第6期地球観測推進部会(第3回) 議事録

1.日時

平成27年7月13日(月曜日)14時00分~16時00分

2.場所

文部科学省3階3F2特別会議室

3.議題

  1. 「GEO戦略計画の実施に向けた我が国の地球観測の実施方針」の骨子について
  2. その他

4.出席者

委員

大垣部会長、春日部会長代理、赤松委員、岩谷委員、沖委員、河野委員、小池委員、寶委員、中田委員、浜崎委員、箕輪委員、村岡委員、六川委員、若松委員、渡邉委員

文部科学省

田中研究開発局長、森大臣官房審議官(研究開発局担当)、原環境エネルギー課長、樋口環境科学技術推進官、西川地球観測推進専門官

5.議事録

【関係省庁】
 中島内閣府参事官

【有識者】
 三井住友海上火災保険株式会社 西村チーム長(議題1のみ)


【大垣部会長】  お忙しい中をお集まりいただき、ありがとうございます。科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会の第6期の第3回会合を開催いたします。
それでは、まず初めに、事務局から出席者の確認と資料の確認をお願いいたします。
【西川地球観測推進専門官】  初めに、環境エネルギー課に人事異動がありましたので、御報告をさせていただきます。環境科学技術推進官が木下から樋口に交代しております。
【樋口環境科学技術推進官】  7月1日に木下の後任として着任しました樋口晋一と申します。これからお世話になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
【西川地球観測推進専門官】  本日御出席の委員が15名で、過半数に達しており、部会は成立となります。
なお、本部会は、部会運営規則により公開とさせていただきます。
配付資料一覧は、資料1-1から1-3、参考資料の1から5の8種類ございます。
【大垣部会長】  本日は、お手元の議事次第にあるとおり、2件の議題を予定しております。
それでは、早速、議題の(1)に入ります。議題の(1)は、「GEO戦略計画の実施に向けた我が国の地球観測の実施方針」の骨子についてであります。
今回も、議論に先立ち、地球観測のデータの活用が見込まれる分野について2件の話題提供をお願いしております。
まず、箕輪委員から、保険分野のデータ活用とニーズについて話題提供いただきます。本日は、三井住友海上火災保険株式会社金融ソリューション部ARTチームの西村チーム長にもお越しいただいております。よろしくお願いいたします。
【箕輪委員】  はい。それでは、これから「保険分野における観測データ活用とニーズ」というテーマでお話をさせていただきます。資料は1-1を御覧ください。
まず、現在、損害保険会社ではどのように観測データを活用しているかという点です。資料の2ページ目を御覧ください。主に気象データや災害データを使い、お客様のニーズに対応した商品提供や契約条件の設定、また、最近の例では損害調査の面などで利用されております。このように、損害保険会社は地球観測データの主要なユーザーとして関わっております。
これから、その個別の具体例をお話ししていきたいと思います。
まず一つ目の例は、4ページに挙げました天候デリバティブの商品提供での活用です。天候デリバティブという商品は、異常気象や天候不順によって企業のお客様が被る売上げ減少などのリスクに対応するものです。例えば屋外のレジャー施設におきまして、大雨により客足が遠のき、売上げが減少するという事業リスクを抱えていましたら、一定期間の降水量のデータを基に契約を行っていきます。そして、その降水量があらかじめ定めた条件を満たした場合に保険会社は一定の資金をお客様に支払う仕組みになっております。そのため、天候デリバティブという商品では、保険料などを計算する商品設計の段階と、実際にお支払額を決定する段階の、この二つの場面で気象観測データに大きく依存しております。
次に、この天候デリバティブという商品で利用するデータ、これが何でもよいわけではなく、幾つかの制約があるという点を御説明していきたいと思います。5ページ目に必要なデータの条件を列挙いたしましたが、この中で最も重要な点は、一番上に挙げました公正性・透明性の観点です。天候デリバティブは観測データを基に資金のやりとりをするものですので、データに何らかのインセンティブが働いてしまったり、改ざんできてしまうと、そういったデータは金融商品としては到底容認することができません。そのため、使用するデータには、利害関係のない中立性の高い機関が計測する公平・公正なデータであるということが大前提となっております。また、最後に挙げました適用可能性も重要な点です。天候デリバティブでは、観測データに基づいて支払金額が決定しますため、実際にお客様が被る損害との間に差が生じるのが一般的です。この差をベーシスリスクと呼んでおりまして、これを極力最小化するよう適切なデータを選定するよう心掛けております。このベーシスリスクというものの分かりやすい例を一つ挙げてみたいと思います。天候デリバティブは、風力発電の発電量が減少するリスクに対しては余りなじまないと言われておりますけれども、これは適用可能な風速データが得られないことによるベーシスリスクが原因だということになっております。風力発電の動力となる羽根は、地上から通常70メートルから100メートルの高さに設置されていますが、それに対して実際の気象庁の観測計は地上から10メートルの位置にあります。同じ風速であっても、対象とする高さが異なっているために、実際にお客様が被る損害と天候デリバティブの支払には大きな乖離(かいり)が生じます。天候デリバティブの設計の際には、このようなベーシスリスクを極力最小化するようにお客様の抱えるリスクに適用するデータを選んでいくと、そういうことが重要になっております。
次に二つ目の活用例を御紹介いたします。6ページ目をごらんください。地震保険の支払では、被災地の損害調査を行うのに、従来、航空写真を使っておりましたが、東日本大震災では、初めて衛星写真が活用されました。使用しました写真は複数のソースから合わせて2万3000万枚に上ると聞いております。現在の地震保険は、損害の程度において全損、半損、一部損という3区分で支払金額が決定する仕組みとなっておりますが、このうち保険金額が全額支払となる全損の認定において、航空・衛星写真が利用されました。
最後に、三つ目の活用例といたしましては、7ページに挙げました防災・減災を目的にした情報提供です。当社は今年6月よりウェザーニューズ社と共同で、お客様に気象情報や予報の提供を開始いたしました。予想降水量や風速といったデータをアラートとともに配信することで、企業の防災・減災活動のサポートに活用されております。
それでは、こうした活用事例を踏まえて、今後10年間のデータのニーズについて、御説明していきたいと思います。大きく4点を挙げました。
まず1点目につきましては、9ページ、10ページに記載いたしましたデータ利用価値の創造というニーズです。私ども民間企業にとって、今後、一層のデータの利活用が進むよう、データそのものの価値を向上させていくという視点です。これを実現させていくためには、四つのキーワードがありまして、精度、利便性、網羅性、そして公正性・透明性の観点で向上が図られるということが必要だと考えています。
具体例で御説明をいたしたいと思います。10ページに挙げましたが、大規模災害での損害調査の際に、被災地域の高精度な衛星データが速やかに入手できれば、保険会社はより迅速かつ効率的に調査を進めていくことができます。このように手間やコストを削減して業務そのものの価値を向上させていく、そういうデータに対してニーズがあります。ここでは分かりやすい例といたしましてGoogle Mapについて記載しましたが、Google Mapは、精度、利便性、網羅性の面ですぐれている画像データですので、こういうものが商業向けにできればデータの利用価値が高まると考えております。ただし、一方、利用に当たって、先ほどの公正性・透明性の観点というのは欠かすことができません。Google Mapを使用するにしても、中立性の高い機関による計測であることや、精度が保証されることが、データを使用していく上では重要だということになっております。
次に2点目のデータニーズです。11ページに挙げました気象・災害における予測技術の向上です。最近、当社を含めました損害保険会社では、保険期間が10年超の長期の火災保険の販売を停止するという動きが出ておりますけれども、これは、自然災害による損害の長期予測が難しい昨今の環境とも密接に関わっています。適切な保険料率で長期・安定的に補償を提供し続けていくためには、短期・中長期予測の精度向上が今後のニーズだと考えております。
また、3点目といたしましては、12ページに挙げましたアジア・アフリカ地域での観測網拡大とデータ品質の向上です。様々な自然災害リスクを抱えるアジア・アフリカ地域において、今後、保険天候デリバティブの提供を拡大していこうというときに、課題の一つとなっているのがデータの問題です。国によっては、都市部以外での観測網が不十分であったり、あったとしても透明性や信頼性に欠けるようなデータである場合もあります。今後、より現地のニーズに対応した保険商品を提供できるよう、観測網と品質の両面でデータの整備が進む必要があると考えております。
最後の4点目については、観測データに対する認証制度の確立と記載いたしました。現在、私ども保険会社が利用するデータは、主に気象庁のデータなどの防災・減災を一義目的とするデータに大きく依存しております。そのため、どうしても速報性が必要だという関係上、公表値が後に修正・変更されるというようなデータの不安定性を抱えているということが実情です。公表値の変更により、天候デリバティブで資金を受け取れると思っていた人が受け取れなくなる、あるいは逆のケースも発生しますので、このような不安定性はビジネス上一つのリスクともなっております。もちろん、防災・減災目的での重要性ですとか優先順位は十分に理解しつつも、気象データという国の財産を多様な目的で有効活用できることが望ましい姿だと考えております。
以上、駆け足となりましたが、保険分野のデータ活用とニーズについて御説明いたしました。データ価値向上などのニーズが満たされることにより、より社会の要請に対応した保険提供が可能になると考えております。
以上となります。
【大垣部会長】  ありがとうございました。
それでは、御意見、御質問等ありましたら、お願いしたいと思います。いかがでしょうか。
【寶委員】  保険もいろいろ種類があると思いますが、地球観測に求められることとしてどういうものがあるかということで、例えば土地利用、土地被覆がどんどん変わっていくことから、データの更新の頻度について、保険会社さんの方から地球観測にどういうことを求められるかということをお聞きしたいと思います。短期的な天気予報的なものではなくて、洪水保険にせよ、地震保険にせよ、ある程度長期を考えるわけですね。そういう場合に、どれぐらいの頻度でコンスタントにデータが欲しいとか、どれぐらいの間隔でアップデートできるのが望ましいのか、御希望ありましたら教えていただきたいと思います。
【西村チーム長】  三井住友海上の金融ソリューション部、西村でございます。
御質問ありがとうございます。データのアップデートの頻度ということですが、保険デリバティブや、天候デリバティブ、地震デリバティブで活用している保険データといいますのは、常時のデータが使われることがほとんどです。例えば地震ですと、きょうから1年間あるいは2年間、その間にマグニチュード7.9以上の地震がこのエリアで深さは30キロ以内で起きたら、お金をお支払いしますとか、マグニチュードベースではなくて震度ベースで、気象庁の観測地点の例えば大手町の震度計が震度6強以上の観測値が1年間の間に起きたらお金をお支払いすると、そういうような契約があります。そういう意味では基本的には常時観測というものが地震データにおいては必要になってくると思います。天候データにつきましても、例えば夏のシーズンのレジャー施設について、1日当たり10ミリ以上の雨が降るとお客さんの客足が急に減ると、そういった実証データに基づいてお客様と保険会社が契約をいたしますので、それもその契約期間のデータは常に観測値が必要ということになります。これが天候ですとか地震関連のデータでございます。
例えば今、世界的に実現例はないのですが、津波デリバティブといったものを検討するような場合は、1年間の間に津波によって浸水したらどうなるか、衛星写真で見ることが必要になってきます。津波の場合は浸水してすぐ引くというわけではないので、毎秒毎秒写真を撮る必要はなく、ケース・バイ・ケースですが、一定の頻度で写真がアップデートされないと、保険としては写真を活用するということは難しいと思います。
【六川委員】  5ページ目にデータの公正性・透明性という話がありましたが、実際に衛星のデータを使っている者からしますと、例えば地域によっては少し高分解能のそこにしかないようなデータですとか、あるいはちょっと特殊なデータ処理をして、その地域に特有のある種の指標が出てくるといった、そういうやや地域性やデータ処理に依存した特殊なデータを活用して、保険を設定するとか、そういうことはないのでしょうか。
【西村チーム長】  そういったより実態に近いデータに修正加工したものを最終データとして使うということは、あると思います。ここで公正性・透明性ということをお伝えしていますのは、要は、お手盛りリスクがこういったデリバティブ商品の場合はどうしてもあり得るということです。本業でもうかっていると、余り詐欺みたいなことをやろうというインセンティブは起きてこないのですが、本業が苦しくなってくると、例えば観測機器に水をかけるというような、お手盛りリスクがどうしても拭い切れないところです。それを除去するために、契約者様御本人ではなくて、これは公的な機関ではなくてもいいのですけれども、第三者の方の発表データを使わないといけない、そういう趣旨でございます。
【大垣部会長】  私から一つ質問ですが、例えば天候ですと、データの条件というのを挙げておられますが、こういうのは、保険会社あるいは保険会社の団体からどこかへ、こういう類いのデータが要るとか、こういう公明・公正さが要るとかいうような要請を出したり、国際的にそういう要請が出ているということはあるのですか。
【箕輪委員】  要請として正式に発信しているものはないと思います。
【西村チーム長】  正式に要請という形では余り出てはいないと思います。いわゆる先進国の日本ですとか欧米においては、中央気象官庁等が発表するデータというのは、信頼度があると思っております。一方、例えばアジア地域の中には、ある地域の観測は割ときちんとやっているようだけれども、その隣の地域に行くと観測が信用できない、こんなにボラティリティーがあるわけないというデータがあることもあります。実態としましては、気象データをとってきて、そのデータのボラティリティーがあり得べき範囲に収まっているかどうかを我々が見て、このデータは使えるだろうという取捨選択をしているのが活用実態です。
【沖委員】  天候デリバティブは、ヘッジすべきリスクがないユーザーにも買えるようになっているのでしょうか。それとも、特定のユーザーしか買えないのでしょうか。例えば農民でなくても買えるかとかです。
【箕輪委員】  これは明らかにヘッジ目的ということで商品を提供しております。また、現在は、個人のお客様ではなくて、企業のお客様だけに提供しているという状況です。
【沖委員】  御社はそうかもしれないですが、東南アジアでは農民向けのこういう保険商品を売っていて、私が見ていると宝くじみたいに楽しんで買っていらっしゃるお客さんもいるようです。そうしたときに、デリバティブを提供している方が情報を持っていれば損しないと思うのですが、例えばどこかのユーザーが非常に確度の高い予報情報を持っている場合に、中期予報で逆に胴元が負けるという状況も考えられると思いますが、その辺は今どういう状況なのでしょうか。
【西村チーム長】  胴元と言われると、デリバティブとギャンブルの違いというのは論文がありますので、それを御覧いただくとして、そういったギャンブルで使われている国がもしかしたらあるのかもしれない。
【沖委員】  ギャンブルでやってはいないですけれど、買っている方としては本当に損害のための保険というよりは、駄目だったときはお金ももらえていいというぐらいの感じでどうも買っているようだという国もあるということです。ギャンブルとデリバティブは違うと思うのですが、気候の場合には、今は難しいと思われているけれども、ある程度の予測は可能だというのはもう織り込み済みで、毎年、率が改定されるというふうに考えてよろしいのでしょうか。
【西村チーム長】  はい。天候デリバティブ商品を販売する折には、過去の10年ですとか20年ですとかのデータの蓄積と、例えば気温でしたら、過去のデータに温暖化が進んでいるトレンドを付け加えて、これぐらいのレベルだろうという数値を出していきます。それに、今年はエルニーニョが起きるというような意見が多いなどの要素は、ケース・バイ・ケースで多少加味しております。
【沖委員】  ありがとうございます。
【西村チーム長】  もう一つ、分かってしまうのではないかというリスクを避けるためにも、当社の場合は、計算開始期間というリスクが始まる期間と契約の間を一定日数、2週間とか1か月とかは最低でも空けないといけないという取決めをしております。
【赤松委員】  私が知っている限りですと、こういう衛星データを使っている保険の商品というと、気象、災害の関係に加えて、国際的には農業が結構多いと思います。それで、今日は農業に関しては余り出てこなかったのですが、どのような取組をされているか、御紹介いただければと思います。
【西村チーム長】  農業の分野というのは、必ず天候デリバティブの話をするときには出てきます。これは日本に限らず米国でもそうですし、アジア地域でも農業保険というのは必ず出てくる話です。一部保険会社様においては、例えばタイですとか、アジア地域でマイクロインシュランスという形で農業保険を展開されたりしております。当社、三井住友海上の取組としましては、まだ研究の段階です。農業保険の先進国は御承知のとおりアメリカですが、アメリカの農業保険は、過去40年ぐらいにおいて何度も何度も制度変更をしております。これは、一つは、強制加入ではないので、逆選択と言われる先ほどの話のような保険金詐欺に近いような行為がどうしても一定程度あるため、制度的な難しさがあり、制度と加入者の知恵のイタチごっこのようなところが若干あります。農業保険はフロンティアとしては非常に大きいのですが、難しいところがあります。
【赤松委員】  そうすると、衛星の技術的な問題ではなくて、仕組みの問題がまだ解決されてないということですか。
【西村チーム長】  はい、それも大きくあると思います。
【大垣部会長】  よろしいでしょうか。それでは、どうもありがとうございました。
次に、中田委員から水産分野における海洋観測と観測データの活用についての話題提供をお願いいたします。
【中田委員】  中田でございます。水産分野の研究機関出身ということで、ニーズ中心というよりも、観測をどういうふうにやってきたかということが中心になってしまいますが、そういったところからこういうニーズがあるというところを強調しながらお話ししたいと思います。
3ページ目、水産分野における海洋観測というページをお開きください。水産業というのは、主として自然水域で、自然に生産された生物や、人が手を入れて生産した生物に依存する産業ということで、海洋観測そのものの歴史は100年以上あります。左側の下の方には1931年の観測の例を示しており、右側に現在の海洋観測の中心となっている調査船観測の調査点を示しております。右上の方が都道府県の定線観測調査の例です。原則として月1回、各県がこの図のような定線を組んで調査しています。ただし、こういった観測網が非常に厳しい状況にあるということを後ほど御紹介させていただきます。それから、右下の方は、私どもの水研センターが昨年度1年間で実施した調査点の図です。日本周辺は様々な水産資源がいるということで、種ごとの観測をしている関係もあり、非常に密な調査点の配置になっておりますが、点線で囲っているマグロやカツオ、ウナギといった国際資源あるいは大回遊する資源を対象とする水域では、調査点は非常に粗な分布になっております。今、絶滅危惧種にどう対応するかとか、国際資源をどのように国際的に管理していくかというような問題が非常に大きなくなってきておりますので、こういった調査点が粗な海域の科学的なデータの収集というのは非常に大きな問題になっています。
次のページをおめくりください。水産分野で実施する海洋観測の目的です。なぜ調査船調査が観測の一つの中心になっているかといいますと、理由の一つは、生物試料、それから生物データをきっちり採取する必要があるためです。その部分は、リモセンや自動観測ではまだまだ難しい状況です。そういったものが必ずなければ困るということです。ただし、それ以外に、一方で、現在、漁業者等のステークホルダーがリアルタイムの予測情報を欲しいというようなニーズが非常に高まっております。漁海況予報であるとか、赤潮、貧酸素などの漁場環境情報、急潮予測、放射能モニタリング結果、そういったものはどんどん情報を提供してほしいというニーズがあります。それとあわせて、研究開発を目的とした観測も行われています。
次のページに行きます。都道府県等の水産試験研究機関による観測の現状ですが、先ほど非常に厳しい状況にあるということをお話ししました。この表は、平成10年と平成20年の間でどのように調査状況や資金、研究員の状況が変わったかというものを示しております。平成20年には、例えば調査船隻数が11%減、研究員数が18%減、収入も平均すると27%減となりました。ただし、そうした中でも、漁海況モニタリングに要する経費が4%減にとどまっています。いろいろなものが減る中で、観測に関わる部分は生命線であるということから、何とか確保しようと努力しているところです。近年、その資金が不足しているところを埋めようと、外部資金や、競争的資金などを得る努力をしていて、その部分の収入が大きく増えております。にもかかわらず、競争的資金ではなかなか観測の維持に回せる部分が確保できないというところで、非常に困難な状況にあるということです。
次のページをお願いします。これまでのことを整理しますと、観測の効率化と高精度化、開発されたシステムを維持する仕組みをどうするか、観測の空白域への対応、といったことが課題あるいはニーズとして出てきます。1番目につきましては、ハード面・ソフト面ともある程度対応できている部分もありますので、後ほど紹介させていただきます。開発されたシステムを維持する仕組みについては、どうしても資金面のことがありますので、調査、開発の部門だけでは解決できないところがあります。それから、観測の空白域への対応ということも、水産分野だけではなかなか難しいということもあります。後ほど水産分野からこういうことを皆さん一緒に考えてもらえないかということをお話できればと思います。
では、次のページに行きます。観測の効率化と高精度対応策の1番目、ハード面の対応例として、最近、グライダーを導入しました。このグライダーというのは、目的地に向け航行できる無人観測機で、陸域からコントロールして一定の調査をすることができます。こういったものを、今年春季にブルーミングの観測などにも活用しました。このページの右上に載せているのは、現在運航中の東北沖の観測事例です。東北沖の広い海域を反復観測しております。それぞれの水産資源にとって重要な時期、重要な海域というのが結構分かってきておりますので、今後はそういった時期・海域のところの観測に導入したいと考えているところです。
次のページをお願いします。観測機のほかに、当然、衛星などのリモートセンシングデータというのも水産分野では非常によく活用しているところです。特に、今年になって研究の精力を向けているのが、先週、実運用が開始されました「ひまわり8号」のデータの活用です。これは、試験で行ったものですが、右上の図は「ひまわり8号」で得られた1日分、全部で576シーンのデータを合成した図です。下の方は同日の「NOAA」の出得られた画像図ですが、「NOAA」で得られているのと同じような水塊分布が得られているのが分かると思います。今後は、各県が運用する定置ブイ等の海面水温データの提供を受けて、「ひまわり8号」のデータを水温に直していく作業を進めるとともに、これを特に沿岸域での連続的な観測データ取得に利用したいと考えて、その方法を各県とともに検討しているところです。
次のページは、データ同化とシミュレーションモデルの利用についてです。各県の調査資金などが減っていく中、水研センターが、特に今、力を入れているのが、各県の調査能力をバックアップしたいということです。各県が実施している観測データや、その他様々な観測データあるいはリモセンデータを入れてデータを同化して、海況予測を行う。そして、そのデータを配信することを進めております。太平洋側を中心にFRA-ROMSというシステム、日本海側を中心にJADE2というシステムを運用し、2か月程度の短期予測を行って、1週間に1回、予測結果を更新して、ホームページで公表しています。
次のページをお願いいたします。このデータの応用例ですが、日本海沿岸では、今年からリアルタイムの急潮予測システムを運用するようになりました。これは、定置網が盛んな日本海沿岸で、近年、急潮が発生して甚大な被害を及ぼすことが報告されておりまして、精度よく予測する技術の開発が漁業者等から要望されておりました。そこで、JADE2の解像度7キロの計算値を境界条件としまして、赤で囲っている日本海の中部を対象領域として急潮を予測する技術を開発しました。これを基にして、右側の図のように、急潮発生の危険度を、急潮指数という形で表現して、日に2回、7日先までの情報をウェブで発信することをこの春から開始しております。
次のページです。対応策の4番目として、漁船の操業活動を利用した流況(りゅうきょう)の時空間変動のモニタリングの例を示します。これは研究目的で行ったものですが、漁船を利用することによって、調査船だけではカバーできないデータを取得しています。調査船では広い海域をカバーできますが、それだけではスナップショットのデータとなります。一方、係留系の調査では、時間変動は密にとれますが、海域は限定されてしまいます。そこで、拠点漁港と漁場間を航行する際に漁船がとっている潮流計のデータをデータロガーに落とし込むことによって、その一定の空間領域をカバーした時間的に密な情報をとることができ、こうした情報を用いて研究を行っております。
次のページをお願いいたします。先ほどの例は研究の目的で漁船を活用したものでしたが、実際に漁業者から得た情報を活用して、関東・東海海況速報という形で発信することも行われております。これは東京、千葉、神奈川、静岡、三重、和歌山の1都5県の水産試験場が、東京海洋大学や漁業者と協力して作ったシステムです。現在は、各県回り持ちでこのシステムを用いて、毎日、海況速報を発信しています。この海水温は、漁船、調査船、フェリー等による表面水温の実測値データと各種の衛星データ、気象庁の解析水温を同化して使用しています。こうして発信された情報は、水産分野だけではなくて、遊漁、プレジャーボート、食中毒注意報などにも利用されています。ホームページへの年間アクセス数は約400万件と、かなり高頻度になっています。
次のページは、沿岸シラス最適漁場抽出支援ツールの構築です。せっかく漁民の人たちに参加してもらうということで、海況データだけではなくて、漁民の人たちがとった魚探や漁獲情報も一緒に収集します。それを併せて発信するシステムを作成しました。これは、静岡県を中心に今も運用されておりますが、ひとつ前の関東・東海海況速報と同様、漁業者が力を入れれば入れるほど自らに返ってくるシステムです。そういうものを作ることが漁業者参加型のシステムを運用する上で非常に重要だということを、この経験から、感じました。
現在の対応策の例はここまでです。次に、残された課題を2点お話ししたいと思います。
まず、維持する仕組みへの対応です。これは、先ほども触れましたが、資金面が非常に重要です。そこの部分が厳しい中で、それでも何とかサポーターを作る・増やすことが必要です。水産関係だけでなく一般にも成果の分かりやすい発信をして、サポーターを作ることが重要であることを皆関係者が認識して、力を入れようと、今、始めたところです。そして、水産分野では、今までデータを作るところから使うところまで独立してやって水産分野で閉じてきた部分があると思いますが、むしろ自分たちのデータも水産以外の分野にも外に開いて、使ってもらって、その部分良い点を発信してもらうということの重要性に今更ながら気付いたというところもあります。そういう活動を増やして、貢献した実績を把握し、発信することもやっていくことが重要だと感じているところです。さらに、観測データを簡便にデータベース化できるシステムが必要です。人もお金も減る中で観測の現場にいる人は一人何役もこなしているわけですが、人に使ってもらうための使いやすいようにデータを整えてデータベースに入れ作るというところが、実は非常に大変になってきております。そこで、データベースを一括して吸い上げて、ある特定のところにデポジットしていく。その途中で品質を管理するところをうまく自動化し、現場で観測する人が余り力をかけずにデータの品質管理ができるようなシステムが重要だと感じて、水研センターも開発に乗り出したいと考えているところです。
最後のページです。データ空白域への対応ということです。この図は、海洋生物委員会で水研センター理事の和田時夫理事が発表したものです。大洋規模での多様な海洋生物資源情報の収集・統合と活用システムの開発が水産分野では非常に重要になっています。特に高度回遊性の資源のマグロ、カツオ、サンマ等の管理をしていく上で、サイエンティフィックなデータに基づいて行っていることを示さなければいけないのですが、どうしてもデータに空白の部分があります。このため、水産も含めていろいろな分野で集められたデータ、資源情報、実験データ、ゲノム情報、海洋情報などを集めて、その中から情報を抽出して、関連付けて解析します。それを水産分野だけではなくて、生態系や、生物資源の利用、地球温暖化への応答解析などにも利用できるような形を作っていきたいと考えています。水産分野からはこれまで余り他分野との連携ということは発信してきませんでしたが、このたびこのようなことを発信いたしました。この内容自体はGEOSSの新10年計画ともかなり合致する部分があると思いますので、紹介させていただきました。
以上でございます。
【大垣部会長】  ありがとうございました。
それでは、ただいまの御発表に関しまして、御質問あるいは御意見等ございましたら、お願いしたいと思います。
【寶委員】  漁業従事者の方が漁獲量を上げるということを考えますと、魚群の探知のようなことは重要だと思いますが、それは地球観測でできるのでしょうか。あるいはできないとしても、海水温とか海流の予測とか、位置情報などからこういう状況だとこの辺に魚群がたくさんいそうだといったことは分かるのでしょうか。
【中田委員】  今、研究がまさに進みつつあるところで、そういう情報発信が産業の上でもかなり見通しを立てて漁獲する上で重要となってきているし、やれるのではないかと思っているところです。ただ、とれればいいだけではなくて、うまく管理していくというところも重要ですので、その辺りとの兼ね合いも考えなければいけないと思っています。
【小池委員】  このシラスの話、参加型で漁獲と環境場をお互いにやりとりすることによってメリットがあるということで、大変いい話だと思います。私どももこういう市民が対象となるようなクラウドソーシングを進めているのですが、漁業の場合、競争にはならないのでしょうか。
【中田委員】  実際のところ、地域性がかなりあります。これは今、静岡でうまく回しているのですが、静岡はみんなでやっていきましょうという、結構そういう気風のある土地だそうです。そういうところではうまくいきます。一方で、競争心が強いところではなかなか難しいです。ただし、こういう調査に参加してくれる漁業者は意識が高いので、実際に使う中でそのよさというのに気付いていってくれると期待しています。
【小池委員】  最後にお話になったところと関連するのですが、私どもが、京都大学の淡路先生の4次元同化のデータをアーカイブして、水研センターや各水試と協力し、漁業資源の保全や発見に協力させていただこうとしたときに、対象にできた魚種はアカイカだけで、マグロやサンマなど、より価値の高いものはなかなか一緒にできませんでした。また、そういうデータが出たときに、どこまで情報を公開するのかということも大きな問題になると伺っていました。その辺は水研センターとしてはどのようにお考えでしょうか。
【中田委員】  先ほども何度か強調しましたが、水産分野では初めてなどと言わせていただいて、私たちも閉鎖性が強かったということをしっかり認めております。しかし、実際に今、マグロをとること一つとっても、国際的な理解を得るために、例えば絶滅危惧種に指定されないようにするためにはどう管理していったらいいか、どういうふうに管理しているかということをしっかりと発信していかければなりません。そういうことを考えると、分野横断的に多様な知識や様々な観測情報を入れて、空白域をできるだけ減らしていくことが重要と考えているところです。確かにRECCAのときはアカイカだけでしたけれども、マグロやサンマなどでも一緒にできればと、今、正に考え出し、海洋生物委員会でも資料をださせていただいたということころです。
【大垣部会長】  ほかになければ、これで終わりにしたいと思います。よろしいですか。
どうもありがとうございました。
それでは、本日、箕輪委員、それから中田委員の御説明を頂きましたし、また、前回、上田委員の御説明も頂きました。本日の議論や最終取りまとめの内容にこれらの3名の方の御発表を反映していければと思っております。よろしくお願いいたします。
それでは、次に、「GEO戦略計画の実施に向けた我が国の地球観測の実施方針」の骨子(案)について、事務局から説明をお願いいたします。
【西川地球観測推進専門官】  それでは、資料1-3に基づきまして、事務局から説明させていただきます。
「GEO戦略計画の実施に向けた我が国の地球観測の実施方針」の構成につきましては、前回の部会で御検討いただいたものをベースとしております。また、三つのグループで討論をしていただいた報告書の内容を踏まえるとともに、関係の各省庁とも相談をしながら骨子(案)にまとめました。本日は、これについて更に議論を深めていただければと思います。
それでは、内容の御説明に移ります。第1章「はじめに」では、この実施方針策定に至るまでの背景を説明しています。「地球観測の推進戦略」が出来上がってから10年間たちました。これを踏まえてCSTIでは、その推進戦略のレビューを実施しております。このレビューの結果につきましては参考資料4に添付していますが、このレビューの内容を受け、地球観測推進部会では、今後10年程度を目途とした「我が国の地球観測の実施方針」を策定するため、御議論を進めていただいているところです。
一方、GEOでは、「GEO戦略計画」の検討を進めております。そこでは、SBA(社会利益分野)を時流に即して構築し直して、国際的な地球観測体制の強化を図ろうとしているところです。本実施方針は、こういった背景を踏まえまして、「はじめに」、「基本認識」、「課題解決型の地球観測」、「共通的・基盤的な取組」、「統合された地球観測システムの推進体制・組織」という全体で5章立ての構成になっています。
第2章「基本認識」です。「地球観測を取り巻く状況」として、1番目に挙がってくるのは気候変動で、国民生活に様々な面で影響が生じてくるおそれがあります。また、3番目の丸にあるとおり、持続的な成長と社会の発展あるいは安全・安心な社会を継続的に実現していくということが必要です。また、4番の丸にあるとおり、情報化の進展が非常に進んでいる中、国のオープンサイエンスの動向に合わせてデータをあらゆるユーザーが利活用できるようにしていく必要があります。さらには、一番下の丸ですが、国際社会と協調しつつ対応していく必要があります。
次に「地球観測の実施にあたっての基本的な考え方」です。1番目の丸は、地球観測の定義ですが、人間社会の現状もしっかり見なければいけないということで、今後の地球観測は地球及び人間社会の現状や将来予測に対する包括的な理解と対応のための基礎データを得るものとなるべきであると、基本スタンスを述べております。2番目としては、観測方法の特性を踏まえて、目的や対象地域を明確にした戦略的な地球観測を推進していくということがこれまで以上に求められることを述べています。また、3番目ですが、その際、社会からの課題解決の要請に具体的に応えるべきです。そのためには、4番目として、いわゆる「バックキャスト型」の推進が求められるとしております。それを踏まえまして5番目の丸では、課題解決への貢献や、我が国がこれまでに注力し強みとしてきた観測の更なる強化という観点で、前回までに三つのグループで御議論いただきました「活力のある社会の実現」、「防災・減災への貢献」、「将来の環境創造への貢献」を目指した観測を重視していくとしています。グループ討論の中で非常に共通しているものとして、「地球環境の保全と利活用」、「新たな知見の創出」の二つがありましたが、これを先に述べた三つのテーマに横串を通す観測として位置付けてはいかがかと述べております。
第3章「課題解決型の地球観測」では、先ほどの三つのグループ討論のテーマと二つの横串、この五つを述べております。はじめに「活力のある社会の実現」ですが、現在及び将来にわたって、発展途上国・先進国の区別なく、人類全体が安心して豊かな生活を営むことができる社会を実現するためということで、(1)から(4)までの四つの観点を重視するべきであるとしております。1番目が「安定的な食糧、農林産物の確保」、2番目が「総合的な水資源管理の実現」、3番目が「エネルギーや鉱物資源の安定的な確保」、4番目が「健康に暮らせる社会の実現」ということで、それぞれの目的に応じた地球観測が必要であるということを述べております。
次に「防災・減災への貢献」です。ここでは災害の発生の予測と、被害防止・軽減、危機管理につながる恒常的な地球観測や監視等を実施していくということを重視しております。これらの取組に当たりましては、今年の3月に開催された第3回国連防災世界会議で掲げられた防災・減災に関する七つの目標「災害による死亡率を大幅に減らす、被災者数を大幅に減らす、GDPに占める直接的な経済損失を減らす、インフラを強靱(きょうじん)化して被害を減らす、防災戦略を持つ国の数を増やす、途上国の支援を大幅に拡充する、複合災害の早期警戒システムを整備していくといった七つの目標と、四つの優先行動項目」災害リスクを理解すること、災害リスク管理の災害リスクのガバナンス強化、災害に対するレジリエンスに向けた防災への投資、効果的な応急対策に向けた準備の強化と復旧・復興段階においてよりよく再建することを目指すこと、これらを踏まえたものであるべきであるということです。(1)といたしまして「災害の予知・予測」、すなわち、災害が起こる現象をしっかり把握して、予測をしていくというところを明確にしております。29行目の最後の丸には、気象衛星「ひまわり」等による詳細な観測データも活用しながら防災・減災に役立てていくということを書いております。
(2)は、実際に災害が発生してしまったときの緊急対応と復旧・復興というところです。1番目には、被災範囲の予測・把握、このための観測体制の充実やモデルの構築・高度化が必要であることを述べています。2番目には、国連防災世界会議の優先行動項目にも入っておりました「より良く再建すること」を目指した地球観測をしっかりやっていくことを述べています。
5ページ目、3.の「将来の環境創造への貢献」です。こちらは、複雑な地球環境変動を把握して、その悪影響を軽減するための検討に資する必要があるということです。そのためには、人為的な気候変動に伴う悪影響の探知や原因の特定をすることと、海洋について長期的な環境監視を重視するべきであるという2点を述べております。
「気候変動に伴う悪影響の探知・原因の特定」では、地球観測を監視する観測とそのデータを詳細に解析するための研究開発をしっかりやっていくことや、気候変動の緩和策や適応策の効果を定量的にしっかり評価して、それをよりよい環境創造に活用すべきであると述べています。また、予測の不確実性を減少させるための観測あるいはモデルの高度化を進めていく必要があるということを述べております。
「長期的な海洋環境監視」では、人為的な気候変動に伴う海洋環境変動や生態系変動が速やかに探知されるような観測を重視するべきであるということを述べております。
4.「地球環境の保全と利活用」ですが、こちらが、先ほど述べましたとおり、各グループ討論の中から共通的な項目を抜き出してきているもので、三つのテーマに横串を刺すものであります。
これまでのグループ討論の結果から、大きく三つの共通事項が現れてきております。生態系サービスの定量的な把握、これはIPBESへの貢献にもつながるものです。また、森林減少の抑制や森林増加につながる対策のための観測は、REDD+等の取組にもつながります。さらに、先ほど出た長期的な海洋の監視と併せて、気候変動がもたらす北極海航路の利用可能性等を視野に雪氷・海氷分布を常時把握するなど、いわゆる環境の保全と利用を両立させた、豊かな社会づくりに貢献する観測が必要であるということを述べております。
5番目の「新たな知見の創出」です。従来の科学的知見の蓄積を目指した観測も、当然ながら課題解決と同じぐらい重要であるということは、各グループ討論でも述べられていたところです。
4章「共通的・基盤的な取組」です。こちらがCSTIのレビューで指摘された項目への対応です。
はじめに「地球観測データのアーカイブとデータの統合化・利活用の促進」です。
次が「分野間の連携、多様なステークホルダーの関与の促進と人材育成」です。こちらでは、本日、箕輪委員から御指摘いただいた社会と研究開発をつなぐ視点での地球観測、あるいは中田委員から御説明のありました事業者や市民の手で観測を実施することで情報のユーザー自身が観測者になっていくというところも重要だということを述べています。
そして3番目が「長期継続的な地球観測の実施」です。地球の現状を的確に把握するとともに、何か起こったときの変化をいち早く捉えるためには、継続的な地球観測が重要であるということを述べています。
4番目は「地球観測による科学技術イノベーションの推進」です。観測の精度の向上やモデルの高度化といった技術開発を進めるとともに、地球観測データを活用した新たなビジネスにも結び付くようにイノベーションを推進していく必要があることを述べています。
5番目は「科学技術外交・国際協力への地球観測の貢献」ということで、GEOSSへの対応等もここで述べています。
最後の5章「統合された地球観測システムの推進体制・組織」では、この実施方針の位置付けや国の推進体制についてまとめております。CSTIのレビューでも指摘されているとおり、この実施方針は、おおむね3年ないし5年程度を目安に見直しを行うことにしたいと思います。また、「地球観測の推進戦略」の下で毎年策定してきた実施計画については、引き続き毎年策定します。さらに、CSTIの事務局と共同で関係府省庁の連絡会を設置して、国の連携体制を密にしていきます。こちらの関係府省庁の連絡会につきましては、第1回の地球観測推進部会でも必要性が指摘されていましたので、既に立ち上げています。これまで2回開催し、この骨子案につきましても、関係省庁の意見を頂いているところです。
事務局からの説明は以上です。
【大垣部会長】  それでは、ここから討論時間を設けたいと思います。既に、今説明いただいたものは、前回までグループを作って御議論いただいたものからまとめたものです。いろいろと御意見があると思いますが、よろしくお願いします。
それぞれの御専門のところや、グループで提案いただいた内容が意図どおり反映されているかということも含めて、いかがでしょうか。
【河野委員】  専門と違うところで恐縮ですが、まず、4ページの「災害の予知・予測」のところで、「予知」という言葉は使わないといけないものでしょうか。というのは、文章をざっと読んだところ、「予知」という言葉はここにしか出てきてないような気がするのと、もう一つは、「地震予知というのはやめた」というような意見が地震のたびに起こると思うので、単に「災害の予測」の方が妥当なのではないかなと思いました。
また、8ページの5.上から五つ目の丸です。「アジア太平洋地域に加え、アフリカ、中南米等の対象地域拡大や地域的課題の解決への地球観測の貢献」ということですが、最近では文部科学省の方で北極に非常に力を入れていると思います。大使も任命されておりますし、北極圏諸国の協議会、北極協議会のオブザーバーカントリーにもなっています。27年がたしか更新の年だったと思いますので、この実施方針の中に「北極圏諸国」という言葉を入れると、大体今の政策の方向性にも一致するのではないかと思います。
【大垣部会長】  ありがとうございました。4ページの16行目、「災害の予知」についてはどうですか。事務局として、今、特に何かありますか。
【西川地球観測推進専門官】  事務局からは特にコメントはありません。
【大垣部会長】  では、後でまとめるときですね。
それから、8ページの34行目にいろいろな地域が出てきますけれど、北極の話はどこかにありましたね。
【西川地球観測推進専門官】  はい。6ページの13行目に少し書いてあります。
【大垣部会長】  そうですね。ただ、今のお話は北極圏諸国ですね。
では、そういう御意見があったということで。
【西川地球観測推進専門官】  はい。
【大垣部会長】  ほかにいかがですか。
【寶委員】  「予測」という言葉はある程度定量的なものを考えております。4ページ17行目の「災害の危険地域のリスクとその変化の把握、予兆現象の検出」、この辺りを一言で「予知」と言っているのですが、必ずしも「予知」という言葉は使わなくてもいいのかもしれないです。ただし、定量的には分かっていなくても、定性的に知ることができるという意味で「予知」という言葉をあえて使っていました。各委員の御意見の下に修正することはやぶさかではありません。
【小池委員】  似た視点ですが、二つに分けてお話ししようかと思います。
1点目は、今のGEOの方でやっている10年実施計画を策定するときの一つのキーワードが、本当に政策決定で使える情報まで持ってこようということです。例えば防災系ですと、ハザード系の情報に、いわゆる脆弱(ぜいじゃく)性だとかエクスポージャーというような社会系の情報をきちんと入れ、あるいはその変化をしっかりモニターしていくということが大事ということを入れました。前回休んでしまったので、十分議論に貢献できなくて大変申し訳なかったのですが、全体を通して、どちらかというと自然科学系のデータや情報の収集ということがよく書かれているのですが、社会系の方がどちらかというと弱いのかなという感じがしました。これはフューチャー・アースとの関連もありますので、書けるところはしっかり書いていくといいのではないかなと思いました。
2点目は、SDG(持続可能な開発目標)の17ゴールというのが固まって、それが進んでいきます。先ほど防災の七つの目標を詳しく御説明いただいて大変よかったと思うのですが、これらはサブスタンシャルです。サブスタンシャルに減らすということしか書けなかったわけです。それをSDGに持っていこうとすると、目標まで何パーセントか、という情報が要るだろうと考えています。それは来年の3月ぐらいまでに決まっていくわけですが、各国がスタティスティックス(統計)として持っている情報を使ってやるというような形にしないと計量できないわけです。日本などはそういう情報をきちんと計れる能力を持っていますが、なかなか途上国でそういうものがないときに、地球観測がどういう貢献をするかというスタンスがこの骨子案の中には書かれてないように思います。先ほど言ったような目標をある程度インジケーター化するための地球観測で得られる情報や、それを補完するような情報というものの必要性を書き込むといいのではないかと思いました。「防災・減災」の分野以外の「活力のある社会の実現」の幾つかの項目のところにもSDGの中でいろいろ数値化を目指しているものがありますので、そういうものにできるだけリンクしてはどうかと思います。
【大垣部会長】  今の、2番目の件は5番の辺りにもうちょっと明快に、入れてもいいかもしれませんね。
【春日部会長代理】  今、小池委員から御指摘がありました1点目は、前回、私も発言させていただいたところです。やはり特に自然科学的な地球観測データだけでは把握し切れない社会の状況があるということを、地球観測に携わる方々にも強く認識していただいて、社会にあるデータと融合して社会の役に立つ情報に昇華させていただく、そういうことのビジョンをこの中でもより強く書かれた方がいいかなと思います。一部、CSTIのレビューへの対応というところで、7ページの2に盛り込んでいただいているとは思いますが、もう少し社会学的なデータあるいは社会そのものにあるデータとの連携を強く打ち出していただきたいと思います。
それから、やはり小池委員も御指摘いただきました、フューチャー・アースのことですが、CSTIから6月に出たレビューの4ページ、「地球観測が貢献する国際的分野」で、観測と研究の連携強化の例としてフューチャー・アースという言葉が盛り込まれています。こちらの実施方針の中にも8ページの終わりから9ページにかけて国際協力への貢献の中で明示していただいた方がよろしいかと思います。
それと、最後に、きょうの保険分野の御発表の中でも御指摘がありました、データの公正性ですとか倫理性のところが、まだでしたら、そういう項目も含めていただけるとよろしいのではないかと思います。
【村岡委員】  7ページの「分野間の連携、多様なステークホルダー」の周辺についてですが、様々な気候変動の問題は、大陸スケールだとかグローバルスケールで扱われることが多いのですが、その影響はかなりローカルな現場で起きています。例えば、生態系サービスが劣化するとか、生物多様性の損失がその背景にあるとか、そのような問題を扱うときに、観測サイトの連携及び観測サイトでの複合的な観測を強化するということが必要です。同時に、実は現場のステークホルダーを交えて観測の重要性を共有し、課題解決に一緒に至る、フューチャー・アースの考え方とも通じると思いますが、そういった意味での観測現場の連携強化及びそこでのデータから知見の創出、情報の配信、課題解決という、一連の流れが地球観測の活動の一つとして入れられるといいのではないかと思いました。
【六川委員】  全体を通じてですが、観測センサーなど、物の話は出ています。それから、人材育成等についても結構書いてあります。一方で、例えば8ページに「新たなビジネスに結びつける」というような表現もあるものの、予算や資金についてはほとんど記述がありません。これでは実現するのは容易ではないのではないかという気がしました。
【若松委員】  私も同じようなことを感じています。宇宙基本計画の中でも関連する新産業の創出ですとかG空間情報の活用という話がされています。先ほど六川委員からもあったように、新たなビジネスにというのが8ページには書いてあるのですが、ほかに書くとすると、7ページの共通基盤のところか、分野間の連携辺りでしょうか。その辺で、G空間情報の活用や、関連する分野での新産業創出のような話を書いておいた方がいいという感触を持ちました。
【沖委員】  まず、先ほど来、SDGの話が出ているにもかかわらず、例えば2ページ目の「地球観測実施にあたっての基本的な考え方」にSDGsのことが書いてないように思います。やはりどこかにMDGの次にSDGsをやり、それに対して地球観測は貢献するんだという記述があった方がよいのではないかなと思いました。
それから、2ページ目の7行目に「継続的な地球観測には多額の予算が必要となる」とありますが、やはり限られた資源は予算だけではなくて、人的資源、組織的資源の限界があって、それをどううまく配分するかということが非常に大きな問題であるということは、皆さん認識されていると思います。それに対して、同じページの21行目のところで「国際社会とも協調を図りつつ」とありますが、国際社会というよりは、地球観測に関わる世界の各国あるいは国際機関と競争と協調があるのだということをまずここで書いていただいて、8ページ目から9ページ目までのところで、単独では得られないものについて国際協調をきちんと進め、GEOを通じてでもいいですが、先進国を中心とするアライアンスによって地球観測をきちんとやるのだというような構図で書かれるのがよろしいのではないかという気がいたしますので、御検討ください。
また、同じく2ページ目の21行目のところで「新たな社会の構築」とありますが、革命を起こすわけではないので、「持続可能な社会の構築」など、「新た」という言葉遣いをちょっと検討されてはどうかと思います。
それから、3ページ目、これは細かい話ですが、食料に関しまして、気候変動の影響というと、日本ではどうも天候不順によって食料生産が下がるというのが気になるようですが、最近、国際会議に行きますと、生産量が低下するというよりは、むしろ農業が温室効果ガスの6分の1ぐらいを出していて、緩和の余地がまだあるというセクターであるという認識が強いと聞きます。その一つは、気候変動があるにもかかわらず、農業技術の向上によって生産量は増えており、むしろ温暖化の影響は年々の変動の方が効くのではないかという認識があると思いました。是非、緩和との関係についてももう少し書いていただいていいのではないかなと思います。
それから、災害のところがいいのか、どこがいいのか分からないですが、気候変動の適応策としましては、早期警戒警報(アーリー・ワーニング・システム)というのがハードで対策するよりは安価に、しかも地球観測に即して貢献できる分野だと思いますので、その一言の単語がどこかに入っているといいかなと思いました。
それから、5ページですが、例えば20行目、「観測を行う」、23行目、「推進する」、26行目、「させる」には、「必要がある」とか「べきである」とか何か語尾を付けていただかないとそろわないので、その辺はよろしくお願いいたします。6ページの25行目、「取り組む」、29行目、「結びつける」も同様です。
それから、8ページの27行目のところで、「一方、日本の利益は世界の平和と安定と共にあるべきことから」と、「べき」論になっておりますが、恐らく現在の認識は、グローバル化した社会において、日本の利益というのは世界の平和と安定あればこそであって、どこかの国で経済不安が起こったときに、それが正に日本の経済にもサプライチェーン、バリューチェーン、両方を通じて影響しているという認識の下に地球観測をやるのだというのが非常に大事な点ではないかと思いますので、ここは「べき」が必要かどうか、ちょっと御検討いただければと思います。
もう一つ、SDGのところで忘れましたが、全体としまして、貧困の削減というのが、国際社会では今、気候変動の対策とともに二つの柱になっていますが、そういうことがなくていいのかということを御検討いただければと思います。
【寶委員】  2ページの一番下、39行目、「安定的な食糧」の「食糧」の「糧」という字ですが、次のページには「食料」の「料」は「料理」の「料」にしておりまして、こっちの方が食料全体、一般を指すわけです。2ページ目の39行目の「食糧」は主食系の農作物を指しますから、こちらの「食糧」を「料理」の「料」に替えたらどうかと思います。
それから、先ほど小池委員、春日委員から御指摘のあった、もう少し社会的なところを入れた方がいいと言う点、あるいは被災者に目を向けたような観測も考えた方がいいという観点から、少し言葉足らずな感じがありますので、例えば3ページ目の37行目からの災害が起こりつつある場所というところに括弧して「(社会要素も含む)の観測や、モニタリング」という修文をしてはいかがかと思います。
4ページ目の18行目辺りに「精度良い予測」と書いておりますが、そこのところ、先ほど沖委員から御指摘のあったとおり、「(リアルタイム予測)」の後に「及び早期警戒システム」とかいうのを入れてもいいのかもしれません。
それから、4ページ目の35行目の終わりの方「被災範囲」というところを、これも自然的なものだけではなくてという意味で、「被災範囲」の後に括弧を付けて、「(人や社会の情報を含む)」とかいうのを入れるといいのではないかと思います。
また、そこの項目にも早期警戒システムのことを書いてもいいのかなと思います。
それから、5ページの上の方で1行目、2行目、「また、地球観測によって復旧・復興の様子を監視するとともに、より良い再建になっているかどうかを判定できる基準の策定にも貢献する」というのは、ちょっと分かりにくいと思います。簡単に二つぐらい例を御紹介したいと思います。一つは、例えば河川流量観測、水文観測です。これも地球観測の一つであると思いますが、洪水災害とか土砂災害の被害を受けた後に何らかの対策を打つわけです。そして対策を打った後に河川の流況が回復したとか、あるいはよくなったということ。例えば乾季の河川流量が十分回復して、水の少ない時期でも河川流量が結構維持されているなどは一つの指標となるのではないかと思います。あるいは、大きな洪水流量が低減されているなども一つの指標になるのではないかと思います。その上で、そういった被災及び対策後、国あるいは自治体が策定する基準に対して数年間にわたって流量観測、水質観測、土砂濃度なども含めた地球観測を行って貢献するということです。
それからもう一つの事例としては、被災前には洪水、高潮、津波、あるいは土砂災害の危険地域に住宅地が密集しており、そこが被災したということがあったとして、被災後はそのような場所から住宅がなくなっていることが衛星観測でモニタリングできるというのも、よりよい再建の例と言えるかと思います。被災及び対策後、国あるいは地方自治体が策定する基準について、数年間にわたって土地利用とか土地被覆のモニタリングを行って地球観測が貢献する。こういったことが具体的な事例として御理解いただけるのではないかと思います。
それから、7ページ目の22行目、「専門的なデータの利活用」とありますが、こちらも「専門的なデータ及び社会経済的なデータの利活用に関する情報提供や技術支援を推進する」ということで、先ほどの小池委員や春日委員のお話にも対応できるのではないかと思います。
【渡邉委員】  二つ申し上げます。一つは、ややちょっと抽象的で、書き方の話になるかもしれません。今回の基本的な考え方は、2ページ目の「基本的な考え方」の後半に書いてあって、それを受けて3の「課題解決型の地球観測」という構造になっていると思います。我々はある程度議論しているから分かりやすいのですが、全体として「こんな社会が必要で、防災・減災をこう考えて将来考えると、やはり地球観測は大事だよ」とみんなに分かるような、柔らかい表現、分かりやすい表現があってもいいではないのかなというのが全体のところです。具体的には、2ページ目の3の「課題解決型の地球観測」のところに、その上の「基本的な考え方」のまとめを入れるか、それをまとめたようなもう少し分かりやすいようなつなぎの文章を入れられたらどうかと思います。
二つ目は、私の専門に近い具体的なところですが、2ページ目から3ページ目にかけて食料の話があって、3ページ目の二つ目の丸も「我が国の農林水産業」という我が国の話になっていますが、この10年ぐらいの地球観測の視点から日本の農業・農村を考えたときに、産業としての農業の話と同時に、地域政策としての農村政策が非常に重要なポイントになっていると思います。これは、食料・農業・農村の基本計画の中でも書いてあります。この二つ目の丸は、生産が活性化することによって地域の活性化につながるということですが、そこでこれからの日本で特に考えなければならないのは、人口減少少子化です。少子高齢化、農業従事者の減少、新しい担い手の登場が出てくる、そういう中で国土や文化の基本としての農村がどういうふうになるかという視点が大事なので、この次にもう一つ丸を入れて書いて、地域政策としての農村についてのことを一つ書いた方がいいとのだろうと私は思います。最後にある具体的にそのために図るところはこれでいいのかなと思っていて、具体的には、これから10年ぐらい、日本の農村の土地利用や水利用がどう変わっていって、それが地域の環境や、例えば鳥獣害も含めた生態系にどう影響するかというところにつながってくると思います。
【春日部会長代理】  今の御意見をお聞きして気が付いたのですが、2ページの一番下の行の(1)のタイトルには「農林産物」だけじゃなくて、「水産物」を入れないといけないのではないでしょうか。
【大垣部会長】  中田委員から説明を受けたばかりですね。
【浜崎委員】  2点コメントさせていただきます。
まず、4ページの「防災・減災への貢献」では、データをより人々の行動計画につなげるという形で提供すべきだという観点から、例えば個人や企業、地方自治体あるいは国等の行動判断に資するような形でデータをきちんと処理して、提供するということを是非入れた方がよろしいと思います。ビヘイビア・デシジョン・メーキングという用語が出ていたと思いますけれども、行動の決定になるような形まで処理をして届けるという観点を入れたらいかがでしょうか。
二つ目ですが、6ページの17行目、5.「新たな知見の創出」で、データ、科学知見の蓄積というようなことが書いてあるのですが、キーの一つとして観測技術の研究開発という項目を1点入れたらいかがでしょうか。例えばセンサー技術だけではなく、そのセンサーの構成とか検証、それから高次解析等含めてです。
【赤松委員】  先ほどの六川委員と若松委員からの御意見に関係しますが、やはり社会での利用とか実務利用の部分が弱いと思います。8ページの18行目に「ビジネスに結びつける」という一言が書かれていますが、もう少しここの書き込みの充実が必要ではないかと思います。例えば、きょう三井住友海上さんから御報告いただいた保険やデリバティブでの利用といったことを具体的に書き込んでいく必要があるかなと思いました。また、岩谷委員が御専門ですが、気象関係の民間での利用というところをもう少し充実させて、やはり出口につながる地球観測が重要であるということを書き込んでいってはいかがかなと思いました。
もう一つ、「地球観測実施にあたっての基本的な考え方」というところに関わりますが、これからは国民の理解が、どうしても必要になってくるのではないかと思います。そうした視点を書き込めるのであれば、この「基本的な考え方」の中に盛り込めないかなと思いました。
【岩谷委員】  今、赤松委員から私が言おうと思ったことを言っていただきまして、ありがとうございます。一つは、観測・予測というところをよく書かれていて、非常に重要なことは分かったのですが、やはり多くの国民が理解できるよう、役に立つところを強調していただいた方がいいのかなと思います。それが先ほど浜崎委員がおっしゃったように行動につながるような部分だと思います。観測・予測、そして伝達というところまでが必要で、行動につながるまでがストーリーになることを、前半の「基本的な考え方」のところでストーリー的に書いていただいた方がいいのかなと思います。国民の利益がもう少し明確になるといいのかなと感じております。
また、1ページ目の背景なり現状のところに、少子・高齢化と、持続的な成長社会について書かれていたり、防災的なことも書いてあるのですが、できれば、防災を考えるのであれば、自然災害から命を守るぐらいまでもう少し具体的に書くとか、要するに国民の命を守るための観測でもあるのだということを強調されてもいいのかなと感じました。
さらに、先ほど赤松委員の方からお話がありましたが、国民の理解というのは非常に重要です。人材育成、研究者を育てることも重要ですが、同時に国民の理解が一番重要なところなので、できれば「基本的な考え方」のところ、なるべく前の方に、書くことができないのかなと感じております。どちらかというと「普及・啓発に努める」で終わってしまう傾向がありますが、普及・啓発というよりは、国民との対話、コミュニケーションから課題を見つけ出して、新たな問題や、どういう観測が必要なのか、どういうニーズがあるのかというところを見いだせるような形がいいのではないかと感じました。
【小池委員】  2点、付け加えさせていただきたいと思います。
1点は、GEO戦略計画策定の中で出てきた話とのリンクです。5章の「統合された地球観測システムの推進体制・組織」と関係しますが、GEO戦略計画では、フラグシップやイニシアチブといった、責任を持って3年間なら3年間で実施しようというものと、それから、コミュニティベースでいろんな発想が出てきたものを育てていこうという、二つの大きな戦略を持っています。フラグシップというのは、オペレーショナルに使えるようなものはどんどん進めていくというプロジェクトタイプで、イニシアチブはそういうものをプロジェクト的に発想していこうというもの、という整理をしています。第5章の関係省庁連絡会を開き、既に情報交換等を始めていただいているということで、大変有り難いと思いますが、お金というよりは実施体制について、各省庁と連携して進めていくのがこの省庁連絡会だと思います。その中でどのような枠組みで進めるのがいいのかということが書き込めたらいいと思います。GEO戦略計画の中では、先ほど言いましたように、フラグシップやイニシアチブを作り、一方、コミュニティベースのものはそれを尊重してやるということを書き込もうとしています。そこで、例えば大きく二つ分けて、オペレーショナルにすぐできるようなものについては各省庁の連携の下で推進する。一方で、コミュニティ的なものは、例えばフォーラムのようなものを開催して、観測・予測、データ利用、それから社会的なところ、民間の活用等のエンゲージメントを進めていくというような、具体的なものを打ち出してもいいのではないかと思います。
2点目は、CSTIが出した科学技術イノベーション総合戦略2015の中で、IoTやICT系の話が非常に多く出ていますが、この骨子案でも第4章にそれが色濃く書かれていて、大変結構だと思います。一方で、東京オリンピックがこの5年のうちにあります。地球観測の実施方針の5年ぐらいの枠組みの中に、オリンピックに地球観測は何か貢献できないかと思いました。
【大垣部会長】  ありがとうございます。オリンピックは少し考えた方がいいかもしれません。
【中島参事官】  ちょっとその件について。
【大垣部会長】  どうぞ。
【中島参事官】  総合科学技術・イノベーション会議で、現在、第5期科学技術基本計画を執筆しています。それと並行して、毎年策定する総合戦略があり、2015年の総合戦略は閣議決定され公表されておりますが、その中でオリンピック・パラリンピックへの取組についても書かれています。そこでは、防災の関係で、大阪大学や国交省で開発されているMPレーダーやPARを活用し、短期間でのゲリラ豪雨を予知するプロジェクトにも取り組むと書かれていります。
【大垣部会長】  ありがとうございました。オリンピック当日というか、その期間への貢献ですね。
【小池委員】  そうです。地球観測もそれに貢献するわけですね。科学技術イノベーション総合戦略2015の中にゲリラ豪雨対策、竜巻の事前予測などがあるわけですが、その関連として実は地球観測が貢献しますということを書き込んだ方がいいのではないかというのが意見です。
【六川委員】  2ページ目の、高齢化社会と地域の衰退についてです。今、小池委員からもお話がありました2020年、あるいはそれ以降に想定される高齢化社会では、定年を迎えた65歳から上、75歳くらいまでの方々というのは非常に知識もありますし、まだまだ元気もあります。こういう方々が言うなれば社会のソーシャルエグゼクティブになっていると考えますと、地域社会の核となり、その地域のコミュニティ、クラストを作っていただくような、一種のアンバサダーの位置付けになっていくではないかというイメージを持っております。
そこで、これから恐らくクラウド型のイノベーションが進んでいくと思いますが、例えばスマートフォンなどの機器で現地データを収集していただくとか、あるいは逆に、そこに地域に関わる情報を提供していくというような形の双方向のやり方によって、地域クラスターを活性化するイメージを持っています。
具体的には、ローカルな気象、精密農業、あるいは自動車の自動操縦といった地域の情報やインフラを集約していく中で、このクラスの方々がリードしコンセンサスを作っていただくということです。
もう一つは、8ページですが、「我が国を取り巻く社会との良好な関係を築き上げるための地球観測」につきましては、高分解能のかなり地域性に関わるようなもの、あるいは安全保障で重要なものは除き、中分解能程度のデータは、徹頭徹尾オープンの姿勢でもって開示をしていくべきと思います。そして、温暖化等に対しては、先ほども出てきたとおり、行動に結び付けるような指標や情報を公開していくという姿勢が必要なのではないかと感じています。気象の関連、それから、AIS(船舶自動識別装置)などの海事情報、海洋情報も積極的に公開していく必要があります。そして、人材育成の観点で、周辺国と良好な関係を築くという意味では、我が国がなし得る教育の部分、それから開示できる範囲で先進性のある技術を開示し伝えていく必要があるのではないかと思います。
【河野委員】  先ほどの「予知」の件は、理由を伺いましたので、このままで結構です。
また、先ほど沖委員がおっしゃったことに関係しますが、この文章の主語が誰なのかというのが少し分かりかねるところがあります。例えば4ページ32行目、「新たな観測機器」について「高度化を推進する」の場合、推進するのは誰なのか。あるいは、6ページの38行目の「整備する」のが誰なのか。7ページ 36行目の「恒常的な地球観測を確立する」は誰かが責任を持って確立するというふうに読めますし、その二行下には「我が国が長期継続すべき観測項目を特定する」となっていますが、これは国の方針として何らかの決定をするということを意味します。何か母体があるとか、これがそのままどこかの政策として必ず尊重されるのであれば、こういう書き方でいいのだと思いますが、そうでないなら、先ほど沖委員がおっしゃったとおりで、「検討するべきである」というふうに直さないと全体としてはつじつまが合わないかもしれません。また、その中に具体的にアクションを起こすという言葉が一つ入っていると、それだけは特別にどこかの官庁がやるということを宣言したことになると思うので、少し配慮した方がいいかもしれません。好みとしては、「する」と言っていただいた方が関係府省・関係機関としては強いメッセージになりますので、これを基にいろいろな提案ができると思いますが。
【箕輪委員】  1点だけ。構成のところで、書き方の問題なのかもしれませんが、それぞれの項目で、目指す姿、ビジョンと、それに至る取組というところが同じ丸でずらずらと書かれておりまして、少し分かりにくくなっているかと思います。例えば7ページの2番目のところですと、1ポツ目では「社会からの多様なニーズ」というところからビジョンが書いてあるのですが、次の2ポツ目では具体例となっており、恐らくそれに至る取組となるのだと思います。目標と取組というところを少し分かりやすく書き分けていただけるといいかなと思いました。
【大垣部会長】  ほかにはよろしいですか。
今、御意見を伺って、私も一点気になりました。8ページの25行目に「我が国が実施する地球観測と言う観点から、まずは日本の利益に資する地球観測が必要である」という文章が出てくるのは、税金を使うから地球観測で「地球、地球」と言うけれども、最終的には我が国の利益に行かなければいけないということを言われるのではないかということでこういう発想が出てきて、方々でこういう言葉が出てくるのだと思います。先ほどから出ていましたように、自然環境が既に地球規模になっていることは皆さん分かって、明らかなのですが、社会環境や経済環境も、先ほど沖さんが御指摘になったようにグローバルになっているということがこれからの問題なのでしょう。自然環境は当然のこと、社会環境、経済環境もグローバルになっている、その中で地球観測をきちんとしないといけないという視点、立場が必要なのではないでしょうか。国民に分かりやすい説明が必要であるという御意見が幾つかありまして、前の方に書き込んでくださいというお話がありましたが、正にそこをきちんと分かりやすく書かないと、誤解を受ける心配があるのではないかと思います。
以上でよろしいですか。いろいろ御意見ありがとうございました。長時間にわたり、大変重要な指摘を頂きました。
それでは、本日の議論を踏まえて、次回の部会までに事務局で新たな実施方針の案を作成していただきたいと思います。
その他、事務局からお願いいたします。
【西川地球観測推進専門官】  御議論いただき、ありがとうございました。
本日の議事録は、後日、事務局よりメールで委員の皆様にお送りさせていただきます。修正等ありましたら、その際に御指摘をお願いいたします。最終的には、文部科学省のウェブページに掲載することで公表させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
事務局からは以上です。
【大垣部会長】  それでは、これをもちまして地球観測推進部会の第3回会合を閉会いたします。
ここは涼しいですが、外は暑いので、お気を付けください。ありがとうございました。

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