宇宙開発利用部会(第46回) 議事録

1.日時

平成31年1月30日(水曜日) 15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省 5階3会議室

3.議題

  1. 2019年度 文部科学省宇宙関係予算案について
  2. 国際宇宙ステーション(ISS)に提供するISS構成要素及び搭載物の安全性確認について(軌道上実証光通信装置(SOLISS))
  3. ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)の科学成果等と後期運用計画について
  4. その他

4.出席者

委員

部会長         白石 隆
臨時委員        井川 陽次郎
臨時委員        芝井 広
臨時委員        白井 恭一
臨時委員        永原 裕子
臨時委員        藤井 良一
臨時委員        横山 広美
臨時委員        吉田 和哉
臨時委員        米本 浩一

文部科学省

研究開発局宇宙開発利用課長           藤吉 尚之
研究開発局宇宙開発利用課企画官        原田 大地
研究開発局宇宙開発利用課課長補佐       佐々木 裕未
研究開発局宇宙開発利用課課長補佐       岡屋 俊一

(説明者)
調査・安全小委員会主査                  渡邊 篤太郎
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
有人宇宙技術部門 有人システム安全・ミッション保証室
 室長                              白井 達也
 主任研究開発員                      髙橋 伸宏
 宇宙探査イノベーションハブ 主任研究開発員    稲垣 哲哉
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
 理事                              國中 均
 宇宙科学研究所 ジオスペース探査衛星プロジェクトチーム
 プロジェクトマネージャ                  篠原 育
名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授        三好 由純

5.議事録

【白石部会長】 それでは,宇宙開発利用部会の第46回会合を開きたいと思います。お忙しいところありがとうございます。
まず,事務局のほうで人事異動があったということで,御紹介をお願いします。

【事務局(原田企画官)】 先週22日付で有林の後任として着任いたしました原田大地と申します。ある衛星と同じ名前ということで覚えていただければと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【白石部会長】 それでは,最初に今日の会議についての事務的な確認をお願いします。

【事務局(原田企画官)】 本日,宇宙開発利用部会に御所属いただいております17名の委員の先生方のうち,9名の先生方に本日御出席をいただいております。運営規則に定めます定足数の要件を満たしております。
次に,本日の資料でございますが,お手元の議事次第の4つのポツのとおりお配りさせていただいております。過不足等がございましたら,適宜事務局にお申しつけいただければと思います。

(1)2019年度 文部科学省宇宙関係予算案について

【白石部会長】 それでは,議事に入りたいと思います。
第1の議題は,2019年度文部科学省宇宙関係予算案についてです。
文部科学省における2019年度の宇宙関係予算案がまとまっておりますので,事務局のほうから御報告をお願いします。

【事務局(藤吉課長)】 それでは,資料の46-1を御覧ください。来年度の文科省の宇宙関係の予算案です。
ページをめくりいただき,右の上に全体額が出ております。1,560億円ということで,今年度の予算額に比べまして15億円の増ということです。これは最近5年間では最大,最高の額であります。これに加えまして,今年度は,補正予算約290億円が計上される見込みです。
概要ですが,宇宙基本計画に則りまして,宇宙安全保障の確保,民生分野におけます宇宙利用の推進,また宇宙産業と科学技術の基盤の維持・強化,といったものに積極的に取り組んでいく方針のもとで予算をつけています。
最初の1ですが,H3ロケット等,次世代の人工衛星等の安全保障・防災,産業振興への貢献ということで680億円余りです。中身はH3ロケット、イプシロンロケット,更には様々な衛星群等々です。詳細は後ほど説明いたします。
また,宇宙科学等のフロンティアの開拓ということで,これはISS「きぼう」の運用等,ISSに運ぶ補給機「こうのとり」の開発費用,更には新しい補給機のHTV-X等々です。また,航空についても37億円程度を確保する見込みです。
次の2ページ目ですが,安全保障・防災,産業振興への貢献ということです。
まず,主なプロジェクトですが,次期基幹ロケットのH3ロケット,これにつきましては多様な打上げニーズに対応した国際競争力のあるロケットを開発しようということで,2020年度の試験機の第1号機,また2021年度にはその2号機の打上げを目指して,現在エンジンの燃焼試験等を進めているところです。これに必要な経費を計上しています。
また,基幹ロケットのうちのイプシロンロケットですが,これにつきましても,国際競争力の強化を目的として,H3ロケットの固体ロケットブースタをイプシロンの第1段モータに適用するための開発,あるいはH3ロケットのアビオニクス,電子装置群についてもイプシロンロケットに適用するための開発等の活動をするための経費です。
また,衛星群ですが,技術試験衛星9号機につきましては衛星の国際競争力を強化する観点から,衛星の重量半減によって打上げコストを大幅に削減できるオール電化,これは化学推進から電気推進にするということですが,それ以外にもミッション機器の搭載能力の抜本的向上のための大電力化を実現する技術試験衛星の開発を進めています。
また,最近話題になっています宇宙ごみ,デブリに関して,その除去技術の実証ミッションを開発しようということで,来年度新たに3億円を計上する見込みです。これはスペースデブリの増加を防ぐためには,まず大型のデブリの除去が効果的であると考えておりますが、その技術がまだ実証されていませんので,大型デブリの除去の実証を目指して各要素技術の開発を行うというものです。
次の3ページです。
これは安全保障・防災,産業振興への貢献の2つ目ですが, ALOSシリーズ,先進光学のALOS-3,またレーダのALOS-4,これらを2020年度に打ち上げるために必要な経費を計上しています。防災,災害を含む広義な安全保障,更には農業,国土管理というものに貢献するためのALOS-3の開発,また超広域の被災状況の把握とか,最近多い地震,火山等の地殻変動等の緻密な検出目的のために,現在のALOS-2に代わるALOS-4を開発するものです。
また,次の光データ中継衛星ですが,現在様々なリモートセンシング衛星が立ち上がっていますが,その高度化,高分解能化に対応して,データの容量も増えてきています。それらを迅速に地上に中継するためのデータ中継衛星を2019年度に打ち上げる予定です。
また次期マイクロ波放射計の開発ですが,「いぶき3号」,これは2022年度を予定しておりますが,これと相乗りさせるべく現在研究開発をしています。これは,現在GCOM-W,「しずく」に搭載していますAMSR2の後継機という位置づけです。
また,宇宙状況把握(SSA)システムですが,これは先ほどのデブリの増加等の宇宙の混雑化のリスクに対応するために,地上から宇宙を見るということで,レーダで低軌道を見るものと光学で静止軌道を見るものがあります。それぞれかなり時間がたっていますので,高度化,あるいは更新のために必要な経費です。
次の4ページは宇宙科学等のフロンティアに関して,まずは「きぼう」の運用等ですが、引き続き「きぼう」の運用を行い、更には日本人宇宙飛行士の養成、宇宙環境を利用した実験の実施等々を推進していきたいと考えています。
また,ISSへの補給機「こうのとり」ですが,今年8号機の打上げ,また来年には9号機の打上げを予定していますので,そのために必要な経費です。
更に「こうのとり」を改良して,宇宙ステーションへの輸送コストの大幅な削減を実現するためのHTV-Xについての開発費も計上しています。
最近アメリカで月の近傍を回る有人拠点,Gatewayの構想を提唱していますが,このような国際宇宙探査に向けた開発研究で5億円余り計上し,必要な国際調整ですとか,具体的な技術の検討,実証といったものを主体的に進めることとしています。
また,5ページはフロンティア開拓の宇宙科学の部分ですが,火星の衛星を探査してサンプルを持ち帰るというMMXプロジェクトがあります。これのフロントローディングということで,ハイリスクなミッションの確実な実現を目指して,クリティカルな技術の開発リスクの低減活動,これをフロントローディングと我々は呼んでいますが,そのための費用を計上しています。
次に深宇宙探査技術実証機としてDESTINY+ですが,これは,流星群の母天体である活動小惑星フェイトン等の探査を行い太陽系の進化過程の解明等に貢献していきたいと考えています。
X線分光撮像衛星XRISMですが,これは失敗した「ひとみ」の後継機に当たります。これは2021年度の打上げを予定しています。
最後のページは航空関係の参考情報ですが,ジェットエンジンの購入によってテストベッドとして様々な技術の実証をし,国際競争力を向上させるような基礎的な研究開発を進めていく予定です。
以上です。

【白石部会長】 どうもありがとうございます。
これについて何か質問等ありますか。

【芝井委員】 ありがとうございます。2つ質問があります。
まず,1点は色々なプロジェクトを着実に進められるようになっていますが、これは現在の予算案で,ここに至るまでに,当初の計画と比べて落とさざるを得なかったというものがあれば教えていただきたいです。
二点目は,昨年度もお願いしましたが,1枚目のページの表の数字の足し算をしても,合計が合わないので,かなりの額で項目が挙がっていないものがあると思われます。抜けている項目を教えていただければ,判断がしやすいと思います。項目全部ということではなくて結構ですが,どういうことに何%使われているかということを教えていただけますか。
以上です。

【事務局(藤吉課長)】 お答えいたします。
一点目ですが、今回は15億円ですが、予算増額できたということで,今年度できなかったものができたというものが多くあります。この新規というものの中には,今回2つしか記述はありませんが,このほかに木星探査の宇宙科学ミッションとしてJUICEを立ち上げることができそうですし,DESTINY⁺,MMXについてもかなりの予算が確保できたと思います。
ただ,やりたかったもので断念したものは,「CALLISTO」です。これはイーロン・マスク率いるスペースX社がロケット1段の再使用をやっていますが、もともとJAXAも地道に研究を行っていたものです。それを欧州等と組んで本格的に共同研究する「CALLISTO」というプロジェクトを実行しようと考えたのですが,これは残念ながら予算の査定の中で断念しました。
また,二点目のご指摘で総額が1,560億円にならないのですが,これは人件費,あるいは建物の維持費,電力,ガス等の基盤経費が占めています。次回なるべくこのような基盤経費等も示すようにしたいと考えております。ありがとうございました。

【白石部会長】 ほかに何か。

【藤井委員】 どうもありがとうございます。
今の質疑にも関連しますが,宇宙科学の予算がどのくらい認められたのかということが1点と,フロントローディングについて,非常にいいシステムだと思いますが,フロントローディングは新規で来年からではないかと思っていました。今年度から進行しているということになっているのでしょうか。という2点の質問です。

【事務局(藤吉課長)】 お答えいたします。
宇宙科学研究の予算は,今年度は約110億円です。来年度予算案では145億円で,35億円増です。これはかなり伸びているのではないかと思います。

【藤井委員】 これは補正予算もあるのでしょうか。

【事務局(藤吉課長)】 宇宙科学にはなかったと思います。JAXA全体予算で10億円増ですので,伸びはかなり大きかったと思います。ただし,昨年度予算から今年度の予算がかなり下がったということもあり,このままでは非常に問題であると我々も危機感を抱いていましたので,なるべくV字回復するように厚く配分したいという気持ちでおります。
また,2つ目のMMXのフロントローディングのご質問ですが,確かに5ページ目を見ますと今年が1億円となっていますが,今年度は成立性の検証を実施したもので,それに必要な経費で約1億円でしたが,来年度は実際のプロジェクトを立ち上げるための予算と位置づけておりまして,フェーズが進んだと捉えております。

【藤井委員】 フロントローディングという項目が作られるのは今後にとって非常に重要だと思いますが,名前としてこういう項目が認知されたと考えてよろしいでしょうか。

【事務局(藤吉課長)】 我々はそのように捉えております。

【白石部会長】 ほかに何か。

【永原委員】 御説明ありがとうございました。
大きく見ると項目は2つで,1番目は安全・安心関係で、2番目がフロンティアであると。
昨年と比べますと,1番目が50億円ぐらい減っていて,フロンティアは50億円ぐらい増えているというのが大枠かと思いますが、これは何か特別な理由があったのか,あるいはたまたま色々な案件の進み具合の関係でこのようになったということなのか,お分かりであれば説明をお願いします。

【事務局(藤吉課長)】 フロンティア関係が減って,宇宙科学関係が増えたということですが,宇宙科学関係は先ほどの説明の通りです。

【永原委員】 H3とか安全保障・防災関連は,総額で見ると50億円減っています。2ページ目を見ると今年度は729億5,200万円で来年度は680億9,400万円となっています。今度は4ページ目を見ますと,こちらは50億円増えた構造になっています。もし特に理由がないのであれば結構です。

【事務局(藤吉課長)】 1ページ目の103億円という数字がありますが,これには補正がついております。例えば来年度の予算を今説明していますが,平成31年度の予算案プラス今年度の補正と昨年度の補正プラス今年度予算という足し算を比較すると額的に伸びております。従いまして,補正がついている分本予算が少し減ったように見えるということでございます。
また,4ページ目で少し減っているのは「こうのとり」関係ですが,「こうのとり」につきましては8号機,9号機を,2019年度に打ち上げる予定でしたが,諸事情がありまして,9号機は2020年度に延期することになりましてその予算をばらしたことで,若干減っています。

【井川委員】 2点コメントがあります。1件目は,これを拝見すると全てのプロジェクトにお金がいっているように見えます。前回H3の開発状況の説明をJAXAの方がされて,そこに3Dプリンターでロケットのノズル等を作っているという説明があり、大変興味深かったので,三菱重工に先日見学に伺いました。プロジェクトベースになるのはやむを得ない側面もありますが,ノズルの3Dプリンター加工技術等基盤技術は,プロジェクトになると継続して開発できないという事情があるようです。
コストダウン用途とか,他の分野とか,色々な衛星とか、一品物とか,あるいは数点しか作らないものには3Dプリンターはコスト低減になったり,自由な設計ができたりして,日本のように小規模な宇宙開発ではかなり役立つ側面もあると思いました。
それで,プロジェクトベースももちろんいいのですが、共通基盤的なものを入れていくことも良いのではないかと思います。現在の日本の宇宙開発は,江戸時代の末期の小さな藩が俺の藩は絶対譲らないぞと,「お家大事」で頑張っているようにも見えなくはなくて,もう少し日本全体を考えることにも力を入れたほうが良いのではないかという危惧がありますということが一点目です。
もう一点は,日本の宇宙開発はほとんど補正予算でもっているようなもので,年度末になると宇宙開発は頓挫するぞとみんな大騒ぎになって,それも先ほどの江戸幕府の末期みたいな状況になっているのですが,その中で一つ気になっていることは,今月施行になった研究開発力強化法というものがあって,そこの中で基金化ということが一つの柱になっております。内閣府に聞いたところJAXAは基金化できる独立行政法人から加わることを拒絶されたという話がありました。つまり宇宙開発も基金を効率的に使うべきで、開発が途中で頓挫するとか,綱渡りみたいな研究開発をやっているのではなくて,すぐできるかどうかは不明ですが,要望として中長期的に法改正時にこのようなものを前向きに取り入れること等の検討をお願いしたいというコメントです。

【事務局(藤吉課長)】 ありがとうございます。
確かに,3Dプリンターの技術は非常にユニークで,現在H3ロケットの燃焼試験が始まっていますが,聞いている範囲では,3Dプリンターによる製品は所要の能力を発揮しているということで,JAXA側,現場としても評価しているということです。
ですから,3Dプリンターにつきましては,今回の実験結果等も踏まえて,より幅広く展開していく可能性を探っていきたいということがまず1点で、ちゃんとこういったものの中に顕在化させるようにということですので,工夫したいと思います。確かに,基盤技術の中にはそういったものもありますし,また産学官連携で新しいイノベーションを起こそうというプログラムを,まだ額は小さいですが進めておりますので,そういったものを今後どうやって見せていくかということを考えていきたいと思います。
2つ目の基金化ですが、実際補正頼みというのはおっしゃるとおりでして,1,560億円に対して約300億円ですから,2割ぐらいが補正になっているということで,それはいけないということは承知しています。基金化についても可能性は探っていきたいと思いますが、本予算をどうやって集めていくか,基金にした場合どうやって集めるか,更には無駄な部分をどうやってコストカットしていくか等々様々なことを今考えてございます。いただいたコメントを踏まえて,更に研究していきたいと思います。

【芝井委員】 もう一点質問させてください。
来年度予算という1年の活動に関してはこれで分かったのですが,長期的な計画の中でどういう位置づけ,あるいはどういう評価になるのかということを常に考えておかないといけないと思います。内閣府の宇宙政策委員会,あるいは文部科学省のこの宇宙開発利用部会で,文科省の場合では研究のロードマップを作っておりますし,宇宙政策委員会でも宇宙基本計画の工程表を作成しています。その年次計画に比較して,今回の予算案はどの程度整合しているのでしょうか,つまりこの予算案は,各予定計画が進められるものになっているのでしょうか。

【事務局(藤吉課長)】 お答えいたします。
基本的に今の宇宙政策の成り立ちから言うと,内閣府の宇宙事務局が作っている宇宙基本計画の工程表,これが毎年暮れに改定されておりますが,基本的にそれに則ってやっています。また,JAXA内では例えば宇宙科学研究所が作っているようなロードマップ等との整合もとりつつやっています。
ただし,先生がおっしゃるような中長期的といったものが内閣府の工程表に全て網羅されているかというと,必ずしもそうとは言えない側面があります。例えば,H3につきましては2020年,21年に初号機,2号機が打ち上がる予定ですが、 H3ロケットの後はどうするのか等全てを検討し尽してはいないところもあり,頭に入れながら検討していきたいと思っています。ありがとうございました。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。

【米本委員】 実証実験プロジェクト「CALLISTO」について,予算の査定の段階で来年度は計上を断念せざるを得なかったと説明がありました.予算規模の問題だったのか,技術の問題だったのか,あるいは国際協調の問題だったのか,可能であれば教えていただけないでしょうか。

【事務局(藤吉課長)】 両面あったと思います。必ずしも相手先の技術開発が順調にいっていないということが1点,また予算全体の中で「CALLISTO」までは盛り込むことができなったという面もありました。
以上です。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。
もしなければ,次の議題に移らせていただきます。

(2)国際宇宙ステーション(ISS)に提供するISS構成要素及び搭載物の安全性確認について(軌道上実証光通信装置(SOLISS))

【白石部会長】 2つ目の議題は,国際宇宙ステーション(ISS)に提供するISS構成要素及び搭載物の安全性確認についてです。
調査・安全小委員会において,軌道上実証光通信装置の安全対策の調査,審査が行われましたので,渡邊主査から調査結果について御報告をお願いいたします。

【渡邊主査】 資料は全部で5つあり,資料リストには2件載っておりますが,その付録,参考資料等を含めまして全部で5件あります。かなりの資料にはなっており,審査対象も新しいものですが,審査結果の調査審議の仕方は従前と同じスタイルですので,要点だけを簡単に説明させていただきたいと思います。
対象は後ほど図のある資料で説明したほうがいいと思いますので,後回しにしまして,2番目の調査審議の方法ですが,今年の1月11日に調査・安全小委員会を1回実施いたしました。全体のスケジュールの関係で,ちょっと従前と異なる方法ですが、その後1月16日から29日までの間に小委員会委員による書類審議を実施しました。
書類審議と書いてありますが,これは委員会の場に全員が出席して議論するということではなくて,資料を11日に説明されているものに加えまして,より多くの資料ですが,それらを各委員に送付しまして,指摘及び意見,コメント等をいただくということを16日から29日までに実施しました。
こういう書類審議ということは,私もいましたNASDA,JAXA勤務時代に何度もやったことはありますが,とかく審査をされる側と委員の1対1対応ということになりがちなのですが,今回はそこを2ラウンドにしておりまして,一旦委員の先生から出た指摘,コメント等に対してJAXAから回答してもらい、その全部を集計し、もう一度委員に展開しまして,意見,コメント等を再度いただいております。
従いまして,全員集まって議論をするというものと十分遜色がなく、むしろ考え方にもよりますが,時間をかけているということで,丁寧な審議ができたと思っております。
その結果の結論をまとめましてこれから報告しますが,報告内容に対して,本日この部会で審議いただくということです。
御承知のように,JEM及びJEMの構成要素に関しましては,安全対策の評価のための基本指針というものがこの部会で制定されております。それに基づいて審議するわけですが,実際はそれより大分広い範囲にわたって配慮がされた審議がJAXAの中でも行われておりますし,委員からもその範囲以上の点のコメントやら質疑等がありました。
それで,評価対象を見ていただくのですが,その前に資料を順番に追っていきます。資料46-2-2に調査審議のポイントという資料がございます。
基本的には評価指針に示されていることがここに調査審議の観点として書いてありますが,ハザードを抽出して,それに対してどういう対策がとられているかというようなことだけでなく,(2)にありますように,安全審査のプロセスが適切な内容になっているかということも含め,この小委員会の調査審議,JAXA内はもちろんですが,そのJAXAのシステムが合理的な内容になっているかということを審議しております。
調査審議の対象になりました実験機器ですが,付録1の資料をご覧いただきたいと思います。
これは小委員会にJAXAが報告した資料ですが,小委員会の審議の結果,若干修正を加えているものです。まず2ページ目で,どのような安全審査が行われたかということですが,フェーズ0,1,2と,こういう大規模なものですとフェーズ毎に実施しますが,今回は実験機器の規模に応じてということだと思いますが,更に詳細設計終了時に有人安全審査,それからフェーズ3,これは認定試験終了時ですが,有人安全審査を経た後に,JAXA全体の安全審査委員会の審査を受けています。
次に8ページにいっていただくと,有人安全審査会と安全審査委員会がこのような構造になっているということが分かると思います。このいずれの安全審査会もその開発運用者は審査を受ける側で,審査をする側は独立した組織であったり,人員であったりということです。
今回の実験機器は4ページに記載されています。
ここに絵が描いてありますが,このような道具立てのもので,質量は10kgということです。この装置を使って実験をする目的ですが,ミッションの目的のところに記載されています。低軌道-地上間において,光ディスク技術を利用した精密指向制御技術による100Mbps程度の光通信技術を確立し,2020年に向けた事業化・製品化を実現するために,軌道上での動作実験,軌道上と地上との通信実験を実施するということです。
これは中ほどの装置の概要のところに書いてありますが,JAXA宇宙探査イノベーションハブとソニーコンピューターサイエンス研究所との共同研究ということで,新しい要素としては民生品の光通信技術を発展させて,20年には製品化して販売したいという意図だということです。この装置をJEMの曝露部に取り付けて地上との通信実験をする計画です。
5ページにその簡単な絵が描いてありますが,uplinkとdownlink,両方のリンクの実験をするということです。地上局は日本国内に設置された直径1mの望遠鏡を利用します。 6ページは,曝露部に取り付けた状態で,7ページに運用シナリオが書いてありますが,これはファルコン9(スペースX)で打ち上がるということは決まっています。H2B,HTVではないということです。それで,ISSの曝露部に取り付けて実験をし,約1年後に光通信部とモニターカメラを回収するという計画案でございます。
それで,ハザードの抽出方法はFTAを使って実施しているということで,そのFTAが10,11ページに書いてありますが,単にFTAだけでなくて,これまでのいろいろな知見等も活用して,網羅的にリスク要因を抽出しているということです。
12ページにその結果,抽出されたハザード要因がありますが,リストアップされていますが,標準ハザードは説明するまでもないかもしれませんが,ハザードに対してどのような対策をとったらいいかということが標準化されているもの,そのほかにユニークハザードというものが7件,これはこの機器特有のものということです。
全部で6件と7件ですが,それぞれに制御対策が講じられておりまして,その結果,重大なリスクは残っていないということが確認されています。
全件説明するのはかなり時間がかかりますので,1つ,2つ抽出して説明させていただきますと,標準ハザードの1番目,可燃性物質を使用していると火災になるおそれがあるということですが,13ページの1番にその制御が書かれております。「きぼう」の中で火災が発生したりするという危険を避けなければならないということですが,制御は安全要求,JAXAのこれは宇宙ステーションプログラムで使っていい材料及び工程要求書がありまして,それに従った材料選定を行って,この実験装置ができているか否かと,検証の結果,要求を満たす材料が選ばれているということを確認したということです。
もう1件,ユニークハザードからいきますと,この通信装置を受信局に向けるために,制御するための可動部分がありますが,そういったものはこれまでも幾つかありましたので,飛ばして,目新しいものを選びますと,ユニークハザードの6番目で意図しないレーザ照射,通信にレーザが使われていますので,その関係の評価結果が比較的ページ数を多く使って説明されております。 20ページを御覧ください。
もともと通信に使うレーザ,それも民生品ですので,大出力ではなく,重大な危険があるとは思われないのですが,かなり丁寧な評価がJAXAでも行われておりまして,また小委員会でも幾つか質問があり,議論が行われました。
ISSに人がいるということ,それからISSに接近する輸送機等があるということで,それらに影響がないか,それからもっと広く拡張しまして,宇宙ステーションに取り付けた状態で下向きにレーザが照射されるわけですが,それを受ける地上側には人員がいますし、また航空機等も飛んでいる可能性もありますので,そういうものも含めて大丈夫かという評価がなされたということです。
ちなみに, ISS内には機械的にこのレーザ発信機が向くことはないこと,レーザ発信機から発信したレーザ光が向くことはないというようなメカニズムになっている。
それから,このレーザ発信機,増幅器等は,21ページの図ですが,CPU2つのアンドで動作するようになっているということで,設計上も誤って1つの系統でレーザが発信されてしまうということがないような設計が講じられている。ごく一部分の説明ですが,このように丁寧な対策がとられているということを確認いたしました。
24ページから数ページが安全対策の評価のための基本指針に対して結果がどうかということですが,このページに関しては更に別の資料がありまして,非常に詳細に記載されています。全て指針に沿った内容になっているということを確認いたしました。
以上の結果として小委員会としては,最初の46-2-1の資料に戻っていただきまして,3.の文章を読み上げさせていただきます。「JAXAが実施した軌道上実証光通信装置に係る安全審査の方法や結果等について,安全審査体制・プロセス,安全解析及びそれへの対処の観点から調査審議した結果,JAXAが実施した軌道上実証光通信装置に係る安全審査の方法や結果等は妥当であると評価する。また,このことから,JAXAが実施している安全審査のプロセスや考え方は適切に機能している」と小委員会としては結論しました。
報告は以上です。

【白石部会長】 どうもありがとうございます。
今の報告について質問,御意見等ございますか。

【米本委員】 細かい話までお聞きするには時間的な余裕はないとは思いますが,例えば資料13ページの火災が発生する可能性があるとした場合の対応について,材料選定とか設計で対応していると書くのが果たして十分な安全性の対応になっているのか疑問に思います。可能性があると想定するのであれば,設計対応は勿論のこと,火災が起こったらそれは一体のような事象になるのか,船内で消火することが可能な規模なのか,具体的な対応策等まで含めて一歩踏み込まないと,安全性要求に対する対応にはならないのではないかと思います.そのような議論は,ないのでしょうか。

【渡邊主査】 この標準ハザードの1というのは火災ですが,これはこの当該装置が原因で火災が発生するということが記述されていると理解しておりまして,ほかの火災でこれがそれを助長するとか,そういうこともあろうかと思いますが,そこに可燃性物質がないということで,そういうこともカバーしているということなるのではないかと思いますが、補足をお願いします。

【JAXA白井】 火災につきましては,まずこのような個別の装置につきまして,火災を起こさないような材料を選定して火元がないようにする。材料が燃えないように,燃えないものを使うということと、それからステーション全体としては,火災の発生を抑えるほかに,万が一火災が起きたときにも対応できるように消火器を用意しそれで消すということ,それから火災が起きたときにクルーがすぐ分かるように,煙センサー等を置き検知してクルーに知らせるという機能がございます。
それから,消火の機能不良,消火しても消火し切れない場合は,ステーションのある部分,モジュールと呼ばれる区間を閉鎖して減圧して消火するとか,そういった次の手段も用意しています。

【米本委員】 ステーション全体の安全性対応としては,只今ご説明いただいた通りだと思います。繰り返しになりますが,安全性審査の対象となる機器について,それが火災源になる可能性がある場合,火災の規模はISSの船内の消火器等の防御措置で十分消火し得る等,一歩踏み込んだ対応の説明がないと,審査としてクローズしていないと考えられてしまいます。

【JAXA高橋】 今回,書類審議の中で,委員の方より同様の質問をいただきました。もしこの基準に従えば火災は起きないのかと,そういう御質問をいただきました。
そちらへの回答としましては,基準というのは,金属などを使った場合には燃えないということになります。それ以外にも可燃性の材料をどうしても使わないといけませんので,それに対しては,燃えたとしても短時間で燃え尽きる量であれば,それは火災の可能性は低いと,そのような基準が決められておりまして,それらを選定すれば,いわゆる燃えたとしても延焼による火災にまでは至らないというふうに判断できるもののみを使っています。
また,もう一つ火災の原因というものは,可燃性の材料の使用と,それから発火源,それから最後にそういう環境で燃え移るための空気の3つがないと起きませんので,それを全て管理して,その発火源が近くにないことと、ほかの機器も共通的に発火源とならないように制御しておりますし,またJEMの中で使う場合には,JEM船内の空気量が決まっておりまして,もし火災とか起きたときは,先ほど白井が説明しましたように,ハッチを閉めるなどで酸素量を減らして消火するという,そういう共通的な対処方法を用意しています。

【米本委員】 ご説明のような安全対策はとられていると理解しました。しかし,安全審査資料としては,通常そこまで記述しないとクローズしないものと思い質問しました。同じように,例えば21ページのハザードである搭乗員の喪失というクリティカルな事象において,機器が船内にあるときには電源が供給されない設計を行っているとしていますが,そのような安全性対応では不十分だとおもいます。すなわち,システム的な故障だけでなくミスオペレーション等々も含み,要因を問わずに電源が入ってしまったらどの様な安全対策がとれるのか,そこまで検討されたものでないと対故障設計と言えないのではないでしょうか。

【JAXA高橋】 電源の供給に関してですが,電源が接続されていないということは,全くケーブルがつながれていないということで,電源自体が供給されていないという意味でございます。船内では機器と電源との接続はされていないので,これはオペミスとか,そういったものは一切排除されて,電源は入る可能性はないというふうに評価してございます。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。

【永原委員】 ありがとうございました。
直接この小委員会の報告に関係しないことで申し訳ないのですが,これは単なる日本の技術開発ということではなく,2020年には商品化まで持っていくという説明ですが,そうしますと国際的なレベルから考えて,これがこの商品の強みとなると思います。ここまで安全である、米本委員が御指摘された点は,3.11のときのこと等を考え起こしましても,非常に重要な御指摘だと感じたのですが,本当に諸外国と比べたときに,これの強みといいますか,ここまでセーフティの検討がなされているという視点で見たときに,今日の内容には何か特徴があるかどうかということを説明いただけるでしょうか。

【白石部会長】 どうでしょう。

【JAXA稲垣】 この装置を担当しています稲垣といいます。
この装置は説明にありましたとおり,ソニーコンピューターサイエンス研究所と共同研究でやっていまして,小型通信のメインの部分はソニーが事業化を検討しており,そこの強み等は,ソニーで現在考えているところです。ここでは詳細の戦略等を私のほうで把握しておりませんので,実証の範囲で、宇宙ステーション上でどういう実験を,どのように安全にやるかという今回のミッションに限った話とさせていただきたいと思います。

【永原委員】 質問させていただいたのは,光通信の能力ではなくて,商品ですから,セーフティの部分が売るときの一つの重要な要素になるのではないかと思いましたので,その部分での何か強みとかがあるのかということですが。

【JAXA白井】 そういった意味では,今回軌道上で実証することによって,安全に使えるということが証明されると思いますので,それによってその技術を実際の製品に反映できると思います。

【JAXA稲垣】 担当から補足しますと,実際は小型の衛星に搭載することを想定していますので,有人システムへの搭載に向けての安全確保は,それよりかなり厳しい面等がありましたので,想定以上の対策を今回とったということです。ここまでしっかり見てもらえれば,実際の衛星に搭載したときは十分な安全対策がとれているということが自信を持って言える状態になると思っています。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。

【芝井委員】 この参考3の「国際宇宙ステーション(ISS)に日本が提供するISS構成要素及び搭載物に関する安全性について」の文章で,教えていただきたいのですが,1枚めくったところに,「1.ISS構成要素と搭載物の安全性に係る責任・役割分担」と書いてありますが,この中身は責任ではないですね。役割分担は書いてありますが,責任ということに関してどう考えられているのかは書かれていないと思います。
日本国,あるいは文部科学省,JAXAは安全性審査を実施すること,認証することという役割があって,その役割に対する責任があるのだとすると,この搭載物に関する責任というのは日本国政府,あるいは文科省,あるいはJAXAは持っていないということですか。どうしてこのようなことを聞くかというと,何か起こったときにどうするのかまた何かが起こったときにどういうことが起こるのか,賠償も含めて気になりました。

【白石部会長】 これについては誰が回答できますか。

【事務局(原田)】 文部科学省の宇宙利用推進室が担当になると思いますが,それについてはIGA上の規定に基づく機関間の役割分担とか,あるいは政府間の責任分担というものがございます。その辺につきましては今担当がこの場におりませんので確認させていただいてということでよろしくお願いします。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。
ないようでしたら,これまでの審議を踏まえまして,資料46-2-1について,小委員会からの提案どおり決定するということでよろしいでしょうか。

(「異議なし」を確認)

【白石部会長】 どうもありがとうございました。

(3)ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)の科学成果等と後期運用計画について

【白石部会長】 では,次に3つ目の議題に移りたいと思います。
議題はジオスペース探査衛星「あらせ」の科学成果等と後期運用計画についてです。
「あらせ」は着実に観測成果を積み重ね,当時予定していた定常観測運用を終え,後期運用へ移行が計画されております。これまでの科学成果等と後期運用計画について,JAXAのほうから説明をお願いします。

【JAXA國中】 資料46-3に基づき説明を行った。

【白石部会長】 どうもありがとうございました。今の報告について何かございますか。

【横山委員】 御説明ありがとうございます。
すばらしい成果を収められておめでとうございます。特に最初の東大のPIによる「Nature」の論文は一般にも広く報道されて,多くの方が楽しまれて御覧になったのではないかと思い,大変興味深く拝見させていただいておりました。
質問は17ページに関してですが,説明いただいた名古屋大学との関係において少し教えていただけたらと思います。宇宙科学研究所自体が共同利用研究機関であると同時に,名古屋大学も共同利用研究機関として参加をし、ウィン・ウィンの関係にあると思います。
しかし多くのプロジェクトが宇宙研主導で行われているのに対して、今回のようなデータについては他のセンターに依頼をするという協力関係は、どちらにどのように評価をすればよいのかとまどいます。以前に同様の他機関との協力関係はあったでしょうか。どのように整理して理解すれば良いのかということを教えていただきたいと思います。お願いいたします。

【JAXA國中】 大学とは密接な関係を持って研究開発を進めているところです。宇宙科学研究所は一般的な協力関係を更に飛び越えて,連携拠点大学,大学連携という施策を持っています。これは大学と宇宙科学研究所の中でバイラテラルな協定を結び,特定のトピックスに関して協力的に実施すると共に,マッチングファンドになっていまして,宇宙科学研究所からもある程度の費用を大学側に渡し,大学側もそれに見合う費用を工面して,そのトピックスに関して大学の活動を活発にしていただくということを行っています。
本日紹介しましたものは,名大との連携活動としてその具体的なトピックスとしてこのERGの衛星データを分析するというもので、連携大学を仕立てたという例であります。
この活動は特に衛星プロジェクトに限ったものではなく,ハイブリッドロケットの研究というようなトピックスでは北大と同様の連携協定を結んでいますし,小型衛星の開発というトピックスでは,東大柏キャンパスのグループと連携協定を結んでいます。また惑星科学データの分析では神戸大学と連携協定を結んでいます。
以上のように特に衛星プロジェクトに限定してこのような活動をしているわけではなく,いろいろなトピックスでこういった活動をしています。

【横山委員】 ありがとうございます。
大分分かってきたのですが,ERGとのサイエンスのコラボレーションでは多くの大学が関わっていると思います。特定の大学名だけが出てくると違和感がありますが、サイエンス成果とそのミッションを成功させるためのデータ解析センターなどのニーズというものはわかります。ありがとうございます。

【JAXA國中】 宇宙科学研究所では定常運用したり,開発・運用したりして,宇宙オリエンテッドなデータに狭視野的になってしまうところがあります。一方名大には極域に観測網を設置してもらい,そことの共同観測データとするというような切り分けになっています。

【白石部会長】 永原委員どうぞ。

【永原委員】 説明ありがとうございました。
まだ詳細をきちんと理解していないのですが,プラズマ波動中で高エネルギー粒子の生成、消滅をin situできちんと観測できたということで,物理学的に非常に価値のある成果が得られたことをうれしく思います。
また,ミッションの体制とか,いろいろな協力体制,打上げ時も随分気をもみましたが,全てうまくいったということと,特に取得データが非常に早期に一般公開されたということもあり全体としては非常にうまくいっているようでうれしく思いました。このまま次の太陽活動サイクルに向けて後期活用を進めていただくことに大いに期待したいと思います。
その上でですが,学術的なことで少し突っ込んでお伺いしたいことがあります。これが分かると次の新たな課題というのが当然出てくるわけで,とりわけ宇宙の高エネルギー粒子の加速問題というものは,現在宇宙科学の中でクリティカルな話題であり、重要な柱の一つですので,もっと広い意味で、つまりヴァン・アレン帯とか地球のオーロラを離れて,もっと広い宇宙物理に対して何か新たな知見を得られたか,あるいはこのミッションの中で浮かび上がってきた新たな科学的課題,次にやるべきことというものが明確になっているのであれば,ご説明いただけたらと思います。

【名古屋大学 三好】 今の件について説明いたします。
私どもは2点ほど「あらせ」のこれまでの成果が将来に大きく貢献すると思っています。まず1点は,先生がおっしゃられた「加速」ですが,宇宙で普遍的に「加速」は起きていると思いますが,in situにて観測できるのはこの地球の周りが最適な場所で,今回「あらせ」では決定的な「加速」の証拠を幾つも得ています。
恐らく太陽系の天体,及び太陽系を超えて遠方の宇宙も含めて,このようなプラズマの波が積極的に高エネルギー粒子を作っている可能性が非常に高まっていると思いますので,私たちは「あらせ」の成果を蓄積しながら,宇宙で普遍的に起きている素過程の解明で貢献していきたいと思っています。それがより大きな宇宙の普遍的な現象の理解につながっていくと考えております。
2点目は,先ほど國中先生から説明いただきましたが,ある粒子は地球に向かって相当降り込んでいるということが分かってきましたが,まだ科学的にも未解明の部分,これから解明すべき点としまして,高度数十キロの中層大気にまで降り込み,その場所の化学組成を変えて,場合によってはその場所のオゾンを大きく減らす可能性も指摘されています。
「あらせ」では,定量的な観測を行い、地上との連携を通して,降ってきた電子が本当にそのような化学変化を起こすのか,オゾン層が減ったとして何%減らすのか,これらの解明に取り組んでいきたいと思っています。宇宙から地球に向かって様々な形でエネルギーが流入しているわけで,特にエネルギーが高い粒子が中間圏大気にどう影響を与え,その結果,地球全体に対して影響があるのかないのか,そういった疑問点をしっかりと理解していきたい。特に定量的に理解していきたいと思っています。
このような研究を通して,ぜひ新しい学問の発展に「あらせ」としても貢献できることがあればとプロジェクトとしては考えています。
以上です。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。

【米本委員】 「あらせ」のすばらしい成果については前々から注目しております。
17ページの国内の研究協力体制について質問があります。「あらせ」のミッションは,宇宙研の理工学委員会のメンバーによるコミュニティが核になっていると理解しています。しかし,18ページのERGサイエンスワーキンググループには高専や私の所属する九州工業大学も入っており、その理工学委員会のコミュニティとは違うようです。このワーキンググループとは,どのような存在なのでしょうか。

【JAXA篠原】 篠原から答えさせていただきますが,ここに書いてあるサイエンスワーキンググループは,研究コミュニティの研究者の方が所属している機関を書いてあります。先ほどに申し上げたような機関としてということではなくて,所属する研究者が各機関から集まってきて,ERGのサイエンスの成果に貢献しているということです。ここに関わっている研究者の人たちは様々な形で協力いただいていて,例えば各機器チームの機器のデータ評価とか,そういうレベルも含めて,いろいろな形で協力いただいているということになります。
理工学委員会との関係でいうと,ここに所属している先生方はほとんど理学委員会の会員になっていますので,そういう形で理工学委員会との接点も持っていただいているということになります。

【白石部会長】 藤井委員どうぞ。

【藤井委員】 どうもありがとうございます。
最後のところに,延長するということですが,機器は健全であると書かれているのですが、使用しているところがヴァン・アレン帯という強放射能帯に入っているわけで,これまでのところは比較的太陽活動が低かったので,余り被曝がなかったようですが,今までの経緯から言うと,どのくらいの期間観測自体はできるものでしょうか。
というのは,今から数年というのは,極小期にいる可能性が非常に強く、 今後5年ぐらいできると,ある程度上昇期に入ると思われます。現状どの程度の損傷具合でしょうか。

【JAXA篠原】 長く計測を続けたいという意味では,プロジェクトとしても同じ思いでございます。
現状で言うと,打上げ前に,もちろん設計上どの程度持つのか、また経年劣化はどの程度かということを評価しているのですが、今のところほぼ予想どおりの経年劣化,あるいはそれより軽度な劣化状況になっているので,現在の兆候としてすぐにダメージを受けて観測できなくなるようには見えていません。
3年間という刻み方をしたのも,実はいきなり5年でやってしまうと,途中で壊れてしまう可能性もあるため,現状どこまで生きるか分からないですが,今のところ壊れそうな兆候は見えませんし、その点をJAXA内の審査会でも評価していただいていますが、3年ぐらいは運用できるのではないかということで進めています。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。

【芝井委員】 現時点ではサイエンスデータは全て公開されて,世界中の研究者が使える状態になっているという理解でよろしいですか。

【JAXA篠原】 そのとおりです。

【芝井委員】 分かりました。ありがとうございます。
そうすると,先ほど米本委員の質問とも関係があるのですが,17ページ,18ページの協力体制のところ,例えば海外の機関名も書いてあるので,ちょっと気になったのですが、これは説明があったようにワーキンググループのメンバーの研究者の所属機関であって,この機関が参加しているわけではないですね。

【JAXA篠原)】 おっしゃるとおりです。

【芝井委員】 そこは注意して書かれたほうがいいと思います。 以上です。

【白石部会長】 ほかに何かございますか。
よろしいですか。
これからも衛星が着実に少しでも長くもつことを祈ります。
それでは本日議論いただくものは全てこれで終わりました。

(4)その他

【白石部会長】 あと事務局から連絡事項等,よろしくお願いします。

【事務局(原田企画官)】 会議資料と議事録の公開について申し上げます。
宇宙開発利用部会の運営規則に基づきまして,本日の会議資料は公開となりますので,後日文部科学省のホームページに掲載させていただくこととなります。また,議事録につきましても公開となりますので,委員の皆様には御確認いただきました後に,文科省のホームページのほうに掲載をさせていただきますので,よろしくお願いいたします。
事務連絡としては以上となります。

【白石部会長】 どうもありがとうございます。
それでは,最後に藤吉課長,どうぞ。

【事務局(藤吉課長)】 本日は第9期の最後の会合になります。本当に委員の皆様方におかれましては,お忙しいところを御参加いただきまして,誠にありがとうございます。この場をおかりして,厚く御礼申し上げます。
また,次回の10期につきましても,ほぼ皆様方に引き続きお願いしたいと思いますので,何とぞよろしくお願いいたします。
以上です。

【白石部会長】 それでは,これで会議を終わりたいと思います。
今,課長から話がありましたように,今回が第9期の宇宙開発利用部会の最終となります。恐らくまた第10期で顔を合わせる方々は多いと思いますが,本当にこれまでありがとうございました。


以上

(説明者については敬称略)

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課