ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略検討作業部会(第4回) 議事録

1.日時

平成30年1月26日(金曜日)9時~12時

2.場所

3F2特別会議室

3.議題

  1. ナノテクノロジー・材料分野に対する提言
  2. その他

4.議事録

【中山主査】  それでは、定刻となりましたので、ただいまより第4回ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略検討作業部会を開催いたします。本日は前回に引き続きまして、本分野の研究開発戦略の策定に向けた議論をしていきたいと考えております。

 本日は、関係団体の皆様、これまで当分野のことをいろいろ考えてきて頂いた皆様からの意見をおうかがいしたいと考えております。ナノテクノロジービジネス推進協議会の逸見直也様、日本分析機器工業会の杉沢様。井上純哉委員には材料戦略委員会としてご意見をいただきます。日本化学連合の菊地和也様、応用物理学会の財満鎭明様にもプレゼンいただきます。積極的な御議論をよろしくお願いいたします。

 本日の御議論に関しましては、1月31日に予定されておりますナノテクノロジー・材料科学技術委員会で、現時点の検討内容ということで私から報告させていただきます。一方で、本日のプレゼンや御議論の内容が1月31日には間に合わない可能性もありますが、その後にでも反映させていただきますので、御承知おきいただければと思います。

 早速ですが、事務局より委員の出欠及び配付資料の確認をお願いいたします。

【丹羽専門職】  事務局です。本日は、草間委員、染谷委員、高梨委員、原委員が御欠席となっております。

 議事次第にもありますとおり、きょうは5団体、5名の方々より御発表いただく予定となっております。配付資料も5種類プラス、最後に資料があります。欠落等ありましたら、事務局までお知らせをいただければと思います。

【中山主査】  ありがとうございました。

 本日は新しく局長になられました磯谷局長が来られておりますので、冒頭にお言葉を頂ければと思います。よろしくお願いします。

【磯谷研究振興局長】  先週の16日付で研究振興局長に就任いたしました磯谷です。名古屋大学で1年ほど理事をしておりまして、研究3局は3回目になるので、先生方にいろんなところでお世話になっておりますけれども、現場のことも交えながら、いろいろと御指導頂きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

【中山主査】  本日はお忙しいところ、ありがとうございます。

 それでは、議事1に入ります。逸見様、杉沢様、井上委員、菊地様、財満様の順に御発表いただきます。逸見様、杉沢様の御発表後に10分程度の質疑応答をいたします。

 それでは、ナノテクノロジービジネス推進協議会様より御説明をお願いいたします。

【逸見直也先生】  ナノテクノロジービジネス推進協議会の事務局長をやっております逸見と申します。このような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 本日は、産業界がナノテクノロジービジネスの将来をどう見ているのかということを協議会内でいろいろ議論して、産業界からの期待ということでまとめさせていただきました。今までの議論とかなり内容が異なるところがあるかもしれませんが、お聞き戴ければと思います。

 まず「ナノテクノロジービジネス推進協議会とは」ですが、我々は2003年にできた団体で、2008年に一般社団法人になっております。そろそろ創立15年になります。会員企業は各業種に及んでおります。ナノテクノロジーというのはいろんなところに入っているので、業種横断になっていることが特徴です。今、約140社の会員がいます。多くは大企業ですけれども、中小企業も30社ほど入っています。

 活動内容は、技術的な情報交換とか、今回のような提言活動をまとめる活動を行ったりしています。今回の提言は、会員企業の中から提言活動に協力してくれる企業を募集し協議会内にタスクフォースを立ち上げ資料にまとめました。

 今回のテーマは、長い目で見て2030年に向けて何をしていくべきかであったと思います。そこで最初に議論したことは、ナノテクノロジーは、今、どんな時代背景にいるかです。当初は、物性的なナノテクの発見だとか製造を活動の中心としてきました。例えば、カーボンナノチューブは一昨年発見から25周年を迎えました。この期間で、モノはできるようになってきたと言えます。そこで、これからは段々と2030年に向けて市場に浸透させる時代になる。言い換えれば、社会実装されて市場に浸透して、ナノテクがそこら中に入っている時代になると考えています。

 さて、このような時代背景で、過去には基礎研究は主に分野拡大に向けられてきました。一方、特性や安全性を評価することや、特性を機能に導くために必要となる知見を深堀する深堀基礎研究領域が今後重要になると考えています。

 実際この深堀基礎研究領域がどのように研究されてきたかを見ると、今はほとんどこの領域の研究は企業で実施されています。なぜなら、企業は新しいものを作る際、この領域の研究を自分で進めないと特性評価ができないからです。日本として、この領域の研究を強化していかないと、出口に出るところで詰まってしまう現象が起こっていると思います。ここが非常に重要なポイントなのではないかと考えるわけです。これからは、産業界だけでなく産学官が連携して、この深堀基礎領域を強化し、日本としての競争力を強化していくべきだと考えるわけです。

 次に、材料、ナノテクノロジーという領域の研究開発から市場投入までの流れについて見てみます。一般に、過去の例から炭素繊維などでは30年から50年ぐらい掛かったと言われています。このように材料領域では長期間に渡る流れが必要となります。その中で、現在注力されているのが、先ほど述べました分野拡大基礎研究領域で、最初の3分の1程度の期間に当たる部分になります。しかし、この領域を通り抜けた後に信頼性評価、安全性評価等の多くの関所があります。この関所を越えないと、市場投入には到達しないわけです。この関所で必要な技術として評価技術の基盤技術となるのが、先程お話しした深堀基礎研究という領域であります。この領域を今後強化していかないと、この関所を越えることができない。また、この関所を越えるための「お墨付きを付けるビジネス」が今後発展することも期待されると考えています。この領域で日本が先行して行くことが今後益々重要になると考えるわけです。

 さて、この深堀基礎研究をどのように強化して行くのが良いかが、今日の話の大きなテーマです。特に、信頼性、安全性評価に関しては、早期に立ち上げを行いたい。これができないと折角できたものが市場に出ていかない。また、新たな産業として「お墨付きビジネス」をどのように発展させていくのかを、今後産学官で考えて行きたいと考えています。

 そこで、本日お話しするのは、第1に、今の産業界が必要とする深堀基礎研究についてです。この領域は分野拡大型基礎研究と進め方がかなり違うところがあるので、そのお話しをします。

 次に、直近で必要となっている信頼性評価や安全性評価の領域をどのように強化するかの問題です。この領域が強化されないと、出来たものが市場に出ていかない。この部分に関しても、我々なりの提言をさせて戴きたいと思います。

 最後に、分野拡大基礎研究に関して少しだけ触れさせていただきます。

 まず、今の産業技術に必要となる深堀基礎研究の強化についてお話しします。基礎研究というと、一般に集中してどんどん深く掘っていき、最後に論文にまとめて出すというやり方です。一方、ここで深堀基礎研究と言っているのは最後に出すアウトプットを予め設定しておいて、そのゴールに向かって研究のマネジメントをきちんと行っていくことが非常に重要な基礎研究だと考えています。

 一般に、従来型の基礎研究では、深く掘っていけば論文になる。新しいことが出てくるので論文になりやすいです。一方、この深堀基礎研究領域は論文で評価するは難しいという大きな問題を抱えています。

 次に、研究マネジメントの仕組みの導入についてお話しします。「実現価値を設定して」研究マネジメントを行う必要があるということです。この件は、前回の作業部会で関西学院大学の田中先生が触媒開発の話をされていましたが、あのお話しがこの研究マネジメントの好例だと思います。実現価値として難しいゴールを設定して各種の基礎研究を連携させて実現させていくと言うお話だったと思います。実際には、各要素的な基礎研究にそれぞれ目標設定をし、進捗状況を見ながらゴールへ進めて行く。更に、海外の研究等他の研究の進捗を見て、自らの目標点の設定を変えながら研究全体をマネジメントしていくことを実施されたのだと思います。このようなプロジェクトマネジメントをやっていかないと、実現価値を実現できません。

 ここで、各要素技術(基礎研究)に関しては目標を設定して実行していますので、個別の研究が論文になるかは難しい。でも、これを実行していかないとゴールに到達できない。また、場合によっては必要な研究自体がないこともあるので、基礎研究を行っている機関を探索することが必要になることもある。このことが、この研究の進め方を難しくしていると思います。

 このプロジェクトマネジメントは、実は産業界では当たり前にやっています。新製品を創るためには必須となります。ですから、官学へのクロスアポイントを活用することが一つの解となるかもしれません。

 もう一つの問題は、研究評価の仕組みです。先程も述べましたがこの領域の研究は、論文では評価しにくい。一方で、大学として、産業界と組むことによって得られるメリットがありますので、これを評価できる仕組みが導入できないかを考えてはどうか。また、クロスアポイントで産業界の立場での評価する仕組みを導入するような施策も考えられると思います。つまり、その成果を業績として認めて、キャリアアップできる仕組みを構築して行く必要があると思います。この辺りは、今後議論を深めて行く必要があると思います。

 もう一つの問題は、評価技術は既にある場合、日本がリードするには革新的な評価技術が必要となることです。革新的と言うと、レベル感が重要で、例えば「過去は不可能だったことを可能にする」であることや「想定レベルを超える目標」を実現することを期待するわけです。

例えば過去は不可能だったことを可能にする例は、昨年ノーベル化学賞を受賞しましたクライオ電子顕微鏡だと思います。今まで測定できなかったことを測定できるようにしました。この技術は、複数の技術、その中には画像解析技術のような従来は組み合わされていなかった技術が含まれていますが、これらを融合して実現しています。ここにも、先に述べた研究マネジメントがされていたのではないかと想定します。

 想定レベルを超える目標に関しては、例えば、試験時間を大幅に短縮する、大幅といっても、10%、20%というのでは不十分で、2倍、3倍、場合によっては10倍、100倍というオーダーで変わることを目標として実現して行くことが重要だと思います。

 御参考として、「深堀基礎研究に何を期待するのか」について述べると、評価技術開発の中に、深堀基礎研究が基盤として必要になっている。例えば新しい機能材料を作ると、性能評価法がまだない。そこで、性能評価法を作って評価する。また、評価法の研究開発から実際に評価に使えるまでに長い期間がかかって、更にデータ蓄積を考えるともっと長い期間がかかる。このデータ蓄積がないと評価法は信頼性を持ちませんので、長い時間が必要となる。そこで、深堀基礎研究領域の強化を期待したいというわけです。行くべきだというのが

 最終的には、これらの評価技術を基盤にして、日本として、登録や認証制度を充実させる、この領域で日本がイニシアチブを取って評価・登録/認証ビジネスを立ち上げていくことができたら良いと考えるわけです。

 さて、二つ目に述べたい信頼性評価、安全性評価、製造プロセス技術のプラットフォーム構築についてお話しします。産業界としては素材に関しては、最終製品、それを製造するプロセスは自社で作る競争領域となります。一方、評価技術に関しては、現段階では非競争領域と位置付けられていることが多いと思います。そこで、国に、この評価技術領域に産学官共同でプラットフォームを構築していただけないかとの提言です。

 この提言の背景は、2030年に向けて新素材を社会実装して市場浸透させて行くのが目標で、実現のためには信頼性、安全性、環境に対して多くの評価が必須となる。この部分を強化しないと市場に浸透していかないというわけです。

 現在は、新たな素材を創造した企業は自ら評価技術、装置、環境を自分で作っている。個別に進めていますので、非効率的です。そこで、国の関与するプラットフォームにして効率化を図りたいというわけです。

 今の段階では、どこでどんな評価技術を保有しているかが分からないと思うので、プラットフォーム化して、プラットフォーム上に集約して、見える化をしていくことも同時に行っていくことが重要だと考えます。

 では、具体的にどう進めるかとしての一提案ですが、ナノテクプラットフォーム事業を拡大するのはどうかと言う提案です。現状のナノテクプラットフォーム事業は、解析、加工、合成と、3つのプラットフォームがあります。ここに評価技術を加えて、機能的な評価技術(例えばナノ素材の分散特性の評価として、CNTが入っているリチウムイオン電池の電極に電流を流して発生する熱をサーモカメラで撮って分散状況をモニタする等)をこの中に取り込んでいく。今は、評価技術は散在しており、これらを集約して提供できるプラットフォームを作りたい。更には、安全性も加えてプラットフォーム化してはどうかと考えるわけです。つまり、ナノテクプラットフォーム事業に、信頼性、安全性の評価技術領域を拡充して、産業界に向けて更に活用機会を拡大していくということを期待したいということです。

 この推進を通じて、プラットフォーム化で効率化を図るとともに、世界に先行し将来の評価・登録/認証ビジネスへの展開とつなげていければ良いと考えています。

 最後に、分野拡大基礎研究に関しての期待ということでお話しさせていただきます。この分野に関しましては、既にいろいろとプロジェクトが動いているので、従来通りに進めて戴きたい。付け加えるとすると、既に着手されているとは思いますが、マテリアルインフォマティクスの領域でのAIの活用や、センサとしてナノテク活用の検討強化が期待することです。

 2030年を見据えた研究開発の議論は、日本の戦略をまとめることの一環だと思います。戦略を策定するためには調査が必要ですが、現状では各機関で調査事業が行われています。折角作った調査事業の結果を集約し、是非日本の戦略としてまとめる場を作って戴きたい。そこに是非、産業界から関与させていただきたいと考えます。

 最後、まとめになりますが、最初にお話ししましたが、基礎研究領域というのは、分野拡大型基礎研究と深堀基礎研究がある。後者の影響するところとして、評価技術が益々重要になってきている。この領域に関して、是非産学官の共同で進める仕組みを作っていくことが我々の期待であります。

 2番目ですが、研究マネジメントが重要だということです。更には、新たな評価の仕組みも重要になっています。

 これらを進める第一歩として、ナノテクプラットフォーム事業に評価関連のプラットフォームの拡充をしてもらえないかが一つの提案です。

 これらを進めて行くことで日本として世界に先行し、信頼性、安全性評価、あるいは登録/認証ビジネスに繋げていきたいと考えています。

 以上です。

【中山主査】  逸見様、どうもありがとうございました。

 続きまして、日本分析工業会、杉沢様より御説明をいただきます。

【杉沢寿志先生】  日本分析機器工業会の杉沢と申します。机上配付資料を使って御説明させていただきたいと思います。

 机上資料の資料構成ですが、最初の6ページまでが当工業会としての考え方及び現状を示したものです。今回のナノテク分野の戦略策定に当たりまして、当工業会として半年掛けて議論した内容がございます。その検討の中で当工業会としてとりまとめた各種研究開発テーマやバックデータを参考資料としてご提出いたしましたが、長くなりますので、その説明は省略いたします。

 では、早速ですが、2ページを御覧ください。分析機器工業会は、小さな産業界でありまして、産業規模や構成人員が少ないため、当工業階の活動は埋もれがちになります。我々の工業会は科学技術や産業、さらに安全・安心を守るといった様々な面で、産業や社会の基盤として下支えしてきているとは思うのですけれども、なかなかお客様というのか、マーケットから見えない、隠れた目立たない分野です。そこで、まずこの当工業会の概要と役割について、簡単に御説明いたします。それを、2ページにまとめました。

 分析機器工業会あるいは分析産業の役割をここに3つの絵で示してあります。一つは、安全・安心を守る、つまり、計測によって安全・安心を担保する、そのためのテクノロジーや産業、インフラを提供することです。二つ目は、材料の研究開発でありますとか、材料の生産の品質保証、品質管理という面で、それを下支えするインフラを提供する。そして、三つ目として、我々は、ここが特に重要だと思っているのですが、そもそも科学技術の進歩を牽引する役割です。科学技術というのは物を可視化して定量化することから全て始まりますので、学技術を推進するドライブ力を我々は持っているというふうに自負しております。この3つの役割でもって、産業や科学技術に貢献すると自負しております。

 この3つの貢献分野を説明した次のページを見ていただきますと、我々のこの半年間の議論の中で集約した新しいナノテクノロジーの戦略に対して、我々の役割として認識していただきたい2つのポイントがございます。

 1つ目のポイントは分析機器の持つ本質的な力である、科学技術の非連続な革新の原動力であるという点であります。まずこれを是非この政策の中に入れていただきたいと考えております。科学技術の非連続な革新の原動力という項目を分析機器の科学技術政策の観点から2つに分類いたしますと、まずは非連続な科学技術の革新のための分析機器技術の推進となります。分析機器技術そのものを革新することによって、科学技術を更にジャンプアップさせるということが重要だと考えておりますので、この分野に関しましては是非力を入れて実行していきたいと考えております。具体的にはより微細な領域、あるいはより高速で複雑な現象にアプローチすると、そういった技術を先導していくということになります。分析機器技術の更なる高度化に対するニーズと、それに応えていくための研究開発というのがやはり重要だと考えております。

 次に、分析機器技術の進展による我が国の科学技術の優位性の確保が重要と考えております。我が国の科学技術の優位性を確保するための大きなポイントの一つは、分析機器技術の優位性だと思っておりますので、まずそこを確保するための研究開発投資、あるいは人材育成も重要ではないかと考えております。

 これをまとめますと、高度な分析機器開発に加えて、これは必須ですが、それを使いこなせる人材の育成やノウハウの蓄積。現在ここが非常に弱くなっているのではないかと我々は危惧しておりまして、これをまず進めていく必要があると考えております。

 そのために分析機器を更に高度化するアカデミアと産業との連携による先端的な研究開発が不可欠ということになります。分析機器業界は層の薄い業界であるにも関わらず、実施している研究開発の内容が非常に特異的で、かつ先端的ですので、この業界の企業が単独で実施してもなかなか推進できないというところがあります。我々としてはアカデミアと一体となって、研究開発、技術開発、人材育成を進めるというのが重要だと考えております。

 2番目のポイントは、超スマート社会で重要となるオリジナルデータの源泉ということです。我が国が目指す超スマート社会、Society5.0と言っておりますが、そこの付加価値創造のための源泉というのは何だろうかということを我々は考えました。

 今後10年、20年後の世界はどうなっているかを考えますと、IoT/AIに見られますように、サイバー空間上で様々なデータが取り扱われて、場合によってはそこにAIの技術が導入されることによって、サイバー空間上で様々な物作りや産業が発展すると皆さん考えているところだと思います。では、そのサイバー空間に上げるデータのオリジナルデータは、誰が作るのでしょうか。これは決してコンピューターが作るわけでもなく、サイバー空間上にオリジナルデータがあるわけでもなく、やはりこれはフィジカルスペースで人間の活動が創り出すものと考えています。そのオリジナルデータをより正確に、より信頼性高く獲得することが将来にわたっても変わらぬ基本ではないかと考えております。

 今後の産業技術なり、産業競争力の源泉はサイバー空間上のデータの元となるオリジナルデータですね。より信頼性が担保された正確なデータを出すといったところが本当の付加価値の源泉ではないか、あるいは競争力の源泉ではないかと我々は考えておりまして、この部分を担うのが我が産業であろうと考えております。ここを強化することが日本の競争力、研究活力の肝ではないかと考えております。我々といたしましては、こういった技術をやはり国の根幹の技術であると位置付けていただいて、そこの研究開発を重点的に実施していただくというのがよろしいのではないかと御提案したいと考えております。

 では、一体この分析機器業界というのはどういう業界かということを数値的にまとめたものが次の4ページです。これは当工業会の国内市場の状況をまとめたものですが、分析機器業界は、国内市場のサイズ感で申しますと約2,000億円の生産規模となります。小さな業界です。生産規模が2,000億円ですから、当然そこに存在する人員の数というのは推して量るべきだと思いますが、これが産業分野で分析機器産業を支えている人員規模になります。

 それに対しまして、分析機器業界は、産業分野で言えば研究開発投資にインパクトを与えております。分析機器業界は研究開発の基盤を支える役割を持っておりますので、我々の一次インパクトは、研究開発投資分野ということになっております。この研究開発投資分野というのは大きく分けますと、大学のようなアカデミアサイドと、物作り産業を中心とする産業分野ということになっております。国内の場合は、アカデミア分野で約8兆円弱、産業分野でいいますと、11.5兆円程度となります。すなわち我々の2,000億円の分析機器産業は、このアカデミアの約8兆円と企業投資の約12兆円の分野に対するインパクトを与えるというふうに考えております。ある意味では、私たちは非常にレバレッジ効果が高い産業ではないかと思っておりまして、この分野の活性化、強化は、実はこういった研究開発分野であります約18兆円の分野を活性化するレバレッジ効果の高い産業政策になるのではと考えております。

 次にもう少し細かく見て参ります。これは分析機器の世界市場の状況を見たものです。分析機器産業の世界規模というのは約4.5兆円でありまして、このグラフを見ていただけるとおり、ライフサイエンス分野が約3分の1を占めます。残りは、クロマトグラフィー、スペクトルスコープ、表面分析と、質量分析、材料評価装置が大きな分野となります。この業界全体の年間平均成長率は約5%です。この産業分野は余り経済の動向に影響されず、基本的には世界の研究開発投資の総額に大体比例する感じで伸びております。 ここには書かれておりませんが、近年では中国の研究開発投資が非常に伸びておりますので、中国が今一番伸びている地域ではあります。一方、国内の研究開発投資は停滞しておりまして、それを反映して、国内向けの分析機器の売り上げは伸びていないというのが現状です。

 最後のページですが、分析機器業界として力を入れて取り組むべき、主な3つの分野というのをカテゴライズいたしました。1つ目は分析機器の革新的な性能アップ、例えば性能を10倍に上げる、あるいは、スループットを桁違いに上げているといったときのキーになる技術の開発です。それが何かと申しますと、やはりセンサであります。分析機器のセンサの革新が起こりますと、もう本当にガラッと性能が変わりますし、そもそも測定できることも変わってしまいます。このセンサの革新というのは常に必要だと思っております。

 近年、最も大きな革新が起こっているのは、半導体イメージセンサの分野です。先ほどクライオ電子顕微鏡という話が出ましたが、クライオ電子顕微鏡の革新を起こしたのは、電子線のイメージセンサの画期的な開発です。今から4年前にアメリカで開発された電子線のイメージセンサが、この分野の世界をガラッと変えたということがあります。恐らく同じようなことがX線のイメージセンサ、あるいはその他イメージセンサの革新によって起こる可能性がありますので、この分野については日本が世界をリードするという意気込みで投資する必要があるのではないかと考えております。

 2番目は、分析システムの高度化という分野です。これはどちらかといいますと、従来型の分析機器の研究開発の方針となります。、より小さいものを見たい、より高感度に見たい、より分解能を上げてみたいということです。もちろんこの分野を突き詰めていくことは、例えばナノ領域の材料開発に必須だと思いますので、今後もこれは引き続き継続的に進歩させていく必要がありますが、この分野は連続的に少しずつ進む分野ですので、これにつきましては、ここで革新が起こるというよりは、現状の技術を少しずつ高めていくというような開発が必要と考えています。

 ただ、その中においても我々が今後重視すべきだと思っているのは、動作環境下での計測です。産業分野においては製造工程の途中での非破壊計測となります。最近、オペランド計測というような名前がよく使われておりますが、このオペランド計測の分野が非常に重要だと思っております。これは、分解能のような一つ一つの性能指標を高めるという開発ではなく、、デバイスの動作条件下での計測、あるいは環境を制御した条件での計測を行う技術開発となります。オペランド計測については今後力を入れていくべきだろうというふうに考えております。

 3つ目の取組ですが、これは計測ビッグデータの活用です。今後10年後、あるいは20年間後のAI/IoT時代を見据えて、我々が生み出すオリジナルデータをサイバー空間上でしっかりと再利用できるような形で上げていくというのが非常に重要だと思っています。

 そのための取組、あるいはそのプラットフォーム作りが今後重要だと思っておりまして、それについて力を入れていきたいと考えております。

 具体的には様々な分析機器から出て来るデータが、現状では汎用的に使い回しの効くような状況になっていないと思います。そのデータの精度や信頼性を担保した上で、サイバー空間上で自由自在に活用できるようなデータの構造、サイバー空間上での管理の仕方を考え、そのためのプラットフォームを構築する作業を進めていきたいと考えております。

 以上でございます。参考資料として添付しておりますのが、我々が今考えております幾つかの研究開発テーマです。これらの研究開発テーマは、特定の会社が自社で実行できるものではございません。分析機器関連メーカーが連合を組んで行うべきもの、あるいはユーザー企業と分析メーカーで連合を組んで行うもの、あるいは産学連携体制を構築し国に投資していただくべきものそのような開発テーマをピックアップしたものでございます。 以上でございます。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、逸見様、杉沢様の御説明に関し、御議論をお願いします。どうぞ、生越先生。

【生越委員】  ありがとうございました。逸見様に少しお伺いしたいのですけれども、最初の「基本認識」と書いてあるところで、「産業界の期待する姿」というところの矢印が左から出てきているところの斜線になっている青と赤の部分。これは具体的にはどのようになっていくのがいいのか、あるいは、どういう例が実際にあるのかというのを教えていただけますか。

【逸見直也先生】  説明不足で申し訳ありません。現状は、実際に分野拡大基礎研究で種を作ったとして、それをやっぱり評価する際には企業の中で、基礎研究から始めて評価技術を作り、評価している状況です。これを将来的に産官学で分担して進めて行きたいと考えています。段々と一緒に活動しながら分担して行くのが良いと考えています。

 一方で、分野拡大基礎研究にも産業界が踏み込む必要があるという意味を含めて斜めに記述させていただきました。その進め方として、例えばプラットフォーム化する等して、賛同者が集まって進めていければ良いと考えています。

【生越委員】  その場合、企業同士も持っているものは全て出すことになると。

【逸見直也先生】  その部分は検討が必要ですが、産業界の製造メーカーは評価技術を持っていても、この技術でビジネスにする考えがない場合がある。これらの企業にとっては、この領域は非競争領域なので、協力して進めやすい領域だと考えています。

【生越委員】  そうですね。それは現在で既にもう。

【逸見直也先生】  今はまだ動いていません。そのような取り組みを加速する仕組みができていないと思います。

【生越委員】  ですよね。だから、ここに来ているのは結局、それがもう少し前にはできていたらいいのに、できていないのが問題になっているものがいっぱいあるという状況下で、できるためにどういうふうにするかというのをもう少し分かりやすい形で出していただかないと、私たちもどうアプローチしていけばいいのか分からないんです。

【中山主査】  ありがとうございました。関委員。

【関委員】  同じく逸見様のお話についてなんですけれども、その評価関連の深堀基礎研究からその登録/認証ビジネスにつなげられたらというお話をされていたのですけれども、特にこういう評価をしてほしいという需要が強い分野の具体例というのがあったら教えていただきたいです。

【逸見直也先生】  今回は、長期計画として2030年に向けてということでしたので、方向性を示しています。具体的な内容は今後詰める必要があると考えています。実際に日本が何が強いのか、例えばプラットフォーム化、ナノテクプラットフォームで各種技術を集めていって、日本の強みを見出し、長い時間軸でみて、どの領域を強化するかを決めて行く必要があると考えています。

 評価技術と言う領域が候補としてあるとお話しさせていただきました。現段階で、具体的な内容を議論しても、うまくいかない。まずトライしてみて、そこから紆余曲折を経て領域が見つかっていくと考えます。

 まだ、今、調査が全部出来上がっているわけではないので申し訳ないのです。分かっているのであれば、進めれば良いのですが、進めてみないと分からない。トライアルを進めて行くことで活動が加速されていくと考えています。

【関委員】  ありがとうございます。

【中山主査】  ありがとうございました。どうぞ。

【田中委員】  どうもありがとうございました。逸見さんに、お伺いというか、確認させていただきたいのですが、最初の御質問であった基本認識のところの「産業界の期待する姿」のところなのですが、これはピンクが分野拡大基礎研究(大学・国研中心)というイメージでよろしいですよね。そうしたときに、何となくイメージが。

【逸見直也先生】  一部かもしれませんけど、例えば、新たな素材を開発する際にいろいろ協力いただくとか、アメリカの大学のように産業界と協力するような活動が行われれば良いと思います。

【田中委員】  そうすると、今とは全く逆の考え方をすべきだとおっしゃっているようなイメージでよろしいですか。

【逸見直也先生】  逆と言うと、どういうことですか。

【田中委員】  例えば物を作るときに、最後の方というのは、ほとんど条件出しなどになってきますよね。そうしたときに、アイデアを出すことやおっしゃられていたような評価の指標を作るなど、そういうところが最初物すごく大きくて、そこに例えばアカデミアの貢献が大きいようなイメージを今持っているのですが、それはそうではなくて、出口付近でのいろいろ条件を出すようなところにアカデミアからのアイデアを持っていきたいと、そういうお考えだということなのでしょうか。

【逸見直也先生】  応用・開発研究でもいろいろ大学とか官の研究所に協力して戴きたいことがあると考えています。この領域にも技術的な知見が必要で、領域横断で対応できる人材が育っていくことが重要だと思っています。日本としても重要なリソースとなるので、各種領域を経験してもらいたいと考えます。キャリアを積むのも重要だという背景もあります。

【田中委員】  はい。分かりました。ありがとうございました。

【中山主査】  内藤先生、どうぞ。

【内藤委員】  済みません。続けてお願いします。同じところなのですけれども、イメージとして、例えばドイツのような形ですと、出口に近いところはフラウンホーファーが企業とかなり対等にやり、片やマックスプランクのように基礎研究でノーベル賞を目指すようなところがあるというスタイルがいいのか、今ここに書かれているのは、全ての大学が基礎研究もやるし、出口に近いところも担うと、そういうイメージなのでしょうか。

【逸見直也先生】  人材育成という意味ではいろんなことを経験するのは重要だと思います。今の日本では大学を卒業して企業に入社した方は、最初は企業内で教育しています。大学で出口に近いところの仕事を経験すると、企業内での教育が段々不要になるかもしれません。ドイツでは、産業界で働く人材の育成の仕組みがきちんとできていると思います。

 一方で、基礎研究を行うマックスプランク研究所もあり、分担がうまく働いている例だと思います。今の日本ではできていないので、徐々に変化させていく必要があるのではないかと思います。

【内藤委員】  もう一個よろしいですか。ナノテクプラットフォームを活用されるというお話で、非常にいいと思うのですけれども、そのときの評価方法についてお伺いしたいです。例えばデータを集めるというのがありますが、基本的にナノテクプラットフォームに携わっている研究者は大学の教員ですので、アウトプットとしては論文を出さなきゃいけない、外部資金を取らなきゃいけないというミッションがあり、それで業績が評価される。そこにそういうデータを収集するような機能というのを持たせるためには、それを専門のミッションとする人を作らなきゃいけなくて、そこが結構難しいかなと思います。大学を拠点としていろんなところでそういうデータを集めるというのは、実際の現場では難しいのかなというイメージがちょっとあるのですけれども。

【逸見直也先生】  目的を設定してプロジェクトを起こすのが一つのやり方だと思います。運営、進め方の問題だと思いますが、資金の手当ての仕方にもよると思います。

【内藤委員】  多分お金だけじゃ動ず、人の評価システムを変えないと厳しいかなと。

【逸見直也先生】  今日の話では、産業界からもプロジェクトに参画する仕組みが必要かもしれないと思います。

【内藤委員】  分かりました。ありがとうございます。

【逸見直也先生】  ナノテクプラットフォームに組み込む話は、一つの例としてお話ししました。まずは、技術の発掘から始めるのが良いと考えて提案させていただきました。

【中山主査】  ありがとうございました。 では、林委員、一杉委員の順で。

【林委員】  NEDOの林です。御発表ありがとうございました。逸見様に1つと、あと、杉沢様に1つずつ御質問させてください。

 まず逸見様なのですけれども、深堀基礎研究を強化した方がいいという御意見だったのですけれども、私もその観点はアグリーでして、基礎研究の段階であっても、最終的に実用化というところを視野に入れていくのであれば、基礎研究の段階でどんな稚拙なものでも構わないので、仮説でもいいので、実用化イメージを持ってもらうというのが大事なのではないかなと思っています。

 一方で、基礎研究というのはたくさんやったものをどこかの段階で絞り込んでいかなければいけないと思っています。御発表の中で、研究評価の仕組みを取り入れる必要がありますねという御説明があって、シンプルな形でいくと、例えばステージゲートみたいなものが考えられると思います。不確実性が高い段階のものを絞り込んでいくというときに、評価基準というのはすごく難しいのではないかと思うのですが、その辺はどのようにお考えでしょうか。

【逸見直也先生】  評価基準の話は難しいです。私も実は前職でシステムエンジニアの部隊の話を聞いたことがあります。大抵のプロジェクトマネジメントでは、プロジェクトが失敗しないように確実に動作し安定な技術を選定するのが基本だと思います。今回の話は研究なので、必ずアウトプットが出るとは限らない技術を使うのが大きく異なります。当然各種の技術を試行しながら進めて行くことになります。

 今、日本でこのような活動をしているのは内閣府のImPACTだと思います。これは米国のDARPAのプロジェクトから学んだとされていますが、このImPACTの中でやっていることを学びながらやっていくしかないと思います。確かDARPAは30年、40年の経験で今のような活動ができるようになったと聞いていますので、知恵の蓄積をしていくのが重要だと思います。

【林委員】  ありがとうございます。

 あと、杉沢様のオリジナルデータの創製が肝ということで、リアルデータが重要だというところは私も賛成です。オペランド計測みたいなものも取っていく必要があるのではないかということでした。一方で、取られたデータがIoTとかAIを使って活用されていくということを考えたときに、個社のデータというものを集合させるデータベースのようなものに、皆さん出したがるものなのかどうかというところはどのようにお考えでしょうか。

【杉沢寿志先生】  今、当工業会では、このIoT化をにらんだデータフォーマットの共通化というプロジェクトをNEDOさんの先導研究で進めております。その成果をベースとして、NEDOの本格プロジェクトへ提案する計画を進めております。このプロジェクトで進めている方法はXMAILという汎用的な共通データ形式の中に個社のデータを埋め込んで、それに様々なタグデータを付けて、インターネット上でビッグデータ解析に使えるようにするものです。

 このプロジェクトに参加しております国内のメーカーは、現在、5社ですけれども、少なくともその5社の作っている機器に関しましては、そういった形でデータをラッピングして共通に使えるようにしたいと思っています。また、これに参加してないメーカーにつきましても、このプロジェクトで開発するデータ形式をデファクトスタンダード化する方向で汎用化していきたいというふうに考えています。

 重要なポイントは、その共通データ形式の中に入れ込むタグデータの付け方です。これをきっちり付けていかないと、意味のないデータ、有用性の低いものになってしまいます。例えば画像データで二次元の何か模様があって、それが生体のラットの脳の模様なのか、ある特定の複合材料の模様なのかというのは、タグデータがなければ判別できません。二次元の画像データそのものは意味を持っていませんので、そのオリジナルデータに意味を与えるタグデータの付け方が重要になるわけです。もの作りの場合は、信頼性に関するタグデータが重要になります。例えば1という数字が、誤差が10%なのか、1%なのかによって、利用価値が異なってきます。例えば1というデータに対して、誤差が10%のデータと1%のデータでは扱いを変える必要があります。この1というデータを使って品質管理をする場合、誤差1%のデータは誤差10%のデータより大きな価値があり、品質評価時により大きな重みを付けて利用することになります。しかし、このデータに誤差情報が付いていない場合は、精度1%のデータであったとしても最悪の可能性を排除できないことから、誤差10%とかそれ以上の誤差が含まれているとして扱わざるをえなくなります。これらの例よりタグデータをどうのように持つかの重要性を理解していただけるかと思います。私どもは、どういったデータ形式でどのようにデータをサイバー空間に上げれば、より有効に活用できるかということを今、研究しております。これを進めていって、物作りや研究開発を加速するためのプラットフォームにしていきたいと考えています。

【一杉委員】  逸見様に質問させてください。一杉といいます。私は研究マネジメントについて質問させてください。この部会でも何度も研究マネジメントの重要性が指摘されていて、私も非常に重要だと思います。ただ、大学教員は研究マネジメントのマの字も体系的に学んだことがなく、試行錯誤でやっているのが実情です。そこで質問です。ここでおっしゃっている研究マネジメントにはいろいろレベルがあると思います。研究室内レベルなのか、それとも、複数の研究室をまたいでマネジメントするのか、それから、特許まで考えたマネジメント技術もあると思いまが、どのレベルが一番重要なのでしょうか。それから、大学の教員がそのマネジメント技術をなるべく早く体得してもらうためにはどうすればよいでしょうか。会社でしたら研修などのトレーニングを行っていますが、大学だったら教員に対してどのように教育すれば良いのか、考えをお聞かせください。

【逸見直也先生】  私の聞いている範囲で少しだけお話しします。まず、研究のマネジメントにはレベル感があります。例えば、日本では現場で活動している人が、上に上がっていって社長になるキャリアパスが通常です。でも、欧米ではマネジメントをするのは、本当はマネジメントのプロがやるべき仕事だという話もあると来ています。

【一杉委員】  それは経営の方ですよね。

【逸見直也先生】  例えば、私が先程話したDARPAのプログラムマネジャーを経験した方はアメリカでは大学の学部長になるらしいです。自らが現場で研究するのではなく、研究者をアサインして研究をマネジメントしたり、新しい領域を見出だして人をアサインして研究領域を拡大したりするのが仕事となっていると聞いたことがあります。マネジメントの仕事は、レベル感によっては現場の仕事とかなり違うと言えると思います。

 先程述べたプロジェクトマネジメントは、経験や実績を積まないとなかなか難しい。プロジェクトマネジメントにはPMBOKのような教科書がありますが、書いてある通りに実行すればできるわけではない。アクシデントが起こった際には、臨機応変に対応できるかとか、コンテンンジェンシープランを用意しているかというのが重要だと思います。このようなスキルを得るためには経験しかないように思います。

 今日お話しした評価技術の研究開発は、一領域を深く掘るのではなく、各種の研究領域を管理して進めて行くことが必要です。このスキルセットは、経験でしか得られないと思います。それは企業にいても同じことで、中央研究所で一領域の研究をしている方は、このスキルセットは必ずしも必要とされていないことがあると思います。

【一杉委員】  そうすると、今回おっしゃっていたような研究マネジメントの仕組みというのは、研究者をマネジメントするという、研究所長レベルのプロを養成しようとか、そういうことでしょうか。

【逸見直也先生】  今回の話は、そのレベル感です。必要な基礎研究を行っている研究者を探し当ててリソースを提供し、各領域に目標を設定して全体のプロジェクトを進めていく。全体をまとめていって最終的にゴールに到達させる。

【田中委員】  分かりました。そうすると、普通の大学で研究をやっている人は、そういうのを、スキルを身に付けるというよりは、もうその人はその人でやってくださいと、研究をしっかりやってくださいと。

【逸見直也先生】  マネジメント領域に興味があれば、是非トライしてやるべきだと思います。それが自分の今までと異なるスキルを向上させると思います。企業で言えば専門職というのとマネジメントと2つ種類があると思います。これは職種として分化していくと感じます。

【一杉委員】  分かりました。ありがとうございます。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 私から杉沢様に一つだけ質問があります。本日は多くのバックデータも調べて頂きました。その中で、我が国が強いところをより強くしていくとしたら今後どのような手を打つべきか、計測全体を見られていて、どう思われますか。

【杉沢寿志先生】  そうですね。我々は科学技術の基盤技術を受け持っている産業界であり、どの科学技術分野にも等しく貢献しており、どの分野が強いとか投資を重点かすべき分野を特定することに関しては、言及し難いところがございます。私の見解ではありますが、国内の分析機器メーカーの弱い分野は概して国内産業の研究開発が遅れている分野と一致しているのではと見ております。分析機器は科学技術を先導する特性を持っているというのが私ども考えでございますが、これを市場の観点から申しますと国内の研究開発が遅れている分野は国内の分析機器市場としては小さくなるため、国内メーカーはその分野の機器開発への投資が滞りがちになります。結果として、その分野の機器の競争力が弱くなるという側面があります。その側面が最も強く表れているのがライフサイエンス関連機器になります。添付の参考資料を見ていただけると一目瞭然なのですが、国内メーカーはライフサイエンス系の分野が非常に弱いことが分かります。一方で、材料解析系の分野ですと、国内の分析機器メーカーのシェアが高く、3割とか、機器によっては5割近いシェアを取っているものもございます。分析器業界から見ますと、やはり日本は材料の研究開発で世界に先行しておりそれを先導する分析機器も世界的に強い競争力を持っていると見ております。

 特に参考資料に記載しているとおり、イメージングを使った材料分析分野は、世界でもシェアが高くて、ほぼ我々がナンバーワンに近い状況にいるのですが、それはやはり国内の材料研究者、開発者の方が世界的に強いというところが要因であると思っております。そして、材料分析の中でもバルク分析より、複合材料系を分析するというところに非常に強いニーズがあり、それを見ておりますと、我が国の産業分野の中の最も強い分野の一つは複合材料、高機能材料を作っていく分野だろうなというのは、我々的な感覚としては持っております。

【中山主査】  よく理解できました。また後ほど議論させていただければと思います。

 続きまして、材料戦略委員会としての井上委員からよろしくお願いします。

【井上委員】  御紹介ありがとうございます。東京大学の井上です。材料戦略委員会は今まで2回ぐらい議論しておりまして、その内容をかいつまんで説明させていただければと思います。

 そもそも材料戦略委員会で何を議論していたのかという話ですけれども、議論の前提条件としては、基本的にはいろいろな基盤材料です。鉄鋼、軽金属、セラミックス、あと高分子も1団体入っていましたが、基本的には基盤材料を作る側です。製造の時代は終わったと言われて、先ほど少し悲しかったのですが、それを作る団体の集まりです。

 そのようないろいろな材料分野が横断的に議論しましょうと。その結果として、日本としてどんなことができるのか、どういうことをやっていくべきかというのを連携して議論する、そういう場として材料戦略委員会があります。

 元素戦略、ALCA、ISMAなどいろいろな材料に関わる国家プロジェクトが今までありました。その次は何なのかということを議論しましょうということになりました。

 そういうことで、実際に集まったメンバーはどんなメンバーなのか。名前だけでは少し分かりにくいので、簡単にまとめてみました。横軸が学術と学協会。縦軸が、上が重い方、下が軽い方ですね。鉄鋼、軽金属、セラミックス、高分子、そんな感じで並んでいます。

 鉄鋼協会というのは、産学両方がうまく交わっているような、鉄鋼をメインにした団体です。塑性加工学会、溶接学会というのは、かなり産業寄りで、材料をどう作り込んでいくかということをやっています。粉体粉末もそうですね。金属学会というのはちょっと特殊で、昔は産もかなりいたのですが、今はかなり学に近い団体になっています。真ん中辺に資源や材料学会があります。材料学会というのはそもそも何かと。材料を網羅的にやっているわけじゃありません。そもそもの名前、元の名前は材料評価学会になっていて、基本的には材料の評価をする学会。

 資源・素材というのは、資源から実際に我々がこの塑性加工といったところで使うような素材を作る。そういった最初のプロセスのところをやっている。こういう形で、かなり広い領域にわたった学協会の方々に集まっていただいて議論してきました。

 メンバーとしては、年配の方だけではなく若手を連れてこいということで、大体40代ぐらいの方たちが集まって議論されていました。

 議論としていろいろ本当に多岐にわたって議論されていたのですが、その中から、幾つかのポイントに絞って、どんな議論をされていたのかという話をします。

 1つ目は、Society5.0ということで、サイバーフィジカル、それをどう繋ぐかという話なのですけど、その中で、AI/ビッグデータに対して、我々作る側としてはどのように考えているのか、どのような問題意識があるのか。あとはSDGs、少子高齢化、新材料開発。最後は日本の材料開発。先ほど強いと言われましたけど、そういったものの強さというものの、本当の根源は何かというところもいろいろ議論されていました。

 ということで、まず、Society5.0関連、AI/ビッグデータですが、全体の認識としては、計算科学による材料設計のパラダイムシフトが必然的にあるだろうと。その中で、材料というのはどのように開発されていくのかという話がされていました。その中で、既にあるプロジェクトとしてはSIPのマテリアルインテグレーションやNIMSのMI2Iがあります。

 マテリアルインテグレーションというのはそもそも何かというと、材料の知の統合というのを目指しており、もう一つがインフォマティクスです。MI2Iは基本的にはインフォマティクス分野の促進を狙っている。こういうものが今動いていることを認識したうえで、足りないところを考えました。先ほどのデータの話でもあったように、MI2Iの中でもデータをどうするかというのはちゃんと議論されていますし、さっきのNEDOの話もありましたが、そういうところが多分まだ議論が始まったばかりで、これからきちんとやっていかなくてはいけないという議論がありました。

 先ほどのデータをどう蓄えるか、タグ付けをどうするか。それに対してはオントロジーの問題になってくるのですが、実はマテリアルインテグレーションの中でも議論されているのですが、まだ構造材料に限った話です。機能材料やセンサの話とか、いろいろつなげていける話ですので、そういうことを継続的に発展させていかなければいけないです。そういったものがプロジェクトとして成立し得るのかというところは分からないのですけど、今後、絶対必要であるという話でした。

 現実問題として、サイバーとフィジカルをつなげるという話ですが、ここのところにかなり疑問符をつける人が多かったです。マルチフィジクスとかいう話があるのですけど、基本的には原子・分子レベルと実材料レベルのスケールギャップは非常に大きくて、そこに含まれる多数の不確定要素をきちんと議論したというのは少なくて、今後、おそらくこの辺りが新材料開発に関わってくるのですけど、プロセスが非常に重要な課題になってくるという話がありました。

 またそういう意味で、新規プロセスへのAI/ビッグデータの活用をどうやっていくべきなのか、我々自身も分からないと、そのような話でした。

 AIというと、すぐ工場のところで使えばいいじゃないかと言われるのですけど、実は言語プロセスの最適化というのは既にやられていますので、そういうところではなくて、新しいプロセスを開発するときにどう使うのか。そこの議論が難しいという話がありました。

 こういう議論の中で、日本金属学会の学理の方からですが、彼らとしてはMIやMI2Iといったものを踏まえ、次にやるものは何かという提案をされていました。今までのプロジェクトはそれぞれ目的ごとに分断されていて、その中で統合した知見というのはちゃんとできていないでしょうと。そういった知見を統合した新しい材料工学というのを再構築したいと。かなり学理オリエンテッドですが、そのようなものができないかとの話が出ました。

 一方で、素材メーカーはどのように考えているのかというのがこれです。先ほどの産業界からの御意見とよく合致しているのですが、新材料、新物質が見つかって、それが仮にできたとしましょう。それでも、やはり最終的に市場に出るためには、その信頼性評価が絶対必要なので、そのあたりの開発はどうなっているかが議論になりました。第一原理計算で予測できる材料はしょせん単位格子レベルであって、我々が最終的に作るものというのはそれのかなり大きな集合体です。ナノメーターの計算から最終的な製品を予測するには難しいというような意見がかなりありました。

 これも重要なのですが、マテリアルズインフォマティクスというのは多くの有望な材料を出しますが、実際にどうやって作るか。結局それは我々技術者の経験や勘、ノウハウに頼らざるを得ないのが現状で、それをどうしたらいいのでしょうねという話でありました。

 あと、これもおもしろい意見でして、目的に合う、合わないということだけやっていると、結局、材料分野、人材の可能性を潰すという話がありました。真におもしろい発見というのは、実は得てして本来の目的以外の、先ほどマネジメントという話がありましたけど、そういう目的以外の研究から生まれることが多々あります。ですから、そういったものを潰さないようなプロジェクト設計というのが重要ですよねという話でありました。

 ということで、先ほど申しましたように、粉末冶金協会、かなり産寄りなのですけど、そういったところから出てきたキーワードとして、「Materialize」という造語を標榜してみてはどうでしょうかというのがありまして、この言葉はおもしろいなということで、産業競争力の維持向上のためにはマテリアルズインフォマティクスの高度化に加えて、その成果を速やかに製品に応用するための仕組みというものを統合して、「Materialize」と呼んでみてはどうでしょうかという話もありました。

 SDGsやアップグレードリサイクルに関しては、持続可能な社会実現のために、我々は作っている側なので、既に今まで考えられているようなことが幾つか出てきました。

 アップグレードリサイクルに関しては、有害元素の有効活用だったり、高効率プロセスだったり、あとは省エネルギー材料・高効率エネルギーの議論の中で、既に言われていることです。このアップグレードリサイクルとは、アルミニウムやマグネシウム、特に軽金属側あと鉄鋼も実はそうなのですが、基本的に、これがグルグル回っているようなことが言われておりますが、実際には、例えば車のボディに使うアルミニウムというのは、1回、車のボディに使って、その後、スクラップになった後、車のボディに戻るかといったら戻りません。必ず別のところに使います。基本的にリサイクルというのはダウングレードなのです。しかし将来的にはやはりアップグレード、つまり、元に戻す。車のボディはちゃんと車のボディまで戻れるようなそういったリサイクルのループというのは絶対必要ですよねということを言われていました。

 あと、資源・素材学会の方から、次世代の元素戦略の議論がありました。例えば亜鉛などを取ると、カドミウムなどが出てきてしまいますね。そういった有害物質を何とかうまく使えないかと。また、電池が、リチウム電池に変わると、鉛電池がどんどん使われなくなる。そうすると、今まで鉛電池というのはグルグル回っていたのですけど、そういったものがどんどん使われなくなり、不要の元素が出てきてしまう。そういうものを使う方法はないのかといった話がありました。

 省エネ材料とかどれも従来からある話ですね。コーティングなど、そういったものをやっぱり継続的にやっていきたいという話です。

 次にやったのが少子高齢化という話で、日本は高齢化社会の先進国であると。世界に先んじた技術開発をすると、世界が後から付いてくる。実はそういったトップにチャンスがあるという認識は皆さん持っています。ただ、高齢化に関しては、我々は材料を作る側なので、どう扱っていいか分からないというのはありますね。

 もう一個重要なのは、逆に、高齢化じゃなくて、子供たちが少ないということの方が問題で、次世代を担う人材、先ほど人材育成とありましたけど、そういったものが本当にどんどん難しくなる。数が減るということで難しくなる。そういったときに技術伝承をどうしたらいいのか。そんな議論もありました。

 あと重要なのは、これは大学の話ですけど、材料分野に若者を引き込むための魅力あるプロジェクトの名前にしてほしいということもありました。これは割愛します。

 先ほど1番目のAI関連のところで、プロセスという話がありました。新材料開発で次にどういったものを目指しますかといって、ISMAは高強度材料、ALCAでは高温材料、こういったプロジェクトが既に動いています。

 これらの次にやるような横断的なテーマは何かという議論を始めたのですが、多く議論されたのはやっぱりプロセスでした。新しい材料が生まれて、それをどうプロセスするのか。そこをちゃんとやっていかなくちゃいけないなという話でした。

 我々が普通の材料を作るときというのは、個社ごとにそれぞれのプロセス、得意なプロセス、それを基に材料開発しているというのが現状です。ということで、従来型のプロセスありきの材料開発を続けて、新材料が来たときにそのままできるのかというと、そこはかなり疑問ですよねと。そういったときに、材料開発をどうやって早めたらいいかというと、プロセス開発をしてきたわけです。そういった仕組みというのをちゃんと理解したい。そういったノウハウというのを何とか形式知化できないかという話がありました。これは実はビッグデータと関連した議論で、データなどを使いつつ、形式化する。形式化すれば、そういったデータの使い方もうまくいくと、そういった議論がされていました。

 あと、最後はフィジカルにつなぐと言っているのですが、材料を実現させるため壁を超えるための計算科学以外の方法論があってもいいよねという話もありました。ただ、これはどういった方法論があるかという結論までは至りません。

 ということで、何か目的を設定するというよりも、今後プロセスをどうするのかという話が多数ありました。これは実は2011年のペーパーに出ていたものですが、我々、材料を開発するグループとしては、ディスカバリーがあって、その後、ディベロップメント、あとはこのあたりのサーティフィケーション、シナリオ評価と、いろいろある中で、最終的に材料が生まれてくる。今までよく議論されているものというのはマテリアルズインフォマティクスの部分が多いです。なんですけど、ここの部分というのはもう2000年ぐらいからやられていおり、マルチフィジクスやマルチスケールなどいろいろやられていますけど、いまだに確度の高い予測というのが恐らくできていないというのが我々の感覚です。いろんな手法はできているのですが、ここまで至っているかというと、至っていない。つまり、この部分、プロセス開発に対応するのですが、ここがまだサイバーの側できちんとできていないのではないかという意見がありました。あとは、また、ここは何回も出てきていますけど、次の材料は何かというと、マルチマテリアル、異材接合、そんな話でした。

 最後、日本の材料開発の強さ。これはいろんな強さがあると思うのですが、よく言われていたのは、基本的にはテイラーメイドでしょう。どういうことかというと、自動車の鋼板でも何でもそうですが、基本的には顧客ごとに一点物を提供します。JISの規格はいろいろありますけど、あれで作っているわけじゃないです。あれより更に高性能なものを個々の会社と対話の中で絞り込んで、作り込んでいます。そういったものができるのが、実は日本材料メーカーだったり日本の材料屋だったりします。そういったことができることが強いということなのですが、それはつまり大手メーカー依存。要は、トヨタ依存だったりします。トヨタ依存が悪いわけじゃないのですが、基本的にトヨタとかそういうところが海外展開したときに、彼らはどこで調達するか。日本からわざわざ持っていくかというと、そうは思わない。海外で調達して、なおかつ、ちゃんとした車を作ろうという方向に切り換わったときに、これが成立し得るかというと、やっぱり怖いという意見はありました。

 やはりプロセス技術というのは基本的には人に依存しノウハウになっています。ここをきちんとやるような議論が重要じゃないでしょうかという話があります。

 以上、5つの項目にわたって議論がされましたということで、雑駁でしたけど、報告させてもらいました。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 続きまして、日本化学連合の菊地様より、御説明よろしくお願いいたします。

【菊地和也先生】  それでは、日本化学連合を代表して、大阪大学の菊地が話します。

 提言としましては、スペース・クロノマテリアルというのがこれから来るナノテクノロジーの次世代の目標の一つになるのではないか。この造語ですけれども、日本語で言うと、時空間制御ということです。時空間というのは、英語で我々がよく使うのが「Spatio-Temporal」という言葉ですけれども、テンポラルというのは非常に刹那的な意味がありまして、クロノロジカルというのはそれを積み重ねていくという意味がありますので。クロノというのは、クロノロジカルの略で、時間経過が積み上がっていくというニュアンスを持たせるため、テンポラルではなくて、このような言葉を使っています。

 実際にはMIを活用した異種界面の理解と制御に基づく機能の実現というのがこれから行われていくのではないかというところが我々の提言です。

 まず、化学連合につきましてですが、正会員学協会は13学協会ありますけれども、このうち比較的大きめ、しかも、ナノテクに関係あると考えられる日本化学会と高分子学会、そして、セラミックス協会から2人ずつ代表が来まして、それで3回、ディスカッションを行ってきました。

 基本的には、化学会とセラミックス協会はアカデミアに近い方の委員が入っていますし、高分子学会は、もともと高分子学会の性質上、これは産学連携というところがありまして、豊田中研の臼杵さんと、きょうもいらしている京都大学の辻井先生が参加されています。

 次に、全体紹介の図がここに来ますけれども、これから先のスライドのファイルにつきましては、2枚ずつが各学協会からの提言になっております。このスペース・クロノマテリアルというのは実際には物質に、これは物質を空間的に精密制御するというのがナノテクというものですけれども、それに時間軸というのが加わってきて、これから新しい技術というのが開発されていくだろうということです。

 これは時間軸のスケールが小さいところから大きいところまで、それから、空間で、特にこれは磁性など、見えないぐらい小さいところから、高密材料のしなやかさに至る大きいところまでを示したものですけども、機能発現というものとダイナミクスというのがこれからつながってきて、新しい技術というのができていくだろうと。

 実際に物質というのは空間構造に時間的ゆらぎがありますけれども、その時間的ゆらぎに、これはきっちりした設計指針というのがこれから加わっていくのではないだろうかと。そこで時間と空間を精密制御した材料というのがこの造語になっています。

 この結果としまして、「0→1」の研究、あるいは1がありましたら、1を2、3にするのではなくて、もう少し大きくするような物性を持った超機能の材料というものを出していけるだろうと考えております。

 次の2枚は、日本化学会からの提言になります。まずこれは物質面ですけれども、これは時空間の精密制御における次世代のナノ材料の開発というのが、実際、今、端緒に使われたところでありますし、これからどんどん盛んになっていくであろうと。現状では、時間・空間制御というものの、ナノ構造というのはゆらぎがありまして、どうしてもこれは正規分布を持ったものになりまして、機能を十分にフルポテンシャルというのは使い切れていないだろうと。今はここにはちょっと、金属クラスターができていく動画を示していますが、これは観測技術が、高度な観測技術を基にそれを制御プロセスというのにフィードバックすることによりまして、明確な設計指針がないところがこれからは出ていくだろうと。そのためには先ほど何回も出てきていますMIを活用した短時間開発というのも重要になります。

 これまでの例としましては、これは金属ナノクラスターができていくところの例を示していますが、これは元素の空間配列というものが制御できてきた例が出てきていると。これがもう少し高度化していくことによりまして、先ほどから化学会の一つの最近の柱であります元素戦略というのがありましたけれども、元素戦略を超えていく新しいものができている。新しい物質というものが開発されていくだろうと考えています。

 実は元素戦略など大事なことを書いてあるので、お手元の資料をごらんください。

 次に、これが実現することによりまして、環境におきましては、持続可能な社会、低炭素、資源リサイクルなどが可能になります。また、社会的には、これは後で高分子学会のところでも言いますし、先ほどの材料側からの提言とかぶるのですけれども、新素材のイノベーションというのが起きると考えています。

 次は、これは医療における、これからのナノ材料がどういうところに進むかというところですけれども、これは特にデリバリーを機能化することによりまして、日本は特にナノマシンを作ること、あるいはドラッグデリバリーシステムの基となる高分子というのは、実は得意なところであります。しかしながら、やっぱり臨床応用というところは非常に大きなギャップがあります。

 オバマ政権が最初に政権をとったときに最初に出してきたのは、免疫光線療法という療法で、これは我々からしたら非常にコロンブスの卵のような研究で、従来からがんに集まると分かっていた抗体に、化学面からしたら通常の光増感剤を付けると、それに光を当てるだけで、がん組織が壊れていくと。これは実際に非常に効果的な例がありまして、今は臨床試験も行われているところであります。

 これまでの高分子材料、特にドラッグデリバリーシステムというのは、高分子材料などを体の中に入れますと、大体ほとんどのものが体の中を駆けめぐってしまって、行ってほしいところには行かないと、それが最大のネックです。ですが、先ほどの免疫光線療法みたいに、これはコロンブスの卵と言いましたけれども、あらかじめデリバリーがはっきりしているものに、そんなに難しいものじゃないものを付けても、これが実際にがん治療に役立つというのは、非常にインパクトのあることでした。

 ですから、どの疾患にも見合う抗体、あるいはどの疾患にもデリバリーされるペプチドがあるわけではないのですが、ある疾患だと届くものというのは幾つか、今、知られている状態です。そういうものに高度化されたナノ材料、特にセンサ機能を持つものを用いることができれば診断に役立つでしょうし、薬物放出のナノキャリアを用いれば、これは非常に薬物投与量が少ないものというのができると思います。これはどんな疾患にも、疾病状態にも役に立つわけではないのですが、実際にデリバリーの確立した分子というものを使うことによりまして、生物を超える時空間制御のナノ材料ができまして、これを応用することによりまして、難治疾患の治療ですとか早期診断、そして、最終的には医療コストの削減、QOLの向上というのが行われると考えております。

 次は、セラミックス協会からの提言になります。この場合は特にMIを活用した異種界面との理解を制御することによりまして、機能が特にこれは経時的に発達していく、あるいは経時的に壊れていくことを防ぐという時間軸を制御したセラミックスマテリアルというのができるだろうと。

 ここには骨の再生の例を示しています。その取っ掛かりとなります、スペースクロノバイオセラミックスと書いていますが、セラミックスの取っ掛かりを用いることで、骨の再生がうまくという例が実際に行われています。

 これは外からAdditive Manufacturingというものを用いることによりまして、これは生体模倣と言いますけれども、生体の機能向上というのができるものが今、幾つか出てきています。

 次は、これはスペースクロノ強靱化セラミックスですけれども、これは壊れやすさというものを精密に測ることによりまして、その壊れやすさを抑制するAdditive Manufacturingのようなものを入れて、経時的に壊れなくするという試みです。

 次に、スペースクロノセラミックス半導体と書いてありますけれども、これはバンドエンジニアリングを、セラミックスレベルで行うことによりまして、量子サイズ効果を活用した電荷分離状態というものを非常に長時間にする。効率的にエネルギーを取り出すことによりまして、水素製造、あるいは人工光合成を行うことができる触媒機能ができるというふうに考えられます。

 それからまた、スペースクロノ電子セラミックスと書いてありますけれども、これはナノデバイスでして、このナノデバイスにセラミックスが得意としていますナノセラミックスを組み込むことによりまして、ボトムアップ集積というものを効率的にしたデバイスができるだろうということを提言しています。

 最後の2枚が、高分子学会からの提言ですけれども、実は先ほどの材料部会の方のお話と非常にかぶるところではあり、今は高分子材料を作るためには、1ステップ、1ステップにいろんなエネルギーを使っておりロスが非常に多い。これは全体のキーワードとしましては、ロス削減というのが一番大きい提言になります。、時空間制御した界面の能動制御と材料間のコミュニケーションというものをきちんと制御することによりまして、材料のスマート化がこれから進むだろうということです。そして、新しい価値の創造を実現するための新素材の開発は、これまでの高分子は強靱さというものを非常に重要視していたのに対して、もう一つの軸として、しなやかさ、ソフト面へとパラダイム、硬いものとソフトなもの両方から攻めているということがこれから可能になるであろうと。それから、ナノからマクロへ、階層化というのは特に時間軸、クロノロジカルなことに関係してくるのですけれども、マルチスケール設計というのが重要になるであろうというふうに考えています。

 これらによりまして、ロス削減をして、省エネ、低負荷にすることと、それから、材料自身の寿命をこれから予測できるようになるだろうと。この寿命予測をすることによりまして、安全・安心、特に信頼性が向上するもの。どの時点で高分子材料を実際に入れ替えることができるかがはっきり分かることで、これは社会貢献があるだろうと。このターゲットとしましては、力学材料と、この下には環境エネルギーの材料があります。特にこれは、力学材料では、今言ったしなやかさというふうに、これは強さとしなやかさを両方備えたもの。それから、環境エネルギー材料では、磨耗しないベアリングみたいなものだと思うのですが、磨耗しないナノ材料を使うことによりまして、スマートトライボロジーが実現されていくだろうというふうに考えています。

 従来型の新コンセプトにどういうふうにつながる可能性があるかという実例が今、先駆的に行われているかということですけれども、それについての紹介ですが、従来型の高分子材料は、先ほど言いましたとおり、まず材料があったら、その間に補強するような高分子、フィラーというものをいろいろな材料から、経験的に、あるいは、トライ・アンド・エラーを用いて最適化をしています。これは試行錯誤が大きかったのですけれども、そこにMIを活用するなどしまして、求められる機能に対してフィラーを変えることによりまして、しなやかに相手を変えていくことができる新しい材料創生というのが行われていくだろうと考えられます。

 新しい機能の創生としましては、トレードオフ機能、これは先ほどから何度も言っているしなやかさ、自己修復性、寿命予測などというものが考えられます。このような例としましては、これは東京大学の伊藤先生らが行われているImPACTで、高分子材料だけで車を作ろうという試みがあるというのは非常に有名だと思います。

 ボディ、それから、これは電気自動車ですので、モーター機能だけではなく、そこのモーターの駆動力、それから、タイヤ全てに至るまで高分子材料、これはタフポリマーというImPACTのプロジェクトで行われていると思うのですけれども、強さとしなやかさというのを全て持った高分子材料というのがこれから実現されていくだろう、そして、その需要があるだろうというふうに考えています。

 以上まとめますと、これまでのマテリアル、特に化学連合は、化学としましては、物質あるいは分子を出していくというところが我々の主眼になりまして、この空間・構造というものをいかにきっちり制御するかというところが、ナノという領域に組み込む意味で非常に重要です。その構築というのは、分子レベル、それから、材料レベルでも非常に日本が得意とするところと言っていいと思います。

 そこに空間軸としてファクターを制御することがこれから先、加わっていくことによりまして、ナノ分子の持つ、ナノ材料が持つフルポテンシャルがどんどん盛んに生かされていく応用例が出てくるだろうというふうに考えます。その結果、持続可能社会、在宅医療、高機能デバイス、ロス軽減などありますけれども、このような未来機能をナノ物質から、QOLを向上させることによりまして、SDGsに含まれている項目の幾つかというのは実現されるのではないかと想定しております。

 以上です。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 続きまして、応用物理学会から、財満先生、よろしくお願いいたします。

【財満鎭明先生】  応用物理学会の財満です。材料分野の研究開発戦略ということで、何かお話をしてほしいというふうに言われたわけですが、応用物理学会は、いわゆる工業会などの特定の産業分野をバックに持たないという学会であります。したがって、その中にいる先生方の研究分野も非常に多岐にわたっていますので、なかなか学会全体をまとめた材料研究開発戦略ということを短時間の間に申し上げることは非常に難しいと考えています。但し、応用物理学会ではアカデミック・ロードマップというのを以前に作りました。それが少しは御参考になるのではと思っていますので、本日はその紹介をさせていただきます。

 まずは、学会を簡単に紹介させていただきまして、こういう学会としてロードマップを作ったという経緯、それから、ロードマップの御紹介をします。最後に個人的な考えとして、ごく一般的ではありますけれども、少しコメントをさせていただければと思います。

 まず学会についてですが、応用物理学会は、ここに書いてあるような沿革をたどっております。特徴としては、産業界の会員と大学教員の会員がほぼ半々ぐらいの割合で、あとは学生会員が所属しています。従って、アカデミアと産業界が比較的バランスよくいるのかなと思います。本会の会員である赤﨑先生、天野先生、中村先生がノーベル賞を受賞されたということで、大変喜んでいるところであります。

 応用物理学会では、学術講演会を年2回やっていまして、大体7,000名ぐらいの参加者で、4,000件ぐらいの発表があります。その講演会の論文投稿分野というのを見ていただきますと、1989年と2016年のようすを示していますが、ここで分かりますように、分野としては非常に幅広い分野からの投稿があります。1989年当時は半導体が非常に大きな割合を占めていましたが、今は有機・バイオというのが非常に大きな投稿分野となっています、要するに、学会の中の分野もこういうように時代と共に変わってきているということであります。 

 さて、どうしてロードマップを作成したかという経緯ですが、応用物理学会では、「応用物理学会の課題と中長期展望」というのを2004年に作成し、将来計画とか将来ビジョンというのをいろいろ検討してまいりました。2006年に経産省の委託で、「技術戦略マップのローリング」の一環で、この「応用物理分野のアカデミック・ロードマップ」を作成することになり、この将来計画委員会の下に将来ビジョン検討ワーキングを設置して、2年間にわたって、「将来ビジョンアカデミックロードマップ」の作成を行いました。この2006年において、総勢300名ぐらいの研究者が参加して、これを作ったということです。

 さらに、これを改訂しようということで、議論を深めて、2010年に改訂版の発行を行いました。検討グループとしてはやはり総勢300名でしたが、たしかこの委員会にも御参加いただいた方が何人かおられると思います。どういうふうな分野というと、シリコン技術から、有機・分子エレクトロニクス、テラヘルツエレクトロニクスとか量子情報分野、フォトニクス、オプティクス、それから、放射線工学とか、材料の切り口であったり、プロセスの切り口であったり、そのような内容が入っております。これらは、いわゆる学会の中の分科会活動といいますか、それに対応した要素技術クラスターということになります。

 これらに加えて、改訂版では、分野横断型クラスターというのを入れております。これは例えば医療ですとか、環境エネルギーですとか、安心・セキュリティ技術というような分野を取り上げ、それロードマップというのを入れました。さらに、特徴的なこととして、人材育成を将来的にどのように考えるかというようなロードマップも入っております。

 改訂版の特徴と構成ですが、2040年というのをゴールとして、時間軸を入れたロードマップを作ることにしました。それぞれのクラスターのマップには、社会ニーズなど、トップダウンの視点からまとめるということをしました。ただし、要素技術クラスターは、ボトムアップの考え方を基本として構成するというようなやり方をしています。先ほど言いましたように、改訂版では分野を超えた横断的な分野に対して横断型クラスターをつくり、ロードマップの策定を試みてみようということで行ったわけであります。

 ロードマップの一例であります。ここでは有機エレクトロニクスを例にして示しますが、有機エレクトロニクス分野がどういうふうに発展していくかというのを、2040年を目指して、例えば、デバイスとか、物性とか、材料とかという切り口、あるいは計測技術の切り口ということで議論をしました。

 有機ELのロードマップというのをここに示していますけれども、将来に向けてどういうふうな技術開発が必要かと。それから、材料としてどういうものが必要かというロードマップとともに、界面幾何光学のロードマップも入っています。要するに、技術ロードマップは、基本的には、時間軸に対してどのような技術開発をしていけばいいかという、結構ストレートな内容で、特に半導体の分野の人はロードマップに縛られて技術開発をしてきたところがあります。しかしながら、大事なのは、実はオフロードマップという、ロードマップから外れたところが当然あるわけで、そこから、例えば、どういう基礎分野があればいいかというようなことが出てくるのではないかと思います。ということで、単なる技術ロードマップだけではなくて、これからどのような基礎的な物理、化学だったり、あるいは計測技術だったりが必要かと、そういうのが併せて載っているというのが我々のロードマップの特徴ではないかと思います。

 今回の趣旨からいくと、横断型のクラスターというのがもしかしたら御参考になるのかなというふうに思っております。ここでは2つを御紹介します。安心・セキュリティ技術と、環境・エネルギー技術です。

安心・セキュリティ技術では、「いつでもどこでも自然で安心な暮らし」というのを実現するためにどういうことが必要かということを考えています。例えば、情報通信の領域、それから、犯罪・テロ・事故の予防と災害の軽減、いろいろなバイオ・ケミカルハザードからの保護、健康というような分野の技術がどのように発展していけば、安全・安心で持続可能な社会から、快適・愉快で自然な社会に行くのかというロードマップになっています。これはビジョンというものに相当するわけで、これが要素技術に相当することになります。

 そうすると、情報のセキュリティでは、情報通信に関しては、安全な情報処理、それから、通信、データの安全なアーカイブが必要となります。これを実現するのに、例えば、量子情報とか、セキュアな情報通信というような内容に対して、どのような技術開発が必要かということがと載っています。この改訂版は2010年の改訂で、今から8年前ですから、もう既に古くなっている部分があるかもしれません。

 それから、犯罪・テロ・事故の防止ということにたいしては、要するに、何か機器を付けているとか、何かそれを身にまとっているということを感じさせないような自然で安心な暮らしを実現するということで、それに対してどのような技術が必要になってくるかというロードマップになっています。多分、このようなところにいろいろと重要なキーワードが出てくるのではないかと思っています。

 これはバイオ・ケミカルハザード、疾病からの保護に対するロードパップで、いろいろなデータベースの構築ももちろんありますし、いろんな検出技術、それから、人間の生体情報との定量化といいますか、そのようなことも必要といういうことが書き込まれています。逆に言うと、将来の材料開発戦略というのを考えるのには、比較的考えやすいような内容になっています。

 一方、環境エネルギー技術、これになると、少し先ほどの安心・セキュリティ技術とは様子が変わってきます。例えば、これはエネルギーの高度利用社会のイメージ図ですが、これはスマートグリッドの電力網だとかという話になっていますし、太陽電池の場合には、かなり明確な数値に対してロードマップが引けてきます。これは電池の例になります。これは計算科学ですね。計算科学を使った材料設計というので、どういうようなことが重要かと、どのような進展が必要かというような形でまとめられております。

安心・セキュリティ技術と環境・エネルギー技術は、非常に2つの極端な例だと思っていますけれども、ある産業分野、あるいは技術分野として確立していない領域というのは、非常に豊富なキーワードがフツフツと湧いてきて、我々のイマジネーションが刺激されるわけですよね。ただし、既にもうある技術領域、重要な領域として認識されているところでは、やはりどうしても現実的になってしまうというようなことがあります。ただ、その両方ともが非常に重要だと考えています。

 ということで、この材料の研究開発戦略を作るというのは非常に大きなテーマで、委員の方々がいろいろ努力されているのが目に浮かぶようで、ここであえて、こういうのが必要だと言うつもりは、私はありません。むしろここでは、当たり前ではありますけれども、戦略に対する考え方について少し述べたいと思っています。

 材料開発や機能創出というのは、今までにない材料の創出が不可欠ですが、これには10年も20年も掛かるような長期にわたる地道な努力が必要です。それから、新しい物理が発見されることによって機能が創出されていくという側面があります。これにはある種の天才による閃きというのが必要になります。それに対して、今までの材料に関わる戦略ととしては、元素戦略というのは非常に有名です。そのステートメントは、物質・材料を構成し、その機能・特性を決定する元素の役割、性格を研究し、物質・材料の機能・特性の発現機構を明らかにすることで、希少元素や有害元素を使うことなく、高い機能を持った物質・材料を開発する、となっています。非常にクリアなステートメントで、改めてこうやって見てみると、私なんかは非常に感心してしまいます。

 それから、もう一つ、マテリアルズインフォマティクスというのも一つの戦略なのだと思います。これも、研究者の経験と、鋭い直感に依存していた材料探索から変えていくという、非常にクリアなステートメントになっています。実は、私はこのステートメントに改めて感心しているのですが、このマテリアルズインフォマティクスというのはいろんな困難さはありますけれども、更に発展していくだろうと思っています。

 次の次世代戦略ですね。マテリアルズインフォマティクスのステートメントを超えるのは何かというと、これは難しくて私も分かりません。例えば、物理や化学の新しい法則とかそういうものが深層学習で見つかるのかというようなことを本当は考えないといけないのでは、というような気もしてまいります。

 先ほどのロードマップに戻りますけど、皆様方御存じのように、戦略やロードマップを考えるのには、2つのやり方がありますよね。BackcastとForecastということです。Backcastは、実現したい社会像や社会的価値から出発します。Forecastは、既にある技術から実現可能な社会をビルドアップしていくというやり方になります。

 SDGsというのは、創出すべき種々の社会的価値であって、Society5.0というのは、やや技術的な側面でそれを捉えている、というふうに考えるべきだろうと思います。

 研究開発戦略を立てるにはこのような2つのアプローチがあって、Backcast的なアプローチの場合には、どのような社会像に決めるかという社会像の決め方が課題になるだろうと思います。例えばさっき見たように、安心・安全なセキュリティだとかそういうものを社会像に立てたら、さっきのような非常に夢のある話やロードマップになってまいりますし、環境だとかエネルギーとなると、これはなかなか現実的になり過ぎるということがあります。ですから、Backcast的なアプローチをするには、技術領域として固まっていない、どのようなキーワードから出発するかというのが非常に大事だと思います。

 既に技術分野としてある領域では、BackcastとForecastをしていったところは決して一致しないので、ここに技術ギャップが当然できます。その技術ギャップをきちんと考えないと、革新的な機能を持つような材料は生まれないだろうと考えています。私のコメントは、委員の皆様方は頭の中でやっていることを整理しているだけだと思っていますけれども、戦略を考えるにはこのような視点が必要なのだろうと思います。技術分野として固まっていない領域も必要ですが、例えば、エネルギー、省エネルギーというのは非常に重要なキーワードなので、そういうものが抜けないような形でお考えいただけると非常にありがたいと思っております。

 以上です。

【中山主査】  ありがとうございました。

 それでは、今お話いただきました先生方の御意見に関しての御議論、逸見様、杉沢様に対する御意見も受け付けたいと思います。よろしくお願いします。

【上杉委員】  京都大学の上杉です。菊地先生に質問します。このスペース・クロノマテリアルというのは、御説明の中では、スペースは、空間若しくは構造でいいですよね。クロノが時間ということで、全部日本語で言っちゃえば、時空間材料みたいな感じですね。

【菊地和也先生】  そうですね。精密制御時空間材料ですね。

【上杉委員】  それで、これはすごくうまいことを言ったなと思いました。それで、このコンセプトについては2つ質問があるのですけれども、1つ目が、実はこの委員会で、これまで化学やマテリアルについていろいろなアイデアを相談してきました。例えばこのコンセプトの中で言われたマテリアルズインフォマティクスですとか、自己修復材料ですとか、しなやかな材料とか、こういうのもすごくたくさん議論してきたんですね。それが時間ということでうまくまとめられているなと思います。

 ところが、一つ、今まで議論したことない、寿命予測というのがありました。これは恐らく時間ということを意識しながら言わないと思い付かなかったアイデアだと思います。その寿命予測のところについてもう少しお話ししていただきたいです。

【菊地和也先生】  最初に断っておくのは、寿命予測は、御覧になられたとおり、セラミックス学会、そして、高分子学会からの提言で、私、化学会の代表なので、どこまで答えられるかということはございますが、セラミックス協会からでは、スペースクロノ強靱化セラミックス、これは壊れていく過程でセラミックスはパリッと割れるわけですけれども、パリッと割れないようにするための計時計測というのが非常に細かくできるようになって、どのタイミングでどのようなものを入れると壊れなくなるかというのがすごく分かってくるようになっているそうです。

 なので、セラミックスを素材にして、例えばセンサなどを作って、それが経時的に何年してどこで壊れる可能性があるかというのを非常に正確に分かることが、今できるようになっているというのが売りで、いついつになったら取り替えなさいねということがはっきり言えるというのがここでの説明です。

 それから、高分子学会さんからの提言では、車など、これは素材で、昔、金属がやっていたところも、今、高分子材料でできるものも少し出てきたと。高分子材料につきまして高分子の方では、これもいつ壊れるかというのが大体分かるようになってきて、あるいは、例えば橋とか、社会構造に関係あるようなものにつきましても、どういうタイミングで、どこで壊れるかということの予測が付くようになってきた。だから、劣化というものが予測しやすくなったので、そこはフィラーというのは先ほど言いましたとおり、ナノテクの一つなのですが、それをランダムに行っていたフィラーをもう少し高精度で行うことによりまして、長持ちしつつ、長持ちする限界がどこまであるかというのが分かるものができてきたというところまで来ているそうです。もっと高度化が進むことによりまして、これは安心・安全に直接貢献するような材料というものを、セラミックスあるいは高分子材料から提言できるだろうというお話でした。

【上杉委員】  もう一つ、このタイトルの副題のところに異種界面というのがありますね。この界面についても、この委員会ですごくいろいろなことを話してきて、生体と人工物界面ですとか、サイバーフィジカル界面、つまり、これは無機、有機界面ですとか、生体とセンター、アクチュエータの界面とかこういうのをいろいろ話してきました。今回、このスペース・クロノマテリアルの中での異種界面ということで、最初、ちょっとイメージが湧きにくかったのですけれども、例えばスペースクロノバイオセラミックスみたいなものですかね。

【菊地和也先生】  そうですね。これはイメージとして、セラミックスで補助してやることによりまして、骨の再生というものが非常に効率的にきれいに行われている経時的変化です。これは補助しないと行われないのですけれども、やっぱりセラミックス材料を使うことによりまして、それが生体適合性で、バイオミメティックスという言葉に、バイオミメティックスに関するディスカッションがあったときに、ミメティックスという英語が日本語にちゃんと入っていないというディスカッションがありました。ミメティックスというのは、生体に似たものを採ってきて何かそれに近いものを作るというよりは、生体そのものを作るというところが特に欧米の研究では普通の言葉として使われているそうです。これは経時的に何か取っ掛かりを作ることで、それはナノ粒子が起爆剤となりまして、時間的、経時的に再生がきちっと行われていく材料というのがあって、これは今まだ試験段階の骨の段階ですけれども、こういうものは異種界面の一例としまして、生体とセラミックスで、考えてみると、骨というのはカルシウムの無機リンをコラーゲンが包んでいる状態ですので、まさに骨自身は異種界面ですけれども、そこに直接つながるような素材を出していく例というのがこれから増えていくだろうと考えられるという提言でした。

【上杉委員】  分かりました。

【中山主査】  ありがとうございました。どうぞ、中嶋先生。

【中嶋委員】  中嶋です。井上先生の発表で、非常に分かりやすかったのですが、1点確認で、AIといわれるときに具体的には何を想定されていますか、どういう場面で使うか、ということをかなりいろいろ検討したという話で、非常に分かりやすかったのですけど、具体的にはどういう技術のことを言っているのかなと。いろいろあり得るじゃないですか。

【井上委員】  技術としてはいろいろそろっているというのはよく分かっていて、それをどういうふうに使うかというのは具体的なものと、AIを使う以前の問題だったりします。要は、計測の話もありますけど、十分な精度のものが取れなかったりとか、そもそもの物理現象をモデル化するところが不十分だったりとか、AI以前です。ですから、基本的には、AIというよりも、ここで彼らが疑問を持っていたのは計算科学の方でした。きちんとした基盤ができれば、どんどんやっぱりAIを使わなければならない。いろんなツールがあるので、そういったツールを使って、最適化をどんどんやっていかなくちゃいけないというのは分かっているのですけど、そこ以前の問題に疑問があるのではないかと。

【中嶋委員】  基本的には最適化ですか。何かを自動化したいのですか。予測という話も出たりしたと思います。

【井上委員】  これは計算科学ですね。ビッグデータを使って、更にそれを使ってどう未来の、材料の予測につなげるか、そこのリンクの部分ですよね。

【中嶋委員】  材料の予測というのは、よく分かっていないのですけど、何か新しい材料を作るときに……。

【井上委員】  そっちではなくて、新しい材料を作るというのはいろいろ既にある、インフォマティクスでやられていると思います。そういった材料が、例えばこういった構造、こういった界面を作り込めばいいというような話が出てきたときに、それを実際にどうやって作り込みますかというと、その作り込む過程というのは、基本的には平衡状態ではなくて、必ずある別の状態からその状態に持っていくというプロセスを踏まなくちゃいけない。その過程がきちんと全て理解できていればいいのですが、そこに分からないところがまだ残されているという感覚はあります。

【中嶋委員】  それは、つまり、普通にモデリングができていないとかそういう話ですか。

【井上委員】  モデリングが不十分というのもあると思います。あと、計測。これは計測も大事ですけど、計測もできていないところもまだあって、最終的にそういうものを全部うまいこと……。

【中嶋委員】  それをAIと呼んでいると。

【井上委員】  AIというよりも計算科学ですね。AIは使いたいと思っています。

【中嶋委員】  AIを使いたいというのは、先ほどの例えば深層学習の話がちょっと出たりしましたけど、ああいうものを使うということですか。

【井上委員】  そうですね。だから、どこまで使うかもまだ分かっていないというのが正直だと思いますね。

【中嶋委員】  何に使うと有効なのかみたいなことがということですよね。

【井上委員】  そうですね。

【中嶋委員】  例えばモデリングに機械学習はもちろん使えると思いますが、いろんなアプローチがあって、例えば背後の支配原理を理解して、そこからモデルを作った方がもちろんいい場合が多いと思います。

【井上委員】  そうだと思います。おそらくそういったものの使い方もよく分かっていない問うことだと思います。

【中嶋委員】  どう使えるか分からないということをいろいろ議論されていましたが、AI自体がどういう用途で使われることがそもそも想定されているのかなと思って、ちょっと確認したかっただけです。

【井上委員】  そっちですね。はい。今の……。

【中嶋委員】  例えば何か具体的にはプロセスをAIに担わせるみたいな話もちょっと出たと思いますが、何か研究自体のプロセスにAIを活用すると。

【井上委員】  そこら辺も難しいですよね。AIを使って、プロセスというか、そういった……。

【中嶋委員】  だから、それは人間がやっている部分をAIにやらせてみたいな、自動化してみたいな話ですか。

【井上委員】  おそらく違うと思います。AIを使うとしたら、いろんな非平衡の現象があって、その中に隠れている物理現象、先ほど話をされていましたけど、そういったものがやっぱり知りたいですよね。そういったものに、最初に使いたいと思います。ただ、その枠組みですね。我々、このプロセスの実験屋としてはあんまり理解していないというところがあると思います。

【中山主査】  よろしいでしょうか。その他、順番にお願いします。まずどうぞ。

【近藤委員】  井上先生にお聞きしたいのですけど、今ありましたプロセス開発のところです。我々、企業にいますと、プロセスは企業の競争力の源泉になっているところがありまして、なかなか表に出しにくい部分があります。ノウハウやブラックボックス化して、そこが個々の企業の強みになっているというところがあります。ただし、今この議論にあったように、そこをうまく日本の全体の力になるために表に出すところは出していかないといけない。そこをうまく共通のプラットフォームにしていくためにはどういうふうにしないといけないかとか、そういった議論はなかったのかなと思いました。

【井上委員】  当然そういう話もあって、やはり切り分け、データの話もありましたけど、やはりそこの切り分けですよね。それをうまいこと設計しないと、共通プラットフォームと個別、そんな形のものをうまいこと設計していかないといけないなという話はありました。あと、ノウハウですね。

【近藤委員】  はい。そこはやっぱり個々の事情によってうまくバランスを取っていくしかないのですかね。

【井上委員】  はい。

【近藤委員】  分かりました。

【中山主査】  ありがとうございました。どうぞ。

【内田委員】  財満先生に質問なのですが、最後のBackcast的アプローチとForecast的アプローチというお話、おもしろかったのですが、こういうお話を伺うと、Backcast的なアプローチというのが私自身はちょっと足りてなかったかなというふうに、その要素の技術なり、要素の機能まで落として、その上でこの技術ギャップについて話し合うというのがすごくおもしろいなと思いました。今、財満先生の目から見て、世の中的にはやっぱりこういうアプローチが足りていないというふうに思われているからこその提言かと思ったのですが、どの部分を我々もっと強化していくべきであるとか、あるいは応用物理学会の中で、このBackcast的なアプローチにこれから取り組んでいこうとか、あるいは、今、取り組んでいるといったものがあるのかということを教えていただけますか。

【財満鎭明先生】  まず、私もどちらかというと材料系に近い方の人間なので、そういうことから考えると、なかなかやっぱりForecast的な思考がそもそも身に染み付いてしまっていると感じます。そうすると、そのビジョンは?と言われたときに、どのようなビジョンを設定するかというのがやっぱり苦手かなと思います。ただし、どういう将来に役立つのかというのは非常に重要なことなので、それをきちんと認識してどういう機能だとかを議論する必要があるだろうというのは強く感じています。そこはどうしても、どういうビジョンを設定するかというのが本当はキーポイントだろうなというふうに思っています。

 Forecastするときも最終的にはビジョンを立てるわけで、それはどういうビジョンなのかというのがやはりキーポイントになります。実は、我々はそれにはあまり慣れていないわけですが、一つは、先ほど言いましたように、非常にテクニカルな言い方になりますけれども、分野がどのように技術ギャップを乗り越えるのかということが一つの目安になるという気がしています。

 もう一つの御質問は、応用物理学会の中でこのようなビジョンを議論しているかという点につきましては、学会全体としてのロードマップ改訂版の次の動きというのはまだございません。ただし、いろいろな分科会では将来のビジョンをそれぞれ考えていると思います。また特に、学術とか技術の分野だけではなくて、産業とどう連携するかというのが、現在の応用物理学会の大きな一つの課題になっていまして、どのように学会は産業界に貢献すべきか、どういうビジョンに対して貢献するべきかということが議論されているというふうに認識しております。

【内田委員】  ありがとうございます。

 井上先生に1件だけ。先ほどプロセス開発のところで、AI/ビッグデータの活用が未知であることやノウハウというお話があって、理想としては、プロセス開発において、ありとあらゆることが測り切れれば、ノウハウ的要素も減ってくるし、ビッグデータ的な解析なども可能になるのではないかというふうにも思うのですが、それは今このようになっているのは、やはりありとあらゆることが測れないからなのか。あるいは、ありとあらゆることが測れてもやっぱり依然難しい要素があるのか。その点について少し御意見を伺えれば。

【井上委員】  金属でいうと、結局、表面しか測れなかったりします。だから、全てを測れるわけではない中で、どのようにセンシングしていくか。そのあたりがやっぱり不十分なところがまだまだあるというのが大きいのかなと。なので、普通、金属の開発というと、本当に1回プロセスを流して、その中から出てきた金属の組織を丹念に見て、更に1個1個の材料の強度や信頼性をいろいろ測定して、そういったものを何回も何回もフィードバックを掛けて、グルグル回している、そんな状態です。だから、確かにそういう中の状況というもののをもう少しクリアに、いろんな情報が取れるのであれば、もっと変わるとは思います。

【内田委員】  基本的にはアウトプットのパラメータを測って、それでフィードバックを掛けていって、そのプロセス中のところでもう少し測れればやはり改善の余地もあるかもしれないと。

【井上委員】  そういうことですね。

【内田委員】  はい。ありがとうございます。

【中山主査】  ありがとうございます。内藤委員。

【内藤委員】  財満先生に一つお伺いしたいのですけれども、ロードマップのところで、要素技術のクラスターの最後のところに食糧技術というのがありますが、これはすごく斬新なのですけど、今まで応用物理学会の、例えば投稿論文などを見ても、食糧技術というのが全くないところにどういう経緯で、こういう食糧技術というものが挙げられて、そこにどういう研究者の方々が参画されているのかというのをお伺いしたいんですけれども。

【財満鎭明先生】  白状しますと、私自身はロードマップに関係していませんでしたので、多分、内田先生の方がよく御存じじゃないかと思います。実はロードマップを見て、食糧技術は非常におもしろいと私も思いました。中身はもう少し検討が必要かとは感じましたが。

【内藤委員】  ちょっと拝見すると、もう非常に幅広い技術を……。

【財満鎭明先生】  はい。例えば、現在はセンサとか、さまざまなデータ、ビッグデータだとかが話題になっていますので、そのようなものを取り込んでいけば、食糧技術は非常におもしろいと思いますし、逆に言うと、そういうところに役に立つ材料、画期的な材料というのが本当に必要になってくるという気もします。ですが、申し訳ありませんが、これ以上はお答えができません。

【内藤委員】  ありがとうございます。

【中山主査】  早川委員、どうぞ。

【早川委員】  日立の早川といいます。財満先生に御質問になりますけど、横断型クラスターを作ろうと思ったモチベーションというか、それがどういうモチベーションで企画されたかということと、作成する際の、いわゆる分野の選定の仕方はどのようにしたのでしょうか。やはり上位システムの方々とのコミュニケーションの中で生まれてきたのか、そうでなかったかというところを知りたいことがひとつ。、この後ロードマップの改訂はないということでおっしゃったのですが、今後また策定するとしたら、どういった分野を取り入れられるかなというのをお聞きしたいです。

【財満鎭明先生】  なかなか難しい御質問ですが、まず一つは、やはりロードマップを作るということになると、日頃の自分たちの専門分野からどうしても出発してしまうことになります。そうすると、いわゆるForecast的なそういう形になってしまう。だけれども、当時の考え方もそうだったと思いますけれども、どういうアプリケーションで、どういうシステムでとか、そちらの方からやっぱり発想しなければいけないというような考え方もあったと思います。そのときは当然のことながら、一つの材料分野、一つの技術分野にとどまるものではなくて、いろんな分野の方々が集まって議論して、それでどういう方向性が必要かをディスカッションするべきだということで、分野横断型のロードマップができたというふうに聞いております。ですから、非常に幅広い分野の方と、それから、企業の方にももちろん入っていただいて、グループが組まれたというふうに記憶しております。

 今後については、まだ特に計画はございませんが、もし今後作とすると、やはりビジョンから出発したロードマップというのが非常に重要になると考えています。どういうビジョンを置いて、複合的な分野と言いますか、ここで言えば分野横断的な領域をどういうふうに設定するかというのがキーポイントになるだろうなと思っております。

【早川委員】  ありがとうございます。逸見様のプレゼンの方に行ってしまうかもしれないのですが、企業界からの期待と記載がありまして、このテーマ探索の最初にスタートさせる、そこの切り口というのは、今、企業でされていますのはほぼ顧客ニーズかなと。例えば営業さんがどこどこのお客さんのところに行って、こういうものが欲しいと。ただ、それが今、お客さんにどういう課題があるのか、そういうことが分からない時代に入り込んでいるのかなというのが個人的に考えるところでして、このテーマ探索のところを決めるところが、例えば産学官で一緒になって、どういったテーマか、テーマを設定するところの研究ですかね。よりデザイン志向ですけれど、それが非常に重要な世界かなと思っていまして、技術も圧倒的に大事なのですが、そういうところを先ほどの財満先生の応用物理学会のクラスター、テーマ設定の仕方と密接に絡めながら、絶対こういうものは作らなきゃいけない世界が来ますよねと、そこをやるのが非常に重要かなと感じました。

 以上です。

【逸見直也先生】  素材研究の開始から市場投入のプロセスの図に示したのですが、素材・ナノテクノロジーの領域は市場に浸透するまでの時間が長いのが特徴です。現在のマーケットニーズから素材を作り始めていては、浸透する頃には状況が変わってしまうことが多いと思います。

 ですから、新製品開発する際に予め技術があって、組み合わせて作っていく性質のものと、素材開発とは大きく異なると思います。例えばさっきの炭素繊維は30年とか50年とか掛かっているわけで、将来こうなるだろう想定してやっていくしかない。何かを置き換えるものなのか、全く新しい機能があるものか、を考えながら、進めて行くしかない。きっと使われているんだろうと信じて進めるやり方でないと実現は難しいと思います。ですから材料・ナノテク領域では市場ニーズとのマッチングを考えると難しいと思います。

【早川委員】  それは非常に同意します。ですから、多分インフォマティクスのところで、その開発期間を短くするというのは方向性として合っているのかなと思いました。

【逸見直也先生】  新素材はできても、市場に投入されて浸透するまでの間に評価項目が沢山あるので、かなり時間が掛かる。ここを解決したいというのが今回の提言の主旨で、この領域でリードこともできるとお話ししたわけです。

【早川委員】  ありがとうございました。

【中山主査】  一杉委員、どうぞ。

【一杉委員】  菊地先生に質問させてください。このスペース・クロノマテリアルのコアなアイデアをもう一回教えていただきたいと思います。施策にするために、正確に理解したいと思います。お聞きしていると、今まではすごくカチッとした、空間的にも時間的にもゆらぎがない、最安定な構造を作っていたのだけれども、これから、非平衡とか準安定とか、時間的に変化する要素も重視し、更に統計的な要素も入れなければいけないという、そのような理解で良いでしょうか。

【菊地和也先生】  そこのゆらぎについては、きっちり制御するというところと、しなやかさというところはまさにゆらぎなので、時間的に性状が変わっていくものも必要ですし、壊れなくてきちっと固まったものも必要ですし、そこについてもいろいろなファクターが、ゆらぎというよりも時間的なファクターにつきまして、変わらないものと、変わるものと、両方が必要だろうというところの提言のつもりで言っております。

【一杉委員】  はい。そこは分かりました。そうすると、時間的に変わるというのは、僕らが使う化学の言葉で言うと、準安定、非平衡状態で活性化エネルギーが重要だと、そのような理解で良いでしょうか。それらをきっちりと制御しましょうと。

【菊地和也先生】  実際に突き詰めればそうですけども、階層化、ナノの、例えば分子ロボット云々というところでは、階層化というよりは何か機能を一つ組み込んで、それが2つ、3つ併せると、分子ロボット的になるというところが今の研究だと思います。これがもう少し先には、それに階層化というところも含まれていって、分子スイッチのようなところと集合体というところが組み合わさったものができてくるだろうというところを想定しているつもりです。

【一杉委員】  分かりました。階層化というアディショナルな要素があるということですね。

【菊地和也先生】  そうですね。

【一杉委員】  はい。分かりました。アイデアはよく理解できました。ありがとうございます。

【中山主査】  そのほかありますでしょうか。どうぞ。

【渡慶次委員】  杉沢さんにお伺いしたいのですけれども、今日のお話、いろいろお聞かせいただいて、皆さんの中でも分析評価技術というのは非常に重要、ナノテク・材料開発でとても重要だということですけれども。

【杉沢寿志先生】  はい。ありがとうございます。

【渡慶次委員】  杉沢さんのお話にもありましたしが、5ページに分析機器の世界市場規模というグラフがあって、これを見ると、ライフサイエンス分野を除くと、基本的にはもう既にあるというか、余り新しくない装置がシェアをたくさん持っているようですね。もちろん今日のお話にもあったように、こういうことをやったらいいという御提案のところでも、大体既存技術の高性能化に近いことがたくさん書かれていると思うのですが。

【杉沢寿志先生】  おっしゃるとおりです。

【渡慶次委員】  革新的に何かを変えようと思うと、全然違う分析技術の開発というのも非常に重要だと思うのですが、その辺は分析工業会ではどういうふうにお考えなのでしょうか。

【杉沢寿志先生】  そうですね。全く新しい、原理から根本的に違うような計測、分析手法というのは、我々の工業会、あるいは会社から生まれるかという疑問はあります。今までの分析機器メーカーの歴史を振り返りますと、最初の製品の技術はやっぱりアカデミアから出ております

アカデミアで生まれた、非常に革新的なオリジナルなものを我々が取り込んで、それをブラッシュアップして、市場に投入していくというのが今までの歴史です。既存の製品とは異なる新たな技術に基づく分析機器のシーズ技術研究は、アカデミアへの期待が大きいです。それを我々が製品化すると。あるいはそれをブラッシュアップするというのは当然工業会でやるべき仕事だと思っています。新たな分析機器のシーズ技術が生まれなければだんだん新製品のネタが尽きていきますので、私どもは、その点でアカデミアに大きな期待を抱いております。それに真剣に取り組んでいただける先生方と、それに対するファンディングがしっかりしているというのが絶対必要ですので、そこは是非お願いしたいと思っております。

【渡慶次委員】  もちろんそのとおりだと思っておりますが、恐らく、今日話された業界団体の方によりますと、もちろん産業界とアカデミア、今のロードマップ作成とか、将来にわたってどういう技術で、どういうものをターゲットにして、どういうものを分析評価するかということは、なかなか余りアカデミアの方におりてこないと。

【杉沢寿志先生】  そうですね。

【渡慶次委員】  むしろそういう情報を頂けると、そういうことの開発にドライビング・フォースが働くのかなという気がしているのですが、そういう活動みたいなことはなさっていないのですか。

【杉沢寿志先生】  今は、どちらかというと、大学、アカデミアで生まれたシーズ技術を我々がウォッチしていて、それを取り込む。あるいはそういったところで研究されている先生方を、あるいは学生さんですかね。それを社員として採用して、彼らが持ち込んだ技術を製品化していくという流れが多かったと思っております。

 それは今後も続けることかと思うのですが、そのような待ちの姿勢ではなく、新たな分析機器のシーズ技術を探索したり、その開発を行う人材の育成を行う場を作ることも必要だろうと考えております。その場合、分析機器の出口分野研究者と一緒に課題解決する場が重要であると考えています。例えば、材料研究者の方々や、計測技術の方々が一緒になって課題解決に取り組む場が必要であると考えております。その中で人材育成が行われ、新たな分析機器のシーズ技術が生まれると期待しております。

【渡慶次委員】  ありがとうございました。

【中山主査】  どうぞ、髙尾委員。

【髙尾委員】  少し戻りますが、逸見さんの御発表の研究マネジメントのところで、「研究マネジメントを主旨とした、産業界から官学へのクロスアポイントメント制度の活用も有効」というところは、大学の研究会の先生方が企業の研究者の研究マネジメントの方に兼務されるという意味なのでしょうか。それとも、企業の研究者が、研究マネジャーが大学の研究に来て、その大学の先生方を含め、いろんな企業の研究というのを広く理解していただくという意味なのでしょうか。どちらの意味なのかをお伺いしたいと思います。

【逸見直也先生】  基本は後者の方だと思っていますけど、やっぱり産業界ではプロジェクトマネジメントの経験をしている人が多いので、彼らの仕事の進め方を学ぶことは重要だと思います。前回の作業部会でお話しされた関西学院大学の先生は産業界出身だったと思いますが、このような思想で物事を進めて行く必要があると思います。マネジメントの仕組みは、経験者を活用する方が早道で、その手法を見習っていろいろと発展していくのが良いと感じます。

【髙尾委員】  分かりました。大学の先生が、サバティカルなどを利用して企業の研究所に入るとか、あるいは長期間にわたって兼務されるというのもあるのかと思いまして…。

【逸見直也先生】  企業の中でも、専門職とマネジメント管理職というのは分かれています。畑が違うので、マネジメントに興味のある方は企業内での経験を通じてスキルアップして戴けば良いと思います。果たす役割が異なるので、どのように、またどんな人材を育成するかは日本の課題だと思います。

 人材育成についてはどんな仕組みを作るかを含めて別な話だと思います。

【髙尾委員】  分かりました。ありがとうございます。

【中山主査】  どうぞ、生越委員。

【生越委員】  大阪大学の生越です。本日5つのお話を聞かせていただいて思ったのですけれども、先生方のお話はほとんど2030年に向けて、今までどおりに理系の学生さんが十分に社会を支えるだけ供給されているという上でのお話になっていると思います。だから、これは、今日お話ししていただいた方に言うべきではなくて、文科省の方々に言うべきことだとは思うのですけれども、もうとにかく、理系の方に、子供たちがとにかく楽しいかもしれないと思うだけでも、とにかくそっちに顔を向けるようなパーセンテージで人が少なくなっていけばなっていくほど、確実に若いときにそちらを向くような施策とか、多分されているとは思うのでしょうけれども、テレビを見ても、何を見ても、それこそマナーを守りましょうみたいなのがありますけれども、理系がかっこいいというコマーシャルが1日に100発ぐらい打たれていたら、多分単純な理系の心を持っている子たちはあっと言う間に心を変えてくれると思います。

 なので、是非これはここで議論しても詮ないことなので議論はしませんけれども、とにかく理系の学生が増えるために小学校のときに心変わりさせるか、あるいはせめて中学校、とにかく上になればなっていくほど、もう高校生になって、理系になって、理系から文転というのがあっても、文系から理転というのはほとんど聞かないですよね。ということは、転んでいく分も考慮に入れた上で、とにかく理系の子たちが増える施策というか、それで数をキープした上で、今、考えていることが有意義に働くというスキームになっていると思うので、是非その部分、何とかしていただけたらと思います。

 コメントでした。

【中山主査】  ありがとうございます。

 そのほか。どうぞ順番にご発言いただきます。

【館林委員】  だんだんこの分野が重要だということが少しずつ、遅まきながら分かり始めてきている状態になっています。一つだけ菊地先生にお伺いしたいのです。「医療分野におけるナノ材料研究開発コンセプト」というところで、臨床治験など実用化開発への取組が、生体応用を実施した事例が少ないと書いてありますが、それはどういう理由で少ないのでしょうか。

【菊地和也先生】  根本的にまず難しいというのが最初にあるのと、例えば臨床試験などをやったものでも、診断の、ナノに関係ない分野ですと、PET診断というのが世の中にありますが、今、認可されているのは、グルコースの類縁体だけです。これは設備に物すごくお金が掛かるということが理由なのですけれども、注射すると、ほとんどのものが頭へ行って、頭が黒になって、がんのところが薄くスミア上に見えるというところが診断の材料になっています。これは非常にお金が掛かる。これでもう少し高度なものというのはありますが、それは多分薬価の関係からいっても、認可されることは100%ないと思います。

 臨床応用されるものを今後提言するとすれば、やはり低価格でというものができてきて、医療費を圧迫しないものがある。いいものが出てくることがあれば、実用化されるものはあると思いますし、臨床については、先ほど簡単に言った免疫光線療法なども、アメリカでは使えるものはさっさと動かそうというところがあるのですけれども、そのシステムを速やかにヒトに使えるかというと、やはりそこのギャップというのは非常に大きいですね。それはアメリカなど、前例がないと、最初の治験を行うというのは非常に難しい。

 そこのところは、今、iPS細胞など、日本が主導でやろうという国プロになっているので、治験というところまでは速やかに行っている例はありますが、それが全てのものでできているかというと、そういうわけではないというのはあると思います。

【館林委員】  そういう化学とかナノ分野でできた研究成果は、製薬会社が吸い取っていくのでしょうか。それとも医療機器会社のようなところが吸い取っていくのでしょうか。

【菊地和也先生】  製薬会社が吸い取っていくというのは、今のところは非常に難しいと思いますね。製薬会社はやっぱり薬に特化しているところが今、主体になっていますし、そこに比べて新規分野というのは、化学メーカーなり、何かほかの新規に入ってきたところがそこを吸い取っていく場合の方が多いのではないかというふうに考えます。

【館林委員】  先生方が医療分野でこういうニーズがあるということをすごく理解されて、このコストだったらこんないいものができるとか、例えば骨が強くなれば、100歳時代には有用だと思いますし、光免疫療法だって、ほかの病気でどんどん効くと先生がおっしゃられるのだったら、それはやった方がいい感じがします。ガンは今、小林先生がやってらっしゃいますけど、何かほかの難病でも確かにそうだなと思いました。そういう技術を開発から承認まで、レギュレーションの方まで行くように、医療現場の方のニーズや実臨床のことが分かったら、もっといいものがたくさん出てくるのかと感じ、その辺が整備されるといいのではないかと思いました。

【菊地和也先生】  整備というか、ギャップが下がることが必要だと思いますね。小林さんの場合、うまく行っている例というのは、彼自身がずっと抗体を若いときから注射して、RIのラベルをして注射して、どこにデリバリーがされるかというのはよく分かった上で、しかも、それを臨床しやすいアメリカにいたというところも大きいと思います。そうなると、1人でみんなやったような感じなので、実はそこが1人じゃなくて、集団でできるようなところがあれば、そこの情報共有というところも、それは医療の方からケミスト、そして、高分子材料、そこをまたぐようなところは今のところやった例がない。先ほどコロンブスの卵と言いましたけど、1人でやって、あそこまで行ったら物すごくすばらしいですが、コロンブスの卵で1人でやられたら、ああいうふうな例があるというのはみんなインパクトを持って取られたと思うので、というところからいろんな人が入ってくると情報ができるというところがこれからの第一歩なんじゃないかとは思います。

【館林委員】  そうですね。そういう仕組みができるといいなと思いながらお伺いしていました。ありがとうございました。

【中山主査】  時間も限られていますので、最後の質問で。はい。

【田中委員】  財満先生にお伺いしたいのですが、技術ギャップ的アプローチのところで、考え方、とてもよく分かりました。このBackcastというのは2030年ぐらいから考える。それから、Forecastが現在で考えるとすると、大体10年スパンぐらいで行っている間の5年スパンで考えるということも含んでいるという意味ですか。10年で考えていたのを、間ぐらいで常に考えていくということで、その考えを見直していくのタームを短くするというようなことも含んでの技術ギャップ的アプローチとおっしゃっているのでしょうか。

【財満鎭明先生】  そうですね。そうあるべきだというふうに思っています。要は、どうやってそのビジョンを実現するかということが大事なので、そういうタームとして5年タームで考える、あるいは技術ギャップに対してどのようにロードマップを描くかということが実は大事になってくると思っています。

【田中委員】  分かりました。ありがとうございました。

【中山主査】  ありがとうございました。

 議論も尽きないのですが、議論になかったことでの印象です。財満先生や菊地先生が言われた、例えば元素戦略や空間材料の話、あるいは分子技術の話など、これまで文部科学省の施策できちんとやってきたことで、評判や評価がよかったものだと思います。そのようなものをレビューして、さらにブラッシュアップして、終わらせずに二の矢を放つことが大事だと強く感じました。さらに多くの議論もあると思いますが、またディスカッションの機会を作れればと思っております。

 では、次の話題に行かせていただきます。本日お越しいただきました先生方にも是非とも議論にお加わりいただければと思います。机上配付資料の議論です。私の概略のご説明後に議論をさせていただければと思います。

 まず1ページ目です。当分野を取り巻く状況といたしまして、こんなにいい素材、材料が出てきたという事例です。半導体や通信デバイス、セラミックス、あるいはプラスチック、触媒、ガリウムナイトライド等の発光材料、そして、希少元素を用いない様々な材料や、超伝導技術の進展など、我が国発で出てきましたということが書いてあります。

 その次、研究開発環境の変化で、きょうの議論にもあったような内容が多く書いてあります。ナノテク・材料の発展は、一分野にとどまらず、科学技術全体の横串的な起爆剤の役割を果たす。でも、研究開発の担い手不足の話もあります。これは生越先生から頂いたようなお話が続きまして、更に人材が減っていくようときにどうしていこうかと。そういうときにデータ駆動型の材料開発や、研究のスピードアップ等が大事だということ。そして、先ほどお話がありましたが、今ある材料の次の展開だけではなく、新しい社会ニーズを喚起するような新材料の開発などをきちっとやっていくということ。これは先ほど逸見様からご説明があったような内容でございまして、更に加筆していければと思っています。

 (3)は、政策上の位置付けです。この辺、もう少し加筆する必要があるかもしれません。

 (4)は、我が国のこの分野の強みです。多くの研究者や企業の取り組み、そして施策の取り組みが相まって、画期的な材料やデバイスが創出されてきたこと。ナノテクプラットフォームや、スパコンとかSpring-8等の大型施設などが確固とした基盤を形成し、この分野が世界と闘っていること。そして、技術と経験、ノウハウ、勘というのはやはりきちんとケアしていかなければいけないこと。良質のデータがあること等が書かれております。

 そして、(5)が諸外国の動向です。諸外国はこの分野を産業競争力や雇用に直結する重要な案件として強く認識し、他国の動きも横目で見ながら次々に手を打っています。もちろん投資を伸ばしているのが現状です。欧州のHorizon 2020の中では、電気自動車等へ向けた新しい材料、徐々に枯渇していくような元素に関する取り組みを加速しています。また、Materials Genome Initiativeのようなデータ駆動型研究開発も非常に進展しています。そういう中で我が国として如何なる戦略が求められるかということです。

 更にSociety5.0の話とかSDGsの話、あるいはIoT/AI/ビッグデータ、そういうことに対応してこの分野をどうしていこうかということを(6)以下で考えております。

 その(6)の下の「以上のように」で、今お話ししたような内容を一度総括しております。

 ナノテク・材料分野の推進に当たっての目標とスタンスということで、マテリアルによる社会革命、マテリアル革命のようなものを是非とも実現していきたい。そのためには魅力的な機能をしっかり創出していかなければいけない。ということが書かれております。

 魅力的な機能を有する材料の例を5ページの真ん中辺に書かせていただいております。

 ではどのような施策を打っていったらいいか、あるいはどういう領域を強調していったらいいかということを、ここはまだ事例の段階ですが、幾つか書いております。まず新しく考えるべきなのは、こういうことではないかなという、今の段階での事例です。まずは、サイバーとフィジカルの高度な融合を実現するようなマテリアル。なかなかこれは難しいところですが考えていかなければいけないと。また、相反する物性等をしっかり融合して実現する超複合材料とか、超複合機能とか、そういうことをしっかり考えていくこと。

 あと、先ほど一杉先生等も言われましたが、非平衡状態、準安定構造等を活用して、更に材料の可能性を広げていくことのような話です。

 次が新機能・飛躍的な機能を秘める生物のメカニズムをどうやって活用していくかという話。これも今日のお話にありました。

 あとはラボ改革として、研究室の生産性をいかに高めていくか。そして、新材料をどのようにスピードアップして開発していくか。さらに、マテリアルズインフォマティクス等をどのようにそこに織り込んでいくかというようなお話が書いてあります。

 (2)ですが、さらに、引き続き取組を進めるべき研究領域。これはこれまで施策を推進してきたものではありますが、非常に重要であって、継続的に進めていかなければいけないというもの。施策というのは、1回行ってしまうと、同じ施策は立てられず、次に新しいものを考えなければいけないという呪縛みたいなものがあるのですが、そうではなくて、大事なことはしっかり腰を据えて継続的にやっていくべきということが書かれております。

 最初のところが循環という概念も入れた機能開拓に資する次世代元素戦略。次がセンサとかアクチュエータ等も含むIoT/AI時代の革新的なデバイスをしっかりやっていくこと。

 次がバイオ材料工学ですね。本日も出ましたが、どういう感じで取り組むべきかというのはこれからですが、生体組織や体液と接して利用されるような材料です。相互作用メカニズムに立脚して材料を設計するようなところをしっかりやらなければいけない。

 それと次がエネルギー変換や貯蔵を革新するマテリアル。エネルギー向けの材料、あるいは貯蔵する材料というのは電池も含みますが、非常に大事であるということ。

 あとは、微細加工や積層・プロセス技術。この辺も我が国として強いところでもありますし、しっかりと施策として打っていくべきと考えます。最後の方に計測の話があります。今日の杉沢様のお話や資料も活用し、内容を富ませていく方向に進めて参ります。

 また、データ駆動型の研究開発の更なる推進。ここ何年かにわたりデータ駆動型研究開発の施策が行われておりますが、更にそれらをどうしていこうかということ。二の矢を放つようなことを考えていくべき時期に来ているのではないかという内容です。

 以上に対しての御意見等いただければと思います。よろしくお願いします。どうぞ。

【館林委員】  私は平成時代にあった科学技術の変化と社会の変化という原稿を書いて、初めて分かったのですけど、この社会の変化の基盤に、素材の開発が進んだ影響が大きいとわかり、この分野が大切だなということが改めて分かりました。今後の(3)の政策上の位置付けのところなのですが、もうちょっと重要性を打ち出してもいいのではないかなと思いました。

【中山主査】  重要な視点と思います。ありがとうございました。続いて、上杉先生。

【上杉委員】  新たに取り組むべき研究領域及び基盤技術が大切だと私、思うのですが。ここに、菊地先生おっしゃったような時空間マテリアル、スペース・クロノマテリアルみたいな考え方を例として挙げることができたらなと思います。それで、一杉先生からも御指摘ありましたけれども、そのスペース・クロノマテリアルを実現化する方法の一つが非平衡状態、準安定構造の活用なので、そこにもあります。この辺をもう少し考えて、スペース・クロノマテリアルのコンセプトも入れることができたらなと思うので、今後考えていけたらと思います。

【中山主査】  ありがとうございました。

【一杉委員】  そこのところは先ほど質問したのでクリアになりました。階層のアイデアも入っているとのことで、それも入れて包括的に記載できるのではないかと思いました。

【中山主査】  逸見様、よろしくお願いします。

【逸見直也先生】  ありがとうございます。今回の話、領域拡大型基礎研究領域にフォーカスされていて、評価技術の領域の基礎となる今日お話しした深堀基礎研究にもフォーカスして戴きたい。具体的に述べることは現段階では難しいのですが、今後はこの領域が重要になると思います。是非この評価技術、深堀基礎研究領域の強化を記述して戴きたいと思います。具体化は現段階ではありませんが、2030年に向けて強化していく領域であると思います。

【中山主査】  ありがとうございました。林委員、よろしくお願いします。

【林委員】  この資料を拝見させていただいて、とてもよくまとまっている資料だなと思いました。一方で、この資料にということではないのですけれども、今後の議論として、私たちもそうなのですが、AIとの融合とか活用するというのを結構安易に使っているところがあって、このナノテク・材料の世界でどういう場面でどう使っていくのかということをもう少し今後具体的に議論を深め、文字に落とせたらいいのではないかなと思いました。

【中山主査】  ありがとうございました。同じように感じます。

 そのほかありますでしょうか。どうぞ、逸見さん。

【逸見直也先生】  今日は話しませんでしたが、議論の中で出てきた人材の問題は重要です。日本としてどのような人材をどの領域で育成するかは特に重要です。人材育成は、長い期間かかるので、段々と研究マネジメントをする人材を増やすことを考えるべきと感じました。実際テーマを設定するのは、マネジメントする人だと思うのでこのような人材を育成する仕組みを考えてみる必要があると思いました。

【中山主査】  ありがとうございました。内藤委員、一杉委員の順で。

【内藤委員】  先ほど少し生越先生のところの議論にもありましたが、ラボ改革というのがここに書いてありますね。ここの文言を例えば子供が見たときに、研究室に入りたいと思いますかね。何か随分、研究室がロボットでできていて、自分がやることはあんまりなくて、ただデータを取るだけみたいなというような印象を受けてしまう。会社の研究所はそれでいいと思うのですけれども、あと、国研の研究所がこういうのをどんどんやるのはいいのですけれども、もっと基礎的なことをやるべき大学というのは、こういう改革が要るのかなというのはちょっと疑問に思ったので、御検討いただければと思います。

【中山主査】  分かりました。ありがとうございました。はい、どうぞ。

【一杉委員】  今の点で短く。これは「研究者がCreativityを発揮すること」が目的で、そこが一番重要だと思います。それこそが狙うべきなので。

【内藤委員】  そこが書いてないので。

【一杉委員】  「研究者は付加価値がより高い仕事に注力し、Creativityを発揮することが、研究開発の高速化・深化に不可欠である」と書いてあります。もっと上手な文章で書かなければならないのですが、やっぱりそこがコアじゃないかなと思います。

 それから、もう一つは、コンピューターやロボットを使うと、人間だけではできないことができるので、人間の能力を拡張するようなことはやっていかなければならないと思っているところです。

【内藤委員】  済みません。化学分野なのですが、研究室がラボがロボットになるというイメージがなかなかしにくくて、例えばデバイスとかそういうところの研究室ではいいと思いますが、これ、全体には広がらないような気がします。

【一杉委員】  たとえば、コンビナトリアルケミストリーとして化学分野ではもう取り組んでいます。

【内藤委員】  ありますけども、それ以外のところもあるので。

【井上委員】  バイオ系でもそういうのはちゃんとやろうとしていますね。機械を導入して、自動的にどんどんやっていく。何をやるべきかを人間がちゃんと考えてというのはやろうとしています。多分小学生がそれを考えたら面白そうと思うんじゃないですかね。

【内藤委員】  あともう一つは、全部の全部の研究室がこういうことをできるのかなというのもあります。格差が出てしまうというのもあるのかなと、ちょっと懸念しました。

【一杉委員】  全部の研究室を底上げする戦略を作るのか、それともピークを引き上げて、そこが革新を起こす戦略を作るのか、という方針は必要ですね。全体を底上げするという考え方は、ちょっともう難しいのではないかと思います。要するに、それには膨大なお金が掛かるし、全体の意識を変えるのは難しいから、やっぱり議論としては、トップレベルの人をより引き上げるような議論に持っていかないとうまくいかないのではないかなと思います。だから、全員が取り組むというわけではないと思います。

【内藤委員】  分かりました。

【中山主査】  ありがとうございました。どうぞ、逸見さん。

【逸見直也先生】  2030年を目指しての検討は、途中で見直しが必要だと思います。その際に各国の状況、日本の状況等の情報を集めなければなりません。今は、いろいろなところで情報を集めているように思うので、情報統合を考えて戴ければと思います。

また、日本としてリソースがない中で、どこに注力するべきかの議論は重要です。他国が進めているところを後追いで進めてもなかなか勝てないと思います。

このようなことを検討する仕組みを作ることを入れておいたらどうかと思います。

【中山主査】  ありがとうございます。その他ありますか。生越先生。

【生越委員】  さっきの一杉先生の話ですけれども、結局、トップを引き上げていって、底上げするにしても、結局、今のトップはそこそこの母数からちゃんと来ているけれども、その先のトップが細っていっては、これは何の意味もなくて、10人のトップより1,000人のトップがいいに決まっているじゃないですか。だから、全体的なお話として、個々の話としてやっぱり。個々というか、ラボ改革のところ。それはそれで僕も全くいいと思いますし、トップが上がっていくというのはすごく大事だと思うのですけど、結局また同じ話に戻るのですが、小中学生をどれだけこっち側にちゃんと向いてもらった上で、先ほどもお話していただきましたけれども、やっぱりそこに対して、どう見せていくかという全体のバランスですかね。ただし、これを小中学生が読むとは絶対に思わないので、ここはどんなに難しいことが書いてあってもよくて、アウトプットを広報していただくときに、そこをソフトで飲みやすくて、消化のいい言葉で外に発信していただければいいかなという。またコメントになっちゃいましたけれども、済みません。

【一杉委員】  済みません。その意見に対していっぱい述べたいことがありますが、その論点はナノテク・材料に関わらない、全部の理系の範囲ですから、この場であまり長く議論してはいけないと思っています。しかし一言述べると、やっぱりこれは、研究者がいい成果を出して、それで世の中を変えているというのを見せ続けるのが一番良くて、だから、僕らがしっかりしましょうということだろうと思います。あとは、最近のニュースでは、小学生の人気のナンバーワンは研究者だったのです。

【生越委員】  そうです。でも、今、三十五、六の人が20歳になったときになりたかった職業というアンケートでも、大学教授というのは1番だったのですけれども。

【一杉委員】  そうそう、知っています。

【生越委員】  それでも、その先代がみんな優れているかといったら、全くそんなことないですよね。だから、そこの数字とか、何となく盛り上がるために出てくるものはどうでもよくて、実際に何をして、どれだけ増えたかということを実際に感じるまでには、僕は多分リタイアしてしまう気もしますが、でも、やり続けないといけないんですけど、まだやり始めている芽があることすら僕は知らなくて、ちょっとどこかで教えてもらったら、ああ、Society5.0というのはこんなところでホームページにはありますけど、同じことがテレビで流れたりしたらもっといいだろうとも思いますし。

【一杉委員】  それはそう思います。福山雅治が『ガリレオ』をやったら、理系の人気が上がるなど、そういう宣伝もすごく重要だなと思うのですけど。

【生越委員】  そうですよね。はい。

【一杉委員】  この話は長くなるから後にしましょう。

【中山主査】  そのほかありますでしょうか。

【一杉委員】  それで僕の順番でいいでしょうか? 先ほど質問順序を決めていただきましたので。

【中山主査】  はい。ではどうぞ。

【一杉委員】  この部会でマネジメントの重要性というのが指摘されています。今日の話は研究所長レベルのマネジメントだったのですが、もう少し下のレベルのマネジメントスキルを研究者はもっと持った方がいいなと思っているところです。要するに、一つの研究室をマネジメントするスキルだって、本当はきっちり体系化して理解した方がいいし、幾つかの研究室をまとめて実施するプロジェクトについもて、本当はしっかりとマネジメントスキルを体系的に学んだ方がいいし、そういうスキルが上がると、もっと成果が出るのではないかと思っているところです。マネジメントというのは非常に重要だと思っており、研究者が身に付ける機会を作れないかと考えています。それだけです。

【中山主査】  ありがとうございました。そろそろ時間です。御議論が足りないところはメール等でお寄せいただければ対応いたします。本日お越しの先生方からも御意見等を更に頂ければ、それも反映できると思います。

 では、最後に事務局より連絡事項等、よろしくお願いいたします。

【丹羽専門職】  本日はどうもありがとうございました。次回の作業部会につきましては、3月16日3時から6時で予定をしておりますので、よろしくお願いいたします。また、本日の議事録は事務局で案を作りまして、皆様に照会し、ホームページに掲載したいと思っております。資料についても、きょうお配りいただいたものをホームページで公開をさせていただきたいと思っております。

 以上です。

【中山主査】  ありがとうございました。

 あと、本日は、内閣府から千嶋様、経済産業省から小宮様にもお越しいただきました。本日も大変ありがとうございました。もしよろしければお言葉等頂ければと存じます。

【千嶋調査官】  ありがとうございます。内閣府の千嶋です。ナノテクや材料、生産技術等を担当しております。御案内かと思いますが、今、内閣府では次期SIPについて、各省の皆様にもご協力頂きながら、いろいろテーマ案を必死に作っているところです。本日いろいろな御意見を頂きまして、次期SIPの課題として我々がやろうとしているところと大きくずれていないということと、ここにどれだけ貢献できるのかという思いで、更にテーマをブラッシュアップしていく所存です。皆様方や、他の多くの先生方にも、恐らく御協力頂くことになると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【小宮課長補佐】  経済産業省素材産業課の小宮です。本日は、皆様お忙しい中、お集まりいただきまして、ありがとうございました。経済産業省では、素材産業を所管する立場から、いろいろ施策を進めているところでございまして、例えば計算科学を応用しまして、素材産業の研究開発のスピードを上げる事業ですとか、あるいは、特に科学産業ですね。人材育成、特に情報科学関係の人材を育成するような事業も進めようとしているところであります。引き続きよろしくお願い申し上げます。

【中山主査】  ありがとうございました。

 それでは、本日、これにて閉会させていただきます。本日、プレゼンしていただきました先生方、どうもありがとうございました。今後もお付き合いさせていただければと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

 それでは、本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

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