(敬称略)
氏名 |
所属 |
---|---|
木下 健 |
学校法人長崎総合科学大学 学長 |
瀬川 浩司 |
国立大学法人東京大学大学院 総合文化研究所 教授 |
関根 千津 |
住友化学株式会社 理事 |
田中 加奈子 |
国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 主任研究員 |
松永 是 |
国立大学法人東京農工大学工学研究院 特別招聘教授 |
山地 憲治(※) |
公益財団法人地球環境産業技術研究機構 理事・研究所長 |
※主査
平成24年度~平成28年度
中間評価 平成26年8月、事後評価 平成29年10月
「東日本大震災からの復興の基本方針」(平成23年7月29日東日本大震災復興対策本部決定)等に基づき、東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトとして、(1)福島県において再生可能エネルギーに関わる研究開発拠点を形成する「革新的エネルギー研究開発拠点形成事業」及び(2)東北の風土・地域性等を考慮し、新たな環境先進地域として発展することに貢献する再生可能エネルギー技術を用いた地産地消システムの研究開発を行う「東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発推進事業」の2事業を実施した。具体的には以下の通りである。
再生可能エネルギーに関わる開かれた世界最先端の研究開発拠点を福島県に整備することを目的とした「革新的エネルギー研究開発拠点形成事業」を実施した。本事業では、経済産業省の福島県再生可能エネルギー研究開発拠点整備事業により福島県に整備された研究開発拠点において、卓越した洞察力と指導力を備えたプロジェクトリーダー(研究総括)のもと、若手を含む多様なバックグラウンドを持つ研究者が結集し、世界トップレベルの研究開発を実施することにより、革新的な超高効率太陽電池の実現を目指した。
本事業では、以下の3課題に取り組んだ。
(1)三陸沿岸へ導入可能な波力等の海洋再生可能エネルギー
本課題では、東北に豊富に存在する海洋再生可能エネルギーを活用した波力発電及び潮流発電システムの実証試験を被災地自治体と協力して実施した。具体的には、発電装置を地元企業等と協力して製作し、波力発電装置を岩手県久慈市に、潮流発電装置を宮城県塩竃市に設置し、近隣の漁業施設などへ試験的な電力の供給を目指した。
(2)微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発
本課題では、津波により甚大な被害を受けた仙台市の下水処理場において、オイルを生産する藻類の培養過程を下水処理プロセスに組込み、バイオ燃料を効率的に創出するための基盤技術について研究開発を実施した。具体的には、培養した藻類の回収、オイルの抽出・改質等の要素技術の開発を行うとともに、仙台市の下水処理場にパイロットプラントを設置して、将来的に仙台市で活用可能な実規模プラント設計に資する基盤技術の確立を目指した。
(3)再生可能エネルギーを中心とし、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた都市の総合的なエネルギー管理システム構築のための研究開発
本課題では、平時と緊急時の両方において、最適なエネルギーとモビリティ制御が可能であり、かつ地域の再生可能エネルギーを活用する統合マネジメントシステムの構築を目指した。
具体的には、非常時に必要最小限のシステムに電力を供給可能なエネルギー管理システムを構築、現地に拠点を設置するとともに、そうした拠点で電力不足が生じた際に電気自動車が駆け付け電力を供給できるなどの機能を有した統合管理システムを構築した。また、地域に存在する様々な再生可能エネルギーを創出し、それらを有効に活用する統合管理システムの構築に向けて、将来的に電気自動車が普及した際に生じるエネルギーや交通などへの影響を見える化することを目指した。
東日本大震災からの復興のためには、被災地の短期的視野での活性化及び長期的視野でのまちづくりの両方の観点が必要である。前者の観点からは、研究開発拠点を構築し、被災地で最先端の研究を推進し、新たな産業の創出につながる成果を挙げることが重要である。後者の観点からは、再生可能エネルギーの地産地消システムの構築を目指して、東北の風土・地域特性等を考慮した再生可能エネルギー技術等の研究開発を推進することが重要である。
被災地の地元企業と連携しながら、最先端の研究開発拠点を構築し、研究開発を推進することにより、地元企業に最先端の知見が蓄積されるとともに、新たな産業が創出されるため、被災地の活性化につながり、有効である。また、被災地の地元自治体のニーズをくみ上げて協力しながら再生可能エネルギーの研究開発を行い、その成果を地元に還元することは有効である。
関係省庁、地元の企業や自治体と密接に連携しながら復興を迅速かつ効率的に進めていくことが重要である。また、課題間でも連携しつつ、状況に応じて課題の優先度を設定し、選択と集中を行いながら、事業を進めていくことで効率的に事業を推進することができる。
(1)革新的エネルギー研究開発拠点形成事業※
年度 |
平成24年度(初年度) |
平成25年度 |
平成26年度 |
平成27年度 |
平成28年度 |
総額 |
---|---|---|---|---|---|---|
予算額 |
1,185百万 |
1,285百万 |
1,282百万 |
374百万 |
236百万 |
4,362百万 |
執行額 |
1,116百万 |
1,278百万 |
1,235百万 |
373百万 |
調整中 |
|
(2)東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発事業※
年度 |
平成24年度(初年度) |
平成25年度 |
平成26年度 |
平成27年度 |
平成28年度 |
総額 |
---|---|---|---|---|---|---|
予算額 |
814百万 |
814百万 |
804百万 |
647百万 |
342百万 |
3,421百万 |
執行額 |
789百万 |
802百万 |
804百万 |
642百万 |
調整中 |
|
※ 平成24~27年度は、東日本大震災復興特別会計にて実施。
研究代表者 東京都市大学 総合研究所 教授 小長井 誠
拠点形成支援機関 科学技術振興機構
なお、本事業では、研究総括のもと、以下の三つのチームからなる研究組織を構成している。
チーム1 超高品質シリコン結晶技術 科学技術振興機構等
チーム2 ナノワイヤー形成プロセス・物性評価 東京工業大学等
チーム3 ナノワイヤー太陽電池 東京都市大学等
研究代表者 東北大学大学院環境科学研究科 教授 田路和幸
共同研究機関
(三陸沿岸へ導入可能な波力等の海洋再生可能エネルギー)
東京大学
(微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発)
筑波大学、東北大学
(再生可能エネルギーを中心とし、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた都市の総合的なエネルギー管理のための研究開発)
東北大学、東京大学、岩手大学、石巻専修大学、秋田県立大学
東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト
<必要性>
(1)革新的エネルギー研究開発拠点形成事業
東日本大震災からの復興に向けて、最先端の設備や優れた人材を結集し、被災地に研究開発拠点を構築し、新たな産業の創出の拠点を形成することは重要である。
本事業では、福島県郡山市に国立研究開発法人産業技術総合研究所が設置している福島再生可能エネルギー研究所(以下「FREA」という。)内に太陽電池セル作製のための成膜装置等の最先端の設備を導入するとともに、太陽電池に関する優れた知見を有する有識者を国内外の大学や企業から幅広く結集させ、太陽電池の加工から評価までを一貫して行ことができる研究環境を整えた。福島県の復興計画等も踏まえつつ、地元企業からの調達等の協力も行いながら、超高効率太陽電池の研究開発を行い、変換効率30%以上のSi太陽電池開発の基盤を形成するなどの成果を上げた。このように被災地のニーズも踏まえ、最先端の研究開発拠点を構築し、独創性に富んだ研究開発を推進し、新たな産業の創出につながる成果をあげていることから、本事業の必要性とされた点は達成されたと評価できる。
(2)東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発事業
東日本大震災からの復興のためには、再生可能エネルギーを用いた地産地消システムの構築が重要であり、多くの自治体の震災復興計画にも取り入れられている。
本事業では、被災地において地元自治体のニーズを組み込み、再生可能エネルギー利用システムの開発として、3つの課題を行った。その結果、海洋エネルギー、微細藻類及び太陽光等の再生可能エネルギーを中心とする次世代エネルギー・モビリティマネジメントシステムを構築し、被災地に実装するなど、再生可能エネルギーを用いた被災地の地産地消システムの基盤構築に貢献した。
このように再生可能エネルギーの研究開発及び利用促進を行い、被災地のニーズに応えていることから、本事業の必要性とされた点は達成されたと評価できる。
<有効性>
(1)革新的エネルギー研究開発拠点形成事業
現在使用されているSi太陽電池の変換効率は26%程度で頭打ちとなっているところであるが、本事業によりナノ構造による量子効果の発現の実証に世界で初めて成功し、オールSiで変換効率30%以上の超高効率太陽電池実現での基盤を形成したことは大きな成果である。また、本事業ではパナソニック、三菱電機、京セラ等の関連大手企業の事業参画や、高品質Si結晶研究における結晶成長用治具作製等に関する地元企業との連携開発など、本事業で得られた知見が企業に蓄積されることにより、新たな産業の創出への貢献が図られている。その他、本事業で得られた成果については、事業の専用ホームページの作成、学会発表、各種イベントにおいて常時発信している。このように、被災地発で再生可能エネルギーの導入加速につながると期待される新たな産業創出へ貢献していることから、本事業の有効性は高いと評価できる。
(2)東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発事業
再生可能エネルギーの導入については、温室効果ガスの削減に向けて重要な課題であるが、その実現のためには、エネルギーの安定的な供給等に向けた研究開発が必要である。
このような観点から、本事業では、再生可能エネルギー利用システムの開発として、(1)被災地における海洋エネルギーを用いた発電装置の開発・作製・実証、(2)下水からの藻類バイオマス生産システム研究開発の拠点を被災地に構築、(3)エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムの被災地における実装・運用を行った。このように本事業は、直接被災地の活性化につながった。
また、本事業は地元企業及び自治体と協力して行われたことから、エネルギーマネジメントシステムに関する先端の知見が被災地に蓄積された。このように、被災地に再生可能エネルギー導入のための知見が蓄積されるとともに、地元自治体への各種システムの実装・運用等が行われ、再生可能エネルギーを活用したまちづくりという地元のニーズも踏まえており、被災地の復興に貢献していることから本事業の有効性は高いと評価できる。
<効率性>
(1)革新的エネルギー研究開発拠点形成事業
拠点形成の観点からは、FREAとの技術連携の下で研究環境の整備が行われており、また、FREA開所時には研究環境の集約が人的・設備的共に速やかに実施されており、福島県の復興計画で要請された研究拠点の形成が迅速に行われた。
研究推進の観点では、事業をとりまとめる研究総括を配置し、その下に3つの研究開発チームを置く研究開発体制を構築し、研究開発を実施した。
研究開発内容は随時見直しを行い、超高効率太陽電池の開発に向けて、様々な手法を検討し、その進捗状況を外部有識者で構成される事業運営委員会や国際諮問委員からの助言等に基づき評価し、超高効率太陽電池の実現の可能性の高い技術に絞り込みを行って、研究開発を推進した。絞り込みにあたっては、将来の量産化等の実用化を見据えた現実解となり得る技術として、ナノインプリントや異方性エッチング等を用いてナノ構造を実現する技術が選択された。また、研究期間の前半は個々の要素技術の開発を進め、後半はこれらの要素技術を一体化させる統合化プロセス開発を行い、研究開発を加速させた。
また、本事業は企業も参画して実施するとともに、研究開発成果の一部をFREAの設備を用いて、セル化の実証試験を行うなどして事業を進めた。このように、迅速な拠点形成を行い、研究開発項目の選択と集中を実施しながら、関連機関と連携しつつ事業を進めたことから、本事業の効率性は高いと評価できる。
(2)東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発事業
本事業では、海洋エネルギー、微細藻類、エネルギーマネジメントシステムという3つの課題を並行して実施した。3つの課題を中核機関である東北大がとりまとめつつ、各課題代表者、自治体代表者、有識者、関係省庁が参画する事業推進委員会や運営委員会を開催し、各課題の進捗状況を共有するとともに委員等からの意見を踏まえた研究内容の見直し・絞り込みや各課題の連携を進め、事業を加速した。
また、本事業は地元自治体及び企業が参画して実施することにより、被災地のニーズを踏まえて、事業を推進した。関係機関と連携し、被災地のニーズも踏まえながら研究開発を実施していることから、本事業の効率性は高いと評価できる。
(1)革新的エネルギー研究開発拠点形成事業
本事業では被災地に国際的な最先端の研究開発拠点を形成すること及びその研究開発拠点において、Si太陽電池の変換効率30%以上達成に向けた検証を行った。
1.研究開発拠点の構築
研究開発拠点の構築については、FREA内に研究開発に必要な設備を導入するとともに、企業等から34名が拠点に常駐するなど、常駐外の研究担当・協力者等を含め100名以上が参画する拠点を構築した。また、本研究には海外からの研究者も参画しており、合計14か国の研究者が参加する国際的な拠点が構築された。さらに、本事業の研究開発成果の一部についてFREAで評価するなど、本拠点とFREAが一体的に研究開発を推進した。
2.超高効率太陽電池の実証に係る研究開発
超高効率太陽電池の実証に係る研究開発については、ナノ構造を制御したSiトップセルと高品質Si結晶によるボトムセルを作製し、それらを組み合わせた太陽電池による超高効率化の検証を行った。
a.トップセルに係る研究開発
トップセルに関しては、超格子積層技術や成膜技術等を用いて、超格子構造※1ナノワイヤーの作製技術を開発した。それに加えて、ナノインプリント技術※2や異方性エッチング※3を併用する等して幅2nmのナノウォールの作製技術も開発した。超格子構造ナノワイヤー及びナノウォールのそれぞれについて、通常のSiとは異なる特性を得るなどし、ナノ構造による量子効果※4の発現の実証に世界で初めて成功した。さらにそれらを用いて電流を取り出すための電極形成等を行い、太陽電池セル構造の作製にも成功した。ただし、ナノウォールをセル構造にして理論通りの効率を引き出すためには、電子輸送、光閉じ込め特性向上等のトップセルを最適化するための課題が残っており、これらを解決するための研究開発が必要である。
※1 超格子構造:異なる原子をナノメートルのスケールで人工的に組み合わせることで、もとの原子間隔の数倍の周期をもたせ、それによって電気的特性などの性質を制御した結晶構造。
※2 ナノインプリント技術:半導体加工に用いられる技術で、ナノレベルのパターンを持った版型を用いて、基板表面上に微細加工を行う。
※3 異方性エッチング:腐食作用が結晶方向に沿って進むシリコンの性質を利用して、一定方向(異方性)に腐食させ、シリコン基板に立体構造を形成させる技術。
※4 量子効果:電子が数nmの領域に閉じ込められると電子の運動の自由度が制限されることでエネルギーレベル(バンドギャップ)が高くなる効果。この原理から、半導体にナノレベルの微細構造を持たせることで吸収することが出来る光の波長を決めるバンドギャップなどの特性に影響を与える。
b.ボトムセルに係る研究開発
ボトムセルに関しては、タンデム型※5において有効に機能するためのボトムセル構造の最適化やセルの薄型化技術等を開発した。また、ボトムセル材料の開発として、高品質(従来の手法と同程度)且つ大口径(従来の手法の3倍程度)でSi単結晶作製が可能な手法(NOC法※6)を開発し、50cm径の坩堝を用いて、45cm径の大口径高品質かつ品質のばらつきが極めて少ない結晶インゴットの作製に成功した。
※5 タンデム型:波長の短い光で発電する太陽電池(トップセル)と、波長の長い光で発電する太陽電池(ボトムセル)を組み合わせた太陽電池。それぞれの太陽電池が効率よく発電する構造にすることで高い発電量を得ることができる。
※6 NOC法:(Noncontact crucible method)太陽電池原料であるシリコンの溶融液中で、シリコン結晶をルツボ壁面に接触させないようにして結晶を引き上げて成長させる方法。
c.その他のシステムに係る研究開発
本事業では、30%以上の変換効率を目指して、太陽電池セルに低倍率集光や波長スプリッティング※7を組み合わせたシステムを構築することとした。低倍率集光に係る技術開発として、デバイスシミュレータを用いて、低倍率集光下での各種反応が太陽電池特性に及ぼす影響について評価し、最適条件の解明を行った。波長スプリッティングに関しては、屋外に測定システムを構築し、実環境における波長スプリッティング特性を評価すると共に、太陽光の追尾等の有用性を実証した。
※7 波長スプリッティング:入射光を二つの波長に分光すること。主に短波長と長波長に分けることで、それぞれトップセルとボトムセルで効率よくエネルギー変換を行う。
d.太陽電池の変換効率検証
太陽電池の変換効率実証に関しては、超格子ナノワイヤーやナノウォール構造による量子効果型セルと同等のバンドギャップ※8を持つInGaPを代替のトップセルとし、NOC法の結果やボトムセルの最適化の結果を統合した高品質Siボトムセルを組み合わせて用い、波長スプリッティング、低倍率集光と組み合わせた総合システムを作製し、屋内・屋外で変換効率を測定した。その結果、代替トップセルで屋内外とも30%以上を実測し、オールSiで変換効率30%達成の基盤を形成した。今後は、Siの量子効果型トップセルで理論通りの効率を引き出すために、電子輸送、光閉じ込め特性向上等の課題解決が必要である。
※8 バンドギャップ:半導体が吸収できる光の波長を決める性能。バンドギャップが大きくなるほど、長波長光の吸収ができなくなる。また、太陽電池にしたときの発電性能で電圧の大きさを決める因子でもあり、バンドギャップが大きくなるとセルの高電圧化ができる。
近年、変換効率が頭打ち状態となっている一方で、現状の太陽電池生産量の大半を占め、且つ材料戦略的に有利なSiを用いて超高効率化を目指すとした戦略の下、通常のSiの理論限界を超えるために量子効果型太陽電池の開発に取り組み、量子効果発現の実証や基本的なセル構造作製技術の開発が行われた。さらに、オールSiで変換効率30%達成に向けた基盤形成を目指し、波長スプリッティングや低倍率集光と組み合わせたシステムの提案・検証が行われた。
このように本事業は被災地に最先端の研究開発拠点を構築するとともに、同拠点で超高効率太陽電池の実現に向けた実証に成功したことから高く評価できる。
(2)東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発事業
本事業では、再生可能エネルギーを用いた地産地消システムの構築を目指して、被災地において地元自治体・地元企業と連携しながら再生可能エネルギーの技術開発を行った。本事業では、「三陸沿岸へ導入される波力等の海洋再生可能エネルギー」、「微細藻類のエネルギー利用」及び「再生可能エネルギーを中心とし、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた都市の総合的なエネルギー管理システム構築のための研究開発」の3つの課題を実施した。各課題の具体的内容は以下の通り。
1.三陸沿岸へ導入される波力等の海洋再生可能エネルギー
本課題では岩手県久慈市における波力発電の実証試験及び宮城県塩竃市における潮流発電の実証試験を行った。
波力発電に関しては、津波被害を受けた久慈港に地元企業等の協力で波力発電装置(43kW)を製作・設置し、日本初となる系統接続を行い、被災した地元漁協等に電力を試験供給した。エネルギー変換効率は0.32を記録し、風力発電(0.3~0.4)を上回る可能性が示唆された。潮流発電に関しては、津波被害を受けた浦戸諸島・寒風沢島に地元企業等の協力で潮流発電装置(5kW)を製作・設置し、日本初となる系統接続を行い、被災した地元漁協等に電力を試験供給した。今後、ブレードの素材や枚数を調整することで、さらなるエネルギー変換効率を向上させる必要がある。
このように本課題では、技術的な研究開発にとどまらず、電気事業法等の発電装置設置に係る各種法令等の遵守や漁業関係者との調整等の問題を地元自治体等と協力しながら解決し、地元の海洋エネルギーを活用した発電装置の実証に成功したので、高く評価できる。
2.微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発
本課題では、津波の被害を受けた宮城県仙台市の下水処理場において、オイルを産出するオーランチオキトリウムとボトリオコッカスの2種類の微細藻類を用いて、下水由来の無機物・有機物を燃料用炭化水素に変換するシステムについて研究開発を行った。
オーランチオキトリウムについては、オイルの抽出残渣から培養に必要な有機物を回収できることや、下水汚泥からオーランチオキトリウムの培養に必要な窒素・リン酸成分や炭素源を回収できることを明らかにした。また、簡易な培養手法を開発し、試験プラントを設置して、連続培養を成功させるなどの成果をあげた。ボトリオコッカスについては、コロニーを解砕し、オイルの抽出効率を向上する方法を確立した。また、オーランチオキトリウム、ボトリオコッカスから産出されるスクワラン、ボトリオコッセンをガソリン・ジェット燃料へ改質できる触媒の開発に成功した。
さらに、屋外に設置した培養槽を通年運転し、濾過した下水流入水でボトリオコッカスの連続培養を行い、炭化水素生産性0.050g/L/day (既知の下水による連続培養のデータを2倍程度上回る)を実現した。また、微細藻類を用いたオイル等の精製システムのライフサイクルアセスメントとして、本システムを工程毎に細分してそれぞれの工程で投入されるエネルギーと物質量、結果として製造されるガソリン量を試算した。その結果、現状の収支と到達目標、エネルギー消費の多い工程が明らかになり、オーランチオキトリウムの培養に関しては、簡易型培養槽を用いた培養法を確立したこと、下水汚泥の酸糖化法を改善したことにより、プロジェクト発足時と比較して3分の1まで消費エネルギーを削減した。さらにエネルギー収支をほぼゼロにするためには、炭素源の回収プロセスにおいて消費電力を3割削減し、オイル抽出に関わる有機溶媒の回収率を95%(現状90%)まで改善すること、蒸溜に関わる消費電力を半減すること、また、ボトリオコッカスの培養規模を拡大して得られるスケールメリットによって収支を改善することが必要であることを明らかにした。
このように、本課題では地元自治体等と協力して、微細藻類による下水からの有用物質の回収システムについて解明するとともに、微細藻類の大量培養手法等の確立に成功しており高く評価できる。ライフサイクルアセスメントにより明らかになったエネルギー収支改善のための目標達成に向けて、引き続き研究開発の推進が期待される。
3.再生可能エネルギーを中心とし、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた都市の総合的なエネルギー管理システム構築のための研究開発
a. エネルギーを生み出すシステムの研究開発
本課題では、廃棄物等を資源として用いて、エネルギーを生み出すシステムの研究開発を実施した。本課題で開発したシステムについては、平成29年度中の移管と自立的な運用について、地元自治体である宮城県大崎市や受け入れ先となりうる企業と話合いを進めている。
食品系廃棄物に関する研究開発としては、生ごみを処理して高効率にメタンガスを回収できる小型発酵システムを開発した。発酵システムの熱源には地元の温泉廃熱を利用することができ、発酵残渣である消化液は地元住民の園芸用の肥料として活用が可能である。
畜産系廃棄物に関する研究開発としては、実証プラントを設置し、食肉処理場から出る牛の第一胃の内容物を原料とした試験を行い、バイオガスの発生に成功した。さらに、発生したバイオガスを燃料とした発電にも成功した。
藻類バイオマスに関する研究開発としては、脂質を産出する藻類を宮城県石巻市において培養し、バイオディーゼル燃料の作製に成功した。
地中熱に関する研究開発としては、掘削長を削減することができ、システムのコストダウンにつながるとともに、長期間安定して地中熱を利用できる地下水利用型熱交換井を開発した。
温泉熱に関する研究開発としては、熱水によるバイナリ―発電と太陽光発電を統合したシステムを開発し、電気自動車への給電に成功するとともに、発電後の温水を農業ハウスへ供給するシステムを開発した。
b. 地域で得られる再生可能エネルギーを地域で循環させるシステムの研究開発
本課題では、再生可能エネルギー由来の電力を常時/非常時の区別なく供給するため、災害発生時に避難所として機能する石巻市や大崎市の公共施設を対象に、太陽光発電・蓄電システム、複数拠点間電力融通システム、多目的給電システムを設置した。系統からの電力供給が途絶えた場合でも、このシステムによって、情報の収集、発信、照明の確保という、非常時に必要な最小限の機能を維持し、また、系統に依存せずに必要に応じて電力を融通することが可能となった。本事業で開発したリチウムイオン二次電池を中心とした系統から独立可能な電力の地産地消システムは、再生可能エネルギーを特に電力として利用する際に問題となる系統への影響を回避しつつ再生可能エネルギーの利用を可能にした点で、低炭素化社会構築においての先駆的かつ重要なモデルといえる。
c. エネルギーとモビリティを統合的に管理する研究
システムを電力系統に頼らずに動かすために、電気自動車に対して、移動する電池という付加価値を加え、エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムに関する研究開発を行った。具体的には、電気自動車の普及率等を考慮した交通シミュレーションに関する研究開発、現実環境にエネルギー等の動きを重ね合わせるエネルギーの動きの見える化、エネルギーの状態について情報発信するアプリの開発、平時や非常時の人間行動解析を行った。これらを統合して、エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムを構築し、石巻市において実証実験を行うとともに、開発したアプリの体験会や非常時を想定した給電体験等を実施して地域への社会実装を行った。なお、完成したエネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムは石巻市役所に実装され、運用されている。
このように本課題は被災地において、地元の資源を生かした再生可能エネルギーに係る研究開発を行い、有用物質を産出するシステムの開発や平時・非常時における地域の電力の最適化のためのエネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムを確立、実装しており、再生可能エネルギーを用いた地産地消システムを構築していることから高く評価できる。引き続き、成果の継続活用と普及啓発への注力が望まれる。
(1)革新的エネルギー研究開発拠点形成事業
本事業では、Siで量子効果を発現させるために必要な構造や作製技術開発をほぼ完成し、総合システムで変換効率30%以上のSi太陽電池開発の基盤を形成したが、実際にナノウォール等で電流を引き出すことができるセルを作製し、総合システムを組み上げ、変換効率30%以上を出すためには、電子輸送、光閉じ込め特性、光吸収層の厚膜化等の課題が残っている。今後の超高効率太陽電池の実用化に向けては、これらの技術開発も含めた電池作製に係るプロセス技術等について研究開発していくことが必要である。
また、NOC法については、実用化に向けた技術移転や、結晶の無転移化技術等のさらなる開発が必要となる。本事業で得られた研究開発を発展させることにより、超効率太陽電池の実装・運用が期待される。
なお、本事業で整備された研究開発拠点に関しては、太陽電池の研究開発を加速するためにプラットフォームとしての活用が期待され、JSTの先端的低炭素化技術開発(ALCA)における拠点活用が開始されている。さらに、JSTの新規事業である未来社会創造事業の関連分野においても同拠点を活用していくこととされており、事業終了後も構築された拠点の活用が図られている。
(2)東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発事業
本事業により確立された再生可能エネルギーの地産地消システムについては、石巻市に統合マネジメントシステムを移管し、石巻地域で行われる防災訓練において本事業の成果を組み入れた訓練が行われるなど、一部は地元自治体に移管されているが、さらに地元自治体及び企業と協力しながら、移管を進め、地元への定着を図っていくことが重要である。また、被災地に設置されたエネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムを運用し、平常時・非常時に活用できるようになることも期待される。
さらに、他の沿岸地域への展開を目指して、本事業で開発された波力発電装置をベースとして、スケールアップした新型機を開発するため、平成29年度より東京大学が主催する海洋エネルギー共同研究(12社が参加)を開始しており、早期に新型機の実証試験を実施する計画である。また、神奈川県平塚市から補助金(地方創生加速化交付金等)を受けて波力発電装置の導入可能性の調査研究を実施している。潮流発電でも同様に、長崎の企業(4社)を中心に共同研究により、スケールアップした新型潮流発電装置を開発中である。このように本事業の成果を他の地域へも展開していくことで、東北地方のさらなる復興へとつなげていくことが期待される。
さらに、本事業で開発された屋外微細藻類培養のためにパイロットプラントを用いて、企業や地元自治体と共同研究を進めていくこととしているが、このように本事業で確立された技術を実用化していくためには、企業や自治体と連携し、本事業を遂行する過程で明らかになった目標、例えば微細藻類の課題でいえば炭素源回収プロセスにおける消費電力量の3割削減や有機溶剤回収率の5%向上といった目標に向け、エネルギーコストを現状よりさらに抑制する方策を検討することが必要である。
研究開発局環境エネルギー課