参考資料2 BA期間終了後における日欧協力の在り方について

平成27年10月
核融合科学技術委員会

1.はじめに

現在、我が国における核融合研究は、日本原子力研究開発機構(以下、「原子力機構」という。)を中核とした開発研究と、大学や自然科学研究機構核融合科学研究所(以下、「核融合研」という。)を中核とした学術研究とが推進されている。そのうち、原子力機構が国内実施機関となり、ITER計画と並行して実施している幅広いアプローチ活動(以下、「BA(Broader Approach)活動」という。)は、「より広範な取組に関する協定」(平成19年2月署名。以下、「BA協定」という。)に基づき、原型炉の開発に必要な研究開発のうち、日欧の共通の関心課題について、欧州と共同で研究開発を進めるものである。

核融合科学技術委員会においては、平成29年にBA協定の当初の有効期間である10年間が経過することから、これまでのBA活動の進捗状況を確認するとともに、平成29年以降に日欧で行うべき研究開発とその実施体制等について考察した。
なお、考察に当たっては、次の団体等からのヒアリング及び実地調査を実施した。
1 BA活動3事業の実施担当者
・国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業
・国際核融合材料照射施設工学実証・工学設計活動(IFMIF/EVEDA)事業
・サテライト・トカマク計画(STP)事業
2 専門的知見を有する者としての次の3団体
・核融合エネルギーフォーラムITER/BA技術推進委員会
・核融合科学技術委員会原型炉開発総合戦略タスクフォース
・六ヶ所核融合研究所原型炉設計合同特別チーム

今後のBA事業の推進はもとより、日欧間で設置されているBA協定期間終了後の協力に関するワーキング・グループにおいて、BA協定期間終了後の日欧協力の内容を詰めるに当たっては、本報告を踏まえ、我が国が進めるべき原型炉実現に向けて必要な研究開発及び国際協力を含めた最適な研究協力体制は何かということを念頭に置きつつ、計画の検討・立案を進めていただきたい。また、計画の検討・立案においては、国内における原型炉開発を牽引すべく発足した「原型炉設計合同特別チーム」と連携を図ることが望まれる。さらに、「原型炉開発総合戦略タスクフォース」で検討を進めているアクションプランに留意され、それとの協調を求めたい。

2.現行のBA活動の進捗状況等について

○日欧がBA協定の下、協力して核融合原型炉の設計やそれに必要な研究開発を進めたことにより、従前は相容れなかった炉設計や要素技術概念において、共通概念の提示や最重要事項の絞り込みが進むなど、着実に進展している。
○日欧相互の合意が必要なため、必ずしも日本として推進したい研究開発ができない部分もあったが、一方で、炉設計や技術開発において、従前の考え方に縛られなかなか見直しに踏み切れなかった課題についても、相手国の意見と影響力をそれぞれの国内・域内で利用することで、最新の知見に沿った方向への転換に成功するなど、BA協定という縛りがあったからこそ実現できたものもあり、本協定は有効に機能してきたといえる。
○国内外に向けた進捗・成果のアピールが不十分である。国民から核融合研究開発に対する理解、信頼が得られるよう、核融合研究開発の意義、進捗状況、成果はもとより、リスクに関する情報についても積極的な情報発信をすべく、より効果的な広報を検討すべきである。

【IFERC】(International Fusion Energy Research Center)
(1)原型炉概念設計・研究開発
○日欧での設計の比較検討や安全性の検討を通じた原型炉設計の最重要事項の範囲の絞り込みが進み、原型炉共通概念の提示に向けて研究が着実に進展している。
(進展が見られた例:ダイバータ概念、遠隔保守方式の比較分析、システム・コードのベンチマークテスト、安全性研究、超伝導コイル、廃棄物処理等。)
○ダイバータについては最有力オプションの提示がなされた。ただし、将来に向けて新概念探索を継続することの必要性も指摘されている。
○低放射化フェライト鋼の大量製造技術、化学安定性に優れた中性子増倍材、トリチウム増殖材の製造技術の確立等、原型炉に向けて価値ある成果が出ている。

(2)計算機シミュレーションセンター(CSC:Computer Simulation Center)
○CSCのスーパーコンピュータ、ヘリオスは高い稼働率と高い利用率で運用がなされ、炉心プラズマ物理研究、炉材料・炉工学開発に資する学術的価値の高い300件以上の論文発表など成果が上がっている。

(3)ITER遠隔実験センター(REC:Remote Experiment Center)
○遅れ気味ではあるが、BA協定期間内に必要な設備整備は完了見込みである。

【IFMIF/EVEDA】(International Fusion Material Irradiation Facility/Engineering Verification and Engineering Design Activity)
○「中間IFMIF工学設計報告書」を取りまとめ、システム概要を明らかにするなど、次段階への移行判断に資するベースを構築した。
○リチウムターゲットループ試験では、東日本大震災の被害を克服し、ターゲット流動試験で20m/sの最大流速を達成するとともに、長期流動安定性の達成によりIFMIF概念設計の有効性を実証するなど、画期的な成果が出ている。
○中性子照射試験施設については、大学との共同研究の下、原子炉照射による照射モジュールの温度制御システム等の実証試験を実施し、課題を明確化した。

【STP】(Satellite Tokamak Project)
○日欧の緊密な協力の下、機器製作・組立が順調に進捗するとともに、日欧研究者の共同作業により詳細なリサーチプランが立案された。
○装置の製作・据付・組立で得た製作技術・統合技術とその知見・経験は、国内産業の技術向上と蓄積にも貢献するものであり、今後の原型炉製作技術にも寄与するものである。

3.今後の研究協力の在り方について

【総論】
○BA活動により整備された設備や投入された人材を含めた資源を有効活用するためにも、日欧協力の枠組は残すべきであり、できるだけ多くの研究課題を日欧が協力して進めることが望ましい。協力内容については、「核融合原型炉開発のための技術基盤構築の中間的役割を担うチーム報告」に沿って、炉設計及び炉工学研究開発の課題を再構築した上で、欧州側と共通する課題と分野に絞ることが望ましい。一方で、他国・極の参画やその他の国際協力を指向すべきものを戦略的に検討し、適切で有効な国際協力の下でリーダーシップを発揮することが必要である。
○核融合分野及び産業界も含めた関連分野における人材の計画的な育成、これまでに蓄積されている設計・製作・組立等の技術や知見の着実な継承が極めて重要である。そのため、今後、知財管理なども含めて戦略的に計画を立て、より合理的・効果的な資源配分で研究を継続、進展させるべきである。その際、国内で抑えるべき技術を明確にした上で、戦略的に国内産業界と連携を図ることが重要である。
○原型炉設計に向け、大学や産業界と連携して進めるためには、従来の論文等による評価軸だけでなく、原型炉に対する貢献に応じた評価がなされるよう、新たな評価システムを構築するとともに、その貢献が尊重されるコミュニティ文化を醸成することが必要である。
○核融合以外のコミュニティとの連携も視野に入れたBAの在り方を検討する必要がある。原型炉とその先の核融合エネルギーの実現という目標における研究開発のマイルストーンを、核融合コミュニティ以外にも共有可能な指標として示すべきではないか。

【IFERC】
(1)原型炉概念設計・研究開発
○原型炉設計や研究開発において、これまで大きな成果が上がっている状況を踏まえ、日欧協力での原型炉設計活動の枠組を維持すべきである。日欧共同の原型炉設計の可能性についても留意しつつ、日欧それぞれの原型炉設計に関する情報交換を継続させるとともに、原型炉開発に向けた欧州独自の研究開発施設での活動への参画も目指すべきである。
○特に、システム設計や、プラズマ制御、遠隔保守、ダイバータ、燃料増殖・燃料サイクル等の研究開発については、日欧共同作業が有効と考えられる。一方で、原子炉照射、SiC/SiCなど先進ブランケット関連の研究開発、世界標準の視点が求められる材料規格・安全性等の検討については、欧州以外の国際協力も活用すべきである。なお、いずれにおいても、ITER計画への貢献及び原型炉の早期実現の促進というIFERC事業の目的を達成するために要求される成果のクライテリアを明確にしておく必要がある。
○原型炉開発を目指したブランケット研究開発、ダイバータ技術をはじめとする工学開発が未着手であるため、今後、ダイバータ、材料試験法、中性粒子ビーム入射(NBI)などの研究開発について、原型炉設計活動との連携の上で、強化・追加すべきである。
○核融合炉設計を進める上では、個々の技術における研究開発現場の実情と将来的な見通しを的確に把握するとともに、核融合全体に対する俯瞰的な視野を持って研究開発計画を立てる必要がある。そのため、炉設計の専門家が技術開発の現場を経験したり、実験や装置建設の経験者が炉設計に参画したりするなど交流を図ることが有効であると思われる。
○原型炉設計・研究開発活動については、「原型炉開発総合戦略タスクフォース」における議論・判断を踏まえ、産業界も含めた全日本体制で進めることが必要である。特に、材料開発等においては、事業成立性や生産規模、品質等の確保といった将来の実用段階で必要となる条件を見据え、産業界と密に連携を取りながら進めるべきである。

(2)CSC
○ヘリオスは2016年末で運用を終了し、撤去される予定であるが、JT-60SA、ITERでの実験シナリオ最適化や系統的実験解析、原型炉に向けたダイバータ概念や材料開発に資するPFLOPS級計算資源が必要不可欠である。BA活動で整備された、六ヶ所核融合研究所の計算機運用のための設備やサポート要員を生かし、継続して運用することが最も効率的ではあるが、国内次世代スパコン開発との連携や欧州の計算機の利用も視野に、継続・新規確保のための早急な検討が必要である。

(3)REC
○JT-60SAやJETなど欧州の既存の装置を用いた実証を行うべきである。
○遠隔実験システムの開発、高速大量データ転送技術の開発、遠隔データ解析・シミュレーションの開発は、他分野への波及効果も高いため、汎用性も考慮しつつ開発することが望ましい。
○RECが、日本にいながら、ITERの大規模な実験解析やITER側研究者との密なコミュニケーションを取るための施設として真に活用されるためには、六ヶ所核融合研究所へのアクセスを容易にする必要がある。一方で、研究者が各地に分散したまま遠隔で実験に参画できるシステム構築も必要である。

【IFMIF/EVEDA】
○中性子源施設建設のための技術は、IFMIF/EVEDA事業の成果を活用することが重要であり、日欧協力で六ヶ所サイトに中性子源施設を建設することが最も現実的であることから、BA協定期間終了後の研究活動も日欧で一本化できないか、十分に検討すべきである。ただし、他に参加希望国があれば、前向きに受入れることが望ましい。
○BA活動で整備した加速器は、従来にない大強度加速器で空間電荷効果の抑制実験などの最先端研究も可能であり、BA協定期間終了後も有効活用し、原型炉開発に貢献する施設とすべきである。IFMIF/EVEDAから核融合中性子源に移行するには、多くの技術課題があるため、現行のBA計画の範囲に留まらず、核融合中性子源の整備に向けて必要な研究開発をBA活動の中に取り入れるべきである。
○中性子源施設については、A-FNS、IFMIFの位置づけ、それらによる材料照射研究の意義を明確にした上で、原型炉研究開発に向けた活動と連携させて合理的な施設整備を進めることが重要である。また、原型炉の設計に使用できるデータを取得するため、照射計画全体において、トレーサビリティとデータの信頼性の確保、微小試験法の確立が必要である。

【STP】
○JT-60SAとして具体的に何を確認し、ITERや原型炉に反映していくのか、目指すべき成果のクライテリアを明確にするとともに、ITER計画のスケジュールの見直しに整合するよう、ITERの補完装置としての研究計画も適切に改訂していく必要がある。その上で、JT-60SAにおいては、ITERや原型炉に向けた最重要課題の一つであるダイバータ開発研究の加速に注力することが望まれる。
○JT-60SA共同利用の実施協定を早期に締結し、日欧協力を軸とした国際共同研究体制を確立して、計測整備を含む実施計画を着実に具体化することが望まれる。また、日本が主導的に日欧協力での研究活動を実施推進できるよう、核融合研や大学等の研究者が参画し、重要な役割を担っていく必要がある。
○ITERの支援研究装置として、予測精度の高いモデルの構築やコードのベンチマーク等を行うことで、ITER計画における我が国の存在感を高めることが期待される。

お問合せ先

研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当)

八木
電話番号:03-6734-4163
ファクシミリ番号:03-6734-4164

(研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当))

-- 登録:平成28年04月 --