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国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会 中間とりまとめ

平成26年7月
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
宇宙開発利用部会
国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会

1.はじめに ~現状と課題~

 国際宇宙ステーション(ISS)は、1984年の米国による計画の提唱以来、1998年に建設開始、2011年に完成した。この間、二度のスペースシャトル事故など様々な技術的困難にも直面したが、5極15ヵ国が力を合わせて克服し、人類史上比類のない規模の平和目的の国際共同プロジェクトとして遂行されてきた。ISS計画の進展により、それまで国際競争を体現していた宇宙開発は、先進国により協調して推進される統合プロジェクトとなり、いわゆる冷戦構造の象徴から、国際協力のシンボルとして位置づけられるものとなったのである。

 我が国は、ロケットや衛星の開発と並ぶ日本の宇宙活動の重要な柱の一つとして、ISS計画に当初から積極的に参加し、安定したパートナーとして建設・運用の一翼を担い、さらに日本実験棟「きぼう」、宇宙ステーション補給機「こうのとり」の開発・運用等を通じて我が国ならではの技術力を実証し、他極からかけがえのない貢献として評価されている。この結果、日本はISS計画の重要なパートナーとしての地位を占めるに至った。このプロジェクト参加に対しては、毎年400~360億円の多額の予算を充当しており、効率化を図っているとはいえ、その負担に見合う成果について検証が求められている。

 他方で、人類の活動領域はISSのような地球低軌道にとどまらない。より遠く、を目指して、月面に人を送り込み、また様々な惑星等に多くの探査機を送るなど惑星探査にも取り組んできた。そして今、その宇宙探査に国際協働で挑戦しようという機運が高まっている。各国の宇宙機関から構成される国際宇宙探査協働グループ(ISECG)は、2013年8月、ISSを当面の有人拠点としつつ、有人準備のための無人探査ミッション、低軌道以遠の有人探査ミッション(拠点化)を経て2030年以降の有人火星探査へと至るロードマップをまとめた。

 こうした宇宙探査への機運の高まりは、国際的な宇宙開発利用活動がダイナミックに展開されていることに現れている。とりわけ新興国の伸長がめざましく、中国は2011年に実験モジュール「天宮1号」を打ち上げ、翌年宇宙飛行士が搭乗した宇宙船「神舟9号」とドッキングを果たした他、2013年には世界3番目の月面無人着陸に成功した。インドも2013年に火星無人探査機の打上げに成功し、2016年には有人宇宙船の初飛行を計画するなど、ISS参加国以外の国々もきわめて精力的に宇宙探査に参入してきている。

 このような状況の中、2014年1月、35か国・地域・機関から関係閣僚や宇宙機関長等が国際宇宙探査フォーラム(ISEF)に集い、ポストISSとしての国際宇宙探査の意義、重要性等に関する認識共有がなされた。この会合に合わせて、米国政府は少なくとも2024年までのISSの運用延長を表明し、我が国を含め他極に参加を呼びかけた。

 中国はすでに世界第2位の経済大国となって米国と経済的な関係を深めながら大国としての立場を強めようとしている。また本年に入ってウクライナ情勢をきっかけに米露対立が鮮明化し、その中でロシアが将来のISS計画からの離脱を示唆するなど、国際情勢はますます複雑な様相を呈している。こうした中で、これからの宇宙開発利用、なかんずくISSを含む宇宙探査を巡る国際協力のあり方が問われている。

 こうした背景のもと、我が国のISSへの参加の在り方及びポストISSとしての国際宇宙探査の進め方について、宇宙開発利用部会の下に国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(以下「小委員会」という。)を設置し、文部科学省としての考え方を明確にするべく、様々な観点から調査検討を行うこととした。本報告書は、平成26年4月から7月に計6回にわたって開催された小委員会での議論を中間報告としてとりまとめたものである。 

2. 国際宇宙ステーション(ISS)計画への参加の在り方

 ISS計画への参加から得られたこれまでの成果について多面的に検証を行うとともに、今後の参加の在り方及び意義について検討を行った。

(1) ISS計画への参加から得られた成果

 ISS計画における日本の提供要素であり、我が国初の有人宇宙施設でもある日本実験棟「きぼう」は、2008年より利用を開始している。また、ISS参加各極は、ISS運用にかかる共通的な経費を利用用資源の配分(日本は12.8%)に応じて、衡平に分担することとしており、我が国は宇宙ステーション補給機「こうのとり」により物資輸送することで、分担責任を果たしている。
 ISSへの参加によって得られた成果を整理すれば以下の通りである。

1)有人・無人宇宙技術の獲得・発展

○ 「きぼう」「こうのとり」の開発・運用を通じて、有人宇宙施設の運用・管理のノウハウや宇宙輸送技術等を蓄積しつつ、我が国の高い技術力を実証すると共に、若田宇宙飛行士のISS船長への就任に示されるように、搭乗員管理等ISSのマネジメントの中核的部分についてのノウハウも蓄積し、我が国は、ハードとソフトの両面において国際協力で行う有人宇宙活動において中核的な役割を担えるレベルに到達した。獲得した主な宇宙技術は、宇宙滞在・活動技術、搭乗員関連技術、有人運用技術、物資補給技術(自立飛行、ランデブー等ロボティクス技術)、それらを支える基盤としての大型システム統合技術等と多岐にわたる。

○ 上記宇宙技術はISS計画へ参加しなければ獲得することが出来なかった有人宇宙技術である。また、こうした世界水準の技術の獲得に要した費用・期間は、欧州と比較して期間は3分の2、費用は6分の1であり、大幅に効率的に獲得したといえる。

2) 宇宙環境の利用による社会的利益

○ 基礎的研究開発の成果としては、科学誌NatureやScienceをはじめ、約900件に上る査読付き論文として発表されており、特に「きぼう」の利用が開始された2008年以降増加傾向にある。(また同様に、「きぼう」を利用する研究者による外部競争的資金の獲得件数も増加しており、「きぼう」利用研究が着実に進展している。)

○ 微小重力環境を活用した画期的な製品開発については道半ばであるが、宇宙医学や生命科学実験を通した骨粗しょう症研究等の進展、創薬に繋がるタンパク質結晶生成、次世代半導体に関する材料創製、超小型衛星放出技術等といった地上では得られない研究開発成果が創出されており、今後も更なる成果の拡大とその地上への波及が期待される。

  • タンパク質結晶生成実験では、地上よりも高品質の結晶を生成する手法をほぼ確立し、大手製薬企業の参入など民間利用拡大への道を拓いた。また、筋ジストロフィーや癌関連のタンパク質等の構造を解明し治療薬の研究開発に貢献するなど、社会課題である疾患への対策に繋がる成果が出始めている。
  • 生命科学実験では、無重力環境で骨や筋肉の減少が加速されることに着目した骨粗しょう症治療薬の研究開発や筋肉の萎縮を抑制する機能性食品の開発等、また、物質・物理科学実験では、次世代高性能半導体の実用化に繋がる均一な組成の結晶生成手法の知見獲得や結晶成長の新理論の構築等、学術面に加えて実用面でも成果が出始めている。
  • X線天文学の分野では、全天X線監視装置(MAXI)が定常的な全天観測によりブラックホール新星等の突発的な天体現象をいち早く発見し、全世界の研究者に速報することで、迅速かつ国際的な追観測を可能とし、同分野の学術的な発展に大きく貢献している。この他にも、曝露部は、地球環境観測や災害監視などに効果を発揮しており、新たなセンサ開発等の実験場としての活用可能性を実証している。

3)産業の振興

○ 「きぼう」「こうのとり」の開発・運用にはそれぞれ、650社以上、400社以上の多数の日本企業が参画しており、高い安全性と信頼性が要求される大規模システムの設計・解析・インテグレーション技術等、我が国宇宙産業の各種技術基盤の強化に貢献している。

○ ISS計画への参加に伴う費用は共通システム運用経費(CSOC)の分担として「こうのとり」による物資補給で賄っており、平成26年度約240億円(ISS予算約360億円の3分の2に相当)を計上しているが、「こうのとり」の定期的な機体の製造や打ち上げ、定常的な運用(いわゆるアンカーテナンシー)を通して、我が国の宇宙産業の基盤強化に寄与し、ひいては自在な宇宙活動能力の確保に貢献している。

○ 「こうのとり」の開発技術、運用ノウハウは、ドッキング技術等の分野における我が国の優位技術の創出や物資補給機のISS近傍通信システム、人工衛星の静止軌道投入用エンジン、ISS用のリチウムイオン電池など関連製品・技術サービスの海外輸出など企業の新たなビジネスの拡大にも繋がっているほか、「きぼう」の運用では、宇宙食、冷却ベストや消臭シャツなど、有人宇宙技術に関連する製品へのスピンオフなどの成果も進展している。

4)国際プレゼンス(国際的地位)の確立

○ 「きぼう」、「こうのとり」の開発と安定運用等を通して、我が国の技術力の高さを実証し、宇宙先進国としての地位を確立した。信頼出来るパートナーとして米国を始めとするISS参加国から高い評価を受けている。

○ アジア唯一のISS参加国であることから、アジアのゲートウェイとしての協力関係を形成してきた。アジアのISS非参加国の多く(マレーシア・ベトナム等)は、日本との協力関係を通じて「きぼう」利用を行うと共に、今後の協力関係の発展を強く希望しており、我が国の国際的プレゼンス向上に寄与している。

○ 中国は有人輸送や月面探査において、近年著しい伸長を見せており、アジアにおける宇宙先進国としての我が国の立場は安泰なものではない。インドもまた独自の有人宇宙開発を指向するなど、この分野における我が国の優位性およびアジア地域におけるプレゼンスは相対的に低下することが懸念される中で、科学技術外交・宇宙外交における重要な手段としてのISSの重要性が益々高まると考えられる。

○ ISSという巨大な国際プロジェクトにおいて参加国間で密接な協力関係を築いていることは、宇宙の平和的利用を維持するという意味で非常に大きな成果といえる。安全保障の観点から、こうした高度なコミットメントが必要とされる場で協力関係を構築していることは、地上における国際的な緊張が高まる中での国際関係におけるリスクマネージメントという意味でも非常に有意義である。なお、ウクライナ情勢を契機とした国際的な緊張関係に伴い、将来のISS協力関係の解消を示唆するロシア要人の発言がなされている。当面現状の協力関係は維持されると見込まれているが、技術面、コスト面のリスク要因となる可能性があり、引き続き情報収集や状況分析を続けることが必要である。

○ 一方で、ロシアや中国をめぐる国際情勢が、これまでの宇宙における国際協力体制を大きく変えるような影響を持つ中で、我が国は高い技術力を維持・発展させることに注力する必要がある。

5)青少年育成

○ 「きぼう」の運用開始以降だけでも、ISSに滞在する日本人宇宙飛行士との交信イベント、地球帰還後の長期滞在ミッション報告会、その他の講演等に10万人以上が参加した。その他、JAXA保有の有人宇宙関連の写真・映像等が、教科書・図鑑・プラネタリウム・テレビ情報番組等、多方面で利用されているなど、ISS計画への参加により得られた青少年育成機会やコンテンツを国民に提供している。

○ 日本人宇宙飛行士の活躍やISSをめぐる最先端宇宙技術が青少年の科学技術への興味や関心を高め、科学技術教育、ひいては将来の我が国を支える科学技術人材の育成に貢献しており、理科離れ対策という観点からも極めて重要である。

○ 夢を実現して宇宙を経験し世界で活躍する宇宙飛行士による講演等は、有人宇宙活動国のみが行うことのできる青少年育成の手法であり、これまで歴代の日本人宇宙飛行士により子供や若者に宇宙への興味、「夢」への努力をかき立て、理系人材にとどまらず次世代を担う人材の輩出に貢献している。

(2) 今後のISS計画への取り組み方~課題を踏まえて~

 我が国は、国際協力の枠組みへの参加を通し、自由に利用できる有人宇宙施設を保有し、全体の約1割強の費用負担(利用用資源割合12.8%に相当)でISS計画全体からの便益(ISS利用権や日本人飛行士の搭乗権等)を効率的に享受することができた。そうした成果がある一方、明らかになった課題も踏まえ、今後の取り組み方は以下のようなものとするべきである。

1)基本的視点

○ ISS計画への参加から得られた成果は、単に数値化された経済的便益では計ることができないものも含め、他の手段では得られない多様で貴重なものが得られているということができる。また、「きぼう」利用は、引き続き基礎研究にも一定の配分をするポートフォリオとしつつも、国の戦略的な研究や民間利用の拡大などを進めることにより、これからいわば収穫期を迎える「きぼう」利用の成果を更に増大させることが重要である。

○ 2020年頃は中国が独自の有人宇宙ステーションを保有する見込みであるなど宇宙開発利用をとりまく国際情勢が節目を迎える時期であり、我が国が有人宇宙技術を一層向上させ、世界、特にアジアにおける宇宙先進国としての地位を維持・発展させていくためには、引き続きISS計画への参画は必須の要件である。

○ また、有人宇宙技術は一度中断した場合、再興することがきわめて困難であることにも十分注意が必要である。特に、国際協力により継続されていく計画から我が国が離脱することは、国際パートナーからの信頼を大きく損なうことになり、元の状態を取り戻すことはほとんど不可能であるといっても過言ではない。

2) 留意すべき課題

(ア) ISS計画への参画を通じて強化すべき技術の明確化

○ 将来の国際的な宇宙探査計画の中で日本が主体的・中核的な役割を担えるよう、ISS計画における「きぼう」「こうのとり」の運用管制を通して、国際協働による長期有人オペレーション技術(有人システム統合運用における緊急時即応能力、有人宇宙システムの維持管理・運用に係るノウハウ、開発・運用上の安全を評価・管理する能力等)及び宇宙輸送技術(物資輸送に関わる自律航行、ランデブー等)の習熟・向上に努めると共に、これらを担う技術者・運用者の能力を次世代に継承し、「国際協働による宇宙探査」を担う国際的な交渉・調整力を有する人材・運用能力を確保する。

○ 将来の有人宇宙探査で必要となる技術のうち、特に、これまでに獲得してきた我が国の強み、そして持続的な探査活動の鍵となりうる有人長期滞在技術(有人滞在技術要素、宇宙医学・健康管理技術、放射線被曝管理技術、高効率・高信頼性の居住環境制御技術など)、宇宙輸送技術(サンプル回収技術など)を技術の優先順位を明確にしつつ強化する。これらは少子高齢化、省エネルギー等我が国が抱える課題解決という観点からも成果の波及効果が大きく、戦略的に取り組んでいくべきものである。

○ こうした技術の強化については、専門的な技術評価を踏まえ、優先順位付けを行いながら取り組むとともに、参加極間のさらなる情報・技術の共有を進めることにより、重複を避けつつ効率化を図っていく必要がある。

(イ) 成果最大化のための「きぼう」利用の方向性

○ これまで、「きぼう」利用に研究者の自由な発想を取り入れたからこそ生まれた成果もあり、基礎研究分野の実験枠(先導的な技術開発を含む)も一定程度確保することが重要である。一方で、企業参入を促進する取り組みとして、利用メニューの充実、技術サポートの強化、知的財産取扱いの工夫など、よりきめ細かなユーザ支援を行い、民間利用を拡大することが必要である。

○ 大型放射光施設「SPring-8」やスーパーコンピューター「京」、その他の国の共用施設と同様に、「きぼう」を我が国の研究開発プラットフォームの一翼を担うものとして、国の戦略的な施策にあった課題解決型の研究や民間企業の研究開発等に対し、広く実験環境を提供できるようにする取り組みが必要である。

○ 公募・提案型研究の積み上げというこれまでの取り組みを通じて絞り込んできた微小重力環境の特徴を効果的に活用できる分野(骨・筋肉・免疫等に関する生命科学研究やタンパク質結晶生成を通した創薬研究等)に重点化するとともに、国の戦略的施策に合った課題解決型の研究を取り入れていくことで、「きぼう」利用成果の社会や経済への波及を拡大することが必要である。

○ 国の戦略的施策にあった課題解決型研究の取り込みにおいては、これまでの生命科学分野での成果を踏まえ、国の健康・医療施策に関連した研究開発のプラットフォームとして戦略的な利用を進めることが重要である。具体的には、インフルエンザや癌、アルツハイマー等、革新的な薬剤開発に向けた社会へのインパクトの高いタンパク質を対象とした国の創薬事業等との連携や、加齢や老化に係るメカニズム解明やエピジェネティクス等の最先端の研究等があげられる。

○ 「きぼう」有償利用にあたっては、実績を積み重ねていく中で、価格設定を適宜見直すことによって利用の障壁とならないよう「適正価格」に近づける努力が必要である。

○ 「きぼう」のアジア利用にあたっては、これまでに構築してきた各国宇宙機関等との協力関係を基盤とし、超小型衛星の放出のような参入しやすい形の利用等を進め、アジアのゲートウェイとしての我が国のプレゼンスの向上に繋がる取り組みを維持・発展させていくことが重要である。その際、アジアの宇宙環境利用に係る成熟度は、国毎に大きな開きがある上、「きぼう」の経費圧縮に繋がる協力が実現するほど十分に高まっていないことに留意し、成熟度に応じたきめ細かい協力を心がけるべきである。

(ウ) 費用対効果向上のためのコスト負担の在り方

○ 厳しい財政状況も踏まえ、コスト負担の効率化は不断に取り組む必要があり、「きぼう」運用経費については、宇宙飛行士の安全性が損なわれたりISSの信頼性の確保に支障が出ないよう十分に配慮しつつ、国際調整を含めたコスト効率化努力を継続することが重要である。

○ CSOC(2016年~2020年)負担は、まずCSOC全体の合理化を通じ我が国負担の軽減を図ることが必要である。同時に我が国宇宙産業の基盤維持や技術開発能力の高度化への貢献、将来の国際宇宙探査に資する等、できるだけ我が国にとって有利な要素を含むものとなるよう国際的な調整を行うべきである。

○ ISS計画への参加から得られた成果の費用対効果については、「効果」として定量的に十分な成果が出ていないとする指摘がある一方、経済価値に直接換算することが困難な成果(有人宇宙技術の獲得、宇宙実験成果、国際プレゼンス、青少年育成等)が得られているのも事実であり、多面的・総合的に評価する必要がある。また、ISS計画の経費は「将来の投資」と捉えることが重要であり、米国科学アカデミーの報告書「Pathways to Exploration」(平成26年6月)においても、有人宇宙探査に係る経費について同様の考え方が示されている。

○ なお、ISS運用によって、我が国としての得意技術を一層伸長させていくための取組の意義や、その成果について、国民に対して説明責任を果たし、同時に国民の宇宙開発に対する期待や要望を捉えながら、理解を得ていく継続的な工夫が重要である。

3)対応の在り方

○ 上記の基本的視点に立って、前述の課題を留意点としつつ総合的に勘案すれば、米国による少なくとも2024年までISS運用を延長するという提案を受けて、我が国として引き続き参加していくことが適当である。

○ ただし、厳しい財政状況を踏まえ、我が国の負担が大幅に増えることが無いよう、運用コストの負担についての具体的な計画については、国際間での調整を図っていくものとする。なお、ISS計画に係る国際動向を常に把握し、我が国の対応に適切に対応すべきである。

3.国際宇宙探査への参加の在り方

 本年1月の国際宇宙探査フォーラム(ISEF)において共有された認識も踏まえ、我が国として、国際宇宙探査に取り組む意義及び方向性について、様々な観点から検討を行ったところ、その内容は以下の通りである。

(1) 我が国が国際宇宙探査に取り組む意義

 いうまでもなく宇宙は人類にとってのフロンティアである。フロンティアへの挑戦は、人間の探究心が絶えず求めるものであり、ある意味で根源的な欲求ともいえる。そうした根源的な欲求に基づいて、人類は深宇宙への挑戦を続けてきたし、今後も続けるであろう。日本も宇宙先進国の一員として、人類の深宇宙への挑戦のための「国際宇宙探査」へ貢献することが求められている。国際宇宙探査の意義については以下のように整理できる。

1)人類の知的資産の拡大

○ 人類の活動領域の拡大として、実現性等を考慮すれば、「火星」をターゲットとすることについては、一定の合理性があり、これを目指すことにより、生命の探求・惑星科学分野の知見等をもたらし、人類全体の知的資産の増大・蓄積に貢献する。

2)科学技術・イノベーションの発展

○ 人類未踏の宇宙空間へ進出する宇宙探査に取り組むことにより、現時点では手にしていないものの挑戦する動機を明確化することにより新たな技術のブレークスルーを生み出し、社会経済活動に大きな変革がもたらされる。

○ 有人宇宙技術や先端的な自動・自律制御技術などを以って国際宇宙探査に参加することは、これまで培ってきた我が国の財産ともいえる有人・無人宇宙技術をさらに発展させることにつながり、我が国の国際的優位性を維持できる。

3)産業・社会へのインパクト

○ 過酷な宇宙環境への挑戦は、生命維持、環境・健康管理、究極の省エネルギー等に取組むことであり、少子高齢化、資源小国という課題を抱える我が国の課題解決に直結し、豊かな国民生活の担保という広義の安全保障に資する。

○ 国際宇宙探査は、惑星着陸機・ローバー・回収機など様々な要素から構成されるため、ISSと同様に様々な国内企業の参画が可能である。

○ 国際宇宙探査への参加は、技術力の国際的アピールや企業ブランドの向上につながる。

4)国際プレゼンスの発揮(国際的地位の向上)

○ 米国およびロシアが圧倒的な技術力や経験を基に、今後も有人宇宙活動や宇宙探査活動において主導的な立場を維持することに加え、近年、有人輸送技術・月面無人着陸技術を獲得してきた中国などの新興国も台頭している。このような国際的な宇宙探査への機運の高まりを的確にとらえ、これに積極的に参画していくことは、これまで粘り強い取り組みにより獲得した宇宙先進国の地位を引き続き維持・向上させるとともに、日米等とのパートナーシップを強化していくために必要不可欠である。

○ 国際的な共感や尊敬を得られる国際プロジェクトに知識・技術を以って参加・貢献していることによるプレゼンスは、ソフトパワーとして国際的な競争力を持つ。

5)青少年育成

○ 宇宙探査は、若い世代の科学・技術・工学・数学に対する興味を刺激し、幅広く理系人材の創出をもたらすとともに、新たな課題や夢に挑戦する次世代を輩出。

○ 有人宇宙活動は、人間の持つ多彩な好奇心を刺激することが出来る題材であり、青少年に対する教育・啓発効果のみならず、宇宙飛行士や技術者・研究者達が高い目標に挑戦する姿を通じ、国民に勇気や自信を与えるという意味でも社会的な波及効果が大きい。

(2) 我が国としての国際宇宙探査の進め方

 我が国がホストする次回ISEF会合に向け、以下の基本的考え方に基づき、各国の合意が得られるよう、主体的に国際調整を進めるべきである。

1)技術的観点

○ 国際宇宙探査協働グループ(ISECG)によって作成された国際宇宙探査ロードマップ(GER)を踏まえ、有人火星探査を将来の目標と見据え、段階的にプロジェクト化(将来目標を視野に入れつつ具体化・限定化された目標設定、期間や参加国の決定、コスト負担を含む役割分担調整、開発・実証すべき技術の同定等)して取り組んでいく、すなわち「段階的なアプローチ」により推進していくことが適当である。なお、プロジェクトの実施にあたっては、費用対効果について十分な検討を行い、いわゆる「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」を遵守するものとする。

○ 将来の有人宇宙探査で必要となる技術のうち、有人長期滞在技術の開発・実証等については、現存する唯一の環境であるISSを最大限に活用する。また、いかなるアプローチ(段階)を取ったとしても、有人探査に必要となる共通基盤技術(高精度着陸技術等)の開発・実証を行うため、我が国として強みを有する分野(無人宇宙輸送やロボティクス技術等)を軸とした無人月面探査計画を策定・提唱し、今後、国際的な動向を見極めつつ、プロジェクトの具体化に向けた検討を一段と深める。

○ 国際宇宙探査の取り組みにおいては、科学的成果創出の観点からも、学術コミュニティとの十分な連携を図ることが重要である。 

2)枠組み

○ 国際宇宙探査の目的に合致した枠組みを構築することが重要であり、ISS計画を通じた経験等を活用して、国際宇宙探査における枠組み作りに向けた検討の場を設置することを第2回ISEFの場で合意することを視野に入れ、主体的に取り組みを進める。

○ 「段階的なアプローチ」を通じて、技術的な実現可能性や負担コストについて十分な見通しを得つつ、なるべく多くの参加国を得られる協働の枠組みを実現する。

○ ISS計画への参加を通して築き上げたアジア諸国のゲートウェイという位置づけを国際宇宙探査においてどのように維持・発展させていくか、中国・インド等との関係も踏まえ、検討をしていくことが必要である。

3)今後の検討項目

○ 国際宇宙探査については、ISSの運用継続、月周辺での有人探査、そしてさらには有人火星探査というステップのなかで、有人探査と無人探査をどのように整理して推進することが適切なのか、自主開発と国際協力のバランスはどうあるべきなのか、我が国として有人ロケットを含む有人宇宙技術獲得への取り組みをどうすべきなのかという観点から更なる検討が必要である。

○ 我が国の宇宙先進国としての地位について、例えていえば一旦下車すると再乗車が難しいものであるという点に十分配意しつつ、我が国として将来のためにどのように投資していくべきか議論を深め、国際宇宙探査における我が国の取り組みに関する全体像を更に分かりやすく描くことが必要である。

○ 米国科学アカデミーの報告書でも指摘されている、国民の理解が十分得られていないという点については、我が国においても当てはまることを踏まえ、国際宇宙探査への我が国の取り組みについて、国民全体からの幅広い理解を得ることができるよう、様々な場を活用してその意義等について、国民の宇宙開発に対する期待や要望を捉えながら、説明責任を果たしていく必要がある。 

4.おわりに

 ISSの2020年までの運用継続に関しては、「当面の宇宙政策の推進について」(平成22年8月 宇宙開発戦略本部決定)において、「平成28年度以降もISS計画に参加していくことを基本とし、今後、我が国の産業の振興なども考慮しつつ、各国との調整など必要な取り組みを推進する」こととされている。また、「宇宙基本計画」(平成25年1月 宇宙開発戦略本部決定)においては、「2016年以降のISSの運用の延長と我が国の参加については費用対効果を十分評価した上で、参加形態の在り方を検討すべきである。」との指摘がなされている。

 本小委員会においては、こうした指摘等も踏まえ、多様な観点から検討した結果、コスト効率化の継続的な努力と、成果の最大化を通じて、総合的に費用対効果を一層向上させる取り組みを行いつつ、2024年までISS計画への参加を継続することが適当であるとの方向性を得た。

 また、国際宇宙探査に関しても宇宙先進国として主体的・積極的に取り組んでいくことが重要であり、次回ISEF会合主催に向けて主体的な国際調整を進めるべきとの結論に至った。しかしながら、我が国の低軌道以遠の国際宇宙探査に係る取り組みについては、議論が尽くされているとはいえない。納税者である国民の理解を得るためには、「我が国が目指すべき宇宙開発利用の絵姿」ともいうべき分かりやすい全体像を示し、その中におけるISSや具体的な宇宙探査プロジェクトの位置付けを整理することなどが必要であり、さらに議論を深めていくべきである。

 特に、厳しい財政状況の中においては、国際協働のもとで、我が国がこれまでのISSをはじめとする宇宙活動で培ってきた技術・経験、プレゼンスを最大限活用し、主体的かつ主導的なアクションを取ることが国益の最大化につながることに留意しつつ、国際宇宙探査に係る具体的な方策などについてさらに検討を進めていくこととしたい。

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課

-- 登録:平成26年08月 --