科学技術社会連携委員会(第13回)議事録

1.日時

令和2年10月30日(金曜日)15時00分~17時00分

2.場所

新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、オンライン会議にて開催

3.議題

  1. ELSIに関する取組に関する有識者ヒアリング
  2. 質疑及び審議
  3. その他

4.出席者

委員

小林 傳司 主査、内田 由紀子 委員、小野 由理 委員、小原 愛 委員、片田 敏孝 委員、調 麻佐志 委員、田中 恭一 委員、堀口 逸子 委員、横山 広美 委員

文部科学省

板倉 科学技術・学術政策局長、梶原 文部科学審議官、奥野 人材政策課課長、小田 人材政策課課長補佐

オブザーバー

説明者:
大阪大学・社会技術共創研究センター長 岸本様
科学技術振興機構社会技術研究開発センター企画運営室企画グループ主査 濱田様

5.議事録

【小林主査】 小林です。どうもお忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。定刻になりましたので、ただいまより、第13回科学技術社会連携委員会を開催いたします。
まずは、出席者、それから配付資料、オンライン会議の注意事項等について、事務局のほうから説明をお願いいたします。
【小田補佐】 事務局でございます。
初めに、本日は、科学技術社会連携委員会の員の10名のうち、9名に御出席をいただいております。したがいまして、社会連携委員会の運営規則第3条に定める定足の過半数を満たすことを御報告いたします。
それから、本日は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点からオンライン会議とさせていただいております。通信状態の不具合が生じるなど続行できなくなった場合には会議を中断する可能性があること、あらかじめ御承知おきいただければと思います。
次に、出席者の先生を御紹介させていただきます。
内田先生におかれましては、米国出張期間中でございましたので、今回、この第10期が初めての御出席となりますので、御紹介させていただきます。
【内田委員】 皆様、こんにちは。京都大学の内田です。昨年からアメリカにしばらくおりましたが、コロナのロックダウンの影響で予定よりも少し早く帰国をしてまいりました。しばらく留守にしておりまして申し訳ありませんでしたが、よろしくお願いいたします。
【小林主査】 よろしくお願いします。
【小田補佐】 内田先生、ありがとうございました。
それから、議題、ELSIに関する取組に関する有識者ヒアリングで各機関の取組を御紹介いただくために、大阪大学・社会技術共創研究センター、岸本充生センター長にも御出席いただいております。
【岸本センター長】 岸本です。よろしくお願いします。岸本充生といいます。よろしくお願いします。
【小田補佐】 それから、国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発センターの企画運営室のほうから平尾室長、それから浅野調査役、濱田主査のほうにも御出席をいただいております。
続きまして、事務局から資料について確認のほうをさせていただきます。
本日の資料につきましては、事前にお送りさせていただいている資料のほうにつけさせていただいておりますけれども、配付資料とした資料の1-1、それから資料の1-2で御用意させていただいております。もし欠落等がございましたら、事務局のほうにお知らせいただければと思います。
それから、事務的な話でございますけれども、議事録作成のために、本日、速記を入れさせていただいております。速記のために、発言する場合には、恐縮ですけれども、お名前をあらかじめおっしゃっていただいてから御発言いただけると助かります。
それから、トラブルが発生した場合には、事務局があらかじめ指定した電話番号に御連絡をいただければと思います。
また、本日のウェブ会議の様子はインターネットでライブ配信のほうもしてございます。省内関係者や事前に申込みのあった傍聴者の方々に御覧いただいていますことを申し添えます。
最後に、事務局のほうからは、人材政策課長の奥野、それから私、小田、中島のほうが接続をしてございます。
以上でございます。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、議事に入ります。
今日は、議題にありますように、ELSIに関する取組に関する――関するが2回だな、有識者ヒアリングでございます。
御承知のように、ELSIというのはEthical,Legal and Social IssuesあるいはImplicationsと言っておりますが、第4期の基本計画の辺りからこのコンセプト自体は取り上げられておりました。ELSIというのは、それまではどちらかというと生命科学を中心に取り組まれてきたわけですが、もう少し広く取り扱うべきではないかという議論は第4期の頃からありました。そしてまた、今年、科学技術基本法が改正されまして、専ら「人文・社会科学のみに係るものを除く」という文言が削除されて、人文・社会科学の基本法の中で扱うというふうに改正されました。その場合に、一つの有力な人文・社会科学的研究というのがELSIではないかという理解も広がっておりまして、現代においてELSIというのが結構大事だという認識はどんどん広まっているだろうと思います。
そこで、この委員会としても、このELSIというものがどういう営みであるのかということの解説及び大学における研究の状況を、今日は大阪大学の岸本先生にお話しいただくと。それから、JSTのほうでもファンディングとしてこのELSIをテーマとしたファンディングは開始しておりますので、それについての説明をしていただくということを今日は予定しております。
それでは、大阪大学・社会技術共創研究センターの岸本センター長、大阪大学の取組を御紹介いただきますようお願いいたします。よろしくどうぞ。
【岸本センター長】 岸本です。皆さん、よろしくお願いします。じゃあ、私のほうから共有を。そうしたら、20分ですかね、紹介させていただきます。
私個人はELSI歴1年とかで、ELSIについて語る資格があるのかと思うんですけど、個人的にはずっと社会科学系の人間でありながら産業技術総合研究所(産総研)というところに15年ほどおりまして、自然科学系の方々と一緒に安全性の研究とかそういったものをやってきましたので、ELSI的な研究をずっとしていたというふうに、後から振り返ったらそう思うんですけど、当時はELSIという言葉は全く知らなかったというか、あんまり関係あると思っていなかったという、そういう状況でした。
今日は、2020年、今年の4月に発足しました社会技術共創研究センターと、なかなか覚えにくい言葉で、ELSIセンターという形で通称として使っていただいています。社会技術を共創・研究するという、そういう形になっていて、社会技術ということで今日お話があるRISTEXさんとも共通点が多いと思っています。
実際、我々がこのELSIというものの研究の必要性を説明する場面でどういう説明をしているかということで言いますと、新規科学技術を社会実装するまでには数々のハードルを乗り越えなければならないということで、例えば安全性の問題、プライバシー・個人情報の問題、何かあった際の責任とか、悪用される可能性とか、法規制をそもそも遵守しているかとか、個人や社会に利益をもたらすか、差別や不公平を生み出さないのか、社会がそもそも受容してくれるのかといったようなことを、様々なハードルをクリアしないといけないんですが、過去を振り返ってみると、新規科学技術は様々なところでつまずいてきています。これは例を挙げると切りがないところですが、皆さんもいろいろ心当たりがある案件があるかと思います。
そして、特に最近は、例えばデータビジネスとかAIの実装ということで言うと、このシーズから社会実装までの時間的な距離というか、スピードが物すごく速くなっています。そうすると、より一層、ケアがおろそかになるという可能性が高くなって、御存じのとおり、様々な炎上案件が起こっているということがあります。
こうした中で、小林先生も含めて、よくトランスサイエンス領域と言ったりしますが、こういった間を埋めていくための学問として、僕は何となく2種類ぐらいに分けられるのかなと思っています。1つは、安全とセキュリティーの問題で、これはレギュラトリーサイエンスとかトランスレーショナルリサーチみたいな形で、技術開発をしている側からのアプローチとしてやられたりしていることが多いかなと思います。それに対して、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)というものに関しては、実証的に観察したり、規範的な分析をしたりという形で、やや社会の側というか、人文・社会科学の側からアプローチするケースが多いのかなと。こういったものが、ざっくり言うと社会技術なんだろうなと思っています。この中にも安全とかセキュリティーの問題は科学技術の延長線上で解決する問題も多分あると思いますし、プライバシーの問題も技術でクリアするようなプライバシー・バイ・デザインみたいな話もあるので、この2つをはっきり分けるのは難しいんですが、こういった間を埋めるための技術、社会技術を共創して、研究・実践し、さらにはこういったことが分かる人材を育成していくということをミッションとしてELSIセンターが生まれました。
御存じの方も多いと思うのですが、ELSIという言葉のそもそもをちょっとお話しさせていただきます。ELSIという言葉自体は、もちろん初めて聞くという方が大学の中とか一般市民の方とか非常に多いので、まるで新しい言葉であるかのような使われ方をすることもあるんですが、人によっては、特に生命科学やゲノムといったバイオ系の研究者からしたら、何でこんな使い古された言葉を今さら使うんだというふうに思う方も多分片やいると思うんですよね。そこで、我々は今、あえて今これをリバイバルするんだという言い方をしています。その理由に関してもちょっと後でお話しします。
そもそもで言うと、1990年にアメリカでスタートしたゲノム解析プロジェクト、ヒトゲノムを全部解読するというプロジェクトの中にELSI研究プログラムとして、当時はEthical,Legal and Social Implicationsという形でELSIプログラムがスタートしました。
外部向けの研究予算のうちの3%が割り当てられ、後に法律で「少なくとも5%」という形になりました。これがELSIに関する研究に割り当てられることになり、莫大な研究費が人文・社会科学系のほうに流れたと。この中には知財の話なんかも含まれているので、今、知財のことをELSIと呼ぶ分野はあんまりないかもしれないですが、広い意味で知財もELSIに含まれていたということになります。その後、複数の大学などにELSI研究拠点が時限つきでつくられたりしています。
ELSIという同じような考え方がナノテクノロジーにも適用されて、日本なんかでも脳科学とかコンピューターサイエンスなんかにも適用されていました。また、この近年のリバイバルの中の一つは、やっぱりAIというものが出てきたことが大きいと思います。AIが社会に実装されるというのがかなり進んできたということが挙げられると思います。
片や、欧州ではELSAと言われていて、Ethical,Legal and Social Aspectsという形で「側面(Aspects)」というふうに呼ばれています。後に、RRI(Responsible Research and Innovation)(責任ある研究・イノベーション)という、より広い概念に発展していくということになります。なので、特に欧州からすると、ELSIからRRIへというようなことになっているので、欧州の研究者に言うと、またELSIに戻るのかというふうに思われる可能性は十分あると思います。
日本では、主に生命科学の分野でELSIというものはもちろん研究されてきたんですが、過去、委員会のような、倫理委員会に近いような形で存在していることが多くて、非常勤の先生が年に何回か集まって倫理審査の支援をしたりとかアドバイスをしたりとか、そういう形でやられていることが多くて、研究プログラムとか研究拠点は長いこと存在しませんでした。最近は幾つかELSI研究という研究費がついたりはしています。
先ほど小林先生からもお話があったように、科学技術基本計画で「倫理的・法制度的・社会的課題」として登場しているという形で、日本の文脈だけで言うと、あらゆる新規科学技術にELSIという概念が適用されるというのにはすでにいろんなお膳立てがあったということが分かります。
参考までに、アメリカのゲノム編集でのELSI研究の研究費の経緯というものをお示ししたいと思います。ELSI研究は、研究者主導型とプログラム主導型に分かれています。合計額で言うと、最高が2010年ぐらいに2500万ドルということになっています。2004年ぐらい、赤い矢印がありますが、ここからは拠点がつくられました。Centers of Excellence in ELSI Research(CEERs)という形で拠点が幾つかの大学につくられたりしています。こういう形でかなりの金額がELSI研究というものに費やされたということが分かります。
その当然の帰結として、批判もたくさんあったようです。1つは、単純に費用対効果の問題として、これだけお金が費やされたのに大した研究成果がないんじゃないかという批判はありました。もう一つ大事な批判が、ELSIficationと言われたりする批判で、要するに、ELSI研究が人文・社会科学系が本来持っているとされる批判的な精神を失って、実際に研究開発、新規科学技術の研究開発をしている人に忖度するような、あるいはお墨つきを与えるためだけの研究になってしまっているんじゃないかという批判がありました。これ、当然、自然科学系の大きなプロジェクトの中で雇用されて、弱い立場で雇用されてやっていると、その研究に待ったとか、この使い方にちょっと待ったとか、そういうことをやると嫌われるというか、研究のブレーキをかけるんじゃないかという形で、例えばこの引用している文献には、「専門家としての誠実さを貫き、キャリアを捨てざるを得なくなるか、専門家としての誠実さを損なう妥協をしてしまうかという選択を強いられる可能性がある」とまで指摘されたりしています。これはいわゆるレギュラトリー・キャプチャーと、3.11の後に指摘されたような「規制の虜」のメカニズムと似ているんじゃないかなと思うんですが、理屈の上では当然こういうことはあり得ます。なので、だからといって、ELSI研究をしてはいけないとか、やるべきじゃないという話じゃなくて、我々としては、こういったELSIficationと批判されるようなことが当然起こり得るということを理解した上で、それを意識しながら、利益相反の一種だと思うんですが、これを意識しながら進める必要があるという形で、センターのメンバーにはこういう話をしているということです。
具体的に社会技術共創研究センターは、3つの部門と4つの機能という形で整理しています。3つの部門というのは、この青と緑と赤で書かせてもらいました。総合研究部門と実践研究部門と協働形成研究部門という3つの部門をつくっています。統合研究部門は、文字どおり総合的に研究すると。要するにELSIを抽出し対応するための研究、方法論とかガバナンスといったものを研究します。実践研究部門というのは、学内ですね、これは主に自然科学系の研究者、学外、これは事業者だったり、たまには行政だったりすると思います。そういった学内・学外の研究者・事業者と連携して共同研究を進めていくという部門で、ここの部門長を私はセンター長とともに兼務しています。もう一つが協働形成研究部門で、これは学外のステークホルダーをつなぐ取組としてワークショップ等を行うようなことを考えています。幅広い市民の声を産業界・行政機関等につなげるということをやっています。今年度は、始まって早々なかなか対面でできなかったので、オンラインでこういう市民向けワークショップをやるような方法を開発したりしています。
この3つの部門、それぞれ非常に重なって、独立でやっているわけじゃないんですが、協働してELSI人材の育成ということも掲げています。これは、もちろん学内もそうなんですが、広く産業界や行政機関にも展開して、ELSIを専門にやるというよりは、ELSIということが分かっている人材を創出して、社会の中で定着させる機能を担うということを考えて、教育のプログラムを開発したりとかそういうことをやっています。
これが7月時点のメンバーリストです。分野は書いてないんですが、今日御出席の委員の先生方もよく御存じの方も多いんじゃないかと思うんですが、人文・社会科学系、広くまたがっており、八木先生は元工学系ですし、僕も含めていろんな経歴を持っている方がいます。
学内ではこんな感じで様々なところとつながっているという説明をしております。大阪大学の中では、URAなんかとよく連携して、URAが紹介する形で、「何とか学部の何とか先生がちょっとアドバイスを求めている」とか「今度大きな公募に出すんだけど、入ってくれないかと言っています」みたいな取次ぎをしてくれるときもあるし、直接、我々のほうに連絡が来る場合もあります。兼担教員が40人ぐらいいまして、人文・社会科学系を中心に、こういった問題に取り組むことができるような人をたくさんそろえていて、何かあったときにマッチングをして、人文・社会科学系の先生の新しい一つの仕事というか、スタイルをつくっていければいいなと考えているところです。研究開発に参加したり、助言したり、研究公募に参画したり、人文・社会科学系の先生たちとは人材マッチングして新たな活躍の場を提供したいと考えています。事業者とか事業者団体とは受託研究とか共同研究をもう既に2件ほど始めていたりします。結構引き合いがあります。その話はまた後でさせてもらいます。
あえて今、このELSIという、人によっては使い古されたと感じるような概念を大々的に掲げる理由として、いろんな点があるかなと思っています。
1点目は、これ、大阪大学のビジョンの話を掲げたんですけど、近年、様々な大学で似たようなことを掲げているんだと思うんですが、「世界屈指のイノベーティブな大学を目指す」ということで、イノベーションの中にやっぱり社会実装という側面は欠かせないと思っていまして、これ、もちろん科学技術に関わらず、いろんな社会技術も含めて実装するという中でELSI概念というのが必要不可欠だろうと考えています。
それから、AIが、あらゆる分野、大学で言うとあらゆる部局に広がりつつあって、パーソナルデータを使ったりとかで人々の行動に影響を与えるような場合、何らかの倫理的問題が生じる可能性は十分あって、その中で、あらゆる部局にそういう担当者を置くわけにもいかないので、そういったものを一括で扱えるような部署が大学の中にあると非常に便利なんじゃないかということで、役に立ちそうな気がしています。
それから、事業者の中で、やっぱりデータビジネスかいわいで、今、ELSIという言葉が結構ブームになっています。かなりの人が知ってきています。我々にも問合せが結構来ています。こういったところは、社内の人材育成までやりたいと、ELSI教育をしたいというふうにオファーをしてくるところまで出てきています。
同じように、AIの普及で事業者が「倫理」という言葉を掲げるようになっています。今まで多分、「倫理」という言葉は事業者にとっては非常にハードルが高い言葉だったし、倫理委員会みたいな形でちょっと怖い存在だったと思うんですよね。これが、AI倫理とか、倫理指針とか、割とそういうのを普通に掲げるようになってきたというのが最近の傾向だと思います。
それから、資金提供機関、ファンディングエージェンシーですね、RISTEXさんを含め、研究開発公募に当たって、ELSI対応ということを明記する場面が増えてきています。こういった中で、大学としてもうまく全学的に対応するという必要があるんじゃないかと思っています。
もう一つ、昔はやっぱりELSIというと、事業者とか自然科学系の研究者にとって敵かというふうな見方をされることが多かったといいますけど、やっぱり最近、むしろ味方だという認識が非常に広がってきていると思います。
もう一つは、今まで産学連携というと、自然科学系、情報理工系、医学系が多かったと思うんですが、人文・社会科学系での産学連携の可能性がこれですごく広がるんじゃないかなと思っています。
それから、後でこのLとEとSを分けるという話をちょっとしますけど、リーガル対応だけでは不十分だという認識が事業者の中では物すごく広まっています。なので、エシカルとかソーシャルということをどう考えたらいいか、取り組めばいいかということがすごく課題になっています。
そして、Society5.0はもちろん、スマートシティーとかスーパーシティーとか、大阪だったら万博とか、やっぱり新規科学技術を社会実装するという側面が必ずついて回ると思うんですよね。こういう中でELSIというのは必須だという認識も広がってきているんじゃないかと思います。
そのEとLとSを分けるという、これは法律をやっている方とか倫理学の方とかに説明すると「雑駁過ぎる」と言われると思うんですけど、ELSIって今までずっと技術以外のその他全てみたいな使われ方を生命科学の中ではしているんですね。主に、「ELSIをやっています」と言うと、多分、倫理、生命倫理とか医療倫理をやっている人なんですよね。ところが、事業者にこのELSIの話をすると非常に受けがいいのは、このLとEとSを分けて考えるというアプローチがあります。Sは、世論というように変化しやすい。Eは、短期的には安定であると。ただ、長期的には変わるんだけど、社会において人々が依拠すべき規範であって、理想的には法(L)の基盤になっていると。Lは、Eからの不断の見直しを受けると。こういうふうに分けると、それぞれが必要だろうということになってきます。
例えば、法的にはオーケーなんだけど、倫理的・社会的にはダメということが最近は増えています。つまり、法規制を遵守していても炎上するということがあります。それは何が欠けているかというと、それに至る手順とか、社会との対話とか、そういったものが欠けているということで、Lだけでは不十分だという話は事業者の方に物すごく納得していただきます。それから、法的には駄目だけど、社会的にはオーケーになりうるもの。これは新規科学技術ほとんどのものに当てはまります。例えばドローンにしても、自動運転にしても、これ、現行の法律では最初はダメなんですよね。だからといって、やめましょうと言っているようじゃイノベーションも何もなくて、国際競争にも負けてしまうわけですよね。そういう意味で正しいアプローチは、ロビーイングをして法規制を変えてもらうということになるわけですね。こういったことまで取り組まないと、新規科学技術のイノベーションということはつながらない。さらに、倫理的にはどうか分からないのであれば、開発側から倫理原則を先に提案するんですよね。そういう、我々、最近、「攻めのELSI」とか言ったりするんですけど、そういう形で事業者の方と一緒に考えたりしています。
理想的なELSI対応というのは、ELSIを発見して、ELSIに対処して、ELSIを解決すると、そういう流れかなと考えています。これ、EとLとSを分けて考えても、こんな、ちょっと理屈っぽいですけど、それぞれミスマッチが起こると。新規科学技術が社会に実装されるとミスマッチが起こって、それを事前に予想する。で、それを事前にできればギャップを埋めていこうという形で、法的・倫理的・社会的なアプローチがあるだろうと。その結果として社会イノベーションが生まれる。新しいガイドラインができたりとか、新しい概念が提唱されたり、新しいガバナンスのスタイルができたりとか、新しいライフタイルが提案されたりとか、そういう形で解決につながるだろうと。特にテクノロジー・アセスメントとか言われているものは、このELSIの発見・対処という、この前のほうを対象とする概念だろうと思います。フォーサイトとかホライズン・スキャニングみたいなのは最初のところだろうというふうに整理できるんじゃないかと考えています。
最後は、センター、半年たちましたが、どんなことをやってきたかというのをさっとまとめてみたもので、ELSI NOTEという、簡単に分かりやすく成果を出せるという形式を作りまして、今まで5冊か、6冊だったかな、出ています。No.04は「接触確認アプリとELSIに関する10の視点」というもので、接触確認アプリが議論され始めた4月の末にバージョン0.8を出して、利用者目線でこういったポイントをチェックすべきだということを10点挙げて、その中で枝分かれしてもっと細かくあるんですが、それぞれに対してチェックすべき項目を挙げて、接触確認アプリのCOCOAがリリースされた際の1.0では、厚生労働省の公式ページの記述とチェックして読み比べをして、対応しているところ、していないところを赤と青で示すということをやったりしています。
すみません、以上でございます。御清聴ありがとうございました。
【小林主査】 どうもありがとうございました。
もう1件、御報告はいただきますけれども、後でまとめて議論の時間取りますが、今の岸本先生の報告で、何か事実的な確認とかそういうのがあれば幾つか。もしあれば、「手を挙げる」を使っていただくとありがたいのかな。何かありますか。横山先生、どうぞ。
【横山委員】 ありがとうございます。すごく勉強になりました。小林先生、岸本先生、ELSIセンターを立ち上げてくださって、私たち関連分野の者は非常に心強く思っております。
ちょっと事実確認でお伺いしたいのが、ELSIficationと言われたときに、どこまでが批判の対象になっているのかというのをお伺いしたく思いました。例えば宇宙開発分野では、アルテミス計画を国がやります、日本も参加しますというふうに決めた後の、要するにフレームが決まった後の議論をELSIに投げるというような雰囲気が今強まっており懸念しています。国の決定自体のフレームを問うということもELSI予算の中で当然本来はやるべきことだと思います。そうした政治的決定に対するELSIの議論の在り方というのが米国でどうなっているのかをお伺いできたらと思いました。お願いします。
【岸本センター長】 基本的にELSIficationが言われた文脈ってゲノムだったり生命科学の分野なので、ちょっと宇宙の分野に当てはまるかどうかは分からないんですけど、やはり、そもそもの枠組み自体を問うみたいなことがやられていないという批判はどうもあるみたいです。ただ、ELSIficationという言葉自体も、ちょっと調べると中立的に使われているのもあって、単にELSI研究が組み込まれているということだけを言っているのもなくはないんですね。なので、結構、人によって温度差はあるように思います。
【横山委員】 ありがとうございます。またお願いします。
【小林主査】 ほか、よろしいですか。調さん、どうぞ、お願いします。
【調委員】 興味深い話、ありがとうございました。ちょっとしようもない質問になってしまうんですけれども、ELSIficationと言われると、もう一つ別のELSIficationみたいなことが言われそうな気がしたんですね。それはつまり、理工系のというか、科学技術を推進する側から見て、「何でもELSI問題にしてくれるよ」みたいなことを言うのもELSIficationという言葉で何となくイメージされるようなことだと思うんですけど、そういう問題というのはあまり起きていないんでしょうか。
【岸本センター長】 私はあんまり認識してないですね。逆に、そこまで言われるぐらいELSIというものが強力になったらうれしい悲鳴じゃないですけど、ぜいたくなことかなという気もしますが、確かに強くなり過ぎるとそういうことはあるかもしれないですね。ありがとうございます。
【調委員】 分かりました。ありがとうございます。
【小林主査】 ほか、よろしいですか。また後でちゃんと併せて議論はできますけれども、確認のような質問がなければ、RISTEXにお願いしましょうか。はい、どうもありがとうございました。
それでは、続けて、JSTの社会技術研究開発センター企画グループの濱田主査からJST RISTEXにおける取組を御紹介いただきます。それでは、濱田主査、お願いいたします。
【JST RISTEX】 ありがとうございます。画面共有にてプレゼンテーションさせていただきます。では、本日は、「社会技術研究開発におけるELSI/RRIへの取組」と題して御紹介させていただきます。以降、科学技術振興機構はJSTと、社会技術研究開発センターはRISTEXと略称で述べさせていただきます。
スライドの2枚目につきましては、JSTで推進しています事業の全体像をお示ししております。この社会技術研究開発は、国が定める戦略的な目標の達成に向けた革新的技術シーズの創出を目指す戦略的創造研究推進事業の中で推進をしているものです。
スライドの3枚目は、当センターの現在の運営体制をお示ししたものです。センター長をプログラムディレクターとしまして、現行では6つの領域及びプログラムが推進してございます。各領域プログラムにはプログラムオフィサーとして外部有識者の方に総括をお願いしております。この社会技術研究開発事業につきましては、大学や企業の研究者の方、それから自治体やNPO等の実務家の方に広く公募によって研究開発提案を募りまして、選考プロセスを経て、JSTからの委託事業として研究開発プロジェクトを推進している公募型の事業となります。領域やプログラムの総括には、それぞれの目標達成に向けて、研究開発プロジェクトの採択から推進、評価までプログラム全体をマネジメントしていただいております。
スライド4枚目は、RISTEXにおけるELSI/RRIの取組方針について御紹介をしたいと思います。RISTEXは、前身となる組織が2001年に設置されて以来、20年ぐらい活動を続けてきておりますけれども、設立の背景は、1996年のブダペスト宣言によります。ブダペスト宣言では、科学技術の在り方につきまして、「知識のための科学」というそもそもの科学の在り方に加えまして、「平和のための科学」、「開発のための科学」、「社会の中の・社会のための科学」というものが再定義されたわけですけれども、この4つ目の「社会の中の・社会のための科学」、これを具現化するために設置された組織でございます。
RISTEXではこれまでも、岸本先生もおっしゃいましたが、ELSI/RRIという概念がある前からこの科学技術・社会の関わりについて取り組んでまいりましたが、現在、ELSI/RRIにつきましては大きく2つの柱で取組を行っております。1つは、ELSI/RRIの研究開発を促進するファンディング・プログラムの実施、これは現行の「人と情報のエコシステム」研究開発領域(HITE領域)と、科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム(RInCAプログラム)、この2つが該当します。もう一つの柱は、ファンディング機関の取組としまして、JST内の基礎研究開発事業と連携したインターナルな試行を行うということも取り組んでございます。
本日は、この中からファンディング・プログラムのRInCAプログラムについて御紹介をしたいと思いますが、要は、自然科学を中心として実施されている科学研究や技術開発に対して、人間や社会との接点については人文・社会科学の領域である、あるいは、岸本先生がおっしゃったように、倫理的・法制度的・社会的課題への取組はその外側に存在する課題である、といった雰囲気は世界共通のものであると思いますけれども、それら自然科学と人文・社会科学を統合して実際の社会を対象として研究開発することで、具体的なELSIの対応のみならず、ひいてはELSI/RRIの取組が、研究開発・技術開発・イノベーションの活動の中に一体化して自律的に推進されていくこと、これを究極目標として目指しております。
スライドの5枚目以降につきましては、このRInCAプログラムについて御紹介をしたいと思います。
スライド6枚目で背景と問題意識を書かせていただきました。科学技術と社会との関係における議論は、第2次世界大戦後に科学技術が人間や社会・環境にもたらす負の影響への意識の高まりが一つの契機となりまして、その後、米国や欧州でELSI/RRIの概念が発展してきたというところは、岸本先生から御説明あったところでございます。また、このような中で、国際社会や産業界においても、現在、SDGsをはじめとするグランドチャレンジへの対応は重要なミッションとなってきていること。また、ESG投資も世界市場で急速に拡大しているといった背景があるかと思います。一方で、日本でも、科学技術と社会への関わりについての取組は存在してございまして、まさにこの社会連携委員会で議論されてきた机上資料の文書などは、まさにその経緯を言葉を紡いでまとめてこられたものと考えております。ですが、現在の日本で自然科学と人文・社会科学の協働、また、ステークホルダーとの共創、これが本当に実効的にできているのか、科学技術の研究開発の後追い的なELSIではなく、一体化して相乗効果を生むような取組が推進されているのか、また、そのノウハウや人材が定着しているのか、それをもっと加速すべきではないかというのがこのプログラムの問題意識です。特に新興技術(エマージング・テクノロジー)については、科学技術と人・社会との関係性そのものを変容してしまう。そういった未来に向けて、このELSI/RRIの取組を日本に根づかせることに貢献していきたい。これがこのプログラムの目指すところです。
スライドの7枚目は、本プログラムのミッションと基本的な考え方を御紹介しておりますが、真ん中の囲みのところで、このプログラムが新興技術のELSI/RRIの取組について大きく3つに類型化した、この考え方を少し御紹介したいと思います。
まずは1つ目、既にELSIが顕在化しているもの、これは事後的(ex-Post)な取組と考えています。例えば、自動運転の安全性に係る法的規制や、意思決定支援で広範な利活用が展望される人工知能、3Dプリンターによる個人の製造物責任、ゲノム編集技術の応用などが考えられるかと思います。これらは既に技術開発の現場でも課題が認識されておりますので、その対応策について人文・社会科学の研究者やステークホルダーが協働すること、また、いかに技術研究開発の在り方にフィードバックをかけていくのかといったところがポイントとなると考えております。
2つ目は、科学技術そのもの、あるいはELSIにつきましても不確実性があって、課題も顕在化していないけれども、将来起こり得る影響やリスクをいち早く予見して、その調整を図るべきケースと考えております。例えば、合成生物学やマテリアルズ・インフォマティクス、人間拡張工学、気候工学などが想定されます。これについては、まだ技術も実装されておりませんので、科学技術をいかに社会が受容して適用していくのかという視点からの議論だけでは不十分であると考えます。まさに人文・社会科学の知見が力を発揮すべき人や社会のあるべき姿といった前提の議論というのが強く求められる領域ではないかと考えます。
3つ目は、新興技術以外につきましても早急に取り組むべきELSI/RRIがあるかと考えております。既存技術が社会に応用される、政策に導入される、また、そこから生まれるサービスによって生じるELSIというものがあると思います。例えば、生体認証技術の活用とプライバシー、ブロックチェーン技術の応用における倫理やガバナンス、行動経済学のナッジ手法を公共政策に適用する際の倫理、感染症予防ワクチンにおける安全性の考え方、また、デュアルユース、こういった問題が想定されます。これらは、ELSIについての検討が急務であるとともに、それに取り組むことによってイノベーションが加速する分野でもあると考えられます。
スライドの8枚目は、本プログラムの目標と研究開発対象の要素をお示ししております。詳細の説明は省略いたしますが、この3つの柱、それから根源的問いへの考察や、イノベーションの先に見据える社会像の提示など、全ての研究開発が基盤的に取り組む課題というものも掲げております。今後、複数年度にわたって公募を行いまして、ELSI/RRIの実践的な協業モデルの研究開発を行っていきます。それらの成果を束ねて、ELSI/RRIの営みを定着に資するように続けていくということを考えております。
スライドの9枚目は、本プログラムのマネジメントの特徴を御紹介しております。社会技術研究開発のポリシーの下で、人文・社会科学、自然科学、ステークホルダーの知を結集すること、また、日本社会が抱える課題や具体的な技術を出発点としつつ、グローバルな視点を持って取り組むことと、こういったことを各プロジェクトには求めておりますが、これらに取り組むことがそう簡単ではないということは重々承知をしております。そこで、本プログラムでは3つの工夫をしております。1つ目は、現在推進中のほかの研究開発事業やプログラムとの連携や接続を含めたジョイント・プロジェクトの提案を歓迎すること。2点目は、チーム・ビルディングをサポートするネットワーキングの機会、これを積極的に提供すること。これは既に採択した課題だけでなくて、これからこのプログラムに提案を考えたい、ELSI/RRIに取り組みたい、こういった個人や組織の方も対象としまして、直近では2021年の1月から実際にワークショップなどを開催していくことを考えております。3つ目は、全てのプロジェクトに求めている根源的価値に対する問いの追求と言説化という哲学的な取組について、専門家チームがサポートをして一体となって取り組んでいく体制を持つこと。こういった工夫を行っていきたいと考えております。
スライドの10枚目は、このプログラムのマネジメント体制です。総括には、社会心理学の専門家でいらっしゃる唐沢かおり先生に御就任いただいております。また、その総括に専門的立場から助言するアドバイザーとして、多様な分野の専門家、実践家の先生方に御参画をいただいております。
スライドの11枚目は、今年度5月から6月にかけて実施しました公募の結果概要となります。本プログラムは、研究期間が1年から3年、最大5年間にわたって実施できる、年間1,500万円規模の研究開発プロジェクト、それから、次年度への公募提案を前提として単年度・少額で研究設計に取り組むプロジェクト企画調査という、2つの枠組みを持っております。今年度は、研究開発プロジェクトで6件、企画調査で12件の課題を採択いたしました。
スライドの12枚目は、今年度採択しました課題の一覧となります。18課題のうち、COVID-19に関連する課題も4件採択をしております。
スライドの13枚目、それから14枚目にわたりまして、採択した研究開発プロジェクトを御紹介しておりますが、時間の都合上割愛させていただきまして、ホットイシューに取り組んでおります2つの課題をピックアップして御紹介させていただきます。
1つ目は、江守正多先生の「脱炭素化技術の日本での開発/普及推進戦略におけるELSIの確立」という課題になります。これは、直近、菅首相からも2050年までのGHG排出ゼロ削減の宣言がありましたように、このテーマにまさに取り組む課題となっております。二酸化炭素の除去や回収・利用・貯留に関するCDR、CCUSといった新興技術、それから再生エネルギー・蓄電池の大量普及や、高効率火力発電、原子力発電の継続活用に関するELSIに取り組みます。これまでのテクノロジー・アセスメントというものは、主に技術的観点、経済的観点での評価がなされてきましたが、そこにELSIの観点、例えば世代間の公平性や、科学技術イノベーションの戦略性をもって評価する新しい枠組みを提案しようとするものです。
もう一つは、田中幹人先生の「現代メディア空間におけるELSI構築と専門知の介入」という課題です。こちらは、今まさに直面していますCOVID-19のELSIについて取り組む課題です。COVID-19を機に顕在化したメディア空間におけるELSIの議論構築、このメカニズムを解明しようということに取り組む課題です。今は、科学技術と社会の関係についての社会的議論の多くは、マスメディア・ソーシャルメディアの中で展開されていると思います。殊COVID-19のリスクに関する議論というのはその顕著なテーマであると思いますので、このプロジェクトとして最初のターゲットとして取り組んでまいります。なお、代表者の田中幹人先生は、日本のサイエンス・メディア・センターを立ち上げたお一人でして、その国内外の幅広いメディアネットワークを駆使して取り組んでいただくことを期待している課題でございます。
スライドの15枚目、文字が小さくて恐縮ですが、御参考資料です。このRInCAプログラムの今年度初期のロジックモデルをお示ししてございます。研究開発活動、研究開発成果、成果の受け手・担い手、そのアウトカムと目指すゴールという形で検討を進めております。先ほど御紹介しました3つの研究開発要素、それから基盤となる活動、それぞれのアウトプットが出てきて、それらを束ねて実践的協業モデルとして提示をしていくという設計になっております。そのクライアント、受け手・担い手としては、イノベーションのステークホルダーである企業や投資家といった産業界、そして法政策や規範の実装の担い手となる政策立案者、研究開発現場の研究者、イノベーションの担い手でありエンドユーザーでもある市民セクター、そして共創的イノベーションの媒介者となるカタリストやコミュニケーター、実践の場と人材を生み出す大学等、こういったクライアントを想定しております。ポイントは、ELSI/RRIの研究開発は、研究開発の後に成果を渡せばよいといったリニアなモデルではないということかと思います。共創的イノベーションは、研究開発現場とクライアントがまさに一体となって、同時並走で、かつ即応的に現場が動いていくというところにポイントがあると思います。
こちらのスライドも御参考資料ですが、RISTEXにて科学技術と社会に関わる各国の主要研究拠点をリサーチした概観表となっております。直近の動きとしましては、先ほどの岸本先生の御紹介にもありましたが、日本国内でも一、二年のうちにELSIに取り組むことを明確に掲げた拠点が立ち上がりつつあります。中でも人材育成に直結する教育プログラムと連動しているのが北海道大学と大阪大学の拠点ではないかと認識しております。このRISTEXのRInCAプログラムとしましても、国内外の各拠点とも適切に連携をしながら、日本のELSI/RRIの活動の推進と定着、発展に向けて努めていきたいと考えております。
駆け足でございましたが、プレゼンテーションは以上となります。御清聴ありがとうございました。
【小林主査】 どうもありがとうございました。1つだけ訂正をしたほうがいいかな。最後から2枚目のスライドの世界の研究組織のスライドありますよね。あれのOne Hundred Year Study on云々かんぬんというのは、ケンブリッジって書いてありましたけど、あれ、スタンフォードです。
【JST RISTEX】 失礼いたしました。
【小林主査】 RISTEXはあれを間違えたままでずっと使っているので、直しておいたほうがいいと思います。
【JST RISTEX】 御指摘ありがとうございます。差し替えさせていただきます。
【小林主査】 あと、ミュンヘン工科大も、実は、2011年の福島の事故を見て、このままの工学一点張りでやるというのは限界があるというふうに思って、技術と社会のセンターをミュンヘン工科大学が創ったって設立者が言っていましたけど、そういう影響を及ぼしたんですね。だから、ミュンヘン工科大もそういうことをやっていると。それに対しては、ミュンヘンというのはそういう街なんですけれども、BMWが、次の新車を考えるときにはミュンヘン工科大の卒業生でいいんだけれども、次の時代のモビリティーを考えるときは、従来の工科大学の卒業生だけでは困るので、こういうセンターの視点を持ったところと共同研究をしたいというふうに言ってきたという言い方をしていましたので、そういう意味では、産業界も、技術をとんがらせるだけではないものを求めているという時代がドイツなんかでは2011年ぐらいから生まれてきていたと思いました。ちょっとそれは補足でございます。
それでは、2つELSIに関する取組を御紹介いただきましたので、これから1時間程度時間ありますので、いろんな角度から御意見あるいは質問などを受けたいと思います。どうぞお願いいたします。手を挙げていただければと思いますが、いかがでしょうか。静かですね。どうですかね。今日は小野さんいらっしゃいますよね。小野さんいらっしゃる?
【小野委員】 はい、おります。
【小林主査】 オープンイノベーションセンターとして、こういうふうなタイプの議論というのはどんなふうにお感じになったのかというのは、ちょっと御意見いただけると。
【小野委員】 はい、ありがとうございます。新しい技術が入ってくるときに、それが社会にどう受け入れられていくかというのは結構大きな論点だと思っております。相対でいうと日本はこういった議論が遅れていると認識をしており、勉強になりました。特にこれから、人体拡張など、人と機械が融合していくことが進むといわれています。いわゆるDXの世界だけではなく、バイオトランスフォーメーションや、コミュニケーショントランスフォーメーションといった、脳と脳が直接コミュニケーションするような事象はおそらく出てくると思われます。そういう未来の社会を考えると、技術がどんどん先に進んでしまうときに、必要以上にそれを止めるということは社会の発展上よくない。一方で止めないといけないところもあります。詳細にルールをつくるということが難しい中で、どのように適切に技術の発展を促すのかというのをルールづくりというのをしていくのがいいのか、非常に難しい、解がまだない課題なのだろうと思います。ELSIの議論は、ここに有効なのだと思いますがまだ試行錯誤と感じています。
すみません、何か感想みたいな感じで申し訳ないです。
【小林主査】 いや、おっしゃるとおりで、今、どんどんとそういう取組を、もう技術は進んでいっているわけですけれども、あと最近だとスマートシティーなんかもカナダで止まりましたよね。グーグル降りましたよね。
【小野委員】 そうですね、はい。
【小林主査】 ああいう問題もあって、日本でもいろんな地域にそういうモデル都市をつくってなんていうことをやるんですけれども、これ、不用意にいくと炎上するリスクはあるんじゃないかというような議論はどうなんですかね、産業界とかそういうところではちょっと意識されているんですかね。この辺り、岸本さん、どんな感じですかね。産業界からも引き合いがあるとかいうふうにおっしゃっていたけれど。
【岸本センター長】 そうですね、大阪文脈で言うと、2025年万博まで含めて、やっぱりスマートシティーから、あと具体的に大阪の中心部の「うめきた」の2期開発とか、いろいろそういった案件がたくさんあるので、そういう話はぽつぽつあったんですけど、僕の主観で言うと、今年度かな、最近、リアルに皆さんが――前はこういうことも大事だよねという感じだったのが、リアルに具体的にどうしようというフェーズに入ってきているような印象を持っています。取りあえず感想です。
【小林主査】 ありがとうございます。
ほか、いかがですか。質問とか、これはどうなっているとか、何かあればぜひお願いしたいですが。
【岸本センター長】 あとすみません、さっきの小野委員の話でちょっと付け加えると、人体拡張とかブレーン・マシン・インターフェースみたいな話では、治療行為については大阪大学でも医学部の中にELSIを研究するところはあったんですけど、やっぱり医療とか医学の枠を超えるような話が大分多くなってきている印象があって、そうなると、臨床試験の手順とか、倫理審査をどうやってやるかとか、そういう従来の話を超える話が出てきて、部局も医学部だけじゃなくて、情報だったり工学部だったりいろんなところが関わってくるので、そういう意味で、まさに脳科学をやっている先生方とELSIに関する議論を始めているところです。共同研究的なことをやっていこうということをやっています。付け加えです。
【小林主査】 そうしたら、堀口さんかな。
【堀口委員】 お話どうもありがとうございました。すみません、全体的な話ではないんですが、岸本先生にちょっとお尋ねしたくて手を挙げました。
最後に事例で出していただいたELSIセンターの実績のところに、この間の接触アプリの提言、さっきちょっとホームページでも拝見させていただいたんですけれども、これ、実際に運営している厚労省とかには届いている話なんですかね。というのは、新しい科学技術というわけじゃないですけれども、みんなで研究グループをつくってやっていきましょうというときにはELSIのことも頭にあるんですけど、ちょうど私、渦中にいて、必死で、すっかり頭から抜け落ちていたわけではなく、そういうふうな頭で考えてはいなかったなというのがありまして、まだ続いていますけど、反省する材料としてはとても重要なのかなとも思っていて、これがどういうふうに厚労省の中とかそういうところに行き渡っているのかなと今ちょっと思ったので、教えていただけるとありがたいです。お願いします。
【岸本センター長】 ありがとうございます。公式なルートでインプットしたというよりは、私は、センターの招聘教員をやってもらっている工藤郁子さんと一緒に作ったんですけど、工藤郁子さんの個人的なルートでプライバシーとかセキュリティーを考える有識者検討会のメンバーに回覧されたというか、工藤さんの言い方で言うと怪文書のように出回ったと言っていましたけど、そういう形である程度の非公式なインプットはなされたと理解しています。実際、有識者検討会が出された報告書がある種のプライバシー影響評価書みたいな文書になっていて、そこに――因果関係は分からないです。そもそも我々がこんなことを言う前から入っていたかもしれないし、もしかして参考にしてくださったのがあるかもしれない。そこは分からないんですけど――相当いろいろ入っております。
ただ、僕がちょっと問題だなと思っていたのは、結局有識者検討会の提言が実際の仕様に取り込まれたか、取り込まれていないかということの説明がオフィシャルに厚労省側からないことです。通常、そういう提言が出ると政府側から、何を取り込み、何が取り込まれなかったか、取り込まなかった理由は何かを説明するレスポンスが出るというのが普通かなと思うんですけど、それがなかったので、最終的に有識者検討会で提言されたことが取り込まれたかというところまでは分からないし、実際すべては取り込まれてないと思います。
【小林主査】 堀口さん、どうぞ。
【堀口委員】 ありがとうございます。公式にそういう会議の場で出るというのも絶対必要なことなんですけど、やっぱり緊急時とかってなると直接役人にまくというのが一番重要かなというふうに、中にいて思いました。なので、このELSIの議論をするときに、じゃあ、今からこういう研究をスタートしますよ、みんなでやりましょうねという部分と、やっぱり何かちょっと緊急時って違うのかって今日も話を聞いていて思った次第で、緊急時にほかの国とかどうしているのかなとかって、そういうのも私はちょっと分からないので、もし御存じだったら教えてほしいなと思いました。
【岸本センター長】 多分、科学的助言の在り方というような広い話につながる問題だとは思っていて、その科学的助言の中にELSI助言というのが必ずあるはずなんですが、日本でその辺の議論がまだ十分煮詰まっていないのと、やっぱり科学的助言というときに割と硬い科学中心に考えておられる方も多くて、こういう不確実なものをどういう場合にどういうことを対応すべきかといった、ELSIというのは多分そこに入ると思うんですけど、そういった議論がまだ十分足りていないのかなと思っているので、そういったこともインプットできるようになればいいなと思っています。
【小林主査】 これはすごく大事な問題で、科学的助言という枠組みの中で議論すべきなのかもしれませんが、今回のコロナに関しては、武藤香織さんからもそういう問題提起を、私、個人的に受けたことがありまして、やはり緊急時に相当そういうELSI的な話題があると。それをどのように適切にフレーミングをして、そして必要なところにインプットするかという、そういう経験というか、チャネルを我々は整備してないんじゃないかと言われて、そうだなと思いました。これはどこかでまた考えるべきかもしれないと思います。
手が挙がっているのは、あと小原さんですね。その後、内田さん、そして田中さんかな。それじゃ、小原さん。
【小原委員】 ありがとうございます。岸本先生にお聞きしたいのですが、私、Japan Innovation Networkという、企業向けにイノベーション加速支援を行っている団体の者で、昨今は特に、大学の先生が途上国で見つけられたSDGsに関連する課題と大学の先生の科学技術と、あと民間企業の技術・ノウハウをつなげて一緒にビジネスモデルをつくりながら、課題を解決していこうというのを支援させていただいているというバックグラウンドでこの委員会に所属させていただいています。岸本先生が「ELSIを法律と規範と世論に分解して説明すると、民間企業の人たちはよく理解できる」とおっしゃったのと、「ドローンや自動運転などの新規社会科学技術には、法的にはバツで、規範ははてなだけれど、世論はマルというものが多い」とおっしゃったのが非常に面白いと思いました。民間企業は、世論は非常に気にするので、自分たちで解決できると思いますし、法律については、厚い壁があれば現状に合わせて変えていこうと働きかけると思うのですが、規範のところが実は民間企業はすごく迷っていて、大学などと連携して、どう対応すべきかという解を見つけていきたいと思うところだと思うのですが、規範について、先生のセンターは民間企業と連携してどのような動きをされていらっしゃるかお聞きできればと思います。よろしくお願いいたします。
【岸本センター長】 ありがとうございます。岸本です。おっしゃるとおり、事業者からのニーズが一番多いのもそこです。と言いながら、僕はせいぜい5事例ぐらいをもとにしゃべっているので、どこまで一般化できるか分からないんですけど、この半年で経験したので言うと、やっぱり事業者さんって法務部というのがもともとあって、弁護士さんがいたりするんですけど、ここで言うS、社会とか扱っているのが広報だったり、ちょっと違う部署が扱っているので、必ずしもそこが連携していないということで、何かそういった(横断的な)ELSI対応部署みたいなのをつくりたいというようなことを言われているところもあります。確かにそこは縦割りで分断されているので、一緒にやると総合的な対応ができるかなと思ったりしています。
このLとEとSを分けてはいるんですけど、これは厳密に分かれるものじゃなくて、特にEとSなんてすごい曖昧だったりすることもあると思うんですね。ここで言うEに入るのと、あとEとLもすごく曖昧で、いわゆるハードローとソフトローみたいな形の言い方をするとソフトローである、要するに、例えば事業者団体が行動指針・行動規範をつくる、コード・オブ・コンタクトをつくるみたいなやつは、ここで言うEにどっちかというと入ったりします。あるいは企業の中でも倫理指針をつくるとかAI倫理というのを掲げるとかいうのから、もう少しトランスペアレンシー、アカウンタビリティーみたいな大きいやつからちょっと落として、それを行動原則みたいにするというと、もう少し具体的にしていくと。最後は、結局、従業員一人一人の日々の行動にどう影響を与えるかという、そのピラミッドの頂点からめちゃめちゃ日々の行動の具体的な行動までがやっぱりつながっているのが一番いいんですよね。ただ、よくあるのが、行動原則ってすごい美しいものを5原則とか掲げて、結局、掲げたけど、日々の従業員の活動をどう反映したらいいかよく分からないみたいなところがやっぱり多いと思うんですよね。なので、そこを何段階かに分けてつくっていきましょうみたいなことを企業さんと一緒に考えたりしています。例えばそんなことですね。
まだプレスリリースとか出す前なので、あまり具体的に言えないところもあるんですけど、間もなく、本年度中には2件ぐらいは出る予定です。
【小原委員】 ああ、そうですか。ありがとうございました。楽しみにしております。ありがとうございました。
【小林主査】 そうしたら、次は内田さんかな。
【内田委員】 ありがとうございます。京都大学の内田です。よろしくお願いします。
これも恐らく岸本先生にお伺いする感じになるかなとは思うんですけれども、私は社会心理学を専門としておりますが、心理学ではこれまで調査や実験を通してデータを収集するということが従来行われてきまして、それに向けては倫理審査を通しています。現在科学技術の進化とともに、通常のそうした倫理審査を踏まえない形でのデータが収集できるというような状況に変わりつつあると思います。
人の行動データですので、一般社会の中でもリスクに対する意識が強いということもあります。研究機関であれば各大学に設けられた倫理審査委員会を通して実施するわけですが、必ずしも倫理審査自体が簡単ではないケースも出てくるようになるのではと思います。たとえば国際比較研究の例を挙げれば、これまでであればそれぞれの国の責任研究者がそれぞれ所属する研究機関での倫理審査を受けていただくことができました。そうすると、その国の法の範囲であるとか一般的な倫理観の範囲の中でそれぞれ審査をいただくことができ、その協議の上で国際比較を行うことができました。しかし現在ではネットメディアを通じて、ほかの国のデータを海外の共同研究者を通さずとも取れてしまうという状態になっており、ほかの国の研究者が日本のデータを取得することもできるという状態です。そうすると倫理審査をこれまで自国の法的なルールあるいは倫理的な価値観に基づいて判断を行ってきたところが、これからは誰がどのように判断したらいいんだろうとなっていきます。現在は過渡期だと思いますが、特に国際共同研究というスタンスから、どういう形での実施が可能でしょうか。ELSIの概念が進んでいない国でのデータを取るときにはどうしたらいいのかというような、もしその辺の知見をお持ちでしたら教えていただければと思いました。
【岸本センター長】 ありがとうございます。まだちゃんとした知見は持っておりません。国際的にデータをやり取りする、例えばイギリスの研究者と共同研究をしたときに、日本のデータを向こうに持っていく、向こうのデータをこっちに持ってくるというような具体的な案件はちょっと扱っているんですけど、おっしゃるとおり、倫理審査でどう扱うかというところまではまだ直面していないんですが、多分、そこは近いうちに問題になると思います。
我々が今、倫理審査で直面しているというか、問題だなと思っているのは、国内だけでも、やっぱりビッグデータでAIを使う研究がどんどん広がってきていて、パーソナルデータを使う、今、ELSIセンターと直接関係ないんですけど、別のプロジェクトで、日本中の大学といろいろやり取りをしている中で、倫理審査のレベル感とか内容が大きくばらついているという問題があって、物すごく緩いところから、倫理審査に入る前の事務の段階で物すごい細かく聞いてきてやり取りが膨大になるようなところから、その落差というか、激し過ぎてちょっとびっくりしているという現状があります。学内でも、やっぱり皆さん、医学部は厳しいけど、○○系は緩いとかいうのももちろんありますし、あと、今、学内で言われているのは、やっぱりAIを使った研究の倫理審査をできる人が各部局の倫理委員会にいるわけじゃないので、人が足りなくて困っているというので、同じ人が使い回されたり、そういうことをしていたりします。なので、本当はそういう体制も含めてELSI研究をするという、広い意味でそういう体制も含めて本当は考えないといけないと思うんですよね。
何かRISTEXさんはそういうのを考えたりしているのかなと、今、答えながらちょっと思ったりしたんですけど、例えば倫理審査の支援とかってRISTEXさんはやるんですかね。とか振ってみたりしますが。すみません。
【小林主査】 RISTEX、その力ないよね。
【JST RISTEX】 ありがとうございます。今現在において倫理審査の支援を行うということはやっておりません。また、ファンディングの評価のスキームの中でも、倫理審査をどう扱うのかというのはまさに議論をしているところでして、先生方おっしゃるとおり、今直面している課題そのものだと認識しております。
【小林主査】 今の論点は割と大事な論点で、結局、これだけイノベーションを目指して科学技術研究に力を入れようとしている国において、このELSI的な課題をちゃんとやってくれる人材がどこから生まれてくるのかという問題があって、それの供給元というか、生産地がほとんどないに等しい状況なんだろうと思うんですけれども、これは、例えば岸本さんの目から見れば、どういうふうなところから生産されてくるのが望ましいと思います? ELSI的なことをやる人材というのは。
【岸本センター長】 ELSI人材とは何かという議論を、まさに今、ELSIセンター内でやっています。ぱーっとみんなから意見をもらって、ぱーっと集約してつくれば取りあえずつくれるかと思ったんですけど、実はそんな簡単なものじゃないことが分かって、今、法とは何か、倫理とは何かという、そんなところに迷い込んだりしている、そんな議論をしているんですけど、多分、企業さん目線でのELSI人材と大学の研究でのELSI人材も違うだろうし、データ・AI系のELSI人材と、例えばゲノム編集とか合成生物学系のELSI人材も違うだろうし、その共通項と個別の分野特有のものとかがあって、ちょっとその辺りを整理したいなと思っているところです。
実際、どこから供給されてくるかというのも非常に難しくて、大きく分けて、人文・社会系の研究をやっている方が自然科学とかいろんな科学技術に興味を持たれるパターンと、バイオとか原子力とかそういったことをやっている人たちがそういう技術開発とかそういうのを進める中で社会的な側面に関心を持たれてELSI人材のような形で入ってくるという、両面があると思っています。どちらがそういう人材を生み出すために手っ取り早いかという話はなかなか難しくて、僕はどっちかというと、自然科学というか、研究開発している方がこういったものに興味を持っていただくほうがいろいろ便利だなというふうには思ってはいます。ただ、人文・社会系の出身の方ががっつりこういうのに関わってくださるというのが期待したいところでもあります。そんな話ですかね。
【小林主査】 はい、ありがとうございます。いや、だから、これ、もう言われて久しい文理融合の主戦場なんですけれども、日本の場合、文系と理系の区別が固過ぎるんですよね、やっぱり。だから、これを緩めないと、いまだに、文系が入ってくる、理系がこっちへ行くという問題の立て方をしているんですけれども、こういう時代がもう終わりつつあるんじゃないかという気もするんですね。ここら辺りは、こういうふうな提案をしたほうがいいんじゃないかという何か提案を考えたほうがいい時期かもしれないと。今、岸本さんおっしゃったように、産業界が求めるタイプの人材というのは大事で、そういうところにまで出ていけるということによってあるボリュームが生まれるはずですので、そういう人材像を考えて、その育成システムというのをつくるというのは、やっぱりもう必要なんでしょうねと。そんなに毎年毎年、大量につくる必要はないけれども、やっぱり一定数いないと回らないかなという気はしているんですね。ちょっとこの辺りは岸本さんのセンターのほうでも考えていただいて、そして文科省ともちょっと相談してみてはどうかなと思いますけれども。
それで、次、田中さん、お願いできますか。
【田中委員】 ありがとうございます。かなり具体的な議論となっているのですが、私からの視点が議論のきっかけになればいいと思うのですが。それはELSIの問題で宗教というのはどの程度考えられているのかということです。以下の個人的な経験の域は出ないかもしれませんがご紹介させていてだきますと。先ず、先週、3日間程、エルサレムとのオンラインでの国際的な集まりに参加しました。ご存知のようにイスラエルは科学技術分野では先進国でして、アメリカ、中国と並んで今後世界をリードしていくと予想する専門家もいらっしゃいます。そのイスラエルで、長らく続くパレスチナの問題について、従来のようなユダヤ対イスラムという対立軸ではなくなってきている。イスラムの側でも国内に過激派を抱え、テロ活動を繰り返され手を焼いている。テロリストとの対決という共通の敵がユダヤとイスラムの間にも生まれつつある状況があります。また、アメリカは今回の大統領選でもキリスト教保守派と言いますか、旧約聖書に重きを置く信者の多くがトランプ大統領の支持に回って不動票を形成している。元々、国の成り立ちからも「宗教国家」的ではありますが、ますますキリスト教国化が進行しているとの印象を持っています。そして、中国も社会主義国ではありますが登録しているキリスト教徒の数が1億5,000万ぐらいいるという。社会主義は神の存在を否定しており、宗教は歓迎されないはずなのですが、実際は無視できなくなってきているのかなと思います。岸本先生のご説明はとてもわかりやすかったです。一方で、ELSIの中で宗教をどのように扱っていくのかなというのは大変気になります。もちろん、ここでの議論は日本におけるELSIですので宗教の影響力というのは無視できる話なのかもしれません。しかし、国際的な議論にも関わらざるを得ないとなると、先のイスラエル、アメリカ、そして中国でも問題となるであろう宗教に関する視点というのは、やはり多少は目配りが必要なのではないかとお話をうかがいながら考えていました。日本では宗教の話はタブーであるとの因習がありますから、扱いが難しいとは思うのですが、どのようにお考えになっていらっしゃるのかを確認させていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【小林主査】 岸本さん、何かレスある? 結構難しい問題だけど。
【岸本センター長】 御指摘のとおりだと思っていて、多分、このSとかE、倫理、社会の中に、当然、宗教的な価値観とか入ってくると思います。ただ、明示的にR(宗教)ですかね、そんな形で取り上げるかというと、今のところやっぱりEとSの中でそういったものも取り扱うと。多分、特に生命科学の分野では、これまでELSIの中に宗教的価値観というのも当然入らざるを得なかったので、むしろELSIの王道というか、中心的なことだし、これからもそうなんじゃないかなと思っています。だから、むしろ、例えばゲノム編集ベビーだとか生殖技術だと、そこら辺には物すごい明示的に出てきますけど、自動運転とかドローンというときに宗教がどこまで出てくるか、僕もにわかには分からないですけど、そういう濃淡はあると思うんですが、当然入ってくる問題だと思っています。
【小林主査】 ありがとうございます。よろしいですか、田中さん。
そうしたら、次は横山さん。
【横山委員】 ありがとうございます。日本では宗教の影響は限定的に感じます。私は今、イラン人のスンニ派の学生を指導していますが、政府はシーア派のため、政府が発するリスク情報はスンニ派には受け入れられないと聞きます。そうした際にどのように状況を乗り越えるのかを研究しています。田中先生がご指摘のように、他国では宗教の影響は強い。各国の状況に合わせて、岸本先生が御説明いただいたようにEとかSの中で包含できたらいいのかなというふうに拝聴いたしました。
また、日本はジェンダー意識が低いという状況をどう改善するかが学内でも大きな議論になっています。これに関連して、規範とELSI研究をどうやって合わせていくかといったときに、ジェンダーの問題に関しては、単に規範に合わせるのがいいのかというのが非常に疑問なことがあります。ELSIの中でジェンダーをどう扱うかって結構大きな課題になると思います。
【岸本センター長】 じゃあ、ちょっとコメントだけ言わせていただきます。特にAI文脈で、ジェンダーはますます大事になってくると思います。ただ、低い規範に合わせるのがこのEとかSだというふうには思ってなくて、規範に関しては、高いところを規範としてやるというふうに考えています。
ただ、直感的な話なんですけど、レベルが下がってきている面もありますが、世の中のジェンダー規範は上がってきているところもあると思っています。というのは、やっぱり炎上することがすごく増えてますよね、ちょっとしたことで。5年前とか10年前は炎上しなかったことでも炎上するようになった。例えば最近も私が学内で指摘したのは、パンフレットの草稿の表紙に、おじさんの先生が若い女性に語りかける、教えてあげるみたいな絵が当然のように出てきたのですけど、それを見たときに、僕もそうですし、ほかの人も、「えっ、これでいいの?」みたいな感じのリアクションが出るんですよね。そういう社会の空気ってやっぱり最近じゃないかという気がするんですよ。という変化はあるかなとは思っています。アカデミックな話じゃなくて直感なんですけど。
というようなものを含めて、これからのAIのアプリケーションというところで物すごく重要になってくる。だから、各部局とかそれぞれが審査するよりは、ELSIセンター的なところがまとめて見るような、規範をむしろつくっていくような役割を果たすべき根拠かなとは思っています。ただ、我々がまだジェンダーについてそこまでできているとは思わなくて、課題だとは思っています。ありがとうございます。
【小林主査】 いや、顔認証技術のジェンダーバイアスという話、ありましたですよね。学習させるデータの偏りによってというので、カラードの女性が一番認識されないという話がありましたけど、あれを指摘したのは女性のカラードの研究者だったわけで、その意味でも、多様性というのがいかに研究にとってありがたい、重要かということの証左なので、そういう事例を一生懸命伝えるしかないかなと私も思っていましてね。というのも、最近、どうもジェンダー的な言説とか、ああいうものに対する冷笑といいますかね、意識高い系とか、そういう形での冷笑がすごく広がっている感じですし、そして、知的なものとか、学術会議に対する攻撃とかを見ていても、問題もあるけれども、ああいう形の批判で快哉を叫ぶような気分が社会の中に広がっている感じがあって、だから、ジェンダーなんかも、ある種伝統的な感覚に対する反旗というか、そういう正す意見という感じなんだけれども、そうすると、何様がというふうに批判が来ているという感じがちょっとあるんですね。だから、それが若い学生さんのレベルでもあるということがやっぱり今の時代を象徴しているのかもしれませんね。どうなんですかね、ジェンダー教育というのは高校では今はもうやらない?
【横山委員】 はい、あまりないようです。先生がおっしゃったように冷笑系がやっぱり非常に困って、どういうふうに共感を得てコミュニケーションしていけるのかというのがちょっと見えていません。
【小林主査】 いや、これ、ELSIにとって(音切れ)きれいごとを言っているわけですからね。きれいごとという言い方は変だけれども、理想に向かってもっとこうするべきでしょうという議論をしようとするわけですから、それに対してぶっちゃけという議論で対抗されてしまうという構造が最近非常に強いので、ELSIもきれいごとというふうに、建前でしょうとかいうふうに言われる可能性強いですよね。そこの言説ってどうするのかというのは難しい問題だなとちょっと思いましたですね。何か本当に全然言葉が通じなくなる場面が最近生まれているかのような気がしてきて、黙ってしまうとますます事態は悪化するんだろうなと思いますけど、今、私は渦中にいますので。すみません、余計なことを言いました。議事録から削除いたしますが。
ほか、小野さん、手が挙がっていますよね。はい、どうぞ。
【小野委員】 横山先生のジェンダーの話と似ているといいますか、スタートアップの支援の中で、技術的にすごいということではなくて、ELSI的にこれは正しいんだろうかと思ったという事例を1つだけシェアさせていただければと思います。
アフターピル、性行為の後72時間以内に飲むと妊娠を妨げる薬があります。諸外国ですと薬局で普通に買えます。72時間以内に飲めば自分でコントロールできるので、日本もそういうのを解禁するという動きがありましたけれど、厚労省の委員会では残念ながら、性が乱れるという判断がされて解禁にならなかったと伺いました。通院をしなければ購入できず、時間制約の中で困っている女性がいると聞きます。例えば産婦人科医の遠隔医療や、薬局薬剤師が処方できるようにするとか、技術ではなく、運用面でブレークスルーができないか。これはまさしくELSI的観点だと感じています。今回、菅首相は、何ていうんですか……。
【小林主査】 不妊治療。
【小野委員】 不妊治療、そう、不妊治療に着目されています、つまり子供を増やそうとしています。実際には、そういうコントロールを女性側に持たせるということをすることが多分最大の不妊治療であって、子供を増やす方策になっていくのだと思うのです。現状は、判断をする方々が高齢の男性ばかりで、多様な意見、すなわち諸外国の状況、今の女性の状況をしっかり理解している方々も含め委員を構成していないところに結構問題があるなと思っています。
先ほどの議論の中でELSIを語れる人材を育てるという話がありましたけれども、あわせて、意思決定や判断をする中にELSI的観点をお持ちの方を増やしていくことと、両方必要だと思うのです。これから育てなくてはならないとすると、意思決定に届くには相当時間がかかるだろうなという気がいたします。意思決定が変わらないと世論というか、硬い法律ではないほうの規範やルールも変化していかないと思います。どうしたら変わっていけるのでしょうか。
【小林主査】 これは難しい。どなたかレスありますか。堀口さん、じゃあ。
【堀口委員】 私も今、AMEDの研究で産婦人科領域の先生方と関わっているんですけれども、医学部の中に多分ジェンダーの教育って全くなくて、年配か年配じゃないかは別として、多分、医学部の女子学生が増えてきたのが平成の卒業生ぐらいからで、それまでは国立だと1割もいませんでしたし、また、その1割しかいない女性が、1学年で結婚しているのが3分の1で、離婚が3分の1で、3分の1が未婚というのが大体普通だったと聞いています。なので、その状況の中で育っているというか、学生生活を送った人たちがまだ50代、60代、50代以上はたくさんいると思っています。特に産婦人科領域は、例えば10年ぐらい前の学会でもそうですけど、更年期医学会って名称変わったんですけれども、「自分たちは女性の体をたくさん知っているから、自分たちだけで分かります」みたいなことを男性の医師からも言われましたし、また、今、ちょうど抗がん治療の避妊のガイドラインみたいなのを緊急でつくっているんですけれども、私が参画したのは昨年度からなんですが、女性が私しかいなくて、そこもちょっとあれって思っているところです。なので、せっかく医学部も女性が増えてきている現状なので、やはりそういう、さっき横山先生のお話を伺って、医学部も偏差値が非常に高い学部であることには違いないので、そういうジェンダー教育みたいなのを、特に生命倫理と関わる職業にもなると思いますので、何かそういうところで取組が始まるといいなというふうに、今、皆さんのお話を伺っていて思いました。
以上です。
【小林主査】 科学技術のELSIには、確かにジェンダーの視点は当然これから入ってくるし、入らなくてはならないだろうなというのはよく分かりますね。
岸本さん、何かレスあります? よろしいですか。
【岸本センター長】 最近でも、AIスピーカーの声が女性か男性かみたいな話で多少炎上、要するに、従順な女性、言ったことに従うというのは女性だというので女性の声にしたのがバイアスなんじゃないか話がちょっと炎上したりしたのもあったと思うので、おっしゃるとおり、ロボットとかAIとかのところでも十分今もう問題になっているので、我々も何か取り上げたいなとは思っているところであります。
【小林主査】 ムーンショットというプログラムをつくっていくときの若手のいろんな方々の議論の議事録を読んでいたときに、スプツニ子さんかな、彼女が言っていたのはなかなか面白い事例でしたね。御存じの方がいるかもしれませんが、ピルの解禁にはすごい時間がかかったのに、バイアグラの解禁はあっという間だったって。それで、その意思決定の人たちの関心の在り方というのはよく分かる。だからこそ、そういう将来・未来を考えるような場面のところには女性がたくさん参加するということが当然求められているんだというふうにおっしゃっていまして、いまだにその議論をしなくちゃいけないということに悲しさを感じますけれども、現実はそんなところなんでしょうね。これはやっぱりELSIの問題の一つの論点。特にやっぱり生命科学が中心ですけれども、それ以外のところでもいろいろ出てくるはずですので、そういうのは教育プログラムとしても考えるべきなのかなと思いました。
あと手が挙がっているのが調さんですかね。小野さんは今のでよかったんですよね。だから、調さんかな。
【調委員】 すみません、ちょっと出入りをしていて調子悪くて申し訳ありません。
伺いたいのは、ちょっと今までの話と流れが変わってしまって申し訳ないんですが、ELSIという問題を考えるときに、どうしてもイシューという言葉のうちのネガティブなほうが中心になっていくような感じがしていて、若干、実は自分がやろうとしていることに我田引水的なところはあるんですが、同時にポジティブなところを考えて、そこからさらにまたネガティブなところに行くというところがあるような気がするんですね。そこのところも併せてみたいというふうに個人的にちょっと考えて、何とかできないかなと思っているんですけれども、ある意味、それはRRIなのだと言ってしまえばそうなんですけれども、うまく両輪を考えていくようなアプローチというのは何かいいものがないでしょうかって、何か人生相談じゃなくて研究相談になってしまって申し訳ないんですけれども、もしあれば教えていただければと思います。岸本先生に伺うのが多分いいのかなと今思っています。
【岸本センター長】 ちゃんと理解できているかどうか分からないんですけど、我々も今、事業者の人と「攻めのELSI」みたいな言い方をしていて、これ、実は昔、僕は産総研というところでリスク評価をやっているときに、守りのリスク評価、攻めのリスク評価とか言ったこともあって、やっぱりそういうネガティブ面を見るというものが逆に武器になると。要するに、ELSI対応を早い段階からちゃんとやっているほうが結果としてプラスになるんだというようなフレーミングはできるんじゃないかと思って、攻めのELSIというふうな言い方をしています。この辺りとよく似ていますか、今の話は。どうでしょう。
【調委員】 もう少し、ある意味ちょっと攻めているというか、攻めて守るというような感覚で、変な言い方ですね、ごめんなさい。こういう技術があって、こういうことはできる、こういうことができるということをある程度もっと幅広にどんどん考えていった上で、そこから見えてくるネガティブなものというのがまたあると思いますし、いろんなものがあり得ると思うんですけど、今、比較的、特に実現間近な技術に関して言うと、目の前に見えている応用があって、もちろんある程度見えているんですけど、それに対してどう対応するかという議論で止まっちゃうような気がしておりまして、そういう意味で、もう少し、5年先じゃなくて15年先というのを考えた場合には何か違うアプローチがあるのかなって、これは直感的な感じなんですけれども、持っていまして今の質問をいたしました。
【岸本センター長】 ありがとうございます。そうですね、時間軸はすごく重要で、ただ、企業さんと共同研究するとかなったらやっぱり目先の話にならざるを得ないんですけど、今回、うまくいかなかったのもたくさんあるんですが、ムーンショットの研究の公募に際して、科学技術を研究開発している人たちと一緒に公募を出したときに、やっぱり2050年みたいなことを考えて、そういった技術が社会実装されたときの社会のルールってどうなるだろうみたいな議論をさせてもらって、今おっしゃったようなちょっと楽観的過ぎるなというような感じの理想的な社会の中で実はこういうルールをつくるべきなんじゃないかみたいな議論をして、すごく新鮮な思いをしました。だから、研究費とかにつながるかどうか分からないんですけど、そういった議論はしていきたいなと思っています。
【調委員】 ありがとうございます。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、小出さん、どうぞ。
【小出委員】 今日の話がうまくかむのかよく分からないんですけれども、メディアとかジャーナリズムの世界には、今、情報の汚染とかインフォデミックという問題で困っていることがありまして、この科学コミュニケーションもしくはメディア、伝えるというのも一つの枠の中で考えていただけるようでしたら、ファクトをきちんとチェックできない、もしくはそれを平気で垂れ流される、もしくは善意で投げた情報でもみんなを不安に陥れるというのは特にCOVID-19の中で幾つも見えてきていて、それは日本だけじゃなくて国際的ないわゆる科学ジャーナリストの中での一番大きな課題になっているんですけれども、こういう問題は、ELSIというと、実は我々、ニュースをちょっと引っ張り出してみると、一番近しいのは東京工業大学の地球生命研究所がELSIなんですが、そこのスクラップは出てくるんですが、今のこの問題はどうも新聞のニュースにはあまり縁がなくて、最近幾つかあるようですけれども、やはり書いている記者もよく分かってなくて書いています。ただ、身近な問題としてこのファクトチェック、それから偽の情報を流すやつがいるから、さらに、ジャーナリズムだけではなくて、メディアの中には娯楽もあるし、さらにSNSというようなものの中で、こういうものはやっぱりELSIの中で考えていける枠に入るのかどうか、そこら辺りをちょっと御教示いただけるとありがたいんですが。
【岸本センター長】 じゃあ私から。ELSIって、新規科学技術のELSIという枠組みでいうと、そういう枠組みに収めようとすると、例えばSNSってある種新規科学技術なので、それを社会で利用するときに、いろいろ起こる事象の法的・社会的・倫理的側面という形で整理できることもあると思います。その一方で、フェイクニュースみたいに言われているようなものに対して、社会としてどういうアプローチをするかというときに、罰則とかの法規制で対応する法的アプローチと、プラットフォーム事業者団体とかが自主管理ルールをつくって自分たちでやりますというようなソフトローアプローチ、あるいはナッジとか使うような社会的なアプローチを使うかみたいな議論の枠組みでも捉えることは多分できると思うので、広い意味ではELSIの中の研究テーマだと思っています。
これ、RISTEXさんにもぜひ。RISTEXさんはどんな感じでしょうかって聞きたいですけど、どうですか。スコープに入っているんですかね。
【JST RISTEX】 ありがとうございます。今、岸本先生おっしゃったとおり、科学技術が、新しいSNSがかなり市民権を持って市民化した技術として、そこから起きるELSIの問題であるとも捉えられますし、また、大量のデータになってきて、それによってさらに世論の分断などが起こる事象についてもまた科学技術のELSIだと思っておりますので、まさにスコープに入るのではないかと思います。
【小林主査】 時間、そろそろなんですけれども、実はムーンショットという内閣府がやっている大きな研究プロジェクトがありますが、ムーンショットに関しては全部横串のようにELSIの検討を入れるということが決められておりまして、それで、ムーンショットの研究がこれから本格化するときに、それにまつわるELSI研究をちゃんと並行して走らせるというふうな議論が起こっています。
これ、いろいろと課題がありましてね、1つは、人がいるかなって。つまり、ELSIをやってくれる人が、先ほどからどこから生まれてくるのかというふうに皆さんにもお尋ねしましたけれども、なかなかそういうことをやろうという方は多くないんですよね、まだ。ですから、そこの人材供給というか、その仕組みをこれからつくっていかないと、多分、需要は増えていくと思うんですね。社会に本当に影響のある科学技術をつくるということは、そのインターフェースの問題が常に拡大していきますので、そこを考えてくれる人を準備しなくてはいけないと。それが、理工系の研究者が自分でそういう問題を考えてやってくれるようになればいいっちゃいいんですけど、なかなかそうはならない部分があるので、そこのインターフェースの設計が物すごく重要になる。
それからもう一つは、ちょっと調さんもおっしゃったんですけれども、どうしてもやっぱりELSIというと止め男という――男である必要はないか。止める役割というか、ブレーキとか妨害みたいな印象がどうしても強いんですね。先ほどのAIに関しては倫理という言葉が受け入れられ始めているということがありますけれども、それ以外のところだと、何か倫理というと堅苦しくて嫌な感じがするという印象を持っている人も多いんですね。
そういうこともあるので、今、実はJSTの中で理工系の研究者に読んでもらえるようなリーフレットみたいなものを作ろうと思っているんですね。テーマ単位で、もうA4裏表だけで、写真もついていて、それで、ELSIというのは何か研究の邪魔になるんじゃないですかという問いを掲げて、いや、そうじゃなくてということをできるだけ分かりやすくすぱっと読んでもらえる、そういうものを幾つかのテーマでずっと作っていって、そういうのを持っていって、これをやることがあなたにとって得なんですというメッセージをどうやって与えるかと。そして、そのためには何を考えなくちゃいけないのかというのを研究者の立場で分かるような、そういう表現のものを今作っているということなんですね。だから、そういうところから地道にやっていかないと、研究者を敵に回そうという活動ではないのであって、研究者が社会に貢献したいという思いをよりちゃんと実行できるようにするための取組だという理解をしてもらわないといけないだろうと。場合によっては、「しかし、とんでもない研究ですよ、これは」というふうなことも言わなくちゃいけない場合がありますので、美しい話ではないと思いますが、ちょっとそんなことも今やっている最中ですので、またこれも1回、御紹介はできればとは思います。
今日は、皆さんに大阪大学の取組とRISTEXの取組を御紹介して、こんなことをやっていると。今日、ユーチューブで文科省のほかの課の方々も視聴されているということでしたので、まず、こういう取組を共有していただくと。そして、海外でもかなり行われているということも含めて、日本でこれから人材育成システムも含めて、アメリカは拠点形成をしているというふうに岸本さんの資料にもありましたから、やっぱり拠点形成のようなことも考えるべきではないかというふうな観点で何か取りまとめられたらと思っております。
ほかに皆さんもし御発言がなければ、事務局のほうに回して、今日はこれで……あ、調さん、手挙げた?
【調委員】 よろしいですか。
【小林主査】 はい、どうぞ。
【調委員】 今の話の中でELSI人材の話、大阪大学のほうでやってくださって、すばらしいと思うんですけれども、一方で、何となく過去のそういう、今こういう人材が必要であるというふうに科学技術者関係においてもそういうことって何回かあって、その結果として生まれた人材というのがまた不安定な状況に置かれて、一時的には盛り上がるものの、最終的には何だかとてもかわいそうな状態になってしまうというのが結構多いような気がしますが、ELSI人材に関して、長期的な雇用も含めて、何かプロジェクトというか、プログラムというか、あるいは何かアイデアとかが動いているものなんでしょうか。
【小林主査】 RISTEXのプログラムは、今のところ、できるだけ長期間、このプログラムが回るようにという努力はしているという、これは努力はするということでいいですよね、RISTEX。
【JST RISTEX】 はい、ありがとうございます。ファンディング・プログラムとしての継続性はもちろん検討いたしますし、もう一つは、やはり人材ですね、大学等に所属する研究者だけではなくて、民間企業で、例えば標準化への取組といったところは、今後、倫理的な、ELSIの経験を持った人材というのは非常に強く求められると思います。そういったところとネットワークを組んで、人材の流動性というのは図っていきたいと考えております。
以上です。
【小林主査】 だから、URAがいまだ不安定ではありますけれども、大分社会的に認知され始めてきているので、もうちょっと頑張ればURAがもう少し定着する可能性がゼロではないかなと。そういうロビーイングは当然しなくてはいけないとは思いますけれども、確かに、産業界も含めた出口とか、それから大学等の研究機関での当然の組織というか、当然の取組という環境をどうやってつくるか。これ、岸本さんが書いていただいたと思いますけれども、ファンディングのときの条件にこれが最近書かれ始めているので、それの効果はそれなりに出てくるのではないかと思います。どうやってなんちゃってELSIにならないようにするかということですね。この辺りはまた、皆さん1回、お知恵をいただければと思います。議論するチャンスをもう一回ぐらいつくれればなと思います。
それでは、これで大体時間が参りましたので、事務局のほうにお返ししましょうか。じゃあ、お願いいたします。
どうも今日は皆さんありがとうございました。
【小田補佐】 事務局でございます。ありがとうございました。
次回の委員会につきましては、また委員の先生の皆様方の日程のほうを調整させていただきまして、改めて連絡のほうをさせていただきたいと思います。
また、本日委員会の議事録につきましては、作成次第、またお目通しいただきまして、文部科学省のホームページのほうに掲載をさせていただくようにいたします。引き続きよろしくお願いいたします。
以上でございます。
【小林主査】 それでは、会議を閉じたいと思います。今日はどうもありがとうございました。大変実り多い議論をしていただきまして、感謝いたします。
では、これで閉じたいと思います。

―― 了 ――

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