超ウラン元素研究所(The Institute for Transuranium Elements, Joint Research Centre, European Commission; ITU)のホット施設の概要と運用

2009/05/21
井上 正(電力中央研究所)

歴史:1963 年設立、EUが直接運営する共同研究センターの一つで原子力関連研究はここに集約、核燃料、燃料サイクル、アクチニド基礎科学、保障措置研究に深い経験を有する世界の先端研究所であり、最近はアルファ線を使った医療応用も研究している。

超ウラン元素(Pu,MA)を使った研究では経験、施設の充実が世界最先端である。

場所:ドイツ カールスルーエ市郊外 ドイツ連邦の研究所(FZK)と敷地を同じくして職員数:約300 名弱(職員の研究者:約60 名、テクニシャン:110 名、補助職:50 名、ポスドク:25 名、外来研究員:10 名、その他30 名)

予算:2007 年 37.9M・(プラス 外部資金5.9M ・) 計43.8M・ (約57 億円) 人件費含む(総額の約半分)
2006 年 37.4 M・(プラス 外部資金7.6M ・) 計45.0M・ (約約58.5 億円) 人件費含む

1.ITU 並びに保有施設の概要

別添資料にて説明

2.超ウラン元素研究所の施設、並びに運用の特徴(順不同)

・45 年間の経験、技術が集約されている
・GBX、ホットセル、MA ラボが機能的に配置、使用済み燃料を受け入れ後、燃料照射後試験、溶解試験、再処理試験等が統合してできる施設である
・適宜、時代の要請に応じて施設内のインフラを改良、スクラップ・アンド・ビルトして使ってきている
・ワークショップ(工作場)を所内に有しており簡単な装置やGBX はほとんど 自作(装置の工夫、経済的)している
・CEA などのMA を含有する燃料製造、照射後試験はここが一手に引き受けて実施している
・毎年、8 月末から9 月中旬にかけて2-3 週間施設を全停止して定期検査、他の期間は稼働している(定検期間が短い)
・我が国に比べ稼働率や生産性(中にいるとまだまだ遅く感じるが)が高い。
・試験の目的に応じて柔軟に運用されている(我が国とは施設使用、運用上の規制の違いがあるためその分析も必要)
・試験実施上バリエーションなども高い
例:使用済み燃料なども比較的使いやすい (例;ドイツ国内で使用した燃料や他の目的で照射したMA 燃料の使用、実験室への装置の組み込みなど)

これまでのITU との共研の進捗から述べると、
・新しい研究も国内で立ちあげるよりも早くできる
・国内施設よりも試験が実施しやすい(当所の有するポテンシャルとITU の有するポテンシャルの有機的な連携、テクニシャンによるサポート)

・金額的にも合理的

3.我が国が今後戦略的に確保すべきインフラについて

(1)今後確保、整備すべきすべきホット施設

・燃料サイクルのプロセス化学研究(基盤研究含む)、実証試験
・高速炉時代に向けた燃料製造プロセス開発、製造試験(Pu を使った試験、MA含有試験)
・照射後試験施設
・MA ラボラトリー

(2)我が国のホット施設の課題

・同じような施設が複数あり、それぞれの稼働率が低い(ほとんど利用されていないところもあり)。効率的に使われているか??
・燃料サイクルの研究開発上は、まだプロセス開発など現状施設を使って実施しなければならない段階であり、現状施設の効率的利用をまず行うこと
・生産性が低い(実施できる試験回数が少ない等) → その原因を分析する必要あり
・ある程度試験を行って次の施設へ、というように次次へと新設してきたが、その考えを見直す時
・古いレガシーの蓄積(処理も不可欠)

(3)今後の姿

・集中化 (不要なものの処理処分も長期的な計画のもとに着実に実施)
・燃料研究、再処理化学研究、再処理工場、いずれもPu やMA、特に後者2 つは使用済み燃料まで取り扱える施設の充実が必要である(基本は既存施設の利用、改良、改修)

(4)上記のための条件

・効率的に運用できない、生産性が低い原因の究明と対策
・旧原研、旧サイクル機構が一体となった利用、運営(施設主体でなく、研究主体に)
・外部からの利用の活性化(外部から利用しやすい状況とはいえない)
・外部専門家の育成、大学・産業界の若手など

(5)次のステップ

・我が国施設の重複、運用状況、稼働率、生産性等の観点からの調査と評価(統合の時に実施されたはずでは?)
・ITU はじめ海外の施設の上記観点についての調査(ITU,仏国CEA 施設,英国BTC等)
・我が国施設、整備戦略の構築 (組織横断的な専門家により)

追記:追い上げ国(インド)のR&D スピードの速さ (但し、安全性確保方策については不明)

その他:英国セラフィールドのBTC(研究開発センター)
・コールド試験、ウラン試験、プルトニウム試験、ホットセルを機能的に配置した世界最新鋭の施設
・英国内の重なる組織の見直しにより、全面的な利用状況になっていない

お問合せ先

研究開発局原子力計画課