令和6年8月23日(金曜日) 10時00分~12時00分
Web会議
部会長 村山 裕三
部会長代理 田中 明子
臨時委員 秋山 文野
臨時委員 笠原 次郎
臨時委員 金井 宣茂
臨時委員 木村 真一
臨時委員 芝井 広
臨時委員 白井 恭一
臨時委員 鈴木 健吾
臨時委員 髙橋 德行
臨時委員 鶴岡 路人
臨時委員 山室 真澄
臨時委員 米澤 千夏
研究開発局長 堀内 義規
大臣官房審議官(研究開発局担当) 橋爪 淳
研究開発局宇宙開発利用課 課長 嶋崎 政一
研究開発局宇宙開発利用課 企画官 森島 健人
研究開発局宇宙開発利用課 研究開発戦略官 原田 大地
研究開発局宇宙開発利用課 課長補佐 西 隆平
研究開発局宇宙開発利用課 課長補佐 木元 健一
研究開発局宇宙開発利用課 研究開発戦略官付 課長補佐 館下 博昭
(説明者)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
副理事長 石井 康夫
理事 松浦 真弓
理事 國中 均
有人宇宙技術部門有人与圧ローバーエンジニアリングセンター センター長 筒井 史哉
国際宇宙探査センター センター長 山中 浩二
有人宇宙技術部門事業推進部 部長 小川 志保
経営企画部企画課 課長 笠原 希仁
理事補佐 川崎 一義
宇宙探査イノベーションハブ 副ハブ長 川崎 治
新事業促進部 部長 内木 悟
研究開発部門研究戦略部 部長 杉田 寛之
研究開発部門研究戦略部 計画マネージャ 志賀 基英
研究開発部門超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット ユニット長 鈴木 新一
研究開発部門第四研究ユニット ユニット長 南里 秀明
【村山部会長】 それでは、定刻になりましたので、第89回の宇宙開発利用部会を開催いたします。今回も前回同様オンラインでの開催となっております。委員の皆様には御多忙のところお集まりいただきまして誠にありがとうございます。まず、事務局に人事異動があったということですので、その御紹介をお願いいたします。
【木元補佐(事務局)】 事務局の木元です。本日もよろしくお願いいたします。7月11日付けで研究開発局長として堀内が着任しておりますので、一言ご挨拶申し上げます。
【堀内研究開発局長】 7月11日に研究開発局長になりました堀内です。2015年から2017年まで宇宙の担当の課長をしておりまして、ちょうどISSの延長であるとか、「ひとみ」の事故であるとか、月の取組を始めた頃ですが、再び宇宙分野を担当できることをうれしく思っております。よろしくお願いいたします。
【村山部会長】 ありがとうございました。堀内局長、これからどうぞよろしくお願いいたします。それでは、事務局より本日の会議についての事務連絡をお願いいたします。
【木元補佐(事務局)】 本日は、宇宙開発利用部会の16名の委員のうち13名にご出席いただいております。次に、本日の資料ですが、議事次第に記載のとおりです。オンライン状況について、音声がつながらない等の問題がございましたら、事務局までメール、電話等でご連絡ください。事務局からの連絡は以上です。
【村山部会長】 どうもありがとうございました。それでは、早速議題の方に移りたいと思います。本日の議題は3つです。全て報告案件ですが、委員の皆様から意見を頂戴したい案件も含みますので、どうぞよろしくお願いいたします。最初の議題は「有人与圧ローバの検討状況について」です。有人与圧ローバについては、今年4月の本部会において、盛山文部科学大臣とネルソンNASA長官との間で与圧ローバによる月面探査の実施取決めが署名されたことについて、文部科学省から報告を受けました。これを踏まえ、文部科学省では日本人宇宙飛行士の早期の月面着陸の実現を目指して、民間企業と共同での有人与圧ローバの開発等に取り組んでいくことにしております。本日は、今後の有人与圧ローバの開発に向けた具体的な内容、進め方について、JAXAから現在の検討状況をご説明いただき、委員の皆様から忌憚(きたん)のない御意見を頂ければと思います。それでは、JAXA松浦理事、有人与圧ローバエンジニアリングセンターの筒井センター長、資料の説明をお願いいたします。
【松浦理事(JAXA)】 松浦です。おはようございます。今御紹介がありましたとおり、今日お時間いただきまして有人与圧ローバの政策的、技術的な位置付け、それから現在の研究開発の状況と今後の予定についてご説明させていただこうと思います。説明の方はローバエンジニアリングセンターのセンター長、筒井の方からお願いします。
【筒井センター長(JAXA)】 与圧ローバエンジニアリングセンターの筒井と申します。よろしくお願いいたします。それでは、1頁を開いていただいて、本日の趣旨なのですが、日本は2031年を目標にして月面活動で唯一無二の貢献となる有人与圧ローバを実現すること、それから、それに対してNASAは日本人飛行士による2回の月面着陸機会を提供することが、先ほどご紹介のあった4月の実施取決めの署名によって合意されています。そこで、月面で居住機能と移動機能を併せ持つこの世界初の有人与圧ローバシステムの実現を目指して我々は研究開発を進めているところですが、この報告ではその位置付けと現状、それから今後の予定について報告させていただきます。次の頁をお願いします。
目次はこのようになっています。上の方から1、2、3、4、5と続けていきます。そのまま流して進めてまいります。最初に、宇宙基本計画上の位置付けですが、昨年改定の宇宙基本計画でも与圧ローバの研究開発というのが位置付けられています。次の頁をお願いします。
先ほどご紹介あったとおり、4月に盛山文部科学大臣とNASA長官との間で署名がされていて、合意の内容については責務の関係がいろいろありまして、下の方に書かれているとおりです。日本側は与圧ローバを提供するだけでなく、地上管制設備の提供であったり、訓練を行うとか、そういったことが書いてあります。あと、米国側についても、日本人の月面活動機会を提供するということがまずあって、与圧ローバの月面への輸送はNASAが提供することになっています。その他諸々、責務関係についてこの取決めの中で明確にされています。次の頁をお願いします。
意義価値ですが、こちらについては様々な意義価値があると考えておりまして、一つは、有人の月面探査を飛躍的に拡大するという観点であります。持続的な月面探査の中心的な役割になるということでもありますし、あと、実施可能なサイエンスの幅が大きく拡大するという観点もあります。それから、月面・火星面の探査技術の実証という意味では、技術的な能力を我々として拡大していくということになると思っています。日本としては初の独立型の有人宇宙システムということになりますし、且つ大型のモビリティの技術であるとか、居住技術の実証、それから運用データの獲得ということが見込まれます。三つ目としては、アルテミス計画における主要な要素を提供することによる貢献で、国際的なプレゼンスの向上につながると考えています。ここには日本人宇宙飛行士が月面着陸する機会を確保するという大きな意義があると思っています。次の頁をお願いします。
目次の三つ目としては、有人与圧ローバのアルテミス計画上の位置付けですが、こちらは報道とかでご覧になられている絵かもしれませんが、月面上に様々なアセット、それから月周回軌道上にもGatewayという中間拠点が開発準備されていますが、それ以外に輸送機関として大型ロケットとか、あと月周回の有人拠点から月面に降りていく有人の着陸機(HLS)というのもNASA側が開発を進めているところです。その中で、月面のアセットについて最も大きなものとして最初に明確になってきているのが有人与圧ローバで、こちらを日本が開発するということになります。次の頁をお願いします。
NASA側のアセットの開発状況です。最近少し出てきているものについて簡単にご紹介しますと、有人ランダというものがありまして、こちらは月周回から月面に向けて人を降ろしていくランダですが、こちらについてはSpace-X社とBlue Origin社2社が今NASAから受託して開発を進めています。この有人月面ランダを大型の貨物輸送用に改変したものを、我々が提供する与圧ローバの月面への輸送に使用する計画です。こちらで有人与圧ローバをNASAがランダで運んでくれるということになります。
それから、二つ目として、下の方ですが、こちらは有人の曝露のローバで、こちらは宇宙飛行士が船外活動服を着た状態で乗るものですが、バギーのようなもので、こちらについては3社が今基本設計フェーズに入っていて、そのうち1社に絞られる予定になっています。このLTVは与圧ローバに帯同しながら運用していって、有人与圧ローバに故障などが起きた緊急時には、有人ランダまで帰還するために使用するといった役割も持っています。次の頁をお願いします。
次に有人与圧ローバはどんなものかについて、その概要についてご説明します。こちらについてはまだNASAとの間で要求を調整中ですので、具体的な仕様については仮だと思っていただければと思います。有人与圧ローバというのは、HLSという先ほどの有人のランダで月面に到着した宇宙飛行士が船外服を着た状態で与圧ローバに入っていって、そこで与圧状態を作って、今度は船外服を脱いでシャツスリーブで居住できるようになるというようなシステムになります。その普通の我々が着ている服の状態で2週間ほどその中で暮らしていけるというようなシステムになります。右下の方にどういうミッションになるかというのを少しご紹介しておきます。有人与圧ローバ自体が打ち上げて着陸した後、しばらくは無人で探査しますが、その途中のところで有人の探査というのが入ってきて、ここにクルーが先ほどの有人のランダで到着し、この与圧ローバに乗り込んで2週間ほど探査ミッションをやって、一部補給とかのミッションがあったり、物の入替えで食べ物とか水とかを補給し直す作業があって、その後また越夜とかもあったりするのですが、そういうのを経ながら大体1カ月ぐらいのタームでこの有人探査を行うというふうな構想です。残りの1年間の間に1回その有人探査を想定していて、残る期間を無人探査で、有人与圧ローバが無人のローバとして活動していくということも考えています。次の頁をお願いします。
こちらは構成で、まだJAXA側で検討中なので、様々変わっているので、そのうちまた搭載の状況とかが関わると思いますが、大まかな機能は余り変わりません。システムサイズとしては、走行時の質量は15MTを超えるようなものになるというふうに想定しています。サイズはここに書いているようなもので、細かい数字はこれから変わっていくものと思いますが、大体このくらいの規模というふうに見ていただければと思います。この中で右下の方、走行時には太陽電池を広げると振動とかでやられるので、走行時は太陽電池は収納します。止まった状態で太陽電池を広げて、エネルギーを充電する。そういうような構成になっています。次の頁をお願いします。
この与圧ローバの技術的な要素の特に大きな部分についてご紹介しておきます。一つは左上です。月面走行システムの確立ということで、こちらは、まず地上では6分の1Gというのを模擬したような走行試験が実施できません。慣性力は地上でも月面でも変わらないが、重力が6分の1ということで、それを完全シミュレーションできないので、台上試験機を使った加振試験とモデルシミュレーションを組み合わせたような検証方法を取る必要があるということになります。ここが新しい開発要素になります。また、タイヤは、特に月面は非常に冷たい環境であったり暑い環境であったりしますので、タイヤは空気のゴム製のタイヤを使えませんので、金属製のタイヤで、沈み込み(スタック)しないような設計をしていく必要があるということで、タイヤとか脚回りの部分の設計は相当難しいというのがあります。さらに、GPSのない環境でどうやって自動的、リアルタイムで自分がどこを走っているかというのをどうやって調べていくかというようなところが一つ重要になります。
左下ですが、こちらは先ほど若干紹介しましたが、与圧ローバはエネルギーを取るのに太陽電池パネルを展開して収納するというのを1,000回以上繰り返すような機構が必要になります。これは非常に新しいことで、余りこういう宇宙機というのはないのですが、これができるようにということで今研究開発を進めています。
右上の方は蓄電のシステムで、月面は最大で10日の夜、地球の15日相当分の夜がありますので、そこに生き残るための蓄電システムが必要で、それの一つの要素としてRFCという再生型燃料電池システムというのを使うことを構想しています。
それから右下ですが、こちらはラジエータのシステムで、走行時とか停車時とかの排熱システムというのが必要で、これについてはボディマウント型ラジエータを用いた単相流アクティブ排熱システムを検討しているところです。こういったところを一通りフロントローディング活動として、この2、3年研究開発させていただいて、どういうものが実現できるかというのを検討していくということです。
次の頁から二つ、できているものについてご紹介しておきます。この頁は、走行システムの試作機がようやく完成して今走り始めたところで、今は平らなところを走るところまではまず行っているということで、絵がご覧いただけるかと思います。サイズ感としてはほぼ同じサイズになっています。これを今度は坂とか月面の状態を模擬したような路面を別途作っていますので、そこで走らせてデータを取っていくというようなことを考えています。
その次の頁が、展開/収納型の太陽電池パネルで、こちらの試作について、これは昨年度やった部分ですが、これは3.5 mの高さぐらいまで展開/収納する機構を試作して実施をしています。今年度はこれを更に大きなものとして、実物大、実機に近い展開高10 mぐらいのものにして試作試験を行う予定にしています。この映像は5倍速ですので、こんなに速く展開できるわけではありません。
それからこの頁は、今の状況と今後の予定についてです。先ほどから申していますように様々な技術要素についてと全体システムの成立性について今フロントローディングを実施中ということになります。真ん中のところですが、昨年の11月にJAXA内でミッション定義審査を実施しました。また、12月にNASAとの間で共同のシステム要求審査の1回目をやって、それから安全審査のPhase-0、1という本当に最初の部分を実施しました。ここで要求設定に向けて主要な課題は識別して、引き続きシステム要求のベースライン化に向けてNASAと調整、それから技術検討を行っているところです。先ほどの実施取決めの中で、2031年を目標にしておりますので、早期の開発着手が必要と考えております。NASA側も要求検討を続けていますので、その検討を基に、この秋から年末にかけて調整を加速していって、年度中には共同のシステム要求審査、システム定義審査を完了します。先ほどはシステム要求審査の1回目を実施しましたと言いましたが、それの2回目といいますか、クローザーとなりますが、それを行う予定で、与圧ローバのシステム要求をベースライン化していこうというふうに考えているところです。
次の頁は、フロントローディングの課題としてどういうことがあるかというのをリストアップしたようなものになっています。こちらの御説明は省きます。
次の頁が、有人宇宙機としての比較で、右が「きぼう」の比較になっていまして、左の方がNASAのLTVとかEVAのシステムとの比較ということになります。
最後の頁は御参考ですが、有人ミッションとしてどういうところを探査していくかというのはまだ明確にはなっていないのですが、参考として、今NASAがArtemis-IIIというミッションの着陸の場所として設定している場所について情報がありますので、こちらに載せておきました。以上でございます。ありがとうございました。
【村山部会長】 どうもありがとうございました。動画も交えていただきまして、具体的にかなり分かってきたわけですが、それでは、ただ今の御説明について御意見、御質問がありましたらお願いいたします。いかがでしょうか。それでは、まずは木村委員、お願いいたします。
【木村委員】 ありがとうございます。いよいよ有人与圧ローバということで、大変興味深く、また、日本が月面での活動拠点を得るという意味でも、それから、有人での活動の発展といいますか、そういう意味でも非常に重要なミッションかと思います。とても期待しております。
進め方の上で2点ほど視点があるかと思いまして、1つは、先ほど御説明の中でもあったのですが、これはモビリティという以上に、そこで長期間暮らすという居住という性格を持つというところがあって、それがGatewayでのECLSSからの発展型として非常に重要な意義を持つだろうなと思って、その辺りも拡充というところをぜひご検討いただけるとよいのかなというふうに思いました。今は多分モビリティとか、最低限の環境を整えるところまでがまずは大事かと思うのですが、その上で、どうやって居住性を高めていくかとか、その辺りが重要かと思います。
2点目が、これはすごく魅力的な話なので、一般に対するプロモーションをぜひ工夫していただけるとよいのかなと思います。いろんなイベントでお話ししたときに、なかなかまだこういうところに一般のところには関心が広がっていないのかなと思うのですが、これはすごく日本人として誇りに思えるミッションではないかと思うのです。ですので、その辺りのプロモーションもぜひ頑張っていただけるとよいかなというふうに思いました。以上2点コメントです。
【村山部会長】 ありがとうございます。このコメントについて何かあればお願いいたします。
【筒井センター長(JAXA)】 木村先生、ありがとうございました。居住性のところなのですが、GatewayのECLSSから拡充しようとしているのは事実です。一方で、ものが狭いということもあり、且つここで閉じないといけないということがあって非常に難しい設計を迫られているというところがありまして、ECLSSとしてはいかに効率的にやれるかというのを今考えているところで、少しGatewayのECLSSは簡素化して性能を上げるというのを両面狙いながらやっているというような状況になっています。というところで、新しい要素が少し出てきているというふうに思っています。
それから、一般へのプロモーションですが、当然やっていかないといけないことと思っていまして、ご協力いただければなと思っているところです。我々としてもJAXAとしても取り組んでいきたいと思っているところです。ありがとうございます。
【木村委員】 ぜひ期待しております。よろしくお願いします。
【村山部会長】 この社会への訴求というのは非常に重要だと思うのですが、今の名前が有人与圧ローバということで、無味乾燥な言葉が独り歩きしているので、何かもう少し愛着が湧くような名前を付けるような計画はあるのでしょうか?
【筒井センター長(JAXA)】 開発が始まるとそういうことを普通考えるのですが、一方で、今フロントローディングで研究を一緒にやってくれているトヨタさんはもう、トヨタの名前としてルナクルーザーという名前を実は彼らとしては付けておりまして、二重の名前になるのもなんなので、どうしようかなというのがちょっと悩みではあります。
【村山部会長】 ありがとうございました。続きまして、金井委員、お願いいたします。
【金井委員】 おはようございます。金井でございます。ご説明いただきありがとうございました。現在、重要技術要素についてフロントローディングしているというようなお話を頂きまして、本当にありがとうございます。先ほどの居住性に関する木村先生の話にもつながると思うのですが、拡張性について少しご質問させてください。現在ISSで運用しているJEMの場合は、エアロックとロボットアームといったものを革新的に先見の明をもって作って、それが新しい宇宙の使い方というのを開いたというような実績がありますが、この限られたボリュームと重量で持っていくローバ、ミニマムのところは今検討されていると思うのですが、そこからさらに追加で例えば与圧空間を付け加えて、そこに更なる機能を盛り込むとか、あるいはランダから与圧ローバまで宇宙服に着替えて移動するというようなお話がありましたが、そこを例えば通路みたいなものを付け加えて、着替えなくてもそのまま与圧された状態で宇宙飛行士が移動できるようになるとか、10年間運用するものですので、将来的にもどんどん機能を拡充できるような、そういったデザインというのを残す余地であるとか検討というのはされておられるのでしょうか。お願いいたします。
【筒井センター長(JAXA)】 お答えします。拡張性に関しては、与圧ローバそのものはいわゆる打上げ時の重量だけではなくて走行時の重量にもかなり制限があります。タイヤの能力とか脚回りの強度の問題があって制限が出てくるので、先ほどおっしゃったような新たなモジュールを足し算してというようなのを直接与圧ローバのシステムの中でやり切ることはなかなか難しいと思っています。ただ、当然外側とか内側とかにペイロードとかを搭載できるような場所なり取付け点なりリソースの提供なりは考えていますので、そういう意味での機能の拡張は当然考えていくべきというふうに思っています。それが一つ目です。
大きな拡張性という観点では、NASA側で主体として考えているようなことがあって、先ほどHLSからEVAスーツを着ないで中に入れないかみたいな話もありましたが、それに近いようなこと。例えば、今NASAが検討しているのは補給のカーゴを与圧空間で運び入れるようなことができないかというようなことを考えていたりしますので、アルテミスの月面上のアーキテクチャとして拡張性は考えられていっているというふうに思っています。そういうところにも我々は関与していますので、与圧ローバとしても協力していけるところはあると思っています。以上でございます。
【金井委員】 ありがとうございます。今の日本実験棟「きぼう」は本当に日本人だけではなくて海外の宇宙飛行士にも愛される素晴らしいモジュールですので、同じようにこのローバも日本人のプライドだけではなくて世界中の宇宙飛行士、宇宙関係者に愛されるような、そういったものになることを期待しております。よろしくお願いいたします。
【村山部会長】 ありがとうございます。続きまして、笠原委員、お願いいたします。
【笠原委員】 どうもご説明ありがとうございます。大変強く期待しております。コメントが2点ございまして、まず1点は、先ほど木村先生方からもお話がありましたが、人類史的な非常に重要なプロジェクトのように私は認識しております。そういう歴史に位置付けるのがなかなか日本は得意なような苦手なようなところが私はあると思っていますので、かなり意識的に世界的な位置付けといいますか、戦略的に行っていただきたいなと強く思っております。非常に重要なイベントだと思っています。
2点目は少し技術的な質問なのですが、地球から出発して月に行って、さらに最前線に送り込まれるようなローバシステムだと思うのですが、非常に補給線というのが伸びた一番先にあって危険度が一番大きな状況にあるというふうに理解いたしました。緊急時にはバギーで戻って、さらに地球への帰還となると、どこか一つでもシステムが壊れますと帰還するのに非常に大きなタイムラグが存在するかなというふうに理解しています。したがいまして、この有人ローバ自体にかなり長期にわたって宇宙飛行士の方々をお守りするような、そういう機能というのがとても重要なのではないかというふうな認識を持っております。しかも与圧されているわけですので、その隔壁なり重量なり形状なりにかなり強い制約が掛かっているかと思うのですが、その辺りの考え方というのがかなり重要になるのではないかと思います。圧力はたかだか1気圧かとは思うのですが、深海の探査に使われているようなものとかも類似したものとしてイメージしているのですが、その辺り、もし何かあった場合に、どの程度宇宙飛行士の皆様をしっかりと安全な環境に確保できるのか、そういう観点がやはり心配になりますし、そのバギーだけで救出するのか、あるいは他の方法を、何か日本独自、あるいは他の国の方々の協力を得ながら、その脱出の方法というのは何通りか考えられているのかとか、そういうところがとても気になりました。つまり、本当に人類未踏の地を一番先端まで持っていく。その先端での活動だということなので、それは正にエベレストの初登頂の更に上を行くような状況なので、安全確保という意味で、他に様々検討されていると思いますが、その辺りの考え方をぜひご紹介いただければ有り難いかと思いました。長くなりましたが、以上でございます。
【村山部会長】 安全性についてですが、いかがでしょうか。
【筒井センター長(JAXA)】 まず2つポイントがあると思います。1つは与圧ローバのシステムがきちんと動く、壊れないという意味での安全性を担保するという観点と、それが万が一壊れたときにどうするのだというような、もう一段上のレイヤーでのアーキテクチャ、設計ということになると思います。私が先ほどバギーでと申し上げたのは、その後者の方の話になっていて、こちらはNASAと我々との間でどういうふうに、最悪どんなシナリオがあり得るかというのを考えながらシステムを作って安全性を担保しようというふうに考えているものになります。例えば、バギーに乗らなくてもウォークバックするというのも場所によってはオプションとしてはあります。我々与圧ローバをやっているものとしては、まずそこに行く前に、そういう状態にならないようにするということが当然大事で、故障の許容性というのは強く意識しながらシステム設計をしていっています。例えばローバは、普通の車というのは大体駆動する動力は一つとか二つしかなくて、そこをメカニカルにつないでいっているわけですが、例えば今回の車の場合は6輪独立で作ってあったりして、いずれか一つが失陥してもちゃんと走れるようにするとか、そういったことを強く意識してシステムを作っていますし、一方で、人を生かすという観点で、余り複雑なシステムにならないように、信頼度高くできるように作っていこうというふうに考えています。そういう少し定性的な考え方の話でしか今はお答えできないのですが、当然安全性については強く意識しながら我々は開発を進めてまいります。ありがとうございました。
【笠原委員】 ありがとうございました。大変な御検討かとは思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。以上でございます。
【村山部会長】 それでは、秋山委員、お願いいたします。
【秋山委員】 秋山です。よろしくお願いいたします。非常に大掛かりで、日本にとって初めてとなる月面で人が中で過ごせるモビリティを作るということで、日本がこれまで持っている様々な、JEMの経験とかいろいろありますが、まず、最初のコメントにありましたプロモーションとか一般への認知とかそういうところにも少し関わってくると思うのですが、日本が今まで持っている技術・経験で、こういうものが生きてくる、JEMのことですとか、それから、もしかしたら越夜についてはSLIM等の経験が生きてくるということの上に成り立っているという部分と、新しくこれから獲得していかなくてはならないという部分と、この有人与圧ローバにつながるような、今までの宇宙の技術・経験のマッピングみたいなものがあると、こういう連続性の上に成り立っているのですよということが分かりやすいのかなというふうに思いますので、その辺りを整理して発信していただけるような、何かそういうことをお考えいただけないでしょうかというのが一つです。
あともう一つは少し細かい質問なのですが、試験環境で、先ほどの走行の試験のビデオを見せていただいた時に、月面の環境を模擬するようなこともこれからというふうにおっしゃっていたのですが、試験というのは基本的に日本国内で完結できるものなのでしょうか。これからどういう試験環境が必要なのでしょうかという辺りを少し教えていただければと思います。以上2点です。
【筒井センター長(JAXA)】 ありがとうございます。まず前半の話ですが、確かに今回の例えば左下のような技術のつながりについてどう説明していくかということは非常に大事なポイントだと私も思います。人に説明していくのは非常によいことだと思いますし、ある意味、先ほどコメントがありましたように人類史的な、世界的なというところまで説明していくことと、そういうところを整理していくというのは非常によいことだなというふうに思いました。例えば、この左下のところで太陽電池パネルと書いてありますが、こういう構造自体は既にISASの衛星とかで検討されているものを流用してきていたりしますし、使おうとしているリチウムイオンバッテリーとかは既にISSの補給船のHTV(こうのとり)のバッテリーを使おうとしています。そういったところで、様々なつながりがありながら、それを一段と昇華させる形でシステムを作り上げていくというような考え方をとっていますので、そういう説明の仕方が確かにできるかなというふうに思います。ありがとうございました。
それから2つ目については、走行システムについての試験は実は国内でやろうとしています。台上試験も国内でやろうとしていますし、走行路面を使った試験も国内で今のところやれるつもりでおります。以上です。
【秋山委員】 ありがとうございました。
【村山部会長】 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。それでは、JAXAにおかれましては、本日頂いた御意見等も踏まえた上で、更なる検討と、今後の予定にある取組を進めていただければと思います。今後も、取組状況については適宜、本部会でご報告ください。どうも今日はありがとうございました。
【松浦理事(JAXA)】 ありがとうございました。
【村山部会長】 それでは、次の議題に移らせていただきます。次の議題は「JAXAの宇宙分野における産業競争力強化に係る施策の再編・強化」についてです。6月に実施した第87回の当部会でも、JAXAの宇宙分野における産業競争力強化の取組の今後について、その時点での検討状況をご紹介いただきました。その後、JAXA内で検討が進められ、内容が具体化されてきたところを本日ご報告いただきます。皆様からは、ご忌憚のない御意見を頂けますようにお願いいたします。それでは、石井副理事長、御説明をお願いいたします。
【石井副理事長(JAXA)】 6月にも私の方から御説明をさせていただきました。その際にも、更に検討を深めまして8月に御報告をさせていただくというお約束をしておりまして、それを今回ご説明させていただくということになります。次の頁をお願いいたします。
この頁は、宇宙産業の拡大というのが全世界的に大きな動きとしてある中で、世界的にも宇宙機関の役割が拡大しているというところをご紹介したものでございます。これはアメリカのArthur D Littleというコンサルティング会社が報告をしているものなのですが、真ん中に絵がありますが、Space industry evolutionという感じになっていますが、右側にありますとおり、宇宙機関としては新たなSpace4.0型というのが出てきたと。政策を作り、資金を配分するというような形です。これは一番下に文章で説明してありますが、Space3.0というのが今までのJAXAとかNASAとかがやってきた形で、Space4.0になると民間分業ということで、そこに出てくる宇宙機関というのはUKSA(イギリス)、NZSA(ニュージーランド)、OSTIN(シンガポール)等、新しい宇宙機関ができてきておりますが、これらは研究開発機関能力を持たない宇宙機関でして、政策の立案と民間に対する資金提供というところが主な活動になっているというのがございます。右に書いてあるとおりNASAは3.0と4.0のハイブリッドになっているのではないかというようなレポートになっております。JAXAとしても、こういう流れの中で昨年JAXA法が改正されて、産学官の結節点としての役割とし、宇宙戦略基金が創設されたというふうに理解をしているというところをご説明しております。次の頁をお願いします。
役割の拡大というのが、全体を俯瞰してどんな状況かというのを示したものがこの頁でございまして、左側がBeforeということで、従来は政府の宇宙開発利用をJAXAが支えつつ、その成果を民間の事業にも活用するというような活動だったところですが、そこから宇宙戦略基金ということで、民間等が主体の事業を、右側のピンクの部分が大きくなっているというところだったのですが、こういった活動が出てきたことによりまして、我々の役割としては、三つ目の四角に書いてありますとおり、JAXAの研究開発基盤を最大限活用し、将来に向けた民間企業等との研究開発の活動(芽出し・共創)を評価するという方向に行くということになっていくと考えております。そのために、従来JAXAとして持っておりました産業競争力強化のプログラムの再編を行うということでございます。次の頁をお願いいたします。
次の頁は、では産業競争力強化に係る施策の再編・強化はどんなイメージかというのを全体俯瞰したようなものをここにお示ししております。大きく四つの機能の再編・強化をご紹介いたします。この後一つひとつご説明させていただきます。企画・共創機能ということを丸1に書いてありますが、こういったところは従来、新事業促進部でJ-SPARC等が進めてまいりましたが、こういったところの企画・共創の機能の強化が必要であるというふうに考えております。さらに、小型衛星の技術研究と実証機能というものには複数のプログラムがありました。丸2に書いてありますが、これを一つのプログラムに再編いたしまして、タイトルとしては「小型衛星技術の研究開発・実証機能の再編」ということで行いたいと思います。従来から行っています丸3の宇宙探査イノベーションハブと丸4の将来宇宙輸送システム研究開発プログラムについても、この状況の中で協力・強化するポイントを明確化し、最終的には官民双方に成果が活用されるように取り組んでまいりたいということで、これらが右側のピンク色の宇宙戦略基金の活用を含む民間が主体の事業との連動・連携が進んでいくというところを目指したいと考えております。
次の頁からが、その一つひとつの具体的なところの御説明になります。これは企画・共創機能の強化ということで、今中期計画におきましてJ-SPARCの共創活動を様々進めてまいりました。これらの成果として、SBIRの案件とか、それからスターダストプログラムの案件等、戦略基金につながるようなものが様々出てまいりました。こういうところが各分野における官民連携シナリオを検討する活動を更に強化することで、いろいろな出口に橋渡しができるということを考えております。
下に絵が書いてありますが、左側に相談の窓口・調査、それから事業・技術シーズの発掘、こういった活動がありまして、それらの中から有望なものをJAXAと民間企業等で共創活動をいたします。その結果として、右側にいろいろな橋渡しのケースがあり得るかと思っていまして、民間等が主体の事業、これは宇宙戦略基金の活動を含むというようなものになる可能性もありますし、民間/JAXA パートナーシップのプロジェクトになるものもあれば、各種宇宙実証の期待というものになっていくもの、共創型の研究開発プログラムになっていくもの、様々あるというふうに思っております。ここのポイントは、そういった民間事業者、大学も含めてですが、いろいろなその可能性検討の相談の窓口を一つにし、皆さんが相談しやすく、且つその橋渡しがスムーズにいくようにということをポイントというふうに考えております。
次の頁に参りまして、丸2の小型衛星技術の研究開発・実証機能の再編ということですが、左下に書いてありますように、現行の実証機会提供のプログラムというのが、革新衛星技術実証プログラム、小型技術刷新衛星研究開発プログラム、JAXA-SMASH、衛星コンステレーションによる革新的衛星観測ミッション共創プログラムと様々ございました。基幹ロケットの相乗りというものも実証機会として提供をしておりました。こういったものを効率的に運用するということでは、窓口をやはり一本化するべきであろうというふうに考えました。そして、実証手段もプログラム間の横通しをとることで、より最適なタイミングでの機会提供ができるようにするということで、機能と窓口を再編し、ワンストップ化をしたいというふうに考えております。
これが右側にありますような小型衛星技術研究開発・実証プログラムという一つのプログラムになって、その中で研究開発と、それから実証のコーディネートを行っていただきたいというふうに考えております。なお、文字で上にどう変えるかということを書いてございますが、※印に書いてありますとおり、民間大学等が独自に行う技術開発・事業展開は宇宙戦略基金等を通じて進めていくことができるようになりますので、そこもしっかり切り分けて対応していくということになると思います。
7頁に参りまして、今の小型衛星技術研究開発・実証プログラムをもう少し詳しく説明をした図でございます。繰り返しになるところは省きまして、衛星の技術を刷新・先導するような研究開発は、基本的には外部とJAXAとで共同研究するような枠組みを考え、そこから宇宙実証が必要なものが出てくれば実証のコーディネートで、実証のコーディネートについては各種公募、それからコミュニティ形成を行うことで、クイック且つタイムリーな実証手法の計画・立案を進めていきたいというふうに考えております。一番下のピンク色にカバーされているところは、JAXAの研究開発能力を活用した産業競争力強化に資するキー技術の例ということで、刷新技術プログラム等で今まで検討されてきているようなものを例としてお示ししております。
次の頁に参りまして、ここからはイノベーションハブと輸送の研究開発プログラムのところですが、宇宙探査イノベーションハブも、民間との共同研究を進めることで、長期にわたる月・惑星探査への適用を視野に入れながら、直近の地上事業に適用するというDualの活用ということで進めてまいりました。昨今、月探査を中心に国内外の民間企業による事業化というのが真剣に取り組まれはじめております。事業化構想までは至っておりませんが、民間企業が単独で取り組むことが難しい技術課題が多くありまして、その解決を図る必要があるということで、この頁の四つ目の四角になりますが、政府・JAXAが進める将来の月・惑星探査への適用と、それから、宇宙探査における民間企業の事業化を加速するということ。これを従来から少し力点を変えて進めていきたいと。呼び方も今までのDual UtilizationからSpace Dual Utilizationというふうに変えさせていただいて進めてまいりたいというふうに考えております。
次の頁に、どういった分野をRFI/RFP等を行いながら進めていきたいかということを示してございます。
ということで、次の頁の10頁になりますが、輸送分野の産業競争力強化ということで、将来宇宙輸送システム研究開発プログラムに従来から取り組んでおります。四角の二つ目に書いてありますが、高速二地点や宇宙旅行のような、民間事業者が最終的に主体となるような事業については、民間事業者の開発・事業化を促進するという形で、JAXAとも民間とも連携をして要素技術開発をしようというふうに進めてまいりました。産学連携の下、RFI/RFPを行いまして共同研究を進めてまいったというところでございまして、その概略のイメージを下の絵に書いてございます。この中で、宇宙戦略基金が出てきているというところから、我々も少しこの活動の力点を変えていきたいというふうに考えております。
それが次の頁になりまして、事業化の見通しというのは下の図で左側に将来のプログラムということで、今までは共同研究で全てをカバーするようなイメージでおりましたが、今後は民間事業者による研究開発の範囲というのが出てくると。ここのピンク色のところは民間主導で基金を活用するといった絵姿がございますので、我々としてはそこに結び付くような研究開発、共創活動というところに力点を置いて、民間事業者が主体となるというところについては、そちら基金等を活用した活動で進めていただきたいと思います。それらの技術の適用先としては、連携することがございますので、最終的には政府・JAXAの活動と民間の活動と双方に裨益するような連携というふうに進めてまいりたいと考えております。
次の頁がまとめでございます。世界でも産業市場、それから宇宙機関の役割というものの変化というのが出ている中で、産学官の結節点としてJAXAとしては新たな役割が加わってきて、宇宙戦略基金を運用するということになっております。既に公募も進んでおります。JAXAは、従来の産業競争力強化に係る取組の再編、それから、将来に向けた民間・大学等との研究開発の活動の芽出し・共創の強化をすることで、宇宙戦略基金等による取組との効果的・効率的な連動を目指したいと考えております。
企画・共創機能については、ワンストップ・コーディネート、それから小型衛星の研究・実証については一つのプログラムに集約・再編してワンストップ化を図る。宇宙探査イノベーションハブ、それから将来宇宙輸送システム研究開発プログラムは、それぞれの分野を牽引するために継続しますが、民間等による技術開発や事業展開とのシナジーということを意識して力点を変えてまいりたいというふうに考えております。以上でございます。
【村山部会長】 どうもありがとうございます。今日はかなり具体的な話をしていただいて、より明確に目指しているところが掲げられましたが、ただ今の説明について御意見、御質問がありましたらお願いいたします。まずは白井委員から手が挙がっておりますのでお願いします。
【白井委員】 前回と、それから今回と、かなり興味を持って資料を拝読し、御説明を伺ったのですが、少しイメージがつかみきれないところがあるので質問をさせていただきます。多分今回の取組のポイントは、JAXAと民間企業との間の接点を深めるといいますか協力度合いを高めていくということにあるということで、方向性としては納得感が高いのですが、今回の資料を拝見していてもまだ私には具体的にはどうするのかというイメージが湧かない感があります。資料の3頁の図のBefore/AfterでAfterになると何が変わるかというと、共創活動を拡充して官民双方で効果的に成果を活用するという辺りが強調されています。しかし、これは言ってみれば目標であって、そのプロセスの話ではないように私には見えます。
全体を拝見していると、衛星のところでの具体的に何か場を設けるというのがありました。プログラム運営委員会ですか、こういう説明を伺うと少しイメージが湧きます。一方で、私が余り具体的にイメージをつかめなかったのが4番の輸送なのです。輸送のところで、この頁を拝見していても具体的に民間企業とJAXAの間で何をどう変えていくのかというところが分かりません。全体を通じて、接点、顔合わせとか打ち合わせとかを増やすといったことは想像できます。また、JAXAから民間企業に提供、あるいは与える情報の量と質が増えるということなのか、ということも想像できます。そういう理解でよいのかどうかというのを教えていただきたい、あるいは、ここには書かれていない気もするのですが、お互いの出向者の数を増やしたりするような人材交流といった側面もあるのかどうか。その辺も少し教えていただけると有り難いと思う次第です。よろしくお願いいたします。
【石井副理事長(JAXA)】 具体的などこの部署がどういう役割を担ってどういうことをやっていくというようなところはJAXAの中での組織のお話でございまして、そこは今後更に具体化を進めなければいけないところですので、今日の段階ではある意味方向性といいますか、レイヤーの高い部分での考え方をお示しさせていただきましたので、白井先生のおっしゃるように具体的なイメージが湧かないというのは、それはそういう資料にしておりますので申し訳ございませんといいますか、そういう段階でございます。
それで、まず例えば丸1の企画・共創機能というのは、では具体的にどこの部署でどういうことをということなのですが、J-SPARCをやってきている経験を踏まえると、そこを中心にしつつも、基金の調査・検討をするという役割、こういうところとうまく連携・連動させるようなことを組織的に作り込みたいというふうに考えております。つまりは、基金の動きと、それから民間の活動と、民間とJAXAとの共創活動つまりJ-SPARCのような活動というのは、個別でそれぞれ全く知らない状態でお互いに動くというのは非常に非効率であるし、外の皆さんもどうアプローチしてよいのか分からなくなるということになりかねませんので、そこを外からどちらの活動になるか分からないけれどもJAXAにまずは相談をするというようなのを一つの窓口でしっかり受け止めるということにさせていただくということを考えております。
衛星の技術、小型衛星のプログラムはRFI等で公募したりワークショップをしたりしてコミュニティを作っていくというような活動を行ってまいります。御質問の輸送のところで、正直申しまして、外からの見え方として活動としては今までと余り変わらないのではないかというふうになろうかと思います。つまり、企業の皆さんとの研究開発の相談を受ける部署というのは、ここのJAXAの中での輸送の技術の研究開発を担当する部署でございまして、ただし、そこに宇宙戦略基金という新たな武器を我々は持つことができたと考えておりますので、企業の皆さんとRFI/RFPをやるという活動の中で出てくる情報の中で、これはもう民間主導で基金の中に進んでいったらもうしっかりと道筋として進めていけるのではないかというようなものは、そちらでしっかりと進めていただくというような調整が一つ入ってくるというのが新しいというふうにご理解いただければと思います。以上です。
【白井委員】 ありがとうございます。今はまだ目標をしっかりと定めた段階で、これからこれをどうやって肉付けして具体化していくかという段階だということはよく分かりました。私が最初にJAXAの皆様方と接点を持ったのはJAXAが創設してから10年目ぐらいの頃で1979年でした。その頃のNASDAと相談をしていく民間企業の方と話していると、結局のところ、当時のNASDAの方々の知識あるいは人格を含めた総体への非常に信頼感みたいなものがあってこそのコミュニケーションだった、あるいは、そういうのがあるからこそ相談に行くという面があって、実際にそういう方がこれまでのNASDA、JAXAにはたくさんおられたのだと思うのです。ですので、そういう意味ではこのプロジェクトを成功させるためには本当に現在のJAXAの皆様が頑張って、いろいろと御自身の知識とかもどんどん高めていただくということが条件なのかなという感想を持ってこんな質問をさせていただきました。
【村山部会長】 どうもありがとうございます。続きまして、鈴木委員、お願いいたします。
【鈴木委員】 鈴木でございます。今回の御報告に関して、非常に新しく、細部まで明確化された話になっていて、分かりやすく聞かせていただきました。5頁目がよいかと思うのですが、プロデューサーの強化・育成というのはやはり全体にわたって本当に大事なことかなと思っていまして、民間の企業でもそうですし、大学等の研究機関においてのRA等の人材が重要だということで、多くのところでそういった人材の発掘や育成というものが進められていると認識しています。
質問としましては、人材の候補というのはどういった母集団で、何名ぐらいの方を想定されているのかというところと、後は、育成の対象になる人が決まった場合は、第4期のJAXAの人材育成実施方針等にも記載されているものなのかと思うのですが、この辺りで具体的な手法としてどういったものが用いられていて、進捗としてはどのような状況なのか、お分かりになる範囲で教えていただければと思います。よろしくお願いします。
【石井副理事長(JAXA)】 ご質問ありがとうございます。人材の育成ということで、我々としてもJAXAの中での人材育成計画の中に明確に入れておりまして進めております。人数というお話がございましたが、中長期計画期間の中で、この新事業促進部、J-SPARCという活動を進めてまいりましたが、コアになる新事業促進部のプロデューサー人材というのが20名ぐらいいます。300件以上の相談を受けた中で今40件ぐらいの共創活動を進め、最終的に今は10件ぐらいが事業化できたというような状況になっていまして、20名だけでは到底それを進めるのは難しくて、各部署・部門での協力してくれるエンジニア、そういう人たちが重要です。一緒に動いてくれるようなマインドセットを持つ人たちという意味ですが、それがこの中期期間の努力を継続していく中で約200名規模にまで広がっているという状況を把握しております。
また、育成というか勉強するというような機会も提供しております。これは新事業促進部の方でプログラムを作りまして、希望する職員にその機会を提供するというようなことを行っております。具体的なところまでお話ししはじめると大分時間を取ってしまいますので、そういう形で人材育成には取り組んでおるというところで、今回は基金が始まりますので、更にそういった人材育成を明示的に加える必要があるのではないかという問題意識を持って検討しているというところでございます。以上です。
【鈴木委員】 どういった人が対象になって、現状の進捗についてのイメージもお伝えいただきましてありがとうございました。改めてなのですが、人材においてストレッチして社会実装される部分というのがとても大きいと考えておりますので、引き続きリテラシーの向上と、マインドセットの醸成、その辺りを注力して進めていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
【村山部会長】 ありがとうございます。実は私もビジネススクールのプロデューサー、コーディネーターの育成というのをやったのですが、大学教育だけではできない話で、とにかく経験させないと育たないのですね。なので、いかに経験させたものをどういうふうにアカデミックなところも含めて育てていくか。なので、その経験と知識のフィードバックみたいなものですよね。そのメカニズムのようなものを作っていただければ、今は非常に大きなチャンスですので、よい人材が育ってくるような感じは持っております。
【石井副理事長(JAXA)】 ありがとうございます。
【村山部会長】 続きまして、木村委員、お願いいたします。
【木村委員】 ありがとうございます。ご説明いただきましてありがとうございます。関心があるところも多いものですので4点ほど質問させてください。1点目は、実証の機会の強化、ワンストップ化という話で、小型衛星を特に中心にされて実証機会というのを整備される。これはすごくいいことだと思います。宇宙戦略ファンドの方の立場から考えても、これから実証機会というのは非常に重要になってくるかと思うので、そこの機能をどこでどういうふうに担っていくのかということが非常に大事なのかなと思っています。その意味で、ここでの機能というのが、あくまでもJAXAさんの予算の中での話だと理解しているのですが、宇宙戦略ファンドとの間の関係、例えばそこでの実証機会としてこれに協力を要請することができるのかどうかというところが1つ目の質問で、ここは連携しながら進めるのが全体としては効率がよいのではないかという思いもあります。一方で、産業という形でこの実証機会というのを定着させていく必要もあるので、その産業との間の関係というのをどういうふうにお考えでしょうかというのが1点目です。
2点目は、この小型衛星という分野についていうと、大学とベンチャーとニュースペースの人たちも含めて、萌芽的なところが大分成熟してきていると思います。そういったところとの人材の交流とかも必要なのではないかなと。これは2点目としてのコメントです。
3点目は、実はこの刷新衛星プログラムについて実は少し関係があるものですので気になりまして、刷新衛星プログラムというのは実証という側面ももちろんあるのですが、一方において、衛星開発の情報化であるとかDX化であるとか、シミュレーション技術の拡充とか、こういう研究開発のプログラムと、私は思っていて、この分野は非常に重要だと思っているのです。場合によっては、今は小型衛星を対象にしていますが、小型衛星だけではなくて、宇宙開発全般において情報化をいかに実現していくかということは非常に大事なのではないかと思っていて、それがこの新しい仕組みの中でどのように位置付けられるのでしょうか。そこに少し心配をしておりまして質問させていただきます。これが3つ目です。
4つ目が、これも少し関係するところなのですが、探査イノベーションハブのMoon to Mars Innovationというところに組み込まれて、先ほどの有人与圧ローバのお話とも関係するのですが、おそらく有人の拠点ができていくことによって居住に関連するとか、そこで人が生存するという、これが探査と結び付いて、日本も拠点を持つことによって非常に大きく発展していく、あるいは発展する必要がある部分ではないかなというふうに思っていて、そこに踏み込まれたのは非常に重要だと思っています。ここについて具体的に今後、例えば大学等とも取組がいくつかあると思うのですが、そことの連携の関係とか、ぜひここは拡充をお考えいただきたいという思いも含めて質問させていただきます。以上4点です。
【石井副理事長(JAXA)】 ご質問ありがとうございました。まず、実証機会をどこでどう担うかというお話で、一つには基金との関係、もう一つは産業との関係というところでご質問いただきました。基本的には実証機会をコーディネートするということをJAXAの中でやりたいと思っております。基金のプログラムというものは、ほとんど今までのものを見ると実証費用も含めて基金が準備するというものが多いようですので、そこで得た資金で打上げを行いたいという人とライドシェアをするような形というのは十分あり得るのではないかと思っております。そこは効率的な運用でスピーディーな実証機会の実現ということで貢献してまいりたいというふうに考えております。そういう観点では、打上げのライドシェアのコーディネートも含めてですが、民間事業者もそういうコーディネートを行うような活動が実際にもう始まっておりますので、そういった企業さんを巻き込んでうまく進めていくことによって、最終的にはといいますか、我々が期待しているのはそういうサービスを調達できるような形にまで行ければ非常によい形になるのではないかというふうに考えております。これが1つ目になります。
2つ目は、人材交流をニュースペース、スタートアップとの間ですべきでないかということなのですが、実態としてどんどんJAXAからスタートアップに転職している人が増えておりまして、交流しているという状態が相当実現してございます。これはもう日本全体の人材の流動化というところとほとんど同じ現象が起こっているということでございまして、そういう中でJAXAも努力して、人材の育成から対応してまいりたいと考えております。
3つ目が刷新機能。これは研究開発プログラムで非常に重要で、小型衛星にとどまらないようなキー技術の研究開発になるのではないかというお話で、これは我々も全くそのとおりと考えております。7頁の下の辺りにキーワードで入れてございますが、サイバーとフィジカルを連成させた開発手法、AI、3DPの活用といったところですね。小型だけでなく衛星のシステム、研究開発の技術の刷新という意味で非常に有用であると思っておりますので、引き続き取り組ませていただきたいと思っております。
4つ目のMoon to Marsの話で、有人拠点ということですが、有人拠点というのはあくまでもやはり将来のケーススタディーというようなところになりますので、当然その大学さんとも共同研究するようなことは十分あり得ると思っておりますが、具体的に有人拠点ということでのテーマがどうなっているかというところまでは私の方では把握しておりません。申し訳ありませんが、引き続きこのMoon to Marsの宇宙探査イノベーションハブの活動の中で、また御意見等を賜れればと思っております。以上です。
【村山部会長】 どうもありがとうございます。本件ですが、これはJAXAの役割の非常に大きな変化ですので、本部会としてもその発展をフォローしていきたいと思います。特に実際にプログラムが始まってからどういうプログラムが採用されて、JAXAがそこでどういう新しい役割を果たしているかとか、そういうところをまた引き続きご報告いただければ非常に助かります。今日はどうもありがとうございました。
【石井副理事長(JAXA)】 ありがとうございました。
【村山部会長】 それでは、次の議題に移らせていただきます。本日最後の議題は「惑星分光観測衛星ひさきの成果について」です。「ひさき」は、小型科学衛星として2013年9月にイプシロンロケット初号機で打ち上げられ、設計事業を大きく超える約10年間にわたって観測を続け、昨年12月に運用を終了しました。本日は、「ひさき」のもたらした工学的・理学的成果と今後の展望についてご紹介いただきます。それでは、JAXA國中理事、宇宙科学研究所の山崎准教授、資料の説明をお願いいたします。
【國中理事(JAXA)】 宇宙研から報告させていただきます。頁をめくってください。本日報告させていただきます惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)は、イプシロンロケットの初号機で2013年に打ち上げたものです。10年間にわたって運用してまいりましたが、搭載のスタートラッカーが経年劣化によってうまく機能しなくなってきましたので、昨年度停波をしました。開発も含めたこの10年にわたる活動について本日ご報告させていただきたいと考えております。次の頁をお願いします。
「ひさき」の当初の目標は木星の磁気圏を極端紫外線を用いまして地球を周回する衛星から観測するというところを目標設定としておりました。当初1年間は木星に注目した観測を行ってまいりましたが、その後は後期運用に入りましたところで、この絵でいいますところの左側の固体惑星の方、水星、火星、金星の観測も並行して実施させていただきました。この10年を俯瞰いたしますと、木星、土星というような強磁場惑星と、それから非磁化惑星を、双方を比較しながら観測するということが実施できたものと考えております。次の頁をお願いいたします。
この写真が衛星の形態を示しておりまして、こういった細長い格好をしております。下の部分が衛星バスになっていて、太陽電池が畳んだ状態の写真になっております。それから、その衛星バスの片面側に長細い望遠鏡が搭載されております。これをEXCEEDと呼んでおります。このEXCEEDという望遠鏡とSPRINTバスという衛星バスを比較的クリーンインターフェースで設計・製造して、それをくっつけて衛星形態にするというような、こういった形でSPRINT-A(ひさき)は製造を行いました。このEXCEEDの部分とSPRINTバスの部分で表面に貼ってありますMLIの色がちょっと違っておるのがお分かりかと思いますが、それは取り扱う会社も違うからです。SPRINTバスの部分についてはNECが担当で、EXCEEDの部分は住友重機械工業が作るというふうに、こういうふうに独立に設計・製造して、くっつけて飛ばすというような形態になっております。打上げ総重量は約350 kg、イプシロンで上げまして、高度約1,000 kmの円軌道で運用いたしました。これは紫外線を観測するのが主目的ですので、地球の大気からの発光を避けるために比較的高い軌道を選んで運用がなされたというものになります。それからもう一つ、NESSIEと書いた部分がありますが、これは実験的に搭載しました薄膜太陽電池の実験デモンストレーションがここに搭載されております。それらの成果についてこれからご紹介させていただきたいと思います。次の頁をお願いいたします。
成果のサマリですが、まず惑星圏環境研究に関する成果、それから2番目が衛星開発方式による成果、それから搭載機器、コンポーネントレベルでの成果ということになります。次の頁をお願いいたします。
まず科学的成果になりますが、当初設定しました木星磁気圏観測につきましては、20 cmの極端紫外光で木星磁気圏を観測するということを大きなテーマとしておりました。この絵の真ん中にありますのが木星で、その周りに青いダンベル状の枠が囲ってありますが、これが「ひさき」が持っております工学的な視野になります。木星の北半球の部分が見えるような視野と、その両脇にイオを含むイオトーラスの左右が同時に俯瞰的に木星の磁気圏が観測できるような視野が設定されております。そして、サンプルによる木星オーロラの観測というのは大変有名ですが、ハッブルの見ている木星の領域、それに対してひさきが見ている領域が相補的であるということがお分かりになろうかと思います。また、ジュノー等の木星周りの周回機も運用されておりますが、ジュノーですとポイントワイズなデータが出てくるわけですので、ハッブルのオーロラの観測、ジュノーのポイントワイズなデータ、そういったものと相補的に観測データ、共同研究をシェアすることができるという意味で、「ひさき」はそういったアプローチで研究を進めたというものになります。次の頁をお願いいたします。
また、木星観測以外にも惑星観測を行っておりまして、その一つの大きな成果といたしましては、火星の大気の状況を観測した結果としまして、砂嵐(ダストストーム)が起きますと水素の発光強度が上がり、そして酸素の発光強度が下がるということを特定いたしました。これによりまして、火星からの大気流出というものがダストストームと因果関係があるということが分かってまいりました。これもNASAの火星周回機MAVENとの共同観測によりこの挙動が、俯瞰的に火星全体を見通した上でこういったことが「ひさき」によってつまびらかにされたという大きな成果であろうかと考えております。次の頁をお願いいたします。
また、天文領域におきましても、チャンドラX線望遠鏡と「ひさき」の持っております極端紫外光とのシナジー効果を高めた共同観測というものも実施しておりまして、大きな成果が出ております。次の頁をお願いいたします。
次からが工学的な成果になります。先ほどご紹介いたしましたように、衛星バス部分と望遠鏡部分を比較的クリーンインターフェースで作るという事柄。それからバスの方も、ここではあえてセミオーダーメイド型標準バス(SPRINTバス)と呼んでおりますが、ここで言いたいのは、フルオーダーではなくて既にカタログ化されたようなコンポーネントを組み合わせて、太陽電池のサイジングを変えたりするという、オートクチュールではなくてセミオーダー、そういう意味でセミオーダーという言葉を使わせていただいておりますが、こういった衛星の設計方法というのをSPRINT-Aで開発いたしました。この衛星バスの部分はNECが取りまとめでありまして、NECはこういった方式の衛星をその後の宇宙研の磁気圏衛星あらせ、それからASNARO、それからLOTUSat等に応用してきておりますし、今後の宇宙研のミッションとしましても、JASMINE、HiZ-GUNDAM、LAPYUTA、それから現在開発中のSOLAR-Cもこの方法を踏襲して開発をしておりまして、これをスタンダードとして今後宇宙科学研究所はタイムリー且つ短期期で、コストを圧縮した状況で宇宙科学を進めていきたいと考えております。次の頁をお願いいたします。
それから、太陽電池技術でNESSIEという薄膜太陽電池とリチウムキャパシタの組み合わせの実験装置を乗せておりました。NESSIE自体は余りよい成績は収められませんでしたが、これが2013年の実験ですが、その後2016年にSFINKSという名前でHTVでまた薄膜太陽電池の実験を行いまして、これも実は余りよい成績は出ませんでしたが、その後革新小型衛星、それからつい最近はSLIMの太陽電池に薄膜太陽電池がバス装置、そして主力の太陽電池として応用されまして、SLIMでは完全無欠の成果を収めることができました。このように技術の発展スキームとしてこのNESSIEというのがその先駆けとして十分機能したと、このNESSIE自体はよい成績ではありませんでしたが、ここでの宇宙実験を糧に技術が確実に進捗したということがいえるであろうと考えております。次の頁をお願いいたします。
それから、衛星を作るにあたって、また、衛星を運用するにあたって、汎用衛星試験運用ソフトウェア(GSTOS)というのをこの「ひさき」と同時に開発いたしまして、それ以降「ひさき」に応用するとともに、引き続きの宇宙研の衛星開発にはこのソフトウェアを応用して、その後もずっと利用してきております。昨今は衛星ベンチャー会社がぜひこのGSTOSを使わしてくれというようなオーダーも頂いておるというところで、大変実績のあるソフトウェアを「ひさき」の開発に併せて実行したということで、これも十分成果が出ておるということになります。次の頁をお願いいたします。
人材育成関係では、査読論文66本、博士取得者5名、受賞履歴も多数というふうになっております。次の頁をお願いいたします。
波及効果は、今述べましたような科学的な成果、工学的な成果、それからデータアーカイブにつきましても、宇宙研のDARTSというシステムを使いまして広くデータ公開をしております。それから、一つ書きそびれましたが、BepiColomboが金星をフライバイした際に、これは2020年のことなのですが、BepiColombo搭載の「みお」と、それから金星を既に回っております「あかつき」と「ひさき」の共同観測というのも実施しました。現在宇宙研では、私の背景にありますようにたくさんの衛星群を運用しておりますが、こういった衛星同士を組み合わせた多角的な観測ということも、この「ひさき」を使って実現ができております。次の頁をお願いいたします。
今後の後続の衛星計画に対する影響ですが、先ほどご紹介しました衛星バス、SPRINTバス。NECはNEXTARバスと呼んでおりますが、こういったバスを使いこなすということが大きなテーマではありますが、科学分野につきましても、この「ひさき」を更に発展化しましたLAPYUTAという観測衛星の計画を現在立案中です。更には、これは米国との共同計画になりますが、米国は数年前にJWSTというのを打ち上げまして、非常に大きな科学成果を創出しております。その流れに乗りまして、JWSTの次にHWO(Habitable Worlds Observatory)という計画、これは2040年代と呼ばれておりますが、ここにぜひ日本として参加をしてくれという呼び掛けを頂いておりまして、ここにどのような貢献ができるかという議論がちょうど始まったところです。NASA側も新しい組織を作りまして、HWOをどのように作っていくかという組織が新しくできたところですが、ここの組織を中心に対話を続けておるところで、いろんな案が出ておるところですが、その一つとして、日本が得意とする紫外線観測装置。分光器であるとか、画像装置であるとか、いろいろ方式はあるのですが、そういったところに技術提供ができないかというような対話をしておりまして、それもこの「ひさき」の成果が入口になっておるというところでありまして、こういった方面で宇宙科学研究所は今後この「ひさき」技術を展開していきたいと考えております。以上になります。
【村山部会長】 ご丁寧に説明いただき、誠にありがとうございます。非常に大きな成果を上げられたということですが、ただ今の御説明について御意見、御質問がありましたらお願いいたします。いかがでしょうか。笠原委員、お願いいたします。
【笠原委員】 國中所長、ご説明本当にどうもありがとうございます。10年にわたり、また、それ以前から非常に計画的に、また、幅広い検討と、それから非常に適切な狙いを持った観測を成功裏に、また、当初よりも非常に大きな科学成果をもたらしながら完了されたことは、非常に敬意を持って聞かせていただきました。また、基盤技術に関しましても、今後の展開、つまりNASAへの国際協力につながる非常に重要な、分野的な先導性や、それから優位性を保っているということで大変力強く感じております。
一点質問させてください。私は工学の研究者なものですので、そのNESSIEの開発で、やはり大きなレッスンズラーンドがあって、その後のDESTINY+への採用、ないしはSLIMの成功につながっているという辺り、やはりとてもご苦労されながら一歩一歩10年以上にわたり開発を続けてこられたというふうに理解いたしましたが、どういうところがやはり学びといいますか、こういうところに実際実証実験をすると気付きがあったのかとか、その辺りがもし公開の場でご発言いただけるようであれば、ぜひ今後の人材育成はいろんなところに宇宙実証というのは、こういうレッスンズラーンドを得ながら長期にわたってじっくり進めるものだということが伝わりますので、公開できる範囲で結構ですので、何かそういうポイントとなるようなところがお示しいただけると、私も大変勉強なりますし有り難いかなと思っております。以上でございます。
【國中理事(JAXA)】 特に重要なのは、薄膜太陽電池というところになります。当然薄膜にすれば軽くなって有効なのですが、逆に熱がローカルに発生しますと、熱を拡散することができませんのでヒートスポットができて、その部分が暴走してしまって壊れてしまうということが、このNESSIE、それからSFINKSで起きたことになります。特に金属ですと、温度が上がると抵抗が増えるので電気が流れなくなるのですが、半導体は逆に温度が上がると抵抗が下がるのですね。下がると更にそこに電気が流れやすくなって、更に発熱するという悪いサイクルになってしまいます。それを改善したのが最近SLIMに使われた技術になっておりまして、熱が発生してもそれが薄膜でありながら拡散するようになっている。そのような設計・製造。それから、電流の流れるパスを見直してSLIMにその成果が応用されてきております。こういった流れになっております。
【笠原委員】 熱がやはりキーポイントだということを理解いたしました。所長、どうもありがとうございます。以上でございます。
【村山部会長】 どうもありがとうございます。他の御質問はいかがでしょうか。手は挙がっていませんが……。それでは、本件はこれで終わりたいと思います。今日はご説明どうもありがとうございました。
【國中理事(JAXA)】 ありがとうございました。
【村山部会長】 それでは、本日の議事はこれで終了となります。最後に、事務局から連絡事項があればお願いいたします。
【木元補佐(事務局)】 本日もありがとうございました。会議資料と議事録の公開について申し上げます。本日の会議資料は、文部科学省のホームページに既に掲載させていただいております。また、議事録については、委員の皆様にご確認いただいた後、文部科学省のホームページに掲載させていただきます。次回の宇宙開発利用部会ですが、委員の皆様と調整の上、設定してご連絡いたします。事務連絡は以上となります。
【村山部会長】 どうもありがとうございました。以上をもちまして閉会といたします。本日も長時間にわたり、誠にどうもありがとうございました。それでは失礼いたします。
―― 了 ――
研究開発局宇宙開発利用課