資料2-3 リスクコミュニケーションおよび社会連携・共創の推進にあたっての基本原則についての私見

リスクコミュニケーションおよび社会連携・共創の推進にあたっての
基本原則についての私見


平川 秀幸 

0. 本文書のスコープと用語の定義

・本文書で「コミュニケーション」とは、(1)情報共有(情報の発信・収集)、(2)社会連携・共創(問題解決やイノベーション創出に向けた多様な人々・組織・集団間の対話や協働などの活動)を指すものとする。
・本文書でのコミュニケーション(情報共有ならびに社会連携・共創)の対象(イシュー)には、(A)科学技術の利用や自然災害、病原体等によって、人の健康や自然環境に悪影響がもたらされる可能性という意味での「リスク」の問題、(B)科学技術の倫理的・法的・社会的問題(Ethical, Legal and Social Issues: ELSI)、(C)科学技術の研究開発、イノベーションおよび関連する政策が取り組むべき社会の課題やニーズ、技術シーズに関する情報、知識、意見などが含まれる。
「リスクコミュニケーション」と言った場合には、もっぱら上記の意味での「リスク」に関する情報共有ならびに社会連携・共創を指すものとする。ELSIまで含めた場合には「リスク・倫理的・法的・社会的問題に関するコミュニケーション」と明記または「リスクコミュニケーション等」と略記することとする(下表参照)。
・本文書でのコミュニケーションが関わる分野は、主に先端科学技術や原子力安全、化学安全、食品安全などの分野であり、自然災害・防災問題については別途検討が必要である。また、マスメディアに関する検討も別途必要である。

 

 

 

 イノベーションまで含めたコミュニケーション一般

  リスクコミュニケーション 

 

 リスク問題

 ELSI

 イノベーションの
課題・ニーズ・シーズ

 情報共有(情報の発信・収集)

 リスクに関する
情報共有

 ELSIに関する
情報共有

 課題・ニーズ・シーズに関する情報共有

  社会連携・共創

  リスクに関する
社会連携・共創

  ELSIに関する
社会連携・共創

 課題・ニーズ・シーズに関する社会連携・共創(イノベーション対話等)

   
1. リスクおよび倫理的・法的・社会的問題への一体的対応の必要性

 リスク・倫理的・法的・社会的問題に関するコミュニケーションでは、次のような意味での一体的な考え方や取り組みが重要である。

1.1 リスクコミュニケーションとリスクマネジメントの一体性
(1) マネジメント/ポリシーの問題としてのリスクコミュニケーションの困難
・リスクコミュニケーションの困難は、しばしばコミュニケーション手法の問題ではなく、政府等のマネジメント/ポリシーの問題に起因する。マネジメント/ポリシーに対して人々が不満を感じれば、政府等に対する不信感が高まり、コミュニケーションは滞ってしまう。

(2) 相互作用的過程としてのリスクコミュニケーション
・その点でリスクコミュニケーションは、単に政府や専門家等からの情報伝達で終わらず、リスクにさらされた当事者からの疑問、意見、提案に応え、マネジメントの施策内容を政府等が変えうるという意味で「相互作用的」であることが重要である 。

(3) 上流からのリスクコミュニケーション
・そもそもリスクコミュニケーションは、リスクマネジメントに関する民主的な意思決定の一環として行われるものである 。対処すべき問題が何であるかを把握・特定するなど、リスク管理過程の初期段階(上流)から、行政や専門家、関連する事業者だけでなく、リスクにさらされ、リスク管理措置の影響を受ける住民・市民が意思決定に参画することが、多くの関係者が納得しうる内容の決定を行い、政府等の信頼を確保するために重要である。
ただし危機発生直後で迅速な意思決定と実施が必要な危機管理におけるクライシスコミュニケーションの場合は除く。危機管理については、平時において住民等の参画を通じて、措置内容を策定しておくことが望ましい。

(4) マルチプルリスク(多重リスク)への対応
・人々は常にさまざまな種類のリスクにさらされている。とくに危機発生時にはこれが顕著になり、リスク間のトレードオフにも留意した多面的なリスク対応(リスクコミュニケーションも含む)が必要となる。
たとえば福島第一原発事故により避難住民の場合、被曝による健康リスクだけでなく、避難生活全般による身体的・精神的ストレスとそれに伴う健康影響、就業や住宅確保など生活再建に関わる不安要因など、さまざまなリスクに直面しており、トータルでのケアが必要とされている。

(5) リスク問題や科学技術の課題に対する総合的なアプローチの必要性
・上述のようにリスクや科学技術の問題には、自然科学的・工学的な側面とともにさまざまな心理的・社会的側面があり、両方に配慮した総合的な対応が求められる。
・リスクマネジメントにおいても、自然科学的・工学的なリスク評価ともに、科学技術や政策がもたらす社会的影響(ELSIや経済的影響など)の評価(社会的影響評価)や、人々のリスク認知を構成する「懸念」に関するアセスメント(懸念評価: concerns assessment)なども含めた総合的なアプローチが必要であろう。また、これらの評価のための方法論についての研究開発や実践例の蓄積が重要である。

1.2 イノベーションガバナンスの一環としてのリスクコミュニケーション等
・リスク・倫理的・法的・社会的問題に関するコミュニケーションやリスクマネジメントは、科学技術が社会にもたらす発展の負の側面を扱うものであるため、従来、ややもすると後ろ向きで、イノベーションに重石を課すものとして捉えられてきた。しかしながら本来これらの活動は、新技術の「品質管理」の一環であり、「社会とともに創り進める」という点で、イノベーションを効果的に前進させるものだと考えるべきであろう。
・とりわけ、研究開発の早い段階から、新技術がもたらしうる正負の社会的影響・効果を、自然科学的・人文社会科学的な観点から多角的に捉えるとともに、これをふまえて一般市民を含む多様な人々とコミュニケーションを行い、新技術に対する期待や懸念、意見や提案を集めることは、実用化段階で発生しうるさまざまな問題点を事前に特定し、先制的に対処することを可能にする点で、イノベーションにとって有益である。
・以上の観点から、先端科学技術に関するリスクコミュニケーション等は、イノベーションを前に進めるための対話(イノベーション対話)等の社会連携・共創の活動の一環として、一体的に行われるべきものだということができる。

2. リスクコミュニケーション等における情報の公開・アクセスの向上の重要性

2.1 情報の公開とアクセス、検証可能性、透明性の向上、情報チャンネルの多様化
・リスク・倫理的・法的・社会的問題に関するコミュニケーションでは、情報の公開とアクセスを向上させることはすべての基礎であり、政府等に対する信頼感を確保するうえでも不可欠である。とくにリスクコミュニケーションでは次のポイントが重要である。
人々が状況を理解し、適切に判断し行動できるようにするための情報提供。とくに危機発生時では、自らの置かれた状況に働きかけることで主体性を回復できるような自己統御感・自己効用感を得られるような情報が重要。
情報やデータの信頼性を確認するための「検証可能性」や、施策等の決定過程や根拠を検証できるようにする「透明性」を高めること。
アクセスを向上させるために、地域住民にとって馴染みのある学校、社会教育施設(科学館や公民館、図書館)などを活用し、情報チャンネルを多様化させることも重要。

2.2 正確さとわかりやすさ、データの可視化
・情報公開では正確さとともにわかりやすさが重要。大量の測定データの公開では、データを可視化し、全体的な傾向を把握しやすくする工夫も必要。
・そのためには、可視化等のデータ加工やその自動化を容易にするために、データの公開フォーマットを揃えることも必要。

2.3 情報の暫定性への対応
・リスクに関する情報は、とくに事故直後など危機発生時においては、後から修正されることが珍しくない。このため、修正された情報が的確に届けられることが重要であり、情報を受け取る側でも、「いま得ている情報はやがて訂正されるかもしれない」という情報の「暫定性」を考慮し、つねに最新の情報を確認・入手するよう努めることが重要。

2.4 情報の多元性への対応
・リスク問題をめぐっては、しばしば科学的な観点からものであっても、専門家の見解が一つに定まらず、論争状態になっている。とくに危機発生直後はそうなりやすい。そのような場合に、幅がありつつも、できるだけバランスのとれた科学的見解をどう社会や政策決定者に対して提供できるかは、不確実性下での科学的助言のあり方の問題として、日本社会に課せられた大きな課題である。

3. 科学技術リテラシーを拡張する

 リスク・倫理的・法的・社会的問題に関するコミュニケーションでは、科学的・技術的知識や方法論等に関する理解(科学技術リテラシー)が重要であるが、それだけに留まらない。一般市民のみならず科学技術の専門家の側が備えるべき「専門家の社会的リテラシー」も含めて、次のように幅広い観点からのリテラシーの涵養、社会の中での共有が必要である。

3.1 リスクに関する科学リテラシーの必要性
(1) 科学に基づくリスク/安全性についての考え方
・確率論的な考え方、安全基準の考え方(用量反応関係、耐容摂取量等々)など、科学に基づいたリスク(または安全性)についての考え方を理解しておくこと。

(2) 等身大の科学についての理解(メタ科学リテラシー)
・科学に基づいたリスクの考え方とともに、基本的な研究方法(対照実験など)など科学の「有効性」と、不確実性や暫定性など科学の「限界」についての理解も重要。
科学が政策決定のなかでどのように使われるのか、リスクアセスメントとリスクマネジメントなど、リスクと科学に関する社会的プロセスについての理解も重要。
科学の不確実性・暫定性については「事前警戒原則(予防原則)」のような考え方についても理解が必要。
・メタ科学的側面も含めた科学リテラシーについては、マスメディアでの理解の共有も。
 
3.2 科学技術およびリスクの倫理的・法的・社会的問題についての理解
(1) 倫理的・法的・社会的問題の重要性と、対話による理解の深化
・環境や人の健康に対するリスクの問題以外にも、科学技術の発展・利用にはさまざまな倫理的・法的・社会的問題(ELSI)が伴う。また、一見、科学的・工学的な観点から対応可能に見えるリスクの問題においても、下記に見るように、倫理的・法的・社会的問題を含む心理的・社会的次元が存在している。これらの問題について適切に理解し、対応をはかることは、リスクコミュニケーションやリスクマネジメント、ひいてはイノベーション全般において成否を左右する重要な課題であり、科学技術及びリスクに関するELSIの研究や教育、理解の普及は、一般市民のみならず、専門家や政策決定者、マスメディアにおいても重要である。
・ELSIについての認識、考え方、態度は、人々の価値観や利害関心、社会的立場などの違いによって異なるものである。いいかえれば、そもそも何がどのように誰にとって問題なのかという問題認識自体が、人々の認識に大きく依存している。このため問題解決にあたっては、議題構築(agenda building)も含めて、多様な人々のあいだの直接・間接の対話が大きな役割を果たす。個人においても、問題の性質や他者の考え方を知識・情報として学ぶのみならず、対話的活動への参加を通じて相互理解・相互学習を深めるがことが重要になる。

(2) リスク問題における倫理的・法的・社会的問題のポイント
 リスクコミュニケーションでは、しばしば、リスク問題における倫理的・法的・社会的問題についての理解不足が、コミュニケーションを困難なものにする原因となることがあるため、以下に、リスク問題における倫理的・法的・社会的問題のポイントを列記する。

a) リスク認知(risk perception)における心理的・社会的な要素についての理解
・リスクの大きさについての認識(リスク認知)は、被害の発生確率だけでなく、さまざまな心理的・社会的な要素に関する認識によっても左右される。
・たとえば、リスクとベネフィットの分配の公平性、リスク受忍の自発性(自己決定性)、政府や事業者、専門家に対する信頼など、社会的正義に関わる規範的要素がある。また、しはしば「不安」という一言で語られる心理には、自らの運命に関わる意思決定(リスクマネジメントの施策等)に関われないことへの「不満」や、政策決定者等に対する「不信」という社会的な意味をもつ心理があることも重要な理解である。
このような心理的・社会的要素についての認識があるため、仮に発生確率という点では小さなリスクでも、それが押し付けられたリスクであったり、見返りとなるメリットのないリスクであったりする場合には、そうでない場合よりもリスクは大きく認識されることがある。
なお、この場合に認識されている「リスクの大きさ」は、発生確率から見た大きさではなく、さまざまな心理的・社会的な要素に関する認識を含めた総合的な「リスクの受け容れ難さ」を示すものと考えるべきである。
リスク認知については、しばしば発生確率で考えたリスクの捉え方が「客観的」であるのに対して、心理的・社会的な要素に基づくリスク認知は「主観的」だとされ、後者は前者に基づいて訂正されるべきだと主張されることがある。しかし心理的・社会的な要素には、公平性、自己決定性、信頼など倫理的に重要な社会的価値が含まれており、単に主観的であるわけではないし、したがって、客観的な認識に基づいて訂正されなければならないような「誤った」認識であるわけでもない。心理的・社会的な要素に基づく人々のリスク認知を「主観的」で「誤った」ものと見なすこと自体が、人々の不満や怒りを招き、リスクコミュニケーションを滞らせる原因となることに注意せねばならない。
リスクの程度の把握のためにしばしば行われるリスク同士を比較する場合も(リスク比較)、以上のようなリスク認知の規範的次元に留意する必要がある。(メリットのあるリスクとないリスクの比較や、受忍するかどうか自己決定できるリスクとできないリスクの比較は、しばしば反感を招く。)

b) リスクをとらえる二つの視点の区別
・上記のようなリスク認知の多元性に加えて、社会全体のリスクの把握と管理を目的に、リスクを統計的・確率論的に捉える「統計的視点(または統治者視点)」と、個人としてリスクに直面し、確率を度外視して「万が一自分や自分の親しい者が被害に遭ったら」と考える「個別的視点(または当事者視点)」の違いにも留意する必要がある。これらはリスクを捉える、どちらかに他を還元できない二つの見方であり、どちらも尊重されなければならない。(行政・専門家の側と一般市民の側の相互の理解が重要。)

c) 科学とリスク判断の関係
・あるリスクを人々が受け入れるか否か、安全・安心と判断するかどうかにとって、リスクに関する科学的情報や知識は重要だが、それらだけで判断は成り立たない。同じ情報を得ても、最終的な判断は、個々人の価値観や置かれている状況によって異なりうるのであり、個々の自己決定権が尊重されねばならない。専門家の役割は、この自己決定をサポートすることであり、パターナリスティックな対応は、たとえ善意に基づいたものでも、しばしば不満や反感を招くことに留意しなければならない。

3.3 「リサーチリテラシー」や「対話のデザイン・スキル」の涵養
・リスク・倫理的・法的・社会的問題に関するコミュニケーションやリスクマネジメントでは、人々が自ら、疑問に思ったこと、知りたいと思ったことについて調査するための「リサーチリテラシー(調べるための素養)」を身につけたり、その能力の向上を学校教育や生涯教育等を通じて社会的にサポートしたりすることが重要である。(社会的サポートについては次の4.でも触れる。)
・リスク・倫理的・法的・社会的問題やイノベーションの社会的課題等に関する社会連携・共創の実践が広く行われるようになるには、担い手の広がりが不可欠である。そのためには、ワークショップなど対話の場をデザインし運営できる「対話のデザイン・スキル」を、大学や行政、企業の関係者のみならず、NPOや一般市民も身につけ、実践できる環境づくりが求められる。
学校教育や地域の生涯教育の枠組みでのトレーニングも考えられる。(まちづくり等、他分野での先行例を参考にすることもできる。)

4. 個人だけでなく社会的な次元を重視する

4.1 リテラシー概念の拡張: 分業と協働という前提
・リスクの問題では、一人一人がリテラシーを高めることも重要だが、それだけでは限界がある。人々には、それぞれ独自の仕事や生活があり、科学技術や社会について、何にどの程度関心を持つかも各々異なるため、一人が身につける知識や能力の範囲には自ずと限界がある。いいかえれば人は、職業的や趣味的なものも含めて、特定の事柄については「専門家」であったとしても、それ以外の事柄については「素人」であり、そうした個人の分業と協働を通じて成り立っているのが現代社会である。リスクや科学技術に関するリテラシーを考える場合も、この点を大前提に置かねばならない。

4.2 社会関係資本や制度的資源としての「集合的・制度的リテラシー」
・このような分業と協働という観点から見て重要なのは、リテラシーを、単に個人がもつ知識や能力としてのみ考えるのではなく、社会の中で個人や組織が、さまざまな分業と協働の関係をむすぶことで成り立つ「社会関係資本」や、その際に活用可能な社会制度的資源としての「集合的・制度的リテラシー」という見方である。たとえば次のような仕組みや取り組みは、個人の学習や調査をサポートする集合的・制度的リテラシーの構成要素の例である。
個人の疑問に答える集合知の仕組み。(参考例:Yahoo知恵袋)
論文検索システム。(CiNii、国会図書館、Google scholarなど)
組織的な取り組みとしてはサイエンスショップ(市民向け科学相談所)

4.3 既存の社会関係や人材の活用
・リスクコミュニケーションや科学技術イノベーションに関する対話・社会連携においては、それぞれの地域・コミュニティの既存の人材や社会関係(ネットワーク)を活用することが、しばしば有効である。
例: 保健師や医師、教員。ローカルエキスパートやミドルマンとして役割。
危機発生時には、その都度自発的に立ち上がってくるエマージェントな住民・市民や専門家間のネットワークを見つけ出し、つながることも重要。

4.4 異分野の実践とつなぐこと
・リスクコミュニケーションや科学技術イノベーションに関する対話・社会連携を効果的に社会に普及させていくためには、これまでのリスクコミュニケーションや科学技術コミュニケーションで関わってきたものとは異なる分野での類似の実践とつなげていくことが有効と考えられる。
・リスクコミュニケーションについては、消費者教育、環境教育、防災教育や、その他、各省庁で行われているリスクコミュニケーション分野(化学安全、食品安全、感染症など)での取り組みとの連携や、経験・知見の集積・共有が重要。
・対話・社会連携の実践は、まちづくりや福祉、教育など、さまざまな分野で近年盛んになりつつある(各地でのフューチャーセンター設立なども一例)。科学技術イノベーションに関わるテーマで対話・社会連携を行う際も、こうした異分野での実践者と連携することで、参加者と議論の幅を広げることが期待される。

5. 現場の経験からの学びをベースにした

5.1 経験からのフィードバックの一環として調査研究の助成
・リスク・倫理的・法的・社会的問題ならびにイノベーションに関するコミュニケーションや社会連携・共創では、実際のコミュニケーションの成功・失敗の経験から学習し、実践にフィードバックすることが極めて重要である。
・このため、国の施策として、さまざまな分野(食品安全、化学安全、放射線防護、防災など)でのリスクマネジメントやリスクコミュニケーション、社会連携・共創の実践例に対する調査研究を助成し、促進することが求められる。
・調査研究の内容としては、それぞれの分野で、どのような目的・方法のコミュニケーションが求められているか、そのために必要な担い手の能力は何か、組織的・制度的なサポートとしてどのようなものが必要か、などがある。これらを明らかにすることで、人材育成を効果的に行えるようになることが期待される(後述の6.3参照)。

5.2 既存の研究開発成果の社会実装の促進
・コミュニケーションや科学技術イノベーションに関する社会連携・共創の実践やその方法論については、わが国でも十余年におよぶ研究開発の積み重ねがある。これらの成果を社会実装していくこと、これを国としても支援・促進していくことも重要。

5.3 新規の実践や社会実験の促進
・他方で、リスクコミュニケーションや対話・社会連携の実践やその方法論は、まだまだ未開拓領域であり、今後もさまざまな研究開発や社会実験を通じた展開と、その政策的な支援・促進が必要である。
未開拓の課題としては、テーマの性質(ローカル、ナショナル、グローバル)に応じた対話手法を開発し実践していく必要がある。
今後、社会の中で広く、これらの実践が普及するのを促すためにも、NPO等の民間が主体となり、それに大学や研究機関、さらには地域行政や企業が協働するような実践を支援することも重要。

6. 人材育成についての考え方

6.1 「活用」「キャリア」まで視野に入れた人材育成
・人材育成にあたっては、育成プログラムを修了した者が、身につけた知識やスキルをもとに、実際のコミュニケーションの実務で活躍できる環境づくりが重要である。とくに職業として従事しキャリアアップできるような雇用やビジネス、事業、資金循環が一定程度成り立つことが、コミュニケーション活動の普及と、有能な担い手の持続的供給のためには必要である。

6.2 職業ではなく職能としてのコミュニケーター人材の養成
・すべての人材が「職業」としてコミュニケーション活動に携わること、そのための雇用創出や起業は事実上不可能である。しかし、既存の職業についている者が「職能」の一つとして知識やスキルを身につけ、コミュニケーション活動の担い手となることには、次のようなさまざまな可能性がある。
行政官のリスクコミュニケーション等のトレーニング
大学や研究機関のURAなど
科学館などのコミュニケーター
・大学や研究機関の場合には、これまで研究成果の発信が主だった「アウトリーチ」の範囲を拡張し、リスクコミュニケーションやイノベーション創出のための社会連携・共創活動まで含むようにするということも考えられる。活動費や人件費については、競争的資金の一部(数%程度)を、研究プロジェクトごと、もしくはそれぞれの機関全体で合算し、使用できるようにするとよいだろう。

6.3 現場の実態や必要と広い視野に基づいた人材育成
・人材育成が活用やキャリアにつながるためには、リスクコミュニケーション等の現場で、どのような役割や能力が求められているのか、現場の実情やニーズの把握が不可欠である。
・トレーニングの内容では、単にコミュニケーションの手法やスキルに留まらず、リスクマネジメントやリスク・倫理的・法的・社会的問題、関連する制度・政策についての基礎的理解も必要である。

6.4 「媒介者行動規範」の必要性
・コミュニケーション、とくにリスクコミュニケーションでは、特定の利害に対するコミュニケーションの担い手(コミュニケーター)の独立性(中立性)等に対するコミュニケーション参加者の信頼感を保つことが極めて重要である。このため、コミュニケーション人材の育成や活動においては、「媒介者行動規範」のような共通規範を策定し、共有することが期待される。

 

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