1.はじめに
2.第4期科学技術基本計画における推進方策の位置付けについて
(1)第4期科学技術基本計画の方向性
(2)第4期科学技術基本計画における基本理念
(3)我が国が直面する重要課題への対応
3.防災分野をとりまく状況について
(1)防災分野における研究開発の現状
(2)最近の主な自然災害の状況
4.推進方策の基本方針
1.社会の防災力の向上のための研究開発
(1)災害に対して物理的環境を強くするための研究開発
(2)災害に対して社会・人を強くするための研究開発
(3)リスクを知り予測するための研究開発
(4)ハザードを知り予測するための研究開発
2.地球規模の問題解決への貢献
(1)地域の安定成長に貢献する防災科学技術の国際展開
(2)国際共同研究の推進
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、その規模がきわめて大きく、巨大な津波等により広範囲にわたって甚大な被害を引き起こし、閣議により東日本大震災と命名されるとともに、我が国の災害史上初めて災害対策基本法に定める内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部が設置された。
被災地域の人々にとっては現在も被害が継続している状況に加え、この震災は我が国の経済社会に深刻かつ広範な影響を及ぼしており、しかもこの状況は今後しばらくの間続くものと予想され、国は総力を挙げて復旧・復興に取り組んでいる。
今回の地震では、1海域での地震観測網の整備が進んでいないことに加え、通信回線の途絶等により津波の高さ等の正確な情報がリアルタイムで把握できなかったこと、2想定を超える規模の災害への対応が国や自治体等において検討されていなかったこと、3地震・津波等による被害が広範囲にわたって複合的に発生するとともに、情報通信及びライフラインが長期間途絶したり、原子力発電所の事故も発生するなど広域複合災害への備えが乏しかったこと、4首都圏における長周期地震動による被害の発生や大量の帰宅困難者・大渋滞・液状化現象・停電など都市特有の多くの課題が顕在化したこと等、数々の防災上の課題や教訓が浮き彫りとなった。
国は、今回の地震により浮き彫りとなったこのような深刻な課題や教訓について、科学的なアプローチをもって検証し、自助、共助、公助の適切な組み合わせによって災害の軽減を実現できるまでに社会の防災力を向上させることを目指し、今世紀前半にも発生が予測され、東日本大震災以上の被害が想定されている東海・東南海・南海地震による被害の大幅な軽減の実現等に向け、防災に関する研究開発を強力に推進していかなければならない。
推進方策は、我が国の科学技術基本計画に基づき、文部科学省として進めるべき課題の重要事項等を示すもの。
第4期科学技術基本計画は、これからの10年を見通した今後5年間の科学技術に関する国家戦略として、「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」を科学技術、さらにはイノベーションの観点から幅広く捉え、この新成長戦略に示された方針をより深化し、具体化するとともに、今回の震災からの復興、再生、災害対応の強化等に関わる政策を幅広く含め、他の重要政策との一層の連携を図りつつ、我が国の科学技術政策を総合的かつ体系的に推進するための基本的な方針を提示するもの。
今回の大震災を踏まえて現在見直し中の第4期科学技術基本計画案においては、最も重要な目指すべき国の姿として「将来にわたる持続的な成長と社会の発展の実現」を設定し、成長と社会の発展を実現するための3つの主要な柱として「震災からの復興、再生の実現」、「グリーン・イノベーションの推進」、「ライフ・イノベーションの推進」を位置づけ、科学技術イノベーション政策を戦略的に展開する、としている。
科学技術は、我が国の豊かさや人々の安全な暮らしの実現、経済をはじめとする国力の基盤の構築に資するとともに、知のフロンティアを切り拓き、我々人類の直面する課題の克服に貢献するための有力な手段となるもの。
その意味で、科学技術政策は科学技術の振興のみを目的とするものではなく、社会及び公共のための主要な政策の一つとして、経済や教育、外交、防災、安全保障等の重要政策と有機的に連携しつつ、我が国がどのような国として存立するか、さらに世界とどのように共生していくかという我が国の将来の姿、あるいはアイデンティティの実現につながるもの。
このため、第4期科学技術基本計画では、我が国が中長期的に目指すべき大きな目標として以下の5つの国の姿を掲げ、科学技術政策を推進。
5つの国の姿を実現するため、第4期科学技術基本計画では1「科学技術イノベーション政策」の一体的展開、2「人材とそれを支える組織の役割」の一層の重視、3「社会とともに創り進める政策」の実現を、今後の科学技術政策の基本方針として設定。
我が国の重要課題としては、震災からの復興、再生に向けた取組が最も重要かつ喫緊であり、将来にわたる持続的な成長と社会の発展を実現するため、「震災からの復興、再生の実現」、環境・エネルギーを対象とする「グリーン・イノベーションの推進」、医療・介護・健康を対象とする「ライフ・イノベーションの推進」を主要な柱として位置づけ、科学技術イノベーション政策を戦略的に展開。
上記の主要な柱以外にも、我が国は、巨大地震や津波等の今後発生し得る自然災害から人々を守り、より安全・安心な生活を実現することなど多様な重要課題に直面しており、これまでの重点推進4分野及び推進4分野に基づく研究開発の重点化から、重要課題の達成に向けた施策の重点化へ、方針を大きく転換。
重要課題達成のための施策の推進としては、目指すべき5つの国の姿の実現に対応する形で、国として取り組むべき重要課題を設定し、その達成に向けて重点的に推進すべき研究開発をはじめとする関連施策の基本的方向性を提示。
第2期の防災に関する研究開発の推進方策は、「防災に関する研究開発基本計画」(平成5年12月)を基礎として、阪神・淡路大震災(平成7年1月)、三宅島噴火(平成12年7月)等の教訓を踏まえ、防災関係機関等へのヒアリング等に基づき、7つの重点研究開発領域と5種類の防災への活動プロセスに分類された重要研究開発課題を提示し、防災への研究開発を推進してきた。
第3期においては、その後の社会の変化等を踏まえ、第2期の推進方策を修正する形で、9つの重点研究開発領域と5種類の防災への活動プロセスに分類された重要研究開発課題を提示し、防災への研究開発を推進してきた。
この間、全国地震観測網や実大三次元破壊実験施設(E-defense)の整備等により防災に関する各種の研究開発が行われ、これにより、全国地震動予測地図の作成、緊急地震速報の実用化、耐震化の促進等の成果が創出されてきた。また、デジタルデータによる災害情報の共有体制の整備が始まったほか、MPレーダによる集中豪雨の監視等も実用化段階に入った。
しかしながら、今回の東日本大震災を経験して、これまで進められてきた1災害が発生するメカニズムの正確な把握、2それに基づく災害の長期的、短期的予測、3的確な事前対策の推進、4災害発生後の応急対応、5災害からの復興という各局面における研究開発は、一定の成果を上げてきたものの、想定を超える災害に対しては依然として不十分であったと言わざるを得ない。
1地震災害
・東日本大震災
東北地方太平洋沖地震の規模(マグニチュード9.0)は我が国観測史上最大で、それに伴う津波を中心とした甚大な被害は戦後最大。特に、低頻度巨大災害に対する脆弱性が顕在化。また、遠く離れた首都圏や関西地方でも長周期地震動や液状化の影響。
・内陸直下型地震
内陸直下型地震については、活断層による地震や震源が特定しにくい地震など近年大きな災害が発生。主なもので、平成19年能登半島地震、平成19年新潟県中越沖地震、平成20年岩手・宮城内陸地震等が発生。
岩手・宮城内陸地震では、我が国での観測最高加速度である4022galの地震動が観測された。
2火山災害
・霧島山新燃岳
霧島山新燃岳の比較的大規模な噴火が発生(飛行制限や土石流などの被害の発生が懸念されている)。
・東北地方太平洋沖地震に伴う活動
東北地方太平洋沖地震に伴い各地で火山活動が活発化。
3豪雨・台風・水害
・台風・前線による豪雨
平成21年の中国・九州北部豪雨、台風9号、台風18号、平成22年の鹿児島県奄美地方における大雨、梅雨前線による大雨等により深刻な被害が発生。
・局地的集中豪雨
平成20年の東京都雑司ヶ谷での管渠工事中の事故や、神戸市灘区の都賀川水難事故を引き起こした豪雨等、局地的集中豪雨(ゲリラ豪雨)が頻発。
4雪害
・平成17年12月からの大雪等(平成18年豪雪)
全国的に低温大雪となり、雪氷災害では戦後2番目(152名)の犠牲者が出た。
・平成22年11月からの大雪等
雪氷災害についても、平成22年11月から翌年1月にかけての山陰地方を中心とした豪雪災害(犠牲者131名)をはじめ、局所的な豪雪災害が頻発。
5海外の災害等
海外に目を向けると、自然災害の増加や地球温暖化等による地球規模での問題が深刻化。
東日本大震災の最近の災害状況を踏まえ、委員からの意見を集約し、主な課題を提示。
・低頻度巨大災害への対応(最大規模の推定、津波災害等)
東北地方太平洋沖地震による想定を超える深刻な被害を踏まえ、広域巨大災害への対策が喫緊の課題。国家に深刻な影響を及ぼすような広域巨大災害については、最悪の事態を想定して防災研究に取り組むとともに、災害時に社会が適切に機能することと被災後の速やかな復旧・復興を可能とするための研究開発を統合的に進める必要。
また、こうした巨大災害は低頻度で発生するため、災害の伝承等が風化しやすいという特性を持つ。そこで、各地域に残されている人文・社会科学的史料や地形・地質学痕跡を徹底的に洗い出し、過去の被害の履歴や既往最大の災害事象、その地域特有の災害像を明らかにした上で、それに基づき、地域の被害を最小にするという観点から防災科学技術を推進していくというアプローチも必要。
このためにはまず、東日本大震災の全容とその後の復興までの過程を解明し、総括することが不可欠。
・長周期地震動への対策
長周期地震動については、高層階ほど揺れが大きくなり被害も大きくなると予想されるが、まだ実被害との関係が定量的に把握できていない。東北地方太平洋沖地震により、遠く離れた首都圏や関西地方でも長周期地震動の影響があったため早急な解明が必要。
・都市防災対策(液状化、ライフライン等)
東北地方太平洋沖地震により、遠く離れた首都圏でも液状化被害や交通網の麻痺、帰宅困難者の発生など、都市特有の被害が発生。さらに気象の極端化の影響を受け、都市型豪雨、都市型水害等のリスクも増大している。そのため、複合災害の発生リスクも高まっている。これら都市災害については、いまだ詳細な災害メカニズムの解明がなされておらず、発生した場合の被害の甚大さを考慮すると、早急な解明が必要。
・観測網の充実(海域、精度・機能の維持、火山等)
災害につながる自然現象(地震、火山、気象等)の振る舞いを捉える観測網の充実、堅牢化、高度化が必要。
特に、現在の地震観測網では、マグニチュード9クラスの即時把握ができなかった、広域巨大災害時に観測精度や機能が維持できなかった等の課題が顕在化。これらの課題の徹底した総括にもとづき津波観測網を含め、海域での観測網や火山の観測体制はさらなる強化が必要。
・関連機関の相互バックアップ体制(ハード・ソフト両面で)
災害につながる自然現象の観測網やデータ解析施設等について、複数の機関による相互バックアップ体制が取られていない。ハード的に強くすることには限界があるため、ハード・ソフト両面で相互バックアップ体制の構築が必要。
・災害発生予測の高度化
東北地方太平洋沖地震における災害の様相は想定を大きく超えていたことを踏まえ、地震のみならず各種の災害予測の高度化が必要。また、その前提となる自然現象の発生メカニズム解明や予測の高度化等の基礎研究を進めることが必要。
・地震・火山をトータルに考えた研究も推進
東北地方太平洋沖地震の発生後、我が国の火山活動が活発化しており、我が国周辺のプレート構造や運動を広く踏まえた地震と火山の連動を詳細に研究する必要。
・災害に対する基準(ハード・ソフト等)や目的等の合意形成(想定の前提、対策の前提、想定や対策の合意形成の在り方等)
東日本大震災は、予期せぬ災害に対して防災技術に限界があることを示した。これは、地震に限らず、自然災害においては、建物や施設等に被害が発生するリスクを社会は受容しなければならないことを意味している。このため、防災対策や減災対策を行うに当たって、リスクをどのように評価し、総合的に地域の防災力を向上させて行くかのルールを科学的に検討することが必要。
・複合災害への対応(複数の災害が同時に起こった場合の対応体制等)
同一地域に異なる災害が同時発生する場合の災害予測や、そうした複合災害への対応の在り方についての検討や研究を行うことが必要。
・防災力向上など目的達成型防災の構築(災害に強いまちづくり等)
これまでの防災対策は、各分野毎にそれぞれの基準を満たすことで防災対策が進められてきたが、今後は、社会全体としての防災力の向上という視点で分野横断的な研究を進めることが必要。
・災害復興における「地域の歴史・文化」の考慮
災害復興する際、単にまちを強くするという発想ではなく、地域の歴史や文化を踏まえた復興を進めることが必要。
・社会の変容、脆弱性の変化に伴う災害の発生に関する研究
我が国は人口減少段階に突入し、都市部における社会基盤やライフラインの急速な老朽化を迎えようとしている。それでも都市域の密集化及び人口の過密化が進展しており、これに伴い、災害に対する脆弱性の増大、地方における過疎化の進行による防災力の低下等が指摘されている。特に、大都市近郊の海岸部の津波に対する脆弱性が顕在化。
少子高齢化、人口減少、都市部への人口の集中という社会情勢の中、都市・地域の脆弱性が変化してきていることを踏まえ、これまで以上に理学・工学的な防災研究を着実に推進するとともに、我が国の経済圏内での自然災害発生による経済的・社会的被害連鎖を考慮しつつ、巨大災害時の国の経済・社会をいかに維持していくかについての減災研究を、社会実装まで見据えて、各分野の連携を図りながら強力に推進していくことが必要。
・人間・社会側の検討を強化(広域巨大災害における適時的確な資源投入)
施設や設備の耐災性の向上には限界があるため、災害時に社会が適切に機能したり、人間が一人ひとりで危険を回避する行動や支援する行動を取ることにより被害の軽減につながるよう、人間や社会側の対応力を考慮した減災研究を行うことが必要。
・基礎的データの収集
災害現象のメカニズム解明のためには、基礎的データの収集・整理が必要。
・情報共有(ハザードマップの浸透、巨大地震直後における政府の情報管理体制等)
防災・減災に関する情報の共有により、関係機関が連携した事前対策の策定が可能となり、また、災害発生時の各機関が収集する情報の共有が生み出す状況認識の統一によって、災害時の応急対策や効率的な復旧・復興を効率的に行うことが可能となる。このような情報共有を実現するためには、関係機関や一般からの情報を平時においても災害時においても円滑に収集・統合・集約・発信するための仕組みの構築が必要。そのため、国として統合情報基盤の構築と、それを社会の各階層が活用可能なシステムを整備することが必要。
・防災リテラシーの向上(防災教育、人材育成)
災害時には的確で迅速な災害対応を行う必要がある。その中核となる地方公共団体やNPOの職員等に対し、その地域の特性に応じた防災科学技術について、十分な知識の普及を図るとともに、自然災害に対して、国民一人ひとりが、事前の準備や災害発生時の行動における適切な対応を身につけることが被害軽減に効果的であることを踏まえ、時間と場所に応じた適切な防災教育が十分になされることが必要。
・地震以外の自然災害への対応
これまで、自然災害に関する対策は、地震対策を中心に進められてきたが、近年さまざまなハザードによる災害が発生している。例えば、地球温暖化による台風の巨大化への懸念が拡大し、竜巻、ゲリラ豪雨の頻発化等の傾向。それに伴い風水害・土砂災害による犠牲者の割合が継続的に高い水準で推移するなど、看過できない状況。また、豪雪も頻発化しており、毎年の雪氷災害による犠牲者の割合も継続的に高い水準で推移。津波被害についても、国内外で予想以上の被害が発生。そこで、どのようなハザードにも対応できる地域の防災力向上を目指したリスクマネジメントアプローチの採用が必要。その中で、次の海溝型地震対策に向けた地域の防災力向上が国家的には喫緊の課題。
・国際展開・貢献
地球温暖化等の自然環境の変化に伴い、自然災害の規模と様相が変化してきている。それに伴う地球規模での問題が深刻化しつつあり、防災科学技術における我が国の先進性を活かした国際的な共同研究の推進等が求められている。我が国は、これまで多くの災害を経験してきたことから災害に関する知見が豊富であり、発展途上国への防災分野での援助や災害からの復興支援を行うことで世界の国々に貢献してきた。このように世界をリードしている防災科学技術は外交上も重要な要素であり、国益にもつながることから世界を視野に入れた総合的な防災科学技術の推進が必要。
また、火山研究分野等これまで国としてプロジェクトの推進が不十分であった分野については、研究者の育成・確保と分野ごとの適切な研究体制の維持を図っていくことが課題。
さらに、留学生や研修生の受け入れの拡大により、防災科学技術の国際的な普及の促進が図られる等大きな効果が期待できるが、受け入れの枠が少ないなどの課題が存在。
○防災科学技術の最終目的は、災害から国民の生命と財産を守るとともに、災害に強い社会づくりに貢献すること、すなわち「社会防災力の向上」であり、その実現のために必要な科学技術を推進していくことが重要。その際、自助、共助、公助の取組が実効的かつバランスよく適切に実現されることを目標に防災科学技術を推進することが必要。
これまで特定のハザードに対する単一の被害想定を前提とした防災対策が主として講じられてきていたが、その想定を超える災害に対する対策をあらかじめ用意しておく必要性が明らかとなった。また、そのような特定のハザードに対する特定シナリオに基づく防災対策の存在が、「万全の備えができている」という過度の安心感を住民に与えていたことも被害の拡大につながった一因である。このようなことから、想定を超える事象にも対応できる社会の実現や、被害を被っても早急な回復が可能な社会の実現が必要不可欠である。つまり、蓋然性の高いハザードシナリオに抗するだけの強い予防力を備えるだけでなく、想定を超える災害時にも適切に機能する社会、被害を受けた後の早期回復力を備えた「しなやかな(resilient)」社会の実現が必要。
○推進方策の策定に当たっては、上記を踏まえ、「基本的な社会の機能が適切に維持されるように社会にとって重大な影響を持つリスクに対する予防力を高めること」と「それ以外の被害は避けられないとの前提の下、社会の早期復旧・復興を可能とする被害からの回復力を高めること」を2つの基本目標として掲げ、そのために必要な防災科学技術を推進するという姿勢を基本とする。
1基本的な社会の機能が適切に維持されるように重要なリスクに対する予防力を高めること
2予防力を超える被害は避けられないとの前提の下、社会の被害からの回復力を高めること
このような基本目標を達成するためには、2つの基本目標毎にそれぞれの課題解決に 向けたアプローチをそれぞれ高度化するとともに、地域の特性を踏まえた上で、それらを適切に組み合わせることにより最適な防災・減災対策が実現できるような防災科学技術を推進することが必要である。
○「重要なリスクに対する予防力の向上」のためには、社会を構成する基盤(器)である建物や構造物、ライフライン(「物理的環境」)の強化がこれまでにも増して重要であり、引き続き最新の知見を踏まえて、耐震技術の向上をはじめとする防災技術を高度化していくとともに、「人」が災害時に適切な退避行動や避難行動を取ることができるよう、人間の心理や行動を踏まえた研究、すなわち、災害時の人間の危機回避能力向上のための研究、さらには、災害時の「社会」の機能が適切に維持されるような、自治体の体制の在り方、組織の事業継続計画(BCP)、信頼性の高い通信網などの実現のための研究が必要。
○「社会の回復力向上」のためには、まず、震災直後の混乱期から復旧・復興に至る災害過程において発生する社会・経済的影響、土地利用計画上の問題等、時間軸に沿った災害現象の変遷とその発生メカニズムを解明する必要がある。また、ライフラインの被害検知等の災害状況把握、住民の避難救護、災害発生後に最低限復旧すべきライフライン、道路、橋梁の選定、効率的な資機材、人員等の配備・供給のための情報の収集・統合・集約・共有による「状況認識の統一」と、効果的な後方支援施策を実現する総合的災害時意思決定に関する研究など、応急・復旧等の活動の実行能力向上に資する研究や災害発生前に復旧復興戦略、復興計画を策定する過程で必要となる企画・計画能力の向上に資する研究を行う必要がある。さらに、社会の回復力向上に資する体系的な防災教育の推進、自治体職員の災害時対応能力の向上のための研修・訓練、防災文化・防災ボランティアの育成等の推進が重要。
○その際、社会の防災力向上のための研究を進めるに当たっては、社会を構成する「物理的環境」とその物理的環境の中で形成されている「社会」及びその構成員である「人間」について、外的要因であるハザードがもたらす影響に関して、時間的経緯を軸として、「事前」、「最中」、「事後」に分け、それぞれに対して講じ得る対策に関して実施すべき研究を整理・分類して推進することが適切。なお、火山噴火のように「最中」が長期化し「最中」と「事後」が並行する場合もあることを念頭に置く。
○また、東北地方太平洋沖地震により想定を超える災害が発生したが、上記の研究や防災対策を行うに当たっては、想定を超えることもあり得ることを念頭に置きつつ、災害シナリオを設定することは必要不可欠。その合理的なシナリオ設定を行う際には、正確なリスク評価・予測を行う必要があり、そのためには正確なハザードの像・メカニズムを知る必要がある。なお、ハザードとなる自然現象のメカニズムの解明については、知のフロンティアの部分であることに留意する必要。
○以上のようなことを踏まえ、本推進方策のⅡ章においては、社会の防災力の向上を実現するため、「環境」、「社会・人」、「リスク」、「ハザード」それぞれについて、ハザードの「事前」、「最中」、「事後」に対応する防災科学技術に関する推進すべき重要施策を整理するとともに、国際的にみると、社会問題化している地球規模の問題の多くが、自然災害を直接または間接の引き金としている事実を踏まえ、防災・減災対策を通じた地球規模の問題解決への貢献を加え、推進すべき重要研究開発課題の主要な柱として以下の通り分類・整理し、推進を図ることとする。また、Ⅲ章においては、Ⅱ章の重要施策を推進していく上での配慮事項として、研究開発を推進するにあたっての重要事項を整理した。
1.社会の防災力の向上のための研究開発
(1)災害に対して物理的環境を強くするための研究開発
(2)災害に対して社会・人を強くするための研究開発
(3)リスクを知り予測するための研究開発
(4)ハザードを知り予測するための研究開発
2.地球規模の問題解決への貢献
なお、本推進方策は、大規模な自然現象に付随して発生する大規模な事故に対しても、共通する事項として参考になると考える。
我が国の社会資本・設備の自然災害に対する予防力は決して十分であるとは言い難く、特に、大規模自然災害発生時においても有効に機能する社会資本・設備の整備やそれらのネットワーク機能の維持が不可欠。そのための耐性・機能維持性能の向上を実現する研究開発は国民の財産や人命に対する安全保障を確保し、さらに地域の安定した成長にも寄与するため、強力に進めていくことが必要。
災害に対して強くすべき環境としては、建物、構造物、施設、地盤等があり、以下のような研究を行うことが必要。
1予防力の向上のための研究
(事前)建物、構造物、施設、地盤等の耐震性、耐津波性をはじめとする自然災害に対する耐性向上のための研究開発が必要。
また、東北地方太平洋沖地震発生後に、基地局の被災やアクセスの集中等により情報通信ができない状況が続き、安否確認や災害応急対応に大きな支障を来したことから、今後、災害に強い情報提供インフラの研究開発を行うことが必要。
さらに、東北地方太平洋沖地震により、震源地から遠く離れた浦安市等においても深刻な液状化現象が発生した。このように、これまで想定していない都市の脆弱性が顕在化していることを踏まえ、液状化予測手法の高度化を進めることが必要。
(最中)ハザードの最中には、建物がどのような被害を受けるのか不明なため、どのような行動を起こしていいか不明な状況となる。したがって、適切な退避・避難行動をとるための判断ができるよう、建物や施設等の危険度予測が可能なシステムの構築が必要。
(事後)ハザードが収まった後、引き続き建物や施設が使えるか否かを判定する必要があるが、被害認定を行う判定士の数も限られていることから、被害判定迅速化に資する研究開発を行う必要。
2回復力の向上のための研究
(事前)事前の復旧・復興戦略の策定、復旧・復興活動に関する研修・訓練手法に関する研究が必要。
(最中)ハザード時に操業・運転の緊急停止に活用するなどリアルタイムモニタリング情報の利活用に関する研究が必要。また、大きな揺れが襲来する直前の退避行動により命が守られるケースが多いことから、緊急地震速報のさらなる高度化が必要。
(事後)建物や施設等の被災した部分を早期に復旧できるよう、予め被災する部分が特定できるような建築手法等の開発や、被災後の早期再生の仕組みの研究を進めることが必要。
社会防災力の強化を行う上では、予防力の向上を目指した防災対策だけでなく、事前の準備として、災害発生時の行動における、適切な対応を身につける防災教育や、一元的に必要な災害情報を収集できるシステムなど、広範な減災対策が重要である。
特に、地域に根ざした防災担当者の人材育成において積極的に活用されるよう、最先端の観測技術、高精度な予測技術、高度化した防災・減災技術等を効果的に展開・普及する必要があり、また大規模災害時の人命確保と社会の致命的損害の回避には、効果的な災害対応対策立案に役立つリスク情報と発災後の迅速な災害状況認識の統一が重要であり、そのための総合的な災害情報システムの構築や、発災後の社会・経済活動継続を支援するシステムの構築の推進が不可欠である。
災害に対して社会・人を強くするためには以下のような研究が必要。
1予防力の向上のための研究
(事前)大きな揺れが襲来する直前の退避行動により命が守られるケースが多いことから、緊急地震速報のさらなる高度化が必要。
その他、適切な避難や業務継続のためのBCP等の計画策定に資する研究や、防災教育の高度化のための研究、土地利用・都市計画研究、ハザードマップ研究、具体的行動指針の研究、計画策定に資する合意形成のための研究、防災に関する行動を適切に誘導するための研究、コミュニティにおける信頼や規範、ネットワークなどのソーシャルキャピタル醸成のための研究等を進めることが必要。
(最中)発災時の警報伝達、情報処理、状況把握、対応体制、住民参画や合意形成の在り方に関する研究、適切な退避行動実現に資する研究等が必要。また、ハザードの低減が確認された場合、適切に避難解除・規制解除の判断に資するシステムの研究が必要。
(事後)復旧・復興期における指揮系統とリーダーシップ、情報伝達、状況把握、資源配分、対応体制の在り方に関する研究等が必要。
2回復力の向上のための研究
(事前)的確で円滑な災害対応の促進のため、災害対応にあたる国や地方公共団体、その他防災関係機関の職員及び組織の能力向上に資する研究が必要。
(最中)初動対応のための即時状況把握、対応体制の研究が必要。
(事後)速やかな復旧・復興の実現のため、応急・復旧・復興支援システム、広域支援システム研究、災害時のマイクロメディアの研究、災害記録アーカイブに関する研究が必要。
効果的・効率的な防災・減災対策の大前提として、様々な自然災害の予測研究の精度向上を推進する必要がある。現状を的確に把握し、近い将来発生が予想される様々な災害を高精度に予測することは極めて重要である。観測データを用いたシミュレーション等により、被害軽減に直結する自然災害の即時予測の高度化を推進するとともに、自然災害が拡大する要因等も踏まえ、防災性向上への実効性を十分に認識しつつ自然災害の予測研究を推進することが必要。
災害のリスクを高精度に把握・予測するためには、以下のような研究が必要。
1予防力の向上のための研究
(事前)被害予測の高度化のための研究、複合被害の予測研究が必要。
(最中)瞬時被害把握・予測システムの研究が必要。
(事後)実被害把握システムの研究、予測されたリスクと実際の被害との比較を通して被害予測の高度化へフィードバックするような研究が必要。
2回復力の向上のための研究
(事後)次の災害リスクを最小にするような復旧・復興計画策定のための研究が必要。
防災・減災技術の高度化、予測技術の高度化を進める上で、様々な自然災害の観測基盤・基礎研究の強化は必須である。様々な自然現象の継続的かつ高精度な観測(モニタリング)は、災害につながる自然現象のメカニズムの解明や高精度な災害発生予測の実現に最も基本的情報として不可欠である。加えて、リアルタイム観測網で得られるデータは、緊急地震速報や火山噴火警報などに活用されるなど、防災上も重要な役割を果たしており、今後も、地震・火山のみならず様々な自然災害における総合的な観測基盤の充実・強化が必要である。
また、災害につながる自然現象のメカニズム解明等に向けた基礎研究を着実に推進することが重要である。高精度な災害発生予測や効果的な防災力向上のため、災害につながる自然現象のメカニズムの解明や自然災害が拡大する要因等を解明する必要があり、そのための基礎研究を今後も着実に推進することが必要。
一方、調査研究の加速や防災力向上を促進する観測技術・手法の高度化・開発を目指す必要がある。調査研究を加速するためには、最先端の技術を活用した観測・調査研究や、異分野と融合した新たな観測技術・手法の開発、高精度な観測を可能とする既存技術の改良等が必要である。
このようなことから、災害につながる自然現象(ハザード)を高精度に把握・予測するためには、以下のような研究が必要。
1予防力の向上のための研究
(事前)地震、津波、火山、気象等、災害につながる自然現象のメカニズム解明、発生予測高度化の研究、複合ハザード予測研究が必要。
(最中)瞬時にどのようなハザードに見舞われているかを把握するとともに、ハザードの推移を予測するシステムの研究が必要。
(事後)予測されたハザードと実際のハザードとの比較を通して観測の高度化へフィードバックするような研究が必要。
2回復力の向上のための研究
(事後)余震や二次災害を引き起こすハザードの予測システムの研究が必要。
我が国は、これまで多くの多様な自然災害を克服し、世界的にも高度な経済発展を成し遂げた。今後は、防災先進国として、我が国自らの防災力の向上を目指すばかりでなく、諸外国との協調と協力の下、科学技術を積極的に活用し、自然災害を中心として地球規模で発生する様々な問題の解決に積極的に貢献する必要がある。世界の持続可能性、都市問題、貧困問題は自然災害と密接に関係しており、今後とも、地球規模の問題をもたらす自然災害の軽減の重要性は増大していくと予想される。
このため、国として、「地域の安定成長に貢献する防災科学技術の国際展開」と「国際共同研究」を主要な柱として設定し、大学や公的研究機関、産業界、さらには諸外国や国際機関との連携・協力の下、これらに対応した研究開発等を推進する。
防災力向上により世界の持続可能な成長を実現するために、諸外国の事情・特性に応じた協力や我が国の優れた研究成果の国際展開を図ることを目標とした、グローバルな視点での防災科学技術による国際貢献を推進する。
自然災害による被害を最小限に抑制する我が国の防災科学技術を世界へ展開し、地域全体の社会・経済的発展の基盤となる安全で安心できる地域社会の構築に貢献することが必要。その際、地域の実情に応じた貢献・展開を推進することが重要。また、これまでのような技術移転や技術協力、資金援助等の貢献にとどまらず、自然災害を克服できる国際的な社会・経済システムの構築を支える防災科学技術を推進することが重要。
1大規模自然災害
大規模自然災害は、国外に直接または間接的に影響が及び外国の支援等が行われることから地球規模の問題でもある。例えば、東日本大震災やスマトラ地震等、1000年に1度といった低頻度大規模災害に関して、災害の記憶の収集、保存、整理、検証を行い、広く国際社会に情報発信するとともに、後世に伝えていく必要がある。また、国際的に開かれた研究体制で総合的研究を行うことが重要である。
2気候変動に伴う自然災害への対応
高潮や海岸浸食等の沿岸災害や洪水の増加など、気候変動に対応して大規模な自然災害の増加が懸念されており、全球での自然現象の観測・予測、災害の予測に関する研究を国際的なプロジェクトとして進めることが必要。
また、対策が遅れている発展途上国等での土砂・風水害については、被災地の住民や社会と協調しつつ、地域の特性に応じた研究協力・技術展開を推進することが必要。
3アジア共通の問題解決に向けた研究開発の推進
アジア・環太平洋地域を中心とした国際的な協力体制のもと、自然災害の観測研究を推進することにより、我が国も含め周辺地域における、災害につながる自然現象のメカニズム解明及び自然災害発生予測技術の高度化に関する研究を加速し、その地域全体の防災力向上につなげ、さらには、地域の脆弱性を踏まえて、被災しても人命だけは守られ、レジリエンス(地域の防災力)の高い地域づくりを目指すことが重要。
4地震工学等の物理的環境を強くする研究開発
耐震工学をはじめとした災害に対して物理的環境を強くする防災科学技術における国際的な共同研究についても、我が国のリーダーシップのもと強力に推進していくことが必要。
防災分野における研究開発は、既存の学問分野の枠を越えた学際融合的領域であることから、既存の学部、学科、研究科を越えた取組、理学と工学、工学と人文科学・社会科学、医療等の分野横断的な取組や、大学、独立行政法人、地方公共団体等機関の枠を越えた連携協力が必要である。その際、情報共有、共同研究、施設共用、人材交流等を積極的に実施していくことが重要である。
さらに、競争的資金を含む研究経費の配分においても、既存の個別分野ごとの配分ではなく、その枠を越えて総合的な防災分野として明確に設定して課題を拾い上げていくことが必要である。また、その際には、中長期的な視点に立って技術革新の芽となる課題や分野横断的な研究を積極的に抽出していくとともに、災害の地域性を踏まえ、研究成果による中長期的な地域防災力の向上への貢献という要素も勘案して評価していく必要がある。
災害を引き起こす原因となる気象、地変はいずれも地域特殊性を有するものであり、また、災害を被る地域も地形、土地利用形態、人口、都市の規模、災害の経験の有無、災害に対する体制の有無等様々に異なっていることから、実際に地域の防災に役立つ研究開発を行うためには、地域の特性を踏まえて行うことが必要である。このため、大学、国の機関、独立行政法人等の研究機関は、適切な研究テーマの選定や、研究プロジェクトの構成の在り方を十分に検討しつつ、地方公共団体の防災実務者やNPOと密接に連携して研究開発を進めていくとともに、研究拠点や観測拠点の整備・維持・集約等による研究機能の強化を図ることが必要である。一方で、地域の研究者の地域を守るという当事者意識及び能力の向上を図り、地域の災害に関する基礎データを収集、解析し、その結果を地域の防災力向上につなげるような地域のホームドクター的研究者の育成など防災性向上に資する取組も重要。
また、地域の防災力向上の研究にあたって、各地域に残されている人文・社会科学的史料や地形・地質学的痕跡を徹底的に洗い出し、過去の被害の履歴や既往最大の災害事象、その地域特有の災害像を明らかにしたり、繰り返し起こる地域特有の災害体験の伝承等をはじめ、その地域に存在する伝統的な防災の知恵も十分活用することが必要である。
さらに、東日本大震災は、予期せぬ地震災害に対して技術の限界があることを示した。これは、建物や施設に被害が発生するリスクを社会は受容しなければならないことを意味している。このことを踏まえ、地域の特性に応じて、住民等がリスクをどのような考えのもとに受容して行くかの合意形成を進めておくことが重要である。
府省間及び組織間の連携を積極的に進め、分野横断的・総合的なプロジェクトの企画・調整を行うなど、研究開発を効果的・効率的に進めていくことが必要。
また、研究成果のユーザ等との連携の強化を図り、研究成果の実社会への活用を見据えて、運用・活用側のニーズと研究開発側のシーズの把握、及び研究成果や研究課題の選定へのさらなる反映を図る仕組みを構築していくことが必要。特に、防災分野の研究開発成果は、一般市民がその重要なユーザであることが多く、独立行政法人、大学等の研究機関は、企業等に研究成果を移転するとともに一般向けに積極的に広報・普及することが必要である。
さらに、効果的かつ効率的な研究開発を行うためには、関係する情報や成果の普及・共有を図る具体的な仕組みを作っていくことが有用である。このためには、国・自治体・大学・研究機関・企業等が広く参画した防災に関するデータベースを構築し、これを将来の防災に活用するためのシステムを整備する必要がある。
このようなことから、防災科学技術に関する産学官及び防災関係者間の連携を促進する場の構築が必要である。
情報共有の進展等に伴い、研究活動の効率化が進む一方で、研究者自体が基礎データを収集する努力を敬遠する傾向も見られる。このような傾向により研究分野の停滞につながらないよう、研究・教育機関は研究者のマインドの醸成について十分配慮する必要がある。
専門的な研究開発を担うだけでなく、国内及び国際的なリーダーシップを発揮しうる人材、成果の社会還元を積極的に進めることができる人材、防災科学技術にとどまらない新たな付加価値を創出し、イノベーションをもたらすことができる人材を育成・確保することが不可欠である。
地震・火山をはじめとする防災科学技術の分野は、国家として継続した研究を推進する必要があるが、近年、優れた人材の確保が非常に困難な傾向にあることから、次世代の研究を担う人材の育成・確保や、次世代の研究者の育成を担う教育者への研究成果の情報提供を強力に推進することが必要。特に、財政的・人材的に厳しい環境のもとで行われている火山分野等の研究への支援体制を充実・強化することが必要。
また、専門分野での研究開発成果を上げるだけでなく、研究成果の社会還元の促進による社会・経済の維持・成長への寄与、産業創出・地域の活性化等に貢献するなど、防災科学技術にとどまらない新たな付加価値を創出し、イノベーションをもたらすことができる人材を産学官連携により育成・確保していくことが必要。
さらに、災害時には的確で迅速な災害対応を行う必要がある地方公共団体やNPOの職員等に対し、その地域の特性に応じた防災科学技術について、十分な知識の普及を図るとともに、自然災害に対して、国民一人ひとりが、事前の準備や災害発生時の行動における適切な対応を身につけることが被害軽減に効果的であり、一般市民への普及・啓発を強力に推進し、こうした能力を向上させる取組も着実に進めていくことが重要。また、防災分野では研究活動そのものに一般市民の参加が必要となる場合も多く、行政機関や地方公共団体との密接な連携の下、一般市民への普及・啓発活動を活発に行いつつ研究を推進することが必要である。
防災科学技術分野における国際協力については、実践的かつ長期的な研究活動が不可欠であることから、国際的な協力体制のもとで研究開発を行う際、相手国の政府や、行政組織、研究者との密接な連携が不可欠。そのため、我が国のリーダーシップのもと、防災科学技術を世界に展開し、世界の持続的な成長を実現するため、我が国において、国際的な協力体制を先導できる人材や国際共同研究プロジェクトを主導できる人材を育成することに加え、将来この分野に貢献する海外からの留学生の積極的な受け入れ等が可能な安定した環境作りも必要。
また、関連する産業の創出や市場展開等も考慮しつつ、我が国の防災科学技術を世界標準にしていくなど、民間企業や公益事業体の海外戦略等も視野に入れた積極的な国際展開を図ることが必要。
さらに、国内外における防災科学技術の連携強化を図るため、日本国内において中核となるような、世界最先端の研究開発拠点の形成を推進することが必要。また、共同研究などの国際的な取り組みに関する情報の共有、取り組みの連携・共同化が容易となるプラットフォームの確立や、将来的には、国際的な共同研究拠点や共同観測研究の枠組みを設立することも重要。
防災分野における基礎研究は重要である。このため、各機関において適正な方法で基礎研究のための経費を確保し配分する等、継続性のある研究体制の整備が必要である。また、防災力の向上は国民の安全・安心、さらには産業や国力の向上につながるとの認識の下、基礎研究については、基盤的研究費や競争的資金等を通じ、長期的視野に立った国の支援が不可欠である。
また、基礎研究についても社会の防災性向上への実効性の貢献度の観点から研究評価を厳正に行うべきものであるが、その研究の価値、意義を適正に評価できるよう、評価の方法を工夫することが必要である。
一方、防災分野の研究開発の進展のためには、実際の災害を再現して様々な実験を行うための施設・設備が必要である。また、災害を起こす自然現象に関するさまざまなデータを観測するための観測網が不可欠であり、これらの整備を着実に進めるとともに、適切に維持しなければならない。これら施設・設備はできる限り内外に開かれた共同利用施設として運営する。
さらに、防災分野においては、災害を起こす自然現象に関するデータ、過去に起こった災害のデータ等研究遂行上不可欠のデータがあり、これらが入手しやすい状態でデータベース化され、共有されていることが重要である。このため、必要なものから順次これらのデータベース化を進めるとともに、その維持・更新を着実に進める。
我が国では地震調査研究推進本部の下で、「新たな地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」や各種の調査観測計画が策定されている。また、学術研究としての性格の強い地震観測研究や火山噴火予知研究については、科学技術・学術審議会の建議に基づいた計画が策定されている。一方、「豪雪地帯対策基本計画」など、災害種別に防災・減災に資する対策や調査・研究の推進を図ることを目的とした計画も策定されている。
このように、計画や推進方策が別立てになっていることは、これらの自然現象の解明に関する主として理学的な研究と、防災力を向上させるための工学的・社会科学的な様々な研究とが独立して行われてもよいことを意味するものではなく、お互いが密接に連携して行うことが必要である。
なお、本推進方策に示された研究開発を推進するにあたっては、防災対策の実施の面から、災害対策基本法に基づく防災基本計画をはじめとする関連する計画等との連携を十分配慮する必要がある。
研究開発局地震・防災研究課防災科学技術推進室
-- 登録:平成23年10月 --