3.「フューチャー・アース」構想の推進に向けた提言

3.1.トランスディシプリナリー研究の実現に向けて取り組むべき事項

Co-designの視点

 FE構想は、ICSUをはじめとした学術界を中心に、持続可能な社会の構築に向け、幅広い分野の研究の融合を通じて、具体的な課題の解決に貢献することを目指して提唱されたものである。
 我が国の学術界も、FE構想の趣旨を踏まえ、こうした研究実績を活用しつつ、科学とエンジニアリング、社会をつなぐことの必要性を強く認識し、システム設計の段階からステークホルダーと対話・協働し、相互理解を深めながら研究開発を進めていくこと(Co-design)が求められる。
 我が国におけるTD研究の先行事例として、国内の取組では、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の社会技術研究開発センター(RISTEX)における研究開発実績、国外との取組では、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)等の研究開発実績がある。
 また、企業間でも、「すり合わせ」や「場の共有」を通じて異なるアイディアを混合させて価値ある商品を作り出す作業が日常的に行われている。
 しかし、研究者が自らの持つ技術シーズに基づいた、企業をはじめとしたステークホルダーとの協働や、人文社会系と理工系の研究者の効果的な役割分担・効率的な相互連携を実現する研究開発システム設計の実現には、マネジメント及びコミュニケーションの両面で依然として相当高いハードルを抱えている。
 このハードルを超えるためには、研究者自身が、研究課題の設定や研究開発のシステム設計において自らの技術シーズありきではなく、具体的な課題解決の視点で、研究者とステークホルダー、人文社会系と理工系を相互につなげるための「のり代」を持たなければならない。また、「命令」ではなく「サポート」を基本としたマネジメントの導入が求められる。
 具体的には、研究課題の設定やシステム設計の段階から、Co-designを志向してステークホルダーが抱える特定の課題に対し、課題解決に向けた知見を有する研究者とのマッチングの場(文理の壁を超えた研究者間のマッチングや実務を通したステークホルダーとの意見交換を行う場等)を意識的に作ること、また、そういった研究開発を実現するための効果的なファンディングシステムの構築も重要である。
 このようなTD研究的アプローチは、FE構想のみに求められるものではなく、課題解決型の研究全般に必要なものであり、最先端の研究開発と社会的ニーズに即した出口志向の研究開発とのバランスに留意しつつ、地球環境研究の議論全体に波及させていくことが望ましい。

双方向コミュニケーションの発展

 研究者とコミュニケーターが協働し、難しい情報を分かりやすく国民に対して伝える普及啓発的なコミュニケーションだけではない、国民の気づきや懸念から研究者が学ぶプロセスを含む双方向コミュニケーションを発展させ、科学と社会の間の信頼を醸成するとともに、社会における納得感の高い研究開発を実現するための取組を進めるべきである。

3.2.「フューチャー・アース」構想の推進戦略の必要性

我が国としてのFE構想の推進戦略の必要性

 FE構想固有の課題として、FE構想が欧州を中心として検討が進む中、我が国がFE構想推進に係る中心的役割の一端を担い、プレゼンスを発揮するためには、戦略的な取組が求められる。
 FE作業部会が取りまとめた論点整理においても、統一した方針や戦略を策定し、国際枠組みの運営へのインプットや我が国のグッドプラクティスの国際発信を行うため、国内委員会を設置する必要性について指摘されている。国内委員会は我が国におけるFE構想推進のハブとして、日本学術会議を含めた関係府省、ステークホルダーを含めた構成とし、我が国としてFE構想にどのように関与し、何を実現したいのか、そのためにはどう進めるべきかについて検討する場となることが望ましい。
 具体的には、我が国が持つ技術・経験(例:温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)、SATREPS、DIAS等)を強みとして活用し、これまでに培ったアジア地域をはじめとした研究者との連携基盤等を利用しながら、我が国が最も得意とし、最も成果が発現しやすい分野(例:リモートセンシングや省エネ・省資源)に、最も集中的に資源を投入して取り組む必要があり、その特定に向けて早急に検討する必要がある。我が国のこれまでの成功例を参考に、FE構想を実現させるためのシステム設計についても、パッケージとして提案していくことが望ましい。
 そのため、課題解決までの道筋を描くことを可能とする研究者の「提案力」の強化策等も併せて検討を進めていくことが期待される。
 更に、我が国がFE構想の実現過程において国際的イニシアチブを発揮するためには、国際的な研究動向を左右する方針決定に大きく関わるFE構想の中枢部であるガバニングカウンシルや科学委員会、エンゲージメント委員会等に我が国から適切に人材を送り込み、積極的な発言機会を確保していくことが望まれる。併せて、将来的に、地球環境研究分野において国際的に活躍できる人材の育成についてもFE構想の推進の中で検討していくことが考えられる。
 また、より研究に直結した取組として、我が国の国際環境への問題意識をSRAの議論などの場でFE関係者に発信し、我が国が得意とする分野が生かされるよう国際的関心を促す必要がある。また、FE構想の一翼を担い、既に国際共同研究公募を実施しているBFにおいて、我が国の問題意識が、新規の国際共同研究等として具体化されるよう取り組んでいくことが求められる。

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