巻末付録8 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査への取り組みの在り方について

平成26年10月
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
宇宙開発利用部会
国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会

1.基本認識

 我が国は、長年の努力の結果、衛星を継続的に打ち上げる能力の獲得及び体制構築に成功してきた。有人宇宙活動の分野ではISS計画を通じ、日本独自の宇宙実験棟「きぼう」及び、物資輸送のための「こうのとり」と打ち上げ用の「H-IIB」ロケットなどの開発、運用を行い、また、船長1名を含む8名の宇宙飛行士を輩出してきた。
 この結果、我が国は、宇宙にかかる国際的協同体制の中で確固たる地位を築くに至った。これまでISSに参加し得ているのは日・米・欧・露・加であり、我が国がアジアで唯一であるということは特筆されるべきである。
 ただし、だからと言って我が国の有人宇宙活動・探査につき、単にこれまでやってきたからという理由で継続されるべきではないことはいうまでもなく、真に必要なものであるか精査し、優先順位を考えながら検討されるべきである。その際、物差しは、我が国の国益であり、より具体的には安全保障上どう考えるか、産業振興に役立つのか、科学技術の向上に資するのか、ということであろう。その上で他の選択肢と比較の上、これまでの政策を継続すべきか、継続するならば、どのような態様で行うかを検討すべきである。

2.各分野でのISS・宇宙探査の意義

(1)外交・安全保障

 安全保障には脅威を抑止するという観点に加えて、パワーバキューム(力の空白)を極小化するという観点が重要である。現在、中国、インドなどの新興国が競って宇宙に目を向けているのは、この分野が無限の可能性を持った未開拓の領域だからであり、いわば空白を埋めようとの意図からであろう。この現状から目を背け、事態を拱手する場合には、我が国安全保障上、不利益を招きかねず、さらに宇宙分野にとどまらずアジア外交における我が国の地歩の低下を招きかねない。
 また、宇宙空間の安定利用につながる国際的な行動規範の制定は、すべての国に開かれた公共の領域(グローバル・コモンズ)を維持するという安全保障上重要な意義を持つ。このような取り組みにおける発言力の大小は、宇宙空間利用における国際的なプレゼンスの大きさによって左右される。ISS計画における日本の参加は、上に述べたように我が国の国際的プレゼンスの確立に大きく貢献してきた。よって、ISS計画をテコに、次の時代の国際有人宇宙探査への参画に向けて新しい宇宙開発技術を積極的に磨くことが、日本がこれまで築いてきた宇宙分野での国際プレゼンスを確実に維持し、宇宙空間におけるルール形成という国際社会の重要な課題を目前にして、発言力を維持することに資し、国益に合致する。
 有人宇宙滞在技術は、極限環境における究極の省エネルギーを目指すことにより資源への依存性を少なくして自立性を高め、安全・安心・高生産性の社会の創生につながるものであり、広義の安全保障にも沿うものと考えられる。

(2)産業振興

 ISSや宇宙探査は、最先端の技術を獲得し実用化していく上でも大きな意義がある。イノベーション推進のためには、このような地上にない環境を積極的に利用していくことの意義が大きい。産業界にとっては投資の予見可能性が重要であるが、これまで「きぼう」「こうのとり」の開発と運用がこの役割を担ってきた。米国の対応により、今後10年程度はISSが有人宇宙活動の中心であると見込まれ、この状況は続くものと見込まれる。
 また、我が国産業においては、どこからどこまでをISSや宇宙探査から生まれる技術のスピンオフと特定できるかは困難であるが、特殊な環境に耐えうる材料の追求や様々な部品の開発は広く我が国産業の底力を強化することに寄与していると言えよう。例えば、宇宙空間でしか評価しえない材料評価・解析によって、従来の延長線上ではない材料創出が可能になる。これは我が国産業の強みである「材料」をさらに強くし、国力増強につながる。

(3)科学技術イノベーション推進

 科学技術は、安全保障や産業振興をけん引すると同時に支える基盤としての力の源泉である。特に、宇宙空間という特殊環境を柔軟かつ機動的に利用できる最先端の研究開発プラットフォームを保有することは重要である。また、宇宙探査は、学術研究として人類の知的財産を増やすという意味でも価値が高い。
 また、我が国は科学技術立国であり、科学技術を支える最も重要なものは人材である。有為な人材を、宇宙分野を含む幅広い分野で育成し、伝承していく好循環を作っていくことが長期的視点で必要であり、理科離れ抑制という面でも波及効果は大きい。

3.今後の対応について

 端的に整理すれば、(イ)ISS、有人宇宙探査を行わない、あるいは大きく縮小する、(ロ)中国、インドのごとく単独で行う、(ハ)引き続き国際協同体制の中の主要パートナーとして活動する、の三つしか方策はない。
 上記に述べた効用に鑑み、(イ)の撤退ないし極端な縮小という選択肢はないであろう。(ロ)についても膨大なる費用に鑑み、ありえない。(ハ)すなわち国際協同という選択肢が唯一の合理的な選択肢である。この場合、一部の負担で大きなプロジェクトに参加し、大きい成果が獲得できるからである。
 ただもちろん(ハ)の国際協同をとる場合であっても、費用対効果という視座から常に全体計画の効率化及び我が国の負担の軽減を追求すべきであることはいうまでもない。
 繰り返しになるが、単にいままで継続してきたので国際協同体制から「途中下車」したくない、ということであってはならない。「途中下車」することによる損失を見極めるべきである。いったん下車すれば再乗車できず、その結果、我が国の利益に合致する安全保障環境の構築などを損なう惧れがある。よって効率化を図りつつ継続するのが最も国益に資すると判断されるものである。今後、本小委員会においても次の30年といった長期的な視点に立ち、ISS・国際宇宙探査を支える宇宙産業界に投資の予見性を示すことにも留意して、有人探査・無人探査の相補的・有機的な協同も含めて、外交・安全保障、産業振興、科学技術イノベーション推進及び人材育成などの観点から、長期的なビジョンを示すべく議論を深めてまいりたい。

以上

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研究開発局宇宙開発利用課