巻末付録(その7)

米国科学アカデミー報告書 Pathways to Exploration : Rationales and Approaches for a U.S. Program of Human Space Exploration 概要

経緯

● 2010年のNASA授権法で、将来の有人プログラムについてのNRCによる報告を義務付けられた
● 2012年に議会の指示に基づきNASAからNRCへ報告書作成のための契約発出、2014年6月4日報告書公表

絶えず問い続けること

・ 絶えず問い続けることは、向上心の原動力や科学的探求、批判的思考を維持する役割を果たし、外部からの圧力や政策転換に対する免疫として機能する。今回の報告書の分析に基づき、委員会は、有人宇宙飛行に関して絶えず問い続けるべき内容として、以下の2点を挙げる。
 (1) 人類は地球からどれだけ離れた場所まで行けるのか?
 (2) そこにたどり着いたとき、人類は何を発見でき、何を得られるのか?

有人宇宙飛行の根拠と一般の関心

・ 有人宇宙飛行を支持する根拠として挙げられる意見にはさまざまな内容と組み合わせがあるが、大きく2つに分けると、1つは、経済的利益や国家の安全保障への貢献など、実用性に関するもので、もう1つは、種としての人類の存続や人類の生存領域の拡大など、向上心に関するものとなる。
・ 経済的利益などの各論に対する分析を行った結果、実用性に関する意見は、その利点が有人宇宙飛行固有のものではないため、単独では十分な根拠にならないと考えられ、また、向上心に関する意見は、絶えず問い続けることの内容に最も結びついたものとなる。どちらも単独では有人宇宙飛行の継続価値を正当化する根拠にならないが、この報告書が提言する、道筋に沿った段階的な探査の推進と意志決定方式の採用を条件に、向上心に関する根拠を実用的利点で補完することで、国家有人宇宙飛行プログラムに関する議論の継続が正当化される。
・ 宇宙探査に対する一般の関心は、経済問題等に対する政策的課題に比べれば低いものであり、宇宙に対する世論は、過去50年にわたっては概ね良好であったが、市民の多くは宇宙探査に注意を向けておらず、高い優先事項にはなっていない。

現時点での最終目標(Horizon goal)

・ 技術的な分析の結果、実現する可能性のある有人探査の目的地は、月、小惑星、火星、及び火星の衛星のみである。その中で最も困難なのは有人火星着陸で、実現するためには、技術的リスク、財政リスク、及び計画上の課題を克服する必要がある。そのため、現時点での最終目標は有人火星探査であり、全ての長期宇宙プログラムは、全ての可能性のあるパートナーによってこの目標を共有するべきである。

政策的課題

・ 道筋に沿って段階的に進めるという有人宇宙探査プログラムには増え続ける予算問題があり、また、LEOを超える領域に進むためのロケットと宇宙機に対する現行の開発プログラムは、安全性等を維持するために必要な打上げ頻度を確保できない。こうした状況は、結果として国際パートナーとの協力を阻害する可能性がある。政策的目標を構築する者は、スピンオフ技術など、有人宇宙飛行が必要とする莫大な投資に対する経済的見返りがこれまで実証されていないこと等を常に念頭に置く必要がある。

国際協力

・ 理由は多様であるものの、国際協力は、宇宙活動に参加しているすべての国にとって不可欠な政策要素となっている。米国は、短期的に小惑星を目指しており、多くの場合月面を目標としているこれまでの国際パートナーと目標が一致していないことは明らかである。
・ 宇宙分野における中国の急速な発展は明確で、同国との将来の国際パートナーシップを検討するのは最も関心の高い事項となる。現在の米国の法律は、NASAの活動への中国の参加を阻んでおり、火星に到達するための国際協力の能力を減少させるものとなっている。火星ミッションに必要な資金の大きさを考慮しても、国際パートナーの貢献はこれまで以上に大きなものである必要がある。

提言

・ 委員会は、有人宇宙探査を道筋に沿って段階的に進めること、及び持続的なプログラムの実施について、以下を含む提言を行う。
・ 有人探査を道筋に沿って段階的に進めるために、NASAは、有人宇宙飛行に対して絶えず問い続けることへの取り組みとなる、現時点での最終目標に向けた設計・継続・推進の努力を行うべきである。また、道筋の設計と開発の初期段階から各国の宇宙機関を引き込むべきで、現時点での最終的な目標に向けた進展を維持するための道筋を定義すべきである。また、新たなパートナーを継続的に探すと共に、リスク低減計画を構築し、科学や経済等の利益を最大限に引き出すため、道筋の特徴を明確にすべきである。
・ 持続的にプログラムを実施するために、NASAは、LEOを超えて人類の存在領域を拡大するための設計・継続・推進の努力を行うべきである。また、現時点での最終的な目標として火星を目指すことを維持し、外国や企業との協力機会を精力的に求めていくべきである。さらに、火星への大気圏突入・降下・着陸(EDL)先進的な宇宙用電力と推進、及び放射線に対する安全性の3つを最重要とする、優先事項の高い技術開発に目標を絞ったミッション要求事項やシステムアーキテクチャを含む計画を構築するべきである。

 

※米国アカデミー報告書「Pathways to Exploration : Rationales and Approaches for a U.S. Program of Human Space Exploration」より抜粋

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