安全・安心科学技術及び社会連携委員会 リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会(第4回) 議事録

1.日時

平成25年7月5日(金曜日)13時00分~16時00分

2.場所

文部科学省 東館12階 総務課会議室

3.議題

  1. リスクコミュニケーションの推進方策について(ヒアリング・意見交換)
  2. その他

4.出席者

委員

田中 幹人 主査、平川 秀幸 主査代理、寿楽 浩太 委員、三上 直之 委員、山口 健太郎 委員

文部科学省

松尾 泰樹 科学技術・学術政策局人材政策課長
関 加奈子 科学技術・学術政策局人材政策課専門職

5.議事録

<開会>
【平川主査代理】  定刻を過ぎたので、開会する。ただいま主査が少し途中経路遅延で遅れているので、私、主査代理の平川が進行を務めさせていただく。
 リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会第4回会合となる。本日は、大木委員は欠席で、定数6名に対して5名出席予定となっており、また、寿楽委員は途中退席される予定である。
 議事に入る前に、本日は親委員会の指摘を踏まえて論点を更に深めていくために、3人の有識者の先生に御出席いただいているので、御紹介する。1人目は、東京工業大学留学生センターの西條美紀教授。2人目は、京都大学防災研究所の矢守克也教授。3人目は、豊島区政策経営部の佐藤和彦課長。お三方には後ほど、リスクコミュニケーションに関する取組や知見を御紹介いただく。
 次に、事務局より着任の挨拶と局再編に伴う課名の変更についての報告を。
【松尾課長】  本日、皆さんお忙しい中、お集まりいただき本当にありがとうございます。私、科学技術・学術政策局の人材政策課長、7月1日付で異動になりました松尾と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 今までこのリスクコミュニケーションについては旧戦略官付という部署がやっておったけれども、科学技術関係の部署の再編があり、課の方が移り、私ども人材政策課の方で担当させていただく。人材政策課は、旧基盤政策課といい、JSTの担当をしていた。JSTの担当が主であるけれども、それに加えて人材政策ということで、リスクコミュニケーション、それから科学技術関係の理科教育の問題、ポスドクの問題等々、人材政策を一貫して行う。
 本件リスコミについては何度か御議論いただき、また7月19日に親委員会も予定されている。親委員会の主査の堀井先生も傍聴していただいているけれども、今回の議論を踏まえてまた種々勉強していきたいと思っているので、よろしく御議論を頂ければ有り難い。
どうぞよろしくお願いいたします。
【平川主査代理】  それでは、事務局より配布資料の確認を。
【関専門職】  (配布資料の確認。)
(田中主査に司会の交代。)

<議題1.リスクコミュニケーションの推進方策について>
【田中主査】  それでは、続けて議事に入る。
 まず、リスクコミュニケーション推進方策について、本日、西條先生から「リテラシー把握というものがリスクコミュニケーションにどうつながるのか」ということに関して、これまでも作業部会でも度々取り上げたグラフ、現在、北海道大学にいらっしゃる川本先生と共同研究なされたグラフなどを含めて、我々の部会をただすという意味も含めて御説明いただきたいと思う。
 その次に矢守先生から「津波避難に関するアクションリサーチ」として、南海トラフ巨大地震の津波被害が想定される地域での取組について御説明いただく。
 そして最後に、3番目に、豊島区で3月まで防災課長をなさっていた佐藤課長から、「災害情報基盤整備」として、都市部の基礎自治体である豊島区の防災の取組について御説明いただく。
 その後に事務局による有識者のインタビューの報告を行い、更に後半では、それら説明や御報告いただいたことを踏まえつつ、第2回親委員会、安全・安心科学技術及び社会連携委員会の議論を踏まえた上での中間取りまとめに向けて議論を深めてまいりたい。
 それでは、西條先生、よろしくお願いいたします。
【西條教授】  「リテラシー把握はリスクコミュニケーションにつながるのか」ということで20分ほどお話しする。
 科学技術リテラシーについて調査を行ったので、それで私を呼んでくださったのだと思うが、こちらはリスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会ということなので、これはどうつながるのか、つながるとしたらどういうふうなことなのか、私はダイレクトにはつながらないと思っているけれども、どうしてつながらないのかということについてお話ししたい。
 今、日本の最大のリスクは、私は、人口が減少している、もっと言えば少子・高齢化が進んでいることが日本の社会の最大のリスクと思っている。それで、地域の問題は複雑化し、深刻化している。そのような問題を解決するためには多様な能力が必要だが、多様な能力を把握するための一つの方法がリテラシーの把握だと思っている。
 では、リスクコミュニケーションというものはどのように考えたらいいのかということだが、私は、この問題というのは顕在化したリスクのことと思っているけれど、その問題・対策・橋渡し。問題というのはいろいろなところにあって、対策も基礎自治体の方とかいろいろな方が対策を打ち出していらっしゃる。しかし、この問題と対策が実際に実効を上げるためには橋渡し、いわゆるブリッジのようなものが必要ではないかと思っており、行政・大学・市民――「等」と入れた方がいいかもしれないが、が具体的な課題を解決する中でリスクコミュニケーションを行うことが必要だと思っている。
 今回呼んでいただいた主な理由であるリテラシー把握を、ではどのようにしてきたのかについて簡単に説明する。
 リテラシーというものをどう捉えるかだが、もともとリテラシーというのは読み書き能力という意味なので、自分の問題を解決するための能力ということである。では、科学技術リテラシーのリテラシーとはどういうものかというと、知識や関心の有無のような単一の軸で測るものではないことはもう既に定説になっている。複数の軸で把握するものであると。随分長い間、リニアモデルといって、科学的な知識が増えれば科学に対する肯定が進むであろうと考えられてきたけれども、それは調査によって明確に否定されている。それに代わるモデルとして現れたのがクラスターモデルというもので、これはウエルカム・トラストというイギリスの財団が調査した8因子・6クラスターモデル。ただ、8因子・6クラスターもあると、何が何だかよく分からなくなるということがある。この2000年に出た報告書が私たちのリテラシー把握の直接的な先行研究である。
 これはNISTEPが出された報告書にも何回か、1回だったか、引用していただいたが、本研究におけるリテラシーの定義をこのように考えている。科学的基礎知識と手法を、科学技術を含む社会に関する関心と態度に結び付け、科学技術に関する話題について社会的に判断し行動する能力。したがって、このような三つ組みを考えて、社会的な判断、知識、関心というものが構造をなしているものであろうと。したがって、私たちの対象者は、成人を対象とした調査をしている。
 何の能力でもそうだが、大抵、能力を測るというと、ミクロレベルで個人調査をして、その数をためてマクロレベルの調査をする。こことここを結び付けた調査というのは世の中にたくさん行われている。それは統計的な処理ができて構造が把握しやすいからであるが、しかし、社会的な問題解決というのはメゾレベルで行われる。きょう、矢守先生からもアクションリサーチのお話があるようだが、地域の特定の課題に当事者とともに取り組みながらそのプロセスを分析していく。そして、その結果を実践にフィードバックするというのがアクションリサーチだが、こういうところを分析しないと、やはり社会的な問題の解決のプロセスを明らかにすることはできない。
 しかし、ここだけを見ていてもなかなか解釈が難しいということがある。だから、私たちの研究の概要は、全国質問紙調査でマクロ調査を行い、地域調査という形でアクションリサーチを行うという形をしている。ただ、リテラシーの補助金が続く期間がそんなに長くないものだったので、その地域調査はなかなか進まなくて――進んだことは進んだが、終了後に、いろいろ継続調査は主に地域調査を中心に行った。
 全国質問紙調査は、日本人一般のリテラシーを量的に捉えるということ。今まで私たちがするまで、このような調査が行われたことがないということが、一つ私には大きな驚きだったけれど、やはりダイレクトに科学技術リテラシーといったときに、質問紙を工夫すれば把握できるものもあるだろうということで、無作為抽出による全国規模の質問紙調査をした。並行してインターネット調査もしているが、かなり多くの人数を捉えている。詳細はお手元の資料を御覧いただきたい。複数の要素から成る構造としてリテラシーを捉える、リテラシー内構造というのが、回答パターンを因子分析して相関分析することによって行われる。それだけではなくて、クラスター間の構造もあるだろうということで、タイプ、クラスター別にこの結果を捉えるということで、リテラシー内構造とリテラシー間構造を捉えるという形で進めている。
 その基礎となる質問紙は96問から成っていて、かなりいろいろなものを聞いている。狭義の科学技術リテラシー、いわゆる知識問題13問題というのは、これは国際的に行われているもので、これで知識というものを大まかに把握した。
 そのような96問を基に65問を因子分析して、38問から回答の要因(リテラシー因子)を抽出している。3因子・4クラスターモデルである。科学因子、社会因子、科学重視因子。科学重視因子というのは、科学の社会的・個人的価値に関する意識のことである。
 それぞれの相関がどうなっているのかというと、知識得点と科学重視因子に正の相関はない。したがって、ここでも明確にいわゆるディフィシットモデル、つまり、人々が科学を重視しないのは知識が足りないからであって知識を入れれば入れるほど重視されるだろうということは否定されている。知識量が多くても、科学に対する肯定的な意識を持つとは限らないということ。社会因子は科学重視因子と正の相関がある。これはなかなか意外な結果かもしれない。科学に対して直接的な要求や関心があると答えなかったり、苦手であると答えたりしていても、意義を認めるとか科学の役割を認めるという層が一定程度、日本の場合にはいるということである。したがって相関のある因子を結び付けたプログラムを作った方がいいのではないかというのがこの結果である。
 4クラスター、どういうものかを説明する。クラスター1から4まで作った。横軸は科学因子、縦軸が社会因子。点の色、これは多重的なグラフになっていて、科学重視因子も下にある。クラスター1は全方位タイプで全部の因子が高い。私たちのこの4クラスターモデルを紹介すると、では、みんなが全方位タイプになるのがいいのではないか、これがリテラシーの構造ではないかと単純に思われることが割とあるけれども、そういうことは決して目指していない。リテラシーというのはタイプなので、何から何に変化することが向上ということを意味しない。これ、全部高いようなクラスターは、「超能力のような超自然現象は存在するのか」という問題に対しても、最大「イエス」と答えているクラスターであるわけである。いろいろなことに対して興味の幅が広くて、にせ科学志向の人もある意味では含まれているかもしれないと。いろいろなことに興味がある。したがって、年齢層が高い。これ、きれいな形になっているけれど、年齢層が高ければ高いほど数が増えていく。
 逆に、クラスター2は、科学のことにしかとは言わないけれど、科学のことに主に興味がある。非常に性差があって、男性が7割を占めて、若い層が多い。クラスター1に比べるといろいろなことに懐疑的な傾向がある。
 クラスター3は、女性が7割を占める。最も人数が多いクラスターでもあって、科学に対して苦手意識はある。しかし、社会的な視点で科学は大事だろうと思っている人も多い。だから、生活重視タイプが科学嫌いということでは必ずしもないということ。
 このクラスター4の低関心タイプは、私たちの質問紙によってはこの人たちの特徴を捉えることができなかったと考えた方がいいと思う。若い人が多い。私たちが示したいろいろなものに対して割と否定的な回答というか、関心の程度が低いということ。でもこれは、全てのことに対して無関心ということではない。私たちの質問のスコープに関してということである。
 96問もあるとなかなかやるのも大変なので、川本さんが簡易版質問紙調査を作り出した。これがなかなか好評で、いろいろなところで使われている。簡易版を製作して、10問でクラスター一致率は90%ということで作っていて、Webで公開している。簡易版を作ると何がいいかというと、10問ぐらいなので、イベントをやったときにその場で調査することができる。
 その場で調査した結果をちょっと見ると、いわゆる科学をトピックとした一般向けイベントのほとんどが、クラスター1とクラスター2を聴衆としてクラスター1とクラスター2によって行われていることが分かった。もちろんこれは私たちが調査した範囲なので、全てのイベントがそうというわけではないが、ある程度そのような傾向はあるだろう。
 この私たちが行ったプロジェクトのインパクトであるが、トップジャーナルに論文が掲載されている。これは私の共同研究者の川本さんがファーストオーサーで書いて、「Public Understanding of Science」という日本人が今まで4人しか通ったことのない論文誌に通り、リテラシー関係のいろいろなアーカイブにも引用されている。もう一つは「Energy Policy」、これは地域研究の方で、向井さんという当時の学生が書いたもの。国立科学博物館、JST、生理研などで、フォロワーと言うと何かちょっと嫌らしいけれど、私たちの行ったことに関心を持ってくださって同様な調査をしてくださっている。今度、RISTEXのホームページに、私たちのプロジェクトだけではなくて、リテラシーについて、21世紀の科学技術リテラシープロジェクト全部について追跡調査が出る。3年後追跡調査が本当に来たのだなと思ってちょっと驚いているけれど、ホームページにいろいろ詳しく詳細が載るようなので、そちらを御覧いただければと思う。
 きょうの主なテーマであるいわゆるリスクコミュニケーションだが、リスクコミュニケーションは何のためにするのかということを、私が考えるところでは、地域の問題を解決するためにリスクコミュニケーションをやるのだろうと思っている。ただ、その解決というのが何を意味するかというところがなかなか難しいところだと思っている。
 掛川市で行ったアクションリサーチをちょっと御紹介すると、太陽光の普及促進の在り方について考えることと、介護予防のまちづくりをやることを掛川市で並行して行っている。最初、私たちは、東工大ということで太陽光発電の研究者がたくさんいるものだから、太陽光発電についての問題をやりたくて掛川市に入った。その問題をずっと3年ぐらいやっていると、市の方から「いや、本当に困っているのは少子・高齢化による医療費がどんどん膨らんでいって、単一の自治体だけで医療を賄えないことなんだ」ということが顕在化してきて、「在宅医療というものを考えるためのコミュニケーションのデザインをやってくれないか」と上がってきた。それでこの二つを同時並行的に行うことになった。
 メインテーブルにいる方には報告書をお配りしているが、これを読んでいただくと、私たちがどのように――これはいわゆる文理融合研究で、ここにいる二人の方がいわゆる理系の研究者で、この人は太陽電池と系統連系の専門家で、平井先生、この人は燃料電池の世界的な研究者で、このようなエネルギーについて理工学的に取組を行っている人と、私のようにいわゆるコミュニケーションデザインを行っている者が一緒に組んで掛川でやったのが、市民による太陽光発電に向けてという実践研究である。
 掛川がどこにあるのかというと、静岡県で、ちょうど日本の真ん中にあり、非常に日照に恵まれた明るい土地である。世帯当たり太陽光発電導入率も静岡の平均よりかなり高くなっており、太陽光発電のオーナーがいろいろなイベントに参加してくれる。この写真を見てお分かりになるように、割と御高齢の方が多い。全国的に太陽光のオーナーというのは50代以降の方によって主に占められている。そういう御高齢の方々でもこのような自己診断システム、つまり自分の持っているシステムが理論値に比べて発電量が落ちていないかをチェックできるシステムを作ったので、これで自己診断をする。時々は研究者によるいろいろな知識の伝達のようななこともした。
 そのようなことで、掛川市がグリーン電力証書のモデル事業に選ばれたという背景もあったわけだが、調査を行っている。太陽光発電を持っている人と持っていない掛川市民とどのような属性の違いがあるのかとか、どのような意識の違いがあるのかとか、どのようなリテラシー傾向の違いがあるのかということを調べている。
 太陽光発電のオーナーは、全国一般の調査に比べやや科学好きと全方位型が多いという結果が出ている。先ほど紹介した「Energy Policy」に載った論文では、導入時期、いわゆるアーリーアダプターとかイノベーターとか言われる、最初に導入した人ほど科学好きが多く、後に導入する人ほど生活重視とか低関心タイプが多くなるという結果が出ている。
 そのようなことがあって、どんどんこれから太陽光発電の普及が進めば、様々なリテラシーの人がそこに入ってくると。それが技術が一般化するとか普及するということだと思うけれど、そういうときにやはり社会的な問題も出てくる。誰がその導入コストを負担するのかとか、今、太陽光のサーチャージが幾らとか、これからどんどん電気代が上がるとか、屋根貸しとか自分の持家がない人でも太陽光を導入できる施策をいろいろなところでやっているけれど、そういう社会的な整備が遅れると、「金持ち優遇じゃないか」とか、いろいろな批判がいろいろな人から出てくることがある。
 先ほど言った太陽光発電が、私たちが掛川に入っていくきっかけだとすれば、掛川からやってくれと要請されて行っているのが「お出かけ型介護予防のまちづくり」で、これは私たちだけではできないので、磐田にある、電動アシスト自転車を世界で初めて作ったヤマハ発動機さんが、二輪と三輪のアシスト自転車を貸してくれて、モニター調査をしている。ヤマハモーターエンジニアリングというところは四輪のアシスト自転車を貸してくれて、これは開発中の自転車で、かなり虚弱な高齢者、いわゆる片麻痺(まひ)であるとか、いろいろ身体的に不都合がある方でも乗れるようなアシスト自転車を開発している。そのようなもののモニター調査もしている。
 この研究のデザインの目的は、寝たきりの期間を短くしたい。寝たきりになる、つまり要介護度が上がる老人が増えれば増えるほど財政的な基盤を圧迫するし、本人もつらいし、家族もつらいと。寝たきりになってからでは遅いので、寝たきりになるような状態にしないためにどういうことをしたらいいのか計画を立てて、こういうものを貸出しして、どういうところで使うのかいわゆる社会実験をして、その結果を考察して、どんどんこのサイクルを回していくという、GPIOサイクルと呼んでいる、そのようなことを掛川でやっている。
 このらいふ・ウォーカーがさっき言った四輪のアシスト自転車で、片麻痺(まひ)の人でも乗れるというもの。
 26年度までの科研で、自転車生活圏というようなものができればいいなと思っている。さっき言ったように、地域が本当に困っていることにアプローチするにはかなり時間が掛かるということと、大学とか行政とか市民とか、いろいろな人の力が、タイプの違う力が結集されないといけない。だから、リテラシーが1方向ではいろいろなことは解決されないのだということ。中でも、大学に限らないけれど、問題と対策の橋渡しをする。これ、ある程度知識を、暗黙知を形式知化するということだと思うけれど、そのようなことについて大学の果たす役割は大きいと思う。
 お出かけ型介護予防も、課題は、高齢者の移動が困難で家族にも負担になっていることがあるけれど、それに対して市は、市内5か所に地域健康医療支援センターという介護と福祉と医療のワンストップサービスみたいなものを置いて、住民がアクセスしやすいようにしている。しかし、こういうものがあってもなかなか市民が相談に行かないとか、何をどうしたらいいのかがよく分からないとなると、外出ができれば、最低限生活に必要なことは自分一人でできるわけなので、とにかく外出できる能力を保つ。そのための虚弱化予防のいろいろなプログラムを私たちが作るということ。調査概要をお話ししていると1時間ぐらい掛かるので、御質問があればお話しするが、このようなことをしている。
 掛川市がやった一般調査で65歳以上の一般高齢者を対象とした生活調査において1,300ぐらい回答を取った。これがマクロ調査で、全体傾向を把握する。モニターに貸出しをして、GPSロガーを付けて、どういうところにお出かけしているのかと。そのお出かけとか移動体の選択と、ここで行った生活機能とか鬱傾向とか身体状況とか、その相関を見ていくという調査をしている。
 リスクコミュニケーションについて、私は、これは対策とコミュニケーションはセットであるべきと思っている。なぜなら、ゴールのないところに公共的なコミュニケーションは成り立たないと思っているからである。ただ、こういうものをデザインするには、地域の人たちだけでは何が問題かということを抽出することはなかなかできない、できにくいし、それに対してどうするという行政側の施策があっても、じゃあ、どうしてこれとこれが結び付くんですかということを、本当に結び付いていますかということを含めて検証するシステムが必要だろうと思っている。
 だから、リテラシーとリスクコミュニケーションというのは無理につなげて考えるべきではないと思っているし、リテラシータイプというのは確実にあるということは研究から分かっているが、それと地域における役割は別のものだと思う。だから、リテラシーに構造があることを踏まえて、多様な人々によるコミュニケーションができるようなデザインが必要である。
 最後、宣伝だが、『コミュニケーションデザイン』という本をくろしお出版からこの秋に出すので、ここにはたくさんのアクションリサーチの研究結果を入れているので、是非一読いただきたいということで、私のお話を終わらせていただく。
【田中主査】  それでは、ただいま説明いただいたことについて、御質問をお願いする。
【平川主査代理】  1点だけ確認なのだけれども、スライドの37番、ちょっと聞き逃してしまったかもしれないが、二つ目。「困っていることは何ですか」、「知識のリスクは何ですか」という調査には意味がないとおっしゃっているけれども、具体的には、では、どういうものだったら意味があるのかをもうちょっと詳しく教えていただけるか。
【西條教授】  いわゆる概括的に困っていることを聞くと、思いつかない。で、答えやすいことを答えてしまう。なので、質問紙調査だけによって対策を考えようとしたり、リスクの傾向を測ろうとしたりすることは、非常に質問紙によるバイアスもあるし、答える方のバイアスもあって、コミュニケーションというのは文脈を込みでコミュニケーションなので、質問紙も一つのコミュニケーションだとすれば、そこに書かれたことを基に対面調査する。「こう書かれていますが、これはこうでこうでこうですか」とか、そういうこと。もしどうしても質問紙調査を大規模にしたいのであれば、仮想の問題を作って、「あなたの直面している問題に似ているものはどれですか」とか、そのようなかなり質問紙を工夫した形でやらないと、ミスリードされてしまうということはあると思う。
【松尾課長】  事務局からよろしいか。そうすると、質問紙というよりは、要するにコミュニケーションというか、問題を聞き出すようなテクニックが聞く方にも必要だということか。
【西條教授】  私が今、リスクコミュニケーションということで一番先に思うのは、先進事例のいわゆるナレッジマネジメントということだと思う。いろいろなところで先進的な取組、自治体は本当に危機に直面していることがあるわけなので、いろいろな施策を打っている。で、どういう施策を打っているのか――割と効果が上がっているところがあるので、そういうところを、まずそこのフィールドに調査の人が入って、こういうことをしているのだなということが分かった上で、いわゆる半構造化インタビューというのだが、質問書をある程度決めていって、自由に話してもらうということでヒアリングをする。それをアーカイブ化する。なので、問題と対策とブリッジのセットで、ある数、100件ぐらいはあった方がいいと思うけれど、そのアーカイブ化をして、それで分析をしていくということではないかと思う。
【松尾課長】  あと1点だけ、事務局の方から。先生が最後に書かれたコミュニケーションデザインについて、多分これはくろしお出版の本を見れば分かるのだろうが……。
【西條教授】  はい。
【松尾課長】  要するに、誰と誰がコミュニケーションするかとか、誰に対して誰がコミュニケーションするかとか、例えば先生がさっき言われたように、物を買うときには、最初は科学が好きな人が買って、それで普及していったら生活重視の人が買うということになると、対象が変わってくる。そうすると、対象の変化に応じて提供する内容と、いつの段階で、誰に対して、どういう提供する情報を変えていくかということもデザインなのか。それとも、相手とこっちとのやつをアクターとあれを変えていくという、そういったもの全部含めてのデザインという理解でよろしいか。
【西條教授】  私は、一番大切なのはそのゴールの設定だと思う。コミュニケーションデザインはもともと広告の世界の言葉。広告というのはゴールを一義的に決められる、クライアントのために、という。だから、広告は産業として成り立つわけだが、でも、ゴールを設定して、それに合った計画を立てて、実践をして、その結果どうだったかということを回していくことは、コミュニケーションに対する考え方として大きいと思う。もちろん社会の問題のゴールは一義的には決められない。さっきおっしゃったように、太陽光発電が普及していくということも、買手も変わるし、いわゆる価格が安くなるとか、電気代が上がるとか、いろいろな状況が動いていく。そういう中で太陽光発電をめぐる社会的な問題についてのコミュニケーションは、じゃあ何を目的として、どういう計画、誰と一緒にどうなりたいかということを考えて、そして実践を決めていくと。ゴールの設定そのものにも常にこれは修正のサイクルというものが必要である。必ずうまくいかないので。必ずすれ違うので。その修正のサイクルを回していくには、余り大きい問題ではなくて、フィージブルな、つかめる問題を課題として抽出して回していくという考え方をコミュニケーションデザインと呼んでいる。
【田中主査】  よろしいか。では、その次に矢守先生、お願いします。
【矢守教授】  きょうは、事務局の方から、主に南海トラフの巨大地震、特に津波の被害についてどのようなリスクコミュニケーションが試みられているかに関するサンプルの事例をと御依頼を頂いたので、私がここ数年取り組んでいることをお話し申し上げようと思う。
 お手元の資料の最後の方にもあるけれども、拙著を幾つか出していて、コンセプトやセオリーに関することは、もしよろしければそちらを御覧いただきたいなと思っている。のっけから宣伝で恐縮だが、西條先生に倣って。左上の方は一歩早く、8月に出る予定で、そういう本も書こうと思っているので、また御覧いただきたいと思う。
 きょうは、どういう考えに基づいてやっているかよりは、実際どういうことをやっているのかを主にお話ししたい。お話しする事例、二つ予定をしていて、両方とも高知県で、西部に位置している。一つは非常に有名な黒潮町という最大波高が34メートルという、あと土佐清水や伊豆半島の下田も同じような状態だけれども、そういうことで非常に全国的にも有名になったところと、それから、その右隣、東隣の町、四万十町の興津と。静岡にも同じ地名があるが、興津(おきつ)地区と読む。この二つの地域で現在取り組んでいることを御紹介したい。
 まず、興津地区、こんなところである。人口1,000人で、今のお話にもあったように、ここも高齢化率が55ぐらい。小学校にずっと行っているが、全校生徒がずっと30人ぐらい、1年生から6年生まで合わせて。そのぐらい小さな町である。ただ、ここも、後でシミュレーションを御覧いただくけれども、最悪の場合、地震の後20分後ぐらいに人の住むエリアに津波が入ってきて、最大の波高としては、これは人の住んでいるエリアではないが、30メートル近く、人の住んでいるところでも10メートルぐらいには達するような厳しい地域である。だから、真夜中に寝ていようが何していようが、20分以内に高台に行かないと1,000人以上の方の命がなくなるかもしれないという非常に厳しいエリアである。
 上から見るとこんなふうになっていて、一方で、この地域は津波のハードウエアの設備としては、集落のある団体の頑張りなどもあって結構いろいろな施設ができてきている。避難タワーとか高台の避難所とかできてきているが、あとは、どれだけ人がマインドを持って逃げるかというところに懸かっている。
 そこで、私どもが最近、去年ぐらいから取り組んでいる、あるちょっと変わった、個別避難訓練。避難訓練というと大体大勢でやるイメージがおありかと思うが、これは一人一人やる。だから、今からやる訓練は、おばあちゃん、あなただけのための訓練ですよという避難訓練。そういう意味で個別訓練。それから、時間を計るという意味でタイムトライアルである。
 それから、今からそのサンプルを御覧いただくけれども、最初に言うべきだったが、余りにも想定が厳しくて、皆さんもさっきのような想定、寝ていようが、起きていようが、何していようが、20分以内に20メートルなり30メートルの高台に行かないと命が奪われるかもしれないと聞いたときに、それこそ足が不自由なおじいちゃん、おばあちゃんもいっぱいいらっしゃるわけで、私、一番あってはいけないなと思う反応の一つの諦めというのが出てしまっていると。それから逆に――私、もともと心理学が専門で、心理学的には反対なのだろうが、同じことの違う表れなのだろうけども――たかをくくるという反応もあって、実際、1946年にここは昭和の南海地震が来ていて、そのとき大したことなかった。津波は来たけれども、ちょろちょろという程度だったので、政府から非常に大きな想定が出ているけれども、「いや、何、大丈夫、大丈夫、またあのぐらいだ」というおじいちゃん、おばあちゃんもいらっしゃると。それから、最後のよくないかなと思う反応が、お任せという反応。きょう、非常にコンセプチュアルな言葉遣いじゃなく、住民の方にお話しするときような言葉遣いで恐縮だが、お任せというリアクションがあって、それこそ我々もこの町でほぼ全世帯から回答を得たようなアンケートをやったけれども、しばしば書いてあるのが、「行政の皆さん、よろしくお願いします」というフレーズ。「先生、頑張ってください」とか。逃げるのは皆さんなのに、そういうフレーズがどうしても出てきてしまうと。こういう諦めと、それから油断と、それから他人(ひと)事にしてしまうという、せっかくいい施設ができてきているのに、こういうレスポンスを何とか抑えられないかということで始めたのがこの取組である。
 この取組のアウトプットを見ていただく方が早いと思うので、動画をちょっと御覧いただこうと思う。アウトプットとして個人動画カルテというのを作る。これなのだが、これ、しゃべっているのは私だが、ちょっとだけお聞きいただきたい。この松井初子さんという方の、御了解を得て出しているけど、この方のためだけにやっている避難訓練である。ちょっとNHKのEテレさんの番組にもなっているので、余計なカメラもいるけれど。
 今、「地震が発生しました」と言ったのは、この地域の小学校の子供である。この取組は実は二兎(にと)を追っていて、一つは、この松井初子さんの避難訓練をするということと、もう一つは、防災教育をするということ。大変危ない地域にあるので、小学生たちは自分たちが高台に逃げる訓練はもう嫌ほどやっているのだけれども、もう一歩進めて、みんなで助かりましょうと。「みんなは元気だからいいけど、おじいちゃん、おばあちゃんもいるんだから、おじいちゃん、おばあちゃんがどうやったら逃げる気になってくれるのか、どういうことをお示しすると、あ、頑張れば大丈夫なんだなということを感じ取ってくれるのか、そういうお手伝いをしてね」ということで……音が全然出なくなったが、音がしていないのであって、今、静かである。これ、どうして逃げ出さないかというと、「あと40秒待ちましょう」ということで、1分40秒ぐらいを目安に身を守るということをやってもらっている。どうしてそうかというと、この地域は多分100秒ぐらい、もうちょっと長いかもしれないし、もうちょっと短いかもしれないけれど、とてもじゃないけど、避難なんかできないぐらい揺れているはず。だから、揺れが収まってから逃げましょうということで、こういうことに今なっている。1分40秒のところで子供が声を掛けて動き出すので、ちょっとそこを御覧いただきたい。
 一番、私が危惧しているのは、1分40秒後に部屋の状態がこんな平穏かどうかということで、耐震化をしないと、震度も7なので、東北よりも震源域がはるかに陸地に近いのが四国とか東海の特徴で、近いというより真下まで食い込んでいるので、それが一番懸念されるわけだが、とにもかくにも逃げられたとして、こうやって逃げていく。
 それで、画面の説明をさせていただくと、4画面の動画カルテと呼んでいて、真ん中は地震が起こってからの時間である。まず即物的なところだけ言うと、左上と右下がカメラで、2台。これ、両方とも子供が撮っている。子供にお手伝いをしてもらっているということ。左側は、子供に「逃げる人の表情とか、何言っているかとか、汗かいているかとか、息がハアハアしているかとか、そういうことまで伝わるような絵を撮ってね」とお願いしている。子供はこういうことやるのがすごく好きなので、とっても一生懸命やってくれる。それから右下は、Bカメさんと呼ぶと、Bカメさんには、「どんなところを逃げているかをちゃんと映してくださいね」という指示をしている。したがって、Bカメさんのカメラの中にAカメさんを撮っている子が映り込んでいると、こういう格好になる。「ここだとブロック塀が危ないね」とか言いながら、僕はあの電柱も危ないと思うけれど、どうかな、ということを話しながら歩いているわけである。
 その後、画面で右上と左下とあって、左下が、言ってみれば、先ほども自然科学とか人文科学の融合というお話があったが、私なりに言えば、左下は自然科学の画面で、非常に即物的事実がここには描かれていく。どういうことかというと、ちょっと動かすとよく分かるが、この赤いのが、GPSをこの方に持っていただいているので、どこを歩いて、何分後にどこまで行ったか、何メートルのところまで行ったかが全部分かるという仕組みになっている。もうちょっと行くと左下から恐ろしいものが迫ってくるけれども、もうちょっと行くとこういう具合に、ちょっとここを見ていただくけれども、下が海になっていて、左下から津波が来ている。このシミュレーション、私の研究室の助教の先生は津波のシミュレーションの先生で、なぜか心理学とそういう組合せになっているのだけれども、その鈴木先生にお願いしてシミュレーションしていただいている。中央防災会議はいっぱいシナリオを発表されているが、この興津地区にとって一番よろしくないケースでこの場合はシミュレーションしていただいている。というわけで、左下は事実が淡々と描かれていくといえば描かれていく。本当はちょっと違うが、後でそれは言う。
 右上はそれに対して、私、心理学者なので、自分としては右上もすごく大事だと思っているのだけれども、ここがコミュニケーションのいわばウインドーになっていて、ピンク色の文字と、それから水色の文字が見えるが、ピンク色の文字は、この松井初子さんという、おばあちゃんと呼ぶのは失礼かもしれないが、65歳の元気に体操を毎日されている方で、歩いておられるが、この方が何と言ったかのサマリーみたいなものがここに出てくる。そのサマリーをするような作業も子供に授業でやってもらう。それに対して青い文字のところは、この画面の青い文字のところだけがない絵というのを、これをやった1週間後に学校へ持っていって、子供たちともう1時間授業をする。そのときの模様も資料にあるので、また見ていただきたいが、子供たちに、「先週、みんながお手伝いをしてくれたおじいちゃん、おばあちゃん、こんなことを言って、こんなところを歩いていて、こんな具合だけど、何か気を付けることとか応援してあげられるようなことはないかな」というふうに問いかけて、子供たちはいろいろ返事をしてくれるので、それをそこへ入れていると、こういう形式である。
 この画面、4画面の動画カルテ自体を御本人にも、「あなたの、松井さんの避難訓練の結果、こうでしたよ」ということをフィードバックするし、それから、集落全体でも見ていただく。学校が防災教育に割と熱心なところなので、地域の方を集めてそのような集会をやってくださるので、そういうときに見ていただいて、「こういうことをやりました」と。「まだ一部の方しか参加していただいていませんけど、是非皆さんもやりませんか」と言って呼びかけると、このような仕組みになっている。
 左下について先ほど1点留保事項を付けたことを申し上げると、非常に注意深く聞いていただいた方はお気付きかもしれないが、ここの集落は最短で20分ぐらいで津波が来ると、私、さっき言ったのに、どうして10分でもうあんなに来ているのかという話だが、実はこれは15分津波を早く来させている、実際よりも。だから、この方が今回のような感じで逃げることができれば、これだとちょっと危なかったかなと。自分が通った後、あの辺、川が流れているのだけれど、5分ぐらいして津波が上がってきているので、危なかったかなという感じだが、実際には20分ぐらい余裕がある。自然現象としてこの地域に実際よりも15分早く津波が来ることは絶対にないのだけれども、人間の方が15分遅れる可能性というのは幾らでもある。嫌なことだが、家具の下敷きになってしまったとか、このおばあちゃんが、ちょっと孫が気になると言って電話していたとか、自分が埋まってなくても向かいの家で人が埋まっていたら人情として助けようとする方もいらっしゃるだろうし、15分とか20分遅れる可能性は幾らでもあると。だけど、15分遅れるともうこうですよということもお示しできるし、逆に、今回のようなペースで準備をして逃げることができれば諦める必要なんか全然なくて、相当厳しい地域だけれど、少なくともこの方については無事に避難ができますよと、こういうことをお伝えできるものとして作っている。
 では、せっかくなのでゴールしたところだけ御覧いただいて、パワーポイントに戻りたいと思う。
 「前回より2分」と書いてあるのは、こういうことをやると、やっぱりもう一回やろうという方が出てきてくれて、歩かなかったから歩けないとか、速く歩こうとしなかったから速く歩けないと、先ほどの御発表とも関係あると思うが、そういうおばあちゃんもおじいちゃんも多いので、そういう点でもいいかなと思っている。それから、先ほどのお話とも関連させて言うと、こういうことをやっていて私なりに得た一つの結論というのは、この方、高知市生まれの100歳体操というのを毎週やっておられて、つまらないことのようだが、多くの方が元気でいること、体操など一生懸命やって、それは最大の津波対策と言っていいのではないかなとすら、これをやって思った。
 それはともかく、もとのパワーポイントに戻らせていただいて、時間がなくなってきてしまったので、もし後でお時間があったら黒潮町のことも少しお話ししようと思うが、とりあえず今の興津地区でのまとめをしておきたい。
 一番上、先ほど申し上げたこと。それから、2番目は、これはちょっと一般向きのステートメントで恥ずかしいが、月並みであるが、防災の基本は敵を知っておのれを知るということで、さっきの4画面の動画カルテで、私、幾つかのものを自分なりにオーバーラップさせているつもりで、一つは、防災といっても、やたらとハザードマップとか想定だけに敏感で、自分が何ができるのかとか、自分は避難場所も知らないという人もいっぱいいる。そういうことではない。逆の人もいる。避難訓練とかすごく一生懸命やるけれど、全然ハザードマップを見ていないとか、自分のところは何分で津波が来るかも知らないとか。そういうことではやはり良くないと思うので、一つは、あの動画カルテの中で敵とおのれ、つまり自然現象に関する理解と自分たちが今どういう状況にあるかということに関する理解をオーバーラップさせると。それからもう一つは、この訓練をやっていることの最大の意味はそこにあると思っているのだけれども、先ほどもお話があったような気がするが、当事者にしかできないことと、外部者にしかできないことというのはやはりあって、そのお互いのアドバンテージをちゃんと重ね合わせるようなコミュニケーションの場というか、アクションの場が必要で、この場合もそうで、津波避難の成否にとって非常に重要なパラメーターというか、変数として、どこへ逃げるかとか何分掛かるとかあるのだが、例えばそういうパラメーターはやっぱり避難する本人しか出すことができないので、ちゃんとそれは自分が訓練して出してちょうだいよと。重要なパラメーターの一部は当事者がちゃんと提供する、そういう努力はしていただくと。一方で、例えばこんな画面を作るとかシミュレーションするとか、それを重ね合わせて提示するとか、こういったことを地域のおじいちゃん、おばあちゃんに「はい、やって」と言っても無理なので、その部分は私たちがお手伝いをさせていただくと、そういうことが一つは大事。オーバーラップをさせていくことで大事かなと。
 それから、下から2つ目は、ちょっと浪花(なにわ)節的なことになるかもしれないが、こういうことをやっていると、子供に手伝ってもらった意味というのはその辺にあるのだが、専門家がニュートラルな事実でもって「危ないから逃げましょう」と言うのは非常に簡単なのだけれども――簡単というか、簡単ではないのだが、一つの方法としてはあり得ると思うのだけど、それだけではなくて、これは実際にあの地方の言葉で最後「き」がよく付くので、土佐弁で、「おばあちゃん、逃げんといかんき」と孫から言われて、あ、これは逃げないかんなと思ってくれたおばあちゃん、おじいちゃんはたくさんおられる。そういう地域全体の人と人とのコミュニケーションの場で避難に関するコミュニケーションも進んでいくと、そういうことが重要かなということで最後書かせていただいた。
 そうしたら、時間がもう超えていると思うので、せっかく動画を用意したが……。
【田中主査】  少し余裕があるので、どうぞ。
【矢守教授】  では、もう一つだけ、黒潮町という隣町の35メートルの地域で試みていることも少しお話しする。
 黒潮町の様子はこんなところで、地勢的条件としては陸前高田と非常に似ている。あれが松林になっていて、松林よりも右側にきれいな海岸があって、リゾートホテルっぽいものもあるし、それからサーファーがいっぱい遊んでいるし、もうちょっと右に行くとホエールウオッチングができるといったようなエリアである。肝腎なのは、あの後ろに住宅街が広がっていて、あのあたりからは直接は海が見えない。松林のところがマウンドになっているので。だから、初めてあそこに行った方は、すぐそばに海があるとはとても思えないような場所であるところもネックの一つかなと思う。
 それで、この地方にどんなふうに津波がやってくるかというと、こんなふうに、もうすぐ画像が動き出すと思うが、20分後ぐらいに左下の川と右上の川の方から両側から津波がやってきて、津波が上からと下から出会うのだけど、今でも出合という地名があって、昭和南海地震のときにもそこのあたりで出会ったそうである。御覧いただきたい。23分ぐらいで今問題にしている万行地区というところにやってくる。この第2波が非常に大きくて、松林なんかもこのときにもうアウトになる。もう一遍、五十何分ぐらいで第3波が来て、そのときに……。多分わーっと来ると思うが、こういう感じである。
 それで、万行地区はここに1個だけタワーがある。今あるタワーの横に更に今増築していて、そのタワー自体が地震でやられるとか、船が当たるとか、周囲が火事になるとか、そういった不可抗力を除くと多分波高的には大丈夫なタワーが1個できる。しかし、それ以上高く逃げられないし、そういった不可抗力もあるので、今、一番、万行地区で問題になっていることの一つが、タワーに逃げるチョイスがいいのか。こっちに山がある。私も何度も行って自分も歩いたので分かるが、私のような年齢の今のところちゃんと歩けるという人が歩いても10分から15分ぐらい掛かる。だから、おばあちゃん、おじいちゃんが歩くと20分とか掛かるかもしれない。でも、津波のやってきた速度が20分ぐらいのところなので、どうかなという地域である。
 ここでやっていることは、先にこちらを見ていただくと、この万行地区というところでうちの学生などが中心になって、これはその学生を褒めてあげないといけないが、大分頑張って合計で2週間以上ここにいて、280世帯ぐらいの全世帯でアンケート面接調査というのをやった。全世帯でやっているので、誰が、どこへ、誰と一緒に、どんな方法で逃げようと思っているのかが、あるいは誰を助けようと思っているのか、誰に助けに来てもらおうと思っているのかが、全部その調査で分かっていると。その調査を踏まえて、このようなシミュレーションをやった。だから、さっきのは避難訓練とシミュレーションの組合せだったが、今度は全世帯調査とシミュレーションの組合せで問題を解決していこうというもの。これ、青が人で、赤が車。赤が動いてないように見えるのは、壊れているのではなくて、ほとんど動けないという結論である。ものすごく狭い路地がいっぱいあって、渋滞あるいは電柱の倒壊等で動けない。これだと、山へ逃げていく方向にいっぱい人がいたと思うが、ここでかなりの方がのまれてしまうということが予想されるという結果が分かった。これは割と素のまま。皆さん答えていただいたとおりに行動していただいて、何も改善をせずに、津波が最悪のシナリオでやってきた場合である。
 これに対して、後で細かくは資料を御覧いただきたいけれども、幾つか改善の提案を私どもの方からして、その改善提案を実現するための訓練もしていただきながら、どういう効果があるかを確かめていっている。今は、例えばこの解決案の3を見てもらおうと。あんまりシミュレーションがきれいではなくて見にくいけれども、この地域で人が多く亡くなるのは、結果的に間に合わない山に逃げてしまって亡くなる方が多いので、私たちが考えたのは、ある時間の時点までで集落を出られないときは、タワーの方に逃げるという方向転換をしてみてはどうかというプラン。ただ、ある時点というのは問題で、誰も、地震が起こってから、今、1分50秒、2分なんて数えている人はいない、普通。そこを何とかしなきゃと思って、まだネックではあるが、一つは、防災行政無線で「津波警報が出ました」を連呼しているぐらいなら、地震が起こってからの時間をカウントアップしてもらうことを今考えていて、今、高知県内とか三重とか和歌山も全部そうだが、避難にとって一番重要なインフォメーションは、地震から何分たったかということ。それは、一つはリスクコミュニケーションのおかげで、何分ぐらいで最短で津波が来そうかを割と人々が知るようになってきたからであるが、実際ものすごい震度7を経験した後に、今、何分たったかなんてことを冷静に意識できる人はやはり少ないと思うので、一つはそういう防災行政無線で人力あるいはオートマチックにカウントアップすること、それから、先にタワーへ逃げる、真っ先に上がってくれそうな有力な方が何人かいるので、そういう人にお願いをしてタワーの上にハンドマイクを置いておいて時間を言う役をしてもらうことをやりつつある。
 要するに、言いたいことは、そういう問題解決のための具体的な提案をしながら、そしてそれのための訓練をしながら、それの検証をシミュレーションでしていくというサイクルがどうしても必要ということで、ちょっと見にくいが、これがその方向転換をするというバージョンである。タワーがこの辺にある。で、ここで今、方向転換したのが、お分かりになるか。こっちへみんな――この辺、青いのは山へ向かって逃げていっているけれど、急に反転してこっちへ逃げ出す瞬間がもうすぐある。もうちょっと。はい、ここ。こっちへ逃げて、この辺に。ここでも同じことが起こっているのだけれども、それぞれこことここの2箇所しか集落の出口がないので、たしかこっちが11分で、こっちは13分だったと思うが、計算上はそのぐらいまでにこの関門を出られない場合は、もうタワーへ逃げた方が助かる可能性が、飽くまで高い、というものである。
 最後に、さっき申し上げたように、そういうシミュレーションと解決法の提案とそのための訓練というサイクルを回していこうということだが、最初に御紹介した興津も同じで、例えば、さっき申し上げなかったけれども、この訓練は個別訓練をやっているが、これを何人かばらばらにやった後に、時計が同じなので、同時に重ねることができる。そうすると、じゃあ全員が一遍に逃げ出したらどうなるかも見ることができて、そうするとここ、川がこう流れていて、この橋を渡ってみんなここの一番安全な、幼稚園、保育所へ逃げる。この橋は、橋だというだけでも危ないし、津波が遡上してくることは分かっているので、非常に肝腎で、その橋をまず補強しなきゃということになった。その補強しなきゃということが分かったのもこれをやったからで、みんなこの橋を渡って逃げていくからである。実際、この集落あるいはこの町はその点はすごく頑張ってくださるところで、もう既にその橋、今、工事をしていて、大きな地震があっても、少なくとも落ちて完全に渡れなくはならないような構造の橋に、今、建て替えていってもらっている。本来ソフトウエアのための取組だけれども、それをやりながら、お金もない、それからエネルギーだって無限にあるわけではない中で、じゃあ集中的に選択的にハードウエアの方も補強していくとしたらどうなのかということも、その地域の方が実際に逃げてくださったものを我々のような外部の者が少し応援をして知識として蓄えしていくと、そういうアドバイスもできるのかなというふうに思っている。
【田中主査】  それでは、ただいま矢守先生から頂いた説明について、質問をお願いしたい。
【西條教授】  大変参考になった。今、伺った万行地区も、先ほど見せていただいた沖津地区もそうだが、じゃあ橋が危ないねとか、何分過ぎたらタワーに逃げようとか、そういうことはシミュレーションで見るとすごくよく分かる部分があると思うが、じゃあ本当にどうするかという合意形成のようなところは、どのようになさっているのか。
【矢守教授】  興津地区の方に、きょうはそのあたりは余り言わなかったけれど、後から見ていただいた万行地区に関して言うと、この万行地区も、実は私どもだけではなくて、NHKの高地放送局さんとか幾つかのところとのコラボレーションでやっていることなのだが、町の方にも関わっていただいていて、これは2月のもので、もうすぐ7月の終わりにも第2回を開催するが、このようなフィードバックをする集会を開いて、その中で提案をして、もちろん住民の方全員は来てくださらないけれども、この地区の区長さんや副区長さんがいらっしゃって、更に区が、小さなセクターに分かれており、そのセクターのリーダーの方などが来てくださって、その席で「こういう方向でやってみませんか」と提案をして、よかろうとなったらやってみるという、そういう合意形成の仕方をしている。だから、本当にじゃあ、ぼうとしてみんながうんと言っているのかというと、そういうことはない。
 それから、興津地区は、さっき言い忘れたけれど、もともと私が関わる前から、小学校と、それから呼び名は違うが、自主防のコラボレーションとしての非常に強力な防災推進の組織があって、それが年に何回か集会をやる。そのときに提案をして、「じゃあ、これでやってみましょうか」というような形。
【西條教授】  このような研究のフィードバックがあって、そこで質疑応答があって、結局は行政が議会の承認を受けながら施策を進めていく形になるのだと思うが。
【矢守教授】  はい。なので、実際には舞台裏で、例えば黒潮町さんというのは全国的にも話題になったので、若い町長さんはじめ、すごく熱心にいろいろな施策をされている。そういった施策と、何ていうのか、そこはちょっと舞台裏でやらなければいけないけれど、現に町長が進められている施策と完全にバッティングするようなことを何の相談もなしにいきなりぼっと外部の者が提案すると、やはりどうしても摩擦も起きるので、そういったことは町長さんとか、幸い、今、非常に仲良くやらせていただいているので、町の防災担当の方と、随分中で調整をしながら進めている。
例えば町は今、さっき言ったように高いタワーを建てようとしているが、住民の方の中にはタワーはやっぱり不安だという方もいて、ここで、例えばこのシミュレーションの結果、タワーはもう全然駄目だというような結論が出ると、町としてもちょっと立つ瀬がないようなところがある。幸い今度、そういう不可抗力がなければタワーは大いに役に立つと。だけど、タワーを最初から頼りにするのはやめましょうぐらいの結論で、町が進めようとしていること、ここで出た結論と、住民の方の思いが何となく重なっているので良かったが、実際にはそこがすごくコンフリクトを起こして、こんなきれいごとではいかなくなる可能性もある。
【西條教授】  そういうものだと思う。
【三上委員】  今、二つの地区の事例を御紹介いただいたけれども、伺いたいと思ったのは、地区ごとにどれぐらいの差があるのかということ。なぜそれを伺うかというと、この部会の中でリスクコミュニケーションの手法や仕組みみたいなことはいろいろ議論してきたけれども、きょうお話を伺う中で、そういうコミュニケーションがなされる場のことをやはり一つ考えないといけないかなということを、今、伺いながら思ったから。それで、特に印象的だったのは、この個別訓練という発想。これが何を引き出しているのかというと、当事者には当事者にしかできないリスクに対する向き合い方があって、それと支援者の役割を峻別(しゅんべつ)するという、そういう意味を持っているのかなと、私は伺いながら思った。リスクにリスクとして当事者が向き合う契機を作るということなのかなと思った。思ってお話を伺っていると、個人ということと、行政も含めてなのかもしれないけれども、研究者、支援者ということと、あとやはり、まとめのスライドを拝見するとすごく大事なファクターはコミュニティ。例えば、「おばあさん、逃げなきゃいけんき」というような、そういうコミュニティの力という、西條先生は三つのタイプの違う力が地域の困り事のアプローチに必要とおっしゃっていたけれども、ここでもやはりタイプの違う力というのがあって、そういうものが組み合わさって課題に向き合っているところを見せていただいたと思う。私の関心は、そういうタイプの違う力の働き方が結構どの地域でも共通して見える部分があるのだろうが、恐らく地域ごとに多分働き方が違うと思うので、津波に対する防災という点で、いろいろな地域を御覧になっていると思うので、地域ごとにどんな違いがあるのかを伺えればなと思った。
【矢守教授】 お時間もあると思うので、なるべく簡潔に。きょうお話しできなかった、私が作ったものとしては一番、個別訓練より知っていただいているものかもしれない、クロスロードという防災のゲームを2005年に、阪神・淡路から10年目の年に公表させていただいて、あちこちで御利用いただいている。ちょうど今、三上先生から御質問いただいたことと関係があるかなと思うので、これを例にとりながらお答えをさせていただこうと思う。
 先生が御指摘になった中で最初の方におっしゃった、やはりリスクに向き合っている人が当事者としてちゃんとまさに向き合うための場をどうやって作っていくかが大事だろうと思う。しかし、そのときに、地域によってかなり、例えば私は津波のことばかりやっているが、その津波に関しても差があるのは事実で、個別訓練をやった興津地区などは、あれだけハードウエアもあったし、やはりそれでも意識が高い。避難訓練をやると3割5分ぐらい人が参加される。でも、6割5分は出てこない。3割5分って低いと思われるかもしれないけれど、私の住んでいる千里ニュータウンのマンションでやったら、多分3.5%も来ないと思うので、そう思うとやはり高い。しかし、そうでないところもあって、そうでないところについては、私はどちらかというと、あのようなかなり労度も掛かるような手法あるいは負荷も掛かるような場を設定するよりも、もう少し簡単にできるようなものをということで、そういう場合はクロスロードを使わせてもらうことが多い。
 実はきのうも、三重県の紀北町という尾鷲の少し北にある町の小学校で授業して、それもNHKの教育番組撮り絡みだが、そのときに、その小学校もかなり深刻なエリアにあるにも関わらず、高知県、和歌山県に比べるとなぜか――関係者の方がいらっしゃったら申し訳ないが、三重県さんの津波に対する取組はちょっとスローな感じが今のところしていて、それほど住民の方の意識も高くないが、きのうは6年生に授業したので、この問題をやった。クロスロードは、こういう悩むようなシチュエーションをどうするかを答えてもらうのだが、子供たちの意見一つ一つ見ると本当に泣けてくるような答えもいっぱいあって、小さな学校で1クラスなので、「6年間一緒に過ごしてきた友達をやっぱり見殺しにすることはできない。だから、私、捜しに行く」と答えた子もいたし、数としては6対4ぐらいだった。だけど、よくみんな勉強していて、テレビで「津波てんでんこ」という言葉を見たと。「こういうときはやっぱりみんな逃げないと駄目だ」とか「自分まで助けに行かなくても、先生と友達がもう行っているんだから、私は逃げた方がいいんじゃないか。かえって先生に心配掛けないんじゃないか」というような、本当、千差万別の意見が出てきた。
 で、何が言いたいかというと、そのクロスロードというのは正解のない防災教育ツールとして公表している。これは正解がない。あえて言えば全てディペン、状況によって違うに決まっているが、しかし、どういうことを考えて、どういうところにひっかかりがあって、ということをみんなで事前にシェアするのはすごく大事なことだし、それから、いきなり津波のシミュレーションを見せて防災教育をやるよりも、これを取り組めば当然みんな見たくなる、シミュレーションを。捜している時間があるのかって当然知りたくなるから。うちの小学校の場合、お友達を捜しに行っている時間的余裕があるのか、ないのか。もちろんシミュレーションをお見せした。ここも大変厳しくて、実は20分ぐらいしか時間がない、最悪の場合は。だから、「それも踏まえてこの問いは考えていかなきゃいけないね」ということできのうの授業は終わっているが、そういうコミュニケーションを始めるときの最初の第一歩が、余りお答えになってないかもしれないけれど、どうしてもハザード・イニシエーティッド、ハザード・トリガードになりがちである、自然災害に関するリスクコミュニケーションは。断層には逆断層型と正断層型がありましてとか、津波にはこういうハザードがありましてとか。そうではなくて、やはりそれぞれの方の生活の中で一番ひっかかりを持ってくれるようなチョイスを、場面をまずお見せすることをスタートラインにすべき、まだそれほど意識の高くないエリアもたくさんあるように思うというのが結論で。
【三上委員】  多分、ハザード・トリガードでいくと、もうどこでも同じになるかもしれないけれど、むしろそういう文脈からコミュニケーションを始めるとなると、これは地域によって何によってトリガーされるか、始められるかは違ってくるという話かと。
【矢守教授】  はい、だと思う。大都会であればまた全然違ってくると思う。
【三上委員】  道具も違うし、どこにひっかかるかは違うということで。
【矢守教授】  はい、おっしゃるとおりだと思う。
【田中主査】  時間のこともあるので、申し訳ないが、まだ質問があると思うが次に進めたい。
 それでは、次に佐藤課長の方にお話しいただきたい。よろしくお願いします。
【佐藤課長】  私はこの3月の末まで豊島区の防災課長を務めていて、3.11のとき豊島区で何があったのか、それを受けて豊島区は何をしようとしているのかといったあたりについて簡単に御説明を申し上げたいと思う。
 お時間も限られていると思うので、飛ばし飛ばしだが、豊島区は23区の中の北西部に位置している。小さなまちで、東西で大体6.7キロ、南北で3.7キロぐらい。自転車1台あればどこでも行けるぐらいの小さなまちだが、人はたくさん住んでおり、人口約27万人。この1月1日現在は27万人に達していないが、今は27万人超えている。人口密度がヘクタール当たり206人、今207人というところまで来ているけれども、日本一人口密度は高いと。それから、高齢化もそこそこ進んでいると。それから、単身世帯が多いといったあたりが特徴のまちである。
 それで、豊島区で今一番警戒している災害は首都直下地震と呼んでいるもので、右側の方に書かせていただいているけれども、今後30年間の発生の確率は70%と言われている。これを区民の方にお伝えするときはどう言っているかというと、「起きるかもしれない」ということではなくて、「起きると諦めて暮らしてください」ということで区民の方にはお話をしている。
 震度分布で、これは平成24年の4月だから最新のものだけれども、この色の濃いところが豊島区の中でも6強と。それから、色の薄いところは6弱ということで、8割、9割弱ぐらいは6弱といったような形で、結構揺れるという想定になっている。
 豊島区では津波の想定はしていない。かわりに何を今恐れているかというと、全壊、全焼で、揺れによる建物の倒壊、それから火災の発生による死傷者の大量発生といったことと、昼間に起きるとたちが悪いなと思っているのが、池袋駅で滞留者約15万人といった想定が出ているけれども、区内全域ではほかにも駅はたくさんあるので、30万人を超えるような滞留者――「滞留者」と言っているのは一時的にそこで立ち往生する人というような定義、東京都の方で出している被害想定で。「帰宅困難者」というのが帰れなくなってしまって泊まってしまう方々と。最大3泊される方もいるだろうと言われているが、その人数はまだこの最新の被害想定では池袋でどうだという細かい数字が出ていない。区内全体で15万人ぐらいといった想定になっている。人口27万人のまちが15万人の帰宅困難者を抱えなければいけないというのは、いや、これは困ったなという問題かなと思っている。
 それから、地域危険度というのがあり、先ほど御覧いただいたのは区内全体の被害想定であるが、区内の中でもより危ないところとそうではないところがあるだろうということで、これも東京都の資料だけれども、平成20年の2月に発表された、今では一番新しい資料である。これは建物の倒壊の危険度で、1は余り危険性が高くない。5というふうに数字が大きくなればなるほど危険度は高まるという見方になる。一目瞭然というか、これらが池袋、目白、駒込で、駅の周辺はコンクリが多くて比較的建物倒壊は少ないと。住宅街が広がっている周辺部が危ないというのがお分かりかと思う。このランク4というのは、東京都内で5,099のまちがある、その中でワースト360番ぐらいに入っているのがランク4ということで、かなり危険度が相対的には高いということである。
 建物の方では4までしかないが、実はもう一つ火災危険度というのがあり、こちらを見るとランク5というのが出てまいって、5,099のうち84のまちしか5というランクは付けられていないけれども、その84のうち6つのまちが豊島区内にあるということで、この火災の発生のリスクが高いというところかなと思っている。
 豊島区の特性を簡単にまとめると、非常に鉄道網などが発達しており、大変多くの方が毎日毎日、豊島区に来ていただいている。昼間人口は今40万人ちょっとだけれども、池袋駅では1日の乗降客数が約250万人なので、大量の帰宅困難者が出ると。それから、人口密度も非常に高いので、まちの面積の割には非常に多く避難者が出るだろうと。それから、人や建物が非常に密集していると。多いのは人だけではなくて、建物も多いということで、特に怖いなと思っているのが木造住宅の密集地域。東京都の整備地域という形で指定を受けているのが区内の約4割を占めており、揺れに弱い、火災に弱い建物が多いことを私どもは念頭に置きながら対策を組んでいる。
 3.11のときは、幸い豊島区内は震度5弱ということで、豊島区の震度計は庁舎がある近くで、池袋駅の近くにある。標高で言うと30メートルぐらいのところで、台地の上にしっかり乗っているところなので、5弱ということ。23区のうち8区で5強が観測されているけれども、困ったなと思ったのは、23区のうち8区で5強の方が少数派なのだけれども、第一報で発表されてしまうのは「東京23区5強」ということで、「豊島区の5弱という発表はうそじゃねえか」と言われてしまう。これは困ったなと。毎度毎度、これはいつも困る部分である。幸い、豊島区内では死者、行方不明者、直接死はなかった。それから、全壊、半壊といったような重篤な被害も出なかった。罹災(りさい)証明をたくさん出しているのは、ほとんどが保険の関係で欲しいといったようなことである。火災が2件出てしまった。これはちょっと残念だなと思っているけれども、どちらも電気火災である。一つは、壁掛け式のヒーターが揺れで落ちて、サーモスタットが機能せず発火をしたと。もう一つは、熱帯魚の水槽の中を温めるための装置が倒れて、それから発火して、これは共同住宅の1部屋が焼けてしまった。発報というか、出火報はもっとたくさんあったけれども、実際にあったのはこの2件。
 余り大きな被害がなくてよかったなと思っていたら、帰れないという方が続出して、そういった方々が区内の小中学校あるいはいろいろな施設に押し寄せてくる事態が発生して、これが一番困った部分かなと思っている。区立の小中学校とか駅の近くにあるところで一夜を明かした方が――一夜だけだった。翌日の正午には山手線も含めて全て鉄道は回復したので――区立の小中学校で500人弱。それから、公会堂などで1,700人と。何といっても多かったのが大学で、立教学院あるいは学習院といったところで、立教学院というのは池袋から10分もすれば着くところで、学習院というのは目白の駅のすぐ脇にあるところで、どちらも駅から人がなだれ込んできたということである。
 これは、直後に区役所のすぐ前にある公園に続々と人が集まっている、そんなふうな様子の写真である。この日は何度も余震があったので、わーっと集まって、収まったなと思うとみんな帰る。で、また余震があるとわーっとこういうふうに集まるというのが何度も繰り返されていた。
 それから、鉄道が止まった。何といっても困ったのがJRの山手線が止まったことで、山手線が動かない限り帰れないという方がたくさんおられるので、結構ごった返していた。池袋の駅は何だかんだいって最終的にはシャッターを全部閉めなかったので、駅の通路の中でもこうやって再開を待つ方々がおられた。ここに写っているのはうちの区長で、駅に行って、「シャッター閉めないでくれよ」と言いに行ったりしているわけだが、よその駅では閉めて締め出したといって、当時の都知事が大変怒ったというような一幕があったかと思う。
 で、鉄道が動かないと。バスは動いていた。ふだんはバスにこんなに人が並ぶことないけれども、たくさん人が並んでいる。あるいは、これは西口にある公園で、ふだんは公衆トイレを余り使う方がいないが、長蛇の列と。それから、公衆電話は、皆さん御案内だと思うが、通信の制限が掛からない。携帯電話を使えない方がこちらも長い列と。今、池袋でもどんどん公衆電話は姿を消しており、この辺は次来たら大変だなと思っている。
 それで、この東日本のとき、後日談はいろいろあるが、当日の様子ということで今お伝えしたけれども、とにかく最初に当日ということで申し上げれば、困ったことというのは関係機関とどう連絡を付けるかと。関係機関で例えば警察、消防といったところは、職員の派遣までしてくるので何とかなるけれども、困ってしまうのは民間の事業者さん。特に池袋は帰宅困難者がたくさん出るだろうということは分かっていたので、鉄道あるいは百貨店と平成20年から協議会組織を作って対策の検討もしたし、訓練もやってきた。いざというときには連携しましょうと言っていたけれど、連絡がとれないという状況があり、電話はもう無理だなということで、インターネットを使ったような――3.11のときにはインターネットは大丈夫だったので、そういったものを使っていこうかと。あるいは、数は本当に少ないけれど、衛星携帯も導入したりした。
 それから、防災課の中で申し上げると、情報収集というか、整理というのが非常に大変だった。これ、人力でやっており、ホワイトボードで、これはそれなりに活躍してくれたけれども、コピーの機能が付いたホワイトボードがあり、私ども、ふだん、火災が発生したときに使っていた。それに何時何分にどこからどういう連絡が入ったとか、どこそこ小学校に職員のグループが出発したとか、そういうことを逐次書き込んでいった。それによって、私は防災課長席にいながら、「課長、こんな報告がありました」って言ったら、「ホワイトボード」と言って、そこに常に書記がいて書いていくと。「何とかかんとかって書け」って言うと「はい」って書いて、いっぱいになったらコピーとって、ファックスだと結構届くので、警察、消防、あるいは、防災課は実は本庁舎の中にはないので、区長やその他の部署に情報を届けるためにファックスで送る、それもホワイトボードの情報をコピーしたものを送るといったことをやっていた。それは、結構便利だったが、やはり大変なので、できればIT環境が生きているのであれば、映像とかGISとかそういったものを使って、みんながPCを開けばそれで情報はとり合える環境を作りたいということで、今、総合防災システムの設計を進めている。
 それから、困ったのが情報の発信。もうとにかく防災課にもわんわん、わんわん電話が掛かってきた。広報課も同じ状況で、「情報を出せ」と言われても、情報をまとめて、そしてそれを出していくのは非常に大変だった。私どもも、後でちょっとお話しするけれども、情報の伝達手段はそれなりに発信手段を持っていたけれども、使いこなすのが大変である。もうわんわん大騒ぎになっているところで情報を発信する担当者が適切な情報をチョイスして出すという、それだけでも大変である。しかも、いろいろな人に伝えなければいけないけれど、多様な手段を使わなければいけないけれども、その都度、操作をしなければいけない。そんなことをやっている間にもう情報は塗り替わってしまうので、これを何とかしたいということで、きょう御紹介するのは、この伝達制御という、まとめて一遍に情報を出しちゃいましょうというシステムをやっていこうと、そこの部分についてお話をしたいと思う。
 東日本の教訓であるけれども、幾つか持っていると言った手段は、現時点で持っているのは防災行政無線の固定系で、屋外のラッパ、拡声器。それから、町会長さんであるとか区の出先施設に置いてある個別の受信機、これは基本テキストで情報を送ると。で、読み上げソフトが付いているタイプのもの。それから、関係機関と連絡を取り合うと。例えば避難所として使う学校などといったところと連絡を取り合う手段は持っているし、登録制の安全・安心メールという、これは携帯電話やパソコンにも出せるメールのもの。それから、ホームページ。このような手段は持っていたけれども、こういったものを1個1個使っていくだけで結構大変である。制御のシステムは別々である。
 それから、防災課もそうだし、広報課もそうだが、現有のメンバーだけで全然回らなかった。私ども、そういうときに手助けをしてもらう災害対策要員という者がおり、それは日頃の業務からひっぺがして防災課の手足で使えるとなっており、その本部付の人間が来てくれて、例えばホワイトボードに書き込むなどヘルプしてくれたわけだけれども、それでもとにかくばんばん電話が掛かってくると。あるいは、どこそこの現場に人を出したけれども、まだ足りないとか。じゃあ、追加で人を派遣せにゃならんとか、あるいは私ども、東北地方に五つ防災協定を結んでいる都市があったので、そこに人も派遣せにゃならん。そういった要員は別途残しておかなければいけないといったこともあり、極論だけれども、一人いれば情報を出せる、そういうシステムが欲しいと思った。
 そういったことから、とりあえず最初に作った対処方針として、基本方針を出しているけれども、その中で伝達制御システムというように、これは業者さんからの提案もあってやったものだけれども、こういった様々な伝達手段をそれこそ1回の操作でまとめてやってしまいましょうと。そういうものを作ってみましょうといったことを決めた。そのほか、災害対策本部の中で情報伝達に特化するとか、そういう要員をしっかり確保しましょうと。あるいは、訓練も繰り返しやっていきましょうといったことを決めた。
 豊島区は独特の地域特性があるので、いろいろな伝達手段が必要だと考えた。それは、高層ビルやマンションがやたら今増えている。それから、駅周辺の地下街。これは当たり前のことながら、防災無線、これ、主力で、情報伝達手段の我々の主力であるけれども、全然届かない。それから、一般の住宅も、今、エコなどで二重の窓にすると外の音が聞こえなくなっている。では外にいる人はどうかというと、繁華街はうるさくて全然聞こえないといったことがあり、ラッパでは無理だということ。それから、対象者もいろいろな方がいる。帰宅困難者や、そのようなよそから来られた方々、この方々は土地勘がないので、「どこそこ小学校を開きました」と言ったって分からない。そういう人にどう伝えたらいいのだろうかと。あるいは、高齢者や障害者――外から来た方は若い方が結構多いだろうからITなどモバイル系に情報を出す必要がある。でも、高齢者とかそういった方々はモバイル系に出していても意味がないというようなこと。それから、豊島区内は年間転出入が2万人いる。人口が27万人いるけれど、そのうち4万人は常に動いている。そうやってどんどん動いてしまう人たちに最新の情報をどうやって届けるのかといったことで、いろいろなことを考えなければいけないということで始まっている。
 目指したのは、どこにいても、地下街にいようが、自宅にいようが、職場にいようが、どんな条件を抱えている人でも情報をとれるというふうにしたい。かつ、先ほどから強調しているけれども、最少の人数でやりたいということ。それから、3.11を経験しているので、共倒れとか全滅しないと。何かが生きていれば、それだけでも使えるようにしたいといったこと。それから、お金は余り掛けられないので、なるべく今持っているもの、それを組み合わせることでやっていこうという考え方が伝達制御システムである。今持っている手段というのは、行政の手段に限らなくていいだろうということで、エリアメールのような類いも使っていこうと。それから、既に持っている行政の手段。加えて、民間の事業所が持っている館内の放送設備、あるいはケーブルテレビにテロップを流してもらうといったことを組み合わせてやっていければいいのではないかといったことで一応考えたということである。いろいろな環境に、いろいろな方法で、いろいろな対象の人に届けましょうという概念をここで示している。
 このお金を自前でやるのも大変で、実はスポンサーというか、総務省消防庁さんの実証実験に乗っかって実施をさせていただいた。24年の11月に駅の訓練をやったときに合わせた。個人向けの手段としてモバイル系ということで、エリアメールといったものなどを使って情報を出す。それから、家庭向けに、としまテレビさんというCATVでテロップ放送をやってもらうと。あるいは、戸別受信機といったものにも流すと。それから、情報をとりに来る人もいるだろうということで、公式のホームページとか、それからツイッターとかフェイスブックも試してみた。それから、既に持っている防災無線などに加えて、頑張ってくれたなと思うのは、池袋の駅の近くにある百貨店あるいは鉄道の駅も、ふだん、こんなことになかなか協力してくれないけれども、「訓練放送です」ということで情報出しをしてもらった。
 そういった伝達手段に豊島区から、これ、区長にやらせたけれども、ポンとエンターキーを押してくださいと。ポンと押すとばーっと流れますということで、一斉にやった。そんな形で、これは駅前にいる若い方々で、立教の学生さんなども参加してくれたけれども、携帯電話に緊急速報メール「地震発生」というのが届いていると。それから、東京芸術劇場にあるサイネージ。そのほか百貨店さんが持っているサイネージに出してくれたところもある。それから、自動販売機とセットというのも、業者さんの協力でお試しをさせていただいた。それから、ケーブルテレビのテロップ放送。それから、防災無線を繁華街用に、この日、一時的にしかまだ設置できてないけれども、強力なタイプのものも一応置いた。これ、「良く聞こえた」というので大変評判良かったけれども、大変重いので、重量があり、ちょっと今、設置場所に困っている。それから、最後は肉声含めてだろうということで、区の職員、それから関係機関の職員が口頭で情報を出したりする、そういう場も作りましょうといった形で実験をさせていただいた。
 今回御紹介した伝達制御システムも使いながら、それからITを駆使した、あるいはカメラを駆使した防災情報のシステムの今後整備を進めていきましょうといった形で、今進めているところである。その大きなきっかけになっているのが庁舎で、今ちょうど新庁舎を作っている。もと学校だったところに市街地の再開発組合を作り、区もそこに入って作っていると。ちょっと変わった作りになっているが、9階までは庁舎で上はマンションという形で、上の方は再開発組合さんがそういった事業者に販売等をして事業経費を生み出すといった形になっている。基本的にはこの新庁舎を防災の拠点としてやっていく上でこのようなシステムを使いながらやっていきたいということで、3.11の経験を踏まえて、とりあえず今、先行的に整備したのが、最小限の人数で最大限の人に一斉に情報を伝えるツールを何とかとりあえず、まだ試行段階だけれども、整備したといったところである。
 雑駁(ざっぱく)だが、御報告は以上である。
【田中主査】  ただいまの説明について質問等、確認等あったら。西條先生、どうぞ。
【西條教授】  この最後の情報伝達システムについて、情報は、どういうふうに流すかということと何を伝えるかということとをセットで考えるべきだと思うが、実証実験されたときに、どういうタイミングでどんな情報を流すかについてはどうなさったのか。
【佐藤課長】  大きくは二つの情報を流した。一つは、地震発生の緊急地震速報。備えてくださいということ。それから次に出したのは、一時滞在施設を用意しましたという情報。当然その間、タイムラグがあるので、その間は、例えば、「区は災害対策本部を立ち上げております。鋭意、今、情報収集などしております。その場で待機してください。むやみに動くと危ないです」といったような情報を出していた。このときは帰宅困難者の訓練も想定していたので、動くなと。勝手に動くなという情報をお出しするのが区としては非常に重視をしていた部分。だから、それぞれの百貨店とか駅の中とか、それから駅の外にいる人たち、みんな動くなと。その場で身を守って、区からどんな情報が出てくるのか、あるいはテレビなどでどんな情報が流れているのかと、そのようなものを情報収集しながら待っていてくださいと。情報収集だけでは無理だろうなということで、次にやったのは、安否確認の方法はこんな方法がありますと。家族のことも心配でしょうと。動くなと言っても家族と連絡とれないと心配だろうから、それは安否確認用のツールがありますと。それは各キャリアさんがやっている伝言板とか伝言サービスとか、こういう使い方がありますと紹介する情報を出したりした。そうやってつなぎながら待っていてもらって、大きな情報としては、そういった一時滞在場所を順次開設するので、まずここを開きましたということで情報を出す。そこまでたどり着くのは、どうやってたどり着くのかは、自分でやってください。旗持って誰かが誘導するなんて、本番でもできるわけがないので、自力でたどり着いてくださいといった形で訓練はやった。
【西條教授】  3.11のときに様々な困難があったわけだが、それを例えば時系列で、いつ、どういう困難が、対象はどういう人で、それに対してどういう対策をして、では、その教訓をどうとか、そのような形の何かアーカイブというか、そういうものはどうか。何か整理していくようなこと。どのタイミングでどういう情報を出していくかは、やはりデータがすごく必要だと思う。
【佐藤課長】  正直、渦中にいたときには全然整理は付いていなかったし、後から振り返っても前後関係が正確に思い出せないことも結構ある。そのときによすがにしたのはホワイトボードの情報で、ホワイトボードに書き込んだこと以外は、やはりみんなが記憶の中で思い出してもなかなか一致しない。
 一応、ある程度こういったところで困ったな、だからこうしたいですということを簡単にまとめたものがホームページでも載せてある。豊島区の震災を踏まえてどうしていきましょうかという当面の方針というものと、それから今年度まで含めて3年間でどんな対策を打とうかということをまとめた基本方針というのがあり、その中では大ざっぱに振り返ってあるが、最初に困ったのは被害情報が入らないこと。区、行政の方とすると。区民の方からすると、全国情報は入ってくるけれども、豊島区の情報が分からない。もう少したつと、近くの情報が分からない、要するに家族がいる場所がどうなっているのかが分からないといったことが最初に困ったこと。行動指針が示されないという苦情も結構あった。「町会は何やればいいんだ」とか。
【西條教授】  そうだと思う。
【佐藤課長】  「そんなこと言ってられる場合じゃない」と、「こっちはそんな余裕はありません」と。「まず、町会内が大丈夫なのかどうなのかって、そんなこと聞きに来る暇があるんだったら、町会内の状況を調べて報告してください」とお願いしたような、突っ返すようなこともしたけれども、その辺は後で大分怒られたりもしたが、そうやって、でも、打ち返しで返ってきた情報は結構貴重な情報だった。
【西條教授】  そうだろう。
【佐藤課長】  それで、そのときには受信はできるわけである。当時、発信制限は掛かっていても。だから、「限りなく根気よく掛けてください。区は電話を受けられますから」ということで、町会長さんも「10回掛けてやっとつながったよ」とか言いながら、「うちの近所はまあまあ大丈夫だったよ」とかって情報が入ってくる。それで、区で会議をやって、「区内に大きな被害報告はありません」というところでほっとしたら、今度は学校から悲鳴が上がってきた、「どんどん人が押し寄せてくるんだけど」と。これ、困ったなと思ったのは、事業所の方は事業所の防災計画みたいなものをお持ちになっていて、それは法令で義務付けられている。それが特に事前の協議なく、区立何とか小学校とか豊島区立何とか体育場とかに皆さん勝手に決める。で、「ここが避難所になっているので、収容してください」と言って学校にいきなり来る。まだ残っている子供たちもいた時間帯で、「お子さんたちどうしよう」と学校は言っているところに、大の大人が職場引き払って「入れてください」って来るわけである。これはどうするのという話になり、「とりあえず体育館に放り込んでおいてください」と言って、そこに職員を派遣させた形だけれども、そんなふうな形で時系列で動いてきて、だから今、消防さんも方針を変えていると思う。地震が来たらすぐ逃げると、特に首都直下の場合は火災を想定するからすぐ逃げるという消防計画になっているけれども、地震に向けての防災計画では、まずそこにとどまって、きちんとした情報を得てから、避難すべきだったら避難しなさい、いられるんだったらそこにいなさいと。これは東京都の条例もできていて、基本は帰らずにそこで泊まるといった形に変わっているので、徐々にこういった混乱は解消されてくるだろうと思っている。
 一方で、被災地の方にも、我々、支援しなければいけない自治体があったので、そことの情報はとにかく電話しかなかったので、「掛かりません」と言われても、「掛かるまで掛けろ」と言って、夕方になって連絡とれたところも含めて、二つ、三つはもうあすにも出ようということだったので、物資の用意も手配をした。で、職員を寝かしておいて、「出発は夜だから、おまえら寝てろ」ということで。このような感じで一応やっていた。
 で、何日かたつと放射能の話とか出てきたので、そのときになるとまた全然違う様相があった。
【西條教授】  すごくお話を伺って思うのは、リスクコミュニケーションの基盤となる、どういう情報をどういうタイミングで出していくかを決めるためのいわゆる記録の整理。どんなことが行われたか。それがすごく欠けているというか。でも、そこは自治体だけではできない部分であるし、さっき言ったような形式知化みたいなものが絶対必要なんだと思う。
【佐藤課長】  その記録を残すということで言うと、ある程度システムが組まれてくれば、報告者が入力したログが全部残っていけば、前後関係がはっきりしないとか、そういうことはなくなってくるのかなと思っている。
【西條教授】  そうだと思う。
【佐藤課長】  そういう意味でいうと、本庁舎が単独でとにかくそこだけでも電気が確保できるという環境が必要だなと思っている。
【平川主査代理】  あるいは、航空機の事故なんかでもよく使われている、フライトレコーダー。あのような全部自動的に記録しているものでもないと、本当にこのような危機的な状況だと猫の手もかりたい状態なので、記録している時間があったらこっちやれということの方がどうしても多くあると思う。
【佐藤課長】  もちろんそうだろう。
【西條教授】  ただ、回顧的にもかなり思い出せて、それはやはりフォーマットをしていけば、そのフォーマットの知識みたいなもので、やっぱりそこはあると思う。
【佐藤課長】  はい。人間にしか分からないところはやはりあるので。
【田中主査】  はい、よろしいか。お三方からお話を伺い、時間もしっかりととれたと思うが、まだ聞き足りない部分は後ほどの質疑応答の中でもお願いしたいと思う。
 少し時間が押しているけれども、インタビュー報告をお願いする。土木学会の土木計画学研究委員会、谷口委員長に事務局の方でインタビューを行ったので、関専門職の方から御報告いただきたい。
【関専門職】  (資料4に基づき、有識者インタビュー結果について説明。)
【田中主査】  それでは、残りの時間、これまで説明いただいたことを参考にしながら、親委員会、安全・安心科学技術及び社会連携委員会に報告するために作成を進めているリスクコミュニケーション推進方策の作業部会の検討報告案に入りたいと思う。御講演いただいた方々も御意見を頂ければと思う。
 まず、事務局より、6月14日に開催された親委員会での主な意見とそれを踏まえた修正について、資料5、6についての説明を頂きたい。
【関専門職】  (資料5,6に基づき、安全・安心科学技術及び社会連携委員会における主な意見と、作業部会の検討報告(案)の修正内容について説明。)
【田中主査】  この後は作業部会の資料6、検討報告案についてをベースにしていきたいと思うけれども、事務局からは、まず来年度取り組むべき施策を固めていきたいと伺っているので、まずは全体を確認して、その後、行うべき取組について整理していきたい。なので、まずは全体について議論いただきたいと思う。
 中座された寿楽委員からコメントも頂いており、これは追加机上配布資料としているけれども、親委員会の意見を見て、非常に厳しい意見を頂いている。特にポイントとしては、現状、私ども、現在の議論が実際のリスクコミュニケーションのアクションといったものに関して注目が行く余り、やや発散傾向に議論が行っている。親委員会の中でも、個別のイシューを念頭に置く余り、このままだと、本来、委員を本当は入れ替えて防災委員会にしなければいけない話になってきているのではないかという、厳しい指摘。これは恐らく、当初、リスクコミュニケーションの推進方策の検討作業部会ということで、先ほどのお三方の先生方にお話しいただいたようなアクションリサーチの更にメタな部分はどう設計していくのかという話をするべきところが、そもそものアクションリサーチなどの現場に近いところの問題意識、もちろんそこから立脚すべきであるし、そこの重要性が全く薄れることではないけれども、そちらの方に意識が、つまり少しぶれている。私は全体としての議論も、幸福感といったものももちろん前提とする一方で、現場の話と、全体としてどういった方策を行っていくべきかという話が乖離(かいり)しているという指摘だと、寿楽先生の厳しい指摘を受け取ったけれども、そこは念頭に置いて改めて整理する必要があるのではないか。今頂いた親委員会の指摘に関しても、まさにそのパターンを踏んでしまっているのかなと。それぞれのコメンテート頂いた親委員会の先生方の問題意識に沿った形でおっしゃっているので、別にそれは自分の方に引き寄せているという意味ではなくて、ここが足りないというものを、足りないという部分はありつつも、それらの中からある意味では上澄みを、しっかり混ぜた上で上澄みをとらないといけないというのが今からの議論ではないかと思う。皆さん、その点をお踏まえいただいて御議論いただければと思う。何か御意見あるか。
 では、一つ、まず皮切りとして私から申し上げると、「正しく」ということがちょっと誤解を招いたかなということで、それは飽くまでこういった分野のレジテマシーということを踏まえた上での「正当性」という言葉を入れていただくことはいいと思うけれども、往々にしてこの「正当性」という言葉は誤解されるので、少し練った方がいいのかなと。その前後の関係というものを。
【西條教授】  字を変えればいいのではないか。
【平川主査代理】  「当」じゃなくて「統」の方で。
【西條教授】  そう。レジテマシーだったらそっちの方が。
【田中主査】  失礼しました。当たる方になっていた。
【西條教授】  正当性、当たる方だと正しい方だけになってしまう。
【田中主査】  私が字を見落としていた。ほかに何かあるか。ほかには定義論のところは後ほど別途の議論にした方がいいかと思う。また議論がやや戻ってきている感じがあるので、それは保留しておいて……。
【平川主査代理】  一つ、この間気付いたところで、その「『リスクコミュニケーション』とは」のところの上から5番目のポツの「リスクコミュニケーションを『ハザード』と『アウトレージ』の和とする」というところ、これ、本来は「リスクを」ではないか、「コミュニケーション」ではなくて。
【田中主査】  ええ、はい。
【平川主査代理】  たしかこの間の親委員会での質疑応答の中でも、ここの部分でちょっと、リスクの定義がどうのこうのってもめていたと思うので、ちょっと混乱があったと思うけれども、これ、「コミュニケーション」という言葉を除いて「リスクは」ということであれば、上の「リスクを『危険・被害の度合い、蓋然性』とする」というところを補足する視点としてちょうどかみ合うかなと。
【田中主査】  いや、これは……。
【平川主査代理】  このハザードとアウトレージというのはピーターソンピーター・サンドマンのかと。
【田中主査】  いや、「『ハザード』と『アウトレージ』の」というのは、どこを引くかによるけれども、このもともとの議論の文脈がそっちの方であったか。
【平川主査代理】  もともとは、リスク認知して……。
【田中主査】  リスク認知で。だから、リスクそのものではない。
【平川主査代理】  いや、リスクそのものというか、リスクをどう認知するかという……。
【田中主査】  リスク認知をということ。
【平川主査代理】  認知されるリスクというものは、ハザードとアウトレージの和であるということなので。
【田中主査】  うん、だから、「リスクを」と言った場合に、この上の方との関係、危険・被害の度合い……。
【平川主査代理】  逆にこれは科学的な観点からのリスク認知。リスク認知の概念として広いので。
【田中主査】  いや、それが伝わるかなという感じが……。
【関専門職】  事務局からよろしいか。
【田中主査】  はい。
【関専門職】  ここで「リスクコミュニケーションを『ハザード』と『アウトレージ』の和とする」と書いたのは、第1回の親委員会で田中先生が、仮にハザードがゼロであったとしてもアウトレージの部分があるので、リスクコミュニケーションは必要となるのだという御説明があったので……。
【田中主査】  はい、そうである。
【関専門職】  それで「リスクコミュニケーションを『ハザード』と『アウトレージ』の和とする」という書き方をさせていただいた。
【平川主査代理】  でも、その場合でも、「リスクを『ハザード』と『アウトレージ』の和とする」。そのアウトレージの部分があるので、コミュニケーションではそこの部分を考えなければいけないという考え方をすれば、とりあえずここは、「リスクを『ハザード』と『アウトレージ』の和とする」でいいかと思う。つまり、人々がそのリスクを捉えるときには、単にハザードあるいは科学的な定義の仕方での蓋然性とかそういう形だけではなくて、公平性とか、自己決定できるかとか、そういったことも併せて考えている。そこの部分がこのアウトレージというところの中身なので。
【田中主査】  もちろんそうなのだけれども、今、リスクというふうに平川さんがおっしゃるとおり、リスクだけに判断してしまうので、「リスクの受容の仕方は」とか、そこの部分は付けてということで。リスク単体という言葉にそれを掛けると、多分、委員会の先生方が勘違いしたのは、自然確率的なリスクと混同してしまって間違っていたので、リスクのその受容のされ方というものを明確に分けた書き方をしないといけないのだろうなということ。
【平川主査代理】  その方がよりはっきりすると思う。
【田中主査】  はい、それがさっきからちょっと気になったので。
【西條教授】  これ、言葉を切り詰め過ぎているというか、「リスク認知を『ハザード』と『アウトレージ』の和とする考え方もある。ハザードがゼロであっても、不安・不信感、心理的要素以外の社会規範や個人の権利、このアウトレージに関する部分は無視できないので、コミュニケーションが大切である」みたいなふうに持ってくれば。
【田中主査】  すみません、私、そう申し上げたと思ったが。
【西條教授】  何というか、これ、主体がねじれている。
 ちょっと根本的なことを伺いたいのだが、「リスクコミュニケーションの推進方策」と大きく出ているけれども、これはつまり、文科省としてリスクコミュニケーションに関するいろいろな補助事業をするとか、そういうことをお考えということなのか。
【松尾課長】  はい。出口として。
【西條教授】  その補助事業の在り方をどのようにしていくかを考えたいということなのか。
【松尾課長】  補助事業というよりは、まずはリスクコミュニケーション。端的に言えば、リスクが起こったときに、いろいろな定義があるけれども、それをどうコミュニケートして、例えば誰が、いつ、どこで、どういう場面でやることがいいのかをある程度決めて、組合せがあってと。それに対して我々としてどう支援ができるか。ただ、現場、現場で一つ一つ支援ができないとすると、その大本にどう支援できるのかというようなことだと思う。
【西條教授】  それはさっき田中主査がおっしゃったようないわゆるアクションリサーチのメタ的な部分のようなところをどう抽出するかというお話か。
【松尾課長】  はい。あるいは、そこまで具体的に行かないとすると、例えば人材養成をどうしていくのかかもしれないし、でも、そこは多分難しいとすると、あるいはそういう行動指針を作るのがいいのか、あるいは先生がさっきおっしゃったように、実際の起こった事象をアーカイブ化していくところがいいのか、要するに何をすることによってコミュニケーションがより展開されていくのかと。そこの洗い出しをし、そこにどういう支援をしていくのがいいのかということを検討していきたいということだと思う。
【田中主査】  この後に別途時間を設けるけれども、行うべき取組というところに、多分、今、西條先生のおっしゃったような部分で接点は、アーカイブ化の話とか、あるいはまさにアクションリサーチを行う人材をどう次々に生み出していくべきなのか、どう社会の中で維持されるべきなのかということを含めての議論があるかと思う。
【松尾課長】  そのときに問題にしなければいけないのは、田中先生が言われたように、多分、時間軸と対象とが異なってくると思う。
【西條教授】  そう、動いていくので。
【松尾課長】  ええ。だからそこは、まずはそれを本当は整理して、それをベースにして、どの時点で、誰が、どうやるのかというのが見えてきて、そしてそこに国としてどういう支援ができるのかを考えていくということだと思う。
【西條教授】  コミュニケーションってすごく場の問題だと思う。それで、人材育成というのもまた別の場の問題なので、人材育成が先にということは多分あり得ないのではないかと……。
【松尾課長】  おっしゃるとおりだと思う。
【西條教授】  そう思っている。コミュニケーターのときがそうだったという感じがあって、人材育成が先にあって、コミュニケーターの機能は何なのかとか、いわゆる内包と外延がはっきりしないものに、コミュニケーションをする人材を育てるというまた別のコミュニケーションの場の問題が起きたので、そこがすごく混乱した部分だと思っている。
【松尾課長】  全くおっしゃるとおりだと思う。
【三上委員】  今、西條先生がおっしゃった話が、きょう頂いた三つの御報告に多分一番共通するインプリケーションだと思う。それは恐らく、ちょっと話が飛んでしまうかもしれないけれども、この2ページの2番の「リスクコミュニケーションの在り方」というところに必ずしも十分フォローできてなかった点だと思う。それをちょっと加えたいなと、きょう思った。それは、最初の西條先生の御報告での使い方だと、行政と大学・研究者と、それから市民という三つの力があって、そういう多様な力が組み合わさるときに課題の解決に向かって動いていくということだし、それから、矢守先生が非常に明快におっしゃってくださったのは、まず個人が対応できる事柄というものがあって、それと支援者の役割というものはやはり峻別(しゅんべつ)するという一つの装置として個別訓練というものがあって、ただ、やはりそれは個人と支援者が1対1で向き合うのではなくて、そこにコミュニティの力みたいなものがあって、「おばあさん、逃げなさいよ」というような、そういうある種コミュナルなリスクに対する向き合い方があるということだった。恐らくそういう三つの異なる力が組み合わさることで課題に向き合う場が作られていくということだと思うので、支援者であるリスクコミュニケーターとかマネジャーの専門性が発揮されるのは、そういう場があってこそだと思う。先ほど質疑のところで矢守先生に教えていただいたように、地域によって相当そこら辺の三つの力の配合というか、それが違うということがあるのかと思うので、そこを無視して一律にこういう専門性を導入すればうまくいくみたいなものはやはりとるべきではない。それぞれのなくて、場において様々な力がどういうふうに生かされて課題に対処できるのかということが、多分きょう三つ御報告いただいたことからまず我々が抽出して、この総論の部分に書き込むべきことかなと思った。
【田中主査】  親委員会から指摘された、大学を中心としている現状の計画をちょっと再考せよという部分に対する回答にもなる。
【三上委員】  それも、もしかしたらそうかもしれない。
【平川主査代理】  ちょっと今の別の角度から補足させていただきたいなと思ったことが2点ある。一つには、きょうの最後、西條さんのお話でも、矢守先生のお話もまさにそうだったけれども、我々、ついついリスクコミュニケーションと言ってしまうとリスクそのものの部分に注目してしまうけれども、実際には、リスクの問題というのは本当にその地域のいろいろな問題の中に埋め込まれて結び付いているものなので、そうすると必ず、問題解決をするときには、ほかの分野と複合できることがすごく重要な能力となると思う。先ほどの豊島区の取組の中でも本当にいろいろな分野が複合して動いている形になっていた。リスクコミュニケーター自身が、他分野・他業種・他セクターと協働できるコミュニケーション能力がなければいけないというところは一つ大きな資質として入ってくるのだろうと思う。問題を単にリスクの問題だけで捉えず、ちゃんと複合的に見ること。これ、例えば、実際、私が個人的にいろいろとインタビュー調査をやっている福島県の例でも、放射能の問題でも、放射能の問題だけが実は問題ではなくて、もっと幅広く、生活再建の問題とかいろいろなものが入っている中に放射能の問題も入っている形になっている。なので、リスクコミュニケーションをやる場合でもそこだけ捉えてもしようがなくて、本当に生活再建とかそういうことの相談までやらないとなかなかうまくいかないという話もあったりするので、この複合性・全体性の中でコミュニケーションの能力、リスクコミュニケーションに必要な要素は何なのかを捉える視点というのは一つ大きな視点かなと思った。
 あと、今、三上委員がおっしゃったポイントに絡むところで、きょう矢守先生のお話の中で、おばあちゃんや、子供たちに主体的に行動してもらうというのは、一般化していえば、現場の生きた人間関係の中にどういうふうにリスクに対する行動なり考え方なりを埋め込んでいくのかということの重要な例だと思う。例えば今日、この間の親委員会で出てきた質問の中で、例えば(4)「日本型のリスクコミュニケーション」という中で、「日本では主体性に働きかけることが余りうまいかない」と書いてあるけれども、これは逆に言うと、主体性というのが実は個人のインディペンデントな能力じゃなくて、むしろコミュニティによって支えられるところがあるということの表れだとも解釈できる。そうやって、主体性には、社会関係資本的なものによって支えられているところもあるので、さっき三上委員がコミュナルな力とおっしゃっていたけれども、現場にもともと息づいているいろいろな関係性、人と人の関わり方とか持っている力をうまく引き出すことによって、あるいはそうした関係性の中にうまくリスクの問題を埋め込むことによって、一人一人の主体性が高まっていくということもあるのかなと。そういう意味では、必ずしもこの主体性に働きかけることがうまくいかないということにはならなくて、むしろ主体性に働きかけるためのアプローチとして、個人に焦点を当てるのではなく、人間関係や地域のそういうネットワークに力を入れていく、働きかけていくという観点が重要かなと。
【三上委員】  今の平川さんの1点目の方に関係すると思うし、2点目にも関係すると思うが、きょうの西條先生のお話の中で私が一番印象的だったのは、これは西條先生も強調されていたところだけれど、「リスクコミュニケーションについての考え方」という40枚目のスライドのところ。ところで三つ書かれていて、とにかく対策見通しとリスク把握はセットであるべきということと、それから、きちんと目標がないところでコミュニケーションをやっても混乱するということがあって、それも非常にそのとおりだなと思ったが、私が非常に興味深いと思ったのは3点目。課題を解決する中からゴールの設定が生まれるって書いてあるがあり、これはある意味非常に逆説的である。普通、逆である。つまりゴールがまず設定されて、それで課題が解決されるというのが、多分ごくごく常識的な流れで、ただ、これは恐らく非常にある意味逆説的なのだけれども、ただ、非常に説得力がある。というのは、つまり、具体的に地域の中で見えている困り事や課題というものに、今の話でも出てきたような様々な力をどうやったら集められるかという取組をする中で初めて、どういうふうに、どの程度、例えばリスクに備えなければいけないのか、どれぐらい我慢しなければいけないのかということが見えてくる、というお話だと思う。そういう現実にタンジブルな(実体的な)課題という、何かそういう表現もお話の中であったと思うけれど、そういうものを見せないで、初めから何かこれぐらいきれいにしてやれとか、これぐらい整えてやれみたいな、そういう目標を立てて始めるというところに多分実は話が逆立ちしているところがあって、きちんと手で触れる問題にいろいろな力を集めていくということが逆に適正なゴールを設定することにつながるというお話である。何かこれは一見、非常に逆説的なのだけれども、私は、なるほど、こういうふうになっているのかと非常に納得をしたということを御報告する。
【西條教授】  今、先生、逆説とおっしゃったけど、私の頭の中では包含関係で、課題と問題というのは。誰も全体の問題にいわゆる先験的に向き合うことはできない。それはやはり、タンジブルとおっしゃったけど、手で触れるような課題を解決していく中で、あ、こんなにこの問題って大きいのだねということが、そこがまさにリスクが顕在化してくる部分だと思うので、そのリスクの顕在化に備えるような、いわゆる葛藤に耐える力とか、人とコミュニケーションする力とか、そういう割と普遍的に思考力とか呼ばれているものはアプリオリ(先験的)に教育するべきだと思うけど、そのリスクコミュニケーションだとかリスクの考え方を教育するというのは、文脈がないから、意味の相互作用というのは起こり得ないのではないかと。私、言語学の人間なので、すごくそういうふうに思う。
【平川主査代理】  先ほどの、質問表で「あなたの困っていることは何ですか」と聞いても出てこないというのと同じことかと。
【西條教授】  同じことである。
【平川主査代理】  結局、何が問題か、翻って、どうしたらいいのか、どうなったらうれしいのかということは、実際に考えてみないと本人も気付いてこない。
【西條教授】  そう。で、やはり計画というのは、誰と一緒にどうなりたいかということだと思う。やはり地域のことは一人で解決することはできない。ただ、その誰と一緒にどうなりたいかを質問して答えるのはすごく難しいことで、ほとんど不可能なので、そこに外部の人がいわゆる参与観察的に入って、矢守先生がなさっているのがまさにそうだと思うけれど、いろいろな道具を持ち込むことによって、じゃあ誰と一緒にどうなりたいのかということが見えてくる。そこがやはりすごくこの知性の働かせ方の面白い部分だなと思っている。
【矢守教授】  一つよろしいか。幾つかリファ(言及)頂いたので。
 最初にリスクの言葉のお話があったけれども、最後の話は今のお話と絡んでクロスロードのことをお話しするのだが、私のリスクという言葉あるいはコンセプトの捉え方も、先生方よく御存じの非常に古典的なルーマン的な捉え方をしていて、やりリスクという言葉と当然対になってくる言葉は、選択、選ぶことだと私は一応考えている。だから、例えばあるおばあちゃんが巨大な津波が予想されるようなエリアに住んでいても、そのおばあちゃんが、私がAをすればこういう危険があるけど、こういうメリットもある。Bをするとこういう危険もあるけど、こういうメリットもあるという、そういうふうに自分に対して何か選択がそのおばあちゃんに対して開けた状態になるように危険が提示されていなければ、その津波にせよ、火災にせよ、何にせよ、それは単に何か恐ろしいものがどんとあるか、あるいは、おばあちゃんにとってはもう言語化も不能だし、それからタンジブルという言葉もあったけれど、こうすればこうなるというような操作性も不能な、単に何か怖いものがあると、あるいは何か心配があると、そういう状態が茫漠(ぼうばく)とあるにすぎないと思う。それをそうではなくて、一気に「これをやれば、はい、治りますよ」というような、何か処方箋があるかのようにコミュニケーションするのはやはりよくないと思っていて、それはうそだし、特に津波に関しては。こうすればこうなるし、こうすればそのリスクは減るけど、こっちのリスクは高まるよと、そういう事態を茫漠(ぼうばく)とした不安ではなくて、その当事者に対して何か反応可能で対策可能な選択として見えるように事態を構成してあげることが、私はリスクコミュニケーションとして一番大事ではないかと思っている。
 で、先ほどの例えば小学生に示した問題、あれはかなり厳しい問題で、あれをいきなりやるのはちょっとあんまりだと思ったので、実はあの前にもうちょっと易しい、「避難所に自分の大事な愛犬を連れていく、連れていかない」みたいな問題をやってからあれをやっているのだけれども、どっちにしても、防災、災害に対して備える、あるいは津波に対して備えるというのは、あのような問題の中で、自分がお友達を捜しに行くこともできる、あるいは捜しに行きたいという気持ちは一方で大事にしてほしい。だけど、こういう危険もあるんだよ。それから、一方で「てんでんこ」で例えば逃げていくと。それは自分の身を守る確率を上げるかもしれないけど、みんな書いていたけど、やっぱりみんなが助かった後に「助けに行かなかった」と友達に思われるのは嫌だとか、いろいろ書いているのだけど、そういうデメリットもあると。そのフレームワークを上げた中で、それに対して考えるための、今、大学人なり行政の方なりが持っている最大限の情報やリソースは差し上げると。そういう体制を何につけ構成していくことがリスクコミュニケーションにとっては一番大事かなと、そう思って、それで、手前みそになるけれど、クロスロードにせよ、それから個別訓練のビジュアルにせよ、それが何か一定の危険を伝えて終わりということではなくて、それをめぐって当事者の方が何か選択をしたり、あるいはその選択をするための素材やリソースを周りの行政や研究者が次に提供したりして、その繰り返しの中で少しでもその選択なるものが厳しくないものに――物によってはゼロにはならないと思うけれど、なっていくように向けていくことかなと、そんなふうに考えている。参考になれば。
【田中主査】  大変参考になる。
【山口委員】  机上資料の寿楽先生の御指摘の一つ目と二つ目のポツのところ、防災で今回いくのかという話と、それとも、今矢守先生がおっしゃったような選択の問題としていくのかという御指摘だと思うけれども、私はこれは二つ目のポツで言われたようなところでいくのだと思っている。その中で、鳥取大学で見られるような、地域に入りながらアクションリサーチしていくやり方が非常にいい先行事例としてあるよという御紹介をしたのであって、当然そういう事例を紹介すると、片田先生もおられるので割と防災の話が中心になるけれども、やっぱりそれらをお伺いしながらほかのリスク分野にも敷衍(ふえん)していくとか、もうちょっとメタなところに持っていくのが、やはりこの作業部会のやっていかなければいけないことだろうなと思っている。ちょっとそこの認識が間違っていないかという。
【三上委員】  完全に賛成である。
【田中主査】  それは賛成である。実は個別に寿楽先生にはきのう資料を頂いてから深夜にメールは送っている。寿楽先生だけ親委員会の方にいらっしゃらなかったので、議論がとんでもない方向に行っているのではないかとすごく危惧されてこの文書を作成されたという。
【三上委員】  ただ、やっぱりこの寿楽さんの指摘は非常に重要で……。
【田中主査】  はい、重要である。
【三上委員】  やはり各論に入っていかないために、今、山口さんが確認してくださった進路というか、それを確認する意味では非常に重要な指摘だと思う。
【田中主査】  一方で、まさに行われるべき取組の議論に入る前に、最後にもう一つ、私もお聞きしていて見過ごされそうになるのではないかと危惧しているのが、佐藤課長が御報告いただいた豊島区にとっては最後まで帰宅困難者という集合名詞より先に行けないこと。ほかのアクションリサーチの方かちは、もちろんアノニマス(匿名)に扱っているけれど、実はその先におばあちゃん、子供たち、顔が見えている。その2種類のもの、前者の帰宅困難者という集合名詞以上は分解できないものも扱わなければいけないところはどうしても引き受けなければいけないのではないか。そこはやや矛盾しながらも引き受けなければいけない部分で、それは今回の防災とまた少し違う部分でのリスクコミュニケーション、そこは切り捨て切れない部分ではないかということは一つ確認しておきたい。
【平川主査代理】  そうですね。地域社会と個人の関わり、さっき個人が地域のいろいろな社会関係資本に入っていくということを言ったけれども、帰宅困難者の方たちだと、そういうことが成り立たない状況で対処しなければいけないと。
【田中主査】  はい、それがないのである。最後までアクターは入れ替わってしまう。実際に起こったときには訓練対象と替わることも踏まえて何をするの、それを念頭に置いておく必要が、最後まで捨てずに置いておく必要があるのではないかなと思う。
【西條教授】  それを念頭に置くというか、まさにそこの部分をまず固めないといけないのではないかと思っている。
【田中主査】  いや、もちろん。
【西條教授】  数がすごく多いし、ある意味、こう言っては何だが、割と類型化している部分があるわけである。もちろん、中に入ればいろいろなことはあるわけだが、いわゆる手順として考えられることが非常に多くて、だから、いわゆる操作的な装置を作るとかそういうことは開発できたわけだが、その後、ではどういう情報を、どういうタイミングで、誰に向けて、どう流していくのがいいのかというところは、そこはやはりできると思う。対象者をシミュレーションでもある意味できる部分かもしれない。ただ、そこだけではやはりいけない部分があるので、やはり二本立てというか、そういう形がリスクコミュニケーションなのだろうと思う。
【矢守教授】  短く1点だけよろしいか。私、豊島区の事例を御報告いただいているときにもちょっと感じたのだが、今出たいわゆる帰宅困難者、そういう、普通、日本語では烏合(うごう)の衆と言われるような人たちをエマージェンシーなときにどうするかというときに、いみじくもおっしゃっていたと思うけれども、そういう人たちは自主防災組織もないし、それから何か内部に下部組織があるわけでもないと。なので、そういう人たちをどうしようかというときに、二通りの道があるし、二通り試みるべきだと思う。一つは、きょう主に御説明いただいたような、しかし、そういう人たちを組織化するための情報をしっかり入れていくというアプローチと、それからもう一つ、一番典型的な分かりやすい例を言うと、この前のワールドカップ予選のときのお巡りさん。ああいうお話だと思うけれども、もうちょっとコンセプチュアルに言うとフラッシュモブズとかそういう系統の話だと思うが、事前に自主防災組織とか情報網を準備して烏合(うごう)の衆を何とか組織化・コントロールしようとするアプローチと、もう一つ、やっぱり烏合(うごう)の衆は烏合(うごう)の衆なりの自律的な組織化の力をやはり持っている。あのお巡りさんの事例、機動隊員だったかもしれないが、どうしても最初にそれをしたお巡りさんだけにハイライトが行くけれど、実は大事なのは、そのお巡りさんがああいうことをして、この場では大騒ぎをせずに、お巡りさんと一緒に半分楽しみながら半分整然とするのがこの場の規範、ノーム、ファッションなのだと。それが一旦できると、それに追従するそのメカニズム。だから、お巡りさんだけが偉いわけではなくて、そのメカニズムがあるから、何千人、何万人だったかもしれない、その群衆が一つの組織としてまとまっていくわけである。
 それで、私、すぐにアイデアがあるわけではないが、これだけモバイルのツールもできてきたし、私自身はすごく苦手で余り使いこなせていないけれど、事前に何か準備しておく以外に、例えばだが、そういう帰宅困難的な事態が起こったときには――端的に言うと、こういうことをするのがおしゃれだし、こういうことを周りの人に呼び掛けていくのがファッションなんだというような常識を――火事が起きたら火を消そうではなくて、それも大事だが、それ、100年間やっている、日本。もうええかげんにちょっと違う常識のようなものを、特に若い人が何か、ああ、いいなと思えるようなものを作っていくことが、実は烏合(うごう)の衆、つまり帰宅困難者を、私たちに何かしてくださいというthose who wait for something、何かを待っている人たちではなくて、自分から何かをする人たちに変えていく何か鍵があって、そういう方向のことも情報で何とか制御しようということとともにこれから考えていった方がいいのではないか。さっき言われた例でいくと、誰も旗を持って避難所に連れていってくれないとおっしゃっていたが、その若い学習院の学生とかが旗持って連れていけばいいのではないか。そういうことをみんなやるだろう、「お、やろうよ」とか言って。そうするとみんな集まってきて、何人もの学生さんが烏合(うごう)の衆となっている人たちに「避難所はこちらです」とやってくだされば、豊島区の区役所の方のマンパワーだって助かるしというようなことをちょっと思った、お聞きしていて。
【平川主査代理】  私も今思ったのは、よく言われる災害ユートピア的な状況が多分いろいろなところで発生していたと思う。だから、先ほど出てきた、既存の人間関係、社会関係資本に働きかけるというのもありだけれども、同時に、その場にエマージしてくる、その場で立ち上がってくる人々のつながり、支えあいみたいなものにも働きかけていく、それをうまく引き出すということが、今、矢守先生がおっしゃったことだと。
【矢守教授】  はい、そういう意味である。
【平川主査代理】  そのあたりのところは、佐藤さん、何か、御経験どうだったか。実際、地震の行動。何かそういう自己組織化的に現場で何かうまく采配があったりしたか。
【佐藤課長】  いや、それぞれのところですばらしい活動をしてくれた方々もたくさんおられるけれども、私はとりあえず、3.11やその前後も含めて防災担当をやっていてしみじみ感じているのは、生きたいと思ってもらうしかないよねということ。今までの防災は結構やはり誤解されているところがたくさんあったのではないかなと思っていて、行政頼みなところなど。「行政は何してくれるんだ」ということもそうだし、よく聞かれるのが、「私、どこに避難したらいいの?」ということだけれども、避難する前に死んでいるかもしれないことを皆さん考えない。防災対策でいうと、人の命を救うというと、自分が救助したり救助されたりする場面を考えるけれども、救助の対象にすらならない人、たくさん東日本でも出たわけである。助けようがない。それらは遺体の捜索にすぎないとか。そういった方々の中の一人に自分がなるという、それを避けたいと、とにかく最期の瞬間まで生きたいと、だから自分は、うちで死なないためにどうしたらいいんだとか、ここで死なないためにどうしたらいいのだと考えてくれる人にならないと、話にならないだろうなと。
 情報は、私どもからすれば、例えば帰宅困難者の方々には情報は出そうと。それはパニックを防止するというようなことだと思うけれど、「賢い帰宅困難者として行動してください」とお願いをしている。だからそもそも、帰宅困難者にならない方がいいんじゃないんですかと。会社に最初から泊まろうと思っていて、会社が無事だったら帰宅困難者にならない。帰りたくて帰れないから帰宅困難者になるので、会社を捨てるとか避難先がないとかで困ってしまうというのが――津波の場合は別だと思うけれども、豊島区の場合で言えば地震の家屋の倒壊等なので、自分のうちが無事だったら避難しなくていいわけである。自分にとって何が一番いい選択なのか、自分が生きるために。それで、自分のうちが倒れると、豊島区の場合にはよそのうちも必ず道連れにするから、そういうことをしないように、「自分一人生きる」、帰宅困難者もそう、区民の方もみんながそう思ってくれていれば、多分大きな混乱なく乗り切れるだろうと。あとは、どういうときに、どういう場面で、どういう情報が必要なのかということは、先生方おっしゃるとおり整理をして出していかなければいけないだろうなと思うけれど。
【田中主査】  行うべき取組につながる話がいっぱい出てきていて、例えば今のアーカイブという点でも、災害ユートピア的な状況がどれぐらいきちんと整理されているかというものも、やはりすごく重要な点がいっぱい含まれていて、我々は、例えばメディアでこんないい話があった的な話では、それぞれで断片的に目にしているけれども、それらを、それこそまさに教訓の一つとして集成したものは余りなかったりして、そういったものの中にまさに先ほど矢守先生が言われたようなクライシス状況に近いリスク状況で、それをマネジメントするための新しいアイデアは普遍的なものが転がっている可能性があるというのは、重要な御指摘ではないか。それは、アーカイブ化というところを、例えば活用可能なリスクコミュニケーション事例集というものが、まるでこれだけだとコントロールに成功した行政とかそういったものしか見えてこないといったものも、アーカイブを視野に入れていいのではないかということで、今の佐藤課長の話も含めて考えられるのではないかと思う。
【佐藤課長】  私は、基本的にはコントロール不可能だと思う。
【西條教授】  それで、この日本型リスクコミュニケーションという話で、私、いわゆる日本型と付けるのは、やはりこれはちょっとやめてもらいたいなとすごく思っていて、これは幻想にすぎないと思う。いわゆる内なるオリエンタリズムというか。非常におかしいと思うし、おっしゃるように、3.11以降、やっぱり、科学技術に対する見方とか、災害に対する見方とか、命に対する見方とか、すごく大きく変わったと思う。
【田中主査】  変わった。
【西條教授】  だから、それ以前のものとはかなり乖離(かいり)があると思った方がよい。だから、共助というものはいわゆる平時の状態であるけれど、やはり非常時になったら自分が生きることをまず考えなければいけないというのは、それは言われなくてもみんなそう思ったと思う。だから、そういうところを踏まえて、やはり主体性をどう強化するか。いわゆる頑健ではなくてリジリエントなのだという形もあるけれど、リジリエンシーというのは可塑性ということであり、それは自分を信じることと非常に密接に結び付いている概念なので、そこのところはやはり安易に日本型とは言わないでいただきたいなと。
【田中主査】  私もそれは……。はい、三上さん、どうぞ。
【三上委員】  全く同感だけれど、日本型というのは議論の流れで出てきた枕言葉だと思っていただきたい。それで、この意味は、そういうロバストネスにしても、そういう可塑性にしても、それはやはり普遍的にというか、真空の中に生まれるものではなくて、それぞれの社会的な構造であるとか、ある種の自己組織化の過程の中で生まれてくるのだろうというのが前提で、この議論をしていた。
 それで、この取り組むべき課題の1点目だが、だから、これはこういうものをやはりやるべきだと私は非常に思う。加えていただいたのはよかったと思うけれど、ただ、ちょっと、この「人の命を救う防災という観点から」というのが、もしかすると絞り過ぎなのかもしれないと私は思う。先ほどの山口さんの御指摘や寿楽さんの話も踏まえると、むしろ、きょう頂いた三つの御報告も含めて私が思うのは、そういう個人レベルから地域コミュニティとか、それからもうちょっと広域な行政とか、そこに大学というのか、専門家も入ってくるのだろうけど、そういう様々な力を組み合わせたリスクコミュニケーションのやり方というか、この社会の仕組みというのをきちんと踏まえたリスクコミュニケーションのやり方が問われているのかと思う。そういうことなのかなと思うので、ここまでスペシフィックに防災と言わなくてもいいのかなという気がする。
【田中主査】  本来、座長の立場から。私もちょっと一つ。今の日本型について、西條先生の言われたこと、三上先生の言われたこと、両方、私も納得で、ただ、一方で、震災後に何らか日本型っぽい制約はあったよねという話がある。その日本型というのは結局、ある意味では、独自の、というよりも、諸外国のうまくいった例と比べて我々がうまくいかなかった例は何なのかという追究は引き続き必要なはずで、例えば寿楽先生が指摘されたのは、リスクに関する判断を専門家が行ったときの法的責任の範囲が非常に不明確であると。アメリカの場合にはテニュアトラックを持っている人間は、極端に言えば、脱原発、反原発の人たちが全く同じ組織の教授として堂々とメディアに向かってがんがん言っているということがあって、それでまた、それは社会が許容していることだと。でも、日本の場合は当然、ユニファイであるべきか、ユニークであるべきかということ自体が問われた。それはなぜかといったら、本来、社会的な行動の中でそれを大学人あるいは専門家というものが求められている構造にあるということ自体を指摘されていて、その法的な問題の訴求範囲の問題、ラクイラの地震の問題もそう。そういったある種の日本型と我々が思ってしまうものを制限している範囲は何なのかとか、あるいはメディアの方で言えば、メディアのフォーマット、新聞の書き方というのは極めて習慣的なものだけれども、そのパターンは海外に比べれば、西澤先生が前に指摘されたのは、リスク報道ではなくてハザード報道になっているとおっしゃっていた、そういったある種形式化した、また習慣化してしまっているだけで、本当は実は変えるのは簡単なものが、ある意味日本型の縛りという部分を形成している部分はあるのではないか。その部分の研究というものは一つこの中に実は入ってもいいのかなと思う。繰り返し指摘されていることであるけれども、この行うべき取組の中ではうまく入ってきてないのかなという気はする。
【松尾課長】  用語として「日本型のコミュニケーション」だとちょっと適切でないかもしれない。「日本の社会環境に適合した」とか何か、そういった枕言葉にして、そういったリスクコミュニケーションの在り方の開発とか何か、そんな書き方だとどうか。
【平川主査代理】  はい。「日本型」と言ってしまうと、何かある種の本質主義として日本に固有のみたいな、さっき西條さんがおっしゃったような内からのオリエンタリズムになってしまうけれど、現状の日本社会にこれこれこういう課題や問題があるから、それに合わせてどう対策をしていくということなのかという意味で、まさに「日本社会に適合的な」というのがちょうどぴったりな表現かなと。
【田中主査】  そこにどこか、社会そのものの形を変えるようなという訴求的なニュアンスが入るといいなと思ったということ。
【西條教授】  その日本型の社会状況に適合したコミュニケーションは目指すべきものではないと思う、私は。それは事実としてそうなっているというだけの話なので……。
【平川主査代理】  確かにそう。そういう意味では、本質主義ではいけない。
【西條教授】  だから、何をそれが制限しているのかとか、何が日本型を構成しているのかということはもちろん追究されるべきだし、そこの追究なしにリスクコミュニケーションは多分ないと思うけれども、日本に適合したコミュニケーションは目指すべきではない。当然そうなるわけだから、目指すものが何かほかにあるべき。そこの目的設定をまさにここでやるのか、どこでやるのか知らないけれども、そのコミュニケーションにおけるゴールは何かみたいなところをもう少しメタ的に論じる部分が必要なのではないかなと思う。
【田中主査】  今の中で、例えば日本型という部分だけをちょっと軸としては、この文章の中から一つ外に出した方がいいかもしれない。
【平川主査代理】  そう思う。
【田中主査】  誤解を招くので。そういったものは何なのかという、もしかしたら出した方がいいのかもしれない。
【三上委員】  それで、恐らく大事な宿題の一つは、今、取り組むべきことは何かを部会で考えてほしいという話。それで、これでかなりクリアに出ていると私は思うけれども、一方で、この間の委員会の議論、私は出席していたけれど、委員会の議論を思い出すと、個別な課題領域――それこそ防災であったり何であったり、というのが何なのかをある程度言ってほしいという話があったと思う。これはもちろん、防災というのは当然そこに入ってくるだろうし、それから、私がこの間、委員会で少し言ったのは、もうちょっと広く地域におけるリスクとの向き合い方、これは例えば地域における安全であるとか犯罪との向き合い方みたいなことも入ってくると思うし、それから、寿楽さんは、入れていいのだろうかみたいな書き方を3番にされているけれども、当然、原子力の利用に関するリスクコミュニケーションというのもその中に、すぐに何ができるかは分からないけれども、入ってくると思う。要するに、今はどちらかというと手法の話やプロセスの話をしているのだと思うけれども、そういう主題のようなものをちょっと例示した方が、この先の最終的な報告書をまとめる議論にはつながっていくかなと思う。
【田中主査】  まさに山口委員が作成いただいたものをベースにしながら、例えばもう一度腑分け(ふわけ)をしてこの中で配置するというようなイメージか。
【三上委員】  はい。だから、それはある程度、いや、もうこれで決定なんだとはなかなか言いにくいと思うけれども、今まで議論を相当してきたので、やはりこういう領域とか主題に力を入れるべきなんだというぐらいのことはもう一回投げ返して、それで議論してもらうということで私はいいのではないかなと思う。
【平川主査代理】  あと、ここが文科省であるということを考えると、この山口委員が作成してくださったものも、これは文科省に限らず全省庁的な全社会的な対応の中で出てくるリスク分野になると思うけれど、こと文科省であることを考えると、私や三上さんがずっと扱ってきたようなエマージングテクノロジー、例えばナノテクノロジーであったり、合成生物学であったり、そういったものについても考えていくことも必要ではないか。単にリスクだけではなくて、ベネフィットも含めて、社会にとってどういうプラス・マイナスのインパクトがあるのか、さらには、プラス・マイナスを誰がどのように考えるのか、そういうことも視野に入れておいた方がいいのかなと。今回のこの作業部会のスコープの中で中心的な主題になるわけではないけれども、ただ、スコープの一部には入れておいて、今後の課題として置き石を置いておくのは結構重要かなと思う。特に文科省独自の取組という形を考えると。
【三上委員】  これだけイノベーションということを言っていて、平川さんもこの間ずっと議論されているけれど……。
【平川主査代理】  ええ。この間、朝日新聞にも書いたけれども、レギュレーション、イノベーション、コミュニケーションは三位一体で考えましょうと。
【三上委員】  ええ。まさにそういう視点からいうと、そういう萌芽(ほうが)的な科学技術というのはすごく多分重要な適用領域だと。私もそこに関心を持っているからそう思うのかもしれないが。
【平川主査代理】  新しいリスクだけではなくて、そのリスクをとってでも追求すべきメリットは何なのか、使い方は何なのか、どういう果実が社会にもたらされうるのかということを、実際に影響を受ける可能性のある社会のアクターとともに考えることも、重要なリスクコミュニケーションの役割だと思う。単にリスクを避けるべきものとして考えるだけではなくて、逆にとるべきリスクは何なのか、とるべきリスクをとるという選択を誰がどのように行うのかということも、イノベーションを考える上では結構重要な課題であると。
【三上委員】  そう思う。グリーン技術もそうだし、ライフイノベーションにしてもそう。
【平川主査代理】  ええ。太陽光パネルをいっぱい作るとか風力発電所をいっぱい作るといったときに、じゃあ、例えば風力だったらバードストライクの問題をどうするんだとか、どの道をとってもリスクは必ずあるので、じゃあどれを受け入れて、どういうメリットを追求しますかって、そういう対話の仕方とか物事の決め方というのは、今後のリスクコミュニケーションの課題として結構やはり重要な課題であると。
【三上委員】  はい。
【平川主査代理】  1点だけ最初の方について。この間の親委員会でも出てきた議論で、社会の方からのリスクの発議に答える仕組みということがあったと思うけれども、そこの部分を含める形で最初の1.の「『リスクコミュニケーション』とは」の目的の中の②での「問題の発見と可視化」、ここにはある程度、リスクの発議に答える仕組みうんぬんのことが盛り込まれている形に修正が入っていると思うけれども、もう少し突っ込んだ形にするのはどうか。例えば、「専門家(自然科学者だけではなく人文社会科学等も含む)が社会・地域に入り込み」の後に、ここに「住民と共に潜在的/本質的な問題を掘り起こし」と入れてみる。参加型のプロセスについてよく指摘されることに、参加型がどういう場面で重要なのかというと、それは問題を解決していくときの上流部分であるというポイントがある。もちろん何が問題なのかということは、顕在化しているとは限らなくて、当事者も気付いてない問題であることも多いが、さっき西條さんがおっしゃったような形で課題に取り組む中で、顕在化していない問題にも気付いていくということもありうる。このようなことを反映させるために、「住民と共に潜在的/本質的な問題を掘り起こし、リスクの顕在化を防ぐための取組を行う」という形にすると、単に専門家だけがリードするのではなくて、住民の人たちも当事者として主体になっていくよというのが、よりはっきりする。さっきの主体性をどのように働き掛けるかというのがあったけれども、そういう文章にすると良いかなとちょっと思った。
【田中主査】  時間がきてしまったので、私もまだまだ是非御意見を伺いたい点がいっぱいあるけれども、本日は、どうも貴重な御意見を頂き、本当に皆様ありがとうございました。この後、頂いた意見については事務局の方で整理していただきたいと思うけれども、7月19日に開催する親委員会の報告については主査預かりとさせていただいてよろしいか。
(委員了承)
【田中主査】  ありがとうございます。

<議題2.その他>
【田中主査】  最後に、今後のまとめ方について事務局から御説明いただきたい。
【関専門職】  (資料7に基づき、今後の日程等について説明。)
【田中主査】  以上で第4回リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会を終了する。

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科学技術・学術政策局人材政策課

(科学技術・学術政策局人材政策課)