技術課題の検討案

マル1.原型炉概念の構築と設計作業(トカマク型)
1.現状 
・  これまでの原型炉概念案である原子力機構のSSTR, SlimCS及び電中研のDemo-CRESTは「今後の核融合研究開発の推進方策」(原子力委員会、平成17年)の想定する原型炉像に沿ったもの。
・  BA原型炉設計は、現在実施中あるいは計画中のプロジェクトにおいて所定の目標が達成されることを仮定して原型炉概念を構想するアプローチ。

2.課題
・  すべての原型炉概念案に共通する課題は、ダイバータ除熱、プラズマ対向材料、炉心プラズマのシミュレーションコード開発、ブランケット構成材料のデータ拡充、ブランケットの実規模モックアップ試験、電流駆動装置のCW化とメンテナンスフリー化、遠隔保守技術。
・  BA原型炉設計はITERの準備段階であったINTORに相当。現状は、メーカー及び研究者の参画が限定的であり、BA後に想定される概念設計段階への移行が困難。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
・ 一定の経済性については、設備利用率、ベータ値、熱効率等の表面的な目標設定にとらわれないこと。これらの経済性要因と深層で繋がっている安全性やRAMI(信頼性・稼働性・保守・検査)、並びにそのための必要コストについて理解を深めることが肝要。
・  エネルギーの多様性(多目的利用)への対応を原型炉に求めるのは要求過多。小規模な先進ブランケットモジュール試験により、多様性への対応可能性を探る価値はあり(いわば、「DEMO-TBM」)。
・  BA終了後の概念設計/工学設計/製造設計に対応するため、要素技術に精通した人材の投入とメーカーの参画規模の拡大が必要。JT-60SA及びITERの設計経験者がBA原型炉設計及びその後の概念設計に寄与できるよう、人材の流れを作る。
・  メーカーの参画についてはBA段階から人材育成と規模の拡大を図り、概念設計段階以降の本格的な参画に備える。

マル1.原型炉概念の構築と設計作業(ヘリカル炉)
1.現状
1)重要な概念に立脚した設計指針
・プラズマ電流を必要としない定常運転と電流崩壊の無い特長を生かして、高い運転自由度と高いエネルギー増倍率の設計を推進。
・LHDの建設・運転とプラズマ実験結果を積極的に取り入れた設計を推進。
・比較的大型の設計が可能であるため中性子壁負荷を低く抑える長所を最大限に活用して、ブランケットの長寿命化、放射化による崩壊熱の軽減、超伝導マグネットの放射線発熱の抑制、等を可能にする設計を推進。
・ダイバータ部を高速中性子から充分に遮蔽できる構造の長所を最大限に生かして、材料選定の自由度を確保する設計を推進。
・ダイバータ部が閉構造で受熱総面積も大きい長所を活用して、粒子排気性能が高く、平均熱負荷を充分低減できる設計を推進。

2)R&D項目の絞り込み
・ヘリカル炉用の大型高磁場超伝導マグネットに向けた開発研究を各種開始。
・保守交換を軽減可能な長寿命液体ブランケットに向けて開発研究が進展。
・高温運転と長寿命を可能にする低放射化材の開発研究が複数進展。
・長寿命な高熱流ダイバータ機器の開発研究を開始。

2.課題
1)大型の超伝導ヘリカルコイルの連続巻き線
・マグネットの構造設計と整合した製作法の構築が必要。
2)液体ブランケットの保守交換
・大型ポートの長所を生かしたユニットの遠隔操作技術の構築が必要。
3)低放射化材の高温強度の強化
・加工接合性及び14MeV中性子照射効果を含む総合的特性の強化が必要。
4)ダイバータ熱流の不均一の軽減
・垂直磁場と補正コイルによるダイバータ磁力線構造の平均化が必要。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
1)連続ヘリカルコイルについては、LHD方式の連続巻き線と、超伝導ジョイント採用の分割組み立て方式の2本立てが必要。
・LHD方式ではNb3Al等を候補にした設計と冷却安定の実証実験が必要。
・超伝導ジョイントには実用化進展中の高温超伝導を用いた実証研究が必要。
・いずれも大学、研究機関、産業界が連携して進めることが必須。

2)遠隔保守については分解取り出しまでが課題であり、各種方式の評価が必要。
・ITER方式を参考にしつつ、各種方式の技術と信頼度の評価を大学や研究機関等と連携して進めることが重要。

3)低放射化材の照射効果には当面の原子炉照射と共に強力中性子源照射が不可欠。
・原子炉照射については日米協力との連携が重要。

4)ダイバータ熱流に関しては、放射冷却・デタッチメントによる低減と、トロイダル不均一を補助コイルによって分散平均化する方策の2本立てが必要。
・LHD実験、補助コイル概念設計、等を大学等と共同で進めることが重要。

マル1.原型炉概念の構築と設計作業(レーザー)
1.現状
・ 超伝導コイル用新素材開発については、レーザー核融合ではレーザーの構成部品である大型ファラデーローテータに超伝導コイルが用いられている。
・  ブランケット開発については、本格的炉工実験は行われていないが、低放射化フェライト鋼を用いた液体LiPbブランケットで商用炉は対応構成可能と考えられている。実験炉は研究が進んでいる固体ペレット+水冷却のシステムを導入し、発電実証を早める計画がある。
・  ダイバータ開発(レーザー核融合はダイバータがないので、第一壁と解釈する)については、高真空を必要としないので、商用炉は液体壁で、実験炉は固体壁で対応可能と考えられている。液体壁ではボランティアベースで、保護層の安定性、蒸発ガスのダイナミクスの研究が進められている。
・  理論・計算機シミュレーション研究については、核融合科学研究所の双方向共同研究を通して流体コード、粒子コード等を利用してレーザー照射から爆縮完了までをシミュレーションする統合コードの開発が進められている。
・  炉心プラズマ研究については、高速点火方式の原理検証が進められている。同時に中心点火、衝突点火の研究も併行して行われている。
・ 炉用燃料供給システムは概念設計止まりである。基本となる均一な厚さを持つ中心点火用固体燃料層は単ショットベースではほぼ、確立している。高速点火、衝撃波点火ターゲット用は現在開発中である。
・  加熱・電流駆動システム(レーザーと解釈する)については、炉用レーザー開発は小型の装置で、20J10Hzのシステムが稼働中である。基礎研究で得られた物性値を利用すると、半導体レーザー励起の冷却Yb:YAGセラミックレーザーで炉用レーザーも建設可能と考えられている。

2.課題
・  超伝導コイル用新素材開発については、放射線の影響もないので、現存する材料で商用炉用レーザーまで対応可能。
・  ブランケット開発については、液体ブランケットでは放射線存在下の低放射化フェライト鋼と液体LiPbの共存性が課題。
・  第一壁については、第一壁から蒸発したガスが炉心で衝突した場合の挙動(液体・気体の相変化を伴う)と排気が課題。
・  理論・計算機シミュレーション研究については、統合コードの開発とともに、電子の動きが相対論的になる超高強度レーザー照射下での物理モデルの解明が必要。
・  炉心プラズマ研究については、高速点火方式では高強度レーザー照射下の爆縮コア加熱プロセスの解明、中心点火では流体力学的不安定性の克服、衝突点火方式ではターゲット構造を加味した3Dシミュレーションでの利得の評価が必要。
・  核融合燃料システム開発については、高速点火方式では燃料層を保持する低密度フォームの開発が最大の課題になると思われる。
・  レーザーについては、従来では励起用半導体レーザーのコストが課題とされていたが、ムーアの法則に沿って順調にコストが下がっている。炉内に導入する最終光学系の寿命については評価を続ける必要がある。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
・  ブランケット開発については、磁場核融合炉工関係者との連携を深め、効率よく研究を推進する必要がある。
・  第一壁については、シミュレーションを中心とした研究と、コード検証の為の模擬実験が必要。
・  理論・計算機シミュレーション研究については、各コード間のデータ転送技術の向上、容量の増大、計算速度の高速化等を分野の核融合、計算機科学、天文分野の境界を越えて協力し、実施する。
・  炉心プラズマ研究については、中心点火方式ではBr添加により流体力学不安定性が抑制されることが基礎研究で分かっていて、実ターゲットを用いて検証する必要がある。高速点火では加熱プロセスの解明、衝突点火ではターゲット構造を加味した利得の評価が急務である。
・  核融合燃料システム開発については、高速点火用ターゲットでは、低密度フォームを必要としない赤外線加熱法も併行して研究する必要がある。
・  レーザーについては、最終光学系については定期的に交換することで、コストも含めて対応できると考えられている。要素に分解して実証していく必要がある。

マル2.超伝導コイル用新線材開発
1.現状
・  原型炉用導体には、13−16Tの最大経験磁場と100kA程度の電流値が想定されている。ITER-TFの11.8T、68kAと比べると導体電磁力が1.6-2.0倍に増大するため、高磁場における高い臨界電流密度(Jc)かつ大電流(100kAクラス)に加えて、電磁力によるJc低下が少ないことが求められる。また、ITER用と同様に、高い冷却安定性、Nb3Snと同等の耐放射線性と放射化、長尺線材(kmクラス)、低コスト、量産性なども求められる。
・  高磁場線材の候補として、改良型Nb3Sn、急熱急冷Nb3Al、ReBCOテープ線材、B2212丸線が挙げられる。
・  導体の種類として、丸線の場合はCIC(Cable in Conduit)導体か成形撚線、テープ線の場合は積層導体やRoebel導体が候補となるが、いずれも新型の可能性もある。
・  CIC導体は、核融合装置用に開発された、大電流導体に適した撚り線構造である。交流損失が少ない、濡れ面積が広いため冷却安定性が高い、高強度コンジットに収納されており機械強度が高いなどの利点を有するが、コンジットとの熱収縮差に起因する残留ひずみによるJc低下、および、素線同士の交差部の局所的な曲げ応力によるJc低下を抑制することが課題として残されている。
・  ITER用導体のSULTAN装置での導体試験では繰り返し励磁によるJc低下が観測されており、銅比、撚りピッチ、ボイド率の変更、素線Jcの向上などの対策が進行中である。直状サンプル特有の問題の可能性が高く、CSインサートコイルを用いたコイル試験が計画されている。より一層の高磁場化では素線の電磁力対策と合わせて評価法の確立が重要となる。
・  マグネットの高磁場・大型化には、構造材の厚さと強度の増大に加えて、導体や絶縁材の高強度化も必要である。ITER-TFでは600MPaの最大膜応力に対して0.2%耐力が1,000MPaのステンレス鋼が開発された。ITER-TFコイル重量の90%は構造材が占めており、軽量化のためにも高強度材の開発が必要である。
・  日本が開発を先導してきたNb3Alは、耐ひずみ特性に優れており、高応力下での用途に適していることが期待される。高いjcを必要とすることから急熱急冷Nb3Alへの期待が高い。JAEAと物質材料研究機構の共同研究で、急熱急冷Nb3Al縮小CIC導体のコイルが試作され、15Tの外部磁場中で、素線性能から予測される臨界電流を達成し十分に高い冷却安定性を実証した。今後、実規模導体の開発、R&Dコイルの性能実証、大量生産能力の確立が必要である。導体化や巻線にはITERの技術を適用可能である。
・  Nb3Snは、更なるjc向上に加えて断面剛性の高い(素線曲げ変形の小さい)導体設計が必要と考えられる。
・  高温超伝導(HTS)線材は、高磁場での高jc、機械強度、冷却安定性などにおいて潜在的性能が高い。機械的特性に優れたReBCO線材が入手可能となり、大電流導体の開発研究が本格化している。
・  HTS大電流導体として、Bi-2223テープ線材は、ITER用(70kA)を始めとして電流リードに広く採用され、Bi-2212丸線は、12T-10kAのCIC導体(JAEA、2003年)、10kA成形撚線(中部電力、2005年)が開発済みだが、機械強度が低いことが課題であることから、ReBCO線材の技術進展に伴い、研究が停滞している。ReBCO線材については、ようやく長尺線材の入手が容易となり、大電流導体の開発が本格化している。

2.課題
・  原型炉用超伝導コイルの候補導体として、Nb3Sn(改良CIC、新型)、Nb3Al(CIC)、ReBCO線材が挙げられる。導体の種類に依らない共通課題として、線材のJcの向上と機械強度の向上、コイルとしての高強度化が挙げられる。
・  Nb3Snについては、ITERマグネットの開発と実機製造を通して大きな進展があったが、電磁力による素線jc低下を克服するため、CIC導体の改良または新型導体の開発が必要である。改良型や新型では冷却安定性・交流損失、コイル冷却構造の研究も必要となる。
・  Nb3Al(CIC導体)は、縮小導体の実証までの段階であり、線材の長尺化と低コスト化、および、導体の大電流化が重要課題である。現状は日本の1社のみで製造可能な技術であるため、複数のメーカーが競合できる環境が必要である。導体化とコイル化にはITERの技術を利用できる利点がある。
・  ReBCO線材の課題として、線材の長尺化、低コスト化、Agの低減、および、導体の大電流化・撚線構造、機械的補強、冷却方式、クエンチ保護、交流損失低減、さらに、コイルの冷却構造と巻線・接続技術などが挙げられる。
・  既存の大型試験装置は12-13Tが上限なので、大型高磁場試験設備が必要である。また、電磁力による性能低下を正しく評価する導体試験法の確立も重要課題である。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
・  原型炉マグネットに向けて特に重要な開発課題は(1)導体の高磁場化・高jc化と(2)巻線構造・冷却構造・支持構造の高強度化である。導体開発においては、Nb3Sn導体の機械特性の向上と高性能Nb3Al導体の開発を競合させながら強力に進めつつ、長期的な視点での高温超伝導線材の開発を進めることが肝要である。ITER建設で開発された技術をさらに発展させる必要があるため、人材育成や技術の伝承・発展に考慮した具体的な開発計画を速やかに策定し、着実に実施していく必要がある。
・  Nb3Sn導体の研究開発体制
 <現状>ITER-TF導体の製造に8社(日本から2社)が参加。加速器用マグネットも含め、世界の主要な研究機関や大学が高性能化研究を精力的に推進している。
 <今後の進め方>技術伝承のため開発計画を速やかに具体化することが肝要。それにより、大学、研究機関、企業の積極的な参加と国際的な競合・協力が期待できる。
・  Nb3Al導体の研究開発体制
 <現状>急熱急冷Nb3Alは物材機構の独自技術。CIC導体はJAEAとの共同研究、加速器用マグネットはKEKとの共同研究。現状の線材メーカーは日立電線1社である。
 <今後の進め方>複数メーカーが参加できる規模の開発計画が必要。開発計画を具体化して、全日本での取り組みが期待される。
・  ReBCO導体の研究開発体制
 <現状>線材は世界10社程度(日本6社、米国2社)が性能向上、長尺化、低コスト化を競合。モータなどの電力機器に加え、強磁場マグネットの研究が進行中。
<今後の進め方>大電流導体は核融合特有のため、核融合研究の中での開発計画の位置づけと具体的な研究計画の策定が必要。全日本での取り組みが期待される。
・  現状の大型導体試験装置は12T(CSインサートは13T)が最大のため、15T級の大型設備が必須である。核融合科学研究所やJAEAの既存設備の増強と整備が必要である。また、電磁力影響を評価する導体試験法の確立も重要である。

マル3.ブランケット開発
1.現状
1)固体増殖ブランケット開発
・筐体:低放射化フェライト鋼F82H、トリチウム増殖材:Li2TiO3、中性子増倍材:Beで水冷却の概念を主案として、ITERのテストブランケットモジュール(TBM)計画に提案。本格的なTBM設計•解析に着手、予備安全解析書を提出。第10回ITER理事会承認のひな形を用い、TBM協定締結に向けた準備を開始。
・実規模TBMの筐体モックアップ部材の製作技術を確立、各種筐体試験に着手。
・消費Liを予め添加した増殖材、高温安定性に優れた増倍材製造に着手。

2)液体ブランケット開発
・液体金属Li、PbLi、溶融塩Flibe、Flinak、等の自己冷却あるいはHe冷却併用、連続トリチウム回収、等の設計提案と、要素研究が進展。
・NIFS、大学等との共同研究が進展。その発展としての日米協力プロジェクトの後は国内研究にシフト。ITER-TBMには後期提案の可能性を維持。
・腐食等に関する各種材料共存性、電気絶縁被覆や水素透過抑制被覆、伝熱促進技術、水素回収技術、高温融体運転技術、等が着実に進展。

2.課題
1)構成材料基礎データの拡充
・原型炉ブランケットに向け、増殖・増倍材料、構造材料の非照射、照射下のデータの拡充、標準データの確定。
・高温運転・長寿命化を目指した核融合中性子照射下の挙動評価が必要。
・安全及び保守交換に必須な材料腐食や各種劣化の標準データが必須。

2)構造健全性実証
・照射下で熱負荷を受ける運転条件での構造健全性が、交換期間を通じて確実に保たれることを示す必要がある。
・第1壁厚さに関する冷却とTBRと構造安全性の最適化の設計と実証が必要。
・強磁場環境との各種整合性と変動への応答健全性、等の実証が必要。
・全体システム保全の観点から配管流量配分の計測法と制御実証が必要。

3)トリチウム増殖回収実証
・原型炉全体のトリチウム増殖性能が、持続的な運転が可能となるよう確保されることを実証する必要がある。
・環境安全及びトリチウム量の確保に不可欠な透過漏洩防止の実証が必須。

4)合理的な遠隔保守性や高い安全性の確保、規格基準の構築
・運転期間中の健全性確認、故障発生時の対処が可能なシステム構築。
・安全性を確保し、事象の管理が可能なブランケットシステムの構築。
 (個別及び複数モジュール毎対処の可能性、ブランケットユニット支持構造と保守交換との整合性確保、主に財産保護上の対策)
・核融合炉固有の安全性を基盤とした合理的な規格基準の構築。

5)中性子照射環境での実証
・核変換が競合する効果は腐食などの安全に重要であり、増殖トリチウムの挙動を含めて、ブランケット特性を総合的に実証する必要がある。 

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
1)研究開発戦略としては、ITER-TBM計画と補完するDEMOブランケット開発の2本立てが必要。
・ITER-TBM計画では、固体増殖・水冷却方式のITER-TBMの開発・製作を具体化し、関連試験*1を着実に進め、ITERへの装着と補機設備の整備も滞りなく実施する。トカマク環境下での技術統合と総合的機能確証を目指すとともに、小規模でも発電実証を目指す。
*1 ITERの安全審査に必要な、TBMの構造健全データ確認試験、プロトタイプ性能試験、TBMの安全性確証試験、TBM補機システムの開発、実機受け入れ試験、漏水時のBe-水反応などの異常事象を想定した影響試験も実施。
・補完するDEMOブランケット開発では、中性子負荷、熱負荷、トリチウム増殖比に係るブランケット構造内での核反応確証試験*2を実施し、遠隔保守、PIE、廃棄物処理など総合的なRI取扱技術*3を検証する。
*2 大強度中性子源による、核融合炉内機器の核的な特性評価を行い、体積発熱 (数W/cc)、He効果 (He/dpa=>10, >10MeV中性子, >20dpa)、トリチウム生産量評価(TBR検証と計量管理)の高度化など、原型炉核工学データベースを構築。
*3 ITERで照射したTBM(2号機以降)の受入、照射後試験、保管を行い、TBM試験のデータを完備すると共に、原型炉大型放射化構造物の解体処理技術(再使用・再利用・減容などの廃棄物低減と安全閉じ込め技術など)を高度化する。また、ブランケット交換保守概念の根幹である、セクター規模の大型構造物の製作性、一括交換方式による着脱性とホットセルへの輸送性、セル内での遠隔保守技術の開発と実証、総合的な保守時の安全性確保概念の検証が必要。

2)上記の研究開発戦略の実施においては、既存施設を有効活用した、核融合フロンティア計画などの「炉工学試験装置」の整備が必要であり、その推進には、大学・研究機関・産業界の相互連携が不可欠。そのための大学、研究機関の特長を生かした研究設備の強化が不可欠。

3)先進ブランケット概念
・高温構造材料の長寿命化が課題。中性子照射環境によるHe効果と高速中性子損傷研究が必須で有り、DEMOブランケット開発戦略と共通。
・強磁場、トリチウム・熱の分離回収、成分調整管理、固液界面制御管理、等は液体固有であり、循環系では常に過渡状態であるため平衡論で記述できないことが課題。これらを単独あるいは複合した流動装置によるデータベースの構築と運転実証研究が必須。
・稼働率と遠隔保守に関する液体ブランケットの長所を充分に実現するための運転システムの構築が課題。そのための各種事故事象の実験と解析の推進が不可欠。

4)V&Vと人材育成
・各種の熱機械・化学実証実験、伝熱流動実験、事故事象実験、等の評価及び設計計算コードの検証と妥当性確認(V&V)が課題。そのためには当初から国産の世界標準の確保を視野に入れて進めることが肝要であり、そのための体制として、大学等の学術基盤の育成と強化が重要。
・積極的に先進概念を取り入れる魅力有る開発戦略を推進することによって、国内の若手人材育成を強力に推進することが必須。

マル4.ダイバータ開発
1.現状
・DEMO炉ダイバータ構造としては、ITERダイバータの技術的な延長となる固体壁水冷却ダイバータ構造を主案とした設計検討がなされている。
・プラズマ対向材料については、高融点・高熱伝導率が必要であり、タングステン(合金、複合材含む)と、炭素繊維複合材(CFC材)が候補材料である。
・構造材については、中性子照射による脆化等により銅合金が使えないため、F82H等の低放射化フェライト鋼が候補材料となっている。
・CFC材は、プラズマ照射時の損耗、トリチウム蓄積、中性子照射による材料特性の劣化や寸法変化が懸念される。
・タングステン材については、炉心プラズマへ混入した場合の影響や、中性子照射による脆化や元素変換が懸念される。
・DEMO炉のダイバータについては、熱負荷制御の観点から、プラズマ制御法や装置設計について、シミュレーションを用いて設計が進行中である。
・DEMO炉ではITER標準運転と比較して、さらに大きな放射損失、広範囲の非接触状態運転が必要である。
・DEMO炉の熱設計において、タングステンとF82H鋼を組み合わせた場合、許容可能な最大熱負荷は10MW/m2以下となる見通し。
・遠隔保守については、線量率の高いDEMO炉では炉内での高度な遠隔保守は困難であるため、セクター保守方式を検討している。

2.課題
・CFC材については、照射影響が少ない(特に寸法変化)材料の開発と、プラズマ照射損耗やトリチウム蓄積量制御法の開発が必要である。
・タングステンについては、DEMO炉重照射条件下での、中性子照射影響の理解と、それに基づく照射脆化の少ない材料開発が必要である。
・DEMO炉では、ITERに比べて低熱伝導性の材料(タングステンとF82H鋼)を採用しつつ、ダイバータに定常的に入射する熱を除去する熱設計を成立させる必要がある。
・熱負荷制御、ヘリウム排気性能、およびコアプラズマから周辺プラズマまでを含んだ矛盾のないプラズマ立上げ・維持シナリオの策定が必要である。
・ダイバータ機器の損耗・脆化・メインテナンスと矛盾のない周辺プラズマ運転シナリオの策定が必要である。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
・DEMO炉のダイバータプラズマ設計はシミュレーションを中心として進める必要があり、そのための炉心プラズマからダイバータ機器までを含む統合コード開発が必要である。
・基礎過程解明や、周辺プラズマモデル高度化のための実験室プラズマ実験が重要である。
・熱負荷制御とヘリウム排気を実証するためには、磁場閉じ込め装置が不可欠であり、DEMO炉を視野に入れた場合は、LHD、JT-60SA、ITERでの実験研究が重要である。
・DEMO炉用ダイバータ冷却材の選定には下記のオプションがある。
1)水冷却
2)ガス冷却
3)液体金属冷却
現状ではITERダイバータの延長上にある水冷却方式の研究開発が主体であるが、冷却材の最終的な選定には、DEMO炉全体での経済性や安全性、並びにダイバータへの入射熱負荷に関する検討がなされた上での判断が必要である。
・上記の結果として、「1)水冷却」以外のオプションの選択が必要な場合には、ITERダイバータの技術的な延長を逸脱することになるため、速やかに基礎的・工学的な研究開発を実施する体制を構築する必要がある。
・プラズマ対向材料の中性子照射効果を研究する国際協力プログラムが始動し始めており、国内においてもこの分野の研究を促進するための研究環境整備が重要である。
・研究所、大学、および産業界が連携して研究を進められる枠組みの構築が必要である。

マル5.理論・シミュレーション
1.現状
 原型炉概念の構築と設計作業に向けて理論・計算機シミュレーション研究が目指す炉設計統合コード開発には、実験データによって十分に検証された核燃焼プラズマ統合解析と、核融合炉構成要素を総合的に記述する炉工学統合解析が必要となる。核燃焼プラズマ統合解析に向けた車の両輪となるのは、第一原理的に大規模計算によって乱流現象、MHD現象、高速粒子のような非線形物理現象を解明しようとする多階層連結シミュレーションと、多様な現象を簡約化された物理モデルによって記述し、それらの相互作用を自己無撞着に取り扱うことによって炉心プラズマ全体を全放電時間にわたって記述しようとする多要素統合シミュレーションである。
 核融合プラズマの閉じ込め性能を支配する乱流輸送現象や運転領域を制限する非線形MHD現象の多階層連結シミュレーションは、非常に高い空間時間解像度を必要とすることから、大規模な計算資源を必要とする。本年4月から通常運用を開始したBA-IFERC-CSC のHeliosや、本年10月に増強された核融合科学研究所のプラズマシミュレータは、これらの大規模シミュレーションに必要な計算資源を供給し、非線形物理現象の解明に大きく貢献している。また、一部の超大規模シミュレーションはさらに大型の京コンピュータを利用して研究が進められている。
 核燃焼プラズマ統合解析に向けて、大学、核融合研、原子力機構等の研究協力として、核燃焼プラズマ統合コード構想(Burning Plasma Simulation Initiative: BPSI)が2002年から進められてきた。主な活動は、多要素統合シミュレーションである炉心プラズマ統合コードに向けたコード間連携の枠組み開発、階層連結型物理モデルの検討、新しい計算科学技術の導入であり、日米協力、日韓協力、国際トカマク物理活動(ITPA)等を通して国際協力も推進してきた。その活動の一環として炉心プラズマ統合コードTOPICS-IB(原子力機構)、TASK(京大)、TASK3D(核融合研、京大)の開発が行われており、それらの連携を図るための標準データインターフェース(BPSD)の開発やモジュールの相互利用の実践が進められている。
 同様な活動として、欧州ではEFDAのサポートの下、ITM-TF (Integrated Tokamak Modelling Task Force)が組織的な統合コード開発を進めており、コード連携のためのフレームワーク開発、既存の実験データに基づく物理モデル検証、ITERの予測シミュレーション等を行なっている。また、計算科学分野との協力により、大規模シミュレーションコードの開発・整備を行うEUFORIA (EU Fusion for ITER Application)も成果を上げている。一方米国では大規模シミュレーション開発としてSciDAC (Scientific Discovery through Advanced Computing)が強力に推進されているが、統合シミュレーションコード開発を目指すFSP (Fusion Simulation Project)はまだ認められていない。ITER機構においては、ITERプラズマの予測・制御・解析に向けて統合モデリング解析コード群IMAS (Integrated Modelling Analysis Suite)の構築を目指しており、ITER参加極から提供されるコードを組み合わせるためのインフラストラクチャを中心に概念設計が進められている。
 核融合炉構成要素を記述する炉工学シミュレーションとして、中性子解析、熱流動解析、トリチウム輸送解析、電磁力解析が進められており、それらを統合したブランケット統合解析が検討されている。また、第一壁やダイバータ、構造材等に最適な炉材料の開発を目指して、ミクロからマクロにわたる多階層炉材料シミュレーションも進められている。
 現在の炉設計研究においては、計算の高速化を図るため、空間分布を仮定し、少数のパラメータで記述される簡単な炉心プラズマモデルを用いられており、より現実的な、自己無撞着なプラズマ空間分布を求めるシステムコードの開発が進められている。

2.課題
・炉心プラズマの運転を制約する輸送障壁,密度限界,圧力限界等の物理機構解明
・国際競争力があり,信頼性の高い炉心プラズマ統合コードの開発
・炉心プラズマの空間分布と時間発展を取り入れた炉設計システムコードの開発
・ブランケット統合解析や炉材料解析を含む炉工学統合コードの開発
・原型炉の計測・制御システム設計に利用する炉システム統合シミュレータの開発

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
・輸送障壁、密度限界、圧力限界等の現象は、多くの物理過程が複雑に相互作用をしつつ関与しており、その解明には実験研究と大規模シミュレーション研究、統合モデリング研究の密接な連携が必要である。ITPA等を通して国際共同研究を進めると共に、重要な物理課題に対して研究資源を集中するタスクフォース的な研究の進め方を検討する必要がある。
・ITER標準と互換性のある統合コードインフラストラクチュアを確立し,国内の炉心プラズマモデリングコードの相互連携の実現を目指すとともに、各コードの物理モデルの妥当性を既存の実験データとの比較や大規模シミュレーションデータとの比較によって検証することが必要である。また,ITERにおいてより優れた実験提案を行うためには、IMASに含まれる基本的なコンポーネントに比べてより先進的なコンポーネントを独自開発し、国内統合コードの国際競争力を高める必要がある。そのため,炉心プラズマ統合コードの主要コンポーネントである平衡,輸送、安定性、加熱、周辺等それぞれについて継続的な研究グループが形成され、系統的なコード開発を行うことが必要である。
・定常状態だけではなく時間発展を含めた炉心プラズマシミュレーションにより、より現実的で運転シナリオの最適化を含めた炉設計作業が可能になる。炉心プラズマ統合コードグループと炉設計コードグループの密接な連携が必要である。
・個々の炉工学要素シミュレーションを連携させ、ブランケット統合コードにまとめていくとともに、核融合炉材料に特化した炉材料シミュレーションコードの開発を含め、継続的な炉工学統合コード研究グループが必要である。
・炉心プラズマ統合コードグループ、炉工学統合コードグループ、炉設計コードグループが、最終的に炉システム統合シミュレータ開発にまとまっていくことが期待される。
 これらの課題を解決するためには、多くの研究者が連携して研究を進め、大規模な計算資源を有効に利用することが必要となる。BA-IFERC-CSC 終了後もオールジャパンで ITER の解析、物理モデルの検証、原型炉の設計に関連するシミュレーション研究を推進するためには、大規模高性能計算機システムを運用し、必要な計算コードの開発、高性能化、利便性向上を図るための研究を行うとともに人材育成を図る核融合原型炉シミュレーションセンターの設置が必要である。その一方で、新しい着想を発展させ、若い人材を育成する大学での研究を一定水準確保することも重要である。

マル6.炉心プラズマ研究
1.現状
ITERに関しては、燃焼プラズマ(エネルギー増倍率Q=10)の長時間維持の実現とQ=5の定常維持達成を主目的として、2020年後半のファートプラズマ及び2027年のDT燃焼実験に向けて機器製作及びサイト整備が進んでいる。
JT-60SAに関しては、臨界条件級プラズマの長時間維持でITERを支援すること、及びITERでは実現困難な高ベータ定常プラズマの実現と長時間維持で原型炉に貢献することを主目的として、2019年3月のファートプラズマに向けて、日欧の機器製作が順調に進展し、H24年12月から本体の組み立てを開始する。また、研究計画を日欧共著者数 332名(11カ国38研究機関)でH23年12月に取り纏めた。欧州は装置寿命に亘る参加を希望し、「JT−60SAの共同利用」に関する日欧協議が進行中である。
LHDは、定常・安定性に優れたヘリカル方式により、核融合炉を見通せる高温高密度プラズマの学理を体系的に獲得し、定常核融合炉実現に必要な物理的・工学的課題を解明することを目的としている。高い信頼性を持った超伝導コイルシステムを用いて、実験開始以来14年間で11万回以上のプラズマ放電を、国内外から600名以上の研究者が参加する共同研究の機会に供してきている。この間、プラズマ性能を着実に進展させ、8,000万度のイオン温度、5.1%のベータ値、500kW-54分の定常運転を達成してきている。

2.課題
1)トカマク型原型炉のプラズマ設計の確定
原型炉プラズマの設計は、燃焼プラズマ(ITER)と高ベータ高自発電流割合プラズマ(JT-60SA)、及び両者のプラズマの振る舞いを統合して理解して原型炉の予測を可能とするモデリングの3者の成果を有機的に複合してはじめて確定する。特に重要な課題は、このような燃焼・高ベータ・高自発電流割合プラズマにおいて、ダイバータ熱流束の低減を含む高い総合的性能を達成し、そして、ディスラプション回避・緩和を含む現実的(原型炉を炉として成立させ得る少数の制御機器・計測機器の選択)かつ信頼性のある制御手法と制御ロジックを確立することである。

2)定常運転プラズマの高性能化
将来の発電には定常運転が必須であり、ヘリカル方式のLHDとトカマク方式のJT-60SAを用いた研究によって高性能プラズマの定常運転に関する課題解決を図る。本質的に定常運転性能が備わっているヘリカル方式では、点火を見通すことのできるプラズマの高性能化がLHDにおける課題である。トカマク方式では、プラズマ定常維持のための高効率プラズマ電流駆動と高密度運転の両立が課題である。また、両方式共通の課題として、高性能高圧力プラズマと低第一壁熱負荷を両立し得る定常運転手法を、3次元的磁場構造制御や先進的な粒子制御等を用いて解決することが必要である。

3)炉心プラズマ研究と核融合工学研究の複合
 原型炉は、炉心プラズマ技術及び炉工学技術が高度に複合したシステムである。その実現ための主要課題は、高熱流束ダイバータ試験、プラズマ材料相互作用試験、プランケット・プラズマ整合試験、プラズマ制御機器試験、等である。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
1)トカマク型原型炉のプラズマ設計の確定
 上述のように、ITER、JT-60SA、理論モデリングを複合した有機的な取り組みが必要である。その際、ITERとJT-60SAを両輪とする高い費用対効果と日本の主導性を実現する総合的な研究計画が不可欠である。「JT-60SA研究計画」では、タイトなITER実施計画を効率的に進めるため、ITERの各運転期に必要なデータ・制御技術等の獲得を行うこととし、また、大学等からの知見や挑戦的提案をJT-60SAで実験・試験し、ITERや原型炉への適用する機動性を確保している。一方、原型炉のダイバータ熱負荷低減のためにダイバータ部の磁場配位を大きく改良する必要が生じた場合には、その試験が可能な諸外国の中型トカマク装置との協力が重要である。

2)定常プラズマの高性能化と環状プラズマの学術的体系化
LHDにおいて高性能粒子排気、加熱機器増強等を行い、重水素実験により、核融合を見通せる1億2千万度のプラズマの実現とより核融合条件に近い高性能定常プラズマの研究を推進する。そして、閉じ込め物理の質量依存性を明らかにして核燃焼実験を十分な確度で予測できるモデルを構築するなど、環状プラズマの学術的体系化をJT-60SAや各大学の装置と共同しつつ推進し、ITERおよび原型炉の課題解決へ貢献する。

3)炉心プラズマ研究と核融合工学研究の複合
 多くはITERを用いて高中性子環境下で行うべきものであるが、新しい概念、構造、材料等をITERで試験する以前に、機動性の高いJT-60SAやLHDを用いて行うことが肝要である。特に、LHDは2019年まで日本における唯一の大型実験装置であることから、原型炉工学設計活動に向けたLHDの役割は重要である。また、原型炉に向けてITERでは行うことが装置制約上困難な試験をこれらの装置を用いて実施することが重要である。

4)体制の構築と人材の育成
 ITERのための国際トカマク物理活動及びJT-60SA研究計画策定における核融合エネルギーフォーラムの活動や、LHDが推進している全国の大学等との共同研究・国際共同研究をさらに発展・連関させ、国内研究コミュニティがチームとして国際的な炉心プラズマ研究開発で主導性を発揮することが大切である。その際、わが国が国際共同事業に主導的に貢献するため、JT-60SAの実験体制(国内研究者200-300名、欧州等外国研究者200-250名が参加)がITERの実験体制の良い参照事例となるよう体制の構築を進めると同時に、ITERやJT-60SAの実験に大学等研究者の常駐/長期滞在を可能にする人事・運営制度が必要である。また、ITERやJT-60SAの実験を担う世代の研究者の人員不足が極めて深刻であるため、長期的視点での継続的な人材確保を行う必要がある。その観点からも、LHDや各大学の装置を活用した大学院教育を通じた人材育成と供給は重要である。

マル7.核融合燃料システム開発と環境安全性評価
1.現状
1)トリチウム
・  トリチウム燃料循環系と安全系はITERの建設により確立された技術となり、運転参加により技術は得られる。
-日米協力(TSTA)で開発した燃料循環技術をはじめ、トリチウム工学の多くの分野でわが国は世界最先端。
-ブランケットトリチウム回収系はTBM技術で開発。動力炉ブランケット技術、トリチウム課題の一部はBAで研究されている。
-安全管理技術、環境技術、計量管理には課題が残っている。
・  動力炉トリチウム技術は未着手
-トリチウム含有熱媒体でのエネルギー利用は重要課題。
-高温、高圧、大量の高濃度のトリチウム含有熱媒体の利用、熱交換器、蒸気発生器を含め、これら動力系の技術はITERでも、他の装置や、産業技術でも開発されない。
・  初期装荷トリチウムは入手の見込みが確実でない限り原型炉計画そのものが存在できない。ITER以降、公式供給源が存在しない。重水素運転から起動できるシナリオが提案されている。

2)リチウム6
・  100トンレベル製造能力の確証が原型炉に向けて必須。機微技術で、導入や輸入が期待できず、完全国産が必要。現状でプロセス自体は、有機イオン交換、無機イオン交換、電解透析など候補はあるが、グラムレベル以下。

3)安全環境技術
・  核融合の安全性は、基本的には、核分裂、放射性物質の安全確保の方法論に準拠するが、核融合の特徴はハザードが小さいこと、通常時放出があること、能動的トリチウム放出管理が不可欠であること、事故対応目的の設備がほとんど不要、など違いが大きく、必ずしもPSAに依存する方法になじまない。
・  通常時運転で大量の放射性物質を扱うことに伴う開発、対応、社会の理解は確立されていない。ITERの経験で移植されないものがある。

2.課題
・  ITER、TBM、BAでカバーされないトリチウム工学の課題は、動力炉技術(トリチウム含有熱媒体)、計量管理、初期装荷トリチウムの確保。大型技術開発が課題。核融合施設でのトリチウム使用経験も問題。
・  廃液処理、固体廃棄物からのトリチウム除去技術はITER技術では不十分。
・  ブランケット系でのトリチウム透過は、材料や冷却材の選択にも依存するが、透過防止膜が必要であると同時に、冷却系に大きな影響がある。
・  トリチウム・安全課題はブランケット、ダイバータの核融合環境、ニュークリア環境での研究開発計画、原型炉設計、材料開発と密接と関係する。
・  リチウム6濃縮技術は、プロセス選択とプラントを見通せるスケールアップ技術開発が必要。
・  通常時運転に伴う放出の環境挙動に関連した環境トリチウム挙動、生態系影響、安全管理、社会の理解はわが国固有の条件に合わせた研究の必要な課題。
・  核融合の特徴に合わせた安全工学、運転安全性・環境保全性の実証、社会の理解の構築は重要な課題。
・  エネルギー経済、導入シナリオの検討が安全性、環境適応性に影響。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
1)トリチウム
・  ITER、BA以外に、トリチウム技術開発には新たな大型施設が必要。ブランケットやダイバータのDT環境試験施設があれば計量管理技術開発なども併設可能。廃棄物処理などの技術開発は大型技術を開発し、運転を検証するまでの体制構築が必要。施設とプロジェクト体制での取り組みが不可欠。
・  初期装荷トリチウムは製造プロセスを検討するとともに、重水素運転で製造するシナリオの検討と開発が必要。
・  60SAなどのDD核融合施設でもある程度のトリチウム経験の蓄積は可能であり、DTを意識した運転、計量管理や運営体制が必要。

2)リチウム6
・  プロセスを選定し、スケールアップに向けた研究開発に至急着手する必要がある。圧倒的に大きな電池用リチウム資源確保戦略に付随して同位体分離プロセスを組み込むような計画の策定が重要となる。

3)環境、安全課題
・  まず、福島以降のわが国の原子力戦略の中での核融合の見なおしが必要。これには原子力分野の専門家や規制当局と連携した検討体制が重要。安全ロジックが社会に理解、受容されなければ核融合をわが国で導入できない。
・  環境、安全課題は原子力や放射線生物、環境等多分野の研究者との連携が不可欠。特に、地道な環境放射線影響の評価研究活動への幅広い支援。
・  環境生物影響研究の成果に基づく放射線に対する社会の理解を長期間かけて醸成、構築する。BAや他の核融合施設(Tあり)で運営実績を積むと同時に、地元社会との信頼関係を築き、わが国が核融合エネルギーを受け入れられる社会的な下地を作る。通常時放出が環境で検出可能なこととその影響について、社会の理解を得るための体制の確立と長期の実績。
・  以上の課題に対応するための人材育成。特に、ITERでのトリチウム取扱い経験をわが国に持ち帰る若手技術者、研究者が必要。

マル8.核融合炉材料開発
1.現状
・平成12年の核融合会議報告に添って、第一候補材(低放射化フェライト鋼)の研究開発についてはJAEAが中核となり、世界で最も豊富なデータベースを有するF82Hの開発を日米協力照射研究および欧州とのBA活動を軸としてすすめている。大学はBA共同研究等を介して広範な基礎工学研究において貢献している。
・先進材料(バナジウム合金、SiC/SiC複合材など)は大学が中心となって照射損傷基礎過程から製造技術まで幅広い研究開発を進めている。特に近年には製造技術、部材製作技術における飛躍的進展がみられた。これらの研究は、核融合炉の一層の高度化、第一候補材へのバックアップという観点から今後も必要である。
・ITER建設が開始され、原型炉建設が具体的目標となりつつある。これにあわせて材料開発は、素材開発段階から、設計に対応した構造材料開発段階(材料規格化を目指した開発)に移行しつつある。
・21世紀中葉にエネルギー源としての見通しを得るためには、2030年代からの原型炉建設開始が必須である。よって、2020年代初頭からの原型炉の詳細工学設計活動開始が目標達成にむけた要件となる。
・一方、核融合実環境照射データ取得の要として期待される国際核融合中性子照射施設(IFMIF)は工学設計実証段階にあり、実稼働は最速でも2020年代後半と見込まれている状況にある。
・原型炉開発、そして構造材料としての開発には、メーカーの長期にわたる積極的参加が不可欠である。しかし、国のエネルギー源としての明確な開発姿勢が示されていない現状では、メーカーはその態勢をとることが出来ない。
・人材育成の観点においても、上記の状況を反映して、若手の核融合分野(核融合材料開発分野)への挑戦意欲(専攻としての選択)が減少方向にある。

2.課題
マル1.  材料規格を定めるためには、材料特性評価と劣化機構の理解に加えて、材料への要求仕様を定義する基となる核融合炉における安全性確保の基本方針と、それに対応した構造設計基準が必要である。しかし現状で材料に対する設計要求を明確に定義することが出来ていない。
マル2.  IFMIF開発が早期に実現しない限り、初期の原型炉工学設計活動に必要な核融合中性子照射データを供することが出来ない。
マル3.  照射データ取得の前提となっている微小試験法について、その材料試験法の規格基準が確立されていない。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
課題マル1:核融合炉の安全性確保の基本方針と構造設計基準の策定、および材料に対する設計要求の明確化について
 本課題は核融合材料開発全体のボトルネックである。ただし現有の原子炉技術を参照することができないので日本として世界に先んじて独自に取り組む必要がある。
 議論は、ITER誘致活動時に国内で議論が進められたITER安全基準をベースとすべきである。BA活動において欧州との議論が進められており、この活動を全日本的に取り組む事が基本と考えられる。ただしASMEとの連携の可能性も考慮すべきであろう。
 一方、材料開発は、非常に長いタイムスパンを要するものであり、上記活動の結論を待つことなく、材料に対する設計要求を現状での設計検討に基づいて定義し、重要度に応じて対応を進めるべきである。安全性確保方針、規格基準および設計の進展に対しては、設計要求変更を精査して随時修正を図りつつ開発を進めるべきである。

課題マル2:材料照射データベース整備と核融合中性子照射データ取得について
 2020年代初頭から詳細工学設計活動を本格的に開始するためには、それまでに取得可能と見込める照射データに基づく設計活動が定義される必要がある。これまでの知見では、たとえば低放射化フェライト鋼では、核融合中性子特有の照射効果はある程度の核変換生成He量(500~700appm)を超えた条件(発現臨界条件)で影響が出てくることが示唆されている。よって、初期工学設計は、発現臨界条件までの範囲で、核分裂炉・核破砕中性子源照射データ等に基づき実施することが可能と推測される。
 この発現臨界条件策定にむけた研究活動は、模擬照射実験およびモデリング研究を基軸としてBA活動で進められており、大学の広範な基礎研究も寄与するものである。一方、この戦略は豊富な中性子照射データが取得されることが前提となっていることから、現在進められている国際協力による照射研究の一層の充実に加え、常陽を利用した国内重照射研究体制の整備が重要と考えられる。
 IFMIFの早期実現は、工学設計用実環境照射データ取得の観点で強く望まれるものであるが、IFMIFの初期運転は発現臨界条件の実証としても重要である。IFMIFの開発体制はEVEDA活動がBA活動で実施されるため日欧に限定されている。IFMIF建設とそれに係わる諸活動を開始するためには、国際的な推進母体のあり方を明確にし検討組織の強化を進める必要がある。既存体制としてIEAに国際的な組織が作られているが、日欧以外の活動が不活発化しており、今後連携を深める必要がある。
 初期工学設計範囲内においても、より核融合環境に近い照射データの早期取得が安全確保上、設計要求上必須と考える場合、IFMIFに先行する照射手段の確保が急務となる。至近では、BA活動で整備される加速器等を拡張利用した中性子照射施設がオプションとして考えられるが、その実現には全日本的検討組織の立ち上げが急務である。

課題マル3:微小試験法規格基準の確立
現在取得が進んでいる中性子照射データおよび、IFMIFによる材料照射データを設計用データとして整備するためには、微小試験法規格基準の確立が必要である。これに向けての整備方針の確定を急ぐ必要がある。材料試験の規格基準を確立するための活動組織・体制の確立が急務である。学協会等での規格の審議を行うための検討をすぐに始める必要がある他、国際協力プログラムの充実を図る必要がある。

マル9.加熱・電流駆動システム開発
1.現状
・原型炉における加熱機器の役割は、プラズマ点火、電流駆動、プラズマ燃焼制御であり、100MWを超える大電力機器の連続運転、高効率運転ならびに高信頼性運転が、中性子照射環境下で求められる。
・原型炉では、設計・シナリオに強く依存するが、中性粒子入射加熱装置(NBI)の仕様として、1-2MeVの入射エネルギー、100MW以上の入射電力が想定され、電子サイクロトロン共鳴加熱装置(ECH)の仕様としては、170-220GHzの周波数可変ジャイロトロン、100MW程度の入射電力が想定されており、いずれも1年を超える連続運転が必要である。
・現在、NBIでは1MeV-33MW-3600s、ECHでは170GHz-20MW-3600sのITER仕様の達成に向けた開発が進められている。

2.課題
・原型炉における加熱・電流駆動機器に共通した課題として、電流駆動・制御のために信頼性の高い1年以上の連続運転が必要であることから、長寿命連続運転、還流電力の低減のため60-70%の高システム効率、中性子照射環境下での機器の寿命と信頼性の向上、の3点が挙げられる。
・個別課題としてNBIでは、長寿命でメンテナンスフリーなRF負イオン源の開発、1-2MeVの高エネルギービーム加速、1年以上の長寿命連続運転、光中性化セルの開発による高効率ビーム中性化、中性子照射環境下での機器の寿命と信頼性の向上、等が挙げられる。
・ECHでは、高周波数(170-220GHz)・周波数高速可変ジャイロトロンの開発、ジャイロトロンの1年以上の連続運転での高信頼性・長寿命化および高効率化(70%以上)、ランチャーシステムの耐高中性子負荷・耐高熱負荷に向けたミラーレス導波管入射型ランチャーシステムの開発、等が挙げられる。
・NBIでは、入射ポートからイオン源およびビームライン機器が中性子に直接照射されるため、中性子照射環境下における運転性能の劣化について検討する必要がある。また、ECHも含めて、遠隔保守・メンテナンスの方法の確立を行う必要がある。

3.課題解決に向けた取り組みと必要な体制
・ITERへ向けて開発される技術の多くは、原型炉の加熱・電流駆動機器へ外挿することができ、大学も含めた既存設備を活用したITER技術開発の実施を通じて、国内における工学的・技術的基盤を維持・確立することが可能である。
・NBIでは、RF負イオン源開発および高エネルギービーム加速の課題はITER技術の延長線上にあるが、光中性化セルの開発は新たな技術開発が必要であり、国内の既存設備を活用・強化して、早急に要素技術開発を開始させる必要がある。
・ECHでは、ジャイロトロン開発およびランチャー・伝送系開発はITER技術の延長線上にあり、既存設備を活用した開発が既に開始されている。
・ITER課題が達成されるITER建設後までには、原型炉課題に取り組むために、JAEA、NIFS、大学等が共同して開発プロジェクトを立ち上げ、中核となる開発試験設備を建設して開発を実施することが必要であり、また、それにより若手の人材育成を図ることができる。
・連続運転・高効率運転に伴う開発項目のハードルが高いため、NBIでは長寿命連続運転や光中性化方式の実証が、ECHでは長寿命連続ジャイロトロンやミラーレス・ランチャーシステムの実証が、実機規模で実施できる試験設備が必要である。
・中性子照射環境下における機器の性能劣化、寿命等については、ITER運転で検証することになるが、小型の素子、材料等については、中性子照射材料試験等を活用する必要がある。

お問合せ先

研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当)

小野
電話番号:03-6734-4163
ファクシミリ番号:03-6734-4164

(研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当))