第2章 環境・エネルギーに関する課題への対応
連携を取った委員会:
※下線部分が前回からの修正箇所
1.大目標
将来のエネルギー需給構造を見据えた最適なエネルギーミックスに向け、エネルギーの安定的な確保と効率的な利用を図る必要があり、現行技術の高度化と先進技術の導入の推進を図りつつ、革新的技術の創出にも取り組む。(基本計画)
資源の安定的な確保を図りつつ、ライフサイクルを踏まえ、資源生産性と循環利用率を向上させ最終処分量を抑制した持続的な循環型社会の実現を目指し、バイオマスからの燃料や化学品等の製造・利用技術の研究開発等にも取り組む。(基本計画)
長期的視野に立って、CO2排出削減のイノベーションを実現するための中長期的なエネルギー・環境分野の研究開発を、産学官の英知を結集して強力に推進し、その成果を世界に展開していく。(エネルギー・環境イノベーション戦略)
革命的なエネルギー関係技術の開発とそのような技術を社会全体で導入していく。(エネルギー基本計画)
再生可能エネルギーや省エネルギー等の技術開発・実証を、早い段階から推進するとともに、そうした技術の社会実装を進める。(温対計画)
1.大目標達成のために必要な中目標
核融合エネルギーは、燃料資源が地域的に偏在なく豊富であること、発電過程で温室効果ガスを発生しないこと、少量の燃料から大規模な発電が可能であること等の特性を持つ。また、安全性の面でも優れた特性を有することから、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決する、将来の基幹的エネルギー源として期待されている。
大目標の達成に向け、文部科学省は、国際約束に基づくITER(国際熱核融合実験炉)計画・BA(幅広いアプローチ)活動を推進しつつ、これらの進捗状況を踏まえ、トカマク方式を主案とする原型炉開発のための技術基盤構築に向けた戦略的取組を推進する。並行して、トカマク以外の方式(ヘリカル方式、レーザー方式)や、核融合理工学の研究開発を進めることにより、将来に向けた重要な技術である核融合エネルギーの実現に向けた研究開発に取り組む。
なお、これらの取組を推進するに当たっては、原型炉開発に向けたロードマップを策定し、量子科学技術研究開発機構、核融合科学研究所、大学、産業界等を網羅する全日本の連携体制で臨む。
また、現行BA活動終了後の日欧協力のあり方について検討を進めているところであり、その結果に応じて、必要があれば、本計画を見直すこととする。
(1)中目標達成状況の評価のための指標(達成すべき状況を定量的に明記可能な場合は、目標値も記載)
■アウトプット指標
1ITERの確実な運転開始に貢献するため、我が国が調達責任を有するITER機器の製作を着実に進める。
2BA協定に基づくJT-60SAの組立工程を完了し、運転を開始する。
3LHDにおいて、1億2000万度の高性能プラズマを生成する。
4予備的な原型炉設計活動と研究開発活動を完了する。
■アウトカム指標
1ITER建設作業の進捗と計画の着実な進展に貢献する。
2JT-60SAについて、先進プラズマ研究開発のプラットフォームが構築される。
3LHDによる高性能プラズマの実験結果が、環状プラズマの総合的理解を通じて、ITER計画と原型炉設計の進展に貢献する。
4原型炉の工学設計に向けた見通しが得られる。
(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組
1国際約束に基づくITER計画・BA活動の推進
国際約束に基づき、核融合実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER計画を推進する。日欧協力により、ITER計画を補完・支援するとともに原型炉に必要な技術基盤の確立を目指した先進的核融合研究開発である幅広いアプローチ(BA)活動を推進する。なお、現行BA活動後の日欧協力に関しては、国内活動との相補性を考慮し効果的に推進する。
ア. ITER計画の推進
ITERの運転開始(ファーストプラズマ)を見据え、国際約束に基づくスケジュールに従って我が国が調達責任を有する機器の製作を進め、超伝導導体、超伝導コイル及び中性粒子入射加熱装置実機試験施設用機器の製作を完了する。また、テストブランケットモジュールについて、ITERにおける試験に向けた設計活動等を実施する。さらに、ITER計画の円滑な推進に貢献するため、ITER建設地(仏国 サン・ポール・レ・デュランス)においてITER国際核融合エネルギー機構(以下「ITER機構」という。)が実施する機器の統合作業(据付・組立・試験・検査)を支援するとともに、ITER機構及び他極との情報交換及び連携を強化する。
イ. BA活動の推進
国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業については、予備的な原型炉設計活動と研究開発活動を完了する。国際核融合材料照射施設(IFMIF)に関する工学実証及び工学設計活動(EVEDA)事業については、IFMIF原型加速器の実証試験を完了する。ITERのサテライト・トカマクとしても位置付けられているJT-60SAについては、我が国が調達責任を有する機器の製作や日欧が製作する機器の組立を完了し運転を開始するとともに、ITERの運転と原型炉の開発に向けた研究開発・支援のプラットフォームを構築する。
2学術研究・基礎研究の総合的推進
核融合科学及び関連理工学の学術的体系化と発展を図ることを目指し、核融合科学研究所、大学等における先進的な研究を含む幅広い学術研究や基礎研究を総合的に推進する。特に、トカマク方式に対して相補的・代替的な役割を有するヘリカル方式とレーザー方式については、引き続き学術研究に重点をおいて研究を進める。
ア.LHD(大型ヘリカル装置)計画
ヘリカル方式の物理及び工学の体系化と環状プラズマの総合的理解に向けて、これまでの軽水素実験による成果を踏まえた重水素実験を開始する。これにより、イオン温度1億2,000万度を達成し、核融合炉に外挿可能な超高性能プラズマを実現する。また、国内外の共同研究により、重水素放電における水素同位体効果等の学術研究を推進する。
イ.レーザー方式
レーザー方式による核融合については、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターを中心として進められている高速点火方式による実験において、核融合点火・燃焼の可能性を見極めるとともに、その研究成果等を踏まえて、今後の研究の展開の方向を定める。
ウ.幅広い学術研究・基礎研究
核融合に関する学術研究・基礎研究については、1大型装置では得られないプラズマ領域を実現できる中小規模のプラズマ実験装置を用いた研究、2大規模シミュレーション技術や情報技術を駆使する理論・シミュレーション研究、3特徴ある中小規模の工学研究装置を用いた材料・炉工学の研究等、斬新なアイデアに基づく多様な先駆的・萌芽的研究の機会を確保する。
3原型炉の設計・研究開発活動の推進
原型炉建設判断に必要な技術基盤を構築するため、原型炉総合戦略タスクフォースの提示するアクションプランに沿って、ITER計画の着実な推進に基づく経験と実績とともに、IFERC、IFMIF/EVEDA等のBA活動や、トカマク国内重点化装置※でもあるJT-60SAの成果も取り込みつつ、原型炉設計合同特別チームによる全日本体制での原型炉設計活動と研究開発活動を進める。
※「今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年10月26日
原子力委員会核融合専門部会)において、核融合エネルギーの早期実現に向けて、国内のトカマク装置を重点化し、トカマク方式の改良を我が国独自に進めるための「トカマク国内重点化装置計画」を進め、JT-60の後継機をトカマク国内重点化装置とすることとされている。
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.研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策
(1)人材育成
核融合エネルギーの実現は、長期間を要する研究課題であり、長期的な視点で、特に若手研究者の育成・確保に向けた取組を、学校教育における人材確保も視野に入れつつ、幅広い視点から進める必要がある。また、研究を成功させるためには、核融合研究に関する長期的ビジョンが示され、社会的な合意を形成する必要がある。
このため、大学、核融合科学研究所、量子科学技術研究開発機構(QST)が固有の機能を活かし、主体的な役割に基づいた人材育成・確保のネットワークを形成することが必要である。
特に、大学共同利用機関である核融合科学研究所においては、大学の人材育成機能の強化にさらに貢献することが、QSTにおいては、大学院教育への協力や、連携大学院制度の活用をより一層推進することが望まれる。
また、核融合に関連する従来からの専門分野に限らず、人文社会系を含めた広い学術分野及び産業界との連携・交流活動を活発に行いながら、分野を越えた人材の流動性を一層高めていく必要がある。
さらに、国際プロジェクトとして推進されているITER計画やBA活動への参加を人材育成の観点から積極的に活用すべきである。特に若手研究者にとっては、その参加がキャリアパスとして位置づけられることが重要である。
多様な視点や優れた発想を取り入れるため女性の能力を最大限に発揮できる環境を整備し、その活躍を促進していくことは、核融合研究開発にとっても極めて重要である。そのため、女子中高生等への理解促進活動や、各研究機関での採用に当たってのポジティブアクションの採用等を推進していくべきである。
(2)オープンサイエンスの推進
核融合の研究開発を進めるためには、研究者の所属機関、専門分野、国境を越えた新たな協働により、絶えざるイノベーションを創出していくことが必要である。このため、オープンサイエンスを進めることにより、学界、産業界、市民等あらゆるユーザーに対し、研究成果を広く利用可能とすることが重要である。また、オープンサイエンスが進むことで、核融合の社会に対する研究プロセスの透明化を図ることが重要である。
(3)オープンイノベーション(産学官連携)の推進
産業界が核融合に関してこれまで蓄積してきた機器開発・機器製作を中心とした技術は、今後の核融合研究開発の推進にとって不可欠であり、産業界との連携は極めて重要である。従って、産業界における技術力の維持等も含め、核融合エネルギーフォーラム等を通じた産業界と国及び実施機関との連携体制の更なる強化が必要である。
これまで、QST、核融合科学研究所等において、産学連携による研究活動が活発に行われ、産業界において様々な産業技術の実用化が図られてきたところであるが、今後とも、それぞれの特長を生かしつつ、一層連携協力を推進すべきである。
さらには、核融合技術が、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス、情報・通信、環境分野を始め、多くの産業分野に波及効果をもたらしてきていることを踏まえ、分野や組織を越えた人材交流を進めることなどによって、核融合研究で開発された先端技術の他分野への活用を積極的に進める必要がある。
(4)知的財産・標準化戦略
世界の核融合研究開発は、現在、科学的・技術的実現性を実証する段階であるが、核融合エネルギー技術は、将来実用化されれば、我が国の基幹産業の一つと成り得る。将来の実用化を視野に入れつつ、世界をリードする研究開発の成果を創出していくことが重要である。核融合分野においては、特に核融合装置の機器やコンポーネントの設計・製作に伴う知的財産の蓄積とデファクトスタンダードの確立も含めた標準化を進めていくとともに、その波及効果としてもたらされる他の産業分野での成果についても知的財産としての活用を進めるべきである。また、アジア諸国等との国際協力を積極的に行っていくべきである。
(5)社会との関係深化
将来のエネルギー・環境問題の解決に向け、社会との共創により核融合研究開発の継続的な発展を図るべく、核融合エネルギーの意義や安全性等に対する理解を得ることが重要である。
そのためにはまず核融合研究者自らが、現在取り組んでいる研究課題の魅力や、今後目指すべき研究の方向性について分かりやすい言葉で説明しつつ、積極的に社会に向けて、核融合研究に関する情報発信に努めることが重要である。
また、研究施設への見学者の受入れ、大学や初等中等教育機関との連携活動、一般市民を対象とした講演会や対話集会の実施等を通じて、国民の核融合に対する理解促進に資する活動の充実に努めるべきである。
さらには、将来の核融合エネルギーでは安全性の問題が課題となるため、人文社会系の専門家とも連携協力し、放射線やトリチウムなど核融合が社会に対してどのような課題があり、どのように解決していくのかを示していくことにより、信頼を得るように努めることが重要である。
工藤
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ファクシミリ番号:03-6734-4164
-- 登録:平成28年11月 --