資料3-2 防災に関する研究開発の推進方策について 骨子(案)

1.基本認識

  1. はじめに
  2. 第4期基本計画における防災分野の位置づけについて
  3. 防災分野をとりまく状況について
  4. 推進方策の基本方針(推進方策の進め方)

2.各課題領域に対する推進方策

  1. 観測基盤・基礎研究の強化
  2. 害発生予測の高度化
  3. 防災・減災技術の高度化
  4. 社会防災力の強化(国や自治体等における対策等の取組促進)
  5. 地球規模の問題解決への貢献
  6. グリーンイノベーションへの防災分野の貢献

3.研究開発を推進するにあたっての重要事項

  1. 基礎研究の振興
  2. 総合科学技術としての展開
  3. 地域の特性に応じた研究開発の促進
  4. 我が国の防災科学技術による国際貢献
  5. 他府省との連携と成果の共有
  6. イノベーション創出等につながる人材育成
  7. 研究開発基盤の整備
  8. 普及・啓発活動の充実
  9. 他の計画等との連携

1.基本認識

1.はじめに

今回の東北地方太平洋沖地震では、極めて大きな規模で地震が発生し、巨大な津波等により広範囲にわたって甚大な被害が発生した。

現在、いまだ災害の全容が明らかになっていないだけではなく、被災者にとっては現在も被害が継続しており、国は総力を挙げて復旧・復興に取り組んでいる。

今回の地震において、陸域とは異なり海域での地震観測網の整備が進んでいないことから津波の高さ等の正確な情報が入手できないこと、想定をはるかに超える規模の災害への対応が自治体等において十分に検討されていなかったこと、地震・津波等の複合災害が広範囲にわたって同時に発生し、情報通信及びライフラインが長期間途絶するなど広域型複合災害への備えが乏しかったこと、都市圏では大量の帰宅困難者・大渋滞・液状化現象・停電など都市特有の多くの問題が露呈したこと等、数々の課題が浮き彫りとなった。

このようなことを踏まえ、二度と同様な災禍を甘んじて受けないとの強固な決意の下、今世紀前半にも発生が予測され、同様の被害が想定されている東海・東南海・南海地震等における被害の軽減の実現に向け、国家の威信にかけて、防災に関する研究開発を推進していかなければならない。

2.第4期科学技術基本計画における推進方策の位置付けについて

推進方策は、第4期科学技術基本計画に基づく、文部科学省として進めるべき課題推進にあたっての重要事項等を示したもの。

(1)第4期科学技術基本計画の方向性

第4期科学技術基本計画は、「これからの10年を見通した今後5年間の科学技術に関する国家戦略である「新成長戦略」を科学技術、さらにはイノベーションの観点から幅広く捉え、この新成長戦略に示された方針をより深化し、具体化するとともに、他の重要政策との一層の連携を図りつつ、我が国の科学技術政策を総合的かつ体系的に推進するための基本的な方針」と位置づけ、現在再検討中の第4期科学技術基本計画においては、今回の大震災を踏まえ、国として取り組むべき重要課題を明確に設定する方向。

成長の2つの柱であるグリーン・イノベーション、ライフ・イノベーションに加え、その前提条件としての「災害からの復興・再生の実現」(社会インフラ等の復興、再生、人々の心の安定の確保等)が成長の柱として位置づけられる方向。

(2)第4期科学技術基本計画における基本理念

科学技術は、我が国の豊かさの実現や人々の暮らしにおける安心、安全の確保、経済をはじめとする国力の基盤の構築に資するとともに、知のフロンティアを切り拓き、我々人類の直面する課題の克服に貢献するための有力な手段となるもの。

その意味で、科学技術政策は、科学技術の振興のみを目的とするものではなく、社会及び公共のための主要な政策の一つとして、経済や教育、外交、防災、安全保障等の重要政策と有機的に連携しつつ、我が国がどのような国として存立するか、さらに世界とどのように共生していくかという我が国の将来の姿、あるいはアイデンティティの実現につながるものである。

第4期科学技術基本計画では、目指すべき5つの国の姿を掲げ、それらを実現するため、我が国が取り組むべき課題を明確に設定し、これを踏まえ、今後10年を見通した防災科学技術を推進するに当たっての基本方針を示している。

  1. 将来にわたり持続的な成長を遂げる国
  2. 豊かで質の高い国民生活を実現する国
  3. 国家存立の基盤となる科学技術を保持する国
  4. 地球規模の問題解決に先導的に取り組む国
  5. 「知」の資産を創出し続け、科学技術を文化として育む国

(3)我が国が直面する重要課題への対応

これまでの重点推進4分野及び推進4分野に基づく研究開発の重点化から、重要課題の達成に向けた施策の重点化へ、方針を大きく転換。

3つの成長の柱以外にも、今回の大震災を招いた巨大地震や津波等の自然災害からの人々の生活の安全、安心の確保をはじめ、深刻かつ多様な課題に直面している。

重要課題達成のための施策の推進として、目指すべき5つの国の姿の実現に対応する形で、国として取り組むべき重要課題を設定。

3.防災分野をとりまく状況について

(1)防災分野における研究開発の現状

 防災科学技術の最終目的は、災害から国民の生命と財産を守ることであり、そのために必要な科学、技術を推進していくことが重要。そのためには、災害の一連のサイクルの各フェーズにおける各要素の研究開発が必要。つまり、災害の発生するメカニズムの正確な把握、それに基づく災害の長期的、短期的予測、的確な事前対策の推進、災害発生後の応急対応、災害からの復興という各フェーズにおける必要な研究開発を推進していくことが必要。これらの研究開発の推進は、市場経済になじまない側面もあることから、引き続き国が主導していくことが必要。第2期の防災に関する研究開発の推進方策は、「防災に関する研究開発基本計画」(平成5年12月)を基礎として、阪神・淡路大震災(平成7年1月)、三宅島噴火(平成12年7月)等の教訓を踏まえ、防災関係機関等からのヒアリング等に基づき、7つの重点研究開発領域と5種類の防災への活動プロセスに分類された重要研究開発課題を提示し、防災への研究開発を推進してきた。第3期においては、その後の社会の変化等を踏まえ、第2期の推進方策を修正する形で、9つの重点研究開発領域と5種類の防災への活動プロセスに分類された重要研究開発課題を提示し、防災への研究開発を推進してきた。

(2)防災科学技術推進に当たっての課題

  1. 最近の災害の状況
     
    • 東日本大震災
      東北地方太平洋沖地震の規模(マグニチュード9.0)は我が国観測史上最大で、その地震に伴う津波を中心とした甚大な被害は戦後最大。津波被害についても、国内外で予想以上の被害が発生(するなど、次の海溝型地震対策に向けて喫緊の課題)。特に、海岸部の津波に対する脆弱性が顕在化。また、遠く離れた首都圏や関西でも長周期地震動の影響、液状化の影響。
       
    • 岩手・宮城内陸地震
      4000galを超える高加速度の地震動が観測された。
       
    • 火山、大雪等
      島山新燃岳の比較的大規模な噴火が発生(飛行制限や土石流などの被害の発生が懸念されている)
      雪氷災害についても、平成23年1月の山陰地方を中心とした豪雪災害をはじめ、無視できない災害が頻発。
       
  2. 防災科学技術推進に当たっての課題

    東日本大震災の最近の災害状況を踏まえ、委員からの意見を集約し、主な課題を提示。
     
    • 低頻度巨大災害への対応(最大規模の推定、津波災害等)
    • 長周期地震動への対策
    • 都市防災対策(液状化、ライフラインの寸断等)
    • 観測網の充実(海域、制度・機能の維持、火山等)
    • 幾つかの機関の相互バックアップ体制(ハード・ソフト両面で)
    • 災害発生予測の高度化
    • 地震・火山をトータルに考えた研究も推進
    • 災害に対する基準(ハード・ソフト等)や目的等の合意形成(想定の前提、対策の前提、想定や対策の合意形成の在り方等)
    • 複合災害への対応(複数の災害が同時に起こった場合の対応体制等)
    • 防災力向上など目的達成型防災の構築(災害に強いまちづくり等)
    • 災害復興における「地域の歴史・文化」の考慮
    • 社会の変容に伴う災害の発生に関する研究
    • 人間・社会側の検討を強化(広域巨大災害における適時的確な資源投入)
    • 基礎的データの収集
    • 情報共有(ハザードマップの浸透、巨大地震直後における政府の情報管理体制等)
    • 防災リテラシーの向上(防災教育、人材育成)

4.推進方策の基本方針(推進方策の進め方)

推進方策の策定に当たっては、上記1~3を踏まえ、最悪の事態に備えるという観点から「広域巨大災害への対応」を進め、広く防災を社会に普及させるという観点から「防災科学技術の体系的な推進」を図り、これらを両輪として推進していくことが必要不可欠である。

広域巨大災害への対応については、これまでも検討がなされてきていたが、東北地方太平洋沖地震ではその想定をさらに上回っていたことを踏まえ、防災・減災に資する防災科学技術の体系的な推進だけではなく、国家に深刻な影響を及ぼすような広域巨大災害については、最悪の事態を想定して研究開発に取り組む必要がある。

そのためにはまず、東日本大震災の全容を解明し、今後の巨大災害を防ぐために、防災科学技術に関係する者の総力を挙げて取り組むことが必要である。

防災科学技術の体系的な推進にあたっては、災害時に社会が的確かつ実効的に機能し、人命及び財産が危険から回避されるよう事前の的確な対策が必要であり、その前提として的確な災害予測が必要である。

そのためには、自然現象を正確に観測してメカニズムを解明し、それに基づき各時点での観測情報を踏まえて将来の自然現象を予測し、社会の脆弱性等を勘案しながら的確に災害を予測することが必要である。

これを実現するためには、災害予測までの各フェーズ(観測、観測技術開発、自然現象予測、社会側の脆弱性評価、災害予測)それぞれにおいて、関係機関の連携の下、中長期的な視点で、研究成果が社会に活かされることが必要である。

上記を踏まえ、あらゆる自然災害の種類や規模に対応した防災科学技術の体系的な推進が重要であることから、ハザードが発生して災害となり、災害の発生から復旧・復興するまでの期間の各フェーズ毎(観測、観測技術開発、自然現象予測、災害予測)に実現すべき重要施策を整理するとともに、国際的に社会問題化している地球規模の問題解決への貢献、第4期科学技術基本計画の大きな柱であるグリーンイノベーションへ分野への貢献を加え、各課題領域に対する推進方策の主要な柱として以下の通り1~6に分類・整理した。

  1. 観測基盤・基礎研究の強化
  2. 災害発生予測の高度化
  3. 防災・減災技術の高度化
  4. 社会防災力の強化(国や自治体等における対策等の取組促進)
  5. 地球規模の問題解決への貢献
  6. グリーンイノベーションへの防災分野の貢献

なお、本推進方策は、原子力災害や石油コンビナート火災など、大規模な自然現象に誘引して発生する大きな災害に対しても、共通する事項として参考になると考える。

2.各課題領域に対する推進方策

1.観測基盤・基礎研究の強化

防災・減災技術の高度化、予測技術の高度化を進める上で、様々な自然災害の観測基盤・基礎研究の強化は必須である。様々な自然現象の継続的かつ高精度な観測(モニタリング)は、災害につながる自然現象のメカニズムの解明や高精度な災害発生予測の実現に最も基本的かつ不可欠である。加えて、リアルタイム観測網で得られるデータは、緊急地震速報や火山噴火警報などに活用されるなど、防災上も重要な役割を果たしており、今後も、地震・火山を含めた様々な自然災害における総合的な観測基盤の充実・強化が必要である。

また、災害につながる自然現象のメカニズム解明等に向けた基礎研究を着実に推進することが重要である。高精度な災害発生予測や効果的な防災力向上のため、災害につながる自然現象のメカニズムの解明や自然災害が拡大する要因等を解明する必要があり、そのための基礎研究を今後も着実に推進する。

一方、調査研究の加速や防災力向上を促進する観測技術・手法の高度化・開発を目指す必要がある。調査研究を加速するためには、最先端の技術を活用した観測・調査研究や、異分野と融合した新たな観測技術・手法の開発、高精度な観測を可能とする既存技術の改良等が必要である。

〈 第1回、第2回委員会における委員のご意見 〉

  • 観測・予測研究の着実な推進が必要。
  • 非常時でも観測精度や機能を維持できるよう、災害に強い観測網をつくっていくべき。
  • 陸上に比べて海底の観測はまだ不十分で、全国海底基盤観測網を構築して海域の観測を強化する。例えば海底津波計やGPS等、観測網も充実することが重要。また、このデータが早く色々な分野に届くシステムが必要。
  • 火山についても忘れず整備を進めていくことが必要。
  • ハード的に幾ら頑丈でも直撃だと物理的に壊れる。ハードだけではなくて、幾つかの機関の相互バックアップ体制など、運用上の問題等も含めて、国として検討することが必要。
  • M8は大体断層長100キロだから、50キロ間隔で敷き詰めれば、M8以上のポテンシャルがあるかどうかということは評価可能。ただ、どうしても数年ぐらいの揺らぎがあるので、数十年以上の観測が必須。
  • 気象庁は特別に周期200秒以上の波で解析して、やっと9.0というものを出した。周期200秒以上の強震動を把握できる地震計が必要で、その開発、展開が急務。
  • (津波レーダーについて)緊急地震速報と連動してレーダーが稼動するというようなところをどこか1カ所でもつくってやれないか。
  • 耐津波学研究の推進が必要。 
  • 地質学的観点からの世界の津波の履歴の調査が必要。地震も津波も有史以来で議論をしてきたのではないか。地質学的にそういう痕跡を掘り起こすことが必要。
  • 今回の地震は津波地震とプレート境界の巨大地震が両方同時に起こった。東南海・南海地震では、慶長型と宝永型の地震等両方同時に起こるということも考慮しておく必要 がある。そういう意味で、今後の解析は重要。

2.災害発生予測の高度化

効果的・効率的な防災・減災対策に寄与するために、様々な自然災害の予測研究を推進する必要がある。現状を的確に把握し、近い将来発生が予想される様々な災害を高精度に予測することは極めて重要である。観測データを用いたシミュレーション等により、地震及び地震動・津波の発生予測の高精度化を図り、被害軽減に直結する地震・津波即時予測の高度化を推進するとともに、火山噴火シナリオに基づく予測システムの構築、気候変動シナリオに基づく気象災害・土砂災害の将来予測など、あらゆる自然災害の予測研究を推進する。

〈 第1回、第2回委員会における委員のご意見 〉

(全体的な事項について)

  • 過去に起きた例を並べ、科学的な知見に基づいて検討しておくことが大事。
  • 基礎的なデータをしっかりと集めていく必要。
  • なぜ間違えたのかを明らかにすることが重要。
  • なぜM9を想定できなかったのかという問題についてはクリアにすべきであろう。
  • 長期的予測研究というようなことから、短期的対策研究にある程度転換しないと、東海・東南海・南海は間に合わないかもしれない。
  • 局所的な現象はある程度解明済みである。これからも一定の投資は続けるが、広域的な現象に焦点を当てて重点化することが重要。

(津波について)

  • 予想以上に大きな津波になってしまったので、ハザードマップの見直しが必要。
  • 津波ハザードマップと地震ハザードマップを一緒に考える仕組みが必要。
  • 今回、最初の津波予測が小さかった。過去に何度も予測が過大評価であった。そのために逃げなかった人はかなり多かったと思う。何としても津波の予測の精度を上げなければいけない。
  • 海溝型地震とそれによる津波の予知や、その可能性に関する総点検が必要。

(複合災害等について)

  • 災害の複合的な効果の研究も進めるべき。複合災害を我が国の防災対策として取り上げる という前提に立って、どういった事象の組み合わせを想定すべきか、その規模でどんな被害が想定されるのか。
  • 地震と火山の連動性の研究もぜひ再開して進めたい。規模が大きくなると、広域で地震や火山の現象が発生することを踏まえ、地震・火山をトータルに考えた研究も推進していく必要。
  • 台風や豪雨についても、最大規模を考えておく必要。

3.防災・減災技術の高度化

我が国の社会資本・設備の自然災害に対する備えは十分であるとは言い難く、特に、巨大な海溝型地震や直下型地震、大規模火山噴火といった大規模自然災害発生時においても有効に機能する社会資本・設備の整備やそれらのネットワーク機能の維持が不可欠。そのための耐震性能・機能維持性能の向上を実現する研究開発は国民の財産や人命に対する安全保障を確保し、さらに地域の安定した成長にも寄与する。

〈 第1回、第2回委員会における委員のご意見 〉

(全体的な事項について)

  • たとえ機能評価して安全だと思っても、落下物など不測の事態があるので、別の判断が必要。
  • 災害に強い情報提供インフラの研究開発が必要。
  • 東日本大震災を受けて一番やるべきことは事後。発災直後、復旧・復興も目指したところに研究開発の力点を移すことが一番大事ではないか
  • 短期的に安全性を向上しないと間に合わないため、早急に耐震性を上げる技術、被災建物の安全性をすぐに判断できる技術、海上で津波をすぐに検知して、すぐに逃げたほうがいいと伝えるような単純明快で頑強なシステムなど、早急に作るべき。

(長周期・液状化の問題について)

  • 超高層建築物の揺れによる人間への影響予測や液状化等の影響評価を実施して防災・減災対策を充実強化する必要。
  • これだけ長い揺れが続くと、いわゆる構造物の疲労など、長周期の揺れに対する構造物の挙動や、非常に大きな加速度が加わったときにどうなるのか解明するため、E-ディフェンスのさらなる高加速度化と長周期の現象に対応できるよう改良が必要。
  • 防災というよりは減災、それから、国土利用、人口配置というようなことが重要。
  • 一極集中から自律分散型に変えるためにはどうすればいいかというような研究、地域の特性に応じた減災研究をどうすれば推進できるか、地域の人材をどうつくるかということが大事。

(ロボット等について)

  • ロボット等の研究開発が必要。防災ロボットは以前から研究開発をやられているが、実用化に至らず原発施設に無人で撮影に行くことすらできなかったというのは大変残念。ぜひとも実用に向けた推進が必要。
  • 間接被害や二次被害を明確化し、それを防止・軽減する方策・技術の検討は極めて重要なので、そういう分野を重点化すべき。ロボット技術の研究開発もこれに含まれる。

4.社会防災力の強化(国や自治体等における対策等の取組促進)

 社会防災力の強化を行う上では、防災・減災技術の高度化等のハード的な対策だけでなく、事前の準備や災害発生時の行動における、適切な対応を身につける防災教育や、一元的に必要な災害情報を収集できるシステムのなど、広範なソフト的対策が重要である。特に、地域に根ざした防災教育に対して積極的に活用されるよう、最先端の観測技術、高精度な予測技術、高度化した防災・減災技術等を効果的に展開・普及する必要があり、また大規模災害時の人命確保と社会の致命的損害の回避には、効果的な防災対策立案に役立つリスク情報と発災後の迅速な災害情報把握が重要であり、そのための総合的な災害情報システムの構築や、発災後の社会・経済活動継続を支援するシステムの構築の推進が不可欠である。

〈 第1回、第2回委員会における委員のご意見 〉

(全体的な事項について) 

  • 複数の災害が同時に起こった場合の対応体制について検討する必要。
  • 危機管理とは最悪の事態を想定することが原則で、想定外はあってはならないと考える。想定外というよりも、災害想定を過小評価していた、あるいはせざるを得なかったのではないか。
  • 想定を超える災害が発生すると考えて、緊急対応・復旧のシナリオを検討すべき。
  • 避難を支援する方法についても考えるべき。広域で避難した先の避難所の運営はだれがやるのか。広域避難対策というのは、震災や原子力災害だけではなくて、大規模火山噴火のときにも必要になるので、そのあり方も検討すべき
  • 液状化地域のまちづくりをどうするかというガイドラインが必要。
  • 地盤の揺れだけではなくて、あらゆる建物にセンサーをつけるのが当たり前というような社会にしていくことが大事。
  • 大震災の地域は再生していくわけで、その再生のプロセスそのものを学ばなかったとしたら、新しいものの学びはない。
  • 社会の継続にとって一番不可欠なものを絶対に壊さないようにすること、機能を守ること、それ以外は壊れてしまうので、それをうまく再生させていく仕組みについて知恵を整理することがむしろ求められる。
  • 避難所をどこに設置するか、あるいは建物がなくなったとき、どこに建物を建てればいいかなどのシミュレーションはほとんどやられていない。つまり、ソフト的な対策が非常に欠落していたのではないか。

(防災教育について)

  • 今後、防災教育はどうあるべきかという方向性を打ち出していただきたい。
  • 防災に関する調査研究の成果を積極的に防災教育に活かすことを大いに期待している。
  • ハザードマップのような資料は、最終的には自発的な避難行動のために使われるので、これは地域の方にふだんからなじんでもらうことも重要。また、具体的な行動指針も含めて知らせることが必要。
  • 防災教育は、子供だけではなく、メディア関係者、事業所を含む社会人にも必要。
  • 国民が自分で危険なことを認識・判断して、パニックにならずに行動できるような国になってほしい。教育の中にそのような要素が必要。
  • 津波サイレンが鳴ったら高いところへ一目散に逃げろというような単純な防災教育を全国的にやるべき。
  • (津波について)自分たちの住んでいる地域にどんな危険があるかを知ることは必要。

(情報・コミュニケーションについて)

  • 情報を一元化して不必要な混乱を招かないことが重要。また、緊急時、災害時には、誤った情報や混乱や不安を招く情報をどうやって除外するかも重要。
  • 情報収集システムが極めて脆弱だったと思う。
  • 通行可能道路の情報発信等の仕組みを考える必要。
  • データや情報が国と民間との間、あるいは民間同士、あるいは国の省庁同士でも行き来がない。
  • 今回の場合はあまりにも被災地が広いので、もう少しリソースの融通ができるような状況認識の統一の場、どこでどういう人が求められているの、どこにどういう問題があるのかということが相互にわかるような仕組みが必要。
  • 心理学的・社会学的な立場で、大きな災害のレベルのときにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が使われるとどうなるかというのを検証していただきたい。
  • 情報について、最後にはどういう形で提供されるのかまで考えて開発していただきたい。
  • 状況認識を統一するためのクラウド技術を使った情報 マッシュアップ・システムの活用が重要。
  • 人と組織の防災リテラシー向上に資する教育システムの構築。
  • 緊急対応・復旧時の迅速な意思決定・対応に資する被害状況の推定・把握・発信のあり方の検討が重要。

(東海・東南海・南海地震への対応について)

  • 東海・東南海・南海地震を乗り切っていけるだけの防災力(レジリエンス)を備えるための防災・減災手法を残された20年の間でつくるべき。

5.地球規模の問題解決への貢献

 大規模自然災害は、地球規模の問題であり、我が国の災害の記憶は収集、保存、整理、検証を行い、広く国際社会に情報発信する必要がある。また、1000年に1度といった低頻度大規模災害に関して、総合的研究を行うことが重要である。

〈 第1回、第2回委員会における委員のご意見 〉

  • 開かれた国際研究、開かれた研究体制が必要。
  • どの程度今回寄与したのか、どの部分が不十分、欠如していたのかを検証し、その成果を、資料収集・整理・保存すべき。そのようなことを通じて、次の世代へ語り継ぐ方策、あるいは国際的な情報発信、それによる国際貢献というのを目指していくべき。

(低頻度大規模災害への対応について)

  • 低頻度大規模現象とその防災に関する総合研究が必要。
  • 地質学や考古学など時間スケールの非常に長い分野と の共同研究、共同プロジェクトを今後立案していく必要。
  • 発生確率が低い巨大災害のリスク管理に正面から取り組む必要がある。
  • 発生確率が低く対応策の策定が難しい巨大災害を看過 することは許されない。被災しても人命だけは守られ、レジリエンス(回復力)の高い 地域づくりを目指すことが重要。
  • 低頻度の現象に対して、我々社会、人がどう対応するかというフィロソフィーが重要。
  • こういった経験を忘れず継承するということもせいぜい数十年くらいで、それより長くなると非常に難しい。低頻度のことに関しては、もう 少し違うアプローチも考えないといけない。
  • 小さな災害をゼロにすることに注力しすぎて、大きな災害に対応できていないと思う。

6.グリーンイノベーションへの防災分野の貢献

 温暖化や寒冷化などの大規模な気候変動は自然災害の規模、範囲等にも大きく影響するため、気候変動を十分に考慮した、総合的な自然災害に関する研究開発を推進する必要がある。

〈 第1回、第2回委員会における委員のご意見 〉

  • 基本的には気候変動に対応した研究をしっかりとやっておくべき。

3.研究開発を推進するにあたっての重要事項

1.基礎研究の振興

防災分野における基礎研究は重要である。このため、各機関において適正な方法で基礎研究のための経費を確保し配分する等、研究体制の整備が必要である。また、基礎研究については、基盤的研究費や競争的資金等を通じ、長期的視野に立った国の支援が不可欠である。

基礎研究についても研究評価を厳正に行うべきものであるが、その研究の価値、意義を適正に評価できるよう、評価の方法を工夫することが必要である。

2.総合科学技術としての展開

防災分野における研究開発は、既存の学問分野の枠を越えていたり、融合的領域であったりすることから、既存の学部、学科、研究科を越えた、理学と工学、工学と人文科学・社会科学等の横断的な取組や、大学、独立行政法人、地方公共団体等機関の枠を越えた連携協力が必要である。

その際、国立試験研究機関の独立行政法人化等により、諸々の制度的制約が緩和されていることから、この状況を積極的に活用して、共同研究、施設共用、人材交流等を積極的に実施していくことが重要である。

さらに、競争的資金を含む研究経費の配分においても、既存の個別分野ごとの配分ではなく、その枠を越えて総合的な防災分野として明確に設定して課題を拾い上げていくことが必要である。また、その際には、中長期的な視点に立って技術革新の芽となる課題や分野横断的な研究を積極的に抽出していく必要がある。

3.地域の特性に応じた研究開発の促進

災害を引き起こす原因となる気象、地変はいずれも地域特殊性を有するものであり、また、災害を被る地域も地形、土地利用形態、人口、都市の規模、災害の経験の有無、災害に対する体制の有無等様々に異なっていることから、実際に地域の防災に役立つ研究開発を行うためには、地域の特性を踏まえて行うことが必要である。このため、大学、国の機関、独立行政法人等の研究機関は、地方公共団体の防災実務者やNPOと密接に連携して研究開発を進めていくことが必要である。また、地域の防災力向上の研究にあたって、繰り返し起こる地域特有の災害体験の伝承等をはじめ、その地域に存在する伝統的な防災の知恵も十分活用することが必要である。

4.我が国の防災科学技術による国際貢献

防災力向上により世界の持続可能な成長を実現するために、諸外国の事情・特性に応じた協力や我が国の優れた研究成果の国際展開を図ることを目標とした、グローバルな視点での防災科学技術による国際貢献を推進する。

自然災害による被害を最小限に抑制する我が国の防災科学技術を世界へ展開し、地域全体の社会・経済的発展の基盤となる安全で安心できる地域社会の構築に貢献することが必要。その際、地域の実情に応じた貢献・展開を推進することが重要。例えば、発展途上国等に対し、地域の建築資材、生活文化を考慮した耐震性建築物の企画・提供や地震・津波観測網の整備等、政府開発援助(ODA)の枠組み等も活用して、効果的な支援をしていくことが必要。また、これまでのような技術移転や技術協力、資金援助等の貢献にとどまらず、自然災害を克服できる国際的な社会・経済システムの構築を支える防災科学技術を推進することが重要。さらに、対策が遅れている発展途上国等での土砂・風水害については、住民や社会と協調しつつ、地域の特性に応じた研究協力・技術展開を推進することが必要。

国内外における防災科学技術の連携強化を図るため、日本国内において中核となるような、世界最先端の研究開発拠点の形成を推進することが必要。また、アジア・環太平洋地域を中心とした国際的な協力体制のもと、自然災害の観測研究を推進することにより、我が国も含め周辺地域における、災害につながる自然現象のメカニズム解明及び自然災害発生予測技術の高度化に関する研究を加速し、その地域全体の防災力向上につなげることも必要。さらに、関連する産業の創出や市場展開等も考慮しつつ、我が国の防災科学技術を世界標準にしていくなど、企業の海外戦略等も視野に入れた積極的な国際展開を図ることが必要。また、耐震工学をはじめとした防災科学技術における国際的な共同研究についても、我が国のリーダーシップのもと強力に推進していくことが必要。

5.他府省との連携と成果の共有

他府省間の連携を積極的に進めていくことが、研究開発を効果的・効率的に進めていくためには不可欠である。府省間の連携の強化を図り、分野横断的・総合的なプロジェクトの企画・調整も行いつつ、運用側のニーズと研究開発側のシーズの把握、成果の普及・共有を図る具体的な仕組みを作っていくことが有用である。このため行政関係者等に対して開かれた防災関係者間の緩やかな連携を促進する場が必要である。

6.イノベーション創出等につながる人材育成

専門的な研究開発を担うだけでなく、国際的なリーダーシップを発揮しうる人材、成果の社会還元を積極的に進めることができる人材、防災科学技術にとどまらない新たな付加価値を創出し、イノベーションをもたらすことができる人材の育成・確保することが不可欠である。

地震・火山をはじめとする防災科学技術の分野は、国家として継続した研究を推進する必要があるが、近年、優れた人材の確保が非常に困難な傾向にあることから、次世代の研究を担う人材の育成・確保や、次世代の研究者の育成を担う教育者への研究成果の情報提供を強力に推進することが必要。特に、財政的・人材的に厳しい環境のもとで行われている火山分野等の研究への支援体制を充実・強化することが必要。また、専門分野での研究開発成果を上げるだけでなく、研究成果の社会還元の促進による社会・経済の維持・成長への寄与、産業創出・地域の活性化等に貢献するなど、防災科学技術にとどまらない新たな付加価値を創出し、イノベーションをもたらすことができる人材を産学官連携により育成・確保していくことが必要。さらに、災害時には的確で迅速な災害対応を行う必要がある地方公共団体やNPOの職員等に対し、その地域の特性に応じた防災科学技術について、十分な知識の普及を図るとともに、自然災害に対して、国民一人ひとりが、事前の準備や災害発生時の行動における適切な対応を身につけることが被害軽減に効果的であり、こうした能力を向上させる取組も着実に進めていくことが重要。

防災科学技術分野における国際協力については、実践的かつ長期的な研究活動が不可欠であることから、国際的な協力体制のもとで研究開発を行う際、相手国の政府や、行政組織、研究者との密接な連携が不可欠。そのため、我が国のリーダーシップのもと、防災科学技術を世界に展開し、世界の持続的な成長を実現するため、我が国において、国際的な協力体制を先導できる人材を育成することに加え、将来この分野に貢献する海外からの留学生の積極的な受け入れ等が可能な環境作りも必要。

7.研究開発基盤の整備

(1)防災分野の研究開発の進展のためには、実際の災害を再現して様々な実験を行うための施設・設備が必要である。また、災害を起こす自然現象に関するさまざまなデータを観測するための観測網が不可欠であり、これらの整備を着実に進めるとともに、適切に維持しなければならない。これら施設・設備はできる限り内外に開かれた共同利用施設として運営する。

また、防災分野においては、災害を起こす自然現象に関するデータ、過去に起こった災害のデータ等研究遂行上不可欠のデータがあり、これらが入手しやすい状態でデータベース化され、共有されていることが重要である。このため、必要なものから順次これらのデータベース化を進めるとともに、その維持・更新を着実に進める。

(2)文部科学省と独立行政法人防災科学技術研究所によって兵庫県三木市に建設した実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)は、実大規模の構造物の破壊実験等を行うため、国際的にも貴重な共用の研究施設として、平成17年4月から運用を開始した。その運用・利用については、以下のような基本方針の下に行う。

  1. 国内外の幅広い研究機関ないしは研究者の利用を可能とする「国際共同利用施設」として運営する。
  2. 研究課題の選定、研究内容の評価を行うために、学識経験者により構成される委員会を設ける。
  3. 防災科学技術研究所が保有するスーパーコンピュータとの結合及び海外を含む関係機関とのネットワークを構築する。
  4. 運用及び管理は民間企業等も活用しつつ一元的に行う。

8.普及・啓発活動の充実

防災分野の研究開発成果は、一般市民がその重要なユーザーであることが多く、独立行政法人、大学等の研究機関は、企業等に研究成果を移転するとともに一般向けに積極的に広報・普及することが必要である。また、防災分野では研究活動そのものに一般市民の参加が必要となる場合も多く、行政機関や地方公共団体との密接な連携の下、一般市民への普及・啓発活動を活発に行いつつ研究を推進することが必要である。

9.他の計画等との連携

我が国における地震調査研究推進本部の下で、「地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」や各種の調査観測計画が策定されている。また、学術研究としての性格の強い地震観測研究や火山噴火予知研究については、科学技術・学術審議会の建議に基づいた計画が策定されている。

このように、計画や推進方策が別立てになっていることが、これらの自然現象の解明に関する主として理学的な研究と、防災力を向上させるための工学的・社会科学的な様々な研究とが独立して行われてもよいことを意味するものではなく、密接に連携して行うことが必要である。

なお、本推進方策に示された研究開発を推進するにあたっては、防災対策の実施の面から、災害対策基本法に基づく防災基本計画をはじめとする関連する計画等との連携を十分配慮する必要がある。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課防災科学技術推進室

(研究開発局地震・防災研究課防災科学技術推進室)

-- 登録:平成23年10月 --