巻末付録6 日本実験棟「きぼう」長期運用への期待について

平成27年5月
文部科学省
宇宙利用推進室

1.概要

第14回の小委員会におけるヒアリングを通じて、「きぼう」の長期運用が生命科学分野、医学分野、宇宙物理分野の研究において有用との期待が示された。

2.ヒアリングのポイント

(1)新村信雄 茨城大学フロンティア応用原子科学研究センター 教授(生命科学分野)

  • これまでの宇宙実験で、水溶性タンパク質について地上で作ることが困難な高品質な結晶化技術を確立し、X線回折法(SPring-8)を活用して分子構造解析の分解能を向上させたことは大きな成果。水溶性タンパク質の高品質化については今後も製薬企業を中心に継続的なニーズ。
  • これに対し、創薬の標的タンパク質の大半を占めているのは膜タンパク質であるが、地上で進められている膜タンパク質の結晶化は、ばらつきが生じやすいため、微少重力環境を利用して、膜タンパク質の高品質な結晶化技術を進め、さらに大型化する技術を進めることが重要。そうすれば、圧倒的に不足している膜タンパク質の構造情報を獲得でき、革新的な医薬品開発に繋がり得る
  • また、地上の解析技術としてX線回折法に加え、中性子回折法が進展しており、これと組み合わせれば、膜タンパク質の機能を把握する上で重要な、水素原子、プロトン、水分子の立体的な位置関係を精密に把握することができる。中性子回折法に耐えうることができる1㎣レベルの大型結晶を目標に、タンパク質の大型結晶生成技術の確立に向けて、長期安定した微少重力環境を活用することは非常に効果的
  • (2016年度以降、順次、既存の中性子回折装置の性能向上があり、)2019年には、世界的に最高出力の中性子実験施設の稼働が予定されており、2020年以降も「きぼう」を利用したタンパク質結晶化実験を継続的に実施することによって革新的な医薬品の創出への多大な貢献を期待

(2) 山本雅之 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 機構長(医学分野)

  • これまで脊椎動物のメダカを利用した宇宙実験において、有意義なデータがとれているが、今後マウスを使った、ほ乳類の発達や恒常性の維持について挑む研究と、さらに宇宙飛行による遺伝子の記憶についてエピゲノム研究を行うことが、重要。
  • 宇宙環境は最大のストレス環境の1つであり、新たな環境に対する普遍的な適応性や応答性の存在を示すストレス応答の分子基盤の解析は、重力生物学と宇宙放射線生物学における科学的知見の獲得とともに、疾患や生物の進化過程の解明につながり、地上社会に対しても大いに役立つ。
  • 宇宙環境滞在によって生じる疾患モデルマウスを用いた研究(骨量減少、筋萎縮、放射線影響など)は、病態解明、診断・治療、創薬に対して飛躍的な成果が期待できる。また、将来の宇宙における長期滞在の健康維持に関するデータも取得できるものと期待される。
  • 宇宙環境は、1)生理的な発生・発達プログラムや恒常性維持プログラムの解析、2)病態の解析(環境ストレスに対する応答や宇宙特異的な疾患発症)、3)産業の振興(薬の効果の確認など)において非常に意義が深い
  • オーダーメイド医療の実現には、遺伝子変異と疾患を繋ぐエビデンスが圧倒的に不足しており、変異と環境(宇宙環境も含む)の統合解析等の疫学研究(ゲノムコホート研究)が必要。宇宙環境での遺伝子変異、ゲノム、エピゲノム、オミックス情報の関連解析や疾患関連遺伝子探索を通じ、疾患バイオマーカ開発など医療への貢献が期待できる。

(3)梶田隆章 東京大学 宇宙線研究所 所長(宇宙物理学分野)

  • ISSを含む新しい観測プラットフォームと観測技術の進歩により、宇宙線(宇宙の高エネルギー現象)研究が近年急速に進み始めた
  • ISSは、電源系や通信系などのインフラが整備されており、人工衛星に対して比較的大型の観測装置を軌道上設置することが可能であることが利点。また、大気の影響がなく、宇宙線の粒子を直接観測できることは、地上での観測に対する大きな強み
  • また、ほぼ常時、観測データを地上に伝送することができるため、速い天体現象の即応に適している
  • ISSで運用中の「全天 X 線監視装置(MAXI)」は、観測開始以降の5年間で15個の新たなX線天体を発見して世界に速報(うち6個は新しいブラックホール候補)し世界の研究者による追観測を促進、科学的な成果の創出に大きく貢献。
  • 2015年度に設置予定の「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)」は、本分野の大きな謎の1つである暗黒物質の正体に迫る新たな発見も期待される(発見されればノーベル賞級の成果)。また、宇宙線の高エネルギー領域のデータを2021年以降も含めできるだけ長期間に亘り観測・蓄積することは、本研究の成果創出の鍵
  • また、おおよそ2020年以降には、地上において次世代ガンマ線望遠鏡や重力波望遠鏡が稼働予定であり、これらとISSにおける機動的な(緊急に相互観測するなど)観測を連携させて進め、宇宙線研究における相乗効果を生み出し、研究の加速・発展を期待

以上

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-- 登録:平成27年10月 --