資料2-1 核融合原型炉研究開発の推進に向けて(原案)

科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
核融合科学技術委員会


はじめに
  本報告書は、今後の我が国の核融合原型炉に向けた研究開発の基本的指針を示すことを目的に、「今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年10月 原子力委員会核融合専門部会策定。以下、「推進方策報告書」)を踏まえつつ、(1) 核融合原型炉の開発に必要な戦略、(2) 原型炉に求められる基本概念と技術課題解決のための開発の進め方、(3) 原型炉段階への移行に向けた考え方について取りまとめたものである。

1.本報告書の背景
(1) 我が国の核融合研究開発は、現在、「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月 原子力委員会決定)に基づき実施されている。また、核融合エネルギーの「技術的実証・経済的実現性」を目的とした原型炉計画を中核とする第四段階に向けた具体的な方針が、推進方策報告書に示されている。

(2) 推進方策報告書の後には、原子力委員会核融合専門部会が平成21年に取りまとめた報告書「原子力政策大綱等に示している核融合研究開発に関する取組の基本的考え方の評価について」において、原型炉の実現に向け、我が国として確保・維持・発展すべき技術を明確にした戦略的なロードマップを策定し、それを産学官で共有してオールジャパン体制で取組を推進する必要性が指摘された。

(3) 核融合研究作業部会の報告「核融合原型炉開発のための技術基盤構築の進め方について」(平成25年1月)を受けて、「原型炉開発のために必要な技術基盤構築の中核的役割を担うチーム」(合同コアチーム)が構築された。合同コアチームは、ITER 計画及びBA 活動や、LHD をはじめとする学術研究の進展を踏まえ、核融合原型炉の開発に必要な技術基盤構築の在り方を、我が国の核融合コミュニティの総意を踏まえて検討し、平成26年7月に「合同コアチーム報告」を取りまとめた。核融合研究開発の総合的な進捗状況等を俯瞰的に把握し、アクションプランの策定をはじめとする事項を審議する「原型炉開発総合戦略タスクフォース」(タスクフォース)は、平成27年3月の核融合科学技術委員会にて設置が認められ、同年6月より活動を開始している。さらに、産学官のオールジャパン体制により原型炉開発の技術基盤構築を進めることを目的に、平成27年6月、「原型炉設計合同特別チーム」が結成され、原型炉の概念設計及び研究開発が開始された。

(4) 核融合科学技術委員会は、上記のような原型炉開発に向けたこれまでの種々の検討を参照し、特に直近の検討成果である合同コアチーム報告の内容を基本としつつ、最新の研究開発の進捗状況とITER計画の最新のスケジュールを始めとする内外の状況を考慮し、広く社会の意見を反映させた原型炉研究開発の在り方について、報告書として取りまとめることが必要であると判断した。

2.エネルギー情勢と社会的要請の変化
  原子力委員会による推進方策報告書が出された平成17年以降、核融合研究開発にも関係した重大な社会環境の変化として、リーマンショック(平成20年リーマンブラザーズ破綻)に始まる経済不況、東日本大震災(平成23年)後の電力不足の経験、東京電力福島第一原子力発電所の事故、そしてシェールオイル・シェールガスの台頭の4点があげられる。
  不況と電力不足を経験したことにより、温室効果ガス削減を優先できるのは、経済環境が良く、電力供給にも余裕がある状況が条件となることを我が国は痛みとともに認識するに至っている。電力が不足する状況では、温室効果ガスが排出されようとも天然ガスと石油を利用せざるを得ず、平成24年度の石油火力と天然ガス火力による発電電力量は、平成22年度比で24億kWh(65%)も増加している(電気事業連合会による)。
  全ての原子力発電所の長期停止によって、国民は、日本がエネルギー資源を持たない国でありながら、いまだに化石燃料を代替する技術を手にしていないという現実を認識した。再生可能エネルギーへの期待は大きいものの、その限界も認識されつつある。エネルギーを生み出す技術革新こそが日本の資源であるとの世論を背景として、核融合研究開発の重要性を改めて提案すべきである。
  核融合炉は再臨界や暴走の可能性が無いなどの固有の安全性に加え、炉内放射性物質であるトリチウム(*2-1)のハザードポテンシャル(*2-2)が、ヨウ素131(*2-3)換算で軽水炉より3桁小さいという特徴がある。一方で、福島第一原子力発電所事故以降、原子力に対する国民の信頼は揺らぎつつある。原子力発電所で用いられる核分裂と、核融合とでは原理は全く異なるものの、核融合エネルギーの早期実現に直結する原型炉を設計するに当たり、「現在の原子力安全技術レベルに留まらない高い安全性を示し、国民の信頼を得られなければ、核融合原型炉を立地する場所は日本にない」と認識すべきである。核融合開発は、その固有の安全上の特性を活かした上で、社会に受け入れられるエネルギー源を目指すという不断の努力が必要である。
  シェールガス・シェールオイルの実用化によって、ガスと石油の需給関係は大きく変化した。在来型の化石燃料に加え、このような技術革新で実用化されてくる非在来型燃料まで含めれば、まだ多くの化石燃料資源が存在する。一方、増大が見込まれる風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーに対し、電力系統の安定性を維持するためには、負荷追従性(*2-4)が高い電源が必要である。化石燃料の利用は、地球温暖化の危惧が大きいものの、核融合が実用化を目指す今世紀中葉においても、火力発電は一定の役割を果たしていると考えられる。
  日本政府が2016年5月に閣議決定した地球温暖化対策計画では、パリ協定での約束(2030年に2013年比で温室効果ガス排出量を26%削減)を確実に達成するための対策に加え、2050年には同排出量を80%削減する長期目標が示された。その目標達成には、革新的な技術の開発も必要であることが述べられている。GDPの伸びと温室効果ガス排出量には非常に強い相関がみられ、現状技術だけで経済発展とCO2排出削減の両立は見通せない。核融合エネルギーの実現を経済発展と温室効果ガス排出の相関を変え得る革新技術として位置づけられるように、他の温室効果ガス排出削減技術と比べた経済合理性を重視しつつ、その研究開発を進めるべきである。
  将来の電源構成や温室効果ガス排出削減の方策に関しては、いまだ不確実性があると言わざるを得ない。その一方で、核融合エネルギーが新たに市場に参入するためには、温室効果ガス排出削減で期待される再生可能エネルギー、原子力と並ぶ電源としての位置付け以上の価値が期待される。核融合エネルギーには、ベースロード電源としての位置付けだけでなく、火力発電が担う負荷追従性も備え、それを代替して電力需要の変化にも対応できる電源構成として、温室効果ガス排出総量を削減できるような、柔軟で付加価値の高い電源を目指すことが求められる。

3.原型炉に向けた核融合技術の開発戦略
  我が国の核融合技術開発は、核融合エネルギーの「科学的・技術的実現性」を示すことを目的とした第三段階にある。現在、ITER計画(*3-1)を中核とした自己点火条件(*3-2)の達成及び長時間燃焼の実現、並びにBA活動(*3-3)を中心とした原型炉開発に必要な炉工学技術の基盤形成を目標とした研究開発を進めている。
  原型炉計画を中心とする第四段階は、核融合エネルギーの「技術的実証・経済的実現性」を目指すものである。それへの移行に向けて、現在最も開発段階の進んだトカマク方式(*3-4)を炉型として、第四段階への移行条件を満足させる技術課題の達成をコミュニティ全体の共通目標として定める。技術課題を達成し、原型炉に向けた技術基盤を構築する上で、ITER 計画・BA活動は最も大きな柱である。ITERの経験を活かした上で、産学官のオールジャパン体制で原型炉に必要な技術の研究開発を計画・実施する。ITERでは、原型炉の技術開発の課題達成に資する十分な成果を得るため、建設期・実験期のいずれにおいても、我が国が参加極をリードすべきである。
  核融合炉の実用化時の経済性は、安全性と技術的成立性の上に成り立つとともに、建設時の社会情勢やエネルギー情勢にも左右される。原型炉では、安全性を大前提として、炉工学技術の技術的成立性を実証するとともに、実用化時の経済性を情勢に応じた現実的なものとするための研究を行う。原型炉設計では、それらの目的を両立して実施できる炉を提示する。原型炉の建設・運用費は、実用化時の経済性を見通す上で重要な指標の一つであるため、炉設計では原型炉の適切な建設・運用費が提示されなければならない。以上の観点で炉設計を進めるのと同時に、技術面で原型炉の建設・運用費や実用化時の経済性を決める要因のうち、ITER計画・BA活動にて、ある程度着手可能な項目は早期に検証を開始する。
  一方で、研究開発の加速と課題達成を促すには多角的なアプローチが必要であることから、一定の多様性を持った総合的な取り組みを進める。主案であるトカマク方式の着実な進展を図るとともに、相補的・代替的なヘリカル方式(*3-5)・レーザー方式(*3-6)、更には革新的概念の研究を並行してバランス良く行うべきである。これまでの核融合研究では、学術研究の対象であった帯状流(*3-7)が、いまや核燃焼予測に不可欠になるなど、学術研究が炉設計の信頼性を高め、それが更に学術研究へ問題提起をするなど相乗効果がある。そのため、大学等での学術研究基盤を維持し、研究成果を要素還元して学術として体系化・普遍化することが重要である。

4.原型炉に求められる基本概念
  原型炉の目的は、技術的実証と経済的実現性を明らかにすることである。その目的を達成することに加え、核融合エネルギー研究開発では、核融合の利点を活かした安全性の追及を最優先に、社会との適合性が高い新たなエネルギー源として選択され得るよう社会受容性を高めることが極めて重要である。
  4章で述べた開発戦略のもと、21世紀中葉までの核融合エネルギーの実用化に備え、数十万kW を超える定常かつ安定した電気出力、実用に供し得る稼働率、燃料の自己充足性を満足する総合的なトリチウム増殖(*4-1)を実現することを原型炉の目標とする。原型炉の運転開発期は、それぞれマイルストーンを設定した段階に分け、先進技術の開発・実証を段階的に実施可能な装置としておく必要がある。
  特に、上記の基本概念を達成するため、炉設計時に留意すべき設計要件として、

  • 事故時及び平常時の公衆被ばく、並びに原型炉プラント従事者の被ばくを合理的に低減する安全性の確保(ALARA(*4-2))
  • 実用化に向けた視点から、廃炉・廃棄物処理も含めた受容され得る原型炉の建設コスト
  • 原型炉の運転初期のダイバータ(*4-3)及びブランケットはITER計画及びITERテストブランケットモジュール(*4-4)の技術に基づくが、運転開始後に得られた知見により設計更新が可能な柔軟なブランケットとダイバータ設計

を満たす必要がある。
また、原型炉の運転開発期には、

  • 長時間・長期間運転に向けた熱・粒子制御と、ディスラプション(*4-5)回避などのプラズマ制御
  • 実用炉に展開可能なメンテナンスシナリオと、原型炉最終段階で実用に供し得る稼働率
  • 原型炉で得られた知見を反映させたブランケットとダイバータの高性能

を実現することが求められる。
これらの基本概念を持つ原型炉を実現する上で、解決すべき技術課題とその開発計画は、後述するアクションプランとして策定する。

5.技術課題解決に向けた開発の進め方
5.1. 開発計画立案の考え方
  開発計画を立案するに当たり、目標とする核融合出力(*5-1)等の原型炉性能を、システムとして満たすための技術仕様項目(熱粒子束(*5-2)や中性子束(*5-3)等)を検討し、その定量的な定義がなされていることが必要である。それらを担い、原型炉開発の司令塔となるのが炉設計である。炉設計は技術の整合性だけでなく、プラントの建設・運用費や運用シナリオなども考慮した上で、確定した技術仕様に基づいて課題を挙げ、その開発目標を設定する。開発計画は、超伝導コイル(*5-4)、ブランケットなどの項目毎に技術課題を分類し、「アクションプラン」として各課題の発展と課題間の連関を整理・分析する。開発計画の時系列は、現行プロジェクトであるITER計画、BA活動での取組も含め、後述のチェックアンドレビュー、及び移行判断の時期を考慮して制定する。開発計画には、各課題の実施主体及び必要な施設を明示する必要がある。

5.2. 産学官の研究開発体制
  これら技術課題を着実に解決するには、産学官のオールジャパン体制を構築して研究開発を強化し、リソースを最大限に活用する必要がある。それを実効的なものにするため、六ヶ所サイト(*5-5)を原型炉開発に向けた中核的ハブ拠点として発展させる。原型炉設計合同特別チームを中心に炉設計を推進して開発計画を立案し、量子科学技術研究開発機構、核融合科学研究所、大学、産業界の間で開発計画の中で担う役割を分担する。そして、国と各機関で戦略と問題意識を共有し、一体となって原型炉研究開発に取り組むために新しい制度設計も含めた体制整備を行う。
  量子科学技術研究開発機構は、トカマク方式の中核的研究開発機関として、ITER計画、BA活動、原型炉設計等を国内外との連携のもとに推進し、それを通した人材育成にも努める。核融合科学研究所及び大学は、相補的・代替的なヘリカル方式・レーザー方式の推進や、核融合プラズマと炉工学の学術基盤の構築、教育並びに人材育成を行う。それらを大学の自主・自律のもとに進めると同時に、ITERやJT-60SA(*5-6)、LHD(*5-7)、BA活動への積極的な参画も期待される。産業界には、ITERやJT-60SAをはじめとする国内外装置の建設を通じ、核融合機器の製造技術の開発と蓄積が求められる。原型炉設計には将来の産業化を見据えた設計合理性が求められるため、概念設計の初期段階からの継続的参画が必要である。特に、原子力分野との連携は、安全基準の策定の点でも、極めて有益である。
  各機関で問題意識を共有する、また連携の実効性を高めるなどの上で、人材の流動性や多様性は重要である。各機関でクロスアポイントメント制度(*5-8)を導入することは、それらを促す有効な方法の一つである。さらに、他分野とも連携を図ることは、次節の人材確保の点で有益なだけではなく、核融合技術の効率的な開発と波及効果も含むイノベーション創出にも繋がり得るものである。

5.3. 人材育成・確保
  これらの長期に亘る研究開発を持続的に推進するためには、人材育成が極めて重要である。そのためには、ITER計画・BA活動や先進的な学術研究を有機的に連携させ、原型炉研究開発に必要な人材を産学官の緊密な連携のもと育成する。放射線利用分野や原子力分野は核融合分野との共通部分が多く、それらの分野と連携した人材育成は有益である。また、ITERで経験を積んだ後、得た知見を持ち帰って原型炉開発に反映させるため、人材の流動性を確保する制度設計が必要である。大学では、より多くの優秀な人材を育成すべく、独創的で魅力的な学術研究を推進し、国内外との共同研究を通して、多様な研究の機会を学生や若手研究者に提供するなどの取組を行うべきである。
  核融合技術は総合工学であることから、核融合分野内での人材育成に加え、他分野からの参画を促し、人材を確保することも重要である。機械系や電気系など、従来からの連携分野は引き続き関係を強化しつつ、リスクコミュニケーションの重要性の観点等も考慮し、人文社会系を含めた広範囲の分野と連携・交流を行う。このような取組を行うことで、他分野で活躍できる人材の教育にも貢献できる。原型炉の設計は、技術的実現性だけでなく、社会の要請・受容までを見越した統合的視座に立って実施する必要がある。そのため、以上のような連携を通じ、複合的視点を持った多様な人材から成る炉設計体制を構成する。

5.4. 国際協力
  開発リスクやコストを低減する上で、ITER計画・BA活動を含めた国際協力は大変有効である。我が国単独で進める課題と、国際協力で進める課題の区分は、保有すべき技術の戦略や課題の優先度、国内研究開発との相補性や、他国の開発状況を分析して決定する。そして、それらをアクションプランやロードマップに反映させる。また、国際貢献の観点から、我が国の高い研究開発ポテンシャルと人材を活用し、ITER計画や様々な国際的な取組に積極的に参画して、世界の原型炉開発の中で主導的な役割を果たして行く。ITER計画・BA活動を通して原型炉の技術課題解決が進むよう、我が国はITER計画・BA活動をリードすべきである。運営面も含めたITER計画・BA活動での実績・経験の蓄積は、その後の国際共同開発の実施にも資するものである。

5.5. 原型炉の安全基準の策定
  核融合炉は原理的な安全性を有する一方で、その設計・開発にはトリチウムの環境移行への対策など、固有の安全技術が求められる。原型炉での具体的課題は、トリチウムのプラント内外での挙動と環境での生態系影響の把握、安全管理技術の確立などである。また、福島第一原子力発電所の事故に鑑み、原子力発電所の安全対策手法も取り入れつつ、従来の考え方に留まらない事象も想定し、核融合炉の設計・開発では、重大な事故シーケンスの解明、事故進展防止のための安全設計手法を構築する。原型炉の安全設計ガイドラインと安全要求基準は、国民と環境の視点に立ち、日本の風土・社会状況に合ったものを早期に策定する。その際、核融合研究者だけでなく、安全工学、プラント工学、放射線影響、環境、社会、規制と許認可など、広い分野の国内外の専門家と協力して、総合的な核融合安全性研究を推進すべきである。

5.6. 開発ロードマップの作成
  技術基盤構築の体制を整備するに当たり、合同コアチーム報告書、及び研究開発計画を各項目の時系列展開として整理した開発チャートを元に、実効的なフォローアップと時宜を得た体制整備の進捗状況を確認できるよう精査したアクションプランを策定する。そして、核融合炉開発のビジョンを明確に示すものとして、アクションプランに基づき、開発の優先度やマイルストーン、国際協力項目なども含めて総合的に開発工程をまとめ上げた原型炉開発ロードマップを策定する。

6.原型炉段階への移行に向けた考え方
  原型炉段階に移行するためには、技術的成熟と、核融合に対する国民の信頼の醸成が不可欠である。そこで、移行に向けては、以下に示す技術的成熟度を判断するため核融合科学技術委員会による中間チェックアンドレビューを行う。なお、中間チェックアンドレビューには柔軟性を持たせ、将来の不確定性にも対応できるようにする。併せて、社会との双方向的な交流や対話に基づいたアウトリーチを組織的に行う体制の整備と幅広い多様なアウトリーチ活動とを精力的に推進することとする。

6.1. 移行判断とチェックアンドレビュー
  原型炉段階への移行判断は、ITERで重水素(D:Deuterium)(*6-1)とトリチウム(T:Tritium)を燃料としたDT核燃焼(*6-2)実証が見込まれる2030年代に行うこととする。そして、研究開発の時系列展開の指針として、進捗状況を確認するチェックアンドレビューを実施する。推進方策報告書では、中間チェックアンドレビューを移行判断前に1回行うとされていたが、ITER計画、及びJT-60SAを含むBA活動の進捗状況を踏まえ、また達成が見込まれる成果を考慮しつつ、移行判断までの研究開発を効率良く実施するため、以下のように二回に分けて中間チェックアンドレビューを実施する。

  • 第1回中間チェックアンドレビュー:原型炉設計合同特別チームによる概念設計の基本設計が終了し、JT-60SAの運転が開始される2020年頃に実施。
  • 第2回中間チェックアンドレビュー:ITERのファーストプラズマが予定される2025年から数年以内に、特別チームによる原型炉概念設計の完了を受けて実施。

原型炉設計の完成度については、第2回の中間チェックアンドレビューの段階で、原型炉の全体目標と、概念設計が成立することを裏付けし得る技術基盤の構築が見通されていることが必要である。さらに、原型炉段階に移行する際には、原型炉設計と研究開発実績の整合性が問われるとともに、実用炉段階で経済性を達成できる見通しを得ておく必要がある。
  なお、21世紀中葉での核融合エネルギーの実用化を目指すには、早期実現に繋がるよう中間チェックアンドレビューから移行判断までを第四段階の準備期間として相当規模の工学開発活動への着手を促進すべきである。そのため、2回目の中間チェックアンドレビューの際に、原型炉の工学設計及び必須のコンポーネントの工学開発活動の開始の適否も判断する。

6.2. ITER計画・BA活動を踏まえた見直し
  ITER計画は研究開発の時系列展開において明確なクリティカルパスであり、ファーストプラズマやDT核燃焼実証の時期、エネルギー増倍率(*6-3)や長時間維持の成果、ブランケット機能の実証などは、開発計画や中間チェックアンドレビュー項目、移行判断条件に直接関わる。そのため、アクションプランの時系列展開、及び中間チェックアンドレビュー項目と時期は、コミュニティ内外での議論のもと、ITER計画の進捗状況やBA活動の成果を踏まえて合理的かつ効率的に対応がとれるよう、随時タスクフォースが見直して行くこととする。

6.3. アウトリーチ活動
  核融合エネルギーが国民に選択され得るエネルギー源となるには、核融合エネルギーの特性や有用性・安全性に関し、社会との情報の共有と不断の対話が必須である。また、核融合エネルギー開発は長期に亘るため、信頼の醸成や人材育成には長期的な観点が必要である。そのためには、原型炉設計活動を含む国内外の核融合研究開発に関する戦略的アウトリーチ活動が重要であり、日本全体を統括して活動するヘッドクォーターを設立し、関係機関の協力体制を立ち上げる。そして、国民、産業界、経済界、学術界など立場の異なる多様な視点から、核融合エネルギーの社会的価値の最大化を目指した連携活動を計画・推進する。信頼の獲得には、データに基づく安全性の説明だけではなく、適切なリスクコミュニケーションを継続的に行って、国民の持つ不安や疑問に一つ一つ丁寧に答えて行くことが必要である。マスコミ等を通じた広範囲な情報発信は有効な手段の一つであるが、それに加えて教育機関との連携活動や地域の対話集会なども通じ、様々な機会に子供も含む幅広い年代と研究者・関係機関の間で双方向の理解を深め、信頼の醸成に努めるべきである。さらには、アウトリーチ活動で広く関心をもってもらうことで、他分野の人材が参画するきっかけになり得ることも意識し、活動を行うべきである。

用語集
2章
[2-1] トリチウム
水素の同位体(同位体とは、ある元素と陽子の数が等しく、中性子の数が異なる元素)で、原子核が陽子1個と中性子2個からなる核種。日本語では三重水素と呼ばれ、3HまたはTと表記される。半減期12.3年の放射性同位体で、最大エネルギー18.6 keV、平均エネルギー5.7 keVのベータ線を放出する。

[2-2] ハザードポテンシャル
毒性指数とも言う。その有害物質が人体に取り込まれたときの影響を表す量であり、物質を法的な安全基準濃度まで薄めるのに必要な空気の体積(気体の場合)又は水の体積(液体の場合)で表される。従って、有害物質の総量及び危険度が高いほど大きな数値になる。

[2-3] ヨウ素131
ヨウ素の放射性同位体であり、半減期は約8日。原子炉で生成される代表的な核分裂生成物であり、事故時の大気への放出量がINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)評価での指標(例えば、レベル7(深刻な事故):チェルノブイリ原子力発電所事故、福島第一原子力発電所事故、レベル5(事業所外へリスクを伴う事故):スリーマイル島原子力発電所事故、等)として使われている。

[2-4] 負荷追従性
負荷追従性とは、時間や季節で変動する電力需要(発電側からは負荷)に応じて、電気出力を調整した運転ができること。

3章
[3-1] ITER計画
ITER計画は、核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するために、2025年の運転開始を目指し(2016年6月ITER理事会で決定)、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの7極により進められている。現在、フランスのサン・ポール・レ・デュランスで建設が進められている。

[3-2] 自己点火条件
核融合装置において、高温プラズマを発生するのに加熱入力を増大させると、そのプラズマ中での核融合反応による出力が増大していく。外部からの加熱入力を更に加えることなく核融合反応が持続する条件を自己点火条件という。

[3-3] BA活動
幅広いアプローチ(Broader Approach:BA)活動の略。2007年、日欧はBA協定に署名し、ITER計画を補完・支援するとともに原型炉に必要な技術基盤を確立するための先進的研究開発プロジェクトをBA活動として実施することとした。BA活動では、国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業、国際核融合材料照射施設の工学実証及び工学設計活動(IFMIF/EVEDA)事業、サテライトトカマク(JT-60SA)計画事業が行われている。

[3-4] トカマク方式
軸対称な環状(トーラス(ドーナツ状))磁場によって高温のプラズマを閉じ込める核融合のための方式または装置の一つである。TOKAMAK:ロシア語の「電流・容器・磁場コイル」の頭文字に由来する語。トーラス方向に沿ったトロイダル磁場コイルに通電し、大周方向にトーラス磁場を作り、また、プラズマに電流を発生させることにより、磁力線がトーラスに巻き付く小周方向のポロイダル磁場を作る。この2つの磁場の作用で螺旋状の磁気の籠ができ、これでプラブマを閉じ込める。

[3-5] ヘリカル方式
トカマク方式と異なり、プラズマ閉じ込めにプラズマ電流を必要としない非軸対称トーラス磁場配位を用いた方式。プラズマを閉じ込めるための二つの磁場(トロイダル磁場、ポロイダル磁場)は外部コイルによって生成されるため、始めから磁気の籠が構成されており、定常運転に適している。

[3-6] レーザー方式
レーザー核融合は、高強度のレーザー光を燃料球(「燃料ペレット」と呼ばれる)に照射し、これを高密度に圧縮・加熱することによって熱核融合反応を実現しようとする方式。

[3-7] 帯状流
発達した乱流から自発的に形成される帯状の流れ構造で、乱れをその流れによってすりつぶすかのように抑制する効果がある。木星大気の縞模様や地球大気のジェット気流においても帯状流が形成されている。

4章
[4-1] トリチウム増殖
核融合炉の燃料であるトリチウムは天然に存在しないため、核融合反応で発生する中性子と、ブランケット中に充填したリチウムとの核反応によってトリチウムを生産すること。

[4-2] ALARA
国際放射線防護委員会が1977年勧告で示した放射線防護の基本的考え方を示す概念であり、”As Low As Reasonably Achievable”の略語。通称としてアララと呼ばれることが多い。放射線防護の最適化として「すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきである」という基本精神に則り被ばく線量を制限することを意味する。

[4-3] ダイバータ
ダイバータは、核融合反応を長い時間維持するために、反応の結果生じるヘリウム粒子や壁から混入する微量の不純物をプラズマから排出するために用いられる機器である。核融合反応を起こす閉じ込められた炉心プラズマの外側で、低温プラズマを磁力線に沿ってダイバータ板と呼ばれる熱負荷に強い材料に導き、プラズマ中の荷電粒子を原子や分子に戻す。それを排気することで、プラズマ純度を保つことができる。

[4-4] ITERテストブランケットモジュール
ITERのブランケットは、放射線の遮蔽を目的とし、トリチウムの増殖は行わない。ITERテストブランケットモジュールは、ITERを利用してブランケットの更なる目的である「発電のための熱の取り出し」、「燃料トリチウムの自己補給」を実証する機器である。(河村繕範他、プラズマ・核融合学会誌92、444 (2016).)

[4-5] ディスラプション
トカマク方式において、プラズマを閉じ込める磁気面が壊れ、プラズマ全体が急激に崩壊する現象。プラズマ電流の過大、密度の過大、圧力の過大などによって引き起こされる。ディスラプション時のプラズマ電流の急激な減少は大きな電磁力を構造体に与えるため、装置設計上の重要な条件として考慮する必要がある。

5章
[5-1] 核融合出力
DT核融合反応の結果生じる中性子とアルファ粒子(ヘリウム原子核)による出力

[5-2] 熱粒子束
単位時間(1秒)に単位面積(m2)を通過する熱エネルギーで、単位はW/m2。

[5-3] 中性子束
単位時間(1秒)に単位面積(m2)を通過する中性子個数で、単位は中性子数/(m2・秒)。

[5-4] 超伝導コイル
超伝導材料で製作したコイルを超伝導コイルという。ある種の物質を絶対零度(マイナス273℃)に近い温度まで冷却すると、その電気抵抗がゼロになる超電導現象を利用する。電気抵抗がゼロであることからジュール発熱による損失がなく、所要電力を大幅に低減できる。この特性を活かして核融合炉の強磁界発生に用いられる。

[5-5] 六ヶ所サイト
青森県上北郡六ヶ所村にある、核融合エネルギーの早期実現を目指し、ITERの支援やITERの次のステップである発電用核融合原型炉の開発のための研究開発を行う日欧の共同事業サイト。IFERC事業として原型炉設計・R&D、計算機シミュレーションセンター、ITER遠隔実験センター、IFMIF/EVEDA事業として、国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計を行っている。

[5-6] JT-60SA
JT-60SAは、量子科学技術研究開発機構核融合エネルギー研究開発部門那珂核融合研究所にて建設を進めている超伝導トカマク装置である。国際熱核融合実験炉(ITER)計画を補完・支援する幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライトトカマク計画と、トカマク国内重点化装置計画の合同計画である。

[5-7] LHD
大型ヘリカル装置(Large Helical Device: LHD)は、自然科学研究機構核融合科学研究所のヘリカル方式の超伝導プラズマ閉じ込め実験装置である。定常高温高密度プラズマの閉じ込め研究を行い、将来のヘリカル型核融合炉を見通した様々な視点から学術研究を推進している。

[5-8] クロスアポイントメント制度
クロスアポイントメント制度とは、研究者等が大学、公的研究機関、企業の中で、二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下で、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする制度。

6章
[6-1] 重水素
水素の安定同位体で、原子核が陽子1個と中性子1個からなる核種。Dと表記される。天然の同位体存在度は0.014-0.015%で、主に海水から採取される。

[6-2] DT核燃焼
様々な核融合反応の中で最も起こりやすいのが重水素(D)とトリチウム(T)との核融合反応であり、反応の結果、中性子(14 MeV)とアルファ粒子(ヘリウム原子核)(3.5 MeV)が生じる。核融合炉はこの反応を用いる。

[6-3] エネルギー増倍率
核融合反応による出力とそのプラズマ状態を継続するのに必要な加熱入力との比をエネルギー増倍率という。Q値とも呼ばれる。

※上記の用語集は、個別に出典を明示したもののほか、以下のホームページの情報を参考にさせていただきました。
・ATOMICA
・一般社団法人プラズマ・核融合学会
・経済産業省
・核融合科学研究所
・量子科学技術研究開発機構

お問合せ先

研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付

吉田、工藤
電話番号:03-6734-4163
ファクシミリ番号:03-6734-4164

(研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付)