科学技術社会連携委員会(第9回)議事録

1.日時

令和元年7月25日(木曜日)15時30分~17時30分

2.場所

文部科学省 東館15F 科学技術・学術政策局1会議室

3.議題

  1. 主査代理指名及び議事運営について(非公開)
  2. 第6期科学技術基本計画に向けた検討について
  3. その他

4.出席者

委員

小林 傳司 主査、小野 由理 委員、小原 愛 委員、片田 敏孝 委員、小出 重幸 委員、田中 恭一 委員、堀口 逸子 委員

文部科学省

菱山 科学技術・学術政策局長、奥野 人材政策課課長、小田 人材政策課課長補佐

オブザーバー

説明者:
科学技術振興機構社会技術研究開発センター 津田企画運営室長
岩見沢市企画財政部 黄瀬 情報政策推進担当次長
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 伊藤 特任講師

5.議事録

◯開会の後、議題1。人事案件のため非公開。

【小林主査】 それでは、これから会議を公開として、一般傍聴者の入場を許可したいと思います。

(傍聴者入室)

【小林主査】 それでは、委員会の発足に当たり、科学技術・学術政策局長から一言御挨拶を頂きたいと思います。菱山局長、よろしくお願いいたします。
【菱山局長】 科学技術・学術政策局長の菱山でございます。本日は、お忙しいところ、どうもありがとうございます。
今日第1回目ということでございまして、正に次の科学技術基本計画に向かってどういうことを訴えていくべきかということを是非御議論いただきたいと思っております。特に研究、ほかの委員会でもいろんな研究をどうするべきかということを御議論いただいていますけれども、研究が社会と関係しているというのは当然のことですが、その中でここは特に社会連携委員会ということで、様々な分野の先生方に委員になっていただいています。いろんな角度から御議論いただきたいと思っておりますけれども、特に社会の関係ということでは、当然ながら、いろんな研究をやると社会との関係で出てきます。その中で、実はこの委員会が一番社会との関係というのを考えていただいているんだと思っております。特に今後、人文社会と科学技術、あるいは研究というのはいわゆる科学技術関係の研究ですけれども、人文社会と科学技術、イノベーション、その関係をどうしていくのかというのは非常に大きな課題だと思っています。しかし、従来の記述が、量というよりも、今までも書いてはいるものの少しインパクトが弱かったかなと思っております。今後、どんどん科学技術やイノベーションが進むと社会との関係というのは非常に重要になってきてくると思っています。ELSIの関係も今までも御議論いただいていますけれども、これはどうしても科学技術の発展に比べてELSIの検討というのは後追いになるのは、これは先に全部考えてしまうというのはなかなか難しいと思いますし、どうしても後追いになります。それは後になるのが悪いのではなくて、やっぱりしっかり、新しいイマージングテクノロジーと言われていますが、そういったテクノロジーについてどう考えていくかというのも非常に重要だと思います。加えて、科学コミュニケーションも大事な課題だと思っていますが、科学コミュニケーションをどういうふうに充実させていくのかというのも大変重要で、知れば知るほど理解というか、受容が進むかって、そういったことはないわけでありますし、そういうこともちょっと議論を深めていただいて、今後どうしていくかというのを是非検討していただいて、新しい提言をしていただきたいなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
【小林主査】 ありがとうございました。
続いて、科学技術・学術政策局人材政策課長の奥野課長からも一言御挨拶をお願いいたします。
【奥野課長】 皆様、お忙しい中、御出席いただいてありがとうございます。本件担当課長でございます人材政策課長の奥野でございます。
先ほど菱山の方から話もありましたし、また、本日御議論いただく課題の中心にもなっておりますが、本委員会、文部科学省として次の新しい科学技術基本計画を見据えて、この分野の施策というのをどのように盛り込んでいくのか、これ、期間的にはかなりハイペースな議論ではございますが、重要な御議論かと思います。これにつきましては、私ども文部科学省の当該分野でこれまで積み重ねてきていた積み上げと同時に、この次期科学技術基本計画の取組や内閣府その他でもオンゴーイングで進んでいるところでございます。本委員会での今後の議論につきましても、正に政府全体の科学技術政策がオンゴーイングで進んでいる方向性と適合する、若しくはそういった観点というのも取り込みつつ、これまでのものに加えてこの新たな政策に人文社会との連携の分野でどのように対応していくのか、特に科学技術政策の中で人文社会の分野というのがより重いものとして受け止められていく流れもございます。また、政策全体ではやはりイノベーションという観点も出てきますので、社会受容という観点をより進めて、技術というのを積極的にこの社会の中で受容していくに当たっては、人文社会の中でどういった形がこのイノベーションを進めていく上で関わっていくのか、若しくはこの技術というのを国際展開していく、そういった中でいわゆるELSIと言われている分野に関してはより積極的に技術を展開していくにふさわしい人文社会制度の在り方、例えば法制度でございますとか規制制度の関わり方、また社会実装の考え方、そういった政策的な方向性も踏まえて、これまでの議論、これまでの在り方に必ずしもとらわれることなく、アップデートされていった議論というのは積み重ねてまいりたいと思いますし、私ども事務方からも、今後、最新の科学技術動向ですとか世界の政策動向、そういった分析、我が国の置かれている分野の強み・弱みの分析、また課題の設定、そういった点において委員の皆様の議論というのがより深化して深まってまいりますように取り組んでまいりたいと思います。極めてハイペースな議論になろうかと思いますが、是非積極的な御協力の方、なかなか基本計画は待ってくれませんので、そこに有効なタイミングで打ち出していけるように、是非、委員の皆様の濶達な御議論、御協力、よろしくお願いいたします。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、私の方からも一言、簡単に御挨拶させていただきます。
大体、論点は今、局長、課長から出たとおりでございます。また、菱山局長は、本委員会が扱う問題に関しては、造詣の深い官僚の一人ではないかと思っておりまして、大変安心して喜んでおります。
お手元に今日、参考資料8というのがございます。ちょっと見ていただくと、日本の科学技術基本計画が科学技術と社会についてどういう記述を重ねてきたのかということが一覧になっております。当初、日本の科学技術基本法というのは、基礎科学研究振興の観点からスタートしたという歴史を持っておりますが、途中からいわゆる経済政策のための科学技術政策という観点が強くなり、社会政策、公共政策の中で科学技術政策というのが位置付けられていると。昨今はイノベーションという観点で位置付けられているということで、これは別に日本だけではなくて、ヨーロッパもアメリカも同じような流れを90年代から示してきたと言えます。そういたしますと、基礎研究振興が中心だとせいぜい実験室の中で研究を頑張ってもらって、それを社会の人に楽しく説明するというアウトリーチで終わりという議論だったんですが、実際に社会で科学技術を使いこなそうという話になったり、あるいは社会をフィールドにしたような研究が行われるということになったりしますと、この社会と科学技術の研究のインタラクションのモードが変わってしまいますので、それに応じてどういうことをやらなくちゃいけないかということが、ヨーロッパやアメリカとほぼシンクロした形で、日本でも議論され、特に遅れを持つこともなく書き込まれております。書き込まれてはいるのですが、問題は、なかなか現実に動かないと。部分的にしかこれが実行できなかったという歴史を持っております。
今のSociety5.0のように、いよいよ本格的に科学技術をどうやって実装するかというのが真剣に議論され始めています。そして、そこの中で理工系に閉じることなく、人・社系をどうやって巻き込むことができるかという問題の立て方が産業界などはされているように思います。もちろん人・社系の価値は科学技術の社会実装のためだけにあるわけではありませんが、それもやはり一つの重要な役割という点で、そういう観点からも、本当に社会と科学技術の関係を良好に、そして日本の科学技術政策の中で機能するようにするには、言葉だけではなくて、先ほど菱山局長はインパクトというふうにおっしゃいましたが、本当にこれをやりましょう、それにはこうやればいいですというレベルまで提言できるような、そういう議論ができればと思っております。
今回、メンバーに新たに加わっていただいた方もいらっしゃいまして、そういう点では、我々が今まで見聞きしてきた観点とは違う新鮮な貴重な知見も頂けるのではないかと大変期待しておりますので、小野委員、小原委員については是非これからもよろしく御協力いただきたいと思います。
簡単ではございますが、御挨拶に代えさせていただきます。
それでは、時間がタイトで頑張ってやらなくちゃいけないという議題の方に参りたいと思います。「第6期科学技術基本計画に向けた検討について」でございます。それでは、今日話題を提供してくださる出席者の紹介と併せて、事務局より御説明をお願いいたします。
【小田補佐】 御説明させていただきます。
まず、先ほど来お話のありましたとおりハイペースな議論ということで、少しスケジュール感を御説明させていただきます。次期科学技術基本計画への提案として、省内のプロセスとしては、総合政策特別委員会のほうに提案を出していくという形になります。その提案につきましては、今回、本日の議論、それから8月、9月と委員会で3回議論させていただきまして、9月末に総合政策特別委員会に当委員会の提案を提出させていただくと、そういった流れになってございます。
それで、今回議論していただくに当たりまして資料を幾つか添付させていただいておりまして、少し御紹介させていただきます。
まず、次期科学技術基本計画につきましてCSTIの方から出ている資料、参考資料5を少し簡単に御紹介させていただきます。こちら、平成31年、今年の4月18日に総合科学技術・イノベーション会議で出された資料でございます。
こちら、少し簡単に御説明しますと、裏面めくっていただきますと、2ページ目、上から二つ目のポチ、「国家価値を」で始まるところでございますが、こういったところに、「国、大学、企業等が有するすべての知識資源を可能な限り把握・共有化」といった記述でございますとか、それから、そこからポチを三つほど下に行きまして、「高等教育においては」といったところから始まるところでございますが、ここにも「人文社会科学の知見も合わせて、専門を超えた対話能力も有する人材を育成し」、こういった記述がございます。そういう意味で、人文社会との融合ですとか、対話、協働を進めるスキームに関しましては、次期科学技術基本計画においても基本的な位置付けとして捉えられているものと考えてございます。
それから次に、参考資料6、タイトルが水色になっている資料でございますが、こちらも御案内させていただきます。
こちら、今年の1月に施行されました科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律の改正の概要でございます。こちらも同じくCSTIの方で公表されている資料でございますが、こちらの1ページ目のところの「6.その他」の二つ目の丸でございますけれども、ここに「科学技術・イノベーション創出の活性化に向けて更に検討が必要な事項」というのがございまして、ここの一つ目のポチでございますが、「人文科学も含めた科学技術・イノベーション創出の活性化」、こういったところが新たにこの法律において規定されているという形でございます。
さらに、めくっていただきますと、3、4ページ目に主な改正事項というところがございまして、また同じ話になりますが、右下側の20.でございます。こちら、より具体的に書かれておりますけれども、20.のところで「政府において今後検討すべき事項として、以下を規定」ということで、「人文科学を含む科学技術・イノベーション創出の活性化」、こういったところが新たに規定されたものでございます。
さらに、ちょっと駆け足ではございますけれども、参考資料9についての御説明をさせていただきます。
こちら、前期の当委員会で取りまとめていただきました報告書でございます。ここのタイトルのとおりでございますけれども、人文社会科学と自然科学の連携の推進、こういったところについて言及いただいたものでございます。
ここには、めくっていただきまして3ページ目、(3)といったところで、「ELSIをはじめとした社会課題や懸念の発見と、その解決策、解消策の検討に当たっては、研究開発者や社会(国民)など、多様なステークホルダーの相互作用が不可欠」であるといったところを御示唆いただいております。
さらに、(4)におきましては、タイトルのとおりでございますけれども、科学技術と社会の関係深化に向けて主体的に取り組む人材の育成といったところも御示唆いただいているところでございます。
それからもう一つ、参考資料10でございます。こちらは、当委員会で今年取りまとめていただきましたもう一つの報告書「今後の科学コミュニケーションのあり方について」でございます。
こちらも、めくっていただいて4ページになりますが、「3.必要な機能」という項目がございまして、ここで、科学コミュニケーションというのは、「科学と社会、そして各種の学問分野等様々な事象をつなぐ役割を期待されている」といったところですとか、さらに、その次のページの5ページ目になりますが、下から15行目辺りに括弧で「共創のためのコーディネーション機能」といった記載がございます。こうしたところに、科学コミュニケーションを行う科学コミュニケーターにおきましては、知識翻訳機能、対話・調整機能に加えて、共創のためのコーディネーション機能を果たすためには、対話の参加者に広範な知識、自然科学だけじゃなく人文社会科学も含む学問分野全体、それから社会貢献の意識、課題探索能力、解決方法の構想力、立場の異なる人々をつなぐコミュニケーション能力などが重要といったところも御指摘、御示唆いただいてございます。
駆け足ではございますけれども、参考の資料については以上になります。
それからもう一つ、一番後ろに別紙というタイトルで机上のみの資料として付けさせていただいてございますが、こちらが、9月末、10月にこの提案を出すことになっております総合特別委員会の事務局から提示されました個別分野部会等の検討に盛り込んでいただきたい事項でございます。今回の御議論に関しましては、こういった、例えば世界の政策動向、世界の動向・分析、それから四つ目にあります社会課題の解決などのバックキャストの視点から見た研究開発課題、それから研究開発成果の実装に向けた取組や戦略、こういったところにつきましても先生方の方から御議論を頂ければと思います。
最後に、こうした資料に加えまして、論点を深めていただくために、岩見沢市企画財政部の黄瀬信之情報政策推進担当次長に御出席いただいております。それから、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の伊藤健先生に御出席いただいております。そして最後に、JST(科学技術学術振興機構)の社会技術研究開発センター、津田室長に御出席いただいております。
最後に、最後の資料の御紹介でございますが、総合特別委員会へのたたき台としまして、事務局として先ほど御紹介させていただいた当委員会の二つの報告書を統合させました事務局たたき台というものを資料2-1としてここに添付させていただいております。このたたき台につきましては、本日の御議論を踏まえまして、次回の委員会に御議論いただいた内容を付け加えさせていただき、改めて御議論いただくといった流れで考えてございます。
事務局からは以上でございます。
【小林主査】 ありがとうございます。
沢山の資料で消化不良になってはいけないと思いますので、少しだけ確認をしておきますと、第6期の科学技術基本計画は2021年の4月からスタートということになりますので、今年から来年にかけてが山場になるということですね。それから、総合政策特別委員会、総政特と呼んでおりますが、これは文部科学省として科学技術基本計画に対する提言をまとめる委員会ということになっておりまして、科学技術基本計画そのものは、今は内閣府のほうで取りまとめるという立て付けになっているということを確認しておきたいと思います。
従来の基本計画の中での科学技術と社会に関わる部分というものを議論する委員会が文科省の下に当初はなかったので、平成25年に、安全・安心科学技術及び社会連携委員会という名前の委員会ができました。その安全・安心に関する議論を一段落終えた後、社会連携の方に少し重心を移したような形で本委員会が形成されていると、そういう歴史を持っているわけです。大体、科学技術基本計画というのは、それぞれの項目に対応する委員会というのが文科省の中にあって、そこで議論されたものがベースになってくるんですが、科学技術と社会の部分だけは常設の委員会がなかった時代がありまして、そこからやっぱり要るだろうというのでこれができていると、そういう流れでございます。
それから、ちょっと私、一つ教えていただきたいのは、この研発の法律の改正ですかね。研究開発力強化法、これの31条というか、参考資料6の4ページの13.ですけれども、「科学技術に対する国民の理解増進、寄附の積極的な受入れについて新条追加」って書いてあるんですが、これは何を書いているかというのがもし分かれば。今でなくても結構ですけれども、「理解増進」という懐かしい言葉がまた出てきたので、この条文でどういうことを目指しているのかと思って。どっちにしても、「寄附の積極的な受入れ」とか、この寄附というのは研究機関が寄附を受けられるということですか。
【菱山局長】 そうですね、民間からの寄附を。
【小林主査】 そうですよね。「国民の理解増進」という話だと、この委員会とちょっと関係を持ちそうな気もしたものですから、ちょっと後ででも確認をしていただければと思います。別に今すぐでなくて結構です。
【小田補佐】 はい。
【小林主査】 今までの御説明に対して何か質問とか確認はありませんか。よろしいですか。
そうしたら、ちょっと時間が押しておりますけれども、今日は話題を三つ提供していただくということで、最初に、科学技術振興機構社会技術研究開発センター企画運営室長の津田様に御説明いただきます。よろしくお願いいたします。10分強で、その後、できたらディスカッションをしたいと思います。

◯資料2-2に基づいて、津田室長から説明。

【小林主査】 ありがとうございます。大変包括的なお話を頂いたと思います。
質問とか御意見とかあれば、是非お願いしたいと思います。今日ここで説明していただいた内容は第6期にかなり使えるような論点が含まれているかと思いますけれども、いかがでしょうか。皆さん、おとなしいですね。確認からでも結構ですけれども。
ELSIという議論の二大課題は、多分、AI系とゲノム編集系のバイオなんですけれども、だから、海外でも割とそこにターゲットを絞ったような研究組織というか、そういうのを作っているんですけれども、多分これからもうちょっと広がっていくだろうと予想されて、エマージェント・テクノロジーズという言い方をして、新規科学技術というのはこれからどんどん出てくる。それが昔のように真理探究だけで追求されている研究じゃなくて、どこかで社会実装を念頭に置いたような形で科学技術が立ち上がってくるという、多価値型というふうに言ったりするんですが、そういうタイプの研究にやっぱりドライブが掛かっているわけですね。ですから、そこに対する課題というのがやはり社会実装でして、そこではどうしても社会とのインターフェースの問題が出てくる。例えば脳科学なんかもこれから立ち上がっていったときには、やはりマインドリーディングというのはプラスの面とマイナスの面が絶対出てきますので、そういった問題も早急にやらなくてはいけないだろうと。
それと、多分、もう一つの論点は、国境を越えているということですね。グローバル・ハーモナイゼーションのところで日本がちゃんと勝てるべき議論を持っているのかというところは割と深刻になってきているような気がします。例えばAI系統だと、やっぱりヨーロッパ型とアメリカ型と中国型の三つのパターンがあって、さあ、日本はどうするんですかといっても、それぞれのいいところをとりますというのでもつのかなと。やっぱりちゃんと議論をする蓄積を持っておかないと単なるフォロワーにされかねないというところがあって、そういう点では、RISTEXが研究者のネットワークを作っていただいているというのは非常に大事なことかと思います。
あと、最後、計算社会科学とおっしゃって、ビッグデータとか、それからIT系ですね、特に情報概念とかビッグデータとかというものは、もはや理系の話ではないんじゃないかということをどのぐらい真剣に考えるかということなんですね。デジタル・ヒューマニティーズなんていう議論も出てきていますけれども、人文社会科学もこれから20年のスパンで見たらかなり根底から変わる部分を持っているんじゃないか。つまり、情報概念というのは理系の概念ではなくて、物質・エネルギー・言語・情報というような、世界を表現するための基幹概念みたいなところがあるので、そういった観点からの人文社会科学の在り方をどこで議論するかというのは多分これから課題になるだろうと思うんです。今日はややELSIにターゲットを絞っていただいたとは思いますけれども、人文社会科学も相当変わっていくということも踏まえなくてはいけないのかなという気はしています。
と私だけがしゃべっていてもしようがないので、どうぞ。
【小野委員】 三菱総研の小野でございます。初コメントなのでいろいろ御容赦いただければと思います。さきほどのプレゼンテーションでELSIにターゲットを絞られているのは、何のために科学技術と社会との調和を考えるかということを考えるにあたりELSIが重要ということだと理解しました。しかし、ELSIに注目すればするほど、それが目的化してしまうような印象を持ちました。科学技術はある種のフロンティアを見いだしていく手段として非常に重要であり、それはまた経済成長の源泉でもあります。現状では資本主義が少し行き過ぎている側面があり、格差の問題なども出てきている中で、科学技術は放っておくと欲望がそちらに進んでいくので、際限なく進んでいってしまう可能性が高い。いろいろなフロンティアを科学技術が広げていくときに、行き過ぎないようにどうコントロールしていくことができるのか、そのためにELSIをどう活用したらよいかという問いだという理解をいたしましたが、そういう理解でそもそもよろしいでしょうか。
【小林主査】 津田さんの資料だと、ブレーキではなくてハンドルって書いておられますよね。昔はやっぱりこういうのはブレーキだと思われていたんです。ブレーキじゃないのではないかという議論を今しているんですね。これ、やらなかったら、かえって後で損しますよという構造なんですね。
【小野委員】 そういう意味では欲望が行き過ぎないということを、欲望は行き過ぎてしまうものなので、そういう意味ではハンドルという意味も含めてコントロールするということができないと、社会として立ち行かなくなっていってしまうという意味だということでよろしいのでしょうか。
【小林主査】 ではないかと思いますね。つまり、できることと、やっていいことと、やってはいけないことと、やらなくてはいけないこと、この4つの組合せをどうバランスさせるかというのは結構難しい問題で、今、できることだけがわーっと伸びていっているんですよ。それで、やっていいこととやっていけないこと、それからやらなくてはいけないことというのをどういうふうに組合せるかという問題なんですね。今、ドライブが掛かっているのは、できることの拡大は明らかなんですね。それがでも、自動的にやっていいことになっているわけでもないし、自動的にやらなくてはいけないことになっているわけでもないところをどう案配するかというのは、割と大きな課題で、皆さん薄々気が付いているんだと思うんですよね。
【小野委員】 ちょっと文脈が合うか分からないですけれども、私の所属する企業グループの幹部クラスの方と話をいたしました時に印象に残ることがありました。彼らはこれまで日本の産業を支えてきたインフラを担ってきた自負がおありになります。インフラを担っているということは、国が人口が増えて成長すれば、それほど努力しなくても一緒に成長していくことができたということです。しかし、はたと気付くと人口が減ってしまって、しかも世界も最近の予測だと100億人いかないかもしれないというものもあり、将来、頭打ちになるということがある。すると、次の成長のエンジンをどこに見いだしたらいいのだろうかと悩んでおられるとのことです。その道筋を科学技術の進んでいく方向観の中に見いだそうとすると、みんなそこに当然行ってしまうので、その中のどこに行ったらいいか試行錯誤をされておられます。加えて例えば北欧だと、特定の分野に国を挙げてリソース集中し取り組んでおられる国もある中日本は結構玉虫色で、エネルギーで言えば原発も自然エネルギーもということになり、企業側として集中投資すべき分野を絞る判断が難しい。みんなが見合って進めないみたいな状況になっているのに技術だけがどんどん進んでおり、ELSIみたいなものをどうするかというのはものすごく複雑な問題が宿題だと感じます。
【小林主査】 フィンランドだと人口500万程度ですからね、やっぱりそこでハンドリングするときの戦略の立て方と、何のかんの言ってまだ1億いる国でハンドリングするときとでは……。
【小野委員】 全然違いますよね。
【小林主査】 やっぱり大分違いますからね。インタラクションのオーダーが違ってしまいますので。いや、だからこそ難しいという問題なんですけれども。
ほか、いかがですか。おいおいというか、あと2回ぐらいそういう議論を本気でちゃんと詰めましょうというのがこの委員会ですので。後でも……。
【津田室長】 先生、1点だけちょっと追加で説明ですが、最後の計算社会科学に関してなんですが、実は私どもの研究開発戦略センター(CRDS)というところがあるんですけれども、そこはインターナルのシンクタンクとして研究開発戦略を作っているところです。そこで今、計算社会科学に関してプロポーザルを作成しようということで、ICTユニットを中心に取組を始めたところです。そこで国内の動向あるいは海外の動向を含めまして調査した上で、日本としての今後の方向性みたいなものが今年度、来年度辺りには出るのではないかと思われます。
【小林主査】 いや、社会科学・人文学がこれから少し変わっていくということも、やっぱりどこかで我々はグリップしておかないと、昔のイメージの人文社会科学をどう使うかだけではないのだというふうに思うべきだと。どこかのタイミングでそういうのもちょっと……間に合うかな、スピードが要るね。
【小出委員】 ちょっとよろしいですか。
【小林主査】 はい。
【小出委員】 両方にまたがる領域、今おっしゃったように増えてきていると思います。AIに関するものなんかそうだと思うんですが、はっきり、こっちは文科系、こっちは理科系というふうに分けられるものも古典的なものはあるでしょうけれども、これからその間が分かりにくいものから、今度はゲノムレーティングの技術にしてもそれをどういうふうに使うかというときに、どうしてもいろんな議論はインターディシプリナリーにしないと何も進まないというようなものが中心になってくるんじゃないかと思うんですが、そこの段階はどういうふうに迎えるのか。あくまでもやっぱり文科系、理科系で分けていくのか、その辺の存続は今、RISTEXでどんなふうに考えているのか。
【津田室長】 今、我々、ゲノム合成・編集で研究会をやっていると申し上げましたが、そこで今最初に取り組んでいるのは、研究会メンバーは大体ELSIの研究者が多いです。ただ、そこにいわゆるウエット系のライフの先生にも入っていただいて、その中でもインターディシプリナリーにやろうとしています。あとアーティストとかも入れたり、企業の人にも入っていただいたりして、インターディシプリナリーな環境をまず作っています。CREST、さきがけの方とどう対峙するかということに関しては、やはり小林先生がさっきおっしゃいましたとおり、まだブレーキというふうにどうしても捉えられてしまいますので、まずは彼らの心の氷を溶かすというところからスタートしています。それをやるにつれて、自分たちはブレーキじゃないという認識を向こうにまずは持ってもらうというところからスタートしているわけですけれども、現状においては、彼らは基本的には自然科学者の集まり、こちらはインターディスプリナリーな集まりということで始めています。実際、今、それを中庸できるような人材って、いわゆる間を取り持つような人材というのが、多分どこかにいらっしゃるのかもしれないですけれども、我々の中ではまだ見いだしてないので、今のところはそれができるような自然科学の知識のある人文社会科学者であったりとか、人文社会科学に多少精通しているような自然科学の人であったりとかに入っていただいて、その間を取り持っていただこうとしています。
【小出委員】 そういう人材の育成というのは、これから30年、50年考えたときに非常に重要な領域になってくると思うんですが、そこについての具体的なプラットフォームみたいなものというのはまだないんですか。
【津田室長】 ないです。
【小林主査】 ないんですね。日本の大学教育を普通に受けるとどっちかになるという。相当変わった私みたいな人間でないと、普通にいくとそうならないようになってしまいますね。そこが問題なんですけどね。時々、大学内でも関係者に言っているのは、高校のところまでちゃんと理系の勉強するのは全然構わないんですけれども、入学して理系の学部に入ると。入った後、自分はちょっと違うことに関心があるなというときの真っ当な文転戦略というか、文転のための受皿というのをそれぞれの大学が小さくてもいいから持っておくとていいのではないかと思うんですが、どうも裏切り者とか落ちこぼれみたいになっちゃうことが多いんですよね。ても、そうじゃないんだと。ポジティブな意味があるんだと思いますね。実際、今、多分、RISTEXでELSI人脈の方々って、何かそういう経験をして、理系からたまたま理系の中の研究室の中で文系的センスを持っている研究室があって、そこに行ったことによって生き延びたという人が多いんです。そういうパスを一つ作っておくだけで随分変わるわけですね。何かそれのための専門の学部を創るよりも、そっちの方が私はいいと思うんですけれどもね。そういうことも本当はちょっと考えなくちゃいけないんですが、ちょっと時間も押してまいりましたので、後でまとめてまた議論できるかと思いますので、お二方目の話題提供をお願いしたいと思います。
それでは、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の伊藤先生、よろしくお願いいたします。10分程度でお願いしたいと思います。

◯資料2-3に基づいて、伊藤特任講師から説明。

【小林主査】 どうもありがとうございました。非常にRISTEXの議論とうまくつないでいただいてありがとうございます。先生がおっしゃっているこの社会イノベーションというのは、社会的課題を見いだして、それを解決するシステムを作るところまでがあって初めて社会イノベーションということですね。
【伊藤特任講師】 そういうことです。
【小林主査】 よく言う蒸気機関の発明はイノベーションではなくて、蒸気機関を使って運輸システムとかああいうものを全部変えてしまうことがイノベーションだという意味では、ここでおっしゃっている社会イノベーションというのは本来の意味でのイノベーションはこうですよということなんですね。
【伊藤特任講師】 はい。
【小林主査】 ありがとうございます。
御質問、御意見、是非。
【小野委員】 いいですか。
【小林主査】 はい、どうぞ。
【小野委員】 どの科学技術の課題が大きいか、解決すべきものは何かというのを考えるときに、インパクト評価をどう使っていったらよいか、ご教示願えると幸いです。AというものとBというものと社会的インパクトの現れ方が違ったり、お金に換算していいものといけないものというのがある中で、個別の事象の評価を超えて横並びに見る際、インパクト評価をどう使っていくかというのはなかなか難しいなと思っているんですが、どう考えたらよいでしょうか。この事例においては、要介護度ということだと、それが結果的に介護費用の削減とか金銭換算することができる領域の話として整理できますが、例えば命の値段など、お金に換算してはいけないものもありますよね。
【伊藤特任講師】 そうですね。ご指摘の点は、正に先ほどお話のあった調整型のアプローチなのか、再構成型のアプローチなのかということだと思います。社会課題を俯瞰的にとらえる取り組みはRISTEXさんがやっていらっしゃると思うんですけれども、そのマッピングを勘案して、じゃあどこのセグメントはどんなアプローチでやることが望ましいというふうなアプローチは、別にあってしかるべきだと思います。それに対して、今申し上げた例えばSIBのような仕組みというのは、ある限られた領域の社会課題に対して、マーケットベースのアプローチが適切であるものがあるということかと思います。それからもう一つは、例えばELSIの話を今されていらっしゃると思うんですけど、倫理については、社会的インパクトの議論の前段のところでする必要がある。例えば、社会的インパクトの話をするときに出生前診断の社会的インパクトみたいなことを問われた方がいらっしゃって、社会便益よりも前段で、倫理上の課題として解決しなきゃいけない問題ですので、そういう意味では、そうしたセグメント選定をしたうえで、市場ベースでの解決が適したところに限定して適用するのがいいのではないかと思います。
【小野委員】 すごく分かりやすくご説明いただきありがとうございます。更に重ねて質問していいですか。例えば高齢者が自動運転車を使うことで日々の活動範囲が広がるといった分野と、介護の要介護度が下がるといった話は、両方とも金銭換算できるような気がしますが、その両者を比べ金額の多寡で評価してよい問題なんだろうかとかというのはどうでしょうか。
【伊藤特任講師】 そうですね、この手法がどういう領域で導入されているかということと、金銭換算の可能性は一つの議論の媒介ではあるんですけれども、それは必ずしも社会的インパクトの議論の決定の最終的なファクターではありません。例えば今、SIBは世界に百以上の事例がありますが、どの領域で活用されているかを考えてみるとわかりやすいと思います。例えば、先ほど申しました児童養護で、家庭的養育を推進するSIBの活用事例があります。施設での養育がいいのか、家庭的養育がいいのかという問題は、もちろん行政にしてみれば費用対効果の観点で、例えば教育水準であるや、あるいは問題行動のレベルに対して、それに対してプログラム実施のコストがどうかというようなことはもちろん考えられます。しかしながら、それだけではなく、究極的には子供のQOLや健全な発育であるとかをどのように評価するということは、先ほどお話した前段の問題として議論し、合意しなければならない問題として考えられると思います。
【小野委員】 異なる次元のものを評価するときに、経済的な財政効果が高いという試算結果が算出されると、何かそれが高いとよいという評価になりがちですね。しかし、先生の御指摘では、それはあくまでも総体的に総合的に評価する一つの尺度としてインパクト評価があるという理解でよろしいですか。
【伊藤特任講師】 おっしゃるとおりです。そこは結局、我々の領域の中では、社会的合意という言い方をしているわけですけれども、恐らく社会的合意の形成はまた別のところで、社会的な価値観としての一連の議論があると思います。何をもって社会的合意とするのかというところが、社会的インパクトを議論する前提として一つ必要なアジェンダであるいうことは、この領域でも認知があるということは申し上げられるかなと思います。
【小林主査】 恐らく重要な論点だと思います。だから、そこを経済的尺度で比較することに対する合意があればそれを使えるという意味で、もう一つ上のメタ合意がとれるかどうかですよね。
【小野委員】 そうですね。
【小林主査】 そこは実は一番難しいところで、悩むところですが。
最後に少し全体で議論する時間をとるためにも、次のプレゼンテーションもお願いしたいと思いますので、伊藤先生、どうもありがとうございました。
【伊藤特任講師】 ありがとうございます。
【小林主査】 それでは、黄瀬次長、お願いできますでしょうか。

◯資料1に基づいて、黄瀬次長から説明。

【小林主査】 どうもありがとうございます。
【小野委員】 先生、よろしいですか。
【小林主査】 どうぞ。
【小野委員】 農業は、どちらかというとICTのリテラシーが余り高くない方が多いと思います。その中でこれだけ進んでおられると、実際に農家の皆さんがついてこられるのかしらという心配がありますが、どうやって巻き込まれたのでしょうか。
【黄瀬次長】 まず、私も最初そう思ったんですけど、実は岩見沢に相当、伝道師みたいな、農家の方がいたんです。
その方を慕う人が当然いるということと、もう一つ、農家さん、意外とfacebookなんかで交流してるんです。例えば「こういう機械を入れたんだけど、どう使うんだろう」というのはそこで情報交流していたんです。そこで、研究会を作ってもう少し分かりやすくしようと。簡単な取扱説明書、ラミネート加工して雨に濡れても大丈夫みたいなものを自前で作成しトラクターに載せてやっていくと。もう一つは、去年からやっているのは、そうはいっても、やっぱり出遅れた農家さんがもう今更聞けないという方がいらっしゃるので、Ciscoと岩見沢はMOUを結んでいるので、CiscoのWebexというコミュニケーションツールを使って、在宅で、好きなときにeラーニングできるような仕組みを作って、コンテンツも岩見沢の会社が作ったものを載せて、好きなときに見て、次の日には理解してやると。それから、北海道立なんですけど、7間口の農業高校があり、ここに農家さんの御子息がいるんですね。子供に教えて、「お父さん、僕が教えてあげる」みたいなことを家族でもやっている。多方面で動いているということですね。
【小林主査】 このICT基盤とか、かなりいろんな特区とか補助金とかを使って導入されていますよね。これのメンテというか、そういう部分はどうやって回っていくんですか。
【黄瀬次長】 うちは第三セクターを作って通信事業者としてやらせていますけど、結構、全国初とかというのが多いのは、相当、最初苦しいんです。ですけど、先行者のメリットがあるんです。例えば光ファイバーを作る際、最初だから、この方法・金額でやりましょうと言ったのが生きている。
ただ、それはずっとやっているので、止めたら皆さんと一緒になっちゃうというのがありますけど、それも含めて一つの自治体ごとにそれをやるということではないと思うので、例えば総務省に少し規制緩和してくれと相談しています。ローカルネットワークの制度でいくと、行政区域に限定するという制約があるんですけど、でも、隣町とか村と一緒にやるって手つないだら、そこをカバーするように制度変えて欲しいという話をしたら、省令でもう可能としてくれていて、そういう意味では共同利用みたいな形になると当市も楽だし、児童見守りシステムも単独で始めたものが隣の市、夕張ですけど、一緒にやることによって互いにメリットありますとか、実際にメリットがあるのは使う人ですけど、そういう形でできるエリア、レイヤーをちゃんと作っていくという話です。
【小林主査】 いや、だから、こういう規制緩和みたいなことも含めて、これも実はELSIなんだとは思うんです。まさしく法律とかそういうところのセッティングを変えることによって問題の解決がはるかに容易になるというところを、じゃあどうやってアドボケイトするというか、ロビイングするというかという力が必要なわけですよね。それを実際やってみせられているということですから、なるほどな。
あと、一つだけちょっと質問。スライドの15の絵の中の母子の健康のところの「腸」というのは、これ、何ですかね。「日常から母子の状態を確認」の横にある「腸」という漢字は。
【黄瀬次長】 腸内細胞が分泌するαディフェンシンというものでして、これは北大医学部と森永乳業の研究所が一緒にやっているんですけど、実は腸内環境を活性化させるための仕組みが可視化されてきています。
【小林主査】 では、文字どおり本当のここを……。
【黄瀬次長】 腸ですよね。腸内環境を制御・活性化させると実は成人病予防になったり、認知症の予防になるというのが分かってきたので、じゃ、その活性化させるための食事について、森永乳業の研究所と連携をしているんです。で、森永乳業の研究所には岩見沢の農産物で成人病予防のための何か新しい食品を作ろうという話をこの3年、4年やってきた。そういう連携、横連携もあるかもしれないなと。正にこれ、お母さんの腸内細菌の情報は生まれてくる赤ちゃんに全部つながるという意味で重要です。
【小林主査】 そうですね。
【黄瀬次長】 お母さんの状態をよくすると子供もよくなる、単純に言ってそういうことです。というところまでの相関をCOIでやらせていただいています。
【小林主査】 なるほど。分かりました。
【小原委員】 先ほど、先行者利益がある、また、50の視察を受け入れているとお聞きし、岩見沢市は科学技術の社会実装の成功事例だと思いましたが、そういう場合に、その成功事例がほかの自治体にどの程度、同じように横展開できる可能性があると思って視察を受け入れられていらっしゃるのか。SDGsビジネスを加速支援している私たち(SHIP:SDGs Holistic Innovation Platform)も、社会実装は一つ一つのケースによって違うので、どれくらい横展開できるのだろうか、ある程度サンプルみたいなのをやればうまくできるのか、結構悩んだりするのですが、その点について、50の視察を受け入れた先行者として、どういうふうに今、冷静に見ていらっしゃいますか。
【黄瀬次長】 まず、50の視察を受けているのは実はピエロをやっていますということなんです。しかし、先々週も熊本県庁に呼ばれて、熊本の天草のスマート農業のセミナーで話をしきたんですけど、全く違う農業なんですが、結論としては、あちらは中山間の農業、こっちは平場の農業だけど、使いたい技術の一部はかぶっているよねというのが見えました。それは、新しくそっちで作るよりも、センサーなりネットワークはこう作ればできますよねというのと、岩見沢の創業されている企業さんのサービスが今度つながるというイメージは持っています。
それからもう一つ、これからの話ですけど、去年、例えば台湾政府が3回来たんです。実は台湾政府が持っているファンドを岩見沢で投資したいって言われているので、ちょっと待ってねという話をしている。フィリピンはその前の年に来て、岩見沢の会社さんが作った仕組みをフィリピンの会社が採用決めたんです。衛星画像を用いて解析して最適な作業をお伝えするという岩見沢の会社さんが作ったものを採用しますということがついついこの間決まったので、それも一つのメリットですね。
もう一つのメリットは、ちょっと時間掛かりますけど、会社さんのお仕事が増えてくると、そこの担い手として、岩見沢の子供たちが18歳とか22歳で外に出なくてもここに就職できますよねというのは、それは我々としての本当のローカルのメリット。外貨を稼ぐメリットを含め、プラスの方向に一つずつ積み上げているという状況です。
【小林主査】 よろしいですか。伊藤先生の観点から見たときに、岩見沢の例ってどんなふうに言えるんですかね。
【伊藤特任講師】 岩見沢のケース、大変革新的で面白いお話がすごくたくさんあると思うのですが、一つは、社会的生産性という意味で、テクノロジーの導入コストに対してどれだけの社会的便益を生み出せるのかというところが気になります。それがあるかないかで、先ほどお話のあった横展開ができるのかどうかが決まります。社会実験として実施するのは必要なことですが、、それが普及したときのリアクションカーブみたいなものが描かれていることが必要かと思います。ICTはそれなりにコストが掛かると思いますので、どこを適正なレベルと判断するのかというところに非常に興味を持ちました。
【黄瀬次長】 正におっしゃるとおりなんです。そういう分析、当然しています。当然それは単独でやってないので、NDA組んでいるというところもあり詳しくは言えないのですが、行政はきっかけを作るけど、そのサービスとか組み立ても含めて民間と。それはSIBがいいのか、それとも、SPC的なものが立ち上がったりしているので、そういう方々に任せるということも当然あります。共感するというところから始まるんですね。目的に共感して、バックキャストで進めるという話でやってきているので、じゃあ一緒にパートナーシップでやりましょう、それは行政も例えばフィールド貸しますよ、土地貸しますよでもいいんです。彼らはその設備投資でサービスをやると。彼らは民間なので、費用対効果でちゃんとB/C計算で分析をしてやっています。我々はそれを全部総じて経済分析していますので、動いているわけです。
もう一つは、先生がおっしゃるとおり、行政は投資でもうけただけじゃなく、この街に住んでいていいよねって感覚を持ってくれることが行政の仕事でもあるので、例えばこういうスマート農業であったり、見守りもそうですよね。児童見守りとか、例えば在宅就業、テレワークなんてお母さん方頑張っています。旦那さんと一緒に転勤で岩見沢に入ってきたご家族が、奥さんもお小遣い稼ぐのにテレワークがあり、次に転勤になって旦那さんを単身赴任させてご家族はここに残るわけです。地域としてはこれも良い話です。
だから、そういう意味での効果は、実は単純なものではない、計り知れないところもあるので、そこは難しいんですけどね。市民の満足度をどう測るかというのはすごく難しいですけど、積み上げでプラスになっているところはこうだよねという算数もそうですし、例えば農業で使っているロボットとか位置情報の活用は、冬は除雪に使っています。そうすると、除雪は効率化が始まっているんです。3割ぐらいスピードアップできたり、安全性も高まったりしている。夏は農業で、冬は除雪、こんな感じで今、連動掛けてやっている。そうすると、岩見沢の生活で一番ネガティブな、豪雪地帯岩見沢の生活どうしようかという課題に、そういうのも動き出したというのは、少しよくなってきたかなって感じてもらえるだけでも岩見沢から逃げられないというのがありますし、そういう日本語しか書けないような分析というのも実は今回の総合戦略の最終整理をしている中に組み込んで、じゃ、これをもっと高めようというのを含めて新しい総合戦略を作っているという段階です。
【小林主査】 ほか、いかがでしょうか。どうぞ。
【小出委員】 これ、幾つかのフェーズで、それこそ農業というのも一つのフェーズだと思うんですが、このやり方は恐らくすぐ近隣の自治体というか、南幌町とか栗山町とか同じような環境で農業をやられていると思うんですが、そういうところに広がっていくとかコラボレーションするというような、これからの見通しなり動きはあるんでしょうか。
【黄瀬次長】 あります。具体的に言うと、8月2日に隣の隣の町から町議会議員が来ます。岩見沢市は今の市長が、やるって決めてから急に動き出しています。だけど、隣町でちょっと違うことをやっていたり、農業はそれはJAがやるものでしょうとか、農家さんが自分でやるものでしょう、役場は関係ないというところもあったんですけど、相当岩見沢の農家さんが喜び出したのを見ていたら、そこに住んでいる町の農家さんが、「なぜうちの町は岩見沢と同じことできないんだ」って騒ぎ出したんです。それで議員さんが一緒にやらせてくれって話に来るんだそうです。サービスはさっき言ったように民間さんが横展開すればいい。喜ぶのは、こういう軍団でできれば、岩見沢の農家で作り切れないものも実はもう少し面広がると、川下側に対してもっとインパクト出せるかなとかいうのを期待しながらやろうかって話をしており、そういう意味では、全国からの視察だけじゃなくて、やっぱり近い地域の連携もこれから動き出すと思うんです。
【小出委員】 農業であれば、横に近いプラットフォームは物理的に一つ可能だということなんですね。
【黄瀬次長】 はい。
【小林主査】 ありがとうございました。時間も大分押し詰まってきたので、一旦ここで閉じたいと思います。どうもありがとうございました。
今日、これからの論点、これ、かなりスピードアップしなくちゃいけないということもありますが、今までの科学技術基本計画においては、いわゆる社会イノベーションという言葉でこのような事例というのはあまり扱ってこなかったんですね。どちらかというと、科学技術をどうやって使って金をもうけるかって話になっているんですね。今日も、実は資料でCSTIが出してきた紙というのがありまして、参考資料5。これは非常に面白い文章で、何かトーンが随分違う文章がまじっている感じなので、多分、委員の方々のそれぞれの意見がそのままかなりフラットに並べられているのかなという気がします。SDGsとか社会課題というふうなところにかなりウエートを置いた記述もあるんですが、例えば一番後ろの文章なんかを見ますと、最後の3行ぐらいですよね、「モノやサービスの『価格水準』とヒトの『賃金水準』を引き上げて、名目GDP600兆円をはるかに超える経済を実現する。次期基本計画の要諦はまさにここに存在する」というふうになっていまして、このトーンと、先ほどの自治体にとってのイノベーションの意味みたいな議論とは、やっぱりそう簡単に融和しない感じの書きぶりになっているんですね。今度、だから、基本計画で社会連携とか科学技術と社会とかというので考えるときに、今日お話しいただいたようなソーシャル・イノベーション、伊藤先生なんかもおっしゃっているような話とか、そういうところまで踏み出すかどうかというか、そういうところにまで視野を広げて科学技術を社会で何のために使うのかという議論を書くというのはやっぱり一つの課題なのかなと。そこまで書いてみて採用してもらえるかどうかは分かりませんけれども、GDP600兆円にいきなりつながるようなものだけではないソーシャル・イノベーションみたいなことを我々のほうでは扱うかどうかというのはやっぱり一つのポイントになるのかなと、今日聞いていて思いました。
本当は、当初の予定では、今日はたたき台、事務局で作っていただいたものを、今日のお話を聞いた上でたたき台を見ながら考えましょうという難しい宿題を進行表の方には書いてあったんですが、それはちょっとまだ無理だろうなと思いましたので、今日お願いしておきたいのは、この資料2-1のたたき台を御一読いただきたいと思います。8月29日ですかね、次回やりますので、それまでに御一読いただいた上で、今までの基本計画の書きぶりは参考資料にもちょっとまとめておりますので、それを踏まえて、どういう論点を提言するかということについて1回、項目でいいからそういうものを1回まとめないと文章化できない可能性があるかなと思いました。多分、小野委員も小原委員も何のために科学技術を使うのかというのが結構肝だというふうにおっしゃっているように思いましたので、そこですよね。だから、自治体にとっては何でもかんでも最先端の技術を使えればいいという話ではなくて、目的ありきですよね。それ、伊藤先生なんかもそうですよね。つまり、イノベーションって本当は技術使わない方がうまいこといく場合には技術使わないというのがいいソリューションなんですよ。それが本来のイノベーションなんですけど、今はやっぱりそうばっかりも言っていられなくて、科学技術使うことをかなり前のめりになっているんですが、それによって見失われるものがあるとすれば、それは非常に問題なので、もう少し幅のある議論をここはするところかなと。今、ほかの委員会は、現実に研究している方々がたくさん参加しておられるので、そうすると、自分の研究が大事で、これ、使いましょうという議論にどうしてもなるんです。これはもうしようがないんです。だから、ここは、そういう技術の使い方についてどうするかということを考える委員会という意味では珍しい委員会ですので、メタの委員会なので、そこの特性を生かして言うべきことは言っておいた方がいいかなと思いました。
ということで、今日は、これ以上、議論する時間もございませんが、次回に向けてちょっとそういう観点で、科学技術を社会でうまく使うためにはどういうことを考えなきゃいけないかという観点で何か御意見をまとめてきていただきますと、別に紙で提出しろとまでは申しませんが、委員会のところでは少しお話を頂ければと思います。
あと、事務方のところで何か今後のことについて予定とか御説明いただけますか。
【小田補佐】 今後につきましては、先ほど先生おっしゃいましたとおり、8月29日(木曜日)14時から16時で、場所につきましてはまた改めて御連絡をさせていただきます。
それから、本日の委員会の議事録につきましては、作成次第、委員の皆様に御確認いただきまして、文科省のホームページに掲載をさせていただきます。
それからもう一つ、先生から先ほど御質問のありました科技・イノベ活性化法の31条の規定でございますが、確認しましたところ、新たな規定でございました。条文を今そのまま読み上げますが、「国は、科学技術に対する国民の理解と関心を深めるとともに、研究開発等に係る寄附が活発に行われるような環境を醸成するために必要な施策を講ずるものとする」と、第1項はこういった規定になってございます。それからもう一つ、第2項でございますけれども、「研究開発法人及び大学等は、その研究開発等に関する国民の理解と関心を深めるために必要な広報その他の啓発活動に努めるとともに、寄附金の積極的な受入れのために必要な取組を行うよう努めるものとする」と、こういった規定が新たに入ってございました。
【小林主査】 アウトリーチを研究機関がすることによって関心を高めて、この研究には寄附したいよねという、そういう循環を作ろうという話ですね。
【小田補佐】 はい。
【小林主査】 イギリスの政策がそうなっていましてね。ですから、イギリスの大学は、自分たちの研究が社会にとってどういうふうな意味があるのかという観点からホームページを今作っていますね。インパクトという観点で。そうやって社会から求められている研究を大学がすることによって、大学のソーシャル・レリバンスを表現して、そして国のお金がどうしてもイギリスの場合は中心ですけれども、国も税金を投入しやすくなるという、そういう発想で動いているんですけれども、ちょっとそれと似ていますね。
あと、黄瀬さんにもう一つだけ伺いたかった。北大さんのCOIと組んでおられますけれども、大学というのは使い勝手のいい組織ですか、自治体から見て。北大だけの問題ではないと思うんですけれども。
【黄瀬次長】 北大だけではないですけど、我々としては、大学はいなきゃ駄目な存在なんです。実は慶應大さんともやっているんです、北大経由で。それは我々としては、市民に対して納得をしていただく、エビデンスも含めて出すという意味でも重要ですし、逆に、市民が分からないところを教えてもらう先としては、行政からではなく、北大、大学はいいよねということで、すごく連動しています。絶対必要です。
【小林主査】 大学のソーシャル・レリバンスみたいな問題ってこれから問われていくはずなので、自治体さんから見たときに、結局、役に立たないなと思われてしまったら大学って存在意義がなくなるので、どうなのかなということは。
【黄瀬次長】 北海道教育大学岩見沢校というのもあるんですけど。私の今のの仕事は、どちらかというと教育大学は余り絡んでないので、何とか絡みたいと思っていますけど、まずは、今、北大。北大までは専用ネットワークを岩見沢市で持っているので使いやすいんですけど、もっともっとやりたい。
【小林主査】 なるほど。多分そういう論点も出てくるかと思うんですね。科学技術と社会とがべたっと直面するんじゃなくて、結構、研究機関という組織がどうしても絡むはずなんですよね、普通は。そういう組織がそういうマインドセットを持った動きをしているかどうかというのも結構大事で、いろんな施策でCOIなんていうのはそういう方向の施策で大学が動いているわけですから、そういうものをどう評価するかという問題もこれからあろうかと思います。ありがとうございました。
そうすると、次回、そういう議論をする時間を確保することで、かなり次回においては方向付けができないと、その後、もう1回か2回で終わりなんですよね。
【小田補佐】 9月の最後の日にこの委員会で開かれました議論をそのまま9月27日に総政特の方に現状案ということで持ち込んで、10月18日に最終的なセットをするようにと連絡が来てございます。その辺のスケジュール感、次回におきまして資料等で御用意して、もう一度、改めて御説明はさせて頂ければと思います。
【小林主査】 ということは、もう次回が一つ山場ですね。
【小田補佐】 はい。
【小林主査】 始まったばっかりなのに、2回目が山場になると。はい、頑張りましょうということで、新任の委員の方はびっくりされていると思いますけど、どうぞよろしくお願いいたします。
ちょっと時間を過ぎましたけれども、今日はこれで閉じたいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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