資料6-3 「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」改定に向けて(論点整理)

平成25年1月31日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会研究開発評価部会
文部科学省研究開発評価指針改定作業部会

1.全体構成等について

「はじめに」等で触れていくべき指針改定に当たっての時代認識・課題等

○経済の再生を図り,国際競争力を強化するには、科学技術を基盤としてイノベーションの実現を強力に推進していくことが必要不可欠。

東日本大震災で顕在化した科学技術の課題への対応を図るため、研究者自身が社会の要請を的確に把握し、多様な専門知の結集などによる課題解決を可能としていく研究開発システム改革に注力していく必要性。

○国際的には、サイエンス自体の方法・体制・規範などについて急速な変化が求められており、この潮流を踏まえて、日本の科学研究、研究開発評価をグローバルな視点で進めていく必要がある。

○厳しい社会経済情勢、財政事情の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、国際的にも、サイエンスコミュニティ自らが研究開発活動の意義・在り方等について考え、改善・行動し、説明していく姿勢を示す必要性。

○第4期科学技術基本計画を踏まえ科学技術イノベーションを推進するとともに、その源泉となる基礎研究・学術研究の推進は重要である。最新の科学技術・学術知見をもとに既存の学理の再体系化を促すことで、科学技術・学術の進歩に資する研究成果を効果的に創出する。

○他方、基礎研究・学術研究の名の下に、目標が不明確となり、重箱の隅をつつくにすぎない研究については適切に評価していく必要性。

○研究開発の多くは、大学院生や若手研究者の活動の中で行われており、研究開発施策と高等教育施策などの人材育成施策は有機的な連携を図っていく必要があるなど、個々のプログラム、プロジェクト、課題等の評価のみならず、研究開発をとりまく諸情勢までも踏まえたマクロな視点(俯瞰(ふかん))からの評価の重要性。

評価の頻度・負担の増大による弊害(エネルギーの消費、研究時間の不足、評価の形骸化、徒労感の発生、研究活動への悪影響等)の発生。

評価は、何らかの意思決定(資金配分、改善・質の向上、進捗度の点検、アカウンタビリティー等)を行う目的のために実施される手段であり、その目的に応じて個々の評価システムが構築される必要があるとともに、評価結果の適切なフォロー等による効果的な評価の実施にも留意が必要。

評価を導入・システム化してきた結果として、逆に意思決定のプロセスが不明確化する事態も生じているため、施策(プログラム)の立案、資金配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任・権限を有する主体(者)を明確化し、当該主体が適切な判断等を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から、評価の在り方を再構築していく必要性。

政策的に推進すべき具体的な科学技術イノベーション創出へ向けてのゴール(目的)が明確に設定できる場合、国民・社会が解決されることを必要としている具体的な政策課題について明確なゴール(目的)を設定できる場合は、特に今回初めて本格的に導入される「研究開発プログラム」レベルで時間軸を設定し各段階での達成度目標を踏まえて評価を行うことが、研究開発施策の評価に際して効果的に機能していくことが期待される。

○仮に評価システムが構築されても、実際に評価を行うにふさわしい人材が乏しければ評価システムは適切に機能しないため、評価に責任・権限を持つことができる評価に関わる資質能力を備えた人材を育成していくとともに、当該人材が活躍できる環境を整備していくことの必要性。

○このような我が国の研究開発の諸課題、時代背景、社会経済事情、国際情勢等を踏まえ、国、資金配分機関、研究開発機関等、研究者、評価者等が一体となって、研究開発評価の在り方について改革・改善を図っていかなければならない。

文科省指針の基本構成等について

 研究開発評価の導入、試行錯誤の成果である現行文科省指針の記述は、今後も研究開発評価を行う際の基本的な指針として維持(修正)した上で、改定文科省指針の冒頭章等に、昨今の研究開発事情等を踏まえた研究開発評価に際しての特筆事項をクローズアップさせる。

(1)科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進

(2)ハイリスク研究、学際・融合領域・分野間連携研究等の推進

(3)次代を担う若手研究者の育成・支援の推進

(4)評価の形式化・形骸化、評価負担増大の改善(含む「PD,POの在り方」)

(5)研究開発プログラム評価

 これらの特筆事項ごとに、

  誰が:国、資金配分機関、PD・PO、研究開発機関等、研究者等、外部評価者、第三者評価者

  何を:研究開発施策(プログラム)、研究開発課題、研究開発機関等、研究者等の各階層での評価に当たり

何の目的のために、どのように評価するかについて、可能な限りわかりやすく整理して記述する。

 用語の概念・定義(「政策の階層」、「評価の種類」、「アウトプット・アウトカム」、「PD・PO」等)、本文に記述されていることの理解を助ける具体的な事例、概念図等を別紙の形等でわかりやすく整理する。

 また、これらの必ずしも「国の研究開発評価に関する大綱的指針」では言及されていない改定文科省指針の内容・方向性について、内閣府・総合科学技術会議にフィードバックし、御理解いただくことに努める。

2.科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進

 東日本大震災によって顕在化した科学技術の課題への対応を図るため、研究者自身が社会の要請を的確に把握し、多様な専門知の結集などにより、効果的に課題解決のための研究開発を実施していくような研究開発システムの構築に向けて改革を図っていく必要がある。
 また、厳しい社会経済情勢、財政事情の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、サイエンスコミュニティ自らが自律的により効果的・効率的な研究開発活動を行うための取組を進めていくために、研究開発評価システムを適切に設計するとともに、評価結果を活用していく必要がある。
 そのため、大学等及び研究開発法人等においては、以下の点を踏まえた研究開発評価システムを自ら設計し、評価結果を研究者等の処遇、資金配分、組織運営等へ適切に反映する取組を進め、国は適切にサポートする。

○課題解決のためのシステム化を促進するため、知の創造のみならず、社会ニーズに対応した知の活用を促し、成果の受渡し、成果の実用化など、社会実装に至る全段階を通じた取組を評価へ反映する。

○科学技術イノベーションの創出、課題の解決に向けて、研究開発施策(プログラム)の企画・立案段階から必要な関係者が参画・関与していくことが重要。

○論文発表数、論文引用度は客観的な評価指標であるが、論文関係の数値だけに頼り安易に目的化することは適当ではなく、設定した目的に照らし、成果としてのアウトプット、アウトカムを明確にした評価を行い、必ずしも論文主義に偏重しすぎないようにする(評価に際しての論文関係指標の取扱いに関する国内外の参考となる具体事例等についてもコラム欄等で言及)。

研究開発活動のパフォーマンスの費用対効果を的確に評価し、パフォーマンスがコストに見合わないと判断されるような場合は、改善を促す措置と併せて、改善が見込み難い場合の対処方法等についても組み込んだ評価システムの構築を検討する(その際、多方面からの評価軸を設定するなど評価の多様性に配慮したものであり、かつ、被評価者の能力向上につながるものとして肯定的に受け入れられ、研究開発活動の改革、進展を促進するものであることに配慮するとともに、実質的な役割を果たしていない研究者・教員がポストにい続け、能力があり活躍が期待される者にポストが回らない状態の改善にも留意する)。

○科学技術イノベーションの創出を含め、国民の期待や社会からの要請に応えるためにもその源泉となる基礎研究・学術研究活動は不可欠であるが、そのことに国民、社会から理解と支持を得ていくためにも、「自由な発想に基づく」ことを過度に聖域化することなく、分野、課題等に応じた適切な目標を明確に提示し、期間(5,10年・・・)を設定して研究活動への投資価値を研究者自ら評価し説明していく等の取組を推進する。

分野間連携・融合、学際研究、国際連携等、横断的取組やハイリスクな研究(技術的に困難なハイリスク研究、従来の定説を覆すような知見の獲得につながるハイリスク研究等)への取組を評価へ反映する。

研究開始段階等における、幅広い関係者との協力に基づく、国際水準をも踏まえた課題設定、出口戦略の作成、産業構造の変化への対応といった取組を評価へ反映する。

研究開発プログラムの執行担当者、研究開発グループや研究開発プロジェクトの長のマネジメント力、成果最大化のための研究体制作り、有機的な連携、多様な専門知の結集による実用化や社会実装までを考慮した取組を評価へ反映する(「チームワーク」(異なった背景を持つ人々が協働する活動)が機能していく必要性)。

○研究開発基盤強化の観点から、ベンチャー企業のような、実績は少ないが技術力や実用化へ向けての熱意がある研究開発組織・機関と連携・協力して推進する研究開発を積極的に評価。

○研究開発機関等の研究者は、当該組織のミッション達成を十分踏まえた研究開発を行う。

研究の意義や成果を説明する取組を評価へ反映する。

3.ハイリスク研究、学際・融合領域・分野間連携研究等の推進

 研究目標が達成されるかどうかには高いリスクがあるが、成果が出ると社会的・経済的・学術的にインパクトがあり、分野の進展に貢献するなど非常に大きな影響を与える可能性が高いハイリスク研究(技術的に困難なハイリスク研究、従来の定説を覆すような知見の獲得につながるハイリスク研究等)や、一つの学問分野では解決が困難な課題に対して、二つ以上の学問分野を統合して学問横断的に進めていくことで、従来とは異なった観点、発想、手法、技術などを用いて新たな成果を生み出し、新しい研究開発領域を開拓する学際・融合領域・分野間連携研究を促進するような基盤が未成熟で、これらに対する評価基準も不明確であることから、既存の研究分野における研究開発課題(プロジェクト)に比して、過度に低く評価される傾向にあり、このような状況を改善していく必要がある。

○国及び研究開発機関等は、ハイリスク研究や学際・融合領域・分野間連携研究等が適切に評価されるよう、事前評価や事後評価の方法・評価基準、マネジメントの仕組みを、施策やプログラム・制度の目的を踏まえて導入する。

○ハイリスク研究の事前評価においては、研究開発成果が技術的課題その他に大きなインパクトをもたらす可能性があるものであるか、研究計画が既存の研究領域に変革をもたらし新たな研究領域を創出する可能性がある研究であるか等を重視するとともに、その研究を実現するマネジメント能力を有しているかについても適切に評価する。

○ハイリスク研究の研究開発実施段階においては、適時、研究開発の進捗、諸情勢の変化等を踏まえて評価を行い、研究開発の中止も含め、適切な形で目標・計画を見直す。

ハイリスク研究の事後評価においては、挑戦的な研究開発課題(プロジェクト)が当初の目標達成に失敗しても、予期せざる波及効果に大きい意味がある場合等には、次につながる有意義なものとして評定することを許容するような評価基準を設定。

ハイリスク研究については、評価者の立場からすると、客観的で明確な評価基準をもって評価・判断することは困難。そのため、ハイリスク研究の推進には、プロジェクト、研究開発課題等のリーダー等に裁量の権限と責任が委ねられることが許容される仕組み、評価の枠組みも重要。

実効性の観点からすると、ハイリスク研究の推進自体を目的としない個別の各施策、プログラム等において、当該目的・評価基準に照らすと何らかの点で不十分性、不確実性があるため他の案件と比べて必ずしも優位ではないが、リスクをとっても実施する価値があると考えられる案件を採択するとともに、中間評価、事後評価においても、ハイリスク案件であることを前提として評価していくことような取組を推進することも重要。

学際・融合領域・分野間連携研究には、施策やプログラム・制度がその目的として特定の社会的課題の解決などを挙げ、そのために多様な異分野融合型の研究開発を進めるものがある。これらについては、目標達成への道筋や必要な技術課題群の明確化を行い、それらを踏まえた評価を行うことで、研究が実施されるようにする必要がある。

○新しい研究領域の開拓を目標とする施策やプログラム・制度以外の審査においても、学際・融合領域・分野間連携研究に不利にならないよう、扱い方を明記するなど、研究の芽を適切に拾い上げることが必要である。また、研究の進展に応じて、評価の基準、方法等を適切に見直す。

4.次代を担う若手研究者の育成・支援の推進

 ポストドクター15,220人(2009年11月)のうち45.9%は競争的資金やその他外部資金によって、博士課程学生75,231人(2008年度)のうち23.9%が競争的資金によって雇用・支援されている。ポストドクター、博士課程学生等若手研究者の生活基盤そのものが、競争的資金等の研究開発課題評価や機関内の研究拠点等の評価に強く左右される状況となっている。また、博士課程学生入学者のうち、社会人は5,462人(34.8%,2011年)、留学生は2,503人(16.0%,2011年)、35歳以上は19.1%であり、若手研究者の経歴・年齢・国籍などの属性は多様化している。研究開発評価も、このような多様化した若手研究者の育成・支援の推進を図るものに対応していく必要がある。そのため、研究開発課題、研究開発機関等、研究者等の評価に際して、以下のような次代を担う若手研究者の育成、支援に資するような評価の取組を進める。

【研究者等の評価】

○大学等は、個人業績評価による若手研究者への影響を確認しながら、若手研究者が励まされ、創造性を発揮しやすくなるような評価方法を検討する。

○大学等は、不適切な評価によって若手教員・研究者を短期的に結果の出やすい研究に誘導することなく、挑戦的な研究の実施を促進するような評価方法を検討する。例えば、毎年の評価でなく数年ごとに評価する方法を取り入れることや、単なる実績だけでなく、長期的視野に立って、各人の活動目標の設定や達成状況、将来の研究展開の可能性・研究分野開拓の展望、若手研究者の成長度合いを積極的に評価するなどの方策を検討して、若手研究者による挑戦的な研究活動を奨励するような評価法を構築する。

○大学等は、若手研究者の経歴・年齢・国籍などの属性が多様化している状況を踏まえ、それらの人材が不当に不利益を被ることのないような評価制度、及び評価結果が処遇内容に反映される仕組みを構築する。

○大学等は、業績評価結果を常勤の若手教員・研究者の人事や処遇、資源配分へと反映するなど、評価結果の活用方策を事前に設定する。

○大学等は、安定的な資金を確保する努力を行うことでテニュアトラック制度を構築し、任期付き教員・研究者やポストドクターが評価結果に応じてテニュアが獲得できるように努力する。同時に、多様なキャリアに求められる能力を育成するなどして、アカデミックセクター以外のキャリア展開への支援も推進する。

○大学等は、評価が人事に結びつく場合には、評価基準の明確な設定や評価実施の透明性の確保を行うことで、若手研究者が意欲をもって研究を行い、切磋琢磨(せっさたくま)する環境を構築する。

○大学等は、シニアの教員・研究者の業績評価において、ポストドクターや博士課程学生の指導や多様なキャリア開発支援の実績が評価されるよう、評価の視点を拡大する。

○研究者が自らの行うべき研究活動に専念し、効果的、効率的に研究成果の創出を図っていくためにも、研究支援者、技術者等は極めて重要であり、研究を支える人材の育成と安定的確保が可能となるよう、研究支援者、技術者等の役割、活動、能力等を適切に評価する。

【研究開発課題の評価】

○国や資金配分機関は、研究課題においてポストドクターや博士課程学生に提供されている処遇や研究環境を確認する。それとともに、若手研究者が自立した研究者へ育ち、多様なキャリアへ進むことを支援するような活動、例えばメンター制度などを積極的に評価する。これらの活動が、研究代表者の所属機関において組織的に実施されることを促進する。

○国や資金配分機関は、若手研究者が応募する競争的資金制度では、若手研究者を育成するために、評価者からのコメントの通知等を行うことを検討する。

○国や資金配分機関は、研究課題の評価において、参画している個々の若手研究者に評価資料の作成負担をかけるような評価を行うのではなく、研究代表者(プリンシパル・インベスティゲータ、PI)を対象の中心として評価を行い、若手研究者が研究に専念できるよう配慮する。

【研究開発機関等の評価】

○国や評価機関は、博士課程における研究指導体制・環境や多様なキャリア育成の方策を評価することにより、大学等の教育研究活動の改善を推進する。同時に、大学等が博士課程学生の修了後の進路把握を継続的に行うことを促進する。

○国や評価機関は、大学・研究機関の活動状況の評価において、大学や研究機関の研究実績だけでなく、若手研究者の研究環境や各種の育成・支援方策についても評価を実施する。

○国や評価機関は、大学・研究機関の活動状況の評価において、ポストドクターの大学・研究機関内での位置付けが明確化されていることを確認し、キャリア展開のための方針策定や取組を積極的に評価する。

5.評価の形式化・形骸化、評価負担増大の改善

科学技術基本計画及び研究開発評価に関する指針の策定等による研究開発評価の本格的な導入・実施と並行して、これまでに政策評価法に基づく政策評価(平成13年)、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人評価(平成13年)、国立大学法人法に基づく国立大学法人評価(平成15年)、大学の認証評価(平成16年)、研究費の基盤的資金から競争的資金へのシフト等による評価の頻度・負担の増大による弊害(エネルギーの消費、研究時間の不足、評価の形骸化、徒労感の発生、研究活動への悪影響等)が発生してきている。
研究開発に関わる各種の評価システムの必要性、有効性、効率性等に関する評価などを通じて、合理的かつ実効的な研究開発評価の在り方について再検討を行う必要がある。

○評価は、最も評価目的・評価事項等に理解・精通している者が行う評価、すなわち「自己評価」が基本かつ重要であり、質の高い自己評価を基盤として評価システムが再構築されることが望ましい。そのために、「自己評価」を行うに際しては、客観的で信ぴょう性の高いものとすることに十分留意して行うとともに、質の高い自己評価をベースとした第三者評価、外部評価については、合理化、簡略化していくことが適当。

○評価は、何らかの意思決定(資金配分、改善・質の向上、進捗度の点検、アカウンタビリティー等)を行う目的のために実施される手段であり、研究開発評価においても、画一的な評価システムを形式的に導入するのではなく、その目的に応じて個々に適切な評価システムを構築する。

○評価を導入・システム化してきた結果として、逆に責任・権限関係、意思決定のプロセス等が不明確化する事態も生じているため、施策(プログラム)の立案資金配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任・権限を有する主体(者)を明確化し、当該意思決定を行う主体が適切な判断等を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から、評価の在り方を再構築するとともに、そのような責任・権限体制が整備・確立されているかどうかについて適切に評価する(「評価の形式化・形骸化」は「徒労」、「責任不在の評価」は「弊害」を生む)。

○プログラム・ディレクター(PD)等、評価に際して相当の責任・権限を有する者は、評価に関する知見・経験が豊かであるのみならず、当該案件に相当の時間・労力をかけることが可能であるとともに、内容・事情等にも精通している必要がある。行政機関を含めた研究開発関係各機関において、そのような評価に際して責任・権限を担える人材を育成するとともに、当該責任・権限を行使できる体制を構築・整備していくことが重要。

外部評価、第三者評価は、当該案件の責任者(機関)が、様々な観点、知見に基づく意見等を聴取し、改善するのための機会を与えてくれる場として極めて重要であること、他方、そこでの評価結果は絶対的なものでも万能なものでもないこと、また、当該外部評価、第三者評価が直接的・間接的に当該案件の実施等に相当の影響力を有するとみなされる場合を除き、当該案件の責任者(機関)の責任を肩代わりするものではないこと等を再整理。

○「基礎研究、応用研究、開発研究」、「学術研究、戦略研究(イノベーション志向研究等)、要請研究(課題解決型研究等)」、「個人研究、組織研究、組織間共同研究、社会総がかり研究、国際共同研究」等のそれぞれの研究段階、研究方法、研究機関の特性を踏まえ、資金配分や評価の手法を最適なものとし、成果の最大化を図る。

○大学において主流となる学術研究については、学問分野の特性に配慮しつつ、自ら研究課題を探索し発見する取組についても評価することが必要。

研究開発にかかわる各種の評価システムの必要性や有効性、評価の頻度や方法の妥当性等を踏まえ、実効的かつ合理的な評価の在り方を検討するとともに、評価の質を高めることに努める。その際、「必要性」、「有効性」、「効率性」を含め、以下のような評価の観点・項目全てについて網羅的に評価するのではなく、むしろ、それぞれの研究段階、研究特性、研究方法等を踏まえて、評価の観点・項目の重みづけを行い、評価すべきことをしっかりと評価することが本質的に重要であることに十分留意する。

・施策やプログラム・制度との「関連性」
・研究の内容や成果の「質」、「独創性」、「先進性」、「新規性」、「メリット」
・資源が適正に配分され、成果がそれに見合うものであるか
・研究活動全般の将来を十分に見据えた影響力
・研究活動全般の将来的な展開への波及効果     等

○国は、競争的資金制度の全体構成や基盤的資金とのバランス等、社会情勢等を踏まえた施策全体の在り方についても適切に評価するとともに、制度・プログラム等の存続、廃止、在り方等による影響が特に大きいと考えられる施策については、負担が過大とならないことにも十分留意しつつ、適切にモニタリング・追跡評価していくことを検討する。また、追跡評価は、評価者・被評価者双方に相当の負担・コストが発生する実情を踏まえ、追跡評価の対象施策(プログラム)・課題等を限定するとともに、追跡評価負担の軽減・廃止の方向性についても適切に検討する。

○国、資金配分機関、評価機関、大学等は、評価に関わる人材、評価に関する専門的能力を有する人材、評価の設計を担当できる専門人材の育成方策について検討するとともに、評価に関わる人材の能力アップを図り、キャリア展開を推進する。

評価に関わる人材として求められる能力・素養としては、以下のようなものが考えられる。

・評価の目的を的確に把握する能力(プログラム評価においては、マクロな視点、俯瞰(ふかん)的な把握力が必要)
・評価対象の実態を深く把握・分析する能力
・評価に際して不足している知見、情報等を適切な者から補える能力
・評価に際しての中立性・公正性
・評価に際して適切な責任・権限を行使できる能力
・評価に際して留意すべき一般的事項、専門的事項にもある程度精通していること     等

○大学等及び研究開発法人等は、業績評価を実施する目的を改めて定義し、評価結果の活用方法を明確にする。活用方法には、待遇(昇進、賞与・一時金や給与など)への反映のみならず、研究資金や資源(スペース、時間等)の配分、教員の教育・研究能力開発の支援など、多様な可能性があることに留意する。また、業績評価の有効性を検討し、定期的な見直しを行う。

○大学等は、教員や研究者の研究・教育・臨床活動が多様であることや、個人の年齢・経歴等の属性が多様化している現状を踏まえ、複合的な視点を含む評価方法を採用することに留意する。

○国、大学等及び研究開発法人等は、科学者コミュニティや科学・技術政策における課題解決を促進するための一手段として研究開発評価システムを設計、評価結果を活用することを推進する。

「メタ評価」の概念は、「評価システム自体を評価すること」、「一般的な評価対象以上の俯瞰(ふかん)的な評価をすること」等、用いられる状況、文脈等によって多義的に解釈され得る用語であるため、用いる場合は、定義を明確化するなどの留意が必要。

PD,POシステムの見直し及び評価システムの合理化、柔軟化(別紙参照)

【PD(プログラムディレクター)、PO(プログラムオフィサー)について】

「競争的研究資金制度改革について(意見)(平成15年4月21日総合科学技術会議)」においては、PD、POの基本的役割を以下のとおりとしている。

《プログラムディレクター(PD)の基本的役割》

・競争的研究資金制度におけるマネジメントシステムの向上
・プログラムの方針決定。新規プログラムや新規領域設定を決定
・各制度内の領域間・分野間・プログラム間等の資金の配分額や配分方式(個人研究とグループ研究等)を決定
・プログラムオフィサー間の調整
・採択課題の決定
・プログラムオフィサーの評価

《プログラムオフィサー(PO)の基本的役割》

・プログラムの方針(案)(目的、目標、重点テーマ、新規テーマ設定)の作成
・評価者の選任
・外部評価(ピアレビュー)に基づき、採択課題候補(案)の作成(優先順位付け、研究費の査定、研究分担者の必要性、重複の排除)
・評価内容や不採択理由の開示。それに対する申請者からの質問、不服申立てへの対応
・採択課題について、研究計画の改善点の指摘。不採択の申請者にも助言
・進捗状況や予算執行の状況を把握。必要に応じて、現地調査
・研究計画の変更(中止・縮小・拡大を含む)の提言
・プログラム全体の運営見直し等の提案
このことを踏まえ、現行「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針(平成21年2月17日)」においては、
・「PD」とは、競争的資金制度と運用について統括する研究経歴のある高い地位の責任者をいう。
・「PO」とは、各制度のプログラムや研究課題の選定、評価、フォローアップ等に関わる諸実務を行う研究経歴のある責任者をいう。としている。

 PD、PO制度については、我が国に本格的に導入してから10年近くが経過しているが、制度によっては、PDやPOの権限と責任が明確でなく、また、多くが非常勤であることから、2~3年で交代してしまうため、役割等が十分に果たせていない等、様々な課題も生じてきている。研究資金制度に研究開発プログラム評価を導入するに際しては、PD、POの役割と研究開発プログラム評価を適切に整理する必要があるとともに、今後、政府全体としてもPD、PO制度の在り方の見直しについて、以下のような点等に留意して検討すべき。

○資金配分機関等における、PD(PO)への責任及び権限の付与、明確化、強化。

○PD(PO)を雇用・任命・指名する者(資金配分機関の長等)の責任及び権限の明確化。

○PD(PO)の活動、判断を支える体制・環境の整備。

・PD(PO)の地位向上(常勤化又は相応の待遇の確保)
・活動の中長期化(少なくとも10年程度、活動終了後も責任は継続)
・十分な活動経費支弁
・裁量権の拡大
・相当のエフォート確保
・PD(PO)のプログラム等の目的、特性等の理解支援
・PD(PO)のプログラム等の企画・立案への関与・参画
・事務支援体制の提供     等

プログラムの予算等で、これらのPD(PO)の活動に必要な経費を適切に確保・執行する。

国、資金配分機関、研究実施者(研究リーダー)とPD(PO)の役割分担(責任・権限)をプログラム等ごとに明確化する。

○上記のようなPD(PO)改革がなされた場合における、評価システムの合理化、柔軟性の容認・確保(従来型の事前評価、中間評価、事後評価に代えて、研究実施者による自己評価及びPD(PO)の権限及び責任による評価、アクション、説明等を基本とする新たな評価システムへ)。     等

6.研究開発プログラム評価

 政策的に推進すべき具体的な科学技術イノベーション創出へ向けてのゴール(目的)が明確に設定できる場合、国民・社会が解決されることを必要としている具体的な政策課題について明確なゴール(目的)を設定できる場合は、今回初めて「国の研究開発評価に関する大綱的指針(平成24年12月6日内閣総理大臣決定)」に盛り込まれ、本格的に導入される「研究開発プログラム」レベルで時間軸を設定し各段階での達成度目標を踏まえて評価を行うことが、研究開発施策の評価に際して効果的に機能していくことが期待される。ただし、研究開発プログラム評価の設定・導入に当たっては、合理的かつ実効的なものとすべく、以下の事項等について十分留意しながら試行的、段階的に進めていく。

既存の評価体系(政策評価、大学評価、独法評価、競争的資金制度としての取組等)と整合性をとりながら、研究開発政策体系における合理的かつ実効的な形で研究開発プログラム評価の導入を進める。

基礎研究、学術研究等に係る研究開発プログラムについては、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずあるほか、独創性が重視されるとともに、人材養成の意義も重要であるなど、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意することが必要であり、研究開発プログラム評価においても、こうした特性を十分考慮する。

○文部科学省関係の研究開発施策について、「時間軸を明確にした検証可能な目標・アウトカム指標を設定」して研究開発プログラム評価を行うことの研究開発の現場に与える影響等も十分考慮し、また、公募により研究開発課題を採択する施策においては、施策立案サイドでは予期していなかったような優れた提案についても適切に採択・実施していく可能性を排除しないためにも、定量的に評価できる指標をあらかじめ画一的に設定することに固執することなく、定性的な指標・目標を設定することを含め、有意義かつ実効的な形で目標・指標を設定するとともに、プログラムの進捗に応じた適切かつ柔軟な評価を行う。

○研究開発プログラム評価も、一般の研究開発施策と同様、責任主体の明確性を確保することの重要性を踏まえ、原則としてその研究開発プログラムの実施主体である事業推進部門が、外部の専門家等を評価者とする外部評価により実施し、必要に応じて評価部門による評価や第三者評価を活用する。

○追跡調査・評価の実施の在り方等も含め、合理的かつ実効的な形で研究開発プログラム評価の導入を進める。

○研究開発プログラムの企画・立案段階から、国、資金配分機関、PD・PO候補者等が適切に関与・参画し、責任・権限関係、役割分担等が明確な形で実施され、研究開発プログラムの評価は、当該態様に適合した形で行われることも重要な検討課題。

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)