科学技術社会連携委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成30年7月4日(水曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 東館17階 1会議室

3.議題

  1. 科学コミュニケーターに期待される役割と必要とする資質について
  2. その他

4.出席者

委員

小林 傳司 主査、藤垣 裕子 主査代理、小出 重幸 委員、田中 恭一 委員、原田 豊 委員、堀口 逸子 委員、山口 健太郎 委員

文部科学省

坂本 人材政策課課長、石橋 人材政策課課長補佐

オブザーバー

説明者:国立大学法人岡山大学地域総合研究センター 吉川様(実践型教育プランナー)

5.議事録

【小林主査】  定刻でございますので、始めたいと思います。第5回の科学技術社会連携委員会を開催いたします。
 出席者、配付資料等については、事務局の方から説明をお願いします。
【石橋補佐】  まず今回、科学コミュニケーターの役割と資質に関する議論を深めていただくために、岡山大学地域総合研究センターから、実践型教育プランナーの吉川様に、御出席いただいております。よろしくお願いいたします。
【吉川氏】  よろしくお願いいたします。
【石橋補佐】  事務局に、4月1日付けで異動がございました。人材政策課長に、坂本が着任しておりますので、坂本から、御挨拶をさせていただきます。
【坂本課長】  4月から、人材政策課長を務めております、坂本でございます。
 先生方には日頃より大変御指導を頂いておりまして、ありがとうございます。今後とも是非、この科学技術社会連携の取組について、我々しっかりと推進をしてまいりたいと思いますので、引き続き御指導よろしくお願いいたします。
 科学技術コミュニケーション、科学技術社会連携ということでございますけれども、私は3月末まで産学連携を3年半、担当しておりました。各地の大学、研究機関と、いかにイノベーションを起こしていくかと。
 新しいビジネスを起こすということも、非常に価値のある重要な仕事ではあるんですけれども、それだけではなくて、社会変革を起こしていく。いかによりよい社会を実現していくかというための活動を、革新的な手法を用いて行うということを、我々は、イノベーション、ソーシャル・イノベーションという言い方もされておりますけれども、そういった位置付けで、いかに、大学あるいはアカデミアの果たす役割が大きいかということを、様々な議論をさせていただいたところでございます。
 そういった中で、今、申し上げたイノベーションといった新しい価値を生み出すためには、やはり社会的な課題とそれを克服するめのアプローチというか、手段というか、そういったものは何かというものを、きちっと結び付けるコミュニケーションが非常に重要であるということは、私自身も様々なところで経験させていただいたところでございます。
 そういった社会的なあるいは経済的な価値を生み出していくようなコミュニケーションというものがどうあるべきというところは、まだまだこれから検討を深めて、実践を積み重ねていく必要があるだろうなと考えていますので、我々、そういった問題意識でしっかりとこの分野の政策も進めていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
【石橋補佐】  続きまして、配付資料について確認させていただきます。
 議事次第にもございますけれども、配付資料として、資料1、岡山大学さんからのプレゼン資料、資料2として、A4縦で、1枚で、論点についてということでの資料を御用意させていただいております。
 過不足等がございましたら、途中でも構いませんので、事務局までお知らせいただければと思います。
 以上でございます。
【小林主査】  ありがとうございます。
 それでは、議題に入ります。今、御紹介いただいたように、議題の1、「科学コミュニケーターに期待される役割と必要とする資質について」という点で、これも、事務局の方から、御案内をお願いします。
【石橋補佐】  この科学コミュニケーターに関する議論につきましては、昨年末、昨年12月から、科学コミュニケーターの育成をしている機関、日本科学未来館、国立科学博物館、同志社大学から、育成の状況について、状況聴取したところでございます。
 今回は、科学コミュニケーターのみではないんですけれども、地域課題に、どういうふうにコミュニケーションというものが機能しているのか、機能していくべきかというところについて、実例を御紹介いただくために、岡山大学から、吉川先生にお越しいただいているところでございますので、まずは、その状況につきまして、御説明いただいた後、議論等を進めさせていただければと思っているところでございます。
 以上です。
【小林主査】  ありがとうございます。
 それでは、岡山大学から来ていただきました吉川様、お願いいたします。

◯資料1に基づいて、吉川様から説明
【小林主査】  どうもありがとうございました。
 最後の役割ではなくて、機能だという議論は、懐かしく思い出しました。世界、日本で、科学コミュニケーションという議論が始まって20年、そこで語られていた言葉が、いろいろなところに広がっていったんだなということを実感しました。
 機能だということを、かなり強くおっしゃっていたのは、北海道大学のサイエンスコミュニケーターのユニットでしたし、この知識のインタープリターという言葉使いも、東京大学が「サイエンス・インタープリター」という名前を使っておられましたし、もっと遡れば、1970年代ぐらいに、知のブローカーという言葉で、こういうものが、社会に欠けていると言われておりました。
 それ以外にも、産学連携や、イノベーション関連などいろいろなところで、つなぐ人材、あるいはコーディネーターとか、そういう言葉がさんざん言われた歴史があります。にも関わらず、またこれをずっと言い続けなくてはいけないという状況なんですね。
 いや、でも、これだけ具体の現場でなさっているということは、大したものだとな思いましたが、やはり、重い課題として、まだ残っているのだということ、そして、対話が大事ということも強調されましたね。
 大阪大学がコミュニケーションデザイン・センターを作ったときは、まさしくそれがキーになっている。聞く力であって、話す力ではないとか、いろいろなところで言ってきているわけです。だから、そういうものが、全部、入っている感じで、非常に感銘深く伺いました。ありがとうございました。
【吉川氏】  ありがとうございます。
【小林主査】  いろいろ御質問、御意見があるかと思いますので、是非どうぞお願いしたいと思います。
【藤垣主査代理】  いいですか。
【小林主査】  どうぞ。
【藤垣主査代理】  地域の話と科学コミュニケーションの話と教養教育の話が交錯した場面話題で、大変面白く伺いました。2点、簡単な質問を伺いたいんですが、国際インターンシップという科目をとる学生が、何年生であるのかということと、15ページにある希望の大麦というものを作る被災地復興団体というものが、どこなのかということをお教えください。
 私は、今、外国人研究者を受入れている関係で、被災地というと、もう福島と思ってしまうので、ちょっとそれを説明していただけますでしょうか。
【吉川氏】  済みません、希望の大麦の話に関しては、私は具体的なことに関わっているわけではないので、ここでお答えできないので、宿題にさせていただいてもよろしいでしょうか。
【藤垣主査代理】  はい。
【吉川氏】  国際インターンシップに関してなんですが、これは、教養でやっております。今までに、四十数名が過去に参加をしていますが、大体半分が1年生と2年生、もう半分が3年生又は院生です。教養ですが、院生も手を挙げて参加をしてまいります。
 学部は、林業という業界でやっている性質上、環境理工学部という、環境問題と土木を主に扱っている学部がありまして、環境理工系の学生が多いんですけれども、それによらず幅広く参加をしております。
 昨年、医学部の学生もおりまして、なぜ参加をするのか聞きますと、自分は、将来医療に従事をする。だけど、当たり前のことですけれども、医者として向き合う人たちは医者ではない人の方が多い。だからこそいろいろな現場に今のうちに行っておきたいのだという意思を持って、教養科目のインターンシップに参加をしてくれた学生もおりました。
【藤垣主査代理】  単位認定は自由なのでしょうか?
【吉川氏】  単位認定は、学部の教養科目の中で認定をしております。2週間、就業に行くと3単位です。
【小林主査】  40名とおっしゃいました?
【吉川氏】  累積40名強。1年間に行く学生は、十四、五人というところなんですけれども。
【小林主査】  科目としての分け方ですが、40人で一つのクラスですか。それとも、何クラスかに分かれている?
【吉川氏】  1年間で15人が受講するとすると、事前教育の35時間は、一斉にやっています。その後の就業は、それぞれが、それぞれの場所に分散をしていきます。
 先ほど御紹介したブリティッシュコロンビア大学の学生が、3か月間、日本にいるのが、大体11週間になるんですけれども、その11週間を、2週間とか、4週間とかに区切りまして、それぞれに岡大生が、学生は違いますけれども、アテンドしていくという格好になります。
【小林主査】  意識的に学生を混成にするとか、そういうことはされていない?
【吉川氏】  意識的にはしていません。
【小林主査】  そうすると、特定の学部に、偏ったりということはあり得る?
【吉川氏】  応募をしてくる学生が、そもそもばらけているので、余り気にすることはないです。
 ただ、1か所に、2人学生を配置するときには、意識的に学部を分けようという思考は、働きます。
【藤垣主査代理】  応募してくるということは、要するに、これは必修科目ではなくて、いろいろな教養科目の中の1個として、開講されていると考えてよいでしょうか。
【吉川氏】  そうです。
【小林主査】  これの評価は、どうやってやるんですか。
【吉川氏】  この評価は、大学側と企業側、それぞれが、学生を評価しています。それは、ホリスティックな全体評価です。
【小林主査】  全体評価ね。
【吉川氏】  それと別に、事前教育、事後教育を別の教員が担っておりまして、レポートですとか、ジャーナルを出していますので、それに関しては、ルーブリックを使って、5観点、4段階の評価だったと思いますが、それを付けています。それを総合的に、最後、勘案して、担当教員が点数を付けるという形です。
【小林主査】  なるほど。いつもこういうタイプのものは、評価が難しくて……。
【吉川氏】  難しいです。
【小林主査】  うちも、平田オリザ氏の授業で、工学部とか、医学部とかの人を、わざと混ぜて、演劇をやらすなどということをやる。狙いは、まさしく知識通訳でおっしゃったような感受性教育のようなことを実現するという発想であったんです。こういうものは、教育効果は、結構あると思うんですが、今どきのはやりの評価やKPIなど、ああいう議論とは、ちょっとなじみにくくて、面倒くさいなと思うときがあるんです。今、我々の社会、もっと長期間で効果を見ましょうよというためが、なくっていますよね。なので、どうなのかなと思って。

【吉川氏】  非常に重要な観点だなと思います。教育を受けたアウトプットは、レポートなどの形で、ルーブリックで評価をすることができると思うんですが、いわゆるアウトカムの形になると、いつ花開くか分からない。ひょっとしたら、40、50歳になって花開くこともあると思うのですけど、そのときに、ああ、昔、こんな科目に参加をして、あそこで、ああいう言葉があったなと思い出すことは、我々も、実は、あるんではないかと思っています。
 ただ、今できることとしては、そういった芽をたくさん学生の中に残しておくことかなと思っているので、それを意識して、知識通訳をしていくことが、いつか花開いてくれたらいいなと、それを自分が見られるかどうかは、もう別として、そんなふうな願いは持っています。
【小林主査】  そうですね。
【吉川氏】  はい。
【堀口委員】  私は、このような教育を受けた学生さんたちが、教員になったときに、それが受けた教育のベースにあるから、教員になったときには、それこそ、機能を持つ教員になるんではないかなと。
 私が受けた教養教育は、ただ座って聞いているだけなので、全然、機能が果たせない教員が、周りにもたくさん育成されているとは思うんですけど、このような教育をいろいろな学部関係なく、受けていれば、自分が、万が一、大学の教員になったら、これが当たり前だというところからスタートするので、すごく花が開くんではないかなと感じました。
【吉川氏】  本当に期待したいところです。
 実際、私は、今、大学の話をいたしましたが、実は、中等教育の現場では、こういったことは、もう当たり前に起きていると思います。
【小林主査】  そうですね。
【吉川氏】  よく大学の中でも、監査の観点として話をすることがあります。高校時代に地域で学んできたりだとか、他者と一緒に学んできた生徒たちを大学が受入れて、そういった形で更に力を伸ばして4年後に社会に送り出せているのだろうかということは、常に自答をしています。できていないのではないかという前提の自答なんですけれども、それがもっと広がるといいなと。
【小林主査】  学部、1万人ですよね。
【吉川氏】  1万3,000人です。医学部なども、結構……。
【小林主査】  いや、学部だけで、1万人ですね。
【吉川氏】  そうですね。
【小林主査】  1学年、2,500人ですよね。
【吉川氏】  2,400人です。
【小林主査】  45人ですよね。
【吉川氏】  そうなんです。
【小林主査】  そこら辺、どうですか。
【吉川氏】  比率としては、全然小さ過ぎると思います。
【小林主査】  ですよね。そこは、悩みですよね。
【吉川氏】  どこの先生ともお話をしても、おっしゃいますが、手が掛かると。
【小林主査】  そう。
【吉川氏】  教育のコストパフォーマンスは、非常に掛かる。
【小林主査】  これ、非常に掛かるんです。
【吉川氏】  なので、それをアウトソースするかという話になると、それもおかしいのではないですかということが、私の立場から申し上げていることです。
【小林主査】  そう。そのスケール感が、どうしても合わないんです。
【吉川氏】  合いません。
【小林主査】 この少人数の教育の効果というものと、2,400人の学部生と言われると。
【吉川氏】  そうです。
【小林主査】  これがね。
【吉川氏】  今日、データとしてお持ちしていないんですが、実践型社会連携教育全体で、受講者数の目標、2,400人と定めておりまして、いろいろな科目がありますので、今のところ、1,000人ぐらいまでは広がってきています。
 先ほどの国際インターンシップは、その中の一つの例として、お話をしたんですけれども、そうではない科目も含めると、大体1,000人近い受講者が、今はいます。
【小林主査】  それは、なかなかの数字だと思います。
【吉川氏】  なかなかです。でも、本当に手が掛かります。ジャーナルを採点するだけでも大変です。
【小林主査】  それは、すごいな。
【山口委員】  アウトソースがおかしいんではないかということは、その背景を教えていただきたいんですけど、やはり、大学としてそれをやりたいから、それをおかしいと思う?
【吉川氏】  大学の持つ4つの機能がありますね。研究、教育、社会貢献、あと管理運営とありますけれども、その教育として、もっとそこに力を掛けてもいいんではないかと思っているわけです。
 だから、教員のメインのミッションが、研究に主体を置く方がいらしてもいいと思うし、教育に主体を置かれる方は、教育と社会貢献をつなげた形が、実践型社会連携教育だと思うんですけど、そこをもっと積極的に担うべきではないかと考えています。
【山口委員】  それは、多分、大学側のコンテクストであって、地域として、いい人材をたくさん育てたいという考えからすると、別にそれは、大学がやらなくてもいいんですよね。
【小林主査】  ああ、そうです。
【吉川氏】  ま、そうですね。はい。
【山口委員】  私が、今回のワールドカップで、日本がそれなりに成功して、すごい感動したのは、やはりJリーグの成功だと思っているからなんですね。
【小林主査】  そうですね。あのシステムですね。
【山口委員】  はい。あれのサッカーではないような仕組み、子供たちから中高生も含めて、ピラミッドを構築して、その先に自然と人材市場がつながっているみたいな仕組みを、教育で作れて、そこに大学も一定程度関与していくというような切り離した仕組みがないものかと。
 先ほども、いろいろな会社側の事情があってとか、大学側の事情があって、そこで、学生さんが混乱するので交通整理が必要という話があったんですけど、そこに学生さんを押し込めるべきではなくて。中高生にとっても、大学に進学するために勉強するとかというのとは別の仕組みでを提供できないかと、何かそういう教育システムがあるといいなという。
 これは、僕の一つの夢のようなところがあるんですけど、そういうことを、いつもJリーグを見ながら、思ったりするんです。
【吉川氏】  アウトソースというところに関しては、誰が教育するかという話も、一つあると思います。大学の中で、アウトソースがおかしいんではないかと私が申し上げた意図について、少し補足させていただきますと、やはり、そこは教員が担った方がいいのではないかというところと、どうしてもコーディネーターと言われるような人が間に立つ、NPOさんなどが立つこともあるんですが、そこに頼むと、そこで、安心して、教員側が手を離してしまうというシーンがあります。
 それがおかしいのではないかなと思っておりまして、そこに対して、積極的に関与をするようなマインドを持たないと、大学側の教育の質としては、高めることはしづらいのかなと思っています。
【小林主査】  そうですね。アウトソーシングすると、無責任になりますね。
【吉川氏】  はい。
【小林主査】  ただ、教員で、最近よく言われている、研究にウエートのある人と教育にウエートにある人で、分けてもいいんではないかという議論があるんですけれども、これは労働法の問題があって、簡単にいかないんですね。
【吉川氏】  難しいですね。
【小林主査】  研究業務は半分以上ということが、裁量労働制の基準でして、教育業務が主ですということを正面から言うと、法的に少し難しくなる。だから、そこら辺もなかなか難しくてですね。
【吉川氏】  難しいですね。
【小林主査】  それと、やはり、教員になる人の原思考みたいなところに、研究志向があることもあるし、多分、岡山大学さんが、国立大学の3機能分類のどこを選んでおられるかにもよると思うんですけれども、例えば、世界に伍する大学ですということを選んでしまうと、それに見合ったKPIを設定させられて、そちらをやっていればいいんであって、それ以外のところ、むしろ、教育に関しては手を抜きたがるという発想になりかねない。もともと、教育よりも、研究が好きな人が多いのでこういうことが起こるということも現実なんです。
 だから、そういう点で、教員をこれにちゃんと主体的に関わってもらうようにするための巻き込み方は、本当に工夫が要って、下手をすると、そういう熱意のある人が、どんどん過重負担になって、いくということになるんです。これは、もう悩みの種ですね。
【吉川氏】  もう正に同じ問題を、日々、話をしております。岡山大学の中で、そういう意識のある方はいらっしゃるのですけれども、組織として、例えば、教員の評価で、そこら辺を少しグリップするとか、そんなことをおっしゃる方もあるんですが、現実問題、厳しい話だとは思います。
【小林主査】  多分、山口さんなんかの今の議論だと、むしろ社会、NPO、NGOとか、産業界の方が人材育成に関する一定の志や枠組みなどを持っていて、その中に、大学も協力せよというぐらいの主客の逆転ぐらいの構造、あるいは、少なくとも対等みたいな構造があり得るんではないかというイメージですよね。全部、大学側が主体になって、巻き込むという形で、努力するという構造ではないという。
 産業界も、少し、昔よりは、人材育成に自分たちのリソースを割くということを、やらなければいかんという雰囲気は出てきましたけど、でも、まだ、まだ、やはり、限界があって、なかなか難しいところです。
【坂本課長】  ちょっといいですか。
【小林主査】  はい。
【坂本課長】  私、前職がイノベーションというか、アントレプレナー教育、起業教育をずっとやっていて、実は山口委員がおっしゃったことは起こり始めているんです。ただ、小林先生がおっしゃった問題点は、もろに出てきているんです。
 それはどういうことかというと、これは東大さんのケースです。東大に、i.school(アイスクール)という非常に有名なイノベーション教育のグループというか、組織があったんですけど、東大の堀井先生という方が尽力されているんですが、その先生は元々、我々、文部科学省の起業教育のプログラムの支援を受けられたんですけれども、東大から独立されたんです。i.schoolという社団法人を作られた。
 起業教育は、先生方は御存じとは思いますが、もともとはシリコンバレーで始まり、現在盛んにスタンフォードで行われている。新しい価値を生み出そうぜと、新しい事業にしていこうぜということを、シリコンバレーにはいっぱい起業家がいるんで、そういう人たちが後進を育てるという志もあって、もう人も入るし、お金も入れて、そういう起業をすごい勢いで促していた。
 人材がやはり一番大事なので、そういう人材育成をするというシステムを、どんどんスタンフォードとも開発していったわけですけど、それが日本でもやっと起こり始めている。
 ただ、もともとはビジネスを起こすということで、そのスキルです。ビジネスモデルをどうやって作るかとか、あるいはそれを実際に検証するためにはどうしたらいいかとか、顧客のインタビューとか、いろいろな手法のトレーニングがあるわけですけど、そういったものから、それがだんだん、だんだん拡張していって、そもそも社会課題を解決するというデザイン思考から、PBLを経て、実際にもう実践に近いところまでやるということをビジネスに関わらず、そういったことをやろうと。
 多分、吉川先生がやられていることも、例えば科学コミュニケーションという形で、実際に林業という題材を使って教育されていますよね。
【吉川氏】  はい。
【坂本課長】  教育のプロセスでもあり、でもそれは社会貢献というか、社会的課題解決のプロセスの両方を追求しようということで、東大さんは始められたんですけれども、実践をする方がどんどん主になってくると、もう大学の枠、教育の枠に収まらないんです。したがって、独立されたということがあります。
 今、堀井先生は新しい組織i.schoolで、卒業生も大分いて、どんどんその人たちが帰ってきて、講習をしようと始めていてエコシステムができ始めているので、これはいい循環が起こっているなと思うんです。
 先ほど先生がおっしゃった、例えばJリーグみたいに、民間資金がどんどん入ってきて、あるいは企業だけではなくて、ユーザーから入ってきてもいいんですけれども、お金が回るような仕組みになるかは、はっきり言うとなかなか難しいです。
【小林主査】  そうですね。
【坂本課長】  これは、難しい。というのは、そういうデザイン思考の能力とか、あるいはビジネスモデルを構築する能力は必要かと言うと、企業側は必要だと言うんです。ところが、そういう人材をどうやって育てていくかというと、自分の企業で、社内ベンチャーなどを育てる仕組みを持っているんです。その人たちは、自分の社内、自分のサプライチェーンあるいはアライアンスの中で人を育てるという仕組みを作っている。
 これをもっと大学と一緒にやってくれと言うんです。そういう会社さんのところへ行って、その機能を大学と一緒に作る、拡張してくださいとやったときに、これは難しかったです。
 企業側は、いや、うちに来てもらえば、どんどん育てますからと。スペースも提供します、投資もしますと。でも、大学にお金を渡すとかということは、ちょっとなかなかできませんねという企業がほとんどです。
【小林主査】  おっしゃるとおりです。ここ半年、ここ1年ぐらい、ずっと私、同じことをやっていますけれども、全くそうです。株主への説明責任とかね、うちは、税金を払っていますとか言って、全く動かんです。
【坂本課長】  そうです。動かないですよ。だから現実としては、2つの道があって、一つは大学からスピンアウトしてそういう組織を作られることと、もう一つは、大学発ベンチャーを起こした方が、やはり大学の横にそういう組織があった方がいいと思って、そういうものを作る。
 このケースは、まだ日本では多分出てきてないと思うんですけど、アメリカとかを見ていると、そういうケースは結構あると思うんです。
 だから、そういうものが出てくると、今おっしゃったような、企業がそういう主体になるということは、なかなかまだ難しいのかなというような感じがいたします。
【山口委員】  なので、Jリーグを引き合いに出したのは、あれも基本的に、理念は、地域のクラブなんですよね。企業のものではないというところから始まっていると。一番言いたかったことは、小学校、中学校、高校と、一連のものとしてしっかり育てていくというところが、やはり必要なのかなと。大学の4年だけだと、ちょっと、やはり。
【坂本課長】  おっしゃるとおりです。今、大学から起業される、枠から飛び出るということは、実装面が始まっているんですけど、もう年代の層は関係なくなってくるんです。
 i.schoolは実際、高校と今、どんどんつながり始めている。やはり、こういう世界は、こういう活動によって、どういう能力を育てていくかという議論になっていくんです。
 私は、スーパーサイエンスハイスクールも担当して、やはり課題研究は、非常に重要なファクターなんですけれども、そこで何を育てていくかというと、教育学の世界でいうと、認知領域と非認知領域ということがありますけれども、いわゆる非認知領域の課題に取り組む重要性を認識するだとか、あるいは自己効力感です。
 その課題の解決に対して、自分はどれだけの能力を持てるか。それは、持っているかだけではなくて、持てるかです。自分の資源や人脈などを使って、解決に貢献できるかという自己効力感とか。あるいは、その課題に興味を持つかどうかと。
 これは、総合的に意欲になるんですけど、こういう能力を、認知レベル、いわゆる知識の理解、分析、活用みたいなものと併せて、この非認知領域を育てるということは、これは両方やっているんです。
 非認知領域を育てると、一気に能力がぼんと高くなっていくということを、どうも課題研究で、そういう現象を我々はどうも見ているんではないかということを議論されています。
 イノベーションの教育の世界も同じようなことが起こっていて、どういう能力を育てるかというところを着眼すると、もはや高校生とか、中学生、大学生とかは関係ないんです。もう目覚める人は、早くからそれをやらせた方が、ぶわっと伸びていくんで。
 認知領域の知識体系、いわゆる学習指導要領だとか、あるいは大学の教養教育というのは、この非認知の成長、認知の成長は交互にやってくることは、これが非常に重要な教育プロセス。
 これは個人差が当然あるんですけど、伸びようという、どこかに芽がある生徒さんは、非認知領域もすごく刺激しながら、認知領域の成長もぐっと促進するようなことを、併せてやるという特別な仕掛けは有効ではないかということは、課題研究でだんだん見え始めているんです。アントレプレナー教育も、それをやり始めているんではないかと思うんです。だから、そうなってくると大学や高校の枠にはまらなくなってくる。
【小林主査】  でも、それは分かりますが……。
【坂本課長】  それで、スーパーサイエンスハイスクールも実は高大接続を今、どんどんやり始めている。提唱しているんですけど、そういう流れになっていくんです。
 だから今、御指摘のあるところは、行政的にも非常に重要なテーマだと思うんですけれども、仕掛けを作るということが、なかなかそう簡単ではないというところを、我々も経験しています。
【小林主査】  いや、そこに課題があることはおっしゃるとおりなんです。
 片方で、今掛かってきているレギュレーションは、それと整合しないときがありますものね。
【坂本課長】  そうですね。
【小出委員】  全くそのとおりですね。今のお話、いわゆる社会と科学の連携というものは、一つのコアな部分ですね。つまり、どこかのセクションだけで見ては、解決できない問題を、根本に戻って、そこから、本質的にもう1個、組み上げていくという必要があると思います。
 日本は、物事の根本に戻って、そこから、もう1回考え、組み立て直すということが、特に大戦後は得意ではなかったですけれども、それは、我々の受けたのが、みんな同じ方向を向いて、自分の頭で物を考えるなという教育をされてきて、それの結果が発揮されたという事も言えると思います。
 吉川さんの今日のお話も、教育の中で体験ということを重要視して、そうした努力を入れようとされています。我々ジャーナリストの目で、今の教育を見ると、最も足りないものが、実験と観察で、全体的な体験ですよね。
 先ほど、認知教育の部分は、体験をできるだけ外して、型にはまったもので、大学の入試まで行ってくれという枠組みですが、こうした流れとは無関係な価値観を持ち、それをかいくぐった人間だけが、非認知領域を自分で培い、何とか生き延びているということが、言えると思います。
 機会均等、みんな真っ平にするということは、ある意味では福音で、我々もみんな、大学へ行けてよかったということになりますが、一方、本来、教育とは本当にそうなのかという原点にもう一度戻って考える必要もあると思います。
 先ほどの小林先生のお話の中でも、多様性というものが、これだけ阻害されているという現実が示されましたが、人が人を育てるという現場で、本当にいいのかという疑問を持ちます。
 ご指摘のあった研究と教育を、労働基準法で一つの狭い枠にはめようとすると、多様性が犠牲になることが起こるわけで、それぞれの教育現場に特殊性があっていいのではないでしょうか。日本以外の国ならば、法律をどんどん変えていこうよという議論が出るわけですが、日本の場合には、秘密保護法でも、1回決まったら、みんな忘れてしまって、不都合な部分を変えようという動きがなくなる。こうした社会全体の問題が、ここの連携委員会の議論のベースにありますね。その中から、どんなフレームが考え得るのかを議論できると思います。
 Jリーグの例も、少年サッカーリーグができて、報道機関がこの地方大会を支え、地域版の記事を重ねながらJリーグという大きな社会活動につなげていった。そこに教育がどうコミットできるかということだと思います。特にイノベーションや、サイエンスコミュニケーションの教育の問題になると、大学はある役割、機能を持たなければいけないと思うんです。
 先ほど企業の社会的な支援事業のお話がありましたが、アメリカではさまざまな企業や個人が大学研究予算を支えるのに、日本の企業にはなぜこうした動きが低調なのか、考えなければいけない鍵だと思います。
【坂本課長】  はっきり申し上げると、これは、幾つかパターンがあると思うんですけれども、典型的な例は、例えば、スタンフォード、運用資産が、たしか2兆とかあると言われている。その運用資産の基となっている資金は、ほとんどが寄附なんですけど、その寄附をしているのは、企業ではないんです。
【小林主査】  卒業生。
【坂本課長】  ええ、卒業生です。しかも、それは、極めて限られた、大成功した人たちの寄附が、ほとんどです。したがって、そういう文化というか、構造が、日本にはないんです。大企業はあるんですけど。
【小出委員】  ハーバードなんかも、そういう……。
【坂本課長】  多分、同じだと思います。
【小出委員】  昔でいえば、安田講堂の安田財閥とか、そういうものが……。
【坂本課長】  そうです。そういうことです。
【小出委員】  その習慣が、どんどんなくなってしまったということですか。
【小林主査】  成功した人間というのは、寄附のできる人間になることだというストーリーがあるみたいですね。
【小出委員】  それは、社会と科学の連携の一番重要な部分ですね。こうした原点からもう一度、考え直す必要があるんではないかという意味ですね。
【坂本課長】  そうなんです。
【小出委員】  アメリカは、アントレプレナーを作る。ビル・ゲイツのように、成功すればそれをどこかでは社会貢献として献金することも、一般的ですね。
 ビル・ゲイツの話を聞くと、「それは家庭教育だった」と彼は言うんです。「母親から、幾ら金を稼いでもいいけれども、必ず社会に還元するようにと言われ続けたから、自分も、どこかで社会に貢献するつもりだった」ということを言っていました。こうした傾向は、彼以外にも多くにあるようですね……。
【小林主査】  いや、だから、この辺り、結構きつくて、大学の自己否定になるんです。つまり、彼ら、大学を出ていない人が多いんです。スティーブ・ジョブズでも、そうだし、ザッカーバーグでも……
【小出委員】  大学が、元々の修道会、教会に所属するエコール、寺子屋というところだと考えれば、それは何らかの知恵、思想、哲学を身に付けるということが目的だった。人が人を育てるというところだとみれば、ビル・ゲイツのハーバード大学の中にいて、色々な意味で育てられた、スピンアウトしても、あれだけの実力を発揮することは、大学としても、名誉に感じているのではないでしょうか。
【小林主査】  そうですね。
【小出委員】  そこの間で、インスパイアされて……。
【坂本課長】  話を科学技術コミュニケーションへ戻すと、吉川先生からお話のあったところで、これは結局、先ほどのお話で日本の大学が弱いといったところの課題を、まともに指摘していただいているなと思ったことが、20ページです。
 SDGsにおける大学の役割というところで、丸1から丸5のステップをおっしゃっていただいていますけれども、これは正に価値創造のプロセスそのものですよね。ここでいう価値というものは、起業教育的にいうビジネスの価値だけではなくて、扱っている知識の領域が違いますけれども、先ほどのサイエンスも全く同じ構造だと思うんです。
 こういう価値創造のプロセスを扱おうと思うと、先ほどから御議論になっているコミュニケーション能力、コミュニケーション機能。これも、私は人材育成を担当しているんで、盛んに、今、議論されているんですけれども、これは教育もそうですし、研究者の世界もそうですし、技術者の世界でもそうですけれども、トランスファラブル・スキルだとか、あるいは汎用的スキルだと言われている。
 要は、新しい価値を生み出すためにいかに人を結び付けるか、あるいは資源を組み合わせるか。そういったときに、コミュニケーションを含めた、これはマネジメント能力と言っていると思うんですけれども、汎用的なスキルは非常に重要なので、それをどうやって育てるかということは、先ほど言った研究者あるいは初等中等教育は、別々の対象なんですけれども、今、ほとんど同じようなことが議論されているんです。
 だから、それを真正面から岡山大学さんも、そういう能力の涵養というものに取り組まれているなと。
 したがって、今後、科学技術コミュニケーションというものは、様々なところで、必要な能力、機能になるということは、先ほどお話がありましたけれども、専門家は自ら備えておいてもよいではなく、自ら備えておくべき機能だと、我々は位置付ける必要があるんだろうなと。これは、専門家という意味は、研究、科学技術だけではなくて。
 あるところで、やはり、目に見える顕著な成果を出そうと思うと、それは価値という意味で、顕著なものを出そうと思えば必ず要るものは能力だと。
 ただ、科学技術のコミュニケーションというと、やはりサイエンスあるいはイノベーションの文脈で、どういう価値を生み出すかという出口との関係で、必要なコミュニケーションというものを、もっと高度なものを自ら設計して、出口の活動と、実際に価値創造をする活動とつなげていくというふうな機能が付加されて、科学技術コミュニケーションという、非常に重要な教育領域なのか、あるいは政策領域と言っていいと思うんです。そういった領域になっていくんだろうという感じがいたしました。
 だから、そういう科学技術コミュニケーションの在り方というか、デザインの仕方を、どういうふうにしていったらいいのかということは、今後の課題になるのかなと、我々としては、中で議論しております。
【小林主査】  これから、一般論にもなっていくんだろうと思うんです。
 もう1枚紙がありますので、これも含めて、全般的に今の論点を議論したいと思います。

◯資料2に基づいて、石橋補佐より説明
【小林主査】  ありがとうございます。
 ということで、もうかなり議論を広げていくということで、田中さん、お待たせいたしました。
【田中委員】 科学コミュニケーターの定義をはっきりさせないといけないと思います。そのことを踏まえた上で「何が必要か」等のコンテンツについて考えていく必要があると思います。
 その場合、吉川先生が用意くださった29ページの図を基に考えておりましたが、最大公約数としての必要な要件はギリシャのイデア「真善美」ではないかと思います。「真善美」というと古い時代の話に聞こえるかもしれませんし、西洋的なヨーロッパ中心的な見方でもあるとの批判はあるかもしれませんが。
 それでも、グローバリズムの時代においても、いやむしろ現代だからこそ、「真善美」という考え方は普遍性があるように思います。
先ず、真は知識であると理解します。これ図でも含まれています。
 次に善ですが、これは生き方の姿勢と関係してくると思います。以前、ダライ・ラマさんの講演を聴いて気づかされたのですか。質疑の時に、「教育に必要なことは何ですか」との質問に対して、「二つあります」と答えました。一つはサイエンスでした。これは、論理学、あるいは論理的な思考法かと思います。そして、もう一つは「グッド・ハート」であると。「良い心、気持ち」なのだと思います。これが正に善ではないでしょうか。これも何となく先程の図の中で示唆されていたように思います。
さて、問題は、最後の美ではないかと思います。別の形で表現すると「システム思考」といいますか、デザインのことかと思います。コミュニケーションの場面でも、能力としての美が必要になってきていると思います。アメリカでも、最近はビジネス・スクールの卒業生がデザイン・スクールに入りなおしているという話も聞きます。
茶道の世界ですと「一期一会」の気持ちで相手をおもてなすのですが、相手が何を欲しているのかを言葉を通じてではなく、相手の態度、様子からうかがい知る、潜在的なニーズを顕在化し表現してあげる能力ではないかと思います。そして、できるだけ若いうちから経験できる、習得していく機会を提供することが必要なのではないかと思います。
【小林主査】  今、そういう感覚は、実は世界的に広がっているわけです。STEM教育という言い方をしますね。Science Technology Engineering and Mathematics、それに、最近、STEMの間にAを入れるんです。これはArtなんです。
 特にアメリカで、この間から、ずっと議論されている報告書なんかは、理工系の人材の育成のところに、Art、今おっしゃったように、美のようなものです。そういう感覚をどうやって組み込むかということが、これからの教育の鍵だというような議論をしていますし、日本でも同じだと思います。それがないと、多分、駄目なんだろう。
【坂本課長】  私は、この前、リスク研究学会で、発表させていただいたんですけど、共感を呼ぶコミュニケーションについてリスクコミュニケーションの推進方策に書いてありました。
 今、小林先生がおっしゃった流れで、私なりの理解は、実は、アントレプレナー教育でも、今の美というか、私は、これは感性だと思っているんですけど、感性の部分がすごく重要になってきています。
 感性がなぜ重要かというと、共感を呼ぶ必要があるんです。共感というのは、実はビジネスの文脈でいうと、価値を提供しようとすれば、実際、提供の先ですよね。いわゆる顧客との間で、共感を生み出さないといけない。
 あるいは、価値創造は一人では、当然できなくて、やはり、ちゃんとチームを作って、それで、実際、価値を提供する、プロダクトかサービスか知らないけど、そういったものを生み出さなければいけないです。この生み出す側の共感も要るんです。
 そういう共感を生み出すのに、アートというか、あるいはデザインと言ってもいいかもしれないんですけれども、これが極めて重要だということは、アントレプレナー教育で、今、非常に盛んに議論されています。
 何が起こっているかというと、もう単純な話で、例えば、ロボットでもいいですし、あるいは、何かのサービス、インターネットを通じたサービスでもいいですけれども、ユーザーとのインターフェースは、物すごい大事ですね。ここをどういう形で設計するのかということは、エンジニアが幾ら頭を悩ましても分からない。
 そこで例えば、早稲田大学が、多摩美術大学とやり始めるんですけど、美大の学生さんが来ると、そこをいかに感性に訴えるかということは、物すごく速く、素早く議論、本当に設計できるみたいですよね。
 主要は、当然、エンジニアリング側から、与えられるんでしょうけれども、それを、実際、ユーザーとの間で、どういう形で、インターフェースを作るかというところは、もうデザイナーの方が、圧倒的に能力がある。だから、ここを組み合わせることを、盛んに議論されています。
 だから、これは、今、アントレプレナー教育の世界で、話をしましたけれども、社会的な課題の解決にしても、システムをデザインしなければいけないところがありますよね。そのときに、いかにユーザーが、社会的課題の場合は、市民の行動変容も、当然、必要になってきますから、その行動変容をいかに起こしやすいようなシステムをデザインするかというときに、感性の問題は、相当大きな比重を占めるんだと思っています。
【小出委員】  その部分は、個人的な資質、パーソナリティーに関わってくる問題ですね。
 伝統的な教育をやっているイギリスの古い大学などでは、結局、全員が、みんな大学の教育を受けなくても良い、という考え方、つまり将来リーダーシップをとらなければいけない人間を育てるために、大学はある。こうした知性、教養を育むものが、哲学と歴史だといいます。
 カレッジの中で、少人数の集中教育を3年間続け、その間で身に付けたものが、社会でリーダーシップを発揮するときに、自分ならこう判断するという決断力に結びつく。それのことを教養と言うんだとなると、日本の教育とは大きな開きがある。日本のスーパーサイエンスハイスクールなどは、こうした点を補う狙いがあると思いますが、責任を持って、リーダーシップをとることができる人間を、育てなければならないです。
 こうした資質と、社会と科学を結ぶ連携は、極めて密接な問題だと思うのです。しかし、全員が、みんなサイエンスコミュニケーターになるという必要もない。ただ、社会と科学の連携には根底にそういう問題があるということを、多くの人たちが理解する必要があると思います。これは、机の上の学問だけでは無理なので、吉川先生たちがやられている社会での実践、体験の教育は、とても重要だと思います。
 一方では、文化系と理科系の落差、断絶も気になります。
 日本は明治のときに、優秀な人を集めて、半分は高等文官試験を通して、官僚機構を支え、片方は、化学・技術教育で富国強兵、兵器を作る、このフレームが、社会にそのまま残って、理系・文系の断絶につながっていると感じます。
 ところが、新聞で扱う日々のニュースの中で、逆に科学に関わらないものの方がずっと少ない、という現実があります。地球環境の問題から、医療、災害、遺伝子工学の問題、これを扱う範囲は、それこそ経済ニュースから政治もそうです。
 つまり科学というものは、川の向こうのにあるのではなくて、身の回りはほとんど、「科学」にかかわる問題だということを前提とすることが、科学・社会連携の話を進める一つの前提になると思うんです。
日本ではなぜか、政策決定に科学的な評価、サイエンティフィック・エビデンスが役立てられていませんが、これは世界の中でも珍しいことになっています。政府や国会の判断をサポートする、サイエンティフィック・アドバイザーもいない。
 コミュニケーションと一言で言っても、福島事故の後のような「クライシスのマネジメント」も入ってきます。ですから全部を一つにはできないと思うので、領域を分けて、それぞれにどのようなコンセプトで向き合わなければならないかを、この委員会で議論できたらと思います。
 原子力エネルギーの関係で、コミュニケーションの話をする機会がありますが、原子力業界の人たちに、社会との関わりには、「説得しないコミュニケーション」というものがありますが、こういう努力ができますかと尋ねると、説得しないコミュニケーションの意味が、まったく理解してもらえないことが、多々あります。
例えば、福島県の被災地の中で、人々の信頼を取り戻すには、結局、被災者と同じサイドに立つ、それは単純におもねることではなく、横に座って、共に同じ方向を見ながら、話をするということが、一つのスタンスです。このようなコミュニケーションが、実務では極めて重要ですが、それを支えるのはやはり「マニュアル」ではなく、個人的資質、パーソナリティーの問題にたどりつきます。
 そうなると、やはり若い人たちで、先ほどからお話が出ている中学、高校生の育成にフォーカスしなければいけない。これらのいくつもの要素をパターンに分けながら、交通整理して議論して行く必要があると思います。
 
【堀口委員】  大学の教員が、自分がコミュニケーションを体験したら、教育できると、錯覚しているような気がしているんです。
 それが、その資質の話になってくるかもしれないんですけど、福島県立医大と長崎大の2大学の共同大学院で、リスクコミュニケーションを担当しているんですが、例えば、リスクコミュニケーションの定義も教えず、自分がやってきた経験だけを、講義で、お話が延々続く。
 私は、定義から入って、例えば、食品分野では、こういうふうに言われている、例えば、科学技術論の中では、こういうふうに言われている、文科省のホームページには、こういうふうに書いてあるというようなことを、いろいろ紹介していってこそ、コミュニケーションというものを、学生に理解してもらえるものだと思うんですけど、どうも、ふだんしゃべっているから、しゃべらない人はいないので、体験したこと、イコール、だから、コミュニケーションが教えられるというふうに、錯覚を起こしている人が多いかなということを思っていて、そこが、そういうタイプの方々は、多分、共感という言葉が分からないと思うんです。
 吉川先生、今、教員に大変恵まれていらっしゃるとおっしゃっていたことは、やはり、そこにいらっしゃる先生が、多分、そういうタイプの先生たちではなくて、自分たちが、日々、専門分野のクオリティーを上げるための努力をしながら、教育をどうしていくかということを、先生もいらっしゃって、企業から来た人たちの新しい風も感じながら、多分、やれているからかなと、ちょっと思いました。
 なので、先生が書いてくださった29ページの知識通訳のことについては、私も非常になるほどなと思いました。なので、教員としては、私も教員をしていますけれども、それを、先ほど、学生さんの評価も出ていたし、教員の評価も出ていたと思うんですけど、社会貢献というものを、どういうふうに大学が捉えるかということが、非常にクエスチョンマークが……。
 ちなみに、私、ここの会議に出ていることは、うちの大学で、社会貢献ポイント、ゼロなので、いや、国の会議に出るのは、ゼロ。市民講座の講師は、ポイントが付きます。
【坂本課長】  大きな社会貢献をしていただいている。
【堀口委員】  そうなんです。だから、社会貢献は、何を指すのかなということも、コミュニケーションを考える上で、必要なのかなと思っています。
【小林主査】  いや、そうですか、社会貢献ポイント、ゼロですか。
【堀口委員】  あ、私、ゼロなんです。
【小林主査】  ちょっとショックですね。
【坂本課長】  これは、ショックです。
【原田委員】  1点よろしいですか。
【小林主査】  どうぞ。
【原田委員】  科警研の原田と申します。
 共感を呼ぶとか、自分自身が共感性を持つ。そういうものが、科学コミュニケーションの、あるいは、リスクコミュニケーションの根幹であるというお話は、正にそのとおりだと思うんですけれども、では、それを身に付けるためには、どういうスキルが必要なのとか、もう少し具体的に、あるいは、どんなノウハウがあり得るのかとか、もうちょっと具体性のあるところに落とし込んでいかないと、これから、そういう人たちをどう育てていくかということにつながりにくいかなという気が、ちょっとしてしまうんです。
 そういう意味で、私は、しばらく前から、とても印象に残っていることが、産総研の私よりかなり若い先生なんですけど、西田佳史先生だと思います。
 その先生が、研究成果を社会に実装するためには、いわゆる研究者の普通、当たり前だろうと思っている考え方の道筋とちょっと違う道筋が、必要なんではないかということを、最近よくおっしゃっています。
 彼の言葉で、一つ、とても印象に残っているものが、コンテンツ駆動型アプローチというものでして、例えば、我々であれば、子供の犯罪被害の防止ということになると、それの前兆になるような事案が、その地域にどれぐらいあるのかという、つまり、まず実態把握をしましょう。 で、それに基づいて、例えば、そういうものが、短い期間、狭い範囲に集中して起こっているところ、それは、どういう環境のところなのかということに、つまり、原因究明につなげましょうと。大体、それが、普通の道筋だと思うんです。
 ところが、それと全く同じ考え方で、学校の中の子供の事故によるけがの防止について、ある学校に西田先生がそれを提案した。そうすると、すごく評判が悪かったと言うんです。何でだろうということで、よく反すうをされた結果、学校の現場というのは、とにかく忙しいので、実態を把握したからといって、すぐ対策に結び付くわけではない。要するに、私たちがやることは、子供を守ることであって、現状を知ることではないんですと言われたというんです。
 それで、彼の言うには、インプリメンテーション・サイエンスという一つの研究分野が、欧米などでは立ち上がりつつあるそうでして、そういうものの考え方を取り入れる必要があると考えたのだそうです。コンテンツ駆動型のアプローチとは、要するに、これをやったら、けがを減らせますよという、いわば処方箋のほうを先に提案する。それによって、実際にやってもらう。で、現場の先生方が、なるほど、これをやると、うまくいくよねということを実感してもらう。これを最初にやるべきだという考え方だそうです。
 それをやった上で、なるほど、これは有効だねということが分かっていただいたら、その次に、でも、これをもっと効率よくやるためには、実態把握も必要ですよねと持っていくのだそうです。
 これがすごく印象に残っておりまして、自分も、研究の成果を世の中に返したいと思ったときに、何かにつけて、この言葉を思い出し、そのやり方で、試みたりしているんです。
 で、つい最近、個人の体験で大変恐縮なんですけど、大阪北部地震があったときに、くしくも、今日の吉川先生のお話の中で出てきたのと同じ「聞き書き」という言葉を使っているんですが、『聞き書きマップ』という地図づくりソフトウェアを作っていて、いろいろな人に使ってもらいたいと思っており、iPhoneバージョンが出たばかりだったんです。
 こういう大きな災害があったときに、簡単に、ここで、こんなことがあったんだよみたいなことを、声で録音して、それを地図の形にすぐ表現できるスマホアプリができたばかりだったので、それを何か使ってもらえる手はないかと考えました。
 それで、震災はたしか6月18日の朝だったと思うんですけど、その翌日、1日掛かりで、こういうことが起こったら、次は、恐らく、小学生の子供さんが亡くなっていますから、通学路の安全点検を、きっとみんなやらなければならない。それは、被災地だけではなくて、全国的にどこで次の地震が起こるか分からないから、きっとみんながやらなければならないだろうというところに思い至った。
 そういうときに、我々の『聞き書きマップ』のスマホ版を、こういうふうに使ったら、こういうふうに簡単にデータを取って、みんなが共有できる地図ができますよと。それをやるにはどうするかという即席のマニュアルを作って、それで、自分たちの成果公開サイトに投げたんです。それをやったら、しばらく後から、いろいろな人から連絡をもらうようになって、反響が非常に大きかった。
 話が回りくどくなってしまったんですけど、それで、改めて、最初のコンテンツ駆動型のアプローチ、コンテンツによってドライブされるという西田先生の言葉に戻ります。
 要するに、地震が起こったときに、次に、現場として、何が必要とされるだろうかと、そのときに、自分なりに思いを巡らせたと思うんです。ちょっと先を読んだときに、きっとそれは通学路の安全点検という、次の被害を防ぐというところに、ニーズが出てくるだろうというところに、思い当たったのかなと。
 それが、次、来るだろうと思ったんで、それでは、そういうものが立ち上がったときに、はい、これがありますよというところで、すぐに使ってもらえる。これが、西田先生の言うコンテンツの一例だろうと思ったんです。
 そういう意味で、現場にピンときてもらうために、自分なりのあのときに思い付いたことの第1点は、迅速性であり、タイムリーであるということ。
 2番目は、Wordの文章に画面のキャプチャを入れただけのものなんですけど、これをざっと読んでいただければ、データを取るところから、パソコンに取り込んで、地図の形にして、印刷するところまで、この手順でやれば、絶対、誰でもできますよという形の手順書を提供することです。
 要するに、我々研究者が、一々お手伝いしなくても、現場の人が、自分で全部できるものが、恐らく必要になるだろう。こちらが一々行って、お手伝いしなければならいんでは、そんなに迅速に、全国的になんて、不可能ですから、今、思い返すと、その2点ぐらいだったと思うんです。
 迅速性、タイムリー性ということと、ユーザーが、自分でできるようになるために、何が必要なのか。そういうものを、一つ、セットでもって、まず、これをやれば、皆さんのやりたいことが、ほら、できるでしょうということを提示するということが、ぐるぐるっと回って、最初に申し上げた、西田先生のおっしゃるコンテンツ駆動型みたいなアプローチに、結果的になったのかなという気がしております。
 これは、ほんの小さな1例なんですけれども、こういうものが、もしかすると研究の成果と社会をつないでいく、実践につなげていくときの一つのノウハウとまで言えるかどうか分かりませんけれども、必要なものなのではないかと思います。
 このようなことが、もしかすると、社会実装の促進であるとか、現場の人たちにピンと来てもらうための、具体性のあるノウハウとか、スキルみたいものの、少なくとも萌芽みたいなものになるんではないかなという気がしたのです。
 長くなってしまいましたけれども、そのようなことを感じました。
【小林主査】  ありがとうございます。
 あの地震のときは、我々は、もう後手に回りました。
 最大の反省点は、日本人の感覚と留学生の感覚が違うということです。留学生は、地震が起こると、自分たちのソーシャルネットワークを使って、全員、一斉に避難所に行きました。
 ところが、日本人の感覚では、避難所に行くときというのは、自分の自宅が本当に壊れたとか、そういう具体的な被害があってから、動くので、そういう被害は、そんなにたくさんではなかったので、まさかそんなことが起こると思わなかった。
 ところが、避難所に、99%がうちの留学生ということが起こりました。それは、全然、予想していませんでした。だから、そういう文脈も想像して、そして、頑健なシステムをというものを、日頃から準備できていたかというと、できていなかった。だから、現場で、すぐにというところの部分は、相当の想像力と準備が要るということを実感いたしました。本当にリスクコミュニケーションの失敗例だと反省しています。
 自治体からは、来るなと言わんけれども、大学は何をしているんだと言って来ます。しかし我々は、留学生がそんなふうに避難所に行っているということは把握できないです。そんなビヘイビアー・パターンを持っているとは思わなかった。だから、感性ですかね、想像力ですかね。やはり、日本人の当たり前から離れられないで、動くということの問題点です。
 
【坂本課長】  よろしいですか。
【小林主査】  はい。
【坂本課長】  先ほど、小林先生の方から、今後どういうふうに進めていくかという話がありました。それは、一番今、我々事務局としても、御議論いただきたいと思います。
 今、原田委員から、非常に貴重なコメントを頂いたと思います。
 先ほど、産総研の西田先生ですか、コンテンツ駆動型のアプローチと、コミュニケーション・ツールから……コミュニケーション・ツールという呼び方をしていいかどうか、聞き書きマップから、どういう価値を生み出すかというところまで、今回、原田委員のところが仮説を立てられて、実際それを実践してみたら、やはり相当な反響があった。要は、価値を生み出させる行動変容が起こり始めているというお話があったと思うんです。
 科学技術コミュニケーションを考えたときに、先ほど、原田委員がおっしゃいましたけれども、最初に共感を呼ぶために、どういうスキルが必要かというお話がありましたが、これは多分スキルだけではないと思うんです。
 そもそも、姿勢というか、ビジョンというか、そういったものも含めて、共感は起こるし、行動変容あるいは人々の参画も起こるだろうということで、科学技術コミュニケーションは、あるいは、イノベーションというのか、あるいは、社会変革というのか、そういったことを起こそうとする。
 実は、こういうものを、今、ビジネス的な地域イノベーションみたいな文脈でいうと、プロモーターという言葉を使っているんですけれども、コミュニケーターという機能を拡張して、社会変革なり、価値創造なりを起こすという機能というふうに、捉え直した方が、今の文脈からいうと、非常にいいのかなというふうに思ったりしています。
 そういう共感を呼び、社会との共創という言葉も使われますけれども、その共創の駆動力になるような人材というふうな視点で、科学コミュニケーター、あるいは科学技術コミュニケーションというものを一つ。
 それだけではない科学技術コミュニケーション、リテラシーをいかに向上させるかとかもあるんですけれども、今盛んに議論されている科学技術コミュニケーションの重要分野は、そういうところかなということで、そういったところに一つフォーカスを絞っていくということもあり得るのかなと。
 ただこれは、大学なり、大学でなくてもいいと思うんですが、科学技術コミュニケーションは具体的に社会に対して、価値をもたらす一つの重要な機能だと位置付けたときに、価値をもたらす活動とセットでやらなければなりません。そうすると、社会に対して、責任を負うことになる。
 ここで、吉川先生のコメントがあれば、是非教えていただきたいんですけど、ある意味、科学技術コミュニケーションのトレーニングの場として、そういう実社会の課題を扱うということはいいんだけど、実際にその課題に解決にまで踏み込んでやるということが、本当は求められるんだろうと。
 でも、それを大学が行う教育的な活動しての科学技術コミュニケーションの一環でやるということは、実は非常に難しいところがあって、相手方、相手は企業か分かりません、あるいは地域社会かも分かりませんけれども、課題を持っている方々からすると、それはコミュニケーションのための教育的活動に留まらずに、本当にソリューションを与えてくれるのか、あるいは自分たちとして実践していけるのかという責任を伴う活動になってくる。そこまでやってくれますかというところを問われることになるんです。
 そしてそこは、一つ、科学技術コミュニケーションというものが進化する、非常に重要な場を作る非常に重要な課題なのかなと思っております。
【小林主査】  それは、本当に難しい問題です。昔から、PBLやフィールドワークなどが、常にその問題に巻き込まれている。だから、私は七人の侍の問題と言っているんですけれども、要するに、ずっと付き合い続けるのかという部分なんです。それは、どこで離脱すのか。それは、結局のところ、論文を書くためだったんですかという議論に行くんです。
【坂本課長】  そうですね。
【小林主査】  だから、人類学が苦しんでいる問題でもあります。だから、それで、二足のわらじ型になっているんです。だから、人類学者としての研究としてやっている部分と、実際の問題解決にコミットをする。
 そうすると、それは、抜ける、抜けないの話ではなくなる関わり方です。その両方をやらないと、いけないという行動になるという議論はあります。
【坂本課長】  実際、この問題はすごく重要で、それは大学がそういう場を与えるというところで問題が表面化してきていますけれども、実は科学技術コミュニケーションを価値創造に結び付けようとしたら、必ず、直面する問題が出てくるんではないかと思うんです。
 つまり、コミュニケーションが目的ではないわけではないです。その先にあるものを生み出すことが目的なんで、そういったところは、岡山大学ではどういう教育をされていますか。
【小林主査】  教育という枠で、一応、今のところ必ず区切る。開いてしまうと、大変なんです。
【吉川氏】  そうですね。小林先生がおっしゃったとおりで、非常に難しい課題を抱えていると思います。
 実践型社会連携教育の中で、サービス・ラーニング的な科目があります。サービス・ラーニングには、地域でのいわゆる奉仕活動的なところのサービスと、学習としてのラーニングがある。
 米国のブリングル博士によると、サービスとラーニングは、どっちも大文字の関係であればいいんだけれども、実際には、どっちかが大文字で、どっちかが小文字という関係になってしまうと成り立たないと言われていて、そこを成立させるためには、私たちも四苦八苦している状態です。
 大学としても、もちろんそうですし、地域の側も、学生ならではの観点を期待しているとおっしゃいます。私たちは、そんなものはありませんと言っています。学生ならではの観点ではなくて、素人の観点であり、毎年、派遣される学生を変えて、毎年、素人の意見を言われても困ると思うんです。
【小林主査】  そうなんです。
【吉川氏】  はい。なので、それが、先ほどおっしゃっていたとおりの話だと思うんですけど、とりあえずは、小文字のサービスと小文字のラーニングにならないように、少なくとも、ラーニングの方は、教育機関として保証するべきであって、こっちを大文字にしようと。
 サービスのところは、地域の受入れのNPOや自治体などと一緒に協議をして、どういうふうに大文字にしていくかというところで、毎回、四苦八苦している感じです。
【小林主査】  ヨーロッパは、サイエンス・ショップという言い方で、多分、同じようなことをやって、やはり、悩んでいます。そこは、すごく難しいですね。
【吉川氏】  難しいです。
【小林主査】  だから、そういう人材育成のためには、そういうラーニングの場が必要だということも事実で、それが、サービスの大文字までやれと言われると、過重負担になるということもある。
【吉川氏】  そうです。
【小林主査】  そこのバランスですね。
【吉川氏】  はい。
【坂本課長】  ただ、大学側の研究が変質する必要があると、私は産学連携でさんざん、全国で議論したんです。
 何かというと、やはりこれからは単に知識を生み出して、あるいは技術を生み出して、それを誰かが使ってくれればいいという移転するところまでやるんではなくて、これは大学として、相手方が持っている課題にコミットする必要があるんではないですかということは、私が産学連携をやったときの基本スタンスだったんです。
 これもさんざん議論して、いろいろな議論がありましたけど、結局これは世界的な流れとして、知識は、実践して価値を生み出してこそ、本当の知識であるというような認識は相当深まってきているんではないかなと思うんです。
【小林主査】  素粒子論、どうします?
【坂本課長】  ピュアなサイエンスは、置いておいた方がいいんです。
【小林主査】  置いておくんでしょうね。
【坂本課長】  置いておかないと。ただ、いわゆる実学……。いわゆる実学というか、社会的に……。
【小出委員】  アプライドの方ですね。
【坂本課長】  アプライド。いわゆる実学だと、当然、だから、工学、農学、医学など、経営学など。
【小林主査】  要するに、パスツール型というものですね。
【坂本課長】  そうです。パスツール。経済学とかです。あるいは、心理学。
【原田委員】  犯罪学も。
【坂本課長】  犯罪学もそうですね。心理学でも、そうだと思うんです。
 ただ、それは、どんどん、学会なんかでも、例えば、私は、物理学会とかで、相当議論させていただいていますけど、物理学の世界でも、物性物理とかは……。
【小林主査】  物性は違うんです。物性は違います。
【坂本課長】  ええ。だから、素粒子とは違うんですけど、宇宙物理は違うんですが、でも、物性とか、はっきり言って、あるいは化学もそうです。
【小出委員】  化学は、ほとんどが、そっちです。
【小林主査】  化学は、19世紀以来、ずっと役に立つ分野だったからだと思うんです。
【坂本課長】  そうなんです。だから、本当に社会的課題とつながらないサイエンスもあることは事実としてあって、そこはそれで別の価値観で議論しないといけないと思うんですけど、でも社会的につながりがある学問については、今、お話をさせていただいた、ある程度、課題にコミットするということを、研究の全部の目的とは言わないですけれども、一部目的としては、含まれなければいけないんではないかと、そういうふうになっていくであろうと。
 そうすると、科学技術コミュニケーション、例えば、大学の教育する、実践する科学技術コミュニケーションも役割が変わってくる。というか、変わってこなければいけないんではないかなと思うんです。
【小林主査】  だから、SDGsとかSociety5.0の問題の立て方は、そういう方向に誘導が掛かるんですけれども、大学というのは、巨大な真理の探究の理念で動いてきた船ですから、かじを切っても、動き出すのは、10年後みたいな。慣性がすごいんです。
【坂本課長】  分かります。その上で、科学技術コミュニケーションを一つの軸にして、今後、大学あるいは大学でなくて、高校生でもいいんですけど、これから教育を受けて、社会に出ていかれる方々が持つべき能力、その能力は、どういう形で生かされるべきか。
 で、それを大学なり、科学技術コミュニケーションに関わる機関は、どうそこに自らもコミットするし、その能力を育てるべきかという。そこの方向性だけでも示していただくということは、非常に価値のあることなのかなというふうに思う。
【小林主査】  時間が来てしまいましたけれども、大変面白い議論で、もっとやりたいんですけれども、今、課長もおっしゃった議論も含めて、実は、この委員会は、立て付けとしては、今お手元のところにある、第5期の科学技術基本計画の第6章に、一応、対応する形で、議論のフィールドを作ってきたという側面があります。
 そこには、実は、割といろいろなことが書いてありまして、これは、もう今から何年前ですかね。4年前?
【坂本課長】  3年前ですね。
【小林主査】  3年前ぐらいですね。
 次に、基本計画を作るのかどうかは知りませんが、ただ、我々の問題領域の議論の中で、これを更にもう少し発展させるという視点も持った上で、ここが出発点で、ここには、割といろいろなことが書いてあるのだということは、御理解いただければと思います。
 例えば、丸1や丸2は、もうステークホルダーの間の対話や共創などという言葉に、かなりハイライトが掛かっている形でのイノベーションへの貢献がうたわれています。その中で、コミュニケーションというふうなものも、当然、含まれている。
 先ほど小出委員もおっしゃった政策形成の科学的助言が、日本では、ほとんど機能していないではないかとおっしゃいましたが、それもやらなければいかんと書いてあるんです。
 ELSI(エルシー)などというものは、もう産業界が、非常にこういう問題をちゃんとやってくれと言うんだけれども、それを研究する組織が、日本にはないという問題もあるというところの(1)は、この議論の委員会にとっては、非常に大事な論点群として、設定されておりました。
 今後、こういうものも踏まえて、更に現代的な課題へと展開する観点で、課長の今おっしゃったような議論も入れて、展開していければと思っております。
 そういう意味では、今日の御報告、話題提供は、従来の科学技術コミュニケーションのスコープを、少し広げるような形の切り口を提供していただいたということで、大変貴重な機会だったと思います。どうもありがとうございましたす。
【吉川氏】  ありがとうございました。
【小林主査】  時間も来ておりますので、事務局の方で、今日は、もうこれは、そろそろ閉めた方がいいでしょう。ということで。
【石橋補佐】  議論は尽きないと思いますが、引き続き、こういう議論を深めていくことは必要なのかなと思っておりますので、次回、また、その議論をさせていただきつつ、一定の方向性を出すようなところの取りまとめに向けて、進めさせていただければと思っております。
 なので、次回の委員会については、改めて、連絡をさせていただければと思います。
 また、議事録作成次第、皆様にお目通しいただいた上で、ホームページに掲載させていただくということになりますので、御了承ください。
 引き続き、どうぞよろしくお願いします。
 以上でございます。
【小林主査】  では、どうもありがとうございました。

── 了 ──

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