地球観測データの産業利用促進方策

平成30年3月29日
科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会

科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会では、地球観測データの産業利用促進方策について、以下の通り取りまとめましたのでお知らせします。

1.背景

  我が国においては,「地球観測の推進戦略」(平成16年12月27日,総合科学技術会議)に基づいて地球観測事業を実施してきており,地球観測推進部会(以下「本部会」という。)においては,平成27年8月に「今後10年の我が国の地球観測の実施方針」(地球観測推進部会,以下「実施方針」という。)を取りまとめ,地球観測の具体的な方針を示してきた。実施方針においては,課題解決型の地球観測を志向しており,観測データを課題解決に結びつける仕組みの構築と,地球観測の成果を産業利用も含めた社会実装につなげることの重要性についても触れられている。
  地球観測データの産業利用例としては,衛星分野,気象分野,海洋分野など,既にサービスとして展開している例が出てきているものの,産業利用はいまだ限定的な状況である。本部会においては,第5期科学技術基本計画の実施に当たって必要となる地球観測の重要性について「地球観測推進部会取りまとめ~Society5.0の実現に貢献する地球観測~」(平成28年12月16日)を取りまとめ,主として総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の他,文部科学省をはじめとする関係省庁及び関係機関等に対する提言を行ってきた。
  また,平成29年5月に策定された「宇宙産業ビジョン2030」(平成29年5月29日,宇宙政策委員会)においては,衛星データを活用したソリューションビジネスの推進に言及されているとともに,「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(平成29年5月30日,閣議決定)においても,官民データの活用とデータ連携のためのプラットフォームの整備が言及されている。
  これらの背景をもとに,本部会では地球観測データの更なる利用促進に向けた取組について取りまとめを行った。


2.地球観測データの利用促進に向けた取組

(1)産学官の連携の在り方

  企業においては,共有価値(CSV:Creating Shared Value)の創造や環境・社会・ガバナンス(ESG:Environment, Social, Governance)の観点からも,パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)への貢献が期待されており,地球温暖化問題への取組やSDGsのゴール達成に当たり地球観測データの活用が必須になっている。
  地球観測データの産業利用を促進するためには,エンドユーザまで視野に入れた施策の展開と,産学官の各セクター間に適切なブリッジ機能を持たせた連携を実現する仕組みの構築を,国や公的機関が強く意識する必要がある。そのため,観測の計画段階からユーザの視点を取り込んだサービス運用体制を前提とした体制構築や,民間セクター等だけでは解決できない部分への対応については,産学官がシームレスに接続され,その解決に向け円滑な情報共有と対応が取れるようにするなど,各セクター間の協働の仕組みを構築するための施策の展開を図るべきである。その上で,社会実装は民間セクター等が得意とするところであり,企業のノウハウを活用してユーザの利用にまでつなげることが,産業利用を促進する上で重要である。

(2)地球観測データの提供の在り方

  公的機関が取得した地球観測データは,社会的な共通基盤として,国が責任をもって継続的なデータの蓄積,品質管理,提供を行っていくべきである。また,最近では民間が独自に観測,提供を始めているデータもあり,民間セクター等の活力をそぐことがないような形で,適切なデータポリシーをデータ提供者が設定できることが,新たな市場開拓やより良いサービスを展開していく上で重要となる。
  民間セクター等がデータを利用してビジネス展開するためには,データの付加価値を高めてサービスにつなげることが必要であり,上記のデータの信頼性と継続性が重要になる。さらには,中立性の高い機関が観測データを取得・提供することが重要となる場合もあることから,データの公正性・透明性への配慮も必要である。
  これらの取組を進めつつ,地球観測データの利用を一層促進していくためには,汎用的なフォーマット形式やデータハンドリング機能の提供など,データ利用の敷居を下げ,利用側に配慮した提供を行っていくべきである。特に,民間セクター等の利用側においては,データの扱いに慣れているユーザばかりではないことを前提として,誰もが使えるよう配慮すべきである。また,民間セクター等の多様なニーズに応えていく上で,ユーザが求める付加価値や新たな価値を地球観測データから引き出すためには,データ解析の専門家に加え,IT専門家やその他の分野専門家との協働も大きな役割を果たし得る。このためには,協働の場等として,第5期科学技術基本計画で地球環境情報プラットフォームとして位置付けられている「データ統合・解析システム(DIAS)」などのシステムを活用すべきである。

(3)普及啓発の必要性

  地球観測データの利用は,データ提供元の想定を超えて大きく拡大していく可能性もあることから,国や公的機関がデータ利用の積極的なプロモーションや解析事例の紹介などを行っていくべきである。このようなデータの利用場面や利用の可能性を広く示すことにより,潜在的ユーザも含めた利用の拡大,取り込みを行うことが必要である。
  さらには,地球観測の重要性を広く国民に理解してもらうため,教育現場も含めた様々な場を通じた普及啓発に取り組むべきである。

(4)国等の役割

  地球観測データの利用が産業として一層の成長をするためには,ユーザのニーズと地球観測が循環しつつ発展していくビジネスエコシステムが形成されることが重要である。地球観測データビジネスの需要が十分な規模に達していない現状においては,本格的な産業化が軌道に乗るまでの間,産業の維持・活性化を行っていくために,国や公共機関によるアンカーテナンシー等を用いた安定的な需要の形成やシードマネー等の支援をするべきである。
  また,地球観測データの産業利用において,現状のデータ利用に関する規制等が地球観測データ利用拡大の妨げとなっている場合には,個人情報保護,国土や環境の保全等へも配慮しつつ,規制緩和も含めた制度的な課題の検討も必要である。
  諸外国においては,欧州の「コペルニクス」に代表されるように地球観測データの利用に向けた政府による投資と事業開発プログラムを伴う戦略的施策が進められている。我が国においても同様の施策を導入し,産学官が一体となって,地球観測データの利用を拡大するとともに新たなデータの価値を見いだすこと等により,着実に社会的課題の解決につなげていくべきである。
  現在,政府において,経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会である「Society 5.0」の実現に向け,データ連携基盤の整備やオープンデータの推進等をはじめとした,種々の施策展開が図られつつある。「Society 5.0」の実現と合わせ,「SDGs(持続可能な開発目標)」への貢献・達成に向け,地球観測データの利用促進及び新たな価値創造に,より積極的に取り組んでいくべきである。

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