ありがとうございます。またお伺いできればと思います。ありがとうございました。
【春日部会長】  ちょうど時間が迫ってきました。
 本日は非常に充実した話題提供、そして議論ができたと思います。ですけれども、御発表いただいた内容が非常に密度の濃いものだったので、皆さん、消化し切れなかったこともあるかもしれません。
 先ほどからお伝えしていますように、今後、この部会で議論の中でどのように取り上げていくか、7月末まで皆様から御意見をお待ちしていますので、本日の御発言の中でお気づきになったことも含めていただければと思います。
【原口(MS&AD)】  すみません、一つだけ御参考情報でお伝えしたいのですけど、先ほど申し上げたようなデータギャップについてTNFDは認識を持っていて、これを何とかしなきゃいけないということで、今月からデータカタリストイニシアチブというのを立ち上げる予定です。ここに世界のITベンダーさんとか既にそういうデータを提供しているIBATみたいなところとかを呼んで、みんなに何をやっているか吐き出してもらって、こういったギャップをどうやって埋めて、お互いにどう連携して統一したプラットフォームをどうつくっていくかという議論を誘導していきます。
 皆様のこういった研究活動も、私個人としてはそこにもう入っていかないと、こういうプラットフォームをつくりますという議論で進んでいってしまうので、それと違う開発をどれだけやっても結果的に日本の企業も金融機関も皆様の成果を使えなくなってしまう。投資家から見ると、全然違うデータに基づいてやっているからこれはあまり信頼に足らないと言ってしまうとあれですけど、こっちでやっているやつだったら簡単に評価できるのだけど、これ、我々知らないデータセットでやっていますよねとなってしまうと日本の企業も銀行も使えないものになってしまうので、私としては日本の研究者グループに手を挙げていただいて、そこの議論に最初から入っていただいて、日本の研究者グループはどういう貢献ができるのだというのをアピールしていかないと、結局はグーグルとかそういうところに全部持っていかれてしまうのではないかなということで、その募集が7月のどこかで要綱が発表されますので、またそれを見ていただきたいと思います。
【春日部会長】  ありがとうございます。手を挙げて参加できるという、そういうイニシアチブですね。
【原口(MS&AD)】  そうです。
【春日部会長】  研究者のほうも理解して、そして、また強みを世界に発信することが重要だということがよく分かりました。
 本日予定されている議題は以上です。
 事務局から連絡事項等お願いできればと思います。
【甲斐地球観測推進専門官】  本日の議事録に関しましては後日、事務局よりメールで委員の皆様にお送りいたします。
 委員の皆様に内容を御確認いただいた後、文部科学省のホームページで公開をいたします。
 次回の第7回の部会の開催案内については、また事務局のほうから改めて御連絡させていただきます。
 事務局からの連絡事項といたしましては以上となります。
【春日部会長】  ありがとうございます。
 本日は、GEOについての御説明、そして、谷貝様、村岡委員、赤松委員、そして原口様、貴重な情報提供ありがとうございました。
 以上をもちまして、第9期地球観測推進部会の第6回会合を閉会いたします。
 ありがとうございました。
 
―― 了 ――

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