安全・安心科学技術及び社会連携委員会 リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会(第6回) 議事録

1.日時

平成26年1月31日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省15階 科学技術・学術政策局会議室1

3.議題

  1. リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査について(経過報告)
  2. リスクコミュニケーションの推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

堀井 秀之 主査、河本 志朗 委員、田中 幹人 委員、原田 豊 委員、藤垣 裕子 委員、三上 直之 委員、大木 聖子 委員、寿楽 浩太 委員

文部科学省

川上 伸昭 科学技術・学術政策局長
伊藤 宗太郎 科学技術・学術政策局次長
松尾 泰樹 科学技術・学術政策局人材政策課長
西山 崇志 科学技術・学術政策局人材政策課長補佐
齊藤 加奈子 科学技術・学術政策局人材政策課専門職

5.議事録

<開会>
【堀井主査】  定刻となったので、安全・安心科学技術及び社会連携委員会の懇談会と第6回リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会合同委員会を開催する。
 本日、安全・安心科学技術及び社会連携委員会は、定数12名に対して、山口委員が急遽(きゅうきょ)御欠席となり6名の御出席で、過半数の定足数7名に足りないので、懇談会とさせていただく。リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会は、定数6名に対して4名御出席なので、定足数を満たしている。
 それでは、事務局より配付資料の確認をお願いしたい。
【齊藤専門職】  (配付資料の確認。)

<議題1.リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査について(経過報告)
【堀井主査】  議題1、リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査について、科学技術振興機構科学コミュニケーションセンターの長谷川事務局長から、調査の経過報告をお願いする。
【長谷川事務局長】 (資料1に基づき、リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査の進捗状況について説明。)
【堀井主査】  この調査は、次回の委員会で最終報告いただく予定だが、ただいまの説明や調査内容について、御質問、御意見をお願いしたい。
 では、私から。これまでのところで、何かすごく面白かったとか、すごく意外だったとか、何かあるか。
【長谷川事務局長】  そこを本日御欠席の(調査のアドバイザーである)奈良委員や山口委員にお聞きしたいと思っていたところ。
【堀井主査】  分かった。では次回をお楽しみにということで。

<議題2.リスクコミュニケーションの推進方策について>
【堀井主査】  次に、議題2、リスクコミュニケーションの推進方策について。本日は、前回御議論いただいた論点整理の4番、今後求められる取組を中心に御議論いただきたい。まず事務局より資料2-1の「求められる取組(事務局たたき台)」について御説明をお願いする。
【西山補佐】  (資料2-1、参考資料2に基づき、リスクコミュニケーションの今後求められる取組の事務局たたき台について説明。)
【堀井主査】  では次に、今後求められるリスクコミュニケーションの取組について、5名の委員がプレゼン資料を作成くださったので、プレゼンをお願いしたいと思う。資料番号順に、1人5分から10分でプレゼンした後、引き続き全員で議論するので、質問等はその際にお願いしたい。
 ではまず資料2-2、河本委員から。
【河本委員】  時間も限られているので、早速御説明に入りたいが、ざっと御覧いただいて分かるように、私どもの方からは、取組の位置付けあるいは方向性といったような、ほかの委員の先生方の具体的な事例を取り上げた取組の策というよりは、漠然としたものになっていて、そういった具体的なものに踏み込めなかったなという反省もあるが、この資料に基づいて進めてまいりたい。
 四つほど項目を掲げており、一つ目は、リスクと向き合う文化の醸成という、非常に大上段に振りかぶっているけれども、リスクに対処するため、あるいはリスクを伴う新たな技術の導入などに関する政策決定の過程において、あるいは個々人が行動を決定する過程において、行政、専門家とともに主権者として国民が当事者意識を持って議論し、考えて関与して、リスクに正面から向き合う。このことによって初めて自立した個人としての民主的な決定が行われるということ。
 3・11の大きな教訓の一つは、私は実は、これまた大きな話で恐縮だが、日本の民主主義の在り方ということだと考えている。例えば、今回、問題となったのは原子力政策であったけれども、政策決定過程において、国民がまさに主権者としてどう関わってきたのか、関わってこなかったのか、ではこれからどうするのかが、まさに問われているのだろうとずっと考えていた。そうすると、このリスクコミュニケーションというのは、ただ科学技術あるいはリスクの中の問題というよりは、もっと大きく、日本人、我々がこれから社会とどう向き合っていくのか、政治とどう向き合っていくのか、本当に我々、民主主義というものを取り戻せるのかという、もっと大きな枠の中の一つとして、それを実現するための大きな前提として考えていく位置付けにできればいいなと考えている。あるいは、それが一人一人の社会に向き合う姿勢の中に溶け込んでいくこと。先ほど文化化というお話もあったけれども、まさにこれを文化の醸成として捉えて、社会全体でこの問題に向き合っていくということが必要ではないかということだ。そういった位置付けをすることによって、社会の中の、もっと骨太な問題としての取組ができるのかなということを考えた次第である。
 それを前提として、以下三つほど、こんなことが必要だろうという、おおまかな方向性といった感じのものを取り上げている。一つは人材の育成。これはもう、さんざん議論された話だが、ただその人材の育成の中でも、幾つかやはり方向性というか、段階といってもいいかもしれないものがある。一つは初等中等教育からのリスク・リテラシー教育の実施ということ。世の中全体でリスクコミュニケーションに取り組んでいくためには、そのステークホルダーである国民であり、専門家であり、行政の人間であり、はたまたメディアの人間であり、個々人がそうしたリスクコミュニケーションの重要性だとか、どうあるべきかということを理解する力を持っていなければ、恐らく成り立たない。これはかねて、この場でも私、何度かお話を申し上げたかと思うが、そのためにはやはり、基本的な国民の素養として、そうした教育を基礎教育で実施しておく必要があるだろうということである。
 それから二つ目は、各分野におけるリスクコミュニケーションを担う人材の育成。国民個々人に素養を育むと同時に、実際、社会の中で、ステークホルダーとしての地位を築いている人たちに対して、それぞれの立場でどういうリスクコミュニケーションに対しての向き合い方をしなければいけないか、それぞれの教育を通じて人材を育成していく。職能としてという言葉があったが、まさにそういうことだと思う。こういう教育をすることによって、リスクコミュニケーションの場において、それぞれの立場のリスクコミュニケーションができる。リスク・コミュニケーターという書き方をしてしまったが、そういう人材を育てていくということである。
 最後は、ファシリテーターの育成と書いた。これは、リスクコミュニケーションの場の中で、それぞれのステークホルダーがコミュニケーションしていくわけだが、全体を取りまとめて、より適切な方向に引っ張っていく、全体をコーディネートする人材。恐らくは、各分野の方々のステークホルダーとしてのリスクコミュニケーションに関する素養よりも、リスクコミュニケーションに関する、より専門的かつ高度な能力が求められるのだと思うが、そういったリスクコミュニケーションの場をコーディネートして、より適切なコミュニケーションができるように主導していける人材。これを育てていく必要があるだろうと思っている。
 三つ目は、そうしたリスクコミュニケーションの取組を行う場を作っていかなければいけないということ。リスクコミュニケーションのための研究、人材育成、社会教育、実践、情報や最良の慣行の交換、関係組織や活動のネットワークの中心となる組織の構築。これも既に議論され、言及されているところだが、研究して人材育成をして、その研究成果と人材を活用して幅広い社会教育を行う。一方で、リスクコミュニケーションが必要とされている場に参加して、実践して、またそれを研究や人材育成にフィードバックする。そうして得られたリスクコミュニケーションの実施に関する情報だとか最良の慣行を、収集し共有する中心となる。また、その蓄積を基にして、リスクコミュニケーションの実践のためのガイドライン、基礎教育や2のところで申し上げたコミュニケーター、ファシリテーターといった人材の育成に向けたガイドラインや教材を作成する。なおかつ、いろいろな場で行われているそうした同様の取組を支援できる組織、フォーカル・ポイントということになろうかと思うが、そういうものをどこかにやはり作っておく必要があるだろうと思う。
 それから四つ目。行政の政策決定プロセスへの導入の働き掛けと書いた。これは何かというと、行政が意思決定をする過程において、リスクコミュニケーションが必要とされる場は必ずあるし、全体でどのぐらいあるかというのは分からないが、かなりの割合を占めるのだろうと私は思うけれども、その重要性を理解していただいて、政策決定過程において様々なステークホルダーが参加するリスクコミュニケーションを実施をするということを定着させる。これを目指した働き掛けをしていく必要があるだろうと思う。政策決定に国民の意見を取り入れるという仕組みとしては、今、パブリックコメントがあって、これは法律で決められているものだけれども、法律で決めるかどうかは別にして、やはりリスクを含む問題については、国民が主体的に参加して様々な議論をして、それを行政の政策決定の中に生かしていくということが当然ながら必要だ。それは、リスクにきちんと向き合うということもそうだし、冒頭、私が大上段に振りかぶった政策決定への国民の関与、民主的な政策決定、民主主義の実践という意味においても必要なのだということを広く訴え掛けて、それぞれの国・自治体における政策決定の中にこれを取り入れていくという動きを作っていく。そうすることによって、リスクコミュニケーションの場がどんどん広がっていくし、先ほど3のところで申し上げたフォーカル・ポイントとなる組織ができれば、そこが関与していく実践の場もできるし、あるいはそこへ対する支援もできる。こうした取組が社会全体の動きになれば、それに対して国民全体を教育していく教材の必要性が出てくる。コーディネータとしての人材も必要になる。あらゆる場所でそうした組織ができれば、支援のネットワークができあがる。そうしたことが相乗効果となって社会全体として取り組んでいけるのではないかというふうなことを考えてみた。
 冒頭申し上げたように、極めて漠然とした概念的な話で申し訳ないが、以下、各先生方の具体的な事例を踏まえた取組を聞かせていただきたい。
【堀井主査】  では続けて、資料2-3、原田委員。
【原田委員】  私のプレゼンテーションの前提として最初に書かせていただいたが、リスクコミュニケーションが実効性を持って社会に定着していくために、これは自分の個人的な考えだが、言葉によるコミュニケーションだけではなく、コミュニケーションを伴った実践をセットで行うことによって、実際に何か世の中の困った現実がいい方に変わると考える。それから、いい方に変わったということを関係者が実感として共有できる成功体験のようなものが蓄積されていくことが大切なのではないかという気がする。それから、更にそういうことが、下村健一先生がおっしゃったということで、三上委員の資料にも入っていたが、「普段化」という言葉を使われていると聞いたが、そんな日常的な場でできる仕組みを考えることが必要なのではないかと思っていて、それを一つの前提に考えさせていただければと思っている。
 それで、申し上げたいことの結論だけ先に言ってしまうと、こういった実践とセットになったコミュニケーションというようなものを、無理なく、日常的・持続的、あるいは「普段化」する。そうできるようにするために、現場で使えるツールやノウハウというものが求められているのではないかと申し上げたい。で、そういうものとして、一つのあくまでもヒントや参考事例だけれども、私どもの開発してきた「聞き書きマップ」という、これはパソコンの無料のソフトだが、そういうものも一つのヒントとして御検討いただけるのではないかと思って、添付資料の別紙のところに、つい最近の業界雑誌に書かせていただいた原稿を付けているので、詳しいことはそちらを御覧いただければと思う。以下、先ほど申したような結論に関して、事務局で作られた論点整理に沿う形で、何でそのように自分が考えるかということについて申し上げたい。
 まず1点、リスクコミュニケーション基礎的素養の涵養(かんよう)が挙げられているけれども、こういった基礎的な素養が育っていくために、一つ重要なポイントとなるのではないかと思うのが、この委員会でも以前からよく話題に出ていた、当事者と統治者の間の非対称性。ともすれば一方通行になりがちではなかったかという問題意識があるかと思う。これを緩和することが課題ではないかと考えていて、そういう意味で、論点整理の中でも触れているような、当事者の主体的な問題発見・解決策の提案。これをサポートするリスクコミュニケーションの手法の開発というのが、大変重要なポイントであろうと私自身も考えているところ。
 そういったサポートの一つとして、当事者が自ら発見した問題などを、ぱっと見て分かるような形に視覚化する。そのことによって、共有をやりやすくするというような簡便なツール、道具立てが役に立つのではないかと考えている。こういったツールはいろいろなものがあり得ると思う。またこれは三上委員の説明で触れられていた、カードゲームのような形で、津波の避難とか、大きな災害のときの対応、緊急的な対応の、一種のゲーム感覚でそれを勉強できる、矢守先生のお作りになったようなものを紹介されていたけれども、そういったいろいろ面白いものが既に出ているのではないかと思う。
 我々がその中で着眼したのは安全点検地図。地図を作るという活動がいろいろな分野で、今、現に行われていると思う。そこで行われている作業の内容がほぼ共通だと思ったので、何かうまく、効率よく、かつある程度客観的なデータでできるようにすることによって、いろいろな分野でそういうものを日常的に地図化による、地図を伴ったコミュニケーション、視覚化、データの共有といったことができるのではないかと考えた次第である。
 それで「聞き書きマップ」というツールを作ったわけだが、ただ実際にこういうものを作り、現場に持ち込んでまだ1年ちょっとぐらいだが、使っていただいている中で、ツールを作るだけでは不十分だなということを痛感している。やはり現場でやっている人は、別にツールがあろうとなかろうとやっているわけだから。それから、科学的とか客観的なデータで支えられているかどうかというのも、現場の人にとっては余り関係ないといえば関係ないので。だから、当事者の皆さんに受け入れてもらえる工夫を、提案する側がする必要があるのではないか。
 それで、単純に例だけ挙げると、そもそもお金が掛かるというのはよくないと思う。それから、現場で受け入れてもらうためには、現にやっぱり困っていることがいろいろあるので解決方法を提案する。例えば地図作りだと、当日、雨が降ると、現場でメモをとることなどが非常に大変なので、「聞き書きマップ」では、実は現場でメモをとるかわりに、小さな録音機、ICレコーダーを持ってもらい、そこで言葉で全部録音してしまおうと。そういうことによって、雨が降ろうと何しようと、今、こういう録音機、ふたを取るとUSBになるものだが、これ自体にマイクが付いて録音機になっているものが1,600円ぐらいで買える。そういう安いものがあるので、こういうものを活用して、実際に雨が降ったときに困るよねという、現場の皆さんが身にしみて感じておられる問題を解決して、省力化に役立てるという点でアピールするとか。
 それから、もっと重要なこととして、一番下に書かせていただいた、これまで行われてきたやり方をなるべく変えない工夫を、提案する側がすべきなのではないか。現に当事者の皆さんがやっているようなやり方を、例えば我々、専門家や研究者みたいな者が、こう変えなさいと、ある意味、一方的に言うのは、それ自体が一種の非対称性なのではないかという気がする。やっぱり現場の方々が現にやっていることは、それなりに必然性があって今の形になっているのではないかという気がするので、そういうものに、提案をする側が寄り添うことが必要ではないかと考えている。
 それから2点目。問題解決に向けたリスクコミュニケーションの場の創出について、論点整理の中で「対話を通じて実践する場」という言葉が使われているのは、大変重要なポイントではないかと思う。そして、そのような場を創出していくために、みんなが一緒に考えるための材料、考える材料を共有するのが大切なのではないかと思う。そうでないと、ともすれば、私はこう思う、いや私はこう思うみたいな意見の言い合いになってしまうとしばしば聞くので、それで終わらないために、まず、みんなで納得するような材料を共有することで議論の出発点を作ることが大切なのではないかと思う。
 それから、最初に申し上げたとおり、対話を通じた実践が具体的な問題解決につながったねという実感が、文字通りふだん的に、日常的に共有するという成功体験の蓄積。これが必要なのではないか。そのためには、やはり身近なところの問題解決。そこらじゅうにある問題。100年に1回しか起こらないようなことを素材にしても、なかなかぴんとこないと思うので、身近なところの問題解決が素材になるのがいいのではないかと思う。また「聞き書きマップ」を引き合いに出して恐縮だが、我々が提案しているのは、何回かに分けてその地図作りをやったらどうかということ。最初のまち歩きでは地域の問題。写真を撮って回るので、全部写真を張ると地図が見えなくなってしまうが、例えば60枚ぐらい一遍に写真を撮ってしまうので、その中から10枚だけに絞ってくださいと御提案して、その作業は当然優先順位付けになるので、そこでできる地図が一種の改善計画マップのようなものになるだろうと思っている。それから一定期間、改善の取組を実際にやってもらい、再度同じところをもう一遍回って、同じようなところで写真を撮る。そうすると、問題解決マップができると思うので、それを事前・事後のような形で並べて貼って、公民館などに張り出したらどうですかと申し上げている。それを繰り返し継続的に続けていくことによって、PDCAサイクルのように回していくのが、一つの問題解決の実感になるのではないかということを提案させていただいている。
 それから、時間がそろそろ危なくなってきたと思うので、リスクコミュニケーションを行える人材の育成に関しては、ファシリテーターがやはり大切だねということを我々自身も考えており、地元にもともと住んでいて地元に拠点のある方を、地元において育てられる仕組みが必要ではないかと思う。それから世代交代とか後継者育成の問題とかがよく問題に現場でなっているので、例えば実際に地図作りの取組をやるようなときに、年配の人と若い人とでコンビを組んでもらうような形でやると、地元をよく知っているおじいちゃん、すごいねということを若い人がすごく実感する。自分もそうだった。そういうやり方があるのではないかと思う。
 それから、良好事例の共有・展開については、時間もないので1点だけ申し上げると、初期投資ももちろんだが、ランニングコストが掛かるのは、現場にとって非常に負担になると思う。よって、いかにランニングコストを減らすかを考える必要があると思う。我々の場合、地図作りに使う、歩いて回った経路を記録するのはGPSの受信機で、大体3,000円か4,000円ぐらいで、今、買える。これもUSBで差すことができ、結局、人工衛星の電波を取るだけなので、充電、バッテリーの電気代、何ミリアンペア程度の電気代がかかるだけということで、ランニングコストが掛からないのが一つの売りだと考えており、その辺への配慮が必要なのではないかと思う。
 あと、レジュメにも書かなくて、資料2-1の裏に1個だけあるのを見落としていた、リテラシーの問題に関しては、学校教育の現場に、今申し上げた「聞き書きマップ」をいろんな形で使っていただけないかと今、提案申し上げているところで、例えば、通学路の安全点検が各学校で現に行われているが、それに関する文部科学省からの委託で、通学路の事故防止の専門部会が立ち上がっていると思うが、その報告書で声を掛けていただき、我々の取組についても紹介していただける予定になっており、例えばこのような現場を通じて、小学校で現に行われている日常的な取組の中に、このような一つのツールのようなものが組み入れていただけるようになれば、ふだん的に、リスクコミュニケーションを伴った、対話を通じた実践の場を作ることに役立つ。また人材育成にも役立つのではないかと考える次第である。
【堀井主査】  では、続けて資料2-4、三上委員。
【三上委員】  私の方からは、今後求められるリスクコミュニケーションの取組について、この委員会と作業部会に1年近く参加させていただいて、その中で、本当にいろいろ、これからやらなければならない取組の話が出てきていると思うので、その中で特に大事だと思った点について、1点に絞ってお話をしたい。
 この作業部会と委員会の中では、リスクコミュニケーションというものをそもそもどう捉えるかということで、現時点ではある種の作業仮説というか、考え方として、社会のいろんな層の人が、対話・共考・協同を通じて、多様な情報及び見方の共有を図る活動がリスクコミュニケーションだと押さえているわけだけれども、やはりこの1年近くの議論の中で、私が一番ポイントではないかと思ったのは、そういった対話とか協働とか共考という場を、現実に社会の中にどれだけ行き渡らせることができるかということだろうと思う。
 今、原田先生からも御紹介いただいたけれども、作業部会の中で、前の内閣広報官室内閣審議官の下村さんのインタビューを事務局でしていただいて、その内容を御紹介いただいたけれども、その中で下村さんが強調されていたのが「普段化」ということで、非常事態になって初めて何かコミュニケーションの仕組みをこしらえるのではなく、やはりそういうものをふだんからどれだけ当たり前に行っていくことができるかがポイントだと、震災の経験を基におっしゃっていて、ここが一つのキーワードになるのかなと思った。そのために、今後やるべきこととして、来年度からの事業の中にも一部含まれると思うけれども、やはり地域レベルで、小さなものでも構わないので、こういった対話・共考・協同という場を、それも少なくとも数年単位で継続的に。やはりこういうものは、一瞬やってそれで終わりだと、なかなか「普段化」ということにならないので、少し粘り強く継続的に、そういった対話・共考・協同の場を支援していくのが、それぞれの取組はもしかしたら非常に地味なものになるかもしれないけれども、結局、近道なのではないかと感じている。
 例えば作業部会でお話を伺った事例が幾つもあって、例えば京都大学の矢守先生からは、津波避難に関するアクションリサーチの御報告をいただいたし、それから東京工業大学の西條先生は、科研費での御研究ということで、介護予防のまちづくりの取組、そういったものを御紹介いただいたけれども、やっぱりこういった、地域に密着した取組の中にこそ、リスクコミュニケーションを「普段化」して社会の中に広く行き渡らせていく可能性があるのではないかと考えている。
 これは私の同僚がずっとやっている仕事だが、北海道でも、北海道大学の農学研究院の研究者が中心になって、BSEの問題、それから遺伝子組み換え作物について、様々なステークホルダーを集めた対話の取組を、もう10年ぐらいのスパンで行っている。これは先ほどJSTの長谷川さんから御報告いただいた中にも、有識者インタビューの対象としてお名前が挙がっていたけれども、この取組も、JSTの社会技術研究開発センターなどの支援によって、ずっと10年単位のスパンで続けられているということがある。こういったものを地道に支援していくことが、一つ求められる取組なのではないかと感じている。
 一つは、これはなかなか、直接支援の対象とできる取組の数には限界があると思うので、やはり支援の枠組みの中に、そういうそれぞれの地域での支援を受けて行った活動の経験を蓄積したり発信したりということ自体も、その支援の枠組みの中に含めて、それによって、こういったリスクコミュニケーションの考え方や実践の手法を、例えばそういうものを必要としている自治体の関係の方とか、NPOの関係の方とか、それからやはり報道関係者の人たちとか、そういった社会のいろんな層の方に共有されることを目指していくと。そういった蓄積・発信の活動も、支援の枠組みの中に含めて考えてみたいと思っている。
 あともう一つ、この作業部会と委員会の中の議論で私が重要かなと思ったポイントは、こういった対話・共考・協働の場をやっぱり組織する中心になる主体は誰なのかということ。それで、やっぱりそれぞれのステークホルダーと一定の距離は持ちつつも、きちんと信頼関係を築いて、一時的なものに終わらせずに継続的にその場を企画したり運営したりということをできる集団を、やっぱり地域や課題によって、誰がそういう場の組織者になるのがふさわしいかは違ってくると思うので、ケース・バイ・ケースで支援していくことが、この場合、必要なのかなと思う。
 これは、作業部会では、例えば西條先生のお話などにあったけれど、やっぱり大学とか、そこに所属する研究者は、その役目を積極的に担うべきだという指摘もあったけれども、これは課題とか状況によっては、そのような研究者だけではなくて、例えば、研究者も含まれるけれども、学会とかNPOとか、物によっては自治体が担うということが適当な場合もあると思うので、そういった場の組織をできる主体を継続的に支援していくことが必要かなと思う。
 それで、せっかく来年度から早速、人材育成の事業がスタートすることになっているので、そういうものと連動して、来年度行う予定の事業の中で輩出される人材が、またこういった地域の中で対話の場を作る取組の中で生かされていく形を作っていくことが大事ではないかと思っている。
【堀井主査】  次の資料2-5の、山口委員は本日御欠席なので次回に御説明いただくとして、続けて資料2-6、寿楽委員。
【寿楽委員】  私も字だけの紙で恐縮だが、私から申し上げたいことは、先ほど資料2-2で河本委員が御紹介、御指摘になったことと重なる部分も多いが、このリスクコミュニケーションのメタな側面というか、原理原則に関わる部分も重要なのではないかということ。そのために、例えば具体的にはこうというつもりで準備した資料である。
 この委員会あるいは作業部会、どちらでもだと思うが、このリスクやリスクコミュニケーションという言葉が、実はいろいろな含意を含んで使われて、それは場面とか、それぞれの専門家の専門分野であるとか、あるいは立場、研究者なのか行政官なのか何なのか、あるいは一般の市民の方にとってどうかとか。そういうことによって、これらの言葉が非常に多様な意味を持つ。まず考えられる主要な意味の一つは、例えば災害情報をいかに広く共有して、その対処について、分かっている的確なやり方を知ってもらうというような、既知の実践的情報の伝達や流通を重視する立場。「既知の」ということの中には、例えば、何がまだ分からないかという情報も、分からないこと自体は既知なので含まれるわけだが、例えば地震とか津波とか自然災害について、今分かっていること、分からないこと、それに対してどのような備えが非常に具体的な防災行動として重要であるかを伝えるのも、リスクコミュニケーションという言葉に、この場の文脈では含まれるように思う。他方、例えば今、三上委員も御紹介になった、作業部会の検討状況報告でも、対話・共考・協働を通じて多様な情報及び見方の共有を図る活動のようなものは、そういう既知の事柄、もう分かっていることについて皆で共有するだけではなくて、そもそもどういったスタンス、基準、考え方で、我々の社会は、それぞれの個別具体的な問題に対処するのかというような、メタな意思決定に関わる対話や合意形成というものが、また別途あると考えられる。これもやはりリスクコミュニケーションという言葉に含まれるのではないかなと思う。
 前者は、やはり正確に速く、より広く伝えることが、主要な目標になるだろうが、後者は、どこに結論が行くかというよりは、やはり手続的に公正で正統性があって、しかもそこに必要な専門的な情報がきちんとインプットされて、質の高い意思決定や対話が行われているかということが重要になるなのかなと思う。どちらも非常に重要で、どちらも正当なものであり、どちらかが間違っているとか適切でないとかいうことではない。ただ、それに更に掛け合わせて、具体的にどういうテーマをどういう場面で扱うのかにも関わると思うが、いずれにせよ、ここを無意識に、リスクコミュニケーションという言葉で違うものを思い浮かべながら、しかも、その違いに気づかないままに、こういう場で議論したり政策を打ったりするのはよくないだろうということを強調したい。
 前者については、私自身の専門性がさしてないということと、逆にほかにこうしたことに非常に専門性や関心を有しておられる委員の先生方が多数御参加になっていて、例えば今、原田委員から御紹介のあったようなものは、前者の部分を市民の皆さんで協働しつつ、後者の方に入っていくような内容だろうし、この後、大木委員から御紹介があるであろうものも、そういったものかなと思うので、私からは立ち入らない。
 それで、私は後者について、特に今回の事務局から先日来、出ているものの中で、大学・研究機関とか学協会とか行政が、リスクコミュニケーションについてどのようなことをするべきで、どのような支援をするべきかというアジェンダが一つあったと思うので、そこについて、余り具体的でなくて恐縮だけれども、メタなリスクコミュニケーションが必要なのではないかなという文脈からコメントしたい。
 例えば、あるリスクに関わるテーマについて専門性を持つ学協会があったときに、そこが行うべきことは、単に専門的な情報を随時分かりやすく提供するというような簡単なものでは恐らくないと思う。コミュニケーターを作ればいいとか、学会であらかじめ体制を整えればいいということではないと思う。むしろ、実践的な対応の方法を具体的に考える上でも、そもそも、その学協会は、社会の中でどういう責任や役割を負っていて、我々は構成員としてどういう行動をするべきなのか、そういうことについての、その学協会の中での合意形成がないと難しいのではないか。
 これは実際の例で、例えば震災原発事故の直後だと、気象学会で会長の先生から、各自、てんでばらばらに情報を発信してはいけないというような、慎むようにというような声明があったけれども、それはよくないのではないかという批判があったということがあった。これも、この学術団体は、そういうクライシスコミュニケーションのときにどういう役割を果たすべきなのか、いわゆるユニークボイス論とも関わるけれども、確認されて統一された情報を発信することが、社会にとって望ましい、また彼らにとってもやるべきだと自覚している事柄なのか。あるいはそれぞれの研究者が自由に自分の見解を、各自に社会に対して直接発信することの方が、多様な情報を社会に提供して、選択肢とか判断の根拠を提供するので、よいのだという立場を取るのか。これは学会の中で、また学会が社会と対話しながら、よくよく議論して共通認識を深めておくべき事柄かなと思う。
 また、とりわけ工学系というか技術系の学会だと、例えばアメリカの学会、アングロサクソンの社会では、専門家という個人の単位が重視されるので、プロフェッショナリズムの考え方に基づいて、職能団体として、どのような義務や責任を果たすべきかという議論がよくされるけれども、他方で日本では、そういう分野でも学会と称することが多い。例えば、ASMEというのは、全米機械技術者協会と訳すのが適当だと思うが、日本のカウンターパートは機械学会となる。こうした違いについては、明治維新以来、日本がそういう分野をどう受容してきたかということが背景にある。しかし、いずれにしても、例えば原子力学会というのも、原発事故の後、当然、いろんな役割を期待され、また内部でも議論があったけれども、私が見聞きした範囲だと、やはり職能団体的に捉えて、積極的にコミュニケーションとか、現場の支援に会員が出掛けていくという立場がまずある。それで、それを学会が動員・支援するようなイメージで学会員が行動すると、「学会」であるのに個人の行動にいわば命令するような態度を取るのはけしからん、学術団体としてはき違えではないか、という、別な学会員からのお叱りがある。しかし、こうした指摘に対して分かりました、そういう活動は遠慮します、と言うと、原子力学会なのに、こんなときに何もしないのは、原子力分野の学会として意味がないじゃないかみたいな反論がある、そういう議論があった。こうした議論は、先ほども御指摘があったが、何か起こってからするのでは、恐らく遅いのであって、ふだんからそういうことについてあらかじめ議論をして、合意を深めておく必要があるのではないか。ところが、現状では、もし学協会がそうした議論をしようとしても、そういうことをするのにはお金も出ないし、専門家を呼ぶといっても、誰を呼んだらいいのかも分からないだろうし、あらゆる面で非常に資源が不足するので、そういう場面を支援する活動があってもよいのかなと。
 大学も同様。大学が特に、例えばある特定の地域に非常に深く根付いているような大学では、その地域の知の拠点として、単に教育や研究を内部でやっているだけではなくて、地域社会から非常に期待されているという場合もあるだろうし、他方、研究機関や大学の種類によっては、余りそういう位置付けではないつもりで構成員が仕事をしている場合もあるだろう。そういう事柄について、それぞれの組織の中で議論して、共通認識を深めるようなことがもっとあってもいいはずだ。そのためのインセンティブとして、そういうことをすることは社会から求められていて、そのための資源も提供されますよという政策があるならば、よいのではないかと思う。
 また、それから行政の場合は、これは繰り返し私が申し上げていることだけれども、主体的に市民が考え、行動し、判断するようなリスクコミュニケーションを、いわば喚起していくのはいいことなのだけれども、それはともすると、今までは行政が面倒見てくれていたことを、これからは自分たちで考えて自分たちでやってくださいねという話なのか、という解釈も招きかねないわけだ。例えばそういうことも、その地域の自治体あるいは国の政府も、どちらもそうだけれども、どこまでが行政の役割で、どこから先は地域の皆さん御自身で考えていただきますよという社会的合意、了解が必要ではないか。もちろん、決めるのは皆さんだけれども、実際やるときには手伝いますよとか、権限や責任の分担の仕方については、いろいろな形態がありうると思う。これも、場面とかいろんな文脈によって異なるので、平時のうちにきちんと議論して、共通認識を培っておかないと、いざ何かあったときに、そっちがやってくれるのではなかったんですかとか、いや、うちの管轄ではないですよとか、そういうことになると、非常によくないわけである。だから、そういう平時におけるメタなリスクコミュニケーションをもっとやってもいいのではないか。こういうことにお金とか人材とか専門的な知見を供給する仕組みが何か考えられないかなと思った。
 また、以上の活動を進めるためには、やはり学術的な裏付けが必要なので、そのための学術的な実践や研究活動にも、併せて支援を行うのも当然あり得ると思う。おおむね、そんなところである。
【堀井主査】  では続けて資料2-7、大木委員。
【大木委員】  資料に言葉もいっぱい書いたけれど、それは、後でもし気に入っていただいたら読んでいただくということで、今から具体的な事例のお話と、それからその事例をややちょっと俯瞰(ふかん)的に見たお話の二つを、行ったり来たりしながらお話ししたい。
 資料の写真を見ていただきたいが、私、さきおとといまで、ヒマラヤの中の標高2,000メートルぐらいのところの学校に防災教育をしに、インドに行っていた。ちょっと今、おなかを壊しぎみなくらい、インドから帰ってきたばかりである。で、何をやってきたかというと、インドはヒマラヤでしか地震が起きない。広い国だけれど、あそこでしか起きない。それを、インドの子供たちに、今、防災教育をやろうということをしてきた。写真が三つあるけれど、最初、まずプレーヤーは、私たち日本の地震学者とインドの地震学者と、それから私の学生たちを5人連れていって、あと日本で日本にいる外国人のために防災教育とか何かリスクのことを暮らしやすくなるために伝えているNPOの方に来ていただいた。
 で、やったことは、まず初日は、ヒマラヤがなぜそこにあるのかとか、なぜそこだけ地震が起きるのかとか、そういうヒマラヤのテクトニクスの話。それから私が3・11のときの津波の映像を見せて、泣いちゃった子がいてちょっと申し訳なかったけれど、映像を見せて、それで日本で防災教育をやっているんだよと言って、質疑応答。でもインド、これは大体14歳から17歳ぐらいの子たちだが、質疑応答1時間以上、すごい質問がどんどん出てという感じで、非常に熱心だった。
 それで、翌日にハザードマップ作りをやった。どういうふうに作ればいいかというコツを伝えて、写真をたくさん撮って、先ほども御紹介があったとおり、その中から15枚選ぶということをして、それを模造紙に作る。それはアナログチーム。デジタルチームはグーグルマップに載せていくというふうに、ITチームとアナログチームに分けてやった。その後、それぞれがプレゼンをするというのを2日目にやった。
 そして何が起こったか。子供たちにどういう変化が起きたかというと、最後に、キャプションのところに書いたけれど、プレゼンの中でその子たちが、私たちは一言もプッシュしていないにも関わらず、彼ら自身が、きょうまで世界は全く安全だったと言った。このレクチャーを受けるまで世界は全く安全だったと。でも今は、自分は危険が目に見えると。しかも、それは自分が毎日目にしているごく普通のものだと。蛍光灯であったりブロック塀であったり、そういったものが、つまりawareした(気付いた、認識した)ということ。awarenessを与えたと。しかも、それを自分でそしゃくして、人に伝えるというところまで来た、たった二日で。それともう一つは、15歳、日本だったら中学3年生ぐらいの男の子が言ったことで、プレゼンが終わってから、最後に僕からメッセージがあると言って、僕らはもう一度、命の大切さを考えるべきだと。で、命について、くだらない使い方をするなと。もし誘惑に負けて、くだらない使い方をしそうなときは、家族の顔を思い浮かべろということを言った。それは、日本だったら中学3年生ぐらいの男の子は恥ずかしくて言わないと思うけれど、言わないだけで多分同じことを感じているはずで、やっぱり本物できれいなものを若い子たちは求めていて、そしてそれを、自分でこの子たちがそしゃくして、自分の言葉として言った。しかもそれを他者に向けてメッセージとして言ったという変化が起きた。
 そこで、いつこの変化が起きたかにすごく注目しなければいけなくて、それは初日の質疑応答ではない。つまり、ヒマラヤのメカニズムがどんなに分かっても、別にそれで内発的な気付きが与えられて、それがメッセージになるわけではないことにすごく注目しなければいけない。つまり、リスクを扱う分野に関しては、宇宙とかはいいけれど、食の安全とか、災害科学とかにおいては、科学コミュニケーションでいいことした感で満足していては駄目だということを、それでは目的を達成していないということをきちんと認識しなければいけない。多分、ここでのキーワードは、権威的言葉、ヒマラヤがなぜできたかというのは、聖書にそう書いてありますみたいな、科学者による権威的な言葉が、彼らにとっての内的説得力を持った言葉に変わったという、これがすごく大事なのではないかと、私自身、気付きを得た。
 そう考えたときに、まさに国が事業としてやるときは、極めて権威的言葉になりがちであるということ。それから人材育成をしたときに、自分がリスコミのプロであるということにどんどん自覚していけばしていくほど、もしかしたら権威的な言葉になってしまうかもしれないということ。人材育成と一言に言うけれど、それがあるべき状態、目指すべき社会の状態とコンフリクトしないのかということを、真面目にこの委員会では考えなくてはいけないのではないかなと、そういうことも念頭に置いておかないといけないのではないかなと思っている。
 結局、何が起きたかを俯瞰(ふかん)して申し上げると、この子たちは、教育を単なる受ける側だったけれど、それがアクターに変わった。そういう中で、この授業を受けていない人、全校生徒はいっぱいいるので、授業を受けていない人たちに、彼らは既に伝え始めている。同じ寮に暮らしている子たちに、もう伝えたりしていると。そうやって周辺が巻き込まれていって、全体の防災力が上がったということが起きた。例えば別の事例で申し上げると、私、これは同じことを日本でもやっているのだけれども、杉並区の小学校の取組が下の写真である。この前、NHKで放送されたが、小学校4年生が3年生に発表会をするときに、我が子の発表の雄姿を見に来てくださいと、保護者に声を掛けた。それで、保護者とか、地域の方々とか、区議会議員さんも来てくださった。地域の方々は、別に防災に興味があって来たのではなくて、子供の発表を見たくて来たのだけれども、子供たちが、避難場所になり得るオープンスペースのある公園に、非常に古いブロック塀があるのが残念だと発表した。それを聞いた大人たちは、子供が見つけた危険箇所で、もし事故だとか、もし地震のときに我が子が亡くなるようなことがあったら、それはもはや私たちの責任だと大人が言った。それは、私が講演でそうでしょうとか言うのではなく、こういう大人に対して子供がアクターになった。子供が内的な説得力を持って、それを人に伝える、アクターになる。それが更に周辺に作用して、保護者にも影響をもたらす。こういうことを考えてデザインして、防災教育を私はやっている。
 例えば徳島県では、中学生に授業をやったけれども、4コマ漫画の教材を作って、一コマ目は救援物資が100食分届きましたと。次のコマに、避難者は500人よ、どうするのと、しゃべっている。それはうちの学生に演技してもらった写真を撮ってそれを使っている。そうしたら、次の物資がいつ来るか分からないし、うーんと悩んでいる、そこのせりふを空白にしておいて、ここのせりふに入るものをみんなで考えようと言う。そうすると、いろんな、お年寄りからやったらいいんじゃないかとか、お年寄りで100人超えたらどうするんだとか、そういう議論が起きてきて、結局、お年寄り、子供からやろうという結論を中学生たちは出したけれど、別にそれは正解があるわけではないが、それを発表した。そうしたら、発表を見に来たおじいちゃんたち、つまり孫におじいちゃんたちに先にあげるよと言われたおじいちゃんたちは何と言ったかというと、若い君たちからおにぎりを食いなさいと言った。そして、その場でどういう結論になったかというと、やっぱり防災リュックは持っていないと駄目だと。だから自分は、おじいちゃんはおじいちゃんが持ってきた備蓄を食べるから、届いたのは君たちが、おなかがすいている若者なんだから食べなさいと言った。それは、防災リュックの重要性をどんなに私が言っても、そこに至らないわけで。こういうふうにデザインするというのが、すごく大事なんだと思う。別にこれは、リスコミをしているとは当人たちは思っていなくて、本当に単に……思っていない。だから、そこの部分もうまくデザインしていきたいなと思っている。
 徳島の事例で、もう一個、私が意識してデザインしたのは、学生が作った教材ですといって、うちの研究室の学生たちの写真を使って教材を作った。その後で、教員の人たちに、私は防災はやっているけれども教育のプロではないので、きょうの教材ってどういうふうに改善の余地がありますかと。うちの学生の卒論なので、ちょっと考えてくださいと言ったら、すごい、先生たちから意見が出てきて。もう、俺にやらせろぐらいの。で、それも私は、そういう作戦でやっている。中学2年2組で授業をやったので、次の3年1組でやるときは本校の校長と教頭でやりますというふうに、先生たちを参加させる。で、先生をアクターにするという、そういう作成を組んでやっている。そういうことがすごく重要なのではないかなと思う。
 次に私がすべきことは、こういうふうにどんどん取組を進めている学校や地域があって、それをもっと知ってもらうとか、正当な評価をすることが必要で、今、ミシュランみたいに星付けしようかなとか思っている。そうすると、そういうものがあるらしいと、踊っていなかった人たちも踊り出すかもしれないし、保護者に、こんなに防災教育をやっている学校に子供を通わせていることを分かってる?、みたいに私はすごく言いたくなることがあって。保護者が、そうなんだ、うちは星三つだったんだ、知らなかったと言ったら、多分、学校ももっとやりやすくなる。というふうに、その指標を作らなければいけない。さらに、もしかしたら、その指標を三つに満たすためにコンサルが生まれたりして、新たなマーケットができるかもしれない。何かそういうふうに、防災自体をある程度は税金で支援しなければいけないと思うけれど、ハードではない部分については、一回税金でやると、もらい続けないとできない構図になってしまうのがすごくよくない。それでおいしい思いをする人もいると思うけれど、私はそういうのはよくないと思っていて、地震は、最低100年は続けなくてはいけないものなので、こういうことをうまく考えながらやらなければいけないなと思って、私自身は戦略的に進めている。
 なので、私からのキーワードとしては、権威的言葉というのをいかに内的説得力を持った言葉にするかと。それによって、内的説得力を持った言葉を持った人たちがアクターになると。で、あとは周辺参加。制度的周辺参加。周辺がどんどん、孫の発表を見に来ただけの人が巻き込まれていくという、そういう構図を作っていくのがいいのではないかと思っている。
【堀井主査】  それでは残りの時間で、今後求められるリスクコミュニケーションの取組についての意見交換を行うが、この意見交換というのは、三上委員からも言及があったけれど、来年度、実際にやることと密接に関係のある話だと思うので、もし可能なら、参考資料1について、先にちょっと御紹介をいただけるか。
【西山補佐】  参考資料1で、前回の委員会でも、概算要求段階の御紹介をしたが、リスクコミュニケーションのモデル形成事業として、平成26年度の政府予算案に3,300万円ほど盛り込まれている。資料の1枚目を簡単に御説明するが、これまでの委員会・作業部会での御審議を踏まえて、各分野の専門家がリスクに関わる際に、専門家集団とか組織として、リスクコミュニケーションを行う取組、組織的な取組を支援し、モデル化をしていくということで、学協会又は大学・研究機関における取組を支援期間5年以内で行う。数については、学協会、大学・研究機関、全部で二つなのか一つなのか、これは3,300万円という全体の範囲で数も決めることになると思うけれども、そういった形で、学協会、大学若しくは研究機関で、今後、リスクコミュニケーションの取組を主体的かつ組織的に行っていただけるところに、国側もしっかりとハンズオンで事業を作っていきたいと思っている。
 資料の2枚目はリスクコミュニケーションの推進として、1枚目の事業は、国、文部科学省が、補助事業として直轄で行うモデル形成事業なのだが、2枚目に、それと連動して基盤形成として、例えば先行事例等で行った知見とか経験を、しっかりと蓄積して一般化していくと。そういったことで、知見・教訓の蓄積・一般化を進めるための取組として、JSTにおいても4,000万円ほど予算を確保した。国側の事業とJSTの水平展開、知見を蓄積していく事業を連携して一体的に進めていくといったことで、来年度からの事業を、今、考えている。
【堀井主査】  ということなので、これがうまく進んでいくために、きょうの御意見を生かしていきたいということだと思う。全体的になかなか各省、非常に厳しい予算状況の中で、削減されることが多い中で、新規がこうやって認められたのは結構意義のあることかなと思うし、参考資料1の1枚目の囲みの中にあるように、昨年の7月におまとめいただいた重要事項の3の必要な対応の(2)と(4)が根拠となってこういう予算が認められたということで、この場をかりて皆様に感謝申し上げたい。
 それでは、先ほどのプレゼンの内容の質問とか補足とか、いろいろな御意見を御自由に御発言いただきたい。
【藤垣委員】  大木委員の発表を大変興味深く伺ったが、要するに権威的な言葉ではなくて、内的説得力のある言葉に、子供たちが変えるということかと。その後、彼らがアクターになって、周辺のおじいちゃんあるいは先生たちを変えていくというのは、非常に説得力があったけれど、その話と、防災教育のミシュランの話がちょっとつながらなくて。例えば、子供たちがそういうふうに変わった割合が高かったら三つ星を付けるのか。
【大木委員】  それが、すごく難しい。どういうふうに……。子供と先生の変化というのは、大体同じぐらいに起きるのですけれど、私の一番の問題意識は、防災対策といったときに、防災管理と防災教育があるはずである。で、防災管理というのは、建物が耐震化されているとか、備蓄があるとか毛布があるとか、ある意味チェックリストにできるもので、多くの企業も学校も、防災管理をしていることで防災対策は済んでいますとおっしゃるけれど、例えば、総務がマニュアルを作っているが、地震が起きるときは、営業だって企画だってみんな被災するわけで、営業には営業の緊急事態と平常時があると。それが防災教育の部分だと思う。人間が瞬時に生き延びる行動を取れるとか、そこをきちんと評価しないといけないと思っている。
 そこで、それの評価指標を作る。だから、その評価指標をどういうふうに作るかはすごく難しい。だから、避難訓練を月に1回やっていますとか、そういうあほみたいな指標ではなくて、子供たちが気付きを得てこういうふうに変化するというのをきちんと評価できるような指標にしなければいけない。それで今、御協力いただいているのは、格付融資をやっている銀行、政策銀行が格付融資をしていて、防災対策を進めている企業には利率をよくして融資するというのをやっていて、その開発者と一緒に共同研究をしながら、うちの学生の卒論の一環としてやっている。結局、防災教育は、今回も文科省の中で、教科に入れなかった。道徳教育が突然出てきてしまって、全然入れなかったので、別の方法で展開を広めていかなければいけないなと。そういう中で、中立的な立場と認識してもらっているアカデミアができること、あるいは、ある意味、私の責任として、そういった指標を作って展開していきたいなと思っている。
【藤垣委員】  もう一つ分からないのは、瞬時に生き延びるための行動を取れる子供になったかどうかを、どうやって測るか。
【大木委員】  それは結構、いろいろ自分がリサーチに開発したものをやって、訓練をやって、非常によくそれは見えていて、抜き打ちで訓練をやったときにどうか。で、本当に抜き打ちで起きてしまったのが3・11で、そのときに、やっぱりその教育をやっていたところは、非常に行動がよかったということで、それは何らかの方法で測ることができるかなと思っている。
【堀井主査】  先ほどプレゼンいただいて、どの御発表も本当にもっともだなと思っていたのけれども、整理の仕方として、参考資料1の、来年度、具体的にやっていくものとして二つ大きく挙がっているけれども、寿楽委員の御発表の内容というのは、左側の部分に対する御示唆と受け止めたし、右側の部分として具体的にどうやっていくのかを考えた上で、三上委員から御説明のあったことは、ここにうまくはまるのかなと。そのときに、経験を蓄積し、発信していくというものの内容としては、大木委員の御発表になったこととか、原田委員から御紹介のあったこととか、そういう具体的な成功事例みたいなものを蓄積して発信していくということなのだろうなと、聞きながら思っていた。
 それで、三上委員に少しお考えを教えていただきたいと思うけれども、そういうふうに成功事例を蓄積して、伝えやすい形にしていき、残るし、みんなが参照できるような形にしていく。それを支援していくというのは、すごく分かりやすいけれども、それを伝える、伝えられる側というか、そこに集まってきて話を聞いてくれる側とか、どういう人をどういうふうに集めたらいいのかなと。そういう活動が、言われた「普段化」ということで根づいていく。どういう相手をどういうふうに巻き込んでいったらいいのかということについては、何か具体的なお考えがあるのか。
【三上委員】  レジュメにも少し触れていて、もちろん対象はいろいろあるとは思うけれども、ここでやっぱり鍵になるのは、どこでもそういうことが行われるようにすること。これは、すぐにはならないと思うけれども、でも5年、10年というスパンで見ていったときに、やっぱりどこでもそういうことが普通にあるというふうにしていかなければいけないなと私は思ったし、そうなったときに、ほかの地域でこういうことをやられているのだという情報をキャッチして、自分のところでもやってみようとか、できないだろうかという動きの核になる層の人たちに、まずはうまく伝えていくことが大事かなと思った。
 それで、自治体関係者とかNPOの方とかも挙げたし、それからレジュメの中で触れた、私の同僚が北海道でやっている食の安全に関する自立と対話の中では、この中に、うまく地元の報道関係者を、長いことコミュニケーションをとりながら巻き込んでいる。それで、ちょうど先週、そういったステークホルダーのワークショップを、これはJSTの支援を受けてやられていたけれども、そこに新聞記者も来られていて、その問題を、BSEの問題なのだが、ずっと報道している新聞記者の方が来ていて、記事をまとめてくれた方がいた。それで、私がある意味非常に感動したのは、その書かれた原稿の中身が、BSEの規制の在り方についても触れているけれども、それについて、やっぱりどういうリスクコミュニケーションを地域の中でやっていかなければいけないかという、どちらかというとリスクコミュニケーションだとか、そういった対話の場の作り方みたいなことを軸にした内容になっていたこと。これはやっぱり、そういう場を継続して作っていくことの必要性みたいなものが、報道関係者の人にも、やっぱり長いこと時間を掛けてやっているだけあって、浸透しているんだなと。もしかしたら、書かれている方はそういう意識は余りなかったかもしれないけれども、あったのかなと思った。
 そんな経験もあったので、やっぱりそういう鍵になるアクターの人にどううまく、ほかの地域ではこういうことがあるんだと伝わっていくかということ。やっぱり、手っ取り早くと言ったら変だけれども、どんどん数を増やしていく必要があると思うので、そんなイメージでちょっと思っている。
【堀井主査】  なるほど。イメージとしては、何かいい資料を作って、講習会やシンポジウムを日本中、各地で開いていき、そこに核となりそうな、メディアも含め、いろんなステークホルダーに参加してもらうという形か。
【三上委員】  そう。何か具体は分からないけれども、本当、思い付きみたいな感じだけれども、そういった対話の場とか共考の場の、見本市のような、そういうものがどこかにあれば、相当多様な課題について、いろんな工夫を凝らした取組があると思うので、そういうものに触れられて、そういうものが普通に流通する形がもしできれば、非常にいいと思う。
【田中委員】  今の堀井先生と三上先生のお話は寿楽先生のお話、そして大木先生のお話ともつながると思う。手前みそになってしまうが、今年度、私が頂いているJST-RISTEX(社会技術研究開発センター)の研究費の中で、今、気象学会の方々で、リスクコミュニケーションをやりたいという人たちに、横から関わっている。
 そこで痛感するのは、ホモジーニアスな集団、均質な集団の中で、リスクコミュニケーションをやりたいといって気象学会の若手の活動が始まってスタッフが支援している。ところが、申し訳ないけれど、これまでのこの会合の議論の定義からすると、りすくではなく科学コミュニケーションの範ちゅう。自分たちの思うリスク感をどうやったらうまく伝わるかと思って工夫されているが、試行錯誤している段階。で、中には、そのことを熟知している研究者の方もいらっしゃるが、比率としては、何でみんな気象のこと、災害のことをちゃんとリスク認知してくれないのだろうというところで議論が続いている。一方で、先ほど指摘があったような震災後の反省もあるという、非常に矛盾した中で、ただ方法論は御存じないので、どちらかというと、自分たちのリスク知見を伝えていこうとしてしまう。
 そこに我々のスタッフが関わって、いや、でもほかではこういう事例がありますよ、ほかではこういう事例がありますよと、アドバイスさせていただいている。こういう非均質な集団が、違うタイプのステークホルダーに関わって、一緒にコミュニケーションを設計していくこと自体が重要なので。その場合、例えばマニュアルだけあっても多分駄目だと思う。例えば「気象分野だったらそうかもしれないけれども、違う知識体系から見たら、それってすごく上から目線ですよね」と別の視点でつつき続ける人がいて、またそれに対する反論があったりして、こうしたメタ・リスクコミュニケーションの議論があって、初めてリスクコミュニケーションが成長していくと思う。つまり、リスコミ活動の主体だけではなく、ファシリテーターの存在が重要かと思う。また同時に、今の三上先生のお話にあったイベントには、私も含めてスタッフが北海道に伺ったが、そのファシリテーターの支援のために行っている我々のスタッフが、その様子を見てすごく感動するわけです。また支援のために行ったスタッフがそこで発見する問題は何かというと、札幌と北海道では三上先生や吉田先生のおかげで、そういった良い取組が行われている。ところが、いわゆる全国紙とか中央のメディアでは、全然この視点ってうまく伝わっていないよね。つまり、BSEが北海道の中の閉じた問題になってしまって、BSE、良くわからないけど気持ち悪いよねみたいな視線が、やっぱり日本で支配的だと。では、これをどうやって、より広い視線に持っていけばいいだろうかということを、真剣に次の段階へ考えていく。
 こういった連鎖反応が起こるのが、コミュニケーションだと思うので。まあメタのメタ論みたいな話になってしまうけれど、ファシリテーター……。先ほどの大木先生も、自分の中でも結構感動して、変わる、気付いたという話があった。関わっていく者も、ただ単にコミュニケーションの知識を単なるマニュアル化してしまうと、新しいリスクコミュニケーションという知識を教えて回る人になってしまうので、それをいかに継続的に関わっていくかというのは、単純に防災教育の現場だけではなくて、そのメタなレベルがある。それを、例えば大木先生と私が組むとしたら、ではそれを、よりメディアで、より広いメディアアクターに知ってもらうにはどうしたらいいだろうねという、次のタイプのリスクコミュニケーションが発生するという、そういった連鎖を起こす仕組みを念頭に置いていく必要があるのではないかなと思う。
【藤垣委員】  聞いているうちに、もう少し整理する必要があると思っているが、参考資料1で出てきている、学協会及び大学・研究機関でやられる取組の話と、資料1で先ほど、JSTの科学コミュニケーションセンター事務局長の長谷川さんが御説明された、分野ごとの分類みたいなものは、どんなふうにリンクしていく予定なのかを、伺いたい。つまり、大木さんの話を聞いていると、確かに防災には防災の特徴があって、それなりの蓄積もある。それから、三上委員の話は食の安全だし、先ほどの田中委員の話は気象の話。で、私、個人的にちょっと福島県立医大の低線量被曝のリスクコミュニケーションをやっていると、それは医師が地域のコミュニティーと一緒に協力していくもの。それぞれに特徴があるし、それぞれの蓄積のされ方があると思うけれど、それをどうやってリンクさせていくのか。つまり、今ある資料だと、参考資料1の話と、先ほど御説明のあった資料1の話を、どうやってリンクしていくのかは、ちゃんと考えておかないといけない。
【堀井主査】  おっしゃるとおりで、多分、委員の方もいろいろお考えがあると思うけれども、調査をした結果、かなり幅広くいろんな分野の、いろいろな局面におけるリスクコミュニケーションの実態とか成功事例とか知見とかが整理されて出てくるので、これはリスクコミュニケーション全体を考えるときの全体マップみたいなものになるのではないかなと。で、具体的な何か取組を始めていくときに、全部を全て一遍にやっていきますということは多分できないので、やっぱり何か先行して行うべき事例というのを選んで進めていかないといけない。でも、それがほかの分野におけるリスクコミュニケーションとどういう関係にあるのかとか、ある分野で行われているサクセスストーリーが、違う分野ではどういうふうに役立てることができるのか。そういうことを見渡しながら進めていくことが必要なので、全体の調査はそういうときの役に立つと。で、ある程度ピンポイントで領域を絞り、実施期間を絞り、実施していく取組がどんどん水平展開して広がっていく。そういうことを目指しながら始めていくということだと思うけれども、そのときにどういうふうに展開していくのかということを考える上でも、全体マップというのがかなり有効になるのではないかなと思う。そんなところでよろしいか。
【藤垣委員】  分かった。
【西山補佐】  事務局から補足すると、基本的には主査のおっしゃるとおりだが、先ほどの参考資料1で申し上げると、2枚目の方に、先行事例として行う文部科学省のモデル事業と、あとそれを水平展開なり知見の蓄積をしていくという意味での科学技術振興機構の事業の関係を記載している。具体的に先生がおっしゃるような、どういうような仕組みなり、若しくは優先順位なりトピックをやっていくかということについては、まさにここの委員会での御議論を踏まえて我々も考えていきたいと思っているけれども、実際問題、幾つかの分野をトピックとして選んで、先行事例としての重点支援なりモデル化を我々としてはやっていくわけで、おっしゃるとおり、既存の取組の中で、いろんな分野、事例があるし、かつ扱う分野によって全然違う特徴なり性質があるわけなので、そういったものをどうやってほかの分野に水平展開をしていくかは、JSTの方でもいろんな経験を蓄積していって手伝っていくという、そういったことを少し考えていくべきかとは思っている。
【松尾課長】  1点だけ補足させていただくと、このモデル事業自体が、別に権威的な言葉でこうしたいということではなく、一応、予算要求なので、こういうことにしているけれども、この在り方が本当にいいのかどうかというのも、例えば学協会を支援する仕組み、今やもう、学協会というのが果たしてどういう固まりなのかというのも、恐らく権威的な言葉になりつつあるのかもしれないので、この仕組み自体がいいのかどうかというのも実は分からなくて、実は手探り状態ではある。
 ただ、一方でいろんな活動を連鎖させていくきっかけとして、学協会というものをまずは念頭に置いてやっている。ただ、実際、学協会というのが大き過ぎると、学協会としての固まりがないとすれば、それをもうちょっと違う形で支援したいとか、一緒になって取り組んでいくとか、そういうのも多分ありだと思う。まずはこういう形で、きっかけとしてこうしているけれども、これが本当にどんどん進化していくと、もっと違う形になるかもしれないので、それは柔軟に対応するということで、とりあえずはきっかけとして、こういう形で予算をとって、まずは先行事例をどんな形で支援できるかというのを考えていくと。そして、時々刻々変わっていく、多分、在り方について、柔軟に対応していくというような予算の執行なのかなと思っている。
 今、何か我々、上意下達で、これをせねばならないというイメージではなくて、何が行われて、何がどうなっているのだろうというのを、まずやっていくということなのではないかなと思っている。
【堀井主査】  関連して寿楽委員にお伺いしたいのだけれど、きょうお話しいただいた内容を、例えば具体的にどこかから始めるとしたときに、さっき気象学会という話もあったけれど、こういうところから始めるべきだみたいなことは、何かお考えがあるか。
【寿楽委員】  はい。より具体的にという御下問、なかなかそこが難しいところである。先ほど田中委員のお話で、気象学会では既に私が提案したようなことに近い取組が始まっているとのことであった。直近だと、やはり震災、原発事故に関連して、やはり何かよかった点はないかとか、あるいは十分に役割を果たせなかったのはなぜか、というような振り返りがあるところはやはり関心を持つだろうから、気象学会とか原子力学会というのは、真っ先に名前が挙がるところだろう。しかし、ほかにもいろいろあってよいのではないかと思う。例えば生命科学の分野も、技術の発展が目覚ましいので、このリスクについての議論も、広い意味で、倫理とか、そういうことも含めてするべきだろうし、実は最近、産業事故がまた増えてきている。化学プラントでの事故だとか、鉄道事故とか、ともすれば既に克服したと思われていたような産業事故が再び目につくようになってきている。そういう関係の学会も、あってよいかもしれないし、いろいろあり得るのだと思う。
 そう考えると、むしろこれは事務局への御質問でもあるが、先ほどの御説明では、5年以内の事業で、初年度3,300万円で、1件ないし2件の採択ということだったけれども、いろんな学会にそういう場を持ってもらう方がよくて、むしろ3,300万円で2件ぐらいしかできない規模の事業というのは、どういったものをお考えなのか。私のここに書いたイメージは、非常に概略的に、誤解を恐れずに言えば、大木委員がインドや日本で子供たちにやられているようなことを大人の専門家の先生方にも経験していただくということである。やはり何か、ふだんは考えたことがないようなことかもしれないが、それを考える機会をあえてつくる、余り接する機会がないかもしれない人たちとの対話を通して、考え方とか視点とか、そういうものが変容して、リスクについてのコミュニケーションがより多様で実りあるものになっていく、そういった機会を増やす支援事業として発展していけばよいと思う。今回はその最初の段階だと思う。
 そうすると、例えばそういうことのためのワークショップ、つまり、会員の専門家が集まって、現場を見たり、話を聞いたり、議論をしたり、実践的な訓練をしたり、そういう取組を、1日とか、あるいは何日か合宿していただくとか、どこかの地域に出掛けてなさるとかしても、1件で1,000万円とか1,500万円とか、そこまでお金をかける必要があるのかなというのは少し感じた。多く見ても数百万円程度で、それなりの規模の、実りある機会を十分つくれるのではないか。ただ、やった結果が、先ほどもあったけれど、ごく狭い範囲の、その場にいた人たちだけで、これはよかったねとか言ってお帰りになっておしまい、というのだと、やっぱり政府の事業としては余りにももったいないので、きちんと、その経過を参与観察できるような専門家がそばにいて、何が起こったかをきちんと記録して分析するようなものをセットにするとか、その成果が出版されるとか、そういうことが必要かなと思うが、そういうものを含めて考えても、1,2件と言わず数件単位でそういうことを、学協会とか大学・研究機関でできるのではないかなと感じた。そのあたりはむしろ事務局の方で、具体的に今の段階で、どんな事業のイメージをお持ちなのか伺ってから、もう少しお話しできればと思うが、いかがか。
【西山補佐】  まず、1件とか2件は、ありきで考えているわけではない。予算が3,300万円という数字があるけれども、当然、財政当局との折衝の中では、積算とか仮の形でお出しするわけだが、学協会なり大学・研究機関等で取り組む場合、恐らく人件費的なものも必要になるのではないかということで、通常の研究費だと、人件費とかが入ると1,000万円の規模にすぐなってしまうので、そういったことも考慮して、全体として3,300万円という数字がある。そういう意味では、出てくる申請の内容の中身によって、多く採択できる場合もあるし、逆に1件しか採択できない場合もあるのではないかと思っている。
【藤垣委員】  先ほど、御説明の中で、最初は大学、学協会でやるとおっしゃったけれど、参考資料3によると、リスクコミュニケーションの類型として、主体としては、専門家が、それから学協会、研究機関が、行政が、それから広報や組織メディアがとなっていて、恐らくそれ以外に、例えば地域住民がとか、地域住民を支援するNPOやNGOがというのもあると思うけれども、そういう主体も十分あり得る中で、今回は上の二つ、つまり大学、学協会を中心にやるという意味なのか。それとも、もっとオープンになっていて、そういう活動の事例としてよければ、どんなものでも対象となるというイメージなのか。
【松尾課長】  イメージとして、恐らくNPO、いろいろあると思うけれども、多分、そこだけがやるわけではなくて、多分その集団が何らかの活動をするのだと思う。もし本当に例えばNPOが主体となってNPOがやるということであれば、将来的にはそういうことも考え得ると思うが、まずイメージとして我々が持たせていただいたのは、例えば地震が起きたとき、専門家がどういう発言をするか。実は、寿楽先生が言われたメタな方というよりは、最初の方のイメージがあったのだけれども、そこから少し、やっぱりみんなで議論していこう。そしていろんなことをということで、将来的にはNPOであるとか地域であるとか、そういったところへの支援もあり得ると思う。とりあえずは、まずは学協会なり専門家という方、そういう集団がどういう活動を行っているのか、行うのか。そういったところからということで、こういう予算になっているので、将来的にはいろんなケース、支援の在り方、お金の出し方もあり得ると思う。あるいは大学、学協会を通じて一緒の場を作るということに、NPOとか自治体、一般の人が入ってもらった。その集団を作るのに、そういう環境整備をするための支援ということもあるし、まずはこっちかなということで、考えさせていただく。
【大木委員】  実は学協会がリスクコミュニケーションをするというのは、多分、デフォルトで難しいのではないかなと思っていて、なぜかというと、権威的言葉に慣れている人たちの集まりだから。しかも、これは何が問題で、すごく難しいかというと……みんな命が助かりたくて防災講演に来る。なのにプレートの話とか聞かされて、それで不満を感じない。そこが一番の問題で、きのうより頭がよくなったという、何か知的好奇心に対する、それを達成したことで満足してしまう。あともう一個は、やっぱり本当に自分が地震で死ぬと思っていない。だから、本当の本当に、どうやったら助かるんだろうと思えない。地震が起こる瞬間まで思えない。だから結局、権威的言葉で満足がいかなかったという不満が起こらないので、リスクコミュニケーションが発達していかない。双方、もともとそれが達成しにくい状況にあるのだということに、私は防災をやっていて気が付く。しかも防災講演で、自分の貴重な研究時間を割いて防災講演をやってやってるんだ、そういう雰囲気すらあって、もはやそれだけでは駄目なのだということは、もう学者たちの耳にも入らない。こういう活動自体はボランティアであって、研究者のやる仕事ではないと、私はもうたくさんそういうことを言われている、地震学会から。だから、それを変えていくのは多分、すごく難しい。
 それで、私は、そういうことをおっしゃる先生たちは別に変わる必要はないと思っていて。別にそれはそれでよい。その先生たちが話した、プレートがうんぬんかんぬんという話を導入に、例えば、それを内的なものに変えられる方法を持っているNPOの人なり、もともと何かそういうのが上手な人なり、そういう人たちがうまく仲介に入るという。そういう形でいろんな人が参加する。濃淡があっていいので参加するという。それこそ、ただ孫の発表を見に来ただけでも参加しているとか。何かそういう形に持っていくことをイメージしないと、多分、専門家を変えようというのは、絶対てこでも動かないと思っている。しかも、変わらなければならないというインセンティブが当人たちにないし、防災講演を聞きに来た人たちにも不思議と生まれないという、そういう状況にあるのだと思う。
【河本委員】  今の大木委員のお話で、実際に接しておられると、大変、変えることは難しいなという実感からおっしゃっておられるのだと思う。ただ、そういう意識を持った先生方がいてくれないと、どんなに専門知識を持っていても、その出し方や伝え方を、ここで言っているリスクコミュニケーションに資するような出し方を、そういった専門家が出してくれないと、そもそもその前提の知識の伝わり方が違ってくるだろう。そこを完全に諦めてしまっていいかというと、ちょっとそれは残念だなという気もする。
【大木委員】  いや、諦めるつもりもないし、諦めさせるつもりもない。どんなに分かりやすくプレートの仕組みが分かっても、防災行動に移らないというところが問題である。例えば赤信号が止まれだというのは、日本全国、全員分かっているのに、交通事故が起きているところが問題であって、赤信号は車が来ていなくても止まろうというマインドを持った人間になるとか、そういうところ。それは多分、専門知識のあるなしとかではなく、専門家と非専門家の知識のレベルを同じにしようというコミュニケーションでは、全くリスクコミュニケーションは達成できないということを、もっと踏まえなければいけないのではないかなと。だから、分かりやすく伝えるというのはすごく大事で、その能力を付けていくというのは、実際、地震学コミュニティーもすごく認識していて、それ自体は皆さん、そういうことに対する評価もある。けれどもそれが達成されただけでは、サイエンスコミュニケーションが美しく達成されただけで、リスクコミュニケーションが達成されたことにはならなくて、結局、地震が起きたときは、それが達成されたときと達成されていないときで、同じだけの人数が死ぬと感じている。
【河本委員】  リスクコミュニケーションがなぜ必要かというと、専門家がいて、行政がいて、メディアがいて、我々国民がいて、その中で、何を伝えなければいけないのか、相手は何を知りたがっているのか、相手は何を知っていて何を知らないのか、相手がどういう行動をとってもらわなければいけないのか。その辺のギャップがすごくできているから。当事者間にギャップができている。このギャップを埋めるというのが、まさにリスクコミュニケーションなのだと思う。だから当然、専門家としては、もう当然だよねと思っていることは、相手方にとっては当然ではない。で、相手は当然、こう言えばこう動くよねと思っていることはそうではない。我々は、こういうことを教えてくれればこういうように動きますよねと思っているけれど、そこを教えてくれないとか、そもそもギャップがある。そのギャップをどう埋めていくかというのが、まさに「リスク」コミュニケーションなのだと思う。
 そういう意味で言うと、専門の先生方が専門知識を伝えるときにも、どういう伝え方をするか、どこを強調して伝えるべきか、どういう背景を付けて伝えるかという、全体的な伝え方が非常に重要になってきていて、まさにおっしゃるように、大木先生がやっておられた、地震ってこんなものですよという専門の知識を付けただけでは、確かに人々は変化しない。そこからもう一つ、大木先生がやっておられるような取組をしないと動かない。そこはそれで役割分担なのだけれども、専門的知識の伝え方の中で、より、大木先生がやっている取組が効果的に動けるような伝え方って、前提としてあるのだと思う。それぞれの専門家の、ある意味で言うと、役割分担なのかもしれないけれども、それぞれの専門家なり、大木先生の取組のされ方なり、それを受ける側であったりメディアだったりが、そういうふうに役割を果たしていく中で、何が、どこが抜けているのか、お互いに何をしなければいけないかというのは、お互いにコミュニケーションして議論しないと、そこは分かってこないのだと思う。
 そこが一番大事であって、そのことを、この参考資料1で言うと、学協会と大学・研究機関と並列してあるけれど、実は学協会の皆さんたちにそういうことを知ってもらう、そしてリスクコミュニケーションの中に引っ張り込んでくる役割を、この右側の大学・研究機関が、まさにその中身を研究して、そういう働き掛けをしていくと。こういう位置付けではないかと思うけれども。
【堀井主査】  では、少し事務局から。
【松尾課長】  今、実は学協会にも幾つか行っているけれど、やっぱり温度差がある。大木先生が言われるようになかなか難しいなというところもある。それで、もう本当に歴史が長い学会というのは、多分そこがもうおっしゃるようになっているので、多分なかなか動きづらい。ただ、それも動かしていかなければいけないけれども。あるいは新しい技術を生み出していくような学会、新しい学会というのはむしろ、特に人の命に関わることについてやっているような学会については、やっぱりそれとリンクしてやらなければいけないということも起こってきている。むしろ世の中に対する発信というよりは、それを一緒に考えるというようなこともあるので、そういったところは恐らく今からまさに一緒になってやっていくような形でやっていった方がいいのではないかなということで、一つの候補で入れられるかなと。
 ほかに歴史がぐっと長いところで、事故・災害がぽんぽん起こるようなところは、なかなか先生たちの意識も変わらないので、それは変え方を少しやりたい。河本先生が言われたように、やっぱり変わってもらわないといけないので、どう変えるかは工夫が要って、それには学協会にお金を出して、リスクコミュニケーションを考えてもらうという方法がいいのか。あるいは違う方法がいいのか。そこは少し考えていきたいと。いずれにしろ、どんなふうにしていくと、みんながコミュニケーションがとれるかということを、少し工夫をしていきたいと思う。分野によって少しやり方を変えて。あとは、寿楽先生からあったように、いろんなシンポジウムをやるというのがもし効果的であれば、それも手なのだけれども、一過性にならないで、うまく継続するような形にしていかないと、何か予算が切れると終わりということでは良くないので、それがもしシンポジウムなら、やって蓄積していくのが継続的にいいのであれば、そういったことも考えていきたいと思う。とりあえずは、そういったことで、何となくいきそうな学協会というところを中心にやっていければなとは思っている。あとは徐々に考えていきたいと思っている。
【堀井主査】  今の話は参考資料1の左側の、要するに専門家集団として責任ある情報発信というストーリーの話でよいか。
【松尾課長】  はい。
【堀井主査】  それで、その右側のところで、さっき三上委員と少し意見交換させていただいたけれど、経験を蓄積して、それを発信して、Good Practiceを普及していき、いろんなところでそれが「普段化」されていくというのが、目指すべき方向だといったときに、どうやって巻き込んでいくかという話の中で、巻き込まれる側としての大学の果たす役割を少し御議論いただきたいなと思う。さっきは、メディアとか自治体とかは出ていたけれども、大学をどうやって考えていくのか。そのときに、COCはどんなふうになっているのか、もし情報インプットがあると有り難いと思うけれども。
【松尾課長】  COCは震災が起きた後、文部科学省で予算化して、地域と大学とがうまく連携するというようなことでの施策として始まった。今、何大学選定されているか、詳しく承知していないけれども、地域人材を輩出するとともに、地域といかにコミュニケーションをとるかというような形なので、その中では、恐らく若干、ここまでのコミュニケーションを本当にやれているCOCの大学がどれぐらいあるかというのは、実態がよく分からないけれども、これも念頭に置いているとは思うものの、そんなに多分、大きくはないのではないかと思う。
【堀井主査】  COCで手を挙げて採択されるようなところが、ここで考えているようなことを実施していってくれるのだとすると、Good Practiceをそういうところに伝えていくというのは、すごく意味のあることかなと。
【松尾課長】  機能として入れ込んでいくというのはありだと思う。
【堀井主査】  ほかに何か大学の果たすべき役割みたいなことで御発言いただけるか。
【寿楽委員】  大学に行く前の話も入ってしまうけれども、さっき大木委員が言われたようなリアリティー、いわば、「変わらなさ」とか、「気づきづらさ」というようなものは、学協会という単位でもあるし、また大学という単位でも同様にあると思う。他方、田中委員が先ほど紹介されたように、そうはいっても、この間、いろいろなことがあって、何かこうしたリスクに関するコミュニケーションのことについて真剣に考え、変えていかなければならないのではないかと強く考える層、大学の先生方とか、学協会の構成員が、一定程度、ある層として、人数は多くはないのかもしれないが、確かに存在すると思う。そこで、そういう人たちが学び、議論を深め、次に何をすべきかというアクションプランみたいなものを考えていく。そこをまずは支援するべきなのではないか。その先に、ようやく、学協会全体とか、大学や研究機関全体とか、そういう単位でのリスクコミュニケーションの広がり、深まりが見えてくるのではないか。しかし、小規模なグループの取組であっても、ちょっとした、人を呼ぶとか、みんなが集まって会議をするにも旅費が要るとか、資源の不足は大きな障害になる。むしろ、そうした小規模な活動こそ、資源不足が最大の障壁になる。そういう次元から地道に支援をすることが重要。
 だから、先ほど私がワークショップと言ったのも、先ほど事務局から言及のあった、公開のシンポジウムをやるというイメージよりは、まさに大木委員がされているように、その構成員の人たちが何かその日、得るものがあるような、きちんと設計された場でタスクをするという意味のワークショップである。で、そういうことをやるのには、張り付いている常勤の人を一人雇って、それで年間1,000万円の財源が必要で、というような積算の話ではないのではないかなと思ったわけである。
 だから、それぞれの学協会にしても大学・研究機関にしても、底上げをするというか、平均的にリスクコミュニケーションの能力や意識が高まるということを、目標とか測定の尺度にしてしまうと、余り効果的ではないだろうと思う。むしろ、その中でそういうハブになって、あるいはイニシアチブを取って活動してくれて、いざ何かあったときには中心的に役割を担えるような先生を助けるとか、その間のネットワーキングが進むような、そういう、もっと手前のところから政策を打たないといけない。だから、全構成員への研修だとか、大学に何か専属のプログラムを作らせるとかいうよりは、もっとずっと手前のところから着手してほしい。先ほどもあったように、意識が高くても、では何をしたらいいのか戸惑っているというケース、やっぱりそういう見えやすいチャネルがないと、どうしたらいいか分からなくなってしまうというケースがいっぱいあると思う。
 リスクコミュニケーションというと、ともすると、先ほどもあったが、自分たちの知っている専門的な事柄を伝えて分かってもらう、という面が前に出てしまうことが往々にしてある。また、知識や情報とともに、自分と同じようなリスク観を、相手に無意識に押し付けているような場合もある。専門家にとって「都合のいい市民」になってもらえると言うと非常に語弊があるけれども、そういうコミュニケーションに突っ込んでいってしまって、分野によっては、それが大いなる不信を招くことになる。安全を値切っているとか、専門家の責任を果たそうとしていない、だましているとか。原子力は典型的だが、そういうリアクションになって返ってきてしまう。しかし、これは市民の側からすれば当然で正当な反応だ。非常に意識が高い方々が一生懸命なさったことが、かえって次には社会からの不信を招くというのは、非常に不幸なこと、いわば社会的損失である。そうならないためには、もうちょっと内部で、そういう地道なところをよく議論して、何をすべきなのか、何が社会から見たときに責任ある振る舞いなのか、認識を深める必要がある。そういうイメージで申し上げている。
 だから、大きな公開のシンポジウムを開くということではなくて、それぞれの組織の構成員のうちで意欲・関心が高い人が、このことについて特に見識を深められるような場を、おっしゃるように継続的に、1年に1回でも半年に1遍でもいいのでできるようになると、5年後には全然違ってくるのではないか。あるいは3年後でも十分違ってくるのではないか。そういうイメージで御提案した。
【三上委員】  大学の件で、やっぱりCOCという言葉の語感から言うと、何か大学の中に新しいセンターを設けるみたいな語感もあるけれど、現実にやっぱりCOC的な、コミュニティーのセンターになったり、コミュニティーに対して大学の知的な資源を提供する窓口になっているのは、やっぱりもう少し個別の研究者であったり、個々の研究室だったりすると思う。例えば私が勤めている総合大学のようなところだと、そういうタイプの教員がいろんな部局にいて、何かがあったら、例えば私も農学研究院の研究者とはよく連携しているけれども、つながって、何か一つやるみたいなことがあるので、そういうところを、大学の側から言うともっと力を付けていかないといけないし、そういうところを応援していただけると、新しい取組ができたりするということが、一つあるのかなと思う。
【堀井主査】  それを具体的にどうやったら支援できるのかなというところ。COCって、仕組み自身というよりは、そこに手を挙げた人たちは、恐らく地域に関心があって、地域のためにプラスになる活動を大学としてやろうという人だと思う。組織がどうかという話は僕はどうでもいいと思うけれど、そこに手を挙げた人は、まさに先生がおっしゃったような人たちなのではないかなという期待感。
ちょっと次回、少し情報があれば、御提供いただき、別にCOCにこだわる必要は全くなくて、そういう人たちを発掘して、理念を共有して、情報を共有して、いい活動をしてもらえばいいということだとは思う。ただ、そういう人たちをどうやって見つけ出すか、巻き込んでいくのか、そこの仕組み。そこは少し議論、次回もできたらいいなと思う。
【田中委員】  両方の取組に関して言えることだと思うが、当然、幾つかの、六つ挙げていただいた分野のうちのどこかに重点化するというのは、ある程度はしようがない。でも同時に、そこに入っていない分野の方も、例えばそこにシンポジウムとか委員という形で関わっていただくことで、次につながるハブになっていただくという設計は、例えばこの学協会においても大学においてもCOCにおいても、例えば西條先生のやられたような高齢化の問題はどこだってあるわけなので、関西の方の似たような規模の自治体の人に、常に委員に入ってもらって関与してもらう。そうすると、自発的に自分たちもやらなくてはという、まさに大木先生の言われたような連鎖反応を意図的に、個人レベルの話でされていたけれども、それを大きな単位で設計に入れていってもいいのではないかなと、ちょっと感じた。
【堀井主査】  多分、水平展開していく仕組みを埋め込んでおくという意味だと思うが、それは是非考えなくてはいけないことだと思うし、この委員会自身も、そういう役割を担うべきなのかなという気がする。ほかに、残り時間も迫っているが、あと一つか二つか御意見いただけるかなと思う。
【大木委員】  先ほど、防災講演でプレートの話を聞かされて、全然命を守る話ではないのにみんな満足してしまうというのは、知的好奇心を得たことと、自分が死ぬと思っていないことだと言ったけれど、もう一個は、やっぱり不確実なことはそもそも聞きたくないから。だから、すごく本質的に難しいことだというのを我々は知らなくてはいけない。それに対して子供は、子供たちが写っている教室の写真を撮って、危険なものを全部リスト化してごらんと言うと、蛍光灯とか、机の上に置いてある筆箱とかも、同じように危険だと言う。それが3年生以上ぐらいになってくると、どっちの方が大きい危険かというのが言えるようになる。だから、大きい危険と小さい危険というキーワードを導入する。そうすると、街中でも、ブロック塀と何か別のものがあったときに、ブロック塀に比べたら、こっちの方が小さい危険だから、こっちに避難しようとなる。だから、ゼロリスクを求めなくなる、子供自体が。
 で、それを子供たちが、大きい危険は赤、小さい危険は黄色、安全は緑というふうに評価をした。公園にある古いブロック塀という大きい危険に対して、最初、保護者や町会の人が何と言ったかというと、おい、区議会議員、何とかしろと言った。つまり、それを全部取っ払って建て替えろという、ゼロリスクを求めた。で、私はそのときに、御自分ができることしかきょうは発言しないでくださいと言ったのと、もう一個は、10のリスクを2に持っていくのは簡単だけれども、2を0にするときは莫大な予算が掛かりますよ、私は別に杉並区民じゃないからいいけど、私の税金ではないけど、皆さんの税金ですからと私は言った。そうしたら子供たちは、大きい危険を小さい危険にさえしてくれれば、自分たちは、ダンゴムシのポーズ、安全姿勢を知っているので、生き延びることはできると。小さいけがなら我慢すると子供は言った。
 で、これは、リスクの概念を子供に伝えたくて、大きい危険、小さい危険というキーワードを導入したのだけれど、それが、あるとき、防災の授業ではないときに、担任の先生が忘れ物を職員室にして、「ごめん、ちょっと取りに帰っていい?先生」と言ったら、子供が「今なら間に合うから小さい危険だね。先生、おうちに取りに帰るなら大きい危険だよ」と言った。その場合の危険というのは、子供たちが騒いで授業にならないというのを、自分たちでリスクとして捉えて言っていた。ほかにも、社会科見学で下水道を見に行ったら、下水のふたは何で丸いかと。落っこちないためで、三角と四角は落っこちるという説明をしたおじさんに向かって、子供たちが、三角と四角は大きい危険だねと言って、下水道のおじさんはきょとん、みたいなことがあった。
 でも、そうやって既に、交通安全とか、先生の忘れ物一つとっても、下水のふた一つとっても、リスクという概念を持った。たった1回の授業と防災マップ作りで持ったということ。それで、これを、全体的なリスクコミュニケーションの中にどう位置付けたらいいのかは、私はまだよく分からなくて、私はリスコミと思ってやってきたわけではないのだけれど、ある意味、リスクという概念を子供たちが獲得してアクターになったときに、大人にもそれを作用することができたという、それを何かここにどう盛り込んでいいのかは、私はよく分からないけれど、何か例の一つとなればいいと思う。
【堀井主査】  子供を変え、子供を通じて大人を変え、子供が市民になって親になり、それによってそういうものが文化になるという手法は、片田先生が釜石でやってこられたことだし、きょう、河本委員が言われた、リスクに向き合う文化を醸成するという、一つの有力な方法だと思うので、三上委員の言われた蓄積、それからそれを展開していく、重要なGood Practice、内容なのだろうなと思う。
 【寿楽委員】  簡単に言うと、片田先生が1万人いればよいと言われたと、以前、片田先生がおっしゃったし、大木さんがもう何人いればとかいう話が、世間話的な場ではよくあるわけだけれども、それは、そのためだけのコースや学校を作って、毎年何百人入ってきてシステマチックに育てるという種類のものではないし、私は、そういうことはあってもいけないような気がする。やはりそれぞれの専門の中で、そういう意識とセンスを持ってコミュニケーションできる人を少しずつ増やす以外に多分方法はないような気がする。だから私は、それを学協会とか大学・研究機関の単位で、そういうマインドやセンスを持つ人が少しでも増えればと思っている。現状は、結局、サイエンスコミュニケーションをしてしまっているから、サイエンスの内容しか伝わらない。生き死にの話をしているのではなくて、地震や、それを引き起こす活動についての知識を伝えに行っていることになってしまっている。大木さんの言い方だと多分、そう言っている先生も、地震で自分が死ぬと思っていないと。
【大木委員】  そう、そう。
【寿楽委員】  だから、自分が地震で死ぬと思っていない人が話をして、相手に、地震のときどうするかという命の話が伝わるわけがない。だけど、大木さんのような意識で、それを目的にして話す人が増えれば、方法はいろいろ後からついてくる。それはやり方の部分の話で、実践的に改善していける部分だ。だから、そういう気付き、意識の転換が一番大事なのである。それを助ける活動には、1件何千万円で専従の人がいるのではなくても、いろいろやりようがあると申し上げている。また、これを公募するのだとすると、応募する研究者の側からすると、資金の規模が大きい代わりに、非常にしっかりした実行体制を作らねばならず、頻繁に厳しいレビューが入る、というような、通常の研究プログラムのようなものだとやれないような種類の活動だと思う。だから、小さいお金でもいいから簡単に申請できて、少額だけれども、誰かに会うとか、誰かを呼ぶとか、そういうことには十分生かせる使い勝手のいいお金にすれば、潜在的にそういうことをやってみたいと思われている方は、どういう組織にも一定の数はおられるので、そこから始めれば、今回は十分なのではないかなと思う。
【原田委員】  大木先生のお話を伺いながら、何でこんなに説得力があるんだろうと思って、自分の中で反すうしているようなところがあったが、一つ気が付いたのが、いわゆるヒマラヤがどうできたかみたいな大きな話ではなくて、それを聞いている人の極めて身近な問題に落とし込んで、マンホールのふたが丸い話もあったし、授業のとき先生が忘れ物を取りに帰る話もあったが、身近な話に引き寄せるのが、実はすごく大切なのではないか。そういうことによって、大きいリスクが小さいリスクになるし、もっと言えば、いわゆるヒヤリ・ハットみたいに身近な問題として感じてもらえることが結構通じるのかなという気がした。
 改めて、最初に頂いた資料1を拝見したときに、取り上げる事例の候補には、概して割合、大きい問題のものが多いような気がするので、報告書なりにまとめて事例紹介をされていくときに、いかに身近な小さい問題に落とし込んで、かみ砕いてそしゃくしていくかという観点が一つ入ってくると、大木先生がおっしゃったような意味での説得力が、印象強いものが出てくるのではないかなと感じた。
【堀井主査】  貴重な御意見をいただきどうもありがとうございます。次回もこの続きをやらせていただくけれども、とにかく予算の付いた、来年度の事業が本当に成功することにつながるような御議論を引き続きいただきたいと思う。

<議題3.その他>
【堀井主査】  事務局の文部科学省の方で人事異動があったので御報告をお願いする。
【松尾課長】  1月17日付けで局長の異動があり、川上局長が着任した。
【川上局長】  最後の15分の先生方の話のみを聞いて、この委員会の内容に触れるのは控えさせていただきたいと思うが、私もリスクコミュニケーションで最初に悩んだのは、課長補佐のときに低レベルの放射性廃棄物の処分の事業を担当したときである。放射線そのものが確率であってリスクである上に、処分になると、管理解放後の人間の行動そのものの不確実性がリスクを左右するという中で、どうやってリスクを理解していったらいいだろうかということを随分悩んだ記憶がある。それ以来、リスクの問題は扱わなければいけないと思ってきたが、今世紀になって、いよいよ、科学技術を社会が選択するに当たってのコミュニケーション問題に取り組まなければいけないということで、何とかそういう方向に進めていきたいとずっと10年間考えてきた。半年前までJSTの理事をしていた際、科学コミュニケーション事業を担当し、科学コミュニケーションを、それまでのほぼ理解増進の延長ではないかというところから、社会選択に関与できるようにしていく準備の一つ一つ、積み重ねてきたつもりである。
 このメンバーの中でも、平川委員、三上委員には、フェローとしてセンターに参加していただいており、まだリスクのみならず科学コミュニケーションは歴史が浅く、まだまだ整理しなければいけないことがたくさんあるという中であるので、一つ一つを積み重ね、新しい考えを導入し構築することが必要だと思う。是非、この作業部会、リスクコミュニケーションを取り扱い、考え方を整理して作り上げていただければと思う。よろしくお願いいたします。
【堀井主査】  最後に今後の日程等について事務局から説明をお願いする。
【齊藤専門職】  (資料3に基づき、今後の日程等について説明。)
【堀井主査】  以上で合同委員会を終了する。


 

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