資料2-2 「GEOSS新10年実施計画の検討に向けた我が国の地球観測の方針」中間取りまとめ骨子(案)

平成26年12月10日
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
地球観測推進部会

1.はじめに

○平成16年度に策定された「地球観測の推進戦略」(以下、「推進戦略」という。)は、策定後10年を迎え、地球観測事業の進捗状況の総合的な評価を行うタイミングとなった。このため、地球観測推進部会は、過去9年間の地球観測の取組全体の取りまとめを行った(「地球観測の推進戦略の見直しに向けた我が国の地球観測の取組状況についての報告」(平成25年8月29日))。

○一方、国際社会に目を移せば、現在、全球地球観測システム(GEOSS)の平成27年以降の新たな10年実施計画の検討が行われており、そこで我が国が主導的な立場をとるためには、GEOSSの動きに対応した新たな我が国の地球観測の実施方針の策定が急がれる。

○これを受け、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)は、GEOSSをはじめとする地球観測に関する我が国の国際的な対応を検討する上で中心的な役割を果たしている文部科学省が中心となり、関係各省と連携して我が国の長期的な実施方針を策定することを提案した(「GEOSSの新10年実施計画の検討に向けた我が国の地球観測の方針の策定について」(平成26年8月29日))。

○本中間とりまとめは、今後10年を見据え、地球観測の取組に当たっての基本的考え方を明確化することで、この長期的な実施方針の骨格となる考えを示したものである。

○CSTIは、推進戦略のレビューを実施することとしており(平成26年11月27日 CSTI有識者議員懇談会)、レビュー結果は、本部会が最終的に取りまとめる「GEOSS新10年実施計画の検討に向けた我が国の地球観測の方針」に反映させる。

○なお、地球観測は、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解と対応のための基礎データを得るものである。

○また、今後の地球観測は、社会からの具体的な課題解決の要請に応じた観測を行うものであるべきである。 

2.現状認識

(1)地球観測の重要性及び「地球観測の推進戦略」について

○我が国の地球観測は、推進戦略に基づき、着実に成果を上げてきた。

○推進戦略において、地球観測には、地球の理解に関わる研究者に必要な情報を提供するだけでなく、政府の施策決定に必要な情報を提供し、産業界の経営基盤となる情報を提供し、一般社会の人々の生活に密接に関わる情報を提供することが求められている。引き続き、推進戦略の下、国として統一した方針をもって推進することが必要である。

○これまで策定してきた方針の下では、各省庁における取組を網羅的に集約し、推進してきたが、今後は、社会からの具体的な課題解決の要請に応じた観測を行う観点から、我が国の強みを明示し、観測から課題解決に至る道筋を明確に描いていくべきである。

○これらの観点から、本方針は、これまで毎年度策定されてきた「我が国における地球観測の実施方針」に代わるものと位置づけ、より中長期視点に立った地球観測を推進していくこととしたい。【CSTIにおける推進戦略のレビュー状況も踏まえ、今後調整する。

(2)これまでの取組と成果

○推進戦略の下では、(1)国民の安心・安全の確保、(2)経済社会の発展と国民生活の質の向上、(3)国際社会への貢献の3点を踏まえ、国として喫緊に対応すべきニーズを明確にし、府省連携等や各省の努力により観測が維持され、観測データの提供や公表、観測データの統合・融合に向けた取組が進み、国際貢献も進展した。

○課題としては、長期的な観測態勢の構築、観測システムの更新の必要性が掲げられているほか、観測データの提供、公表が進むのに伴い、より一層のデータ統融合、積極的な情報発信、課題解決への貢献の必要性が指摘されてきた。

(3)推進戦略策定後の状況変化

○地球温暖化による影響が顕在化し、また気象災害や、地震災害、火山災害等が頻発する中、これらの現象を把握し、対応を検討するための基盤となる地球観測の重要性は増大している。

○推進戦略策定以降の状況変化としては、大きく以下の4点があった。

  • グローバル化の進展
  • 開発途上国の発展に伴う環境影響の監視
  • 観測・技術情報の高度化、ビックデータなどの動き
  • 異常気象現象の多発、気候変動による影響の顕在化、東日本大震災や御嶽山における戦後最悪の火山災害の発生

○国内においては、「宇宙基本計画」(平成25年1月)、「海洋基本計画」(平成25年4月)が策定され、環境の保全、資源の利用、国の安全保障・防災、地球環境変動などの全地球的課題への対応と言った観点で、地球観測の重要性が指摘されている。また、地理空間情報活用推進基本計画(平成24年3月)、防災基本計画(平成26年1月)、国土強靱(きょうじん)化基本計画(平成26年6月)では、地震災害、津波災害、風水害、火山災害、雪害等に関する研究及び観測の推進等の必要性が指摘されている。さらに、環境基本計画(平成24年4月)では、地球温暖化に関する科学的知見の充実に関する課題として「地球環境の観測や、科学的知見の幅広い情報収集を継続していくことが重要であり、そのための基盤を整備していくことが必要である。」などと指摘されている。また平成27年度には政府の「適応計画」や「水循環基本計画」が策定される予定であり、地球環境の把握や水循環の総合的管理の観点において、地球観測がこれらの計画に貢献することも期待できる。

○国際社会においては、GEOSSについて、2014 年1 月の地球観測に関する政府間会合閣僚級会合で採択された「ジュネーブ宣言」において、タイムリーな知見に基づく意思決定の基盤としての地球観測の推進、政策決定者や民間セクターを含むステークホルダーとの連携及び協力の拡大、及びGEOSS の引き続きの発展と機能に必要なリソースの維持が掲げられている。

○また、「フューチャー・アース」のような新しい国際的なイニシアチブも具体化に向け検討が行われている。

3.今後の地球観測の取組に当たっての基本的考え方

(1)地球観測を通じて達成すべき目的

○推進戦略及び現状認識を踏まえ、今後の地球観測のあるべき姿を次のように整理する。

○地球観測は、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解のための基礎データを得るものである。

○今後の地球観測は、社会からの具体的な課題解決の要請(利用者のニーズ)に応じた観測を行うべきである。

○その際、課題解決のニーズを有する者が具体的な観測項目を認識していない場合があることや、異なる目的で取得した観測データが集まることで新たなニーズが生み出され課題解決に結びつくことがあることを踏まえ、「観測データの収集に対するニーズ」と「情報提供・解析に対するニーズ」を明確に分けて検討すべきである。

○国際的観点では、GEOSSやフューチャー・アース等の動きに対応し、国際的な課題解決においても地球観測を通じた貢献を果たしていくべきである。

○一方で、未知の現象の解明や新たな科学的知見の創出(科学的な挑戦への貢献)を目指した観測も、利用者のニーズを具体的かつ明確にした上で行う必要がある。

(2)地球観測の実施

○利用者のニーズを踏まえた観測データの効率的な取得・提供のため、利用者及び観測システム(関係者・関係機関)のより一層の相互連携をはかる必要がある。

○特に、多種多様な地球観測システムを連携して、効率的・多面的に地球を理解するという観点から、観測対象や観測項目等が類似する観測については、省庁や分野を横断し、関係者が協働して観測体制を構築することが重要である。

○その際、必要な観測データの精度やデータ取得の頻度等の仕様を明確にし、効率的な観測を実施すべきである。

○国際動向等を踏まえ、戦略的な観測を実施する必要がある。

○その際、「co-design」に結びつく取組や、世界的な課題解決に貢献しうる科学的に意義深い取組は、我が国の国際貢献や科学技術外交の強力なツールとして、アジアをはじめとした国際社会との協調を図りつつ、積極的に推進すべきである。

○特に、我が国の衛星や船舶等による地球観測は、アジア・オセアニア地域等との連携を図る上で必要不可欠な役割を果たしており、我が国の科学技術外交の強力なツールとして、今後も継続が必要である。

○なお、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解のためには、観測基盤の維持と長期継続的観測の実現も必要である。

○国として推進すべき地球観測は、課題解決の要請に基づくべきものであり、そのために必要な観測イノベーション(観測、データ解析を支えるインフラ基盤の整備)を推進していくべきである。

(3)データ提供と利活用の在り方

○平成26年に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略2014」では、政策課題解決への視点とした「持続可能な社会の実現に寄与するためのモニタリングとその利活用」は、世界的にも我が国の有する先進的な地球観測研究等を加速することで、将来にわたり持続可能な社会を実現し、我が国の産業競争力の強化に貢献するものであるとした。

○推進戦略では、「重点化の観点」として、(1)国民の安心・安全の確保、(2)経済社会の発展と国民生活の質の向上、(3)国際社会への貢献を謳(うた)っている。これらの観点を踏襲し、政府が推進するオープンデータの取組や、過去の観測データの活用にも配慮しつつ、地球観測によって得られるデータをニーズに応じて加工し、新たな付加価値を創造することにより、産業の芽を育てることも重要視すべきである。

○推進戦略の下、府省連携等や各省の努力により観測が維持され、観測データの提供や公表、そして観測データの統合・融合に向けた取組が進んでいるところ、課題解決の要請に対応するためには、課題を有する者(観測ニーズ)と観測主体との連携や、分野横断的な取組が一層求められる。

○このような地球観測データの提供と利活用に当たっては、「データ統合・解析システム」等のデータ基盤を整備し、データの利用と共有の促進を図る必要がある。

(4)地球観測推進部会の役割

○地球観測推進部会は、推進戦略に基づき、地球観測に対する利用ニーズや国際的動向を的確に踏まえ、地球観測の広い領域にわたる俯瞰(ふかん)的な観点から、関係府省・機関の緊密な連携・調整の下、地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等について方針を策定するための統合的な推進組織として設置されている。

○地球観測データの収集から情報提供に当たっては、ニーズの集約、施設設備の相互利用、共同運用、民間活力の活用、人材育成など、これまでも連携を推進してきた。今後は、潜在的な観測ニーズの掘り起こしや、具体的な要請があった際にニーズ側と観測主体を橋渡しする機能の強化や、技術シーズと社会のニーズをマッチングさせるような場が必要である。

○今後の地球観測推進部会においては、課題解決の要請と観測シーズとの対応を明確にし、適切なレビューを行いながら地球観測を推進することで、観測から課題解決に至るまでの取組を総合的に俯瞰(ふかん)し、推進する機能を強化していくべきである。

(5)その他

○上記の基本的考え方は、データを取得する者からデータを利用する者まで、地球観測に携わるあらゆる関係者で共有し、理解を醸成すべきである。そのための関係者の対話や、普及広報活動も重要である。

4.今後10年間の具体的な実施方針

○推進戦略においては、ニーズにこたえる戦略的な重点化として、(1)地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応、(2)水循環の把握と水管理、(3)対流圏大気変化の把握、(4)風水害被害の軽減、(5)地震・津波被害の軽減が挙げられ、また15分野の分野別戦略が整理されていた。本方針では、上記2、3を踏まえ、課題解決への貢献や、我が国がこれまでに注力し強みとしてきた観測の更なる強化の観点から再整理し、以下の3つの観点で、今後10年間に実施すべき取組を取りまとめる。

(1)国民経済活動の健全な発展への貢献
 水循環の総合的管理や資源の確保・利用等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。これにより、国土の利活用や保全、国民生活の向上、経済社会の活力向上及び持続可能な発展など、現在及び将来にわたって国民が安心して豊かな生活を営むことができる社会を実現する。なお、今後の持続可能な社会の構築に当たっては、自然環境の価値(自然資本)を定量的に把握し活用する重要性も指摘されており、この観点において生態系サービスなどに関わる観測にも配慮が必要である。

【平成26年度の我が国における地球観測の実施方針に示されている取組例】
総合的水資源管理の推進、農業生産環境及び生産状況の把握

(2)防災・減災への貢献 地震災害、津波災害、火山災害、風水害、雪害等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。これにより、災害発生の予測と、被害防止・軽減、危機管理につながる恒常的な監視等を実施することで、国民の安心・安全を確保する。

【平成26年度の我が国における地球観測の実施方針に示されている取組例】
風水害の軽減、都市における極端気象災害の監視・予測システムの確立、災害発生メカニズムの解明と予測技術向上による今後の防災・減災への貢献、災害情報の正確かつ迅速な把握及び国際連携の推進による災害対応への貢献

(3)環境問題への対応(持続可能な社会の実現)
 地球温暖化や地球環境の保全等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。これにより、複雑な地球環境変動を把握するとともに、将来世代にも及び得る新たな課題や大きな影響を及ぼし得る課題を発見・先取りし、影響を軽減する等の適切な対応を実施し、危機に備える。その際、ニーズを踏まえた観測という前提に立ちつつ、観測空白域をなくす取組にも配慮すべきである。

【平成26年度の我が国における地球観測の実施方針に示されている取組例】
生態系・生物多様性の保全、森林の保全と炭素モニタリング、海洋酸性化のモニタリング、温室効果ガスにかかる物質循環の解明、放射過程、雲物理・降水過程の解明、対流圏大気変化の把握、海洋の熱・水・物質循環及び大気海洋相互作用と海洋変動の把握、極域における変化の把握

○地球観測を長期にわたり安定的に実施するとともに、今後新たに発生する課題解決にも対応しうる質の高いデータを提供していくためには、以下の取組も重要であり、本方針の下で推進していく。

(1)観測基盤の維持及び長期継続的観測の実現
 観測に対するニーズを的確に把握することで我が国が長期継続すべき観測項目を特定し、重要度の高い観測項目については関係府省・機関の連携の下で実施する等の取組を通じ、地球観測の長期継続性を確保する。

(2)「観測イノベーション」の推進
 観測精度の向上や観測の安定性の確保、低コスト化に向けた技術開発に取り組んでいくことが重要である。また、新たな課題解決への道を開くためには、斬新な着想に基づく新たな観測手法の開発や新たな地球物理量の観測等が求められることもある。このような、「観測イノベーション」の推進を今後更に強化する。

(3)データの共有と利用の促進
 情報技術の高度化やビッグデータサイエンス等の動向を踏まえ、観測データを適切にアーカイブし、統融合し、その利活用を促進する。そのため、「データ統合・解析システム」や「Geo-Grid」等のデータ基盤を整備・維持・運用し、課題解決に必要な情報を創出する取組を支援する。

○GEOSSにおいては、9つの社会利益分野を設定しているところ、今後はこれら分野間の連携活動を促進し、包括的な問題解決に取り組むことが重要とされていることを踏まえ、GEOSS新10年実施計画の検討に向けた観点では、以下の点に留意する。

(1)課題対応型の取組(顕在化した課題に対する直接的な対応を目的とした観測)は、利用者との連携で進めている「センチネル・アジア」のような我が国の取組をグッドプラクティスとして示しつつ、このような活動を後押しできるGEOSS構築を目指す。

(2)サイエンス的な取組(人類共通の科学的知見の蓄積・深化を目指すための観測)については、国際社会が協調して世界的な課題に貢献することを示しつつ、リード国との間の科学技術外交の側面を意識しながら、GEOSS構築に取り組む。

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研究開発局環境エネルギー課

(研究開発局環境エネルギー課)